【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0027】
以下の実施例において、例として、4”Me−EGCg、4”Me−GCg、4”Et−EGCg、EGCg、及び、GCgを用いて、本発明に係る水溶性向上剤が、様々な構造を有する、ベンゼン環を含む有機化合物の水溶性を著しく向上させられることを示す。
また、比較例として、ガレート基または4−O−アルキルガレート基を有さないEGC及びGCは、本発明に係る水溶性向上剤に比べて、ベンゼン環を含む有機化合物の水溶性を向上させられないことを、併せて示す。
【0028】
[実施例1]水溶性向上剤および3”Me−EGCgの調製
(1)4”Me−EGCgおよび3”Me−EGCgの調製、ならびに、EGCgの精製
テアビゴ
TM(EGCg≧94%、137.5mg、0.3mmol)をDMF(1.0mL)に溶解した後、酢酸ナトリウム(98.4mg、1.2mmol、4.0当量)とヨウ化メチル(144.8μL、2.4mmol、8.0当量)とを加え、100℃で5分間撹拌した。
その後、ODS−HPLC[カラム:Mightysil RP−18GP 20x250mm(粒子径:5μm)関東化学株式会社製、展開溶媒:アセトニトリル:水:酢酸(2:18:1)、流速:5.0mL/min、検出波長210nm]により分離・精製を行い、保持時間27.7分に未反応のEGCg64.9mg(回収率47.2%)を得、保持時間44.9分に4”Me−EGCgを収率47.3%にて得、そして、保持時間49.0分に3“Me−EGCg7.7mg(回収率1.8%)を得た。
【0029】
得られた4”Me−EGCgは、旋光度、
1H−NMRおよび
13C−NMRの測定、並びに、質量分析によって、目的物であると同定した。また、得られた3”Me−EGCgは、
1H−NMRおよび
13C−NMRの測定によって、目的物であると同定した。回収されたEGCgは、上記HPLCを用いて、標品(和光純薬工業株式会社製、生化学用、EGCg≧90%)と保持時間を比較することにより目的物であると同定した。
<<4”Me-EGCg>>
[α]
D20 -157.1°(c = 1.0, acetone)
1H-NMR (500 MHz, CD
3OD): 2.84 (1H, dd, J = 17.4, 2.5), 2.98 (1H, dd, J = 17.4, 4.4), 3.81 (3H, s), 4.97 (1H, bs), 5.53(1H, m), 5.95 (2H, bs), 6.49 (2H, bs), 6.91 (2H, bs)
13C-NMR (125 MHz, CD
3OD): 26.8, 60.7, 70.3, 78.5, 95.9, 96.5, 99.3, 106.8, 110.3, 126.6, 130.7, 133.8, 141.2, 146.7, 151.5, 157.2, 157.8, 157.9, 167.1
MS (ESI) m/z : 471.1 (M
-)
<<3”Me-EGCg>>
1H-NMR (500 MHz, CD
3OD): 2.87 (1H, dd, J = 17.3, 2.5), 2.99 (1H, dd, J = 17.3, 4.4), 3.80 (3H, s), 4.99 (1H, bs), 5.49(1H, m), 5.96 (1H, bd, J = 2.2), 5.97 (1H, bd, J = 2.2), 6.51 (2H, bs), 7.01 (1H, bd, J = 1.9), 7.06 (1H, bd, J = 1.9)
13C-NMR (125 MHz, CD
3OD): 26.5, 56.6, 70.4, 78.5, 95.7, 96.5, 99.3, 106.2, 106.7, 111.9, 121.5, 130.9, 133.7, 140.5, 146.0, 146.7, 148.9, 157.1, 157.8, 157.9, 167.6
【0030】
(2)4”Me−GCgの調製
