(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造に使用されるマスク基板の作成には、電子線描画装置が使用されている。電子線描画装置では、電子線をマスク基板に照射して、マスク基板に塗布されているレジストを露光してパターンを描画している。この描画されたパターン(描画パターン)の良否判定は、通常、レジスト現像後に行われるため、描画パターンに不具合がある場合、再度、マスク基板にパターンを描画することになる。
【0003】
ところが、近年では、半導体装置の微細化が進んでおり、マスク基板に描画されるパターンも微細化している。このため、マスク基板への描画に必要な時間が増大している。例えば、描画パターンにもよるが、マスク基板一枚を描画するのに、十数時間必要な場合もある。このため、現像後に描画パターンに不具合が発見された場合、膨大な時間を浪費することになる。
【0004】
そこで、従来の電子線描画装置では、電子線描画装置(例えば、電子線描画装置を構成するレジスタ、演算素子や回路等)の故障診断を行い、電子線描画装置による描画パターンの不具合を未然に防止するようにしている。しかしながら、従来の電子線描画装置では、電子線描画装置の故障診断中にマスク基板を描画することができないため、電子線描画装置の故障診断に必要な時間がそのまま電子線描画装置のダウンタイムとなっている。
【0005】
また、現在では、マスク基板に描画されるパターンの微細化に合わせて、電子線描画装置も高性能化しており、故障診断に必要な時間が増大している(例えば、一回5分の故障診断を一日2回行うだけでも、一年間では2.5日を故障診断に使用することになる)。このため、ダウンタイムの時間も増大している。そこで、従来の電子線描画装置には、ロードロックの真空引き時やマスク基板の搬送中に電子線描画装置の故障診断を行い、電子線描画装置のダウンタイムを低減するようにしたものがある(特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る電子線描画装置10の模式図(一部断面図)である。
図2は、電子鏡筒500及び制御機構600の構成を示す模式図である。以下、
図1,
図2を参照して、電子線描画装置10の構成について説明する。
【0012】
図1に示すように、電子線描画装置10は、インターフェース(I/F)100と、搬入出(I/O)チャンバ200と、ロボットチャンバ(Rチャンバ)300と、ライティングチャンバ(Wチャンバ)400と、電子鏡筒500と、制御機構600と、ゲートバルブG1〜G3とを備える。
【0013】
I/F100は、本実施形態で使用するマスク基板Wが収容された容器C(例えば、SMIFPod)を載置する載置台110と、マスク基板Wを搬送する搬送ロボット120とを備える。マスク基板Wは、表面に遮光膜が形成された石英基板等であり、前記遮光膜上にはレジストが塗布されている。
【0014】
I/Oチャンバ200は、Rチャンバ300内を真空(低気圧)に保ったままマスク基板Wを搬入出するためのロードロックチャンバである。I/Oチャンバ200には、I/F100との間にゲートバルブG1が設けられており、図示しない真空ポンプと、ガス供給系とを備える。真空ポンプは、例えば、ドライポンプやターボ分子ポンプ等であり、I/Oチャンバ200内を真空引きする。ガス供給系は、I/Oチャンバ200を大気圧とする際にI/Oチャンバ200内へベント用ガス(例えば、窒素ガスやCDA(Clean Dry Gas))を供給する。
【0015】
I/Oチャンバ200内を真空引きする際は、I/Oチャンバ200に接続された真空ポンプを用いて真空引きする。また、I/Oチャンバ200内を大気圧に戻す際には、ガス供給系からベント用ガスが供給され、I/Oチャンバ200内が大気圧となる。なお、I/Oチャンバ200内を真空引きする際及び大気圧とする際には、ゲートバルブG1,G2はClose(閉)される。
【0016】
Rチャンバ300は、マスク基板Wの搬送ロボット310を備える。Rチャンバ300は、ゲートバルブG2を介してI/Oチャンバ200と接続されている。搬送ロボット310は、I/Oチャンバ200及びWチャンバ400間で、マスク基板Wを搬送する。なお、図示していないが、Rチャンバ300には、マスク基板Wを位置決め(アライメント)するためのアライメントチャンバ及びマスク基板Wに載置する基板カバーHを収容する収容チャンバと、Rチャンバ300を真空引きする真空ポンプ(例えば、Cryoポンプやターボ分子ポンプ等)が設けられている。
【0017】
Wチャンバ400は、ステージ410と、駆動機構420と、レーザー測長系430と、図示しない真空ポンプ(例えば、Cryoポンプやターボ分子ポンプ)を備え、ゲートバルブG3を介してRチャンバ300と接続されている。
【0018】
ステージ410は、マスク基板Wを載置するための台であり、Rチャンバ300の搬送ロボット310によりマスク基板Wがステージ410上に載置される。ステージ410上には、ステージ410位置の計測に使用する反射鏡(ミラー)Mと、電子線Bの照射量や照射位置の校正に使用するアライメントマークAM(例えば、ファラデーカップ等)が設けられている。
