特許第6060517号(P6060517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6060517紫外線硬化性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム成形物とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060517
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】紫外線硬化性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム成形物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20170106BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20170106BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20170106BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08K3/34
   C08K5/14
   C08K5/07
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-96185(P2012-96185)
(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公開番号】特開2013-224347(P2013-224347A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 実
(72)【発明者】
【氏名】吉田 政行
(72)【発明者】
【氏名】真弓 夕佳
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】池野 正行
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−126317(JP,A)
【文献】 特開昭60−115611(JP,A)
【文献】 特開2001−181509(JP,A)
【文献】 特開2001−139816(JP,A)
【文献】 特開2010−065182(JP,A)
【文献】 特開2014−098068(JP,A)
【文献】 特開平07−292252(JP,A)
【文献】 特開平06−316639(JP,A)
【文献】 特開昭62−290755(JP,A)
【文献】 特開平04−198364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00− 83/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(I)
1aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基を示し、aは1.95〜2.05の正数である。)
で示される一分子中にアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
100質量部、
(B)含水量が0.5質量%以上のゼオライト 1〜300質量部、
(C)有機過酸化物 0.1〜15質量部、
(D)芳香族ケトン系光増感剤 0.1〜10質量部
を含有してなり、紫外線照射による硬化において使用するための、紫外線硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(B)成分のゼオライトが、天然ゼオライト、合成ゼオライト、ハイシリカゼオライト及びハイアルミナゼオライトから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(C)成分がt−ブチルパーオキシベンゾエートである請求項1又は2記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項4】
(D)成分が2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンである請求項1〜3のいずれか1項記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーンゴム組成物に紫外線を照射して硬化させることを特徴とするシリコーンゴム成形物の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法により製造したシリコーンゴム成形物を、更に加熱硬化することからなるシリコーンゴム成形物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項記載のシリコーンゴム組成物の紫外線照射硬化物からなるシリコーンゴム成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト等の含水率の高い無機充填剤を所定量含有し、紫外線を照射することにより硬化させることができるシリコーンゴム組成物、該組成物を用いたシリコーンゴム成形物の製造方法及び該方法により得られるシリコーンゴム成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、優れた耐候性、電気特性、低圧縮永久歪み性、耐熱性、耐寒性などの特性を有しているため、電気機器、自動車、建築、医療、食品をはじめとして様々な分野で広く使用されている。例えば、リモートコントローラ、タイプライター、ワードプロセッサ、コンピュータ端末、楽器などのゴム接点として使用されるラバーコンタクト;建築用ガスケット;複写機用ロール、現像ロール、転写ロール、帯電ロール、給紙ロール等の各種ロール;オーディオ装置等の防振ゴム;コンピュータに使用されるコンパクトディスク用パッキンなどの用途が挙げられる。
