【実施例】
【0025】
[実施例1]
ナトリウム二次電池は、以下の手順で作製した。
【0026】
はじめに、正極材料のMo
6S
8の製造について説明する。原料である市販試薬のCu
2S(ALDRICH製)0.3282g、MoS
2(関東化学株式会社製)1.1788g、およびMo(和光純薬製)0.4930gを混合し、真空封入して、電気炉を用いて1000℃で48時間加熱した。サンプルを粉砕・混合し、再度真空封入した。さらに、1000℃で48時間加熱した後、大気中で混合した。得られたCu
2Mo
6S
8をHCl 200ml(和光純薬、含有量35%)内で撹拌し、7日間、24h毎に上澄み液を除去し、HCl 100mLを追加した。溶液を吸引濾過し、固形分を一回に25mLの蒸留水で10回洗浄し、120℃で真空乾燥することにより、Mo
6S
8を得た。
【0027】
このようにして得た試料を、粉末X線回折測定法を用いて同定したところ、PDF(Powder Diffraction File:粉末X線回折による化合物の回折パターンをデータベース化したもの)の#82−1709とよく一致し、Mo
6S
8が主相として得られたことを確認した。
【0028】
次に、各電極および電解質等について説明する。上述ように合成したMo
6S
8、市販試薬のカーボン粉末(例えばケッチェンブラック粉末などのカーボンブラック類)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE:ダイキン工業株式会社製)粉末を70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形し、シートペレット状電極(厚さ:0.5mm)を作製し、正極とした。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。負極は、市販試薬のナトリウム塊を、0.5mmの厚さまでプレスし、直径15mmの円形シート状に成型した。電解質は、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)を1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネート(PC)に溶解した溶液(富山薬品工業製)を用いた。セパレータは、リチウム二次電池用のポリプロピレン製のもの(セルガード株式会社製)を用いた。
【0029】
電池は、
図2に示すような2320コインセルを用いた。正極は、上記のペレット電極1を正極ケース4にセットし、図示しないチタンメッシュ(株式会社ニラコ製)で覆い、その周縁部をスポット溶接により固定した。負極は、負極ケース6に図示しないチタンメッシュ(株式会社ニラコ製)をスポット溶接により固定し、その上にナトリウムシート3を圧着することにより固定した。次に、ペレット電極1を固定した正極ケース4に、セパレータ2をセットし、さらに電解液を注入し、ナトリウムシート3を固定した負極ケース6を被せ、コインセルかしめ機でかしめることにより、ポリプロピレン製ガスケット5を含むコインセルを作製した。
【0030】
電池の放電試験は、充放電測定システム(北斗電工株式会社 SD8充放電システム)を用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cm
2を通電し、充電終止電圧3.0V、放電終止電圧0.9Vの電圧範囲で充放電試験を行った。電池の作製は、露点が−80℃以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行い、電池の充放電試験は、25℃の恒温槽内(雰囲気は通常の大気中)で測定を行った。充放電容量(mAh/g)は、Mo
6S
8の重量当たりで規格化した。
【0031】
実施例1で作製した電池の充放電曲線を、
図3に示す。図より、本電池は、初回放電容量140mAh/g、平均放電電圧1.4Vを示し、充放電が可能であることがわかった。第1表に、20サイクル目、50サイクル目の放電容量維持率を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記のように、実施例1によるナトリウム二次電池は、充放電可能で、放電容量は1molのMo
6S
8に対してNaが1mol挿入されたときの理論放電容量(32mAh/g)の4.4倍を示し、ナトリウムが約4.4mol挿入されることがわかった。また、良好なサイクル安定性を有していることが分かった。
【0034】
[実施例2]
正極材料として既知材料であるNaFe
0.4Ni
0.3Mn
0.3O
2を用いた。NaFe
0.4Ni
0.3Mn
0.3O
2は、遷移金属含有前駆体と炭酸ナトリウムを800度で24時間空気中で焼成することにより合成した。負極材料として実施例1の条件で作製したMo
6S
8を用いた。コインセルは、合成したNaFe
0.4Ni
0.3Mn
0.3O
2、市販試薬のカーボン粉末(例えばケッチェンブラック粉末などのカーボンブラック類)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE:ダイキン工業株式会社製)粉末を70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形し、シートペレット状電極(厚さ:0.5mm)を作製し、正極とした。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。実施例1と同様な条件で合成したMo
6S
