特許第6065169号(P6065169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6065169
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】光学フィルタおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20170116BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20170116BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   G02B5/22
   G02B5/28
   G02B5/26
【請求項の数】20
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2016-546865(P2016-546865)
(86)(22)【出願日】2016年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2016054485
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-30077(P2015-30077)
(32)【優先日】2015年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松浦 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】保高 弘樹
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−228960(JP,A)
【文献】 特開平01−228961(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0061505(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/054864(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/26
G02B 5/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロメタンに溶解して測定される吸収特性が(i−1)〜(i−3)を満たす近赤外線吸収色素を含有する吸収層を備え
前記近赤外線吸収色素が、式(AI)または式(AII)で示されるスクアリリウム系色素であることを特徴とする光学フィルタ。
(i−1)波長400〜800nmの吸収スペクトルにおいて、670〜730nmに最大吸収波長λmaxを有する。
(i−2)波長430〜550nmの光における最大吸光係数εと、波長670〜730nmの光における最大吸光係数εとの間に、次の関係式が成り立つ。
ε/ε≧65
(i−3)分光透過率曲線において、前記最大吸収波長λmaxにおける透過率を10%としたときの前記最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λ80と、前記最大吸収波長λmaxとの差が65nm以下である。
【化1】
ただし、式(AI)および式(AII)中の記号は以下のとおりである。
Xは、独立して、1つ以上の水素原子がハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい下記式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
−(CHn1− …(1)
式(1)中、n1は2または3である。
−(CHn2−O−(CHn3− …(2)
式(2)中、n2とn3はそれぞれ独立して0〜2の整数であり、n2+n3は1または2である。
は、独立して、飽和環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜12の飽和もしくは不飽和炭化水素基、炭素数3〜12の飽和環状炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜13のアルアリール基を示す。
は、独立して、1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1〜25の炭化水素基である。
、R、RおよびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
nは、2または3である。
【請求項2】
前記式(AI)および式(AII)中、Xが、下記式(3)で示される2価の有機基である請求項に記載の光学フィルタ。
−CR−(CRn4− …(3)
ただし、式(3)は、左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示し、
n4は1または2であり、
は、それぞれ独立して、分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基であり、
はそれぞれ独立して、水素原子または、分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基である。
【請求項3】
前記式(3)中、Rが、それぞれ独立して、分岐を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシ基であり、Rが、それぞれ独立して、水素原子または、分岐を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシ基である請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
式(AI)および式(AII)中、Xが、式(11−1)〜式(12−3)で示される2価の有機基のいずれかである請求項に記載の光学フィルタ。
−C(CH−CH(CH)− …(11−1)
−C(CH−CH− …(11−2)
−C(CH−CH(C)− …(11−3)
−C(CH−C(CH− …(11−4)
−C(CH−C(CH)(C)− …(11−5)
−C(CH−C(CH)(CH(CH)− …(11−6)
−C(CH−CH−CH− …(12−1)
−C(CH−CH−CH(CH)− …(12−2)
−C(CH−CH(CH)−CH− …(12−3)
ただし、式(11−1)〜式(12−3)で示される基は、いずれも左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する。
【請求項5】
前記式(AI)および式(AII)中、Rが、独立して、式(4−1)または式(4−2)で示される基である請求項のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【化2】
式(4−1)および式(4−2)中、R11、R12、R13、R14およびR15は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【請求項6】
前記式(AI)中、Rが、独立して、分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基もしくはアルコキシ基、または不飽和の環構造を有する炭素数6〜16の炭化水素基である請求項のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記近赤外線吸収色素が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む透明樹脂に溶解または分散されている請求項1〜のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記吸収層が、(ii−1)を満たす紫外線吸収色素を含む請求項1〜のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(ii−1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの吸収スペクトルにおいて、360〜415nmに最大吸収波長を有する。
【請求項9】
前記紫外線吸収色素が、下記式(M)で示される化合物である請求項に記載の光学フィルタ。
【化3】
式(M)中の記号は以下のとおりである。
Yは、QおよびQで置換されたメチレン基または酸素原子(ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基)を示し、
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を示し、
〜Qは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、
Zは、下記式(Z1)〜式(Z5)のいずれかで表される2価の基を示す。
【化4】
(ここで、QおよびQは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基、Q10〜Q19は、それぞれ独立して、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基)
【請求項10】
前記吸収層の少なくとも一方の主面上に、(iii−1)および(iii−2)を満たす誘電体多層膜を有する請求項1〜のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iii−1)入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、波長420〜695nmの光の透過率が90%以上である。
(iii−2)入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、波長λnm〜1100nmの光の透過率が1%以下である(ここで、λは、前記吸収層の波長650〜800nmの光における透過率が1%となる最大波長である)
【請求項11】
(iv−1)を満たす分光特性を有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(iv−1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長430〜550nmの光の平均透過率が90%以上であり、かつ波長430〜550nmの光の最小透過率が75%以上である。
【請求項12】
前記光学特性は、(iv−2)〜(iv−6)のいずれかをさらに満たしている請求項11に記載の光学フィルタ。
(iv−2)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600〜700nmの光の平均透過率が25%以上である。
(iv−3)入射角0°の分光透過率曲線において、波長350〜395nmの光の平均透過率が2%以下である。
(iv−4)入射角0°の分光透過率曲線において、波長710〜1100nmの光の平均透過率が2%以下である。
(iv−5)入射角0°の分光透過率曲線の波長385〜430nmの光における透過率と、入射角30°の分光透過率曲線における波長385〜430nmの光の透過率との差分の絶対値の平均値が7%/nm以下である。
(iv−6)入射角0°の分光透過率曲線の波長600〜700nmの光における透過率と、入射角30°の分光透過率曲線における波長600〜700nmの光の透過率との差分の絶対値の平均値が7%/nm以下である。
【請求項13】
入射角0°の分光透過率曲線において、波長430〜480nmの光の平均透過率が87%以上である請求項1〜12いずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
