(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
メタメリズム(条件等色)とは、外光色による、色調または外観色の色変化の度合いを示す指標で、CIE(国際照明委員会)により規格化されたL
*a
*b
*表色系を用いて定義することができる。このメタメリズムが低い程、外光色による色調または外観色の色変化の度合いが小さいことになる。ガラスのメタメリズムが高い場合には、光源の種類が相違するとガラスの見た目の色調が大きく異なったものとなる。例えば、屋内におけるガラスの色調と屋外におけるガラスの色調とが大きく異なることになる。
【0014】
本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、着色成分を含有するものであり、下記(1)式で定義されるΔa
*の絶対値が2.0以下である。これにより、屋内におけるガラスの反射色調と屋外におけるガラスの反射色調との相違を小さくすることができる。
Δa
*とは、L
*a
*b
*表色系のD65光源による反射光の色度a
*とF2光源による反射光の色度a
*との差をいう。
Δa
*=a
*値(D65光源)−a
*値(F2光源) ・・・(1)
【0015】
また、本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、着色成分を含有するものであり、下記(1)式で定義されるΔa
*の絶対値および下記(2)式で定義されるΔb
*の絶対値を共に2.0以下にすることができる。これにより、屋内におけるガラスの反射色調と屋外におけるガラスの反射色調との相違を小さくすることができる。
Δa
*とは、L
*a
*b
*表色系のD65光源による反射光の色度a
*とF2光源による反射光の色度a
*との差をいう。
Δa
*=a
*値(D65光源)−a
*値(F2光源) ・・・(1)
Δb
*とは、L
*a
*b
*表色系のD65光源による反射光の色度b
*とF2光源による反射光の色度b
*との差をいう。
Δb
*=b
*値(D65光源)−b
*値(F2光源) ・・・(2)
なお、化学強化処理がされる前のメタメリズムが抑制されたガラスは、化学強化処理後においても同様の傾向(メタメリズムが抑制される)を示す。
【0016】
L
*a
*b
*表色系において、a
*は赤から緑の色調変化を示し、b
*は黄から青の色調変化を示す。人が色調変化をより敏感に感じるのは、赤から緑の色調変化である。そのため、本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、Δa
*の絶対値を2.0以下とすることで、メタメリズムが抑制されたガラスを得ることができる。また、Δa
*およびΔb
*の絶対値を共に2.0以下とすることで、メタメリズムがさらに抑制されたガラスを得ることができる。
【0017】
本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、L
*a
*b
*表色系を用いて定義される明度L
*が20〜85の範囲内であることが好ましい。すなわち、L
*が前記範囲内であると、ガラスの明度が「明るい」〜「暗い」の中間領域であるため、色調変化に対して認識しやすい範囲であり、本発明を用いることがより効果的である。なお、L
*が20未満であるとガラスは濃色を呈するため、ガラスの色調変化を認識し難い。また、L
*が85を超えるとガラスは淡色を呈するため、ガラスの色調変化を認識し難い。L
*は20〜60が好ましく、22〜50がより好ましく、23〜40がさらに好ましく、24〜30が特に好ましい。上記明度L
*はF2光源を用い、ガラスの裏面側に白色の樹脂板を設置した場合の反射光を測定したデータに基づくものである。
【0018】
本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、ガラス中に着色成分として、Fe
2O
3、CuO、V
2O
5およびSeからなる群より選択された少なくとも1成分の合計量が、酸化物基準のモル百分率表示で、0.001〜5%含有することが好ましい。これにより、所望の着色を呈するガラスであって、メタメリズムが抑制されたガラスを得ることができる。
【0019】
ガラス中に着色成分としてFe
2O
3、CuO、V
2O
5およびSeからなる群より選択された少なくとも1成分を含有することで、メタメリズムが抑制される理由は、以下のように推察される。
ガラスの反射色調は、光源の分光分布とガラスの分光反射率とが重なったものである。
【0020】
