(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料ガスを噴出する原料ガス噴出部と、テープ状基材を加熱するサセプタとを有する反応室を備え、この反応室内で前記サセプタの直上を走行する前記テープ状基材の表面に、前記原料ガスを供給し化学反応させることにより、前記テープ状基材の表面に超電導薄膜を成膜するCVD装置であって、
前記反応室は、該反応室内を前記テープ状基材の走行方向に、前記原料ガスが供給される成膜領域と、この成膜領域よりも上流側又は下流側の予熱領域とに区分けする遮蔽板を備えると共に、前記サセプタに向けて遮蔽ガスを噴出し、当該サセプタと前記遮蔽板との隙間を通じて、前記成膜領域から前記予熱領域への前記原料ガスの拡散を抑える遮蔽ガス噴出部と、前記遮蔽ガスの温度を調整する遮蔽ガス温度調整部とを備えることを特徴とするCVD装置。
前記遮蔽板は、その下端部が前記サセプタから所定間隔だけ離間して配置され、前記遮蔽ガス噴出部の開口部は、前記遮蔽板の下端部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のCVD装置。
前記遮蔽ガス噴出部は、前記テープ状基材の幅方向における開口部の開口距離をx、前記テープ状基材の幅をw、前記サセプタの直上を走行するテープ状基材の本数をn、前記テープ状基材の間隔をdとしたとき、前記開口距離xは、x>w×n+d×(n−1)を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のCVD装置。
前記反応室は、前記遮蔽板が一側壁を形成し、前記原料ガス噴出部から噴出された前記原料ガスを前記テープ状基材の表面に案内する原料ガス輸送路を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のCVD装置。
前記原料ガス輸送路は、前記サセプタの幅よりも狭い開口端を有し、前記サセプタの幅方向中央に形成される前記テープ状基材の走行領域に沿って配設されていることを特徴とする請求項6に記載のCVD装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のCVD装置の概略構成を示す図である。
本実施形態のCVD装置1は、長尺のテープ状に形成された超電導用基材(以下、テープ状基材50という)を巻き取り走行させる基材搬送部40と、超電導薄膜の原料を供給する原料溶液供給部30と、原料溶液を気化させる気化器20と、気化された原料ガス、及び、テープ状基材50がそれぞれ供給され、テープ状基材50の表面に超電導薄膜を形成する反応室10と、遮蔽ガスを反応室10へ供給する遮蔽ガス供給部60等を備えている。
【0014】
原料溶液供給部30は、テープ状基材50の表面に形成される薄膜の原料溶液(例えば、YBCOの原料であるY、Ba、Cuのジケトンによるそれぞれの金属錯体を適宜な分量のテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた溶液)を各々所定の分量ずつ混合して気化器20へと供給する。
気化器20は、原料溶液供給部30から供給された原料溶液をキャリアガスとしてのArとともに噴霧させたのちに加熱して気化させる。その後、気化した原料ガスをO
2と混合して、反応室10へと供給する。
反応室10は、内部を走行するテープ状基材50の表面に気化器20から供給された原料ガスを吹き付けて、テープ状基材50の表面に成膜を行う。反応室10の内部の構成に関しては、後に詳述する。
【0015】
基材搬送部40は、テープ状基材50を往復搬送可能に構成されており、反応室10内においてテープ状基材50を所定速度(1〜100m/h)で搬送する。本実施形態では、原料ガスが供給された反応室10内にテープ状基材50を往復搬送させることにより、当該テープ状基材50の表面に所定の膜厚(例えば0.5μm〜3μm)の超電導薄膜(超電導層)を効率よく成膜することができる。なお、超電導薄膜が成膜されたテープ状基材50は、その後、スパッタ装置(不図示)により超電導薄膜の上に安定化層が形成されて超電導線材が製造される。
テープ状基材50は、幅10mm程度のテープ形状を有し、例えば、0.1mmの厚さの金属基板上に超電導体の結晶粒を二軸配向して成膜させるための中間層が設けられたものが用いられる。
