【実施例1】
【0043】
[装置構成]
図2に実施例1における嚥下シミュレーション装置100Aの構成例を示す。実施例1では、評価者が食品の入力を行い、動画像を見て嚥下評価を行なう例を説明する。
【0044】
嚥下シミュレーション装置100Aは、口腔器官からなる口腔モデルを形成する口腔モデリング部10と、口腔モデルにおける各口腔器官の器官特性を設定する器官特性設定部20と、口腔モデルにおける各口腔器官の運動を設定する器官運動設定部30と、解析対象としての食品及びその物性を設定する食品物性設定部40と、食品をモデル化した擬似食品を口腔に入力する入力部81と、口腔器官モデルにおける各口腔器官の運動と擬似食品の嚥下時の挙動を、粒子法を用いて解析する運動解析部50と、運動解析部50で解析された各口腔器官の運動と擬似食品の嚥下時の挙動の解析結果を動画面に表示する表示部82と、評価結果に基づいて適正とされる食品等の物性を決定する物性決定部70と、嚥下シミュレーション装置100A及びその各部を制御して、嚥下シミュレーション装置100Aとして機能させる制御部90と、口腔モデル、器官特性、設定条件、解析結果、評価結果を記憶する記憶部83とで構成される。このうち、口腔モデリング部10、器官特性設定部20、器官運動設定部30、食品物性設定部40、運動解析部50、物性決定部70、制御部90はパーソナルコンピュータPCで実現でき、パーソナルコンピュータPC内に設けられる。評価者は表示部82の動画面を観察して評価を行ない、評価結果を入力部81から入力する。入力された評価結果は記憶部83の評価結果記録部83Bに記録される。なお、本発明では人(例えば評価者)が物性決定を行なう態様も可能である(実施例4参照)。
【0045】
図3に口腔モデル11の例を示す。
図3(a)に当該モデルにおける可動部分を、
図3(b)に当該モデルにおける舌15の移動壁18(蠕動運動を行なう)部分を示す。本実施例では移動壁18が4個で蠕動運動を行なう例を示す。口腔モデリング部10は、口腔壁12、食道13(入口部分を示す)、気道14(入口部分を示す)、舌15、軟口蓋16、喉頭蓋17等の口腔器官からなる口腔モデル11を形成する。各口腔器官の器官特性(剛体、弾性体、塑性体、粘性体、粉体、流動体等の分類、及び弾性率、粘度等の物性は、器官特性設定部20で設定される。簡単のため、舌15、軟口蓋16、喉頭蓋17、食道入口13を弾性体とし、他は剛体とした。口腔器官の運動(往復運動、回転運動,蠕動運動等)は器官運動設定部30で設定される。簡単のため、舌15の運動を蠕動運動で表し、軟口蓋16、喉頭蓋17は付け根の往復運動と付け根の回りの回転運動で表し、食道13の入口部分は食道13の中心軸と直角方向への往復運動で表すこととした。なお、蠕動運動に代えて波動運動を用いることも可能である。
【0046】
ここで
図2に戻る。嚥下シミュレーションの対象として、食品の他に医薬品、医薬部外品(「食品、医薬品又は医薬部外品」を「食品等」という)を扱うことが可能である。食品物性設定部40は食品等が液体であれば、液量・粘度・表面張力・比重等の物性を、食品等が固体であれば、形状・寸法・弾性係数・引っ張り強さ・降伏点・降伏点応力・粘度のずり速度依存性・動的粘弾性・静的粘弾性・圧縮応力・破断応力・破断ひずみ・硬度・付着性・凝集性等の物性を、食品等が半固体(可塑性があるが、流動性はない)であれば、量・粘度・比重・降伏点・降伏点応力・粘度のずり速度依存性・動的粘弾性・静的粘弾性・圧縮応力・付着性・凝集性等の物性を設定する。
【0047】
入力部81は、マウス、キーボード等の入力機器で構成され、投入すべき擬似食品を口腔内に投入する。例えばマウスを口腔内にドラッグし、擬似食品の口腔内への投入位置は例えば口腔内で歯の近傍(例えば擬似食品の長さの1/2以内)とし、ドラッグ直後の時間を投入時間とする。
【0048】
運動解析部50では、口腔器官の運動に伴う擬似食品の嚥下時の挙動を解析する。舌15の蠕動運動と軟口蓋16、喉頭蓋17は付け根の往復運動と付け根の回りの回転運動で表し、食道入口13の往復運動により、口腔内部に投入された食品等が動かされる。食品等の動きは粒子法により解析される。食品等は固体・半固体・液体のいずれでも粒子として取り扱われる。
