特許第6059843号(P6059843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 森永製菓株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6059843
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】ハードキャンディ
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/34 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
   A23G3/00 101
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-136557(P2016-136557)
(22)【出願日】2016年7月11日
【審査請求日】2016年7月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】解良 亮介
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−088168(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/051219(WO,A1)
【文献】 特開平10−000057(JP,A)
【文献】 特表2015−514436(JP,A)
【文献】 特表2014−520562(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0186513(US,A1)
【文献】 特開平08−228688(JP,A)
【文献】 米国特許第05601866(US,A)
【文献】 特開平04−228032(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00455600(EP,A1)
【文献】 特開2000−050807(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00954976(EP,A1)
【文献】 特開平06−141792(JP,A)
【文献】 特開昭61−254148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/FROSTI/CAplus/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(A)〜(C)を満たす、ハードキャンディ:
(A)水溶性食物繊維を固形分あたり80質量%以上含む、
(B)水分を6質量%以上含む、
(C)ガラス転移点が20℃以上である。
【請求項2】
水溶性食物繊維が、イヌリン、ポリデキストロース、及び難消化性デキストリンから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載のハードキャンディ。
【請求項3】
水溶性食物繊維がイヌリンを含む、請求項2に記載のハードキャンディ。
【請求項4】
硬度が3kg以上である、請求項1〜3の何れかに記載のハードキャンディ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードキャンディに関する。本発明は、詳細には、低糖質のハードキャンディに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードキャンディは、典型的には、砂糖と水あめを主原料とし、口の中でゆっくり溶かして食されることで様々なフレーバーを味わえる代表的な菓子の一つである。
【0003】
近年、ハードキャンディの分野においても、消費者の健康意識の高まりに応えるため、砂糖の低減を訴求した製品が開発されている。このような製品として、砂糖に代えて糖アルコールを用いたハードキャンディが知られている(例えば、特許文献1)。また、糖類として結晶ケストースを含むハードキャンディが知られている(特許文献2)。また、糖類としてフルクトシル化していないα−ガラクトオリゴ糖を含むハードキャンディが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−228688号公報
【特許文献2】特開10−000057号公報
【特許文献3】特表2014−520562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるようにハードキャンディに糖アルコールを用いる場合には、糖アルコールの量を多くしようとすると、硬度、吸湿性、型内からの脱型性に問題が生じやすい。そのため、十分なカロリー低減と、ハードキャンディとしての物性を両立することが困難であった。また、そもそも、糖アルコールは糖質に分類される成分であり、糖質制限という観点からは有用ではない。また、糖アルコールは緩下作用を有することから、摂取量に注意する必要もあった。
【0006】
特許文献2、3に記載されるハードキャンディは、ハードキャンディとしての適正な硬度を有するものの、口の中での変形や歯つき等の食感について良好とはいえなかった。
