【実施例】
【0031】
<実験例1>
1.Hsp47とコラーゲンとの結合阻害活性を有する物質のスクリーニング
天然由来化合物と合成化合物とを含む化合物ライブラリーを用いて、Hsp47とコラーゲンとの結合阻害活性を有する物質の探索を行った。化合物ライブラリーは、放線菌(Actinomycetes)由来化合物を33,440種、真菌(Fungi)由来化合物を8,240種、その他の天然物由来化合物を640種、合成化合物を10,240種含む。
【0032】
(1)組換えHsp47タンパクの発現・精製
大腸菌発現系を用いてリコンビナントHsp47(rHsp47)の発現と精製を行った。ベクター(pET21a, Invitrogen)にchick Hsp47をクローニングし、発現ベクター(pET21a-chick Hsp47)を作成した。発現ベクターを用いて大腸菌(BL21(DE3)株)を形質転換し、培養を行った。培養液にIPTGを添加し、Hsp47をヒスチジンタグ組換えタンパクとして発現させた。菌体を細胞溶解バッファー(20mM Tris-HCl pH7.5, 150mM NaCl, 50mM imidazole, 15% glycerol, 1%NP40)に懸濁し、リゾチームを加え、氷上で50分間撹拌した。懸濁液を超音波処理した後、遠心分離を行った。ヒスチジンタグ組換えタンパク用精製カラム、ゲル濾過カラム及び限外濾過ユニットを用い、定法に従って上清中からrHsp47を回収した。
【0033】
(2)表面プラズモン共鳴測定によるスクリーニング
ライブラリー化合物の存在下におけるrHsp47とコラーゲンとの相互作用をSPRバイオセンサー(BIAcore3000, BIACORE)を用いて測定した。コラーゲンをアミノカップリング法によりCM5センサーチップに固定した。rHsp47をランニングバッファー(0.01 M HEPES pH 7.4, 0.15 M NaCl, 0.005% (v/v) SurfactantP20)を用いて6.6 microg/mlに調製した。また、ランニングバッファーを用いてライブラリー化合物(被検化合物)を40, 13, 4.4 microMに調製した。測定は、流速10 microl/min、相互作用時間150秒、乖離時間15秒、温度25℃の条件で行った。
【0034】
化合物の非存在下でのrHsp47とコラーゲンの結合量に対して、化合物の存在下で減少した結合量の比率を算出し、阻害率を得た。結果を
図1に示す。化合物A、化合物B、化合物Cの存在下においてrHsp47とコラーゲンとの結合量の減少がみられ、これらの化合物がrHsp47とコラーゲンとの結合を阻害する活性を有していることが明らかとなった。化合物Cの構造のみを下記に示す。
【0035】
化合物C:
【化3】
【0036】
(3)細胞外コラーゲンの蓄積量の評価
シリウスレッドを用いて細胞外のコラーゲン量の評価を行った。Hsp47遺伝子がヘテロなマウス繊維芽細胞(+/−)をプレートに播種した。DMSOに50microMで溶解した化合物A、化合物B、化合物Cを培地に添加し、72時間培養した。培地を除いた後、PBSで2回洗浄し、ブアン液(75%ピクリン酸、10%ホルマリン、5%酢酸)で固定した。蒸留水で2回洗浄し、シリウスレッド溶液(0.1% シリウスレッド、ピクリン酸溶液)を加え、室温で1時間染色した。0.01N HClを用いて非特異的に吸着した色素を除いた後、0.1N NaOHを加えて色素を溶解させ、吸光度(570nm)を測定した。
【0037】
化合物の存在下と非存在下での吸光度比(存在下/非存在下)を、コラーゲン蓄積量として算出した。結果を
図2に示す。全ての化合物について、その存在下でのコラーゲン蓄積量の減少がみられ、これらの化合物が細胞外コラーゲンの蓄積を抑制する活性を有していることが明らかとなった。
【0038】
さらに、パルスチェイス法により、細胞内へのコラーゲン貯留量の評価を行った。マウス繊維芽細胞を化合物A、化合物B、化合物C(100 microM)存在下で1時間培養した。メチオニン及びシステインを含まない培地にて30分間培養を行った後、培地を
35S標識のメチオニン及びシステイン(Express
35S protein labeling mix, PerkinElmer Life Sciences)を終濃度4.1Mbq/mlで含む培地に交換し、20分間標識を行った。その後、非標識のメチオニン及びシステインを含む培地に交換し、一定時間培養を行った。
【0039】
培養後、培地回収後の細胞をPBSで洗浄後、タンパク質抽出バッファー(50mM Tris-HCl pH8.0, 0.15M NaCl, 5mM EDTA, 1% NP40)を加え、氷上で20分間静置した。その後、遠心分離を行って得た上清にサンプルバッファーと0.1M DTTを加えて5分間煮沸し、細胞成分サンプルとした。
【0040】
細胞成分サンプルについてSDS-PAGEを行い、FLA-7000(FujiFILM)を用いて
