特許第6063448号(P6063448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6063448レーザ切断プロセスの制御方法およびこれを行うレーザ切断システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063448
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】レーザ切断プロセスの制御方法およびこれを行うレーザ切断システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20170106BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20170106BHJP
【FI】
   B23K26/38 Z
   B23K26/00 M
   B23K26/00 P
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-505773(P2014-505773)
(86)(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公表番号】特表2014-512273(P2014-512273A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】IB2012051992
(87)【国際公開番号】WO2012143899
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年3月26日
(31)【優先権主張番号】TO2011A000352
(32)【優先日】2011年4月21日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】508138955
【氏名又は名称】アディジェ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】マウリツィオ・スベッティ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・ベルトルディ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエレ・コロンボ
(72)【発明者】
【氏名】バルバラ・プレヴィターリ
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ・リーヴァ
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ・ダネージ
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツォ・モリナーリ・トザッティ
(72)【発明者】
【氏名】ディエゴ・パラッツォーリ
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−138082(JP,A)
【文献】 特開昭54−051097(JP,A)
【文献】 特開2005−131645(JP,A)
【文献】 特開2011−073014(JP,A)
【文献】 特開2010−274278(JP,A)
【文献】 特開平04−224092(JP,A)
【文献】 特開2010−240689(JP,A)
【文献】 特開2009−194176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源(10)で発生し、レーザヘッド(12)によって集光されたレーザビームを用いたワークピース(P)の照射、およびレーザヘッド(12)のノズル(16)を用いたアシストガスのフローの供給を提供するレーザ切断プロセスを制御するための方法であって、
a)集光されたレーザビームによって照射された材料空間内に存在する発光元素が放出した放射の波長信号を検出するステップと、
b)検出した信号に基づいて、レーザパワー、レーザパルスの周波数およびデューティサイクル、アシストガスの圧力、ワークピース(P)に対するレーザヘッド(12)の相対速度、ワークピース(P)の表面(S)からのレーザヘッド(12)のノズルの距離、およびワークピース(P)の表面(S)からのレーザビームの集光ポイント(F)の距離を含むプロセス制御パラメータのうちの少なくとも1つを調整するステップと、を含み、
ステップa)は、777nmの波長を含む少なくとも1つの所定の波長バンドであって、100nmより広くないバンド幅を有する波長バンド内に放出された放射を検出することによって行われ、
集光されたレーザビームによって照射された材料空間内に存在するアシストガスまたは汚染ガスが、発光元素として用いられる方法。
【請求項2】
切断の準備で穿孔動作を実行するために、前記ステップb)は、
b1)酸素をアシストガスとして使用する場合は0.5〜5msecの範囲に、酸素以外のガスをアシストガスとして使用する場合は0.5〜100msecの範囲にある第1所定時間間隔内でレーザ光源(10)をオンにするステップと、
b2)前記第1所定時間間隔の終わりにレーザ光源(10)をオフにするステップと、
b3)検出した波長信号が所定閾値より低くなるまで待機し、そして、ステップb1),b2)を繰り返すステップと、を含む請求項記載の方法。
【請求項3】
前記ステップb)は、ステップa)で検出した波長信号が所定閾値を超えた場合、これは不活性ガスを用いた切断の場合には切り口の部分閉止として解釈し、あるいは反応性ガスを用いた切断の場合には反応プロセスの制御の損失の初期として解釈し、そして、上記のプロセス制御パラメータの少なくとも1つを相応に変化させ、一方、ステップa)で検出した波長信号が所定閾値より低下した場合、これはプロセスが遅過ぎることを意味するものとして解釈し、そして、上記のプロセス制御パラメータの少なくとも1つを相応に変化させるように行う請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
