特許第6060319号(P6060319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6060319膜厚制御装置、膜厚制御方法および成膜装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060319
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】膜厚制御装置、膜厚制御方法および成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/52 20060101AFI20161226BHJP
   G01B 21/08 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C23C14/52
   G01B21/08
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-534107(P2016-534107)
(86)(22)【出願日】2015年7月10日
(86)【国際出願番号】JP2015003491
(87)【国際公開番号】WO2016009626
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2016年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-144891(P2014-144891)
(32)【優先日】2014年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】小林 義和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 治郎
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−008164(JP,A)
【文献】 特開2013−011545(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/038085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
G01B 7/00− 7/34
G01B 17/00−17/08
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定し、測定された前記成膜レートに基づいて前記蒸着源を制御する膜厚制御装置であって、
前記振動子の発振周波数に基づいて、単位時間毎のレート換算値を算出するレート算出部と、
前記レート算出部から出力されるレート換算値を平滑化する第1のフィルタ部と、
前記第1のフィルタ部から出力されるレート換算値から異常値を除去する第2のフィルタ部と、
前記第2のフィルタ部から出力されるレート換算値を平滑化する第3のフィルタ部と
を具備する膜厚制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の膜厚制御装置であって、
前記第1のフィルタ部は、移動平均フィルタで構成される
膜厚制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜厚制御装置であって、
前記第2のフィルタ部は、中央値演算フィルタで構成される
膜厚制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の膜厚制御装置であって、
前記第3のフィルタ部は、移動平均フィルタで構成される
膜厚制御装置。
【請求項5】
蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定し、測定された前記成膜レートに基づいて前記蒸着源を制御する膜厚制御方法であって、
前記振動子の発振周波数に基づいて、単位時間毎のレート換算値を算出し、
算出されたレート換算値を平滑化し、
平滑化されたレート換算値から異常値を除去し、
異常値が除去されたレート換算値をさらに平滑化する
膜厚制御方法。
【請求項6】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配置された蒸着源と、
前記真空チャンバの内部に配置され、所定の共振周波数で発振する振動子を有する膜厚センサと、
前記振動子の発振周波数に基づいて単位時間毎のレート換算値を算出するレート算出部と、前記レート算出部から出力されるレート換算値を平滑化する第1のフィルタ部と、第1のフィルタ部から出力されるレート換算値から異常値を除去する第2のフィルタ部と、前記第2のフィルタ部から出力されるレート換算値を平滑化する第3のフィルタ部と、前記第3のフィルタ部から出力されるレート換算値に基づいて前記蒸着源を制御するための制御信号を生成する出力部と、を有する膜厚モニタと
