特許第6062436号(P6062436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6062436サセプタ、結晶成長装置および結晶成長方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062436
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】サセプタ、結晶成長装置および結晶成長方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20170106BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20170106BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/34
   C23C16/458
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-527036(P2014-527036)
(86)(22)【出願日】2013年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2013070373
(87)【国際公開番号】WO2014017650
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-165692(P2012-165692)
(32)【優先日】2012年7月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】肥後 正昭
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−186622(JP,A)
【文献】 特開2009−194045(JP,A)
【文献】 特開平5−47670(JP,A)
【文献】 特開昭63−18079(JP,A)
【文献】 特開2009−252969(JP,A)
【文献】 特開2012−44030(JP,A)
【文献】 特開2006−173560(JP,A)
【文献】 特開2004−351285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/34
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持し、当該基板上に化学気相成長(CVD)法によって成長層を形成するためのサセプタであって、
前記サセプタは、下部プレートと当該下部プレートの上面に設置される上部プレートとを有し、
前記下部プレートは、前記下部プレートの上面に前記基板が載置される領域である基板載置部を具備し、さらに、前記基板載置部の周囲に、前記基板が前記基板載置部上において囲まれる形状となるように形成された外周突起部を具備し、
前記上部プレートは、前記下部プレートの上面の前記基板載置部及び前記外周突起部を除く領域に載置され、前記基板載置部と前記外周突起部の頂部とを前記上部プレートの上面側に露出させる形状を具備し、
前記上部プレートを構成する主な材料はパイロリテックグラファイト(熱分解炭素)であり、前記上部プレートの上下方向における熱伝導率は、前記下部プレートの上下方向における熱伝導率よりも低いことを特徴とするサセプタ。
【請求項2】
前記基板載置部において前記基板が載置される面は、前記上部プレートが載置される前記下部プレートの上面よりも高く設定され、前記下部プレートと前記上部プレートとを組み合わせた際に、前記上部プレートの上面と前記外周突起部の頂部とが同一の高さとなるように設定されたことを特徴とする請求項1に記載のサセプタ。
【請求項3】
前記外周突起部の幅は1.0mm〜5.0mmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のサセプタ。
【請求項4】
前記下部プレートの表面に、表面保護層を具備することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のサセプタ。
【請求項5】
前記表面保護層はパイロリティックボロンナイトライド(pBN)またはシリコンカーバイド(SiC)で構成されたことを特徴とする請求項に記載のサセプタ。
【請求項6】
サセプタの上に基板が載置され、当該基板上に化学気相成長法によって成長層を形成する結晶成長装置であって、
前記サセプタは、下部プレートと当該下部プレートの上面に設置される上部プレートとを有し、
前記下部プレートは、前記下部プレートの上面に前記基板が載置される領域である基板載置部を具備し、さらに、前記基板載置部の周囲に、前記基板が前記基板載置部上において囲まれる形状となるように形成された外周突起部を具備し、
前記上部プレートは、前記下部プレートの上面の前記基板載置部及び前記外周突起部を除く領域に載置され、前記基板の上面と前記外周突起部の頂部とを前記上部プレートの上面側に露出させる形状を具備し、
前記上部プレートを構成する主な材料はパイロリテックグラファイト(熱分解炭素)であり、前記上部プレートの上下方向における熱伝導率は、前記下部プレート及び前記基板の上下方向における熱伝導率よりも低いことを特徴とする結晶成長装置。
【請求項7】
前記基板載置部において前記基板が載置される面は、前記上部プレートが載置される前記下部プレートの上面よりも高く設定され、前記下部プレート、前記基板、及び前記上部プレートを組み合わせた際に、前記上部プレートの上面、前記基板の上面、及び前記外周突起部の頂部が同一の高さとなるように設定されたことを特徴とする請求項に記載の結晶成長装置。
【請求項8】
前記外周突起部の幅は1.0mm〜5.0mmの範囲であることを特徴とする請求項又はに記載の結晶成長装置。
【請求項9】
前記下部プレートを構成する主な材料は黒鉛であることを特徴とする請求項から請求項までのいずれか1項に記載の結晶成長装置。
【請求項10】
前記下部プレートの表面に、表面保護層を具備することを特徴とする請求項から請求項までのいずれか1項に記載の結晶成長装置。
【請求項11】
前記表面保護層はパイロリティックボロンナイトライド(pBN)またはシリコンカーバイド(SiC)で構成されたことを特徴とする請求項10に記載の結晶成長装置。
【請求項12】
請求項から請求項11までのいずれか1項に記載の結晶成長装置を用い、
チャンバ内において、前記下部プレートを加熱して、前記基板が前記サセプタの上に載置され加熱された状態で前記成長層の原料が含まれる原料ガスを流すことを特徴とする結晶成長方法。
【請求項13】
前記基板はサファイアであり、前記成長層の成長時の前記基板の温度を1000℃以上とすることを特徴とする請求項12に記載の結晶成長方法。
【請求項14】