35S標識プロコラーゲンの放射活性を検出し、チェイス開始時に対する1時間後の放射活性比(1時間後/0時間)を算出した。プロコラーゲンのバンド位置の同定には免疫沈降法を用いた。結果を
図3に示す。全ての化合物で、コントロールに比して細胞内に貯留する
35S標識プロコラーゲン量が増加し、特に化合物Cでは顕著な増加が認められた。このことから、化合物Cがコラーゲンの細胞外分泌を抑制する作用を有することが明らかとなった。
【0041】
以上、本試験例の結果から、化合物CがHsp47とコラーゲンとの結合を阻害し、Hsp47によるコラーゲンの細胞外分泌機能を阻害することによってコラーゲンの細胞外蓄積を抑制する可能性が示唆された。
【0042】
<実験例2>
2.化合物Cの分解産物の活性評価
化合物Cの分解産物である化合物D及び化合物(I−1)について、rHsp47とコラーゲンとの結合阻害活性を評価した。評価は、SPRバイオセンサーを用いて実験例1と同様にして行った。化合物D及び化合物(I−1)の構造を下記に示す。
【0043】
化合物D:
【化4】
【0044】
化合物(I−1):
【化5】
【0045】
化合物D及び化合物(I−1)の阻害率を
図4に示す。化合物(I−1)においてrHsp47とコラーゲンとの結合阻害活性が顕著に認められた。
【0046】
さらに、大部分がコラーゲンの単量体で占められるゼラチンを用い、P4Hとゼラチン(コラーゲン単量体)との結合阻害活性を評価した。P4Hには、ニワトリ胚から精製したタンパクを用いた。ニワトリ胚を氷冷したExtraction buffer(0.1 M NaCl, 0.1 M glycine, 10 microM DTT, 0.01 M Tris- HCl buffer pH 7.8, 0.1% TritonX100)に入れホモジェナイズを行った後、遠心分離を行って上清を回収した。硫安沈殿によりタンパクを濃縮した後、透析により塩を除去した。ポリLプロリンカラムに吸着させ、Enzyme buffer(0.1 M NaCl, 0.1 M glycine, 10 uM DTT, 0.01 M Tris- HCl buffer pH 7.8)で洗浄した後、poly(proline) (平均分子量7 kDa,Sigma)で溶出させた。イオン交換カラムとゲル濾過カラムを用いて溶出液中のP4Hを精製した。
【0047】
結果を
図5に示す。化合物(I−1)は、2, 6, 17 microMの各濃度においてP4Hとゼラチンとの結合も阻害し得ることが明らかとなった。
【0048】
<実験例3>
3.化合物(I−1)のHsp47及びP4Hに対する結合能の評価
化合物(I−1)のHsp47、P4H及びコラーゲンに対する結合能をSPRバイオセンサー(BIAcoreA100, BIACORE)を用いて評価した。rHsp47、P4H又はコラーゲンをCM5センサーチップに固定した。化合物(I−1)をランニングバッファー(0.01 M HEPES pH 7.4, 0.15 M NaCl, 0.005% (v/v) Tween20)を用いて8.5、55.6、166.7 microMに調製した。測定は、流速10 microl/min、相互作用時間180秒、乖離時間30秒、温度25℃の条件で行った。
【0049】
結果を
図6に示す。化合物(I−1)のHsp47及びP4Hへの結合量は濃度依存的に増加した。一方、化合物(I−1)はコラーゲンには結合しなかった。このことから、化合物(I−1)は、Hsp47及びP4Hに結合してこれらとコラーゲンとの結合を阻害することが示唆された。
【0050】
<実験例4>
4.化合物(I−1)のP4H酵素活性阻害作用の評価
(1)基質ペプチドの水酸化を指標とした評価
基質ペプチドの水酸化を指標として、化合物(I−1)のP4H酵素活性阻害作用を評価した。タンパク低吸着チューブに、酵素反応溶液(50mM Tris-HCl pH7.4, 150mM NaCl, 50microM FeSO4, 0.5mM a-ketoglutarate, 2mM ascorbic acid, 0.1mM DTT, BSA 2mg/mL, catalase 0.1mg/mL)を入れ、37℃でプレインキュベートした。酵素反応溶液に、50microMの基質ペプチド((GPP)
10、ペプチド研究所)と精製P4H(100nM)及び被検化合物を200microM入れ、酵素反応を開始させた。
【0051】
0.5% trifluoroacetic acid(TFA)を反応容量に対し10%入れ、酵素反応を停止させた。遠心分離後の上清をHPLC(Shimadzu LC-10 system)で分析した。カラムには、Cosmosil5C
18-AR-IIカラム(4.6ID × 250mm,Nacalai)を用い、カラム温度は42℃,フロー速度は1 ml/minとし、溶出は溶液A(水,0.05%TFA)と溶液B(アセトニトリル, 0.05%TFA)のグラディエントにより行った。溶出したペプチドを分光光度計(検出波長220nm)で検出した。
【0052】
結果を
