(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化セリウムに加えて、酸化スズおよび/または酸化チタンを含有する酸化インジウム系酸化物焼結体であって、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化セリウム、酸化スズおよび酸化チタンの含有量が全体の98.5%以上であり、In、GaおよびCeの原子数の合計に対する、Inの原子数比:In/(In+Ga+Ce)が0.30〜0.54、Gaの原子数の比:Ga/(In+Ga+Ce)が0.30〜0.52、Ceの原子数の比:Ce/(In+Ga+Ce)が0.16〜0.32であり、In、Ga、Ce、SnおよびTiの原子数の合計に対する、Snの原子数の比:Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)が0.04以下、Tiの原子数の比:Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)が0.01以下であり、かつ、該酸化物焼結体中にGaおよびCe、ならびに、Snおよび/またはTiが均一に分散している、酸化インジウム系酸化物焼結体。
酸化インジウム粉末と、酸化ガリウム粉末と、酸化セリウム粉末とを、全体の原料粉末の95%以上となり、かつ、In、GaおよびCeの原子数の合計に対する、Inの原子数比:In/(In+Ga+Ce)が0.36〜0.54、Gaの原子数の比:Ga/(In+Ga+Ce)が0.30〜0.48、Ceの原子数の比:Ce/(In+Ga+Ce)が0.16〜0.32となるように粉砕混合し、これらの原料粉末からなる混合粉末を含む混合スラリーを混合工程と、
前記混合スラリーを噴霧乾燥することで造粒粉末を得る造粒工程と、
前記造粒粉末を加圧成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼成し、酸化物焼結体を得る焼成工程と
を備える、請求項1または請求項1を引用する請求項3に記載の酸化インジウム系酸化物焼結体の製造方法。
酸化インジウム粉末と、酸化ガリウム粉末と、酸化セリウム粉末と、酸化スズ粉末および/または酸化チタン粉末とを、全体の原料粉末の98.5%以上となり、かつ、In、GaおよびCeの原子数の合計に対する、Inの原子数比:In/(In+Ga+Ce)が0.30〜0.54、Gaの原子数の比:Ga/(In+Ga+Ce)が0.30〜0.52、Ceの原子数の比:Ce/(In+Ga+Ce)が0.16〜0.32、かつ、In、Ga、Ce、SnおよびTiの原子数の合計に対する、Snの原子数の比:Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)が0.04以下、Tiの原子数の比:Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)が0.01以下となるように粉砕混合し、これらの原料粉末からなる混合粉末を含む混合スラリーを得る混合工程と、
前記混合スラリーを噴霧乾燥することで造粒粉末を得る造粒工程と、
この造粒粉末を加圧成形し、成形体を得る成形工程と、
この成形体を焼成し、酸化物焼結体を得る焼成工程と
を備える、請求項2または請求項3に記載の酸化インジウム系酸化物焼結体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
透明導電酸化物膜は、高い導電性と、可視光領域での高い透過率を有するため、太陽電池、液晶表示素子、その他の各種受光素子の電極などに利用されている。また、自動車や建築物の窓ガラスなどの熱線反射膜、各種の帯電防止膜、冷凍ショーケースなどの防曇用の透明発熱体としても広く利用されている。
【0003】
透明導電酸化物膜としては、主として、酸化インジウム系(In
2O
3+α)の酸化物膜、酸化亜鉛系(ZnO+α)の酸化物膜、酸化錫系(SnO
2+α)の酸化物膜が広く知られている。これらのうち、酸化インジウム系の酸化物膜が最も多く使用されているが、その中でも酸化錫をドーパントとして含む酸化インジウム膜(In
2O
3−Sn系膜)は、ITO(IndiumTin Oxide)膜と称され、低抵抗の透明導電酸化物膜が容易に得られることから、広範に利用されている。
【0004】
光学的に有効な酸化物膜も数多く知られており、それぞれの酸化物膜の特徴を的確に組み合わせた積層体としての応用がなされている。代表的な例としては、特定の波長の光が選択的に反射または透過するように設計された多層の反射防止膜が挙げられる。また、光学特性のみならず、帯電防止、電磁波遮蔽などの付加価値を付けた機能性多層膜(光学膜)も提案されている。
【0005】
多層構造の反射防止膜の分光特性は、各層の屈折率(n)、消衰係数(k)、および膜厚(d)によって決定される。すなわち、積層体の構成の決定は、多層膜を構成する各層の屈折率、消衰係数および膜厚のデータに基づいた計算によって行われる。この場合、高屈折率膜と低屈折率膜を組み合わせることを基本とし、必要に応じて、中間屈折率膜も組み入れることによって、より優れた光学特性をもつ多層膜(光学膜)が実現されている。
【0006】
一般に、高屈折率材料(n>1.9)としては、チタン(Ti)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)およびハフニウム(Hf)などの酸化物が、低屈折率材料としては、シリコン(Si)の酸化物が使用されている。