GCg(和光純薬工業株式会社製、56.4mg、0.12mmol)をDMF(0.41mL)に溶解した後、酢酸ナトリウム(40.4mg、0.49mmol、4.0当量)とヨウ化メチル(59.4μL、0.98mmol、8.0当量)とを加え、100℃で5分間撹拌した。
その後、下記の条件にてODS−HPLCにより分離・精製を行い、保持時間33.4分に未反応のGCg23.4mg(回収率:41.5%)を得、そして、保持時間58.8分に4”Me−GCg24.8mg(収率:42.6%)を得た。
【0031】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 20×250mm(粒子径:5μm)関東化学株式会社製
検出波長:210nm
流速:5.0mL/min
展開溶媒:H
2O+5%AcOH/MeCN+5%AcOH
【表1】
【0032】
得られた4”Me−GCgは、
1H−NMRおよび
13C−NMRの測定、並びに、質量分析によって、目的物であると同定した。
<<4”Me-GCg>>
1H-NMR (700 MHz, acetone-d
6): 2.77 (1H, dd, J = 16.6, 5.3), 2.82 (1H, dd, J = 16.6, 4.8), 3.83 (3H, s), 5.13 (1H, d, J = 5.3), 5.40(1H, m), 5.97 (1H, d, J = 2.2), 6.05 (1H, d, J = 2.2), 6.47 (2H, bs), 7.01 (2H, bs)
13C-NMR (175 MHz, acetone-d
6): 23.6, 60.6, 70.6, 78.5, 95.4, 96.3, 98.9, 106.1, 109.8, 126.3, 130.7, 133.3, 140.5, 146.5, 151.1, 156.1, 157.2, 158.0 165.8
MS (ESI) m/z : 471.1 (M
-)
【0033】
(3)4”Et−EGCgの調製
テアビゴ
TM(EGCg≧94%、137.5mg、0.3mmol)をDMF(1.0mL)に溶解した後、酢酸ナトリウム(98.4mg、1.2mmol、4.0当量)とヨウ化エチル(193.0μL、2.4mmol、8.0当量)を加え、100℃で5分間撹拌した。
その後、ODS−HPLCにより分離・精製を行い、保持時間28.5分に未反応のEGCg66.8 mg(回収率:48.6%)を得、そして、保持時間49.2分に4”Et−EGCg60.2 mg(収率:41.3%)を得た。
【0034】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 20×250mm(粒子径:5μm)関東化学株式会社製
検出波長:210nm
流速:5.0mL/min
展開溶媒:H
2O+5%AcOH/MeCN+5%AcOH
【表2】
【0035】
得られた4”Et−EGCgは、
1H−NMRおよび
13C−NMRの測定、並びに、質量分析によって、目的物であると同定した。
<<4”Et-EGCg>>
1H-NMR (500 MHz, CD
3OD): 1.30 (3H, t, J = 7.0), 2.84 (1H, dd, J = 17.5, 2.5), 2.98 (1H, dd, J = 17.5, 5.0), 4.09 (2H, q, J = 7.0), 4.97 (1H, bs), 5.53(1H, m), 5.95 (2H, bs), 6.49 (2H, bs), 6.91 (2H, bs)
13C-NMR (125 MHz, CD
3OD): 15.6, 26.8, 69.3, 70.3, 78.5, 95.9, 96.5, 99.3, 106.8, 110.2, 126.4, 130.7, 133.8, 139.8, 146.7, 151.7, 157.2, 157.8, 157.9, 167.2
MS (ESI) m/z : 485.1 (M
-)
【0036】
[実施例2]水溶性向上試験