【0007】
ところで、近年では、糖質制限によるダイエットや食餌療法が薦められている。2015年から施行された食品表示法により示されている食品表示基準では、炭水化物のうち、糖質と食物繊維を併記することが定められたことも相まって、今後、製菓分野においても、糖質の低減が重要なテーマとなり得る。
そこで、本発明は、糖質を大幅に低減した、食感に優れたハードキャンディを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ハードキャンディにおいて、固形分当たりの水溶性食物繊維の含有量、及び水分を一定以上とし、ガラス転移点を一定以上とすることにより、糖質を大幅に低減した、食感に優れたハードキャンディを提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、前記課題を解決する本発明は、以下(A)〜(C)を満たす、ハードキャンディである。
(A)水溶性食物繊維を固形分あたり80質量%以上含む。
(B)水分を6質量%以上含む。
(C)ガラス転移点が20℃以上である。
(A)〜(C)を満たすハードキャンディは、糖質が低減されながら、ハードキャンディとしての良好な食感を有する。
【0010】
本発明の好ましい形態では、水溶性食物繊維として、イヌリン、ポリデキストロース、及び難消化性デキストリンから選ばれる少なくとも1種を含む。
これらから選ばれる水溶性食物繊維を用いることにより、食感を良好にし、安定性を高めることができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、水溶性食物繊維としてイヌリンを含む。
イヌリンを用いることにより、食感を良好にし、安定性を高めることができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、ハードキャンディの硬度は3kg以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハードキャンディは、糖質の低減と、良好な食感とを両立するものである。従って、本発明によれば、従来なかった糖質が大幅に低減されたハードキャンディを提供することができる。また、食物繊維を容易に摂取できる、新しい価値のハードキャンディを提供することができる。
また、本発明のハードキャンディは、典型的なハードキャンディに比して水分が多いにもかかわらず、ハードキャンディとしての良好な物性を有するため、水分活性の高い原材料を含有させることも可能となる。また、水分が多いことは、糖質の低減の観点、製造におけるエネルギー効率の観点からも利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、説明する。
本発明のハードキャンディは、必須成分として、水溶性食物繊維を含む。水溶性食物繊維は、食物に含まれ、かつヒトの消化器官で消化・吸収されにくい難消化性炭水化物のうち、水溶性のものをいう。
水溶性食物繊維としては、イヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、寒天、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、ビートファイバー、キサンタンガム、グァーガム、グァーガム酵素分解物、難消化性でんぷん、プルラン等の難消化性の多糖類や、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖等の難消化性オリゴ糖類等が挙げられる。本発明においては、イヌリン、難消化性デキストリン、及びポリデキストロースから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特に、イヌリンを単独で、又は他の水溶性食物繊維と組み合わせて用いることが好ましい。イヌリンと組み合わせる水溶性食物繊維としては、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、及びフラクトオリゴ糖が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0015】
また、水溶性食物繊維の組成は、水溶性食物繊維全体の平均分子量が、好ましくは1000〜4000となるように、更に好ましくは1200〜3800となるように、より好ましくは1400〜3600となるように決定することができる。
【0016】
水溶性食物繊維としては、その平均分子量が、好ましくは1000〜4000、更に好ましくは1300〜3700のものを用いることが好ましい。
例えば、イヌリンを用いる場合、その平均分子量は、好ましくは1000〜4000であり、更に好ましくは1300〜3700である。
また、難消化性デキストリンを用いる場合、その平均分子量は、好ましくは1000〜3000であり、更に好ましくは1500〜2700である。
また、ポリデキストロースを用いる場合、その平均分子量は、好ましくは1000〜2000であり、更に好ましくは1300〜1700である。
また、フラクトオリゴ糖を用いる場合、その平均分子量は、好ましくは500〜1000である。
