(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂と異方性フィラーとを含有する異方性樹脂組成物を射出成形等することによって得られる異方性樹脂成形体は、工業製品として広く使用されており、数値解析による形状検討が多用されている。ところで、数値解析による樹脂成形体の強度設計には、弾性率、ポアソン比、線膨張率等の物性値が必要である。樹脂成形体が異方性フィラーを含有する場合、これらの物性値を実測すること、及び予測することのいずれも容易ではない。
【0003】
特許文献1に記載の弾性率計算方法は、対象物の繊維配向方向の第1弾性率と、繊維配向と直交する方向の第2弾性率と、構造解析を行う際の荷重方向とを予め格納しておき、対象物の任意の要素ついて繊維配向の向きと荷重方向とが平行している場合には第1弾性率を、繊維配向の向きと荷重方向とが直交している場合には第2弾性率をそれぞれ設定し、さらに、繊維配向の向きと荷重方向とが平行も直交もしていない場合には荷重方向と繊維配向の向きとの角度と第1及び第2弾性率のいずれかに基づいて弾性率を算出して弾性率を設定することを特徴とする。
【0004】
特許文献2には、各繊維単体の物性と含有繊維をマトリクスと等価な等価介在物として取り扱う為の仮想歪テンソルを加算演算することにより、複合材全体の物性を表現するテンソルを求めるという手法が紹介されている。
【0005】
特許文献3では、含有する強化繊維及びベースレジン単体の機械物性を使用して評価形状における流動配向解析を実施し、算出した樹脂成形品の配向パラメータより算出した機械物性を、実際に評価形状をした成形品の機械物性を測定した数値と比較し、計算値が実測定値と等しくなるようなベースレジン、および強化繊維単体の機械物性を同定し、同定した機械物性を使用して成形部品の変形量を高精度に評価する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、いずれの方法も、繊維配向による成形品の機械物性予測方法による予測値と実際の成形品の物性値には数値的な不一致が存在しており、さらなる改善が求められていた。
【0007】
この不一致の原因としては、計算にて求める場合の仮定と実際との違いが挙げられる。例えば、射出充填される際に異方性フィラーが破損して、計算に使用している異方性フィラーのアスペクト比の値と実際の値が異なってしまうこと、繊維含有率の不均一、異方性フィラー同士の干渉等による異方性フィラー含有時の流動配向の予測力不足が考えられる。すなわち、計算上の仮定が実現象を十分表現できないことに加え、各構成要素の物性値が不正確であることで、解析モデル構築時の誤差に入力物性値の誤差が加算されて複合された誤差が存在しており、フィラー配向計算結果から機械物性を予測しても、この予測では不十分であった。
【0008】
予測の精度を高めるため、特許文献4では、充填剤を所定の割合で含む樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品についてX線CT測定等により、複数のスライス画像を取得し、スライス画像を微小面積の画素に分割し、その情報を元に樹脂成形品内の充填剤の配向状態を反映させた有限要素法モデルを作成し有限要素法解析を介して機械物性を同定し、成形部品の強度、変形量を高精度に評価する方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献5では、フィラーを含む射出成形品内のフィラーの3次元配向のデータをX線CTによる3次元画像から取得し、せん断応力の積分値および分子配向状態のデータに基づいて均質化法を介して線膨張係数を求め、構造解析により、射出成形品の熱間反りを求めている。
【0010】
しかしながら、特許文献4及び5に記載の方法では、各構成要素の物性値を得るために多大な実験、測定が必要である上、それを求める際の計算時間も多大となる。それにより、物性値を決定する際の計算に要するコストが膨大となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造解析が容易ではないと考えられている異方性樹脂成形体を構造解析するにあたり、構造解析の精度を高めるとともに、解析結果を短時間で、かつ、コンピュータにかかる負荷を大幅に軽減可能な構造解析用モデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、異方性樹脂成形体と配向状態が異なる複数種類の仮想成形体を想定し、これら複数種類の仮想成形体の各々について、ポアソン比と線膨張率の少なくとも一方を含む物性情報を予め作成し、この物性情報を構造解析のために要素分割された複数の第2領域の各々に当てはめることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0014】
[1]本発明は、異方性フィラーを含有する異方性樹脂成形体の構造解析を行うための構造解析用モデルを作成する構造解析用モデル作成方法であって、前記異方性樹脂成形体と配向状態が異なる複数種類の仮想成形体の各々について、下記式(1)で規定されるポアソン比と下記式(2)で規定される線膨張率との少なくとも一方を含む物性情報を作成する物性情報作成ステップと、前記異方性樹脂成形体の樹脂流動解析において要素分割された複数の第1領域の各々における第1領域配向状態を算出する第1領域配向状態算出ステップと、前記異方性樹脂成形体の構造解析のために要素分割された複数の第2領域の各々について、第2領域から最も近い第1領域を探索する探索ステップと、前記探索ステップで最も近いとされた第1領域における前記第1領域配向状態を各々の第2領域配向状態とする第2領域配向状態設定ステップと、前記物性情報を参照し、前記複数の第2領域の各々について、前記第2領域配向状態に応じた前記物性情報を各々の第2領域物性情報とする第2領域物性情報設定ステップとを含む、異方性樹脂成形体の構造解析用モデル作成方法である。
【数1】
(1)
(式(1)において、
ν
23は、対象材料の主軸方向に直交する2方向に対するポアソン比であり、
ν
fは、対象材料に含まれる異方性フィラーのポアソン比であり、
ν
mは、対象材料を構成する樹脂組成物のポアソン比であり、
