特許第6061836号(P6061836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6061836
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】熱重量測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/00 20060101AFI20170106BHJP
   G01N 25/20 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   G01N25/00 N
   G01N25/20 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-251101(P2013-251101)
(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公開番号】特開2015-108540(P2015-108540A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年4月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 晋哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高沢 良治
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛治
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−185834(JP,A)
【文献】 特開2011−053077(JP,A)
【文献】 特開2001−183319(JP,A)
【文献】 実開昭59−142696(JP,U)
【文献】 特開平08−327573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明材料により筒状に形成され、水平な軸方向の先端部に排気口を有するファーナスチューブと、
前記ファーナスチューブの軸方向の後端部に気密に接続される測定室と、
前記ファーナスチューブの内部に配置され、測定試料及び参照試料をそれぞれ収容する一対の試料容器を、自身の載置面にそれぞれ保持する一対の試料ホルダと、
前記ファーナスチューブに収容され、自身の前端部に前記一対の試料ホルダがそれぞれ接続され、自身の後端部が前記測定室の内部に水平方向に延伸し、該測定室の内部に取付けられる一対の天秤アームと、
前記一対の試料容器を少なくとも含む前記ファーナスチューブを、外側から取り囲み前記軸方向に沿う方向に軸心を有する筒状の炉心管と、該炉心管に外嵌されたヒータと、両端に側壁を有し前記ヒータを囲む筒状の外筒と、を含んでなる筒状の加熱炉と、
前記測定室内に配置され、前記試料の物性変化を測定する測定手段と、
を備える熱重量測定装置であって、
前記軸方向に垂直でかつ前記載置面に垂直な方向から見たとき、前記加熱炉は、前記載置面同士の重心を結ぶ線分に少なくとも重なる開口部であって、前記炉心管を貫通する開口部を有し、該開口部を介して前記測定試料及び前記参照試料を観察可能である熱重量測定装置。
【請求項2】
前記開口部は、前記線分に沿う方向に該線分を中心にして7mm以上、前記線分に垂直な方向に該線分を中心にして3mm以上の大きさである請求項1記載の熱重量測定装置。
【請求項3】
前記開口部は、前記軸方向に沿って前記加熱炉の内面の長さの1/2以下の大きさで、かつ前記軸方向に垂直な方向に沿って前記加熱炉の前記内面の直径以下の大きさである請求項1又は2記載の熱重量測定装置。
【請求項4】
前記ファーナスチューブは、石英ガラス、サファイアガラス又はYAGセラミックスのいずれかからなる請求項1〜3のいずれかに記載の熱重量測定装置。
【請求項5】
さらに撮像手段を備え、
前記開口部を介して前記測定試料を直接観察可能な位置に前記撮像手段が配置された請求項1〜4のいずれかに記載の熱重量測定装置。
【請求項6】
さらに撮像手段と、光学系とを備え、