【0003】
シリコーンゴムを成形する際は、有機過酸化物を使用して加熱硬化させる方法や、ポリマー中のアルケニル基とハイドロジェンポリシロキサンを白金触媒などを用いて硬化させる付加反応による硬化方法が用いられる。
【0004】
ところで、ゼオライトは規則的な孔を有しており、その中に様々な物質を吸着することができる。そのため脱臭剤、吸湿剤、選択的な吸収特性から水の軟質化、分離膜など、様々な用途に使用されている。
【0005】
例えば、特公平7−55287号公報(特許文献1)には、ゼオライトをシリコーンゴムマトリックス中に分散させた分離膜が示されている。この特許ではゼオライトの特性を利用して、水中からアルコールを分離する膜に使用する方法が示されている。この特許の成膜方法は加熱することなく、室温での縮合反応により硬化する、いわゆる室温硬化型(RTV)のシリコーンゴムを使用しており、他の成形方法についてはなんら記載されていない。他方、シリコーンゴムは種々の成形方法により得ることができるが、シリコーンゴムチューブ等は押し出し成形することができ、効率的な製造方法である。押し出し成形時には硬化系として加熱下でのヒドロシリル化付加反応により硬化する付加加硫が用いられる場合があり、白金触媒による硬化の速度調整剤としてエチニルシクロヘキサノール等の制御剤が使用される。しかし、ゼオライトを添加したシリコーンゴムは、ゼオライトに制御剤が吸着してしまうなどの問題により、加熱工程が必須となる付加加硫を用いた押し出し成形では、表面の発泡と、硬化剤添加後の可使時間を両立することが困難である。制御剤添加量を多くすると、硬化時に発泡する問題が発生し、添加量が少ないと、硬化時の発泡は抑制できるものの可使時間が極端に短くなってしまう。また通常シリコーンゴムで押し出し成形する際に使用する、アシル系の有機過酸化物を使用しても、ゼオライトを添加したシリコーンゴムは成形時に発泡する現象を抑制することはできず、硬化性も悪化する。
【0006】
一方、シリコーンゴム組成物を紫外線で硬化させる方法としては特開昭55−125123号公報(特許文献2)、特公昭61−21963号公報(特許文献3)に記載があるが、高含水率で水分を含む充填剤、例えばゼオライト等を添加した配合に関しては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−55287号公報
【特許文献2】特開昭55−125123号公報
【特許文献3】特公昭61−21963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水分を多く含有するゼオライト等の無機充填剤を添加してもシリコーンゴムの硬化不良が発生せず、発泡等の不具合がなく紫外線硬化で成形できる紫外線硬化性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム成形物とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物、芳香族ケトン系光増感剤を組み合せ、紫外線硬化性とした場合、ゼオライト、補強性シリカ等の無機充填剤が若干の水を含んでいても、この水を除去することなく水を含んだまま使用しても、発泡等の不具合も発生せず、硬化不良も発生せずに上記オルガノポリシロキサンを紫外線硬化させて、シリコーンゴム成形物が良好に得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、
(A)下記平均組成式(I)
1aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基を示し、aは1.95〜2.05の正数である。)
で示される一分子中にアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
100質量部、
(B)含水量が0.5質量%以上のゼオライト 1〜300質量部、
(C)有機過酸化物 0.1〜15質量部、
(D)芳香族ケトン系光増感剤 0.1〜10質量部
を含有してなり、紫外線照射による硬化において使用するための、紫外線硬化性シリコーンゴム組成物を提供する。
【0011】
この場合、(B)成分としてはゼオライトを有効に用いることができ、(C)成分はt−ブチルパーオキシベンゾエートが好ましく、(D)成分は2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンが好ましい。
また、本発明は、上記紫外線硬化性シリコーンゴム組成物に紫外線を照射して硬化させるシリコーンゴム成形物の製造方法、これにより得られたシリコーンゴム成形物を更に加熱硬化するシリコーンゴム成形物の製造方法、上記シリコーンゴム組成物の紫外線照射硬化物からなるシリコーンゴム成形物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の紫外線硬化性シリコーンゴム組成物によれば、含水量が0.5質量%以上の無機充填剤が配合されていても、硬化不良が生じることもなく、また発泡が生じることもなく、効果的に紫外線硬化させることができ、良好なシリコーンゴム成形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
−(A)成分−
本発明において、(A)成分は、下記平均組成式(I)で表される一分子中にアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。
1aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基を示し、aは1.95〜2.05の正数である。)
【0014】
