【文献】
小松恵徳 他,ナノろ過処理・脱酸素加熱殺菌クリームの特性,日本食品科学工学会誌,2009年,Vol.56, No.9,p.22-6
【文献】
小松恵徳 他,フレッシュクリームの革新的な「あじわいこだわり製法」,農林水産技術研究ジャーナル,2011年 3月,Vol.34, No.3,p.7-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ナノろ過膜を用いて,原料乳を濃縮し,原料乳に含まれるナトリウムの残存率を35%以上70%以下とする脱塩処理を行い,ナノろ過濃縮乳を得るための第1のナノろ過処理工程と,
前記のナノろ過濃縮乳を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための遠心分離工程と,を含む,フレッシュクリームの製造方法であって,
前記のナノろ過濃縮乳は,固形分濃度が20重量%以上35重量%以下であり,
前記のフレッシュクリームは,脂肪分を20重量%以上55重量%以下で含み,無脂乳固形分を9重量%以上11重量%以下で含む,
方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,比較的に低脂肪含量であっても,強いコクを有するフレッシュクリーム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は,比較的に低オーバーランで安定し,適切な粘度を有するフレッシュクリーム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は,基本的には,無脂乳固形分(SNF)濃度と塩類濃度とを制御し,脱塩濃縮乳を得て,この脱塩濃縮乳を遠心分離することで,比較的に低脂肪であっても,強いコクを有するフレッシュクリームを得ることができるという知見に基づく。
【0009】
本発明の第1の側面は,フレッシュクリームの製造方法に関する。この方法は,第1のナノろ過処理工程と,遠心分離工程とを含む。第1のナノろ過処理工程は,ナノろ過膜を用いて,原料乳を濃縮し,ナトリウムの残存率を35%以上70%以下とする脱塩処理を行い,ナノろ過濃縮乳を得るための工程である。遠心分離工程は,ナノろ過濃縮乳を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための工程である。そして,ナノろ過濃縮乳は,固形分濃度が20重量%以上35重量%以下である。また,フレッシュクリームは,脂肪分を20重量%以上55重量%以下で含み,無脂乳固形分を9重量%以上11重量%以下で含む。
【0010】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,フレッシュクリームの製造方法は,第1のナノろ過処理工程の後に,希釈工程と,第2のナノろ過処理工程とを更に含み,その後に遠心分離工程を含むものである。希釈工程は,第1のナノろ過処理工程で得られたナノろ過濃縮乳に水分を加え,ナノろ過乳を得る工程である。第2のナノろ過処理工程は,ナノろ過膜を用いて,希釈工程で得られたナノろ過乳を濃縮し,脱塩濃縮乳を得る工程である。遠心分離工程は,脱塩濃縮乳を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための工程である。第1のナノろ過処理工程で得られたナノろ過濃縮乳を水分で希釈し,再度ナノろ過処理工程を経ることにより,ナノろ過濃縮乳は十分に脱塩される。
【0011】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,原料乳は脱脂乳成分からなり,フレッシュクリームの製造方法は,第1のナノろ過処理工程と,遠心分離工程とを含むものである。脱脂乳成分は,乳原料を遠心分離することで得られる。第1のナノろ過処理工程は,乳原料を遠心分離することで得られた脱脂乳成分に対して,ナノろ過膜を用いて,脱脂乳成分に含まれるナトリウムの残存率を35%以上70%以下とする脱塩処理を行い,脱塩脱脂濃縮乳を得るための工程である。遠心分離工程は,乳原料を遠心分離することで得られるクリーム成分と,脱塩脱脂濃縮乳との混合物を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための工程である。脱脂乳成分のみをナノろ過処理することにより,比較的に粒子径の大きな乳脂肪成分等の低減下や非存在下において,処理流体を低減した上で,膜分離処理することができる。そのため,処理膜の汚れや目詰まり(ファウリング)の抑制(これに伴い、各ナノろ過処理工程の後に,処理膜を洗浄する負担(洗剤量や洗浄時間等)を軽減できる)や処理膜の面積の低減を期待できるため,効率的なナノろ過処理が可能となる。