を具備する成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定し、測定された成膜レートに基づいて蒸着源を制御することが可能な膜厚制御装置、膜厚制御方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着装置などの成膜装置において、基板に成膜される膜の厚みおよび成膜速度を測定するために、水晶振動子法(QCM:Quartz Crystal Microbalance)という技術が用いられている。この方法は、チャンバ内に配置されている水晶振動子の共振周波数が、蒸着物の堆積による質量の増加によって減少することを利用したものである。したがって、水晶振動子の共振周波数の変化を測定することにより、膜厚および成膜速度を測定することが可能となる。
【0003】
膜厚センサを備えた蒸着装置においては、測定された蒸着レートをもとに、蒸着源における蒸着材料に対する加熱温度がフィードバック制御される。一般に、膜厚センサは、蒸着材料の突沸(スプラッシュ)やノイズなどの外乱の影響を受けて、出力が瞬間的に大きく変動する場合がある。
【0004】
一方、安定したフィードバック制御を実現するため、膜厚センサの出力を平滑化処理することで、異常値の影響を抑える方法が知られている。例えば特許文献1には、一定時間間隔で水晶振動子の共振周波数を測定し、これら共振周波数に基づいて算出される膜厚の移動平均をとって、膜厚増加量を算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009/038085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の移動平均処理による出力の平滑化では、例えば突沸が1回でも発生すると、そのとき出力される異常値によって平均値全体が上昇する。したがって、従来の平滑化処理においても、異常値が原因で蒸着源へのフィードバック制御が過剰に反応してしまい、結果的に当該制御が乱れる(暴れる)という問題がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、異常値を原因とする蒸着源への過剰フィードバック制御を抑制することができる膜厚制御装置、膜厚制御方法および成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る膜厚制御装置は、蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定し、測定された上記成膜レートに基づいて上記蒸着源を制御する膜厚制御装置であって、レート算出部と、第1のフィルタ部と、第2のフィルタ部とを具備する。
上記レート算出部は、上記振動子の発振周波数に基づいて、単位時間毎のレート換算値を算出するように構成される。
上記第1のフィルタ部は、上記レート算出部から出力されるレート換算値から異常値を除去するように構成される。
上記第2のフィルタ部は、上記第1のフィルタ部から出力されるレート換算値を平滑化するように構成される。
【0009】
上記膜厚制御装置によれば、上記レート算出部から出力される前記レート換算値から異常値を除去する第1のフィルタ部を備えているため、異常値が排除されたレート換算値をもとに第2のフィルタ部における平滑化処理が実行可能となる。これにより異常値を原因とする蒸着源への過剰フィードバック制御を抑制することができる。
【0010】
上記第1のフィルタ部は、異常値を除去できる機能があれば構成は特に限定されず、例えば、上記レート算出部から出力されるレート換算値から代表値を抽出するように構成される。上記代表値は、異常値であるとの蓋然性が低いレート換算値であればよい。典型的には、第1のフィルタ部は、中央値演算フィルタで構成される。サンプル数は特に限定されず、例えば蒸着源へのフィードバック制御に支障を来さない範囲で任意に設定可能である。
【0011】
一方、上記第2のフィルタ部は、平滑化機能を有するフィルタであれば構成は特に限定されず、典型的には、移動平均フィルタあるいは一次ローパスフィルタで構成される。移動平均には、単純移動平均、加重移動平均などが含まれる。サンプル数は特に限定されず、例えば蒸着源へのフィードバック制御に支障を来さない範囲で任意に設定可能である。
【0012】
上記膜厚制御装置は、第3のフィルタ部をさらに具備してもよい。上記第3のフィルタ部は、上記レート算出部から出力される上記レート換算値を平滑化し、平滑化したレート換算値を上記第1のフィルタ部へ出力する。
