特許第6066166号(P6066166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066166
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】全方向移動車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 37/02 20060101AFI20170116BHJP
   F16H 7/02 20060101ALI20170116BHJP
   B62D 7/14 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   F16H37/02 F
   F16H7/02 Z
   B62D7/14 Z
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-156522(P2012-156522)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-20388(P2014-20388A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:一般社団法人 日本機械学会、刊行物名:ROBOTICS Symposia第17回 (No.12−2 ロボティクスシンポジア 講演論文集)(第181ページから第186ページ)、発行日:平成24年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】和田 正義
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】平間 貴大
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−112217(JP,A)
【文献】 特開2001−199356(JP,A)
【文献】 特開平09−164968(JP,A)
【文献】 特開昭62−203824(JP,A)
【文献】 特開2000−272505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00− 7/22
F16H 13/00−15/56
F16H 37/00−37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
前記車輪を水平軸回りに回転自在に支持する車輪支持部材と、
前記車輪支持部材に軸受を介して鉛直軸回りに回転自在に支持された車両本体と、
前記車両本体に取り付けられた2以上の駆動装置と、
前記駆動装置によって回転する上部回転体と、
前記上部回転体と接触して回転する第1の球体と、
前記第1の球体と接触して回転する第2の球体と、
前記車支持部材に固定され、前記第2の球体を回転自在に支持する支持部と、
前記第2の球体の回転運動を動力として取り出す第1の伝達機構及び第2の伝達機構と、
を有し、
前記第1の伝達機構は、前記第2の球体から取り出した動力の一部によって前記車輪を前記水平軸回りに回転させ、
前記第2の伝達機構は、前記第2の球体から取り出した動力の一部によって前記車輪支持部材及び前記車輪を前記車両本体に対して前記鉛直軸回りに回転させることを特徴とする、全方向移動車両。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の伝達機構は、前記第2の球体と接触して回転する第1の下部回転体を有し、
前記第2の伝達機構は、前記第2の球体と接触して回転する第2の下部回転体を有し、
前記第1の下部回転体の回転軸と前記第2の下部回転体の回転軸とは平行に配置されていないことを特徴とする、全方向移動車両。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記駆動装置は、第1の駆動装置と第2の駆動装置とを含み、
前記上部回転体は、前記第1の駆動装置によって回転する第1の上部回転体と、前記第2の駆動装置によって回転る第2の上部回転体と、を含み、
前記第1の上部回転体の回転軸と前記第2の上部回転体の回転軸とは平行に配置されて
いないことを特徴とする、全方向移動車両。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記上部回転体は、第1の上部回転体と、第2の上部回転体と、を有し、
前記第1の上部回転体の回転軸と前記第2の上部回転体の回転軸とは平行でなく、
前記第2の上部回転体は、前記第1の球体の回転によって受動的に回転するかもしくは回転しないように拘束する、または受動的な回転と拘束とを切り替え可能とすることを特徴とする、全方向移動車両。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記車輪の回転軸の軸心と、前記車輪が前記車両本体に対して回転する前記鉛直軸の軸心とは互いに交わらず、所定距離を隔てて配置されていることを特徴とする、全方向移動車両。
【請求項6】
請求項1において、
前記第1の球体と前記第2の球体との接触圧力を調節する第1の負荷調節機構と、
前記第1の球体と前記上部回転体との接触圧力を調節する第2の負荷調節機構と、
を有することを特徴とする、全方向移動車両。
【請求項7】
請求項2において、
