特許第6062666号(P6062666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6062666水溶性向上剤、水溶性向上方法、及び、水溶液調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6062666
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】水溶性向上剤、水溶性向上方法、及び、水溶液調製方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20170106BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C09K3/00 Z
   A61K47/22
   A61K9/08
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-135105(P2012-135105)
(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公開番号】特開2013-256633(P2013-256633A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 将洋
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 宏之
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/155505(WO,A1)
【文献】 特開2013−013392(JP,A)
【文献】 特開2014−001364(JP,A)
【文献】 特開2000−159670(JP,A)
【文献】 特開2004−105078(JP,A)
【文献】 特開2004−222681(JP,A)
【文献】 特開2004−222682(JP,A)
【文献】 特開2008−189628(JP,A)
【文献】 特開2001−253879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
A61K 9/08
A61K 47/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン環を含む有機化合物の水に対する溶解度を向上させるための水溶性向上剤であって、
下記一般式(I)で表される化合物である水溶性向上剤
【化1】
(式中、
1、R2およびR3は、それぞれ独立に、Hまたは水酸基から選択され、
4は、HまたはC1-4アルキル基である)。(ただし、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートを除く。)
【請求項2】
前記ベンゼン環が、メトキシ基で置換されたベンゼン環、エトキシ基で置換されたベンゼン環、水酸基で置換されたベンゼン環、または、無置換のベンゼン環であることを特徴とする、請求項1に記載の水溶性向上剤。
【請求項3】
前記有機化合物がポリフェノールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の水溶性向上剤。
【請求項4】
前記ポリフェノールがフラボノイドであることを特徴とする、請求項3に記載の水溶性向上剤。
【請求項5】
前記有機化合物が、ケルセチン、ヘスペリジン、ルチン、レスベラトロール、フェルラ酸、カルコン、ゲニステイン、ピセアタンノール、3”Me−EGCg、ルテオリン、または、カプサイシンであることを特徴とする、請求項1または2に記載の水溶性向上剤。
【請求項6】
ベンゼン環を含む有機化合物の水に対する溶解度を向上させる方法であって、
下記一般式(I)で表される化合物を前記水(30体積%以上90体積%以下のエタノールを含むものを除く。)に溶解させる工程(100℃以上に加熱する場合を除く。)を含む、水溶性向上方法
【化2】
(式中、
1、R2およびR3は、それぞれ独立に、Hまたは水酸基から選択され、
4は、HまたはC1-4アルキル基である)。
【請求項7】
ベンゼン環を含む有機化合物の水溶液を調製する方法であって、
(30体積%以上90体積%以下のエタノールを含むものを除く。)に、前記有機化合物と下記一般式(I)で表される化合物とを溶解させる工程(100℃以上に加熱する場合を除く。)を含む、水溶液調製方法
【化3】
(式中、
1、R2およびR3は、それぞれ独立に、Hまたは水酸基から選択され、