上記平均組成式(I)中、R1は同一又は異種の非置換もしくは置換の一価炭化水素基を示し、通常、炭素数1〜12、特に炭素数1〜8のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、シクロアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子もしくはシアノ基等で置換した基などが挙げられ、メチル基、ビニル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基が好ましく、特にメチル基、ビニル基が好ましい。
【0015】
具体的には、該オルガノポリシロキサンの主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位(R12SiO2/2、R1は上記と同じ、以下同様)の繰り返し構造がジメチルシロキサン単位のみの繰り返しからなるもの、又はこの主鎖を構成するジメチルシロキサン単位の繰り返しからなるジメチルポリシロキサン構造の一部として、フェニル基、ビニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等を置換基として有するジフェニルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位、メチルビニルシロキサン単位、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシロキサン単位等のジオルガノシロキサン単位を導入したものなどが好適である。
【0016】
なお、分子鎖両末端は、例えば、トリメチルシロキシ基、ジメチルフェニルシロキシ基、ビニルジメチルシロキシ基、ジビニルメチルシロキシ基、トリビニルシロキシ基等のトリオルガノシロキシ基(R13SiO1/2)やヒドロキシジメチルシロキシ基等のヒドロキシジオルガノシロキシ基(R12(HO)SiO1/2)などで封鎖されていることが好ましい。この中でも特にトリビニルシロキシ基が反応性が高く好ましい。
【0017】
特に、(A)成分としてのオルガノポリシロキサンは、一分子中に2個以上のアルケニル基を有することが必要である。通常、2〜50個、特に2〜20個程度のアルケニル基を有するものが好ましく、特にビニル基を有するものであることが好ましい。この場合、全R1中0.01〜20モル%、特に0.02〜10モル%がアルケニル基であることが好ましい。なお、このアルケニル基は、分子鎖末端でケイ素原子に結合していても、分子鎖の途中(分子鎖非末端)のケイ素原子に結合していても、その両方であってもよいが、少なくとも分子鎖末端のケイ素原子に結合していることが好ましい。
【0018】
また、aは1.95〜2.05、好ましくは1.98〜2.02、より好ましくは1.99〜2.01の正数である。また、全R1中90モル%以上、好ましくは95モル%以上、更に好ましくは脂肪族不飽和基を除く全てのR1がアルキル基、特にはメチル基であることが望ましい。
【0019】
このようなオルガノポリシロキサンは、例えばオルガノハロゲノシランの1種又は2種以上を(共)加水分解縮合することにより、あるいは環状ポリシロキサン(シロキサンの3量体、4量体など)をアルカリ性又は酸性の触媒を用いて開環重合することによって得ることができる。これらは基本的に直鎖状のジオルガノポリシロキサンであるが、(A)成分としては、分子量(重合度)や分子構造の異なる2種又は3種以上の混合物であってもよい。
【0020】
なお、上記オルガノポリシロキサンの重合度は100以上(通常、100〜100,000)が好ましく、より好ましくは2,000〜50,000、特に好ましくは3,000〜20,000であり、室温(25℃)において自己流動性のない、いわゆる生ゴム状(非液状)であることが好ましい。重合度が小さすぎるとコンパウンドとした際に、ロール粘着などの問題が生じ、ロール作業性が低下するおそれがある。なお、この重合度は、通常、トルエンを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の重量平均重合度として測定することができる。
【0021】
−(B)成分−
(B)含水量が0.5質量%以上の無機充填剤としては、湿式シリカ(沈降シリカ)、ゼオライト、水酸化アルミニウム、珪藻土等の水分を高含水率で含有する無機充填剤が例示される。これら無機充填剤に含まれる水分は、シリコーンゴムを付加加硫やアシル系有機過酸化物を用いて空気中で例えば50℃以上、特に100℃以上に加熱硬化しようとすると、硬化過程において揮発するため、成形物が発泡してしまう要因となる。
この場合、無機充填剤量中の水分量は、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは0.5〜3.0質量%、更に好ましくは0.5〜2.0質量%である。なお、この水分量は、無機充填剤を、150℃で3時間、あるいは200℃で5分間の条件で乾燥機中で加熱乾燥した際の、加熱前後での質量減少分(質量%)として測定される。
【0022】
本発明において(B)の含水無機充填剤としては、具体的には、湿式シリカ(沈降シリカ)やゼオライトが用いられる。
湿式シリカとしては、NIPSIL(登録商標)−LP(商品名、東ソーシリカ株式会社製)、トクシール(登録商標)USA(商品名、株式会社トクヤマ製)、Zeosil(登録商標)132(商品名、ローディアジャパン製)等が挙げられる。(B)成分は1種単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0023】
ゼオライトは三次元構造の発達したアルミノシリケートであり、一般的にはAl23を基準としてM2/nO・Al23・xSiO2・yH2Oの構造で示される。
(M=アルカリ金属、アルカリ土類金属など、n=金属の価数)
ゼオライトは、シリカSiO2とアルミナAl23や、他の金属元素との組成比及び細孔径、比表面積などの異なるものが多種類存在している。本発明で使用するゼオライト素材としては、合成ゼオライト、天然ゼオライトのいずれのゼオライトも使用可能である。