【0016】
遮蔽ガス供給部60は、反応室10に不活性ガスからなる遮蔽ガスを供給する。反応室10において、遮蔽ガスが後述する遮蔽ガスの吹き出し口(開口部)から噴出され、超電導薄膜を成膜する成膜領域と隣接する予熱領域との境界にガスカーテンが形成される。遮蔽ガスとして用いられる不活性ガスの種類は、特に制限されるものではないが、本実施形態では、原料ガスのキャリアガスと同一のArが用いられている。
反応室10は、
図1に示すように、テープ状基材50を支持するとともに伝熱により加熱する金属(例えばステンレススチール)製のサセプタ13と、このサセプタ13を加熱するヒータ15とを備えている。すなわち、CVD装置1は、コールドウォール(内熱)型のCVD装置である。
【0017】
次に、反応室10について説明する。
図2は、反応室10の内部構造を示す平面図、
図3は、反応室10の基材走行方向に沿った断面構造を模式的に示す図である。反応室10は横長の直方体形状を有しているものとし、反応室10の短手方向(テープ状基材50の走行方向に直交する方向)を幅方向という。
図2及び
図3に示すように、反応室10の底壁17には、テープ状基材50の走行方向に延びるサセプタ13が設けられている。サセプタ13は、走行するテープ状基材50を加熱する熱伝導プレートであり、テープ状基材50の表面を反応室10内で適切な温度に保つように、サセプタ13の下面に配置されるヒータ15(
図1)により所定の温度(例えば700〜800℃)に加熱される。テープ状基材50は、サセプタ13の幅方向の略中央部にテープ状基材50の走行領域が形成される。
【0018】
反応室10の上壁16には、
図3に示すように、上記した気化器20(
図1)に接続される原料ガス噴出部21が配設されている。原料ガス噴出部21は、反応室10の上壁16の長手方向(テープ状基材50の走行方向)略中央に形成された矩形状の原料ガス噴出口21aを有している。この原料ガス噴出口21aには、多数の細孔(例えばφ1.5mm)が形成されたメッシュ板が配設され、このメッシュ板の細孔から原料ガス及びキャリアガスが所定の噴出速度で噴出される。テープ状基材50に超電導薄膜を成膜する場合、原料ガスの噴出速度は10m/s以上に設定される。
【0019】
また、原料ガス噴出部21には、原料ガス噴出口21aから噴出された原料ガスをテープ状基材50の表面に案内する延長ノズル(原料ガス輸送路)23が設けられている。この延長ノズル23は、テープ状基材50の幅方向に沿って対向配置される第1遮蔽板12,12と、これら第1遮蔽板12,12に架け渡されると共に、当該テープ状基材50の走行方向に沿って対向配置される第2遮蔽板14,14とを備えて略角筒形状に形成されている。これら第1遮蔽板12及び第2遮蔽板14は、超電導薄膜を成膜するための成膜温度に対して耐熱性を有するとともに、原料ガスと反応しない材料(例えばSUS)で構成される。本構成では、原料ガス噴出口21aから噴出された原料ガスをテープ状基材50の表面に案内する延長ノズル23を設けることにより、テープ状基材50の成膜に寄与する原料ガスの量を増加させることができ、原料収率の向上を図ることができる。
【0020】
反応室10内、具体的にはサセプタ13の上部は、延長ノズル23における2枚の第1遮蔽板12、12によって、テープ状基材50の走行方向に、該テープ状基材50が反応室10へ進入する基材導入領域A1と、テープ状基材50の表面に超電導薄膜を成長させる成膜領域A2と、テープ状基材50が反応室10から外部へ送りだされる基材導出領域A3との3つの領域に分割される。基材導入領域A1、基材導出領域A3について、特段区別する必要がない場合には、これらをまとめて予熱領域Aという。
【0021】
第1遮蔽板12、12は、
図2に示すように、サセプタ13とほぼ同一幅に形成されると共に、
図3に示すように、遮蔽板12,12の下端面がサセプタ13の上面(テープ状基材50の走行面)に対して所定間隔(距離)hだけ離間して設けられており、この間隔hをテープ状基材50が通行可能となっている。
【0022】