図7に示す。化合物(I−1)の非存在下(陰性コントロール)では、溶出時間16.5〜21分の間に1〜6個の水酸基が付加された基質ペプチドに対応するピークが検出され、P4Hによる基質ペプチドの水酸化が進行していることが確認される。一方、化合物(I−1)の存在下では、α,α-dipyridylの存在下(陽性コントロール)と同様に、基質ペプチドに付加される水酸基数の減少が確認された。このことは、化合物(I−1)がP4Hの水酸化酵素活性を阻害することを示している。
【0053】
陽性コントロールに用いたα,α-dipyridylは鉄キレータである。P4Hによる水酸化反応には、補酵素として鉄が必須であり、α,α-dipyridylは、鉄をキレートしてP4Hの水酸化酵素活性を阻害する。なお、化合物(I−1)は、その化学構造から、鉄キレータとしては作用しないと推定される。
【0054】
(2)細胞内タンパクの水酸化を指標した評価
細胞内タンパクの水酸化を指標として、化合物(I−1)のP4H酵素活性阻害作用を評価した。実験例1と同様にパルスチェイス法を行って、細胞内タンパクの水酸化レベルを評価した。一定時間培養後の培地に、サンプルバッファー(0.125 M Tris-HCl pH 6.8, 4%SDS, 20% glycerol, 0.002% Bromophenol blue)と0.1M DTTを加えて5分間煮沸し、培地成分サンプルとした。培地回収後の細胞をPBSで洗浄後、タンパク質抽出バッファー(50mM Tris-HCl pH8.0, 0.15M NaCl, 5mM EDTA, 1% NP40)を加え、氷上で20分間静置した。その後、遠心分離を行って得た上清にサンプルバッファーと0.1M DTTを加えて5分間煮沸し、細胞成分サンプルとした。
【0055】
細胞成分サンプルについてSDS-PAGEを行い、FLA-7000(FujiFILM)を用いて
35S標識タンパクの放射活性の検出を行った。結果を
図8に示す。化合物(I−1)の存在下で培養を行った細胞では、細胞内プロコラーゲンの分子量が濃度依存的に減少した。分子量の減少は、P4Hの酵素活性に必須のアスコルビン酸を除いた培地で培養を行った場合、及び、α,α-dipyridylの存在下で培養を行った場合と同程度であり、水酸化レベルの減少によるものと推察された。このことから、化合物(I−1)が細胞内のP4Hの酵素活性も阻害することが明らかとなった。なお、図中矢頭は、プロコラーゲンα1に相応する分子量のバンドを示す。
【0056】
<試験例5>
5.化合物(I−1)のコラーゲン細胞外分泌抑制作用の評価
(1)パルスチェイス法による評価
チェイス時間20、60分における細胞成分サンプル及び培地成分サンプルについてSDS-PAGEを行い、FLA-7000(FujiFILM)を用いてプロコラーゲンα1に相応する分子量のバンドから
35S標識タンパクの放射活性を検出し、解析を行った。結果を
図9に示す。Aは細胞成分サンプル、Bは培地成分サンプルの結果を示す。
【0057】
化合物による処置を行っていないサンプル(陰性コントロール1)及び実験例1におけるスクリーングでHsp47とコラーゲンとの結合阻害活性を示さなかった化合物を処置したサンプル(陰性コントロール2)では、時間経過に従って細胞内のプロコラーゲンα1が減少し、細胞外のプロコラーゲンα1が上昇しており、コラーゲンの細胞外分泌が生じていることが推定される。これに対して、化合物(I−1)を処置したサンプルでは、α,α-dipyridylを処置したサンプル(陽性コントロール)と同様に、細胞外のプロコラーゲンα1の経時増加が抑制され、細胞内に多量のプロコラーゲンα1が存在している。このことは、化合物(I−1)がコラーゲンの細胞外分泌を抑制する作用を有することを示すものである。
【0058】
(2)免疫染色による評価
マウス繊維芽細胞をカバーガラス上で培養した。培地を回収した後、4% PFA溶液にて細胞を固定し、標本とした。1次抗体としてウサギポリクローナル抗I型コラーゲン抗体及びポリクローナル抗Laminin抗体、2次抗体としてAlexaFluor488結合型抗体ウサギIgG抗体を用い、定法に従って免疫染色を行った。核染色にはHoechst 33342を用いた。
【0059】
共焦点顕微鏡で撮像した画像を
図10に示す。化合物(I−1)を処置した細胞では、細胞外基質としてラミニンの染色陽性像を認めるものの、細胞外コラーゲンの陽性像は、化合物による処置を行っていない細胞(陰性コントロール)に比して顕著に減少している。このことは、化合物(I−1)によってコラーゲンの細胞外分泌が特異的に抑制されることを示している。
【0060】
<試験例6>
6.類縁化合物の活性評価
化合物(I−1)と類似の構造を有する化合物について、rHsp47とコラーゲンとの結合阻害活性を、実験例1と同様にSPRバイオセンサーを用いて評価した。
【0061】
活性が認められた類縁化合物の構造を
図11に示す。これらのうち、化合物(I−9)は高い活性を示し、化合物(I−1)と同程度の活性を示した。