本明細書において、平均分子量とは、重量平均分子量を意味する。
【0017】
本発明においては、このような平均分子量の水溶性食物繊維が全水溶性食物繊維の好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、中でも90質量%以上を占めることが好ましい。
【0018】
水溶性食物繊維の組成の好ましい形態として、例えば以下が挙げられる。
(1)平均分子量2000〜4000のイヌリンを40質量%以上、好ましくは50〜95質量%含む形態。
(2)(1)の形態において、平均分子量1500〜2700の難消化性デキストリン及び/又は平均分子量1000〜2000のポリデキストロースを5〜50質量%含む形態。
(3)(1)の形態において、平均分子量500〜1000のフラクトオリゴ糖を30〜55質量%含む形態。
(4)平均分子量1000〜2000のイヌリンを10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%含み、平均分子量1000〜2000のポリデキストロースを40〜80質量%、好ましくは50〜70質量%含む形態。
(5)(4)の形態において、平均分子量1500〜2700の難消化性デキストリンを3〜15質量%含む形態。
【0019】
水溶性食物繊維の含有量は、ハードキャンディを構成する固形分に対して、80質量%以上、好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。また、本発明のハードキャンディは、固形分の全量を水溶性食物繊維で構成することもできる。
【0020】
ハードキャンディにおける水溶性食物繊維の含有量は、食品分析に通常用いられる方法のうち、水不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を区別して定量ができ、かつ低分子の水溶性食物繊維を含めた定量ができる方法を用いればよく、例えばCODEX分析法AOAC Method2001.03を用いることができる。
【0021】
本発明のハードキャンディにおける水分は、6質量%以上、好ましくは7質量%以上である。上限値は、好ましくは12質量%、更に好ましくは11質量%である。
水分は、常法により、常圧加熱乾燥助剤法によって測定することができる。
水分を当該範囲とすることで、水分と前述した水溶性食物繊維とが相互作用し、良好な食感、安定性を実現できる。また、7質量%以上とすることにより、製造、特に煮詰め作業を容易に達成することができる。
また、水分を一定以上とすることで、ハードキャンディ全体における糖質を低減させることにも寄与する。
【0022】
本発明のハードキャンディは、糖質を含んでいてもよいが、その範囲は、固形分に対して、20質量%より小さく、好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。また、これを含有しない形態も好ましい。ここで、糖質とは、炭水化物のうち、ヒトの消化酵素によって消化される成分、及び低分子の合成甘味料を含み、食物繊維以外の成分をいう。糖質を用いる場合には、砂糖、水あめを好ましく用いることができる。
また、糖アルコールの含有量は、固形分に対して、好ましくは10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。また、特に好ましくは、これを含有しない。
糖質を含有しないハードキャンディについては、「糖質オフ」、「無糖」等と表示することが可能である。
【0023】
本発明のハードキャンディは、ガラス転移点が20℃以上、好ましくは22℃以上、さらに好ましくは24℃以上である。このような物性を有することで、口の中での保形性、歯つきの抑制の点で、良好な食感となる。また、ガラス転移点の上限値は、60℃、好ましくは55℃、さらに好ましくは50℃を目安とすることができる。
「ガラス転移点」とは、非晶質固体材料にガラス転移が起きる温度であり、「Tg」と
も記される。ハードキャンディにおいては、加熱により、ガラス状態のハードキャンディが、ラバー状態になる温度とみなすことができる。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)、熱機械分析(TMA)などで測定できる。具体的には、試料を0℃から80℃まで10℃/分で推移させた際の比熱を測定する。比熱が変化する前の比熱変化曲線の延長と、比熱が変化している間の比熱変化曲線の接線の交点を補外ガラス転移開始温度といい、本発明では補外ガラス転移開始温度を「ガラス転移点」とする。
ガラス転移点は、常法により測定することができる。具体的には、後述する実施例に示す方法にて測定することができる。
【0024】
本発明のハードキャンディの硬度は、好ましくは3kg以上であり、好ましくは5kg以上である。このような物性により、ハードキャンディとしての良好な物性、食感を得ることができる。
硬度は、常法によりレオメーターを用いて測定することができる。具体的には、後述する実施例に示す方法にて測定することができる。
【0025】
本発明のハードキャンディは、香料、保存料等、通常用いられる原料を適宜含んでいてもよい。