前記車輪の半径をr、前記車輪の回転軸の軸心と前記車輪が前記車両本体に対して回転する前記鉛直軸の軸心との間隔をs、前記第1の下部回転体の半径をrbx、前記第2の下部回転体の半径をrby、前記第1の伝達機構の減速比をG、前記第2の伝達機構の減速比をGとしたとき、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする、全方向移動車両。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面上を全方向に移動可能な全方向移動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
床面上を全方向に移動可能なホロノミック全方向移動ロボットは動作方向に制限がないため動作計画が柔軟で扱いやすいうえに、人間が操縦するアプリケーションにおいても駆動原理や機構を理解する必要がないため、操縦が容易であるインターフェースを提供するという利点があり、これまでにも多くの研究がおこなわれてきている。
【0003】
全方向移動車輪機構としては、ユニバーサルホイール(例えば、特許文献1参照)、メカナムホイール(例えば、特許文献2参照)、直交球形車輪機構(例えば、非特許文献1参照)、オムニトラック(例えば、非特許文献2参照)、ボールホイール(例えば、非特許文献3参照)、あるいはVutonクローラ(例えば、非特許文献4参照)などが提案されている。これらの機構は、ある特定の方向に駆動力を発生し、能動的に移動する一方で、それと直交する方向には受動的に回転する機構を有していたため、例えば一般的な車輪を用いることができなかった。
【0004】
これに対して、ひとつの車輪で任意の方向に発生した駆動力で移動できる全方向移動機構であるアクティブキャスタが提案された(例えば、非特許文献5,6及び特許文献1,2)。このようなアクティブキャスタは受動的な回転機構を持たないひとつの車輪、例えば一般的な車輪を用いることができる全方向移動機構である。しかしながら、これらの全方向移動機構においては、1つの車輪に必ず2つのモータを必要とし、2輪車であれば4つのモータを、3輪車であれば6つのモータを必要としていた。また、これらの全方向移動機構においては、モータ同士が高精度に同期動作を行わないと車輪同士が押し合ったり引き合ったりするような現象が生じ、動力伝達機構の効率低下及び動力伝達機構の破損を回避するため、車両の3自由度の移動のために4つ以上のモータを必要とする冗長性、車輪への速度の分配のための正確な計算、及びその実現のための正確なサーボを必要とし、比較的高価な機構であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第1,305,535公報
【特許文献2】米国特許第3,746,112公報
【特許文献3】特開平9−164968号公報
【特許文献4】特開2001-199356号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.G.Pin and S.M.Killough:“A New Family of Omni−directional and Holonomic Wheeled Platforms for Mobile Robots,”IEEE Transactions on Robotics and Automation,Vol.10No.4,pp480−489,1994
【非特許文献2】M.West and H.Asada:“Design of a Holonomic Omnidirectional Vehicle,”Proceedings of the 1992 IEEE International Conference on Robotics and Automation,pp97−103,May.1992
【非特許文献3】M.Wada and H.H.Asada,“Design and Control of a Variable Footprint Mechanism for Holonomic and Omnidirectional Vehicles and its Application to Wheelchairs,”IEEE Trans on Robotics and Automation,Vol.15,No.6,pp978−989,1999
【非特許文献4】S.Hirose and S.Amano:“The VUTON:High Payload High Efficiency Holonomic Omni−Directional Vehicle,”6th Int.Symp.on Robotics Research,October,1993
【非特許文献5】M.Wada and S.Mori,“Holonomic and Omnidirectional Vehicle with Conventional Tires,”Proceedings of the 1996 IEEE International Conference on Robotics and Automation(ICRA96),pp3671−3676,1996