【0012】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,第1のナノろ過処理工程が,ナノろ過膜を用いて,透析ろ過処理する工程である。ナノろ過膜を用いて、透析ろ過処理することで,脱塩率の向上が可能となる。そのため,フレッシュクリームの塩類(塩分)の濃度を所望の濃度に調整することが容易になる。
【0013】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,フレッシュクリームの製造方法は,第1のナノろ過処理工程の後に,逆浸透ろ過処理工程と,脱塩乳取得工程と,脱塩濃縮乳を得る工程とを更に含み,その後に遠心分離工程を含むものである。逆浸透ろ過処理工程は,第1のナノろ過処理工程で得られた透過液に逆浸透ろ過処理を行い,逆浸透膜の透過液を得るための工程である。脱塩乳取得工程は,第1のナノろ過処理工程で得られたナノろ過濃縮乳に,逆浸透膜の透過液及び水分のいずれか又は両方を加え,脱塩乳(脱塩希釈乳)を得るための工程である。遠心分離工程は,脱塩濃縮乳を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための工程である。透過液を逆浸透ろ過処理することで得られた水分は,希釈工程等で再利用することが可能となる。
【0014】
本発明の第2の側面は,ホイップクリームの製造方法に関する。この方法は,上記した,いずれかに記載のフレッシュクリームの製造方法により得られたフレッシュクリームを撹拌する工程を含む。このようにして得られたホイップクリームでは,オーバーランを70%以上85%以下で調整することができるし,粘度(粘性)を100mPa・s以上200mPa・s以下で調整することができる。このとき,本発明のフレッシュクリームの製造方法に基づけば,コクや粘性に優れた相対的に低脂肪のホイップクリームを製造できることとなる。
【0015】
本発明の第3の側面は,上記した,いずれかのフレッシュクリームの製造方法により得られたフレッシュクリームに関する。
【0016】
本発明の第4の側面は,フレッシュクリーム含有食品に関する。この食品は,上記したフレッシュクリームと,pHが1以上5以下の酸性溶液(酸味料等)を含むフレッシュクリーム含有食品であって,フレッシュクリーム含有食品を100重量部としたときに,前記のフレッシュクリームが50重量部から90重量部であり,前記の酸性溶液が10重量部から50重量部である。このとき,本発明のフレッシュクリームと酸性溶液とを合わせたフレッシュクリーム含有食品は,酸性溶液を多量に含んでも,pHの低下を抑制することができ,本発明のフレッシュクリームは酸味をマスキングできることとなる。
【発明の効果】
【0017】
そこで,本発明によれば,比較的に低脂肪含量であっても,強いコクを有するフレッシュクリーム及びその製造方法を提供できる。
【0018】
また,本発明によれば,比較的に低オーバーランで安定し,適切な粘度を有するフレッシュクリーム及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の側面は,フレッシュクリームの製造方法に関する。この方法は,第1のナノろ過処理工程と,遠心分離工程とを含む。第1のナノろ過処理工程は,ナノろ過膜を用いて,原料乳を濃縮し,ナトリウムの残存率を35%以上70%以下とする脱塩処理を行い,ナノろ過濃縮乳を得るための工程である。遠心分離工程は,ナノろ過濃縮乳を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための工程である。そして,ナノろ過濃縮乳は,固形分濃度が20重量%以上35重量%以下である。また,フレッシュクリームは,脂肪分を20重量%以上55重量%以下で含み,無脂乳固形分を9重量%以上11重量%以下で含む。