これにより、レート算出部から出力されるレート換算値に比較的大きな変動がある場合においても、第1のフィルタ部に入力される当該レート換算値の平滑化が可能となるため、測定精度の低下を抑制することができる。
【0013】
第3のフィルタ部は、平滑化機能を有するフィルタであれば構成は特に限定されず、典型的には、第2のフィルタ部と同様な移動平均フィルタあるいは一次ローパスフィルタで構成される。サンプル数は特に限定されず、例えば蒸着源へのフィードバック制御に支障を来さない範囲で任意に設定可能である。
【0014】
本発明の一形態に係る膜厚制御方法は、蒸着源を有する成膜装置に設置された振動子の発振周波数に基づいて成膜レートを測定し、測定された上記成膜レートに基づいて上記蒸着源を制御する膜厚制御方法であって、上記振動子の発振周波数に基づいて、単位時間毎のレート換算値を算出することを含む。
算出されたレート換算値から異常値が除去される。
異常値が除去されたレート換算値は平滑化される。
このように、レート換算値の平滑化処理の前に、レート換算値から異常値を除去することで、異常値を原因とする成膜レートの測定精度の低下を抑制することができる。
【0015】
本発明の一形態に係る成膜装置は、真空チャンバと、蒸着源と、膜厚センサと、膜厚モニタとを具備する。
上記蒸着源は、上記真空チャンバの内部に配置される。
上記膜厚センサは、上記真空チャンバの内部に配置され、所定の共振周波数で発振する振動子を有する。
上記膜厚モニタは、レート算出部と、第1のフィルタ部と、第2のフィルタ部と、出力部とを有する。上記レート算出部は、上記振動子の発振周波数に基づいて単位時間毎のレート換算値を算出するように構成される。上記第1のフィルタ部は、上記レート算出部から出力されるレート換算値から異常値を除去するように構成される。上記第2のフィルタ部は、上記第1のフィルタ部から出力されるレート換算値を平滑化するように構成される。上記出力部は、上記第2のフィルタ部から出力されるレート換算値に基づいて上記蒸着源を制御するための制御信号を生成するように構成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、異常値を原因とする蒸着源への過剰フィードバック制御を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す概略断面図である。
図2】上記成膜装置における測定ユニットの一構成例を示す概略ブロック図である。
図3】膜厚センサから出力される成膜レートの実データの一例を示す図である。
図4】比較例に係る成膜レートの測定方法を説明するフローチャートである。
図5】比較例に係るフィルタを適応して得られたレート出力を示す図である。
図6】上記成膜装置におけるコントローラの構成を示す機能ブロック図である。
図7】中央値演算の一例を説明する図である。
図8】中央値演算の他の例を説明する図である。
図9】本発明の一実施形態に係る成膜レートの測定方法を説明するフローチャートである。
図10】本発明の一実施形態に係るフィルタを用いて得られたレート出力を示す図である。
図11】ステップ応答に対する各種フィルタの特性を比較して説明する図である。
図12】膜厚センサから出力される成膜レートの実データの他の例を示す図である。
図13図12の実データに比較例に係るフィルタを用いて得られたレート出力を示す図である。
図14図12の実データに本実施形態に係るフィルタを用いて得られたレート出力を示す図である。
図15】本発明の他の実施形態に係る成膜レートの測定方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
<第1の実施形態>
[成膜装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す概略断面図である。本実施形態の成膜装置は、真空蒸着装置として構成される。
【0020】
本実施形態の成膜装置10は、真空チャンバ11と、真空チャンバ11の内部に配置された蒸着源12と、蒸着源12と対向する基板ホルダ13と、真空チャンバ11の内部に配置された膜厚センサ14とを有する。
【0021】
真空チャンバ11は、真空排気系15と接続されており、内部を所定の減圧雰囲気に維持することが可能に構成される。
【0022】
蒸着源12は、蒸着材料の蒸気(粒子)を発生させることが可能に構成される。本実施形態において、蒸着源12は、電源ユニット18に電気的に接続されており、金属材料あるいは有機材料を加熱蒸発させて蒸着粒子を放出させる蒸発源を構成する。蒸発源の種類は特に限定されず、抵抗加熱式、誘導加熱式、電子ビーム加熱式などの種々の方式が適用可能である。
【0023】
