(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063357
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】シェーマによる採血業務支援システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/15 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
A61B5/14 300Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-143115(P2013-143115)
(22)【出願日】2013年7月8日
(65)【公開番号】特開2015-15982(P2015-15982A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180541
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 只一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】510072009
【氏名又は名称】株式会社イードクトル
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【弁理士】
【氏名又は名称】寒川 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100180541
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 只一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 育宏
(72)【発明者】
【氏名】花田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】正田 直人
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−139731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者ID等の各種の採血に必要な情報を表示させるモニターと、穿刺部位を複数のブロックに区画して前記モニターへ表示させ、当該複数のブロックのうち、選択された領域を患者IDと共にデータベースへ記憶させる制御装置と、患者IDを入力可能なバーコードリーダー等の入力装置とで構成して成り、次回の採血に際しては、前記モニターへ当該患者の前回穿刺した領域を表示させて採血作業者を支援するようにしたことを特徴とするシェーマによる採血業務支援システム。
【請求項2】
患者の前腕部及び上腕部を縦方向で三つに区画し、横方向で四つに区画した請求項1に記載のシェーマによる採血業務支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採血室において、採血作業者が採血のための穿刺をするに際し、当該患者の過去の穿刺箇所をシェーマ(図形)で表示した記録を呼び出して参考にすることができる採血業務支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液は、人間の全身に必要な酸素や栄養を運んだり、不要になった二酸化炭素や老廃物をそれぞれの臓器へ回収したりして、生命活動の重要な機能を果たしている。そのため、血液は全身の様々な臓器の状態を反映しており、血液を採取してこれを調べるだけで、多くの情報を得ることができる。病院や検診センター、献血ルーム等で行われる採血検査は、主に体に大きな異常がないかどうかを調べるスクリーニングと、症状の程度や治療の経過を見ることを目的として行われる。
【0003】
従来において、このような血液検査を行うための採血は、看護師や臨床検査技師が患者の腕から採取するのが一般的であり、上腕を駆血帯で縛り、静脈血管を怒張させた後、当該血管へ穿刺して行っている。また、このような採血のための穿刺作業は、看護師や臨床検査技師の経験則に基づいて目視及び触診により穿刺すべき静脈血管を探して行っている。
ところが、静脈血管の太さや血管の走行パターン並びに血管が体表面側に浮き上がって外部から視認できるようになるか否か等は、それぞれの患者に個人差があり、穿刺すべき血管を選択するには熟練を要するという問題があった。また熟練者といえども、穿刺すべき静脈血管を探し出すことができない場合があった。
このような状況では、穿刺を繰り返して行うこともあり、血管を潰して内出血させたり、神経を損傷させたり、患者自身に無用な苦痛を与えるという欠点があった。
【0004】
