特許第6060880号(P6060880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6060880
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】プライマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/02 20060101AFI20170106BHJP
   C09D 163/04 20060101ALI20170106BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170106BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C09D163/02
   C09D163/04
   C09D7/12
   C09D5/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-245555(P2013-245555)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2015-101711(P2015-101711A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】山辺 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】滝田 有香
(72)【発明者】
【氏名】宮内 恭子
(72)【発明者】
【氏名】永尾 晴美
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/036091(WO,A1)
【文献】 特開2013−136722(JP,A)
【文献】 特開2008−169318(JP,A)
【文献】 特開2002−275430(JP,A)
【文献】 特開2006−001775(JP,A)
【文献】 特開2013−194182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系接着剤で接着される金属材料の表面に塗布されるプライマー組成物であって、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む2官能エポキシ樹脂と、少なくともフェノールノボラック型エポキシ樹脂を含む3官能以上の多官能エポキシ樹脂とを併用するエポキシ樹脂と、硬化剤としてシアンジアミドと、硬化触媒としてイミダゾールと、無機酸化物フィラーとしてシリカ及び酸化チタンを含有し、溶剤を含有しない金属材料用プライマー組成物において、さらに分散剤として酸性分散剤を含み、前記酸化チタンがアルミナコートされていることを特徴とする金属材料用プライマー組成物。
【請求項2】
前記3官能以上の多官能エポキシ樹脂:前記2官能エポキシ樹脂で表される配合比が、10質量部:90質量部〜30質量部:70質量部の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の金属材料用プライマー組成物。
【請求項3】
前記無機酸化物フィラーに含まれる前記シリカ及び前記酸化チタンの平均粒子径が共に
2〜30μmであり、シリカ:酸化チタンで表されるそれらの配合比が、前記エポキシ樹脂の合計100質量部に対して、70重量部:10質量部〜40質量部:40質量部の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の金属材料用プライマー組成物。
【請求項4】
前記酸性分散剤は、ポリエーテルカルボン酸系分散剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料用プライマー組成物。
【請求項5】
前記酸性分散剤の配合量は、前記エポキシ樹脂の合計100質量部に対して0.5〜5質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料用プライマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種金属材料表面において接着剤に対する親和性を改善し、もって接着剤で金属材料を強固な接着を可能にする新規なプライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
普通鋼、ステンレス鋼板、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛メッキ鋼などの各種の金属材料は、優れた耐食性や表面外観を活かして建材や電子機器を始め多くの分野で広く使用されている。これら金属材料を構造材や各種部品等として使用する場合には、金属材料板を相互に或いは他の部品や部材と接合することを要求されることが多い。このような場合、従来は溶接によって金属材料板を接合することが大半であった。