光源の分光分布は、光源の種類により相違する。D65光源は、紫外域を含む昼光で照らされている物体色の測定用光源であり、可視波長域においてブロードな分光分布を示す。また、F2光源は、代表的な蛍光ランプの白色光であり、可視波長域において特定の波長にピークを備える分光分布を示す。
ガラス中に含有される着色成分は、それぞれの成分により吸収する波長が異なる。そのため、着色成分を含有するガラスの分光反射率は、着色成分の種類および含有量によって、相違する。
【0021】
上記Fe
2O
3、CuO、V
2O
5およびSeからなる群より選択された少なくとも1成分を含有するガラスは、D65光源を用いた場合のガラスの反射色調とF2光源を用いた場合のガラスの反射色調との差が小さい。これは、前記着色成分を含有するガラスは、F2光源の分光分布におけるピークを示す波長の光を吸収する特性を備えることで、光源による分光分布の相違を緩和し、これによりガラスの反射色調の差が小さくなるものと考えられる。
【0022】
Fe
2O
3、CuO、V
2O
5およびSeからなる群より選択された少なくとも1成分を着色成分としてガラスに含有する場合、酸化物基準のモル百分率表示で、0.001〜5%含有することが好ましい。これら着色成分を含有する場合、着色成分の合計量が0.001%未満では、メタメリズムの抑制について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上であり、典型的には0.2%以上である。これら着色成分の合計量が5%超ではガラスが不安定になり、失透が生じるおそれがある。好ましくは4.5%以下、典型的には4%以下である。
これら着色成分は、1種類であっても2種類以上を含有してもよい。
【0023】
着色成分として、Fe
2O
3を含有する場合、0.015%未満では、メタメリズムの抑制について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上であり、典型的には0.2%以上である。Fe
2O
3が5%超ではガラスが不安定になり、失透が生じるおそれがある。好ましくは4%以下、典型的には3%以下である。
【0024】
着色成分として、CuOを含有する場合、0.01%未満では、メタメリズムの抑制について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上であり、典型的には0.2%以上である。CuOが5%超ではガラスが不安定になり、失透が生じるおそれがある。好ましくは4%以下、典型的には3%以下である。
【0025】
着色成分として、V
2O
5を含有する場合、0.01%未満では、メタメリズムの抑制について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上であり、典型的には0.2%以上である。V
2O
5が5%超ではガラスが不安定になり、失透が生じるおそれがある。好ましくは4%以下、典型的には3%以下である。
【0026】
着色成分として、Seを含有する場合、0.001%未満では、メタメリズムの抑制について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.01%以上であり、典型的には0.1%以上である。Seが5%超ではガラスが不安定になり、失透が生じるおそれがある。好ましくは4%以下、典型的には3%以下である。
【0027】
次いで、本発明のガラスの好ましいガラス組成(Fe
2O
3、CuO、V
2O
5およびSeを除く)について説明する。
本発明のガラスとしては、下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2を55〜80%、Al
2O
3を0.25〜16%、B
2O
3を0〜12%、Na
2Oを5〜20%、K
2Oを0〜15%、MgOを0〜15%、CaOを0〜15%、ΣRO(Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn)を0〜25%、ZrO
2を0〜1%、Fe
2O
3を0〜5%、CuOを0〜5%、V
2O
5を0〜5%、Seを0〜5%、Fe
2O
3+CuO+V
2O
5+Seを0.001〜5%含有するものが挙げられる。
【0028】
以下、本発明のガラスの組成について、特に断らない限り酸化物基準のモル百分率表示含有量を用いて説明する。
なお、本明細書において、ガラスの各成分や着色成分の含有量は、ガラス中に存在する各成分が、表示された酸化物として存在するものとした場合の換算含有量を示す。
たとえば「Fe
2O
3を0.01〜5%含有する」とは、ガラス中に存在するFeが、すべてFe
2O
3の形で存在するものとした場合のFe含有量、すなわちFeのFe
2O
3換算含有量が0.01〜5%であることを意味するものである。
【0029】