4は、HまたはC1-4アルキル基である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性向上剤、水溶性向上方法、及び、水溶液調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物は、様々な機能や活性を有することから、例えば、機能性材料や医薬品として、現在社会において不可欠な存在になっている。しかし、例えば医薬品として用いる場合には、ヒトへの投与、医薬への混合、そして、保存の効率を踏まえると、高濃度の水溶液を調製することが好ましいが、有機化合物は、その構造ゆえに、有機溶媒に溶けやすいが、水には溶けにくい傾向があることが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】化学辞典 第1版、第1458頁、1994年、株式会社東京化学同人発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水溶性向上剤、水溶性向上方法、及び、水溶液調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水溶性向上剤は、ベンゼン環を含む有機化合物の水に対する溶解度を向上させるための水溶性向上剤であって、下記一般式(I)で表される化合物である
【化1】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Hまたは水酸基から選択され、Rは、HまたはC1−4アルキル基である)。
【0006】
ベンゼン環が、メトキシ基で置換されたベンゼン環、エトキシ基で置換されたベンゼン環、水酸基で置換されたベンゼン環、または、無置換のベンゼン環であることが好ましい。
【0007】
有機化合物がポリフェノールであることが好ましく、また、ポリフェノールがフラボノイドであることが好ましい。
または、有機化合物が、ケルセチン、ヘスペリジン、ルチン、レスベラトロール、フェルラ酸、カルコン、ゲニステイン、ピセアタンノール、3”Me−EGCg、ルテオリン、または、カプサイシンであることが好ましい。
【0008】
本発明に係る水溶性向上方法は、ベンゼン環を含む有機化合物の水に対する溶解度を向上させる方法であって、下記一般式(I)で表される化合物を水に溶解させる工程を含む
【化2】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Hまたは水酸基から選択され、Rは、HまたはC1−4アルキル基である)。
【0009】
また、本発明に係る水溶液調製方法は、ベンゼン環を含む有機化合物の水溶液を調製する方法であって、水に、有機化合物と、下記一般式(I)で表される化合物とを溶解させる工程を含む
【化3】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Hまたは水酸基から選択され、Rは、HまたはC1−4アルキル基である)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、水溶性向上剤、水溶性向上方法、及び、水溶液調製方法を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る、HPLCの測定条件を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る、ベンゼン環を含む有機化合物の水溶性を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る、H−NMRの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0013】
本発明に係る水溶性向上剤は、溶質として有機化合物を水に溶解させるとき、その溶解度を向上させることができ、下記一般式(I)で表される化合物である
【化4】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Hまたは水酸基から選択され、Rは、HまたはC1−4アルキル基である)。
なお、R、RおよびRの内、一つ以上が水酸基であることが好ましく、二つ以上が水酸基であることがより好ましく、三つ全てが水酸基であることがさらに好ましい。また、C1−4アルキル基とは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、または、t-ブチル基をいうが、メチル基、またはエチル基であることが好ましい。
一般式(I)で表される化合物において、2位および3位の立体化学は、それぞれ独立に、Rであっても良く、Sであっても良い。
【0014】