【0021】
フレッシュクリームを製造する一般的な方法は,既に知られている。本発明では,既に知られたフレッシュクリームの製造装置を用いて,当業者に公知の条件を適宜採用してフレッシュクリームを製造できる。以下,フレッシュクリームを製造する方法について説明する。ただし,本発明は,以下の例に限定されるものではなく,以下に説明する例から,当業者に自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0022】
原料乳は一般的に,クリーム成分と脱脂乳成分を含んでいる。フレッシュクリームは一般的に,原料乳を遠心分離し,クリーム成分と脱脂乳成分に分離して得ることができる。原料乳は,生乳であっても良いし,均質化していない牛乳等であっても良い。脱塩全脂濃縮乳及び脱塩脱脂濃縮乳は,生乳等に比べて,固形分濃度が増強された乳であり,無脂乳固形分を多く含む。
【0023】
ナノろ過処理工程は,原料乳を濃縮・脱塩し,ナノろ過濃縮乳を得るための工程である。脱塩の条件を適宜調整することにより,脱塩率を調整することや,雑味成分や塩類(ナトリウム、カリウム等)の濃度を調整することができる。雑味成分や塩類の濃度を調整することは,得られるフレッシュクリームの風味を微調整することとなる。ナノろ過処理工程により,ナノろ過濃縮乳の固形分濃度が20重量%以上35重量%以下となるように濃縮することが好ましい。このような濃縮処理を行うことで,フレッシュクリームの製造工程の操作は増えるものの,無脂乳固形分濃度を高めつつ,相対的に低脂肪でもコク味のある風味的に優れたフレッシュクリームを得ることができることとなる。
【0024】
ナノろ過処理工程では,その処理温度として,例えば,1℃以上30℃以下であれば良く,細菌の増殖を抑制する観点から1℃以上10℃以下であれば更に良い。
【0025】
ナノろ過処理工程では,その処理条件として,陰圧下であっても加圧下であっても良い。そして,ろ過を加圧下で行う場合,その処理圧力として,例えば,1MPa以上5MPa以下であれば良く,ろ過の目詰まりを抑制して,ろ過速度を高める観点から1MPa以上3MPa以下であれば更に良い。
【0026】
ナノろ過処理工程には,逆浸透(RO)ろ過,ナノろ過(NF)法,透析ろ過(DF)法の1つ又は2つ以上を組み合わせたものを用いることができる。本発明では,ナノろ過又は透析ろ過を用いるものが好ましく,ナノろ過膜を使用した透析ろ過を用いるものが更に好ましい。これらの方法を採用することで,雑味成分や塩類が取り除かれるため,得られるフレッシュクリームの風味が良いものとなる。さらに,ナノろ過処理工程では,カルシウム塩を損なわずに,ナトリウム塩又はカリウム塩を低減することが好ましい。ナノろ過工程を経た後において,カルシウム塩の残存率は,80重量%以上が好ましく,90重量%以上がより好ましく,95重量%以上が更に好ましい。
【0027】
逆浸透(RO)ろ過は,逆浸透膜(RO膜)を用い,浸透圧を利用して,ろ過する方法である。RO膜は主に,水を透過する分離膜である。RO膜の素材には,例えば,ポリアミドがある。RO膜の形状には,例えば,平膜,スパイラル膜,板状膜等がある。
【0028】
ナノろ過(NF)は,ナノろ過膜(NF膜:例えば,ナノサイズの貫通孔(細孔径が0.5から2nmなど)を持つ膜状のフィルターを用い,浸透圧を利用して,ろ過する方法である。NF膜は主に1価のイオンと水を透過する分離膜である。本発明では,例えば,1価のイオン(ナトリウムイオン,カリウムイオン,塩化物イオン),尿素,乳酸等を低減できる。このため,ナノろ過膜を用いることで,2価のイオン(カルシウムやマグネシウム等)を保持して殆ど低減することなく,ナトリウムやカリウムを低減する脱塩処理を行うことができる。
【0029】
