(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6059967
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20161226BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B29C59/02 B
H01L21/30 502D
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-253176(P2012-253176)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-100827(P2014-100827A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年10月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年度繊維学会年次大会 予稿集第27巻第1号(平成24年6月6日)一般社団法人繊維学会発行第292頁に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年6月7日にタワーホール船堀にて開催された平成24年度繊維学会年次大会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 美帆子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 さなえ
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 甲介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩志
【審査官】
井上 由美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−313886(JP,A)
【文献】
特表2011−504607(JP,A)
【文献】
海藤嘉宏 根本昭彦 高山哲生 伊藤浩志 藤井さなえ 西尾美帆子 鈴木豊明,ナノインプリントを利用した表面微細構造を有するポリイミド樹脂の開発,繊維学会予稿集,日本,一般社団法人 繊維学会,2012年 6月 6日,vol.67/No.1/Page.292,Page.292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 59/00−59/18
H01L 21/027
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸形状が形成された型を、第1の樹脂からなる樹脂基材に押圧して、前記樹脂基材の表面に凹凸形状を形成する工程と、
前記樹脂基材の前記凹凸形状を有する表面に、樹脂成形品の材料となる第2の樹脂を塗布し、前記第2の樹脂からなる塗膜を前記樹脂基材の前記凹凸形状を有する表面上で加熱乾燥した後に離型することにより、表面に凹凸形状が形成された樹脂成形品を製造する工程とを備え、
前記第1の樹脂が耐溶剤性、または耐熱性70℃以上であり、
前記第2の樹脂が可溶性であり、かつガラス転移温度(Tg)100℃以上、または融点200℃以上であり、
前記第2の樹脂が、ポリイミド樹脂またはポリイミド系樹脂であることを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第1の樹脂がシクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PET−G)または液晶ポリマー(LCP)であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成形品を構成する樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上のポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第2の樹脂は、前記樹脂成形品を構成する樹脂またはその前駆体を、溶媒に溶解したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂基材は、前記第1の樹脂のフィルムまたはシートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記第1の樹脂のガラス転移温度が、前記塗膜の加熱乾燥温度より高いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂のインプリント方法に関するものであり、特に、樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細構造の作製技術としては、インプリント、射出成形、フォトリソグラフィー等のトップダウンによる技術と、自己組織化などのボトムアップによる技術が知られている。インプリント技術は、ナノメートル(nm)からマイクロメートル(μm)オーダーの微細構造物を低コストで量産可能な方法として近年注目を集めている。
【0003】