このような従来の問題点を解決する技術として、特許文献1(特開2011−139731号公報)に記載されたものが公知である。この特許文献1の技術では、近赤外線を穿刺部位へ照射し、その反射波から静脈の走行パターン画像を作成している。そして、この静脈走行パターンをモニター表示すると共に、採血に成功した場合に、表示した採血前静脈走行パターン画像に、その患者の実際の採血結果に基づく採血成功部位に関する情報を入力し、これをその患者の患者IDと関連付けて記憶装置に記憶させている。
次回の採血に際しては、その患者に対する過去の採血の成功例に基づいて、表示された採血済み静脈走行パターン画像の中から、より穿刺に適した静脈の選択及び穿刺部位の選択を補助することができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−139731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に示す技術では、近赤外線を照射してその反射波による静脈走行パターン画像を作成する装置を必要とし、画像作成装置自体が高額であるため、これに付属する制御装置やモニター、記憶装置、バーコードリーダー等を含む採血業務を支援するシステムの全体が高価になるという問題があった。
また画像作成装置の近赤外線を照射する機器の部分は、採血作業時には邪魔になるので、静脈走行パターンを作成するたびに患者の前腕部上方へセットしたり、リセットする必要があり、非常に面倒な作業となっていた。
【0007】
本発明は、従来の前記問題点に鑑みてこれを改良除去したものであって、採血患者の穿刺部位を記録保存し、採血に際しては過去の穿刺部位の記録を呼び出してモニターへシェーマ画像で表示させ、採血作業者の参考にすることができる採血業務支援システムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明が採用した請求項1の手段は、患者ID等の各種の採血に必要な情報を表示させるモニターと、穿刺部位を複数のブロックに区画して前記モニターへ表示させ、当該複数のブロックのうち、選択された領域を患者IDと共にデータベースへ記憶させる制御装置と、患者IDを入力可能なバーコードリーダー等の入力装置とで構成して成り、次回の採血に際しては、前記モニターへ当該患者の前回穿刺した領域を表示させて採血作業者を支援するようにしたことを特徴とするシェーマによる採血業務支援システムである。
【0009】
前記課題を解決するために本発明が採用した請求項2の手段は、患者の前腕部及び上腕部を縦方向で三つに区画し、横方向で四つに区画した請求項1に記載のシェーマによる採血業務支援システムである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明にあっては、患者IDや採血検査の種類、採血管情報等の採血に関する情報を確認するモニターに、前腕部及び上腕部の図形(シェーマ)が表示される。シェーマは、多数のブロックに区画されている。これは静脈血管の太さや血管の走行パターン並びに血管が体表面側に浮き上がって外部から視認できるようになるか否か等は、それぞれの患者に個人差があるので、これに対応するためである。このように多数にブロック化することで、当該患者に最適な穿刺部位を指定することができる。
採血に際しては、穿刺部位の履歴を参考にすることができるので、採血作業者は当該患者に最適な穿刺部位の選択が可能であり、患者にとっては安心して採血を任せることができる。
【0011】
請求項2の発明にあっては、前腕部及び上腕部から採血する場合のブロック化を特定したものである。すなわち、縦方向にあっては、橈骨側と中央側と尺骨側の三つのブロックに分けた方が合理的であり、横方向にあっては、前腕部で二つ、肘正中を含む上腕部で二つの合計四つのブロックに区画した方が合理的である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るシステムの全体を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るものであり、穿刺部位をブロック化したシェーマ図面である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るシステムの穿刺部位の履歴を呼び出して表示する場合のフローチャート図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係るものであり、穿刺部位の選択した履歴を表示する場合のシェーマ図面である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係るシステムの穿刺部位を登録する場合のフローチャート図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係るものであり、穿刺部位を登録する場合のシェーマ図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の構成を、一実施の形態に係る