NF膜の素材には,例えば,ポリアミド,酢酸セルロース,ポリエーテルスルホン,ポリエステル,ポリイミド,ビニルポリマー,ポリオレフィン,ポリスルフォン,再生セルロース,及びポリカーボネートがある。本発明では,塩類を効率的に低減するため,NF膜の素材として,ポリアミド,酢酸セルロース,ポリエーテルスルホンが好ましく,具体的には,ダウケミカル製のNF45(商品名「NF−3838/30−FF」)が更に好ましい。NF膜の形状には,例えば,平膜,スパイラル膜,板状膜等がある。ナノろ過の圧力の取扱いには,例えば,加圧ろ過,減圧ろ過がある。ナノろ過の処理液の取扱いには,デッドエンドろ過法,クロスフローろ過法がある。ここで,ナノろ過膜の目詰まりを抑制して,ろ過速度を高める観点から,商業的にはクロスフローろ過法を用いることが好ましく,これにより,原料乳から調製される濃縮乳の成分等のばらつきを抑制して,フレッシュクリームの品質を一定に保つことができる。
【0030】
そして,このナノろ過によって原料乳から,保持液(リテンテート:ナノろ過濃縮乳)と透過液(パーミエート)が得られることとなる。実際に使用するNF膜に応じて,加圧や減圧の程度を変えることで,保持液量(ナノろ過濃縮乳)と透過液量の比率は変わる。ナノろ過によって得られる保持液(NF濃縮乳)には,通常,原料乳の全固形分(TS:total−solids)が1.5〜2.5倍,好ましくは1.6〜2.2倍,より好ましくは1.7〜2.1倍,更に好ましくは1.8〜2倍の範囲内(例えば,約2倍)で濃縮されている。具体的に,ナノろ過濃縮乳(全脂濃縮乳)の全固形分を例えば,20重量%以上35重量%以下,好ましくは21重量%以上30重量%以下,より好ましくは22重量%以上28重量%以下,更に好ましくは23重量%以上26重量%以下(例えば,約26重量%)とすることができる。
【0031】
ナノろ過によって得られる保持液には,原料乳の全固形分(TS)のうち,乳脂肪(FAT)と,主要な無脂乳固形分(SNF)であるタンパク質,乳糖に加えて,ビタミン類と塩類の一部が濃縮されている。ここで,本明細書では,ナノろ過によって得られた濃縮乳をナノろ過濃縮乳ともいう。ナノろ過によって得られた透過液には,原料乳の水分の多くと,水溶性のビタミン類と塩類の一部(特に1価のイオン)が含まれている一方,原料乳の全固形分が殆ど含まれていないこととなる。ここで,ビタミン類や塩類とは,ビタミンA,B1,B2,ナイアシン等や,ナトリウム(Na),カリウム(K),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),塩素(Cl),リン(P)等の無機質の総称である。
【0032】
ナノろ過する前に,NF膜を透過しない電解質を原料乳に添加することは,本発明の好ましい態様である。NF膜を透過しない電解質を添加することにより,脱塩を促進できることがある。NF膜を透過しない電解質には,例えば,乳脂肪,ミルクカゼイン,ホエイタンパク質,乳糖,ビタミン類,塩類等がある。
【0033】
遠心分離工程は,濃縮乳を遠心分離してクリームを得るための工程である。遠心分離工程では,通常,遠心分離機を用いて,濃縮乳を遠心分離し,クリームと脱脂乳に分離する。クリームは乳脂肪を多く含み,脱脂乳は乳脂肪を殆ど含まない。遠心分離機は既に知られているもので良く,遠心分離の処理条件は,クリームや脱脂粉乳などの製造において公知の条件を適宜採用することができる。
【0034】
ただし,本発明では,クリームと脱脂乳に遠心分離される従来の原料乳に比べて,遠心分離される濃縮乳が無脂乳固形分を多く含んでいるため,遠心分離の処理条件は幾らか異なる可能性がある。具体的には,遠心分離される濃縮乳が無脂乳固形分を多く含むことで,クリームと脱脂乳の比重差が大きくなれば,クリームと脱脂乳を分離しやすくなる。遠心分離の際に,その処理温度として,例えば,30℃以上80℃以下であれば良く,クリームやバターの風味の観点等から35℃以上70℃以下であれば更に良く、40℃以上60℃以下であれば特に良い。
【0035】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,フレッシュクリームの製造工程に,第1のナノろ過処理工程で得られたナノろ過濃縮乳に水分を加えて希釈する希釈工程と,第2のナノろ過処理工程を更に含むことができる。すなわち,希釈工程は,第1のナノろ過処理工程で得られたナノろ過濃縮乳に水分を加え,ナノろ過乳を得るための工程である。例えば,ナノろ過濃縮乳に水分を加えて,ろ過前の乳等の量となるまで希釈し,ナノろ過乳を得ることができる。第2のナノろ過処理工程は,ナノろ過膜を用いて,希釈工程で得られたナノろ過乳を濃縮し,脱塩濃縮乳を得る工程である。
