(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一本鎖DNAが、その3’末端において、配列番号8で示される塩基配列の3’下流に連続して配列番号7で示される塩基配列を有する一本鎖DNAである請求項1に記載の方法。
基質を還元する活性が、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ-1-フェニルエタノールに還元する活性である請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
環状化すると宿主細胞において発現ベクターとして機能可能な二本鎖線状ベクターDNAであって、当該DNAを構成する2本の鎖の一方が、その5’末端に配列番号6で示される塩基配列を有し、その3’末端に配列番号7で示される塩基配列を有し、配列番号7で示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列を宿主細胞において発現可能とする塩基配列と、宿主細胞において機能可能な複製起点またはその相補配列とを、配列番号7で示される塩基配列の5’上流に有する一本鎖DNAである二本鎖線状ベクターDNA。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
本発明プライマーセットについて説明する。
本発明プライマーセットは、配列番号1で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド1及び配列番号2で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド2からなる。
配列番号1:5’−GACCGGTCCGCGATCGTVACMGGMGSMG−3’
配列番号2:5’−CGGTCACTGGGCGGTRTABCCRCCRTCB−3’
ここで、Rはアデニン又はグアニン、Mはアデニン又はシトシン、Sはシトシン又はグアニン、Vはアデニン又はシトシン又はグアニン、Bはシトシン又はグアニン又はチミンを示す。
【0009】
上記オリゴヌクレオチド1及びオリゴヌクレオチド2はそれぞれ、配列番号1又は2で示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの全ての組み合わせからなる混合物(ミックスオリゴヌクレオチド、縮重オリゴヌクレオチド)であることが好ましい。
【0010】
上記オリゴヌクレオチド1としては配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられ、上記オリゴヌクレオチド2としては配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。また、上記オリゴヌクレオチド1及びオリゴヌクレオチド2は、上記配列番号1又は2で示される塩基配列の5’末端側に、制限酵素サイトを含む塩基配列等が付加されたオリゴヌクレオチドであってもよい。制限酵素サイト(制限酵素認識配列)は、当業者にとって公知の配列を適宜、選択することができる。また、制限酵素サイトの5’末端側にさらに数個の塩基を含んでもよい。制限酵素サイトのさらに5’末端側に付加する塩基の数としては、一般的には、3塩基以上あれば、制限酵素で効率よく切断することができ、適宜、所望の制限酵素が制限酵素サイトを効率的に切断できる塩基数を選択することができる。制限酵素による切断配列を含むように付加される塩基配列としては、還元酵素遺伝子に特異的であり、他の酵素遺伝子と相同性の少ない配列を選択することが望ましい。また、プライマーセットの各プライマーが互いにハイブリダイゼーションを起こさないように、還元酵素遺伝子に対するハイブリダイゼーション能を保持する範囲内で、末端配列が付加されることが好ましい。上記オリゴヌクレオチド1及びオリゴヌクレオチド2は、その配列の長さが15〜50塩基である一本鎖のオリゴヌクレオチドである。上記オリゴヌクレオチド1及びオリゴヌクレオチド2は、ミックスプライマー、縮重プライマーとして用いることができる。
【0011】
具体的には、本発明プライマーセットとしては、
配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットが挙げられる。
【0012】
本発明プライマーセットとしては、
配列番号1で示される塩基配列の5’末端側に、制限酵素サイトを含む塩基配列が付加されたオリゴヌクレオチド、及び、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端側に、制限酵素サイトを含む塩基配列が付加されたオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを挙げることもできる。
【0013】
本発明のオリゴヌクレオチド及びプライマーセットによれば、還元酵素のアミノ酸配列をコードする核酸を効率的に取得できる。例えば、環境中に存在し単離培養の困難な微生物に由来する還元酵素のアミノ酸配列をコードする核酸も効率的に取得できる。本発明プライマーセットの各オリゴヌクレオチドの5’末端側に制限酵素サイトを含む塩基配列が付加されていると、取得した核酸のクローニングや、還元酵素をコードする核酸を含む組み換えベクターの構築等に便利である。
【0014】
本発明核酸取得方法について説明する。
本発明核酸取得方法は、還元酵素をコードする核酸を取得する方法であって、
(1)配列番号1で示される塩基配列(5’−gaccggtccgcgatcgtvacmggmgsmg−3’)を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号2で示される塩基配列(5’−cggtcactgggcggtrtabccrccrtcb−3’)を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、DNA試料を鋳型として核酸増幅反応を行い、増幅産物を得る工程;
(2)前記増幅産物と、環状化すると宿主細胞において発現ベクターとして機能可能な二本鎖線状ベクターDNAとを、内在性3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼの存在下で融合させて、前記増幅産物を含有する環状組換え発現ベクターを得る工程、
ここで、前記二本鎖線状ベクターDNAを構成する2本の鎖の一方は、その5’末端に配列番号6で示される塩基配列(5’−accgcccagtga−3’)を有し、その3’末端に配列番号7で示される塩基配列(5’−atggctcagtacgacgtcgccgaccggtccgcgatcgt−3’)を有し、配列番号7で示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列を宿主細胞において発現可能とする塩基配列と、宿主細胞において機能可能な複製起点またはその相補配列とを、配列番号7で示される塩基配列の5’上流に有する一本鎖DNAである;
(3)前記環状組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を得る工程;
(4)前記形質転換体又はその処理物が、基質を還元する活性を測定し、当該活性を有する形質転換体を選抜する工程;及び
(5)工程(4)で選抜された形質転換体から、前記活性を有する還元酵素をコードする核酸を得る工程;
を含む方法である。
【0015】
上記(1)の工程は、本発明プライマーセットを用い、DNA試料を鋳型として、核酸増幅反応を行い、増幅産物を得る工程である。上記DNA試料としては、環境サンプル由来の環境DNAが挙げられる。
【0016】
本発明において「環境」とは、土壌、堆肥、汚泥、下水、河川、湖沼、海水、海底、昆虫、動物、及び植物の固体の組織内部及び表面、並びに、排泄物等、微生物の生育環境を意味する。「環境サンプル」とは、環境から採取されたサンプルであり、具体的には、土壌、堆肥等から採取されたサンプルが挙げられる。「環境DNA」とは環境サンプルから得られるDNAを意味する。環境DNAの抽出方法としては、例えば、5gの土壌サンプルを100mM Tris−HCl(pH8)、100mM sodium EDTA(pH8)、100mM sodium phosphate(pH8)、1.5M NaCl、及び1% hexadecyltrimethylammonium bromide(CTAB)を含む抽出溶液13.5mlと100μlのproteinase K(10mg/ml)を含む溶液に懸濁し、37℃で30分間振とうした後、20%SDS水溶液を1.5ml添加し、65℃、2時間抽出した後、クロロホルム/イソアミルアルコール処理を行って得られる上清液からDNAを取得する方法(Appl. Environ. Microbiol., 62(2):316,1996)や、土壌DNA抽出キット(ISOIL for Beads Beating、ニッポンジーン社製)を用いてそのマニュアルにしたがって調製する方法が挙げられ、環境サンプル中に存在する微生物中のDNAを抽出することができればいかなる手段を用いてもよい。
【0017】