・レーザ光源(10)と、
・レーザ光源(10)で発生したレーザビームをワークピース(P)に集光するための集光素子(14)と、アシストガスを供給するためのノズル(16)とを備えたレーザヘッド(12)と、
・レーザ光源(10)で発生したレーザビームをレーザヘッド(12)の集光素子(14)へ伝送するための光学経路と、
・レーザヘッド(12)およびワークピース(P)を調整可能な速度で互いに移動し、アシストガスの圧力を制御し、ワークピース(P)の表面(S)からのノズル(16)の距離を調整し、ワークピース(P)の表面(S)に対してレーザビームの集光ポイント(F)の位置を調整するための駆動装置と、
・集光されたレーザビームによって照射された材料空間内に存在するアシストガスまたは汚染ガスが放出する少なくとも1つの所定の波長バンドの放射を検出するように構成されたセンサ手段と、前記センサ手段によって検出された信号を処理するための信号処理手段と、前記信号処理手段で受信した信号に基づいて、レーザ光源(10)及び/又は駆動装置を制御し、レーザパワー、レーザパルスの周波数およびデューティサイクル、アシストガスの圧力、ワークピース(P)に対するレーザヘッド(12)の相対速度、ワークピース(P)の表面(S)からのレーザヘッド(12)のノズルの距離、およびワークピース(P)の表面(S)からのレーザビームの集光ポイント(F)の距離を含むプロセス制御パラメータのうちの少なくとも1つを調整するための制御手段と、を備えたプロセス制御装置と、
を備え
前記少なくとも1つの所定の波長バンドは、777nmの波長を含み、100nmより広くないバンド幅を有するレーザ切断装置。
【請求項5】
前記センサ手段は、前記少なくとも1つの所定の波長バンドを検出するためのフォトダイオード(20)と、集光されたレーザビームによって照射された材料空間が放出した放射をフォトダイオード(20)に向けるように構成された反射器/偏向器素子(22)と、フォトダイオード(20)と反射器/偏向器素子(22)との間に介在し、前記少なくとも1つの所定の波長バンドを選択する光学フィルタ素子(24)と、を備える請求項記載の装置。
【請求項6】
レーザ光源(10)は、固体レーザ光源であり、
光学経路は伝送ファイバ(32)を備え、レーザヘッド(12)は、伝送ファイバの最終端と連結されたコリメーション素子(34)を備え、
反射器/偏向器素子(22)は、レーザ放射の少なくとも99.9%を反射し、そして、前記少なくとも1つの所定の波長バンド内に放出された放射を伝送するように構成された90度偏向器である請求項記載の装置。
【請求項7】
前記センサ手段は、反射器/偏向器素子(22)とフォトダイオード(20)との間に配置され、前記少なくとも1つの所定の波長バンド内に放出された放射を該フォトダイオード(20)に集光する集光レンズ(36)をさらに備え、
光学フィルタ素子(24)は、反射器/偏向器素子(22)と集光レンズ(36)との間に配置されており、そして、レーザ放射を低減するように構成された第1光学フィルタ(38)と、前記少なくとも1つの所定の波長バンドを選択するように構成された第2光学フィルタ(40)とを備える請求項記載の装置。
【請求項8】
レーザ光源(10)は、固体レーザ光源であり、
光学経路は、伝送ファイバ(32)を備え、
前記センサ手段は、前記少なくとも1つの所定の波長バンドを検出するためのフォトダイオード(20)と、
光学経路(32)に沿って配置され、レーザ光源(10)で発生したレーザビームが伝送ファイバ(32)を経由してレーザヘッド(12)へ全体的に伝送されるように、そして、レーザ切断プロセスによって放出され、伝送ファイバ(32)を経由して伝送された放射がフォトダイオード(20)に向かうように構成された分岐素子(48,50)と、
フォトダイオード(20)と分岐素子(48,50)との間に介在し、前記少なくとも1つの所定の波長バンドを選択する光学フィルタ素子(24)と、を備える請求項記載の装置。
【請求項9】
光学経路は、コリメーションレンズ(44)および集光発射レンズ(46)を含む光学結合素子(42)を備え、
分岐素子(48,50)は、コリメーションレンズ(44)と集光発射レンズ(46)との間に配置され、レーザ光源(10)で発生したレーザビームが集光発射レンズ(46)を全体的に通過するように、そして、レーザ切断プロセスによって放出され、伝送ファイバ(32)によって伝送された放射がフォトダイオード(20)に向かうように構成されたビームスプリッタ(48)を備える請求項記載の装置。
【請求項10】
光学経路は、光学結合素子を備え、
分岐素子(48,50)は、光学結合素子の下流側に位置決めされた後者のポイントにおいて伝送ファイバ(32)に溶接された2次ファイバ(50)を備える請求項記載の装置。
【請求項11】
伝送ファイバ(32)は、レーザ光源(10)の出力ファイバ(54)に溶接され、
分岐素子(48,50)は、後者が出力ファイバ(54)に溶接された場所と同じポイントで伝送ファイバ(32)に溶接された2次ファイバ(50)を備える請求項記載の装置。
【請求項12】
レーザ光源(10)は、レーザビームを互いに独立して放出できる複数のレーザモジュール(10.1,10.2,…,10.N)と、
個々のレーザモジュール(10.1,10.2,…,10.N)にそれぞれ関連した対応する複数の出力ファイバ(54.1,54.2,…,54.N)とを備え、
光学経路は、入力側で出力ファイバ(54.1,54.2,…,54.N)と接続され、出力側で伝送ファイバ(32)と接続された光学合成器(56)を備え、