【0036】
第1のナノろ過処理工程では,例えば,原料乳の塩類(塩分)の濃度が高い場合,脱塩処理を行っても,十分に塩類が低減されないことがある。この場合,実際に製造されたフレッシュクリームの塩類の濃度が所望の濃度まで低下しない。そこで,一度ナノろ過処理したナノろ過濃縮乳を,水等で希釈した後に,再度ナノろ過処理することで,十分に脱塩処理を行うことができる。このことにより,ナノろ過濃縮乳は十分に脱塩されて,フレッシュクリームの塩類の濃度を所望の濃度まで低くすることができる。
【0037】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,原料乳として,乳原料を遠心分離することで得られる脱脂乳成分を用いることができる。ここでは,第1のナノろ過処理工程は,脱脂乳成分に対して,脱脂乳成分に含まれるナトリウムの残存率を35%以上70%以下とする脱塩処理を行い,脱塩脱脂濃縮乳を得るための工程である。また,遠心分離工程は,乳原料を遠心分離することで得られるクリーム成分と,脱塩脱脂濃縮乳との混合物を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための工程である。
【0038】
なお,原料乳とは,第1のナノろ過処理工程で処理される出発原料である。そして,乳原料とは,遠心分離することで,脱脂乳成分とクリーム成分とに分離することができる原料である。乳原料は,生乳であっても良いし,均質化していない牛乳等であっても良い。ここでは,乳原料から得られた脱脂乳成分は,原料乳として,第1のナノろ過処理工程の出発原料となる。脱脂乳成分に含まれる塩類を低減するために,脱脂乳成分はナノろ過処理され,脱塩脱脂濃縮乳となる。脱塩脱脂濃縮乳は乳原料に由来するクリーム成分と混合され,その混合物を遠心分離することで,フレッシュクリームが得られる。原料乳の脱脂乳成分のみで脱塩処理を行うことで,比較的に粒子径の大きな乳脂肪成分等の低減下や非存在下において,処理流体を低減した上で,ナノろ過処理することができる。そのため,ナノろ過膜の汚れや目詰まり(ファウリング)の抑制やナノろ過膜の面積の低減を期待できるため,効率的なナノろ過処理が可能となる。
【0039】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,第1のナノろ過処理工程は,ナノろ過膜を用いて透析ろ過処理する工程とすることもできる。透析ろ過(DF)は,ろ過して濃縮した乳等(保持液)に水分を加えて希釈し,ろ過前の乳等の量の近くに乳等の量(保持液量)を戻した上で,更にろ過する方法や,ろ過して濃縮している最中の乳等(保持液)に水分を加えて希釈しながら,更にろ過する方法である。本発明では,透析ろ過として,例えば,ナノろ過によって得られた濃縮乳(ナノろ過濃縮乳)に水分を加えて希釈した後に,更にナノろ過する方法や,ナノろ過によって得られる濃縮乳(濃縮の途中の乳等)に水分を加えて希釈しながら,更にナノろ過する方法である。
【0040】
そして,このナノろ過膜を使用した透析ろ過によって原料乳から,保持液(リテンテート:ナノろ過濃縮乳)と透過液(パーミエート)が得られることとなる。実際に使用するNF膜に応じて,加圧や減圧の程度を変えることで,保持液(ナノろ過濃縮乳)量と透過液量の比率は変わる。ナノろ過によって得られるナノろ過濃縮乳には,通常,原料乳の全固形分(TS:total−solids)が1.5〜2.5倍,好ましくは1.6〜2.2倍,より好ましくは1.7〜2.1倍,更に好ましくは1.8〜2倍の範囲内(例えば,約2倍)で濃縮されている。具体的に,ナノろ過濃縮乳(全脂濃縮乳)の全固形分を例えば,20重量%以上35重量%以下,好ましくは21重量%以上30重量%以下,より好ましくは22重量%以上28重量%以下,更に好ましくは23重量%以上26重量%以下(例えば,約26重量%)とすることができる。ナノろ過膜を用いて透析ろ過処理することで,ナノろ過膜を用いて単独で膜処理(一度だけナノろ過処理)して脱塩処理する場合に比べて,脱塩率を向上させることができる。このことにより,フレッシュクリームの塩類の濃度等を所望の濃度に調製することが容易となる。