【0049】
表示部82は食品等の挙動の解析結果を動画面に表示する。動画像の1コマを静止画像として表示することも可能であり、時間を逆に辿り巻き戻し表示することも可能である。
記憶部83は、口腔モデル、器官特性、設定条件、解析結果、評価結果等を記憶する。
【0050】
評価は評価者が表示部82の動画面を見て行なう。例えば表示部82に表示された評価表のセルに○×、ランク、点数等を入力する。評価結果は評価結果記録部83Bに記録される。食品物性設定部40で食品等の物性値を変化させて評価を行なうことにより、食品等の適正な物性値を求めることができる。物性決定部70は、評価結果記録部83Bに記録された評価結果に基づいて適正とされる食品等の物性を自動的に決定する。物性数は単数でも複数でも良い。適正な物性は例えば、適正な範囲のマップを作成して示しても良く、適正な範囲を複数のレベルに分けて(ランクA〜ランクC等)示しても良く、複数の点を示しても良く、最適な1点を示しても良い。求めるべき物性が多数の時には、多次元の主成分分析を用いて、適正な物性の範囲を求めても良い。
【0051】
制御部90は、嚥下シミュレーション装置100A及びその各部を制御して、嚥下シミュレーション装置100Aとして機能させる。制御部83は内蔵メモリに嚥下シミュレーター(解析用ソフトウェア)を保有する。
【0052】
[嚥下シミュレーター]
嚥下シミュレーターは汎用の2次元粒子法解析ソフト「Physi−Cafe」(Prometech Software社製)を用いて作成した。本解析ソフトは流体の物性値や時間などを数値として直接入力は出来ないものの、それぞれの無次元化された物理量を適宜変えることができ、定性的な解析を簡素化して高速で行える特長を有する。
【0053】
図3(a)に口腔モデル11における可動部分を、
図3(b)に当該モデルにおける舌15の移動壁18(蠕動運動を行なう)部分を示す。このモデルでは、簡略化のため、可動部分は、舌15、軟口蓋16、喉頭蓋17、食道13入口の4箇所のみとした。蠕動運動によって食塊を後方へ移送する仕組みは、弾性体である舌15の中に4つの移動壁18を埋め込み、同じ周期で振動幅を変え、位相をずらした運動を行なわせることにした。このモデルでは弾性体として設定した移動壁18は4個とした。1個では蠕動運動にならず、2個ではぎこちなく、3個以上でスムーズな蠕動運動を表現できる。5個以上では計算の負荷が大きくなる一方、自然さは3個又は4個の場合と大差ない。よって、3個又は4個の場合が好適である。これによって、弾性体(舌)が自ら変形しているような模擬動作を可能とし、通常の解析では非常に困難である弾性体の強制変形を表現することができた。この点は数値解析(シミュレーション)を行う上では特徴的な扱いである。また
図3(b)に示すように、擬似食品及び舌15は液体、固体を問わず、すべて粒子で構成している。
【0054】
表1に可動部分の運動を示す。移動量は関数で変位や角度を与えていることが大きな特徴になっている。特に周期的な関数を利用することで連続したシミュレーションが可能である。表1のA〜Dは移動壁であり、
図3(b)で左からA,B,C,Dの順に配置されている。
【表1】
【0055】
各器官の移動量は表1内の式及びそのパラメータを変えることで容易に変更できる。具体的には正弦関数の振幅を変えることで移動量を調整でき、周期や位相を変えることで移動の速さやタイミングを調整できる。各部の調整の自由度が高い点も本シミュレーターの特徴である。
【0056】
[解析事例1]
図4に水(粘度1mPa・sを想定)41を模擬した嚥下数値実験の解析例を示す。ここで、1回の嚥下にかかった解析時間(25sec)を実際の嚥下現象(今回の解析では口に入れてから1secで嚥下動作を完了すると定義)で除した無次元嚥下時間をt
ndと示す。
【0057】
t
nd=0で舌15の上にあった液体(水)41は、t
