(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0020】
以下の説明において、(メタ)アクリル酸には、アクリル酸及びメタクリル酸の両者が含まれる。また、(メタ)アクリレートには、アクリレート及びメタクリレートの両者が含まれる。さらに、(メタ)アクリロニトリルには、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの両者が含まれる。
さらに、ある物質が水溶性であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5重量%未満であることをいう。一方、ある物質が非水溶性であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90重量%以上であることをいう。
【0021】
〔1.二次電池用多孔膜〕
本発明の二次電池用多孔膜(以下、「本発明の多孔膜」ということがある。)は、非導電性粒子、水溶性重合体及び粒子状バインダーを含む膜である。
【0022】
〔1−1.非導電性粒子〕
非導電性粒子としては、有機微粒子を用いる。有機微粒子は、有機化合物によって形成された微粒子である。非導電性微粒子として有機微粒子を用いることにより、本発明の多孔膜は、下記のような利点を得ることができる。
【0023】
第一に、本発明の多孔膜は、通常、水分含有量を少なくできる。
有機微粒子は、当該有機微粒子の表面の官能基の種類及び量を調整することにより、水に対する親和性を制御できる。このため、非導電性粒子として適切な有機微粒子を用いれば、本発明の多孔膜に含まれる水分量を制御できる。また、非導電性粒子として従来使用されていた無機微粒子は、一般に表面に水和膜を有するので、従来の多孔膜においては水分量を減らそうとしても限界があった。これに対して有機微粒子は水和膜の影響を排除できるので、本発明の多孔膜は水分量を低くすることが可能である。
【0024】
第二に、本発明の多孔膜は、通常、ドライルームの外部から内部へと移したときにカールを抑制することができる。
一般に、無機微粒子よりも有機微粒子の方が、柔軟性に優れる。このため、有機微粒子は無機微粒子よりも応力を吸収する能力に優れる。したがって、カールの原因となる応力を小さくできるので、本発明の多孔膜は、カールを抑制することができる。
【0025】
第三に、本発明の多孔膜は、通常、電極及びセパレーターに対する密着強度を高めることができる。
有機微粒子は、同じく有機化合物で形成される粒子状バインダー及び水溶性重合体に対して一般に高い親和性を有し、融着を生じやすい。また、通常は有機化合物を含む電極合剤層及び有機セパレーターに対しても、有機微粒子は高い親和性を有し、融着を生じやすい。このため、非導電性粒子として無機微粒子を用いた従来の多孔膜に比べ、本発明の多孔膜は、有機微粒子、粒子状バインダー及び水溶性重合体が互いに強く接着しており、また、多孔膜と電極合剤層及び有機セパレーターとの接着力も高い。このため、本発明の多孔膜は、電極及びセパレーターに対する密着強度が向上している。
【0026】
第四に、本発明の多孔膜は、通常、絶縁性を高めることができる。
非導電性粒子として有機微粒子を用いることにより、多孔膜が含む金属の量を小さくできる。このため、短絡が生じる可能性を小さくできるので、本発明の多孔膜の絶縁性を高めることができる。また、本発明の多孔膜により短絡を生じにくくできるので、本発明の多孔膜を用いれば二次電池を製造する際の不良品の発生率を小さくして、歩留まりを向上させることができる。
【0027】
ところで、本発明の多孔膜は、有機化合物で形成された粒子として、非導電性粒子としての有機微粒子の他に、粒子状バインダーも含む。有機微粒子と粒子状バインダーとは、結着性により区別しうる。すなわち、有機微粒子は、結着性を有さず、100℃以下にガラス転移温度及び軟化点を有しない粒子である。他方、粒子状バインダーは、結着性を有する粒子である。
【0028】
有機微粒子を形成する有機化合物としては、通常、重合体を用いる。中でも、芳香族モノビニル単量体単位を含む重合体が好ましい。芳香族モノビニル単量体単位とは、芳香族モノビニル単量体を重合して形成される構造単位である。芳香族モノビニル単量体単位は安定であるので、芳香族モノビニル単量体単位を含む重合体を用いることにより、有機微粒子の電解液への溶解性を低下させて、本発明の多孔膜を安定化させることができる。
【0029】
芳香族モノビニル単量体としては、例えば、スチレン;スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩等のスチレン誘導体;などが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。スチレンを用いることにより、電解液に対する有機微粒子の膨潤度(即ち、電解液で濡らしたときの有機微粒子の膨潤度)の抑制ができる。また、芳香族モノビニル単量体及び芳香族モノビニル単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0030】
有機微粒子を形成する重合体における芳香族モノビニル単量体単位の含有割合は、通常10重量%以上、好ましくは15重量%以上であり、通常100重量%以下、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。芳香族モノビニル単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば電解液に対する有機微粒子の膨潤度を抑制でき、上限値以下であれば柔軟性の確保ができる。重合体における芳香族モノビニル単量体単位の割合は、通常、重合体を製造する際に用いる全単量体に対する芳香族モノビニル単量体の割合(仕込み比)と一致する。
【0031】
また、有機微粒子は、芳香族モノビニル単量体単位と、ジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位の一方又は両方とを含む共重合体であることが好ましい。ここでジビニルベンゼン単量体単位とは、ジビニルベンゼンを重合して形成される構造単位である。また、(メタ)アクリル系多官能単量体単位とは、(メタ)アクリル系多官能単量体を重合して形成される構造単位である。芳香族モノビニル単量体単位と、前記のジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位の一方又は両方とを含む共重合体からなる有機微粒子は、電解液に溶出し難く、高い融点を維持することができるので、本発明の多孔膜の安定性を効果的に高めることができる。
【0032】
ジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位の中でも、(メタ)アクリル系多官能単量体単位が好ましい。(メタ)アクリル系多官能単量体の例を挙げると、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、及びトリメタクリレート化合物等を挙が挙げられる。
【0033】
ジアクリレート化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2´−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、及び2,2´−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパンを挙げることができる。
【0034】
トリアクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、及びテトラメチロールメタントリアクリレートを挙げることができる。
【0035】
テトラアクリレート化合物としては、例えば、テトラメチロールメタンテトラアクリレートを挙げることができる。
【0036】
ジメタクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、及び2,2´−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパンを挙げることができる。
【0037】
トリメタクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、及びトリメチロールエタントリメタクリレートを挙げることができる。
【0038】
これらの(メタ)アクリル系多官能単量体の中でも、ジアクリレート化合物やジメタクリレート化合物が好ましく、エチレングリコールジメタクリレートがより好ましい。エチレングリコールジメタクリレートを用いることにより、有機微粒子の密着力が向上し、粉落ちを低減することができる。
また、前記の(メタ)アクリル系多官能単量体及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
有機微粒子を形成する重合体におけるジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位の含有割合は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上であり、通常100重量%以下、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。ジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば電解液に対する有機微粒子の膨潤度を抑制でき、上限値以下であれば多孔膜の絶縁性を維持することができる。重合体におけるジビニルベンゼン単量体単位の割合は、通常、重合体を製造する際に用いる全単量体に対するジビニルベンゼン単量体の割合と一致する。また、重合体における(メタ)アクリル系多官能単量体単位の割合は、通常、重合体を製造する際に用いる全単量体に対する(メタ)アクリル系多官能単量体の割合と一致する。
【0040】
さらに、有機微粒子を形成する重合体は、芳香族モノビニル単量体単位、ジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位以外の構造単位を含んでいてもよい。
例えば、有機微粒子を形成する重合体は、極性基含有単量体単位を含んでいてもよい。極性基含有単量体単位とは、極性基含有単量体を重合して形成される構造単位である。また、極性基含有単量体とは、分子構造中に極性基を含有し、且つ、有機微粒子を形成する重合体の他の単量体の1種類以上と共重合しうる単量体である。さらに、極性基とは、水中で解離しうる官能基及び分極を有する官能基のことをいう。極性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、水酸基、アミド基、カチオン性基、シアノ基、エポキシ基などが挙げられる。
【0041】
極性基含有単量体としては、例えば、カルボキシ基を含有する単量体、スルホン酸基を含有する単量体、水酸基を含有する単量体、アミド基を含有する単量体、カチオン性単量体、シアノ基を含有する単量体、エポキシ基を含有する単量体及びこれらの塩を挙げることができる。
【0042】
カルボキシ基を含有する単量体としては、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、及びフルオロマレイン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、例えば、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、及びマレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
【0043】
スルホン酸基を含有する単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0044】
水酸基を含有する単量体としては、例えば、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH
2=CR
1−COO−(C
nH
2nO)
m−H(mは2ないし9の整数、nは2ないし4の整数、R
1は水素又はメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0045】
アミド基を含有する単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0046】
カチオン性単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0047】
シアノ基を含有する単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物が挙げられる。
【0048】
エポキシ基を含有する単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0049】
カルボキシ基を含有する単量体、スルホン酸基を含有する単量体、水酸基を含有する単量体、アミド基を含有する単量体、カチオン性単量体、及びシアノ基を含有する単量体の塩としては、例えば、上に列挙した単量体と、それらと組み合わせうる適切なイオンとにより構成される塩が挙げられる。このような塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、モノエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等の有機アミン塩などを挙げることができる。
【0050】
前記の極性基含有単量体の中でも、カルボキシ基を含有する単量体及びアミド基を含有する単量体が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸及びアクリルアミドが特に好ましい。
また、極性基含有単量体及び極性基含有単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、例えば、有機微粒子を形成する重合体は、非架橋性の単量体単位を含んでいてもよい。非架橋性の単量体単位とは、非架橋性の単量体を重合して形成される構造単位である。非架橋性の単量体としては、例えば、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルエチルアクリレート等のアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル単量体;ブタジエン、イソプレン等の共役二重結合化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル化合物;4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン化合物;などを挙げることができる。
【0052】
芳香族モノビニル単量体、ジビニルベンゼン単量体及び(メタ)アクリル系多官能単量体以外の単量体、及び、その単量体が重合して形成される構造単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0053】
有機微粒子を形成する重合体における芳香族モノビニル単量体単位、ジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位以外の構造単位の含有割合は、通常0重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上であり、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。芳香族モノビニル単量体単位、ジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位以外の構造単位の割合が前記範囲の下限値以上であれば多孔膜の絶縁性が維持でき、上限値以下であれば電解液に対する有機微粒子の膨潤度を抑制ができる。重合体における芳香族モノビニル単量体単位、ジビニルベンゼン単量体単位及び(メタ)アクリル系多官能単量体単位以外の構造単位の割合は、通常、重合体を製造する際に用いる全体量体に対する芳香族モノビニル単量体、ジビニルベンゼン単量体及び(メタ)アクリル系多官能単量体以外の単量体の割合と一致する。
【0054】
また、有機微粒子として、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂など各種高分子化合物などで形成された粒子を用いてもよい。
【0055】
非導電性粒子は、下記式(1)を満たすことが好ましい。
1.2≦(SB)/(SD)≦5.0 (1)
【0056】
式(1)において、SBは非導電性粒子の実際の比表面積を意味し、SDは非導電性粒子の理論比表面積を意味する。SB及びSDそれぞれの単位は面積/重量であり、通常m
2/gとしうる。
実際の比表面積SBは、ガス吸着法により測定される。ガス吸着法による測定は、例えば、全自動BET比表面積測定装置(製品名「Macsorb HM model-1208」(株)マウンテック製)を用いて行うことができる。
【0057】
理論比表面積SDは、非導電性粒子の個数平均粒子径及び比重の測定値から、かかる粒子径及び比重を有する真球の粒子の比表面積として求められる値である。
ここで、個数平均粒子径は、粒径−個数積算分布において、積算分布の値が50%となる粒径である。非導電性粒子の個数平均粒子径は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば製品名「LS230」、ベックマン・コールター社製)を用いて測定しうる。
非導電性粒子の比重は、密度計、例えば乾式自動密度計(製品名「アキュピック1330−01」、島津製作所社製)を用いて測定される。
測定された個数平均粒子径を2r(m)、比重をG(g/cm
3)とすると、半径r(m)の真球状粒子の面積S′(m
2)及び体積V(m
3)はそれぞれ次式で表される。
S′=4πr
2
V=(4πr
3)/3
この場合、粒子1g当たりに含まれる粒子の個数Nは次式で表される。
N=1/VG
したがって、非導電性粒子の理論比表面積SD(m
2/g)は次式により求められる。