【非特許文献6】M.Wada , A.Takagi and S.Mori,“Caster Drive Mechanism for Holonomic and Omnidirectional Mobile Platforms with no Over Constraint,” Proceedings of the 2000 IEEE International Conference on Robotics and Automation(ICRA2000),pp1531−1538,2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、一般的な車輪を用いても床面上を全方向に移動可能な全方向移動車両を提供することを目的とする。また、本発明は、球体を用いた新たな動力伝達機構により、従来の全方向移動車両に比べて駆動装置の数を減らすことを可能とし、従来の全方向移動車両のような冗長性を解消することも可能とした全方向移動車両を提供することを目的とする。さらに、本発明は、高価なサーボシステムを用いなくても全方向に移動可能な全方向移動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る全方向移動車両は、
車輪と、
前記車輪を水平軸回りに回転自在に支持する車輪支持部材と、
前記車輪支持部材に軸受を介して鉛直軸回りに回転自在に支持された車両本体と、
前記車両本体に取り付けられた2以上の駆動装置と、
前記駆動装置によって回転する上部回転体と、
前記上部回転体と接触して回転する第1の球体と、
前記第1の球体と接触して回転する第2の球体と、
前記車両支持部材に固定され、前記第2の球体を回転自在に支持する支持部と、
前記第2の球体の回転運動を動力として取り出す第1の伝達機構及び第2の伝達機構と、
を有し、
前記第1の伝達機構は、前記第2の球体から取り出した動力の一部によって前記車輪を
前記水平軸回りに回転させ、
前記第2の伝達機構は、前記第2の球体から取り出した動力の一部によって前記車輪支持部材及び前記車輪を前記車両本体に対して前記鉛直軸回りに回転させることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る全方向移動車両によれば、第1の球体から第2の球体に伝達された動力を2つの伝達機構によって車輪の水平軸回りの回転と鉛直軸回りの回転とに分配させることができるため、床面上を全方向に移動できる。また、車両本体に対して車輪を鉛直軸回りに回転させて操舵することができるので、車輪の形状に影響されず、例えば一般的な車輪を用いても全方向に移動可能とすることができる。さらに、本発明に係る全方向移動車両によれば、従来の全方向移動車両に比べて駆動装置の数を減らすことを可能とし、従来の全方向移動車両のような冗長性を解消することも可能とすることができる。また、本発明に係る全方向移動車両によれば、高価なサーボシステムを用いなくても全方向に移動可能とすることができる。
【0010】
本発明に係る全方向移動車両において、
前記第1の伝達機構は、前記第2の球体と接触して回転する第1の下部回転体を有し、
前記第2の伝達機構は、前記第2の球体と接触して回転する第2の下部回転体を有し、
前記第1の下部回転体の回転軸と前記第2の下部回転体の回転軸とは平行に配置されていないことができる。
【0011】
本発明に係る全方向移動車両において、
前記駆動装置は、第1の駆動装置と第2の駆動装置とを含み、
前記上部回転体は、前記第1の駆動装置によって回転する第1の上部回転体と、前記第2の駆動装置によって回転る第2の上部回転体と、を含み、
前記第1の上部回転体の回転軸と前記第2の上部回転体の回転軸とは平行に配置されていないことができる。
【0012】
本発明に係る全方向移動車両において、
前記上部回転体は、第1の上部回転体と、第2の上部回転体と、を有し、
前記第1の上部回転体の回転軸と前記第2の上部回転体の回転軸とは平行でなく、
前記第2の上部回転体は、前記第1の球体の回転によって受動的に回転するかもしくは回転しないように拘束する、または受動的な回転と拘束とを切り替え可能とすることができる。
【0013】
本発明に係る全方向移動車両において、
前記車輪の回転軸の軸心と、前記車輪が前記車両本体に対して回転する前記鉛直軸の軸心とは互いに交わらず、所定距離を隔てて配置されていることができる。
【0014】
本発明に係る全方向移動車両において、
前記第1の球体と前記第2の球体との接触圧力を調節する第1の負荷調節機構と、
前記第1の球体と前記上部回転体との接触圧力を調節する第2の負荷調節機構と、
を有することができる。
【0015】
本発明に係る全方向移動車両において、
前記車輪の半径をr、前記車輪の回転軸の軸心と前記車輪が前記車両本体に対して回転する前記鉛直軸の軸心との間隔をs、前記第1の下部回転体の半径をrbx、前記第2の下部回転体の半径をrby、前記第1の伝達機構の減速比をG、前記第2の伝達機構の減速比をGとしたとき、下記式(1)の関係を満たすことができる。
【0016】
【数1】
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係る全方向移動車両の概略縦断面図である。
図2】第1の実施形態に係る全方向移動車両の概略斜視図である。
図3】第1の実施形態に係る全方向移動車両の概略正面図である。
図4】第1の実施形態に係る全方向移動車両の概略平面図である。
図5】第1の実施形態に係る全方向移動車両における第2の球体と第1、第2の伝達機構の概略平面図である。
図6】第1の実施形態に係る全方向移動車両の動力伝達機構を説明する概念図である。
