(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る磁気センサ装置1の一例は、
図1に例示するような電流センサ、または
図2に例示するような磁気式エンコーダ2として利用されるものである。
【0015】
図1に示す電流センサとしての利用では、磁気センサ装置1は、測定対象の電流が流れる導線40から、所定の距離だけ離れた位置に配される。そしてこの導線40を流れる電流Iの向き(Hx軸正の方向とする)に、その磁場の方向(バイアス磁石10自身がつくり、磁場を検出する検出部に印加する磁力線の向き)が一致するよう配されたバイアス磁石10と、回路部20とを含む。ここで回路部20は、電圧信号出力手段としての第1のGMR素子群11及び第1のオペアンプ12と、抵抗手段としての第2のGMR素子群13と、可変利得増幅器である第2のオペアンプ14と、参照電位供給部15と、を含んで構成される。なお、ノイズの影響を軽減するためのバイパスコンデンサ等は、適宜挿入するものであるので、ここでは図示を省略する(以下の図において同じ)。例えばバイパスコンデンサは、電源電位の端子と共通電位GNDの端子の少なくともいずれかの間に挿入する。この場合のコンデンサの容量は、ノイズのレベルに応じて選択すればよい。
なお、後述する
図3においては、検出部は、GMR素子11a、11b、及びGMR素子13a、13bに相当する。
図5に示した例では、検出部は、GMR素子11a、11b、11c、11d、及びGMR素子13a、13bに相当する。
【0016】
また
図2に示す磁気式エンコーダ2では、測定対象となる回転体の回転方向(周方向)に着磁され、周期的に着磁方向がπずつ交代する円環状の磁石スケール30を用いる。そしてこの磁石スケール30の外周に、この磁石スケール30からそれぞれ実質的に等距離に配された2つの磁気センサ装置1を含む。この磁気センサ装置1のバイアス磁石10は、それぞれ磁石スケール30の幅方向に、その磁力線の方向が一致するよう配される。なお、
図2の磁気式エンコーダ2の例において、2つの磁気センサ装置1の、各バイアス磁石10の磁力線の方向は、同じ方向に向くように配されてよい。なお、
図2において、符号に付けた引出線の矢印を除いて、他の矢印は磁石スケールの着磁方向或いはバイアス磁石10の着磁方向を表わす。
【0017】
これらの例において、
図3に示すように、第1のGMR素子群11は、測定対象の磁場の方向(Hy方向)に、その固定層が磁化されているGMR素子11a及び11bを含む。なお、GMR素子11aとGMR素子11bとの固定層の磁化方向は角度πだけ異なっている。
図3は、本実施の形態に係る磁気センサ装置1の回路部20の一例(バイポーラ電源の例)を表す概略回路図である。
【0018】
ここでGMR素子11a,11bは、電源電位の正極側+Vcと電源電位の負極側−Vcとの間に直列に接続される。またこれらのGMR素子11aと11bとが互いに接続されている点(この電位を以下Vyとし、この点を点Vyと書く)には、第1のオペアンプ12の非反転入力端子が、抵抗器R7を介して接続される。
【0019】
第2のGMR素子群13は、測定対象の磁場に直交する方向(バイアス磁石10による磁場の方向)に、その固定層が磁化されているGMR素子13a及び13bを含む。このGMR素子13aとGMR素子13bとの固定層の磁化方向も角度πだけ異なっている。ここでGMR素子13aの一端側は、第1のオペアンプ12の非反転入力端子に対して、抵抗器R8を介して接続されるとともに、この一端側は共通電位GNDに接続される。またその他端側は、GMR素子13bの一端と、第2のオペアンプ14の反転入力端子とに接続される。GMR素子13bの他端側は、第2のオペアンプ14の出力端子に接続される。またこの第2のオペアンプ14の出力端子は、抵抗器R6を介して第2のオペアンプ14の非反転入力端子に接続されており、この第2のオペアンプ14の出力端子の出力電位Voが、そのままこの回路部20の出力電位(つまり、電流センサ1ないし磁気式エンコーダ2の出力電位)Voとなる。第2のオペアンプ14の出力端子からは連続的な出力値を得ることができる。
【0020】