SD=S′N=S′/VG=3/rG
【0058】
比表面積比(SB)/(SD)の範囲は、通常1.2以上、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.4以上であり、通常5.0以下、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下である。比表面積比(SB)/(SD)を前記範囲の下限値以上にすることにより、非導電性粒子同士の摩擦力を高め、多孔膜の強度を維持できるようにして、非導電性粒子間の隙間が詰まらないようにできる。その結果、サイクル試験での性能の低下、高温短絡試験での性能の低下を防止することができる。他方、比表面積比(SB)/(SD)を前記範囲の上限値以下とすることにより、充填密度を高め、非導電性粒子同士の接触面積を広くできる。これにより、多孔膜の強度を維持できるようにして、電池において電極間の距離の近接を防止できる。その結果、サイクル試験中の容量低下、高温短絡試験での性能の低下を防止することができる。
【0059】
非導電性粒子の実際の比表面積SBの範囲は、通常4.8m
2/g以上、好ましくは6.5m
2/g以上、より好ましくは8.4m
2/g以上であり、通常300m
2/g以下、好ましくは120m
2/g以下、より好ましくは60m
2/g以下である。
非導電性粒子の理論比表面積SDの範囲は、通常4m
2/g以上、好ましくは5m
2/g以上、より好ましくは6m
2/g以上であり、通常60m
2/g以下、好ましくは30m
2/g以下、より好ましくは20m
2/g以下である。
【0060】
比表面積比(SB)/(SD)及び形状係数が前記の条件を満たす非導電性粒子は、球状度の高い球状の粒子であり、且つ表面に微細な凹凸を有する。非導電性粒子の形状をかかる特定の形状とすることにより、前記の通り、良好な性能を有する多孔膜を得ることができる。
【0061】
比表面積比(SB)/(SD)及び形状係数が前記の条件を満たす非導電性粒子は、後で述べる非導電性粒子の製造方法において、条件を適切に調整することにより製造することができる。特にシード粒子の組成や分子量の制御により、これらの値を所望の範囲に調整することができる。
【0062】
非導電性粒子の個数平均粒径は、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは300nm以上であり、好ましくは1500nm以下、より好ましくは1200nm以下、更に好ましくは1000nm以下、中でも好ましくは800nm以下、特に好ましくは700nm以下である。非導電性粒子の個数平均粒径をかかる範囲内とすることにより、非導電性粒子同士が接触部を有しつつ、イオンの移動が阻害されない程度に、非導電性粒子同士の隙間を形成できる。したがって、非導電性粒子の平均粒径が前記範囲内であれば、多孔膜の強度が向上し、且つ電池の短絡を防止することができる。また、二次電池のサイクル特性を向上させることも可能である。
【0063】
また、非導電性粒子は、熱天秤により窒素雰囲気下で昇温速度10℃/分で加熱したときの減量割合が10重量%に達する温度(以下、この温度をT10値という。)が360℃以上であることが好ましい。非導電性粒子のT10値をこの範囲とすることにより、本発明の多孔膜の耐熱性が向上し、高温での短絡を防止する能力がより向上する。T10値の上限は、特に限定されないが、700℃以下としてもよい。
【0064】
非導電性粒子としての有機微粒子は、例えば、有機微粒子を形成する重合体の単量体を含む重合性単量体組成物を用意し、この重合性単量体組成物において単量体を重合させることにより製造しうる。この製造方法では、媒体に単量体及び必要に応じて他の任意の成分を溶解又は分散させ、かかる液中で重合することが好ましい。
【0065】
重合に用いうる媒体としては、例えば、水、有機溶媒、及びこれらの混合物を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、ラジカル重合に不活性でかつ単量体の重合を阻害しないものを用いうる。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、シクロヘキサノール、オクタノールなどのアルコール類;フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル類;シクロヘキサノンなどのケトン類;及びこれらの混合液が挙げられる。好ましくは、媒体として水などの水性の媒体を用い、重合方式として乳化重合を採用することである。
【0066】
乳化重合においては、重合を複数の段階に分けて行うことが、所望の形状を得る上で好ましい。例えば、単量体の一部を先に重合させることによりシードポリマーを形成し、その後シードポリマーに他の単量体を吸収させ、その後その状態で重合を行い、非導電性粒子を得てもよい。さらには、シードポリマーの形成に際し、重合をさらに複数の段階に分けて行ってもよい。
【0067】
具体例を挙げると、次のような方法が挙げられる。まず、単量体の一部を用いてシードポリマーAを形成する。その後、かかるシードポリマーAと、単量体の別の一部を用いてより大きなシードポリマーBを形成する。さらに、かかるシードポリマーBと、単量体の残余とを用いて、非導電性粒子を形成してもよい。このように、シードポリマーを2段階の反応で形成し、それからさらに非導電性粒子を形成することにより、安定して所望の粒径及び形状係数を有する有機微粒子が得られる。
【0068】
この場合、シードポリマーを形成するための単量体としてスチレンを用いることが、シードポリマーの単量体吸収性確保のため好ましい。また、極性基含有単量体の一部又は全部(好ましくは全部)を、シードポリマーを形成する際に用いることが、粒子の安定性確保のため好ましい。
さらに、(メタ)アクリル系多官能単量体は、シードポリマーと単量体との反応において、シードポリマーと反応させる単量体として反応系に加えて重合を行うことが好ましい。
【0069】
シードポリマーと単量体とを反応させる際のシードポリマーと単量体との量比は、シードポリマー粒子1重量部に対する単量体の割合として、好ましくは2重量部以上、より好ましくは3重量部以上、更に好ましくは4重量部以上であり、好ましくは19重量部以下、より好ましくは16重量部以下、更に好ましくは12重量部以下である。単量体の割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、得られる有機微粒子の機械的強度及び耐熱性を高めることができる。また、上限値以下とすることにより、シードポリマー粒子の単量体吸収能力が不足しない範囲の量比とすることができるので、シードポリマー粒子に吸収されない単量体量を少ない範囲に保ち、粒子径のコントロールを良好に行うことができる。このため、粗大粒子及び多量の微少粒子の発生を抑制して、得られる有機微粒子の粒子径分布が広くなることを防止できる。
【0070】
重合の具体的な操作としては、例えば、シードポリマー粒子の水性分散体に対して単量体を一時に投入する方法;重合を行いながら単量体を分割して又は連続的して反応系に供給する方法;などが挙げられる。中でも、重合が開始することによりシードポリマー粒子中において実質的に架橋が生ずる前に、シードポリマー粒子に単量体を吸収させることが好ましい。重合の中期以降にシードポリマーに単量体を吸収させようとしても、単量体はシードポリマー粒子に吸収され難い。このため、微少粒子が多量に生じて重合安定性が悪くなり、重合反応を維持することができくなる可能性がある。そのため、シードポリマー粒子に対してすべての単量体を重合開始前に添加するか、重合転化率が30%程度に達する前にすべての単量体の添加を終了させておくことが好ましい。特に重合の開始前にシードポリマー粒子の水性分散体に単量体を加えて撹拌し、シードポリマーに単量体を吸収させた後に、重合を開始することが好ましい。
【0071】
重合の反応系には、上述した単量体、シードポリマー及び媒体の他に、任意成分を含ませてもよい。任意成分としては、例えば、重合開始剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、懸濁保護剤、界面活性剤等が挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0072】
重合開始剤としては、例えば、水溶性ラジカル重合開始剤あるいは油溶性のラジカル重合開始剤を用いてもよい。中でも、シードポリマー粒子に吸収されない単量体が水相で重合を開始することが少ないので、水溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。
水溶性のラジカル開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化水素、あるいはこれら還元剤の組み合わせによるレドックス系開始剤などが挙げられる。
油溶性の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、α,α´−アゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどが挙げられる。油溶性の重合開始剤のなかでは、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートが好ましい。
【0073】
重合禁止剤としては、例えば、重クロム酸カリウム、塩化第二鉄、ハイドロキノンなどが挙げられる。ここで例示した重合禁止剤は水溶性の重合禁止剤である。これらの重合禁止剤を反応系に少量含ませると、微少粒子の発生を抑制することができる。
【0074】
連鎖移動剤は、通常、重合体の分子量を調整することを目的として用いられる。連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン、n−オクチル−3−メルカプトプロピオン酸エステル、ターピノーレン、四臭化炭素及びα−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。
【0075】
懸濁保護剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0076】
界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物などのアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレートなどのノニオン系界面活性剤;などが挙げられる。また、これらのアニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤とを組み合わせて用いてもよい。
【0077】
重合開始剤と界面活性剤とを組み合わせて用いる場合には、水溶性の重合開始剤と、その重合系においてC.M.C濃度以下で且つC.M.C濃度近傍の濃度の界面活性剤とを組み合わせることが好ましい。ここでC.M.C濃度とは臨界ミセル濃度を意味し、C.M.C濃度近傍の濃度とはC.M.C.濃度の通常0.3倍〜1.0倍の濃度を意味する。これにより、界面活性剤を安定化剤として機能させることができ、重合時の反応系の安定性を確保しながら目的の粒子径で粒子径分布の狭い非導電性粒子を再現性よくコントロールして得ることが可能となる。
【0078】
本発明の多孔膜における非導電性粒子の含有割合は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは65重量%以上であり、好ましくは95重量%以下である。本発明の多孔膜における非導電性粒子の含有割合をこの範囲内とすることにより、非導電性粒子同士が接触部を有しつつ、イオンの移動が阻害されない程度に、非導電性粒子同士の隙間を形成できる。したがって、非導電性粒子の含有割合が前記範囲内であれば、本発明の多孔膜の強度を向上させ、電池の短絡を安定して防止することができる。
【0079】
〔1−2.水溶性重合体〕
水溶性重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを、それぞれ特定の比率で含む共重合体である。水溶性重合体は、水を溶媒として多孔膜用のスラリー組成物を調製した場合に、非導電性粒子を覆って非導電性粒子の分散性を高めるので、均一な多孔膜を得ることができる。また、本発明の多孔膜において、水溶性重合体は非導電性粒子同士を連結する機能も有する。また、水溶性重合体は、結着力に優れるため、本発明の多孔膜を電極合剤層又は有機セパレーターから剥れ難くできる。さらに、この水溶性重合体は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有することにより撥水性を有し、水を手放し易い傾向があるため、ドライルームへ移す前に本発明の多孔膜内の水分量を十分に減らすことができるので、水分量の変化による多孔膜の変形を抑制できる。
【0080】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位とは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して形成される構造単位を意味する。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、非導電性粒子、電極合剤層及び有機セパレーターへの密着性を高めるカルボキシ基(−COOH基)を含み、強度が高い構造単位であるので、電極及びセパレーターに対する本発明の多孔膜の密着強度を高めたり、本発明の多孔膜の強度を向上させたりできる。
【0081】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましい。水溶性重合体の水に対する分散性がより高めることができるからである。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0082】
水溶性重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、通常50重量%以下、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上となることによって、水溶性重合体の水への溶解性を高くできる。また、上限値以下となることによって、本発明の多孔膜と有機セパレーターとの密着性を高めることができる。水溶性重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、通常、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体に対するエチレン性不飽和カルボン酸単量体の割合と一致する。
【0083】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して形成される構造単位を意味する。ただし、(メタ)アクリル酸エステル単量体の中でもフッ素を含有するものは、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として(メタ)アクリル酸エステル単量体とは区別する。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は強度が高いので、水溶性重合体の分子を安定化させることができる。
【0084】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。また、これらは1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0085】
水溶性重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、通常40重量%以上、好ましくは45重量%以上、より好ましくは50重量%以上であり、通常70重量%以下、好ましくは65重量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上となることによって、本発明の多孔膜と有機セパレーターとの密着性を高めることができる。また、上限値以下となることによって、本発明の多孔膜の電解液への膨潤性を抑制して、本発明の二次電池用セパレーター(以下、「本発明のセパレーター」ということがある。)のイオン伝導性を高くできる。水溶性重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、通常、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体に対する(メタ)アクリル酸エステル単量体の割合と一致する。
【0086】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して形成される構造単位である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことにより、水溶性重合体は弾性変形が可能となるので、本発明の多孔膜の強度を高めることができ、また、水分量の変化により生じる応力を緩和させてカールの発生を防止できる。さらに、水溶性重合体がフッ素を含むようにすることで、本発明の多孔膜の水に対する親和性を低減させ、多孔膜の水分量を減らす効果も期待される。
【0087】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、下記の式(I)で表される単量体が挙げられる。
【0089】
前記の式(I)において、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。
前記の式(I)において、R
2は、フッ素原子を含有する炭化水素基を表す。炭化水素基の炭素数は、通常1以上であり、通常18以下である。また、R
2が含有するフッ素原子の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。
【0090】