本発明に係る水溶性向上剤として、実施例1で調製または精製した、4”Me−EGCg、4”Me−GCg、4”Et−EGCg、および、EGCg、並びに、市販のGCgを用い、溶質として、ベンゼン環を含む有機化合物を用いて、この溶質の水溶性向上試験を行った。また、比較例として、上記本発明に係る水溶性向上剤の代わりに、EGC(和光純薬工業株式会社製)、および、EC(EC≧90%、シグマアルドリッチ社製)を用いて、有機化合物の水溶性向上試験を行った。
溶質としては、代表的なものとして、ケルセチン2水和物、ヘスペリジン、ルチン3水和物、レスベラトロール、フェルラ酸、カルコン、ゲニステイン、ピセアタンノール、3”Me−EGCg、ルテオリン、および、カプサイシンを用いた。
具体的な実験方法は、以下の通りである。
【0037】
(1)ケルセチン2水和物
溶質として、市販のケルセチン2水和物(純度95%以上、エンゾライフサイエンス社製)5mgに、超純水、または、4”Me-EGCgの水溶液(1、10、または、50 mM)200μLを加えた後、遮光下、25℃で24時間攪拌した。
その後、遠心分離にて上清を回収し、下記および
図1の条件、そして、適切な展開溶媒比でHPLCを用いて、超純水、または、4”Me-EGCgの各濃度の水溶液における、ケルセチン2水和物の溶解量を面積値としてそれぞれ求めた。得られた面積値から、超純水に溶解したケルセチン2水和物の面積値を1として、1、10、または、50 mMの4”Me-EGCg水溶液におけるケルセチン2水和物の溶解量を算出した。
【0038】
また、4”Me-EGCgの代わりに、4”Me−GCg、4”Et−EGCg、および、EGCg、GCg、EGC、または、ECを用いて、同様の実験を行った。
結果を、
図2に示す。
【0039】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6×150mm(粒子径:3μm)関東化学株式会社製
流速:0.7mL/min
展開溶媒:H
2O+0.1%リン酸/MeCN+0.1%リン酸
【0040】
図2が示すように、本発明に係る水溶性向上剤を用いた場合には、ケルセチン2水和物の水溶性が著しく向上した。例えば、水溶性向上剤の濃度がわずか1mMであっても、ケルセチン2水和物の水溶性は、超純水に溶解させた場合に比べて、1.6倍〜2.6倍に向上した。さらに、水溶性向上剤の濃度が10mM以上の場合には、本発明に係る水溶性向上剤による水溶性向上効果はより顕著になり、例えば10mMの場合で、ケルセチン2水和物の水溶性は、超純水に溶解させた場合に比べて、7.4倍〜10.0倍と飛躍的に向上し、水溶性向上剤の代わりに同程度の濃度のEGCやECを溶解させた場合と比較しても、非常に高い水溶性を示した。水溶性向上剤の濃度を50mMとした場合には、ケルセチン2水和物の水溶性は、超純水に溶解させた場合に比べて、33.2倍〜51.1倍と桁違いに上昇した。
【0041】
(2)ヘスペリジン
溶質として、ヘスペリジン(純度92%以上、和光純薬製)5.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0042】
(3)ルチン3水和物
溶質として、ルチン3水和物(純度98%以上、東京化成製)5.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0043】
(4)レスベラトロール
溶質として、trans−レスベラトロール(純度98%以上、東京化成製)3.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0044】
(5)フェルラ酸
溶質として、trans−フェルラ酸(純度98%以上、東京化成製)5.0mgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0045】
(6)カルコン
溶質として、カルコン(純度95%以上、和光純薬製)5.0mgを用い、水溶性向上剤として、4”Me-EGCg、4”Me−GCg、または、4”Et−EGCgを用いた以外は、「(1)ケルセチン2水和物」と同様の実験を行った。
【0046】
(7)ゲニステイン