【0019】
駆動機構420(例えば、モータ)は、ステージ410を駆動する。レーザー測長系430は、ステージ410の位置を検出するための干渉計である。レーザー測長系430は、ステージ410上に設けられている反射鏡Mにレーザーを照射して反射光を受光し、照射光と反射光との干渉から反射鏡Mとの距離を算出する。
【0020】
また、図示していないが、Wチャンバ400は、Wチャンバ400内を真空引きするための真空ポンプ(例えば、Cryoポンプやターボ分子ポンプ)を備える。Wチャンバ400内は、この真空ポンプにより真空引きされ、電子描画が可能な圧力に保たれる。
【0021】
電子鏡筒500は、電子銃510と、偏向器(deflector)511〜513と、静電レンズ521〜523と、アパーチャ531,532とを備える。電子銃510は、電子線Bを照射する。偏向器511〜513は、電子線Bを偏向する。静電レンズ521〜523は、電子線Bのフォーカスや非点を調整する。アパーチャ531,532は、電子線Bの形状やサイズ、ON/OFFを制御するための開口板である。
【0022】
電子銃510から照射される電子線Bは、偏向器511〜513、静電レンズ521〜523及びアパーチャ531,532により、位置、フォーカス、非点、形状、サイズ等を調整され、ステージ410上に載置されたマスク基板W上に照射される。
【0023】
(制御機構600の構成)
制御機構600は、展開部610と、描画制御部620と、偏向部630と、ステージ制御部640とを備える。なお、制御機構600の各構成は、プロセッサ、メモリ等により構成される。
【0024】
なお、上記、展開部610、偏向部630及びステージ制御部640は、描画制御部620からの指示により、通常の動作を実行するモード(描画モード)と、自己の故障診断を行うモード(診断モード)とを切り替えて動作する構成となっている。展開部610、偏向部630及びステージ制御部640には、それぞれモード設定用のレジスタが設けられており、通常は、描画モードが優先となるようにレジスタが設定されている。以下、各構成について各モードごとに説明する。
【0025】
(描画モード)
展開部610は、マスク基板への描画パターンを記述したデータ(以下、パターンデータと記載する)を電子線描画装置10で理解可能な描画データ(言語)に展開(変換)する。なお、パターンデータは、例えば、CADで記述される。
【0026】
具体的には、展開部610は、パターンデータをマスク基板を多数のエリアに分割し、各エリアに描画されるパターンの描画に必要な電子線のショットサイズ、形状、ドーズ量、位置等で構成される描画データに変換する。展開部610は、展開後の描画データを所定の単位(例えば、分割したエリア)ごとに順次出力する。
【0027】
描画制御部620は、展開部610へのパターンデータの展開と展開後の描画データの転送を制御する。また、描画制御部620は、展開部610,偏向部630及びステージ制御部640の故障診断動作の開始及び停止を制御する。
【0028】
偏向部630は、展開部610から転送される描画データに基づいて偏向器511〜513を制御し、電子線Bの照射位置や形状等を調整する。偏向部630からの信号は、増幅器であるAMP-1〜AMP-3で増幅された後に偏向器511〜513にそれぞれ印加される。また、偏向部630は、展開部610から転送される描画データに基づいてステージ制御部640を制御する。
【0029】
ステージ制御部640は、レーザー測長系430からの距離情報に基づいてステージ410の位置をリアルタイムに検出する。また、ステージ制御部640は、偏向部630からの指示に基づいて駆動機構420を制御し、ステージ410を駆動する。
【0030】
(診断モード)
展開部610、偏向部630及びステージ制御部640は、描画制御部620からの指示に基づいて、自己の故障の有無を診断する。展開部610、偏向部630及びステージ制御部640の各メモリには、故障診断プログラムが記憶されており、この故障診断プログラムを実行することで、展開部610、偏向部630、ステージ制御部640は、自己の故障の有無を診断する。
【0031】
故障診断には、通信エラー(例えば、光通信時の通信異常)、メモリの読み出し・書き込み(Read/Write)エラー、計算誤り(レジスタの異常)、メモリの空き容量の診断等が含まれる。なお、上記メモリには、描画データのバッファメモリ、校正用パラメータ(校正データ)を記憶するメモリ、デバック用のメモリなどを含む。また、上記故障診断は、チェックサムや巡回冗長検査(Cyclic Redundancy Check: CRC)等を利用して行われる。
【0032】
(電子線描画装置10の動作)
図3〜
図5は、電子線描画装置10の故障診断時の動作を示すフローチャートである。以下、
図1〜
図5を参照して、電子線描画装置10の故障診断時の動作を説明する。
