【実施例】
【0023】
以下、本願発明をさらに詳細に説明するため実施例を記載するが、これら実施例は本願発明を限定するものではない。実施例において使用したクロマトグラフィー評価用のIgG単量体/重合体混合溶液(以下サンプルと記載する)は、精製したマウスモノクローナル抗体水溶液(IgG濃度21.3mg/mL、pH5.5)100μLに0.05mol/Lクエン酸水溶液を25μL加え、温度60℃の恒温槽中に30分間静置した後、0.05mol/L酢酸緩衝液(pH5.5)で4倍希釈することにより調製した。
サンプル中のIgG単量体と重合体の組成は、ゲル濾過クロマトグラフィーの手法により確認した。市販のゲル濾過クロマトグラフィー用カラム(TSKgel(登録商標) G3000SW
XL、東ソー株式会社製)を室温(約23℃)条件下におき、溶離液は0.2mol/Lアルギニン塩酸塩を含む0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.8)とし、流速は1mL/分とした。カラムからの遊離物は280nmの吸光度を測定して検出した。
図1は、上記条件にてサンプル中の抗体単量体を分離した結果を示すものである。
図1において、IgG単量体とIgG重合体のピークはそれぞれ8分、6〜7分付近に現れている。
【0024】
実施例1
親水性ビニル系ポリマーを基材とした市販のゲル濾過クロマトグラフィー用充填剤(TOYOPEARL(登録商標) HW−65C、東ソー株式会社製、ポリエチレンオキシド換算の排除限界分子量60万、粒子径50〜100μm)をガラスフィルターにとり、水で洗浄・吸引濾過を繰り返して、水湿潤ゲルとした。該ゲルの含水率は、加熱式水分量計(株式会社エー・アンド・デイ製、MX−50)で測定した結果、75重量%であった。
【0025】
上記の水湿潤ゲル100g、水180g、エピクロロヒドリン120gを攪拌機付き反応器に仕込み、48重量%NaOH水溶液100gを2時間をかけて滴下投入した後、45℃で2時間反応を実施した。反応終了後、ゲルをガラスフィルターを用いて濾過し、水で洗浄し、エポキシ化水湿潤ゲル(含水率77重量%)を得た。
【0026】
次に、デキストラン硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、硫黄含量約18%、分子量約50万)37gを水84.8gに溶解し、これに上記のエポキシ化水湿潤ゲル60gを加えた。この溶液に48重量%NaOH水溶液を5.3g投入し、40℃で17時間撹拌することにより反応を行った。反応終了後、ゲルをガラスフィルターで濾過し、水で洗浄して、デキストラン硫酸固定化ゲル(分離剤1)を得た。
イオン交換容量の評価は、次のように実施した。10gの分離剤1をガラスフィルターに移し、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液30mLで3回洗浄した後、ろ液のpHが8以下になるまで水でゲルを洗浄した。次に、0.5mol/L塩酸30mLでゲルを3回洗浄した後、ろ液のpHが5以上になるまで水で洗浄した。以上の処理を行ったゲルを20mLの水に懸濁して、リザーバーを装着したガラスフィルター付きガラス管(容積3mL)に注ぎ、吸引ろ過によって溶媒を除去した。ガラス管からリザーバーを外し、ガラス管内に堆積した水湿潤ゲル(3mL)を回収して、100mLの0.5mol/L塩化ナトリウム水溶液に懸濁した。これを、酸塩基自動滴定装置(AT−500N、京都電子工業株式会社)を用いて、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。滴定終点はpH7.0とし、終点までの滴定液量からイオン交換容量を算出した結果、11μeq/mLであった。
IgG吸着容量の評価は次のように実施した。300mLの三角フラスコに、52mLの吸着用緩衝液(0.054mol/L酢酸緩衝液、pH4.7)と、1.0mLの分離剤1を投入した。これに、ヒト血清γ−グロブリン(IgG濃度約150mg/mL、一般財団法人化学及血清療法研究所)1.7mLを加え、温度25℃で3時間振盪し、IgG吸着処理を行った。その上清を吸着用緩衝液で10倍に希釈して、280nmの吸光度を紫外可視分光光度計(UV−1800、株式会社島津製作所)で測定するとI
s=0.6176であった。IgG 1.0mg/mL当たりの吸光度を1.4とみなすと、下記の式から上清中のIgG濃度(C
s)は4.411mg/mLとなる。なおI
sは、10倍希釈上清の吸光度である。
【0027】
上清中のIgG濃度[mg/mL]:C
s=(I
s/1.4)×10
また、ヒト血清γ−グロブリンを吸着用緩衝液で200倍に希釈して同様に吸光度を測定するとI
f=1.103であった。IgG 1.0mg/mL当たりの吸光度を1.4とみなすと、下記の式からヒト血清γ−グロブリン中のIgG濃度(C
f)は157.6mg/mLとなる。なおI
fは、200倍希釈ヒト血清γ−グロブリンの吸光度である。
ヒト血清γ−グロブリン中のIgG濃度[mg/mL]:C
f=(I
f/1.4)×200
上記のようにして求めたC