nd=0.24では舌15と軟口蓋16の間に保持される。t
nd=0.36では軟口蓋16が後方へ移動・回転しながら、液体41が通過するスペースを作る一方で、鼻腔からの通路を塞いでいる様子がわかる。t
nd=0.48では液体41が喉頭蓋17で蓋をされた気道14に入ることなく、食道13に流れている様子がわかる。t
nd=0.6では喉頭蓋17が上昇する際には周囲に水41がなく、誤嚥・誤飲することはないことがわかる。この結果からこれまでの解析手法(格子法)では困難であった自由表面を伴う複雑な流体の挙動を粒子法で表現できていることも合わせて確認できる。
【0058】
[解析事例2]
図5に付着性が高い餅42などの食塊を嚥下する際のシミュレーション結果を示す。今回開発したシミュレーターの基本になっている解析ソフトは、粘着性などの物性値は絶対値ではなく、ある標準的な物体の物性値との相対値として扱われているため、本シミュレーションでは、口蓋に付着する程度の粘着性を持たせるように、粘着性を適当に変化させて(約600〜2300J/m
3)解析を行った。t
nd=0で舌15の上にあった粘着性食塊42は、t
nd=0.24では口蓋壁12(硬口蓋)に張り付き、後方への流動はみられない。t
nd=0.36では舌15の蠕動運動にもかかわらず、食塊42は口蓋に付着したまま延伸されている様子がわかる。t
nd=0.48では喉頭蓋17で蓋をされているものの、食塊42は軟口蓋16に付着しており、出てこない様子がわかる。最後にt
nd=0.6においても粘着性の食塊42は軟口蓋16にしっかりと付着している。
【0059】
図6に、粘着性の食塊42が軟口蓋16付近に閉塞している状態から、すすぎ用の液体(水を想定)43を口に含ませ、閉塞している食塊42を洗い流す様子をシミュレーションした結果を示す。t
nd=0.36から口に含んだすすぎ水43が喉頭に流入するが、t
nd=0.48においても粘着性食塊42は喉頭蓋17に残り、1回のすすぎでは洗い流すことが困難である様子が確認できる。実現象と同様に、粘着性が高い食塊のすすぎは複数回必要であることが本シミュレーターでも確認できた。
【0060】
このように、本シミュレーターは粘度、粘着性、表面張力などが異なる液体、固体、半固体状態の食塊・流体の2以上を連成させて解けることがわかる。自由表面を持ち、かつ異なる物性の液体−液体、液体−固体、固体−固体の連成解析はこれまで非常に困難であったが、粒子法を用いることで容易に定性的な解析が可能になった。
【0061】
[解析事例3]
図7に、ゼリーなどのある一定の力が加わると破壊する食塊44を嚥下する際のシミュレーション結果を示す。ここで、食塊44の硬さは基準食塊との相対的な比率である、相対弾性率を用いて表す。嚥下直前の食塊44の形はすべて共通とした。
【0062】
図7(o)に嚥下直前の状態を示す。
図7(a)に食塊44の相対弾性率が低い(相対弾性率=1)場合を示す。食道13に入る瞬間に食塊44は食道13の形状にそって変形し流れて行くことが分かる。
図7(b)に相対弾性率が中程度(相対弾性率=2)の場合を示す。食道13の形に変形しきれず、はみ出した食塊44が食道13と喉頭蓋17とに挟まれ千切れていく瞬間を捉えている。千切れた食塊44が気道14に入ると誤嚥・誤飲となる。つまりある程度柔らかくても、食道13に入る大きさに変形できない限り、誤嚥・誤飲のリスクがあると考えられる。
図7(c)に相対弾性率が高い(相対弾性率=4)の場合を示す。相対弾性率が高い食塊44であることから、形状がほとんど変形せず、喉頭蓋17での閉塞、もしくは気道14への流入が推定できた。
【0063】
実現象においてもこんにゃくゼリーでの窒息事故の経験などから、窒息事故を防ぐために、製品の大きさや硬さは重要であることがわかっている。今回のシミュレーション結果でも同様の傾向が得られていることから考え、粒子法を用いた本シミュレーターはゼリー様の食塊の嚥下シミュレーションにも利用できる可能性が示唆された。
【0064】
[解析事例4]