前記成長層は窒化物半導体であることを特徴とする請求項12又は13に記載の結晶成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長(CVD)法によって基板上に成長層を形成させるために用いられるサセプタ、及びこのサセプタを用いる結晶成長装置、結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNに代表されるIII族窒化物半導体は、そのバンドギャップが広いために、紫外、青色、緑色等のLED(発光ダイオード)、LD(レーザーダイオード)等の発光素子やパワー素子の材料として広く用いられている。シリコン等を用いたLSI等の半導体装置を製造するに際しては、大口径のバルク結晶を切り出して得られた大口径のウェハが用いられるのに対して、こうしたIII族窒化物半導体においては、大口径(例えば4インチ径以上)のバルク結晶を得ることが極めて困難である。このため、こうしたIII族窒化物半導体を用いた半導体装置を製造するに際しては、これと異なる材料からなる基板上にこのIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長(ヘテロエピタキシャル成長)させたウェハを用いるのが一般的である。
【0003】
III族窒化物半導体に対するエピタキシャル成長方法としては、MBE(分子線エピタキシー法)やMOCVD(有機金属化学気相成長法)が知られている。この中で、MOCVD法は、MBE法よりも量産性が高いため、好ましく用いられている。MOCVD法においては、チャンバ内において、基板となるウェハがサセプタ上で所定の温度(例えば1000℃以上)に保持されて載置された状態で、半導体の原材料を構成する元素を含む有機金属ガス(原料ガス)等が流される。原料ガスがこの温度下において基板の表面で反応することによって、基板上に単結晶の良質な半導体層を形成することができる。
【0004】
この際に、基板を高温下で保持するサセプタが、成長した半導体層(成長層)の特性に対して与える影響は大きい。サセプタに対しては、(1)熱伝導率が高く基板の温度を一定に保持することができること、(2)半導体中において電気的又は光学的に活性となる(電気的又は光学的に特性に影響を与える)不純物元素を含まないこと、(3)充分な機械的強度及び耐熱性をもつこと、等が要求される。このため、一般には、サセプタの素材としては熱伝導率の高い黒鉛等が用いられる。また、サセプタ上には結晶成長毎に新たな基板が載置されて結晶成長が行われるが、サセプタはその寿命内においては繰り返し使用される。このため、同一のサセプタを用いて長期間にわたり同等の特性の半導体層を再現性よく得ることができることも要求される。こうした要求を満たすような構造をもつ各種のサセプタが提案されている。
【0005】
特許文献1、2には、結晶成長毎の再現性を向上させるために、サセプタの上部に交換可能な構造物を新たに設けた構造が記載されている。この構造物は、特許文献1に記載の技術においてはSiC製のカバーであり、特許文献2に記載の技術においては薄い黒鉛製の防着板である。こうした構造においては、これらの構造物を適宜交換、洗浄することができる構成とされている。これにより、基板側からサセプタに不純物が拡散し、これが更に新たに載置された別の基板やこの上の半導体層に拡散することが抑制される。すなわち、この構成によって基板間の不純物の転写が抑制され、長期間にわたり良好な特性の半導体層を再現性よく得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−69113号公報
【特許文献2】特開平6−314655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術によって良好な特性の半導体層を再現性よく得ることができるものの、実際には、1枚の基板上に形成された半導体層において、その結晶性や膜厚は中心部と周辺部とでは異なっていた。すなわち、成長毎の再現性は良好ではあるが、半導体層(成長層)の面内均一性は良好とはなっていなかった。
【0008】
MOCVD法に限らず、他のCVD法等、温度制御されたサセプタ上に載置された基板上に成長層を形成する場合には、こうした状況は同様に発生する。
【0009】
すなわち、サセプタ上に載置された基板上に成長層を均一に成長させることは困難であった。
【0010】
また、基板以外においても、チャンバ内壁やサセプタ等の構造物の表面においても原料ガスは反応を生じるため、反応生成物(一般には半導体層と類似組成の多結晶層)が、チャンバ内壁、サセプタや構造物の表面にも形成される。反応生成物は必ずしも不純物となるものではないが、反応生成物が厚くなって部分的に剥離して基板表面に付着すると、これが付着した箇所において結晶成長が阻害されるため、歩留まり低下の原因となる。更に、反応生成物が厚くなると、このために表面温度が変移し、基板上の半導体層の膜厚や諸特性の変動の原因ともなる。このため、チャンバ、サセプタ等は定期的に交換、清掃される必要があるが、そのメインテナンスは容易であることが好ましい。
【0011】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のサセプタは、基板を保持し、当該基板上に化学気相成長(CVD)法によって成長層を形成するためのサセプタであって、前記サセプタは、下部プレートと当該下部プレートの上面に設置される上部プレートとを有し、前記下部プレートは、前記下部プレートの上面に前記基板が載置される領域である基板載置部を具備し、さらに、前記基板載置部の周囲に、前記基板が前記基板載置部上において囲まれる形状となるように形成された外周突起部を具備し、前記上部プレートは、前記下部プレートの上面の前記基板載置部及び前記外周突起部を除く領域に載置され、前記基板載置部と前記外周突起部の頂部とを前記上部プレートの上面側に露出させる形状を具備し、前記上部プレートを構成する主な材料はパイロリテックグラファイト(熱分解炭素)であり、前記上部プレートの上下方向における熱伝導率は、前記下部プレートの上下方向における熱伝導率よりも低いことを特徴とする。
本発明のサセプタにおいて、前記基板載置部において前記基板が載置される面は、前記上部プレートが載置される前記下部プレートの上面よりも高く設定され、前記下部プレートと前記上部プレートとを組み合わせた際に、前記上部プレートの上面と前記外周突起部の頂部とが同一の高さとなるように設定されたことを特徴とする。
本発明のサセプタにおいて、前記外周突起部の幅は1.0mm〜5.0mmの範囲であることを特徴とする
本発明のサセプタは、前記下部プレートの表面に、表面保護層を具備することを特徴とする。
本発明のサセプタにおいて、前記表面保護層はパイロリティックボロンナイトライド(pBN)またはシリコンカーバイド(SiC)で構成されたことを特徴とする。