式(I)で表されるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の例を挙げると、(メタ)アクリル酸フッ化アルキル、(メタ)アクリル酸フッ化アリール、(メタ)アクリル酸フッ化アラルキルなどが挙げられる。なかでも(メタ)アクリル酸フッ化アルキルが好ましい。このような単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸β−(パーフルオロオクチル)エチル、(メタ)アクリル酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル、(メタ)アクリル酸1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル、(メタ)アクリル酸1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2、2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステルなどが挙げられる。また、これらは1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0091】
水溶性重合体におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が前記範囲の下限値以上となることによって、本発明の多孔膜のイオン伝導性を高くできる。また、前記範囲の上限値以下となることによって、本発明の多孔膜の有機セパレーターへの密着性を高くできる。水溶性重合体におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、通常、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体に対するフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の割合と一致する。
【0092】
また、水溶性重合体は、架橋性単量体単位を含むことが好ましい。架橋性単量体単位を含むことにより、水溶性重合体の水溶性を損なわない範囲で水溶性重合体の分子量を高め、電解液に対する水溶性重合体の膨潤度が過度に高くならないようにできる。ここで、架橋性単量体単位とは、架橋性単量体を重合して形成される構造単位を表す。また、架橋性単量体とは、重合により架橋構造を形成しうる単量体を表す。架橋性単量体の例としては、通常、熱架橋性を有する単量体が挙げられる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体;1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
【0093】
熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0094】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0095】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0096】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンが挙げられる。
【0097】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンが挙げられる。
【0098】
1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミド、及びジビニルベンゼンが挙げられる。
【0099】
これらの例示物の中でも、架橋性単量体としては、特に、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、及びグリシジルメタクリレートが好ましい。
また、架橋性単量体及び架橋性単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
水溶性重合体における架橋性単量体単位の含有割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、通常2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。架橋性単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、水溶性重合体の分子量を高め、水溶性重合体の電解液による膨潤を抑制し、本発明の多孔膜の膨らみを抑制できる。一方、架橋性単量体単位の割合を前記範囲の上限値以下とすることにより、水溶性重合体の水に対する可溶性を高め、分散性を良好にすることができる。したがって、架橋性単量体単位の比率を前記範囲内とすることにより、膨潤度及び分散性の両方を良好なものとすることができる。水溶性重合体における架橋性単量体単位の割合は、通常、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体に対する架橋性単量体の割合と一致する。
【0101】
また、水溶性重合体は、反応性界面活性剤単位を含むことが好ましい。反応性界面活性剤単位を含むことにより、水溶性重合体の水に対する溶解性及び多孔膜用のスラリー組成物の分散性を高めることができる。ここで、反応性界面活性剤単位とは、反応性界面活性剤単量体を重合して得られる構造単位を表す。また、反応性界面活性剤単量体とは、他の単量体と共重合しうる重合性の基を有し、且つ、界面活性基(即ち、親水性基及び疎水性基)を有する単量体を表す。反応性界面活性剤単量体の重合により得られる反応性界面活性剤単位は、水溶性重合体の分子の一部を構成し、且つ界面活性剤として機能しうる。
【0102】
通常、反応性界面活性剤単量体は重合性不飽和基を有し、この重合性不飽和基が重合後に疎水性基としても作用する。重合性不飽和基の例としては、ビニル基、アリル基、ビニリデン基、プロペニル基、イソプロペニル基、及びイソブチリデン基が挙げられる。かかる重合性不飽和基の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0103】
また、反応性界面活性剤単量体は、親水性を発現する部分として、通常は親水性基を有する。反応性界面活性剤単量体は、親水性基の種類により、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に分類される。
【0104】
アニオン系の親水性基の例としては、−SO
3M、−COOM、及び−PO(OH)
2が挙げられる。ここでMは、水素原子又はカチオンを示す。カチオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミンのアンモニウムイオン;並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンのアンモニウムイオンが挙げられる。
カチオン系の親水基の例としては、−Cl、−Br、−I、及び−SO
3OR
Xが挙げられる。ここでR
Xは、アルキル基を示す。R
Xの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基等が挙げられる。
ノニオン系の親水基の例としては、−OHが挙げられる。
【0105】
好適な反応性界面活性剤単量体の例としては、下記の式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0107】
式(II)において、Rは2価の結合基を表す。Rの例としては、−Si−O−基、メチレン基及びフェニレン基等が挙げられる。また、式(II)において、R
3は親水性基を表す。R
3の例としては、−SO
3NH
4が挙げられる。さらに、式(II)において、nは1以上100以下の整数を表す。反応性界面活性剤単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0108】
水溶性重合体における反応性界面活性剤単位の含有割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。反応性界面活性剤単位の割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、多孔膜用のスラリー組成物の分散性を向上させることができ、均一な多孔膜を得ることができる。一方、反応性界面活性剤単位の割合を前記範囲の上限値以下とすることにより、多孔膜中の水分量を低く抑えられるので、本発明の多孔膜の耐久性を向上させることができる。水溶性重合体における架反応性界面活性剤単位の割合は、通常、水溶性重合体を製造する際に用いる全単量体に対する反応性界面活性剤単量体の割合と一致する。
【0109】
水溶性重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述したエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位及び反応性界面活性剤単位以外の構造単位を含んでいてもよい。このような構造単位は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、架橋性単量体及び反応性界面活性剤と共重合可能な単量体を重合して形成される構造単位である。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0110】
水溶性重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位及び反応性界面活性剤単位以外の構造単位の割合は、好ましくは0重量%〜10重量%、より好ましくは0重量%〜5重量%である。
【0111】
水溶性重合体の重量平均分子量は、好ましくは100以上、より好ましくは500以上、特に好ましくは1000以上であり、好ましくは500000以下、より好ましくは250000以下、特に好ましくは150000以下である。水溶性重合体の重量平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより水溶性重合体の強度を高くして安定な多孔膜を形成できるので、例えば非導電性粒子の分散性及び二次電池の高温保存特性などを改善できる。また、上記範囲の上限値以下とすることにより水溶性重合体を柔らかくできるので、例えば本発明の多孔膜の電極合剤層及び有機セパレーターへの密着性の改善などが可能となる。ここで、水溶性重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)によって、アセトニトリルの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリエチレンオキサイド換算の値として求めうる。
【0112】
水溶性重合体のガラス転移温度は、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、好ましくは40℃以上であり、通常80℃以下、好ましくは75℃以下、より好ましくは70℃以下である。水溶性重合体のガラス転移温度が上記範囲であることにより、本発明の多孔膜の密着性と柔軟性とを両立させることができる。なお、水溶性重合体のガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。
【0113】
水溶性重合体は、1重量%水溶液とした場合の粘度が、好ましくは0.1mPa・s以上、より好ましくは1mPa・s以上、特に好ましくは10mPa・s以上であり、好ましくは20000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、特に好ましくは5000mPa・s以下である。前記の粘度を上記範囲の下限値以上とすることにより水溶性重合体の強度を高くして本発明の多孔膜の耐久性を向上させたり、多孔膜用のスラリー組成物の安定性を高くしたりできる。また、上限値以下とすることにより多孔膜用のスラリー組成物の塗布性を良好にして、本発明の多孔膜と電極合剤層及び有機セパレーターとの密着強度を向上させることができる。前記の粘度は、例えば、水溶性重合体の分子量によって調整できる。また、前記の粘度は、E型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0114】
水溶性重合体の製造方法としては、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で重合して製造してもよい。
水系溶媒としては、例えば、水;ダイアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン等のケトン類;エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、ブチルセロソルブ、3−メトキシー3メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;などが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、特に好ましい。また、主溶媒として水を使用して、上記記載の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0115】
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。重合方法としては、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いてもよい。
【0116】
これにより、通常は水系溶媒に水溶性重合体が溶解した水溶液が得られる。こうして得られた水溶液から水溶性重合体を取り出してもよいが、通常は、水系溶媒に溶解した状態の水溶性重合体を用いて多孔膜用のスラリー組成物を製造し、その多孔膜用スラリー組成物を用いて本発明の多孔膜を製造する。
【0117】
水溶性重合体を水系溶媒中に含む前記の水溶液は通常は酸性であるので、必要に応じて、pH7〜pH13にアルカリ化してもよい。これにより水溶液の取り扱い性を向上させることができ、また、多孔膜用のスラリー組成物の塗布性を改善することができる。pH7〜pH13にアルカリ化する方法としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液;水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等のアルカリ土類金属水溶液;アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を混合する方法が挙げられる。また、前記のアルカリ水溶液は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0118】
水溶性重合体の量は、非導電性粒子100重量部に対して、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。水溶性重合体の量が前記範囲の下限値以上となることにより、本発明の多孔膜の電極合剤層及び有機セパレーターへの密着性を高めることができる。また、上限値以下となることにより、本発明の多孔膜のイオン伝導性を高くできる。
【0119】
〔1−3.粒子状バインダー〕
粒子状バインダーは、本発明の多孔膜の機械的強度を維持する役割を果たす。通常、粒子状バインダーとしては、非水溶性の粒子状の重合体を用いる。
【0120】
粒子状バインダーを形成する非水溶性の重合体としては、ジエン系重合体又はアクリレート系重合体を用いることが好ましい。
【0121】
ジエン系重合体は、脂肪族共役ジエン系単量体単位を含む重合体である。脂肪族共役ジエン系単量体単位は剛性が低く柔軟な構造単位であるので、脂肪族共役ジエン系単量体単位を含む重合体を粒子状バインダーとして用いることにより、本発明の多孔膜と電極及びセパレーターとの密着性を高めることができる。
【0122】
脂肪族共役ジエン系単量体単位は、脂肪族共役ジエン系単量体を重合して形成される構造単位である。脂肪族共役ジエン系単量体の例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、並びに置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。また、脂肪族共役ジエン系単量体及び脂肪族共役ジエン系単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0123】
ジエン系重合体において、脂肪族共役ジエン系単量体単位の含有割合は、通常20重量%以上、好ましくは30重量%以上であり、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは55重量%以下である。脂肪族共役ジエン系単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることによって、本発明の多孔膜の柔軟性を高めることができ、また、上限値以下とすることによって本発明の多孔膜と電極又はセパレーターとの十分な密着性を得たり、本発明の多孔膜の耐電解液性を高めたりすることができる。
【0124】
ジエン系重合体は、芳香族ビニル系単量体単位を含むことが好ましい。芳香族ビニル系単量体単位は安定であり、当該芳香族ビニル系単量体単位を含むジエン系重合体の電解液への溶解性を低下させて本発明の多孔膜を安定化させることができる。
【0125】
芳香族ビニル系単量体単位は、芳香族ビニル系単量体を重合して形成される構造単位である。芳香族ビニル系単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。ジエン系重合体は、脂肪族共役ジエン系単量体単位及び芳香族ビニル系単量体単位の両方を含む重合体であることが好ましく、例えばスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。また、芳香族ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0126】