【0003】
しかし、溶接により金属材料板を接合する場合には、溶接された金属材料板の表面に溶接痕が残るため、金属材料板特有の優れた表面外観が損なわれるという問題がある。また、溶接痕や溶接歪みを除去するためには板金加工が必要となる。かかる板金加工には多くの時間と労力がかかる上、騒音の発生等によって作業環境を悪化させるため、作業者はもちろん周辺住民からも敬遠されている。
【0004】
そこで、溶接に代わる金属材料の接合方法として、近年、接着剤を用いて接合する接着法が注目されている。接着剤を用いる接着法では、金属材料の表面外観がほとんど損なわれないため、上記板金加工が不要となるという利点がある。しかし、一般に金属材料の表面は安定な酸化皮膜で覆われている場合が多く、特にステンレス鋼の酸化皮膜は耐食性に優れている反面、接着剤との親和性が極めて低く、接着力に劣るという問題があった。そのため接着による接合界面の耐水性が低く、これらの金属材料の接着部を高温高湿雰囲気に曝すと接着力が短期間で大幅に低下してしまうという欠点があった。
【0005】
このような金属材料の接着剤に対する親和性、特にエポキシ系接着剤に対する親和性は、予めこれらの金属材料の表面を酸で活性化処理することにより改善することができる。例えば、ステンレス鋼板の表面を硫酸・蓚酸混合水溶液で処理する方法や、アルミニウム板やアルミニウム合金板をリン酸水溶液あるいは重クロム酸水溶液に浸漬するか、あるいは浸漬しながら陽極で電気的に酸化させる方法が知られている。これらの処理方法は、優れた接着性が発現することが知られており、航空機の組立工程等で実用化されている。
【0006】
しかし、上記酸処理によりステンレス鋼板表面を活性化させる方法では、ステンレス鋼板表面にスマットを発生させるという問題がある。このスマットは、重クロム酸と硫酸との混合水溶液でステンレス鋼の表面を処理することによって除去することができる。しかしながら、この脱スマット処理はクロム含有排水を発生させるため、環境破壊の観点から厳しく制限されている。
【0007】
最近では、このような脱スマット処理の必要がない接着方法として、予めステンレス鋼板の表面にプライマーを塗装して有機系薄膜(プライマー層)を形成させることで、接着性を高める方法が試みられている。例えば、特許文献1には、ステンレス鋼板の接着性を高めるため、酸性リン酸エステル及び/又はその塩と、水とを含む水性プライマーを用いてステンレス鋼板の表面を処理する方法が記載されている。また、特許文献2には、シラン系カップリング剤を用いて普通鋼板やステンレス鋼板の表面を処理することにより、フッ素系塗膜との密着性を改善する方法が記載されている。
【0008】
このような酸性リン酸エステルやシラン系カップリング剤を使用した表面処理によって、普通鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板及びアルミニウム合金板などにおいて、エポキシ系接着剤に対する親和性が向上することが確認されている。しかしながら、これらの表面処理による方法では、上記した従来の硫酸と蓚酸との混合水溶液での処理による方法と同程度の接着性は得られていない。そのため、接着したステンレス鋼板等の接着強度及び耐久性は実用上十分とはいえず、接着構造体として長期に安定して使用することはできなかった。
【0009】
更に、特許文献3には、多官能エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂を主体とし、硬化剤としてイミダゾールを含むプライマー組成物が記載されている。しかしながら、このプライマー組成物はフィラーを含有していないため膜の形成性(造膜性)に劣る。また、塗布の作業性を確保するためにトルエンとメチルエチルケトンなどの有機溶剤によって溶剤希釈を行っているため、VOC(Volatile Organic Compounds)による大気汚染への配慮が必要となり、製造過程及び使用過程において大きな制約を受けるという欠点がある。
【0010】
尚、普通鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板及びアルミニウム合金板などに接着性を付与する技術として、シランカップリング剤を用いることが知られている。例えば、非特許文献1には、エポキシ系接着剤と反応性がある官能基を有するシランカップリング剤での処理により、ステンレス鋼板、アルミニウム板及びアルミニウム合金板などの接着性が向上することが述べられている。しかし、シランカップリング剤はモノマー構造であるため、その希釈溶液を汚れのある実用金属表面に均一に塗布することは難しい。
【0011】