SiO
2は、ガラスの骨格を構成する成分であり必須である。55%未満ではガラスとしての安定性が低下する、または耐候性が低下する。好ましくは60%以上である。より好ましくは65%以上である。SiO
2が80%超ではガラスの粘性が増大し溶融性が著しく低下する。好ましくは75%以下、典型的には70%以下である。
【0030】
Al
2O
3は、ガラスの耐候性および化学強化特性を向上させる成分であり、必須である。0.25%未満では耐候性が低下する。好ましくは0.5%以上、典型的には1%以上である。
Al
2O
3が16%超ではガラスの粘性が高くなり均質な溶融が困難になる。好ましくは14%以下、典型的には12%以下である。
化学強化処理によりガラスの表面に高い表面圧縮応力を形成する場合は、Al
2O
3は5〜16%(ただし、5%を含まない)とすることが好ましい。また、ガラスの溶融性を高め、安価に製造する場合は、Al
2O
3は0.25〜5%とすることが好ましい。
【0031】
B
2O
3は、ガラスの耐候性を向上させる成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。B
2O
3を含有する場合、4%未満では耐候性向上について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは5%以上であり、典型的には6%以上である。
B
2O
3が12%超では揮散による脈理が発生し、歩留まりが低下するおそれがある。好ましくは11%以下、典型的には10%以下である。
【0032】
Na
2Oは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、またイオン交換により表面圧縮応力層を形成させるため、必須である。5%未満では溶融性が悪く、またイオン交換により所望の表面圧縮応力層を形成することが困難となる。好ましくは6%以上、典型的には7%以上である。
Na
2Oが20%超では耐候性が低下する。好ましくは18%以下、典型的には16%以下である。
【0033】
K
2Oは、ガラスの溶融性を向上させる成分であるとともに、化学強化におけるイオン交換速度を大きくする作用があるため、必須ではないが含有することが好ましい成分である。K
2Oを含有する場合、0.01%未満では溶融性向上について有意な効果が得られない、またはイオン交換速度向上について有意な効果が得られないおそれがある。典型的には0.3%以上である。K
2Oが15%超では耐候性が低下する。好ましくは13%以下、典型的には10%以下である。
【0034】
RO(Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す)は、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須ではないが必要に応じていずれか1種以上を含有することができる。その場合ROの含有量の合計ΣRO(ΣROは、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOを表す)が1%未満では溶融性が低下するおそれがある。好ましくは3%以上、典型的には5%以上である。ΣROが25%超では耐候性が低下する。好ましくは20%以下、より好ましくは18%以下、典型的には15%以下である。
【0035】
MgOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。MgOを含有する場合、3%未満では溶融性向上について有意な効果が得られないおそれがある。典型的には4%以上である。MgOが15%超では耐候性が低下する。好ましくは13%以下、典型的には12%以下である。
【0036】
CaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。CaOを含有する場合、0.01%未満では溶融性向上について有意な効果が得られない。典型的には0.1%以上である。CaOが15%超では化学強化特性が低下する。好ましくは12%以下、典型的には10%以下である。また、ガラスの化学強化特性を高くする場合は、実質的に含有しないことが好ましい。
化学強化処理によりガラスの表面に高い表面圧縮応力を形成する場合は、CaOは0〜5%(ただし、5%を含まない)とすることが好ましい。また、ガラスの溶融性を高め、安価に製造する場合は、CaOは5〜15%とすることが好ましい。
【0037】