【0007】
これらの酸化物膜を形成する方法しては、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法などがよく用いられている。これらの中でも、スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料を成膜する際や、精密な膜厚制御を必要とする場合に、有効な手段として知られている。
【0008】
スパッタリング法では、一般的にアルゴン(Ar)ガスを使用し、約10Pa以下のガス圧の下で、陽極上に基板を置き、成膜する酸化物透明導電膜の原料となるスパッタリングターゲットを陰極として電圧を印加する。電圧を印加された電極間には、グロー放電が起こってアルゴンプラズマが発生し、プラズマ中のアルゴン陽イオンが陰極のスパッタリングターゲットに衝突する。この衝突によって次々と弾き飛ばされる粒子が基板上に順次堆積して薄膜を形成する。
【0009】
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波プラズマを用いる高周波スパッタリング法、直流プラズマを用いる直流スパッタリング法などがある。このうち、直流スパッタリング法は、成膜速度が比較的速い、電源設備が安価である、成膜操作が簡単であるなどの理由で、工業的に広範に利用されている。
【0010】
直流スパッタリング法を用いて酸化物膜を成膜する場合には、導電性のスパッタリングターゲットを用いる必要がある。たとえば、導電性物質の母体中に高抵抗物質が含まれたスパッタリングターゲットを用いて直流スパッタリングを行うと、アルゴン陽イオンの照射により高抵抗物質の部分が帯電し、アーク放電が発生し、安定して成膜することができない。
【0011】
高屈折率の酸化物膜の材料となる酸化物は、いずれも導電性に乏しく、これらの酸化物のスパッタリングターゲットを用いた場合、直流スパッタリング法によって安定した成膜を行うことはできない。このため、直流スパッタリング法によって、これらの高屈折率の酸化物膜を得るためには、導電性を有する金属ターゲットを用いて、酸素を多く含む雰囲気で、金属粒子と酸素を反応させながらスパッタリングを行う、いわゆる反応性スパッタリング法を用いることが必要となる。しかしながら、反応性スパッタリング法における薄膜の成膜速度は極めて遅いため、生産性が著しく損なわれる。このために生産コストが高くなってしまい、反応性スパッタリング法を用いた成膜工程が、高屈折率の酸化物膜の製造上の大きな問題になっている。
【0012】
これに対して、特開平9−176841号公報には、酸化インジウム(In
2O
3)と酸化セリウム(Ce
2O
3)を主成分とし、微量のスズ(Sn)および/またはチタン(Ti)を添加した酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットが記載されている。このスパッタリングターゲットは導電性に優れ、直流スパッタリングが可能であり、かつ、このターゲットより得られる透明導電酸化物膜は、高い屈折率(2.3程度)を備えたものであるとされている。しかしながら、この透明導電酸化物膜は、可視域短波長側の消衰係数が5.0×10
-2以上であり、多層の反射防止膜の構成材料としては、透過性が十分ではない。
【0013】
一方、特開平9−259640号公報や特開2010−10347号公報には、酸化インジウム(In
2O
3)を主成分とし、所定量のガリウム(Ga)を添加した酸化物焼結体を成膜材料として用いることで、得られる透明導電酸化物薄膜の光透過性(消衰係数)が改善されることが記載されている。しかしながら、これらの文献に記載の技術はタッチパネルや薄膜太陽電池を対象としたものであり、反射防止膜などの光学膜を対象としたものではない。また、これらの文献からも明らかなように、ガリウム添加量によっては透過性が十分でなかったり、導電性が著しく低下し、直流スパッタリング法による成膜が不可能となるといった問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、上述の問題に鑑みて、鋭意研究を重ねた結果、光学膜を成膜するためのスパッタリングターゲットの材料として用いられる酸化インジウム系酸化物焼結体に、所定量のガリウム(Ga)およびセリウム(Ce)を添加することにより、高い屈折率を有しながらも、可視域短波長側において消衰係数が低い光学膜を形成することができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0025】
1.酸化物焼結体
本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体は、主成分として、酸化インジウム、酸化ガリウムおよび酸化セリウムを含有し、あるいは、これらに加えて、所定量の酸化スズおよび/または酸化ガリウムをさらに含有し、かつ、これらの成分が酸化物焼結体中に均一に分散していることを特徴とする。このような本発明の酸化物焼結体は導電性に優れ、また、相対密度を95%以上とすることができるため、これをターゲットとして用いた場合に、直流スパッタリング法による成膜が可能となる。また、このようにして得られる薄膜は、屈折率が2.1以上、かつ、消衰係数が4.08×10
-2以下という優れた光学的特性を示す。したがって、本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体は、光学膜を形成するためのスパッタリングターゲットとして好適に使用することができる。