分岐素子(48,50)は、光学合成器(56)に溶接された2次ファイバ(50)を備える請求項記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、レーザ切断プロセスの分野に関し、詳細には、レーザ切断プロセスの制御方法および、こうした方法を行うレーザ切断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
用語「レーザ切断プロセス」とは、本発明の目的では、ワークピースの表面の上または表面近傍に集光されたレーザビームが、レーザビームが当たったワークピースの材料の変質(transformation)を生じさせ、最初にスルーホールを確保し、そしてこのスルーホールから開始する切断ラインを確保するプロセスを参照することを意図している。ワークピースに対するレーザビームの相対速度は、このプロセスに関与する材料の全体の面積または体積を決定する。典型的には、プロセスに起因した材料の変質は、機械的な変質(変形)または物理的な変質(溶融、蒸発または昇華による相転移)のいずれかであり、下記の2つの主な要因に起因しており、可変の比率で組み合わされる。
【0003】
a)集光したレーザビームによって供給される熱。
b)いわゆるアシストガスによって起こる化学反応によって供給される熱。但し、こうした反応が発熱(exoenergetic)反応(典型的には燃焼反応、より一般的にはワークピース材料とのアシストガスの燃焼に関係する反応)であることが条件。
【0004】
上記b)で示した熱供給がされない場合、アシストガスは不活性ガス(例えば、N,ArまたはHe)であり、シールドまたは機械的推進の機能を有する(即ち、レーザビームによって供給された熱の結果として、溶融、蒸発または昇華した材料を吹き飛ばすように機能する)。
【0005】
これに対して上記b)で示した熱供給が、総エネルギー供給の40%に等しいか、それより大きい場合、アシストガスは反応性ガスであり、エネルギー発生手段または燃焼助剤として機能する。従って、レーザ加工プロセスにおけるアシストガスの役割は、発熱反応を用いてプロセスにエネルギーを生じさせる場合、プロセスについて同時に2つの効果を伴う。即ち、1)関与する材料の体積の温度増加。これにより熱影響に起因して物理的な状態変化をもたらす(可塑化、溶融、蒸発または昇華)。2)反応の自己維持。関与する材料の体積の温度および利用可能な熱エネルギーが、発熱反応を引き起こし持続するのに必要な条件を確保する点で。反応性タイプのアシストガスの一例が酸素(O)であり、炭素鋼合金で行われるレーザ作業操作で用いられる。鋼に含まれる鉄の酸化反応を持続することが可能なためである。
【0006】
切断の予備段階としてのレーザ穿孔(piercing)が、通常、ワークピースに対するレーザビームの相対速度がゼロで行われ、続く切断プロセスを考慮して材料の壁の破壊を生じさせることを目的としている。レーザ穿孔は、ある光学構成を用いて、材料に対する焦点位置で行われ、これは材料の壁を破壊した直後に生ずるレーザ切断と両立できる必要がある。レーザ穿孔は、プロセス終了まで閉じたままの空間内で行われる。添付図面の図1に概略的に示すように、レーザ穿孔プロセスは、最初にワークピースPの表面Sに関与し、そして、レーザビームの光軸Aから始まる、蒸発/昇華、溶融、加熱された材料を集めるスペースを含む円筒形を、アシストガス、ワークピースの材料と共存するガスとの間の化学反応から導出される可能性のある副産物、および処理されるワークピースが置かれた空気中に含まれる可能性のあるガスを含む環境において生成することを含む。これらのガスは汚染物質として存在する。
【0007】
穿孔とは異なって、レーザ切断プロセスは、ワークピースに対する集光レーザビームの相対速度を規定する。さらに、添付図面の図2に概略的に示すように、レーザ切断プロセスは、3つの表面、即ち、ワークピースに対する集光レーザビームの相対速度の方向に対して平行に延びる一対の平坦な表面S1,S2、およびこれらの2つの表面と連結し、切断の立ち上がりエッジを表す第3の面S3によって規定される開放空間の中で行われる。添付図面の図3に概略的に示すように、これはレーザを用いて切断した材料の壁の断面図であり、切断方向に対して平行な断面に沿ったものであり、切断の立ち上がりエッジは、アシストガス、ワークピースの材料と共存するガスとの間の化学反応から導出される可能性のある副産物、および処理されるワークピースが置かれた空気中に含まれる可能性のあるガスを含む環境において、加熱、溶融、蒸発/昇華した材料の種々の層で形成される。これらのガスは汚染物質として存在する。
【0008】
文献(米国特許第5373135号)は、2つの温度閾値、即ち、処理される材料の溶融温度、および処理される材料の溶融温度と蒸発温度との間にある温度にそれぞれ対応した最低温度閾値および最高温度閾値を設定すること、そして、光強度を測定することで温度を測定することをベースとしてレーザ切断プロセスを制御する方法を開示する。測定温度が所定の最高閾値より高い場合、レーザをスイッチオフにし、一方、測定温度が所定の最低閾値より低い場合、レーザをスイッチオンにする。従って、この公知の方法の制御パラメータは温度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、本発明の目的は、プロセスが反応性ガスまたは不活性ガスを用いて、COレーザまたは固体レーザ(Nd:YAG,ファイバーレーザ、ディスクレーザ、ダイオードレーザ)で行われるか否かに関係なく、上述したタイプのレーザ切断プロセスの制御方法を提供することであり、この方法は、アシストガスとして反応性ガスを用いたプロセスの場合、プロセスが制御不能になり、発作状態に入るリスクを最小化でき、切り口(kerf)の閉鎖のリスク、そして、プロセスの中断のリスクを最小化でき、レーザ切断プロセスの制御のために既に使用されている制御方法で得られるものに比べて、プロセスの最終結果の品質を改善できる。