【0033】
(パターンデータ展開中の故障診断動作)
初めに、
図1〜
図3を参照して、パターンデータ展開中の電子線描画装置10の故障診断時の動作について説明する。この故障診断では、展開部610でパターンデータを展開中に、使用していない偏向部630及びステージ制御部640の故障診断を行うことで、故障診断によるダウンタイムを効果的に低減している。
【0034】
電子線描画装置10の描画動作が開始されると、描画制御部620は、展開部610へパターンデータの描画データへの展開を指示する(ステップS101)。次に、描画制御部620は、偏向部630及びステージ制御部640に、自己の故障診断を開始するよう指示する(ステップS102)。該指示により偏向部630及びステージ制御部640は、描画モードから診断モードに切り替わる。
【0035】
展開部610は、描画制御部620からの指示によりパターンデータの描画データへの展開を開始する(ステップS103)。偏向部630及びステージ制御部640は、描画制御部620からの指示により偏向部630及びステージ制御部640の故障診断を開始する(ステップS104)。
【0036】
展開部610は、パターンデータを展開し、所定の単位になると展開後の描画データを転送する準備が完了したことを示す転送準備完了報告を描画制御部620へ伝達する(ステップS105)。描画制御部620は、展開部610から転送準備完了報告を受け取ると、偏向部630及びステージ制御部640へ故障診断を中断するよう指示する(ステップS106)。
【0037】
偏向部630及びステージ制御部640は、自己の故障診断を中止し、故障診断が終了した項目(どこまで故障診断が終了したか)と故障診断結果をメモリに記憶する(ステップS107)。次に、偏向部630及びステージ制御部640は、故障診断の結果を描画制御部620へ転送する(ステップS108)。
【0038】
描画制御部620は、故障診断結果に異常があるかをチェックする(ステップS109)。故障診断結果に異常がある場合(ステップS109のYES)、描画制御部620は、描画を停止する等、異常時に対応する処理を実行する(ステップS110)。故障診断結果に異常がない場合(ステップS109のNO)、描画制御部620は、展開部610へ描画データを転送するように指示する(ステップS111)。また、描画制御部620は、偏向部630及びステージ制御部640に描画制御を開始するように指示する(ステップS112)。該指示後、偏向部630及びステージ制御部640は、診断モードから描画モードに切り替わる。
【0039】
展開部610は、描画制御部620からの指示により展開した描画データを転送する(ステップS113)。偏向部630及びステージ制御部640は、展開部610から転送される描画データに基づいて描画処理を継続する(ステップS114)。なお、展開部610は、描画データ転送後、次のパターンデータの展開を開始する。
【0040】
以上のように、パターンデータを展開部610で展開している間、使用していない偏向部630及びステージ制御部640の故障診断を行っている。このため、故障診断によるダウンタイムを効果的に低減することができる。また、故障診断を中止する場合に、どこまで故障診断が終了したかを記憶しているので、次回の故障診断時に続きから故障診断を行うことができる。このため、故障診断が中断する度に、故障診断を始めからやり直す必要がない。結果、故障診断によるダウンタイムをより効果的に低減することができる。
【0041】
(描画中の故障診断動作)
次に、
図1,
図2及び
図4を参照して、描画中の電子線描画装置10の故障診断時の動作について説明する。この故障診断では、任意のエリアの描画が終了した後、次に描画を行うエリアが電子線の照射領域(偏向領域)に入るまでの間、使用していない展開部610及び偏向部630の故障診断を行うことで、故障診断によるダウンタイムを効果的に低減している。
【0042】
所定のエリア内の描画動作が完了すると(ステップS201)、描画制御部620は、展開部610及び偏向部630に自己の故障診断を開始するよう指示する(ステップS202)。該指示により展開部610及び偏向部630は、描画モードから診断モードに切り替わる。ステージ制御部640は、次に描画を行うエリアが、電子線の照射領域(偏向領域)に入るまでステージ410を移動させる(ステップS203)。
【0043】
展開部610及び偏向部630は、描画制御部620からの指示により自己の故障診断を開始する(ステップS204)。ステージ制御部640は、次に描画を行うエリアが、電子線の照射領域(偏向領域)に入るまでステージ410が移動すると、ステージ410の移動が完了したことを示す移動完了報告を描画制御部620へ伝達する(ステップS204)。
【0044】
描画制御部620は、ステージ制御部640から移動完了報告を受け取ると、展開部610及び偏向部630へ故障診断を中断するよう指示する(ステップS205)。展開部610及び偏向部630は、故障診断を中止し、故障診断が終了した項目(どこまで故障診断が終了したか)と故障診断結果とをメモリに記憶する(ステップS206)。次に、展開部610及び偏向部630は、故障診断の結果を描画制御部620へ転送する(ステップS207)。