即ち、汚れのない金属表面に対しては、例えばアルコキシ基又はその加水分解生成物であるシラノール基と金属表面の酸化物層の水酸基との縮合反応により、シランカップリング剤は強固に付着することができる。しかし、通常の金属表面は大気中に存在する有機物や無機物により汚染されており、これら有機物や無機物は酸化物層の上に堆積し、既に強固に付着している。このような汚染層を完全に除去することは現実的には困難であるため、汚れのある実用金属表面にシランカップリング剤を均一に付着させることは難しい現状である。
【0012】
また、接着法の普及に伴って、次第に厳しい使用環境である高温高湿環境下に接着剤の接合部が曝されるケースも多くなっている。例えば、最も過酷な条件である沸騰水による浸漬の場合、シランカップリング剤などによる表面処理では、その接着性の低下を抑制することが困難である。尚、沸騰水中でも各種金属材料の接着部に安定した接着性を付与する処理として、非特許文献2にはシリコーター処理が提案されている。しかしながら、このシリコーター処理は高温の火炎処理であることから、その適用は小型の基材などに制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平06−009311号公報
【特許文献2】特公平06−057872号公報
【特許文献3】特開2007−077358号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】山辺秀俊 他、「A Study of Surface Modification of Stainless Steels」、色材協会誌、70巻、12号、1997年、p763〜771
【非特許文献2】Tiller et al、「Silicoater−Verfahren」、Fertigungssystem Kleben’、89、VCH Verlag、1989、p95〜106
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、エポキシ系接着剤で接着される各種金属材料の表面に付着性及び造膜性に優れたプライマー層を形成することができ、各種金属材料の接着に従来から実用されている酸混合水溶液での処理やシランカップリング剤などの化学処理と同等以上の接着強度と接着耐久性を付与することができ、さらに溶剤なしで良好に塗布作業を行うことができる環境負荷の低い各種金属材料用プライマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明が提供する金属材料用プライマー組成物は、エポキシ系接着剤で接着される金属材料の表面に塗布されるプライマー組成物であって、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む2官能エポキシ樹脂と、少なくともフェノールノボラック型エポキシ樹脂を含む3官能以上の多官能エポキシ樹脂多官能エポキシ樹脂とを併用するエポキシ樹脂と、硬化剤としてシアンジアミドと、硬化触媒としてイミダゾールと、シリカ及び酸化チタンからなる無機酸化物フィラーとを含有し、溶剤を含有しない金属材料用プライマー組成物において、さらに分散剤として酸性分散剤を含み、前記酸化チタンがアルミナコートされていることを特徴とする。
【0017】
上記本発明による金属材料用プライマー組成物においては、3官能以上の多官能エポキシ樹脂:2官能エポキシ樹脂で表される配合比が、10質量部:90質量部〜30質量部:70質量部の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、上記本発明による金属材料用プライマー組成物においては、前記無機酸化物フィラーに含まれる前記シリカ及び前記酸化チタンの平均粒子径が共に2〜30μmであり、シリカ:酸化チタンで表されるそれらの配合比が、前記エポキシ樹脂の合計100質量部に対して、7 0 重量部:10質量部〜40質量部:40質量部の範囲内にあることが好ましい。更に、前記酸性分散剤は、ポリエーテルカルボン酸系分散剤であることが好ましく、また前記酸性分散剤の配合量は、前記エポキシ樹脂の合計100質量部に対して0.5〜5質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、各種金属材料の表面に付着性及び造膜性に優れたプライマー層を形成して、各種金属材料においてエポキシ系接着剤に対する親和性を高めることができる。これにより、プライマー層を設けた金属材料をエポキシ系接着剤で接着する際に、酸混合水溶液での処理やシランカップリング剤での化学処理などの場合と同等以上の高い接着強度で接着することができる。しかも、得られた接着部は高温での耐湿性が良好であり、沸騰水浸漬のような高温・高湿環境下に曝されても高い接着強度を長期間にわたって保持することができる。
