(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063746
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】スルフォラン類組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 333/48 20060101AFI20170106BHJP
【FI】
C07D333/48
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-553588(P2012-553588)
(86)(22)【出願日】2011年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2011080155
(87)【国際公開番号】WO2012098811
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-7402(P2011-7402)
(32)【優先日】2011年1月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-251396(P2011-251396)
(32)【優先日】2011年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 真良
(72)【発明者】
【氏名】高野 勝己
(72)【発明者】
【氏名】神田 尚明
【審査官】
谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−100180(JP,A)
【文献】
特開2009−215369(JP,A)
【文献】
特開平11−255765(JP,A)
【文献】
特表2005−514194(JP,A)
【文献】
特表2001−521018(JP,A)
【文献】
特開平07−101953(JP,A)
【文献】
GU,K.,Effects of deterioration of sulfolane on aromatic extraction,Shiyou Xuebao, Shiyou Jiagong,2000年 8月,Vol.16, No.4,p.19-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 333/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるスルフォラン化合物と有機アルカノールアミン化合物とを含有し、
前記有機アルカノールアミン化合物は、第2級アルカノールアミン化合物であり、
前記有機アルカノールアミン化合物の含量が、前記スルフォラン化合物100質量部に対し、0.0001〜0.4質量部であるスルフォラン類組成物。
【化1】
式(1)中、R
1〜R
6は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【請求項2】
有機アルカノールアミン化合物が、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンおよびジブタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のスルフォラン類組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気の発生や変色を抑制し、かつ、耐熱性が改良されたスルフォラン類組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スルフォラン化合物は、非プロトン性極性溶媒であり、他の極性溶媒と比較して高極性および高沸点を有している。また、反応物の分極溶解能力に優れていることから、ベンゼン、トルエンやキシレン等の抽出溶媒、酸性ガスの除去剤、低沸点アルコールの分離、木タールの分留の他、芳香族化合物の反応溶媒および電子部品製造用の溶媒等に用いられている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、スルフォラン化合物は高温下で徐々に熱分解して亜硫酸ガス(二酸化硫黄)を発生する傾向があるため、スルフォラン化合物から生成した二酸化硫黄によって反応器や設備内の金属製内壁が腐食したり、目的とする反応を阻害するという問題が発生したりするおそれがある。そこで、高温下でスルフォラン化合物が熱分解して二酸化硫黄が生成することを抑制するために、有機硫黄化合物を添加する方法(特許文献3)や、弱塩基性有機化合物、ニトロキシラジカル系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、塩基性無機物やヒンダードアミン系酸化防止剤を添加する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−88017号公報
【特許文献2】特開2004−323544号公報
【特許文献3】特開平11−255765号公報
【特許文献4】特開2009−215369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3の方法によると、添加剤が有機硫黄化合物であるため、少量の添加でも臭気が発生する不具合がある。また、特許文献4の方法によると、添加剤の使用量が比較的多いため、経済的に好ましくない。
【0006】
本発明は、スルフォラン化合物に混合される添加剤として有機アルカノールアミン化合物を含有するスルフォラン類組成物である。スルフォラン化合物に有機アルカノールアミン化合物を共存させることにより、臭気発生や変色のおそれが少なく、さらに添加剤の使用量を低減しつつ、スルフォラン化合物の熱分解を抑制し、二酸化硫黄の生成を低減することが可能なスルフォラン類組成物を提供することを目的とする。
なお、本発明において、上記「スルフォラン類組成物」とは、スルフォラン化合物を含有する組成物を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、式(1)で表されるスルフォラン化合物と有機アルカノールアミン化合物とを含有し、
前記有機アルカノールアミン化合物は、第2級アルカノールアミン化合物であり、前記アルカノールアミン化合物の含量が、前記スルフォラン化合物100質量部に対し、0.0001〜0.4質量部であるスルフォラン類組成物に関する。