図7図6の平面図である。
図8図7の第1の球体の動力伝達機構を説明する平面図である。
図9図7の第2の球体の動力伝達機構を説明する平面図である。
図10】第1の実施形態に係る全方向移動車両の挙動をシミュレーションした結果を示す図である。
図11図10のシミュレーション結果を床面上における車輪と床面との接地点と、操舵軸の中心点と、を示す図である。
図12】第2の実施形態に係る全方向移動車両を模式的に示す平面図である。
図13】第2の実施形態に係る全方向移動車両の挙動をシミュレーションした結果を示す図である。
図14】第2の実施形態に係る全方向移動車両の挙動をシミュレーションした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態にかかる全方向移動車両について図面を用いて説明する。なお、以下に説明するものは本発明にかかる全方向移動車両の実施形態の一例であり、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者であれば特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇で各種の変更が可能である。なお、本願において、水平とは車両が移動する床面に平行な面内にある方向であり、鉛直とはその床面に対して垂直な方向である。
【0019】
本実施形態に係る全方向移動車両は、車輪と、前記車輪を水平軸回りに回転自在に支持する車輪支持部材と、前記車輪支持部材に軸受を介して鉛直軸回りに回転自在に支持された車両本体と、前記車両本体に取り付けられた2以上の駆動装置と、前記駆動装置によって回転する上部回転体と、前記上部回転体と接触して回転する第1の球体と、前記第1の球体と接触して回転する第2の球体と、前記車両支持部材に固定され、前記第2の球体を回転自在に支持する支持部と、前記第2の球体の回転運動を動力として取り出す第1の伝達機構及び第2の伝達機構と、を有し、前記第1の伝達機構は、前記第2の球体から取り出した動力の一部によって前記車輪を前記水平軸回りに回転させ、前記第2の伝達機構は、前記第2の球体から取り出した動力の一部によって前記車輪支持部材及び前記車輪を前記車両本体に対して前記鉛直軸回りに回転させることを特徴とする。
【0020】
1.第1の実施形態
図1は、第1の実施形態に係る全方向移動車両1の概略縦断面図である。図2は、第1の実施形態に係る全方向移動車両1の概略斜視図である。図3は、第1の実施形態に係る
全方向移動車両1の概略正面図である。図4は、第1の実施形態に係る全方向移動車両1の概略平面図である。図5は、第1の実施形態に係る全方向移動車両1における第2の球体50と第1、第2の伝達機構6,8の概略平面図である。なお、図2図5においては、第1の負荷調節器42と、車両本体10と、軸受90と、車両支持部材12の板状部材12cと、支持部51と、が省略されている。
【0021】
図1図5に示すように、全方向移動車両1は、車輪70と、車輪70を水平軸である回転中心O回りに回転自在に支持する車輪支持部材12と、車輪支持部材12に軸受90を介して鉛直軸である操舵軸心Q回りに回転自在に支持された車両本体10と、車両本体10に取り付けられた第1、第2の駆動装置20,30と、第1、第2の駆動装置20,30によって回転する第1、第2の上部回転体25,32と、第1、第2の上部回転体25,32と接触して回転する第1の球体40と、第1の球体40と接触して回転する第2の球体50と、車両支持部材12に固定され、第2の球体50を回転自在に支持する支持部51と、第2の球体50の回転運動を動力として取り出す第1の伝達機構6及び第2の伝達機構8と、を有し、第1の伝達機構6は、第2の球体50から取り出した動力の一部によって車輪70を水平軸である回転中心O回りに回転させ、第2の伝達機構8は、第2の球体50から取り出した動力の一部によって車輪支持部材12及び車輪70を車両本体10に対して鉛直軸である操舵軸心Q回りに回転させる。
【0022】
図1に示すように、第1の球体40と第2の球体50とは、球体であって、第1、第2の球体40,50の中心を通って鉛直方向に延びる操舵軸心Q上の接触点Pで接触している。このため、第1の球体40が回転すると、接触点Pで第2の球体50に動力が伝達され、第2の球体50が回転する。第1、第2の球体40,50は、操舵軸心Q上であって、その下方の支持部51と、その上方の第1の負荷調節器42との間で上下に挟み込まれるように支持されている。したがって、第1、第2の球体40,50は、車輪支持部材12の支持部51に支持されている。支持部51は、車輪支持部材12に固定されたボールベアリング52を含み、ボールベアリング52上で第2の球体50を回転自在に支持する。第1の負荷調節機構42は、第1の球体40と第2の球体50との接触圧力を調節するものであり、第1の球体40と回転自在に接触するボールベアリング43を含み、ボールベアリング43を第1の球体40に対して付勢する図1に示すようなばね等の付勢部材を含む。本実施形態においては第1の球体40と第2の球体50とは同じ直径を有する球体を用いたが、これに限らず用途に応じて違う大きさの球体を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
全方向移動車両1の車輪70の回転軸72の軸心(回転中心O)と、車輪70が車両本体10に対して旋回する操舵軸心Qとは互いに交わらず、所定距離を隔てて配置されていることができる。