SrOは、溶融性を向上させるための成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。SrOを含有する場合、1%未満では溶融性向上について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは3%以上であり、典型的には6%以上である。SrOが15%超では耐候性や化学強化特性が低下するおそれがある。好ましくは12%以下、典型的には9%以下である。
【0038】
BaOは、溶融性を向上させるための成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。BaOを含有する場合、1%未満では溶融性向上について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは3%以上であり、典型的には6%以上である。BaOが15%超では耐候性や化学強化特性が低下するおそれがある。好ましくは12%以下、典型的には9%以下である。
【0039】
ZrO
2は、イオン交換速度を大きくする成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。ZrO
2を含有する場合、5%以下の範囲が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。ZrO
2が5%超では溶融性が悪化して未溶融物としてガラス中に残るおそれがある。典型的にはZrO
2は含有しない。
【0040】
ZnOは、溶融性を向上させるための成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。ZnOを含有する場合、1%未満では溶融性向上について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは3%以上であり、典型的には6%以上である。ZnOが15%超では耐候性が低下するおそれがある。好ましくは12%以下、典型的には9%以下である。
【0041】
Fe
2O
3は、Fe
2O
3で換算した2価の鉄の含有量の割合(鉄レドックス)が10〜50%、特には15〜40%であることが好ましい。20〜30%であるともっとも好ましい。鉄レドックスが10%より低いとSO
3を含有する場合その分解が進まず、期待する清澄効果が得られないおそれがある。50%より高いと清澄前にSO
3の分解が進みすぎて期待する清澄効果が得られない、あるいは、泡の発生源となり泡個数が増加するおそれがある。
【0042】
本明細書では、全鉄をFe
2O
3に換算したものをFe
2O
3の含有量として表記としている。鉄レドックスは、メスバウアー分光法によりFe
2O
3に換算した全鉄中の、Fe
2O
3に換算した2価の鉄の割合を%表示で示すことができる。具体的には、放射線源(
57Co)、ガラス試料(上記ガラスブロックから切断、研削、鏡面研磨した3〜7mm厚のガラス平板)、検出器(LND社製45431)を直線上に配置する透過光学系での評価を行う。光学系の軸方向に対して放射線源を運動させ、ドップラー効果によるγ線のエネルギー変化を起こす。そして室温で得られたメスバウアー吸収スペクトルを用いて、全鉄に対する2価の鉄の割合と全鉄に対する3価の鉄の割合を算出し、全鉄に対する2価のFeの割合を鉄レドックスとする。
【0043】
上記成分以外にも下記の成分をガラス組成中に導入してもよい。
【0044】
Co
3O
4は、ガラスを濃色に着色するための着色成分であるとともに、鉄との共存下において脱泡効果を奏する成分であり、必須ではないが5%以下の範囲で含有してもよい。すなわち、高温状態で3価の鉄が2価の鉄となる際に放出されるO
2泡を、コバルトが酸化される際に吸収するため、結果としてO
2泡が削減され、脱泡効果が得られる。
さらに、Co
3O
4は、SO
3と共存させることにより清澄作用をより高める成分である。すなわち、例えばボウ硝(Na
2SO
4)を清澄剤として使用する場合、SO
3→SO
2+1/2O
2の反応を進めることで、ガラスからの泡抜けが良くなるため、ガラス中の酸素分圧は低い方が好ましい。鉄を含むガラスにおいて、コバルトが共添加されることで、鉄の還元により生じる酸素の放出を、コバルトの酸化により抑制することができ、SO
3の分解が促進される。このため、泡欠点の少ないガラスを作製することができる。
【0045】
また、化学強化処理を行うためにアルカリ金属を比較的多量に含むガラスは、ガラスの塩基性度が高くなるため、SO
3が分解しにくく、清澄効果が低下する。このように、SO
3が分解しにくいガラスにおいて、鉄を含むものでは、コバルトは、SO
3の分解を促進するため、脱泡効果の促進に特に有効である。
このような清澄作用を発現させるためには、Co
3O
4は0.01%以上とされ、好ましくは0.02%以上、典型的には0.03%以上である。5%超では、ガラスが不安定となり失透を生じる。好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。