人体のいくつかの機能低下は誤嚥・誤飲を引き起こす可能性があると考えられる。そこで、人体のいくつかの機能低下について模擬検討を行った。
【0065】
表2には喉頭蓋17の移動が遅くなった場合のシミュレーション条件を示した。具体的には喉頭蓋17の回転方向の振幅を小さく(半分に)した。
【表2】
【0066】
図8に喉頭蓋17の移動が遅くなった場合のシミュレーション結果を示す。
図4との比較からわかるように、
図4ではt
nd=0.48において、喉頭蓋17は完全に気道14に「フタ」をして液体41の気道14への流入を防いでいるが、機能制限を行った
図8では喉頭蓋17が機能せず、ほとんどの水41が気道14へ誤飲されていることが確認できる。
【0067】
表3に食道13入口部分の移動量が少なかった場合の解析条件を示した。具体的には食道13と気道14を仕切る食道壁の移動速度を遅く(半分に)した。
【表3】
【0068】
図9にシミュレーション結果を示した。
図4との比較からわかるように、
図4ではt
nd=0.48において、喉頭蓋17は完全に気道14に「フタ」をして液体41の気道14への流入を防いでいるのに対し、機能制限を行った
図9では喉頭蓋17が完全に気道14を塞ぐことが出来ず、流入してくる水41の半分が気道14へ誤飲(誤吸気)されていることが確認できる。
このように、誤嚥・誤飲を起こす機能低下についても簡単な設定変更で模擬検証が行える。
【0069】
以上のように、本シミュレーターによれば、様々な食品等の嚥下時の挙動の解析が可能である。定量的な検討には3次元解析が必要であるが、2次元でも3次元でもこれらの嚥下現象を解明する点において粒子法はすぐれている。この点が粒子法を嚥下シミュレーターに用いる際のメリットである。
【0070】
図10に実施例1における嚥下シミュレーション方法の処理フロー例を示す。まず、口腔器官からなる口腔モデル11を形成する(S010:口腔モデリング工程)。次に、口腔モデル11における各口腔器官の器官特性を設定する(S020:器官特性設定工程)。次に、口腔モデル11における各口腔器官の運動を設定する(S030:器官運動設定工程)。次に、解析対象としての食品等及びその物性を設定する(S040:食品物性設定工程)。これらの設定内容は状況に応じて自由に選定できる。設定内容は記憶部83に記憶される。次に、食品をモデル化した擬似食品41〜44を口腔に入力する(S050:入力工程)。入力は例えば評価者がマウスでカーソルを口腔内にドラッグして行う。次に口腔器官モデル11における各口腔器官の運動と擬似食品41〜44の嚥下に係る挙動を、粒子法を用いて解析する(S060:運動解析工程)。例えばMSP法を使用できる。次に、運動解析工程(S060)で得られた解析結果を表示する(S070:表示工程)。次に、嚥下時の擬似食品41の挙動の解析結果から、食品の食べ易さ及び/又は飲み易さの評価を行う(S080:評価工程)。評価は評価者が表示部82の動画面を見て行なう。例えば表示部82に表示された評価表のセルに○×、ランク、点数等を入力する。評価を行なったら、食品物性設定工程(S040)に戻り、食品の物性を変更して設定し、それ以降の評価工程までを繰り返し行う。変更すべき物性値は評価者の判断で自由に選択できる。尤も1回目で適性な物性が見出されれば、その後の設定と評価を省略しても良い。次に、評価工程(S080)にて適正とされた食品の物性を決定する(S090:物性決定工程)。ここでは、適正な物性の範囲を示しても良く、適正な物性をランク分けしても良く、最適値を選定しても良い。
【0071】
評価項目は、例えば次のようである。
(a)嚥下・誤嚥・誤飲リスク(口蓋壁等に付着して剥れ難い、咽喉や食道を塞ぐ、気道に入る)が有るか否か、
(b)嚥下時間がどの位か、閾値を超えるか、
(c)咽喉壁にかかる応力、およびせん断応力がどの位か、閾値を超えるか、
(d)(a)〜(c)に基づき、別にデータ取得した官能評価(美味しい、爽快感等)との相関性を考慮して、総合的に飲み易さ・食べ易さ、飲み難さ・食べ難さを評価する。
【0072】