【0010】
この目的は、同封した独立請求項1に記載されたステップを含むレーザ切断プロセスの制御方法により、本発明に従って完全に達成される。
【0011】
本発明の更なる態様によれば、この目的は、同封した独立請求項に記載された特徴を含むレーザ切断システムにより、完全に達成される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る制御方法の実装の有利な態様、および本発明に係るレーザ切断システムの有利な実施形態は、従属請求項の主題であり、その内容は、下記の説明の全体および統合部分とみなされる。
【0013】
要約すると、本発明は、基準信号として、ガス(アシストガスまたは汚染ガス)または、より一般には、集光されたレーザビームの照射により、空間内に存在する任意の発光元素(element)が放出した放射に特有の1つ又はそれ以上の輝線(emission line)を用いて、そして、この基準信号に基づいて、下記のプロセス制御パラメータ、即ち、レーザパワー、レーザパルスの周波数およびデューティサイクル、アシストガスの圧力、ワークピースに対するレーザヘッドの相対速度、レーザヘッドとワークピース表面との間の距離、レーザビームの集光ポイントとワークピース表面との間の距離、のうちの少なくとも1つを調整することによって、初期の穿孔段階を含むレーザ切断プロセスを制御するアイデアをベースとしている。
【0014】
従って、本発明に係る制御方法は、下記ステップを含む制御ループを実装している。
・レーザプロセスが関与した空間から到来する放射が、プロセスを制御するために最適なものとして予め選択した波長を中心とするバンドで動作するセンサ手段によって検出される。
・こうして検出された信号は、適切にフィルタ処理され、そして、電子制御ユニットへの入力として送られる。
・電子制御ユニットは、入力として受信した信号を解明して、必要に応じて、上記プロセス制御パラメータの1つを変化させる。
【0015】
ロセスの制御のために監視される放射(以下、「制御放射」と称する)に特有の輝線は、00nmより広くないバンド幅で検出される。
【0016】
好ましくは、酸素または窒素が発光ガスとして用いられる。光ガスとして使用するガスは、通常、アシストガスまたは汚染ガスでもよい。この第2のケースでは、ガスは、通常、処理されるワークピースまたはガスの周りの環境に普通に存在するガス、あるいは、レーザプロセスが関与する空間内に、本目的のために明示的に導入されるガスでもよい。
【0017】
ガスが主として反応性の機能を有する場合、その発光は、反応プロセスが生ずる強度のレベルを示すものとして解釈できる。即ち、低すぎるレベルは、反応プロセスが可能性のあるレートで生じていないことを意味し、一方、高すぎるレベルは、反応プロセスが過剰なレートで、即ち、制御不能または爆発性のプロセスという状況リスクで生じていることを意味する。パルスレーザの場合、信号の導関数(derivative)または次のパルスの前にスイッチオフになるレーザによって到達する最小レベルは、プロセスがその強度を減少または増加させ、一方では非効率的になり、他方では制御不能または爆発性になる傾向になる指標を提供できる。
【0018】
同じ情報は、連続レーザの場合にも、レーザパワーに過変調を導入し、変調不足段階および過変調段階でガスが発光する信号の時間微分を比較することによって得られる。他のタイプの制御が、2つ以上の異なる波長で放射の発光レベルを比較することによって得られ、これはレーザ加工プロセスが関与する空間内部における少なくとも2つの特有の化学種または化合物の存在または変質を示す。
【0019】
ガスが汚染物質の機能を有し、処理されるワークピース周りの雰囲気中に通常存在したり、この目的のプロセスにおいて明確に導入される場合、不活性ガスをアシストガスとして用いるレーザ切断プロセスの場合でも、その発光は制御信号として解釈できる。
【0020】
切断の準備において実行されるレーザ穿孔の場合、汚染ガスが発光する信号は、穿孔する円筒が閉じたままで、プロセスが未だ終了していないという情報を提供する。いったん開口が材料中に形成されると、制御信号は著しく減少し、プロセスが終了したことを示す。レーザ切断の場合、汚染ガスが発光する信号の増加は、切断の前縁が処理ワークピースの表面に対して平行になる傾向があり、これにより排出する材料が少なくなり、副産物、汚染ガスも少なくなり、よって切断の前進速度が高すぎるという情報を提供し、一方、汚染ガスが発光する信号の減少は、切断の前縁が処理ワークピースの表面に対して垂直になる傾向があり、よって切断の前進速度が低すぎるという情報を提供する。
【0021】
詳細には、本発明に係る制御方法は、777nmの輝線を監視することを提供する。この波長は、イオン化した酸素からの強い発光を含み、これは、酸素がプロセス中の汚染ガスとしてのみ存在する場合も容易に検出でき、詳細には、切断の準備でのレーザ穿孔およびレーザ切断の両方の制御に必要な情報を提供する。酸化条件下でのレーザ穿孔プロセスの場合、酸素をアシストガスとして使用し、この波長は、処理空間内に存在するイオン化した酸素量の上昇する傾斜について極めて敏感な予知を提供し、その傾斜は爆発を予感させるものである。溶融レーザ穿孔プロセスの場合、窒素をアシストガスとして使用し、この波長は、開口する前に溶融する閉じた空間の存在について極めて敏感な情報を提供する。レーザ切断プロセスの場合、酸化条件下で実行されるか否か、または溶融レーザ切断プロセスであるか否かに関わらず、この波長は豊富な情報源を表現する。それは、切断の最終品質の低下をもたらす爆発リスクまたは酸化プロセスの横方向拡散の予知、ならびに、切り口の閉止、そして閉止を導いた上流側の理由とは別個に関連した切断の損失の現象の予知の両方を提供するからである。
【0022】
