特許第6064309号(P6064309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064309リチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法、および該前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質とその製造方法、並びに該正極活物質を用いたリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064309
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法、および該前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質とその製造方法、並びに該正極活物質を用いたリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20170116BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20170116BHJP
   C01B 25/37 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   H01M4/58
   C01B25/45 Z
   C01B25/37 Z
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-28975(P2016-28975)
(22)【出願日】2016年2月18日
(62)【分割の表示】特願2012-215402(P2012-215402)の分割
【原出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2016-129145(P2016-129145A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2016年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 遼介
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−516016(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029329(WO,A1)
【文献】 特開2006−056754(JP,A)
【文献】 特表2010−521395(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/038517(WO,A1)
【文献】 特開2010−251302(JP,A)
【文献】 特開2003−157843(JP,A)
【文献】 特開2009−081130(JP,A)
【文献】 特開2011−251874(JP,A)
【文献】 特開2011−251873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸ニッケル塩からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造法であって、
2価のニッケルイオンとリン酸イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、
アンモニアを添加して、該混合溶液のpHを6〜8の範囲に調整して共沈殿させリン酸ニッケル塩を得る晶析工程とを備え、
ニッケル:リンのモル比が0.90:1〜1.10:1の範囲にあり、かつ窒素を3〜5質量%含有する非晶質の固体状リン酸ニッケル塩であるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記晶析工程において、前記混合溶液を40℃以上に保持すること特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶液調製工程において、2価のニッケルイオンの供給原料として、硫酸塩、硝酸塩および塩化物塩からなる群から選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶液調製工程において、リン酸イオンの供給原料として、リン酸およびリン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される1種以上の水溶性塩を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記晶析工程が非酸化性雰囲気下で行われること特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記晶析工程で得られたリン酸ニッケル塩を洗浄する洗浄工程を、さらに、備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られるリン酸ニッケル塩からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体とリチウム塩とを一般式:LiNiPO(0.95≦x≦1.05、0.95≦y≦1.05)の組成比となるように混合した後、250〜800℃で熱処理して、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合リン酸塩を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理前に、予め、前記前駆体の粉砕を行うことを特徴とする請求項にリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム塩が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
一般式:LiNiPO(0.95≦x≦1.05、0.95≦y≦1.05)で表されるオリビン型リチウムニッケル複合リン酸塩からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、