核酸増幅反応としては、当業者にとって公知の方法を用いることができ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が挙げられる。例えば、環境DNAを鋳型として、配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いてPCRを行い増幅産物を得る。PCRの条件としては、例えば、4種類のdNTPを各々200μM、2種類のオリゴヌクレオチドプライマーを各々80pmol、Taq polymeraseを0.5U及び鋳型となるDNA試料を混合した反応液を94℃で2分間保温した後、94℃で0.5分間次いで69℃で1分間次いで72℃で1分間の保温サイクルを40回行い、さらに72℃で10分間保温する条件が挙げられる。増幅産物が得られたことを確認する方法としては、アガロースゲル電気泳動法等が挙げられる。
【0018】
上記(1)の工程で得られる増幅産物には、所望の還元酵素のアミノ酸配列をコードする核酸が含まれることが期待できる。そのような還元酵素のアミノ酸配列をコードする核酸の単離及び同定は、以下のようにして行うことができる。まず、上記増幅産物を、環状化すると宿主細胞において発現ベクターとして機能可能な二本鎖線状ベクターDNAと融合させて、組換え発現ベクターを構築する(工程(2))。次いで、得られた組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する(工程(3))。得られた形質転換体又はその処理物を用いて基質を還元する活性を測定し、当該活性を有する形質転換体を選抜する(工程(4))。選抜された形質転換体から、前記活性を有する還元酵素をコードする核酸を得る(工程(5))。
【0019】
以下に、工程(2)〜(5)について説明する。
(2)の工程は、上記増幅産物と、環状化すると宿主細胞において発現ベクターとして機能可能な二本鎖線状ベクターDNAとを、内在性3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼの存在下で融合させて、前記増幅産物を含有する環状組換え発現ベクターを得る工程である。
【0020】
本発明核酸取得方法で用いられる上記「環状化すると宿主細胞において発現ベクターとして機能可能な二本鎖線状ベクターDNA」は、環状化すると宿主細胞において発現ベクターとして機能可能な二本鎖線状ベクターDNAであって、当該DNAを構成する2本の鎖の一方が、その5’末端に配列番号6で示される塩基配列(5’−accgcccagtga−3’)を有し、その3’末端に配列番号7で示される塩基配列(5’−atggctcagtacgacgtcgccgaccggtccgcgatcgt−3’)を有し、配列番号7で示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列を宿主細胞において発現可能とする塩基配列と、宿主細胞において機能可能な複製起点またはその相補配列とを、配列番号7で示される塩基配列の5’上流に有する一本鎖DNAである二本鎖線状ベクターDNA(以下、本発明二本鎖線状ベクターDNAと記すこともある。)である。
配列番号6で示される塩基配列(5’−accgcccagtga−3’)及び配列番号7で示される塩基配列(5’−atggctcagtacgacgtcgccgaccggtccgcgatcgt−3’)はそれぞれ、工程(1)で用いられる本発明プライマーセットのオリゴヌクレオチドの塩基配列とオーバーラップする配列を含む。従って、工程(1)で得られた増幅産物と本発明二本鎖線状ベクターDNAとは、それぞれの末端に同じ塩基配列を有する。このような増幅産物と本発明二本鎖線状ベクターDNAとを、内在性3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼの存在下で当該DNAポリメラーゼが活性を示し得る条件下にインキュベートすると、前記DNAポリメラーゼの3'-5'エキソヌクレアーゼ活性によって、前記増幅産物と本発明二本鎖線状ベクターDNAの3’末端からヌクレオチドが除去されていく。これにより、前記増幅産物と本発明二本鎖線状ベクターDNA上に互いに相補的な一本鎖領域が生じ、これら相補的な一本鎖領域間の塩基対合によって前記増幅産物と本発明二本鎖線状ベクターDNAとがアニールする。その結果、前記増幅産物を含有する環状組換え発現ベクターが得られる。
このような、ベクターDNAと挿入DNAの末端に存在する相同な塩基配列間を融合させる反応に使用される、内在性3'-5'エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼとしては、ポックスウイルスDNAポリメラーゼ等が挙げられ、市販のキット(例えば、In Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製))等を利用することもできる。
【0021】
本発明二本鎖線状ベクターDNAにおいて、「配列番号7で示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列を宿主細胞において発現可能とする塩基配列」としては、配列番号7で示される塩基配列を宿主細胞において転写可能とするプロモーター配列、及び、配列番号7で示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列を宿主細胞において翻訳可能とするリボソーム結合配列が挙げられる。
大腸菌において機能可能なプロモーターとしては、例えば、lacプロモーターやtrcプロモーター、tacプロモーターを挙げることができる。
大腸菌等の原核生物で機能可能なリボソーム結合配列としてはSD配列が挙げられる。発現量を向上させるために、SD配列と開始コドンの距離や、プロモーターと開始コドンの距離を工夫することもできる。例えば、SD配列と開始コドンの距離を5ヌクレオチド以上13ヌクレオチド以下にするとよい。SD配列から開始コドンまでの塩基配列としては、例えば、配列番号8で示される塩基配列(5’−aggagatatacat−3’)が挙げられる。
宿主細胞において機能可能な複製起点としては、宿主細胞において利用可能な通常のベクターの複製起点を挙げることができる。例えば、大腸菌で機能可能な複製起点としては、pUC119(タカラバイオ社製)、pTV118N(タカラバイオ社製)、pBlue scriptII(東洋紡社製)、pCR2.1−TOPO(Invitrogen社製)、pTrc99A(GEヘルスケア社製)、pKK223−3(GEヘルスケア社製)等の市販のベクターに含まれる複製起点を挙げることができる。
本発明二本鎖線状ベクターDNAを構成する2本の鎖のうち、その3’末端に配列番号7で示される塩基配列を有する一本鎖DNAにおいて、上記の「配列番号7で示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列を宿主細胞において発現可能とする塩基配列」及び「宿主細胞において機能可能な複製起点またはその相補配」は、配列番号7で示される塩基配列の5’上流の、それぞれが機能可能な位置に存在する。
本発明二本鎖線状ベクターDNAとしては、具体的には、当該二本鎖線状ベクターDNAを構成する2本の鎖の一方が、その3’末端において、配列番号8で示される塩基配列(5’−aggagatatacat−3’)の3’下流に連続して配列番号7で示される塩基配列(5’−atggctcagtacgacgtcgccgaccggtccgcgatcgt−3’)を有する一本鎖DNAである二本鎖線状ベクターDNAを挙げることができる。すなわち、前記一本鎖DNAは、その3’末端に、配列番号29で示される塩基配列(5’−aggagatatacatatggctcagtacgacgtcgccgaccggtccgcgatcgt−3’)を有する。
本発明二本鎖線状ベクターDNAとして、より具体的には、当該二本鎖線状ベクターDNAを構成する2本の鎖の一方が配列番号3で示される塩基配列を有する一本鎖DNAである二本鎖線状ベクターDNAを挙げることができる。
本発明二本鎖線状ベクターDNAは、後述の実施例に記載の方法等により作製することができる。
【0022】
工程(2)で得られる環状組換え発現ベクターは、例えば、配列番号7で示される塩基配列にコードされるアミノ酸配列と、工程(1)で得られた増幅産物がコードする所望の還元酵素のアミノ酸配列とが融合してなる還元酵素を宿主細胞において発現させることができる。
【0023】
(3)の工程は、工程(2)で得られた環状組換え発現ベクター(以下、本発明環状組換え発現ベクターと記すことがある。)を宿主細胞に導入し、形質転換体を作製する工程である。
宿主細胞としては、例えば、Escherichia属、Bacillus属、Corynebacterium属に属する微生物等が挙げられる。上記宿主細胞としては大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。大腸菌としては、K−12由来株が好ましく、具体的にはJM109株、BL21(DE3)株、BL21株、XL1 Blue MRF’株、DH5α株、HB101株、DH1株、MV1184株、JM105株、MC1061株、C600株等が例示される。
【0024】
