(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話または携帯情報端末(PDA)等のフラットパネルディスプレイ装置において、ディスプレイの保護および美観を高めるために、画像表示部分よりも広い領域となるように薄い板状のカバーガラスをディスプレイの前面に配置することが行われている。
【0003】
このようなフラットパネルディスプレイ装置に対しては、軽量および薄型化が要求されている。そのため、ディスプレイ保護用に使用されるカバーガラスも薄くすることが要求されている。
【0004】
しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと、強度が低下し、使用中または携帯中の落下などによりカバーガラス自身が割れてしまうことがある。その結果、ディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題がある。
【0005】
このため従来のカバーガラスは、耐傷性を向上させるため、フロート法により製造されたフロートガラスを化学強化することで、表面に圧縮応力層を形成し、カバーガラスの耐傷性を高めている。
【0006】
近年、カバーガラス等では、要求される耐傷性がより高くなっている。従来のソーダライムガラスを化学強化した化学強化フロートガラスの表面圧縮応力は500MPa程度で、圧縮応力層の深さは、おおよそ10μm程度であった。しかし、近年、高い耐傷性への要求に応えるために、表面圧縮応力が600MPa以上であり、圧縮応力層の深さが15μm以上である化学強化フロートガラスが開発されている。
【0007】
フロートガラスは化学強化後に反りが生じて平坦性が損なわれることが報告されている(特許文献1)。該反りは、フロート成形時に溶融錫と接触していないガラス面(以下、トップ面ともいう。)と、溶融錫と接触しているガラス面(以下、ボトム面ともいう。)と、の化学強化の入り方が異なることにより生じる。
【0008】
フロートガラスの反りは化学強化の入り方が強いほど大きくなる。したがって、高い耐傷性への要求に応えるべく開発された表面圧縮応力が600MPa以上であり、圧縮応力層の深さが15μm以上である化学強化フロートガラスにおいては、従来の表面圧縮応力が500MPa程度で圧縮応力層の深さが10μm程度の化学強化フロートガラスと比べて、反りの問題がより顕在化することとなる。
【0009】
従来、フロートガラスのトップ面が、ボトム面と化学強化の入り方が異なる理由としては、フロート成形時において溶融金属との接触するガラス面に溶融金属が侵入するためと考えられてきた(特許文献1)。
【0010】
特許文献1では、フロート方式で製造され、加工された板状体を表面研磨せずに、Liイオン若しくはNaイオンまたはこれらの混合無機塩に浸漬または接触させた後に化学強化することにより、反りを改善することが開示されている。
【0011】
また、従来、反りを低減するために、化学強化による強化応力を小さくしたり、フロートガラスのトップ面およびボトム面を研削処理または研磨処理等することにより表面異質層を除去した後に化学強化する対処方法がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、化学強化前に混合無機塩にフロートガラスを浸漬処理することが必要であり、煩雑である。また、強化応力を小さくする方法では化学強化後のフロートガラスの強度が不十分となる虞がある。
【0014】
さらに、化学強化前にフロートガラスのトップ面およびボトム面を研削処理または研磨処理等する方法は、生産性を向上させる観点から問題があり、これらの研削処理または研磨処理等を省略することが好ましい。
【0015】
したがって、本発明は、化学強化後の反りを効果的に抑制することができるとともに、化学強化前の研磨処理等を省略または簡略化することができる化学強化用フロートガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、フロートガラスのボトム面とトップ面の化学強化の入り方に差が生じる主原因は、フロート成形時において溶融金属と接触するガラス面に侵入した金属ではなく、トップ面とボトム面とのOH濃度差であることを見出した。さらに、溶融金属浴の上流端から9.1m下流までの間において、溶融ガラスからのOH抜け量が最も多くなることを見出した。
【0017】
そこで、本発明者らは、溶融金属浴の上流端から9.1m下流までの間におけるフロートオペレーションを最適化することによって、トップ面とボトム面とのOH濃度差を小さくし、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減できることを見出した。そして、これらの知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)溶融ガラスを溶融金属浴に流入させ、