【0046】
SO
3は、清澄剤として作用する成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。SO
3を含有する場合0.005%未満では期待する清澄作用が得られない。好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上である。0.03%以上がもっとも好ましい。また0.5%超では逆に泡の発生源となり、ガラスの溶け落ちが遅くなったり、泡個数が増加するおそれがある。好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。0.1%以下がもっとも好ましい。
【0047】
SnO
2は、清澄剤として作用する成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。SnO
2を含有する場合、0.005%未満では期待する清澄作用が得られない。好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上である。また1%超では逆に泡の発生源となり、ガラスの溶け落ちが遅くなったり、泡個数が増加するおそれがある。好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下である。0.3%以下がもっとも好ましい。
【0048】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、前述したSO
3、SnO
2以外に、塩化物やフッ化物を適宜含有してもよい。
【0049】
Li
2Oは、溶融性を向上させるための成分であり、必須ではないが必要に応じて含有することができる。Li
2Oを含有する場合、1%未満では溶融性向上について有意な効果が得られないおそれがある。好ましくは3%以上であり、典型的には6%以上である。Li
2Oが15%超では耐候性が低下するおそれがある。好ましくは10%以下、典型的には5%以下である。
【0050】
着色成分として、MpOq(但し、Mは、Ti、Cr、Pr、Ce、Bi、Eu、Mn、Er、Ni、Nd、W、Rb、およびAgから選ばれる少なくとも1種であり、pとqはMとOの原子比である)を、必要に応じて含有することができる。これら着色成分は、ガラスを所望の色に着色するための成分であり、着色成分を適宜選択することにより、例えば、青色系、緑色系、黄色系、紫色系、桃色系、赤色系、無彩色等の着色ガラスを得ることができる。
【0051】
上記したMpOqの着色成分の含有量が0.001%未満ではガラスの着色が極めて薄くなるため、ガラスを厚くしなければ有色として認識できず、意匠性を持たせるためには肉厚をかなり厚く設計する必要が生じることになる。したがって、0.001%以上含有させる。好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上である。また、含有量が10%超ではガラスが不安定となり失透のおそれがある。したがって、含有量は10%以下とする。好ましくは8%以下であり、より好ましくは5%以下である。
【0052】
本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、ガラスの表面に表面圧縮応力層を有していてもよい。これにより、機械的強度の高い、着色ガラスを得ることができる。ガラスの表面に形成される表面圧縮応力層の深さ(以下、DOLということがある)は、5μm以上、10μm以上、20μm以上、30μm以上となるように強化処理されていることが好ましい。ガラスを外装部材に用いる場合、ガラスの表面に接触傷がつく確率が高く、ガラスの機械的強度が低下することがある。そこで、DOLを大きくすれば、化学強化ガラスの表面に傷がついても、割れ難くなる。一方、強化処理後にガラスを切断加工しやすくするために、DOLを70μm以下とすることが好ましい。
【0053】
本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、ガラス表面に形成される表面圧縮応力(以下、CSということがある)が、300MPa以上、500MPa以上、700MPa以上、900MPa以上となるように化学強化処理されていることが好ましい。CSが高くなることで化学強化ガラスの機械的強度が高くなる。一方、CSが高くなりすぎるとガラス内部の引張応力が極端に高くなるおそれがあるため、CSは1400MPa以下とすることが好ましく、1300MPa以下とすることがより好ましい。
【0054】