本発明環状組換え発現ベクターを宿主細胞へ導入する方法は、用いられる宿主細胞に応じて通常使われる導入方法であればよく、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols in Molecular Biology」(1987), John Wiley & Sons, Inc. ISBNO−471−50338−X等に記載される塩化カルシウム法や、「METHODS in Electroporation:Gene Pulser/E.coli Pulser System」 Bio−Rad Laboratories,(1993)等に記載されるエレクトロポレーション法等を挙げることができる。
【0025】
本発明環状組換え発現ベクター等が導入された形質転換体は、例えば、前述のようなベクターに含まれる選択マーカー遺伝子の表現型を指標にして選抜することができる。
【0026】
(4)の工程は、工程(3)で得られた形質転換体又はその処理物が、基質を還元する活性を測定し、当該活性を有する形質転換体を選抜する工程である。
形質転換体が還元酵素をコードする核酸を保有していることは、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press等に記載される通常の方法に準じて、塩基配列の解析、サザンハイブリダイゼーション等を行うことによっても、確認することができる。
【0027】
形質転換体を培養するための培地としては、例えば、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される炭素源や窒素源、有機塩や無機塩等を適宜含む各種の培地を用いることができる。
【0028】
炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、スクロース等の糖類、グリセロール等の糖アルコール、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0029】
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コーン・スティープ・リカー(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のナトリウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
【0030】
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001〜5%(w/v)程度である。
【0031】
さらに、アロラクトースで誘導されるタイプのlacプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター等と還元酵素をコードする核酸とが機能可能な形で接続された本発明環状組換え発現ベクターが導入された形質転換体の場合には、還元酵素の生産を誘導するための誘導剤として、例えば、isopropyl thio−β−D−galactoside(IPTG)を培地中に少量加えることもできる。
【0032】
本発明環状組換え発現ベクターを保有する形質転換体の培養は、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される方法に準じて行うことができ、例えば、試験管振盪式培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養、タンク培養等の液体培養、及び、固体培養が挙げられる。
【0033】
培養温度は、該形質転換体が生育可能な範囲で適宜変更できるが、通常約15〜約40℃である。培地のpHは約6〜約8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが通常約1日間〜約5日間が好ましい。
【0034】
活性を検出するために用いる形質転換体又はその処理物としては、例えば、形質転換体の培養物、生形質転換体、破砕物、無細胞抽出液、粗精製タンパク質、精製タンパク質、及び、これらの固定化物が挙げられる。ここで、形質転換体の処理物としては、例えば、凍結乾燥形質転換体、有機溶媒処理形質転換体、乾燥形質転換体、形質転換体摩砕物、形質転換体の自己消化物、形質転換体の超音波処理物、形質転換体抽出物、形質転換体のアルカリ処理物が挙げられる。また、固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等に還元酵素等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギーナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に還元酵素等を閉じ込める方法)が挙げられる。
【0035】
基質を還元する活性は、以下の方法により検出することができる。例えば、上記の形質転換体又はその処理物を、基質及びNADHと混合して30℃で保温し、消費されるNADH量を反応液の340nmにおける吸光度を指標に定量することにより還元活性を測定する。基質としては、アセトフェノン、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、3’−クロロアセトフェノン、n−バレルアルデヒド、4−クロロ−3−オキソ酪酸エチル、4’−クロロアセトフェノン、3−メチル−2−オキソ酪酸エチルエステル、2−ヘプタノン、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、n−ヘプチルアルデヒド、ベンゾイルギ酸エチル、プロピオンアルデヒド、1−フェニル−2−ブタノン、n−ブチルアルデヒド、3−オキソ酪酸エチル等が挙げられる。例えば、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ-1-フェニルエタノールに還元する能力を指標にして、還元活性を有する形質転換体を選抜する。
【0036】
(5)の工程は、工程(4)で選抜された形質転換体から、前記活性を有する還元酵素をコードする核酸を得る工程である。
還元酵素をコードする核酸の塩基配列は、F.Sanger er al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1977) 74:5463−5467頁等に記載されているダイデオキシターミネーター法等により解析することができる。塩基配列分析用の試料調製には、例えば、ライフテクノロジーズ社のABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit等の市販の試薬を用いてもよい。
【0037】
本発明核酸取得方法を用いることにより、還元酵素をコードする核酸を効率的に取得することができる。また、本発明は、本発明核酸取得方法で得られる還元酵素をコードする核酸、還元酵素、還元酵素をコードする核酸を含む組換えベクター、及び、それを含む形質転換体等が提供可能となる。
【0038】
本発明の還元酵素、還元酵素をコードする核酸、還元酵素をコードする核酸を含む組換えベクター、及び、それを含む形質転換体について説明する。
【0039】
本発明の還元酵素は、以下の群から選ばれるタンパク質:
(a)配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26または28のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するタンパク質;
(b)配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26または28のいずれかで示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ-1-フェニルエタノールに還元する活性を有するタンパク質;及び
(c)配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26または28のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ-1-フェニルエタノールに還元する活性を有するタンパク質;
である。
【0040】
上記の(b)及び(c)に示されるタンパク質のアミノ酸配列において、(a)に示されるタンパク質のアミノ酸配列との間に認められることのある相違は、一部のアミノ酸の欠失、挿入、置換、付加等である。これらには、例えば、上記(a)で示される蛋白質が細胞内で受けるプロセシングによる欠失が含まれる。また、該蛋白質が由来する生物の種差や個体差等により天然に生じる遺伝子変異や、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、突然変異処理等によって人為的に導入される遺伝子変異等により生じるアミノ酸の欠失、置換、付加等が含まれる。
かかる欠失、挿入、置換、付加等を受けるアミノ酸の数は、当該タンパク質が2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ-1-フェニルエタノールに還元する活性を発揮することのできる範囲内の数であれば良い。上記(b)における「数個のアミノ酸」としては、例えば、2、3、4、5、6、7、10、15、20、もしくは25個のアミノ酸が挙げられる。