前記吸収層は、透明基材上に備えられた請求項1〜13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項15】
前記透明基材は、ガラスである請求項14に記載の光学フィルタ。
【請求項16】
前記ガラスは、近赤外線吸収ガラスである請求項15に記載の光学フィルタ。
【請求項17】
前記透明基材は、樹脂である請求項14に記載の光学フィルタ。
【請求項18】
前記吸収層は、樹脂基板として機能する請求項1〜13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項19】
前記吸収層は、前記近赤外線吸収色素を含有する近赤外線吸収層と、前記紫外線吸収色素を含有する紫外線吸収層とを有する請求項18いずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項20】
固体撮像素子と、撮像レンズと、請求項1〜19いずれか1項に記載の光学フィルタとを備えたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光を透過し、近赤外光を遮断する光学フィルタ、および該光学フィルタを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ等に搭載されるCCDやCMOSイメージセンサ等の固体撮像素子を用いた撮像装置では、色調を良好に再現し、かつ鮮明な画像を得るために、可視光を透過し、近赤外光を遮蔽する光学フィルタ(近赤外線カットフィルタ)が用いられている。かかる光学フィルタにおいては、特に、近赤外域で高い吸収性を有し、可視域で高い透過性を有する色素を用いることで、近赤外光に対する急峻な遮断性が得られ、可視光による画像の良好な色再現性が得られる。
【0003】
一方で、近赤外光の高遮断性と可視光の高透過性の両特性を得ようとしても、全可視域の光に対して100%の透過率を得ることは難しく、可視域の中でも相対的に透過率の低い領域が存在する。
例えば、既知のスクアリリウム系色素は、近赤外光の遮断性に優れ、可視光の透過率も高いレベルにあり、可視域から近赤外域に向かう透過率が急峻に変化する特性を有する。本出願人は、先にスクアリリウム系色素を含む光学フィルタが一定レベル以上の可視光透過率を実現できることを見出した(特許文献1)。しかし、可視光透過率をさらに高くすることで、より高精度の色再現性の要求が高まってきている。特に可視域の中でも相対的に短波長である波長430〜550nmの光の透過率をより高めることで、青色系の撮像の色再現性の精度を高める要求が強くなってきている。
【0004】
そこで、可視光の透過率を高めるべく、新たな構造を有するスクアリリウム色素も種々提案されているが、未だ満足し得るレベルには達していない(特許文献2、3)。
【0005】
また、スクアリリウム系色素にフタロシアニン系色素を併用した光学フィルタが提案されている(特許文献4)が、可視光の透過性として、特に波長430〜550nmの光に対する透過率を高める技術は開示されていない。さらに、特許文献4は、複数種の異なる色素を使用しているため、可視光の吸収が副次的に増大し、やはり、高い可視光透過率が得られない問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/088063号
【特許文献2】特開2014−148567号公報
【特許文献3】国際公開第2011/086785号
【特許文献4】国際公開第2013/054864号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、近赤外光に対して優れた遮光性を実現できるとともに、高い可視光透過性、特に波長430〜550nmの光の透過率を高めた光学フィルタ、および該光学フィルタを用いた色再現性に優れる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る光学フィルタは、ジクロロメタンに溶解して測定される吸収特性が(i−1)〜(i−3)を満たす近赤外線吸収色素を含有する吸収層を備えたことを特徴とする。
(i−1)波長400〜800nmの吸収スペクトルにおいて、670〜730nmに最大吸収波長λmaxを有する。
(i−2)波長430〜550nmの光における最大吸光係数εと、波長670〜730nmの光における最大吸光係数εとの間に、次の関係式が成り立つ。
ε/ε≧65
(i−3)分光透過率曲線において、前記最大吸収波長λmaxにおける透過率を10%としたときの前記最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λ80と、前記最大吸収波長λmaxとの差が65nm以下である。
また、本発明に係る撮像装置は、上記光学フィルタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、近赤外光に対する遮断性に優れ、可視域、特に波長430〜550nmの光の透過率が高い光学フィルタが得られる。また、該光学フィルタを搭載することで、色再現性に優れた撮像装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の光学フィルタの例を概略的に示す断面図である。
図2】実施例の光学フィルタに用いた反射層の分光透過率曲線を示す図である。
図3】実施例の光学フィルタについて測定された分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、光学フィルタを「NIRフィルタ」、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」とも略記する。
【0012】
<NIRフィルタ>
本発明の一実施形態のNIRフィルタ(以下、「本フィルタ」という)は、1層または2層以上の吸収層を有する。吸収層が2層以上有する場合、各層は同じ構成でも異なってもよい。この場合、一方の層を、後述するようなNIR色素を含む樹脂からなる近赤外線吸収層とし、もう一方の層を、UV色素を含む樹脂からなる紫外線吸収層としてもよい。また、吸収層は、それそのものが基板(樹脂基板)として機能するものでもよい。
【0013】
本フィルタは、特定の波長域の光を遮蔽する選択波長遮蔽層をさらに1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成でも異なってもよく、例えば、一方の層を、少なくとも近赤外光を遮蔽する近赤外線遮蔽層とし、もう一方の層を、少なくとも紫外光を遮蔽する紫外線遮蔽層としてもよい。
【0014】
また、本フィルタは、透明基材を有してもよい。この場合、上記吸収層と選択波長遮層は、透明基材の同一主面上に有してもよく、異なる主面上に有してもよい。吸収層と選択波長遮蔽層を同一主面上に有する場合、これらの積層順は特に限定されない。また、本フィルタは、反射防止層等の、他の機能層を有してもよい。
【0015】
以下、本フィルタの構成例を説明する。図1(a)は、吸収層11を備えた構成例であり、図1(b)は、吸収層11の一方の主面上に選択波長遮蔽層12を備えた構成例である。なお、「吸収層11の一方の主面上に、選択波長遮蔽層12等の他の層を備える」とは、吸収層11に接触して他の層が備わる場合に限らず、吸収層11と他の層との間に、別の機能層が備わっている場合も含むものとし、以下の構成も同様である。図1(c)は、透明基材13の一方の主面上に吸収層11を備えた構成例である。
【0016】
図1(a)〜(c)において、吸収層11は、近赤外線吸収層および紫外線吸収層の2層が含まれてもよい。例えば、図1(b)において、選択波長遮蔽層12上に近赤外線吸収層を有し、近赤外線吸収層上に紫外線吸収層を有する構成でもよく、これら2層が逆の順に備わる構成でもよい。同様に、図1(c)において、透明基材13上に近赤外線吸収層を有し、近赤外線吸収層上に紫外線吸収層を有する構成でもよく、これら2層が逆の順に備わる構成でもよい。
【0017】
図1(d)は、透明基材13の一方の主面上に吸収層11を備え、透明基材13の他方の主面上および吸収層11の主面上に、選択波長遮蔽層12aおよび12bを備えた例である。図1(e)は、透明基材13の両主面上に吸収層11aおよび11bを備え、さらに吸収層11aおよび11bの主面上に、選択波長遮蔽層12aおよび12bを備えた例である。
【0018】
選択波長遮蔽層12a、12bは、紫外光および近赤外光を反射し、可視光を透過する特性を有し、例えば、選択波長遮蔽層12aが、紫外光と第1の近赤外光を反射し、選択波長遮蔽層12bが、紫外光と第2の近赤外光を反射する構成でもよい。
【0019】
図1(f)は、図1(d)に示すフィルタの吸収層11の主面上の選択波長遮蔽層12bに代えて反射防止層14を備えた例である。吸収層が最表面の構成をとる場合、吸収層上に反射防止層を設けるとよく、反射防止層は、吸収層の最表面だけでなく、吸収層の側面全体も覆ってよい。その場合、吸収層の防湿の効果を高められる。以下、とくにことわりがない場合、選択波長遮蔽層は、反射機能を有する「反射層」として説明する。
【0020】
本フィルタは、(iv−1)を満たせばよく、(iv−2)〜(iv−6)の少なくとも一つを満たせば好ましく、(iv−1)〜(iv−6)すべてを満たせばより好ましい。
【0021】
(iv−1)〜(iv−4)は、入射角0°の分光透過率曲線における要件である。
(iv−1)波長430〜550nmの光の平均透過率が90%以上であり、かつ波長430〜550nmの光の最小透過率が75%以上である。
(iv−2)波長600〜700nmの光の平均透過率が25%以上である。
(iv−3)波長350〜395nmの光の平均透過率が2%以下である。
(iv−4)波長710〜1100nmの光の平均透過率が2%以下である。
(iv−5)入射角0°の分光透過率曲線の波長385〜430nmの光の透過率と、入射角30°の分光透過率曲線における波長385〜430nmの光の透過率との差分の絶対値の平均値(以下、「波長385〜430nmの透過率平均シフト量」という)が7%/nm以下である。
(iv−6)入射角0°の分光透過率曲線の波長600〜700nmの光の透過率と、入射角30°の分光透過率曲線における波長600〜700nmの光の透過率との差分の絶対値の平均値(以下、「波長600〜700nmの透過率平均シフト量」という)が7%/nm以下である。
【0022】
(iv−1)を満たすことで、波長430〜550nmの光の透過率を高めることができ、青色系の撮像の色再現性の精度をさらに高めることができる。
(iv−2)を満たすことで、固体撮像素子に不要な波長700nm以上の光をカットしつつ、人間の視感度に関与する波長600〜700nmの光を効率よく透過できる。
(iv−3)を満たすことで、波長395nm以下の光を遮蔽でき、固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけることができる。
(iv−4)を満たすことで、波長710〜1100nmの光を遮蔽でき、固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけることができる。
(iv−5)を満たすことで、波長385〜430nmの光の入射角依存性を低くでき、この波長域における固体撮像素子の分光感度の入射角依存性を小さくできる。
(iv−6)を満たすことで、波長600〜700nmの光の入射角依存性を低くでき、この波長域における固体撮像素子の分光感度の入射角依存性を小さくできる。
【0023】