参照電位供給部15は、実質的に同じ抵抗値を示す2つの抵抗器R11,R12を直列に、電源電位の正極+Vcと、負極−Vcとの間に接続したものである。この抵抗器R11,R12を互いに接続した点は従って、電源電位の中点電位となる。本実施の形態の一例では、この中点電位が参照電位Vref(バイポーラ電源であるので中点電位は「0」)となる。
【0021】
なお、この回路部20の例では、第1のGMR素子群11を構成するGMR素子11a及び11bと、参照電位供給部15の2つの抵抗器R11,R12とは、第1のオペアンプ12からするとブリッジ回路を形成している。そこでこれらの2つの抵抗器R11,R12は、GMR素子と同じ材質の膜を用いて形成してもよい。ただし、磁気抵抗変化率が十分に低い抵抗器、或いは電気抵抗が変化しない抵抗器とすることが好ましい。これにより温度により変化するGMR素子の特性を補償する効果を得ることもできる。
【0022】
参照電位Vrefは、抵抗器R9を介して第1のオペアンプ12の反転入力端子に接続される。また第1のオペアンプ12の出力端子は、抵抗器R10を介して第1のオペアンプ12の反転入力端子に接続される。この第1のオペアンプ12の出力端子の電位を以下Viとする。この第1のオペアンプ12の出力端子は、抵抗器R5を介して第2のオペアンプ14の非反転入力端子に接続されている。また第1のオペアンプ12の非反転入力端子は抵抗器R8を介して共通電位GNDにも接続される。
【0023】
本実施の形態の磁気センサ装置1の回路部20は以上の構成を備えて、次のように動作する。GMR素子11a及び11bの抵抗値R1,R2は、いずれか一方の固定層の磁化方向と外部磁場とのなす角θを用いて、
R1=Rm−r・sinθ、
R2=Rm+r・sinθ、
と書かれる。なお、RmはGMR素子の中で固定層磁化方向と自由層磁化方向が直交しているときの、GMR素子の電気抵抗値に相当する。sinθの符号がGMR素子11aと11bとで異なるのは、固定層の磁化方向が互いに角度πだけ異なっているためである。
【0024】
一方、GMR素子13aの抵抗値R4、及びGMR素子13bの抵抗値R3は、いずれか一方の固定層の磁化方向と外部磁場とのなす角θを用いて、
R3=Rm−r・cosθ、
R4=Rm+r・cosθ、
と書かれる。Rmは、GMR素子の中で固定層磁化方向と自由層磁化方向が直交しているときの、GMR素子の電気抵抗値に相当する。cosθの符号がGMR素子13aと13bとで異なるのは、固定層の磁化方向が互いに角度πだけ異なっているためである。
【0025】
GMR素子11a及び11bによる中点電位Vyは、電流をi、
【数1】
として、
【数2】
と表される。一方、参照電位Vrefは既に述べたように「0」であるから、第1のオペアンプ12の非反転入力の電位V+と、反転入力の電位V−とはそれぞれ次の(1),(2)式で表されるものとなる:
【数3】
【0026】
これらはバーチャルショートとなるから、V+=V−である。ここでViは、第1のオペアンプ12の出力電位であり、抵抗器R7とR9とが同じ抵抗値Rjであり、抵抗器R8とR10とが同じ抵抗値Rkである場合、
【数4】
と書ける。しかしながらここではVrefは0であるので、結局Viは、
【数5】
と書くことができる。
【0027】
このように本実施の形態では、電圧信号出力手段に供給される電源電位が、一定の電位を保ち、他の回路によって制限されることがないので、出力される電圧信号の幅が、従来に比べ大きくなっている。
【0028】
一方、第2のオペアンプ14の利得は、第2のGMR素子群13に含まれるGMR素子13a,13bの抵抗値によって可変制御される。すなわち第2のオペアンプ14の非反転入力の電位V+と、反転入力の電位V−とはそれぞれ、
【数6】
と書かれる。これらはバーチャルショートとなるから、V+=V−であり、従って、
【数7】
となる。
【0029】
ここでVoは、第2のオペアンプ14の出力電位であって、
【数8】
であり、Viは(3)式で与えられる通りである。ここで抵抗器R5とR6とがともに抵抗値Raの抵抗であるようにすれば、
【数9】
となるので、(3)式を用いて、第2のオペアンプ14の出力電位Vo、すなわち回路部20の出力電位Voが、
【数10】
となって、角θの正接に比例する信号が出力されることとなる。
【0030】