8を市販試薬のカーボン粉末(例えばケッチェンブラック粉末などのカーボンブラック類)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE:ダイキン工業株式会社製)粉末を、70:25:5の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕・混合し、ロール成形し、シートペレット状電極(厚さ:0.5mm)を作製し、負極とした。このシート状電極を直径15mmの円形に切り抜いた。電解質は、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)を1mol/Lの濃度でプロピレンカーボネート(PC)に溶解した溶液(富山薬品工業製)を用いた。セパレータは、リチウム二次電池用のポリプロピレン製のもの(セルガード株式会社製)を用いた。
【0035】
電池の放電試験は、実施例1と同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cm
2を通電し、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧0.9Vの電圧範囲で充放電試験を行った。電解液は、トリフルオロメタンスルホニルイミド(NaTFSI)を1mol/Lの濃度で炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)(体積比1:1)の混合溶媒に溶解した溶液(富山薬品工業製)を用いた。
【0036】
充放電試験の結果を、第1表に示す。第1表より、本電池は、初回放電容量135mAh/g、平均放電電圧1.9Vを示し、充放電が可能であることがわかった。第1表に、20サイクル目、50サイクル目の放電容量維持率を示す。この結果より、Mo
6S
8は負極材料としても使用できることがわかった。
【0037】
[実施例3]
正極材料として実施例1の条件で作製したMo
6S
8を用いた。負極材料としてアモルファスカーボンを用いた。水系電解液として8mol/L NaOH水溶液を用いた。上記以外は実施例1と同様な条件で、コインセルを作製した。
【0038】
電池の放電試験は、実施例1と同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cm
2を通電し、充電終止電圧2.5V、放電終止電圧0.5Vの電圧範囲で充放電試験を行った。
【0039】
充放電試験の結果を、第1表に実施例1と併せて示す。水系電解液を使用するため、放電電圧は1V級であるが、50サイクル後の放電容量維持率も73%の高い値を達成した。なお、酸性の1mol/L Na
2SO
4水溶液中でも、同様の結果を示すことを確認した。これらの結果は、本発明によるMo
6S
8が、水系電解液中でも正極材料として機能できることを示している。水系電解液は、一般的に、有機電解液よりも低価格であるため、ナトリウム二次電池の低コスト化に有利であると考えられる。
【0040】
[実施例4]
負極材料として実施例1の条件で作製したMo
6S
8を用いた。正極材料として既知材料であるNaFe
0.4Ni
0.3Mn
0.3O
2を用いた。水系電解液として8mol/L NaOH水溶液を用いた。上記以外は実施例2と同様な条件で、コインセルを作製した。
【0041】
電池の放電試験は、実施例1と同様に、充放電測定システムを用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で0.5mA/cm
2を通電し、充電終止電圧3.0V、放電終止電圧0.5Vの電圧範囲で充放電試験を行った。
【0042】
充放電試験の結果を、第1表に示す。水系電解液を使用するため、放電電圧は1V級であるが、50サイクル後の放電容量維持率も61%を示した。なお、酸性の1mol/L Na
2SO
4水溶液中でも、同様の結果を示すことを確認した。これらの結果は、本発明によるMo
6S
8が、水系電解液中でも負極材料として機能できることを示している。水系電解液は、一般的に、有機電解液よりも低価格であるため、ナトリウム二次電池の低コスト化に有利であると考えられる。
【0043】
[比較例1]
比較例1においては、正極材料として、既知材料であるNaCoO
2を用いた。NaCoO
2は、Na
2CO
3とCo
3O
4を所定モル比(3:2)で混合し、1000℃で焼成を行うことにより合成した。上記以外は実施例1と同様な条件でコインセルを作製し、評価を行った。その結果を、実施例1の結果と併せて第2表に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
比較例1による電池は、サイクルによる容量減少は著しく、100サイクル後には、初期の28%の放電容量しか得られなかった。
【0046】
一方、実施例1の場合、100サイクル後でも約68%の放電容量を維持しており、安定性が高いことが分かった。これは、NaCoO
2の場合、遷移金属であるCoの溶出が起こっており、容量の減少を誘起しためではないかと考えられる。
【0047】
以上から、本発明によるMo
6S
8を正極に用いたナトリウム二次電池が、優れた充放電サイクル特性を有した高性能電池であることが確認された。
【0048】
[比較例2]
比較例2においては、正極材料として既知材料であるNaFe
0.4Ni
0.3Mn
0.3O
2を用い、負極材料として既知材料であるNaCoO
2を用いた。上記以外は実施例2と同様な条件でコインセルを作製し、評価を行った。その結果を、実施例2の結果と併せて第2表に示す。比較例2による電池は、実施例2の電池と比較して、初期特性において、電圧や放電容量のいずれも実施例2の方が優れた特性を示した。さらに、サイクルによる容量減少も著しく、100サイクル後には、初期の12%の放電容量しか得られなかった。
【0049】
一方、実施例2の場合、100サイクル後でも約41%の放電容量を維持しており、比較的安定性が高いことが分かった。
【0050】
以上から、本発明によるMo
6S
8を負極に用いたナトリウム二次電池が、優れた充放電サイクル特性を有する電池であることが確認された。