本フィルタは、(iv−1)において、波長430〜550nmの光の平均透過率は91%以上が好ましく、92%以上がより好ましい。また、(iv−1)において、波長430〜550nmの光の最小透過率は、77%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。また、本フィルタは、(iv−2)において、波長600〜700nmの光の平均透過率は30%以上が好ましい。
【0024】
また、本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長430〜480nmの光の平均透過率は87%以上が好ましく、88%以上がより好ましく、89%以上がより一層好ましく、90%以上がさらに好ましい。とくに、該平均透過率が高いほど、青色系の色再現性の精度を高められる。
【0025】
本フィルタは、(iv−3)において、波長350〜395nmの光の平均透過率は1.5%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。また、(iv−4)において、波長710〜1100nmの光の平均透過率は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。また、(iv−5)において、波長385〜430nmの透過率平均シフト量は6%/nm以下が好ましく、5%/nm以下がより好ましい。さらに、(iv−6)において、波長600〜700nmの透過率平均シフト量は3%/nm以下が好ましく、2%/nm以下がより好ましい。
【0026】
次に、本フィルタの透明基材、吸収層、反射層および反射防止層について説明する。
[透明基材]
透明基材を用いる場合、該透明基材の厚さは、0.03〜5mmが好ましく、薄型化の点から、0.05〜1mmがより好ましく、可視光を透過するものであれば、ガラスや、ニオブ酸リチウム、サファイヤ、結晶等の無機材料や、樹脂等の有機材料が使用できる。
【0027】
透明基材に使用できる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
【0028】
透明基材に使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含むものとする。
ここで、透明基材に使用されるCuOを含有するガラスの具体的な組成例を記載する。
【0029】
(1)質量%表示で、P 46〜70%、AlF 0.2〜20%、LiF+NaF+KF0〜25%、MgF+CaF+SrF+BaF+PbF 1〜50%、ただし、F 0.5〜32%、O 26〜54%を含む基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuO:0.5〜7質量部を含むガラス。
【0030】
(2)質量%表示で、P 25〜60%、AlOF 1〜13%、MgO 1〜10%、CaO 1〜16%、BaO 1〜26%、SrO 0〜16%、ZnO 0〜16%、LiO 0〜13%、NaO 0〜10%、KO 0〜11%、CuO 1〜7%、ΣRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba) 15〜40%、ΣR’O(R’=Li、Na、K) 3〜18%(ただし、39%モル量までのO2−イオンがFイオンで置換されている)からなるガラス。
【0031】
(3)質量%表示で、P 5〜45%、AlF 1〜35%、RF(RはLi、Na、K) 0〜40%、R’F(R’はMg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 10〜75%、R”F(R”はLa、Y、Cd、Si、B、Zr、Ta、mはR”の原子価に相当する数) 0〜15%(ただし、フッ化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)、およびCuO 0.2〜15%を含むガラス。
【0032】
(4)カチオン%表示で、P5+ 11〜43%、Al3+ 1〜29%、Rカチオン(Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Znイオンの合量) 14〜50%、R’カチオン(Li、Na、Kイオンの合量) 0〜43%、R”カチオン(La、Y、Gd、Si、B、Zr、Taイオンの合量) 0〜8%、およびCu2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオン%でF 17〜80%を含有するガラス。
【0033】
(5)カチオン%表示で、P5+ 23〜41%、Al3+ 4〜16%、Li 11〜40%、Na 3〜13%、R2+(Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+の合量) 12〜53%、およびCu2+ 2.6〜4.7%を含み、さらにアニオン%でF 25〜48%、およびO2− 52〜75%を含むガラス。
【0034】
(6)質量%表示で、P 70〜85%、Al 8〜17%、B 1〜10%、LiO 0〜3%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%、ただし、LiO+NaO+KO 0.1〜5%、SiO 0〜3%からなる基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuOを0.1〜5質量部含むガラス。
【0035】
市販品を例示すると、例えば、(1)のガラスとしては、NF−50E、NF−50EX、NF−50T、NF−50TX(旭硝子(株)製、商品名)等、(2)のガラスとしては、BG−60、BG−61(以上、ショット社製、商品名)等、(5)のガラスとしては、CD5000(HOYA(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0036】
上記したCuO含有ガラスは、金属酸化物をさらに含有してもよい。金属酸化物として、例えば、Fe、MoO、WO、CeO、Sb、V等の1種または2種以上を含有すると、CuO含有ガラスは紫外線吸収特性を有する。これらの金属酸化物の含有量は、CuO含有ガラス100質量部に対して、Fe、MoO、WOおよびCeOからなる群から選択される少なくとも1種を、Fe 0.6〜5質量部、MoO 0.5〜5質量部、WO 1〜6質量部、CeO 2.5〜6質量部、またはFeとSbの2種をFe 0.6〜5質量部+Sb 0.1〜5質量部、もしくはVとCeOの2種をV 0.01〜0.5質量部+CeO 1〜6質量部とすることが好ましい。
【0037】
[吸収層]
吸収層は、近赤外線吸収色素(A)と、透明樹脂(B)とを含有し、典型的には、透明樹脂(B)中に近赤外線吸収色素(A)が均一に溶解または分散した層または(樹脂)基板である。吸収層は、さらに紫外線吸収色素(U)を含有することが好ましい。また、吸収層は、前述のとおり、複数層設けてもよい。
【0038】
本フィルタにおいて、吸収層の厚さ(吸収層が複数層からなる場合、各層の合計の厚さ)は、0.1〜100μmが好ましい。厚さが0.1μm未満では、所望の光学特性を十分に発現できないおそれがあり、厚さが100μm超では層の平坦性が低下し、吸収率に面内のバラツキが生じるおそれがある。吸収層の厚さは、0.3〜50μmがより好ましい。また、反射防止層等の他の機能層を備えた場合、その材質によっては、吸収層が厚すぎて割れ等が生ずるおそれがあるため、吸収層の厚さは、0.3〜10μmが好ましい。
【0039】
(近赤外線吸収色素(A))
近赤外線吸収色素(A)(以下、色素(A)ともいう)は、1種または2種以上の組み合わせで、ジクロロメタンに溶解して測定される吸収特性が、(i−1)〜(i−3)を満たす色素を含む。
(i−1)波長400〜800nmの吸収スペクトルにおいて、波長670〜730nmに最大吸収波長λmaxを有する。(i−1)において、λmaxは、波長680〜730nmに有すると好ましく、波長680〜720nmに有するとより好ましく、波長690〜720nmに有するとさらに好ましい。
(i−2)波長430〜550nmの光における最大吸光係数εと、波長670〜730nmの光における最大吸光係数εとの間に、次の関係式が成り立つ。
ε/ε≧65
好ましくは、ε/ε≧70であり、より好ましくはε/ε≧80であり、さらに好ましくはε/ε≧85である。
(i−3)分光透過率曲線において、λmaxにおける透過率を10%としたときの、λmaxより短波長側で透過率が80%となる波長λ80と、λmaxとの差λmax−λ80が65nm以下である。λmax−λ80は、好ましくは60nm以下、より好ましくは55nm以下である。
【0040】
(i−1)〜(i−3)を満たす色素を使用することにより、良好な近赤外線遮蔽特性を有しながら、可視光透過率、特に波長430〜550nmの光の透過率を高めた光学フィルタが得られる。
具体的に(i−1)を満たすことで、所定の近赤外光を十分に遮蔽できる。(i−2)を満たすことで、特に波長430〜550nmの光の透過率を高くできる。(i−3)を満たすことで、可視域と近赤外域の境界付近の変化を急峻にできる。
【0041】
色素(A)は、(i−1)〜(i−3)を満たす色素のみで構成されることが好ましく、1種で(i−1)〜(i−3)を満たすことがより好ましい。この1種で(i−1)〜(i−3)を満たす色素を、色素(A1)という。
【0042】
色素(A1)としては、式(AI)または式(AII)で示されるスクアリリウム系色素が挙げられる。本明細書において、式(AI)で示される色素を、色素(AI)、式(AII)で示される色素を、色素(AII)ともいい、他の色素についても同様である。また、後述するように、式(1n)で表される基を基(1n)とも記し、他の式で表される基も同様に記す。
【0043】
【化1】
ただし、式(AI)および式(AII)中の記号は以下のとおりである。
Xは、独立して、1つ以上の水素原子がハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
−(CHn1− …(1)
式(1)中、n1は2または3である。
−(CHn2−O−(CHn3− …(2)
式(2)中、n2とn3はそれぞれ独立して0〜2の整数であり、n2+n3は1または2である。
は、独立して、飽和環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜12の飽和もしくは不飽和炭化水素基、炭素数3〜12の飽和環状炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜13のアルアリール基を示す。
は、独立して、1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1〜25の炭化水素基である。
、R、RおよびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
nは2または3である。
【0044】
なお、本明細書において、飽和もしくは不飽和の環構造とは、炭化水素環および環構成原子として酸素原子を有するヘテロ環をいう。さらに、環を構成する炭素原子に炭素数1〜10のアルキル基が結合した構造もその範疇に含むものとする。
また、アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。アルアリール基は、1以上のアリール基で置換された、飽和環構造を含んでもよい直鎖状もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和炭化水素基または飽和環状炭化水素基をいう。
【0045】