アミノ酸の置換としては、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似したアミノ酸への保存的置換をあげることができる。このような置換としては、具体的には例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシン等のグループ内での置換が挙げられる。
かかるアミノ酸の欠失、挿入、付加若しくは置換(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う手法としては、例えば、上記(a)に示されるタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに対して部位特異的変異導入を施し、その後このポリヌクレオチドを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
アミノ酸の改変を人為的に行う手法としては、例えば、上記(a)に示されるタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに対してランダムに変異導入を施し、その後このポリヌクレオチドを常法により発現させる手法も挙げられる。ここでランダムに変異を導入する手法としては、例えば、上記のアミノ酸配列のいずれかをコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、それぞれのポリヌクレオチドの全長を増幅できるようなプライマー対を用い、基質に用いるdATP、dTTP、dGTP、dCTPの各々の添加濃度を通常とは変化させた反応条件や、或いはポリメラーゼの反応を促進させるMg
2+の濃度を通常よりも増加させた反応条件でPCRを行う方法等が挙げられる。このようなPCRの手法としては、例えば、Method in Molecular Biology, (31), 1994, 97-112 に記載される方法があげられる。また、WO0009682号公報に記載される方法をあげることもできる。
【0041】
「配列同一性」とは、2つの塩基配列又は2つのアミノ酸配列間の同一性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいては、付加又は欠失(例えばギャップ等)を許容してもよい。このような配列同一性は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ等において、一般的に利用可能である。また、配列同一性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
上記(c)に記載の「90%以上の配列同一性」としては、例えば90、95、98、または99%以上の配列同一性が挙げられる。
【0042】
本発明の還元酵素をコードする核酸は、上記の(a)から(c)に示されるタンパク質をコードする核酸(以下、本発明核酸と記すこともある。)である。
本発明の還元酵素をコードする核酸としては、具体的には、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25または27のいずれかで示される塩基配列を有する核酸を挙げることができる。
【0043】
本発明の還元酵素をコードする核酸は、例えば、環境サンプル由来の環境DNAから、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001) 等に記載される遺伝子工学的方法に準じて取得することができる。
例えば、環境サンプル由来の環境DNAをλgt10等のベクターとリガーゼを用いて連結することにより環境DNAライブラリーを得る。
得られた環境DNAライブラリーから、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25または27のいずれかで示される塩基配列の部分塩基配列又は当該部分塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCR反応や、上記環境DNAライブラリーから、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25または27のいずれかで示される塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド又は当該塩基配列の部分塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、本発明の還元酵素をコードする核酸を取得することができる。
PCRに用いられるプライマーとしては、例えば、約15塩基から約50塩基程度の長さのオリゴヌクレオチドであって、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25または27のいずれかで示される塩基配列の5’側の翻訳開始点から始まる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25または27のいずれかで示される塩基配列の3’側の翻訳終了点から始まる塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。PCRは、例えば、KOD -Plus- Neo(東洋紡製)を用いて、95℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、次いで68℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル行う。このようなPCRで増幅されたDNA断片を、必要に応じて低融点アガロース電気泳動等に供して精製した後、エタノール沈殿により回収することにより、精製し回収することができる。
ハイブリダイゼーション法に用いられるプローブとしては、例えば、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25または27のいずれかで示される塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は、当該ポリヌクレオチドの部分塩基配列を有するポリヌクレオチド等が挙げられる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、6×SSC(0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1%(w/v)フィコール400、0.1%(w/v)ポリビニルピロリドン、0.1%(w/v)BSA)、0.5%(w/v)SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、65℃で保温し、次いで1×SSC(0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%(w/v)SDS存在下に、室温で15分間の保温を2回行い、さらに0.1×SSC(0.015M 塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%(w/v)SDS存在下に、68℃で30分間保温する条件等を挙げることができる。また、例えば、5×SSC、50mMHEPES pH7.0、10×デンハルト溶液及び20μg/ml変性サケ精子DNA存在下に65℃にて保温し、次いで2×SSC中で室温にて30分間の保温を行い、さらに0.1×SSC中で65℃にて40分間の保温を2回行う条件を挙げることもできる。
【0044】
本発明の還元酵素をコードする核酸は、例えば、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25または27で示される塩基配列に基づいて、例えばホスファイト・トリエステル法(Hunkapiller, M.et al., Nature, 310, 105, 1984)等の通常の方法に準じて、目的とする塩基配列を有する核酸の化学合成を行うことにより調製することもできる。
【0045】
本発明の還元酵素をコードする核酸は、細胞工学別冊、植物細胞工学シリーズ7「植物のPCR実験プロトコール」、95頁〜100頁、島本巧・佐々木卓治監修秀潤社、1997年7月1日刊行に記載の方法などを参考に合成することもできる。この方法では、長い合成オリゴヌクレオチドプライマーのみを使用してDNAを合成する。プライマーの対は、プライマーの各々の3'末端に約10bp〜約12bpの相補鎖またはオーバーラップをもつように合成され、お互いのプライマーを鋳型としてDNA合成を行う。プライマーの全長は、約60mer〜約100mer、好ましくは約80mer〜約100merである。
具体的には、まず、設計された塩基配列をもとに例えば約90塩基ごとにプライマーとするDNAオリゴマーを設計し、合成する。DNAオリゴマーの合成は、β−シアノエチルホスホアミダイド法によりDNA合成機を用いて行うことができる。