また、反応室10は、遮蔽ガス供給部60から供給された遮蔽ガスをサセプタ13に向けて噴出する遮蔽ガス噴出部25,25を備える。この遮蔽ガス噴出部25は、第1遮蔽板12の下端面とサセプタ13との隙間を通じて、原料ガスが成膜領域A2から予熱領域Aに流出することを防止するものである。
本実施形態では、第1遮蔽板12、12は、
図3に示すように、上端から下端まで貫通した中空構造となっており、遮蔽ガス供給部60から供給された遮蔽ガスを第1遮蔽板12の上端から導入して下端の吹き出し口12aからテープ状基材50へと吹き出すようになっている。すなわち、本実施形態では、遮蔽ガス噴出部25は、第1遮蔽板12と一体に形成されている。
吹き出し口12aは、
図2に示すように、遮蔽ガスがサセプタ13の横幅に広がって噴出されるように、横幅に対して縦幅(テープ状基材50の走行方向の厚み)が比較的薄い矩形状に設定され、この矩形状に設定された吹き出し口12aから、第1遮蔽板12の真下の領域に遮蔽ガスをカーテン状に吹きつけることが可能となっている。
【0023】
このように、本構成では、第1遮蔽板12,12の下端面に形成された吹き出し口12aから直下のサセプタ13に向けて、遮蔽ガスを噴出することにより、この遮蔽ガスが、原料ガスの長手方向(テープ状基材50の走行方向)の拡散を抑制することにより、成膜領域A2において良質な超電導薄膜を成膜することができる。
【0024】
また、反応室10の底壁17には、サセプタ13の幅方向両側に、成膜領域A2に対応する長さの排気口24aを有する排気部24が配設されている。排気部24は、排気ポンプ(図示略)を備え、未反応の原料ガス、キャリアガス及び遮蔽ガス等を反応室10の外部に排気する。
【0025】
本実施形態では、超電導薄膜の成膜時に、第1遮蔽板12の下端に形成された吹き出し口12aから遮蔽ガスをカーテン状に噴出し、原料ガスが成膜領域A2から基材導入領域A1又は基材導出領域A3に流出しないようにしている。
第1遮蔽板12の下端面の吹き出し口12aから吹き出した遮蔽ガスは、テープ状基材50の上から第1遮蔽板12の下部をテープ状基材50の走行方向とほぼ垂直に排気口24aへと向かい排出される。この遮蔽ガスの流れによって、原料ガスが成膜領域A2の両端部及び基材導入領域A1又は基材導出領域A3へ侵入することを防ぐことができる。また、キャリアガスと遮蔽ガスに同一種のArを利用することによって、異なる気体の間での相互作用などを考慮する必要がなくなり、簡便な構成とすることができる。
【0026】
ところで、上記した構成では、遮蔽ガスは、原料ガスの長手方向(テープ状基材50の走行方向)の拡散を抑制するため、成膜領域A2において良質な超電導薄膜を成膜することができる。一方で、成膜領域A2における超電導薄膜の成膜の良否には、サセプタ13によって加熱されたテープ状基材50の表面温度が関係することが発明者等の実験、研究によって判明した。
遮蔽ガスは、通常、常温(例えば25℃)で噴出されるため、テープ状基材50の表面温度(例えば700〜800℃)に比べると著しく低い。このため、遮蔽ガスによって、基材導入領域A1から成膜領域A2へ進入するテープ状基材50の表面温度が変動することにより、例えば異相が発生する等、適正な成膜が行われず、超電導線材の超電導特性が低下するおそれがあるという問題があった。
【0027】
このため、本構成では、CVD装置1は、遮蔽ガス供給部60と遮蔽ガス噴出部25との間に、遮蔽ガス供給部60から供給された遮蔽ガスの温度を調整する遮蔽ガス温度調整部70を備える。
この遮蔽ガス温度調整部70は、
図3に示すように、遮蔽ガス供給部60から延びる供給管71と、この供給管71と第1遮蔽板12の上端面の遮蔽ガス導入口12bとの間に配置され、遮蔽ガスを加熱するヒータ72と、遮蔽ガスの吹き出し口12a近傍に配置されて、吹き出し口12aにおける遮蔽ガスの温度を計測する温度センサ73と、この温度センサ73の検出温度に基づいて、上記ヒータ72を制御する制御部(不図示)を備える。
本実施形態では、基材搬送部40が、テープ状基材50を反応室10内に往復搬送することで、テープ状基材50の表面に超電導薄膜を成膜する構成であるため、テープ状基材50の走行方向によって、基材導入領域A1と基材導出領域A3との位置が切り替わるようになっている。このため、両方の第1遮蔽板12に、遮蔽ガス噴出部25及び遮蔽ガス温度調整部70を備える構成としている。テープ状基材50の走行方向が一方に決まっている場合には、遮蔽ガス噴出部25及び遮蔽ガス温度調整部70は、基材導入領域A1と成膜領域A2とを区画する第1遮蔽板12に設ければ良い。