この化合物は、下記構造式(II)で表されるように、4”Me−EGCg((−)−エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート)、4”Me−GCg((−)−ガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート)、4”Et−EGCg((−)−エピガロカテキン−3−O−(4−O−エチル)ガレート)、4”Et−GCg((−)−ガロカテキン−3−O−(4−O−エチル)ガレート)、EGCg((−)−エピガロカテキン−3−O−ガレート)、または、GCg((−)−ガロカテキン−3−O−ガレート)であることが好ましい。
【化5】
【0015】
ここで溶質として用いる有機化合物は、ベンゼン環を1個以上含んでいれば、その構造は特に限定されない。そして、ベンゼン環は、置換されていても良く、無置換であっても良いが、メトキシ基で置換されたベンゼン環、エトキシ基で置換されたベンゼン環、水酸基で置換されたベンゼン環、または、無置換のベンゼン環であることがより好ましい。
水酸基で置換されたベンゼン環は、この水酸基が糖(鎖)残基と結合し、配糖体を形成していても良い。ここで、糖(鎖)残基を形成する糖は、天然型であっても良く、非天然型であっても良く、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、フコース、ラムノース、アラビノース、キシロース、及び、ジギトキソースなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
溶質である有機化合物の分子量は、特に限定されないが、1200以下であることが好ましく、1000以下であることが好ましく、800以下であることがさらに好ましく、650以下であることが特に好ましい。なお、有機化合物は、無水物であっても良く、水和物であっても良い。
【0017】
このような有機化合物は、ポリフェノールであることが好ましく、フラボノイドであることがより好ましい。フラボノイドの例として、ケルセチン(quercetin)、ヘスペリジン(hesperidin)、ルチン(rutin)、ゲニステイン(genistein)、ルテオリン(luteolin)、および、3”Me−EGCg((-)-epigallocatechin-3-O-(3-O-methyl)gallate))が挙げられる。
【化6】
【0018】
溶質である有機化合物のうち、フラボノイド以外の例として、レスベラトロール(resveratrol)、フェルラ酸(ferulic acid)、カルコン(chalcone)、ピセアタンノール(piceatannol)、および、カプサイシン(capsaicin)が挙げられる。
【化7】
【0019】
有機化合物は、一般的に、その構造ゆえに水に溶けにくい傾向がある。特に、ベンゼン環を含む有機化合物は水に溶けにくく、有機化合物中に占めるベンゼン環の割合が高いほど、水に溶けにくい傾向が上昇する。
しかし、本発明に係る水溶性向上剤を、ベンゼン環を含む有機化合物と共に水に溶解させることによって、その有機化合物の水溶性を著しく向上させることが可能となる。即ち、ベンゼン環を含む有機化合物の、水溶性向上剤を溶解させた水に対する溶解度は、水溶性向上剤を溶解させていない水に対する溶解度に比べて、著しく向上する。
なお、水溶性向上剤、および有機化合物を溶解させる水は、実質的に水のみであっても良いが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、および、N−メチルピロリドン(NMP)などの、水と混和する有機溶媒との混合物であっても良い。また、例えば塩などの他の溶質を含んでいても良く、塩を含む場合には、その濃度は、1mol/L以下であることが好ましく、0.1mol/L以下であることがより好ましく、0.01mol/L以下であることがさらに好ましく、0.001mol/L以下であることが特に好ましい。
【0020】
溶質である有機化合物を、水に溶解させる時、水溶性向上剤は、有機化合物と同時に加えても良く、前または後に加えても良い。水溶性向上剤を後に加える場合には、有機化合物は、水に懸濁していても、完全に溶解していても良い。懸濁液である場合には、水溶性向上剤を溶解させるに伴って、有機化合物の水に対する溶解度が向上するため、懸濁液が水溶液になったり、析出している有機化合物の量が減少したりするような変化が観察される。
【0021】
水溶性向上剤と有機化合物を水に溶解させる方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。例えば、これらを同時に水に溶解させる場合には、マグネティックスターラーを用いて攪拌したり、超音波を照射したりすることによって、水溶性向上剤や有機化合物を容易に水に溶解させることができる。
【0022】