前記溶融ガラスを前記溶融金属浴の浴面上を前進させて冷却しながら板状に成形する化学強化用フロートガラスの製造方法であって、
前記溶融金属浴へ流入する前記溶融ガラスの粘度をη0とし、
前記溶融金属浴の上流端から9.1m下流の前記溶融ガラスの粘度をη1としたとき、
η1−η0≧2.0×10
4(Pa・s)
である化学強化用フロートガラスの製造方法。
(2) 粘度が2.5×10
4Pa・sとなる温度が850〜1100℃であるガラスの溶融ガラスを溶融金属浴に流入させ、
前記溶融ガラスを前記溶融金属浴の浴面上を前進させて冷却しながら板状に成形する化学強化用フロートガラスの製造方法であって、
前記溶融金属浴へ流入する前記溶融ガラスの温度をT0とし、
前記溶融金属浴の上流端から9.1m下流の前記溶融ガラスの温度をT1としたとき、
T0−T1≧200(℃)
である化学強化用フロートガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
上記(1)に記載の発明によれば、溶融ガラスからのOH抜け量が最も多い領域である溶融金属浴の上流端から9.1m下流までの間において、溶融ガラスの粘度を2.0×10
4(Pa・s)以上増加させるようにした。すなわち、上記領域において、溶融ガラスの温度を所定値以上低下させるようにしたので、溶融ガラスからのOHの拡散を抑制し、トップ面及びボトム面のOH濃度差が大きくなることを抑制できる。したがって、本発明の化学強化用フロートガラスは、化学強化による応力を小さくすることなく、また化学強化前の研磨処理等を簡略化または省略しても、化学強化後におけるフロートガラスの反りを低減し、優れた平坦度を得ることができる。
【0020】
上記(2)に記載の発明によれば、850〜1100℃において粘度が2.5×10
4Pa・sであるガラスの溶融ガラスを用いて化学強化用フロートガラスを製造する場合、当該溶融ガラスからのOH抜け量が最も多い領域である溶融金属浴の上流端から9.1m下流までの間までの間において、溶融ガラスの温度を200℃以上減少させるようにした。これにより、溶融ガラスからのOHの拡散を抑制し、トップ面及びボトム面のOH濃度差が大きくなることを抑制できる。したがって、化学強化後のフロートガラスの反りを低減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の化学強化用フロートガラスは、フロート法により成形され、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面と、を有する。本発明者らは、フロートガラスを化学強化することにより生じる反りの主原因は、以下に説明するように、トップ面とボトム面とのOH濃度差であることを見出した。
【0024】
フロート法によるガラスの製造においては、フロートバスに貯留された溶融金属の表面に、上流側から溶融ガラスを連続的に供給してガラスリボンを成形する。そして、フロートバスの下流側端部から成形後のガラスリボンを引き出し、レアーで徐冷することにより、板ガラスを製造する。
【0025】
通常、フロート法によるガラスの製造においては、ガラス槽窯とフロートバスとの間がキャナルおよびスパウトでつながっており、流路が絞られるタイプの装置が用いられる。この場合、フロートバス内でガラスを広げる必要があるため、後述する別のタイプの装置に比べてより高温の溶融ガラスを溶融金属表面に流し出して成形する。
【0026】
しかしながら、フロートバス内の露点が低いため、ガラス表面からH
2Oが拡散し、トップ面からは雰囲気中にH
2Oが拡散し、ボトム面からは溶融金属中にH
2Oが拡散する。そのため、このようなタイプの装置で製造されたフロートガラスは、内部(典型的には深さ約50μm以上)のOH濃度に比べ、表面(5〜10μm)のOH濃度が小さくなる。H
2Oの拡散係数は温度が高い方が高いため、より低温の溶融金属と接するフロートガラスのボトム面よりも露点の低いまたは温度の高い雰囲気と接するトップ面からのH
2Oの拡散量の方が多くなる。したがって、フロートガラスのボトム面よりもトップ面のOH濃度が低くなる。
【0027】
一方、フロート法によるガラスの製造において、ガラス槽窯とフロートバスの間で流路が絞られないタイプの装置が用いられる場合がある。このようなタイプの装置で製造する場合、フロートバス内でガラスを広げる必要がないため、先に述べたタイプの装置に比べて、より低温の溶融ガラスを高温の溶融金属に流し出して成形する。H