【0028】
この構成によれば、遮蔽ガス供給部60から供給された遮蔽ガスは、ヒータ72によって所定温度に加熱され、遮蔽ガス噴出部25(第1遮蔽板12)の吹き出し口12aを通じて、吹き出されるため、成膜領域A2へ進入するテープ状基材50の表面温度の変動を抑えることにより、テープ状基材50の表面への超電導薄膜の成膜を安定して行うことができ、超電導特性の低下を抑制することができる。
【0029】
また、第1遮蔽板12,12の下端面に設けられた吹き出し口12aと、サセプタ13の上面(テープ状基材50の走行面)との間隔hは、遮蔽ガスにより、成膜領域A2と予熱領域Aとを遮蔽するという観点によれば、より小さい(接近した)方が望ましい。一方で、間隔hが小さすぎる場合には、吹き出される遮蔽ガスの温度制御が困難になる。このため、本実施形態では、吹き出し口12aと、サセプタ13の上面(テープ状基材50の走行面)との間隔hは、2mm<h<10mmを満たすように形成されている。この構成によれば、遮蔽ガスの温度制御を容易に行いつつも、遮蔽ガスにより、成膜領域A2と予熱領域Aとを十分に遮蔽することができる。
【0030】
また、本構成では、テープ状基材50に対して、吹き出し口12aから吹き出される遮蔽ガスの到達速度は、原料ガス噴出口21aから噴出された原料ガスの到達速度以上に設定される。これによれば、遮蔽ガスによる遮蔽効果を高めることでき、成膜領域A2から予熱領域Aへの原料ガスの流出を抑制できる。
【0031】
次に、遮蔽ガスの温度について説明する。
上述のように、遮蔽ガス温度調整部70によって、遮蔽ガスを加熱することにより、成膜領域A2へ進入するテープ状基材50の表面温度の変動を抑えることができることが判明した。さらに調査を進めることにより、遮蔽ガスの温度条件と成膜された超電導線材の超電導特性との関係が判明した。
【0032】
[実施例1]
実施例1では、厚さ100μmのハステロイ板上に、厚さ数百nmのGZO/IBAD−MgO/CeO2を積層した幅10mmのテープ状基材50を用いて、このテープ状基材50を上述したCVD装置1内を走行させながら成膜を行った。この場合の反応圧力は10Torrに設定され、テープ状基材50を54m/hの速度で11回移動させることにより、テープ状基材50の表面に約1μmのY系超電導層を成長させた。
成膜したY系超電導層の上にAg安定化層を形成した後、酸素中において熱処理を施して実施例1に係る超電導線材を作成した。
また、実施例1では、成膜時に、遮蔽ガス噴出部25(第1遮蔽板12)の吹き出し口12aから250℃に加熱されたアルゴンガス(遮蔽ガス)を600sccmの流量で、テープ状基材50の表面に対して垂直方向より吹き出している。
【0033】
[実施例2]
実施例2では、アルゴンガスの加熱温度を210℃とした点で実施例1と異なり、その他の条件は、実施例1と同一である。
【0034】
[実施例3]
実施例3では、アルゴンガスの加熱温度を280℃とした点で実施例1と異なり、その他の条件は、実施例1と同一である。
【0035】
[実施例4]
実施例4では、アルゴンガスの加熱温度を190℃とした点で実施例1と異なり、その他の条件は、実施例1と同一である。
【0036】
[実施例5]
実施例5では、アルゴンガスの加熱温度を300℃とした点で実施例1と異なり、その他の条件は、実施例1と同一である。
【0037】
[比較例1]
比較例1では、成膜時に、遮蔽ガス噴出部25(第1遮蔽板12)の吹き出し口12aからアルゴンガスの吹き出しを行っていない点で実施例1と異なり、その他の条件は、実施例1と同一である。
【0038】
[比較例2]
比較例2では、アルゴンガスの加熱をしていない(常温)とした点で実施例1と異なり、その他の条件は、実施例1と同一である。
【0039】
[比較例3]
比較例3では、アルゴンガスの加熱をしていない(常温)とした点、及び、アルゴンガスの吹き出し流量を1000sccmとした点で実施例1と異なり、その他の条件は、実施例1と同一である。