水溶液中の水溶性向上剤の濃度は、特に限定されず、当業者であれば、ベンゼン環を含む有機化合物の溶解する様子を観察しながら、または、水溶液の使用用途や目的に応じて、適宜必要な濃度を決めることができる。例えば、水溶性向上剤の濃度が高いほど、有機化合物の水溶性が向上することから、水溶性向上剤の濃度は、0.1mM以上であることが好ましく、1mM以上であることがより好ましく、10mM以上であることがさらに好ましく、50mM以上であることが特に好ましい。
【0023】
水溶液中の溶質である有機化合物の濃度は、特に限定されず、当業者であれば、有機化合物の溶解する様子を観察しながら、または、水溶液の使用用途や目的に応じて、適宜必要な濃度を決めることができる。
例えば、有機化合物がケルセチン2水和物であって、水溶性向上剤が4”Me−EGCgである場合には、ケルセチン2水和物を水溶性向上剤を含まない水に溶解させた時に比べて、有機化合物の濃度を、水溶性向上剤の濃度が1mMである時には2.6倍、水溶性向上剤の濃度が10mMである時には10.0倍、そして、水溶性向上剤の濃度が50mMである時には33.2倍にすることができる。
【0024】
このように、水溶性向上剤を含む水溶液は、水溶性向上剤を含まない水溶液と比べて、溶質である有機化合物を高濃度で含むことができる。
このような水溶液の使用方法は特に限定されないが、溶質である有機化合物を高濃度で含有することから、水溶液を非常に効率的に保存することができ、また、例えば、有機化合物が生理活性を有する場合には、ヒト、医薬、または食品などに、非常に効率的に投与、摂取、または混合することが可能である。
【0025】
ここで、水溶性向上剤によって有機化合物の水溶性が向上するメカニズムは、確かではないが、以下のように推察される。
水中でのベンゼン環を含む有機化合物の分子間相互作用は、ベンゼン環のπ-π相互作用による垂直方向のスタッキングが主であるが、ここに、水溶性向上剤を共存させることによって、有機化合物と水溶性向上剤とが相互作用し、これらの複合体を形成することによって、有機化合物が水中に溶解するようになるのではないかと考えられる。実際に、ケルセチンと4”Me−EGCgとを溶解させた溶液のH−NMR分析を行ったところ、溶液中の4”Me−EGCg濃度を高くするにつれて、ケルセチンの濃度は一定であるにも関わらず、ケルセチンの、特にH−5、H−5’及びH−6’の、ピークが低磁場シフトしたとの結果が得られており、これはこの推察の裏づけとなる。
なお、水溶性向上剤は、例えばEGC((−)−エピガロカテキン)やEC((−)−エピカテキン)などの、一般式(I)で表される化合物からガレート基または4−O−アルキルガレート基を除去した化合物に比べて、極めて高い水溶性向上効果を発揮することから、一般式(I)で表される化合物が含有するガレート基または4−O−アルキルガレート基の存在が、有機化合物との水中における相互作用に、大きな役割を果たしていると考えられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0027】
以下の実施例において、例として、4”Me−EGCg、4”Me−GCg、4”Et−EGCg、EGCg、及び、GCgを用いて、本発明に係る水溶性向上剤が、様々な構造を有する、ベンゼン環を含む有機化合物の水溶性を著しく向上させられることを示す。
また、比較例として、ガレート基または4−O−アルキルガレート基を有さないEGC及びGCは、本発明に係る水溶性向上剤に比べて、ベンゼン環を含む有機化合物の水溶性を向上させられないことを、併せて示す。
【0028】
[実施例1]水溶性向上剤および3”Me−EGCgの調製
(1)4”Me−EGCgおよび3”Me−EGCgの調製、ならびに、EGCgの精製
テアビゴTM(EGCg≧94%、137.5mg、0.3mmol)をDMF(1.0mL)に溶解した後、酢酸ナトリウム(98.4mg、1.2mmol、4.0当量)とヨウ化メチル(144.8μL、2.4mmol、8.0当量)とを加え、100℃で5分間撹拌した。
その後、ODS−HPLC[カラム:Mightysil RP−18GP 20x250mm(粒子径:5μm)関東化学株式会社製、展開溶媒:アセトニトリル:水:酢酸(2:18:1)、流速:5.0mL/min、検出波長210nm]により分離・精製を行い、保持時間27.7分に未反応のEGCg64.9mg(回収率47.2%)を得、保持時間44.9分に4”Me−EGCgを収率47.3%にて得、そして、保持時間49.0分に3“Me−EGCg7.7mg(回収率1.8%)を得た。
【0029】
得られた4”Me−EGCgは、旋光度、H−NMRおよび13C−NMRの測定、並びに、質量分析によって、目的物であると同定した。また、得られた3”Me−EGCgは、H−NMRおよび13C−NMRの測定によって、目的物であると同定した。回収されたEGCgは、上記HPLCを用いて、標品(和光純薬工業株式会社製、生化学用、EGCg≧90%)と保持時間を比較することにより目的物であると同定した。