一次粒子の平均粒径が50〜500nmであり、二次粒子の平均粒径が0.5〜20μmであるリチウム二次電池用正極活物質を得ることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記リチウム二次電池用正極活物質をC2023型コイン電池の正極活物質とした場合、作動電位が5.5V以上であることを特徴とする請求項10に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用正極活物質の前駆体とその製造方法、および該前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質とその製造方法、並びに該正極活物質を用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノート型パソコン、その他IT機器などの小型電池に幅広く使用されており、これらの用途には主としてLiCoO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNiOなどの層状岩塩化合物正極活物質が用いられている。
【0003】
IT機器の発展、普及に伴い、現在もその需要が世界的な規模で伸びている。これらの小型電池に加えて、産業用の大型電池においても、ハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)用、電力平準化用、電力貯蔵用など、さらに多方面にその需要の拡大が期待され、研究開発も盛んに行われている。
【0004】
このような状況下で産業用の大型電池が本格的に実用化されるための課題として、正極活物質には、高い安全性、高寿命、高出力、低価格が要求されている。その中で高い安全性と優れたサイクル性能を示し、低価格で製造可能なオリビン型正極活物質が、LiCoOやLiCo1/3Ni1/3Mn1/3等の代替正極材料として注目されている。
【0005】
代表的な上記オリビン型正極活物質として、リチウム鉄燐酸塩(LiFePO)が挙げられる。LiFePOは、全ての酸素がリンと共有結合して、リン酸の強固な骨格を有するため、安全で放電容量が高く、サイクル寿命も長いという性質から、リチウム二次電池の正極活物質として、工業的に生産され実用化されている。
【0006】
しかしながら、LiFePOの容量は、170mAh/gと理論値に達しており、さ
らに平衡電位が対Liにおいて3.4Vと低いので、電気自動車の動力として用いた場合、エネルギー密度が低く、走行距離が十分に取れない。そのため、より高エネルギー密度の正極活物質の開発が世界中で行われている。
【0007】
エネルギー密度を高める方法としては、平衡電位を高くすることが考えられる。LiNiPOは、LiFePOと同じオリビン構造の物質であるが、平衡電位が対Liにおいて5V以上であり、次世代正極活物質の有力な候補である。
【0008】
LiNiPOの合成方法としては、固相法が報告されている。例えば、非特許文献1には、炭酸リチウム、リン酸二水素アンモニウム、2価のニッケル原料として蓚酸ニッケルを、溶媒中で混合し焼成することにより、高純度のリン酸金属リチウム塩が得られることが開示されている。しかし、蓚酸塩は価格が高く、また強い毒性があるために人体や環境面でも好ましくなく、多量に合成する方法も確立されていない。
【0009】
さらに、一般的に固相法では、反応に必要な温度が高いため、1次粒子の粗大化や凝集成長しやすく、粒子径が大きくなる。このようにして得たLiNiPOは粒子が粗大で導電性が低いため、強力な微細化処理が必要となる。極度の微粒子化処理には、湿式ミルでアルミナやジルコニア球等を媒体として処理することが一般的であるが、粉砕時に不純物が混入しやすく、処理後の乾燥処理も必要である。以上のように固相反応法に関しては、焼成工程での効率は非常に良好であるが、高温処理による粒子の粗大化が避けられず、非常に時間とコストがかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J Wolfenstine,et al.,Journal of Power Sources 142 (2005) 389−390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、粒子径が微細で、正極活物質として用いた場合、優れた電池特性を示すオリビン型のリチウム二次電池用正極活物質と、組成が均一で微細な前駆体を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法とを、さらには、その正極活物質を用いて良好な特性を有するリチウム二次電池を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため、均一に混合され、粒子径が微細なリチウムニッケル複合リン酸塩について、鋭意検討した結果、リン酸ニッケル塩を原料としてリチウム塩と混合し、焼成することにより、電池としての作動電位が高いリチウムニッケル複合リン酸塩が得られるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の第1の発明によれば、リン酸ニッケル塩からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造法であって、2価のニッケルイオンとリン酸イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、アンモニアを添加して、該混合溶液のpHを6〜8の範囲に調整して共沈殿させリン酸ニッケル塩を得る晶析工程とを備え、
ニッケル:リンのモル比が0.90:1〜1.10:1の範囲にあり、かつ窒素を3〜5質量%含有する非晶質の固体状リン酸ニッケル塩であるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記晶析工程において、前記混合溶液を40℃以上に保持すること特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記混合溶液調製工程において、2価のニッケルイオンの供給原料として、硫酸塩、硝酸塩および塩化物塩からなる群から選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0016】