本発明の結晶成長装置は、サセプタの上に基板が載置され、当該基板上に化学気相成長法によって成長層を形成する結晶成長装置であって、前記サセプタは、下部プレートと当該下部プレートの上面に設置される上部プレートとを有し、前記下部プレートは、前記下部プレートの上面に前記基板が載置される領域である基板載置部を具備し、さらに、前記基板載置部の周囲に、前記基板が前記基板載置部上において囲まれる形状となるように形成された外周突起部を具備し、前記上部プレートは、前記下部プレートの上面の前記基板載置部及び前記外周突起部を除く領域に載置され、前記基板の上面と前記外周突起部の頂部とを前記上部プレートの上面側に露出させる形状を具備し、前記上部プレートを構成する主な材料はパイロリテックグラファイト(熱分解炭素)であり、前記上部プレートの上下方向における熱伝導率は、前記下部プレート及び前記基板の上下方向における熱伝導率よりも低いことを特徴とする。
本発明の結晶成長装置において、前記基板載置部において前記基板が載置される面は、前記上部プレートが載置される前記下部プレートの上面よりも高く設定され、前記下部プレート、前記基板、及び前記上部プレートを組み合わせた際に、前記上部プレートの上面、前記基板の上面、及び前記外周突起部の頂部が同一の高さとなるように設定されたことを特徴とする。
本発明の結晶成長装置において、前記外周突起部の幅は1.0mm〜5.0mmの範囲であることを特徴とする。
本発明の結晶成長装置において、前記下部プレートを構成する主な材料は黒鉛であることを特徴とする。
本発明の結晶成長装置は、前記下部プレートの表面に、表面保護層を具備することを特徴とする。
本発明の結晶成長装置において、前記表面保護層はパイロリティックボロンナイトライド(pBN)またはシリコンカーバイド(SiC)で構成されたことを特徴とする。
本発明の結晶成長方法は、前記結晶成長装置を用い、チャンバ内において、前記下部プレートを加熱して、前記基板が前記サセプタの上に載置され加熱された状態で前記成長層の原料が含まれる原料ガスを流すことを特徴とする。
本発明の結晶成長方法において、前記基板はサファイアであり、前記成長層の成長時の前記基板の温度を1000℃以上とすることを特徴とする。
本発明の結晶成長方法において、前記成長層は窒化物半導体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されているので、サセプタ上に載置された基板上に成長層を均一に成長させることができる。更に、メインテナンスが容易となるサセプタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】参考例となる結晶成長装置において用いられるサセプタの斜視図(a:組立前、b:組立後)である
図2】従来のサセプタ(a)と、参考例となる結晶成長装置において用いられるサセプタを用いた場合(b)における、上下方向に沿った断面における組立図である。
図3】従来のサセプタにおける熱伝導の状況を模式的に示す図である。
図4】参考例となる結晶成長装置において用いられるサセプタの変形例を用いた場合における、上下方向に沿った断面における組立図である。
図5】本発明の実施の形態に係る結晶成長装置において用いられるサセプタの組立前の斜視図である。
図6】本発明の実施の形態に係る結晶成長装置において用いられるサセプタの断面図(a:組立前、b:組立後)である。
図7】成長層の外周部に発生したクラックの一例の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る結晶成長装置について説明する。発明者は、MOCVD法によってサセプタ上に載置された基板上に半導体層を成長させる場合に生じる半導体層の特性(結晶性、膜厚等)の面内不均一性は、成長時の基板温度の面内不均一性に起因することを知見した。この基板温度の面内不均一性の原因を調べ、以下に説明する構造のサセプタを用いることによって、この不均一性が低減されることが示された。これによって、成長した半導体層の特性の面内不均一性が低減される。ただし、この場合において、成長した半導体層の最端部においてクラックが発生する場合が散見された。この点が本発明の実施の形態に係る結晶成長装置においては更に改善される。
【0016】
図1は、参考例となる結晶成長装置において用いられるサセプタ10の斜視図(a:組立前、b:組立後)である。ここで、このサセプタ10は、下部プレート11と上部プレート12で構成される。この結晶成長装置においては、チャンバ内において、このサセプタ10に基板が設置されその温度が制御された状態で、原料ガスが流される。原料ガスが基板の表面で化学反応を起こすことによって半導体層が基板上に形成される。ここで形成される半導体層は例えば窒化物半導体(例えば窒化アルミニウム)であり、基板としては例えばサファイア基板が用いられる。この場合の原料ガスとしては、TMA(トリメチルアルミニウム)、NH(アンモニア)等が用いられる。この場合、成長温度は1000℃以上とされる。
【0017】
下部プレート11の表面(基板50が載置される側の面)は、基板50の裏面との間における隙間が少なくなる形状であることが好ましく、例えば平坦であることが好ましい。また、この表面は、使用する基板50よりも充分に大きく、この表面に略円板状の基板(ウェハ)50を載置することができる構成とされる。下部プレート11は、基板50をこの上に載置させて所望の温度に保持するために用いられ、従来の結晶成長装置において用いられる従来のサセプタに対応する。このため、下部プレート11を構成する材料は、従来のサセプタと同様であり、例えば熱伝導率の高い黒鉛が用いられる。また、図1(a)では下部プレート11は矩形体形状としているが、上記の表面を具備する形状であれば、表面よりも下側の形状は任意である。また、下部プレート11は単一の材料で構成されている必要はなく、表面の耐衝撃性や化学安定性を高めるために、表面保護層として、例えば黒鉛にパイロリティックボロンナイトライド(pBN)またはシリコンカーバイド(SiC)をコーティングした構成を用いることもできる。
【0018】
下部プレート11は、例えばヒーターや高周波加熱の加熱手段によって加熱される構成とされる。また、下部プレート11には温度センサも取り付けられ、ここで測定された温度をフィードバックして加熱手段が制御され、下部プレート11を所定の温度(例えば1000℃以上)に保持することができる。前記下部プレートは、例えばその下面側から加熱することができる。
【0019】
