特許第6061390号(P6061390)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061390
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ナトリウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20170106BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20170106BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170106BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20170106BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20170106BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H01M10/054
   H01M4/40
   H01M10/0566
   H01M10/36 A
   H01M4/58
   H01M4/36 E
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-150314(P2013-150314)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-22903(P2015-22903A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆一
(72)【発明者】
【氏名】林 政彦
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】平山 雅章
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−103277(JP,A)
【文献】 特開2010−160965(JP,A)
【文献】 特開2011−086402(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133527(WO,A1)
【文献】 特開2010−282815(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/015321(WO,A1)
【文献】 武田保雄、菅野了次、梅本哲正、山本治,シュプレル相へのアルカリイオンインターカレーション,粉体粉末冶金協会講演概要集,日本,1985年,Vol.1985 No.Autumn,164-165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/13−4/62
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能なナトリウム含有物質を含む正極、金属ナトリウム、金属ナトリウムとの合金化が可能な金属、もしくはナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質を含む負極、およびナトリウムイオン導電性を有する電解質を含むナトリウム二次電池であって、
前記負極が、Mo68を更に含むことを特徴とするナトリウム二次電池。
【請求項2】
前記電解質として、ナトリウムイオンを含む有機電解液を用いることを特徴とする請求項1に記載のナトリウム二次電池。
【請求項3】
前記電解質として、ナトリウムイオンを含む水系電解液を用いることを特徴とする請求項1に記載のナトリウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサイクル特性に優れたナトリウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオンの挿入及び脱離反応を用いるナトリウム二次電池は、現在、広範に使用されているリチウム二次電池よりも、ナトリウムの資源の優位性から、コスト性に優れている。ナトリウム二次電池は、今後大型化が可能になる蓄電池としても期待され、研究開発がすすめられている。
【0003】
特許文献1には、正極材料としてNaCoOを用い、電解質として有機電解液を用いた二次電池が示されている。この二次電池は、約60mAh/gの放電容量を示し、3回の安定した充放電サイクルが可能となっている。
【0004】
また、非特許文献1において、Xin Xiaらは、正極材料としてNa0.65CoOを用い、電解質として有機電解液を用いた二次電池が、約70mAh/gの放電容量を示すことを報告している。
【0005】
さらに、非特許文献2において、Jong−Seon Kimらは、正極材料としてNiにFeをドープした材料を用い、電解質として有機電解液を用いた二次電池を報告している。この二次電池は、約400mAh/gの非常に高い放電容量を示し、15サイクル目にはその放電容量が64%維持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−35283号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Xin Xia et al.,Journal of The Electrochemical Society,159(5)A647−A1650(2012).