図1のシステム全体ブロック図に基づいて説明すると次の通りである。同図に示すように、この実施の形態にあっては、病院内の通信システムが院内LANと採血室LANの二層構造になっている。最上位には電子カルテシステム1が位置しており、各医師のPC2から患者の診察結果や検査の依頼情報(採血や採尿、レントゲン撮影、心電図、CTスキャン、MRI等の各種の検査指示情報を含む)が入力されるようになっている。また電子カルテシステム1には、前記各検査結果の情報がそれぞれの検査部署から入力されデータ保存されるようになっている。
【0014】
採血室に関して言えば、院内LANには、検査受付PC3と採血業務支援サーバー4とが接続されている。採血業務支援サーバー4は、下位の採血室LANにも接続されている。採血室は、同時に多数の採血が行えるように複数の採血台(図示せず)が設置されており、各採血台は隣どうしの患者のプライバシーが保たれるように区画されて複数のブースを構成している。各ブースには、前記採血台の他に、制御装置(PC)5と、これにより制御されるモニター6(タッチパネル)及び入力機器としてのバーコードスキャナー7、中待合室(採血室)の患者を各ブースの採血台へ呼び出すための呼出表示装置8とが一つのセットになって設けられている。
【0015】
また図示は省略するが、前記制御装置5には、無線を利用した個人認証システムも接続されている。これは、採血作業者が採血台へ近づくと、採血者が保持している無線タグ(RF−ID)の情報をリーダライタが自動的に検知してログインし、モニター6へこれを自動的に表示するものである。
【0016】
採血室LANの下位には、他にも採血管準備装置9と、トレイ搬送レーン10の駆動制御装置11とが接続されている。採血管準備装置9は、医師からの採血検査指示に基づいて患者一人ごとに検査指示内容に応じた採血管を選択して、患者ID等を印字したラベルを貼り付け、貼り付け後の採血管をトレイ12へ準備するためのものである。なお、この採血管準備装置9には、ラベルプリンター13が接続されている。ラベルプリンター13は、採血管準備装置9で準備することができない特殊な検査のための採血管が要求されている場合に、採血管に貼るラベルのみをプリントアウトするものである。この場合、採血管は、採血作業者が準備することになる。
【0017】
一方、トレイ搬送レーン10の駆動制御装置11は、一人の患者の採血作業が完了し、次の患者の採血をするために、トレイ12の供給を要求した採血台がある場合に、採血管準備装置9から受け取ったトレイ12を要求された採血台の位置まで搬送するためのものである。
【0018】
ところで、この実施の形態にあっては、各採血ブースの制御装置5にシェーマを管理するソフトウェアがインストールされている。このソフトウェアは、
図2に示すように、人間の右手と左手を表した模式図において、採血のための穿刺部位を表示するに適したブロックに区画されたシェーマ(図形)を有し、これをモニター6へ表示するようになっている。
【0019】
シェーマの区画は、右腕の場合、人間の腕(前腕部と上腕部)を縦方向において、橈骨側(R−1〜R−4まで)と、中央側(R−5〜R−8まで)と、尺骨側(R−9〜R−12まで)とに区画している。そして、これらの腕以外の手の部分をR−13としている。左腕の場合は、右腕と同様に区画し、符号Lを伏して番号表示している。また横方向においては、前腕部を二つに区画し、肘正中を含む上腕部を二つに区画し、合計四つに区画している。
【0020】
このように腕の部分を12ブロックに区画したのは、静脈血管の太さや血管の走行パターン並びに血管が体表面側に浮き上がって外部から視認できるようになるか否か等は、それぞれの患者に個人差があるので、これに対応するためである。このように多数にブロック化することで、当該患者に最適な穿刺部位を指定することができるようになる。また一般的に最も穿刺しやすい箇所は、肘正中の部分であり、右腕で示せばR−6の部分である。その両隣のR−2とR−10の部分における穿刺の数は僅かである。従って、穿刺に際しては、R−6の部位を選択すれば、必然的にR−2とR−10の部分は除外されることになり、採血作業者にとって患者の穿刺部位の特定が容易となる。
【0021】