具体的にはゼオライトとしてはアナルシン、チャバサイト、クリノプチロライト、エリオナイト、フォジャサイト、モルデナイト、フィリップサイト等の天然ゼオライト;A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト等の合成ゼオライトを用いることができる。
【0024】
またシリカ成分とアルミナ成分の比が大きいもの(ハイシリカゼオライト、ハイアルミナゼオライト)は、疎水性の挙動を示し、極性の小さい成分と極性の大きい成分との混合物から極性の小さい成分を収着する性質がある。
そのため分離膜などの用途にはシリカ/アルミナの比が高いゼオライト(ハイシリカゼオライト、ハイアルミナゼオライト)が好ましい。
【0025】
(B)成分の添加量としては(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜300質量部であり、特に10〜250質量部、更には20〜200質量部であることが好ましい。(B)成分の配合量が少なすぎる場合には、目的とする特性(例えば、脱臭性、吸湿性、選択的な吸収特性、水の軟質化、分離膜性など)が得られず、多すぎる場合には加工性が悪くなり、また機械的強度が低下する。
【0026】
−(C)成分−
(C)成分の有機過酸化物は、オルガノポリシロキサンの紫外線照射による硬化を促進させる効果をもつ硬化剤(架橋剤)であり、これには1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(tertブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール系有機過酸化物、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシル系有機過酸化物、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ)p−ジイソプロピルベンゼン等のジアルキル系有機過酸化物、tert−ブチルパーオキシベンゾエート−tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のエステル系有機過酸化物が例示されるが、これらのうち、特に非アシル系の有機過酸化物であることが発泡を抑制する点で好ましい。(C)成分としては、これらの1種でも2種以上の併用であってもよい。
【0027】
有機過酸化物の添加量は(A)成分100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。添加量が少なすぎると架橋反応が十分に進行せず、硬度低下やゴム強度不足、圧縮永久歪増大等の物性悪化を生じる場合があり、多すぎると経済的に好ましくないばかりでなく、硬化剤の分解物が多く発生して、圧縮永久歪増大等の物性悪化や得られたシートの変色を増大させる場合がある。
【0028】
−(D)成分−
(D)成分の芳香族ケトン系光増感剤としては2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンツアルデヒド、3又は4−メチルアセトフェノン、3又は4−ペンチルアセトフェノン、3又は4−メトキシベンゾフェノン、3又は4−メチルベンゾフェノン、3又は4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−クロロ−4’−ベンジルベンゾフェノン等が例示され、これらはその1種でも2種以上の併用であってもよい。
【0029】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物における硬化機構は上記した(A)成分としてのアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、(C)成分としての有機過酸化物、(D)成分としての芳香族ケトン系光増感剤を混合して得られる三成分系を紫外線照射することによるものであるが、これらの配合比は通常、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部を基準として、(C)有機過酸化物を0.1〜15質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部、(D)芳香族ケトン系光増感剤を0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜5質量部、より好ましくは0.3〜2質量部、更に好ましくは0.5〜2質量部とすればよく、特に(D)成分の芳香族ケトン系光増感剤の多量添加は硬化成形物の内外面における成形物内部と成形物表面との硬化性のバランスを崩し、表面だけの硬化速度が大きくなるので、この配合量の調整には充分な配慮が必要とされる。
【0030】
本発明のシリコーンゴム組成物は、上述した成分の所定量を2本ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等で混練りすることによって得ることができる。
【0031】
本発明のシリコーンゴム組成物には、上記成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、カーボンブラック等の導電性付与剤、酸化鉄やハロゲン化合物のような難燃性付与剤、軟化剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等を添加することができる。
【0032】
また本発明のシリコーンゴム組成物はこれに紫外線照射すれば容易に硬化させることができ、この紫外線照射源としては低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、キセノン−水銀ランプ、金属ハライドランプ等を用いればよいが、一般に入手し易い高圧水銀灯を用いることがよく、オゾン発生タイプでもオゾンレスタイプのいずれでもよいが、高エネルギーの波長の紫外線の放射を伴うということからオゾン発生タイプのものとすることがよい。