【0026】
本発明のハードキャンディは、好ましくは成型物である。形状は、キューブ状、球状等が挙げられ、1粒あたりの体積は0.5〜15cm3程度、1粒あたりの重量は0.65〜20gとすることが好ましい。
【0027】
本発明のハードキャンディは、常法により前述した原料の水溶液を、常圧下又は減圧下で前述した水分の範囲となるように煮詰め、所望により風味や色付けのための原料(フレーバー、甘味料、酸味料、着色料等)と混合した後、デポジット成型、スタンピング成型等の方法により成型することにより製造することができる。
ハンドリングの観点からは、水溶液の濃度は、80質量%以下とすることが好ましい。一方、煮詰め効率の観点からは、50質量%以上とすることが好ましい。
また、煮詰めにより水分が少なくなりすぎると生地が硬くなったり、団子状になったりして、煮詰め作業が困難となることや、成型時の不良の原因となることがある。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について、実施例を示しながらより詳細に説明する。
<サンプルの調製>
表1に示す配合(質量部で表示)に従い、手鍋に各種原料をとり、これに水を加えて加熱し、それぞれ、濃度50%の水溶液を調製し煮詰めた。煮詰めの途中、手鍋ごと秤量して、予め想定している水分値になったら煮詰め液を冷却して成型した。成型では、硬度測定用に、厚さ4mmで、長さ3cm以上、幅3cm以上の板状のサンプルと、流れ試験用と官能評価用に、スタンピングにより直径18mm、一粒重量3〜3.3gのキャンディサンプルを作成した。
【0029】
(水分)
水分含量は常圧加熱乾燥助剤法を用いた常法により測定した。助剤として海砂を用いた。
【0030】
(ガラス転移点)
示差走査熱量測定(DSC)を用い、試料を0℃から80℃まで10℃/分で推移させた際の比熱を測定した。比熱が変化する前の比熱変化曲線の延長と、比熱が変化している間の比熱変化曲線の接線の交点(補外ガラス転移開始温度)をガラス転移点とした。
【0031】
(硬度)
装置としてサン科学製レオメーター「CR−500DX」を使用し、逆円錐状アダプターを、測定品温20℃とした4mm厚さのサンプルの表面に上方から垂直方向に押し付けて、移動速度20mm/分で貫入させていったときのその貫入開始から貫入距離2mmまでにわたるアダプターにかかる最大荷重(kg)を測定した。測定値に基づいて、下記基準に従った評価点をつけた。測定は同一サンプルにつき3回行い、その評価点を平均化した。
<5段階評価:硬度評価点>
5 5kg以上
4 3〜5kg
3 1〜3kg
2 1kg未満
1 破断しない(値が高くても)**
**2mm貫入してもサンプルが破断しないものは最大荷重が大きくても1点とした。
【0032】
(官能評価)
直径18mmに成型したハードキャンディの食感を、熟練被験者3名によって評価した。食感については、下記基準に従い、キャンディを噛んだときの歯つきや食感について評価点をつけ、3名による評価点を平均化した。
<5段階評価:官能評価点>
5 噛んでも歯つきしない。
4 噛んで細かく砕けたものが歯つきする。
3 強く噛むと歯つきがある。
2 噛んでも変形して砕けない。歯につく。
1 口の中ですぐに変形して歯にまとわりつく。
【0033】
(流れ)
直径18mmに成型したハードキャンディを包装しないで、32℃、相対湿度80%の雰囲気で、24時間静置した後に面積を測定した。測定値に基づいて、形の崩れの程度について、以下基準に従った評価点をつけた。
<5段階評価:流れ評価点>
5 300mm未満
4 300mm以上、400mm未満
3 400mm以上、500mm未満
2 500mm以上、600mm未満
1 600mm以上
【0034】
評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から分かるように、実施例のハードキャンディは、何れも製品として十分な硬度を有していた。また、食感(官能評価点)、安定性(流れ評価点)についても優れた結果が得られた。
一方、水溶性食物繊維を含まない比較例1、2のハードキャンディ、ガラス転移点が20℃以下の比較例3のハードキャンディは、少なくとも安定性、食感、硬度の何れかが良好ではなかった。
この結果から、ハードキャンディにおける水溶性食物繊維の含有量を固形分あたり80〜95質量%とし、水分を6〜11質量%とし、ガラス転移点を24〜47℃とすることによって、糖質を大幅に低減した、安定性、及び食感に優れた製品が得られることがわかった。
また、水分を7質量%以上とした場合には、煮詰めすぎることによる生地の硬化もみられず、容易に煮詰め作業を完了することができ、成型品もきれいな見た目のものが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、糖質オフを訴求したハードキャンディに利用できる。

【要約】
【課題】糖質を大幅に低減した、食感に優れたハードキャンディを提供する。
【解決手段】以下(A)〜(C)を満たす、ハードキャンディを提供する:(A)水溶性食物繊維を固形分あたり80質量%以上含む、(B)水分を6質量%以上含む、(C)ガラス転移点が20℃以上。
【選択図】なし