2Oの拡散係数は温度が高い方が高いため、フロートガラスのトップ面よりもボトム面の温度が高くなることがある。このような場合はトップ面よりもボトム面からのH
2Oの拡散量の方が多くなり、フロートガラスのトップ面よりもボトム面のOH濃度が低くなる。
【0028】
したがって、フロート法で製造されたガラスは、製造条件によりボトム面よりもトップ面のOH濃度が低くなるか、またはトップ面よりもボトム面のOH濃度が低くなり、トップ面とボトム面とのOH濃度差が生じる。以下では、フロートガラスのボトム面よりもトップ面のOH濃度が低くなる場合について主に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0029】
ところで、ガラス中のOH濃度が高いと、ガラスのSi−O−Siの結合ネットワークの中に水素がSiOHの形で入り、Si−O−Siの結合が切れる。ガラス中のOH濃度が高いとSi−O−Siの結合が切れる部分が多くなり、ガラス転移点などの熱特性が下がるため、高温でガラスを加熱する化学強化の際に応力緩和し、応力が低下する。
【0030】
そのため、フロートガラスにおけるトップ面およびボトム面のうち、OH濃度が高いガラス面には化学強化の際に応力の入りが小さく、OH濃度が低いガラス面には化学強化の際に応力が入りやすいこととなる。
【0031】
すなわち、ボトム面よりもトップ面のOH濃度が低いフロートガラスを化学強化すると、OH濃度が高いボトム面よりもOH濃度が低いトップ面に応力が強く入り、トップ面側に凸になるようにガラスが反ってしまい、反りが生じると考えられる。
【0032】
一方、トップ面よりもボトム面のOH濃度が低いフロートガラスを化学強化すると、OH濃度が高いトップ面よりもOH濃度が低いボトム面に応力が強く入り、逆にボトム面側に凸になるようにガラスが反ってしまい、反りが生じると考えられる。
【0033】
したがって、フロートガラスにおけるトップ面とボトム面とにおけるOH濃度が近いほど、すなわち、トップ面とボトム面とのOH濃度差の絶対値の値が小さければ小さいほど、化学強化後のトップ面とボトム面との応力の入り方が均衡する状態に近づき、反りが低減されることとなる。
【0034】
(化学強化用フロートガラスの製造方法)
以上説明したような知見に基づき、本発明者らは、フロートガラスにおけるトップ面とボトム面とのOH濃度差を小さくすることによって、化学強化後の反りを低減することが可能な、化学強化用フロートガラスの製造方法を発明した。
【0035】
本発明の化学強化用フロートガラスは、
図1及び
図2に示すような製造装置によって製造される。
図1及び
図2において、12はツイール、22はツイールの下方にある固定耐火物、23はスパウトのリップである。図面には省略されているが、溶融ガラス1は、原料がガラス槽窯内へ連続的に供給され、高温領域で溶解されることによって得られる。続いて、溶融ガラス1は、冷却領域に導かれて温度が調整される。次いで、溶融ガラス1は、接続溝11、及びツイール12とその下方にある固定耐火物22とで形成される間隙2を通過し、スパウトのリップ23を経てフロートバス14内の溶融金属浴5へ流入する。
【0036】
溶融金属浴5上に流入した溶融ガラス1は、その表面の幅方向両側部が、周囲に歯や溝を有する回転ロールであるトップロール30によって押圧されることで、幅方向に張力が付与される。ここで、トップロール30は、溶融ガラス1の幅方向両側に複数組配設されており、対をなすトップロール30の回転軸32同士が略ハの字状に拡開している。さらに複数のトップロール30は、それぞれ回転速度を自由に設定することが可能であり、溶融ガラス1の進行速度を調整可能とされている。
【0037】
なお、
図2中、破線で示した1〜5BAYは、溶融金属浴5の上流端から下流側に沿った距離を表している。1BAYは3.048m(約3.0m)である。本実施形態では、溶融金属浴5に、複数組のトップロール30が設けられているが、本発明はこの構成に限定されず、溶融金属浴5上流端から3BAY(約9.1m)下流側までの間に、少なくとも一対のトップロール30が設けられていればよい。
【0038】
ここで、本発明者らは、溶融金属浴5上における溶融ガラス1からのOHの拡散について理論的に解析するために、溶融ガラス1の厚さ方向に関するOH挙動を、一次元の拡散現象と仮定することによって支配方程式を構築した。そして、当該支配方程式を用いて、溶融ガラス1内の位置、温度、厚さ、浴面上の滞在時間等の要素を導入したOH濃度の解析を行った。その結果、溶融金属浴5の上流端から約9.1m(3BAY)下流までの間において、溶融ガラス1からのOH抜け量が最も多くなることを見出した。すなわち、溶融金属浴5の上流端から約9.1m下流までの間(以降、OH欠乏領域と呼ぶ)における溶融ガラス1からのOHの拡散が、トップ面とボトム面とのOH濃度差、及びフロートガラスの化学強化後の反りに大きな影響を与えている可能性があることを見出した。