設計した塩基配列の中央部付近から5'側約90残基上流までの配列を用いて第1のDNAオリゴマーを設計し、合成する。次にこの第1のDNAオリゴマーの3'側12残基の配列を含み、この部分よりポリヌクレオチドの3'下流側に90残基程度の長さの相補鎖オリゴマーを合成し、これを第2のDNAオリゴマーとする。また、第1のDNAオリゴマーの5'側12残基を含み、この部分よりポリヌクレオチドの5'上流側に90残基程度の長さの相補鎖オリゴマーを合成し、これを第3のDNAオリゴマーとする。更に、第2のDNAオリゴマーの5'側(遺伝子側からみると3'側)の12残基の配列を含み、この部分よりポリヌクレオチドの3'下流側に第2のDNAオリゴマーの相補鎖を合成し、これを第4のDNAオリゴマーとする。以下同様に第5、第6とDNAオリゴマーを合成し、全部の領域をカバーできるまで更にオリゴマーを合成する。
次に、これらオリゴマーを順番にPCR反応により結合する。まず第1のDNAオリゴマーと第2のDNAオリゴマーとの両者をプライマーとして用いてPCR反応を行う。次にこのPCR産物を鋳型として、第3のDNAオリゴマーと第4のDNAオリゴマーとの両者をプライマーとして用いてPCR反応を行う。PCR反応は、例えば、変性温度94℃1分間、アニール温度51℃1分間、伸長温度72℃2分間を1セットとして5サイクル反応させた後、変性温度94℃1分間、アニール温度60℃1分間、伸長温度72℃2分間を1セットして20サイクル反応を行う。反応に使用するDNAポリメラーゼは塩基の取り込みエラー率の低い酵素を使用することが好ましい。以下この操作を繰り返し、塩基配列を伸長し、目的の塩基配列を得る。目的の塩基配列の両端には、必要に応じて制限酵素部位を設け、常法に従いクローニングベクターに導入し、サブクローニングしたり、セルフライゲーションによってプラスミドを構築する。得られたポリヌクレオチドの塩基配列をDNAシークエンサーで確認し、目的の塩基配列が得られたことを確認する。
【0046】
本発明の還元酵素をコードする核酸の塩基配列は、F.Sanger, S.Nicklen, A.R.Coulson著, Proceeding of Natural Academy of Science U.S.A.(1977) 74: 5463-5467頁等に記載されているダイデオキシターミネーター法等により解析することができる。塩基配列分析用の試料調製には、例えば、ライフテクノロジーズ社のABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit等の市販の試薬を用いてもよい。
【0047】
上述のようにして得られる核酸が、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ-1-フェニルエタノールに還元する活性を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードしていることの確認は、例えば、以下のようにして行うことができる。
まず上述のようにして得られる核酸を後述のように、宿主細胞において機能可能なプロモーターの下流に接続されるようにベクターに挿入し、このベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を取得する。次いで当該形質転換体の培養物を2,2,2−トリフルオロアセトフェノン及びNADHと混合して30℃で保温し、消費されるNADH量を反応液の340nmにおける吸光度を指標に定量することにより還元活性を測定する。このようにして、得られた核酸がかかる活性を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードすることが確認できる。
【0048】
本発明の組換えベクターは、本発明核酸又は宿主細胞内において機能可能なプロモーターと本発明核酸とが機能可能な形で結合されてなる核酸等を含有する。
【0049】
本発明の組換えベクターの調製は、本発明核酸又は宿主細胞内において機能可能なプロモーターと本発明核酸とが機能可能な形で結合されてなる核酸等を、本発明核酸が導入される宿主細胞において利用可能なベクター、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖でき、宿主細胞からの単離、精製が可能であり、検出可能なマーカーを持つベクター(以下、基本ベクターと記すこともある。)に通常の遺伝子工学的手法に準じて、組み込むことにより構築すればよい。
【0050】
ここで「基本ベクター」としては、大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えば、ベクターpUC119(タカラバイオ社製)、ファージミドpBluescriptII(Stratagene社製)等を挙げることができる。また、出芽酵母を宿主細胞とする場合には、例えば、ベクターpGBT9、pGAD424、pACT2(Clontech社製)等を挙げることができる。また、哺乳類動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、pRc/RSV、pRc/CMV(Invitrogen社製)等のベクター、ウシパピローマウイルスベクターpBPV(GEヘルスケア社製)、EBウイルスベクターpCEP4(Invitrogen社製)等のウイルス由来の自律複製起点を含むベクター、ワクシニアウイルス等のウイルス等を挙げることができる。また、昆虫類動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスを挙げることができる。
【0051】
本発明の組換えベクターを、自律複製起点を含むベクター(具体的には例えば、酵母用ベクターpACT2、ウシパピローマウイルスベクターpBPV、EBウイルスベクターpCEP4等)を用いて構築すると、当該ベクターは宿主細胞に導入された際にエピソームとして細胞内に保持される。
【0052】
本発明核酸を宿主細胞で発現させるには、例えば、宿主細胞内において機能可能なプロモーターと本発明核酸とが機能可能な形で接続されてなる核酸を宿主細胞に導入すればよい。
【0053】
ここで、「機能可能な形で」とは、本発明核酸が導入される宿主細胞において、プロモーターの制御下に本発明核酸が発現されるように、当該プロモーターと本発明核酸とを接続させることを意味する。宿主細胞で機能可能なプロモーターとしては、導入される宿主細胞内でプロモーター活性を示すDNAを挙げることができる。例えば、宿主細胞が大腸菌である場合には、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター(lacP)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trpP)、アルギニンオペロンのプロモーター(argP)、ガラクトースオペロンのプロモーター(galP)、tacプロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、λファージのプロモーター(λ−pL、λ−pR)等を挙げることができる。また、宿主細胞が動物細胞や分裂酵母である場合には、例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス(SV40)の初期又は後期プロモーター、マウス乳頭腫ウイルス(MMTV)プロモーター等を挙げることができる。また、宿主細胞が出芽酵母である場合には、例えば、ADH1プロモーター等を挙げることができる。
【0054】
また、宿主細胞において機能するプロモーターを予め保有する基本ベクターを使用する場合には、前記プロモーターと本発明核酸とが機能可能な形で接続するように、上記のプロモーターの下流に本発明核酸を挿入すればよい。例えば、pRc/RSV、pRc/CMV等である場合には、動物細胞で機能可能なプロモーターの下流にクローニング部位が設けられている。当該クローニング部位に本発明核酸を挿入することにより得られるベクターを動物細胞へ導入することにより、当該動物細胞において本発明核酸を発現させることができる。これらのベクターには予めSV40の自律複製起点(ori)が組み込まれているため、oriを欠失したSV40ゲノムで形質転換された培養細胞、例えば、COS細胞等に当該ベクターを導入すると、細胞内でベクターのコピー数が非常に増大し、結果として当該ベクターに組み込まれた本発明核酸を大量発現させることもできる。また上記の酵母用ベクターpACT2はADH1プロモーターを有しており、当該ベクター又はその誘導体のADH1プロモーターの下流に本発明核酸を挿入すれば、本発明核酸を、例えば、CG1945(Clontech社製)等の出芽酵母内で大量発現させることが可能なベクターが構築できる。
【0055】
本発明核酸又は本発明の組換えベクター等を、宿主細胞に導入することにより、本発明形質転換体を作製する。次いで作製された本発明形質転換体を通常の細胞培養方法に従い培養することにより、本発明の還元酵素を大量に製造し、取得することができる。
【0056】
宿主細胞としては、微生物の場合には、例えば、真核生物、原核生物等を挙げることができる。好ましくは、例えば、大腸菌等を挙げることができる。当該宿主細胞に、通常の遺伝子工学的方法により、上記のようなベクターを導入することにより、宿主細胞を形質転換することができる。
【0057】