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明において、前記混合溶液調製工程において、リン酸イオンの供給原料として、リン酸およびリン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される1種以上の水溶性塩を用いることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記晶析工程が非酸化性雰囲気下で行われること特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0018】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記晶析工程で得られたリン酸ニッケル塩を洗浄する洗浄工程を、さらに、備えることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法が提供される。
【0019】
【0020】
一方、本発明の第の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において得られるリン酸ニッケル塩からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体とリチウム塩とを一般式:LiNiPO(0.95≦x≦1.05、0.95≦y≦1.05)の組成比となるように混合した後、250〜800℃で熱処理して、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合リン酸塩を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第の発明によれば、第の発明において、前記熱処理前に、予め、前記前駆体の粉砕を行うことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0022】
さらに、本発明の第の発明によれば、第7または第8の発明において、前記リチウム塩が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0023】
また、本発明の第10の発明によれば、第7〜8のいずれかの発明において、一般式:一般式LiNiPO(0.95≦x≦1.05、0.95≦y≦1.05)で表されるオリビン型リチウムニッケル複合リン酸塩からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、一次粒子の平均粒径が50〜500nmであり、二次粒子の平均粒径が0.5〜20μmであるリチウム二次電池用正極活物質を得ることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0024】
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、得られるリチウム二次電池用正極活物質をC2023型コイン電池の正極活物質とした場合、作動電位が5.5V以上であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0025】
【発明の効果】
【0026】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法によれば、ニッケルとリンが原子レベルに均一に混合したオリビン型リチウム二次電池用正極活物質の前駆体を得ることができる。また、該前駆体を用いて得られる正極活物質は、粒子径が微細で組成的にも均一であり、さらに、該正極活物質を用いたリチウム二次電池は、優れた電池特性を示すものである。
【0027】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、毒性のある化合物を用いることなく、容易に高純度、高収率で工業的規模の生産にも適したものであり、その工業的価値は、極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る実施例1で得られた前駆体のX線回折パターンである。
図2】本発明に係る実施例1で得られた複合リン酸塩のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について項目毎にさらに詳しく説明する。
【0030】
1.リチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法は、リン酸ニッケル塩からなるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造法であって、2価のニッケルイオンとリン酸イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、アンモニアを添加して、該混合溶液のpHを6〜8の範囲に調整して共沈殿させリン酸ニッケル塩を得る晶析工程とを、備えることを特徴とする。
【0031】
上記混合溶液調製工程においては、2価のニッケルイオンとリン酸イオンの混合溶液を調製する。次工程の晶析工程で得られるリン酸ニッケル塩のニッケル(Ni)とリン(P)のモル比は、混合溶液の組成比に一致するため、混合溶液に含有されるNiイオンとリン酸イオンの比が、Ni:Pのモル比で0.90:1〜1.10:1の範囲となるように、2価のニッケル塩とリン酸化物を水に溶解させる。
【0032】
ここで、Niとリン酸のモル比は、化学量論である1:1を中心に、晶析時の収率を考慮して、リン酸に対するNiのモル比を0.9〜1.1までの範囲とすることができる。モル比が0.90以下では、リン酸イオンの収率が悪化し、一方、1.1以上では、NiOやNi(HO)といった不純物が生成しやすくなる。好ましくは0.95〜1.05となるように溶解する。