【0026】
(1)組成
[In−Ga−Ce系酸化物焼結体]
本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体のうち、In−Ga−Ce系酸化物焼結体においては、酸化インジウム、酸化ガリウムおよび酸化セリウムの含有量が全体の95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上であることが必要とされる。これらの含有量が全体の95%未満では、この酸化物焼結体を用いて光学膜を形成した場合に、上述した特性を得ることができない。
【0027】
Inの含有量は、In、GaおよびCeの原子数の合計に対するInの原子数比:In/(In+Ga+Ce)(以下、「In/(In+Ga+Ce)原子数比」という)で、0.36〜0.54、好ましくは0.38〜0.54、より好ましくは0.40〜0.51とする。In/(In+Ga+Ce)原子数比が0.36未満では、酸化物焼結体の導電性が著しく低下し、直流スパッタリング法による成膜が不可能となる。一方、In/(In+Ga+Ce)原子数比が0.54を超えると、他の構成成分の含有量との関係で、所望の効果を得ることができなくなる。
【0028】
Gaは、本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることで得られる光学膜の、可視域短波長側の消衰係数を低減させるために添加する元素である。Gaの含有量は、In、GaおよびCeの原子数の合計に対するGaの原子数の比:Ga/(In+Ga+Ce)(以下、「Ga/(In+Ga+Ce)原子数比」という)で、0.30〜0.48、好ましくは0.32〜0.48、より好ましくは0.36〜0.42とする。Ga/(In+Ga+Ce)原子数比が0.30未満では、消衰係数の低減効果が十分に得られない。一方、Ga/(In+Ga+Ce)原子数比が0.48を超えると、消衰係数を低減させることはできるものの、他の構成成分の含有量との関係で、所望の効果を得ることができなくなる。
【0029】
Ceは、本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることで得られる光学膜の屈折率を向上させるために添加する元素である。Ceの含有量は、In、GaおよびCeの原子数の合計に対するCeの原子数の比:Ce/(In+Ga+Ce)(以下、「Ce/(In+Ga+Ce)原子数比」という)で、0.16〜0.32、好ましくは0.16〜0.30、より好ましくは0.18〜0.28とする。Ce/(In+Ga+Ce)原子数比が0.16未満では、屈折率
を十分に向上させることができない。一方、Ce/(In+Ga+Ce)原子数比が0.32を超えると、屈折率を向上させることはできるが、他の構成成分の含有量との関係で、所望の効果を得ることができなくなる。
【0030】
[In−Ga−Ce―Sn/Ti系酸化物焼結体]
本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体においては、GaおよびCeに加えて、その相対密度を向上させる観点から、スズ(Sn)および/またはチタン(Ti)を添加することができる。このようなIn−Ga−Ce―Sn/Ti系酸化物焼結体においては、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化セリウムならびに酸化スズおよび/または酸化チタンの含有量が全体の98.5%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上であることが必要とされる。これらの含有量が全体の98.5%未満では、この酸化物焼結体を用いて光学膜を形成した場合に、上述した特性を得ることができない。
【0031】
この場合、Snの含有量は、In、Ga、Ce、SnおよびTiの原子数の合計に対するSnの原子数の比:Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)(以下、「Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比」という)で、0.04以下、好ましくは0.035以下、より好ましくは0.03以下とする。また、Tiの含有量は、In、Ga、Ce、SnおよびTiの原子数の合計に対するTiの原子数の比:Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)(以下、「Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比」という)で、0.01以下、好ましくは0.008以下、より好ましくは0.005以下とする。Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比が0.04を超え、または、Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比が0.01超えると、In、GaおよびCeの含有量が適切な範囲内にあっても、所望の効果を得ることができなくなる。なお、SnおよびTiの含有量の下限は特に限定されるべきものではないが、相対密度を向上させるという効果を安定して得るためには、Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比を0.02以上、Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比を0.001以上とすることが好ましく、Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比を0.025以上、Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比を0.003以上とすることがより好ましい。