前記開口部を介して前記測定試料を直接観察可能な位置に前記光学系が配置され、前記撮像手段が前記光学系を介して前記測定試料を観察可能な位置に配置された請求項1〜4のいずれかに記載の熱重量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を加熱し、温度変化に伴う試料の物理的変化を測定する熱重量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料の温度特性を評価する手法として、試料を加熱し、温度変化に伴う試料の物理的変化を測定する熱分析といわれる手法が行われている。熱分析は、JIS K 0129:2005 "熱分析通則"に定義されており、測定対象(試料)の温度をプログラム制御させた時の、試料の物理的性質を測定する手法が全て熱分析とされる。一般的に用いられる熱分析は、(1)温度(温度差)を検出する示差熱分析(DTA)、(2)熱流差を検出する示差走査熱量測定(DSC)、(3)質量(重量変化)を検出する熱重量測定(TG)、(4)力学的特性を検出する熱機械分析(TMA)、及び(5)動的粘弾性測定(DMA)の5つの方法がある。
【0003】
例えば、図9に示すように、上記熱重量測定(TG)及び必要に応じて示差熱分析(DTA)を行う熱分析装置1000として、筒状に形成されて先端部9aに縮径された排気口9bを有するファーナスチューブ9と、ファーナスチューブ9を外側から取り囲む筒状の加熱炉3と、ファーナスチューブ9の内部に配置されて試料S、Sを試料容器を介してそれぞれ保持する試料ホルダ41,42と、ファーナスチューブ9の後端部9dに気密に接続される測定室30と、測定室30内に配置されて試料の重量変化を測定する重量検出器32とを備えた構成が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。又、加熱炉3の下端から下方へ2つの支柱218が延び、支柱218は支持台200に接続されている。さらに、ファーナスチューブ9の後端部9dの外側にフランジ部7が固定され、フランジ部7下端から下方へ1つの支柱216が延び、支柱216も支持台200に接続されている。支持台200及び測定室30は基台10上に載置され、支持台200はリニアアクチュエータ220によってファーナスチューブ9の軸方向Oに進退可能になっている。
そして、加熱炉3は、試料ホルダ41,42をファーナスチューブ9の外側から加熱し、温度変化に伴う試料S、Sの重量変化を重量検出器32で検出可能になっている。
【0004】
ここで、図10に示すように、試料ホルダ41,42に試料S、Sをセットしたり、試料S、Sを交換する際には、リニアアクチュエータ220によって支持台200をファーナスチューブ9の先端側(図10の左側)に前進させ、支持台200に固定された加熱炉3及びファーナスチューブ9も前進させる。これにより、試料ホルダ41,42がファーナスチューブ9より後端側に露出し、試料S、Sのセットや交換が行える。
ところで、上記した熱分析装置を用いると、必要とする熱物性値を検出することはできるが、熱分析中の試料の変化を可視的に観察することができないという問題がある。これは、一般にファーナスチューブ9が焼結アルミナ等のセラミック、又はインコネル(登録商標)等の耐熱性金属で形成されていると共に、加熱炉3がファーナスチューブ9を覆っているためである。
【0005】
これに対し、本出願人は、ファーナスチューブを透明材料により形成すると共に、試料観察時に加熱炉のみを前進させてファーナスチューブを露出させ、露出したファーナスチューブの外側から試料を観察可能とした熱分析装置を報告した(特許文献4)。又、特許文献4には、露出したファーナスチューブの一部を熱伝導部材で覆いつつ、熱伝導部材の一部を加熱炉内に装入し、加熱炉の熱を露出したファーナスチューブに伝えて試料観察位置での試料の加熱状態を保つことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−326249号公報
【特許文献2】特開2007−232479号公報
【特許文献3】特開平7−146262号公報
【特許文献4】特開2013−185834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献4記載の技術において、上記熱伝導部材により、露出したファーナスチューブ内の試料を間接的に加熱する方式を採れば、500℃までの温度での熱分析中の試料観察は可能である。しかしながら、500℃以上の高温で熱分析中の試料を観察するという要望に対しては、上記熱伝導部材を用いた間接的な加熱では不十分となる可能性がある。