【非特許文献2】Jong−Seon Kim et al.,Current Applied Physics 11(2011)S215−S218.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ナトリウム二次電池において、これまでにリチウム二次電池に匹敵するレベルの放電容量が報告されているが、サイクル特性が低いという問題があった。本発明は、従来のナトリウム電池と比較してサイクル特性に優れたナトリウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決するための手段の一例は、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質を含む正極、金属ナトリウム、金属ナトリウムとの合金化が可能な金属、もしくはナトリウムイオンの挿入・脱離が可能でナトリウム含有物質を含む負極、およびナトリウムイオン導電性を有する電解質を含むナトリウム二次電池であって、前記正極が、Mo(例えば、1molのMoに対してNaが1mol挿入されたときの理論放電容量:32mAh/g)を更に含むことを特徴とするナトリウム二次電池である。
【0010】
あるいは、本発明の課題を解決するための手段の別の例は、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能であってナトリウム含有物質を含む正極、金属ナトリウム、金属ナトリウムとの合金化が可能な金属、もしくはナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質を含む負極、およびナトリウムイオン導電性を有する電解質を含むナトリウム二次電池であって、前記負極が、Mo(例えば、1molのMoに対してNaが1mol挿入されたときの理論放電容量:32mAh/g)を更に含むことを特徴とするナトリウム二次電池である。
【0011】
ここで、前記電解質として、ナトリウムイオンを含む有機電解液を用いても良い。あるいは、前記電解質として、ナトリウムイオンを含む水系電解液を用いても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のナトリウム二次電池と比較してサイクル特性に優れたナトリウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ナトリウム二次電池の作動原理を示す。
図2】2320コインセルの概略構成を示す。
図3】Moを正極に、ナトリウム金属を負極に、NaClOを1mol/Lの濃度でPCに溶解した溶液を電解液として用いた2320コインセルの初回充放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明によるナトリウム二次電池の実施形態の例を説明する。
【0015】
<正極がMoを含む場合>
Moを正極材料として用いる場合、ナトリウム二次電池は、例えば以下のような手段により調製することができる。
【0016】
正極は、例えば、Moを、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質としてのアセチレンブラックなどのカーボン粉末、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような結着剤粉末と混合し、ロールプレス機により圧延し、所定サイズに切り抜きペレット状に成型、あるいは前述の混合物を有機溶剤等の溶媒中に分散してスラリー状に調製し金属箔上に塗布し乾燥する、等の手段によって作製することができる。
【0017】
負極は、例えば、金属ナトリウムをシート状にし、また、そのシートを銅、ステンレス等の金属箔に圧着して形成することができる。また、負極材料としては、金属ナトリウムの他に、金属ナトリウムを含む合金、もしくは、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能なアモルファスカーボンなどの材料も使用することができる。
【0018】
電解質としては、例えばナトリウムイオンを含む金属塩を溶解した有機電解液もしくは水溶液を使用できる。例えば、トリフルオロメタンスルホニルイミド(NaTFSI)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF)などのナトリウムイオンを含む金属塩を、例えばポリカーボネート(PC)のような溶媒、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)(体積比1:1)の混合溶媒、EC及び炭酸ジエチル(DEC)などのような混合溶媒、又は炭酸プロピレンのような単独溶媒に溶解した有機電解液、又は、NaOH水溶液、NaSO水溶液、NaCl水溶液、NaClO水溶液などのナトリウムイオンを含む金属塩を水に溶解した水溶液(水系電解液)を挙げることができる。
【0019】
<負極がMoを含む場合>
Moを負極材料として用いる場合、ナトリウム二次電池は、例えば以下のような手段により調製することができる。
【0020】
正極は、例えば、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能で、ナトリウム含有物質を含むNaMn0.5Fe0.5のような材料を使用することができ、Moを正極材料として用いる場合の手段と同様の手段により調製することができる。例えば、正極は、NaMn0.5Fe0.5を、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質としてのアセチレンブラックなどのカーボン粉末、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような結着剤粉末と混合し、ロールプレス機により圧延し、所定サイズに切り抜きペレット状に成型、あるいは前述の混合物を有機溶剤等の溶媒中に分散してスラリー状に調製し金属箔上に塗布し乾燥する、等の手段によって作製することができる。
【0021】
負極は、例えば上記正極と同様の手段により調製することができる。例えば、負極は、Moを、ナトリウムイオンの挿入・脱離が可能な物質としてのアセチレンブラックなどのカーボン粉末、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような結着剤粉末と混合し、ロールプレス機により圧延し、所定サイズに切り抜きペレット状に成型、あるいは前述の混合物を有機溶剤等の溶媒中に分散してスラリー状に調製し金属箔上に塗布し乾燥する、等の手段によって作製することができる。
【0022】