s及びC
fの値を使用し、次の式から分離剤1のIgG吸着容量を求めると28mg/mLであった。なお分離剤の含水量は0.7mLとみなした。
【0028】
IgG吸着容量[mg/mL分離剤]:q=C
f×1.7−C
s×54.4
[クロマトグラフィー評価]
試作した分離剤による「IgGの単量体」と「IgGの重合体を含む不純物」との混合物のクロマトグラフィー分離を、以下の方法で検討した。
ステンレス製カラム(内径7.5mm、長さ7.5cm)に分離剤1を充填した後、HPLC装置(東ソー株式会社)に接続した。流速1.0ml/分にて、カラム容量の約10倍量の0.05mol/L酢酸緩衝液(pH5.5)で平衡化した後、前述のクロマトグラフィー評価用サンプル(100μL)を該カラムへ注入した。溶出は、1mol/L塩化ナトリウムを含む0.05mol/L酢酸緩衝液(pH5.5)を使用して、60分の直線塩濃度勾配溶出法(リニアグラジエント)で実施した。なお、流速は1.0ml/分、検出は280nmの吸光度、カラム温度は室温(約23℃)として評価を実施した。
【0029】
分離剤1において得られたクロマトグラムを
図2に示す。
図2において横軸は保持時間(分)を示し、18分付近に溶出しているピークがIgGの単量体で、35分付近に溶出しているピークがIgGの重合体であり、ピークの分離度Rsは1.8であった。
【0030】
実施例2
分離剤として、TOYOPEARL HW−65Cにデキストラン硫酸ナトリウム(名糖産業株式会社、硫黄含量約5%、分子量;約1,600)を固定化したゲルを使用する以外は、実施例1と同様の反応と評価を実施した。この場合のイオン交換容量は3μeq/mL、IgG吸着容量は17mg/mLであった。クロマトグラフィー評価の結果を
図3に示した。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約9分と約20分、ピーク分離度Rsは1.1であった。実施例2では、IgG吸着容量及びRsが実施例1より低かったが、この理由としては、イオン交換容量(言い換えると、硫酸基の固定化量)が低い点が考えられる。
【0031】
実施例3
分離剤として、多糖類の一種であるアガロースから成るゲル濾過クロマトグラフィー用充填剤Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン株式会社、ポリエチレンオキシド換算の排除限界分子量30万、粒子径45〜165μm)にデキストラン硫酸(分子量約50万)を固定化したゲルを使用する以外は、実施例1と同様の反応と評価を行った。イオン交換容量は38μeq/mL、IgG吸着容量は44mg/mLであった。クロマトグラフィー評価の結果は
図4に示したとおりであり、IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約19分と約35分で、ピーク分離度Rsは1.9であった。
【0032】
実施例1との比較より、担体を合成高分子から多糖類に変えても、同等の分離性能が得られたことが分かる。
【0033】
実施例4
分離剤として、ヘパリン(ブタ粘膜由来)を導入したアフィニティークロマトグラフィー用充填剤TOYOPEARL AF−Heparin HC−650M(東ソー株式会社、粒子径40〜90μm)を用いた以外は、実施例1と同じ条件でIgGの単量体とIgGの重合体との混合物のクロマトグラフィー分離を検討した。得られたクロマトグラムを
図5に示す。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約16分と約28分であり、ピーク分離度Rsは1.9であった。
【0034】
ヘパリンと実施例1で用いたデキストラン硫酸は、両者とも硫酸基を有する多糖類であるが、分子構造が互いに異なる。実施例1と実施例4の比較から、担体に導入する”硫酸基を有する化合物”の構造が変化しても、同等の分離性能が得られることが確認された。
【0035】
実施例5
実施例1と同様の反応でTOYOPEARL HW−65Cから得たエポキシ化水湿潤ゲル(含水率77重量%)100gを、デキストラン(名糖産業株式会社、分子量約7万)39gを110mlの水に溶解した水溶液に懸濁し、48重量%NaOH水溶液4.3gを加えて、40℃で16時間撹拌することにより反応を実施した。反応終了後、ゲルをガラスフィルターで濾過し、水で洗浄した後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF、和光純薬工業株式会社)で洗浄して、デキストラン固定化ゲル(含液率73重量%)を得た。
【0036】
上記のデキストラン固定化ゲル80gを攪拌機付き反応器にとり、DMFを154g、三酸化硫黄ピリジン錯体(和光純薬工業株式会社)44gを加え、70℃で20時間反応した。反応終了後、ゲルをガラスフィルターで濾過して、 0.5mol/L水酸化ナトリウムで洗浄した後、水で洗浄し、硫酸エステル化により硫酸基を固定化した分離剤を得た。イオン交換容量は680μeq/mL、IgG吸着容量は90mg/mLであった。