色素(AI)および色素(AII)は、分子構造の中央にスクアリリウム骨格を有し、スクアリリウム骨格の左右に各1個のベンゼン環が結合し、そのベンゼン環は4位で窒素原子と結合し、該窒素原子とベンゼン環の4位と5位の炭素原子を含む複素環が形成された縮合環構造を左右に有する。さらに、色素(AI)は、左右に各1個のベンゼン環の2位でそれぞれ式(a1)で示されるスルホンアミド基と結合し、色素(AII)は、左右に各1個のベンゼン環の2位でそれぞれ式(a2)で示されるスルホンアミド基と結合する。
【化2】
【0046】
色素(AI)および色素(AII)において、左右に1個ずつ存在する縮合環構造を構成するベンゼン環以外の環の構成は、Xにより決定され、それぞれ独立して員数が5または6の複素環である。前記複素環の一部を構成する2価の基Xは、式(1)で示されるように骨格が炭素原子のみで構成されてもよく、式(2)で示されるように酸素原子を含んでもよい。式(2)において、酸素原子の位置は特に制限されない。すなわち、窒素原子と酸素原子が結合してもよく、ベンゼン環に酸素原子が直接結合してもよい。また、炭素原子に挟まれるように酸素原子が位置してもよい。
【0047】
左右のXは同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。またR〜Rについても、スクアリリウム骨格を挟んで左右で同一であっても異なってもよいが、生産性の観点から同一が好ましい。
【0048】
色素(AI)および色素(AII)は上記のように、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環の2位にスルホンアミド基が結合しており、これにより、従来のスクアリリウム系色素と同等の、近赤外域での分光透過率特性を有しながら、可視域、特に波長430〜550nmの光の透過率がより高められる。これは、ベンゼン環への結合基をスルホンアミド基とすることで、窒素原子の電子密度の低下を抑制できるからと考えられる。また、スルホンアミド基は安定な結合基であるため、熱や光に対する安定性も高められる。さらに、樹脂への溶解性も損なわれないため、染料としての使用も可能になる。
【0049】
色素(AI)および色素(AII)は、有機溶媒に対する溶解性が良好で、したがって、透明樹脂への相溶性も良好である。その結果、吸収層の厚さを薄くしても優れた分光特性を有し、光学フィルタを小型化、薄型化できる。また、吸収層の厚さを薄くできるため、加熱による吸収層の熱膨張を抑制でき、反射層や例えば反射防止層を形成する際の、それらの層の割れ等の発生を抑制できる。すなわち、反射層や反射防止層等を形成する際、その材質によっては熱処理が施されることがあり、吸収層の厚さが厚いと、熱処理時の吸収層の膨張によってそれらの層に割れ等が発生するおそれがある。また、有機溶媒に対する溶解性、透明樹脂への相溶性の観点から、置換基Rは、分岐構造を有する基が好ましい。
【0050】
色素(AI)および色素(AII)は、スルホンアミド基が含まれることにより、耐熱性も良好であるため、反射層や反射防止層等の熱処理等の際にも、その性能の劣化を抑制できる。また、耐熱性の観点からも、置換基Rは、分岐構造を有する基が好ましい。
【0051】
さらに、色素(AI)および色素(AII)は、耐光性も良好である。耐光性の観点から、スルホンアミド基のS原子に結合する基は、アルキル基もしくはアルコシキ基が好ましく、特に炭素数1〜12のアルキル基またはアルコシキ基が好ましい。
【0052】
色素(AI)および色素(AII)のXは、式(3)で示される2価の有機基が好ましい。
−CR−(CRn4− …(3)
式(3)は、左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示し、n4は1または2である。n4は1が好ましい。Rは、それぞれ独立して、分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基であり、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルキル基またはアルコキシ基が好ましい。Rはそれぞれ独立して、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基であり、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシ基が好ましい。
【0053】
Xは、式(11−1)〜(12−3)で示される2価の有機基のいずれかであることが特に好ましい。式(11−1)〜式(12−3)は、いずれも左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示す。
−C(CH−CH(CH)− …(11−1)
−C(CH−CH− …(11−2)
−C(CH−CH(C)− …(11−3)
−C(CH−C(CH− …(11−4)
−C(CH−C(CH)(C)− …(11−5)
−C(CH−C(CH)(CH(CH)− …(11−6)
−C(CH−CH−CH− …(12−1)
−C(CH−CH−CH(CH)− …(12−2)
−C(CH−CH(CH)−CH− …(12−3)
これらのうちでも、Xは、基(11−1)〜(11−6)のいずれかが好ましい。
【0054】
以下に、Xが好ましい基からなる色素(Ai)および色素(Aii)の構造式を示す。式(Ai)、(Aii)中、R〜Rは、式(AI)、(AII)におけるR〜Rと同じ意味である。また、R21、R22は、分岐を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基またはアルコキシ基、R23、R24は、水素原子、または分岐を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基である。
【化3】
【0055】
色素(AI)および色素(AII)のRは、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、独立して、式(4−1)または式(4−2)で示される基がより好ましい。
【化4】
式(4−1)および式(4−2)中、R11、R12、R13、R14およびR15は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0056】
色素(AI)および色素(AII)のRおよびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0057】
色素(AI)のRは、耐光性の点から、独立して、分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基もしくはアルコキシ基、または不飽和の環構造を有する炭素数6〜16の炭化水素基が好ましい。不飽和の環構造としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フラン、ベンゾフラン等が挙げられる。Rは、独立して、分岐を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基もしくはアルコキシ基がより好ましい。
【0058】
色素(AII)のRおよびRは、分子量を大きく増大させず、添加量、スクアリリウムへの反応性、樹脂への溶解性等の観点から、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5のアルキル基がより好ましい。
【0059】
色素(A1)としては、色素(Ai)または色素(Aii)がより好ましく、これらの中でも、表1、2に示す構成の色素(A1−1)〜(A1−26)がさらに好ましい。また、色素の溶解性、耐熱性、分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、色素(A1−9)〜(A1−26)が好ましく、色素の耐光性をさらに考慮すると、色素(A1−10)、(A1−13)、(A1−15)、(A1−21)、(A1−24)〜(A1−26)が特に好ましい。なお、色素(A1−1)〜(A1−26)において、左右に1個ずつ計2個存在するRは左右で同じであり、R〜R、R21〜R24、についても同様である
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
上記色素(AI)および色素(AII)は、従来公知の方法、例えば、米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第14/088063号明細書に記載された方法で製造可能である。具体的には、色素(AI)は、3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(スクアリン酸)と、スクアリン酸と結合して式(AI)に示す構造を形成可能な縮合環を有する化合物とを反応させることで製造できる。また、色素(AII)は、スクアリン酸と、スクアリン酸と結合して式(AII)に示す構造を形成可能な縮合環を有する化合物とを反応させることで製造できる。例えば、色素(AI)が左右対称の構造である場合には、スクアリン酸1当量に対して上記範囲で所望の構造の縮合環を有する化合物2当量を反応させればよい。
【0063】
以下に、具体例として、色素(Ai)(ただし、R21は水素原子、R22〜R24はメチル基)を得る際の反応経路を示す。反応式(F1)においてスクアリン酸を(s)で示す。反応式(F1)によれば、インドール骨格に所望の置換基(R、R、R)を有する化合物(d)の、ベンゼン環にアミノ基を導入し(f)、さらに所望の置換基Rを有するスルホン酸塩化物(g)を反応させてスルホンアミド化合物(h)を得る。スクアリン酸(s)1当量に対し、スルホンアミド化合物(h)2当量を反応させて、色素(Ai)を得る。
【化5】
【0064】
反応式(F1)中、R〜Rは、式(Ai)におけるR〜Rと同じ意味であり、Meはメチル基、THFはテトラヒドロフランを示す。以下、本明細書中、Me、THFは前記と同じ意味で用いられる。
【0065】
本実施形態においては、色素(A)として色素(A1)の1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。色素(A)には、色素(A1)以外のNIR色素を含有してもよいが、色素(A1)のみを使用することが好ましい。
【0066】
吸収層中における色素(A)の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましい。0.1質量部以上とすることで所望の近赤外線吸収能が得られ、30質量部以下とすることで、近赤外線吸収能の低下やヘイズ値の上昇等が抑制される。含有量は、0.5〜25質量部がより好ましく、1〜20質量部がさらに好ましい。
【0067】
(紫外線吸収色素(U))
紫外線吸収色素(U)(以下、色素(U)ともいう。)としては、(ii−1)を満たすものが好ましい。
【0068】
(ii−1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの吸収スペクトル(以下、「色素(U)の吸収スペクトル」という)において、波長360〜415nmに最大吸収波長を有する。
【0069】
(ii−1)を満たす色素(U)を使用すれば、最大吸収波長が適切かつ急峻な吸収スペクトルの立ち上がりをもつので波長430nm以上の光の透過率を低下させずに良好な紫外線遮蔽特性が得られる。色素(U)の吸収スペクトルにおいて、色素(U)の最大吸収波長は波長370〜415nmにあるとより好ましく、波長390〜410nmにあるとさらに好ましい。
【0070】
本実施形態に好適な(ii−1)を満たしている色素(以下、色素(U1)という)の具体例は、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。
【0071】