【0041】
ナノろ過膜を使用した透析ろ過によって得られる保持液には,原料乳の全固形分(TS)のうち,乳脂肪(FAT)と,主要な無脂乳固形分(SNF)であるタンパク質,乳糖に加えて,ビタミン類と塩類の一部が濃縮されている。ここで,本明細書では,ナノろ過によって得られた濃縮乳をナノろ過濃縮乳ともいう。ナノろ過によって得られた透過液には,原料乳の水分の多くと,水溶性のビタミン類と塩類の一部(特に1価のイオン)が含まれている一方,原料乳の全固形分が殆ど含まれていないこととなる。ここで,ビタミン類や塩類とは,ビタミンA,B1,B2,ナイアシン等や,ナトリウム(Na),カリウム(K),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),塩素(Cl),リン(P)等の無機質の総称である。
【0042】
ナノろ過膜を使用して透析ろ過する前に,NF膜を透過しない電解質を原料乳に添加することは,本発明の好ましい態様である。NF膜を透過しない電解質を添加することにより,脱塩を促進できることがある。NF膜を透過しない電解質には,例えば,乳脂肪,ミルクカゼイン,ホエイタンパク質,乳糖,ビタミン類,塩類等がある。
【0043】
本発明の第1の側面の好ましい態様では,第1のナノろ過処理工程の後に,逆浸透ろ過処理工程と,脱塩乳取得工程と,脱塩濃縮乳を得る工程とを更に含み,その後に遠心分離工程を含むものである。逆浸透ろ過処理工程は,第1のナノろ過処理工程で得られた透過液に逆浸透ろ過処理を行い,逆浸透膜の透過液を得るための工程である。脱塩乳取得工程は,第1のナノろ過処理工程で得られたナノろ過濃縮乳に,逆浸透膜の透過液及び水分のいずれか又は両方を加え,脱塩乳(脱塩希釈乳)を得るための工程である。遠心分離工程は,脱塩濃縮乳を遠心分離することで,フレッシュクリームを得るための工程である。
【0044】
ナノろ過処理工程あるいはナノろ過膜を使用した透析ろ過処理工程で得られた透過液には,塩類(主に,ナトリウムイオン,カリウムイオン,塩化物イオン)が含まれている。その透過液を逆浸透ろ過処理することで,主に水分のみを得ることができる。こうして得られた水分は,希釈工程で使用することができる。このことにより,NF膜の透過液の再利用が可能となる。
【0045】
本発明のフレッシュクリームの製造方法は,フレッシュクリームの製造に関する公知の工程を適宜含んでも良い。そのような工程には,例えば,原料乳の発酵工程,クリームと発酵乳の混合工程,殺菌工程,冷却工程,及び包装工程がある。
【0046】
本発明の第2の側面は,ホイップクリームの製造方法に関する。この方法は,上記した,いずれかに記載のフレッシュクリームの製造方法により得られたフレッシュクリームを撹拌する工程を含む。このようにして得られたホイップクリームでは,オーバーランを70%以上85%以下で調整することができるし,粘度(粘性)を100mPa・s以上200mPa・s以下で調整することができる。このとき,本発明のフレッシュクリームの製造方法に基づけば,コクや粘性に優れた相対的に低脂肪のホイップクリームを製造できることとなる。
【0047】
本発明のホイップクリームの製造方法は,通常,ミキサーやホイップマシーンを用いて,必要に応じてグラニュー糖等を混合し,フレッシュクリームを撹拌する。ミキサーやホイップマシーンは既に知られているもので良く,ホイップの処理条件は,従来のホイップクリームの製造において公知の条件を適宜採用することができる。
【0048】
本発明の第3の側面は,上記した,いずれかのフレッシュクリームの製造方法により得られたフレッシュクリームに関する。このフレッシュクリームの成分は,脂肪分を20重量%以上55重量%以下,無脂乳固形分を9重量%以上11重量%以下で含み,好ましくは,脂肪分を30重量%以上50重量%以下,無脂乳固形分を9重量%以上10.5重量%以下で含み,より好ましくは,脂肪分を40重量%以上46重量%以下,無脂乳固形分を9.5重量%以上10.5重量%以下で含む。上記した,いずれかの製造方法により得られたフレッシュクリームでは,従来のフレッシュクリームと比べて,無脂乳固形分(SNF)の濃度が高く,乳脂肪の濃度が相対的に低いが,雑味や塩味が少なく,独特なコク味を有するフレッシュクリームである。