ジエン系重合体の製造に脂肪族共役ジエン系単量体及び芳香族ビニル系単量体を用いる場合、得られるジエン系重合体には、残留単量体として未反応の脂肪族共役ジエン系単量体及び未反応の芳香族ビニル系単量体が含まれることがある。その場合、ジエン系重合体が含む未反応の脂肪族共役ジエン系単量体の量は、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、また、ジエン系重合体が含む未反応の芳香族ビニル系単量体の量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは200ppm以下である。ジエン系重合体が含む脂肪族共役ジエン系単量体の量が前記範囲内であると、スラリー組成物を集電体の表面に塗布及び乾燥させて本発明の多孔膜を製造する際に、多孔膜の表面に発泡による荒れが生じたり、臭気による環境負荷を引き起こしたりすることを防止できる。また、ジエン系重合体が含む芳香族ビニル系単量体の量が前記範囲内であると、乾燥条件に応じて生じる環境負荷及び多孔膜表面の荒れを抑制でき、更には本発明の多孔膜の耐電解液性を高めることができる。
【0127】
ジエン系重合体における芳香族ビニル系単量体単位の含有割合は、通常30重量%以上、好ましくは35重量%以上であり、通常79.5重量%以下、好ましくは69重量%以下である。芳香族ビニル系単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上とすることによって、本発明の多孔膜の耐電解液性を高めることができ、また、上限値以下とすることによって、本発明の多孔膜と電極又はセパレーターとの十分な密着性を得ることができる。
【0128】
ジエン系重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含むことが好ましい。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、電極及びセパレーターへの吸着性を高めるカルボキシ基(−COOH基)を含み、強度が高い構造単位であるので、本発明の多孔膜の剥離を安定して防止でき、また、多孔膜の強度を向上させることができる。
【0129】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を重合して形成される構造単位である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノカルボン酸及びジカルボン酸並びにその無水物が挙げられる。中でも、多孔膜用のスラリー組成物の安定性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる単量体が好ましい。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0130】
ジエン系重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上とすることによって、多孔膜用のスラリー組成物の安定性を高めることができ、また、上限値以下とすることによって、多孔膜用のスラリー組成物の粘度が過度に高くなることを防止して取り扱い易くすることができる。
【0131】
ジエン系重合体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した以外にも任意の構造単位を含んでいてもよい。前記の任意の構造単位に対応する単量体の例としては、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0132】
シアン化ビニル系単量体の例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、及びα−エチルアクリロニトリルが挙げられる。中でも、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルが好ましい。
【0133】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。中でも、メチルメタクリレートが好ましい。
【0134】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体の例としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、及び2−ヒドロキシエチルメチルフマレートが挙げられる。中でも、β−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
【0135】
不飽和カルボン酸アミド単量体の例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、及びN,N−ジメチルアクリルアミドが挙げられる。中でも、アクリルアミド、及びメタクリルアミドが好ましい。
【0136】
さらに、ジエン系重合体は、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体を含んでもよい。
【0137】
アクリレート系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。その中でも、アクリレート系重合体としては、(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む共重合体が好ましい。(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含むアクリレート系重合体は、酸化還元に安定であるので、高寿命の電池を得やすい。また、アクリレート系重合体を粒子状バインダーとして用いることで、本発明の多孔膜の柔軟性が向上し、それによりスリット時や捲回時に本発明の多孔膜から非導電性粒子が脱落することを抑制できる。
【0138】
(メタ)アクリロニトリル単量体単位とは、(メタ)アクリロニトリルを重合して形成される構造単位のことを指す。なお、アクリレート系重合体は、(メタ)アクリロニトリル単量体単位として、アクリロニトリルを重合して形成される構造単位だけを含んでいてもよく、メタクリロニトリルを重合して形成される構造単位だけを含んでいてもよく、アクリロニトリルを重合して形成される構造単位とメタクリロニトリルを重合して形成される構造単位の両方を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0139】
アクリレート系重合体に好適な(メタ)アクリル酸エステルの例を挙げると、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;などが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0140】
アクリレート系重合体が(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む場合、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位に対する(メタ)アクリロニトリル単量体単位の重量比(「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比)は、1/99以上が好ましく、5/95以上がより好ましく、また、30/70以下が好ましく、25/75以下がより好ましい。前記重量比が前記範囲の下限値以上となることにより、粒子状バインダーが電解液に膨潤することによりイオン伝導性が低下することを防止し、レート特性の低下を抑制できる。また、前記重量比が前記範囲の上限値以下となることにより、粒子状バインダーの強度低下による本発明の多孔膜の強度低下を防止できる。通常、粒子状バインダーが含む(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、粒子状バインダーを製造するために用いた全単量体に対する(メタ)アクリロニトリル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体それぞれの割合と一致する。
【0141】
また、アクリレート系重合体は、架橋性基を有することが好ましい。架橋性基を有することにより、粒子状バインダー同士を架橋させたり、水溶性重合体と粒子状バインダーとを架橋させたりできるので、本発明の多孔膜が電解液へ溶解したり膨潤したりすることを抑制でき、強靱で柔軟な多孔膜が実現できる。
【0142】
架橋性基としては、通常は熱により架橋反応を生じる熱架橋性基を用いる。架橋性基の例を挙げると、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキサゾリン基、アリル基などが挙げられる。中でも架橋及び架橋密度の調節が容易であるのでエポキシ基及びアリル基が好ましい。なお、架橋性基の種類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0143】
架橋性基は、アクリレート系重合体の合成時に、架橋性単量体を共重合することでアクリレート系重合体に導入してもよく、架橋性基を有する化合物(架橋剤)を用いた慣用の変性手段によりアクリレート系重合体に導入してもよい。例えば、熱架橋性の架橋性基は、アクリレート系重合体を製造する際に、(メタ)アクリロニトリル単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、熱架橋性の架橋基を含有する単量体と、必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体とを共重合することで、アクリレート系重合体に導入することができる。
【0144】
架橋性単量体の例としては、水溶性重合体の項で挙げた例と同様のものが挙げられる。また、架橋性単量体としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、エピフルオロヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン;p−クロロスチレンオキシド;ジブロモフェニルグリシジルエーテル;などの、ハロゲン原子及びエポキシ基を有する単量体を用いてもよい。さらに、架橋性単量体として、例えば、アリルアクリレート、アリルメタクリレート等の、アリル基を含有する単量体を用いてもよい。また、架橋性単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0145】
架橋剤としては、例えば、有機過酸化物、熱又は光により効果を発揮する架橋剤、などが用いられる。また、架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
架橋剤の中でも、熱架橋性の架橋性基を含有する点で、有機過酸化物、および熱により効果を発揮する架橋剤が好ましい。
【0146】
有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、α,α’ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキシド類:オクタノイルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;パーオキシジカーボネート等のパーオキシエステル類;などが挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、架橋後の樹脂の性能から、ジアルキルパーオキシドが好ましく、アルキル基の種類は、成形温度によって変えることが好ましい。
【0147】
熱により効果を発揮する架橋剤は、加熱によって架橋反応させうるものであれば特に限定されない。例えば、ジアミン、トリアミンまたはそれ以上の脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミンビスアジド、酸無水物、ジオール、多価フェノール、ポリアミド、ジイソシアネート、ポリイソシアネートなどが挙げられる。具体的な例としては、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン類;ジアミノシクロヘキサン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン;1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、メンセンジアミン、イソホロンジアミンN−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環族ポリアミン類;4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、メタフェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン類;4,4−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチル−シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベン等のビスアジド類;無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ノルボルネン樹脂等の酸無水物類;1,3’ブタンジオール、1,4’−ブタンジール、ヒドロキノンジヒドロキシジエチルエーテル、トリシクロデカンジメタノール等のジオール類;1,1,1−トリメチロールプロパン等のトリオール類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等の多価フェノール類;トリシクロデカンジオール、ジフェニルシランジオール、エチレングリコール及びその誘導体、ジエチレングリコール及びその誘導体、トリエチレングリコール及びその誘導体等の多価アルコール類;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−612、ナイロン−12、ナイロン−46、メトキシメチル化ポリアミド、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド等のポリアミド類;ヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート等のジイソシアネート類;ジイソシアネート類の2量体もしくは3量体、ジオール類もしくはトリオール類へのジイソシアネート類のアダクト物等のポリイソシアネート類;イソシアネート部をブロック剤により保護したブロック化イソシアネート類;などが挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、多孔膜の強度、密着性に優れるなどの理由により、芳香族ポリアミン類、酸無水物類、多価フェノール類、多価アルコール類が好ましく、中でも4,4−ジアミノジフェニルメタン(芳香族ポリアミン類)、無水マレイン酸変性ノルボルネン樹脂(酸無水物)、多価フェノール類などが特に好ましい。
【0148】
光により効果を発揮する架橋剤は、g線、h線、i線等の紫外線、遠紫外線、x線、電子線等の活性光線の照射により、アクリレート系重合体と反応し、架橋化合物を生成する光反応性物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、芳香族ビスアジド化合物、光アミン発生剤、光酸発生剤などが挙げられる。
【0149】
芳香族ビスアジド化合物の具体例としては、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルフォン、4,4’−ジアジドベンゾフェノン、4,4’−ジアジドジフェニル、2,7−ジアジドフルオレン、4,4’−ジアジドフェニルメタン等が代表例として挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0150】
光アミン発生剤の具体例としては、芳香族アミンあるいは脂肪族アミンの、o−ニトロベンジロキシカルボニルカーバメート、2,6−ジニトロベンジロキシカルボニルカーバメートあるいはα,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジロキシカルボニルカーバメート体等が挙げられる。より具体的には、例えば、アニリン、シクロヘキシルアミン、ピペリジン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラアミン、1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等のo−ニトロベンジロキシカルボニルカーバメート体が挙げられる。なお、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0151】
光酸発生剤とは、活性光線の照射によって解裂して、ブレンステッド酸あるいはルイス酸等の酸を生成する物質である。その例としては、オニウム塩、ハロゲン化有機化合物、キノンジアジド化合物、α,α−ビス(スルホニル)ジアゾメタン系化合物、α−カルボニル−α−スルホニル−ジアゾメタン系化合物、スルホン化合物、有機酸エステル化合物、有機酸アミド化合物、有機酸イミド化合物等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0152】
アクリレート系重合体における架橋性単量体単位の含有割合は、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対して、0.01重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、また、5重量部以下が好ましく、4重量部以下がより好ましく、3重量部以下が特に好ましい。前記範囲の下限値以上とすることにより、本発明の多孔膜の強度を高くしたり、本発明の多孔膜が電解液で膨潤して二次電池のレート特性が低下することを防止したりできる。また、前記範囲の上限値以下とすることにより、架橋反応が過度に進行することによる本発明の多孔膜の柔軟性の低下を防止できる。通常、アクリレート系重合体が含む架橋性単量体単位の割合は、アクリレート系重合体を製造するために用いた全単量体に対する架橋性単量体単位に対応する単量体又は架橋剤の割合と一致する。