<<4”Me-EGCg>>
[α]D20 -157.1°(c = 1.0, acetone)
1H-NMR (500 MHz, CD3OD): 2.84 (1H, dd, J = 17.4, 2.5), 2.98 (1H, dd, J = 17.4, 4.4), 3.81 (3H, s), 4.97 (1H, bs), 5.53(1H, m), 5.95 (2H, bs), 6.49 (2H, bs), 6.91 (2H, bs)
13C-NMR (125 MHz, CD3OD): 26.8, 60.7, 70.3, 78.5, 95.9, 96.5, 99.3, 106.8, 110.3, 126.6, 130.7, 133.8, 141.2, 146.7, 151.5, 157.2, 157.8, 157.9, 167.1
MS (ESI) m/z : 471.1 (M-)
<<3”Me-EGCg>>
1H-NMR (500 MHz, CD3OD): 2.87 (1H, dd, J = 17.3, 2.5), 2.99 (1H, dd, J = 17.3, 4.4), 3.80 (3H, s), 4.99 (1H, bs), 5.49(1H, m), 5.96 (1H, bd, J = 2.2), 5.97 (1H, bd, J = 2.2), 6.51 (2H, bs), 7.01 (1H, bd, J = 1.9), 7.06 (1H, bd, J = 1.9)
13C-NMR (125 MHz, CD3OD): 26.5, 56.6, 70.4, 78.5, 95.7, 96.5, 99.3, 106.2, 106.7, 111.9, 121.5, 130.9, 133.7, 140.5, 146.0, 146.7, 148.9, 157.1, 157.8, 157.9, 167.6
【0030】
(2)4”Me−GCgの調製
GCg(和光純薬工業株式会社製、56.4mg、0.12mmol)をDMF(0.41mL)に溶解した後、酢酸ナトリウム(40.4mg、0.49mmol、4.0当量)とヨウ化メチル(59.4μL、0.98mmol、8.0当量)とを加え、100℃で5分間撹拌した。
その後、下記の条件にてODS−HPLCにより分離・精製を行い、保持時間33.4分に未反応のGCg23.4mg(回収率:41.5%)を得、そして、保持時間58.8分に4”Me−GCg24.8mg(収率:42.6%)を得た。
【0031】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 20×250mm(粒子径:5μm)関東化学株式会社製
検出波長:210nm
流速:5.0mL/min
展開溶媒:HO+5%AcOH/MeCN+5%AcOH
【表1】
【0032】
得られた4”Me−GCgは、H−NMRおよび13C−NMRの測定、並びに、質量分析によって、目的物であると同定した。
<<4”Me-GCg>>
1H-NMR (700 MHz, acetone-d6): 2.77 (1H, dd, J = 16.6, 5.3), 2.82 (1H, dd, J = 16.6, 4.8), 3.83 (3H, s), 5.13 (1H, d, J = 5.3), 5.40(1H, m), 5.97 (1H, d, J = 2.2), 6.05 (1H, d, J = 2.2), 6.47 (2H, bs), 7.01 (2H, bs)
13C-NMR (175 MHz, acetone-d6): 23.6, 60.6, 70.6, 78.5, 95.4, 96.3, 98.9, 106.1, 109.8, 126.3, 130.7, 133.3, 140.5, 146.5, 151.1, 156.1, 157.2, 158.0 165.8
MS (ESI) m/z : 471.1 (M-)
【0033】
(3)4”Et−EGCgの調製
テアビゴTM(EGCg≧94%、137.5mg、0.3mmol)をDMF(1.0mL)に溶解した後、酢酸ナトリウム(98.4mg、1.2mmol、4.0当量)とヨウ化エチル(193.0μL、2.4mmol、8.0当量)を加え、100℃で5分間撹拌した。
その後、ODS−HPLCにより分離・精製を行い、保持時間28.5分に未反応のEGCg66.8 mg(回収率:48.6%)を得、そして、保持時間49.2分に4”Et−EGCg60.2 mg(収率:41.3%)を得た。
【0034】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 20×250mm(粒子径:5μm)関東化学株式会社製