【0049】
本発明の第4の側面は,フレッシュクリーム含有食品に関する。この食品は,上記したフレッシュクリームと,pHが1以上5以下の酸性溶液を含むフレッシュクリーム含有食品であって,フレッシュクリーム含有食品を100重量部としたときに,前記のフレッシュクリームが50重量部から90重量部であり,前記の酸性溶液が10重量部から50重量部である。
【0050】
本発明では,pHが1以上5以下の酸性溶液として,例えば,グレープ飲料のような果汁飲料や柑橘系の果汁を含んだ液体や酸味料等がある。この酸性溶液のpHとして,好ましくは2以上5以下,より好ましくは3以上5以下,更に好ましくは3以上5以下であり,酸味を感じる飲食品であることが良い。上記した,いずれかの製造方法により得られたフレッシュクリームでは,コク味が増強されており,酸性溶液と合わせると,酸味を抑制できるようなpH緩衝能を持つため,本発明では,風味や嗜好性が高いフレッシュクリーム含有食品を得ることができる。
【実施例1】
【0051】
全脂乳(固形分13重量%)に対し,ナノろ過(NF)法を用いて,固形分26重量%まで濃縮して全脂濃縮乳を得た(NF全脂濃縮乳)。NF膜として,ダウケミカル社製のN
F−3838/30−FF(NF45)を用いた。このNF全脂濃縮乳を常法に従って,遠心分離と殺菌してフレッシュクリームを得た(NFろ過品(NF45))。NFろ過品の組成は,乳脂肪分45.2重量%,無脂乳固形分9.7重量%であった。
【実施例2】
【0052】
全脂乳(固形分13重量%)に対し,ナノろ過(NF)法を用いて,固形分26重量%まで濃縮して全脂濃縮乳を得た(NF全脂濃縮乳)。このNF全脂濃縮乳に固形分が13重量%になるまで加水し,これに対し,再度,ナノろ過(NF)法を用いて,固形分26重量%まで濃縮して全脂濃縮乳(DF全脂濃縮乳)を得た。さらに,このDF全脂濃縮乳を常法に従って,遠心分離と殺菌してフレッシュクリームを得た(DFろ過品(DF45))。DFろ過品の組成は,乳脂肪分44.3重量%,無脂乳固形分9.8重量%であった。
【0053】
[比較例1]
全脂乳(固形分13重量%)から一般的なフレッシュクリーム(脂肪分45重量%)を調製した(対照品(FC45))。FC45の組成は,乳脂肪分45.2重量%,無脂乳固形分4.1重量%であった。
【0054】
[試験例1]
実施例1及び実施例2で得たフレッシュクリームと比較例で得たフレッシュクリームについて,それぞれの物性を評価・比較した。ホイップ時間は,卓上ミキサー(マイスター5,DITO SAMA 社(フランス)製)の専用ボウルに,クリーム:900g,グラニュー糖:63gを充填し,開始温度を5℃,ダイアルを6で攪拌(混合)しながら,針入度が280〜310になるまでの時間を測定した。オーバーランは,専用プラスチック製容器(内容量:95.09ml,重量:5.53g)に,ホイップクリームを擦り切り一杯で充填し,その重量を秤量計(ELECTERIC READING BALANCE,島津製作所製)にて測定し,液状のクリームの容量・重量と比較して算出した。針入度は,針入度試験器(丸菱科学機械製作所製)の専用容器に,ホイップクリームを擦り切り一杯で充填し,専用軸(所定の重量)を自由落下させて測定した。粘度(測定温度:5℃)は,専用トールビーカー(内容量:200ml)に,クリーム:200mlを分注して,粘度計(DIGITAL VISCOMETER,TOKIMEC製)で,ローター:No.2を使用しつつ,30秒間で撹拌(回転)させてから自動的に停止させて測定した。その結果を表1に示す。実施例1及び実施例2で得たフレッシュクリームでは,比較例で得たフレッシュクリームに比べて,オーバーランが低下した。このことから,本発明では,従来のフレッシュクリームと脂肪濃度を同程度に設計し,かつ無脂乳固形分濃度を高めに設計したフレッシュクリームでも,オーバーランが低下することが想定された。
【0055】
【表1】
【0056】
[試験例2]