溶質として、ゲニステイン(純度96%以上、東京化成製)3.0mgを用いた以外は、「(6)カルコン」と同様の実験を行った。
【0047】
(8)ピセアタンノール
溶質として、市販のtrans−ピセアタンノール(純度98%以上、東京化成製)2.5mgに、超純水、または、4”Me-EGCgの水溶液(1、10、または、50 mM)200μLを加えた後、10分間超音波を照射した。
その後、遠心分離にて上清を回収し、下記および
図1の条件、そして、適切な展開溶媒比でHPLCを用いて、超純水、または、4”Me-EGCgの各濃度の水溶液における、ピセアタンノールの溶解量を面積値としてそれぞれ求めた。得られた面積値から、超純水に溶解したピセアタンノールの面積値を1として、1、10、または、50 mMの4”Me-EGCg水溶液におけるピセアタンノールの溶解量を算出した。
【0048】
また、4”Me-EGCgの代わりに、4”Me−GCg、または、4”Et−EGCgを用いて、同様の実験を行った。
【0049】
<<ODS−HPLCによる分離・精製の条件>>
カラム:Mightysil RP−18GP 4.6×150mm(粒子径:3μm)関東化学株式会社製
流速:0.7mL/min
展開溶媒:H
2O+0.1%リン酸/MeCN+0.1%リン酸
【0050】
(9)3”Me−EGCg
溶質として、3”Me−EGCg2.5mgを用いた以外は、「(8)ピセアタンノール」」と同様の実験を行った。
【0051】
(10)ルテオリン
溶質として、ルテオリン(純度90%以上、和光純薬製)1.5mgを用い、水溶性向上剤として、4”Me-EGCg、または、4”Me−GCgを用いた以外は、「(8)ピセアタンノール」」と同様の実験を行った。
【0052】
(11)カプサイシン
溶質として、カプサイシン(純度60%以上、和光純薬製)3.0mgを用い、水溶性向上剤として、4”Me-EGCgを用いた以外は、「(8)ピセアタンノール」」と同様の実験を行った。
【0053】
(2)ヘスペリジン〜(11)カプサイシンについて、HPLCの測定条件を
図1に、そして、溶解量の算定値を
図2にまとめて示す。
図2が示すように、本発明に係る水溶性向上剤を用いた場合には、その構造に関わらず、様々な有機化合物の水溶性が著しく向上した。特に、水溶性向上剤の濃度が10mM以上の場合には、本発明に係る水溶性向上剤による水溶性向上効果はより顕著になり、水溶性向上剤の代わりに同程度の濃度のEGCやECを溶解させた場合と比較しても、非常に高い水溶性を示した。さらに、水溶性向上剤の濃度が50mMの場合には、極めて高い水溶性向上効果を示した。
【0054】
[実施例3]水溶性向上のメカニズム
本発明に係る水溶性向上剤と、ベンゼン環を含む有機化合物とが、水中で相互作用をしていることを示すべく、以下の実験を行った。
ケルセチン2水和物の濃度を38.1mMと一定にして、ケルセチン2水和物と4”Me−EGCgとの比が、1:0、1:1、または、1:5である溶液を調製し、得られた溶液の
1H−NMR分析をそれぞれ行った。なお、溶液の溶媒は、D
2Oではケルセチンの溶解度が低く、解析に必要な分解能を得ることが困難であったため、D
2Oと同じく極性溶媒であることからD
2Oと同様の挙動を示すと考えられるDMSO−d
6を用いた。
結果を
図3に示す。
【0055】
図3が示すように、溶液中の4”Me−EGCg濃度を高くするにつれて、ケルセチンの濃度は一定であるにも関わらず、ケルセチンのピークが低磁場シフトした。特に、ケルセチンのH−5、H−5’およびH−6は、ベンゼン環上のプロトンであるため、通常は溶液中の化合物の濃度や温度などの測定条件が異なってもシフトが生じにくいが、4”Me−EGCg濃度を高くするにつれて、これらのプロトンのピークが低磁場シフトするという特徴的な変化を示した。
この
1H−NMR分析の結果が示すように、溶液中では、4”Me−EGCgとケルセチンとが相互作用し、複合体を形成すると考えられる。この結果、純水に溶解させるのよりも遥かに高濃度で、4”Me−EGCg水溶液にケルセチンを溶解させることができると推察される。