【0153】
さらに、アクリレート系重合体は、上述した構造単位(すなわち、(メタ)アクリロニトリル単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位および架橋性基単量体単位)以外にも、任意の構造単位を含んでいてもよい。これらの任意の構造単位に対応する単量体の例を挙げると、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアミド系単量体;などが挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、上述したような(メタ)アクリロニトリル単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことによる利点を顕著に発揮する観点からは、任意の構造単位の量は少ないことが好ましく、任意の構造単位を含まないことが特に好ましい。
【0154】
粒子状バインダーを形成する重合体の重量平均分子量は、通常は水溶性重合体の重量平均分子量よりも大きく、好ましくは10000以上、より好ましくは20000以上であり、好ましくは500000以下、より好ましくは200000以下である。粒子状バインダーを形成する重合体の重量平均分子量が上記範囲にあると、本発明の多孔膜の強度及び非導電性粒子の分散性を良好にし易い。
【0155】
粒子状バインダーの体積平均粒子径D50は、0.01μm以上が好ましく、また、0.5μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましい。粒子状バインダーの体積平均粒子径D50を前記範囲の下限値以上にすることで、本発明の多孔膜の多孔性を高く維持して多孔膜の抵抗を抑制し、電池物性を良好に保つことができる。また、前記範囲の上限値以下にすることで、非導電性粒子と粒子状バインダーとの接着点を多くして結着性を高くできる。ここで、前記の体積平均粒子径D50は、レーザー回折法で測定された粒度分布において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0156】
粒子状バインダーのガラス転移温度(Tg)は、−50℃以上であることが好ましく、−40℃以上であることがより好ましく、−30℃以上であることが特に好ましく、また、20℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることが特に好ましい。粒子状バインダーのガラス転移温度(Tg)が前記範囲であることにより、本発明の多孔膜の柔軟性が上がり、電極及びセパレーターの耐屈曲性が向上し、本発明の多孔膜が割れることによる不良率を下げることができる。また、本発明の多孔膜、セパレーター及び電極をロールに巻き取る時や捲回時にヒビ、欠け等を抑制することもできる。粒子状バインダーのガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。
【0157】
粒子状バインダーの量は、非導電性粒子100重量部に対して、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。粒子状バインダーの量を前記範囲の下限値以上とすることによって、本発明の多孔膜の強度を高くすることができる。また、前記範囲の上限値以下とすることによって、本発明の多孔膜の透気度を抑制して二次電池のレート特性を良好にすることができる。また、粒子状バインダーの量を前記の範囲とすることは、非導電性粒子同士の結着性及び電極合剤層又は有機セパレーターへの結着性を維持できる点、多孔膜の柔軟性を維持できる点、並びに、Liの移動を阻害して二次電池の抵抗が増大することを抑制できる点でも意義がある。
【0158】
水溶性重合体と粒子状バインダーとの重量比(水溶性重合体/粒子状バインダー)は、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、また、1.5以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。前記重量比が前記範囲の下限値以上となることにより非導電性粒子の分散性と多孔膜の強度を向上させることができ、上限値以下となることにより多孔膜用のスラリー組成物の安定を向上させることができる。
【0159】
粒子状バインダーの製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの、いずれの方法を用いてもよい。中でも、水中で重合をすることができ、そのまま多孔膜用のスラリー組成物の材料として使用できるので、乳化重合法および懸濁重合法が好ましい。また、粒子状バインダーを製造する際、その反応系には分散剤を含ませることが好ましい。
【0160】
分散剤は通常の合成で使用されるものを用いてもよい。分散剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェートナトリウム塩等のエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性乳化剤;ゼラチン、無水マレイン酸−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、重合度700以上かつケン化度75%以上のポリビニルアルコール等の水溶性高分子;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩であり、更に好ましくは、耐酸化性に優れるという点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩である。分散剤の量は任意に設定してもよく、単量体総量100重量部に対して、通常0.01重量部〜10重量部である。
【0161】
〔1−4.任意の成分〕
本発明の多孔膜は、上述した成分以外にも、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分は、本発明の二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無い。また、任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0162】
〔1−5.多孔膜の製造方法〕
本発明の多孔膜は、例えば、適切な基材の表面に多孔膜用のスラリー組成物を塗布して塗膜を形成し、形成した塗膜から水を除去することにより、製造しうる。
【0163】
多孔膜用のスラリー組成物は、非導電性粒子、水溶性重合体、粒子状バインダー及び水、並びに、必要に応じて任意の成分を含む。通常、スラリー組成物では一部の水溶性重合体は水に溶解しているが、別の一部の水溶性重合体が非導電性粒子の表面に吸着することによって、非導電性粒子が水溶性重合体の層(分散安定層)で覆われて、非導電性粒子の水中での分散性が向上している。
【0164】
水は、多孔膜用のスラリー組成物において溶媒として機能する。スラリー組成物においては、水の中でも非導電性粒子が凝集し難く、良好に分散する。
スラリー組成物が含む水の量は、通常、本発明の多孔膜を製造する際に作業性を損なわない範囲の粘度をスラリー組成物が有する範囲で任意に設定する。具体的には、多孔膜用のスラリー組成物の固形分濃度が、通常20重量%〜50重量%となるように水の量を設定する。
【0165】
多孔膜用のスラリー組成物は、粘度調整剤を含んでいてもよい。粘度調整剤を含むことにより、スラリー組成物の粘度を所望の範囲にして、非導電性粒子の分散性を高めたり、スラリー組成物の塗布性を高めたりすることができる。
粘度調整剤としては、水溶性の多糖類を使用することが好ましい。多糖類としては、例えば、天然系高分子、セルロース系半合成系高分子などが挙げられる。また、粘度調整剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0166】
天然系高分子として、例えば、植物もしくは動物由来の多糖類及びたんぱく質等が挙げられる。また、場合により微生物等による発酵処理や、熱による処理がされた天然系高分子も例示できる。これらの天然系高分子は、植物系天然系高分子、動物系天然系高分子及び微生物系天然系高分子等として分類することができる。
【0167】
植物系天然系高分子としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンナン、クインスシード(マルメロ)、アルケコロイド(ガッソウエキス)、澱粉(コメ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦等に由来するもの)、グリチルリチン等が挙げられる。また、動物系天然系高分子としては、例えば、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等が挙げられる。さらに、微生物系天然系高分子としては、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、ブルラン等が挙げられる。
【0168】
セルロース系半合成系高分子は、ノニオン性、アニオン性及びカチオン性に分類することができる。
【0169】
ノニオン性セルロース系半合成系高分子としては、例えば、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、アルキルヒドロキシエチルセルロース、ノノキシニルヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;などが挙げられる。
【0170】
アニオン性セルロース系半合成系高分子としては、上記のノニオン性セルロース系半合成系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロース並びにそのナトリウム塩及びアンモニウム塩などが挙げられる。具体例を挙げると、セルロース硫酸ナトリウム、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びそれらの塩等が挙げられる。
【0171】
カチオン性セルロース系半合成系高分子としては、例えば、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム−4)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−10)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−24)等が挙げられる。
【0172】
これらの中でも、カチオン性、アニオン性また両性の特性を取りうることから、セルロース系半合成系高分子、そのナトリウム塩及びそのアンモニウム塩が好ましい。さらにその中でも、非導電性粒子の分散性の観点から、アニオン性のセルロース系半合成系高分子が特に好ましい。
【0173】
また、セルロース系半合成系高分子のエーテル化度は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上であり、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下である。ここで、エーテル化度とは、セルロース中の無水グルコース単位1個当たりの水酸基(3個)の、カルボキシメチル基等への置換体への置換度のことをいう。エーテル化度は、理論的には0〜3の値を取りうる。エーテル化度が上記範囲にある場合は、セルロース系半合成系高分子が非導電性粒子の表面に吸着しつつ水への相溶性も見られることから分散性に優れ、非導電性粒子を一次粒子レベルまで微分散できる。
【0174】
さらに、粘度調整剤として高分子(重合体を含む)を使用する場合、ウベローデ粘度計より求められる極限粘度から算出される粘度調整剤の平均重合度は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、特に好ましくは1000以上であり、好ましくは2500以下、より好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である。粘度調整剤の平均重合度は、多孔膜用のスラリー組成物の流動性及び多孔膜の膜均一性、並びに工程上のプロセスへ影響することがある。ここで、平均重合度を前記の範囲にすることにより、スラリー組成物の経時の安定性を向上させて、凝集物がなく厚みムラのない塗布が可能になる。
【0175】
多孔膜用のスラリー組成物が粘度調整剤を含む場合、粘度調整剤の量は、非導電性粒子100重量部に対して、通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは7重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。粘度調整剤の量を前記の範囲にすることにより、スラリー組成物の粘度を取り扱い易い好適な範囲にすることができる。また、通常、粘度調整剤は本発明の多孔膜にも含まれることになる。ここで、粘度調整剤の量を前記範囲の下限値以上にすることによって本発明の多孔膜の強度を高くすることができ、また、上限値以下にすることによって本発明の多孔膜の柔軟性を良好にすることができる。
【0176】
多孔膜用のスラリー組成物は、上述した成分以外にも、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分は、二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無い。また、任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0177】
任意の成分としては、例えば、分散剤、電解液分散抑制剤等が挙げられる。
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、重合体化合物が例示される。分散剤の具体的な種類は、通常、使用する非導電性粒子に応じて選択される。
【0178】
また、多孔膜用のスラリー組成物は、例えば、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含むことにより、スラリー組成物を塗布する時のはじきを防止したり、電極の平滑性を向上させたりすることができる。界面活性剤の量としては、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、本発明の多孔膜において10重量%以下となる量が好ましい。
【0179】
また、多孔膜用のスラリー組成物は、例えば、フュームドシリカ、フュームドアルミナなどの体積平均粒子径100nm未満のナノ微粒子を含んでいてもよい。ナノ微粒子を含むことにより、スラリー組成物のチキソ性を制御することができ、さらにそれに本発明の多孔膜のレベリング性を向上させることができる。
【0180】
さらに、多孔膜用のスラリー組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、水以外の溶媒を含んでいてもよい。例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサン、キシレン、シクロヘキサノン等を含んでいてもよい。
【0181】
多孔膜用のスラリー組成物では、非導電性粒子の分散性が高いので、粘度を容易に低くできる。スラリー組成物の具体的な粘度は、本発明の多孔膜を製造する際の塗布性を良好にする観点からは、10mPa・s〜2000mPa・sが好ましい。ここで、前記の粘度は、E型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0182】
多孔膜用のスラリー組成物の製造方法は、特に限定はされないが、通常は、上述した非導電性粒子、水溶性重合体、粒子状バインダー及び水、並びに、必要に応じて用いられる任意の成分を混合して得られる。混合順序には特に制限は無い。また、混合方法にも特に制限は無い。通常は、非導電性粒子を速やかに分散させるため、混合装置として分散機を用いて混合を行う。
【0183】
分散機は、上記成分を均一に分散及び混合できる装置が好ましい。例を挙げると、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。中でも、高い分散シェアを加えることができることから、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置が特に好ましい。
【0184】
多孔膜用のスラリー組成物は非導電性粒子の分散性が良好であるので、非導電性粒子の凝集を小さいエネルギーで解くことができる。そのため、短い時間で非導電性粒子を分散させることができる。また、大きな力を加えなくても非導電性粒子を分散させることができるので、非導電性粒子に過剰なエネルギーを加えることがなく、非導電性粒子が意図せず解砕して粒子径が変化することも防止できる。
【0185】
基材は、多孔膜用のスラリー組成物の塗膜を形成する対象となる部材である。基材に制限は無く、例えば剥離フィルムの表面にスラリー組成物の塗膜を形成し、その塗膜から水を除去して本発明の多孔膜を形成し、剥離フィルムから本発明の多孔膜を剥がすようにしてもよい。しかし、通常は、本発明の多孔膜を剥がす工程を省略して製造効率を高める観点から、基材として電池要素を用いる。このような電池要素の具体例としては、電極及び有機セパレーターなどが挙げられる。
【0186】
基材の表面にスラリー組成物の塗膜を形成する方法に制限は無く、例えば、塗布法、浸漬法などにより行ってもよい。中でも、本発明の多孔膜の厚みを制御し易いことから、塗布法が好ましい。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。中でも、均一な多孔膜が得られる点で、ディップ法及びグラビア法が好ましい。
【0187】
塗膜から水を除去する方法にも制限は無い。通常は、乾燥により水を除去する。乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風等の風による乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、及び電子線などの照射による乾燥法;などが挙げられる。