【0039】
そこで、本発明では、特に、OH欠乏領域におけるフロートオペレーションを最適化するために、溶融ガラス1の温度(粘度)、厚さ、滞在時間等の条件を適切に設定することによって、フロートガラスの化学強化後の反りを低減することを実現した。
【0040】
トップ面とボトム面のOH濃度差を低減するためには、例えば、OH欠乏領域における溶融ガラス1の温度を従来よりも大きく下げることによって、すなわちOH欠乏領域における溶融ガラス1の粘度を従来よりも大きく上げることによって、溶融ガラス1からのOHの拡散を抑制することが考えられる。
【0041】
ここで、本発明は、組成によらず任意の溶融ガラス1に適用することが可能であり、溶融金属浴5へ流入する溶融ガラス1の粘度をη0とし、溶融金属浴5上流端からの9.1m(3BAY)下流の溶融ガラス1の粘度をη1としたとき、η1−η0≧2.0×10
4(Pa・s)とすることが好ましく、η1−η0≧3.0×10
4(Pa・s)とすることがさらに好ましい。
【0042】
特に、化学強化用フロートガラスに適した組成を有する、粘度が2.5×10
4Pa・sとなる温度が850〜1100℃であるガラスの溶融ガラス1を用いた場合には、溶融金属浴5へ流入する溶融ガラス1の温度をT0とし、溶融金属浴5上流端からの9.1m下流の溶融ガラス1の温度をT1としたとき、T0−T1≧200(℃)であることが好ましく、T0−T1≧230(℃)であることがさらに好ましい。
【0043】
また、OH欠乏領域における溶融ガラス1の滞在時間を、従来よりも短縮することによって、溶融ガラス1からのOHの拡散を抑制することが考えられる。これにより、トップ面とボトム面のOH濃度差を低減し、化学強化後の反り量を低減できる。
【0044】
ここで、OH欠乏領域における溶融ガラス1の進行速度は、最上流に位置する一対のトップロール30の回転速度Sと相関関係がある。したがって、OH欠乏領域における溶融ガラス1の滞在時間は、OH欠乏領域の長さ(9.1m)を最上流に位置する一対のトップロール30の回転速度Sで除した値と相関がある。そこで本発明では、上記回転速度Sについて、9.1/S≦20(min)を満たすように、さらに好ましくは9.1/S≦10(min)設定することによって、OH欠乏領域における溶融ガラス1の滞在時間を短縮化した。
【0045】
また、OH欠乏領域における溶融ガラス1の滞在時間の短縮は、上述した最上流に位置する一対のトップロール30の回転速度の調整以外にも、OH欠乏領域における他のトップロール30の回転速度を調整することや、トップロール30が配置される位置や角度を調整することによって実現することが可能である。例えば、OH欠乏領域においては対となるトップロール30の間隔を狭めることによって溶融ガラス1の幅を広げず、ラインスピードを上げて下流側に速やかに送り、フロートバス14下流域においては、対となるトップロール30の間隔を広げることによって溶融ガラス1の幅を広げ、ガラスリボン4が所定の形状となるようにしてもよい。
【0046】
フロートバス14において成形されたガラスリボン4は、不図示の徐冷炉内において室温まで徐冷し、洗浄・検査・切断等の工程を経て化学強化用フロートガラスの製造工程を終了する。なお、トップロール30によって押圧されたガラスリボン4の幅方向両側部には凸凹痕が進行方向に沿って形成されるので、切断工程において除去される。
【0047】
このような工程を経て板状に成形された化学強化用フロートガラスを、化学強化することによって化学強化フロートガラスを得ることができる。化学強化は、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)をイオン半径のより大きなアルカリイオン(典型的には、Kイオン)に交換することで、ガラス表面に圧縮応力層を形成する処理である。化学強化処理は従来公知の方法によって行うことができる。
【0048】
なお、本発明により製造される化学強化用フロートガラスは、板厚が1.5mm以下であることが好ましく、1.1mm以下であることがより好ましい。また、典型的には0.7mm以上であるが必要に応じてこれより薄いものも使用される。
【0049】
また、本発明により製造される化学強化用フロートガラスは、組成によらずに化学強化後の反りを低減することができるが、化学強化用フロートガラスの組成としては、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。