【0033】
2価のニッケル塩としては、水溶性の塩を広く用いることができるが、2価の無機塩が好ましい。具体的には、Niイオンの供給原料として、硫酸塩、硝酸塩および塩化物塩から選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることが好ましく、硫酸塩を用いることがより好ましい。
【0034】
また、リン酸としては、水溶性のものを用いることができ、具体的には、リン酸イオンの供給原料として、リン酸およびリン酸二水素アンモニウムから選択される1種以上の水溶性塩を用いることが好ましい。
【0035】
次工程である晶析工程では、混合溶液は酸性を示すので、混合溶液にアンモニアを添加し、該混合溶液のpHを6〜8の範囲に調整して、Niイオンとリン酸イオンを共沈澱させ、リン酸ニッケル塩を得る。
【0036】
リン酸イオンとニッケルイオンは、溶液中での共存状態では、完全に均一に混合された状態となっており、これを共沈殿させることで、ニッケルとリン酸が厳密に混合され、完全に均一な組成の共沈澱物を得ることができる。
【0037】
ここで、制御するpHの範囲と、アンモニアを用いることが、重要である。上記pHの範囲では、アンモニアが完全に反応せず、非晶質化したリン酸ニッケル塩が得られる。一方、pHが6未満では、ニッケルイオンとリン酸イオンが完全に反応せず、混合溶液中に残存し、収率が低下するとともに、組成ずれを起こす。また、ニッケル塩が際析出することがある。さらに、pHが8を超えると、ニッケルがアンミン錯体化しやすくなり、ニッケルの収率が低下する。また、組成ずれを起こすことがある。
【0038】
pHを高pH側に制御して、共沈殿させる目的のみであれば、アルカリ金属水酸化物等を用いることができるが、アルカリ金属水酸化物を用いると、アルカリ金属が共沈殿物に残留して不純物となる。特に、水酸化ナトリウムを用いると、残留する不純物としてナトリウムが多くなり、最終的に得られるリチウム二次電池用正極活物質中のナトリウムが高くなり、正極活物質の特性を悪化させる。
【0039】
pHを6〜8に制御することで、組成ずれがなく、不純物を含まないリチウム二次電池用正極活物質の前駆体として適したリン酸ニッケル塩を得ることができる。このとき原料溶液としてニッケルイオンのみを溶解し、そこにリン酸とアンモニアの混合溶液を滴下しても、リン酸ニッケル塩を得ることができるが、ニッケル塩のアニオン、特に硫酸塩を用いた場合には硫酸根が多く残留してしまい洗浄で除去することは困難である。
【0040】
上記晶析工程においては、非酸化性雰囲気下で、共沈殿させることが好ましい。非酸化性雰囲気下とすることで、酸化によるNiOなどの不純物の生成を抑制することができる。非酸化性雰囲気下としては、取り扱いが容易な窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0041】
また、晶析中は、混合溶液の液温を40℃以上に保持することが好ましく、40〜60℃に保持することがより好ましい。該液温が40℃未満では、混合溶液中でのニッケルイオンの溶解度が低く、ニッケルとリン酸の析出速度に差が生じて、組成ずれを起こすことがある。また、液温の上限は、60℃とすることが好ましい。液温が60℃を超えると、混合溶液中でのニッケルイオンの溶解度が高くなり、析出速度が低下して、得られるリン酸ニッケル塩の結晶性が高くなり過ぎ、最終的に得られる正極活物質が粗粒化する場合がある。
【0042】
上記晶析工程に用いられる装置としては、反応を均一に生じさせるため、撹拌装置付の反応槽が好ましく、晶析時の雰囲気制御を可能とするため、密閉構造を有するものとすることがより好ましい。
【0043】
晶析反応終了後、ろ過、遠心分離などにより固液分離し、不純物を除去するため、上記晶析工程で得られたリン酸ニッケル塩を十分に水洗することが好ましい。ここで、上記リン酸ニッケル塩は、微細な粒子構造を持っているため、水洗により、不純物が容易に除去可能される。水洗後に乾燥させ、リン酸ニッケル塩を得る。
【0044】
乾燥温度は、250℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましい。一方、乾燥温度の下限は、60℃以上とすることが好ましく、90℃以上とすることがより好ましい。60℃未満では、乾燥に時間がかかるとともに付着水や必要以上の結晶水残るため、好ましくない。250℃を超えると前駆体粒子が焼結し、後工程の粉砕混合が困難になるため、好ましくない。乾燥時の雰囲気は大気雰囲気、不活性雰囲気中または真空雰囲気中で行うことが好ましい。
【0045】
2.リチウム二次電池用正極活物質の前駆体
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体は、上記製造方法によって得られるものであり、ニッケル:リンのモル比が0.90:1〜1.10:1の範囲にあり、かつ窒素を3〜5質量%含有する非晶質の固体状リン酸ニッケル塩であることを特徴とする。
【0046】
上記前駆体は、本発明の製造方法によって得られるため、ニッケルとリン酸が原子レベルで均一に混合された非晶質の固体状となっている。このため、リチウム塩と混合し易く、混合後の熱処理によっても、組成の均一化が可能であり、粒子径が微細なリチウムニッケル複合リン酸塩が得られる。
【0047】
また、窒素含有量が3〜5質量%である。リン酸アンモニウムニッケル塩(NHNiPO)が形成された場合、化学量論ではニッケル:リン酸:アンモニアが1:1:1となるが、上記前駆体では完全なリン酸アンモニウムニッケル塩が形成されておらず、アンモニウムの含有量、すなわち、窒素含有量が化学量論より少なくなっている。これにより、上記前駆体が非晶質化し、熱処理により粒子径が微細なリチウムニッケル金属複合リン酸塩が得られる。また、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であることが好ましい。上記製造方法においては、pH制御にアンモニアを用いるため、ナトリウムが混入する可能性は少ないが、原料からの混入を管理することでナトリウム含有量を低減することができ、正極活物質を得た場合に十分な特性が得られる。ナトリウム含有量が0.01質量%を超えると、オリビン構造中のLiイオンの移動がNaで阻害されるために、得られた正極活物質を用いた正極性能が低下することがある。