乾燥温度は、水が気化して塗膜から除去される温度にする。また、粒子状バインダーが熱架橋性基を有する場合には、当該熱架橋性基が架橋反応を生じる温度以上の高温で乾燥を行うことが好ましい。塗膜からの水の除去と架橋とを同時に行うことにより、工程数を減らして製造効率を向上させることができる。通常は40℃〜120℃で乾燥させる。
【0188】
本発明の多孔膜を製造する際には、上述した塗布工程及び乾燥工程に加えて、更に別の工程を行うようにしてもよい。例えば、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理を行ってもよい。これにより、基材と本発明の多孔膜との密着性を向上させることができる。このような加圧処理は、基材として電極又は有機セパレーター等を用いている場合に、特に有用である。ただし、過度に加圧処理を行うと、本発明の多孔膜の空隙率が損なわれる可能性があるため、圧力および加圧時間を適切に制御することが好ましい。
【0189】
〔1−6.物性〕
本発明の多孔膜は非導電性粒子の間に空隙を有することにより適度な多孔性を有し、電解液を吸液しうる。本発明の多孔膜では水溶性重合体が非導電性粒子の表面を覆うようにして存在すると考えられるが、その水溶性重合体が前記の空隙を全て埋めることは無いので、水溶性重合体によっても本発明の多孔膜の多孔性が損なわれることは無い。このため、本発明の多孔膜中には電解液が浸透できるので、本発明の多孔膜を電極又はセパレーターに設けても電池反応を阻害することはなく、レート特性の高い二次電池を実現できる。
【0190】
本発明の多孔膜を恒温恒湿室(温度25℃、湿度50%)で1日保管したときの前記多孔膜の水分量(W1)と、前記多孔膜をドライルーム(露点−60℃、湿度0.05%)で1日保管したときの前記多孔膜の水分量(W2)との比(W1/W2)は、通常2.5倍以下であり、理想的には1である。このように、本発明の多孔膜は高温高湿室からドライルームへと移したときの水分量の変化が小さいので、水分量の変化によるカールを抑制できる。
【0191】
また、本発明の多孔膜は容易に水分を放出するため、乾燥によって水分を容易に除去できる。このため、本発明の多孔膜は水分含有量を低く抑制できるので、二次電池でのガス発生を少なくできる。したがって、ガス発生による放電容量の低下を抑制できるので、二次電池の高温サイクル特性を改善することが可能である。
【0192】
本発明の多孔膜の厚みは、薄すぎると均一な膜を形成できない可能性があり、厚すぎると電池内での体積(重量)あたりの容量(capacity)が減る可能性があることから、好ましくは1μm〜50μmである。特に、本発明の多孔膜を電極の表面に設ける場合には、その厚みは1μm〜20μmが好ましい。
【0193】
〔2.二次電池用電極〕
本発明の二次電池用電極(以下、「本発明の電極」ということがある。)は、集電体と、集電体に付着し、電極合剤層用結着剤及び電極活物質を含む電極合剤層と、電極合剤層の表面に形成された本発明の多孔膜とを備える。電極合剤層の表面に本発明の多孔膜を設けても、本発明の多孔膜には電解液が浸透できるので、レート特性等に対して悪影響を及ぼすことは無い。また、本発明の多孔膜は適度な柔軟性を有するため、電極合剤層の表面に設けられると電極の保護膜として機能し、電池の製造過程における電極活物質の脱落防止および電池作動時の短絡防止ができる。また、本発明の多孔膜はドライルームに移してもカールを生じ難いので、本発明の電極の変形も防止することができる。さらに、本発明の多孔膜は電極合剤層に対する密着強度が高く、ひいては電極に対する密着強度が高い。
【0194】
〔2−1.集電体〕
集電体は、電気導電性を有し且つ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されない。中でも、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。その中でも、非水電解質二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。
【0195】
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm〜0.5mmのシート状のものが好ましい。
集電体は、電極合剤層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、例えば、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、例えば、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。
また、電極合剤層との接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0196】
〔2−2.電極合剤層〕
(電極活物質)
電極合剤層は、電極活物質を必須成分として含む。なお、以下の説明においては、電極活物質の中でも特に正極用の電極活物質のことを「正極活物質」、負極用の電極活物質のことを「負極活物質」と呼ぶことがある。通常は本発明の電極はリチウム二次電池において使用されるため、特にリチウム二次電池用の電極活物質について説明する。
【0197】
リチウム二次電池用の電極活物質は、電解液中で電位をかけることにより可逆的にリチウムイオンを挿入放出できるものを用いうる。電極活物質は、無機化合物を用いてもよく、有機化合物を用いてもよい。
【0198】
正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2等の遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等の遷移金属酸化物などが挙げられる。一方、有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性重合体が挙げられる。
【0199】
さらに、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。
また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
これらの正極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、前述の無機化合物と有機化合物との混合物を正極活物質として用いてもよい。
【0200】
正極活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、正極活物質の体積平均粒子径D50が、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは20μm以下である。正極活物質の体積平均粒子径D50がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつ合剤スラリーおよび電極を製造する際の取扱いが容易である。
【0201】
負極活物質は、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性重合体;などが挙げられる。また、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄およびニッケル等の金属並びにこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物;前記金属又は合金の硫酸塩;なども挙げられる。また、金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン等を使用してもよい。さらに、電極活物質は、機械的改質法により表面に導電性付与材を付着させたものも使用してもよい。これらの負極活物質は、1種類だけを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0202】
負極活物質の粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、負極活物質の体積平均粒子径D50が、通常1μm以上、好ましくは15μm以上であり、通常50μm以下、好ましくは30μm以下である。
【0203】
(電極合剤層用結着剤)
電極合剤層は、電極活物質の他に、電極合剤層用結着剤を含むことが好ましい。電極合剤層用結着剤を含むことにより、電極中の電極合剤層の結着性が向上し、電極の撒回時等の工程上においてかかる機械的な力に対する強度が上がる。また、電極中の電極合剤層が脱離しにくくなることから、脱離物による短絡等の危険性が小さくなる。
【0204】
電極合剤層用結着剤としては様々な重合体成分を用いうる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いてもよい。
【0205】
さらに、以下に例示する軟質重合体も電極合剤層用結着剤として使用してもよい。すなわち、軟質重合体としては、例えば、
(i)ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体である、アクリル系軟質重合体;
(ii)ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴム、イソブチレン・スチレン共重合体などのイソブチレン系軟質重合体;
(iii)ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などジエン系軟質重合体;
(iv)ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;
(v)液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのオレフィン系軟質重合体;
(vi)ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などビニル系軟質重合体;
(vii)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系軟質重合体;
(viii)フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素含有軟質重合体;
(ix)天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体;などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、また、変性により官能基を導入したものであってもよい。
【0206】
電極合剤層用結着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0207】
電極合剤層における電極合剤層用結着剤の量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。電極合剤層用結着剤の量が前記範囲であることにより、電池反応を阻害せずに、電極から電極活物質が脱落するのを防ぐことができる。
【0208】
電極合剤層用結着剤は、通常、電極を作製するために溶液もしくは分散液に含まれた状態で用意される。その時の溶液もしくは分散液の粘度は、通常1mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上であり、通常300,000mPa・s以下、好ましくは10,000mPa・s以下である。前記粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0209】
(電極合剤層に含まれていてもよい任意の成分)
電極合剤層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、電極活物質及び電極合剤層用結着剤以外にも、任意の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、導電性付与材(導電剤ともいう)、補強材などが挙げられる。なお、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0210】
導電性付与材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;黒鉛等の炭素粉末;各種金属のファイバー及び箔;などが挙げられる。導電性付与材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特にリチウム二次電池に用いる場合には放電レート特性を改善できる。
【0211】
補強材としては、例えば、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。
導電性付与材及び補強剤の使用量は、電極活物質100重量部に対して、それぞれ、通常0重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0212】
(合剤スラリー)
通常、電極合剤層は、電極活物質及び溶媒、並びに、必要に応じて電極合剤層用結着剤及び任意の成分を含むスラリー(以下、適宜「合剤スラリー」という。)を集電体に付着させて製造する。溶媒としては、電極合剤層が電極合剤層用結着剤を含む場合は、電極合剤層用結着剤を溶解または粒子状に分散しうるものを用いうる。
【0213】
合剤スラリーは、通常は溶媒を含有し、電極活物質、電極合剤層用結着剤及び任意の成分等を溶解又は分散させる。溶媒としては、電極合剤層用結着剤を溶解し得るものを用いると、電極活物質及び導電性付与材の分散性に優れるので好ましい。電極合剤層用結着剤が溶媒に溶解した状態で用いることにより、電極合剤層用結着剤が電極活物質などの表面に吸着してその体積効果により分散を安定化させていると推測される。
【0214】
合剤スラリーに用いる溶媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用しうる。有機溶媒としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類が挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。具体的な溶媒の種類は、乾燥速度及び環境上の観点から適宜選択することが好ましい。中でも、水への電極膨張特性の観点から、非水性溶媒を用いることが好ましい。
【0215】
合剤スラリーには、さらに例えば増粘剤などの各種の機能を発現する添加剤を含ませてもよい。増粘剤としては、通常は、合剤スラリーに用いる有機溶媒に可溶な重合体が用いられる。その具体例を挙げると、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。
【0216】
さらに、合剤スラリーには、電池の安定性や寿命を高めるため、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、カテコールカーボネート、1,6−ジオキサスピロ[4,4]ノナン−2,7−ジオン、12−クラウン−4−エーテル等を含ませてもよい。また、これらは電解液に含ませてもよい。
【0217】
合剤スラリーにおける溶媒の量は、電極活物質及び電極合剤層用結着剤などの種類に応じ、塗布に好適な粘度になるように調整することが好ましい。具体的には、電極活物質、電極合剤層用結着剤および任意の成分を合わせた固形分の濃度が、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、また、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下となる量に調整して用いられる。
【0218】
合剤スラリーは、電極活物質及び溶媒、並びに、必要に応じて含まれる電極合剤層用結着剤及び任意の成分を、混合機を用いて混合して得られる。混合は、上記の各成分を一括して混合機に供給し、混合してもよい。また、合剤スラリーの構成成分として、電極活物質、電極合剤層用結着剤、導電性付与材及び増粘剤を用いる場合には、導電性付与材および増粘剤を溶媒中で混合して導電材を微粒子状に分散させ、その後で電極合剤層用結着剤及び電極活物質を混合することが、スラリーの分散性が向上するので好ましい。混合機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを用いてもよい。中でもボールミルを用いると、導電性付与材及び電極活物質の凝集を抑制できるので、好ましい。
【0219】
合剤スラリーに含まれる粒子の大きさ(粒度)は、好ましくは35μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下である。スラリーの粒度が上記範囲にあると、導電材の分散性が高く、均質な電極が得られる。
【0220】
(電極合剤層の製造方法)
電極合剤層は、例えば、集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に電極合剤層を層状に結着させることにより製造してもよい。具体例を挙げると、合剤スラリーを集電体に塗布及び乾燥し、次いで、120℃以上で1時間以上加熱処理して電極合剤層を製造してもよい。
【0221】
合剤スラリーを集電体へ塗布する方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線や電子線等の照射による乾燥法が挙げられる。
【0222】
その後、例えば金型プレス及びロールプレスなどを用い、電極合剤層に加圧処理を施すことが好ましい。加圧処理を施すことにより、電極合剤層の空隙率を低くすることができる。空隙率は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上であり、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下である。空隙率を前記範囲の下限値以上にすることにより、体積容量を大きくできたり、電極合剤層の剥離を防止したりできる。また、空隙率を前記範囲の上限値以下にすることにより、充電効率及び放電効率を高めることができる。