(i)モル%で表示した組成で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を2〜25%、Li
2Oを0〜10%、Na
2Oを0〜18%、K
2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrO
2を0〜5%を含むガラス。ここで、例えば「K
2Oを0〜10%含有する」とは、K
2Oは必須ではないが本発明の目的を損なわない範囲で10%まで含有してよい、の意である。
(ii)モル%で表示した組成が、SiO
2を50〜74%、Al
2O
3を1〜10%、Na
2Oを6〜14%、K
2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO
2を0〜5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が75%以下、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiO
2を68〜80%、Al
2O
3を4〜10%、Na
2Oを5〜15%、K
2Oを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrO
2を0〜1%含有するガラス(iv)モル%で表示した組成が、SiO
2を67〜75%、Al
2O
3を0〜4%、Na
2Oを7〜15%、K
2Oを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrO
2を0〜1.5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が71〜75%、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0050】
また、フロートガラスの反り量は、三次元形状測定器(例えば三鷹光器株式会社製)で測定することができる。具体的には、フロートガラスの幅方向における数箇所において最高点と最下点の差を求め、これらの差の平均値に基づいて求める。また、化学強化前後におけるフロートガラスの反り量の変化は、Δ反り量[(化学強化後反り量)−(化学強化前反り量)]により測定することができる。本発明においては、100mm角のフロートガラスを用いて測定し、板厚0.8mmに換算した際のΔ反り量換算値が100μm以下であることが好ましい。
【0051】
以下、本発明のフロートガラスを化学強化した後、フラットパネルディスプレイ用のカバーガラスとして用いた例について説明する。
図3は、カバーガラスが配置されたディスプレイ装置の断面図である。なお、以下の説明において、前後左右は図中の矢印の向きを基準とする。
【0052】
ディスプレイ装置10は、筐体15内に設けられた表示パネル20と、表示パネル20の全面を覆い筐体15の前方を囲うように設けられるカバーガラス40と、を備える。
【0053】
カバーガラス40は、主として、ディスプレイ装置10の美観や強度の向上、衝撃破損防止などを目的として設置されるものであり、全体形状が略平面形状の一枚の板状ガラスから形成される。カバーガラス40は、表示パネル20の表示側(前側)から離間するように(空気層を有するように)設置されていてもよく、透光性を有する接着膜(図示せず)を介して表示パネル20の表示側に貼り付けられてもよい。
【0054】
カバーガラス40の表示パネル20からの光を出射する前面には、機能膜41が設けられる。表示パネル20からの光が入射する背面には、表示パネル20と対応する位置に機能膜42が設けられる。なお、機能膜41、42は、
図3では両面に設けたが、これに限らず前面または背面に設けてもよく、省略してもよい。
【0055】
機能膜41、42は、例えば、周囲光の反射防止、衝撃破損防止、電磁波遮蔽、近赤外線遮蔽、色調補正、および/または耐傷性向上などの機能を有し、厚さおよび形状などは用途に応じて適宜選択される。機能膜41、42は、例えば、樹脂製の膜をカバーガラス40に貼り付けることにより形成される。あるいは、蒸着法、スパッタ法またはCVD法などの薄膜形成法により形成されてもよい。
【0056】
符号44は、黒色層であり、例えば、顔料粒子を含むインクをカバーガラス40に塗布し、これを紫外線照射、または加熱焼成した後、冷却することによって形成された被膜である。当該被膜44が形成されることにより、筐体15の外側からは表示パネル等が見えなくなり、外観の審美性が向上する。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0058】
下記の組成の化学強化用フロートガラスを、フロートバス14の長さ等の条件が異なる2つのライン(ラインI及びラインII)において、上述した製造方法によって製造した。