V
fは、対象材料に含まれる異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。)
【数2】
(式(2)において、
α
νは、対象材料の体積膨張率であり、
α
11は、対象材料の主軸方向の線膨張率であり、
α
22は、材料主軸方向に直交する方向の線膨張率であり、
α
33は、材料主軸方向に直交する方向の線膨張率であり、
α
22≧α
33という関係を有する。)
【0015】
[2]また、本発明は、前記α
11は、下記式(3)によって求められ、前記α
22は、下記式(4)によって求められる、[1]に記載の構造解析用モデル作成方法である。
【数3】
(式(3)において、
α
sは、完全配向である仮想異方性樹脂成形体、すなわち配向度が1である仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の線膨張率であり、
α
rは、配向がランダム状態の仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の線膨張率であり、上記式(3)’で規定され、
λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度であり、
xは、配向度に対する各方向の非線形度を示すパラメーターである。)
(式(3)’において、α
νは、対象材料の体積膨張率である。)
【数4】
(式(4)において、
α
bは、完全配向である仮想異方性樹脂成形体、すなわち配向度が1である仮想異方性樹脂成形体の主軸方向に直交する方向の線膨張率であり、
α
rは、配向がランダム状態の仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の線膨張率であり、下記式(4)’で規定され、
λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度であり、
xは、配向度に対する各方向の非線形度を示すパラメーターである。)
(式(4)’において、α
νは、対象材料の体積膨張率である。)
【0016】
[3]また、本発明は、前記物性情報は、下記式(5)で規定される弾性率をさらに含む、[1]又は[2]に記載の構造解析用モデル作成方法である。
【数5】
(式(5)において、
E
11は、対象材料の主軸方向の弾性率であり、
E
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体の弾性率であり、
ζ
11は、式(5)’で示される値であり、
ηは、式(5)’’で示される値であり、
V
fは、異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。)
【数6】
(式(5)’において、
λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度であり、
L/dは、対象材料に含まれる異方性フィラーのアスペクト比である。)
【数7】
(式(5)’’において、E
fは、対象材料に含まれるフィラーの弾性率であり、E
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体の弾性率である。)
【0017】
[4]また、本発明は、前記物性情報は、式(6)で規定されるせん断弾性率をさらに含む、[1]から[3]のいずれかに記載の構造解析用モデル作成方法である。
【数8】
(式(6)において、
G
12は、対象材料の主軸方向のせん断弾性率であり、
G
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体のせん断弾性率であり、
ζ
11は、式(6)’で示される値であり、
η
gは、式(6)’’で示される値であり、
V
fは、異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。)
【数9】
(式(6)’において、
λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度であり、
L/dは、対象材料に含まれる異方性フィラーのアスペクト比である。)
【数10】
(式(6)’’において、G
fは、対象材料に含まれるフィラーのせん断弾性率であり、G
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体のせん断弾性率である。)
【0018】
[5]また、本発明は、前記α
νは、PVT樹脂特性解析によって得られる対象材料の体積膨張率の実測値である、[1]から[4]のいずれかに記載の構造解析用モデル作成方法である。
【0019】
[6]また、本発明は、前記異方性樹脂成形体がウエルド部を含む、[1]から[5]のいずれかに記載の構造解析用モデル作成方法である。
【0020】
[7]また、本発明は、前記探索ステップは、前記複数の第1領域の各々について第1重心位置を導出する第1重心位置導出ステップと、前記複数の第2領域の各々について第2重心位置を導出する第2重心位置導出ステップと、前記第2領域の各々について、前記第2重心位置から最も近い第1重心位置を探索し、前記第2重心位置から最も近い第1重心位置を有する第1領域を前記第2領域から最も近い第1領域とする最短第1領域設定ステップとを有する、[1]から[6]のいずれかに記載の構造解析用モデル作成方法である。
【0021】
[8]また、本発明は、前記配向状態は、対象材料の主軸方向の配向度であり、前記複数種類の仮想成形体は、前記配向度の範囲に応じて10種類以上1000種類以下の範囲で設定される、[1]から[7]のいずれかに記載の構造解析用モデル作成方法である。
【0022】