一方、図9に示す熱重量/示差熱測定(TG/DTA)の場合、測定試料Sが加熱炉3で覆われている。このため、図6に示すように、加熱炉3からの輻射熱RHは、試料容器51内の測定試料Sに直接放射される。ここで、DTAでは測定試料Sの融解、分解等に伴う示差熱信号を取得する。ところが、加熱によって測定試料Sが溶け始めて形状が変化したり、試料の色が変化すると、測定試料Sが吸収する輻射熱RHの量も変化し、この輻射熱の変化も示差熱信号に含まれてしまい、測定精度が低下するという問題がある。
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、ファーナスチューブを用いて熱分析中の試料の変化を観察可能であると共に、加熱炉からファーナスチューブ内の試料に直接放射される輻射熱を低減して熱分析の測定精度を向上させた熱重量測定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の熱重量測定装置は、透明材料により筒状に形成され、軸方向の先端部に排気口を有するファーナスチューブと、前記ファーナスチューブの軸方向の後端部に気密に接続される測定室と、前記ファーナスチューブの内部に配置され、測定試料及び参照試料をそれぞれ収容する一対の試料容器を、自身の載置面にそれぞれ保持する一対の試料ホルダと、前記ファーナスチューブに収容され、自身の前端部に前記一対の試料ホルダがそれぞれ接続され、自身の後端部が前記測定室の内部に水平方向に延伸し、該測定室の内部に取付けられる一対の天秤アームと、前記一対の試料容器を少なくとも含む前記ファーナスチューブを、外側から取り囲み前記軸方向に沿う方向に軸心を有する筒状の炉心管と、該炉心管に外嵌されたヒータと、両端に側壁を有し前記ヒータを囲む筒状の外筒と、を含んでなる筒状の加熱炉と、前記測定室内に配置され、前記試料の物性変化を測定する測定手段と、を備え、前記軸方向に垂直でかつ前記載置面に垂直な方向から見たとき、前記加熱炉は、前記載置面同士の重心を結ぶ線分に少なくとも重なる開口部であって、前記炉心管を貫通する開口部を有し、該開口部を介して前記測定試料及び前記参照試料を観察可能である。
この熱重量測定装置によれば、加熱炉の開口部を介し、ファーナスチューブを用いて熱分析中の試料の変化を観察可能である。
さらに、試料の近傍の加熱炉に開口部を設けることで、加熱炉からファーナスチューブ内の試料に直接放射される輻射熱を低減して熱分析の測定精度を向上させることができる。
【0009】
前記開口部は、前記線分に沿う方向に該線分を中心にして7mm以上、前記線分に垂直な方向に該線分を中心にして3mm以上の大きさであるとよい。この熱分析装置によれば、開口部を測定試料及び参照試料を収容する一対の試料容器に対して対称に形成しているので、各試料がファーナスチューブ9内で同一の条件で加熱され、熱分析の測定精度が低下することを防止する
前記開口部は、前記軸方向に沿って前記加熱炉の内面の長さの1/2以下の大きさで、かつ前記軸方向に垂直な方向に沿って前記加熱炉の前記内面の直径以下の大きさであるとよい。
この熱重量測定装置によれば、開口部を大きくし過ぎた場合に、高温(例えば500℃以上)で熱分析中の試料を観察する際、試料の保温や加熱の制御が十分行えずに熱分析の精度が低下することを防止する。
【0010】
前記ファーナスチューブは、石英ガラス、サファイアガラス又はYAGセラミックスのいずれかからなるとよい。
この熱重量測定装置によれば、透明性及び耐熱性が高いファーナスチューブが得られる。
【0011】
本発明の熱重量測定装置は、さらに撮像手段を備え、前記開口部を介して前記測定試料を直接観察可能な位置に前記撮像手段が配置されていてもよい。
この熱重量測定装置によれば、撮像手段により、測定試料を直接観察可能である。なお、「測定試料を直接観察可能」な位置とは、撮像手段から測定試料を直接視認可能であることをいう。
【0012】
本発明の熱重量測定装置は、さらに撮像手段と、光学系とを備え、前記開口部を介して前記測定試料を直接観察可能な位置に前記光学系が配置され、前記撮像手段が前記光学系を介して前記測定試料を観察可能な位置に配置されていてもよい。
この熱重量測定装置によれば、測定試料を直接観察可能な位置には撮像手段が配置されないので、撮像手段が開口部からの熱あるいは発生するガス等に直接晒されて損傷したり、レンズが曇る等で撮像ができなくなることを回避することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ファーナスチューブを用いて熱分析中の試料の変化を観察可能であると共に、加熱炉からファーナスチューブ内の試料に直接放射される輻射熱を低減して測定精度を向上させた熱重量測定装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る熱重量測定装置の構成を示す斜視図である。