【0040】
上記した実施例1〜5及び比較例1〜3に係る超電導線材について、77K,0T(テスラ)の環境下で、4端子法により臨界電流値を測定した。この測定結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
臨界電流値は高い値を示すほうが望ましく、一般には、250A/cm−w(10mm幅線では250A)以上を示すものが超電導線材として採用されている。
表1に示すように実施例1〜3では、臨界電流値は290A、280A、270Aと高い値を示す。これに対して、アルゴンガスを用いない比較例1では臨界電流値は190Aと低い値となり、またアルゴンガスの加熱を行わない比較例2、3では、600sccmの場合の臨界電流値は200A、1000sccmの場合の臨界電流値は150Aとなりそれぞれ実施例1〜3より低い値となった。
このため、遮蔽ガスとしてのアルゴンガスを成膜時に吹き出すことに十分な効果があることが判明した。
【0042】
また、実施例4、5では、加熱温度を190℃、300℃とした場合には、臨界電流値は、それぞれ230A、220Aと、実施例1〜3に比べて低い値となった。
アルゴンガスの温度が200℃未満の場合は、アルゴンガスにより成膜領域A2へ進入するテープ状基材50の表面温度が低下するため、この成膜領域A2内での原料ガスの温度が低下することにより、成膜(a軸配向)に悪影響を及ぼすことが判明している。また、アルゴンガスの温度が300℃以上の場合は、原料ガスが分解してしまうため、臨界電流値が低下し、超電導特性が低下する。このため、アルゴンガスの温度を200℃以上300℃未満としたことにより、超電導薄膜の成膜時における原料ガスの分解や、成膜への悪影響を抑えることができ、超電導特性を向上させることができる。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、原料ガスを噴出する原料ガス噴出部21と、テープ状基材50を加熱するサセプタ13とを有する反応室10を備え、この反応室10内でサセプタ13の直上を走行するテープ状基材50の表面に、原料ガスを供給し化学反応させることにより、テープ状基材50の表面に超電導薄膜を成膜するCVD装置1であって、反応室10は、該反応室10内をテープ状基材50の走行方向に、原料ガスが供給される成膜領域A2と、この成膜領域A2よりも上流側の基材導入領域A1とに区分けする第1遮蔽板12を備えると共に、サセプタ13に向けて遮蔽ガスを噴出し、当該サセプタ13と第1遮蔽板12との隙間を通じて、成膜領域A2から基材導入領域A1への原料ガスの拡散を抑える遮蔽ガス噴出部25と、遮蔽ガスの温度を調整する遮蔽ガス温度調整部70とを備えたため、遮蔽ガス供給部60から供給された遮蔽ガスは、遮蔽ガス温度調整部70のヒータ72によって所定温度に加熱され、遮蔽ガス噴出部25の吹き出し口12aを通じて、吹き出されるため、成膜領域A2へ進入するテープ状基材50の表面温度の変動を抑えることができる。従って、テープ状基材50の表面への超電導薄膜の成膜を安定して行うことができ、超電導特性の低下を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、遮蔽ガス温度調整部70は、遮蔽ガスを原料ガスよりも高い温度に加熱するため、成膜領域A2へ進入するテープ状基材50の温度低下が抑えられ、テープ状基材50の表面への超電導薄膜の成膜を安定して行うことができ、超電導特性の低下を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、遮蔽ガス噴出部25は、第1遮蔽板12と一体に形成されているため、反応室10の構成を簡素化することができる。
【0046】