実施例1及び実施例2で得たフレッシュクリームと比較例で得たフレッシュクリームについて,それぞれの香気成分を分析・比較した。香気成分は,固相マイクロ抽出法(SPME法)の捕集操作とGC/MSの分析を併用して得られたピーク面積値により評価した。
【0057】
香気成分の評価プロトコルは,以下の通りであった。
(1)試料(重量:2.5g)と飽和食塩水(重量:7.5g)を
バイアルビン(容量:20mL)に採取し、密閉する。
(2)バイアルビンを 加温(60℃、40min)する。
(3)バイアルビンのヘッドスペースに存在する「香気成分」を
固相マイクロファイバー(CAR/DVB/PDMS)により抽出する。
(4)GC/MS(カラム:DB−WAX)の分析により、クロマトグラムを得る。
(5)クロマトグラムにあるピークのマススペクトルをNISTマススペクトルライブラリと照合して、香気成分を定性する。
(6)香気成分の主要なフラグメントイオンのピーク面積を検出量とする。
【0058】
その結果を表2に示す。実施例1及び実施例2で得たフレッシュクリームでは,比較例で得たフレッシュクリームに比べて,遊離脂肪酸類の検出値が増加した。このことから,本発明では,相対的に低脂肪含量でありながら,従来の高脂肪含量のフレッシュクリームに相当する乳風味やコク味を感じるような香味を呈していると考えられる。さらに,実施例2で得たフレッシュクリームでは,比較例で得たフレッシュクリームに比べて,硫黄化合物類やラクトン類の検出値が減少した。なお,実施例1で得たフレッシュクリームでは,比較例で得たフレッシュクリームに比べて,硫黄化合物類やラクトン類の検出値は減少していなかった。このことから,実施例2で得たフレッシュクリームでは,実施例1又は比較例で得たフレッシュクリームに比べて,雑味が少なくなっていると考えられる。
【0059】
【表2】
【0060】
[試験例3]
実施例1(及び実施例2)で得たフレッシュクリームと比較例で得たフレッシュクリームについて,それぞれのpH緩衝能を評価・比較した。pH緩衝能は,フレッシュクリームの200mlに,グレープ飲料(pH=3.43)を各容量で添加し,pHを測定して評価した。その結果を表3に示す。実施例1(及び実施例2)で得たフレッシュクリームでは,比較例で得たフレッシュクリームに比べて,グレープ飲料の添加量の増加に伴うpHの低下が緩やかであった。このことから,実施例1(及び実施例2)で得たフレッシュクリームでは,比較例で得たフレッシュクリームに比べて,乳風味やコク味が増強されており,酸味を感じる食品(酸性溶液)と合わせると,酸味を抑制できるようなpH緩衝能を持っていることが分かった。
【0061】
【表3】
【0062】
[試験例4]
実施例1で得たフレッシュクリームと比較例で得たフレッシュクリームについて,専門パネル(18名)による官能評価を実施した。このとき,比較例と同程度のものは0点,(やや強い)1点,(強い)2点,(とても強い)3点というように点数を付けて集計した。その結果を表4に示す。表4の結果をまとめたものを
図1に示す。実施例1で得たフレッシュクリームと比較例で得たフレッシュクリームを官能評価した場合,甘味の程度と脂肪感の程度の各項目において有意な差があり,実施例1で得たフレッシュクリームが高く評価されており,風味的に優れているといえる。さらに,濃厚感の程度,乳風味の程度,総合評価の各項目において,実施例1で得たフレッシュクリームが高く評価されており,風味的に優れているといえる。
【0063】
【表4】
【0064】
[試験例5]
試験例1と同様にして,実施例2で得たフレッシュクリームと比較例で得たフレッシュクリームについても,専門パネル(18名)による官能評価を実施した。その結果を表5に示す。表5の結果をまとめたものを
図2に示す。実施例2で得たフレッシュクリームと比較例で得たフレッシュクリームを官能評価した場合,甘味の程度,飲用前の乳香,総合評価,濃厚感の程度,乳風味の程度の各項目において有意な差があり,実施例1で得たフレッシュクリームが高く評価されており,風味的に優れているといえる。さらに,脂肪感の程度の項目において,実施例1で得たフレッシュクリームが高く評価されており,風味的に優れているといえる。
【0065】
【表5】