市販品としては、例えば、オキサゾール系として、Uvitex(登録商標)OB(Ciba社製 商品名)、Hakkol(登録商標) RF−K(昭和化学工業(株)製 商品名)、Nikkafluor EFS、Nikkafluor SB−conc(以上、いずれも日本化学工業(株)製 商品名)等が挙げられる。メロシアニン系として、S0511(Few Chemicals社製 商品名)等が挙げられる。シアニン系として、SMP370、SMP416(以上、いずれも(株)林原製 商品名)等が挙げられる。ナフタルイミド系として、Lumogen(登録商標)F violet570(BASF社製 商品名)等が挙げられる。
【0072】
色素(U1)として、一般式(N)で示される色素(色素(N))も挙げられる。
【化6】
【0073】
式(N)中、R18は、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。また、式(N)中、R19は、それぞれ独立に、シアノ基、または式(n)で示される基である。
−COOR30 …(n)
式(n)中、R30は、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
【0074】
色素(N)中のR18としては、式(1n)〜(4n)で示される基が中でも好ましい。また、色素(N)中のR19としては、式(5n)で示される基が中でも好ましい。
【0075】
【化7】
【0076】
色素(N)の具体例としては、表3に示す構成の色素(N−1)〜(N−4)が例示できる。なお、表3におけるR18およびR19の具体的な構造は、式(1n)〜(5n)に対応する。表3には対応する色素略号も示した。なお、色素(N−1)〜(N−4)において、2個存在するR18は同じであり、R19も同様である。
【0077】
【表3】
【0078】
以上例示した色素(U1)の中でも、オキサゾール系、メロシアニン系の色素が好ましく、その市販品としては、例えば、Uvitex(登録商標)OB、Hakkol(登録商標) RF−K、S0511が挙げられる。
【0079】
(メロシアニン系色素)
色素(U1)としては、特に、一般式(M)で示されるメロシアニン系色素が好ましい。
【0080】
【化8】
式(M)中、Yは、QおよびQで置換されたメチレン基または酸素原子を示す。ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子であるか、少なくとも一方が水素原子で他方が炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。特に好ましくは、QおよびQはいずれも水素原子である。
【0081】
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
が無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
【0082】
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
置換基を有する炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0083】
好ましいQは、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。特に好ましいQは炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0084】
〜Qは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。QおよびQは、少なくとも一方が、アルキル基が好ましく、いずれもアルキル基がより好ましい。QまたはQがアルキル基でない場合は、水素原子がより好ましい。QおよびQは、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましい。QおよびQは、少なくとも一方が、水素原子が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。QまたはQが水素原子でない場合は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0085】
Zは、式(Z1)〜(Z5)で表される2価の基のいずれかを表す。
【化9】
【0086】
式(Z1)〜(Z5)において、QおよびQは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。QおよびQは、異なる基であってもよいが、同一の基が好ましい。
【0087】
置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および、水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0088】
およびQが無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
【0089】
置換基を有する1価の炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0090】
好ましいQおよびQは、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。
特に好ましいQおよびQは、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0091】
10〜Q19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基は、前記Q、Qと同様の炭化水素基である。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0092】
10とQ11は、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、それらは同一のアルキル基が特に好ましい。
12、Q15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基(Q13とQ14、Q16とQ17、Q18とQ19)は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0093】
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物、および、YがQおよびQで置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物が好ましい。
Yが酸素原子である場合のZとしては、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも水素原子であるかいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q、Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)がより好ましい。特に、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q、Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)が好ましい。
【0094】
YがQおよびQで置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物としては、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも水素原子であるかいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q〜Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)が好ましく、Qが炭素数1〜6のアルキル基、Q〜Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)がより好ましい。
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物が好ましく、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)である化合物が特に好ましい。
【0095】
色素(M)の具体例としては、式(M−1)〜(M−11)で表される化合物が挙げられる。
【化10】
【0096】
【化11】
【0097】
また、色素(U1)として、Exiton社製のABS407、QCR Solutions Corp.社製のUV381A、UV381B、UV382A、UV386A、VIS404A、HW Sand社製のADA1225、ADA3209、ADA3216、ADA3217、ADA3218、ADA3230、ADA5205、ADA2055、ADA6798、ADA3102、ADA3204、ADA3210、ADA2041、ADA3201、ADA3202、ADA3215、ADA3219、ADA3225、ADA3232、ADA4160、ADA5278、ADA5762、ADA6826、ADA7226、ADA4634、ADA3213、ADA3227、ADA5922、ADA5950、ADA6752、ADA7130、ADA8212、ADA2984、ADA2999、ADA3220、ADA3228、ADA3235、ADA3240、ADA3211、ADA3221、ADA5220、ADA7158、CRYSTALYN社製のDLS381B、DLS381C、DLS382A、DLS386A、DLS404A、DLS405A、DLS405C、DLS403A等を用いてもよい。
【0098】
本実施形態においては、色素(U1)として、上記色素(U1)としての吸収特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
色素(U)は、好ましくは色素(U1)の1種または2種以上を含有する。色素(U)は、色素(U1)以外に、その他の紫外線吸収色素を含有してもよいが、その場合、色素(U1)による効果を損なわない範囲が好ましい。
【0100】
吸収層中における色素(U)の含有量は、本フィルタの入射角0°の分光透過率曲線の波長400〜425nmに透過率が50%となる波長を有するように定めることが好ましい。色素(U)は、吸収層中において、透明樹脂の100質量部に対して、0.01〜30質量部含有するのが好ましく、0.05〜25質量部がより好ましく、0.1〜20質量部がさらに好ましい。
【0101】
(透明樹脂(B))
透明樹脂(B)としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエステル樹脂が挙げられる。透明樹脂(B)は、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0102】
上記の中でも、透明性、色素(A)や色素(U)の透明樹脂(B)に対する溶解性、および耐熱性の観点から、透明樹脂は、ガラス転移点(Tg)の高い樹脂が好ましい。具体的に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好ましく、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。
【0103】
透明樹脂(B)としては、市販品を用いてもよく、アクリル樹脂として、オグソール(登録商標)EA−F5003(大阪ガスケミカル(株)製、商品名)、ポリメチルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート(以上、いずれも東京化成工業(株)製、商品名)、BR50(三菱レイヨン(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0104】