また、第1遮蔽板12は、その下端部がサセプタから所定間隔hだけ離間して配置され、遮蔽ガス噴出部25の吹き出し口12aは、第1遮蔽板12の下端面に設けられているため、この吹き出し口12aから、第1遮蔽板12の真下の領域に遮蔽ガスをカーテン状に吹きつけることができ、遮蔽効果を高めることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、テープ状基材50から遮蔽ガス噴出部25の吹き出し口12aのまでの距離をhとしたとき、この距離hは、2mm<h<10mmの範囲に形成されるため、遮蔽ガスの温度制御を容易に行いつつも、遮蔽ガスにより、成膜領域A2と予熱領域Aとを十分に遮蔽することができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、反応室10は、第1遮蔽板12が一側壁を形成し、原料ガス噴出部21から噴出された原料ガスをテープ状基材50の表面に案内する延長ノズル23を備えるため、テープ状基材50の成膜に寄与する原料ガスの量を増加させることができ、原料収率の向上を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、延長ノズル23は、サセプタ13の幅よりも狭い開口端を有し、サセプタ13の幅方向中央に形成されるテープ状基材50の走行領域に沿って配設されるため、延長ノズル23による原料収率の向上効果をより一層高めることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、遮蔽ガスの温度を200℃以上300℃未満とするため、原料ガスの分解や成膜への悪影響を抑えることができ、超電導特性を向上させることが可能となる。
【0051】
また、本実施形態によれば、テープ状基材50に対する遮蔽ガスの到達速度を、原料ガスの到達速度以上とするため、遮蔽ガスによる遮蔽効果を高めることでき、成膜領域A2から予熱領域Aへの原料ガスの流出を抑制できる。
【0052】
以上、本発明を一実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、本実施形態では、反応室10内を一本のテープ状基材50が往復する構成としたが、これに限るものではなく、当該テープ状基材50を反応室10内で複数回反転させるマルチターン方式としても良い。この構成では、
図4に示すように、テープ状基材50の幅方向における遮蔽ガス噴出部25の吹き出し口12aの長さは、すべてのテープ状基材50に対して遮蔽ガスを噴出させるのに十分な長さとなっている。すなわちテープ状基材50の幅方向の吹き出し口12aの長さx、テープ状基材50の幅をw、成膜するテープ状基材50の本数をn、テープ状基材50の間隔をdとしたとき、x>w×n+d×(n−1)の関係を満たしている。
この構成によれば、成膜領域A2へ進入する複数のテープ状基材50の各表面温度の変動を抑えることにより、マルチターン方式で搬送されるテープ状基材50の表面への超電導薄膜の成膜を安定して行うことができ、超電導特性の低下を抑制することができる。
【0053】
また、キャリアガスと遮蔽ガスの種類は、両ガス同士及び原料ガスとの化学反応が避けられる限りにおいてArに限られず、例えば、N
2や他の希ガスを用いることも可能である。またそれぞれ別の種類のガスを用いることも可能である。
【0054】
また、第1遮蔽板12は、テープ状基材50にほぼ垂直な面内に設けられることが望ましいが、原料ガスが成膜領域A2内のテープ状基材50に均一に供給され、且つ、供給された遮蔽ガスが均等に排気口24aへ流れる構成であれば、傾いた配置(例えば、遮蔽板の上端が数度傾いた形状など)としてもよい。
また、本実施形態では、第1遮蔽板12の内部を中空に形成し、この中空部を遮蔽ガス噴出部として第1遮蔽板12と一体に形成しているが、例えば、薄い第1遮蔽板12と平行に遮蔽ガスの供給管を別に設けることも可能である。また、吹き出し口12aが第1遮蔽板12の近傍で、該第1遮蔽板12とサセプタ13との隙間よりも上方にあり、遮蔽ガスが第1遮蔽板12に沿って流れるようにしても良い。
また、第1遮蔽板12は、テープ状基材50の通過部分のみトンネル状に開口し、その下端から遮蔽ガスを吹き出すとともに、テープ状基材50の走行路の両脇部分では、下端をサセプタ13及び反応室10の底壁17と接続して通気を行わない構造としても良い。
その他、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であり、CVD装置の形状、各部の配置など、その細部は、特許請求の範囲で示した発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。