図2図1のA−A線に沿う断面図である。
図3】熱重量測定装置にて、試料のセットや交換を行う態様を示す図である。
図4】試料ホルダの載置面に試料容器を載置する態様を示す図である。
図5】加熱炉の開口部の最小寸法を規定する方法を示す図である。
図6】加熱炉に開口部を設けない場合の輻射熱の放射を示す図である。
図7】加熱炉に開口部を設けた場合の輻射熱の放射を示す図である。
図8】開口部の有無によるシュウ酸カルシウム水和物の実際の示差熱分析(DTA)の測定結果を示す図である。
図9】従来の熱重量測定(TG)装置を示す斜視図である。
図10】従来の熱重量測定(TG)装置にて、試料のセットや交換を行う態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、軸方向Oに沿ってファーナスチューブ9の先端部9a側を「先端(側)」とし、その反対側を「後端(側)」とする。
図1は本発明の実施形態に係る熱分析装置(熱重量測定装置)100の構成を示す斜視図であり、図2図1のA−A線に沿う断面図である。
熱分析装置100は熱重量測定(TG)装置を構成し、筒状のファーナスチューブ9と、ファーナスチューブ9を外側から取り囲む筒状の加熱炉3と、ファーナスチューブ9の内部に配置される一対の試料ホルダ41,42と、支持台20と、ファーナスチューブ9の軸方向Oの後端部9dに接続される測定室30と、測定室30内に配置されて試料S、Sの重量変化を測定する重量検出器32(特許請求の範囲の「測定手段」に相当)と、測定室30を自身の上面に載置する基台10と、を備えている。ここで、測定試料(サンプル)S、参照試料Sは一対の試料容器(図2参照)51、52にそれぞれ収容され、各試料容器51、52が一対の試料ホルダ41,42上にそれぞれ載置されている。又、参照試料Sは、測定試料に対する基準物質(リファレンス)である。
又、加熱炉3の軸方向両端近傍の下端から下方へ、それぞれ2つの支柱18が延び、各支柱18は支持台20の上面に接続されている。又、ファーナスチューブ9の後端部9dの外側にフランジ部7が固定され、フランジ部7の下端から下方へ1つの支柱16が延びている。支柱16は支持台20の上面に接続されている。なお、支柱16は支持台20の後端よりも後端側に配置され、支持台20と干渉しないようになっている。なお、ファーナスチューブ9は加熱炉3に固定されてもよく、その場合、支柱16を構造上省略することができる。


【0016】
さらに、基台10の軸方向Oに沿って溝が形成され、この溝にはリニア(線形)アクチュエータ22が配置されている。リニアアクチュエータ22の後端側は支持台20に接続され、先端側(のサーボモータ)は基台10に接続されている。そして、支持台20はリニアアクチュエータ22により、上記溝に沿って軸方向Oに進退可能になっている。
リニアアクチュエータ22は、例えばボールねじとサーボモータ等から構成されるが、軸方向Oに直線的に駆動するあらゆる公知のアクチュエータを用いることができる。
【0017】
加熱炉3は、加熱炉3の内面を形成する円筒状の炉心管3cと、炉心管3cに外嵌されたヒータ3bと、両端に側壁を有する円筒状の外筒3aとを有する(図2参照)。外筒3aの両側壁の中心には、炉心管3cを挿通するための中心孔が設けられている。外筒3aはヒータ3bを取り囲んで加熱炉3を保温するとともに、外筒3aに適宜調整孔(図示せず)を設けて加熱炉3の温度調整を行うこともできる。なお、炉心管3cの内径はファーナスチューブ9の外径より大きく、加熱炉3はファーナスチューブ9(及びその内部の試料S、S)を非接触で加熱するようになっている。
さらに、加熱炉3の上面には、外筒3aから炉心管3cへ向かって貫通する略矩形の開口部Wが形成されている。開口部Wについては後述する。
【0018】
ファーナスチューブ9は先端部9aに向かってテーパ状に縮径し、先端部9aは細長いキャピラリ状に形成されてその先端に排気口9bが開口している。そして、ファーナスチューブ9には適宜パージガスが後端側から導入され、このパージガスや、加熱による試料の分解生成物等が排気口9bを通じて外部に排気される。一方、ファーナスチューブ9の後端部9dの外側には、シール部材71を介してリング状のフランジ部7が取り付けられている(図2参照)。