インプリント技術としては、主に熱インプリントとUVインプリントの2つが知られている。
熱インプリントの場合、熱可塑性樹脂の膜を金属、ガラス、半導体等の耐熱性無機材料からなる基板上に形成し、熱可塑性樹脂の膜を加熱して半溶融化した後に型を押し当て、あるいは型を押し当てながら膜を加熱溶融して、熱可塑性樹脂の膜に型の凹凸形状を転写させた後、得られた成形品を冷却後に離型する。熱インプリントは、熱可塑性樹脂に用いられる技術で、材料選択の幅が広いという利点がある。
【0004】
UVインプリントの場合、液状の光硬化性樹脂の膜をUV(紫外線)が透過可能な石英やガラス等の基板上に形成し、型を押し当てながら光硬化性樹脂の膜をUV照射により光硬化させた後、得られた成形品を離型する。UVインプリントは、室温下で成形できるため、プロセス中の温度変化を抑制でき、高アスペクト(一般に微細構造の幅に対する高さの比)が容易であるという利点がある。
【0005】
特許文献1には、UVナノインプリントに使用される光硬化性組成物およびパターン形成方法が記載されている。
特許文献2には、放射線硬化樹脂液が塗布された帯状のシート状体を連続走行させて凹凸ローラに巻き掛け、樹脂液層に凹凸ローラ表面の凹凸を転写し、放射線を照射した後にシート状体を凹凸ローラより剥離する、凹凸状シートの製造方法が記載されている。
特許文献3には、粘度が100mPa・s以下のポリマー溶液を、パターン形状が形成された走行ベルト上に塗布して塗布膜を形成し、走行ベルトの水平走行中に塗布膜を乾燥・固化させて走行ベルトのパターン形状を塗布膜に転写させた後、走行ベルトから塗布膜を剥離する、パターンシートの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−18644号公報
【特許文献2】特開2007−196397号公報
【特許文献3】特開2004−230614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では光硬化性組成物を用いており、熱可塑性樹脂を利用することはできない。
また、特許文献2では放射線硬化樹脂を用いており、放射線(UV)を照射する手段が必要である。
また、特許文献3ではポリマー溶液を用いており、溶剤に可溶し、低粘度ポリマー溶液に限られる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性を有する熱可塑性樹脂であっても微細凹凸パターンを有する成形品を生産性良く製造することが可能な樹脂成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、表面に凹凸形状が形成された型を、第1の樹脂からなる樹脂基材に押圧して、前記樹脂基材の表面に凹凸形状を形成する工程と、前記樹脂基材の前記凹凸形状を有する表面に、樹脂成形品の材料となる第2の樹脂を塗布し、前記第2の樹脂からなる塗膜を前記樹脂基材の前記凹凸形状を有する表面上で加熱乾燥した後に離型することにより、表面に凹凸形状が形成された樹脂成形品を製造する工程とを備え、前記第1の樹脂が耐溶剤性、または耐熱性70℃以上であり、前記第2の樹脂が可溶性であり、かつガラス転移温度
(Tg)100℃以上、または融点200℃以上であ
り、前記第2の樹脂が、ポリイミド樹脂またはポリイミド系樹脂であることを特徴とする樹脂成形品の製造方法を提供する。
【0010】
前記第1の樹脂がシクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PET−G)または液晶ポリマー(LCP)であることが好ましい。
前記樹脂成形品を構成する樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上のポリイミド樹脂であることが好ましい。
前記第2の樹脂は、前記樹脂成形品を構成する樹脂またはその前駆体を、溶媒に溶解したものであることが好ましい。
前記樹脂基材は、前記第1の樹脂のフィルムまたはシートであることが好ましい。
前記第1の樹脂のガラス転移温度が、前記塗膜の加熱乾燥温度より高いことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1の樹脂からなる樹脂基材を中間の型として、第2の樹脂を成形するので、耐熱性を有する熱可塑性樹脂であっても微細凹凸パターンを有する成形品を生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の製造方法の一例を(a)〜(h)の順に説明する断面図である。
【
図2】第1の樹脂からなる樹脂基材に対する熱プレスの方法を例示する断面図である。
【
図3】実施例で用いた金型表面の電子顕微鏡写真である。
【
図4】樹脂成形品のサンプルAの表面の電子顕微鏡写真である。
【
図5】樹脂成形品のサンプルBの表面の電子顕微鏡写真である。
【
図6】(a)室温、(b)250℃、(c)270℃、(d)290℃で一定時間保管した後のサンプルAの表面の電子顕微鏡写真である。
【
図7】(a)室温、(b)130℃、(c)150℃、(d)170℃で一定時間保管した後のサンプルBの表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