この角θの正接は、そのままバイアス磁場が検出部に及ぼす「磁場の強さHx」と、測定対象が検出部に及ぼす「磁場の強さHy」との比にほかならない。つまり、
【数11】
なので、この回路部20の出力はそのまま、この比に比例する値となっている。
【0031】
またここまでの例では、バイポーラ電源を利用する例について述べたが、本実施の形態はこれに限られない。
【0032】
図4は、単電源による回路部20の構成例を表す概略回路図である。この
図4に例示するように、単電源による回路部20の一例は、電圧信号出力手段としての第1のGMR素子群11及び第1のオペアンプ12と、抵抗手段としての第2のGMR素子群13と、可変利得増幅器である第2のオペアンプ14と、参照電位供給部15′と、を含んで構成される。なお、先に説明したバイポーラ電源の場合と同様の構成となるものについては同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0033】
この例において第1のGMR素子群11のGMR素子11aとGMR素子11bとは電源電位+Vcと、共通電位GNDとの間に直列に接続される。そしてこれらGMR素子11aとGMR素子11bとの接続点(中点)は、第1のオペアンプ12の非反転入力端子に接続される。またこの第1のオペアンプ12の出力端子は抵抗器R8を介して第1のオペアンプ12の反転入力端子に接続されるとともに、抵抗器R5を介して第2のオペアンプ14の非反転入力端子に接続される。
【0034】
第2のGMR素子群13のGMR素子13aとGMR素子13bとの接続点(中点)には、第2のオペアンプ14の反転入力端子が接続される。またGMR素子13aの、上記接続点とは異なる側の端子は、参照電位供給部15′の出力端子に接続され、また抵抗器R7を介して第1のオペアンプ12の反転入力端子に接続されている。
【0035】
また第2のオペアンプ14の出力端子は、そのまま回路部20の出力端子に接続されるとともに、抵抗器R6を介して第2のオペアンプ14の非反転入力端子に接続される。さらにこの第2のオペアンプ14の出力端子は第2のGMR素子群13のGMR素子13bの、上記接続点とは異なる側の端子にも接続される。
【0036】
参照電位供給部15′は、実質的に同じ抵抗値である2つの抵抗器R9,R10(つまりR9=R10)と、第3のオペアンプ16とを含む。この抵抗器R9,R10は、電源電位+Vcと、共通電位GNDとの間に直列に接続される。そしてこれらの抵抗器R9と、R10とを接続する点には、第3のオペアンプ16の非反転入力端子が接続される。さらに第3のオペアンプ16の出力端子は、参照電位供給部15′の出力端子となるとともに、第3のオペアンプ16の反転入力端子にも接続されている。
【0037】
この例においても、GMR素子11a及び11bの抵抗値R1,R2は、いずれか一方の固定層の磁化方向と外部磁場とのなす角θを用いて、
R1=Rm−r・sinθ、
R2=Rm+r・sinθ、
と書かれる。なお、sinθの符号がGMR素子11aと11bとで異なるのは、固定層の磁化方向が互いに角度πだけ異なっているためである。
【0038】
またGMR素子13aの抵抗値R4、及びGMR素子13bの抵抗値R3は、いずれか一方の固定層の磁化方向と外部磁場とのなす角θを用いて、
R3=Rm−r・cosθ、
R4=Rm+r・cosθ、
と書かれる。cosθの符号がGMR素子13aと13bとで異なるのは、固定層の磁化方向が互いに角度πだけ異なっているためである。そしてここではR5=R6、R9=R10、R7=R9=Rj、R8=R10=Rkとする。
【0039】
そしてこの例では、計算の結果、回路部20の出力端子の電位Voは、
【数12】
となる。この(4)式によると、単電源の場合の出力電位は、Vc/2だけオフセットしているが、角θの正接に比例する項が含まれるので、その出力から、測定対象が検出部に印加する「磁場の強さ」が求められる。つまり、電流センサ1として用いるのであれば、検知の対象である電流量がここで求めた「磁場の強さ」に比例するので、適宜比例定数を定めて(例えば実験による)、電流量を得ることができる。この「磁場の強さ」は、単位をエルステッド(Oe)或いはアンペア毎メートル(A/m)とするものである。