又、ファーナスチューブ9は透明材料により形成され、試料S、Sをファーナスチューブ9の外側から観察可能である。ここで、透明材料とは、可視光を所定の光透過率で透過する材料であり、半透明材料も含む。又、透明材料としては石英ガラス、サファイアガラス、又はYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)セラミックスを好適に用いることができる。
【0019】
試料ホルダ41、42には、軸方向O後端側に延びる天秤アーム43、44がそれぞれ接続され、天秤アーム43、44は互いに水平方向に並んでいる。又、試料ホルダ41、42の直下には熱電対が設置され、試料温度を計測可能になっている。天秤アーム43、44、試料ホルダ41、42は、例えば白金で形成されている。
【0020】
測定室30はファーナスチューブ9の後端に配置され、測定室30の先端部には、ファーナスチューブ9に向かって軸方向O先端側に延びる管状のベローズ34がシール部材73を介して取り付けられている。ベローズ34の先端側はフランジ部36を形成し、フランジ部36はフランジ部7にシール部材72を介して気密に接続されている。このようにして、測定室30とファーナスチューブ9の内部が連通し、各天秤アーム43、44の後端はファーナスチューブ9を通って測定室30内部まで延びている。なお、シール部材71〜73としては、例えばOリング、ガスケット等を用いることができる。
図2に示すように、測定室30内に配置された重量検出器32は、コイル32aと、磁石32bと、位置検出部32cとを備えている。位置検出部32cは例えばフォトセンサーからなり、各天秤アーム43、44の後端側に配置されて天秤アーム43、44が水平な状態であるか否かを検出する。一方、コイル32aは各天秤アーム43、44の軸方向中心(支点)に取り付けられ、コイル32aの両側に磁石32bが配置されている。そして、天秤アーム43、44が水平になるようにコイル32aに電流を流し、その電流を測定することにより、天秤アーム43、44先端の各試料S、Sの重量を測定するようになっている。なお、重量検出器32は、各天秤アーム43、44のそれぞれに設けられている。
【0021】
又、図2に示すように、リニアアクチュエータ22、ヒータ3b及び重量検出器32はコンピュータ等からなる制御部80によって制御される。具体的には、制御部80はヒータ3bを通電制御し、所定の加熱パターンによるファーナスチューブ9の加熱を通して試料容器51及び52にセットした試料S及びSを加熱する。そのときの当該試料S、Sの示差熱及び試料温度を試料ホルダ41,42の直下にそれぞれ配置された熱電対により取得し、試料の重量変化を重量検出器32から取得する。又、制御部80はリニアアクチュエータ22の動作を制御して、後述する測定位置及び試料セット位置に加熱炉3及びファーナスチューブ9を移動させる。
【0022】
なお、フランジ部36とフランジ部7とが気密に接続され、加熱炉3がファーナスチューブ9の各試料ホルダ41、42(つまり、試料S、S)を覆う位置を、「測定位置」と称する。
【0023】
図3は、各試料ホルダ41、42上の試料容器51,52に、それぞれ試料S、Sをセット又は交換する場合の加熱炉3及びファーナスチューブ9の位置を示す。試料S、Sをセット(配置)又は交換する場合には、支持台20をリニアアクチュエータ22によってファーナスチューブ9の先端側(図3の左側)に前進させると、支持台20にそれぞれ固定されたファーナスチューブ9及び加熱炉3が上記測定位置よりも先端側へ前進し、各試料ホルダ41、42がファーナスチューブ9及び加熱炉3より後端側に露出するので、試料S、Sのセットや交換が行える。
ここで、図3に示すように、フランジ部36とフランジ部7とが軸方向Oに離間し、各試料ホルダ41、42(つまり、試料S、S)がファーナスチューブ9及び加熱炉3よりも後端側に露出する位置を、「試料セット位置」と称する。
【0024】
次に図4図5を参照し、本発明の特徴部分である開口部Wについて説明する。図4に示すように、各試料ホルダ41,42は円形の皿状に形成され、その底面がそれぞれ試料容器51,52を載置する載置面41s、42sとなっている。又、試料ホルダ41,42は軸方向Oに垂直な方向に並んでいる。さらに、試料ホルダ41,42は、軸方向O及び軸方向Oに垂直な方向Pを中心に互いに線対称となる位置に配置され、試料ホルダ41,42上に試料容器を介して保持された各試料S、Sがファーナスチューブ9内で同一の条件で加熱されるようになっている。なお、載置面41s、42sのそれぞれの重心G1、G2に、試料容器51,52の重心(図示せず)を合わせるようにして載置される。