ガラスの強度を高める方法として、ガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法が一般的に知られている。ガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法としては、風冷強化法(物理強化法)と、化学強化法が代表的である。風冷強化法(物理強化法)は、軟化点付近まで加熱したガラス板表面を風冷などにより急速に冷却して行う手法である。また、化学強化法は、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板表面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(典型的にはLiイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的にはLiイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換する手法である。
【0055】
例えば、電子機器の外装部材に用いられるガラスは、通常2mm以下の厚さで使用されることが多い。このように、厚みの薄いガラス板に対して風冷強化法を適用すると、表面と内部の温度差を確保しにくいため、圧縮応力層を形成することが困難である。このため、強化処理後のガラスにおいて、目的の高強度という特性を得ることができない。また、風冷強化では、冷却温度のばらつきにより、ガラス板の平面性を損なう懸念が大きい。特に厚みの薄いガラス板については、平面性が損なわれる懸念が大きく、本発明の目的である質感が損なわれる可能性がある。これらの点から、ガラスは、後者の化学強化法によって強化することが好ましい。
【0056】
化学強化処理は、例えば、400℃〜550℃の溶融塩中にガラスを1〜20時間程度浸漬することで行うことができる。化学強化処理に用いる溶融塩としては、カリウムイオンもしくはナトリウムイオンを含むものであれば、特に限定されないが、例えば硝酸カリウム(KNO
3)の溶融塩が好適に用いられる。その他、硝酸ナトリウム(NaNO
3)の溶融塩や硝酸カリウム(KNO
3)と硝酸ナトリウム(NaNO
3)とを混合した溶融塩を用いてもよい。
【0057】
本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、ガラスとして、ガラス中に分相や結晶が生じている、いわゆる分相ガラスや結晶化ガラスであってもよい。ガラスを外装部材として用いる場合、表面側から裏面側が透けない、いわゆる遮蔽性(不透明性)が求められることがある。ガラスに遮蔽性を付与する手段としては、着色成分を用いてガラスを濃色とし、可視光の反射透過率を低くする方法がある。また、ガラス中に分相や結晶を生じさせることで、これらガラス中の微細構造によりガラス中を透過する光を拡散し反射透過率を低くする方法もある。本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、着色成分を含有する分相ガラスや結晶化ガラスを用いることで、遮蔽性が高い、所望の色調のガラスを得ることができる。また、分相ガラスや結晶化ガラスを前述の化学強化処理することで、高い機械的強度を備えた化学強化ガラスを得ることもできる。
【0058】
結晶化ガラスは、数nmから数μm大の結晶相がガラスマトリックス中に分布しており、母体ガラスの組成を選択することや製造条件、熱処理条件を制御することで、析出する結晶の種類や大きさを変え、所望の遮蔽性のガラスを得ることができる。
分相ガラスは、組成の異なる2つ以上のガラス相が分布する。2つの相が連続的に分布するスピノーダルと1つの相がマトリクス中に粒子状に分布するバイノーダルがあり、それぞれの相は1μm以下の大きさである。分相ガラスは、適当な分相領域を求める組成制御と分相処理を行う熱処理条件にて所望の遮蔽性のガラスを得ることができる。
【0059】
本発明のガラスおよび化学強化ガラスは、外装部材として用いられることが好ましい。ガラスが着色されており、かつメタメリズムが抑制されているため、外装部材を用いる機器に対して高い美観を付与することができる。また、化学強化ガラスとすることで、前述に加え、衝撃による破損や傷が付き難い高い機械的強度を備えることができる。外装部材とは、例えば電子機器の外表面に設けられるものであるが、電子機器に限らず装飾品、建材、家具、自動車の操作パネル・内装品の外表面に設けられてもよい。また、ガラス自体が物品を構成するものであってもよい。また、ガラスの形状は、平板形状に限らず、平板形状以外の形状を有するものであってもよい。
【0060】