【0020】
しかも、得られた接着部は高温での耐湿性に優れており、沸騰水による浸漬のような高温高湿環境下に曝されても高い接着強度を長期間にわたって保持することができる。さらに、溶剤を使用することなく低粘度を実現することができるので、塗布作業における環境への負荷が少ない上、VOCによる大気汚染の心配が不要となるので環境にやさしい材料である
このように、本発明の金属材料用プライマー組成物を使用することにより、接着剤を用いて金属材料を接着するという簡単な施工によって、強度的に優れた建材その他の構造材を得ることができる。また、本発明の金属材料用プライマー組成物を電気絶縁材料の接着に用いた場合、接着部は高温の強酸又は強アルカリの水溶液中のような過酷な使用条件においても安定した接着性を維持できるので、各種電気化学プロセスへの新たな展開が可能である。このように本発明のプライマー組成物は接着安定性と塗膜の架橋密度が非常に高く、強酸、強塩基水溶液中で使用される金属絶縁膜としても非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の金属材料用プライマー組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化触媒及び無機酸化物フィラーを必須の構成成分とし、金属板その他の金属材料の部材の表面に塗布してプライマー層を形成することによって、エポキシ系接着剤に対する金属材料との親和性を向上させる。従って、本発明の金属材料用プライマー組成物でプライマー層を形成した普通鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛メッキ鋼など各種金属材料は、エポキシ系接着剤によって簡単に且つ強固に接着することができる。
【0022】
本発明のプライマー組成物が対象とする金属材料は、材料の種類や形態によって制約を受けるものではなく、普通鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛メッキ鋼など各種金属材料の板材又は他の形態の部材や部品などに好適に適用することができる。例えば鋼板の場合、普通鋼では冷間圧延鋼板や熱間圧延鋼板などに、ステンレス鋼においてはマルテンサイト系、フェライト系及びオーステナイト系の各種ステンレス鋼板に適用可能である。
また、本発明のプライマー組成物でプライマー層が形成された各種金属材料の接着に用いるエポキシ系接着剤は、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。これらの中では、工業的用途においては大きな接着強度が得られる二液型のエポキシ系接着剤の使用が好ましい。
【0023】
本発明のプライマー組成物の主成分であるエポキシ樹脂は、2官能エポキシ樹脂と3官能以上の多官能エポキシ樹脂とを併用している。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂を含む2官能エポキシ樹脂に、少なくともフェノールノボラック型エポキシ樹脂を含む3官能以上の多官能エポキシ樹脂とを配合する。これにより、硬化物の架橋密度が高くなり、耐熱性や機械的強度が向上する。特に、沸騰水に浸漬するような過酷な使用条件下では、高い架橋密度を得ることが特に重要である。
本発明のプライマー組成物では、上記2官能エポキシ樹脂を構成するビスフェノール型エポキシ樹脂は、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含んでいる。例えば、上記2官能エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂単独でもよいし、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂との混合物でもよい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂との混合物の場合は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ビスフェノールF型エポキシ樹脂で表される配合比が、20質量部:60質量部〜60質量部:20質量部の範囲内となるように配合されていることが好ましい。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂のいずれの2官能ビスフェノール型エポキシ樹脂においても、それらの水酸基による金属表面との水素結合性や、分子内エーテル結合の回転による柔軟性(可撓性)によって、金属表面に対して強い接着性を有する。そしてビスフェノールF型エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂と同等の金属接着性を有しながら、より低い粘度を有するため、両者を混合して配合することにより望ましい粘度に調製することが可能となる。