また、電極合剤層用結着剤として硬化性の重合体を用いる場合、合剤スラリーを塗布した後の適切な時期に電極合剤層用結着剤を硬化させることが好ましい。
【0223】
電極合剤層の厚みは、正極及び負極のいずれも、通常5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは250μm以下である。
【0224】
〔2−3.多孔膜〕
本発明の電極は、電極合剤層の表面に本発明の多孔膜を備える。これにより、電極合剤層からの電極活物質等の脱離、電極合剤層の剥離、電池の内部短絡等を防止することができる。
【0225】
電極合剤層に本発明の多孔膜を設ける方法としては、例えば、基材として電極合剤層を用いて、本発明の多孔膜の製造方法を行ってもよい。具体的な方法の例を挙げると、
1)多孔膜用のスラリー組成物を電極合剤層の表面に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)多孔膜用のスラリー組成物に電極合剤層を浸漬後、これを乾燥する方法;
3)多孔膜用のスラリー組成物を、剥離フィルム上に塗布、乾燥して本発明の多孔膜を製造し、得られた本発明の多孔膜を電極合剤層の表面に転写する方法;
などが挙げられる。これらの中でも、前記1)の方法が、本発明の多孔膜の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。
【0226】
〔2−4.他の構成要素〕
本発明の電極は、本発明の効果を著しく損なわない限り、集電体、電極合剤層及び本発明の多孔膜以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、必要に応じて、電極合剤層と本発明の多孔膜との間に他の層を設けてもよい。この場合、本発明の多孔膜は電極合剤層の表面に間接的に設けられることになる。また、本発明の多孔膜の表面に、更に別の層を設けてもよい。
【0227】
〔3.二次電池用セパレーター〕
本発明のセパレーター(二次電池用セパレーター)は、有機セパレーターと、有機セパレーターの表面に形成された本発明の多孔膜とを備える。セパレーターが本発明の多孔膜を備えていても、本発明の多孔膜には電解液が浸透できるので、レート特性等に対して悪影響を及ぼすことは無い。また、本発明の多孔膜はドライルームに移してもカールを生じないので、本発明のセパレーターの変形も防止することができる。さらに、本発明の多孔膜は有機セパレーターに対する密着強度が高い。
【0228】
セパレーターは、電極の短絡を防止するために正極と負極との間に設けられる部材である。このセパレーターとしては、例えば、微細な孔を有する多孔性基材が用いられ、通常は有機材料からなる多孔性基材(すなわち、有機セパレーター)が用いられる。有機セパレーターの例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。
【0229】
有機セパレーターの厚さは、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。この範囲であると電池内でのセパレーターによる抵抗が小さくなり、また、電池製造時の作業性に優れる。
【0230】
本発明のセパレーターは、有機セパレーターの表面に本発明の多孔膜を備える。有機セパレーターに本発明の多孔膜を設ける方法としては、例えば、基材として有機セパレーターを用いて、本発明の多孔膜の製造方法を行ってもよい。具体的な方法の例を挙げると、
1)多孔膜用のスラリー組成物を有機セパレーターの表面に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)多孔膜用のスラリー組成物に有機セパレーターを浸漬後、これを乾燥する方法;
3)多孔膜用のスラリー組成物を、剥離フィルム上に塗布、乾燥して本発明の多孔膜を製造し、得られた本発明の多孔膜を有機セパレーターの表面に転写する方法;
などが挙げられる。これらの中でも、前記1)の方法が、本発明の多孔膜の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。
【0231】
本発明のセパレーターは、本発明の効果を著しく損なわない限り、有機セパレーター及び本発明の多孔膜以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、本発明の多孔膜の表面に、更に別の層を設けてもよい。
【0232】
〔4.二次電池〕
本発明の二次電池は、正極、負極及び電解液を備える。ただし、本発明の二次電池は、下記の要件(A)及び(B)の一方又は両方を満たす。
(A)正極及び負極の少なくとも一方が、本発明の電極である。
(B)セパレーターとして、本発明のセパレーターを備える。
【0233】
〔4−1.電極〕
本発明の二次電池は、原則として、正極及び負極の一方又は両方として、本発明の電極を備える。ただし、本発明の二次電池がセパレーターとして本発明のセパレーターを備える場合には、正極及び負極の両方として本発明の電極以外の電極を備えていてもよい。
【0234】
〔4−2.セパレーター〕
本発明の二次電池は、原則として、セパレーターとして本発明のセパレーターを備える。ただし、本発明の二次電池が正極及び負極の一方又は両方として本発明の電極を備える場合には、セパレーターとして本発明のセパレーター以外のセパレーターを備えていてもよい。また、電極合剤層の表面に設けられた本発明の多孔膜はセパレーターとしての機能を有するので、本発明の電極を備える二次電池においてはセパレーターを省略してもよい。
【0235】
〔4−3.電解液〕
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。また、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0236】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0237】
電解液中における支持電解質の濃度は、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上であり、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5モル/L〜2.5モル/Lの濃度で用いられる場合がある。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎても、イオン導電度は低下する傾向にある。通常は電解液の濃度が低いほど電極合剤層用結着剤等の重合体粒子の膨潤度が大きくなるので、電解液の濃度を調整することによりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0238】
さらに、電解液には、必要に応じて、添加剤等を含ませてもよい。
【0239】
〔4−4.二次電池の製造方法〕
本発明の二次電池の製造方法としては、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。また、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、リード板、エキスパンドメタルなどを入れ、過充放電の防止、電池内部の圧力上昇の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0240】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は以下に挙げる実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0241】
[評価方法の説明]
〔ピール強度試験〕
(i)セパレーターの場合:
セパレーターを長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とした。また、予め試験台にセロハンテープを固定した。このセロハンテープとしては、「JIS Z1522」に規定されるものを用いた。前記の試験片を、多孔膜面を下にしてセロハンテープに貼り付けた。これにより、試験片は多孔膜表面でセロハンテープに貼り付いた。その後、セパレーターの一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めて、これをピール強度とした。
【0242】
(ii)電極の場合:
集電体上に形成された電極合剤層を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とした。また、予め試験台にセロハンテープを固定した。このセロハンテープとしては、「JIS Z1522」に規定されるものを用いた。前記の試験片を、多孔膜面を下にしてセロハンテープに貼り付けた。これにより、試験片は多孔膜表面でセロハンテープに貼り付いた。その後、電極合剤層の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めて、これをピール強度とした。
【0243】
測定したピール強度は、下記の基準により評価した。ピール強度が大きいほど、多孔膜がセパレーターへの結着力が大きいことを表す。すなわち、多孔膜の有機セパレーターに対する密着強度が大きいことを示す。
A:ピール強度が100N/m以上
B:ピール強度が75N/m以上100N/m未満
C:ピール強度が50N/m以上75N/m未満
D:ピール強度が25N/m以上50N/m未満
E:ピール強度が25N/m未満
【0244】
〔多孔膜の水分量〕
電極(多孔膜付電極)またはセパレーター(多孔膜付有機セパレーター)を幅10cm×長さ10cmの大きさで切り出し、試験片とする。試験片を温度25℃、湿度50%で24時間放置し、その後、電量滴定式水分計を用い、カールフィッシャー法(JIS K−0068(2001)水分気化法、気化温度150℃)により試験片の水分量を測定する。この水分量(W1)とする。
次に、温度25℃、露点−60℃、湿度0.05%で24時間放置した試験片を上記と同様にして水分量を測定する。この水分量(W2)とする。
こうして求めた水分量W1及びW2から、比W1/W2を算出する。
【0245】
算出した比W1/W2は、下記の基準により評価する。W1とW2の差が少ないほど、多孔膜の水分量が少ないことを表す。多孔膜の水分量が少ないと、電池製造を行うドライルーム内でのセパレーターのカールを抑制できる。また、多孔膜の水分量が少ないほど、水分による電池内での副反応を起こさず、電池特性を低下させないため好ましい。
A:W1/W2が2.0未満
B:W1/W2が2.0以上2.5未満
C:W1/W2が2.5以上3.0未満
D:W1/W2が3.0以上
【0246】
〔カール測定〕
電極(多孔膜付電極)又はセパレーター(多孔膜付有機セパレーター)を幅5cm×長さ5cmの大きさで切り出し、試験片とする。次に、温度25℃、露点−60℃以下で放置する。その際、端部がカールした高さを測定する。
【0247】
測定された高さは、下記の基準により評価する。
A:端部高さ0.5cm未満
B:端部高さ0.5cm以上1.0cm未満
C:端部高さ1.0cm以上
【0248】
〔セパレーターのガーレー値の増加率〕
電極(多孔膜付電極)又はセパレーター(多孔膜付有機セパレーター)について、ガーレー測定器(熊谷理機工業製 SMOOTH & POROSITY METER(測定径:φ2.9cm))を用いてガーレー値(sec/100cc)を測定する。これにより、多孔膜を設けることで、元の基材(電極又は有機セパレーター)からのガーレー値の増加率を求める。
【0249】
ガーレー値の増加率は、下記の基準により評価する。ガーレー値の増加率が低いほど、イオンの透過性に優れ、電池でのレート特性に優れることを示す。
SA:ガーレー値の増加率が4%未満
A:ガーレー値の増加率が4%以上8%未満
B:ガーレー値の増加率が8%以上12%未満
C:ガーレー値の増加率が12%以上16%未満
D:ガーレー値の増加率が16%以上20%未満
E:ガーレー値の増加率が20%以上
【0250】
〔電池の高温サイクル特性〕
10セルのラミネート型セルを60℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電を繰り返して、電気容量を測定した。10セルの平均値を測定値とし、50サイクル終了時の電気容量と5サイクル終了時の電気容量との比(%)で表される充放電容量保持率を求めた。
【0251】
充放電容量保持率をサイクル特性の評価基準として、下記の基準により評価する。充放電容量保持率の値が高いほど、高温サイクル特性に優れることを示す。
SA:充放電容量保持率が80%以上
A:充放電容量保持率が70%以上80%未満
B:充放電容量保持率が60%以上70%未満
C:充放電容量保持率が50%以上60%未満
D:充放電容量保持率が40%以上50%未満
E:充放電容量保持率が30%以上40%未満
F:充放電容量保持率が30%未満
【0252】
〔低温出力特性〕
50mAhラミネート型セルを作製し、25℃で0.1Cの定電流で充電深度(SOC)50%まで充電し、電圧V0を測定した。その後、−10℃で1Cの定電流で10秒間放電し、電圧V1を測定した。これらの測定結果から、電圧降下ΔV=V0−V1を算出した。
【0253】
算出された電圧降下ΔVを、下記の基準により評価した。電圧降下ΔVの値が小さいほど、低温出力特性に優れることを示す。
A:電圧降下ΔVが100mV以上120mV未満
B:電圧降下ΔVが120mV以上140mV未満
C:電圧降下ΔVが140mV以上160mV未満
D:電圧降下ΔVが160mV以上180mV未満
E:電圧降下ΔVが180mV以上200mV未満
F:電圧降下ΔVが200mV以上
【0254】
〔電池のレート特性〕
10セルのラミネート型セルを用いて、25℃で0.1Cの定電流で4.2Vまで充電し、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルと、25℃で0.1Cの定電流で4.2Vまで充電し、1.0Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルとを、それぞれ行った。0.1Cにおける電池容量に対する1.0Cにおける放電容量の割合を百分率で算出して、充放電レート特性とした。
0.1Cにおける電池容量は、0.1Cの定電流で3.0Vまで放電したときの放電容量のことをいい、1.0Cにおける放電容量は、1.0Cの定電流で3.0Vまで放電したときの放電容量のことをいう。
【0255】
充放電レート特性を、下記の基準で評価した。充放電レート特性の値が大きいほど、内部抵抗が小さく、高速充放電が可能であることを示す。
SA:充放電レート特性が80%以上
A:充放電レート特性が75%以上80%未満
B:充放電レート特性が70%以上75%未満
C:充放電レート特性が65%以上70%未満
D:充放電レート特性が60%以上65%未満
E:充放電レート特性が55%以上60%未満
F:充放電レート特性が55%未満
【0256】
[実施例1]
(1.多孔膜の製造)
(1.1.非導電性粒子の製造)
撹拌機を備えた反応器に、ドデシル硫酸ナトリウムを0.06部、過硫酸アンモニウムを0.23部、及びイオン交換水を100部入れて混合して混合物Aとし、80℃に昇温した。
【0257】
一方、別の容器中で、スチレン93.8部、メタクリル酸2.0部、アクリロニトリル2.0部、アリルグリシジルエーテル1.0部、N−メチロールアクリルアミド1.2部、ドデシル硫酸ナトリウム0.1部、及びイオン交換水100部を混合して、単量体混合物1の分散体を調製した。
【0258】
この単量体混合物1の分散体を、4時間かけて、上で得た混合物A中に、連続的に添加して重合させた。単量体混合物1の分散体の添加の際における反応系の温度は80℃に維持した。添加の終了後、さらに90℃で3時間反応を継続させた。
これにより、体積平均粒子径370nmのシードポリマー粒子Aの水分散体を得た。
【0259】
次に、撹拌機を備えた反応器に、シードポリマー粒子Aの水分散体を固形分基準(即ちシードポリマー粒子Aの重量基準)で20部、単量体としてエチレングリコールジメタクリレート(共栄社化学株式会社、製品名:ライトエステルEG)を100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1.0部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油社製、商品名:パーブチルO)を4.0部、及びイオン交換水を200部入れ、35℃で12時間撹拌した。これにより、シードポリマー粒子Aに、単量体及び重合開始剤を完全に吸収させた。その後、これを90℃で5時間重合させた。その後、スチームを導入して未反応の単量体および開始剤分解生成物を除去した。これにより、体積平均粒子径670nmの非導電性粒子の水分散体を得た。
【0260】
(1.2.水溶性重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸30部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸ブチル60.7部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート7.5部、架橋性単量体としてエチレンジメタクリレート0.8部、反応性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王社製「PD−104」)1.0部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む水溶液を得た。こうして得られた水溶性重合体を含む水溶液に、10%アンモニア水を添加してpH8に調整し、所望の水溶性重合体を含む水溶液を得た。得られた水溶性重合体の重量平均分子量を測定したところ、128000であった。
【0261】
(1.3.粒子状バインダーの製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン46部、イタコン酸3.5部、スチレン50.5部、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状バインダーを含む水系分散液を得た。得られた粒子状バインダーのガラス転移温度を測定したところ、0℃であった。