【0040】
また磁気エンコーダ2として用いるのであれば、
図2の構成から、異なる二箇所において、磁石スケール30の回転方向の磁束密度分布に比例した「磁場の強さ」が検出できるので、これらの位置での「磁場の強さ」の変化をみることで磁気スケール30の回転量を得ることができる(このための具体的方法は広く知られた方法を採用できるので、ここでの詳しい説明を省略する)。
【0041】
さらに本発明の別の例では、第1のGMR素子群をフルブリッジ構成とするとともに、この第1のGMR素子群と、インスツルメンテーションアンプとを用いて電圧信号出力手段を実現するものである。この例に係る回路部20の構成例は、
図5に示すように、電圧信号出力手段としての第1のGMR素子群11′及びインスツルメンテーションアンプ17と、抵抗手段としての第2のGMR素子群13と、可変利得増幅器であるオペアンプ14′と、参照電位供給部15′と、を含んで構成される。なお、先に説明した回路部20におけるものと同様の構成となるものについては同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0042】
この例での第1のGMR素子群11′は、GMR素子11aから11dの4つのGMR素子11を含む。ここでGMR素子11aと11bとが、電源電位+Vcと、共通電位GNDとの間に直列に接続される。また、GMR素子11cと11dとが、さらに電源電位+Vcと、共通電位GNDとの間に直列に接続される。電源電位Vc側に接続されるGMR素子11aと、共通電位GND側に接続されるGMR素子11dとは、測定対象が検出部に印加する磁場の方向(Hy方向)に平行な一方方向に、その固定層が磁化されている。また電源電位+Vc側に接続されるGMR素子11cと、共通電位GND側に接続されるGMR素子11bとは、GMR素子11a,dとは角度πだけ異なった方向(Hyに平行な他方方向)にその固定層が磁化されている。GMR素子11a、11dをR1とし、GMR素子11b、11cをR2とする。
【0043】
インスツルメンテーションアンプ17は、3つのオペアンプ17aから17c並びに抵抗器R7〜R13を含んでなる。このインスツルメンテーションアンプ17は広く知られたものであるので、その動作等についての説明を省略するが、基準電位端子Vx側には抵抗器R11を介して参照電位供給部15′の出力端子が接続され、またインスツルメンテーションアンプ17の出力端子outには、抵抗器R5を介しオペアンプ14′の非反転入力端子が接続される。
【0044】
第2のGMR素子群13は、測定対象が検出部に印加する磁場に直交する方向(バイアス磁石10による磁場の方向)に、その固定層が磁化されているGMR素子13a及び13bを含む。このGMR素子13aとGMR素子13bとの固定層の磁化方向も角度πだけ異なっている。ここでGMR素子13aの一端側は、参照電位供給部15′の出力端子に接続される。またGMR素子13aの他端側は、GMR素子13bの一端側に接続される。さらにGMR素子13bの他端側は、オペアンプ14′の出力端子に接続される。そしてこれらの接続点(GMR素子13aの他端側とGMR素子13bの一端側との接続点、つまり中点)には、オペアンプ14′の反転入力端子が接続される。
【0045】
さらにオペアンプ14′の出力端子は、回路部20の出力端子に接続されるとともに、抵抗器R6を介してオペアンプ14′の非反転入力端子に接続される。
【0046】
この回路部20において、抵抗器R14とR15との抵抗値、抵抗器R5とR6との抵抗値、抵抗器R10とR12との抵抗値、抵抗器R11とR13との抵抗値は互いに、実質的に等しくしておく。以下の説明では、抵抗器R10及びR12の抵抗値をRjとし、抵抗器R11とR13との抵抗値をRkと書く。そして抵抗器R7とR9との抵抗値が互いに実質的に等しく、その値が抵抗器R8の抵抗値R8を用いて、n×R8(nは自然数)と書かれるとき、この回路部20の出力電位Voは、
【数13】
となる。
なお
図5のGMR素子11c、11dを、
図3記載のR11、R12のような固定の抵抗器で置き換える場合、回路部20の出力電位Voは(5)式の分子の「2n」を「n」に変更したものとなる。
【0047】