[9]また、本発明は、[1]から[8]のいずれかに記載の構造解析用モデル作成方法を使用して異方性樹脂成形体を構造解析する構造解析方法であって、前記異方性樹脂成形体について樹脂流動解析を行い、要素分割された前記複数の第1領域の各々における配向状態を算出するための配向状態算出基礎情報を含む第1領域配向情報を取得する第1領域配向情報取得ステップと、前記第1領域配向情報取得ステップとは別に、前記異方性樹脂成形体の構造解析のために前記異方性樹脂成形体を前記複数の第2領域に要素分割する構造解析用要素分割ステップと、前記第2領域配向状態の情報及び前記第2領域物性情報を含む構造解析モデル情報に基づいて前記異方性樹脂成形体の構造解析を行う構造解析ステップとを含み、前記第1領域配向状態算出ステップは、前記配向状態算出基礎情報に基づいて前記複数の第1領域の各々における配向状態に相当する第1領域配向状態を算出するステップであり、前記探索ステップは、前記構造解析用モデルにおける複数の第2領域の各々について、第2領域から最も近い第1領域を探索するステップである、異方性樹脂成形体の構造解析方法である。
【0023】
[10]また、本発明は、[9]に記載の構造解析方法を使用することで、前記異方性樹脂射出成形体の反り変形を予測する反り変形予測方法である。
【0024】
[11]また、本発明は、異方性フィラーを含有する異方性樹脂成形体の構造解析を行うための構造解析用モデルの作成をコンピュータに実行させるための構造解析用モデル作成プログラムであって、前記異方性樹脂成形体と配向状態が異なる複数種類の仮想成形体の各々について、下記式(1)で規定されるポアソン比と下記式(2)で規定される線膨張率との少なくとも一方を含む物性情報を作成する物性情報作成ステップと、前記異方性樹脂成形体の樹脂流動解析において要素分割された複数の第1領域の各々における第1領域配向状態を算出する第1領域配向状態算出ステップと、前記異方性樹脂成形体の構造解析のために要素分割された複数の第2領域の各々について、第2領域から最も近い第1領域を探索する探索ステップと、前記探索ステップで最も近いとされた第1領域における前記第1領域配向状態を各々の第2領域配向状態とする第2領域配向状態設定ステップと、前記物性情報を参照し、前記複数の第2領域の各々について、前記第2領域配向状態に応じた前記物性情報を各々の第2領域物性情報とする第2領域物性情報設定ステップとをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【数11】
(式(1)において、
ν
23は、対象材料の主軸方向に直交する2方向に対するポアソン比であり、
ν
fは、対象材料に含まれる異方性フィラーのポアソン比であり、
ν
mは、対象材料を構成する樹脂組成物のポアソン比である。)
【数12】
(式(2)において、
α
νは、対象材料の体積膨張率であり、
α
11は、対象材料の主軸方向の線膨張率であり、
α
22は、材料主軸方向に直交する方向の線膨張率であり、
α
33は、材料主軸方向に直交する方向の線膨張率であり、
α
22≧α
33 という関係を有する。)
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、異方性樹脂成形体を構造解析するにあたり、高精度の結果を短時間で得られるとともに、コンピュータにかかる負荷を大幅に軽減できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0028】
<異方性樹脂成形体の構造解析方法>
図1は、本発明に係る異方性樹脂成形体の構造解析方法の一例を示すフローチャートである。本発明に係る構造解析方法は、異方性フィラーを含有する異方性樹脂成形体について樹脂流動解析を行い、要素分割された複数の第1領域の各々における配向状態を算出するための配向状態算出基礎情報を含む第1領域配向情報を取得する第1領域配向情報取得ステップ(S1)と、第1領域配向情報取得ステップ(S1)とは別に、異方性樹脂成形体の構造解析のために異方性樹脂成形体を複数の第2領域に要素分割する構造解析用要素分割ステップ(S2)と、異方性樹脂成形体の構造解析を行うための構造解析用モデルを作成する構造解析用モデル作成ステップ(S3)と、構造解析モデルに基づいて異方性樹脂成形体の構造解析を行う構造解析ステップ(S4)とを含む。
【0029】
〔第1領域配向情報取得ステップ(S1)〕
まず、第1領域配向情報取得ステップ(S1)について説明する。異方性樹脂成形体の配向状態を取得するにあたり、X線CT等を用いて、射出成形等の加工によって得られる実際の異方性樹脂成形体を観察することによって取得することも考えられる。しかしながら、試作の前段階である設計段階にある場合、実際の異方性樹脂成形体が試作されていないことから、配向状態を実測するのは難しい。そのため、樹脂流動解析を用い、要素分割された複数の第1領域の各々における配向状態をシミュレートするのが好ましい。
【0030】
樹脂流動解析の手法は特に限定されるものでなく、例えば、有限要素法を用いた樹脂流動解析等が挙げられる。有限要素法を用いた樹脂流動解析により配向状態を取得する場合、異方性樹脂成形体の肉厚方向に対し、5分割以上で要素分割することが好ましい。要素分割の程度が4分割以下である場合、肉厚方向の繊維配向が平均化され、構造解析の精度が低下し得るため、好ましくない。
【0031】
配向状態の種類は特に限定されるものでなく、例えば、配向度、配向方向等が挙げられる。
【0032】
配向度に関する配向度情報は、通常3×3のマトリクスにて表現される。このマトリクスから、3方向の固有ベクトル、固有値を求める。それぞれの固有ベクトルから配向方向が得られる。またそれぞれの固有値から配向度が得られる。
【0033】
必須ではないが、射出成型の際に2点ゲートを用いると、ウエルドが発生し、ウエルド部に応力が集中するため、異方性樹脂成形体がウエルド部を含むものとしてモデル化することが好ましい。
【0034】
また、流動解析の精度、ひいては、構造解析の最終的な精度を高めるため、ゲート、ランナー、インサート部等についてもモデル化することが好ましい。
【0035】
〔構造解析用要素分割ステップ(S2)〕
続いて、構造解析用要素分割ステップ(S2)について説明する。構造解析用要素分割ステップ(S2)は、第1領域配向情報取得ステップ(S1)とは別に、異方性樹脂成形体の構造解析のために異方性樹脂成形体を複数の第2領域に要素分割するステップである。
【0036】
構造解析用要素分割ステップ(S2)は、第1領域配向情報取得ステップ(S1)での要素分割とは別に要素分割を行うものであれば特に限定されるものでなく、第1領域配向情報取得ステップ(S1)の後に行ってもよいし、第1領域配向情報取得ステップ(S1)の前に行ってもよいし、第1領域配向情報取得ステップ(S1)と並行して行ってもよい。