【0032】
また、In−Ga−Ce−Sn/Ti系酸化物焼結体においては、上述したIn−Ga−Ce系酸化物焼結体と比べて、Inの含有量を若干少なくし、Gaの含有量を若干多くすることが可能である。具体的には、酸化物焼結体中の、In/(In+Ga+Ce)原子数比を、0.30〜0.54、好ましくは0.30〜0.50、より好ましくは0.38〜0.43とすることができる。また、Ga/(In+Ga+Ce)原子数比を、0.30〜0.52、好ましくは0.35〜0.50、より好ましくは0.40〜0.50とすることができる。これは、In−Ga−Ce―Sn/Ti系酸化物焼結体ではSnおよび/またはTiの添加により、酸化物焼結体の比抵抗が低下するため、Inの含有量を少なくし、Gaの含有量を多くしても、直流スパッタリングに必要な導電性が確保されるからである。
【0033】
[添加元素M]
このほか、本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体では、In−Ga−Ce系酸化物焼結体、In−Ga−Ce―Sn/Ti系酸化物焼結体のいずれにおいても、相対密度や導電性などの特性を向上させることを目的として、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、アルミニウム(Al)などから選択される少なくとも1種の添加元素Mを含有してもよい。ただし、このような添加元素Mの含有量は、酸化物焼結体全体の1.5%以下、好ましくは0.5%以下とすることが必要となる。
【0034】
(2)結晶構造
本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体は、この酸化物焼結体中に、GaおよびCe、あるいは、これらに加えてSnおよび/またはTiが均一に分散した結晶構造を有している。より具体的には、In−Ga−Ce系酸化物焼結体では、CeO
2相、GaInO
3相が均一に分散した結晶構造、あるいは、Inの含有量によっては、これらの相に加えてIn
2O
3相が均一に分散した結晶構造を有している。また、In−Ga−Ce−Sn/Ti系酸化物焼結体では、CeO
2相が均一に分散した結晶構造、あるいは、GaやInの含有量によっては、CeO
2相に加えてGaInO
3相やIn
2O
3相が均一に分散した結晶構造を有している。なお、Ga、Ce、SnおよびTiは、CeO
2相、GaInO
3相またはIn
2O
3相に固溶していてもよい。このような酸化物焼結体に含まれる結晶相を特定する方法は、特に限定されることはなく、たとえば、X線回折(XRD)により特定することができる。
【0035】
このように、各構成成分が均一に分散している本発明の酸化物焼結体では、酸化ガリウムや酸化セリウムなどの絶縁性酸化物が偏析することがない。このため、本発明の酸化物焼結体をターゲットとして用いてスパッタリングを行った場合には、異常放電(アーキング)の発生を抑制することができ、工業規模の生産において、効率的に光学膜を形成することが可能となる。
【0036】
(3)相対密度
本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体においては、相対密度が95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。相対密度をこのような範囲とすることで、酸化物焼結体の強度および導電性を向上させることができ、この酸化物焼結体をターゲットとして用いてスパッタリングを行った際に、ターゲットの割れやアーキングの発生を効果的に防止することができる。なお、酸化物焼結体の相対密度は、各構成成分の密度を、酸化インジウム:7.18g/cm
3、酸化ガリウム:6.16g/cm
3、酸化セリウム:7.18g/cm
3、酸化スズ:6.91g/cm
3、酸化チタン:4.26g/cm
3として加重平均密度(理論密度)を算出し、この理論密度に対する、アルキメデス法などによって実測した酸化物焼結体の密度の割合を算出することにより求めることができる。
【0037】
(4)導電性
上述したように、本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体は、GaおよびCeまたはこれらに加えてSnやTi、さらには添加元素Mが均一に分散しており、かつ、高い相対密度を有しているため、優れた導電性を示す。このため、本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体をターゲットとして用いた場合には、直流スパッタリング法による成膜が可能となる。
【0038】
2.酸化物焼結体の製造方法