一方、上記3官能以上の多官能エポキシ樹脂を構成するフェノールノボラック型エポキシ樹脂は、塗布するときの粘度を実用的な範囲内とするため、2種以上のフェノールノボラック型エポキシ樹脂を混合して、所望の粘度に調整することができる。また、フェノールノボラック型エポキシ樹脂と同じく3官能以上の多官能エポキシ樹脂であるp−アミノフェノール型エポキシ樹脂をフェノールノボラック型エポキシ樹脂に配合することによって、さらに低粘度に調整することができる。このようにフェノールノボラック型エポキシ樹脂にp−アミノフェノール型エポキシ樹脂を配合する場合は、p−アミノフェノール型エポキシ樹脂の量を、フェノールノボラック型エポキシ樹脂の量に対して半分以下となるように配合することが好ましい。
上記2官能エポキシ樹脂と3官能以上の多官能エポキシ樹脂との配合においては、3官能以上の多官能エポキシ樹脂:2官能エポキシ樹脂で表される配合比が、10質量部:90質量部〜30質量部:70質量部の範囲内であることが好ましい。その理由は、エポキシ樹脂の合計100質量部に対して3官能以上の多官能エポキシ樹脂の配合量が10質量部より少ないと、プライマーの耐沸水密着性を確保することが難しくなるからである。一方、この3官能以上の多官能エポキシ樹脂の配合量が30重量部より多くなると、架橋度が上がって脆くなると共に、金属材料との間に大きな応力が発生するため、十分な密着性が得られ難くなるからである。
【0024】
上記エポキシ樹脂の硬化剤としては、シアンジアミドを使用する。シアンジアミドは、常温では固体であり、エポキシ樹脂と反応しない。しかし、融点を過ぎると液状化し、エポキシ樹脂のグリシジル基と反応して架橋硬化させる。本発明の金属材料用プライマー組成物は、このような特性を有するシアンジアミドを硬化剤として使用し、予めエポキシ樹脂に配合することによって、常温での保存安定性に優れた一液型のプライマー組成物として構成されている。
【0025】
上記硬化剤であるシアンジアミドの配合量は、エポキシ樹脂の合計100質量部に対して3〜25質量部の範囲とすることが好ましい。上記シアンジアミドの配合量が3質量部より少ないと、プライマー組成物の硬化が不十分となり、満足すべき耐沸騰水接着性が得られ難くなる。また、シアンジアミドを25質量部よりも多く配合すると、硬化剤が過剰となり、プライマー組成物が硬く且つ脆くなるため好ましくない。
【0026】
本発明の金属材料用プライマー組成物では、硬化触媒としてイミダゾールを使用する。硬化触媒の選定は、硬化剤であるシアンジアミドの硬化性能と硬化物特性に影響を与えるため重要である。即ち、イミダゾールは一般的なエポキシ樹脂の硬化剤として使用されることが多いが、本発明ではイミダゾールを硬化触媒として硬化剤のシアンジアミドと併用している。これにより、その硬化温度を180℃以下の使いやすい温度に下げると共に、硬化塗膜の耐熱性を向上させる効果が得られる。特に、接着部において高い耐沸騰水接着性を維持するには、硬化塗膜のガラス転移温度は100℃以上が必要であり、そのためには硬化剤のシアンジアミドと硬化触媒のイミダゾールを併用することが重要である。
【0027】
上記硬化触媒であるイミダゾールの配合量は、エポキシ樹脂の合計100質量部に対して、0.5〜2.0質量部の範囲内が好ましい。上記イミダゾールの配合量が0.5質量部より少ないと未硬化現象が発生しやすくなり、逆に2.0質量部を超えて添加するとプライマー組成物の保存中に硬化が進行して、ゲル化が起きやすくなるため好ましくない。
【0028】
硬化触媒として好適に使用できるイミダゾールとしては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−(2’−メチルイミダゾリル−(1’))−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−ウンデシルイミダゾリル-(1’))−エチル−S−トリアジンなどを挙げることができ、その中でも特に2−メチルイミダゾールが好ましい。
【0029】
更に、本発明の金属材料用プライマー組成物には、金属材料表面への良好な塗布性と造膜性を得ると共に、過酷な環境下での硬化塗膜の金属材料表面に対する優れた密着性を確保するために、無機酸化物フィラーが配合されている。特に焼付け硬化時に加熱により粘度が低下すると、汚れの付着した金属材料表面ではプライマーの皮膜がはじかれて連続性が失われる恐れがあるが、無機酸化物フィラーの配合により高温雰囲気における粘度低下を適度に抑制でき、プライマー皮膜の連続性を保持することができる。尚、本発明の金属材料用プライマー組成物には、更に増量剤として炭酸カルシウムを添加することも可能である。