図6に、クロマトグラフィー評価の結果を示した。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約20分と約35分であり、ピーク分離度Rsは1.5であった。
【0037】
実施例1との比較から、デキストラン硫酸を担体へ直接固定化する方法(実施例1に記載の手法)より、担体へデキストランを導入した後、この重合体を硫酸化する方法(実施例5に記載の手法)の方が、高いIgG吸着容量が得られることが分かる。
【0038】
実施例6
分子量の異なるデキストラン(MP Biomedicals Inc.分子量約17,500)を用いる以外は、実施例5と同様の反応を行い、硫酸基を含む分離剤を得た。イオン交換容量は640μeq/mL、IgG吸着容量は76mg/mLであった。クロマトグラフィー評価の結果を
図7に示した。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約20分と約36分であり、ピーク分離度Rsは1.7であった。
【0039】
実施例5との比較より、担体に固定化するデキストランの分子量を小さくすると、イオン交換容量(硫酸基の固定化量)が低下し、IgG吸着容量も低くなる傾向があると考えられた。
【0040】
実施例7
デキストランの代わりにプルラン(株式会社林原、分子量約20万)を用いる以外は、実施例5と同様の反応を行った。ただし、プルランの仕込み量はデキストランの3分の2として、硫酸基を含む分離剤を得た。イオン交換容量は670μeq/mL、IgG吸着容量は91mg/mLであった。
図8に、クロマトグラフィー評価の結果を示した。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約21分と約38分であり、ピーク分離度Rsは1.8であった。
【0041】
実施例5との比較より、担体に含まれるグラフト鎖(水溶性高分子)の分子構造が変化しても、同等の分離性能とIgG吸着容量が得られると推察された。
【0042】
実施例8
TOYOPEARL HW−65Cをガラスフィルターにとり、水で洗浄・吸引濾過を繰り返した後、DMFで同様に洗浄し、DMF湿潤ゲルとした(含液率83重量%)。
【0043】
上記のDMF湿潤ゲル20gを攪拌機付き反応器にとり、DMFを17g、三酸化硫黄ピリジン錯体を7gを加え、70℃で20時間反応した。反応終了後、ゲルをガラスフィルターで濾過して 、0.5mol/L水酸化ナトリウムで洗浄した後、水で洗浄し、硫酸基を含む分離剤を得た。イオン交換容量は590μeq/mL、IgG吸着容量は45mg/mLであった。
図9に、クロマトグラフィー評価の結果を示した。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約17分と約35分であり、ピーク分離度Rsは1.3であった。この結果より、担体を直接硫酸化した場合においても、抗体の単量体と重合体に対する分離性能が発現すると考えられた。
【0044】
比較例1
分離剤として、スルホン酸型の強陽イオン交換体であるTOYOPEARL SP−650M(東ソー株式会社、粒子径40〜90μm)を用いた以外は、実施例1と同じ条件でIgGの単量体とIgGの重合体との混合物のクロマトグラフィー分離を検討した。得られたクロマトグラムを
図10に示す。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約12分と約17分であり、ピーク分離度Rsは0.6であった。
【0045】
比較例2
分離剤として、デキストランのグラフト鎖を含む架橋アガロース担体から成る、スルホン酸型充填剤SP Sepharose XL(GEヘルスケア・ジャパン株式会社、粒子径45〜165μm)を用いた以外は、実施例1の記載と同一条件でIgGの単量体とIgGの重合体との混合物の分離を行なった。その結果、
図11に示したとおり、IgGの単量体とIgGの重合体のピーク分離は見られなかった。
【0046】
実施例1〜8と比較例1及び2との比較より、担体に固定化されている官能基がスルホン酸基(R―SO
3―;Rは担体を表す)である場合は、抗体の単量体と抗体の重合体の分離が不十分であり、硫酸基(R―OSO
3―;Rは担体を表す)を固定化した場合にのみ高い選択性が得られることが分かる。
【0047】
比較例3
特許文献(国際公開第2007/123242号公報)に従って、TOYOPEARL HW−65Cにポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社、分子量約25万)を固定化した分離剤を試作して、実施例1の記載と同一条件でIgGの単量体とIgGの重合体との混合物の分離を行なった。
図12に得られたクロマトグラムを示した。IgGの単量体と重合体の溶出時間はそれぞれ約18分と約26分であり、ピーク分離度Rsは1.3であった。また、IgG吸着容量は41mg/mLであった。
【0048】
実施例1〜8との比較より、本発明の方法を適用すると、従来の技術を用いた場合と比べて、より大量の抗体の単量体を効率良く分離・精製できることがわかる。