【0037】
要素分割する手法は特に限定されるものでない。一例として、まず、CADインターフェース等を利用して、異方性樹脂成形体の形状をパソコン等に取り込むか、あるいは、CADシステムにより異方性樹脂成形体の形状を作成し、モデル化範囲を設定する。次いで、要素分割プリプロセッサ等で有限要素法等の要素分割を行うことで異方性樹脂成形体を複数の領域に分割する。
【0038】
要素の形状は特に限定されるものでなく、四面体1次要素、四面体2次要素、六面体1次要素、六面体2次要素等が選択可能であり、有限要素法ソフトウェアの仕様、計算するコンピュータシステムの仕様、計算コスト等に応じて適宜選択すればよい。
【0039】
要素の数も特に限定されるものでなく、計算精度、計算時間等を考慮して適宜選択すればよい。
【0040】
〔構造解析用要素分割ステップ(S3)〕
構造解析用モデル作成ステップ(S3)は、異方性樹脂成形体の構造解析を行うための予備段階として構造解析用モデルを作成するステップである。以下、
図2を参照しながら、構造解析用モデル作成ステップ(S3)を詳しく説明する。
【0041】
図2は、
図1における構造解析用モデル作成ステップ(S3)の一例を示すフローチャートであり、本発明に係る構造解析用モデル作成方法に相当する。構造解析用モデル作成ステップ(S3)は、異方性樹脂成形体と配向状態が異なる複数種類の仮想成形体の各々について、所定のポアソン比及び所定の線膨張率の少なくとも一方を含む物性情報を作成する物性情報作成ステップ(S31)と、異方性樹脂成形体の樹脂流動解析において要素分割された複数の第1領域の各々における第1領域配向状態を算出する第1領域配向状態算出ステップ(S32)と、異方性樹脂成形体の構造解析のために要素分割された複数の第2領域の各々について、第2領域から最も近い第1領域を探索する探索ステップ(S33)と、探索ステップ(S33)で最も近いとされた第1領域における第1領域配向状態を各々の第2領域配向状態とする第2領域配向状態設定ステップ(S34)と、物性情報を参照し、複数の第2領域の各々について、第2領域配向状態に応じた物性情報を各々の第2領域物性情報とする第2領域物性情報設定ステップ(S35)とを含んで構成される。
【0042】
[物性情報作成ステップ(S31)]
物性情報作成ステップ(S31)は、配向度等で例示される配向状態に応じた物性情報(機械物性値)を予め作成するステップであり、具体的には、異方性樹脂成形体と配向状態は異なるが、異方性樹脂成形体を構成する樹脂の組成や樹脂成形体の形状等、他の条件は同一である複数種類の仮想成形体の各々について、下記式(1)で規定されるポアソン比と下記式(2)で規定される線膨張率との少なくとも一方を含む物性情報を作成するステップである。物性情報(機械物性値)を予め作成することにより、入力する物性情報の確認、修正が容易となるという利点がある。
【0043】
物性情報の作成情報は特に限定されるものでなく、剛性マトリクスを構成する物性情報を作成する場合、Halpin−Tsai式を元に、一部を改良したモデルを用いることが挙げられる。また、作成された物性情報は、ハードディスク、メモリ等に例示される、ハードウェアの記録領域に格納される。
【0045】
式(1)において、ν
23は、対象材料の主軸方向に直交する2方向に対するポアソン比である。また、ν
fは、対象材料に含まれる異方性フィラーのポアソン比である。また、ν
mは、対象材料を構成する樹脂組成物のポアソン比である。また、V
fは、対象材料に含まれる異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。
【0046】
本発明では、ポアソン比を求める方法を改良している。一般的に、各方向のポアソン比を実験的に求める手法として、特開2009−128033号公報に記載の手法等が知られているが、配向度依存性を求めることは極めて困難であるため、実際はモデル計算等で求めている。その際、算出方法によっては実際に不可能な値となりやすい。その場合、正定値が負となり、構造解析ソフトウェアによっては計算自体が不可能になる場合がある。式(1)を採用することで、材料物性における正定値が正になりやすくなるため、汎用構造計算ソフトウェアの取扱いが容易になる利点がある。
【0047】
【数14】
式(2)において、α
νは、対象材料の体積膨張率である。また、α
11は、対象材料の主軸方向の線膨張率である。また、α
22、α
33は、材料主軸方向に直交する方向の線膨張率であり、α22≧α33という関係性がある。
【0048】
式(2)において、計算に各方向の線膨張率と体積膨張率との関係を用いたが、この関係を満たさないと、体積の膨張・収縮量と各方向の膨張・収縮量が矛盾する。しかしながら、線膨張率を求める方式にて一般的なSchaperyモデル、Hashin−Shtrikmanモデル等ではこの関係を必ずしも満たさないため、計算結果の精度が悪い原因になっていた。
【0049】
α
11は、下記式(3)によって求められることが好ましく、α
22は、下記式(4)によって求められることが好ましい。
【数15】
【0050】
式(3)において、α
sは、完全配向である仮想異方性樹脂成形体、すなわち配向度が1である仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の線膨張率である。また、α
rは、配向がランダム状態の仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の線膨張率であり、式(3)’で規定される。λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度である。xは、配向度に対する各方向の非線形度を示すパラメーターである。
【0051】
また、式(3)’において、α
νは、対象材料の体積膨張率である。
【0053】
式(4)において、α
bは、完全配向である仮想異方性樹脂成形体、すなわち配向度が1である仮想異方性樹脂成形体の主軸方向に直交する方向の線膨張率である。α