つまり、この回路部20によっても、その出力はVc/2だけオフセットしているが、角θの正接に比例する項が含まれるので、その出力から、測定対象が検出部に印加する磁場の強さHが求められる。
【0048】
なお、インスツルメンテーションアンプは、
図5に例示したものに限らず、例えば
図6に例示するように簡易なインスツルメンテーションアンプ17′としてもよい。
図6は、簡易なインスツルメンテーションアンプを採用した回路部20の例を表す概略回路図である。この
図6の例で端子Vx,outが、それぞれ
図5のインスツルメンテーションアンプ17の端子Vx,outに対応する。この
図6の例によるインスツルメンテーションアンプ17′を採用した回路部20では、その出力電位は
【数14】
となる。
なお
図6の回路部では、R5=R6、R14=R15、R7=R10、R8=R9とする。
【0049】
さらにここまでの説明では、電圧信号出力手段として第1のGMR素子群11に加え、必ず最終段の可変利得増幅器とは異なる増幅器を含むこととしていたが、本実施の形態はこれに限られない。
図7は、
図4に例示した単電源の例において電圧信号出力手段をさらに簡易なものに置き換えた回路部20の例を示すものである。
【0050】
図7に例示する回路部20は、電圧信号出力手段としての第1のGMR素子群11、抵抗手段としての第2のGMR素子群13″と、可変利得増幅器であるオペアンプ14″と、参照電位供給部15と、を含んで構成される。ここでも既に説明したものと同様の構成となるものについては同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0051】
この
図7の例では、第1のGMR素子群11は、測定対象が検出部に印加する磁場の方向(Hy方向)に、その固定層が磁化されているGMR素子11a及び11bを含む。なお、GMR素子11aとGMR素子11bとの固定層の磁化方向は角度πだけ異なっている。
【0052】
ここでGMR素子11a,11bは、電源電位の正極側+Vcと共通電位GNDとの間に直列に接続される。またこれらのGMR素子11aと11bとを結ぶ点(電位Vyの点)には、オペアンプ14″の非反転入力端子が、抵抗器R5を介して接続される。
【0053】
また第2のGMR素子群13″は、測定対象が検出部に印加する磁場に直交する方向(バイアス磁石10による磁場の方向)に、その固定層が磁化されているGMR素子13″a及び13″bを含む。このGMR素子13″aとGMR素子13″bとの固定層の磁化方向も角度πだけ異なっている。ここでGMR素子13″aの一端側は、参照電位供給部15の出力端子に接続される。またその他端側は、GMR素子13″bの一端とオペアンプ14″の反転入力端子とに接続される。GMR素子13″bの他端側は、オペアンプ14″の出力端子に抵抗器R9を介して接続される。またオペアンプ14″の出力端子は、抵抗器R6を介してオペアンプ14″の非反転入力端子に接続されている。このオペアンプ14″の出力端子の出力電位Voが、回路部20の出力電位Voとなる。
【0054】
参照電位供給部15は、電源電位の正極側+Vcと共通電位GNDとの間に、抵抗器R7とR8とを直列に接続したものである。この抵抗器R7とR8との接続点(中点)が、参照電位供給部15の出力端子となる。なお、抵抗器R7,R8の抵抗値は互いに、実質的に等しいものとし、この抵抗値は、抵抗器R9の抵抗値R9を用いて、2×R9に実質的に等しいものとする。なお、これらの2つの抵抗器R7,R8も、GMR素子と同じ材質の膜を用いて形成してもよい。ただし、磁気抵抗変化率が十分に低い抵抗器、或いは電気抵抗が変化しない抵抗器とすることが好ましい。これにより温度により変化するGMR素子の特性を補償する効果を得ることもできる。この抵抗器R9は、オペアンプ14″の入力側に抵抗器R7の1/2の抵抗成分がRmとともに評価されることを考慮して、この成分とのバランスをとるために加入したものである。
【0055】
ここでRmは、各GMR素子11a,11b,13″a及び13″bについて、GMR素子の中で固定層磁化方向と自由層磁化方向が直交しているときの、GMR素子の電気抵抗値に相当するものである。このとき、抵抗器R5,R6の抵抗値は実質的に等しく、かつ、これらの値はRmよりも十分大きいとする。つまり、R5=R6>>Rmであるとする。すると、この回路部20の出力電位Voは、