【0048】
3.リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウム二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質ということがある)の前駆体である上記リン酸ニッケル塩とリチウム塩を下記一般式の組成比となるように混合した後、250〜800℃で熱処理してリチウムニッケル複合リン酸塩、すなわち、リチウム二次電池用正極活物質を得ることを特徴とする。
一般式:LiNiPO
(0.95≦x≦1.05、0.95≦y≦1.05)
熱処理工程においては、先ず、上記リン酸ニッケル塩とリチウム塩を混合する。リン酸ニッケル塩とリチウム塩との混合は、リン酸ニッケル塩とリチウム塩を、上記一般式で表されるリチウムニッケル複合リン酸塩が得られるように、混合するものである。得られるリチウムニッケル複合リン酸塩は、混合時の組成が維持される。
【0049】
リチウム塩としては、特に限定されるものではなく、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムからなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0050】
混合方法は、リン酸ニッケル塩とリチウム塩を、十分に混合できる混合機を用いればよく、具体的には、シェイカーミキサー、あるいはアルミナ、ジルコニア球を用いた乾式、湿式ミルなどを用いることができる。特に、最終的に得られる正極活物質を微粒化するためには、リン酸ニッケル塩を、予め熱処理前に粉砕しておくことが好ましく、リチウム塩との混合時に、粉砕を同時にすることが好ましい。この場合には、ボールミル、遊星ミル、振動ミル、ビーズミルなどのミル混合機を用いることができる。ミルを用いることで、混合と同時に粉砕を行うことも可能となり、好ましい。
【0051】
リチウム塩との混合後、該混合物を酸素濃度が60容量%以下の不活性ガスとの混合雰囲気、例えば大気雰囲気、または不活性雰囲気で性250℃以上800℃以下、好ましくは350℃以上700℃以下で熱処理する。これにより良好な結晶性のリチウムニッケル複合リン酸塩を得ることができる。
【0052】
本発明のリン酸ニッケル塩は、原子レベルでMとリン酸が均一に混合された状態となっていることから、上記温度範囲による熱処理により、均質化され、良好な結晶性を有する上記一般式で表されるリチウムニッケル複合リン酸塩、すなわち、リチウム二次電池用正極活物質を得ることができる。焼成温度が250℃未満では、リチウム源である炭酸リチウムなどのリチウム化合物が残存することがあり、また、800℃を超えると、粒子の焼結が進行して、粗大粒子が生成され、最終的に得られる正極活物質の導電性が低下する。
【0053】
上記不活性雰囲気としては、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が好ましい。還元雰囲気での焼成はNi2+の還元によりNiメタルが異相として析出する原因となるため好ましくない。純酸素雰囲気などの酸素濃度が60容量%を超える極度の酸化条件での焼成は、Ni2+の酸化によるNiなどの異相の原因になるため好ましくない。
【0054】
焼成温度での保持時間は、良好な結晶性を得るため、1〜10時間とすることが好ましい。1時間以下の焼成では反応が十分に進まず好ましくない。10時間以上では生産効率が下がり好ましくない。
【0055】
熱処理炉としては、例えば、バッチ炉、ローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルン、流動床炉など一般的な熱処理炉・焼成炉を用いることができる。
【0056】
上記正極活物質は、均一微細な一次粒子で構成されているが、電池の電極作製工程において、必要に応じて、これを粉砕、分級して用いることができる。
【0057】
4.リチウム二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、均一微細な一次粒子で構成された上記一般式で表されるオリビン型リチウムニッケル複合リン酸塩からなるものであり、一次粒子の平均粒径が50〜500nmであり、二次粒子の平均粒径が0.5〜20μmである。これにより、正極活
物質として用いたときに高い作動電位が得られ、次世代リチウムイオン二次電池用正極活物質として好適である。なお、一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定することができ、二次粒子径は、レーザー散乱回折法で測定することができる。
【0058】
一次粒子の平均粒径が50nm未満になると、正極活物質のかさ密度が低くなり、電池の正極活物質として用いた場合に、容積あたりの電池容量が低くなりすぎる。一方、一次粒子の平均粒径が500nmを超えると、電池反応の際のリチウムイオン及び電子伝導率が低く、高抵抗なLiNiPO粒子内部をリチウムイオン、電子が移動する距離が大きくなり、電池の反応速度が極めて遅くなり、電池抵抗が上昇するとともに、十分な電池容量が得られない。
【0059】
一次粒子は、その個数の80%以上の粒子が含まれる粒径範囲が50〜1000nm内であることが好ましい。これにより、微粒子や粗大粒子が含まれず、良好な電池特性が得られる。50nm未満の粒子が多くなると、電流の集中などにより、電池容量やサイクル特性が低下することがある。一方、1000nmを超える粒子が多いと、LiNiPO粒子内部をリチウムイオン、電子が移動する距離が大きくなり、電池の反応速度が極めて遅くなり、電池抵抗が上昇するとともに、電池容量が低下することがある。一次粒子の平均粒径、粒径範囲は、SEM観察により一次粒子を300個以上測定することで求めることができる。一次粒子の粒径範囲は、80〜700nmであることが、電池特性をより良好なものとするために、好ましい。