電解質は、上記Moを正極材料として用いる場合の電解質と同じとすることができるため、その説明を省略する。
【0023】
上記のような正極、負極、電解液を使用する電池は、コイン形、円筒形、ラミネート形など従来の形状で作製することができる。また、セパレータ、電池ケース等の構造材料等他の要素についても、従来公知の二次電池に用いられる各種材料が使用でき、特に制限はない。
【0024】
以下に添付図面を参照して、本発明のナトリウム二次電池の実施例を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に示した内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
ナトリウム二次電池は、以下の手順で作製した。
【0026】
はじめに、正極材料のMoの製造について説明する。原料である市販試薬のCuS(ALDRICH製)0.3282g、MoS(関東化学株式会社製)1.1788g、およびMo(和光純薬製)0.4930gを混合し、真空封入して、電気炉を用いて1000℃で48時間加熱した。サンプルを粉砕・混合し、再度真空封入した。さらに、1000℃で48時間加熱した後、大気中で混合した。得られたCuMoをHCl 200ml(和光純薬、含有量35%)内で撹拌し、7日間、24h毎に上澄み液を除去し、HCl 100mLを追加した。溶液を吸引濾過し、固形分を一回に25mLの蒸留水で10回洗浄し、120℃で真空乾燥することにより、Moを得た。
【0027】
このようにして得た試料を、粉末X線回折測定法を用いて同定したところ、PDF(Powder Diffraction File:粉末X線回折による化合物の回折パターンをデータベース化したもの)の#82−1709とよく一致し、Moが主相として得られたことを確認した。
【0028】
次に、各電極および電解質等について説明する。上述ように合成したMo、市販試薬のカーボン粉末(例えばケッチェンブラック粉末などのカーボンブラック類)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE:ダイキン工業株式会社製)粉末を70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形し、シートペレット状電極(厚さ:0.5mm)を作製し、正極とした。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。負極は、市販試薬のナトリウム塊を、0.5mmの厚さまでプレスし、直径15mmの円形シート状に成型した。電解質は、過塩素酸ナトリウム(NaClO)を1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネート(PC)に溶解した溶液(富山薬品工業製)を用いた。セパレータは、リチウム二次電池用のポリプロピレン製のもの(セルガード株式会社製)を用いた。
【0029】
電池は、図2に示すような2320コインセルを用いた。正極は、上記のペレット電極1を正極ケース4にセットし、図示しないチタンメッシュ(株式会社ニラコ製)で覆い、その周縁部をスポット溶接により固定した。負極は、負極ケース6に図示しないチタンメッシュ(株式会社ニラコ製)をスポット溶接により固定し、その上にナトリウムシート3を圧着することにより固定した。次に、ペレット電極1を固定した正極ケース4に、セパレータ2をセットし、さらに電解液を注入し、ナトリウムシート3を固定した負極ケース6を被せ、コインセルかしめ機でかしめることにより、ポリプロピレン製ガスケット5を含むコインセルを作製した。
【0030】
電池の放電試験は、充放電測定システム(北斗電工株式会社 SD8充放電システム)を用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cmを通電し、充電終止電圧3.0V、放電終止電圧0.9Vの電圧範囲で充放電試験を行った。電池の作製は、露点が−80℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行い、電池の充放電試験は、25℃の恒温槽内(雰囲気は通常の大気中)で測定を行った。充放電容量(mAh/g)は、Moの重量当たりで規格化した。
【0031】
実施例1で作製した電池の充放電曲線を、図3に示す。図より、本電池は、初回放電容量140mAh/g、平均放電電圧1.4Vを示し、充放電が可能であることがわかった。第1表に、20サイクル目、50サイクル目の放電容量維持率を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記のように、実施例1によるナトリウム二次電池は、充放電可能で、放電容量は1molのMoに対してNaが1mol挿入されたときの理論放電容量(32mAh/g)の4.4倍を示し、ナトリウムが約4.4mol挿入されることがわかった。また、良好なサイクル安定性を有していることが分かった。
【0034】
[実施例2]
正極材料として既知材料であるNaFe0.4Ni0.3Mn0.3を用いた。NaFe0.4Ni0.3Mn0.3は、遷移金属含有前駆体と炭酸ナトリウムを800度で24時間空気中で焼成することにより合成した。負極材料として実施例1の条件で作製したMoを用いた。コインセルは、合成したNaFe0.4Ni0.3Mn0.3、市販試薬のカーボン粉末(例えばケッチェンブラック粉末などのカーボンブラック類)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE:ダイキン工業株式会社製)粉末を70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形し、シートペレット状電極(厚さ:0.5mm)を作製し、正極とした。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。実施例1と同様な条件で合成したMoを市販試薬のカーボン粉末(例えばケッチェンブラック粉末などのカーボンブラック類)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE:ダイキン工業株式会社製)粉末を、70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形し、シートペレット状電極(厚さ:0.5mm)を作製し、負極とした。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。電解質は、過塩素酸ナトリウム(NaClO)を1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネート(PC)に溶解した溶液(富山薬品工業製)を用いた。セパレータは、リチウム二次電池用のポリプロピレン製のもの(セルガード株式会社製)を用いた。