熱可塑性樹脂を成形する場合は、UVインプリントよりも制約事項の少ない熱インプリント法が用いられるが、ポリイミドのようにガラス転移温度(Tg)が高い樹脂や、ポリビニルアルコールのように融点(Tm)が高い樹脂は、一般に熱成形が困難である。熱インプリント法と溶媒キャスト法を複合させることにより、直接の熱成形が困難な熱可塑性樹脂であっても、高精度な微細構造を生産性良く形成することができる。
【0014】
まず、
図1(a)に示すように、表面2に凹凸形状3が形成された型1を用意する。型1は、金属、ガラス、半導体、セラミックス、樹脂等の各種材料から構成することができる。型1の表面2に凹凸形状3を形成する方法も特に限定されず、フォトリソグラフィー、集束イオンビームリソグラフィー、電子線描画法、エッチング、メッキ法、レーザー加工、切削加工、射出成形、転写等の各種手法の1又は2以上の組み合わせを採用可能である。熱成形であることから、型1は透明であっても不透明であってもよい。
【0015】
凹凸形状としては、半球状、円錐状、円柱状、三角状、四角錐状、溝状、穴状、レンズ状等の各種形状が挙げられる。同一の凹凸形状を規則的に繰り返すパターンであってもよく、2種以上の凹凸形状を含むパターンであってもよく、不規則なパターンであってもよい。凹凸のピッチ(例えば、凹部から凸部を隔てて次の凹部までの距離や、凸部から凹部を隔てて次の凸部までの距離)は、微細加工の利点を活用するためには100μm以下が好ましく、1μm以下であってもよい。モスアイ(moth eye)構造のように、ピッチが可視光の波長より短い構造として、反射率を低減し、ディスプレイ材料における映り込みを抑制することも可能である。
【0016】
次に、
図1(a)から(b)に示すように、型1の凹凸形状3が形成された表面2を、
第1の樹脂からなる樹脂基材11に押圧して、樹脂基材11の表面12に凹凸形状13を形成する。樹脂基材11は、第1の樹脂のフィルムまたはシートであると、プレス成形が容易であり、好ましい。フィルムまたはシートは、空中をロール等により搬送することもでき、受け台の上に載せて支持してもよい。基板の上に溶剤や熱溶融等により液状化した樹脂組成物を塗布して乾燥または冷却により形成した樹脂膜を樹脂基材11として用いることもできる。
【0017】
第1の樹脂が熱可塑性樹脂であると、樹脂基材11の加熱により樹脂を流動化させることができる。第1の樹脂の溶融後に型1を樹脂基材11に接触させてもよく、型1を樹脂基材11に接触させながら第1の樹脂を溶融してもよい。型1を樹脂基材11に押圧することにより、型1の凹凸形状3を樹脂基材11の表面12に転写して、樹脂基材11の表面12に凹凸形状13を形成することができる。樹脂基材11の凹凸形状13は、型1の凹凸形状3を反転したパターンとなる。
【0018】
第1の樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル等が挙げられる。後述する溶媒キャストおよび加熱乾燥の工程中、樹脂基材11の凹凸形状13が保持されるためには、第1の樹脂はTgの高いものが好ましい。第1の樹脂のTgは、溶媒キャストにより形成される塗膜の乾燥温度より高いことが好ましい。第1の樹脂の耐熱性は、微細な凹凸の型崩れが生じない温度として、70℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。Tgが120℃以上の熱可塑性樹脂を第1の樹脂とすることが好ましく、具体的にはシクロオレフィンポリマー(COP)やシクロオレフィンコポリマー(COC)が挙げられる。また、溶媒キャストの際、第2の樹脂と溶媒を含む樹脂組成物を塗布できるように、耐溶媒性を有する樹脂を樹脂基材11に用いることが好ましい。非晶性ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PET−G)、液晶ポリマー(LCP)等の非晶性樹脂やUV硬化性樹脂、放射線硬化樹脂も好ましい。耐溶剤性と耐熱性を兼ね備える樹脂が最も好ましい。
【0019】
次に、
図1(b)から(c)に示すように、型1と樹脂基材11を冷却し、第1の樹脂を固化させた後、型1から樹脂基材11を取り外す(離型する)。これにより、
図1(d)に示すように、表面12に凹凸形状13が形成された樹脂基材11が作製される。
【0020】
次に、
図1(e)に示すように、アプリケーター25等を用いて、樹脂基材11の凹凸形状13を有する表面12に、樹脂成形品の材料となる第2の樹脂を塗布して、第2の樹脂の塗膜20を形成する。樹脂成形品を構成する第2の樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)が高く、耐熱性の高い樹脂を利用することが可能である。例えばポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。例えばTgが100℃以上がよく、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上の熱可塑性樹脂であってもよく、ポリイミド樹脂が好ましい。また、融点は200℃以上が好ましい。第2の樹脂のTgまたはTmに関する上記の要件は、Tgに関する要件とTmに関する要件のいずれか一方を満たせばよく、両方を満たしてもよい。