検出波長:210nm
流速:5.0mL/min
展開溶媒:HO+5%AcOH/MeCN+5%AcOH
【表2】
【0035】
得られた4”Et−EGCgは、H−NMRおよび13C−NMRの測定、並びに、質量分析によって、目的物であると同定した。
<<4”Et-EGCg>>
1H-NMR (500 MHz, CD3OD): 1.30 (3H, t, J = 7.0), 2.84 (1H, dd, J = 17.5, 2.5), 2.98 (1H, dd, J = 17.5, 5.0), 4.09 (2H, q, J = 7.0), 4.97 (1H, bs), 5.53(1H, m), 5.95 (2H, bs), 6.49 (2H, bs), 6.91 (2H, bs)
13C-NMR (125 MHz, CD3OD): 15.6, 26.8, 69.3, 70.3, 78.5, 95.9, 96.5, 99.3, 106.8, 110.2, 126.4, 130.7, 133.8, 139.8, 146.7, 151.7, 157.2, 157.8, 157.9, 167.2
MS (ESI) m/z : 485.1 (M-)
【0036】
[実施例2]水溶性向上試験
本発明に係る水溶性向上剤として、実施例1で調製または精製した、4”Me−EGCg、4”Me−GCg、4”Et−EGCg、および、EGCg、並びに、市販のGCgを用い、溶質として、ベンゼン環を含む有機化合物を用いて、この溶質の水溶性向上試験を行った。また、比較例として、上記本発明に係る水溶性向上剤の代わりに、EGC(和光純薬工業株式会社製)、および、EC(EC≧90%、シグマアルドリッチ社製)を用いて、有機化合物の水溶性向上試験を行った。
溶質としては、代表的なものとして、ケルセチン2水和物、ヘスペリジン、ルチン3水和物、レスベラトロール、フェルラ酸、カルコン、ゲニステイン、ピセアタンノール、3”Me−EGCg、ルテオリン、および、カプサイシンを用いた。
具体的な実験方法は、以下の通りである。
【0037】
(1)ケルセチン2水和物
溶質として、市販のケルセチン2水和物(純度95%以上、エンゾライフサイエンス社製)5mgに、超純水、または、4”Me-EGCgの水溶液(1、10、または、50 mM)200μLを加えた後、遮光下、25℃で24時間攪拌した。
その後、遠心分離にて上清を回収し、下記および図1の条件、そして、適切な展開溶媒比でHPLCを用いて、超純水、または、4”Me-EGCgの各濃度の水溶液における、ケルセチン2水和物の溶解量を面積値としてそれぞれ求めた。得られた面積値から、超純水に溶解したケルセチン2水和物の面積値を1として、1、10、または、50 mMの4”Me-EGCg水溶液におけるケルセチン2水和物の溶解量を算出した。
【0038】
また、4”Me-EGCgの代わりに、4”Me−GCg、4”Et−EGCg、および、EGCg、GCg、EGC、または、ECを用いて、同様の実験を行った。
結果を、図2に示す。
【0039】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6×150mm(粒子径:3μm)関東化学株式会社製
流速:0.7mL/min
展開溶媒:HO+0.1%リン酸/MeCN+0.1%リン酸
【0040】
図2が示すように、本発明に係る水溶性向上剤を用いた場合には、ケルセチン2水和物の水溶性が著しく向上した。例えば、水溶性向上剤の濃度がわずか1mMであっても、ケルセチン2水和物の水溶性は、超純水に溶解させた場合に比べて、1.6倍〜2.6倍に向上した。さらに、水溶性向上剤の濃度が10mM以上の場合には、本発明に係る水溶性向上剤による水溶性向上効果はより顕著になり、例えば10mMの場合で、ケルセチン2水和物の水溶性は、超純水に溶解させた場合に比べて、7.4倍〜10.0倍と飛躍的に向上し、水溶性向上剤の代わりに同程度の濃度のEGCやECを溶解させた場合と比較しても、非常に高い水溶性を示した。水溶性向上剤の濃度を50mMとした場合には、ケルセチン2水和物の水溶性は、超純水に溶解させた場合に比べて、33.2倍〜51.1倍と桁違いに上昇した。
【0041】
(2)ヘスペリジン
溶質として、ヘスペリジン(純度92%以上、和光純薬製)5.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0042】
(3)ルチン3水和物
溶質として、ルチン3水和物(純度98%以上、東京化成製)5.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0043】
(4)レスベラトロール
溶質として、trans−レスベラトロール(純度98%以上、東京化成製)3.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0044】