【0008】
【化1】
【0009】
式(1)中、R
1〜R
6は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
式(1)において、R
1〜R
6で示される炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、イソブチル基およびtert−ブチル基等が挙げられる。
【0012】
式(1)で表されるスルフォラン化合物の具体例としては、例えば、スルフォラン、3−メチルスルフォラン、3−エチルスルフォラン、3−プロピルスルフォラン、3−ブチルスルフォラン、3−イソブチルスルフォラン、3−tert−ブチルスルフォラン、3−ヘキシルスルフォラン、3,4−ジメチルスルフォラン、3,4−ジエチルスルフォラン、3,4−ジブチルスルフォラン、3−ヘキシル−4−メチルスルフォラン、2,5−ジメチルスルフォラン、2,3,5−トリメチルスルフォラン、2,5−ジメチル−3−ヘキシルスルフォラン、2,3,4,5−テトラメチルスルフォラン、2,5−ジエチルスルフォラン、2,5−ジエチル−2−メチルスルフォラン、2,5−ジエチル−2,5−ジメチルスルフォラン、2,5−ジエチル−3,4−ジメチルスルフォラン、2,5−ジエチルスルフォラン、2,5−ジプロピルスルフォラン、2,5−ジプロピル−3−メチルスルフォランおよび2,5−ジプロピル−3,4−ジメチルスルフォラン等が挙げられる。
【0013】
これらの中でも、価格や入手のしやすさの観点から、スルフォランが好ましく用いられる。また、水を含有するスルフォラン化合物であっても使用することができる。水の含量は特に制限はない。
【0014】
本発明に用いられる有機アルカノールアミン化合物の物性としては特に制限はないが、高温時のスルフォラン化合物の熱分解を効率的に抑制するためには、有機アルカノールアミン化合物の沸点はスルフォラン化合物の沸点に近い方が好ましい。スルフォラン化合物と有機アルカノールアミン化合物との沸点差は150℃以内であることが好ましく、100℃以内であることがより好ましい。
【0015】
前記有機アルカノールアミン化合物としては、第1級アルカノールアミン化合物、第2級アルカノールアミン化合物および第3級アルカノールアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
第1級アルカノールアミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン等が挙げられる。
第2級アルカノールアミン化合物としては、例えば、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン等が挙げられる。
第3級アルカノールアミン化合物としては、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン等が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、価格や入手が容易である観点から、第1級アルカノールアミン化合物および第2級アルカノールアミン化合物が好ましく用いられ、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミンおよびトリイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく用いられる。これら有機アルカノールアミン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
前記有機アルカノールアミン化合物の含量は、スルフォラン化合物100質量部に対して、0.0001〜0.4質量部であることが好ましく、0.005〜0.1質量部であることがより好ましい。有機アルカノールアミン化合物の含量が0.0001質量部未満の場合は、スルフォラン化合物の熱分解を抑制できず、二酸化硫黄の生成を低減できないおそれがあり、0.4質量部を超える場合は、使用量に見合う効果がなく経済的でなく、アルカノールアミン化合物の臭気が感じられ好ましくない。
【0018】
前記有機アルカノールアミン化合物を用いることにより、スルフォラン化合物の熱分解を抑制し、二酸化硫黄の生成を低減できる理由は詳らかではないが、例えば、有機アルカノールアミン化合物、または、有機アルカノールアミン化合物と二酸化硫黄が反応して生じた塩が、スルフォラン化合物の分解機構に関与し、二酸化硫黄の生成を低減していることが考えられる。
【0019】
スルフォラン化合物と有機アルカノールアミン化合物とを混合する方法は、特に限定されず、例えば、スルフォラン化合物に前記有機アルカノールアミン化合物の所定量を直接添加し、攪拌、均一に混合する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明のスルフォラン類組成物は、臭気発生や変色のおそれが少なく、更に、溶媒とし、加熱、蒸留し、リサイクルを繰り返しても、熱分解の抑制効果が持続できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、臭気発生や変色のおそれが少なく、スルフォラン化合物の熱分解を抑制し、二酸化硫黄の生成を低減できるスルフォラン類組成物を提供することができる。本発明のスルフォラン類組成物は、溶媒とし、加熱、蒸留し、リサイクルを繰り返しても、熱分解の抑制効果が持続できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
実施例
、参考実験例および比較例において、気相部における二酸化硫黄量は後述する熱安定性試験1を用いて、液相部における二酸化硫黄量は後述する熱安定性試験2を用いて測定した。
【0024】
(実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9)
表1に記載の有機アルカノールアミン化合物を、表1に記載の含量となるようにスルフォラン250mL(310g)にそれぞれ添加してスルフォラン類組成物を得た。得られたスルフォラン類組成物について熱安定性試験1および2を行った。得られたスルフォラン類組成物の臭い、熱安定性試験1および2の結果、並びに、熱安定性試験1および2を行った後の30℃におけるスルフォラン類組成物の目視にて確認した外観を表1に示す。