【0060】
二次粒子の平均粒径が0.5μm未満になると、正極活物質のかさ密度が低くなり、電池の容積のあたりの容量が低くなりすぎることがある。一方、20μmを超えると、粗大粒子が混在するようになり、電池製造時のペーストが均一なものにできないことがある。
【0061】
さらに、BET比表面積が3〜40m/gであることが好ましい。3m/g未満では、電池の正極を構成したときに、十分な電解液との接触が得られず、電池抵抗の上昇や導電性の低下が生じる。また、40m/gを超えると、正極活物質のかさ密度が低くなりすぎる。
【0062】
本発明の正極活物質は、例えば、C2023型コイン電池の正極活物質として用いた場合、作動電位が5.5V以上の良好な電池特性を示すものであり、高いエネルギー密度が求められる次世代リチウム二次電池用として好適である。
【0063】
5.リチウム二次電池
本発明によるリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウム二次電池と同様の構成要素から構成される。
【0064】
以下、本発明のリチウム二次電池の実施形態について、その構成要素、用途などの項目に分けて詳しく説明するが、以下の実施形態は、例示にすぎず、本発明のリチウム二次電池は、本明細書に記載の実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて、種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0065】
(a)正極
正極は、本発明の正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成される。
詳しくは、粉末状の正極活物質、導電材を混合し、それに結着剤を加え、必要に応じて、粘度調整などのための溶剤を、さらに添加して、正極合材ペーストを調整し、その正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥、必要に応じて加圧することにより、シート状の正極を作製する。
【0066】
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。結着剤は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、その他の適切な材料を用いることができる。
【0067】
また、必要に応じて、正極合材に添加する溶剤、つまり、活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、活性炭を、電気二重層容量を増加させるために、添加することができる。
このような正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、必要に応じて、活性炭、溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを調製する。
【0068】
正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となりうる。正極合材の固形分の全体(溶剤を除く意味)を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質は、60〜95質量%、導電材は、1〜20質量%、結着剤は、1〜20質量%とすることが望ましい。
たとえば、アルミニウムなどの金属箔集電体の表面に、充分に混練した上記の正極合材ペーストを塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させ、必要に応じて、その後に、電極密度を高めるべくロールプレスなどにより圧縮することにより、正極をシート状に形成することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することができる。
【0069】
(b)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に、塗布、乾燥し、必要に応じて、電極密度を高めるべく圧縮して、形成したものを使用する。このとき、負極活物質として、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを、これら負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0070】
(c)セパレータ
正極と負極の間には、セパレータを挟み装填する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い微多孔膜を用いることができる。
【0071】
(d)非水系電解質
非水系電解質は、支持塩としてのリチウム塩を、有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0072】
上記支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiASF、LiN(CFSOなど、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水電解質は、ラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
【0073】
以上のように構成される本発明のリチウム二次電池であるが、その形状は、円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して、積層させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リードなどを用いて接続し、この電極体に上記の非水電解質を含浸させ、電池ケースに密閉して電池を完成させる。
【0074】