基板ホルダ13は、半導体ウエハやガラス基板等の成膜対象である基板Wを、蒸着源12に向けて保持することが可能に構成されている。
【0024】
膜厚センサ14は、所定の基本周波数(固有振動数)を有する振動子を内蔵し、後述するように、基板Wに堆積した金属膜あるいは有機膜の膜厚および成膜レートを測定するためのセンサヘッドを構成する。上記振動子には、例えば、比較的温度特性に優れたATカット水晶振動子が用いられ、上記所定の基本周波数は、典型的には、5〜6MHzである。膜厚センサ14は、真空チャンバ11の内部であって、蒸着源12と対向する位置に配置される。膜厚センサ14は、典型的には、基板ホルダ13の近傍に配置される。
【0025】
膜厚センサ14の出力は、測定ユニット17(膜厚制御装置)へ供給される。測定ユニット17は、振動子の共振周波数の変化に基づいて、上記膜厚および成膜レートを測定するとともに、当該成膜レートが所定値となるように蒸着源12を制御する。QCMの吸着による周波数変化と質量負荷の関係は、以下の式(1)で示すSauerbreyの式が用いられる。
【0026】
【数1】
【0027】
式(1)において、ΔFsは周波数変化量、Δmは質量変化量、f0は基本周波数、ρQは水晶の密度、μQは水晶のせん断応力、Aは電極面積、Nは定数をそれぞれ示している。
【0028】
成膜装置10は、シャッタ16をさらに有する。シャッタ16は、蒸着源12と基板ホルダ13との間に配置されており、蒸着源12から基板ホルダ13および膜厚センサ14に至る蒸着粒子の入射経路を開放あるいは遮蔽することが可能に構成される。
【0029】
シャッタ16の開閉は、図示しない制御ユニットによって制御される。典型的には、シャッタ16は、蒸着開始時、蒸着源12において蒸着粒子の放出が安定するまで閉塞される。そして、蒸着粒子の放出が安定したとき、シャッタ16は開放される。これにより、蒸着源12からの蒸着粒子が基板ホルダ13上の基板Wに到達し、基板Wの成膜処理が開始される。同時に、蒸着源12からの蒸着粒子は、膜厚センサ14へ到達し、測定ユニット17において基板W上の蒸着膜の膜厚およびその成膜レートが監視される。
【0030】
[測定装置]
続いて、測定ユニット17について説明する。
図2は、測定ユニット17の一構成例を示す概略ブロック図である。測定ユニット17は、発振回路41と、測定回路42と、コントローラ43とを有する。
【0031】
発振回路41は、膜厚センサ14の振動子20を発振させる。測定回路42は、発振回路41から出力される振動子20の共振周波数を測定するためのものである。コントローラ43は、測定回路42を介して振動子20の共振周波数を単位時間毎に取得し、基板W上への蒸着材料粒子の成膜レートおよび基板Wに堆積した蒸着膜の膜厚を算出する。コントローラ43はさらに、成膜レートが所定値となるように蒸着源12を制御する。
【0032】
測定回路42は、ミキサ回路51と、ローパスフィルタ52と、低周波カウンタ53と、高周波カウンタ54と、基準信号発生回路55とを有する。発振回路41から出力された信号は、高周波カウンタ54に入力され、先ず、発振回路41の発振周波数の概略値が測定される。高周波カウンタ54で測定された発振回路41の発振周波数の概略値は、コントローラ43に出力される。コントローラ43は、測定された概略値に近い周波数の基準周波数(例えば5MHz)で基準信号発生回路55を発振させる。この基準周波数で発振した周波数の信号と、発振回路41から出力される信号とは、ミキサ回路51に入力される。
【0033】
ミキサ回路51は、入力された2種類の信号を混合し、ローパスフィルタ52を介して低周波カウンタ53に出力する。ここで、発振回路41から入力される信号をcos((ω+α)t)とし、基準信号発生回路から入力される信号をcos(ωt)とすると、ミキサ回路51内でcos(ωt)・cos((ω+α)t)なる式で表される交流信号が生成される。この式は、cos(ωt)とcos((ω+α)t)を乗算した形式になっており、この式で表される交流信号は、cos((2・ω+α)t)で表される高周波成分の信号と、cos(αt)で表される低周波成分の信号の和に等しい。
【0034】
ミキサ回路51で生成された信号は、ローパスフィルタ52に入力され、高周波成分の信号cos((2・ω+α)t)が除去され、低周波成分の信号cos(αt)だけが低周波カウンタ53に入力される。すなわち、低周波カウンタ53には、発振回路41の信号cos((ω+α)t)と、基準信号発生回路55の信号cos(ωt)との差の周波数の絶対値|α|である低周波成分の信号が入力される。
【0035】