本発明の組換えベクターを宿主細胞へ導入する方法は、宿主細胞に応じた通常の導入方法を適用すればよい。大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えば、J.Sambrook, E.F.Frisch, T.Maniatis著;「モレキュラー・クローニング 第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory発行、1989年)等に記載される塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法等の通常の方法を挙げることができる。また、哺乳類動物細胞又は昆虫類動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等の通常の遺伝子導入法を挙げることができる。また、酵母を宿主細胞とする場合には、例えば、Yeast transformation kit(Clontech社製)等で用いられるリチウム法の通常の方法を挙げることができる。尚、ウイルスをベクターとして用いる場合には、上記のように一般的な遺伝子導入法によりウイルスのゲノムを宿主細胞に導入できるほか、本発明遺伝子の挿入されたウイルスのゲノムを含有するウイルス粒子を、宿主細胞へ感染させることによっても、当該ウイルスのゲノムを宿主細胞に導入することができる。
【0058】
自律複製起点を含むベクター、例えば、上記の酵母用ベクターpACT2や、ウシパピローマウイルスベクターpBPV、EBウイルスベクターpCEP4等を用いて本発明ベクターを構築すると、当該ベクターは宿主細胞に導入された際にエピソームとして細胞内に保持される。
基本ベクターとして選択マーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の抗生物質耐性付与遺伝子等)を含むベクターを用いると、当該ベクターが導入された形質転換体を当該選択マーカー遺伝子の表現型等を指標にして選択することができる。
【0059】
宿主細胞において本発明核酸又は本発明の組換えベクター等を導入する宿主細胞としては、例えば、Escherichia属、Bacillus属、Corynebacterium属、Staphylococcus属、Streptomyces属、Saccharomyces属、Kluyveromyces属及びAspergillus属に属する微生物等を挙げることができる。
【0060】
宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続されてなる本発明核酸又は本発明の組換えベクター等を宿主細胞へ導入する方法は、用いられる宿主細胞に応じて通常使われる導入方法であればよく、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2
nd edition」(1989)、Cold Spring Harbor Laboratory Press,「Current Protocols in Molecular Biology」(1987)、John Wiley & Sons, Inc. ISBNO-471-50338-X等に記載される塩化カルシウム法や、「Methods in Electroporation:Gene Pulser /E.coli Pulser System」 Bio-Rad Laboratories, (1993)等に記載されるエレクトロポレーション法等を挙げることができる。
【0061】
宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で接続されてなる本発明核酸又は本発明の組換えベクター等が導入された形質転換体を選抜するには、例えば、前述のようなベクターに含まれる選択マーカー遺伝子の表現型を指標にして選抜すればよい。
【0062】
本発明核酸、還元酵素、本発明核酸を含む組換えベクター、及び、その形質転換体を用いることにより、例えば、カルボニル化合物から有用な光学活性アルコールを工業的に有利に得ることができる。かかる光学活性なアルコールの製造方法では、基質であるカルボニル化合物に、還元酵素、それを産生する形質転換体又はその処理物を作用させる。
【0063】
形質転換体の培養方法、形質転換体の処理物の調製方法等は、上述の本発明核酸取得方法の工程(4)において説明した方法を用いることができる。また、形質転換体の培養物から還元酵素を精製する方法としては、通常のタンパク質の精製において使用される方法を適用することができ、例えば、次のような方法を挙げることができる。
【0064】
まず、形質転換体の培養物から遠心分離等により細胞を集めた後、これを超音波処理、ダイノミル処理、フレンチプレス処理等の物理的破砕法又は界面活性剤若しくはリゾチーム等の溶菌酵素を用いる化学的破砕法等によって破砕する。得られた破砕液から遠心分離、メンブレンフィルター濾過等により不純物を除去することにより無細胞抽出液を調製し、これを陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー等の分離精製方法を適宜用いて分画することによって、還元酵素を精製することができる。
【0065】
クロマトグラフィーに使用する担体としては、例えば、カルボキシメチル(CM)基、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、フェニル基若しくはブチル基を導入したセルロース、デキストリン又はアガロース等の不溶性高分子担体が挙げられる。市販の担体充填済カラムを用いることもでき、かかる市販の担体充填済カラムとしては、例えば、Q−Sepharose FF、Phenyl−Sepharose HP(GEヘルスケア社製)、TSK−gel G3000SW(東ソー社製)等が挙げられる。
【0066】
還元酵素を含む画分を選抜するには、例えば、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを還元して2,2,2−トリフルオロ-1-フェニルエタノールを生産する能力を指標にして選抜すればよい。
【0067】
基質であるケトン化合物又はアルデヒド化合物としては、例えば、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−ペプチルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、2−オキソプロピオンアルデヒド、トランス−シンナムアルデヒド、4−ブロモベンズアルデヒド、2−ニトロベンズアルデヒド、3−ニトロベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、4−クロロベンズアルデヒド、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−ペンタノン、3−クロロ−2−ブタノン、tert−ブチルアセトアセテート、4−ヒドロキシ−2−ブタノン、ヒドロキシアセトン、1,1−ジクロロアセトン、クロロアセトン、ジヒドロキシアセトン、ピルビン酸エチル、メチル 3−オキソブタノエート、エチル 3−オキサブタノネート、エチル 4−クロロアセトアセテート、メチル 4−ブロモ−3−オキサブタノエート、エチル 4−ブロモ−3−オキサブタノエート、N−tert−ブトキシカルボニル−3−ピロリジノン、イソプロピル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、エチル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、メチル 4−シアノ−3−オキソブタノエート、メチル 3−オキソペンタノエート、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン、アセトフェノン、2’−ブロモアセトフェノン、3’−ブロモアセトフェノン、4’−ブロモアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、3’−クロロアセトフェノン、4’−クロロアセトフェノン、ベンジルアセトン、1−フェニル−2−ブタノン、m−メトキシアセトフェノン、3,4−ジメトキシアセトフェノン、4’−メトキシアセトフェノン、2,3’−ジクロロアセトフェノン、3,4−ジメトキシフェニルアセトン、シクロペンタノン、4−アセチル安息香酸、D−(+)-グルコース、4−クロロ-3-オキソ酪酸エチル、3−メチル-2-オキソ酪酸エチル、4−ヒドロキシ-2-ブタノン、ベンゾイルギ酸エチル、1−フェニル-2-ブタノン、3−オキソ酪酸エチル等が挙げられる。
【0068】
上記方法は、通常、水及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと記す。)の存在下に行うとよい。この際に用いられる水は、緩衝水溶液であってもよい。該緩衝水溶液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム水溶液、酢酸カリウム等の酢酸アルカリ金属塩及びこれらの混合物が挙げられる。
【0069】