【数15】
となる。この回路部20によっても、その出力はVc/2だけオフセットしているが、角θの正接に比例する項が含まれるので、その出力から、測定対象が検出部に印加する磁場の強さが求められる。
【0056】
図8(a)は、電圧信号出力手段である第1のGMR素子群がハーフブリッジを構成する場合(抵抗器とGMR素子とでフルブリッジを構成する場合を含む)におけるGMR素子を配した基板(センサ基板)のパターンの例を示した概要図である。この
図8(a)では、各GMR素子の固定層の磁化方向を、GMR素子上の矢印で示している。また測定対象がセンサ基板に印加する磁場の方向Hyと、センサ基板の面内でこの磁場の方向Hyに直交するバイアス磁石10(
図8では図示せず)がセンサ基板に印加する磁場の方向(Hx軸の方向)とを、併せて矢印で示している。
【0057】
図8(a)に例示するように、第1のGMR素子群11に含まれるGMR素子11a,11bの固定層は、測定対象の磁場の方向Hyに対して平行に磁化されており、各素子の固定層の磁化方向は互いに角度πだけ異なっている。一方、第2のGMR素子群13に含まれるGMR素子13a,13bの固定層は、バイアス磁石10のつくる磁場の方向Hxに対して平行に磁化されており、各素子の固定層の磁化方向は互いに角度πだけ異なっている。各GMR素子11a,11b,13a,13bの両端側の端子は、外部に引出されて、回路部20の他の回路素子に接続される。この回路素子は別の基板上に配されてもよいし、このセンサ基板に配されてもよい。
【0058】
また
図8(b)は、電圧信号出力手段である第1のGMR素子群がフルブリッジを構成する場合におけるGMR素子を配した基板(センサ基板)のパターンの例を示した概要図である。
【0059】
図8(b)に例示するように、第1のGMR素子群11′に含まれるGMR素子11′a〜11′dの固定層は、測定対象がセンサ基板(の検出部)に印加する磁場の方向Hyに対して平行に磁化されており、GMR素子11′aと11′bの固定層の磁化方向は互いに角度πだけ異なり、GMR素子11′aと11′dの固定層の磁化方向は同じであり、GMR素子11′cと11′dの固定層の磁化方向は互いに角度πだけ異なる。一方、第2のGMR素子群13に含まれるGMR素子13a,13bの固定層は、バイアス磁石10のつくる磁場の方向Hxに対して平行に磁化されており、各素子の固定層の磁化方向は互いに角度πだけ異なっている。各GMR素子11′a〜11′d,13a,13bの両端側の端子は、外部に引出されて、回路部20の他の回路素子に接続される。この回路素子は別の基板上に配されてもよいし、このセンサ基板に配されてもよい。
【0060】
さらに、ここまでの例において、第1のGMR素子群11は、ホール素子に置き換えられてもよい。ホール素子に置き換える場合、入力端子In+には電源電位+Vcを接続し、In−は−Vcまたは共通電位GNDに接続する。さらに出力端子Out+,Out−は、それぞれ差動出力となるので、例えばそれぞれ第1のオペアンプ12の非反転入力端子と、反転入力端子とに接続すればよい。
【0061】
以上のように、本実施の形態によると、測定対象磁場に直交する方向に、既知の大きさのバイアス磁場を生じさせるバイアス磁石10を配する。そしてGMR素子群11により、このバイアス磁場と測定対象磁場との合成磁場が、測定対象磁場の方向に対してなす角θの正弦(sinθ)に比例した電圧信号を出力させる。この電圧信号は適宜増幅してもよい。
【0062】
一方、このGMR素子群11に含まれるGMR素子11の固定層の着磁方向に対して、π/2だけ回転した方向に、その固定層が着磁されているGMR素子13を含んだ、第2のGMR素子群13を用いて、測定対象磁場とバイアス磁場との合成磁場が、測定対象磁場の方向に対してなす角θの余弦(cosθ)に比例した抵抗値の抵抗を得る。
【0063】
そして可変利得増幅器を用いて、電圧信号出力手段としての第1のGMR素子群11による電圧信号(sinθに比例)を、この第2のGMR素子群13による抵抗値の逆数(1/cosθ)に比例した利得で増幅して、測定対象磁場とバイアス磁場との合成磁場が、測定対象磁場の方向に対してなす角θの正接(sinθ/cosθ)に比例した信号を出力させる。