ここで、測定試料Sを保持する試料容器51は、測定試料Sを観察できるよう、上面が開口するオープン型の有底円筒の容器になっている。一方、参照試料Sを保持する試料容器52は観察できなくてもよいので、オープン型の有底容器でなく密閉型の容器を用いてもよい。但し、各試料S、Sがファーナスチューブ9内で同一の条件で確実に加熱されるためには、試料容器52は試料容器51と同一形状であることが好ましい。
【0025】
ところで、試料容器51の内径は最小で3mm程度である。従って、試料容器51の内部に重なるように開口部Wを形成すれば、開口部Wを介して測定試料Sを観察可能となる。一方、各試料S、Sがファーナスチューブ9内で同一の条件で加熱されるためには、試料容器52側にも試料容器51側と同様な開口部Wを形成する必要がある。
又、試料ホルダ41、42の大きさを規定しても、上述のように試料容器の容器部の内径によって測定試料Sの観察視野も変わってくる。
【0026】
以上のことから、図5に示すように、開口部W1の最小寸法として、軸方向Oに垂直でかつ載置面41s、42sに垂直な方向(図1の場合、加熱炉3の上面側に相当)から見たとき、開口部W1から内径3mmの容器部51及び容器部52(容器部52は容器部51と同一)の内側の全部又は大部分を視認できる寸法を規定した。又、このとき、試料容器の容器部の形状や内径が変わっても、試料ホルダ41、42の載置面41s、42s同士の重心G1、G2は不変であることから、G1、G2を基準とした。
つまり、開口部W1を、上記方向から見たとき、重心G1、G2を結ぶ線分Mに沿う方向Pに線分Mを中心にして7mm以上、線分Mに垂直な方向(軸方向O)に線分を中心にして3mm以上で、かつ少なくとも線分Mに重なるように形成する。ここで、線分Mに沿う方向Pに7mmとは、方向Pの開口部W1の「最大長さ」が7mmという意味であり、軸方向Oに3mmとは、軸方向Oの開口部W1の「最大長さ」が3mmという意味である。従って、開口部W1の隅部Wcは直角である必要はなく、図5に示すように曲線で構成されていてもよい。但し、隅部Wcの円弧は、少なくとも容器部51及び容器部52の内側に沿うよう、半径3mmの円周の1/4円である必要がある。
なお、線分Mに沿う方向Pに7mmと定めた理由は、容器部51、52の内径をそれぞれ最小3mmとし、方向Pに沿って試料容器51,52同士に熱影響の無い最小間隔が約1mmであることによる(この場合、試料ホルダ41、42も直径約3mmの円盤状を仮定する)。従って、開口部W1として最も小さいものは、重心G1,G2を中心とする半径3mmの円と、各円の間を切り抜いた領域とからなる長円である。
【0027】
一方、開口部Wを大きくし過ぎると、高温(例えば500℃以上)で熱分析中の試料を観察する際に、ファーナスチューブ内の試料S,Sの保温や加熱の制御が十分行えず、熱分析が精度よく行えない可能性がある。
このため、高温でも加熱状態をより確実に保った状態で試料を観察するため、開口部W2の最大寸法を、軸方向Oに沿って加熱炉の内面3cの長さLの1/2以下の大きさで、かつ軸方向に垂直なP方向に沿って加熱炉の内面3cの直径ID以下の大きさとすることが好ましい。なお、開口部W2は、上記した最小寸法の開口部W1を包含する位置に形成されることはいうまでもない。
【0028】
以上のようにして、開口部Wを介して、ファーナスチューブ9内で熱分析中の試料S、Sの変化を観察することができる。例えば、図1図2の例では、開口部Wの上方に撮像手段(例えば、カメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、光学顕微鏡等)90を配置し、熱分析中の試料S、Sを観察している。特に、高温(例えば500℃以上)で熱分析する際には、ファーナスチューブの保温や加熱が十分となり、熱分析を精度よく行いながら試料を観察できる。
【0029】
さらに、開口部Wを設けると次のような効果が生じる。つまり、図6に示すように、ファーナスチューブ9を用いて熱重量測定(TG)を行う場合、ファーナスチューブ9の全体が加熱炉3に囲まれると共に、重量増減を測定するため、測定試料Sの試料容器51がオープン型でその開口部が加熱炉3に向いている。この場合、加熱炉3からの輻射熱RHは、試料容器51等に吸収される他、試料容器51内の測定試料Sにも直接放射される。