一方、上部プレート12は、下部プレート11よりも薄くすることができ、中央部には開口部121が設けられている。開口部121は、基板50の形状に適合した形状とされる。ここで用いられる基板(ウェハ)50のサイズは任意であり、例えば直径2インチの円形とされる。この場合、開口部121の直径は、その中に基板50が載置されるように、2インチよりもわずかに大きな円形とされる。また、上部プレート12は、図1(b)に示されるように、下部プレート11の表面に設置されて使用されるため、その外形は下部プレート11の表面に適合した形状とされる。また、上部プレート12が下部プレート11の表面に設置された際に、開口部121中の下部プレート11の表面は、基板50が載置される基板載置部となっており、下部プレート11における少なくともこの領域の表面は平坦とされている。このため、図1(b)の状態において、開口部121中に基板50を載置し、この基板50の温度を下部プレート11に近い温度に保持した状態で、結晶成長を行うことができる。上部プレート12を下部プレート11上に設置するに際しては、これらのうちの一方の一部に凹部を、他方にこれに対応する凸部を設けることによってこれらを固定するほぞ接ぎやだぼ接ぎ、端部をビス止めする等の方法を用いて、着脱自在に固定することができる。なお、こうした固定のために用いられる固定部が基板50の温度に与える影響を小さくするために、固定部は、下部プレート11、上部プレート12において基板50から離れた箇所に設けることが好ましい。
【0020】
なお、図1においては、基板50の形状を単純な円形として単純化して記載しているが、実際には基板50は完全な円形ではなく、その円周の一部にオリエンテーションフラット(オリフラ)が設けられている場合が多い。開口部121の形状は、基板50をこの中に載置できるように設定され、このオリフラ付きの基板50の形状に対応した形状とすることができる。
【0021】
ここで、上部プレート12を構成する主な材料は、下部プレート11を構成する主な材料とは異なる。ここで、主な材料とは、体積比で50%を越える材料を意味するものとする。特に、上下方向(基板あるいは上部プレート12における厚さ方向)における熱伝導率が、これらを構成する主な材料においては異なり、上部プレート12を構成する材料のこの方向における熱伝導率は、下部プレート11を構成する材料の同方向における熱伝導率よりも小さく設定される。また、上部プレート12を構成する材料の同方向における熱伝導率は、同方向における基板の熱伝導率よりも低く設定される。なお、熱伝導率の値としては、例えばJISA1412に記載の測定方法によるものを用いることができる。
【0022】
例えば、下部プレート11が黒鉛で構成された場合、1000℃以上の温度域におけるその熱伝導率を40〜100W/m/K程度とすることができる。また、基板としてサファイアが用いられた場合、1000℃以上の温度域における厚さ方向(c軸方向)の熱伝導率は8W/m/K程度である。この場合には、例えば上部プレート12を、パイロリテックグラファイト(PG:熱分解炭素)で構成することができる。PGの構成元素は通常の黒鉛と同様に炭素であるが、黒鉛からなる基材の上にCVDにて数mm程度の厚さの厚膜を成形した後に基材を剥がして作られているため、異方性が高く、その面内方向と厚さ方向では熱伝導率は大きく異なる。このため、PGで薄板状の上部プレート12を形成すれば、その厚さ方向の熱伝導率を、1000℃以上の温度域において、例えば1.5W/m/K程度とすることができる。こうした材料構成の場合には、上記の熱伝導率の関係は満たされる。なお、一般的には、黒鉛は高温下でアンモニアガスと反応して消耗するものの、緻密に形成されたPGはアンモニアガスとの間の反応性が低く、長期間の使用にも耐えうる。こうしたアンモニア耐性のあるPGを用いることが特に好ましい。
【0023】
従来のサセプタ90を用いた場合(a)と、上記のサセプタ10を用いた場合(b)について、基板の厚さ方向(上下方向)に沿った断面における組立図を、図2に示す。従来のサセプタ90においては、サセプタ90は一体とされているが、基板50をこの上で固定するために、その表面において基板50の形状に対応した凹部91が形成されている。凹部91の底面は平坦とされる。ここで、基板50の厚さは例えば430μm程度、凹部91の深さは0.5mm程度であり、その形状は、この中に基板50を保持することのできる形状、例えば2インチ径の基板50が用いられる場合には直径2インチをわずかに上回る円形形状とされる。凹部91の断面形状は、基板50の表面への原料ガスの供給、排気が円滑に行われる形状であればよい。上記の構成では、載置された基板50の表面とその周囲のサセプタ90の表面とはほぼ同一の高さとなり、この点において好ましい。
【0024】
これに対して、上記のサセプタ10においては、基板50は、上部プレート12の開口部121中(基板載置部)に保持されることによって固定される。すなわち、上記のサセプタ10においては、下部プレート11が凹部91のない従来のサセプタ90に対応し、上部プレート12の開口部121が凹部91に対応する。このため、基板50の厚さが430μm程度の場合、例えば、上部プレート12の厚さは前記の凹部91の深さと同様の0.5mm程度、開口部121は、直径2インチをわずかに上回る円形形状とすることができる。
【0025】
上記の構成のサセプタ10を用いることによって、基板温度の不均一性が解消される点について以下に説明する。
【0026】
発明者は、図2(a)に示した従来のサセプタ90を用いて2種類のサイズ(2インチ径と4インチ径)の基板(ウェハ)50上に半導体層を成長させ、形成された半導体層の電気的特性、結晶性を調べた。その結果、どちらの場合でも、半導体層の中心部と周辺部では特性(結晶性や膜厚)が異なっていた。しかしながら、4インチ径の場合に得られた半導体層の特性を詳細に調べた結果、4インチ径のウェハの中心部の2インチ径相当の領域の特性は、2インチ径のウェハの結果とは大きく異なり、ほぼ一様に中心部と同等の特性を示し、均一であった。また、放射温度計を用いて非接触で温度を測定したところ、サセプタ90上に載置された基板50の表面の温度は、厳密には成長温度や圧力等の条件によって異なるものの、その周囲のサセプタの表面の温度よりもおよそ50〜100℃程度低くなっていることが確認された。
【0027】
この事実より、この面内不均一性は基板の全面で生じてはおらず、基板の大きさに関わらずにその端部でのみ発生していることがわかる。これは、前記の温度測定の結果より、基板の周囲において温度が高くなる領域が発生しているためであると考えられる。従って、基板の温度が不均一となる領域が発生しにくくなる構造のサセプタを用いることにより、面内不均一性は低減すると考えられる。
【0028】
図2(a)の従来の構成において、サセプタ90から基板50への熱伝導の状況を図3に模式的に示す。ここで、基板50が載置された状況における凹部91の端部を含む領域の断面を拡大して示しており、図中の矢印が熱伝導の方向である。まず、基板50の中央部(凹部91の端部から離れた領域)においては、サセプタ90の表面から上側に向かう上下方向の熱伝導が支配的であることは明らかである。しかしながら、基板50の端部においては、この上下方向の熱伝導と、サセプタ90における凹部91の端部からの横方向の熱伝導の2種類の熱伝導を考慮する必要がある。この横方向からの熱伝導は、基板50の端面と対向する凹部91の内側面から基板50に向かう熱伝導である。なお、実際には熱伝導だけでなく、サセプタ90からの輻射によっても基板50は加熱されるが、この影響についても同様である。
【0029】