rは、配向がランダム状態の仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の線膨張率であり、式(4)’で規定される。λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度である。xは、配向度に対する各方向の非線形度を示すパラメーターである。
【0054】
また、式(4)’において、α
νは、対象材料の体積膨張率である。
【0055】
本発明の実施形態では、仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の配向度に応じて連続的に材料物性値を与えるのではなく、区分的に扱う。具体的に、仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の配向度λ
11は、1/3以上1以下の値をとり得るため、例えば、λ
11が0.9以上1以下の範囲内にある場合を一種類の材料物性を持つものとする。この区分については、区間が細かいほど連続的になり、解析精度がより高まるが、区分数が多くなるため、材料物性の確認/変更は困難になる。構造解析での解析精度、及び材料物性の確認/変更の容易性の双方を考慮すると、複数種類の仮想成形体は、前記配向度の範囲に応じて10種類以上1000種類以下の範囲で設定されることが好ましい。
【0056】
物性情報として、上記式(1)で表されるポアソン比、及び式(2)で表される線膨張率のほか、下記式(5)で規定される弾性率、下記式(6)で規定されるせん断弾性率等が挙げられる。
【0059】
式(5)において、E
11は、対象材料の主軸方向の弾性率であり、E
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体の弾性率であり、ζ
11は、式(5)’で示される値であり、ηは、式(5)’’で示される値であり、V
fは、異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。
【0061】
式(5)’において、λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度であり、L/dは、対象材料に含まれる異方性フィラーのアスペクト比である。
【0062】
【数20】
式(5)’’において、E
fは、対象材料に含まれるフィラーの弾性率であり、E
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体の弾性率である。
【0063】
式(6)において、G
12は、対象材料の主軸方向のせん断弾性率であり、G
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体のせん断弾性率であり、ζ
11は、式(6)’で示される値であり、η
gは、式(6)’’で示される値であり、V
fは、異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。
【0065】
式(6)’において、λ
11は、対象材料の主軸方向の配向度であり、L/dは、対象材料に含まれる異方性フィラーのアスペクト比である。
【0066】
【数22】
式(6)’’において、G
fは、対象材料に含まれるフィラーのせん断弾性率であり、G
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体のせん断弾性率である。
【0067】
式(5)’及び式(6)’に関し、配向度等で例示される配向状態を元に弾性率等を求める手法は、これまでも均質化法として知られている。しかしながら、均質化法は、弾性率等を求める際の計算方法が複雑であるため、計算エラー、プログラムコーディングエラー等を生じ得る。計算手順、計算プログラム作成を容易にするため、微小領域における配向度を考慮できるモデルとして、上記の式(5)’及び式(6)’を採用することが好ましい。
【0068】
式(5)’及び式(6)’において、アスペクト比L/dは、実測値を採用することが好ましいが、異方性樹脂成型体に含まれるフィラーのアスペクト比は、フィラーの破損等により分布があるとともに、射出成型前の状態からは変化する。したがって、式(5)’及び式(6)’の運用に関しては、アスペクト比をパラメーターとして扱ってもよい。
【0069】
その他、物性情報として、以下の式(7)から式(9)を例示できる。
【0071】
式(7)において、ν
12及びν
13は、対象材料の主軸方向に直交する方向に対するポアソン比である。また、V
fは、異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率であり、ν
fは、対象材料に含まれる異方性フィラーのポアソン比である。また、V
mは、樹脂組成物の対象材料に対する体積含有率であり、ν
mは、対象材料を構成する樹脂組成物のポアソン比である。
【0073】
式(8−1)及び式(8−2)において、E
22及びE
33は、対象材料の主軸方向に直交する方向の弾性率であり、E
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体の弾性率である。また、ζ
22は、2であり、ηは、上記式(5)’’で示される値であり、V
fは、異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。
【0075】
式(9−1)及び式(9−2)において、G
23は、対象材料の主軸方向に直交する方向のせん断弾性率であり、G
mは、対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体のせん断弾性率である。また、ζ
22は、2であり、η
gは、式(6)’’で示される値であり、V
fは、異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率である。
【0076】
[第1領域配向状態算出ステップ(S32)]
第1領域配向状態算出ステップ(S32)は、異方性樹脂成形体の樹脂流動解析において要素分割された複数の第1領域の各々における第1領域配向状態を算出するステップである。本実施形態では、配向状態が配向方向及び配向度であるものとして説明するが、これに限るものではない。