低周波カウンタ53は、この低周波成分の信号の周波数を測定し、その測定値をコントローラ43へ出力する。コントローラ43は、低周波カウンタ53で測定された周波数と基準信号発生回路55の出力信号の周波数とから、発振回路41が出力する信号の周波数を算出する。具体的には、基準信号発生回路55の出力信号の周波数が、発振回路41の出力信号の周波数よりも小さい場合には、発振回路41の出力信号に低周波成分の信号の周波数を加算し、その逆の場合には減算する。
【0036】
例えば、高周波カウンタ54による発振回路41の発振周波数の測定値が5MHzを超えており、基準信号発生回路55を5MHzの周波数で発振させた場合には、基準信号発生回路55の発振周波数は、発振回路41の実際の発振周波数よりも低くなる。したがって、実際の発振回路41の発振周波数を求めるためには、低周波カウンタ53で求めた低周波成分の信号の周波数|α|を、基準信号発生回路55の設定周波数5MHzに加算すればよい。低周波成分の周波数|α|が10kHzであれば、発振回路41の正確な発振周波数は5.01MHzとなる。
【0037】
低周波カウンタ53の分解能には上限があるが、その分解能は、上記差の周波数|α|を測定するために割り当てることができるため、同じ分解能で発振回路41の発振周波数を測定する場合に比べ、正確な周波数測定を行うことができる。
【0038】
また、基準信号発生回路55の発振周波数はコントローラ43によって制御されており、その発振周波数を、差の周波数|α|が所定値よりも小さくなるように設定することができるため、低周波カウンタ53の分解能を有効に活用することができる。求められた周波数の値は、コントローラ43に記憶される。コントローラ43は、求められた周波数の値から、上記式(1)で示す演算式を用いて、基板W上に堆積した蒸着材料の膜厚および成膜レートを算出する。
【0039】
[成膜レートの測定方法]
ところで一般に、膜厚センサを用いて測定された成膜レートをもとに蒸着源における蒸着材料の加熱温度を制御する場合、蒸着材料のスプラッシュやノイズなどの外乱の影響を受けることで膜厚センサの出力が瞬間的に大きく変動し、蒸着源に対する安定したフィードバック制御ができない場合がある。その解決方法として、膜厚センサの出力を平滑化処理することで、異常値の影響を抑える方法が知られている。
【0040】
例えば図3に示すように、瞬間的にレートが大幅に上昇するような異常値を含む測定データから成膜レートを算出する場合、典型的には、図4に示す処理手順を有するフィルタが用いられる。すなわち、まず、膜厚センサから取得された振動子の発振周波数の変化から、これを成膜レートに換算したレート換算値を取得する(ステップ101)。続いて、取得したレート換算値を、例えば移動平均演算によって平滑化し(ステップS102)、平滑化したレート換算値を成膜レートとして出力する(ステップ103)。
【0041】
図5は、図3に示したセンサ出力を移動平均演算によって平滑化したときの出力の一例を示している。図5に示すように、異常値による変動幅は小さくなるものの、変動時間(T)が長くなってしまう。すなわち、上述したような移動平均処理による出力の平滑化では、例えば突沸が1回でも発生すると、そのとき出力される異常値によって平均値全体が上昇する。したがって、このような平滑化処理においては、突発的な異常値が原因で蒸着源へのフィードバック制御が過剰に反応してしまい、結果的に当該制御が乱れる(暴れる)という問題がある。
【0042】
そこで本実施形態においては、上記問題を解消するため、測定ユニット17のコントローラ43は、図6に示すように構成されている。
【0043】
図6は、コントローラ43の構成を示す機能ブロック図である。コントローラ43は、レート算出部431と、中央値演算部432と、平滑化処理部433と、出力部434とを有する。
【0044】
コントローラ43は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のコンピュータに用いられるハードウェア要素および必要なソフトウェアにより実現され得る。CPUに代えて、またはこれに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のPLD(Programmable Logic Device)、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)等が用いられてもよい。
【0045】
レート算出部431は、測定回路42において測定された振動子20の発振周波数に基づいて、単位時間毎のレート換算値を算出するように構成される。レート算出部431は、レート換算値を例えば上記式(1)によって算出する。
【0046】