ここで、サセプタ90上において、基板50とサセプタ90との間は面接触の状態となるものの、載置された基板50は重力によってのみ固定される状態である。このため、基板50の裏面とサセプタ90の表面が共に平坦であっても、これらの間の密着度は低く、基板50とサセプタ90との間の熱抵抗は小さくはない。このため、前記の通り上下方向の熱伝導が支配的であることが好ましいものの、サセプタ90や基板50の厚さ方向の熱伝導率が共に高い場合であっても、実際にはこの上下方向の熱伝導の効率は高くはならない。
【0030】
また、例えば成長温度が800℃以上の場合、基板50とサセプタ90との間においては、接触による熱伝導よりも、サセプタ90からの輻射による加熱の影響が強くなる。更に、III族窒化物半導体を成長させる場合のように成長温度を1000℃以上とする場合には、輻射の方が支配的となる。これは、熱伝導が2つの物体(基板50とサセプタ90)の温度差にほぼ比例して決まるのに対して、輻射によるエネルギーの放出は熱源(サセプタ90)の温度の4乗に比例するためである。従って、図3において、基板50の端部における横方向からの熱伝導や輻射の影響は無視できない。
【0031】
このため、基板直下のサセプタの温度をある一定の温度とした場合において、基板の周囲(基板が載置されていない領域)におけるサセプタ表面の温度を基板表面温度と同等かそれより低くすることができれば、基板端部の温度の不均一性は低減すると考えられる。結晶成長に直接影響を与えるのは基板の表面の温度であるため、サセプタの温度は、基板の表面の温度が所望の温度となるように、この所望の温度よりも高い温度に設定すればよい。
【0032】
そこで、上記のサセプタ10においては、従来のサセプタ90に対応する部分として下部プレート11が用いられている。基板50を固定するためには、下部プレート11と別体の上部プレート12が用いられる。ただし、基板50が下部プレート11に載置された状態において、温度の高い下部プレート11の一部が基板50の内側面と対向しないように、従来のサセプタ90とは異なり、凹部は設けられていない。すなわち、下部プレート11の表面は、サセプタ90とは異なり、平坦とされる。代わりに、基板50の側面と対向するのは、上部プレート12の開口部121の内側面である。
【0033】
上部プレート12は、基板50と同様に、下部プレート11の上に重力によって載置された状態となっている。このため、基板50と下部プレート11との間と同様に、上部プレート12と下部プレート11との間の熱抵抗も同様に高い。更に、上部プレート12の熱伝導率を下部プレート11、基板50よりも低く設定していることにより、上部プレート12への熱伝導効率は、基板50への熱伝導効率よりも更に低くなり、上部プレート12の表面の温度を低下させることができる。また、基板50の側面と対向する開口部121の内側面の温度は、従来のサセプタ90における凹部91の内側面の温度よりも低くなる。このため、図2(b)の構成における基板50に対する上部プレート12からの横方向の熱伝導や輻射の影響は、図2(a)、図3の構成における基板50に対するサセプタ90の凹部91の端部からの横方向の熱伝導や輻射の影響よりも小さくなる。このため、図2(a)の従来の構成と比べて、基板50端部における温度の不均一性を低減することができる。また、前記の熱伝導と輻射による加熱の温度依存性より、成長温度を1000℃以上とした場合には、特に高い効果が得られる。
【0034】
また、下部プレート11と別体の上部プレート12を用いることにより、特許文献1、2と同様の効果を奏することは明らかである。すなわち、この構成においては、最表面にある上部プレート12の方が下部プレート11よりも汚染されやすいが、この場合に、上部プレート12の交換、洗浄等を容易に行うことができ、これによって再現性の高い結晶成長を行うことができる。また、上部プレート12の表面温度が低くなれば、一般にはその表面における化学反応は生じにくくなる。このため、従来のサセプタ90と比べて、上部プレート12の表面に付着する反応生成物の量も低減される。
【0035】
また、このサセプタ10はチャンバ内に設置され、このチャンバ内で基板50上に半導体層が形成される。この際、チャンバ内壁も、対向するサセプタや基板からの輻射によって加熱されるため、チャンバ内壁にも反応生成物が付着する。このため、一般には反応生成物が付着したチャンバを適切な頻度で交換、清掃等のメインテナンスをすることが必要である。これに対して、上記のサセプタ10を用いた場合には、上部プレート12の表面温度が低下するために、これと対向するチャンバ内壁の温度も低下する。このため、チャンバ内壁に付着する反応生成物の量も低減する。
【0036】
すなわち、このサセプタ10を用いる場合には、サセプタ10やチャンバに付着する反応生成物の量も低減させることができるためにメインテナンスの頻度を低くすることができ、かつ反応生成物が付着した上部プレート12の交換や清掃を容易に行うことができる。
【0037】
この清掃が特に容易となる材料で上部プレート12を構成することも可能である。例えば、反応生成物が例えば熱膨張係数が4〜6ppm/K程度であるAlInGaNとなる場合、熱膨張係数が1ppm/K程度である上記のPGを上部プレート12の材料として用いれば、熱膨張係数の違いによって、反応生成物を剥離、清掃することは特に容易となる。
【0038】
また、下部プレート11は熱伝導率の高い材料が選択されて用いられるため、一般には基板50の材料の熱伝導率はこれよりも低い。上部プレート12の材料は、基板50の材料に応じ、これよりも熱伝導率の低い材料を適宜用いることができる。例えば、SiC(1000℃以上の温度域における熱伝導率〜70W/m/K程度)、TaC(同、9〜22W/K程度)は、前記のサファイアよりも熱伝導率が高いが、これらよりも熱伝導率が高い材料を基板50として用いる場合には、用いることができる。
【0039】
なお、上部プレート12は、使用されるガス(アンモニアや水素等)と反応を生じないか反応性が低い材料で構成されることが必要である。この点において、上記の材料はいずれも問題なく使用することができる。下部プレート11についても同様である。
【0040】
参考例となる上記のサセプタ10の変形例であるサセプタ20の断面における組立図を図4に示す。このサセプタ20においては、下部プレート21と上部プレート22が用いられ、上部プレート22への熱伝導が更に抑制される。ここで、下部プレート21、上部プレート22を構成する材料は、それぞれ前記の下部プレート11、上部プレート12と同じであり、その形状のみが異なる。
【0041】
下部プレート21においては、図2(a)に示された従来のサセプタ90とは逆に、基板50が載置される領域である基板載置部211がその周囲よりも高くされている。あるいは、基板載置部211以外の下部プレート21の表面は基板載置部211よりも掘り下げられた構成とされる。基板載置部211の表面は、前記の下部プレート11の表面と同様に平坦とされる。