上記方法においては、水に加えて有機溶媒を共存させることもできる。共存させることができる有機溶媒としては、例えば、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類;トルエン、ヘキサン、シクロへキサン、ヘプタン、イソオクタン等の炭化水素類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;ジメチルスルホキシド等の有機硫黄化合物;アセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類、及び、これらの混合物が挙げられる。
【0070】
上記方法における反応は、例えば、水、NADH、及びケトン化合物又はアルデヒド化合物を、還元酵素又はそれを産生する形質転換体又はその処理物とともに、必要によりさらに有機溶媒等を含有した状態で、攪拌、振盪等により混合することにより行われる。
【0071】
上記方法における反応時のpHは適宜選択することができるが、通常pH3〜10の範囲である。また反応温度は適宜選択することができるが、原料及び生成物の安定性、反応速度の点から通常0〜60℃の範囲である。また、窒素や空気等を吹き込みながら、反応を行なってもよい。通気量は通常0.1〜5L/分の範囲である。
【0072】
反応の終点は、例えば、反応液中のカルボニル化合物の量を液体クロマトグラフィー等により追跡することにより決めることができる。反応時間は適宜選択することができるが、通常0.5時間から10日間の範囲である。
【0073】
反応液からのアルコールの回収は、一般に知られている任意の方法で行えばよい。例えば、反応液の有機溶媒抽出操作、濃縮操作等の後処理を、必要によりカラムクロマトグラフィー、蒸留等を組み合わせて、行うことにより精製する方法が挙げられる。
【0074】
形質転換体又はその処理物としては、上述のものを用いることができるが、本発明の形質転換体を用いた工業的な生産を考慮すれば、生きている形質転換体を用いるよりも形質転換体を死滅化させた処理物を用いる方法が、製造設備の制限が少ないという点では好ましい。そのための死菌化処理方法としては、例えば、物理的殺菌法(加熱、乾燥、冷凍、光線、超音波、濾過、通電)や、化学薬品を用いる殺菌法(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、硫黄、ホウ素、砒素、金属、アルコール、フェノール、アミン、サルファイド、エーテル、アルデヒド、ケトン、シアン及び抗生物質)が挙げられる。一般的には、これらの殺菌法のうちできるだけ還元酵素の酵素活性を失活させず、かつ反応系への残留、汚染等の影響が少ない処理方法を選択することが望ましい。
【0075】
本発明の還元酵素を用いたアルコールの製造方法はNADHの存在下に行われ、ケトン化合物又はアルデヒド化合物の還元反応の進行に伴い、NADHは酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NAD+と記す)に変換される。還元酵素が、変換により生じたNAD+を、例えば、2−プロパノールの酸化反応に伴って、還元型(NADH)に変換する能力を有している場合には、上記方法の反応系内には、NAD+をNADHに変換を可能にする基質として、2−プロパノール等を共存させることもできる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
実施例1(環境DNAの取得)
4℃で保存された以下の環境サンプル(A)〜(E)及び土壌DNA抽出キット(ISOIL for Beads Beating、ニッポンジーン社製)を用い、同キットのマニュアルにしたがってDNAを抽出し、得られたDNAをそれぞれ環境DNA(A)〜(E)とした。抽出されたDNAは1.5%アガロースゲル電気泳動にて確認した。
(A)富山県射水市片口の堆肥(草および枝 79℃)
(B)富山県射水市片口の堆肥(木の皮 60℃)
(C)富山県射水市片口の堆肥(草及び枝 表面)
(D)富山県射水市片口の堆肥(木の皮 59℃)
(E)富山県射水市片口の堆肥(草及び枝 79℃以下)
【0078】
実施例2(オリゴヌクレオチドプライマーの作製)
以下の4種類のオリゴヌクレオチドプライマーを合成した。
プライマー1:5’−GACCGGTCCGCGATCGTVACMGGMGSMG−3’ (配列番号1)
プライマー2:5’−CGGTCACTGGGCGGTRTABCCRCCRTCB−3’ (配列番号2)
プライマー3:5’−ACGATCGCGGACCGGTCGGCGACGT−3’ (配列番号4)
プライマー4:5’−ACCGCCCAGTGACCGGGCTGCAGGT−3’ (配列番号5)
Rはアデニン又はグアニン、Vはアデニン又はシトシン又はグアニン、Mはアデニン又はシトシン、Sはシトシン又はグアニン、Bはシトシン又はグアニン又はチミン、をそれぞれ示す。
【0079】
実施例3(二本鎖線状ベクターDNAの作製)
特開2008−017773に記載されたプラスミドpKELAは、2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールに還元する能力を有するタンパク質をコードする核酸を含有する組換えベクターである。
プラスミドpKELAを制限酵素XhoIで消化した。消化されたDNAを1.5%アガロースゲル電気泳動に供した後、ゲルから5.3kbのDNAを回収し、Wizard Plus SV Gel and PCR Clean−up System(Promega社製)を用いて精製した。得られた精製液からDNAをエタノール沈殿し、得られた沈殿を乾燥させた後、滅菌水5μlに溶解させた。得られた酵素消化DNA水溶液に、Ligation Mix(タカラバイオ社製)を10μl添加し、16℃にて一晩放置した後、DNAをエタノール沈殿し、得られた沈殿を乾燥させ、5μlの滅菌水に溶解させた。得られたDNA溶液を用いてトランスフォーメーション法でE. coli JM109 Competent cell(東洋紡社製)を形質転換した。得られた形質転換体を、100μg/mlのアンピシリンを含有するLB(1%バクト−トリプトン、0.5%バクト−酵母エキス、1%塩化ナトリウム)培地に接種し培養した。培養菌体からWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いてプラスミドDNAを調製した。得られたプラスミドを以下pKELAsと記す。
【0080】
配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー3及び配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー4を用いて、プラスミドpKELAsを鋳型にして、下記反応液組成、反応条件でPCRを行った。
【0081】
[プライマー]
プライマー3:5’−ACGATCGCGGACCGGTCGGCGACGT−3’ (配列番号4)
プライマー4:5’−ACCGCCCAGTGACCGGGCTGCAGGT−3’ (配列番号5)
[反応液組成]
pKELAs溶液(100μg/ml) 1μl
dNTPs(各2mMの混合液) 4μl
プライマー(10μM) 各0.8μl
2×Buffer for KOD FX Neo 10μl
KOD FX Neo(東洋紡社製) 0.4μl
滅菌水 3μl
[反応条件]
上記組成の反応液が入った容器をBio−RAD DNA Engineにセットし、94℃にて2分間保温した後、98℃で10秒間次いで60℃で30秒間次いで68℃で3分間の保温サイクルを30回行い、さらに68℃で5分間保温した。増幅産物をWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いて精製し、これを二本鎖線状ベクターDNAとした。
【0082】
実施例4(DNA試料からの核酸増幅、環状組換え発現ベクターの作製及び形質転換体の取得)
(4−1)環境DNAからの核酸増幅
配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー1及び配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー2を用いて、環境サンプル(A)〜(E)から取得された環境DNAを鋳型にして、下記反応液組成及び反応条件でPCRを行った。
【0083】
プライマー1:5’−GACCGGTCCGCGATCGTVACMGGMGSMG−3’ (配列番号1)
プライマー2:5’−CGGTCACTGGGCGGTRTABCCRCCRTCB−3’ (配列番号2)
Rはアデニン又はグアニン、Vはアデニン又はシトシン又はグアニン、Mはアデニン又はシトシン、Sはシトシン又はグアニン、Bはシトシン又はグアニン又はチミン、をそれぞれ示す。
[反応液組成]
環境DNA液 (10〜50 ng) 1μl
dNTPs(各2mMの混合液) 4μl
プライマー1(10μM) 0.8μl
プライマー2(10μM) 0.8μl
5×Phusion GC Buffer 4μl
Phusion Hot Start Flex DNA Polymerase(New England BioLabs社製) 0.4μl
DMSO 1μl
滅菌水 8μl
[反応条件]