【0024】
全方向移動車両1は、その上方にある上部機構Aと、下方にある下部機構Bとに分けて説明することができる。上部機構Aは、車両本体10に設けられ、第1の球体40に駆動力を与える機構である。下部機構Bは、車輪支持部材12に設けられ、第2の球体50から動力を得て車輪70を回転させ、かつ、車輪70を車両本体10に対して相対的に旋回させる機構である。
【0025】
図2図5では省略されているが、図1に示すように、車両本体10は、車輪支持部材12の上端の板状部材12cに固定された環状の軸受90によって車輪支持部材12上に回転自在に支持されている。車両本体10の下面には、平歯車14が固定されている。車両本体10、平歯車14、軸受90及び板状部材12cは、鉛直方向に貫通する貫通孔を形成し、その貫通孔には第1の球体40と第2の球体50とが貫通孔の壁面と非接触で配置されている。
【0026】
上部機構Aは、車両本体10に設けられた第1の駆動装置20、第2の駆動装置30、第1の上部伝達機構2、第2の上部伝達機構3、第1の負荷調節器42、及び第2の負荷調節器44から構成されている。
【0027】
第1の駆動装置20及び第2の駆動装置30は、第1の球体40の駆動源であり、例えばサーボモータなどを用いることができる。
【0028】
第1の上部伝達機構2及び第2の上部伝達機構3は、図4を用いて説明する。
【0029】
第1の上部伝達機構2は、第1の駆動装置20を駆動させることで第1の上部回転体25を回転させる。第1の駆動装置20によって回転する回転軸21はその先端に傘歯車22が設けられ、同じ水平面内で回転軸21に対して垂直方向に延びる回転軸24の先端に設けられた傘歯車23と噛合う。回転軸24の他端には回転軸24の回転と共に一体的に回転する第1の上部回転体25が設けられ、第1の上部回転体25の環状表面が第1の球体40の表面に接触する。したがって、第1の駆動装置20は、第1の上部回転体25を回転させることによって、第1の球体40を回転させることができる。
【0030】
第2の上部伝達機構3は、第2の駆動装置30を駆動させることで回転軸31が回転し、回転軸31の他端に設けられた第2の回転体32を回転させ、第2の球体50を回転させることができる。第1の上部回転体25の回転軸24と第2の上部回転体32の回転軸31とは平行に配置されておらず、これら回転軸の軸心を延伸させると第1の球体40の中心を通る水平面内で直交するように配置されている。
【0031】
第2の負荷調節器44は、第1の球体40と、第1、第2の上部回転体25、32との接触圧力を調節するものであって、図4に示すようなばね等の付勢手段によって第1、第2の上部回転体25,32を第1の球体40に押し付けることができる。
【0032】
第1の上部回転体25と第2の上部回転体32は、水平面内で第1の球体40に対して直交する位置に配置されており、第1の球体40に対し互いに直交する方向の回転を与えることができる。第1の上部回転体25、第2の上部回転体32、第2の負荷調節器44の回転軸心は、第1の球体40の高さ方向の中心と同じ高さの水平面内にある。
【0033】
なお、第1の上部回転体25、第2の上部回転体32、第2の負荷調節器44、及び各回転軸の配置は、これに限らず、適宜配置することができる。第1、第2の上部回転体25、32は、第1の球体40に回転力を与えるものであればよい。
【0034】
図1に示すように、下部機構Bは、車輪支持部材12に設けられた車輪70、支持部51、第1の下部伝達機構6、及び第2の下部伝達機構8から構成されている。
【0035】
車輪支持部材12は、3つの板状部材12a,12b,12cを逆U字状に組み合わせて構成されている。鉛直方向に延びる板状部材12a,12bにはその下端に水平方向に延びる回転軸72が設けられ、車輪70を回転自在に支持している。また、板状部材12a,12bは、車輪70及び第2の球体50を挟んでそれらの両側に設けられている。板状部材12a,12bの上端に固定された板状部材12cは、その上面に軸受90が固定されている。
【0036】
図1及び図3に示すように、第1の下部伝達機構6は、車輪支持部材12に支持された水平方向に延びる回転軸62、第2の球体50と接触して回転軸62と共に回転する第1の下部回転体60、回転軸62と共に回転するプーリー64、車輪70の車輪軸72に固
定されたプーリー74、及びプーリー64とプーリー74に掛けまわされたベルト66とを有する。回転軸62には、板状部材12aを貫通してその両側に第1の下部回転体60とプーリー64が固定されている。本実施形態においては、車輪軸72と回転軸62とは常に平行であり、第2の球体50が第1の下部回転体60を回転させると、回転軸62、プーリー64、ベルト66、プーリー74、及び車輪軸72を回転させて車輪70を回転させることができる。
【0037】
図2図3及び図5に示すように、第2の下部伝達機構8は、車輪支持部材12に支持された回転軸82、第2の球体50と接触して回転軸82と共に回転する第2の下部回転体80及び傘歯車18、傘歯車18に噛合う傘歯車19、傘歯車19と共に回転する回転軸17、回転軸17と共に回転する平歯車16、及び平歯車16に噛合う平歯車14を有する。第2の下部回転体80は第2の球体50に接触し、平歯車14は車両本体10(図1を参照)に固定されているので、第2の球体50が回転すると、第2の下部回転体80が回転し、回転軸82、傘歯車18,19、回転軸17、及び平歯車16,14が回転することで、車両本体10に対する車輪支持部材12の向きすなわち車輪70を操舵軸心Q回りに相対的に旋回させて車両を操舵することができる。