【0025】
(比較例1)
有機アルカノールアミン化合物を添加せずに、実施例
6、参考実験例1〜5及び7で用いたスルフォラン250mLのみを用いて熱安定試験1および2を行った。用いたスルフォランの臭い、熱安定性試験1および2の結果、並びに、熱安定性試験1および2を行った後の30℃におけるスルフォランの目視にて確認した外観を表1に示す。
【0026】
(比較例2〜5)
表1に記載の添加剤を、表1に記載の含量となるようにスルフォラン250mL(310g)にそれぞれ添加してスルフォラン類組成物を得た。得られたスルフォラン類組成物について熱安定性試験1および2を行った。得られたスルフォラン類組成物の臭い、熱安定性試験1および2の結果、並びに、熱安定性試験1および2を行った後の30℃におけるスルフォラン類組成物の目視にて確認した外観を表1に示す。
なお、比較例5にて用いたTEMPOは、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−1−オキシルを示す。
(比較例6)
有機アルカノールアミン化合物を添加せずに、エチルイソプロピルスルホン250mLのみを用いて熱安定
性試験1および2を行った。用いたエチルイソプロピルスルホンの臭い、熱安定性試験1および2の結果、並びに、熱安定性試験1および2を行った後の30℃における
エチルイソプロピルスルホンの外観を表1に示す。
【0027】
[熱安定性試験1]
実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9、比較例2〜
5で得られたスルフォラン類組成物、比較例1のスルフォラン、比較例6のスルホンの全量をそれぞれ500mLのフラスコに入れた。フラスコ内の試料に、窒素ガスを83mL/minの流速で通気し、吹き抜けたガスを二酸化硫黄の吸収液として、3%過酸化水素水100mLを含むガス吸引瓶に導入しながら、フラスコ内の試料が約20分間で180±2℃に加熱されるようにフラスコを加熱し、試料温度を180±2℃に保ちながら、窒素ガスを83mL/minの流速で1時間通気した。その後、窒素ガスを40mL/minの流速で通気しながら、温度が100℃になるまで放冷した。放冷後、吸収瓶を取り外し、吸収液中の二酸化硫黄をイオンクロマトグラフィーにより定量した。
【0028】
[熱安定性試験2]
実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9、比較例2〜
5で得られたスルフォラン類組成物、比較例1のスルフォラン、比較例6のスルホンの全量をそれぞれ500mLのフラスコに入れた。オイルバスを加熱して温度を180±2℃まで昇温し、そこにフラスコを浸した。1時間後、フラスコ内の試料中の二酸化硫黄をイオンクロマトグラフィーにより定量した。
【0029】
[臭気官能試験]
蒸留水100mLを入れた300mLの共栓付きマイヤーフラスコにそれぞれ実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9、比較例2〜5で得られたスルフォラン類組成物、比較例1のスルフォラン、比較例6のエチルイソプロピルスルホンを1滴加えて、5分攪拌し、1時間静置した。
ついで5人のパネラー(官能試験者)に300mLの共栓付きマイヤーフラスコ中の臭気を、規定基準の「6段階臭気強度表示法」に準じて下記の基準により判定してもらい、その平均値で評価した。結果を表1に示す。
5:強烈な臭い
4:強い臭い
3:楽に認識できる臭い
2:何の臭いか分かる弱い臭い
1:やっと感知できる臭い
0:無臭
【0031】
実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9と比較例1の結果から、実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9で得られたスルフォラン類組成物は、二酸化硫黄の生成量が低減されており、スルフォラン類組成物の熱分解が抑制されていることがわかる。また、実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9と比較例2〜5の結果から、実施例
6、参考実験例1〜5及び7〜9で得られたスルフォラン類組成物は、臭気の発生や変色が抑制されていることがわかる。また、比較例6に示したように、鎖状の脂肪族スルホンを用いる場合は、スルフォラン化合物を用いる場合とは異なり、熱安定性が比較的よいため、有機アルカノールアミン化合物を含有させる必要がない。ただし、鎖状の脂肪族スルホンでは、スルフォラン化合物の有する、高極性、高沸点で、反応物の分極溶解能力に優れているという特性が得られない。
【0032】
(参考例1)
参考実験例2で得られたスルフォラン類組成物について、熱安定性試験1および2を実施後、その溶液を単蒸留し、それらの全量を混合してスルフォラン類組成物を得た。得られたスルフォラン類組成物の全量を500mLのフラスコに入れ、さらに熱安定性試験1および2を行った。結果を表2に示す。
【0033】
(参考例2)
参考例1で得られたスルフォラン類組成物について、熱安定性試験1および2を実施後、それぞれ、その溶液を単蒸留し、それらの全量を混合してスルフォラン類組成物を得た。得られたスルフォラン類組成物の全量を500mLのフラスコに入れ、さらに熱安定性試験1および2を行った。結果を表2に示す。
【0035】
参考例1、2の結果から、有機アルカノールアミン化合物が添加されたスルフォラン化合物は、熱安定性試験による熱処理および単蒸留を繰り返しても、二酸化硫黄の生成量が低減されており、スルフォラン化合物の熱分解が抑制されていることがわかる。従って、本発明のスルフォラン類組成物は、例えば、溶媒として加熱、蒸留し、リサイクルを繰り返しても、熱分解の抑制効果が持続できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によると、臭気発生や変色のおそれが少なく、スルフォラン化合物の熱分解を抑制し、二酸化硫黄の生成を低減できるスルフォラン類組成物を提供することができる。本発明のスルフォラン類組成物は、溶媒とし、加熱、蒸留し、リサイクルを繰り返しても、熱分解の抑制効果が持続できる。