外装部材としては、特に限定されないが、例えば屋内外で使用することが想定される携帯型電子機器に好適に用いることができる。携帯型電子機器とは、携帯して使用可能な通信機器や情報機器を包含する概念である。例えば、通信機器としては、通信端末として、携帯電話、PHS(Personal Handy−phone System)、スマートフォン、PDA(Personal Data Assistance)、PND(Portable Navigation Device、携帯型カーナビゲーションシステム)があり、放送受信機として携帯ラジオ、携帯テレビ、ワンセグ受信機等が挙げられる。また、情報機器として、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯音楽プレーヤー、サウンドレコーダー、ポータブルDVDプレーヤー、携帯ゲーム機、ノートパソコン、タブレットPC、電子辞書、電子手帳、電子書籍リーダー、携帯プリンター、携帯スキャナ等が挙げられる。また、据え置き型電子機器や自動車に内装される電子機器にも利用できる。なお、電子機器はこれらの例示に限定されるものではない。
【0061】
本発明のガラスの製造方法は特に限定されないが、例えば種々のガラス原料を適量調合し、加熱し溶融した後、脱泡、撹拌などにより均質化し、周知のダウンドロー法、プレス法などによって板状等に成形するか、またはキャストして所望の形状に成形する。そして、徐冷後所望のサイズに切断し、必要に応じ研磨加工を施す。または、一旦塊状に成形したガラスを再加熱してガラスを軟化させてからプレス成形し、所望の形状のガラスを得る。また、本発明の化学強化ガラスは、このようにして得られたガラスを化学強化処理する。そして、化学強化処理したガラスを冷却し、化学強化ガラスを得る。
【0062】
以上、本発明のガラスおよび化学強化ガラスについて一例を挙げて説明したが、本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて適宜構成を変更することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
表1〜表11の例1〜例99(例1〜43、例47〜98は実施例、例44〜46、99は比較例)について、表中にモル百分率表示で示す組成になるように、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして100mlとなるように秤量した。なお、表に記載のSO
3は、ガラス原料にボウ硝(Na
2SO
4)を添加し、ボウ硝分解後にガラス中に残る残存SO
3であり、計算値である。
【0065】
次いで、この原料混合物を白金製るつぼに入れ、1500〜1600℃の抵抗加熱式電気炉に投入し、約0.5時間加熱して原料が溶け落ちた後、1時間溶融し、脱泡した。その後、およそ630℃に予熱した、縦約50mm×横約100mm×高さ約20mmの型材に流し込み、約1℃/分の速度で徐冷し、ガラスブロックを得た。このガラスブロックを切断して、サイズが40mm×40mm、厚さ0.8mmになるようにガラスを切り出した後、研削し、最後に両面を鏡面に研磨加工し、板状のガラスを得た。
【0066】
得られた板状のガラスについて、化学強化処理前の色調を測定した。各ガラスの色調は、CIEにより規格化されたL
*a
*b
*表色系の反射光の色度を測定した。光源として、F2光源およびD65光源を用い、それぞれについて、反射光の色度測定をした。L
*a
*b
*表色系の反射光の色度測定は、分光色測計(エックスライト社製、Colori7)を用いて測定した。なお、ガラスの裏面側(光源からの光が照射される面の裏面)には、白色の樹脂板を置いて測定を行った。
【0067】
ガラス(例7、例8、例24〜例27、例29〜例39、例69、例71、例75〜例78)について、化学強化処理後に表面応力測定装置を用い、表面圧縮応力(CS)および表面圧縮応力層の深さ(DOL)を測定した。表面応力測定装置は、ガラス表面に形成された表面圧縮応力層が、表面圧縮応力層が存在しない他のガラス部分と屈折率が相違することで光導波路効果を示すことを利用した装置である。また、表面応力測定装置では、光源として中心波長が795nmのLEDを用いて行った。
化学強化処理は、ガラスを425℃のKNO
3(99%)とNaNO
3(1%)とからなる溶融塩に6時間浸漬し、化学強化処理した。また、化学強化処理後、ガラスの温度が425℃から300℃まで下がる過程を400℃以上/分の冷却条件にて冷却した。
【0068】
以上の評価結果を表1〜表11に示す。なお、表中で「−」と表示しているものは、未測定の項目である。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
【表10】
【0079】