レーザ加工プロセスが関与する材料空間内に存在するガが放出する信号の監視により、プロセス状態についての情報が得られ、そして上記のプロセス制御パラメータを調整することによってプロセスを制御することが可能になる。
【0023】
本発明に係る制御方法を実施するレーザ切断システムに関して、それは基本的に下記のものを備える。
・レーザ光源。これは普通にCOタイプまたは固体タイプ(Nd:YAG,ファイバレーザ、ディスクレーザ、ダイオードレーザ)のものでもよい。
・レーザ光源で発生したレーザビームを集光するための集光素子と、アシストガスを供給するためのノズルと、を備えたレーザヘッド。
・レーザ光源で発生したレーザビームをレーザヘッドの集光素子へ伝送するように構成された光学経路。
・レーザヘッドおよびワークピースを調整可能な速度で互いに移動し、アシストガスの圧力を制御し、ワークピース表面からのノズルの距離を調整し、ワークピース表面に対してレーザビームの集光ポイントの位置を調整するように構成された駆動装置。
・集光されたレーザビームの照射が関与する材料空間内に存在する所定ガが放出する少なくとも1つの所定の波長バンドの放射を検出するためのセンサ手段と、センサ手段によって検出された信号を処理するための信号処理手段と、信号処理手段で受信した信号に基づいて、レーザ光源及び/又は駆動装置を制御し、次のプロセス制御パラメータ、即ち、レーザパワー、レーザパルスの周波数およびデューティサイクル、アシストガスの圧力、ワークピースに対するレーザヘッドの相対速度、レーザヘッドのノズルとワークピース表面との間の距離、レーザビームの集光ポイントとワークピース表面との間の距離、のうちの少なくとも1つを調整するための制御手段と、を備えたプロセス制御装置。
【0024】
ある実施形態によれば、センサ手段は、所定の波長バンドを検出するためのフォトダイオードと、レーザ加工プロセスによって放出された放射をフォトダイオードに向けるように構成された反射器/偏向器素子と、フォトダイオードと反射器/偏向器素子との間に介在し、所定の波長バンドを選択する光学フィルタ素子と、を備える。
【0025】
ある実施形態によれば、センサ手段は、所定の波長バンドを検出するための複数のフォトダイオードと、レーザ加工プロセスによって放出された放射を個々のフォトダイオードに向けるようにそれぞれ構成された、対応する複数の反射器/偏向器素子と、個々のフォトダイオードと個々の反射器/偏向器素子との間に介在し、所定の波長バンドを選択する、対応する複数の光学フィルタ素子と、を備える。
【0026】
センサ手段として使用するフォトダイオード、反射器/偏向器素子および光学フィルタ素子の数に関わらず、(各)光学フィルタ素子は、透過式または反射式で動作可能である。この第2のケースにおいて、(各)光学フィルタ素子は、レーザ加工プロセスによって放出された放射をフォトダイオードに向けるように構成された反射器/偏向器素子と一致できる。センサ手段は、レーザヘッドの集光素子の上方または下方に普通に配置できる。
【0027】
固体タイプ(Nd:YAG,ファイバレーザ、ディスクレーザ、ダイオードレーザ)のレーザ光源の場合、光学経路は伝送ファイバを備え、レーザヘッドはコリメーション素子をさらに備え、これは、伝送ファイバの最終端と連結され、1つ又はそれ以上のコリメーションレンズを備える。
【0028】
この場合、反射器/偏向器素子は、コリメーション素子と集光素子との間に、レーザ放射の少なくとも99.9%を反射するように、あるいは所定の波長バンドの放射を伝送するように構成された90度偏向器を備えてもよい。この場合、好ましくは、センサ手段は、偏向器とフォトダイオードとの間に配置され、フォトダイオードで検出される信号を集光する集光レンズをさらに備える。さらに、光学フィルタ素子は、好ましくは、偏向器と集光レンズとの間に配置されており、そして、レーザ放射を低減するように構成された第1光学フィルタと、所定の波長バンドを選択するように構成された第2光学フィルタとを備える。これは複数のフォトダイオード、複数の反射器/偏向器素子、複数の光学フィルタ素子を設けた場合にも完全に適用され、この場合、各反射器/偏向器素子は、個々の偏向器を備え、個々の集光レンズが各偏向器と個々のフォトダイオードとの間に設けられることになる。
【0029】
90度偏向器の代替として、分岐素子を設けてもよく、これは、光学経路に沿って配置され、レーザ光源で発生したレーザビームが伝送ファイバを経由してレーザヘッドへ全体的に伝送されるように、そして、レーザ加工プロセスによって放出され、伝送ファイバを経由して伝送された放射がフォトダイオードに向かうように構成される。
【0030】
ある実施形態によれば、分岐素子は、光学結合素子に一体化され、これによりレーザ光源で発生したレーザが伝送ファイバ内に発射され、特に、コリメーションレンズと光学結合素子の集光発射レンズとの間に配置され、レーザ光源で発生したレーザビームが集光発射レンズを全体的に通過するように、そして、レーザ加工プロセスによって放出され、伝送ファイバによって伝送された放射がフォトダイオードに向かうように構成されたたビームスプリッタを備える。
【0031】
ある実施形態によれば、分岐素子は、伝送ファイバに溶接された2次ファイバを備える。光学結合素子を設けた場合、これによりレーザ光源で発生したレーザが伝送ファイバ内に発射され、2次ファイバは、光学結合素子の下流側に位置決めされた後者のポイントにおいて伝送ファイバに溶接される。代替として、光学結合素子は、省略可能であり、2次ファイバは、伝送ファイバがレーザ光源に溶接された場所と同じポイントで溶接可能である。この場合、特に有利なことに、2次ファイバが、複数のファイバが溶接された光学合成器に溶接された場合、これらのファイバは、レーザ光源の一部を形成し、他のレーザモジュールとは独立してレーザビームを放出可能な個々のレーザモジュールにそれぞれ接続される。
【0032】