以上説明したように、本実施例によれば、口腔モデル11について、器官特性、口腔器官の運動、食品の物性を設定し、粒子法を用いて食品の挙動を解析するので、嚥下に関する実現象を再現することが容易な嚥下シミュレーション装置及び嚥下シミュレーション方法を提供できる。
【実施例2】
【0073】
実施例1では、評価者が食品の入力を行い、動画像を見て嚥下評価を行なう例を説明したが、実施例2では、嚥下シミュレーション装置が設定に基づいて食品の入力を自動的に行ない、嚥下シミュレーション装置が自動的に嚥下評価を行なう例を説明する。実施例1と異なる点を主に説明する(以下の実施例についても同様に異なる点を主に説明する)。
【0074】
図11に実施例2における嚥下シミュレーション装置100Bの構成例を示す。実施例1(
図2参照)に比して、パーソナルコンピュータ(PC)内に、自動的に食品の食べ易さ及び/又は飲み易さを評価する評価部60と、擬似食品の嚥下時の挙動の解析結果を仮想動画面に表示する擬似画面表示部82Aと擬似食品の入力条件を設定する食品入力設定部45が追加され、記憶部83内に評価条件を記憶する評価条件記憶部83Aが追加されている。その他の構成は実施例1と同様である。
【0075】
図12に嚥下シミュレーション方法の処理フロー例を示す。実施例1(
図10参照)に比して、入力工程(S050)の前に食品の入力条件を設定する為の食品入力設定工程(S045)が追加され、表示部83に動画面表示する表示工程(S070)が、擬似画面表示部82Aの仮想動画面に表示する工程(S075)に代わっている。また、評価工程(S080)では、評価部60が自動的に評価する。その他の工程は実施例1と同様である。
【0076】
実施例2では、食品入力設定部45に予め食品の投入位置と投入タイミングを設定しておく(S045:食品入力設定工程)。擬似食品の口腔内への投入位置は例えば口腔内で歯の近傍(例えば擬似食品の長さの1/2以内)とする。次に設定条件(場所、タイミング)に従って口腔内に擬似食品が投入される(S050:食品入力工程)。また、自動評価する場合には、予め評価条件を評価条件記憶部83Aに記憶しておき、パーソナルコンピュータPC内の擬似画面表示部82Aの仮想動画面にシミュレーションの解析結果としての口腔モデル11と擬似食品41の挙動を表示して、評価部60にて、擬似画面表示部82Aの表示を評価条件記憶部83Aの評価条件と照合することにより、評価を行なう。
【0077】
評価項目は、例えば次のようである。
(a)嚥下・誤嚥・誤飲リスク(口蓋壁等に付着して剥れ難い、咽喉や食道を塞ぐ、気道に入る)が有るか否か、
(b)嚥下時間がどの位か、閾値を超えるか、
(c)咽喉壁にかかる応力、およびせん断応力がどの位か、閾値を超えるか、
(d)(a)〜(c)に基づき、別にデータ取得した官能評価(美味しい、爽快感等)との相関性を考慮して、総合的に飲み易さ・食べ易さ、飲み難さ・食べ難さを評価する。(a)〜(c)と官能評価をそれぞれ数値化しておき、それぞれ重み係数を掛けて合計数で自動的に総合評価する。なお、(c)及び官能評価を省略しても良い。
【0078】
その他の構成及び処理フローは実施例1と同様であり、実施例1と同様に、嚥下に関する実現象を再現することが容易な嚥下シミュレーション装置及び嚥下シミュレーション方法を提供できる。
【0079】
また、入力と評価の一方を人手で、他方をコンピュータで行なう場合でも、同様に実施可能であり、同様の効果を奏する。
【実施例5】
【0082】
[診断支援]
本実施例では本発明による嚥下シミュレータを嚥下診断の支援に適用する例を説明する。
【0083】
図15に本実施例における嚥下シミュレーション装置100Cの構成を示す。実施例1(