【0038】
第1の下部回転体60の回転軸62と第2の下部回転体80の回転軸82とは、平行に配置されておらず、これら回転軸の軸心を延伸させると第2の球体50の中心を通る水平面内で直交するように配置されている。
【0039】
第3の負荷調節器54は、第2の球体50と、第1、第2の下部回転体60、80との接触圧力を調節するものであって、図5に示すようなばね等の付勢手段によって第1、第2の下部回転体60,80を第2の球体50に所定圧力で押し付けることができる。
【0040】
第1の下部回転体60と第2の下部回転体80は、水平面内で第2の球体50に対して直交する位置に配置されており、第2の球体50に対し互いに直交する方向の回転を第2の球体50から受けることができる。第1の下部回転体60、第2の下部回転体80、第3の負荷調節器54の回転軸は、第2の球体50の高さ方向の中心と同じ高さの水平面内にある。
【0041】
なお、第1の下部回転体60、第2の下部回転体80、第3の負荷調節器54、及び各回転軸の配置は、これに限らず、適宜配置することができる。第1、第2の下部回転体60、80は、第2の球体50から2つの異なる方向の回転を得られればよい。
【0042】
全方向移動車両1によれば、2つの駆動装置による2つの回転運動を第1の球体40における1つの回転運動に合成し、第1の球体40から第2の球体50に伝達された回転運動を2つの伝達機構6,8によって車輪70の回転と旋回(すなわち操舵軸心を中心とした回転)とからなる2つの回転運動に分解することができる。また、全方向移動車両1によれば、車輪70の形状に影響されず、例えばイス、ベビーカーなどに用いられるキャスタを用いても、あるいは車椅子、自転車などに用いられる空気圧タイヤのような一般的な車輪を用いても全方向に移動可能とすることができる。
【0043】
このように、全方向移動車両1によれば、1つの車輪70に対して2つの駆動装置20,30を用いているが、2つの球体40,50の接触によって動力が伝達されているので、従来のようにモータ同士を高精度に同期動作させなくとも、動力伝達機構の著しい効率低下や破損などの問題を解消することができる。したがって、全方向移動車両1によれば、高価なサーボシステムを採用することなく、全方向の移動を実現させることが可能である。
【0044】
また、本実施形態においては、第1の球体40に接触する上部回転体は、第1の上部回転体25と第2の上部回転体32を用いたが、いずれか一方だけとすることができる。例えば、2以上の駆動装置を用いて第1の球体40を回転させてもよい。全方向移動車両1によれば、第1の球体40は第2の球体50に回転を与えることができればよいので、第1の球体40に所望の回転を与えることができる駆動装置であればよい。
【0045】
さらに、例えば、第2の上部回転体32は、第1の球体40の回転によって受動的に回転するかもしくは回転しないように拘束する、または受動的な回転と拘束とを切り替え可能とすることができる。
【0046】
また、本実施形態においては、1つの車輪70に対し2つの駆動装置20,30を用いたが、例えば、1つの車両本体10に対し複数の車輪(駆動輪)70を有する場合には、1つの駆動装置の動力を複数の第1の球体40に伝達することによって駆動装置の数を減らすことも可能である。
【0047】
2.全方向移動車両の運動学
図6は、第1の実施形態に係る全方向移動車両1の動力伝達機構を説明する概念図である。図7は、図6の平面図である。図8は、図7の第1の球体の動力伝達機構を説明する平面図である。図9は、図7の第2の球体50の動力伝達機構を説明する平面図である。
【0048】
ここで2つの座標系を設置する。ひとつは第1、第2の駆動装置20,30と第1の球体40を含む上部機構Aと、他方は第2の球体50と車輪70とを含む下部機構Bである。前述したように下部機構Bは、上部機構Aに対して相対的にその角度を変えることができ、その相対角は図7においてθで示される。
【0049】
図8は上部機構Aのみを、図9は下部機構Bのみを表したものである。図8に示す通り、上部機構Aの座標系は、半径Rの第1の球体40の中心に設定する。第1の球体40は鉛直軸回りには回転しないので第2の球体50との接触点Pにおける接線速度と大きさVはωaxとωayの比率によって一意に決定される。第1の球体40の回転軸の角度は速度Vに対して垂直な角度θとして図8に記される。Ωは、第1の球体40の回転軸周りの角速度を表している。第1、第2の上部回転体25,32の接触点の軌跡は、図8に破線で示したように、異なった半径の円を第1の球体40の表面に描くようになる。速度ベクトルの大きさ|V|と角度θは、下記式(2)、式(3)のように示される。
【0050】
【数2】
【0051】
【数3】
【0052】
ここでνax、νayは、第1の球体40と第1、第2の上部回転体25,32との接点における周速度である。よって、νax=raxωax、νay=rayωayとなる。また、rax、rayは、第1、第2の上部回転体25,32の半径である。
【0053】