【表11】
【0080】
表1〜表11に示すようにFe
2O
3、CuO、V
2O
5およびSeからなる群より選択された少なくとも1成分を含有する実施例のガラスは、メタメリズムの指標であるΔa
*がいずれも2.0以下であり、メタメリズムを抑制できることがわかる。また、例10、例22、例23、例83、例94を除く実施例のガラスは、Δa
*およびΔb
*がいずれも2.0以下であり、メタメリズムを一層抑制できることがわかる。これに対し、Fe
2O
3、CuO、V
2O
5およびSeからなる群より選択された少なくとも1成分の合計量が0.01%を超えて含有しない比較例のガラス(例44〜例46、例99)は、Δa
*が2.0を超えており、メタメリズムを抑制できない。
【0081】
また、CSとDOLを評価した実施例の各ガラスは、化学強化処理を行うことで、高い機械的強度を備えたガラスであることがわかる。
【0082】
次いで、ガラス(例7、例8、例21、例24〜例27、例29〜例39、例48〜例50、例57〜例65、例81〜例82)について、化学強化処理後の色調を測定した。各ガラスの色調は、前述と同様にCIEにより規格化されたL
*a
*b
*表色系の反射光の色度を測定した。光源として、F2光源およびD65光源を用い、それぞれについて、反射光の色度測定をした。L
*a
*b
*表色系の反射光の色度測定は、分光色測計(エックスライト社製、Colori7)を用いて測定した。なお、ガラスの裏面側(光源からの光が照射される面の裏面)には、白色の樹脂板を置いて測定を行った。
化学強化処理は、ガラスを450℃のKNO
3(99%)とNaNO
3(1%)とからなる溶融塩に6時間浸漬し、化学強化処理した。また、化学強化処理後、ガラスの温度が450℃から300℃まで下がる過程を400℃以上/分の冷却条件にて冷却した。
以上の評価結果を表12〜表15に示す。
【0083】
【表12】
【0084】
【表13】
【0085】
【表14】
【0086】
【表15】
【0087】
表12〜表15に示すようにFe
2O
3、CuOおよびSeからなる群より選択された少なくとも1成分を含有する実施例の化学強化ガラスは、メタメリズムの指標であるΔa
*およびΔb
*がいずれも2.0以下であり、メタメリズムを抑制できることがわかる。
【0088】
次いで、表1、表3、表9に記載した各実施例のうちSeを含有するガラス組成の分析値を表16〜表17に示す。ここで示したガラス、化学強化ガラスは、ガラス中の着色成分としてSeを含有している。ガラス原料中にSeを含有する場合、ガラス原料を溶融する工程でSeが揮発する。ガラス原料中に投入したSeのうち、ガラス中に残存するSeの割合(以下、「Se残存率」ということがある。)は、ガラス原料の溶融方法によって相違する。例えば、ポット炉にてガラス原料を溶融する場合、溶融の過程で原料中のSeは80〜99%程度揮散することがある。
【0089】
表16〜表17に示す例79、例80、例25、例81、例82、例83は、表3、表9に記載された各成分からなるガラス原料を溶融してできたガラスを、湿式分析法にて組成分析した各成分の含有量を示すものである。表16に示す例10、例20〜例24は、Se含有量のみ、例79、例80、例25のSe残存率の平均値より算出した計算値であり、Se以外の各成分は、表1、表3、表9と同一である。また、表16〜表17に示す例26、例27は、Se含有量のみ、例81、例82、例83のSe残存率の平均値より算出した計算値であり、Se以外の各成分は、表3、表9と同一である。
【0090】
Se残存率とは、「Se残存率=(分析値におけるSe含有量/調合組成におけるSe含有量)×100[%]」で表されるように、各実施例の表1、表3、表9に示す調合組成と表16〜表17に示す分析値とを対比し、調合時のSeの添加量が実際のガラスになった際にどの程度残存しているかを示すものである。例79、例80、例25のSe残存率の平均値は、0.65%である。また、例81、例82、例83のSe残存率の平均値は、3.88%である。Se含有量の分析値を実測していない各実施例のガラスは、表1〜表11に記載のSe含有量に、前記Se残存率を乗じた値を表16〜表17に計算値として記載した。なお、ガラスは、含有成分によってガラス原料の溶融温度が相違する。Se残存率は、ガラス原料の溶融温度に影響されるため、各実施例のガラス原料の溶融温度を考慮して、前述のように2つのグループに分けてSe残存率を算出した。
【0091】
【表16】
【0092】
【表17】
【0093】
本発明によれば、メタメリズムが抑制され、化学強化処理前後の色調変化が小さく、機械的強度に優れた、着色された化学強化用ガラス及び化学強化ガラスを作製することができる。