中央値演算部432は、レート算出部431から出力されるレート換算値から異常値を除去する「第1のフィルタ部」として構成される。すなわち、中央値演算部432は、レート算出部からステップ状に出力される(単位時間毎の)レート換算値を、時系列順に所定のサンプル数ずつ取得し、取得した有限個のサンプルデータを小さい順に並べたときの中央に位置するデータ(レート換算値)を出力する。サンプル数は特に限定されず、例えば蒸着源へのフィードバック制御に支障を来さない範囲で任意に設定可能である。
【0047】
中央値演算部432における中央値の算出方法について図7および図8を参照して説明する。
図7A,Bは、サンプル数が奇数個の場合における中央値の算出方法を説明する図である。ここでは理解を容易にするため、サンプル数は5個とした。時系列的に取得したデータが図7Aに示す値であった場合、これらを図7Bに示すように値が小さい順に並べ替える。この場合の中央値は、「順位3」の「4」となる。
一方、図8A,Bは、サンプル数が偶数個の場合における中央値の算出方法を説明する図である。ここでは理解を容易にするため、サンプル数は6個とした。時系列的に取得したデータが図8Aに示す値であった場合、これらを図8Bに示すように値が小さい順に並べ替える。この場合の中央値は、「順位3」の「3」および「順位4」の「4」についての算術平均値である「3.5」となる。
【0048】
平滑化処理部433は、中央値演算部432から出力されるレート換算値(中央値)を平滑化する「第2のフィルタ部」として構成される。平滑化処理部433は、典型的には、移動平均フィルタあるいは一次ローパスフィルタで構成される。移動平均には、単純移動平均、加重移動平均などが含まれる。サンプル数は特に限定されず、例えば蒸着源へのフィードバック制御に支障を来さない範囲で任意に設定可能である。
【0049】
出力部434は、平滑化処理部433において平滑化されたレート換算値をもとに、後段の処理に必要な信号に生成し出力する。上記信号としては、成膜レート情報あるいは膜厚情報として図示しないモニタに出力される表示信号、当該各情報を所定の記録媒体に記録するための記録信号、蒸着源12における蒸着材料の加熱温度を制御するための、電源ユニット18へ出力される制御信号などが含まれる。
【0050】
図9は、コントローラ43の処理手順を示すフローチャートである。
コントローラ43は、まず、測定回路42において測定された振動子20の発振周波数を取得し、レート算出部431で単位時間毎のレート換算値を算出する(ステップ201)。コントローラ43は、中央値演算部432において、レート算出部431から出力されたレート換算値から中央値を抽出することで、異常値を除去する(ステップ202)。続いてコントローラ43は、平滑化処理部433において、中央値演算部432から出力されたレート換算値を平滑化処理する(ステップ203)。そしてコントローラ43は、出力部434において、平滑化されたレート換算値をもとに上記所定の信号を生成し、対応する機器(モニタ、記録装置、蒸着源12など)へ出力する。
【0051】
本実施形態に係るフィルタは、レート算出部431から出力されるレート換算値から異常値を除去する中央値演算部432を備えているため、異常値が排除されたレート換算値をもとに平滑化処理部433における平滑化処理が実行可能となる。これにより異常値を原因とする成膜レートの測定精度の低下を抑制することができる。また、測定されたレートをもとに蒸着源12へのフィードバック制御を行う場合には、異常値を原因とする蒸着源12への過剰フィードバック制御を抑制することができる。
【0052】
また本実施形態においては、レート換算値の平滑化処理の前に、レート換算値から異常値を除去するようにしているため、異常値が平滑化処理の計算に含まれないようにすることができる。したがって、異常値の影響を受けないレート情報あるいは膜厚情報を取得することが可能となる。
図3に示した異常値を含む測定値の実データを、本実施形態のフィルタによって処理した後のデータを図10に示す。
【0053】
さらに本実施形態においては、中央値演算部432で異常値を取り除いているため、平滑化処理部433での計算時間を短くでき、平滑化による蒸着源12へのフィードバックの遅れ時間を短くすることができる。
例えば、ステップ応答に対して(a)20点の移動平均と(b)10点の中央値演算および10点の移動平均とを比較した場合、(a)では20点の遅れ、(b)では15点の遅れとなり、同一点数で比較すると、図11に示すように本実施形態の中央値演算を含むフィルタを使用した方が遅れ時間を短くすることができる。
【0054】
中央値演算部432における中央値演算のためのサンプル数と、平滑化処理部433における移動平均演算のためのサンプル数とは上述のように同一の数である場合に限られず、適宜設定可能である。