さらに、添付図面を参照して非限定の例として用意した下記の詳細な説明から、本発明の特徴および利点がより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】レーザ穿孔プロセスが関与する材料空間を概略的に示す。
図2】レーザ切断プロセスが関与する材料空間を概略的に示す。
図3】レーザ切断プロセスが関与する材料空間を概略的に示す。
図4】本発明に係るレーザ切断システムのためのプロセス制御装置を概略的に示す。
図5図5A図5Bは、図4のようなプロセス制御装置のセンサ手段の一部を形成する偏向器およびフォトダイオードのアセンブリの上から見た図、および断面図である。
図6】本発明に係るレーザ切断システムのためのプロセス制御装置で使用可能なセンサ手段の実施形態の個々の変形を概略的に示す。
図7】本発明に係るレーザ切断システムのためのプロセス制御装置で使用可能なセンサ手段の実施形態の個々の変形を概略的に示す。
図8】本発明に係るレーザ切断システムのためのプロセス制御装置で使用可能なセンサ手段の実施形態の個々の変形を概略的に示す。
図9】本発明に係るレーザ切断システムのためのプロセス制御装置で使用可能なセンサ手段の実施形態の個々の変形を概略的に示す。
図10】本発明に係るレーザ切断システムのためのプロセス制御装置で使用可能なセンサ手段の実施形態の個々の変形を概略的に示す。
図11】本発明に係るレーザ切断システムのためのプロセス制御装置で使用可能なセンサ手段の実施形態の個々の変形を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず図4の概略図を参照して、本発明に係るレーザ切断システムが、基本的に下記のものを備える。
・レーザ光源10。これは普通にCOタイプまたは固体タイプ(Nd:YAG,ファイバレーザ、ディスクレーザ、ダイオードレーザ)のものでもよい。
・レーザ光源10で発生したレーザビームを集光するための集光素子14と、アシストガス(不活性ガス(例えば、窒素)または反応性ガス(例えば、酸素))を供給するためのノズル16と、を備えたレーザヘッド(全体を符号12で示す)。ノズル16は、好ましくは円形断面の出口孔を有する。
・レーザ光源10で発生したレーザビームをレーザヘッド12の集光素子14へ伝送するように構成された光学経路(不図示、それ自体が公知のタイプ)。光学経路は、ミラーアセンブリまたは伝送ファイバで形成できる。
・レーザヘッド12およびワークピースを調整可能な相対速度で互いに移動し、アシストガスの圧力を制御し、ワークピース表面からのノズル16の距離を調整し、処理されるワークピースの表面に対してレーザビームの集光ポイントFの位置を調整するように構成された駆動装置(不図示、それ自体が公知のタイプ)。駆動装置は、数値制御18によって制御される。
・レーザ光源10及び/又は駆動装置(数値制御18による)を制御し、次のプロセス制御パラメータ、即ち、レーザパワー、レーザパルスの周波数およびデューティサイクル、アシストガスの圧力、ワークピースに対するレーザヘッド12の相対速度、ノズル16とワークピース表面との間の距離、レーザビームの集光ポイントFと、処理されるワークピースの表面との間の距離、のうちの少なくとも1つを調整するように構成されたプロセス制御装置。
【0035】
詳細には、プロセス制御装置は、集光されたレーザビームの照射が関与する材料空間(以下、容易化のため、処理空間という)内に存在する所定ガが放出する少なくとも1つの所定の波長バンドの放射を検出するためのセンサ手段と、センサ手段によって検出された信号を処理するための信号処理手段と、信号処理手段で受信した信号に基づいて、レーザ光源及び/又は駆動装置を制御し、上記プロセス制御パラメータのうちの少なくとも1つを調整するための制御手段と、を備える。
【0036】
センサ手段は、好ましくは少なくとも1桁のダイナミックレンジで、所定の波長バンドを検出するためのフォトダイオード20と、処理空間によって放出された放射をフォトダイオード20に向けるように構成された反射器/偏向器素子22と、フォトダイオード20と反射器/偏向器素子22との間に介在し、所定の波長バンドを選択する光学フィルタ素子24と、を備える。光学フィルタ素子24は、透過式または反射式で動作可能である。この第2のケースにおいて、光学フィルタ素子24は、反射器/偏向器素子22と一致していてもよい。従って、処理空間によって放出された放射は、反射器/偏向器素子22によって光学フィルタ素子24を通ってフォトダイオード20上に方向付けられ、所定の波長バンドを検出する。図5A図5Bに示すように、センサ手段は、複数のフォトダイオード20(図示した例では4個のフォトダイオード)と、対応する複数の反射器/偏向器素子22と、光学フィルタ素子24とを備え、各反射器/偏向器素子22が所定の角度範囲で処理空間によって放出された放射を個々の光学フィルタ素子24を通って個々のフォトダイオード20上に方向付けるように配置されている。センサ手段は、レーザヘッド12の集光素子14の上方または下方に普通に位置決めしてもよい。
【0037】
信号処理手段は、例えば、フォトダイオード20と直接接続され、信号増幅/フィルタ回路基板26と、信号増幅/フィルタ回路基板26と接続され、ここから到来する信号を取得する信号取得回路基板28とを備える。
【0038】
制御手段は、制御ソフトウエアがインストールされた電子制御ユニット30(例えば、産業用PC)を備え、詳細に後述する制御アルゴリズムを実行する。電子制御ユニット30は、一方では信号取得回路基板28と接続され、他方では、入出力インタフェースを用いて通信ラインを経由してレーザ光源10および数値制御18と接続され、レーザ光源10を直接に制御して、レーザのパワー、周波数およびデューティサイクルを調整できるように、そして、間接的に数値制御18を経由して駆動装置と接続され、上述のような残りのプロセス制御パラメータ、即ち、相対速度、アシストガスの圧力、材料からのノズルの距離、材料に対する集光ポイントの位置を調整する。