【0021】
樹脂基材11の表面に塗布する第2の樹脂は可溶性であることが好ましく、樹脂成形品を構成する樹脂そのものか当該樹脂の前駆体を、溶媒に溶解した樹脂組成物であることが好ましい。樹脂または前駆体を溶解するための溶媒は、1種でも複数種でもよく、樹脂組成物に含まれる樹脂の種類により適宜選択できる。溶媒の具体例としては、例えば炭化水素系、アルコール系、エーテル系、ケトン系、エステル系、アミド系、その他の各種有機溶媒や水が挙げられる。
また、第2の樹脂には付加したい機能等に応じて無機や有機の添加剤を含んでもよく、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、保存安定剤、レベリング剤、シランカップリング剤、重合開始剤、重合禁止剤、界面活性剤、着色剤、可塑剤、滑剤、溶剤、充填剤、老化防止剤、濡れ性改良剤、離型剤等の一般的な添加剤のほかに、カーボンナノチューブ、フッ化炭素、炭化ケイ素、一酸化ケイ素、無機粒子や金属粒子なども添加できる。
塗布方法としては、塗布する樹脂組成物の粘度等に適したものであればよく、限定されず、ロールコート、スピンコート、ブレードコート、バーコート、リバースコート、ダイコート、ディップコート、スプレーコート、グラビアコート、カーテンフローコート、キャスト、刷毛塗り、印刷等が挙げられる。
塗布する樹脂組成物の粘度(η)は、100mPa・s以下でなくてもよく、より高粘度(例えば1〜10000Pa・s等)の樹脂組成物であってもよい。
【0022】
次に、
図1(e)から(f)に示すように、第2の樹脂からなる塗膜20を、樹脂基材11の凹凸形状13を有する表面12上で加熱乾燥する。これにより、塗膜20が固化して樹脂成形品21が形成される。また、塗膜20に含まれる第2の樹脂は樹脂基材11の凹凸形状13の周囲に充填され、加熱乾燥の際、樹脂基材11の凹凸形状13に対応した凹凸形状23を形成するように固化する。
【0023】
さらに、
図1(g)から(h)に示すように、樹脂成形品21を樹脂基材11の凹凸形状13を有する表面12を取り外す(離型する)ことにより、樹脂基材11の表面12に接していた側の表面22に、凹凸形状23が形成された樹脂成形品21を得ることができる。
上記の、塗布、乾燥、離型の一連の工程を従来のコーター(塗工機)で実施可能となる。
【0024】
本発明によれば、従来は熱転写が難しかった、高いTgをもつ熱可塑性樹脂であっても、微細構造を成形することが可能である。また、第2の樹脂に微細構造を付与する型は、第1の樹脂からなる樹脂基材により構成するので金型を使用する必要がなく、安価で繰り返しパターン転写が可能になる。
本発明の製造方法は、従来のインプリントのような真空下が必要ではなく、またUV効果システムも費用であり、簡便に微細な表面構造を形成することができる。
【0025】
特に第2の樹脂としてポリイミド樹脂を用いると、耐熱性や耐溶剤性等の種々の性質が優れるので好ましい。ここで、ポリイミド樹脂とは、主鎖にイミド結合をもつ樹脂であればよく、構成単位間の結合が専らイミド結合であるものに限らず、アミド結合、エーテル結合、エステル結合等の他の結合を有するものでもよい。一般にポリイミド系樹脂と称されるものも、本発明ではポリイミド樹脂に包含されるものとする。
高耐熱、耐薬品性のフレキシブル凹凸基材、有機エレクトロルミネセンス(EL)基材、熱光交換システム基材、宇宙基材、太陽光発電システムの部材等、耐熱性や耐候性の必要な分野での利用が可能になると考えられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
第1の樹脂としては、シクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス株式会社製、商品名:TOPAS(登録商標)6013、エチレン−ノルボルネン共重合体、Tg:138℃)を用いた。第2の樹脂としては、ポリイミド樹脂A(Tg:285℃、η:4.2Pa・s)、ポリイミド系樹脂B(Tg:160℃、η:13.0Pa・s)を用いた。ここで、Tgはガラス転移温度、ηは粘度である。
【0027】
(樹脂基材の成形)
二軸押出機(東洋精機製作所製、商品名:2D15W)と巻き取り装置(東洋精機製作所製、商品名:RNP1)を用い、スクリュー温度270℃、ギアポンプ温度270℃、巻取速度0.5m/minの加工条件で、第1の樹脂のシクロオレフィンコポリマー(COC)を溶融押出することにより、樹脂基材11として、厚さ140μmの両面が平坦なCOCフィルムを成形した。
【0028】
(ポリイミドの成形)
次に、
図2に示すように、下部プレート15の上に、下側の銅板16、下側の離型フィルム17、樹脂基材11のCOCフィルム、樹脂基材11側の表面2に微細構造を有する型1、上側の離型フィルム17、上側の銅板16、上部プレート14を、順に積層して、COCフィルムを熱インプリントにより加工した。
【0029】
型1としては、表面にモスアイ(Moth Eye)構造の凹凸パターン(ナノ構造)を有する金型を用いた。