【0064】
なお、第1のGMR素子群(
図4の11a、11bなど)に代えてホール素子を用いる場合も同様に、ホール素子の感磁方向と、第2のGMR素子群13に含まれるGMR素子13の固定層の着磁方向とをπ/2だけ異なる方向としておけばよい。
【0065】
またここまでの説明において、磁気センサ装置1のバイアス磁石10は永久磁石であるものとしてきたが、本実施の形態はこれに限られるものではない。本実施の形態の一例に係る磁気センサ装置1では、少なくとも電圧信号出力手段としての第1のGMR素子群11(またはGMR素子群11′)、及び、抵抗手段としての第2のGMR素子群13が、例えば
図8(a),(b)に例示したように、センサ基板上に形成される。
【0066】
そしてこの例においては、
図8に例示したセンサ基板の面に平行な平面内に薄膜の平面コイル50を配し、この平面コイル50に電流を供給することにより、平面コイル50を、既知の大きさのバイアス磁場を生じさせるバイアス磁場印加手段として機能させる。
【0067】
図9は、平面コイル50の一例に係る平面図である。
図9に例示するようにバイアス磁場印加手段として機能する平面コイル50は、導線40を流れる電流Iの向き(Hx方向)に平行な導線と、センサ基板の面に平行な面内で、この向きHxに直交する方向(Hy方向)に平行な導線とを交互に接続して、スパイラル状に形成したものである。本実施の形態では、平面コイル50のうちHy方向に平行な導線の部分が、センサ基板の上方に所定の距離(例えば1乃至5μm)を置いて配される。このような配置は薄膜プロセスによって実現できる。
【0068】
本実施の形態のある例では、この平面コイル50に対して内周側の端部には電源+Vcが接続され、外周側端部は、共通電位(GND)に接続される。つまりこの平面コイル50には、内周側から外周側へと電流Ibが流れる。これにより、平面コイル50のうちHy方向に平行な導線の部分では、Hx方向(測定対象の電流Iの向き)または測定対象の電流Iとは反対向き(Hx軸の負の方向)の磁場が形成される。
図9の例で、破線で表す部分Pがセンサ基板に重ね合わせられる部分であるとすると、この部分の下部では測定対象の電流Iに対して逆向き(Hx軸の負の方向)の磁場が形成されている。
【0069】
そこで本実施の形態のこの例では、例えば
図3に示したものと同様の回路を用いる。すなわち、ここでGMR素子11a,11bは、電源電位の正極側+Vcと電源電位の負極側−Vcとの間に直列に接続される。またこれらのGMR素子11aと11bとが互いに接続されている点(この電位を以下Vyとし、この点を点Vyと書く)には、第1のオペアンプ12の非反転入力端子が、抵抗器R7を介して接続される。
【0070】
第2のGMR素子群13は、測定対象の磁場に直交する方向(平面コイル50が回路部20のある場所に形成する磁場の方向)に、平行又は反平行となるように、その固定層が磁化されているGMR素子13a及び13bを含む。このGMR素子13aとGMR素子13bとの固定層の磁化方向も角度πだけ異なっている。ここでGMR素子13bの一端側は、共通電位GNDに接続される。またその他端側は、GMR素子13aの一端と、第2のオペアンプ14の反転入力端子とに接続される。GMR素子13aの他端側は、第2のオペアンプ14の出力端子に接続される。またこの第2のオペアンプ14の出力端子は、抵抗器R6を介して第2のオペアンプ14の非反転入力端子に接続されており、この第2のオペアンプ14の出力端子の出力電位Voが、そのままこの回路部20の出力電位(つまり、電流センサ1ないし磁気式エンコーダ2の出力電位)Voとなる。
【0071】
参照電位供給部15は、実質的に同じ抵抗値を示す2つの抵抗器R11,R12を直列に、電源電位の正極+Vcと、負極−Vcとの間に接続したものである。この抵抗器R11,R12を互いに接続した点は従って、電源電位の中点電位となる。本実施の形態の一例では、この中点電位が参照電位Vref(バイポーラ電源であるので中点電位は「0」)となる。
【0072】