【0030】
このような無機酸化物フィラーとして、本発明ではシリカと酸化チタンを併用する。シリカ及び酸化チタンの平均粒子径は、共に2〜30μmであることが好ましい。エポキシ樹脂との親和性が低い場合には、エポキシ樹脂との界面に水が浸入しやすくなり、沸騰水浸漬などの耐水試験において水分が膜中のシリカに沿ってチャンネリングにより容易に金属材料表面に到達し、接着性を低下させるからである。このような理由から酸化チタンとしては、アルミナコート処理した酸化チタンを使用するのが好ましい。
【0031】
上記無機酸化物フィラーのシリカと酸化チタンの配合量については、シリカに対する酸化チタンの配合量を増やすほど、加熱時の粘度降下が抑制されて造膜性は向上するが、同時に粘度が上昇するため塗布作業性が低下する。そのため、エポキシ樹脂の合計100質量部に対するシリカ:酸化チタンの配合比は、70質量部:10質量部〜40質量部:40質量部の範囲とすることが好ましい。
本発明の金属材料用プライマー組成物には、さらに分散剤として酸性分散剤を含むことが必要である。一般的に酸化チタンは分散性が悪く、長時間プライマーを保存すると凝集し、焼付け硬化時ハジキによる外観不良を起こし易いということが知られている。そのためこれらの問題点を改善するために、分散剤を配合する必要がある。本発明の金属材料用プライマー組成物は、上記構成成分を配合するが、これらの効果を最大限引き出すために分散剤としては、酸性分散剤であることが重要であり、また前記酸性分散剤は、ポリエーテルカルボン酸系分散剤であることが好ましく、また前記酸性分散剤の配合量は、エポキシ樹脂の合計100質量部に対して0.5〜5質量部であることが好ましい。0.5質量部未満では、分散剤の添加した効果が十分に得られず、5質量部を越えて添加してしまうとその効果が維持されず、沸騰水浸漬後の接着強度が低下してしまう。
酸系分散剤を添加することで、弱塩基性であるアルミナコート処理した酸化チタン表面に酸系分散剤が強く吸着し、酸化チタン粒子同士の凝集を抑制することにより、金属材料表面に塗布した際に造膜性に優れる効果が得られる。
【0032】
尚、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と3官能以上の多官能エポキシ樹脂を主体とする公知のプライマー組成物として、上述した特許文献3に記載のものがある。このプライマー組成物は溶剤希釈により塗布作業性を確保しているが、溶剤としてトルエンを使用する大気汚染への配慮を要するなど取り扱いが面倒である。一方、本発明の金属材料用プライマー組成物では、トルエンなどの溶剤を使用することなく、上記した各構成成分のみでバーコーター等での塗布作業に適した粘度、具体的には4〜30Pa・s程度にコントロールすることができる利点がある。
【実施例】
【0033】
以下に実施例および比較例を示して本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
〔プライマー組成物の作製〕
エポキシ樹脂として、2官能エポキシ樹脂のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)と、3官能以上の多官能エポキシ樹脂としてフェノールノボラックエポキシ樹脂(エポキシ樹脂B及びエポキシ樹脂C)とを配合し、次いで硬化剤、硬化触媒、無機酸化物フィラー(シリカ及び酸化チタン)を混合し、さらに分散剤を添加して、試料1のプライマー組成物を作製した。
【0035】
ここで、エポキシ樹脂Aとして三菱化学(株)製のJER828、エポキシ樹脂Bとして三菱化学(株)製のJER152、及びエポキシ樹脂Cとして三菱化学(株)製のJER154を使用し、それぞれの配合量はエポキシ樹脂A:エポキシ樹脂B:エポキシ樹脂C=90:5:5とした。
【0036】
次に、硬化剤としては三菱化学(株)製のシアンジアミド硬化剤(DICY7)を用い、硬化触媒としては四国化成(株)製の2−メチルイミダゾールを用い、配合量としてはエポキシ樹脂合計100質量部に対し、硬化剤は5質量部、硬化触媒は2質量部をエポキシ樹脂に混合した。
無機酸化物フィラーとして、シリカはキンセイマテック(株)製の平均粒径3〜24μmのシリカ(HS−05)を用い、酸化チタンは石原産業(株)製の平均粒径0.21μmの酸化チタン(タイペークCR60:アルミナ処理品)を使用した。シリカと酸化チタンの配合量としては、エポキシ樹脂合計100質量部に対し、シリカは50質量部、酸化チタンは30質量部をエポキシ樹脂に混合した。
最後に配合する分散剤としては、酸性分散剤である楠本化成工業(株)製ポリエーテルカルボン酸系分散剤(商品名:ED350)を使用した。具体的なポリエーテルカルボン酸系分散剤(商品名:ED350)の配合量としては、エポキシ樹脂合計100質量部に対し、0.5質量部配合した。