【0077】
配向度に関する配向度情報は、通常3×3のマトリクスにて表現される。このマトリクスから、固有ベクトル、固有値を求める。固有ベクトルから配向方向が得られる。また固有値から配向度が得られる。固有ベクトルの3方向を座標系に変換し、後のステップにて各要素に与える。また、配向度に応じて物性情報作成ステップ(S31)にて得られた物性情報を後のステップにて各要素に設定する。これらの設定は、構造解析の前後において確認しやすいため、物性設定における不具合を確認しやすくなるという効果がある。
【0078】
[探索ステップ(S33)]
探索ステップ(S33)は、異方性樹脂成形体の構造解析のために要素分割された複数の第2領域の各々について、第2領域から最も近い第1領域を探索するステップである。探索ステップ(S33)の態様は特に限定されるものでないが、例えば、
図3に示すように、複数の第1領域の各々について第1重心位置を導出する第1重心位置導出ステップ(S331)と、複数の第2領域の各々について第2重心位置を導出する第2重心位置導出ステップ(S332)と、第2領域の各々について、第2重心位置から最も近い第1重心位置を探索し、第2重心位置から最も近い第1重心位置を有する第1領域を第2領域から最も近い第1領域とする最短第1領域設定ステップ(S333)とを有する態様を例示できる。
【0079】
(第1重心位置導出ステップ(S331))
図3を参照しながら、探索ステップ(S33)の具体例について説明する。第1重心位置導出ステップ(S331)では、第1領域配向情報取得ステップ(S1)にて計算に用いた第1領域に係る要素毎に、要素を構成する節点の位置から第1重心位置を求める。第1重心位置は、次に計算する構造解析用モデルの第2重心位置と比較される。
【0080】
(第2重心位置導出ステップ(S332))
第2重心位置導出ステップ(S332)では、第1重心位置導出ステップ(S331)と同様に、構造解析用要素分割ステップ(S2)で分割された第2領域の要素毎に、要素を構成する節点の位置から重心位置を求める。
【0081】
(最短第1領域設定ステップ(S333))
最短第1領域設定ステップ(S333)では、構造解析用要素分割ステップ(S2)で分割された第2領域の要素毎に、第2重心位置導出ステップ(S332)で求めた第2重心位置と、第1重心位置導出ステップ(S331)で求めた第1重心位置との間の距離を計算し、最も近い位置の情報を当てはめる。この最短第1領域設定ステップ(S333)を終えると、
図2の第2領域配向状態設定ステップ(S34)に移る。
【0082】
[第2領域配向状態設定ステップ(S34)]
図2に戻る。第2領域配向状態設定ステップ(S34)は、探索ステップ(S33)で最も近いとされた第1領域における第1領域配向状態を各々の第2領域配向状態とするステップである。この方式の場合、第1領域配向情報取得ステップ(S1)にて用いた樹脂流動解析での要素分割が粗く、構造解析用要素分割ステップ(S2)で分割された第2領域の要素の第2重心位置に第1領域配向情報取得ステップ(S1)にて用いた第1領域に係る要素がない場合でも、第1領域配向状態の情報を第2領域に当てはめることができる。
【0083】
この方式に従えば、要素分割状態によらず第1領域配向状態の情報を第2領域に当てはめることが可能である。この当てはめは、要素の形状関数を用いて配向状態の情報を補間して求めることも可能であるが、要素分割が異なる場合には補間できない状況になる場合があるため、配向状態の情報を求める際の情報密度、構造解析の要素分割に制約が生じる場合があり、その制約により、構造解析自体の精度に影響を及ぼす場合がある。
【0084】
[第2領域物性情報設定ステップ(S35)]
第2領域物性情報設定ステップ(S35)は、物性情報作成ステップ(S31)で予め作成され、ハードウェアの記録領域に格納されている物性情報を参照し、複数の第2領域の各々について、第2領域配向状態に応じた物性情報を各々の第2領域物性情報とするステップである。このステップでは、第2領域配向状態設定ステップ(S34)にて求めた第2領域配向状態の情報に基づいた座標系、及び配向度に応じた材料物性を構造解析の要素として設定する。この第2領域物性情報設定ステップ(S35)を終えると、構造解析の実行が可能になるため、
図1の構造解析ステップ(S4)に移る。
【0085】
〔構造解析ステップ(S4)〕
構造解析ステップ(S4)は、構造解析モデルに基づいて異方性樹脂成形体の構造解析を行うステップである。このステップでは、第2領域配向状態設定ステップ(S34)にて設定した第2領域配向状態の情報と、第2領域物性情報設定ステップ(S35)にて設定した第2領域物性情報とを含む構造解析モデル情報を用い、構造解析ソフトウェアのプログラムを実行して構造解析を実行する。構造解析における拘束条件、荷重条件、計算条件等の各種条件は、構造解析ソフトェアの仕様にしたがえばよく、特に限定されない。
【0086】
構造解析により、異方性樹脂成形体の変形、応力等をシミュレートできる。このシミュレートの結果から、異方性樹脂成形体における破損の有無等を判定できる。
【0087】
具体的態様として、異方性樹脂射出成形体の反り変形は、構造解析における荷重条件を温度荷重及び残留応力荷重に設定することで解析可能である。そのため、本発明に係る構造解析方法を使用することで、異方性樹脂射出成形体の反り変形を予測できる。
【0088】
<解析プログラム>
本発明に係る構造解析用モデル作成プログラムを含む一連の解析プログラムは、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。
【0089】
図4は、一連の解析プログラムを実現するためのハードウェア資源Hの一例を示す。ハードウェア資源Hは、情報処理装置1と、設計者からの各種要求を受け付ける入力装置2と、情報処理装置1が行った解析結果を出力する出力装置3とを備える。また、情報処理装置1は、LAN(Local Area Network)等のネットワークNWを介して、CAD装置4に接続されている。
【0090】