なお、この回路部20の例では、第1のGMR素子群11を構成するGMR素子11a及び11bと、参照電位供給部15の2つの抵抗器R11,R12とは、第1のオペアンプ12からするとブリッジ回路を形成している。そこでこれらの2つの抵抗器R11,R12は、GMR素子と同じ材質の膜を用いて形成してもよい。ただし、磁気抵抗変化率が十分に低い抵抗器、或いは電気抵抗が変化しない抵抗器とすることが好ましい。これにより温度により変化するGMR素子の特性を補償する効果を得ることもできる。
【0073】
参照電位Vrefは、抵抗器R9を介して第1のオペアンプ12の反転入力端子に接続される。また第1のオペアンプ12の出力端子は、抵抗器R10を介して第1のオペアンプ12の反転入力端子に接続される。この第1のオペアンプ12の出力端子の電位を以下Viとする。この第1のオペアンプ12の出力端子は、抵抗器R5を介して第2のオペアンプ14の反転入力端子に接続されている。また第1のオペアンプ12の非反転入力端子は抵抗器R8を介して共通電位GNDにも接続される。
本実施の形態のこの例においても、平面コイル50がバイアス磁場印加手段として機能し、永久磁石を利用した例と同様に動作する。またこの例では、平面コイルが薄膜プロセスにより形成可能となる。
【0074】
さらに、GMR素子群11(またはGMR素子群11′)に含まれる各GMR素子が、いずれもHx軸方向に実質的に一定のバイアス磁場内に配され、また、GMR素子群13に含まれる各GMR素子が、いずれもHx軸方向に実質的に一定のバイアス磁場内に配されていればよく、GMR素子群11と、GMR素子群13とのそれぞれが配される場所でのバイアス磁場の方向は互いに反対向き(一方がHx軸正の方向であり、他方がHx軸負の方向)であってもよい。
【0075】
従って、
図10に例示する平面コイル50の導線パターンにおいてHy軸方向に平行に導線が配されている範囲(P,Q)のうち、電流がHy軸負の方向(Hy軸の矢印とは逆の方向)に向かう側(範囲P)に重なり合う位置に、GMR素子群11(またはGMR素子群11′)を配し、また、電流がHy軸正の方向(Hy軸の矢印の方向)に向かう側(範囲Q)に重なり合う位置にGMR素子群13を配してもよい。なお
図10では説明のため、平面コイル50の導線パターンを透過して、この導線パターンの下部に位置するGMR素子群を併せて図示している。この
図10に例示した場合であっても、回路部20は既に述べたものと同じものを用いることができるが、GMR素子13aは、Hx軸負の方向に固定層が磁化されたものとなり、GMR素子13bは、Hx軸正の方向に固定層が磁化されたものとなる。このように配したことにより、平面コイル50の大きさを、回路部20のパターンの大きさと同等にすることができるようになる。
【0076】
この場合、GMR素子群11,11′,13は、
図11(a),(b)に例示するように、固定層の磁化方向が互いに角度πだけ異なっている一対の直線状のGMR素子を平行に配し、一方端同士を導線にて接続してパッドを引き出したものとなる。また各GMR素子の他方端側にはそれぞれパッドを接続しており、GMR素子群11,11′,13は、実質的にΠ字状に形成される。なお、固定層の磁化方向は、GMR素子を流れる電流の向きであってもよいし、当該電流の向きに直交する方向であってもよい。さらに、別の例に係るGMR素子群11,11′,13は、GMR素子を流れる電流の向きに固定層を磁化したGMR素子と、当該電流の向きに直交する方向に固定層を磁化したGMR素子とを用い、
図11(c)に例示するように、実質的にL字状に形成してもよい。これらの図において、GMR素子に重ね合わせて示した矢印が固定層の磁化方向を表す。
【実施例】
【0077】
図3に示した回路部20を備えた、本実施の形態の磁気センサ装置1による測定結果の例として、外部から測定対象としての印加磁場を約−4000A/m(−50Oe)から+4000A/m(50Oe)まで変化させながら、回路部20の出力電位Voを測定した。
【0078】
この結果、出力電位Voは、約−2500A/m(−30Oe)から+2500A/m(30Oe)までの範囲で測定対象の磁場の強さに比例して変化した。このように出力電位Voにより、オペアンプの出力が飽和しない範囲で、測定対象の磁場の強さに比例した信号を出力できることがわかった。