本発明の酸化物焼結体の製造方法は、上述した構成成分を所定量含有し、かつ、各構成成分が酸化インジウム系酸化物焼結体中に均一に分散している限り、特に限定されることはない。このような製造方法の一例としては、酸化インジウム粉末と、酸化ガリウム粉末と、酸化セリウム粉末とを、あるいは、これらに加えて、酸化スズ粉末および/または酸化チタン粉末とを、所定の混合比となるように粉砕混合し、これらの原料粉末からなる混合粉末を含む混合スラリーを得て、この混合スラリーを噴霧乾燥することにより造粒粉末とし、この造粒粉末を加圧成形した後、焼成する方法を挙げることができる。なお、酸化物焼結体中に添加元素Mの酸化物をさらに含有させる場合には、混合工程において、所定量の添加元素Mの酸化物粉末をさらに加えて粉砕混合をすればよい。
【0039】
(1)原料粉末
本発明の酸化物焼結体の原料としては、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、酸化セリウム粉末、あるいは、これらに加えて、酸化スズ粉末および/または酸化チタン粉末を使用することができる。また、酸化物焼結体に添加元素Mを含有させる場合には、添加元素Mの酸化物粉末を使用することができる。なお、各金属酸化物の粉末は、各酸化物の酸化数などによって制限されることはない。
【0040】
これらの原料粉末の平均粒径は、好ましくは0.1μm〜3.0μm、より好ましくは0.4μm〜0.5μmとする。平均粒径が0.1μm未満では、混合粉末が凝集して、均一に混合することが困難となる。一方、平均粒径が3.0μmを超えると、得られる酸化物焼結体において、相対密度を95%以上とすることが困難となる。なお、本発明において、原料粉末の平均粒径とは、メディアン径を意味し、粒度分布計によって測定することができる。
【0041】
(2)混合工程
混合工程は、上述した原料粉末を所定量秤量し、これを粉砕混合して、これらの原料粉末からなる混合粉末を含むスラリーを得る工程である。
【0042】
混合工程においては、目的とする酸化物焼結体の組成比となるように、各原料粉末を秤量することが必要となる。具体的には、In−Ga−Ce系酸化物焼結を得る場合には、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末および酸化セリウム粉末の合計が全体の95%以上となるように、かつ、混合粉末中の、In/(In+Ga+Ce)原子数比が0.36〜0.54、Ga/(In+Ga+Ce)原子数比が0.30〜0.48、Ce/(In+Ga+Ce)原子数比が0.16〜0.32となるように秤量することが必要となる。
【0043】
また、In−Ga−Ce−Sn/Ti系酸化物焼結体を得る場合には、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スズ粉末および酸化チタン粉末の合計が全体の98.5%以上となるように、かつ、混合粉末中の、In/(In+Ga+Ce)原子数比が0.30〜0.54、Ga/(In+Ga+Ce)原子数比が0.30〜0.52、Ce/(In+Ga+Ce)原子数比が0.16〜0.32、Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比が0.04以下、Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比が0.01以下となるように秤量することが必要となる。
【0044】
次に、混合粉末に対して、0.5質量%〜1.5質量%となるように水溶性バインダを調合し、混合粉末と水とともに樹脂製ポットへ入れ、湿式粉砕および混合を行い、平均粒径が0.5μm以下の混合粉末を含むスラリー(混合スラリー)を得る。この工程において、水溶性バインダとしては、加熱により焼失または気化するものであれば特に限定されることはなく、ポリビニルアルコール(PVA)などの公知のバインダを使用することができる。また、この際の混合方法としては、ボールミルやビーズミルなどの公知の手段を用いることができるが、作業効率や品質を向上させる観点から、ビーズミルを用いることが好ましい。なお、ビーズやボールとしては、たとえば、硬質のジルコニア(ZrO
2)製のものを使用することができる。
【0045】
原料粉末の粉砕混合は、混合スラリーに含まれる混合粉末の平均粒径が0.5μm以下、好ましくは0.45μm以下となるまで継続する必要がある。混合粉末の平均粒径がこのような範囲となるまで粉砕混合することにより、得られる酸化物焼結体の相対密度を95%以上とすることができる。なお、粉砕混合時間は、混合方法や使用する装置によって適宜調整されるべきものであり、混合粉末の平均粒径を上記範囲とすることができる限り、特に制限されることはないが、ボールミルの場合には15時間〜28時間、ビーズミルの場合には3パス〜7パスとすることが好ましい。粉砕混合時間が不足すると、各構成成分を均一に分散させることができなくなる。一方、粉砕混合時間が過度に長いと、生産性が悪化するばかりでなく、ボールまたはビーズに起因する微粉が不純物として取り込まれてしまうおそれがある。
【0046】
(3)造粒工程
造粒工程は、混合スラリーを噴霧乾燥し、造粒粉末を得る工程である。
【0047】
混合スラリーを噴霧乾燥する方法は特に限定されることはなく、スプレードライヤなどの公知の手段を用いることができる。この場合の条件は、使用する装置の性能に応じて適宜選択されるものであるが、概ね、スラリー濃度を55%〜70%とし、噴霧乾燥時の熱風温度を140℃〜160℃程度とすることが好ましい。また、このような噴霧乾燥により得られる造粒粉末の平均粒径は、好ましくは10μm〜80μm、より好ましくは30μm〜60μmとする。造粒粉末の平均粒径をこのような範囲に制御することにより、得られる酸化物焼結体の相対密度を容易に95%以上とすることができる。