モル%表示で、SiO
2を64.2%、Al
2O
3を8.0%、MgOを10.5%、CaOが0.1%、SrOを0.1%、BaOを0.1%、Na
2Oを12.5%、K
2Oを4.0%、ZrO
2を0.5%含有するガラス
ここで、当該ガラスは、粘度が約2.5×10
4Pa・sとなる温度が約1010℃である。
【0059】
このとき、溶融金属浴5へ流入する溶融ガラス1の温度T0と、溶融金属浴5上流端からの9.1m下流の溶融ガラス1の温度T1と、を測定し、これらの位置における粘度η0、η1を求めた。なお、溶融金属浴5へ流入する溶融ガラス1の温度T0は、接続溝11でのガラス素地に熱電対を接触させて測定した値である。また、溶融金属浴5上流端からの9.1m下流の溶融ガラス1の温度T1は、ラインIについては、2〜3BAY中間部及び4〜5BAY中間部において放射温度計で測定した2つの値を内挿して導出した値であり、ラインIIについては、2〜3BAY中間部及び5〜6BAY中間部において放射温度計で測定した2つの値を内挿して導出した値である。
【0060】
また、フロートガラスの反り量を化学強化前に三鷹光器株式会社製三次元形状測定器(NH−3MA)で測定した。その後、各フロートガラスを硝酸カリウム溶融塩により化学強化した。そして、化学強化後のフロートガラスの反り量も同様に測定し、100mm角のフロートガラスのΔ反り量(=化学強化後反り量−化学強化前反り量)を算出した。ここで、Δ反り量は板厚の2乗に反比例するので、板厚の影響を除くため、以下の計算式により、Δ反り量を板厚0.8mmの場合に換算し、Δ反り量換算値として算出した。
Δ反り量換算値=Δ反り量×(板厚)
2÷0.8
2【0061】
図4には、ラインI及びラインIIで製造したフロートガラスについて、OH欠乏領域における溶融ガラス1の粘度の増加量η1−η0(Pa・s)と、Δ反り量換算値(μm)と、の関係を示した。ラインI及びラインIIともに、OH欠乏領域における粘度の増加量η1−η0が大きくなるにつれて、Δ反り量換算値が小さくなるのがわかる。これは、OH欠乏領域における粘度の増加量η1−η0が大きくなるにつれて、すなわちOH欠乏領域における温度の減少量T0−T1が大きくなるにつれて、溶融ガラス1からのOHの拡散が抑制され、トップ面及びボトム面のOH濃度差が大きくなることが抑制された結果だと考えられる。特に、η1−η0≧2.0×10
4(Pa・s)の範囲ではほぼ全てのサンプルにおいて、η1−η0≧3.0×10
4(Pa・s)の範囲では全てのサンプルにおいて、Δ反り量換算値が100(μm)以下となり、化学強化後の反りが効果的に抑制されることが明らかとなった。
【0062】
図5には、ラインI及びラインIIで製造したフロートガラスについて、OH欠乏領域における溶融ガラス1の温度の減少量T0−T1(℃)と、Δ反り量換算値(μm)と、の関係を示した。上述と同様の理由により、ラインI及びラインIIともに、OH欠乏領域における温度の減少量T0−T1が大きくなるにつれて、Δ反り量換算値が小さくなるのがわかる。特に、T0−T1≧200(℃)の範囲ではほぼ全てのサンプルにおいて、T0−T1≧230(℃)の範囲では全てのサンプルにおいて、Δ反り量換算値が100(μm)以下となり、化学強化後の反りが効果的に抑制されることが明らかとなった。
【0063】
図6には、ラインI及びラインIIでフロートガラスを製造する際に最上流に位置する一対のトップロール30の回転速度Sを変更した場合において、OH欠乏領域の長さ(9.1m)を最上流に位置する一対のトップロール30の回転速度Sで除した値である9.1/S(min)と、Δ反り量換算値(μm)と、の関係を示した。ラインI及びラインIIともに、9.1/S(min)が小さくなるにつれて、Δ反り量換算値が小さくなるのがわかる。これは、9.1/S(min)が小さくなるにつれて、OH欠乏領域における溶融ガラス1の進行速度が速くなるため、溶融ガラス1から拡散するOHの絶対量が減少し、トップ面及びボトム面のOH濃度差が大きくなることが抑制された結果だと考えられる。特に、9.1/S≦20(min)の範囲では全てのサンプルにおいて、Δ反り量換算値が100(μm)以下となり、9.1/S≦10(min)の範囲では全てのサンプルにおいて、Δ反り量換算値が80(μm)以下となり、化学強化後の反りが効果的に抑制されることが明らかとなった。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0065】
本出願は、2012年6月4日出願の日本特許出願2012−127396に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。