【0039】
上記のプロセス制御パラメータは、センサ手段で検出された所定の波長バンドに関連した信号に基づいて調整される。本発明によれば、所定の波長バンドとして、処理空間内に存在する発光元素としてのガスの少なくとも1つの輝線を含むような方法で選択した波長バンドが用いられる。ロセスの制御のために監視される輝線は、00nmより広くないバンド幅で検出される。好ましくは、発光元素として用いるガスは酸素または窒素である。
【0040】
酸素が放出する放射は、948nm,845nm,823nm,795nmおよび777nmの波長での輝線を有する。発明に係る制御方法は、上述した最後の輝線の監視、従って、777nmの信号を±50nmに等しい通過バンドで取得することを提供する。この説明の導入部で既述したように、この波長は、イオン化した酸素が放出する強い発光を含み、これは、酸素がプロセス中の汚染物質として存在するだけである場合、容易に検出することができ、特に、レーザ切断を制御する、そして、切断の準備での穿孔動作を制御するのに必要な情報を提供する。
【0041】
この波長は、本発明に従って、一方では、処理空間内のイオン化した酸素の量の増加する傾向に関する情報として(その傾向は通常、穿孔または切断の爆発を予測する)、他方では、収集された汚染物質の量の指数、従って、未完成の穿孔または切り口(kerf)の閉鎖の傾向の指数として用いられる。
【0042】
窒素が関係する場合、このガスが放出する放射は、1358nm,1246nm,939nm,870nm,860nm,745nmおよび576nmの波長での輝線を有する
【0043】
切断の準備でのレーザ穿孔を実行するために、プロセス制御パラメータを調整するためにレーザ加工システムの制御手段が使用できる制御アルゴリズムの例が、以下に説明するステップを提供する。
a)最初に、孔を作る材料の存在をチェックする。このために、レーザヘッドを用いて第1レーザパルス列が材料に送られ、所定の波長バンドに関連した信号がセンサ手段によって検出される。検出した信号が所定の閾値より低すぎる場合、この情報は制御手段によって解釈され、材料の不在を示したり、または孔が以前に作成済であることを示す。
b)いったん材料の存在が確認されると、上述したプロセス制御パラメータの適切な値を用いてレーザ加工プロセスが開始する。特に、レーザ光源は、ある所定の時間間隔でオンになり、その終わりにレーザ光源はスイッチオフになる。特に、プロセスが酸素リッチの環境(アシストガスとして使用)で発生する場合、レーザ光源がオンになる時間間隔は、0.5〜5msecの範囲で変化する(好ましくは1msec)。これに対して酸素が汚染ガスとして存在する場合、レーザ光源がオンになる時間間隔は、0.5〜100msecの範囲で変化する(好ましくは50msec)。
c)レーザ光源のスイッチオフから一定時間(緩和時間)後、所定の波長バンドで放出された放射は、センサ手段によって検出され、その経過(course)が監視される。検出した信号が所定の再点火閾値より低くなった場合、ステップb)が繰り返される。即ち、レーザ光源は再びスイッチオンになる。制御信号の監視の間、制御手段は、この信号の時間微分も測定することが可能であり、この導関数を調整手順の堅牢性(robustness)の指標として使用する。
【0044】
検出した信号が所定のプロセス終了閾値より低下した場合、プロセスは終了する。好ましくは、プロセス終了制御は、レーザ光源がオンである時間間隔で実行される。
【0045】
再点火閾値およびプロセス終了閾値の値は、ワークピースの材料および厚さに依存する。好ましくは、これらの値は、固定されず、測定した制御信号の時間微分に基づいて、プロセスがあまり堅牢でないことを立証した場合、制御手段によって動的に変化する。
【0046】
レーザ切断プロセスを実行するために、プロセス制御パラメータを調整するためにレーザ加工システムの制御手段が使用できる制御アルゴリズムの例が、以下に説明するステップを提供する。
a’)最初に、プロセス制御パラメータが、使用するレーザ、ワークピースの材料および厚さに依存して通常選択される値に設定される。
b’)センサ手段は、処理空間によって放出された所定波長バンドの放射に対応した信号を検出する。監視した信号の少なくとも1つが所定閾値を超えた場合、制御手段は、この発光過剰を、不活性ガスを用いた切断の場合には切り口の部分閉止として解釈し、あるいは反応性ガスを用いた切断の場合には反応プロセスの制御の初期損失として解釈し、いずれの場合も上記のプロセス制御パラメータの少なくとも1つを適切に変化させ、可能ならば、レーザパワーおよび相対速度を優先して変化させる。
【0047】
監視した信号の少なくとも1つが所定閾値を下回った場合、制御手段は、この発光減少を遅過ぎるプロセスとして解釈し、上記のプロセス制御パラメータの少なくとも1つを適切に変化させ、可能ならば、レーザパワーおよび相対速度を優先して変化させる。
【0048】
さらに、加工システムのセンサ手段が、各フォトダイオードによって検出される放射を発生する処理空間の一部との空間相関を維持するように配置された多数のフォトダイオードを備えた場合、好ましくは、制御手段は、検出した信号と切断方向とを相関させ、許容された全ての切断方向において挙動の異方性に関する情報を取得することが可能になる。こうした情報が、レーザヘッドのノズルの中心を基準として、即ち、アシストガスの流出方向を基準としてレーザビームのオフセットの尺度を提供し、よって、集光レンズまたはノズルの質量中心を適切に移動させることが可能になる。
【0049】
当然ながら、少なくとも1つの所定の波長バンドの、処理空間によって放出された放射に関連する信号に基づいて上記のプロセス制御パラメータの少なくとも1つを調整する原理に従って、本発明の範囲内で上述したものとは異なる制御アルゴリズムが実装可能である。こうした所定の波長バンドは、レーザ加工の際に処理空間内に存在するガスまたは他の発光元素の少なくとも1つの輝線を含む。