【0042】
上部プレート22においては、前記の上部プレート12と同様に、基板50に対応した開口部221が形成される。また、この場合には、上部プレート22と下部プレート21を組み合わせた際に、開口部221は基板載置部211と対応するように設定される。すなわち、このサセプタ20を使用する際には、基板50は開口部221中で基板載置部211上に搭載される。
【0043】
一方、下部プレート21における基板載置部211以外の領域は、基板載置部211から掘り下げられた形状となっている。このため、上部プレート22と下部プレート21とを組み合わせた状態における上部プレート22の上面と基板50の上面との高さの関係を前記のサセプタ10と同一にする場合には、上部プレート22を、下部プレート21の表面が掘り下げられた分だけ厚くすることができる。すなわち、前記のサセプタ10と比べて、上部プレート22を厚くすることができる。熱伝導率の低い上部プレート22が厚くなるため、上部プレート22の表面の温度を更に低下させることができる。このため、基板50端部における温度の不均一性を更に低減することができる。
【0044】
また、このサセプタ20においては、下部プレート21の凸部(基板載置部211)と上部プレート22の開口部221を嵌合させる形態となるために、上部プレート22の下部プレート21への設置、固定がより確実に行われる。
【0045】
上記の図2(b)、図4のいずれの場合においても、上部プレート22(12)の表面の温度を基板50の表面の温度と同等かそれよりも低くするためには、基板50の厚さをT、その熱伝導率をλ、上部プレート22(12)の厚さをTTP、その熱伝導率をλTPとした場合に、以下の関係が成立していればよい。
【0046】
【数1】
【0047】
実際には、通常用いられる基板の厚さとしては、500μm程度であるため、上部プレート22(12)の厚さTTPの上限は例えば2000μm程度とされる。また、下部プレート11、21と別体の薄板として取り扱えることが必要となるために、上部プレート12、22の厚さの下限は、材料によって可搬性のある薄板として製造できる厚さとして、例えばPGでは200μm程度となる。式(1)を考慮してTTPの値は設定されるが、サセプタ10、20全体の厚さ(下部プレート11、21上に上部プレート12、22が載置された場合の合計厚さ)が設定されている場合においては、下部プレート11、21の厚さにも依存して設定される。ただし、上部プレート12、22が厚いほどその反りは抑制される。
【0048】
ただし、原料ガスの基板表面への供給が面内で均一に行われる限りにおいて、基板の上面の高さと上部プレートの上面の高さを厳密に一致させる必要はない。上部プレートの上面が基板の上面よりも高い場合には、上部プレートの上面の温度を更に低下させることができる。また、上部プレートの上面が基板の上面よりも低い場合であっても、上部プレートの上面の温度を、従来のサセプタと比べて低くできることは明らかである。
【0049】
(本発明の実施の形態)
上記の参考例となるサセプタにおいては、上記の通り、ウェハを含めたサセプタの上面の温度分布を調整し、特に上部プレートの上面の温度を低下させることによって、基板上の成長層の面内均一性を向上させていた。ただし、この構成のサセプタを用いた場合には、成長層の最端部(外周部)にクラックが形成される場合が散見された。これは、上記の構成によって成長層の大部分の領域における温度分布を均一にすることができる一方で、成長層の外周部(最端部)における温度勾配は逆に大きくなっていることによると考えられる。すなわち、上記の構成によって、温度勾配の大きな領域は基板上の広い範囲においては除去されているものの、基板上における最端部に近い狭い領域には温度勾配の大きな領域が形成されていると考えられる。そこで、本発明の実施の形態となるサセプタにおいては、これを解消するために、均一な成長層が得られると共に、基板の外周部における温度勾配が小さくなるような構成とされる。
【0050】
図5は、本発明の実施の形態に係るサセプタ30における下部プレート31、上部プレート32、基板50の組立前の斜視図であり、図6は、組立前(a)、組立後(b)におけるその基板50の厚さ方向に沿った断面図である。ここで、上部プレート32においては、図4における上部プレート22と同様に、円形の開口部321が形成されており、下部プレート31における基板載置部311も、上部プレート32が載置される面よりも高く設定されている。なお、下部プレート31、上部プレート32の熱伝導率については、前記の参考例と同様に設定される。このため、基板50上の大部分においての温度均一性を高めることができ、成長層の均一性を高めることができることは前記の参考例と同様である。
【0051】
ただし、この下部プレート31においては、基板載置部311の外周にこれよりも高くなる外周突起部312が、基板載置部311を囲んで形成されている。このため、基板載置部311は、下部プレート31中に形成された凹部の底面となっており、基板50はこの凹部に載置される。すなわち、下部プレート31は、外周突起部312で囲まれた内部に基板50が嵌合するような形状とされる。一方、上部プレート32における開口部321は、基板50ではなく、外周突起部312の外径に対応し、これに嵌合する形状とされる。外周突起部312の頂部は、基板載置部311等と平行な平面とされる。
【0052】
この構成においては、外周突起部312の外側における下部プレート31における下部プレート上面(下部プレート31の上面)313は、例えば平面形状とすることができる。また、基板50と上部プレート32とが下部プレート31に設置された際に、上部プレート32における上部プレート下面(上部プレート32の下面)322と接触する。なお、接触する下部プレート上面313と上部プレート下面322とは、例えば共に平面形状とすることができるが、これらが接触した際に原料ガスが界面に入りにくければ、平面形状である必要はない。この際に、上側から見て、基板50の上面と外周突起部312の頂部は上部プレート32から露出する。例示した図では、上面側から見て、前記の参考例では開口部121を構成する上部プレート12の内周と基板50の外周とが直接面していたのに対して、開口部321を構成する上部プレート32の内周と基板50の外周との間に、下部プレート31と一体化された外周突起部312が設けられた点が異なる。
【0053】
また、図6における前記の凹部の深さT(外周突起部312の基板載置部311からの高さ)は、基板50の厚さと同等(例えば0.43mm程度)とされる。上部プレート32の厚さDは、下部プレート31における外周突起部312の外側(上部プレート32が載置される面)からの外周突起部312の高さと同様とされる。前記の通り、上部プレート32が載置される面よりも基板載置部311を高くするために、結局、この厚さDは、基板50よりも厚く、2mm程度とすることができる。この構成により、図6(b)に示されるように、組立後の状態においては、上部プレート32、基板50の上面は、下部プレート31上で同一面を構成する。また、基板50は、上部プレート32ではなく下部プレート31のみによって支持される。