次に、このように構成された採血業務支援システムの動作態様を説明する。患者は、診察室で医師の診察を受ける。採血検査や採尿検査等の検査指示内容を含めた医師の診察結果は、そのPC2から電子カルテシステム1に登録される。採血指示が出ていれば、患者は採血室へ行き、診察券又は外来受付票等から検査受付PC3に患者IDを読み込ませる。受付情報は、採血業務支援サーバー4に送られる。当該サーバー4は、電子カルテシステム1から当該患者の採血指示内容を取り出し、採血管準備装置9へ採血指示内容に応じた採血管を準備させる。採血管準備装置9で準備された採血管は、トレイ12に入れられてトレイ搬送レーン10の手前でストックされて待機している。
【0022】
各採血台からトレイ供給の要求があれば、その要求信号は制御装置5から採血業務支援サーバー4へ伝達される。サーバー4は、トレイ搬送レーン10の駆動制御装置11を駆動させて、トレイ12を要求した採血台の位置まで搬送する。採血台5の位置へ搬送されたトレイ12は、採血作業者によってレーン10から取り出される。
次に、採血作業者は、
図3に示すフローチャートに基づいて、採血作業を開始する。先ず、トレイ12に収容されている採血管に貼着されたラベルからバーコードスキャナー7で患者IDを読み取り、これをモニター6及び呼出表示装置8に表示させる。
【0023】
採血室内で順番待ちをしている患者は、自分の番号が呼出表示装置8に表示されたら、当該呼出表示装置8のあるブースへ入り、そこに設置された採血台の椅子へ着座する。採血作業者は、当該患者が保有する検査受付票の受付番号をスキャナー7で読み取り、モニター6へ表示させて採血管から読み取った受付番号と照合する。一致していれば、採血作業を開始する。なお、照合は患者の氏名を申告させることでも行われる。
【0024】
採血作業は、
図3に示すフローチャートに基づいて行われる。先ず、採血作業に際しては、モニター6に表示されている操作ボタンをタッチし、患者IDから採血業務支援サーバー4に保存記録されている前回の穿刺部位のテキストデータ一覧を取得し、これをモニター6に表示させる。続いて、一覧から確認したい履歴をタッチして選択し、
図4に示すように、シェーマ画像を表示すると共に、前回の穿刺部位をこのシェーマ画像上でマークして表示する。採血作業者は、このモニター6に表示されたシェーマ画像上のマークを参照しながら、患者の静脈の状態を確認し、穿刺作業を開始する。
【0025】
穿刺が成功し、採血が完了したときは、この情報を履歴として登録する。登録は、
図5に示すフローチャートに基づき、
図6に示すシェーマ画像上のマーキングを確認しながら行う。すなわち、トレイ12に収容されている採血管に貼着されたラベルからバーコードスキャナー7で患者IDを読み取る。次に、患者IDから採血業務支援サーバー4に保存記録されている前回の穿刺部位の情報を取得し、これをモニター6に表示させる。続いて、今回の穿刺部位をシェーマ画像上でタッチして選択する。これにより、
図6に示すように、前回の穿刺部位と今回の穿刺部位とがシェーマ画像上に同時に表示される。
【0026】
採血作業者は、今回の穿刺部位のコード番号(
図2に示すブロックの番号)が正しければ、OKボタンを押下げる。これにより、データベース(採血業務支援サーバー4)に、患者ID・採取日時・部位コードが自動的に登録される。この登録情報は、次回の採血時に履歴として呼び出され、参考にされる。
【0027】
このように、本実施の形態にあっては、採血に際し、穿刺部位の履歴を採血台のモニター4でシェーマ画像を見ながら参考にすることができるので、採血作業者は当該患者に対して最適な穿刺部位の選択が可能であり、スムーズで患者に負担を与えることのない穿刺作業及び採血作業が可能であり、患者にとっては安心して採血を任せることができる。
【0028】
また登録した採血部位のデータは、統計処理が別途可能になっており、採血した部位の密度や分布がどのようになっているか等の一般的な傾向を分析することに利用することができる。従って、初めて採血する患者に対しては、先ず統計による採血部位の最も多い部位から順番に、当該患者の部位について実際に採血できるかを確認して行うことができるので、採血作業者にとってはその負担が軽減されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
ところで、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。例えば、モニター6へ情報を表示させるための制御装置5への入力手段として、タッチパネル6から直接入力する場合を説明したが、ペンタッチ方式又はキーボード入力方式であってもよい。また採血室のブースの数やこれに付属するその他の設備、採血管準備装置9の設置数等も適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…電子カルテシステム
2…医師PC
3…検査受付PC
4…採血業務支援サーバー
5…制御装置
6…モニター
7…スキャナー
8…呼出表示装置
9…採血管準備装置
10…トレイ搬送レーン
11…トレイ搬送レーンの駆動制御装置
12…トレイ