【0037】
なおプライマー組成物の作製条件は以下のとおりにした。プライマー組成物の各構成成分を秤量し、(株)日本精機製作所製のエクセルオートホモジナイザーを用いて、回転数10000rpm、混合時間2分間の条件で混合することにより、試料1のプライマー組成物を調製した。その後、プライマーは室温(23℃)に4週間保存後評価に供した。
【0038】
〔プライマー組成物の評価〕
次に、上記手順で作製した試料1のプライマー組成物を用い、それぞれステンレス鋼板の表面にプライマー層を形成し、塗布時の造膜性を評価すると共に、同じ試料のプライマー層付きステンレス鋼板2枚を二液型エポキシ系接着剤で接着することにより接着性能を評価した。
【0039】
即ち、板厚1.2mmのSUS304のステンレス鋼板(2B仕上げ)から幅25mm及び長さ100mmの試験片を切り出し、室温でアセトン浸漬により試験片を3分間脱脂した後、この試験片の表面に試料1の各プライマー組成物をバーコーターにより60μmの厚みに塗布し、175℃で45分間加熱硬化させてプライマー層を形成した。得られたプライマー層を目視観察して、造膜性を評価した。造膜性の評価は、試験片の全面に均一にプライマー組成物の膜が形成された場合を○、プライマー組成物の膜が形成されたが試験片の半分以上に膜が形成されなかった場合を△、プライマー組成物の膜が全く形成されなかった場合を×とした。試料1は、造膜性は○と判定された。
【0040】
その後、接着性能を評価するために、上記プライマー層を形成した試料1の各試験片2枚を用意し、それぞれプライマー層を対向させて直ちに二液型エポキシ系接着剤(住友3M(株)製、DP−190グレー)によりラップ幅12.5mmで接着した。接着部を室温にて24時間硬化させ、更に100℃にて1時間保持して完全に硬化させた。その後、接着された試料1の各試験片について、JIS K 6850に準拠して初期剪断接着強度を測定した。更に接着部の耐湿性能を調査するため、接着された各試験片を沸騰水に7日間浸漬した後、上記と同様に剪断接着強度を測定した。試料1は、初期剪断接着強度は20MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、16MPaであった。
【実施例2】
【0041】
上記実施例1において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤の配合量をエポキシ樹脂合計100質量部に対し0.5質量部であるところを1.0質量部に変更した以外は実施例1と同じ条件でプライマー組成物の試料2を作製し、実施例1と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は○で、初期剪断接着強度は23MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、17MPaであった。
【実施例3】
【0042】
上記実施例1において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤の配合量をエポキシ樹脂合計100質量部に対し0.5質量部であるところを1.5質量部に変更した以外は実施例1と同じ条件でプライマー組成物の試料3を作製し、実施例1と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は○で、初期剪断接着強度は23MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、17MPaであった。
【実施例4】
【0043】
上記実施例1において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤の配合量をエポキシ樹脂合計100質量部に対し0.5質量部であるところを2.0質量部に変更した以外は実施例1と同じ条件でプライマー組成物の試料4を作製し、実施例1と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は○で、初期剪断接着強度は22MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、15MPaであった。
【実施例5】
【0044】
上記実施例1において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤の配合量をエポキシ樹脂合計100質量部に対し0.5質量部であるところを2.5質量部に変更した以外は実施例1と同じ条件でプライマー組成物の試料5を作製し、実施例1と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は○で、初期剪断接着強度は21MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、14MPaであった。