(5)フェルラ酸
溶質として、trans−フェルラ酸(純度98%以上、東京化成製)5.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0045】
(6)カルコン
溶質として、カルコン(純度95%以上、和光純薬製)5.0mgを用い、水溶性向上剤として、4”Me-EGCg、4”Me−GCg、または、4”Et−EGCgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0046】
(7)ゲニステイン
溶質として、ゲニステイン(純度96%以上、東京化成製)3.0mgを用いた以外は、「(6)カルコン」と同様の実験を行った。
【0047】
(8)ピセアタンノール
溶質として、市販のtrans−ピセアタンノール(純度98%以上、東京化成製)2.5mgに、超純水、または、4”Me-EGCgの水溶液(1、10、または、50 mM)200μLを加えた後、10分間超音波を照射した。
その後、遠心分離にて上清を回収し、下記および図1の条件、そして、適切な展開溶媒比でHPLCを用いて、超純水、または、4”Me-EGCgの各濃度の水溶液における、ピセアタンノールの溶解量を面積値としてそれぞれ求めた。得られた面積値から、超純水に溶解したピセアタンノールの面積値を1として、1、10、または、50 mMの4”Me-EGCg水溶液におけるピセアタンノールの溶解量を算出した。
【0048】
また、4”Me-EGCgの代わりに、4”Me−GCg、または、4”Et−EGCgを用いて、同様の実験を行った。
【0049】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6×150mm(粒子径:3μm)関東化学株式会社製
流速:0.7mL/min
展開溶媒:HO+0.1%リン酸/MeCN+0.1%リン酸
【0050】
(9)3”Me−EGCg
溶質として、3”Me−EGCg2.5mgを用いた以外は、「(8)ピセアタンノール」」と同様の実験を行った。
【0051】
(10)ルテオリン
溶質として、ルテオリン(純度90%以上、和光純薬製)1.5mgを用い、水溶性向上剤として、4”Me-EGCg、または、4”Me−GCgを用いた以外は、「(8)ピセアタンノール」」と同様の実験を行った。
【0052】
(11)カプサイシン
溶質として、カプサイシン(純度60%以上、和光純薬製)3.0mgを用い、水溶性向上剤として、4”Me-EGCgを用いた以外は、「(8)ピセアタンノール」」と同様の実験を行った。
【0053】
(2)ヘスペリジン〜(11)カプサイシンについて、HPLCの測定条件を図1に、そして、溶解量の算定値を図2にまとめて示す。
図2が示すように、本発明に係る水溶性向上剤を用いた場合には、その構造に関わらず、様々な有機化合物の水溶性が著しく向上した。特に、水溶性向上剤の濃度が10mM以上の場合には、本発明に係る水溶性向上剤による水溶性向上効果はより顕著になり、水溶性向上剤の代わりに同程度の濃度のEGCやECを溶解させた場合と比較しても、非常に高い水溶性を示した。さらに、水溶性向上剤の濃度が50mMの場合には、極めて高い水溶性向上効果を示した。
【0054】
[実施例3]水溶性向上のメカニズム
本発明に係る水溶性向上剤と、ベンゼン環を含む有機化合物とが、水中で相互作用をしていることを示すべく、以下の実験を行った。
ケルセチン2水和物の濃度を38.1mMと一定にして、ケルセチン2水和物と4”Me−EGCgとの比が、1:0、1:1、または、1:5である溶液を調製し、得られた溶液のH−NMR分析をそれぞれ行った。なお、溶液の溶媒は、DOではケルセチンの溶解度が低く、解析に必要な分解能を得ることが困難であったため、DOと同じく極性溶媒であることからDOと同様の挙動を示すと考えられるDMSO−dを用いた。
結果を図3に示す。
【0055】
図3が示すように、溶液中の4”Me−EGCg濃度を高くするにつれて、ケルセチンの濃度は一定であるにも関わらず、ケルセチンのピークが低磁場シフトした。特に、ケルセチンのH−5、H−5’およびH−6は、ベンゼン環上のプロトンであるため、通常は溶液中の化合物の濃度や温度などの測定条件が異なってもシフトが生じにくいが、4”Me−EGCg濃度を高くするにつれて、これらのプロトンのピークが低磁場シフトするという特徴的な変化を示した。
このH−NMR分析の結果が示すように、溶液中では、4”Me−EGCgとケルセチンとが相互作用し、複合体を形成すると考えられる。この結果、純水に溶解させるのよりも遥かに高濃度で、4”Me−EGCg水溶液にケルセチンを溶解させることができると推察される。
図1
図2
図3