情報処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)10と、RAM(Random Access Memory)等により構成される主記憶装置20と、I/Oインタフェース30と、ハードディスク等により構成される補助記憶装置40と、ネットワークNWに接続されている装置との間で行うデータ授受の制御を行うネットワークインタフェース50とを備える。
【0091】
補助記憶装置40には、上述した一連のステップをハードウェア装置1に実行させるための解析プログラム41が格納されている。解析プログラム41は、流動解析による第1領域配向情報取得ステップ(S1)をハードウェア装置1に実行させるための第1領域配向情報取得プログラム41Aと、構造解析用要素分割ステップ(S2)をハードウェア装置1に実行させるための構造解析用要素分割プログラム41Bと、構造解析用モデル作成ステップ(S3)をハードウェア装置1に実行させるための構造解析用モデル作成プログラム41Cと、構造解析ステップ(S4)をハードウェア装置1に実行させるための構造解析プログラム41Dとを含んで構成される。本発明に係る構造解析方法は、CPU10が補助記憶装置40に格納されている解析プログラム41を主記憶装置20にロードして実行することにより実現される。特に、本発明に係る異方性樹脂成形体の構造解析用モデル作成方法は、CPU10が補助記憶装置40に格納されている構造解析用モデル作成プログラム41Cを主記憶装置20にロードして実行することにより実現される。
【0092】
上記の実施形態では、第1領域配向情報取得ステップ(S1)から構造解析ステップ(S4)に至るまでの各ステップは、複数のプログラムが組み合わせられて実行されることで行われているが、これに限られることなく、最初から一体として構築されたプログラムでもよく、また、実行されるコンピュータの形態や規模、設置場所等も限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
<試験例1>
試験例1では、平板部分の長片側にリブを設置した形状であって、射出成型にて得られる試験片Aを用いて、3点曲げ試験時における耐荷重を検討した。
【0095】
〔実施例1〕
まず、この試験片Aに対し、JIS178に準拠した曲げ試験を行った。固定冶具間の間隔を62mmに設定し、試験片中央部に圧子を配置し、圧子をひずみ速度が1%/minにて移動させ、試験機器に搭載のロードセンサーにて荷重を測定した。その結果、試験片は荷重272Nにて破損した。
【0096】
[第1領域配向情報取得ステップ(S1)]
続いて、試験片Aの形状をCADデータとして作成し、ランナー、ゲート等を加え有限要素分割を実行した。樹脂流動解析には、AUTODESK社AUTODESK SIMULATION MOLDFLOW INSIGHTを用いた。樹脂流動解析の条件を以下に示す。
樹脂:ガラス繊維30重量%含有強化ポリブチレンテレフタレート
樹脂温度:260℃
金型温度:80℃
射出流量:57.7cm
3/s
保圧圧力:70MPa
保圧時間:15秒
冷却時間:10秒
要素:四面体1次要素(分割数 450538)
【0097】
樹脂流動解析における要素分割後の試験片Aの形状を
図5に示し、樹脂流動解析によって得られる試験片Aにおける異方性フィラーの配向方向分布を
図6に示す。
【0098】
[構造解析用要素分割ステップ(S2)]
流動解析用の有限要素モデルとは別に、異方性樹脂成形体の構造解析のために、試験片Aを複数の第2領域に要素分割した。要素分割後の試験片Aの形状を
図7に示す。なお、
図7においては、ランナー、ゲート等を削除し、代わりに試験片支持台、および圧子を加えた。要素については四面体2次要素を用い、分割数は66565であった。試験片支持台を完全拘束し、圧子に、試験片の耐荷重である荷重272Nを与え、最大主応力および発生位置を検討した。
【0099】
[構造解析用モデル作成ステップ(S3)]
まず、物性情報作成ステップ(S31)において、試験片Aと配向状態が異なる複数種類の仮想成形体の各々について、上記式(1)〜(9)にしたがって物性情報を作成し、コンピュータの所定の記憶領域に格納した。式(1)〜(9)にしたがって得られる物性情報は、以下のとおりであった。
対象材料に含まれるフィラーの弾性率E
f :72000MPa
対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体の弾性率E
m:2500MPa
異方性フィラーの対象材料に対する体積含有率V
f :18vol%
樹脂組成物の対象材料に対する体積含有率V
m :82vol%
対象材料に含まれるフィラーのせん断弾性率G
f :29500MPa
対象材料を構成する樹脂組成物からなる成形体のせん断弾性率G
m:926MPa
対象材料に含まれる異方性フィラーのポアソン比ν
f :0.22
対象材料を構成する樹脂組成物のポアソン比ν
m :0.35
対象材料に含まれる異方性フィラーのアスペクト比L/d :14
【0100】
そして、試験片Aの樹脂流動解析において要素分割された複数の第1領域の各々における第1領域配向状態を算出する第1領域配向状態算出ステップ(S32)と、試験片Aの構造解析のために要素分割された複数の第2領域の各々について、第2領域から最も近い第1領域を探索する探索ステップ(S33)と、探索ステップ(S33)で最も近いとされた第1領域における第1領域配向状態を各々の第2領域配向状態とする第2領域配向状態設定ステップ(S34)と、物性情報を参照し、複数の第2領域の各々について、第2領域配向状態に応じた物性情報を各々の第2領域物性情報とする第2領域物性情報設定ステップ(S35)とを経て構造解析モデルを完成させる。完成した構造解析モデルを
図8に示す。元となる
図6の分布状況と比較すると、方向を示す位置が異なるが、両者の方向が一致している。
【0101】
[構造解析ステップ(S4)]
得られた構造解析用のモデルを用いて計算する。計算には、構造解析ソフトNX I−DEAS(シーメンスPLMソフトウェア社製)を用いた。
【0102】