また、ポリエステル樹脂として、OKP4HT、OKP4、B−OKP2、OKP−850(以上、いずれも大坂ガスケミカル(株)製、商品名)、バイロン(登録商標)103(東洋紡(株)製、商品名)等、ポリカーボネート樹脂として、LeXan(登録商標)ML9103(sabic社製、商品名)、EP5000(三菱ガス化学(株)製、商品名)、SP3810、SP1516、TS2020(以上、いずれも帝人化成(株)製、商品名)、xylex(登録商標)7507(sabic社製、商品名)等、環状オレフィン樹脂として、ARTON(登録商標)(JSR(株)製、商品名)、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン(株)製、商品名)等、ポリイミド樹脂として、ネオプリム(登録商標)C3650、同C3630、同C3450、同C3G30(以上、いずれも三菱ガス化学(株)製、商品名)、JL20(新日本理化(株)製、商品名)(これらのポリイミド樹脂には、シリカが含まれていてもよい)等が挙げられる。
【0105】
(その他の成分)
吸収層は、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等の任意成分を含有してもよい。
(吸収層)
吸収層は、例えば、色素(A)(および色素(U))と、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを基材に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させ形成できる。上記基材は、本フィルタの構成部材として適用可能な透明基材でもよいし、吸収層を形成する際にのみ使用する基材、例えば剥離性の基材でもよい。
【0106】
色素(A)、色素(U)、透明樹脂(B)等を溶解または分散するための溶媒としては、色素(A)と、色素(U)と、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分等を、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であれば、特に限定されない。なお、本明細書において「溶媒」の用語は、分散媒および溶媒の両方を含む概念で用いられる。
【0107】
塗工液には、界面活性剤を含有でき、これにより、外観、特に、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじきを改善できる。界面活性剤は、特に限定されず、カチオン系、アニオン系、ノニオン系等の公知のものを任意に使用できる。
【0108】
塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0109】
上記塗工液を基材上に塗工後、乾燥により吸収層が形成され、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合には、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は、乾燥と硬化を同時に実施できるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化工程を設ける。
【0110】
なお、本フィルタが構成部材として透明基板を含む場合であっても、上記塗工液を、例えば剥離性の支持基材上に塗工して形成した吸収層を、支持基材から剥離して透明基材上に貼着してもよい。剥離性の支持基材は、フィルム状であっても板状であってもよい。
【0111】
また、吸収層は、透明樹脂の種類によっては、押出成形によりフィルム状に製造可能であり、さらに、このように製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させてもよい。本フィルタが透明基板を含む場合、これらを、その後、透明基材上に貼着する。
【0112】
[反射層]
反射層は、可視光を透過し、吸収層の遮光域以外の波長の光を遮蔽する波長選択特性を有することが好ましい。この場合、反射層の遮光領域は、吸収層の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。
【0113】
反射層は、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜の材料は、Ta、TiO、Nbが挙げられ、これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。また、低屈折率膜の材料は、SiO、SiO等が挙げられ、成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。
【0114】
誘電体多層膜は、光の干渉を利用して特定の波長領域の光の透過と遮蔽を制御し、その透過・遮蔽特性には入射角依存性がある。一般的には、反射により遮蔽する光の波長は、垂直に入射する光(入射角0°)より、斜めに入射する光の方が短波長になる。
【0115】
本実施形態において、反射層(誘電体多層膜)は、(iii−1)および(iii−2)を満たすことが好ましい。
(iii−1)入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、波長420〜695nmの光の透過率が90%以上である。波長420〜695nmの光の透過率は93%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。
(iii−2)入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、波長λnm〜1100nmの光の透過率が1%以下である(λは、吸収層の波長650〜800nmの光における透過率が1%となる最大波長である)。波長λnm〜1100nmの光の透過率は低いほど好ましく、0.5%以下が好ましい。
反射層が、(iii−1)および(iii−2)を満たせば、本フィルタは、(iv−1)〜(iv−6)を満たす分光特性を容易に得られる。
【0116】
反射層は、単層で所定の選択波長遮蔽特性を有するようにしてもよく、複数層で所定の選択波長遮蔽特性を有するようにしてもよい。複数層設ける場合、例えば、透明基材の一方の主面側に設けてもよく、透明基材の両主面側に設けてもよい。
【0117】
[反射防止層]
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられるが、光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜が好ましい。
【実施例】
【0118】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。例1−1〜例1〜10、例2−1〜例2〜4、例3−1〜例3〜6および例4−1〜例4〜10が本発明の実施例であり、その他の例が比較例である。
【0119】
<色素の合成>
実施例で使用する使用する色素(A1−1)〜(A1−26)、および比較例で使用する色素(A2)〜(A9)を合成した。色素(A1−1)〜(A1−26)は、前述した表1、2に記載の色素であり、色素(A2)〜(A9)は、式(A2)〜(A9)で表される色素である。
【0120】
【化12】
【0121】
【化13】
【0122】
[色素(A1−15)の製造]
以下、反応式(F1)を用いて色素(A1−15)の製造例を具体的に説明する。以下の説明において、原料成分((a)、(g))や中間生成物((b)〜(h))における、Rはi−プロピル基、Rはn−C17基であり、RおよびRは水素原子である。
【0123】
色素(A1−15)の製造においては、反応式(F1)中の化合物(a)を東京化成工業(株)より入手し出発物質として用いた。
【0124】
(化合物(b)の製造)
1Lナスフラスコに化合物(a)を31.50g(0.197mol)、ヨードプロパンを134.6g(0.79mol)加え、110℃で48時間反応させた。赤い沈殿物が析出し、反応容器中はヨードプロパンの液体が消失してほぼ固体になった。室温に戻して、ヘキサンを加え、沈殿物をろ過した。ろ過物をヘキサンで再び洗浄しろ過した。その結果、化合物(b)(63.9g、0.19mol、収率98.0%)が得られた。
【0125】
(化合物(c)の製造)
1Lナスフラスコに化合物(b)63.9g(0.19mol)、水200mlを加え、その後、水素化ナトリウム水溶液(NaOH40g(0.5mol)+水200ml)を滴下した。添加後、室温で4時間反応させた後、ジクロロメタンと水で抽出し、ジクロロメタン層を、エバポレータを用いて溶媒を除去した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、液状の化合物(c)(33.6g、0.17mol、収率98.7%)が得られた。
【0126】
(化合物(d)の製造)
1Lのナスフラスコに化合物(c)33.6g(0.17mol)、メタノール700mlを加えた。0℃に冷却して水素化ホウ素ナトリウム(14.76g、0.39mol)を加えた。添加後、室温に戻し、4時間反応させた。反応終了後、水を加え、その後、酢酸エチルと水で抽出を行った、抽出後、得られた有機層を、エバポレータを用いて溶媒を除去した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、液状の化合物(d)(26.68g、0.13mol、収率79.0%)が得られた。
【0127】
(化合物(e)の製造)
1Lのナスフラスコに化合物(d)26.68g(0.13mol)を加え、0℃の氷浴下で濃硫酸80g(0.81mol)を滴下した。濃硫酸滴下後、30分間攪拌した。その後、60%の濃硝酸19.19gと濃硫酸60gの混合溶液を氷浴下で滴下した。滴下終了後、反応温度を徐々に室温に戻し、同温度で15時間反応させた。反応終了後、再び0℃に冷却して、水300mLを加えた。さらに反応液が中性になるまで40質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。その後、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレータを用いて溶媒を除去した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、液状の化合物(e)(26.0g、0.12mol、収率82.0%)が得られた。
【0128】
(化合物(f)の製造)
2Lのナスフラスコに、化合物(e)を26.0g(0.10mol)およびTHFを400mL投入し、次いで、氷浴下で、パラジウム炭素8gおよびエタノール400mLを順に加え、さらに、ギ酸アンモニウム93g(1.48mol)を添加した。その後、反応系を開放して大気雰囲気下室温で12時間撹拌した。反応終了後、水を加えた。反応液をろ過して、ろ液をジクロロメタン―水で分液した後、有機層を、エバポレータを用いて濃縮した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィーにて精製した。その結果、油状の化合物(f)(16.5g、0.075mol、収率72.0%)が得られた。
【0129】
(化合物(h)の製造)
2Lのナスフラスコに、化合物(f)14.1g(0.065mol)、ピリジン180mLを加え、次いで、置換基Rを有するスルホン酸塩化物16.5g(0.078mol)を滴下した。滴下終了後、室温に戻して4時間反応させた。反応終了後、水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレータを用いて溶媒を除去した後、濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、固体の化合物()(25.0g、0.073mol、収率97.7%)が得られた。