例えば、図11に示すように中央値演算の場合は、移動平均演算の場合に比べて、立ち上がりが遅いものの追従性が高いという特性を有する。また、蒸着材料がアルミニウム等の昇華性が高い材料の場合、レートの安定性が比較的高いためフィルタ時間は長めに設定されても大きな問題にならないことが多い。このような観点から、中央値演算の点数を移動平均演算の点数よりも多くして、レートの測定精度の向上を図るようにしてもよい。
【0055】
図12図14は、中央値演算と移動平均演算とを含む本実施形態に係るフィルタと、移動平均演算のみを含む比較例に係るフィルタとの相違を説明する他の実験結果である。振動子(膜厚センサ)の共振周波数の変化に基づいて算出された成膜レートの実データを図12に、比較例に係るフィルタを使用して当該実データを処理したときの測定データを図13に、そして本実施形態に係るフィルタを使用して当該実データを処理したときの測定データを図14にそれぞれ示す。
比較例における移動平均演算の点数は40点、本実施形態における中央値演算および移動平均演算の点数はそれぞれ20点とした。
本実施形態によれば、比較例よりも、測定開始時のレートのバラツキを小さく抑えることができる。また本実施形態によれば、レートの変動幅を小さくすることができるとともに、レートが瞬間的に大きく変動したときの変動時間を短くすることができる。したがって本実施形態によれば、比較例よりも成膜レートの測定精度が高まり、蒸着源12への安定したフィードバック制御を実現することが可能となる。
【0056】
<第2の実施形態>
図15は、本発明の他の実施形態におけるコントローラ43の処理手順を示すフローチャートである。
以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0057】
本実施形態のコントローラ43は、レート算出部431から出力されるレート換算値の中央値演算を実行する前に、当該レート換算値を平滑化するように構成される(ステップ301〜303)。これにより、レート算出部431から出力されるレート換算値に比較的大きな変動がある場合においても、中央値演算部432へ入力される当該レート換算値の平滑化が可能となるため、測定精度の低下を抑制することが可能となる。
なお、中央値演算部432から出力されるレート換算値は、上述と同様に、平滑化処理部433において平滑化処理され、得られた測定データが出力部434を介して外部の機器へ出力される(図6、ステップ304,305)。
【0058】
この場合、コントローラ43は、レート算出部431から出力されるレート換算値を平滑化して中央値演算部432へ出力する平滑化処理部を「第3のフィルタ部」としてさらに備える。当該平滑化処理部は、「第2のフィルタ部」としての平滑化処理部433と同一の構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。
【0059】
「第3のフィルタ部」としての平滑化処理部は、平滑化機能を有するフィルタであれば構成は特に限定されず、典型的には、第2のフィルタ部と同様な移動平均フィルタあるいは一次ローパスフィルタで構成される。サンプル数は特に限定されず、例えば蒸着源へのフィードバック制御に支障を来さない範囲で任意に設定可能である。
例えば、上記第3のフィルタ部における平滑化処理に使用されるサンプル数は、中央値演算に使用されるサンプル数の1/2倍以下に設定される。これにより、遅延時間の増加を抑制しつつ、高精度なレート測定を確保することが可能となる。
【0060】
以上、本技術の実施形態について説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、種々変更を加え得ることは勿論である。
【0061】
例えば以上の実施形態では、中央値演算および移動平均演算を少なくとも1回実行するように構成されたが、これらは2回以上繰り返し実行されてもよい。具体的には、中央値演算および移動平均演算がされたレート換算値に対して、さらに中央値演算および移動平均演算が実行されてもよい。
【0062】
また以上の実施形態では、成膜装置として、真空蒸着装置を例に挙げて説明したが、これに限られず、スパッタ装置などの他の成膜装置にも本発明は適用可能である。スパッタ装置の場合、蒸着源は、ターゲットを含むスパッタカソードで構成される。
【符号の説明】
【0063】
10…成膜装置
11…真空チャンバ
12…蒸着源
14…膜厚センサ
17…測定ユニット
18…電源ユニット
20…振動子
41…発振回路
42…測定回路
43…コントローラ
431…レート算出部
432…中央値演算部
433…平滑化処理部
434…出力部
W…基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図15