図9は、試験片Aを実施例1の手法にて構造解析することによって得られる主応力分布を示す。最大応力を示す位置は、試験片の中央部から若干ずれている。試験片の成形の際には2点ゲートを用いたので、ウエルドが発生し、ウエルド部に応力が集中した結果と考えられる。また、実施例1における最大主応力は139MPaであった(表1)。
【0103】
また、試験片の引張破壊強度の実測値は140MPaであり、ウエルド部が破壊の起点となっていた(表1)。
【0104】
このように、実施例1の結果は、実測に極めて近く、実施例1において本発明の精度は極めて良好といえる。
【0105】
〔比較例1〕
実施例1と同一の試験片について、弾性率として、流動方向の弾性率と流動垂直方向の弾性率とを平均化した値である6320MPaを用い、ポアソン比として、既存のモデル計算によって求められる0.39を用いたこと以外は、実施例1と同じ手法にて、試験片Aの構造解析を行った。
【0106】
図10は、試験片Aを比較例1の手法にて構造解析することによって得られる主応力分布を示す。最大応力を示す位置は試験片中央部であり、ウエルド発生位置とは異なる位置であった。比較例1における最大主応力は106MPaであった(表1)。
【0107】
このように、比較例1の結果は、実測と異なり、比較例1の精度は、実施例1に比べて劣るといえる。
【0108】
【表1】
【0109】
<試験例2>
試験例2では、平板部分に箱型形状、リブ、円筒等を設置した形状であって、射出成型にて得られる試験片Bを用いて、熱膨張挙動を検討した。
【0110】
〔実施例2〕
まず、射出成型にて得られた試験片Bを切り出し、120℃環境にて恒温槽にてアニールを2時間程実施し、その後放冷した。その後、線膨張率測定装置に設置し、−30℃から室温まで温度を上昇させ、4か所において寸法変化量から、線膨張率を求めた。その結果は後述の表2にまとめた。
【0111】
[繊維配向情報取得ステップ(S1)]
続いて、実施例1と同様の手法にて、試験片Bの有限要素分割を実行した。樹脂流動解析の条件を以下に示す。
樹脂:ガラス繊維30重量%含有強化ポリブチレンテレフタレート
樹脂温度:250℃
金型温度:60℃
射出流量:32cm
3/s
保圧圧力:78.4MPa
保圧時間:10秒
冷却時間:15秒
要素:四面体1次要素(分割数 486749)
【0112】
樹脂流動解析における要素分割後の試験片Bの形状を
図11に示し、樹脂流動解析によって得られる試験片Bにおける異方性フィラーの配向方向分布を
図12に示す。
【0113】
[構造解析用要素分割ステップ(S2)]
流動解析用の有限要素モデルとは別に、異方性樹脂成形体の構造解析のために、試験片Bを複数の第2領域に要素分割した。要素分割後の試験片Bの形状を
図13に示す。なお、
図13においては、切り出し後の形状を用いた。要素については四面体2次要素を用い、分割数は66565であった。モデルのコーナー部3ヶ所にXYZ方向、YZ方向、Z方向を拘束し、温度荷重100℃を与えた。
【0114】
[材料物性の設定ステップ(S3)]
まず、物性情報作成ステップ(S31)において、試験片Aと配向状態が異なる複数種類の仮想成形体の各々について、上記式(1)〜(9)にしたがって物性情報を作成し、コンピュータの所定の記憶領域に格納した。式(1)〜(9)にしたがって得られる物性情報は、以下のとおりであった。
完全配向である仮想異方性樹脂成形体、すなわち配向度が1である仮想異方性樹脂成形体の主軸方向の線膨張率α
s :2.4×10
−5/℃
完全配向である仮想異方性樹脂成形体、すなわち配向度が1である仮想異方性樹脂成形体の主軸方向に直交する方向の線膨張率α
b :6.2×10
−5/℃
対象材料の体積膨張率α
ν :1.53×10
−4/℃
配向度に対する各方向の非線形度x :15.5(無次元)
【0115】
体積膨張率α
νは、PVT測定装置を用い、圧力が0MPaであるときのガラス繊維30重量%含有強化ポリブチレンテレフタレート(強化PBT)の体積変化を求め、強化PBTの温度に対する比容積の変化率を計算することによって求めた値である。
【0116】
そして、実施例1と同様に、第1領域配向状態算出ステップ(S32)と、探索ステップ(S33)と、第2領域配向状態設定ステップ(S34)と、第2領域物性情報設定ステップ(S35)とを経て構造解析モデルを完成させる。完成した構造解析モデルを
図15に示す。元となる
図12の分布状況と比較すると、方向を示す位置が異なるが、両者の方向が一致している。
【0117】
[構造解析ステップ(S4)]
続いて、実施例1と同様の手法によって試験片Bを構造解析した。
【0118】
図16に示す位置A,B,C,Dにおける寸法変化から、各位置における線膨張率を求めた。結果を表2に示す。また、
図17は、試験片Bを実施例2の手法にて構造解析することによって得られる変形量分布を示す。
図17から、試験片Bは、平面部がゆがむように変形することを示唆している。
【0119】
また、試験片Bにおいて、位置A,B,C,Dにおける線膨張率を実測した。結果を表2に示す。この実測の際、試験片Bの平面部がゆがむように変形することを目視にて確認した。
【0120】
このように、実施例2における位置A,B,C,D間の線膨張率差の変化は、実測値を反映しているといえ、実際の試験片Bのゆがみを反映しているといえる。したがって、実施例2の結果は、実測に極めて近く、実施例2において本発明の精度は極めて良好といえる。
【0121】
〔比較例2〕
実施例2と同一の試験片Bについて、線膨張率として、流動方向の線膨張率と流動垂直方向の線膨張率とを平均化した値である4.3×10
−5/℃を用いたこと以外は、実施例2と同じ手法にて、試験片Bの構造解析を行った。
【0122】
図16に示す位置A,B,C,Dにおける寸法変化から、各位置における線膨張率を求めた。結果を表2に示す。比較例2の場合、位置A,B,C,D間で線膨張率の有意差は認められない。また、
図18は、試験片Bを比較例2の手法にて構造解析することによって得られる変形量分布を示す。
図18から、試験片Bの平面部が平坦のままであり、実際の試験片Bのゆがみを反映していないことが明らかである。
【0123】
このように、比較例2の結果は、実測と異なり、比較例2の構造解析精度は、実施例2に比べて劣るといえる。
【0124】
【表2】