【0054】
また、下部プレート31、上部プレート32を構成する材質やその熱伝導率は、参考例と同様とする。すなわち、例えば薄いPGがコートされた黒鉛で下部プレート31を構成し、PGで上部プレートを構成することができる。
【0055】
この構成においては、外周突起部312が存在する以外の点については、前記の参考例と同様の構成を具備するため、前記の参考例と同様の効果を奏することは明らかである。このため、結晶成長時には、上面側で、基板50の周囲の上部プレート32の表面の温度を低下させることができ、これによって基板50の上に成長する成長層の均一性を高めることができる。
【0056】
ここで、外周突起部312は下部プレート31の一部となっているが、外周突起部312は局所的に上側に突出した形態とされているために、外周突起部312の温度は、これよりも下側の下部プレート31の本体と等しくはならず、これよりも低くなる。外周突起部312の温度は、これよりも下側の下部プレート31本体、上部プレート32、基板50によって定まる。このため、第1の実施の形態のサセプタを用いた場合における成長層の外周部における温度勾配の大きな領域は、この外周突起部312に形成されることになる。温度勾配の大きな領域は、基板50内においては形成されないため、成長層の外周部におけるクラックの発生が抑制される。
【0057】
また、外周突起部312の図6における左右方向の幅Wは、1〜5mmとすることが好ましく、1〜3mmとすることがより好ましい。この幅Wが1.0mm未満の場合には、基板50の最外周の領域における温度勾配を小さくするという効果が小さくなる。この幅Wが5mmを越える場合には、実質的に従来のサセプタ90(図2(a))に近づくために、成長層の均一性が低下する。
【0058】
また、前記の通り、基板50に対する原料ガスの供給を円滑にするために、基板50の上面と上部プレート32の上面の高さを同一とすることが好ましいが、ここでは、外周突起部312の高さもこれらと同一とすることが好ましい。ここで、外周突起部312は、基板載置部311よりも更に高くするために、上部プレート32を、第1の実施の形態よりも厚くすることができる。
【0059】
前記の通り、上部プレート32の上面側は成長時に原料ガスに曝されるために、上部プレート32の上面には反応生成物層が形成される。こうした反応生成物層と上部プレート32との間の熱膨張係数の差に起因して、加熱時(成長時)において上部プレート32に反りが発生することもあり、この場合には、温度分布の再現性が悪くなる等の問題が発生する。これを抑制するためには、上部プレート32を充分に厚くすることが有効である。上記の構成においては、基板50が薄い場合でも、こうした厚い上部プレート32を用いることができる。すなわち、このサセプタ30においては、厚いために反りが抑制された上部プレート32を用いることができる。これによって、結晶成長の再現性を高めることができる。
【0060】
なお、上記の実施の形態においては、1組のサセプタに1枚の基板を載置する場合について記載したが、実際には、複数の基板を適宜配置することができる。この場合には、上部プレートにおける開口部や下部プレートにおける基板載置部等を、基板を配置する構成に応じて形成すればよい。こうした場合であっても、上記の構成により、個々の基板においてより高い温度均一性が得られ、これによって、面内均一性が高い半導体層が得られることは明らかである。特にサセプタ上に複数の基板を載置する場合には、基板間の均一性を向上させるためにサセプタや個々の基板を回転させる場合もあるが、この場合においても、同様の効果を奏することは明らかである。
【0061】
ただし、複数の基板を配置する場合においては、基板の間の領域におけるサセプタの構成は適宜設定することができる。例えば、基板間の間隔が狭い場合(基板の最近接間隔が0〜5mmとなる場合)には、隣接する2枚の基板に対応する基板載置部を一体化したものを上記の基板載置部と考えることもできる。この場合、隣接する2枚の基板に対応した開口部321を連続的にして2枚の基板の間には上部プレートが存在しない形態とすることもできる。あるいは、最近接間隔が1mm未満と特に狭い場合には、更にこの基板の間に外周突起部も設けず、一体化された基板載置部の周囲にのみ外周突起部を設けた構成とすることができる。基板を3枚以上用いる場合においても同様である。すなわち、こうした場合においても、上部プレートが下部プレートの上面に設置された状態において、基板載置部及び外周突起部を除く領域において下部プレートの上面と上部プレートの下面が面接触する。また、この際、上部プレートは、載置された基板の上面と外周突起部の頂部とが上部プレートの上面側で露出するような形状とされる。
【0062】
こうした構成は、例えば比較的小径である2〜3インチ径の基板(ウェハ)を多数配置する場合において有効である。こうした場合には、大径の基板を配置する場合と比べてサセプタ(下部プレート)が露出する面積が小さくなるために、参考例や上記の実施の形態に係るサセプタにおける基板周辺の構成による効果は比較的小さくなる。これに対して、3インチ径を越える基板の場合には、これを近接して複数配置した場合においては下部プレートが露出する面積が大きくなる。このため、参考例や上記の実施の形態に係るサセプタにおける基板周辺の構成による効果は大きくなる。すなわち、本発明のサセプタは、基板を複数配列する場合には、大径の基板を用いた場合において特に有効である。
【0063】
上記の実施の形態においては、上部プレートは、PGのような単一の材料で一様に構成されていることが好ましいが、必ずしもその必要はなく、上部プレートを構成する主な材料の上下方向の熱伝導率が、基板や下部プレートよりも低いという条件を満たす範囲内で、複合材、例えば母材に表面保護層を厚く形成した構成とすることもできる。例えば、母材として黒鉛を用い、これに熱伝導率の低いPGを厚く(主な材料となる程度に厚く)コーティングして上部プレートを構成することもできる。また、母材としてPGを用い、単体では柔らかいために上部プレートを構成することが難しいpBN(熱伝導率:2.7W/m/K程度)をこの上にコーティングすることもできる。こうした場合であっても、上部プレートの表面温度を基板の表面温度よりも低くすることができ、同様の効果を奏することができる。ただし、こうした場合には、母材とコーティング層との間の熱膨張係数の差に起因する剥離、割れ、及びこれらによる耐久性の劣化が出るため、一般には上部プレートを単一の材料で構成することが好ましく、この場合の材料としてはPGが特に好ましい。
【0064】