【0048】
(4)成形工程
成形工程は、造粒粉末を成形型に充填し、加圧成形することにより成形体を得る工程である。加圧成形の方法としては、特に限定されることはないが、生産性の観点から、冷間静水圧プレス(CIP)により加圧成形することが好ましい。なお、この際の圧力は250MPa〜350MPa程度とする。
【0049】
(5)焼成工程
焼成工程は、成形工程で得られた成形体を所定条件の下で焼成し、この成形体中に含まれる有機成分を除去し(脱バインダ過程)、酸化性雰囲気下、脱バインダ工程よりも高温域で焼成することにより(焼成過程)、酸化物焼結体を得る工程である。
【0050】
脱バインダ過程では、成形体中の有機成分の除去を容易に行うことができる範囲、たとえば、室温から有機成分の除去が完全に完了する500℃までの昇温時間を20時間程度とすることが好ましい。この際の雰囲気は特に限定されることはなく、酸化性雰囲気や真空雰囲気のいずれでもよいが、生産コストの観点から、大気雰囲気とすることが好ましい。
【0051】
一方、焼成過程においては、焼成温度を1400℃〜1500℃、好ましくは1400℃〜1450℃とする。焼成温度が1400℃未満では、得られる酸化物焼結体の相対密度が低下するため好ましくない。一方、1500℃を超えると、原料成分の揮発により、得られる酸化物焼結体の相対密度の低下や組成ずれが生じるばかりでなく、原料成分の溶融により、成形体の形状が変形してしまう場合がある。
【0052】
また、上記温度での保持時間(焼成時間)は、15時間〜30時間、好ましくは15時間〜20時間とする。焼成時間がこの範囲であれば、エネルギ(電力)の使用量を抑制しつつ、高い生産性をもって、高品質の酸化物焼結体を得ることができる。
【0053】
さらに、焼成過程における雰囲気は、大気雰囲気(酸素濃度:21体積%)よりも高濃度の酸素雰囲気、好ましくは酸素濃度が30%以上の雰囲気とする。このような高濃度の酸素雰囲気で焼成を行うことにより、得られる酸化物焼結体の相対密度を向上させることができる。なお、酸素濃度の上限は制限されることなく、100体積%とすることもできるが、生産コストを考慮すると、通常は30体積%程度とすれば十分である。
【0054】
3.光学膜
本発明の光学膜は、上述した酸化インジウム系酸化物焼結体をターゲットとして用いて、スパッタリングすることより得られ、屈折率が2.1以上であり、かつ、波長が380nmにおける消衰係数が4.08×10
-2以下であることを特徴とする。
【0055】
(1)成膜方法
本発明の酸化インジウム系酸化物焼結体をターゲットとして用いて成膜を行う際のスパッタリング法については、何ら制限されることなく、公知のいずれの手段を用いることができるが、量産性の観点から、直流スパッタリング法、たとえば直流マグネトロンスパッタリング装置を用いた手段を採ることが好ましい。
【0056】
また、この際の成膜条件は特に限定されることはなく、通常の条件により成膜することができる。たとえば、直流マグネトロンスパッタリング装置により、スパッタリングを行う場合には、ターゲット−基板間距離:35mm〜120mm、基板温度:室温℃〜300℃、到達真空度:1×10
-3Pa以下、導入ガス:10%以下のO
2ガスを含むArガス、ガス圧:0.1Pa〜1.0Pa、投入電力:直流0.55W/cm
2〜5.50W/cm
2とすることができる。
【0057】
(2)光学膜
このようにして得られる本発明の光学膜は、高い屈折率を有しながらも、可視域短波長側における消衰係数を低いものとすることできる。具体的には、可視分光光度計により測定する波長300nm〜1000nmの可視光を用いて、分光エリプソメトリにより測定した場合に、波長550nmにおける屈折率が2.1以上、好ましくは2.12以上となり、かつ、波長380nmにおける消衰係数を4.08×10
-2以下、好ましくは2.95×10
-2以下という特性を備える。
【0058】
このような光学膜の組成は成膜条件に依存する場合もあるが、通常は、上述したような適切な条件下で成膜を行うことにより、スパッタリングターゲットとして用いられる酸化物焼結体の組成と同様とすることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例では、得られた酸化物焼結体の相対密度、導電性、結晶性および直流スパッタリングの可不可の評価、ならびに、この酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして成膜することにより得られる光学膜の屈折率および消衰係数について、次の方法により評価した。
【0060】
(a)相対密度
得られた酸化物焼結体を一定の大きさに切り出した試料を用意し、この試料の密度をアルキメデス法により測定した。次に、各原料粉末の密度を酸化インジウム:7.18g/cm
3、酸化ガリウム:6.16g/cm
3、酸化セリウム:7.18g/cm
3、酸化スズ:6.91g/cm
3、酸化チタン:4.26g/cm
3として加重平均密度(理論密度)を算出し、この加重平均密度を100%として、相対密度を算出することにより評価した。
【0061】
(b)導電性
同様にして用意した試料の比抵抗を、四探針法抵抗率計ロレスタGP(株式会社三菱化学アナリテック製、MCP−T610型)を用いて、四探針法により測定することにより評価した。具体的には、四探針法により求められる比抵抗が1×10