【0033】
この場合、紫外線硬化条件は特に限定されないが、紫外線強度(紫外線照射量)としては、500mJ/cm2以上が好ましく、より好ましくは1,000mJ/cm2以上である。紫外線強度が500mJ/cm2未満であると硬化が不十分となる場合があり、紫外線照射後の熱処理時に発泡する場合がある。照射温度も特に限定されないが、室温付近であれば特に問題はなく、例えば0〜70℃の範囲が好ましく、10〜40℃の範囲がより好ましい。上記の照射量の紫外線が照射されれば、照射時間は限定されない。なお、紫外線強度(照射量)の上限は特に制限されないが、通常8,000mJ/cm2以下、特に5,000mJ/cm2以下程度であればよい。
【0034】
また紫外線を照射した後に、加熱空気中で硬化させることにより、材料内部の硬化を促進することができる。内部の硬化が十分でなくても、表面は紫外線により硬化しており、紫外線硬化後に熱処理を行うことにより、発泡することなく内部まで硬化した成形物を得ることができる。
【0035】
この場合、加熱は100〜400℃、特に120〜200℃で5秒〜2時間、特に1分〜20分間とすることが好ましい。
【0036】
従来シリコーンゴムの押し出し材料を硬化させる場合は、付加加硫や、アシル系の有機過酸化物を添加し空気中で加熱する方法を選択しなければならなかったが、水分を含んだ充填剤を添加した場合、いずれも発泡等の問題が生じる。これに対し、本発明の方法によれば、水分を含有する充填剤を含んでいても、シリコーンゴムを押し出し成形した際に発泡等の問題なく成形することが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例中の部は質量部を示す。
【0038】
物性特性測定法
JIS K6249に準じて、密度、硬度(デュロメーターA)、引張り強さ、伸びなどの物性を測定した。
【0039】
[実施例1]
主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位としてジメチルシロキサン単位99.850モル%とメチルビニルシロキサン単位0.125モル%、分子鎖末端基としてジメチルビニルシロキシ基0.025モル%を含有する平均重合度が約6,000である直鎖状オルガノポリシロキサン(生ゴム) 50部、
ハイシリカゼオライトHiSiv 3000、含水量1.8質量%(200℃,5分間の加熱処理前後での質量減少分)(ユニオン昭和株式会社製、疎水性モレキュラーシーブ)
50部
をニーダー中で、室温(25℃)下で混合した。
上記コンパウンド100部に対し、架橋剤として
t−ブチルパーオキシベンゾエート 1.4部、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン 1.0部
を添加し、均一に混合した後、1mm厚の未硬化シートを作製し、次いで4,500mJ/cm2の強度の紫外線を照射して、試験シートを作製した。
【0040】
[実施例2]
紫外線の強度を1,500mJ/cm2とした以外は実施例1と同様にシートを作製した。
【0041】
[実施例3]
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとして、主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位としてジメチルシロキサン単位99.850モル%とジビニルシロキサン単位0.125モル%、分子鎖末端基としてジメチルビニルシロキシ基0.025モル%を含有する平均重合度が約6,000である直鎖状オルガノポリシロキサン(生ゴム)を用いた以外は実施例1と同様に試験シートを作製した。
【0042】
[実施例4]
紫外線の強度を1,500mJ/cm2とした以外は実施例3と同様にシートを作製した。
【0043】
[実施例5]
t−ブチルパーオキシベンゾエート1.4部に代えて、t−ブチルパ−オキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエ−ト1.4部を添加した以外は実施例1と同様にシートを作製した。
【0044】
[実施例6]
実施例1で成形したシートについて、更に、200℃,2時間のポストキュア処理を行ったシートを作製した。
【0045】
[比較例1]
紫外線を照射せず、50℃の乾燥機(空気中)に15分間入れてシート作製した以外は実施例1と同様にシートを作製した。
【0046】
[比較例2]
t−ブチルパーオキシベンゾエート 1.4部、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン 1.0部
に代えて、付加架橋硬化剤としてC−25A(白金触媒)/C−25B(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)(共に信越化学工業(株)製)をそれぞれ0.5部/2.0部を添加した以外は実施例1と同様にシリコーンゴム未硬化シートを作製し、実施例1と同様に4,500mJ/cm2の強度の紫外線を照射してシートを作製した。
【0047】
[比較例3]
紫外線を照射せず、250℃の乾燥機(空気中)に15分間入れて硬化した以外は比較例2と同様にシートを作製した。
【0048】
[比較例4]
t−ブチルパーオキシベンゾエート 1.4部、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン 1.0部
に代えて、アシル系有機過酸化物であるビス(4−メチルベンゾイル)パーオキサイドを0.5部添加した以外は実施例1と同様に未硬化シートを作製し、紫外線を照射せず、250℃の乾燥機(空気中)に15分間入れてシートを作製した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】