【0050】
図6図11を参照して、図4図5のものと同一または対応する構成要素は、同じ参照符号が与えられており、本発明に係るレーザ切断システムのプロセス制御装置で使用可能なセンサ手段の幾つか可能性のある実施形態を説明する。
【0051】
図6の実施形態において、レーザ切断システムは、固体タイプ(Nd:YAG,ファイバレーザ、ディスクレーザ、ダイオードレーザ)のレーザ光源(不図示)を備え、この場合、光学経路は、伝送ファイバ32と、レーザヘッド12と、さらにコリメーション素子34とを備え、これは伝送ファイバ32の最終端と接続されており、そして、1つ又はそれ以上のコリメーションレンズを備える。この場合も、センサ手段(フォトダイオード20、反射器/偏向器素子22、光学フィルタ素子24)は、集光素子14の上方または下方に配置できる。最初の場合、図6に示すように、センサ手段は、集光素子14とコリメーション素子34との間に配置される。
【0052】
図7の実施形態によれば、これも固体タイプのレーザ光源を用いたレーザ切断システムの場合を参照しており、反射器/偏向器素子22は90度偏向器によって形成され、これはコリメーション素子34と集光素子14との間に配置され、レーザ放射の少なくとも99.9%を反射し、所定の波長バンドの放射を通過させるように構成される。提案した例では、センサ手段は、偏向器22とフォトダイオード20との間に配置された集光レンズ36をさらに備え、この後者の上に検出信号を集光する。さらに、提案した例では、光学フィルタ素子24は、偏向器22と集光レンズ36との間に配置され、偏向器22から集光レンズ36への順序で、レーザ放射を減少させるように構成された第1光学フィルタ38と、所定の波長バンドを選択するように構成された第2光学フィルタ40とを備える。センサ手段の同じ構成は、複数のフォトダイオード、複数の反射器/偏向器素子、複数の光学フィルタ素子を用いても得ることができ、この場合、各反射器/偏向器素子は、個々の偏向器を備え、個々の集光レンズが各偏向器と個々のフォトダイオードとの間に設けられることになる。
【0053】
図8図11の実施形態によれば、これも固体タイプのレーザ光源を用いたレーザ切断システムの場合を参照しており、90度偏向器の代わりに、光学経路に沿って配置され、レーザ光源で発生したレーザビームが伝送ファイバを経由してレーザヘッドへ全体的に伝送されるように、そして、処理空間によって放出され、伝送ファイバを経由して伝送された放射がフォトダイオードに向かうように構成された分岐素子が設けられる。
【0054】
詳細には、図8の実施形態によれば、光学結合素子42が光学経路に沿って設けられ、これによりレーザ光源で発生したレーザは伝送ファイバ32内に発射され、光学結合素子42は、コリメーションレンズ44と、集光発射レンズ46とを備える。この場合、分岐素子は、光学結合素子42に一体化され、コリメーションレンズ44と集光発射レンズ46との間に配置され、レーザ光源で発生したレーザビームが集光発射レンズ46を全体的に通過するように、そして、処理空間によって放出され、伝送ファイバを経由して伝送さけた放射がフォトダイオード20に向かうように構成されたビームスプリッタ48を備える。図7の実施形態のように、センサ手段は、ビームスプリッタ48とフォトダイオード20との間に配置され、後者の上に検出信号を集光する集光レンズ36をさらに備える。さらに、この場合、光学フィルタ素子24は、ビームスプリッタ48と集光レンズ36との間に配置され、レーザ放射を減少させるように構成された第1光学フィルタ38と、所定の波長バンドを選択するように構成された第2光学フィルタ40とを備える。
【0055】
一方、図9図11の実施形態において、分岐素子は、伝送ファイバ32に溶接された2次ファイバ50を備える。
【0056】
詳細には、図9の実施形態によれば、光学経路は、光学結合素子(不図示)を備え、これによりレーザ光源で発生したレーザが伝送ファイバ内に発射され、2次ファイバ50は、光学結合素子の下流側に位置決めされた後者のポイントにおいて伝送ファイバ32に溶接される。この場合も、センサ手段は、2次ファイバ50に加えて、順にコリメーションレンズ52と、光学フィルタ素子24と、集光レンズ36と、フォトダイオード20とを備え、光学フィルタ素子24は、順に、レーザ放射を減少させるように構成された第1光学フィルタ38と、所定の波長バンドを選択するように構成された第2光学フィルタ40とを備える。
【0057】
図10の実施形態によれば、光学経路に沿った光学結合素子は省略され、2次ファイバ50は、伝送ファイバがレーザ光源の出力ファイバ54に溶接された場所と同じポイントで、伝送ファイバ32に溶接される。センサ手段に関する限り、図9を参照して上述した内容がそのまま適用される。
【0058】
最後に、図11の実施形態によれば、レーザ光源10は、レーザビームを互いに独立して放出できる複数のレーザモジュール10.1,10.2,…,10.Nと、個々のレーザモジュールからそれぞれ延びた対応する複数の出力ファイバ54.1,54.2,…,54.Nとを備える。出力ファイバは、入力側で光学合成器56と接続され、その出力側で伝送ファイバ32が接続される。この場合、2次ファイバ50は、光学合成器56に溶接される。センサ手段に関する限り、図9を参照して上述した内容がそのまま適用される。
【0059】
当然ながら、本発明の原理は不変のままであり、レーザ切断システムの制御方法および実施形態を実施する態様は、単に非限定的な例として説明、図示したものから広範に変更してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7
図8
図9
図10
図11