5Ω・cm以下のものを「導通あり(○)」、1×10
5Ω・cmを超えるものを「導通なし(×)」として評価した。
【0062】
(c)結晶構造
同様にして用意した試料の結晶構造を、X線回折装置(PANalytical製、X‘Pert PRO MPD)を用いて分析することにより、評価した。
【0063】
(d)直流スパッタリング
実施例1〜12および比較例1〜9により得られた酸化物焼結体をターゲットとして用いて直流スパッタリングを行った際に、放電することができるか否かを目視により観察することにより評価した。
【0064】
(e)屈折率および消衰係数
実施例1〜12および比較例1〜9により得られた光学膜に対して、可視分光光度計(日本分光株式会社製、Ubest V−570iRM/DS)により測定する可視光を用いて、分光エリプソメトリ装置(J.A.Woollam社製、VASE)により、波長550nmにおける屈折率および波長380nmにおける消衰係数を測定することにより評価した。
【0065】
[In−Ga−Ce系酸化物焼結体]
(実施例1)
原料粉末として、酸化インジウム粉末(平均粒径:0.42μm)、酸化ガリウム粉末(平均粒径:1.4μm)、酸化セリウム粉末(平均粒径:0.59μm)を用意した。
【0066】
これらの原料粉末を、混合粉末中の、In/(In+Ga+Ce)原子数比が0.432、Ga/(In+Ga+Ce)原子数比が0.400、Ce/(In+Ga+Ce)原子数比が0.168となるように秤量し、混合粉末の質量に対して1.4質量%となるように秤量した水溶性バインダと、純水とともに、樹脂製ポッドに入れた。これを、ボールミル(ZrO
2ボールを使用)を用いて24時間、粉砕および混合を行った後、得られた混合スラリーを、スプレードライヤを用いて噴霧乾燥し、平均粒径が50μmの造粒粉末を得た。
【0067】
この造粒粉末をφ216mm×10mmの成形型に充填し、CIPにより、294MPa(3ton/cm
2)の圧力で加圧成形することにより成形体を得た。
【0068】
続いて、この成形体を焼結炉(株式会社モトヤマ製)内に載置し、500℃まで加熱し、この間の昇温時間を20時間保持することにより、水溶性バインダなどの有機成分を除去した。その後、炉内容積1m
3あたり100L/分で酸素を導入し、その酸素濃度を30体積%とするとともに、1400℃まで昇温し、この温度で20時間焼成することにより、酸化インジウム系酸化物焼結体を得た。
【0069】
この酸化物焼結体を室温まで冷却した後、焼結炉から取り出し、研削加工することで、直径6インチ(152.4mm)、厚さ5mmの酸化インジウム系スパッタリングターゲットを得た。ICP発光分光測定装置(株式会社島津製作所製、ICPS8100)による組成分析の結果、この酸化インジウム系スパッタリングターゲット(酸化物焼結体)の組成は、原料粉末の配合時の組成と同一であることが確認された。また、このスパッタリングターゲットに対して、(a)〜(c)の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0070】
最後に、このスパッタリングターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートにメタルボンディングして、直流電源を用いたマグネトロンスパッタリング装置(株式会社トッキ製)にセットし、下記の条件で放電することにより、(d)の評価を行うとともに、ガラス基板上に、膜厚200nmの光学膜を成膜した。ICP発光分光測定装置による組成分析の結果、この光学膜の組成は、スパッタリングターゲットの組成と同一であることが確認された。また、この光学膜に対して、(e)の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0071】
(スパッタリング条件)
ターゲット−基板間距離:60mm
基板温度:200℃
到達真空度:1×10
-3Pa以下
導入ガス:10%以下のO
2ガスを含むArガス
ガス圧:0.5Pa
投入電力:直流200W/cm
2
【0072】
(実施例2〜4および比較例1、2)
表1に示すように、各原料粉末の混合比を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、酸化インジウム系スパッタリングターゲットを得た。ICP発光分光測定装置による組成分析の結果、これらの酸化インジウム系スパッタリングターゲットの組成は、いずれも、原料粉末の配合時の組成と同一であることが確認された。また、これらのスパッタリングターゲットに対して、(a)〜(c)の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0073】
続いて、実施例1と同様にして、このスパッタリングターゲットをバッキングプレートにボンディングして、マグネトロンスパッタリング装置にセットし、放電することで(d)の評価を行うとともに、ガラス基板上に、膜厚200nmの光学膜を成膜した。なお、比較例2のスパッタリングターゲットでは、比抵抗が大きく、直流スパッタリングにより成膜することができなかったため、高周波スパッタリング法により光学膜を成膜した。ICP発光分光測定装置による組成分析の結果、この光学膜の組成は、スパッタリングターゲットの組成と同一であることが確認された。また、この光学膜に対して、(e)の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