ここで、熱重量測定(TG)と示差熱分析(DTA)を同時に行う場合、DTAでは測定試料Sの融解、分解等に伴う示差熱信号を取得する。ところが、加熱によって測定試料Sが溶け始めて形状が変化したり、試料の色が変化すると、測定試料Sが吸収する輻射熱RHの量も変化し、この輻射熱の変化も示差熱信号に含まれてしまい、測定精度が低下する。
【0030】
そこで、図7に示すように、加熱炉3に開口部Wを設けると、開口部Wの直下では加熱炉3から輻射熱RHは放射されず、試料容器51内の測定試料Sに直接放射される輻射熱RHが大幅に減少するので、加熱によって測定試料Sの形状や色が変化しても、測定試料Sが吸収する輻射熱RHの量は変化し難く、示差熱信号の測定精度の低下を抑制することができる。
なお、測定試料S以外の試料容器51等は加熱によって形状や色が変化しないので、これら試料容器51等に輻射熱RHが吸収されても、示差熱信号の測定精度には影響しない。
図8に、開口部Wの有無によるシュウ酸カルシウム水和物の実際の示差熱分析(DTA)の測定結果を示す。開口部Wの寸法は、軸方向Oを縦とすると、縦/横=10/13mmとし、天秤ビーム43、44が軸方向Oへ熱膨張した際も開口部W内に容器51、52(内径各5mm)の全体が収まるようにした。540℃付近に、脱水したシュウ酸カルシウムの熱分解による吸熱ピークが見られる。開口部Wを設けた場合、この吸熱ピーク前後のベースラインがフラットであり、DTAにおける熱量計算をする際のベースライン上の分解開始点(開始温度S)及び分解終了点(終了温度E)を判定し易く、示差熱を精度よく求めるができる。一方、開口部Wが無い場合、ピーク前後のベースラインのフラットネスが不足する(ベースラインが安定しない)。このため、このベースラインの形状から、当該ピークに係るライン上の分解開始点(開始温度)及び分解終了点(終了温度)として、本来の開始温度S及び終了温度Eと異なる温度となる、温度S、Eを誤って取得してしまい、算定の精度が低下する結果を招く。
【0031】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
例えば、ファーナスチューブ、加熱炉の構成、配置状態等は上記した例に限定されない。又、開口部の形状等も上記した例に限定されない。
又、試料を観察するに当たり、開口部Wを介して測定試料Sを直接観察可能な位置(図1の例では開口部Wの上方)に撮像手段90を配置してもよいが、測定試料Sを直接観察可能な位置にミラー等を配置することで、測定試料Sを直接観察可能な位置(開口部Wの上方)への撮像手段90の配置を避けてもよい。後者の場合、撮像手段90が開口部Wからの熱あるいは発生するガス等に直接晒されて損傷したり、レンズが曇る等で撮像ができなくなることを回避する効果がある。なお、撮像手段90を開口部Wに対して所定の位置に配置するためには、本発明の熱分析装置に所定の取付器具(例えば、片持ち式のステー、ブラケット等)を取付け、取付器具の先端に設けた撮像手段90の固定部(例えば、デジタルカメラに三脚等を取り付けるために設けたネジ孔に合う雄ネジ部)に撮像手段90を取り付ければよい。又、本発明の熱分析装置に所定の取付器具(例えば、片持ち式のステー、ブラケット等)を取付け、この取付器具に上記ミラー等を取付るようにしてもよい。
又、本発明の熱分析装置は、上記した熱重量測定(TG)装置の他、JIS K 0129:2005 "熱分析通則"に定義され、測定対象(試料)の温度をプログラム制御させた時の、試料の物理的性質を測定する全ての熱分析に適用可能である。具体的には、 (1)温度(温度差)を検出する示差熱分析(DTA)、(2)熱流差を検出する示差走査熱量測定(DSC)、(3)質量(重量変化)を検出する熱重量測定(TG)、等が挙げられる。
【符号の説明】
【0032】
100 熱分析装置
3 加熱炉
3c 加熱炉の内面
9 ファーナスチューブ
9b 排気口
30 測定室
32 測定手段
41、42 試料ホルダ
41s、42s 試料ホルダの載置面
51、52 試料容器
O 軸方向
測定試料
参照試料
G1、G2 載置面の重心
L 軸方向に沿った加熱炉の内面の長さ
ID 加熱炉の内面の直径
M 重心を結ぶ線分
W、W1、W2 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10