図3に、金型表面を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、日立ハイテクノロジーズ製、商品名:SU8000)で観察した拡大写真を示す。この金型を用いて、表面にナノ構造が転写されたCOCフィルムを作製した。プレス後に型1および樹脂基材11の取り外しが容易なように、これらの外側に離型フィルム17を設け、さらに熱伝導性に優れた銅板16を介して均等に加熱できるように構成した。
【0030】
次に、アプリケーターを用い、COCフィルムのナノ構造が転写された表面上に、ポリイミド樹脂Aまたはポリイミド系樹脂B(以下、単に「樹脂A」、「樹脂B」という場合がある。)のいずれかの樹脂を均一に塗布した。この塗布により形成された塗膜をCOCフィルムの表面上に配置したまま乾燥機に入れ、120℃で5min乾燥させた。塗膜の乾燥後、乾燥塗膜(成形品)をCOCフィルムから剥離して樹脂成形品を得た。
【0031】
樹脂Aを用いて製造した樹脂成形品(サンプルA)と、樹脂Bを用いて製造した樹脂成形品(サンプルB)のそれぞれについて、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、日立ハイテクノロジーズ製、商品名:SU8000)により、倍率7万倍で表面を拡大して観察した。
図4にサンプルAの拡大写真を、
図5にサンプルBの拡大写真を示す。サンプルA,Bともにモスアイ構造が形成されていることが確認できた。
【0032】
(耐熱試験)
サンプルAでは試験温度を250℃、270℃、290℃の3種類、サンプルBでは試験温度を130℃、150℃、170℃の3種類として、次のようにサンプルA,Bの耐熱試験を実施した。耐熱試験では、それぞれの試験温度に設定したオーブン中に各樹脂成形品を1時間保管した後、オーブンから取り出し、放冷後に再びFE−SEM(上記のもの)で表面を観察した。
図6に、サンプルAを、それぞれ(a)室温、(b)250℃、(c)270℃、(d)290℃で一定時間保管した後の表面の拡大写真を示す。Tgが285℃のポリイミド樹脂Aを用いたサンプルAの場合、250℃や270℃で保管したサンプルでは耐熱試験後もモスアイ構造が確認できたが(
図6(b)、(c)を参照)、290℃ではモスアイ構造が消失していた(
図6(d)を参照)。
また、
図7に、サンプルBを、それぞれ(a)室温、(b)130℃、(c)150℃、(d)170℃で一定時間保管した後の表面の拡大写真を示す。Tgが160℃のポリイミド系樹脂Bを用いた樹脂成形品Bの場合、130℃や150℃で保管したサンプルでは耐熱試験後もモスアイ構造が確認できたが(
図7(b)、(c)を参照)、170℃ではモスアイ構造が消失していた(
図7(d)を参照)。
【0033】
(TMA測定)
樹脂A,Bの熱機械分析(TMA)測定は、TMA装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、商品名:EXSTARE6000)を用い、平坦な樹脂フィルム(微細構造を形成していないもの)にプローブを接触させて、昇温速度5℃/min、測定温度範囲20〜350℃の条件で実施した。樹脂Aでは270〜290℃付近、樹脂Bでは140〜150℃付近でプローブの大きな位置変位(すなわち、樹脂の軟化による形状変化)が認められ、各樹脂Tgや耐熱試験とよく一致した結果を示した。
【0034】
(全光線透過率)
測定装置としてヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、商品名:NDH4000)を用い、光源D65、測定範囲10mm×10mmの測定条件により全光線透過率(%)を測定した。その結果を表1に示す。上述のようにモスアイ構造を有する型を用いて製造したモスアイ構造を有する樹脂成形品を「Imprint」とし、比較として、平坦な型を用いて製造した表面が平坦な樹脂成形品を「Flat」とした。
樹脂Aを用いたサンプルA、樹脂Bを用いたサンプルBのいずれにおいても、モスアイ構造を設けることにより、全光線透過率が上昇した。
【0035】
【表1】
【0036】
(接触角試験)
測定装置として接触角測定装置(協和界面科学製、商品名:自動接触角計DM500)を用い、樹脂成形品の表面に純水を接触させたときの接触角(°)を、接線法により測定した。その結果を表2に示す。「Imprint」および「Flat」の意味は、上記の全光線透過率を測定した場合と同様である。
樹脂Aを用いたサンプルA、樹脂Bを用いたサンプルBのいずれにおいても、モスアイ構造を設けることにより、接触角が上昇した。
【0037】
【表2】
【0038】
(まとめ)
以上の結果から、本発明により微細構造を有するポリイミドフィルムの製造に成功した。微細構造を付与することにより、接触角、全光線透過率が向上した。また、耐熱性試験の結果、微細構造は樹脂のTg付近まで保持することが分かった。本発明の製造方法は、低圧、低温で成形が可能であるため、非常に有効な微細成形技術である。
【符号の説明】
【0039】
1…型、2…表面、3…凹凸形状、11…樹脂基材、12…表面、13…凹凸形状、14…上部プレート、15…下部プレート、16…銅板、17…離型フィルム、20…塗膜、21…樹脂成形品、22…表面、23…凹凸形状、25…アプリケーター。