【0262】
(1.4.多孔膜用のスラリー組成物の製造)
前記の非導電性粒子の水分散体、水溶性重合体を含む水溶液、及び粒子状バインダーを含む水系分散液を、固形分の量で非導電性粒子100部、水溶性重合体2.5部、及び粒子状バインダー4部となるようにとって混合し、更に水を固形分濃度が40重量%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物1を製造した。
【0263】
(1.5.セパレーターの製造)
ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)を用意した。用意した有機セパレーターの片面に、スラリー組成物1を塗布し、60℃で10分乾燥させた。これにより、厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターを得た。
得られたセパレーターについて、ピール強度、多孔膜の水分量、カール、及び、ガーレー値の増加率を評価した。
【0264】
(2.電池の製造)
(2.1.負極用の水溶性重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリル酸ブチル77.5部、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸20部、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル2.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む水分散液を得た。この水溶性重合体を含む水分散液に、10%アンモニア水を添加して、pH8に調整し、負極用の水溶性重合体を得た。
【0265】
(2.2.負極合剤層用の結着剤の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33部、メタクリル酸1.5部、スチレン65.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、結着剤を含む水系分散液を得た。
【0266】
上記結着剤を含む水系分散液に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の負極合剤層用結着剤を得た。
【0267】
(2.3.負極用のスラリー組成物の製造)
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積4m
2/gの人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm)を90部及びSiC(平均粒子径:12μm)を10部、上記負極用の水溶性重合体の5%水溶液1部をそれぞれ加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した。その後、25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分混合し、混合液を得た。上記混合液に、上記の負極合剤層用の結着剤を1部(固形分基準)入れ、更にイオン交換水を入れて最終固形分濃度42%となるように調整し、10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用のスラリー組成物を得た。
【0268】
(2.4.負極の製造)
上記負極用のスラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布した。その後、2分間乾燥(0.5m/分の速度、60℃)し、2分間加熱処理(120℃)して、電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して、厚み80μmの負極合剤層を備える負極を得た。
【0269】
(2.5.正極の製造)
正極合剤層用の結着剤として、アクリル酸2−エチルヘキシル78重量%、アクリロニトリル20重量%、及びメタクリル酸2重量%を含む単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体を用意した。この共重合体は、ガラス転移温度−40℃、数平均粒子径0.20μmのアクリレート重合体である。
【0270】
正極活物質として、体積平均粒子径0.5μmでオリビン結晶構造を有するLiFePO
4を100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)の1%水溶液(第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を固形分相当で1部、及び、結着剤として前記の正極合剤層用の結着剤の40%水分散体を固形分相当で5部を混合し、これにイオン交換水を加えて全固形分濃度が40%となるようにして、プラネタリーミキサーにより混合した。これにより、正極用のスラリー組成物を得た。
【0271】
上記正極用のスラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布した。その後、2分間乾燥(0.5m/分の速度、60℃)し、2分間加熱処理(120℃)して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して、厚み80μmの正極合剤層を備える正極を得た。
【0272】
(2.6.電池の組み立て)
電池の外装として、アルミニウム包材を用意した。また、5×5cm
2に負極および正極を切り出した。この負極及び正極を、多孔膜を備えるセパレータを介して対向させ、外装内に配置した。電解液として濃度1.0MのLiPF
6の溶液(溶媒EC/DEC=2/1;体積比)を充填した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをして、アルミニウム包材を閉口した。これにより、リチウムイオン二次電池としてラミネート型セルを製造した。このラミネート型セルを用いて、高温サイクル特性、低温出力特性及びレート特性を評価した。
【0273】
[実施例2]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、メタクリル酸の量を22部に変更し、アクリル酸ブチルの量を68.7部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0274】
[実施例3]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、メタクリル酸の量を48部に変更し、アクリル酸ブチルの量を42.7部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0275】
[実施例4]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートの量を1.5部に変更し、アクリル酸ブチルの量を66.7部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0276】
[実施例5]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートの量を18部に変更し、アクリル酸ブチルの量を50.2部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0277】
[実施例6]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、アクリル酸ブチルの量を61.3部に変更し、エチレンジメタクリレートの量を0.2部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0278】
[実施例7]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、アクリル酸ブチルの量を59.7部に変更し、エチレンジメタクリレートの量を1.8部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0279】
[実施例8]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートの代わりにフルオロメチルアクリレートを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0280】
[実施例9]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートの代わりにパーフルオロオクチルアクリレートを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0281】
[実施例10]
多孔膜用の水溶性重合体の製造に際し、反応性界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムの代わりにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製「PD−420」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0282】
[実施例11]
多孔膜の製造に際し、粒子状バインダーの使用量を2部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0283】
[実施例12]
多孔膜の製造に際し、粒子状バインダーの使用量を10部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0284】
[実施例13]
実施例1で作製した負極へ、実施例1で作製した多孔膜用のスラリー組成物1を塗布し、乾燥することにより、多孔膜(厚み3μm)を備える負極を製造した。得られた負極について、ピール強度、多孔膜の水分量、カール、及び、ガーレー値の増加率を評価した。
【0285】
負極として、実施例13で製造した多孔膜付きの負極を用いた。また、セパレーターとして多孔膜を備えない有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)を用いた。これらの事項以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池としてラミネート型セルを製造した。このラミネート型セルを用いて、高温サイクル特性、低温出力特性及びレート特性を評価した。
【0286】
[実施例14]
多孔膜の製造に際し、水溶性重合体の使用量を0.3部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0287】
[実施例15]
多孔膜の製造に際し、水溶性重合体の使用量を4.7部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0288】
[実施例16]
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリル酸エチル45部、アクリル酸ブチル45部、アクリロニトリル6部、メタクリル酸3部、エチレンジメタクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し、反応を停止して、粒子状バインダーを含む水系分散液を得た。得られた粒子状バインダーのガラス転移温度を測定したところ、−10℃であった。
【0289】
多孔膜の製造に際し、粒子状バインダーとして前記の実施例16で製造した粒子状バインダーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0290】
[実施例17]
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリル酸ブチル90部、アクリロニトリル6部、メタクリル酸3部、エチレンジメタクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した。その後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状バインダーを含む水系分散液を得た。得られた粒子状バインダーのガラス転移温度を測定したところ、−30℃であった。
【0291】
多孔膜の製造に際し、粒子状バインダーとして前記の実施例17で製造した粒子状バインダーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0292】
[比較例1]
(水溶性重合体の製造)
メタクリル酸の量を18部に変更し、アクリル酸ブチルの量を82部に変更し、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体及び架橋性単量体を用いないで、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムの代わりにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1部用いたこと以外は実施例1と同様にして、多孔膜用の水溶性重合体を含む水溶液を得た。
【0293】
(多孔膜用のスラリー組成物の製造)
多孔膜の製造に際し、実施例1で製造した水溶性重合体を含む水溶液の代わりに上記水溶性重合体を含む水溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0294】
[比較例2]
(水溶性重合体の製造)
アクリル酸ブチルの量を70部に変更し、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体及び架橋性単量体を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、多孔膜用の水溶性重合体を含む水溶液を得た。
【0295】
(多孔膜用のスラリー組成物の製造)
実施例1で製造した非導電性粒子の水分散体及び粒子状バインダーを含む水系分散液と、比較例2で製造した水溶性重合体を含む水溶液を、非導電性粒子100部、水溶性重合体2.5部、及び粒子状バインダー4部で混合し、更に水を固形分濃度が40重量%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造した。
【0296】
(多孔膜及び電池の製造)
比較例2で製造した多孔膜用のスラリー組成物を用いて、実施例1と同様にしてセパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0297】
[比較例3]
(水溶性重合体の製造)
メタクリル酸の量を18部に変更し、アクリル酸ブチルの量を82部に変更し、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体及び架橋性単量体を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、多孔膜用の水溶性重合体を含む水溶液を得た。
【0298】
(多孔膜用のスラリー組成物の製造)
実施例1で製造した非導電性粒子及び水溶性重合体と、比較例3で製造した水溶性重合体を、非導電性粒子100部、水溶性重合体2.5部、及び粒子状バインダー4部で混合し、更に水を固形分濃度が40重量%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造した。
【0299】
(多孔膜及び電池の製造)
比較例3で製造した多孔膜用のスラリー組成物を用いて、実施例1と同様にしてセパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0300】
[比較例4]
(多孔膜用のスラリー組成物の製造)
実施例1で製造した非導電性粒子及び粒子状バインダーと、カルボキシメチルセルロースを、非導電性粒子100部、カルボキシメチルセルロース(MAC200HC;日本製紙ケミカル社製)2.5部、及び粒子状バインダー4部で混合し、更に水を固形分濃度が40重量%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造した。
【0301】
(多孔膜及び電池の製造)
比較例4で製造した多孔膜用のスラリー組成物を用いて、実施例1と同様にしてセパレーター及び電池を製造し、評価した。
【0302】
[評価結果]
上述した実施例及び比較例の結果を、下記の表1〜表7に示す。ここで用いられている略称の意味は、以下の通りである。
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
MAA:メタクリル酸
BA:アクリル酸ブチル
3FM:2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート
FMA:フルオロメチルアクリレート
PFOA:パーフルオロオクチルアクリレート
EDMA:エチレンジメタクリレート
POAAESA:ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム
POAAE:ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル
SDBS:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
SBR:スチレンブタジエンゴム
ACL:アクリルゴム
ST:スチレン
【0303】
【表1】
【0304】
【表2】
【0305】
【表3】
【0306】
【表4】
【0307】
【表5】
【0308】
【表6】
【0309】
【表7】
【0310】
[結果の検討]
上述した実施例及び比較例の結果から、本発明によれば、ドライルームの外部から内部へと移したときにカールが生じにくく、電極及びセパレーターに対する密着強度の高く、水分含有量が少ない多孔膜を実現しうることが確認された。また、こうして得られた多孔膜をセパレーター又は電極に設けることにより、高温サイクル特性、低温出力特性及びレート特性に優れる電池を実現しうることが確認された。