図9には、下部機構Bを示す。第2の球体50は、接触点を介して第1の球体40によって周速度Vで回転駆動される。このとき、第2の球体50の回転軸は、第1の球体40の回転軸と平行であり、回転方向が逆になる。
【0054】
下部機構Bの座標系は、第2の球体50の中心に設定され、車輪70の転動方向に沿ってx軸を設定する。第2の球体50と第1、第2の下部回転体60,80は、第1の球体40と第1、第2の上部回転体25,32の関係と同じ位置関係にあり、つまり、第1、第2の下部回転体60,80は直交して第2の球体50に接し、回転駆動する。以上より、下記式(4)、式(5)の関係式が導かれる。
【0055】
【数4】
【0056】
【数5】
【0057】
νbxとνbyは第1、第2の下部回転体60,80と第2の球体50の接触点での周速度である。θは、上部機構Aの座標系と下部機構Bの座標系の相対角度であり、すなわち上部機構Aの座標系における車輪70の角度を示す。ここで、各下部回転体60,80の接点における周速度は下記式(6)によって示すことができる。
【0058】
【数6】
【0059】
式(2)〜式(6)より、上部機構Aと下部機構Bの球同士の接触点での速度の関係を下記式(7)のように導くことができる。
【0060】
【数7】
【0061】
下部機構Bの第1、第2の下部回転体60,80の回転は、歯車やベルトを介して車輪軸72と操舵軸心Qにそれぞれ伝達される。車輪70は操舵軸心Qからオフセットした位置に取り付けられており、下部機構Bで発生する瞬間の速度は下記式(8)のように求められる。
【0062】
【数8】
【0063】
ここで、rは車輪70の半径、sは車輪70の軸心Cと車輪70が車両本体10に対して相対的に旋回する操舵軸心Qとの間隔、Gは第1の伝達機構6の減速比、Gは第2の伝達機構8の減速比である。
【0064】
以上から下部機構Bにおける瞬間の速度と、第1、第2の駆動装置20,30の回転との関係を下記式(9)のように導くことができる。
【0065】
【数9】
【0066】
ここで、rbxとrbyは、それぞれ第1、第2の下部回転体60,80の半径である。
【0067】
また、上部機構Aの座標系と下部機構Bの座標系の床面Gに対する瞬間速度の関係は、下記式(10)のように表すことができる。
【0068】
【数10】
【0069】
以上から、最終的に第1、第2の駆動装置20,30の回転と機構の動きの関係を下記式(11)のように得ることができる。
【0070】
【数11】
【0071】
ここで、Rは下記式(12)である。
【0072】
【数12】
【0073】
以上のように、第1の実施形態における運動学モデルを導出できた。
【0074】
3.全方向移動車両の機械的条件
図6に示すような全方向移動車両1は、車輪70と床面Gとの接地点Dから車輪70の回転中心Oを通って鉛直方向に伸びる車輪軸心Cと、第1、第2の球体40,50の中心を通る操舵軸心Qとが所定距離sを隔ててオフセットされている。このような全方向移動車両1がショッピングカートや会議場のテーブルやイスの底面でみられるようなキャスタ動作を実現するためには、以下の機械的条件を満たさなければならない。式(11)において、行列Rはθに依存しかつ0でない4つの要素を含んでいた。このRを対角行列とするために、下記式(1)の条件が必要である。
【0075】
【数1】
【0076】
式(1)を変形すると、下記式(13)を得る。
【0077】
【数13】
【0078】
この条件が満たされるとき、式(11)は下記式(14)のように簡潔に変形され、対角行列となる。
【0079】
【数14】
【0080】
ここで、K1,K2は下記式(15),式(16)の通りである。
【0081】
【数15】
【0082】
【数16】
【0083】
これより、全方向移動車両1の速度ベクトルは車輪70の方向角θの関数とはならずに速度成分xとyにのみ依存する。つまり、全方向移動車両1の上部機構Aの向きに対して移動方向が決定されることがわかる。これは例えば第1の駆動装置20によって第1の上部回転体25が回転し第2の駆動装置30によって第2の上部回転体32が停止しているとき、車輪の向きによらず全方向移動車両1は常にx軸方向に移動することを
意味している。車輪70がx軸方向を向いていないときは車輪70の方向を移動方向に向ける動作が自発的に起こると予想できる。
【0084】
4.全方向移動車両の動作シミュレーション
第1の実施形態に係る全方向移動車両1の動作を検証するためにコンピュータシミュレーションを行った。前記3で導いた運動学モデルを用いて、この機構の動作を検証する。
【0085】
全方向移動車両1は、角度センサや第1、第2の駆動装置20,30の協調動作の制御なしにキャスタ的動作が発生することが期待される。その動作を検証するために、第1の駆動装置20のみが一定速度で回転する場合の挙動をシミュレーションでテストした。
【0086】
図10は、第1の実施形態に係る全方向移動車両1の挙動をシミュレーションした結果を示す図である。図11は、図10のシミュレーション結果を床面上における車輪70と床面Gとの接地点Dと、操舵軸の中心点Qと、を示す図である。
【0087】