【0045】
描画制御部620は、故障診断結果に異常があるかをチェックする(ステップS208)。故障診断結果に異常がある場合(ステップS208のYES)、描画制御部620は、描画を停止する等、異常時に対応する処理を実行する(ステップS209)。故障診断結果に異常がない場合(ステップS208のNO)、描画制御部620は、展開部610及び偏向部630に描画動作を継続するように指示する(ステップS210)。該指示により、展開部610及び偏向部630は、診断モードから描画モードに切り替わる。
【0046】
以上のように、任意のエリアの描画が終了した後、次に描画を行うエリアが電子線の照射領域(偏向領域)に入るまでの間、使用していない展開部610及び偏向部630の故障診断を行っている。このため、故障診断によるダウンタイムを効果的に低減することができる。また、故障診断を中止する場合に、どこまで故障診断が終了したかを記憶しているので、次回の故障診断時に続きから故障診断を行うことができる。このため、故障診断が中断する度に、故障診断を始めからやり直す必要がない。結果、故障診断によるダウンタイムをより効果的に低減することができる。
【0047】
(校正用パラメータ取得中の故障診断動作)
次に、
図1,
図2及び
図5を参照して、校正用パラメータを取得中の電子線描画装置10の故障診断時の動作について説明する。この故障診断では、偏向部630及びステージ制御部640を使用して、校正用パラメータを取得している間、使用していない展開部610の故障診断を行うことで、故障診断によるダウンタイムを効果的に低減している。
【0048】
電子線描画装置10では、定期的にアライメントマークAMを利用して、電子線Bの照射量や照射位置の校正が行われる。このため、この校正用パラメータの取得時に、使用していない展開部610の故障診断を行うことで、故障診断によるダウンタイムを大幅に低減することができる。
【0049】
描画制御部620は、偏向部630及びステージ制御部640に校正用パラメータの取得を指示する(ステップS301)。偏向部630及びステージ制御部640は、メモリに記憶されている校正用パラメータを更新するために、ステージ410上に設けられているアライメントマークAMを利用して校正用パラメータの取得を開始する(ステップS302)。
【0050】
描画制御部620は、展開部610に自己の故障診断を行うように指示する(ステップS303)。該指示により展開部610は、描画モードから診断モードに切り替わる。展開部610は、描画制御部620からの指示により自己の故障診断を開始する(ステップS304)。
【0051】
偏向部630及びステージ制御部640は、校正用パラメータの取得が完了すると、校正用パラメータの取得が完了したことを示す取得完了報告を描画制御部620へ伝達する(ステップS305)。描画制御部620は、取得完了報告を受け取ると、展開部610へ故障診断を中断するよう指示する(ステップS306)。
【0052】
展開部610は、故障診断を中止し、故障診断が終了した項目(どこまで故障診断が終了したか)と故障診断結果とをメモリに記憶する(ステップS307)。次に、展開部610は、故障診断の結果を描画制御部620へ転送する(ステップS308)。
【0053】
描画制御部620は、故障診断結果に異常があるかをチェックする(ステップS309)。故障診断結果に異常がある場合(ステップS309のYES)、描画制御部620は、描画を停止する等、異常時に対応する処理を実行する(ステップS310)。故障診断結果に異常がない場合(ステップS309のNO)、描画制御部620は、展開部610に、そのまま描画動作を継続するよう指示する(ステップS310)。該指示後、展開部610は、診断モードから描画モードに切り替わる。
【0054】
以上のように、偏向部630及びステージ制御部640を使用して、校正用パラメータを取得している間、に使用していない展開部610の故障診断を行っている。このため、故障診断によるダウンタイムを効果的に低減することができる。また、故障診断を中止する場合に、どこまで故障診断が終了したかを記憶しているので、次回の故障診断時に続きから故障診断を行うことができる。このため、故障診断が中断する度に、故障診断を始めからやり直す必要がない。結果、故障診断によるダウンタイムをより効果的に低減することができる。
【0055】
(その他の実施形態)
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、上記実施形態は、例示であり、本発明を上記実施形態に限定することを意図するものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、上記実施形態においては、描画中に描画データをバックアップするメモリの故障診断を行うようにしてもよい。