(実施例) 実際に図2(a:比較例)(b:参考例)の2種類の形態のサセプタにサファイア基板を載置してチャンバ内に設置し、チャンバ内において横方向から原料ガスおよびキャリアガス(N及びH)を基板上に流すとともに、サセプタ下側のヒーターを用いてサセプタを加熱し、サセプタ以外を同一条件としてサファイア基板上にAlNの結晶成長を行った。基板としては2インチ径、430μm厚のサファイア基板(1000℃以上の温度帯における垂直方向の熱伝導率:約8W/m/K)を用い、原料ガスとしてTMA、NHを用いた。
【0065】
比較例のサセプタの材質は厚さ6.5mmの黒鉛(1000℃以上の温度帯における垂直方向の熱伝導率:40〜100W/m/K)であり、表面に150μmのpBNをコーティングしている。凹部の深さは0.5mmである。参考例の下部プレートは厚さ6mmの平板構造であり、材質は比較例のサセプタと同一である。参考例の上部プレートの材質はPG(1000℃以上の温度帯における垂直方向の熱伝導率:約1.5W/m/K)であり、厚さは0.5mmである。
【0066】
比較例と参考例のサセプタを用いて得られた半導体層についての測定結果を表1の比較例1と参考例1に示す。成長温度(非接触で測定された実際の基板表面の温度)を1150℃とした。ここでは、2インチ径の面内における中央の1点を含む合計25箇所において半導体層の膜厚分布を測定し、均一性として、以下の式による膜厚分布を計算した。
【0067】
【数2】
【0068】
また、結晶性を示す量として、半導体層(AlN)の(002)面のX線回折ロッキングカーブ(XRC)の半値全幅(FWHM)値(arcsec)の中心と、中心から20mm離れた4点の計5点における測定値の最大値と最小値の差(ΔXRC(002))、同じく(102)面について同様に求めた最大値と最小値の差(ΔXRC(102))を測定した。
【0069】
【表1】
【0070】
この結果より、比較例1と参考例1では平均的な成長速度は大差ないが、膜厚分布が参考例1で低減されていることが確認できる。また、結晶性についても、ΔXRC(002)、ΔXRC(102)が共に参考例1で小さく、高い均一性が得られていることが確認できる。なお、参考例1の(002)面のFWHMの最小値は55arcsecであり、(102)面のFWHMの最小値は1030arcsecであった。
【0071】
また、比較例のサセプタでは、サセプタ上に付着したAlNを除去するためには、アルカリ溶液に浸漬することが必要であり、再使用するためのクリーニングが容易ではなかった。これに対し、参考例のサセプタにおいては、上部プレートに付着したAlNを、ワイパー等を用いて軽い力でなでるだけで除去することができ、クリーニングは容易であった。
【0072】
次に、参考例のサセプタを用いて、参考例2として、成長温度を1300℃、圧力を10Torrとした以外は参考例1と同様にして、厚さが1.0μmのAlN層をサファイア基板上に成長させた。その結果、参考例1と同様に均一性の高い成長層(AlN層)が得られたものの、その外周端部においては、クラックが発生していた。その表面の光学顕微鏡写真を図7に示す。図7においては、灰色の領域が成長層であり、この領域と黒い領域との境界線が成長層の端部となっている。左下側から右上側に向かうクラックが散見される。実際にはこのクラックは端部の極狭い領域にのみ形成され、デバイスはここからウェハの中央部に向かって離れた箇所に形成されるために、デバイスへの影響は大きくはないが、端部のクラックが伝播して基板割れの原因になることがあるため、このクラックが抑制されることがより好ましい。
【0073】
そこで、材質を参考例と同じ(下部プレート:pBNをコーティングした黒鉛、上部プレート:PG)とし、その形状を図6におけるT=0.5mm、D=2mm、W=2mmとした構成の実施例のサセプタを用いて、実施例1として、参考例2と同様の成長条件で結晶成長を行った。なお、実施例のサセプタ全体としての厚さは比較例、参考例のサセプタと同じ6.5mmである。同じ条件で5回結晶成長を行ったところ、参考例のサセプタを用いた参考例2では全て端部のクラックが発生したのに対し、実施例のサセプタを用いた実施例1ではそのクラックが見られなかった。すなわち、このクラックに対しては、実施例のサセプタが有効であることが確認できた。
【0074】
また、実施例のサセプタを用いた場合においては、上部プレートの結晶成長後、あるいは結晶成長中における上部プレートの反りも低減された。参考例のサセプタ(上部プレートの厚さ0.5mm)を用いた参考例2では、この反りが生じたために、サセプタにおいてウェハ(基板)が動く場合が散見されたのに対し、実施例のサセプタ(上部プレートの厚さ2mm)を用いた実施例1においては、ウェハの移動は全く発生しなかった。すなわち、上部プレートの反りの観点からも、実施例のサセプタを用いた場合においては良好な結果が得られた。
【0075】
また、実施例2、比較例2、および参考例3として、成長温度を1300℃、圧力を10Torrとして、実施例、比較例、および参考例のサセプタを用いて結晶成長を行い、比較例1および参考例1と同様に膜厚分布と結晶性を評価した評価結果を表2に示す。この結果より、実施例2と参考例3では平均的な成長速度の低下は見られるものの、膜厚分布および結晶性の値が比較例2に比べて小さくなっており、膜厚分布および結晶性が改善されていることが分かる。また、実施例2と参考例3とを比較すると、実施例2の方が改善の効果がより大きいことがわかる。
【0076】
なお、実施例のサセプタを用いた場合においても上部プレートに付着したAlNのクリーニングは容易であり、下部プレートにおける外周突起部は面積が小さいために、外周突起部にAlNが付着しても基板上の結晶成長への影響が小さく、クリーニング頻度を比較例に比べ大幅に減少させることができた。
【0077】
【表2】
【0078】
上記の例では、AlNを成長させる例について記載したが、AlGaN、GaN、AlInGaNを成長させた場合でも同様の結果が得られた。このように、成長層が他の材料である場合にも、成長層の特性に対する成長温度の影響が存在する限りにおいて、同様の効果を奏することは明らかである。例えば、成長層は半導体層に限定されず、任意の材料とすることができる。また、成長層が複数の層の積層構造であり、各々の層の成長温度が同一もしくは異なる場合において、少なくとも一つの層において上記の構成によって上記の効果が得られれば、有効であることは明らかである。また、上記の例ではMOCVD法を用いた場合について記載したが、高温の基板上で原料ガスを反応させるCVD法であれば、ガスの種類に関わらず同様の効果を奏することは明らかである。
【符号の説明】
【0079】
10、20、30、90 サセプタ
11、21、31 下部プレート
12、22、32 上部プレート
50 基板
91 凹部
121、221、321 開口部
211、311 基板載置部
312 外周突起部
313 下部プレート上面(下部プレートの上面)
322 上部プレート下面(上部プレートの下面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7