図2参照)の嚥下シミュレーション装置100Aに器官運動決定部75及び決定器官運動条件記録部83Eが追加され、器官特性設定部20が削除されている。また、器官運動設定部30がより多く使用される。器官運動設定部30では、嚥下運動に関連する各口腔器官の運動特性を設定するが、例えばオトガイ舌筋やその他の嚥下に関連する筋肉の反応速度、収縮と弛緩のタイミング、収縮距離、弾力性(しなやかさ)等を運動パラメータとして設定し、器官運動決定部75では、シミュレーションの結果から、すなわち、運動解析部50で解析された解析結果から、各口腔器官の器官運動パラメータを決定する。例えば、舌の進行波的波動運動が遅くなれば、嚥下に到るまでの時間がかかる。喉頭蓋17の反応が遅れれば、食品等が喉頭を経て気道14に入り込み、誤嚥が生じるおそれがある。これにより、患者や健康診断の被診断者の各口腔器官の挙動や症状に良く合う各口腔器官の器官運動パラメータを求めることができる。決定器官運動条件記録部83Eには、器官運動決定部75で求められた器官運動パラメータが記録される。
【0084】
そして、口腔モデル11と嚥下シミュレーションの結果から、患者や健康診断対象者について、嚥下に関して機能が低下した筋肉がないか等の診断を行ない、治療に役立てることができる。なお、診断では、食品等の物性より器官機能を重視するので、物性についてはループ処理行わずに固定としても良い。かかるシミュレーション装置を嚥下診断支援装置に組み込むことも可能である。例えば、患者や健康診断対象者についての診断結果を保存した医療診断結果データベースを有する嚥下診断支援装置とすれば、医療診断結果データベースに記録された診断結果を嚥下シミュレーション装置100Cの評価結果記録部83Bに記録された評価結果と比較することにより各口腔器官の機能低下した部分を発見して、迅速な診断を進めることも可能になる。この比較は例えば診断結果比較部にて行ない、医師は比較結果を参照して診断結果を更新することも可能である。なお、器官特性設定部20があっても良い。
【0085】
図16に本実施例におけるシミュレーション方法の処理フロー例を示す。実施例1(
図10参照)の嚥下シミュレーション方法に、器管運動パラメータを変化させたループが追加されている。すなわち、物性のパラメータを変えたループ処理の後に、器管運動パラメータを変化させたループ処理が行われる。なお、ここでの物性決定や器官特性決定は、嚥下に適正な物性や器官運動を見出すのではなく、患者や健康診断の被診断者の症状に合う器管運動パラメータを探すループとして使用される。順次パラメータを変えてシミュレーションを行ない、患者や健康診断の被診断者の各口腔器官の挙動や症状に合う物性や器官特性が見出された(器官運動決定工程S096)時点で処理フローを終了する。尤も治療後のパラメータを予測してシミュレーションを継続し、治療の改善効果を求めることもできる。
【0086】
[プログラム]
また、本発明は、以上の嚥下シミュレーション方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータ読み取り可能なプログラムとして、また、当該プログラムを記憶する記憶媒体として実現可能である。プログラムは嚥下シミュレーション装置の制御部に蓄積して使用してもよく、内蔵又は外付けの記憶装置に蓄積して使用してもよく、インターネットからダウンロードして使用しても良い。
【0087】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、実施の形態は以上の例に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加え得ることは明白である。
【0088】
例えば、以上の実施例では、舌の移動壁、軟口蓋、喉頭蓋、食道壁の運動について一例を示したが、運動方程式やパラメータを自由に変更可能である。また上記4つの器官以外、例えば歯に運動を与えることも可能である。このようにすれば嚥下への咀しゃくの影響を反映できる。また、食品は2個までを例示したが、3個以上を連動させて挙動を解析することも可能であり、また、ピーナッツを包んだチョコレートのように異なる物性値を持つ固体同士(固―固)の解析、リキュールを包んだチョコレート(固―液)の解析、さらにドレッシングのような液体同士(オイルと酢)の物性値が異なる(液―液)混合液の解析も可能である。その他、器官や食品を色分け表示するなど、細部を種々変更可能である。