【0130】
(色素(A1−15)の製造)
1LのナスフラスコにDean−Stark管を取り付け、化合物(h)34.0g、0.086mol)、スクアリン酸4.85g(0.042mol)、オルトギ酸トリエチル34mL、エタノール400mLを加え、110℃で8時間加熱撹拌した。反応終了後、エバポレータを用いて溶媒を除去した後、酢酸エチルで洗浄し、カラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、色素(A1−15)(27.4g、0.031mol、収率74.0%)が得られた。
【0131】
[色素(A1−10)、(A1−12)〜(A1−14)、(A1−18)、(A1−19)の製造]
色素(A1−15)の製造において、置換基Rを有するスルホン酸塩化物(g)のRを、それぞれ表1、2に示すRとした以外は同様にして、色素(A1−10)、(A1−12)〜(A1−14)、(A1−18)、(A1−19)を製造した。
【0132】
[色素(A1−1)、(A1−5)〜(A1−7)の製造]
色素(A1−15)の製造において、ヨードプロパンに代えてヨードメタンを用い、かつ置換基Rを有するスルホン酸塩化物(g)のRを、それぞれ表1に示すRとした以外は同様にして、色素(A1−1)、(A1−5)〜(A1−7)を製造した。
【0133】
[色素(A1−21)の製造]
反応式(F1)中の化合物(f)(ただし、Rはイソペンチル基、R、Rは水素原子)を、国際公開第14/088063号明細書に記載の方法により製造し、この化合物(f)から、色素(A1−15)の場合と同様にして、化合物(h)(ただし、Rはイソペンチル基、Rはn−C17基、R、Rは水素原子)を経て色素(A1−21)を製造した。
【0134】
[色素(A1−9)の製造]
反応式(F1)中の化合物(f)(ただし、Rはi−C、R、Rは水素原子)から、化合物(h)(ただし、Rはi−C、Rは−CF、R、Rは水素原子)を経て、色素(Ai)(ただし、Rはi−C、Rは−CF、R、Rは水素原子)を、以下のようにして製造した以外は、色素(A1−1)の場合と同様にして製造した。
【0135】
(化合物(h)の製造)
1Lのナスフラスコに化合物(f)14.17g(0.065mol)、ジクロロメタン 180mLを加え、次いで、トリエチルアミン14.4g(0.14mol)を加えた。その後、50℃に冷却して無水トリフルオロ酢酸18.5g(0.066mol)を滴下した。滴下終了後、室温に戻して4時間反応させた。反応終了後、水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレータを用いて溶媒を除去した後、濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、固体の化合物(h)(15g、0.043mol、収率66.0%)が得られた。
【0136】
(色素(A1−9)の製造)
1LのナスフラスコにDean−Stark管を取り付け、化合物(h)12.5g、0.036mol)、スクアリン酸2.0g(0.018mol)、オルトギ酸トリエチル2mL、エタノール200mLを加え、110℃で8時間加熱撹拌した。反応終了後、エバポレータを用いて溶媒を除去した後、酢酸エチルで洗浄し、カラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、色素(A1−9)(8.6g、0.011mol、収率63.0%)が得られた。
【0137】
[色素(A1−11)、(A1−16)、(A1−17)の製造]
色素(A1−9)の製造において、無水トリフルオロ酢酸に代えて、表1、2に示すRを有するフッ素スルホン酸無水物を使用した以外は同様にして、色素(A1−11)、(A1−16)、(A1−17)を製造した。
【0138】
[色素(A1−2)、(A1−3)、(A1−4)、(A1−8)の製造]
色素(A1−9)の製造において、ヨードプロパンに代えてヨードメタンを用い、さらに、色素(A1−3)、(A1−4)、(A1−8)については、無水トリフルオロ酢酸に代えて、表1に示すRを有するフッ素スルホン酸無水物を使用した以外は同様にして、色素(A1−2)、(A1−3)、(A1−4)、(A1−8)を製造した。
【0139】
[色素(A1−22)の製造]
反応式(F1)中の化合物(f)(ただし、Rはイソペンチル基、R、Rは水素原子)を、国際公開第14/088063号明細書に記載の方法により製造し、この化合物(f)から、色素(A1−9)の場合と同様にして、化合物(h)(ただし、Rはイソペンチル基、Rは−CF、R、Rは水素原子)を経て色素(A1−22)を製造した。
【0140】
[色素(A1−23)の製造]
色素(A1−22)の製造において、無水トリフルオロ酢酸に代えて、表2に示すRを有するフッ素スルホン酸無水物を使用した以外は同様にして、色素(A1−23)を製造した。
【0141】
[色素(A1−20)の製造]
Journal of fluorine chemistry 133,11−15,2012に記載される下記化合物と化合物(f)(ただし、Rはイソペンチル基、R、Rは水素原子)とを反応させてスルホンアミド体を得、この中間体にスクアリン酸を、色素(A1−9)の場合と同様にして反応させて、色素(A1−20)を製造した。
【化14】
【0142】
[色素(A1−24)の製造]
以下に示すように、反応式(F1)中の化合物(b)(ただし、Rはイソプロピル基、R、Rは水素原子)からグリニャール試薬(j)(ただし、R22はメチル基)を用いて化合物(i)を製造し、この化合物(i)から、色素(A1−15)の場合と同様にしてニトロ化反応を経てベンゼン環にアミノ基を導入し、さらにカルボン酸スルホン化合物(g)(ただし、R9はn−C17基)を反応させてスルホンアミド化合物を得、この化合物にスクアリン酸(s)を反応させて、色素(A1−24)を製造した。
【化15】
【0143】
(化合物(i)の製造)
2Lの三つ口フラスコにスターラーチップを入れ、化合物(b)52.06g(0.16mol)を仕込み、滴下ロートおよび冷却管を連結した。反応器内を減圧し、撹拌しながらオイルバスで110℃に昇温し、1時間乾燥した後、窒素で解圧した。系内を窒素雰囲気に保ったまま反応器を氷冷し、テトラヒドロフラン約200mLを添加した。滴下ロートにメチルマグネシウムクロリド・テトラヒドロフラン溶液(1mol/L)192ml(1.2当量)を仕込み、滴下した。滴下終了後、オイルバスで反応系を80℃に昇温し2時間還流撹拌した。反応器を氷冷し0.5N塩酸水溶液を反応系が酸性になるまで添加し撹拌した。中和熱が収まった後、塩化メチレンを加え、分液操作をし、有機層を濃縮した。濃縮した有機層をカラムクロマトグラフィー法にて精製した。その結果、化合物(i)(17.31g、0.08mol、収率50.0%)が得られた。
【0144】
[色素(A1−25)、(A1−26)の製造]
色素(A1−24)の製造において、置換基R22を有するグリニャール試薬(j)のR22を、それぞれエチル基およびイソプロピル基とした以外は同様にして、色素(A1−25)、(A1−26)を製造した。
【0145】
なお、比較例で使用する色素(A2)〜(A9)については、色素(A2)〜(A4)、(A9)は、国際公開第14/088063号明細書に記載された方法により製造し、色素(A5)〜(A8)は 国際公開第11/086785号明細書に記載された方法により製造した。
【0146】
<色素の評価>
(1)ジクロロメタン中における色素の吸収特性
上記で得られた色素をジクロロメタン中に溶解し、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形)を用いて分光透過率曲線を測定し、最大吸収波長λmax、最大吸収波長における透過率を10%としたときの前記最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λ80、最大吸収波長λmaxと波長λ80との差(λmax−λ80)、波長430〜550nmにおける最大吸光係数ε、波長670〜730nmにおける最大吸光係数ε、およびそれらの比(ε/ε)を算出した。結果を表4に示す。なお、色素(A9)については溶解性が低いため測定しなかった。また、以下の分光透過率曲線は、いずれも(株)日立ハイテクノロジーズ社製、U−4100形の紫外可視分光光度計を用いた。
【0147】
【表4】
【0148】
表4に示すとおり、色素(A1−1)〜(A1−26)はいずれも前述した(i−1)〜(i−3)を満たしている。一方、色素(A2)〜(A4)は(i−2)を満たさず、色素(A6)は(i−2)および(i−3)を満たさない。また、色素(A7)は(i−1)および(i−2)を満たさず、色素(A5)および(A8)は(i−1)〜(i−3)をすべて満たさない。
【0149】
(2)色素の溶解性
上記で得られた色素のうちの数種について、樹脂溶液に対する溶解性を評価した。
溶解性試験では樹脂溶液として、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:OKP850)を混合溶媒(シクロヘキサノン:メチルイソブチルケトン(MIBK)=1:1)に溶解して調製した樹脂濃度12.5質量%の溶液を用いた。結果を、用いた色素の種類とともに表5に示す。なお、溶解性試験における樹脂溶液の温度は50℃と、その中に色素を投入し、2時間攪拌して、溶解の有無を目視にて観察した。溶解性の評価基準は下記のとおりである。
A:溶解度10質量%超
B:溶解度5質量%超10質量%以下
C:溶解度5質量%以下
【0150】
【表5】
【0151】
表5に示すとおり、置換基Rに分岐構造を有する色素(A1−9)、(A1−15)、(A1−16)および(A1−21)は、分岐構造を有さない他の色素に比べ、樹脂溶液に対し高い溶解性を有している。このことから、置換基Rの分岐構造が溶解性の向上に寄与していると推定される。樹脂溶液に対する溶液性が高いと、塗工性が向上し、厚さの薄い樹脂膜を形成し得る。また、薄い樹脂膜とすることで、熱処理時の樹脂の膨張を抑制できる。
【0152】
<NIRフィルタ[I]の製造>
(例1−1〜例1−14)
表5に示す色素をそれぞれポリエステル樹脂(OKP850)の15質量%シクロヘキサノン溶液と混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。なお、例1−14では、用いた色素A9が樹脂溶液に溶解せず、塗工液を調製できなかった。得られた塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(無アルカリガラス;旭硝子(株)製、商品名:AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.9〜1.0μmの吸収層を形成し、NIRフィルタ(例1−1〜例1−13)を得た。
【0153】
(例2−1〜例2−8)
表6に示す色素をそれぞれ環状オレフィン樹脂(JSR(株)製、商品名:ARTON(登録商標))の15質量%シクロヘキサノン溶液と混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。なお、例2−8では、用いた色素A9が樹脂溶液に溶解せず、塗工液を調製できなかった。得られた塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.9〜1.0μmの吸収層を形成し、NIRフィルタ(例2−1〜例2−7)を得た。