上記組成の反応液が入った容器をBio−RAD DNA Engineにセットし、94℃にて2分間保温した後、98℃で10秒間次いで74℃で1分間の保温サイクルを5回行い、次に、98℃で10秒間次いで72℃で1分間の保温サイクルを5回行い、次に、98℃で10秒間次いで70℃で1分間の保温サイクルを5回行い、次に、98℃で10秒間次いで68℃で1分間の保温サイクルを20回行い、さらに68℃で7分間保温した。増幅産物をWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いて精製した。
【0084】
(4−2)環状組換え発現ベクターの作製と形質転換体の取得
(4−1)で得られた増幅産物の精製後の溶液2μlに、実施例3で得られた二本鎖線状ベクターDNA精製液6μlを添加し、5×In-Fusion HD Enzyme Premix(Clontech社製)を2μl添加した後、50℃にて15分間保温し、次いで、氷上に静置した。これを用いてトランスフォーメーション法によりE.coli JM109株を形質転換した。
【0085】
環境DNA(A)から増幅されたDNAがクローニングされた大腸菌組換え体は334コロニー得られた。環境DNA(B)から増幅されたDNAがクローニングされた大腸菌組換え体は40コロニー得られた。環境DNA(C)から増幅されたDNAがクローニングされた大腸菌組換え体は286コロニー得られた。環境DNA(D)から増幅されたDNAがクローニングされた大腸菌組換え体は39コロニー得られた。環境DNA(E)から増幅されたDNAがクローニングされた大腸菌組換え体は422コロニー得られた。
【0086】
実施例5(形質転換体のアセトフェノン還元活性測定と還元酵素をコードする核酸の取得)
(5−1)粗酵素液の調製
実施例4にて得られた形質転換体、プラスミドpKELAsにてE.coli JM109株を形質転換した形質転換体、又は、特開2008−017773に記載のプラスミドpKELAにてE.coli JM109株を形質転換した形質転換体を、100μg/mlのアンピシリン及び0.4mMのIPTGを含有するLB培地4ml中で37℃にて22時間振盪培養した。得られた培養液1mlを2ml容の遠心チューブに入れ、4℃にて15000rpmで30秒間遠心分離することにより、湿菌体を沈殿させた。遠心上清液を除いた湿菌体に、500mgのビーズ(Φ0.1mm)と、100mMのリン酸カリウムバッファー(pH7.0)0.5mlを加え、Multi−Beads Shocker(安井器械社製)を用いて2500rpm、150秒間:ON(30秒×3)、OFF(30秒×2)の条件で破砕処理を行った。破砕液を短時間遠心分離した後、破砕液の入ったチューブの底に穴をあけ、チューブを1.5ml容の新しい遠心チューブに押し込んだ。4℃にて3000rpm、5分間遠心分離した後、2ml容の遠心チューブを抜き、1.5ml容の遠心チューブのサンプルをさらに4℃にて15000rpm、5分間遠心分離し、得られた遠心上清液を粗酵素液とした。
【0087】
(5−2)還元活性測定と還元酵素をコードする核酸の取得(その1)
100mMのリン酸カリウムバッファー(pH7.0)、0.3mM NADH、及び10mM 2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを含む反応液990μlを25℃で1.5分間保温し、(5−1)で得られた粗酵素液を10μl添加した後、NADHの340nmにおける吸収の減少を測定した。また、100mMのリン酸カリウムバッファー(pH7.0)、0.3mM NADH、15% 1−プロパノール、及び10mM 2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを含む反応液990μlを25℃で1.5分間保温し、(5−1)で得られた粗酵素液を10μl添加した後、NADHの340nmにおける吸収の減少を測定した。プラスミドpKELAsにてE.coli JM109株を形質転換した形質転換体から得られた粗酵素液では340nmにおける吸収の減少が検出されず、これをブランクとした。NADHのモル吸光係数(ε)を6.22×1000M
−1cm
−1とし、25℃で1分間に1μmolのNADHを変換する酵素量を1Uとし、培養液1mlあたりの酵素活性値を算出した。15%1−プロパノール非存在下での2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性値を100として、15%1−プロパノール存在下での、2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性値の相対値を算出した(表1)。
【0088】
【表1】
【0089】
プラスミドpKELAを含有する形質転換体の粗酵素液における、15%1−プロパノール非存在下での2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性値に対する、15%1−プロパノール存在下での2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性値の低下率と比べると、環境DNAから増幅されたDNAを含む環状組換え発現ベクター#0012、#0013、#0014、#0015、#0016、#0017、#0018、#0021、#0022をそれぞれ含有する形質転換体の粗酵素液では、15%1−プロパノールの存在による2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性値の低下率が少なく、これらの形質転換体は、プラスミドpKELAを含有する形質転換体が産生する還元酵素よりも有機溶媒耐性に優れた還元酵素を産生していることが判った(表1)。
【0090】
粗酵素液の還元活性が確認された上記9種類の形質転換体から、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen社製)を用い、環境DNAから増幅されたDNAを含む組換え発現ベクター(以下、プラスミド#0012、#0013、#0014、#0015、#0016、#0017、#0018、#0021、#0022と記すこともある。)を取得した。
【0091】
(5−3)還元活性測定と還元酵素をコードする核酸の取得(その2)
(5−1)で得られた粗酵素液を表2に示す各温度で30分間保温した。100mMのリン酸カリウムバッファー(pH7.0)、0.3mM NADH、及び10mM 2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを含む反応液990μlを25℃で1.5分間保温した後、前記温度で保温した粗酵素液を10μl添加し、NADHの340nmにおける吸収の減少を測定した。表2に示す各温度に替えて4℃で保温した粗酵素液での活性値を100として、各温度処理後の粗酵素液の活性値の相対値を算出した(表2)。
プラスミドpKELAを含有する形質転換体の粗酵素液における、温度処理による2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性値の低下率と比べると、環境DNAから増幅されたDNAを含む環状組換え発現ベクター#0024を含有する形質転換体の粗酵素液では、温度処理による2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性値の低下率が少なく、当該形質転換体は、プラスミドpKELAを含有する形質転換体が産生する還元酵素よりも熱安定性に優れた還元酵素を産生していることが判った(表2)。
【0092】
【表2】
【0093】
粗酵素液の還元活性が確認された上記の形質転換体からQIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen社製)を用い、環境DNAから増幅されたDNAを含む組換え発現ベクター(以下、プラスミド#0024と記すこともある。)を取得した。
【0094】
実施例6(還元酵素をコードする核酸の塩基配列決定)
実施例5で粗酵素液の2,2,2−トリフルオロアセトフェノン還元活性が確認された形質転換体から取得されたプラスミド#0012、#0013、#0014、#0015、#0016、#0017、#0018、#0021、#0022、#0024にクローニングされたDNAの塩基配列を決定した。Dye Terminator Cycle sequencing FS ready Reaction Kit(パーキンエルマー製)を用いて各プラスミドを鋳型としてシークエンス反応を行い、得られたDNAの塩基配列をDNAシーケンサー373A(パーキンエルマー製)で解析した。プラスミド#0012、#0013、#0014、#0015、#0016、#0017、#0018、#0021、#0022及び#0024からそれぞれ得られた塩基配列を配列番号11、13、15、17、19、21、23、25、27及び9に示し、これら塩基配列にそれぞれコードされるアミノ酸配列を配列番号12、14、16、18、20、22、24、26、28及び10に示す。配列番号12、14、16、18、20、22、24、26、28及び10で示される各アミノ酸配列と、プラスミドpKELAにコードされる2,2,2−トリフルオロアセトフェノンを2,2,2−トリフルオロ−1−フェニルエタノールに還元する能力を有するタンパク質のアミノ酸配列との配列同一性は約50−75%である。