【0035】
電池の放電試験は、実施例1と同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cmを通電し、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧0.9Vの電圧範囲で充放電試験を行った。電解液は、トリフルオロメタンスルホニルイミド(NaTFSI)を1mol/Lの濃度で炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)(体積比1:1)の混合溶媒に溶解した溶液(富山薬品工業製)を用いた。
【0036】
充放電試験の結果を、第1表に示す。第1表より、本電池は、初回放電容量135mAh/g、平均放電電圧1.9Vを示し、充放電が可能であることがわかった。第1表に、20サイクル目、50サイクル目の放電容量維持率を示す。この結果より、Moは負極材料としても使用できることがわかった。
【0037】
[実施例3]
正極材料として実施例1の条件で作製したMoを用いた。負極材料としてアモルファスカーボンを用いた。水系電解液として8mol/L NaOH水溶液を用いた。上記以外は実施例1と同様な条件で、コインセルを作製した。
【0038】
電池の放電試験は、実施例1と同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cmを通電し、充電終止電圧2.5V、放電終止電圧0.5Vの電圧範囲で充放電試験を行った。
【0039】
充放電試験の結果を、第1表に実施例1と併せて示す。水系電解液を使用するため、放電電圧は1V級であるが、50サイクル後の放電容量維持率も73%の高い値を達成した。なお、酸性の1mol/L NaSO水溶液中でも、同様の結果を示すことを確認した。これらの結果は、本発明によるMoが、水系電解液中でも正極材料として機能できることを示している。水系電解液は、一般的に、有機電解液よりも低価格であるため、ナトリウム二次電池の低コスト化に有利であると考えられる。
【0040】
[実施例4]
負極材料として実施例1の条件で作製したMoを用いた。正極材料として既知材料であるNaFe0.4Ni0.3Mn0.3を用いた。水系電解液として8mol/L NaOH水溶液を用いた。上記以外は実施例2と同様な条件で、コインセルを作製した。
【0041】
電池の放電試験は、実施例1と同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cmを通電し、充電終止電圧3.0V、放電終止電圧0.5Vの電圧範囲で充放電試験を行った。
【0042】
充放電試験の結果を、第1表に示す。水系電解液を使用するため、放電電圧は1V級であるが、50サイクル後の放電容量維持率も61%を示した。なお、酸性の1mol/L NaSO水溶液中でも、同様の結果を示すことを確認した。これらの結果は、本発明によるMoが、水系電解液中でも負極材料として機能できることを示している。水系電解液は、一般的に、有機電解液よりも低価格であるため、ナトリウム二次電池の低コスト化に有利であると考えられる。
【0043】
[比較例1]
比較例1においては、正極材料として、既知材料であるNaCoOを用いた。NaCoOは、NaCOとCoを所定モル比(3:2)で混合し、1000℃で焼成を行うことにより合成した。上記以外は実施例1と同様な条件でコインセルを作製し、評価を行った。その結果を、実施例1の結果と併せて第2表に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
比較例1による電池は、サイクルによる容量減少は著しく、100サイクル後には、初期の28%の放電容量しか得られなかった。
【0046】
一方、実施例1の場合、100サイクル後でも約68%の放電容量を維持しており、安定性が高いことが分かった。これは、NaCoOの場合、遷移金属であるCoの溶出が起こっており、容量の減少を誘起しためではないかと考えられる。
【0047】
以上から、本発明によるMoを正極に用いたナトリウム二次電池が、優れた充放電サイクル特性を有した高性能電池であることが確認された。
【0048】
[比較例2]
比較例2においては、正極材料として既知材料であるNaFe0.4Ni0.3Mn0.3を用い、負極材料として既知材料であるNaCoOを用いた。上記以外は実施例2と同様な条件でコインセルを作製し、評価を行った。その結果を、実施例2の結果と併せて第2表に示す。比較例2による電池は、実施例2の電池と比較して、初期特性において、電圧や放電容量のいずれも実施例2の方が優れた特性を示した。さらに、サイクルによる容量減少も著しく、100サイクル後には、初期の12%の放電容量しか得られなかった。
【0049】
一方、実施例2の場合、100サイクル後でも約41%の放電容量を維持しており、比較的安定性が高いことが分かった。
【0050】
以上から、本発明によるMoを負極に用いたナトリウム二次電池が、優れた充放電サイクル特性を有する電池であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、サイクル特性に優れたナトリウム二次電池を作製することができ、様々な電子機器の駆動源等として使用することができる。
図1
図2
図3