[In−Ga−CeーSn/Ti系酸化物焼結体]
(実施例5)
原料粉末として、酸化インジウム粉末(平均粒径:0.42μm)、酸化ガリウム粉末(平均粒径:1.4μm)、酸化セリウム粉末(平均粒径:0.59μm)、酸化スズ粉末(平均粒径:1.66μm)および酸化チタン粉末(平均粒径:0.86μm)を用意した。
【0076】
これらの原料粉末を、混合粉末中の、Ga/(In+Ga+Ce)原子数比が0.415、Ce/(In+Ga+Ce)原子数比が0.174、Sn/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比が0.031、Ti/(In+Ga+Ce+Sn+Ti)原子数比が0.005となるように秤量し、混合粉末の質量に対して1.4質量%となるように秤量した水溶性バインダと、純水とともに、樹脂製ポッドに入れた。これを、ボールミル(ZrO
2ボールを使用)を用いて24時間、粉砕および混合を行った後、得られた混合スラリーを、スプレードライヤを用いて噴霧乾燥し、平均粒径が52μmの造粒粉末を得た。
【0077】
この造粒粉末をφ216mm×10mmの成形型に充填し、CIPにより、294MPa(3ton/cm
2)の圧力で加圧成形することにより成形体を得た。
【0078】
500℃まで加熱し、この間の昇温時間を20時間保持することにより、水溶性バインダなどの有機成分を除去した。その後、炉内容積1m
3あたり100L/分で酸素を導入し、その酸素濃度を30体積%とするとともに、1400℃まで昇温し、この温度で20時間焼成することにより、酸化インジウム系酸化物焼結体を得た。
【0079】
この酸化物焼結体を室温まで冷却した後、焼結炉から取り出し、研削加工することで、直径6インチ(152.4mm)、厚さ5mmの酸化インジウム系スパッタリングターゲットを得た。ICP発光分光測定装置による組成分析の結果、この酸化インジウム系スパッタリングターゲット(酸化物焼結体)の組成は、原料粉末の配合時の組成と同一であることが確認された。また、このスパッタリングターゲットに対して、(a)〜(c)の評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0080】
最後に、このスパッタリングターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートにメタルボンディングして、直流電源を用いたマグネトロンスパッタリング装置にセットし、実施例1と同条件で放電することにより、(d)の評価を行うとともに、ガラス基板上に、膜厚200nmの光学膜を成膜した。ICP発光分光測定装置による組成分析の結果、この光学膜の組成は、スパッタリングターゲットの組成と同一であることが確認された。また、この光学膜に対して、(e)の評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0081】
(実施例6〜13および比較例3〜9)
表2に示すように、各構成成分の組成比を変更したこと、および、実施例7において、焼成温度を1450℃としたこと以外は、実施例5と同様にして、酸化インジウム系スパッタリングターゲットを得た。ICP発光分光測定装置による組成分析の結果、これらの酸化インジウム系スパッタリングターゲットの組成は、いずれも、原料粉末の配合時の組成と同一であることが確認された。また、これらのスパッタリングターゲットに対して、(a)〜(c)の評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0082】
続いて、実施例5と同様にして、このスパッタリングターゲットをバッキングプレートにボンディングして、マグネトロンスパッタリング装置にセットし、放電することで(d)の評価を行うとともに、ガラス基板上に、膜厚200nmの光学膜を成膜した。なお、比較例4および5のスパッタリングターゲットでは、比抵抗が大きく、直流スパッタリングにより成膜することができなかったため、高周波スパッタリング法により光学膜を成膜した。ICP発光分光測定装置による組成分析の結果、この光学膜の組成は、スパッタリングターゲットの組成と同一であることが確認された。また、この光学膜に対して、(e)の評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
[評価]
表1および表2より、酸化物焼結体中のGaおよびCeの含有量が本発明に規定する範囲内にある実施例1〜12の酸化物焼結体(スパッタリングターゲット)は、いずれも、相対密度が95%以上で導電性を示し、直流スパッタリング法による成膜が可能であることが確認される。また、実施例1〜12のスパッタリングターゲットは、スパッタリング時にアーキングがほとんど発生しなかったことから、各構成成分が均一に分散したものであると考えられる。さらに、このスパッタリングターゲットにより得られた実施例1〜12の光学膜は、屈折率:2.1以上、消衰係数:4.08×10
-2以下を達成しており、反射防止膜などの用途に適用可能であることが確認される。
【0085】
これに対して、比較例1〜9は、Ga、Ce、SnおよびTiの含有量のいずれかが、本発明に規定する範囲から外れる例である。このため、比較例1〜9では、直流スパッタリング法による成膜ができなかったり、あるいは、屈折率または消衰係数を十分なものとすることができなかった。