本発明のリチウム二次電池においては、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を備えており、高電位でも安定して用いられる電解質の開発という課題が残るものの、5.5Vという高電位で充放電を行なうことが可能で、従来のリチウム金属複合酸化物よりも、高いエネルギー密度で、かつ安全性が高いリチウム二次電池を工業的に実現できる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例及び比較例により、更に具体的に説明する。なお、実施例で用いた金属の化学分析方法、X線回折及び比表面積の測定方法、電池の評価方法は、以下の通りである。
(1) 組成の分析
ICP発光分析装置(VARIAN社製、725ES)を用いて、ICP発光分析法で行った。また、窒素については、酸素・窒素分析装置(LECO社製)を用いて、熱伝導度法で行った。
(2) X線回折
粉末X線回折装置(PANalytical社製、X‘Prt PRO)を用いて、得られた正極活物質について、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(3) 比表面積の測定
BET法測定機(ユアサアイオニックス株式会社製 カンタソーブQS−10)を用いて、窒素ガス吸着によるBET法で行った。
(4) 電池容量の評価
得られた正極活物質について、以下の手順でコイン型電池を作製し、電池の作動電位を測定して評価した。
正極活物質に導電材としてアセチレンブラック33質量%、結着材としてポリビニリデンフルオライド(PVDF)17質量%、N−メチルピロリドン(NMP)溶液を添加混合し、上記正極活物質50質量%−導電材33質量%−PVDF17質量%の混合物を得た。
この混合物をアルミ箔上に塗布し、80℃で乾燥後、電極寸法の直径11mmφに打ち抜き、プレス圧98MPa (1.0tonf/cm2)でプレスして電極を作製した。
この電極を正極とし、グローブボックス内で負極として金属Li、電解液として電解質LiPF61モル/Lを含有するエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)の等量混合液(容積比でEC/EMC/DMC=1/1/1)を用いてC2023コイン電池を作製した。
電池の充放電を、充電0.2mA/cm2、5.5V 、休止60分、放電0 .2mA/cm2、2.0V、25℃の条件で実施し、作動電位を確認した。
【0076】
(実施例1)
硫酸ニッケル6水和物(工業用)263g(Niとして1モル)とリン酸(和光社製:純度85.0質量%以上)1モル(115g)を蒸留水1Lに入れ、攪拌機で1hよく攪拌
し、原料溶液(混合溶液)とした。
原料溶液を2Lのセパラブルフラスコに入れ、内部を窒素で置換しながら、攪拌機で攪拌した。30分後、原料溶液に25質量%アンモニア水(和光社製)をpHが7.0〜7.2になるまで滴下した。滴下終了後、セパラブルフラスコを窒素で置換しながら30分撹拌を継続して反応を完全に進行させた。この反応液を吸引濾過で濾過し、水で洗浄して生成した固形物を回収した。回収した固形物を大気雰囲気中120℃で一昼夜乾燥して前駆体を得た。
【0077】
得られた前駆体は、X線回折分析によるとブロードなピークを示し非晶質であることが確認された。図1に得られた前駆体のX線回折パターンを示す。前駆体の組成分析を行ったところ、ニッケル:リンのモル組成比は1.02:1であり、ナトリウム含有量は、分析下限(20質量ppm)以下であった。また、窒素含有量は3.8質量%であった。
【0078】
前駆体30g、炭酸リチウム(関東化学社製鹿特級:99.0%)5.9gおよびエタノール60mlを、φ1mmジルコニアボールが650gの入った内容積500mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)により350rpmで30分間混合粉砕した。混合粉砕後、ジルコニアボールを篩い分けし、真空乾燥によりエタノールを除去した。
得られた混合物を電気炉で、窒素ガスを1L/分で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で700℃まで昇温し、5時間熱処理して正極活物質を得た。
【0079】
得られた正極活物質は、X線回折分析によりLiNiPOと同定された。図2に正極活物質のX線回折パターンを示す。
この正極活物質のリチウム:ニッケル:リンの組成比は0.98:1.02:1.00であ
った。SEM観察を行うと、一次粒子径の粒径範囲は100〜500nmにあり、平均粒径は250nmであった。また、比表面積は4.3m/gであった。
【0080】
電池評価を実施すると、その作動電位は5.5V以上であることが確認され、高電位でも分解されない電解液と組合すことにより、エネルギー密度の高い電池が得られると考えられる。
【0081】
(比較例1)
晶析時のpHを5.0〜5.5に制御した以外は、実施例1と同様の方法で前駆体を得た。固液分離後のろ液を化学分析し、リンおよびニッケル成分の収率を算出すると、ニッケルが89%、リンが78%と低い値を示した。また、前駆体中には、溶液から再析出した硫酸ニッケルと思われる異相が大量に混入していた。
【0082】
(比較例2)
晶析時のpHを9.0〜9.2に制御した以外は、実施例1と同様の方法で前駆体を得た固液分離後のろ液は緑色を呈していた。このろ液を化学分析し、リンおよびニッケル成分の収率を算出すると、ニッケルが95%、リンが93%と低い値を示した。アンミン錯体化したため、溶液中にニッケルが残存したと考えられる。
【0083】
(比較例3)
リチウム塩との混合時にLi:Ni:Pの組成比がモル比で1.15:1:1となるように混合した以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質を得た。得られた正極活物質をX線回折分析すると、LiNiPO以外にNi及びLiPOが同定された。過剰に存在するLiがPOと反応し、異相が生成したものと考えられる。
【0084】
(比較例4)
焼成雰囲気を純酸素雰囲気にした以外は実施例1と同様の方法で正極活物質を得た。得られた正極活物質をX線回折分析すると、LiNiPO以外にNi2O3が同定された。
原料中のNi2+がNi3+に酸化されたためだと考えられる。
図1
図2