【実施例6】
【0045】
上記実施例1において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤の配合量をエポキシ樹脂合計100質量部に対し0.5質量部であるところを3.0質量部に変更した以外は実施例1と同じ条件でプライマー組成物の試料6を作製し、実施例1と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は○で、初期剪断接着強度は20MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、12MPaであった。
【実施例7】
【0046】
上記実施例3において作製したプライマー組成物を、ステンレス鋼板から普通鋼板として板厚1.2mmの冷間圧延鋼板に代えて試料7を作製し、実施例3と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は○で、初期剪断接着強度は25MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、18MPaであった。
【実施例8】
【0047】
上記実施例3において作製したプライマー組成物を、ステンレス鋼板から板厚1.6mmのA2024−T3のアルミニウム合金板に代えて試料8を作製し、実施例3と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は○で、初期剪断接着強度は18MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、15MPaであった。
【比較例1】
【0048】
上記実施例1において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤を中性分散剤であるポリエーテルカルボン酸アミン塩の分散剤(商品名:ED360)に変更した以外は実施例1と同じ条件でプライマー組成物の試料9を作製した。その結果は、試料9が造膜性は×であったので、接着性評価には進まなかった。
【比較例2】
【0049】
上記実施例3において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤を、中性分散剤であるポリエーテルカルボン酸アミン塩の分散剤(商品名:ED360)に変更した以外は実施例4と同じ条件でプライマー組成物の試料10を作製した。実施例3と同様に造膜性、接着性能を評価した。その結果は、造膜性は△で、初期剪断接着強度は16MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、12MPaであった。
【比較例3】
【0050】
上記実施例6において最後に配合する酸性分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤を中性分散剤であるポリエーテルカルボン酸アミン塩の分散剤(商品名:ED360)に変更した以外は実施例6と同じ条件でプライマー組成物の試料11を作製した。その結果は、試料11が造膜性は×であったので、接着性評価には進まなかった。
【比較例4】
【0051】
プライマー層を形成せずに、ステンレス鋼板2枚を二液型エポキシ系接着剤で接着し、試料12を作製し接着性能を評価した。その結果は、初期剪断接着強度は20MPaで、沸騰水浸漬後の剪断接着強度は、2MPaであった。
【0052】
上記の結果から明らかなように、本発明による実施例1〜6の各プライマー組成物はステンレス鋼板に対して良好な造膜性を有すると同時に、そのプライマー層を形成したステンレス鋼板をエポキシ系接着剤で接着した実施例1〜6の試料1〜6は高い接着強度が得られ、しかも優れた耐水性を有することで高い接着強度を維持することができた。
【0053】
一方、比較例1〜3の試料7〜9の各プライマー組成物を用いた試料では、造膜性あるいは接着強度が不十分であった。尚、プライマー層を形成しない場合には、プライマー層なしの試料10の結果から分かるように、ステンレス鋼板の接着は可能であったが耐水性が低く、沸騰水浸漬により剪断接着強度が急激に低下した。
【0054】
以上の結果からわかるように、酸系分散剤であるポリエーテルカルボン酸系分散剤(商品名:ED350)は弱塩基性であるアルミナコート処理した酸化チタン表面に強く吸着し、酸化チタンの再凝集を抑制するため、造膜性に優れると考えられる。一方で、アミンにより中和された中性分散剤であるポリエーテルカルボン酸のアミン塩分散剤(商品名:ED360)はアルミナコート処理した酸化チタン粒子の表面に吸着せず酸化チタンが再凝集し、造膜性が悪かったと考えられる。