【0154】
(例3−1〜例3−10)
表7に示す色素をそれぞれポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、商品名:パンライト(登録商標)SP1516)の15質量%シクロヘキサノン溶液と混合し、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。なお、例3−10では、用いた色素A9が樹脂溶液に溶解せず、塗工液を調製できなかった。得られた塗工液を、厚さ0.3mmのガラス(AN100)基板上にスピンコート法により塗布し、加熱乾燥させ、厚さ0.9μmの吸収層を形成し、NIRフィルタ(例3−1〜例3−9)を得た。
【0155】
<NIRフィルタ[I]の評価>
(1)分光特性
作製したNIRフィルタ(例1−1〜例1−13、例2−1〜例2−7、例3−1〜例3−9)について、紫外可視分光光度計を用いて分光透過率曲線を測定した。その測定結果から、吸収層の、最大吸収波長λPmax、波長430〜550nmの光における最小透過率、波長430〜480nmの光における平均透過率、波長670〜730nmの光において透過率が1%以下となる吸収幅(透過率が1%以下となる最も長い波長λと透過率が1%以下となる最も短い波長λとの差(λ−λ);吸収幅と表記)、最大吸収波長λPmaxにおける透過率を10%としたときの前記最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λP80、最大吸収波長λPmaxと波長λP80との差(λPmax−λP80)を算出した。
結果を、吸収層の膜厚、および吸収層における色素の樹脂に対する割合(質量%)とともに、表〜表8に併せ示す。なお、表6〜表8に示した値は、NIRフィルタの分光透過率曲線から、ガラス基板の透過率等を減算した値である。具体的にはガラス基板の吸収、ガラス基板と吸収層界面、ガラス基板と空気界面の反射の影響を差し引いて、吸収層と空気界面での反射を計算した値となっている。
【0156】
【表6】
【0157】
表6に示されるように、ポリエステル樹脂を用いた例において、例1−1〜例1−10は、最大吸収波長λPmaxが704〜714nm、波長430〜550nmの光における最小透過率が84%以上、λPmax−λP80が103nm以下であった。このことは、(i−1)〜(i−3)をすべて満たしている色素を含む例は、波長600〜700nmの透過率を高く保持でき、また、波長430〜550nmの可視光透過率が高く、かつ可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線が急峻であることを示している。
【0158】
これに対し、(i−1)〜(i−3)の少なくとも1つの要件を満たさない例1−11および例1−13では、波長430〜550nmの光における最小透過率が82%以下であり、また、例1−12では、λPmax−λP80が121nmであった。例1−11および例1−13は、波長430〜550nmの可視光透過率が低く、例1−12は、可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線の傾きが緩やかである。
【0159】
【表7】
【0160】
表7に示されるように、環状オレフィン樹脂を用いた例において、例2−1〜例2−4は、最大吸収波長λPmaxが波長698〜704nm、波長430〜550nmの光における最小透過率が84%以上、λPmax−λP80が103nm以下であった。このことは、(i−1)〜(i−3)をすべて満たしている色素を含む例は、波長600〜700nmの透過率を高く保持でき、また、波長430〜550nmの可視光透過率が高く、かつ可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線が急峻であることを示している。
これに対し、(i−1)〜(i−3)の少なくとも1つの要件を満たさない例2−5〜例2−7では、波長430〜550nmの光における最小透過率が83.7%以下であり、波長430〜550nmの可視光透過率が低い。また、色素(A9)は環状オレフィン樹脂への溶解度が低く、樹脂の膜厚への自由度が少ない。
【0161】
【表8】
【0162】
表8に示されるように、ポリカーボネート樹脂を用いた例において、例3−1〜例3−6は、最大吸収波長λPmaxが波長700〜711nm、波長430〜550nmの光における最小透過率が84%以上、λPmax−λP80が104nm以下であった。このことは、(i−1)〜(i−3)をすべて満たしている色素を含む例は、波長600〜700nmの光の透過率を高く保持でき、また、波長430〜550nmの可視光透過率が高く、かつ可視域と近赤外域の境界付近における吸収曲線が急峻であることを示している。
これに対し、(i−1)〜(i−3)の少なくとも1つの要件を満たさない例3−7〜例3−10では、波長430〜550nmの光における最小透過率が84%未満であり、波長430〜550nmの可視光の透過率が低い。また、色素(A9)はポリカーボネート樹脂への溶解度が低く、樹脂の膜厚への自由度が少ない。
【0163】
<NIRフィルタ[II]の製造>
(例4−1)
厚さ0.3mmの無アルカリガラス(AN100)基板に蒸着法により、TiO膜とSiO膜を交互に積層して、誘電体多層膜52層からなる反射層を形成した。反射層は、誘電体多層膜の積層数、TiO膜の膜厚およびSiO膜の膜厚をパラメータとしてシミュレーションし、入射角0°および30°の各分光透過率曲線において、(iii−1)および(iii−2)を満たすように、具体的には、波長420〜695nmの光における透過率が90%以上、波長704nm(吸収層の波長650〜800nmの光における透過率が1%となる最大波長)〜1100nmの光における透過率が1%以下となるように求めた。図2に、上記設計をもとに作製した反射層の分光透過率曲線(入射角0°および30°)を示す。
【0164】
また、ポリエステル樹脂(OKP850)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、シランカップリング剤として1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ウレアをポリエステル樹脂の質量に対して3質量%となる割合で添加し溶解させた。さらに、この樹脂溶液に、上記で得られたNIR色素(A1−6)、およびUV色素(M−2)を、ポリエステル樹脂の質量に対してそれぞれ12質量%および4.5質量%となる割合で添加し溶解させて、吸収層を形成するための塗工液を調製した。
【0165】
この塗工液を、反射層を形成した上記ガラス基板の反射層形成面とは反対側の面に、スピンコート法により塗布し、大気圧下、90℃で5分間、次いで、150℃で1時間加熱して、厚さ1μmの吸収層を形成した。この後、吸収層の表面に、TiO膜とSiO膜を交互に積層して反射防止層を形成し、光学フィルタを得た。なお、反射防止層の構成もまた、誘電体多層膜の積層数、TiO膜の膜厚およびSiO膜の膜厚をパラメータとして、所望の光学特性を有するようにシミュレーションして決定した。
【0166】
(例4−2〜例4−11)
基板の種類、その厚さ、吸収層を形成するための塗工液に添加する色素の種類、その添加量、樹脂の種類、吸収層の厚さの少なくとも1つを表9に示すように変え、さらに反射層の構成も、それぞれの例において、(iii−1)および(iii−2)を満たすような構成に変えた以外は、例4−1と同様にして、光学フィルタを製造した。例4−8〜4−10で用いた近赤外線吸収ガラス基板は、CuO含有フツリン酸ガラス(旭硝子(株)製 商品名 NF−50TX)からなる基板である。
【0167】
<NIRフィルタ[II]の評価>
(1)光学特性
作製した光学フィルタ(例4−1〜例4−11)について、紫外可視分光光度計を用いて分光透過率曲線(入射角0°および30°)を測定し、その測定結果から各光学特性を算出した。結果を、表9に併せ示す。また、例4−7および例4−11の分光透過率曲線を図3に示す。
なお、表9中、平均透過率および最小透過率の値は、入射角0°の分光透過率曲線から算出した値である。
【0168】
【表9】
【0169】
表9から明らかなように、例4−1〜例4−10の光学フィルタは、いずれも(iv−1)〜(iv−6)を満たしていた。すなわち、可視光の利用効率が高く、可視域の長波長領域における入射角依存性も低い光学フィルタであった。一方、例4−11の光学フィルタは、波長430〜550nmの光の最小透過率が75%に満たず、同波長域の透過率の点で不十分であった。また、波長430〜480nmの光の平均透過率についても、例4−11の光学フィルタは87%に満たず、同波長の透過率の点でも不十分であった。
【0170】
(2)耐熱性
作製した光学フィルタ(例4−1、例4−4、例4−6、例4−7)について、耐熱性試験を行い、耐熱性を評価した。
耐熱性試験では、光学フィルタを180℃で5時間加熱した。加熱前後に、紫外可視分光光度計を用いて分光透過率曲線(入射角0°)を測定し、加熱前後の波長400〜800nmの光における最大透過率を求め、次式よりその変動量を算出した。
最大透過率変動量=(加熱前の波長400〜800nmの光おける最大透過率)−(加熱後の波長400〜800nmの光における最大透過率)
結果を、表9に併せ示す。耐熱性の評価基準は下記のとおりである。
A:最大透過率変動量1%未満
B:最大透過率変動量1%以上5%以下
C:最大透過率変動量5%超
【0171】
表9から明らかなように、例4−6、例4−7の光学フィルタはいずれも耐熱性に特に優れることがわかった。
【0172】
(3)耐光性
作製した光学フィルタ(例4−1、例4−2、例4−4、例4−5)について、耐光性試験を行い、耐光性を評価した。
耐光性試験では、キセノンランプを用いて、波長300〜400nmにおける照度を75W/mに調整し、合計80時間、これらの光学フィルタに照射した。照射前後に、紫外可視分光光度計を用いて分光透過率曲線(入射角0°)を測定し、照射前後の波長400〜800nmの光における最大透過率を求め、次式よりその変動量を算出した。
最大透過率変動量=(照射前の波長400〜800nmの光における最大透過率)−(照射後の波長400〜800nmの光における最大透過率)
結果を、表9に併せ示す。耐光性の評価基準は下記のとおりである。
A:最大透過率変動量0.5%未満
B:最大透過率変動量0.5%以上2.0%以下
C:最大透過率変動量2.0%超
【0173】
表9から明らかなように、式(Ai)中、置換基Rがアルキル基である色素(A1−15)を用いた例4−4の光学フィルタは、耐光性に特に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の光学フィルタは、良好な近赤外線遮蔽特性を有し、かつ可視光の透過性に優れるので、デジタルスチルカメラ等の撮像装置等に有用である。
【符号の説明】
【0175】
11,11a,11b…吸収層、12,12a,12b…反射層、13…透明基材、14…反射防止層。
【要約】
光学フィルタはジクロロメタン中での吸収特性が下記要件を満たす近赤外線吸収色素を含有する吸収層を備える。
・波長400〜800nmの吸収スペクトルにおいて、670〜730nmに最大吸収波長λmaxを有する。
・波長430〜550nmの光における最大吸光係数εと、波長670〜730nmの光における最大吸光係数εとの間に、次の関係式:ε/ε≧65が成り立つ。
・分光透過率曲線において、最大吸収波長λmaxにおける透過率を10%としたときの最大吸収波長より短波長側で透過率が80%となる波長λ80と、最大吸収波長λmaxとの差が65nm以下である。
図1
図2
図3