シミュレーション中、上部機構Aの第1の球体40とそれに接する第1の上部回転体25の角度は床面に対し一定に保たれていると仮定する。前述のとおり第2の球体50と車輪70を含む下部機構Bは上部機構Aに対してその相対角を変えることができる。シミュレーションの初期状態では車輪機構は図10の中で基準点となる右端に位置している。車輪70の初期角度はx軸に対して0.05°の状態であった。このシミュレーション内ではx軸方向に駆動力を発生するモータ(第1の駆動装置20)を取り付け逆回転200rpmの一定速度で回転させた。図10からわかるように、シミュレーションの初期段階において車輪70は後方に移動しているが途中でその方向を変え、全方向移動車両1の移動方向に収束している。これはキャスタに特有の反転動作であって、ここではキャスタ動作と呼ぶ。
【0088】
図11は、図10のシミュレーション結果から3Dアニメーションを取り去ったものを上側から見たものである。長方形が示すのは車輪70の位置であり、長方形の中心にある点は床面との設置点Dを表している。一方、長方形の端部にある他の点は操舵軸心Qを表している。図11から、操舵軸心Qはx軸上を移動していることがわかる。これにより、全方向移動車両1はただ一つの駆動装置を駆動するだけでセンサや駆動装置の制御なしにキャスタ的動作をしていることがわかる。
【0089】
実際に全方向移動車両1の試作機を製作して第1の駆動装置20だけを駆動して第1の上部回転体25を回転させ、第2の上部回転体32は動かないように拘束したところ、シミュレーションと同じようにキャスタ動作を実現できた。
【0090】
5.第2の実施形態
図12は、第2の実施形態に係る全方向移動車両100を模式的に示す平面図である。図13は、第2の実施形態に係る全方向移動車両100の挙動をシミュレーションした結果を示す図である。図14は、第2の実施形態に係る全方向移動車両100の挙動をシミュレーションした結果を示す図である。
【0091】
図12に示す第2の実施形態に係る全方向移動車両100は、三角形の車両本体110の3つの頂点に第1の実施形態に係る全方向移動車両1と同様の機構がそれぞれ装着された三輪車両である。図12では車輪70と操舵軸心Qのみを描き、他の構成については省略している。
【0092】
全方向移動車両100は、上部機構Aの2つの回転体の内、第1の上部回転体25のみを駆動させ、第2の上部回転体32は非拘束、つまり自由回転できるように設定した。こ
のときには車輪70の向きにかかわらず、上部機構Aに対して第1の上部回転体25の回転方向には駆動力を発生し、それと自由ローラである第2の上部回転体32の回転方向、つまり駆動方向と直交する方向には受動的な動作を行うという、従来の全方向移動車両と同じ機能を有することが予想できる。なお、従来の全方向移動車両においては、床面と接する車輪部分に自由に転動するローラなどを配置していたのに対して、本車両において車輪自体はゴムタイヤや空気圧タイヤのような一般的な車輪を用いることができる。また、本実施形態に係る全方向移動車両100は、一方向に受動的に移動するという機能を持ち合わせたものである。さらに、その受動的な移動状態も自由回転する第2の上部回転体32の回転を計測することで測定が可能であり、利点がある。
【0093】
全方向移動車両100について動作シミュレーションを行った。
【0094】
図12において、各車輪70のx軸方向(x、x、x)が能動的に駆動力を発生できる方向であり、y軸方向(y、y、y)には受動的に移動が可能となっている。このとき、各車輪70の第1の駆動装置20により、車輪70に発生させる速度は、全方向移動車両100の車両中心Eにおける目標速度x,y及び目標角速度ωを用いて下記式(17)のように求められる。
【0095】
【数17】
【0096】
ここで、n=1,2,3であり、図12の符号と対応している。
【0097】
図13には全方向移動車両100が回転しながら直線軌道に追従する動作を行ったシミュレーション結果を示す。また、図14には、全方向移動車両100が回転しながら円軌道に追従する動作を行ったシミュレーション結果を示す。いずれの場合においても、全方向移動車両100は一つの車輪70を一つの駆動装置で駆動しているにもかかわらず、反転を伴うキャスタ動作を行い、ロボットへ要求される動作を実行できていることが確認できる。すなわち、全方向移動車両100は、従来のアクティブキャスタのように、必ずしも一つの車輪に対して2以上のモータを必要としないことがわかる。
【符号の説明】
【0098】
1 全方向移動車両、2 第1の上部伝達機構、3 第2の上部伝達機構、6 第1の下部伝達機構、8 第2の下部伝達機構、10 車両本体、12 車輪支持部材、12a 板状部材、12b 板状部材、12c 板状部材、14 平歯車、16 平歯車、17 回転軸、18 傘歯車、19 傘歯車、20 第1の駆動装置、21 回転軸、22 傘歯車、23 傘歯車、24 回転軸、25 第1の上部回転体、30 第2の駆動装置、31 回転軸、32 第2の上部回転体、40 第1の球体、42 第1の負荷調節器、43 ボールベアリング、44 第2の負荷調節器、50 第2の球体、51 支持部、52 ボールベアリング、54 第3の負荷調節器、60 第1の下部回転体、62 回転軸、64 プーリー、66 ベルト、70 車輪、72 車輪軸、74 プーリー、80 第2の下部回転体、82 回転軸、90 軸受、100 全方向移動車両、110 車両本体、A 上部機構、B 下部機構、C 車輪軸心、D 接地点、E 車両中心、G
床面、O 回転中心、P 接触点、Q 操舵軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14