(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066203
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】ケーブル外被の剥離装置
(51)【国際特許分類】
H02G 1/12 20060101AFI20170116BHJP
B26B 27/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
H02G1/12 021
H02G1/12 075
B26B27/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-238409(P2013-238409)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-100181(P2015-100181A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 康之
【審査官】
松尾 俊介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−155248(JP,A)
【文献】
特開平10−322835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
B26B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブル外被を加熱する温風を発する温風発生部と、
前記ケーブル外被に切れ目を形成するカッターと、
前記ケーブル外被とその内側層との間に介挿させて相互の隙間を広げる拡径部材と、
前記温風発生部と前記カッターと前記拡径部材とを支持するフレームとを備え、
前記フレームが、前記カッターに対して当該カッターによる切れ目の形成方向の一方の側で前記温風発生部を支持すると共に前記切れ目の形成方向の他方の側で前記拡径部材を支持し、
可搬性を有することを特徴とするケーブル外被の剥離装置。
【請求項2】
前記カッターは切れ目を形成するための駆動源を要しないことを特徴とする請求項1記載のケーブル外被の剥離装置。
【請求項3】
前記カッターを円形としてその外周全体に刃先を形成すると共に、前記フレームが前記カッターを回転可能に支持することを特徴とする請求項2記載のケーブル外被の剥離装置。
【請求項4】
前記カッターによる切れ目の形成方向に沿って前記フレームを移動させるためのハンドルを備えることを特徴とする請求項3記載のケーブル外被の剥離装置。
【請求項5】
前記拡径部材は半円錐状であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載にケーブル外被の剥離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル外被の剥離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非難燃性のケーブルが布設されている発電所や送電線の洞道施設内では火災予防のためにケーブルシースの表面に防災塗料を塗布することが行われている。この防災塗料は時間の経過と共に硬化し、ケーブル外被に密着して、火災の延焼防止の効果が得られるようになっている。
上記防災塗料が塗布されたケーブルを経年劣化等の理由により交換或いは撤去する場合には、防災塗料が付着したケーブル外被を導体から剥離する必要がある。
前述したように、防災塗料は硬化した状態でケーブル外被に密着しているために剥離が非常に困難であることから、従来は、防災塗料に剥離剤を塗布して膨潤軟化させてからへらや拭き取り紙等の工具で拭き取り除去が行われていた(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、ドラムに巻かれたケーブルを所定方向に送り出す送りローラーと、ケーブル外被に塗布された耐熱塗料を加熱する高周波加熱コイルと、加熱された耐熱塗料に絶縁粉体を吹き付けるブロアーと、油圧により駆動するカッターとを備え、高周波加熱により耐熱塗料を膨潤させてからケーブル外被を剥離する剥離装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−200236号公報
【特許文献2】特開平8−163836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の防災塗料の剥離方法では、防災塗料の膨潤軟化に大量の剥離剤が必要であり、膨潤するまで5日以上の期間が必要であった。また、防災塗料が膨潤軟化しても、その後の拭き取り作業は非常に負担が大きいものであった。
【0006】
また、特許文献2の剥離装置は、ケーブルを送り出すローラーや油圧駆動のカッター等を使用するので、大型の設備化を必要としていた。このため、ケーブルを撤去する現場に剥離装置を持ち込んで使用することは殆ど不可能であり、撤去したケーブルを剥離装置のある設備に運び込んでからケーブル外被を剥離しなければならなかった。このため、ケーブルの運搬作業を必要とし、作業負担と作業時間が大きくなっていた。
【0007】
本発明は、防災塗料の付着したケーブル外被を剥離するための作業負担と作業時間の低減を図ることを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ケーブル外被を加熱する温風を発する温風発生部と、前記ケーブル外被に切れ目を形成するカッターと、前記ケーブル外被とその内側層との間に介挿させて相互の隙間を広げる拡径部材と、前記温風発生部と前記カッターと前記拡径部材とを支持するフレームとを備え、前記フレームが、前記カッターに対して当該カッターによる切れ目の形成方向の一方の側で前記温風発生部を支持すると共に前記切れ目の形成方向の他方の側で前記拡径部材を支持し、可搬性を有することを特徴とする。
【0009】
上記剥離装置は可搬性を備え、フレームが、カッターに対して当該カッターによる切れ目の形成方向の一方の側で温風発生部を支持し、他方の側で拡径部材を支持しているので、フレームを所定方向に移動させることにより電力ケーブルのケーブル外被に対して温風加熱、切れ目形成、切れ目の拡大を順番に行うことができ、手持ち操作で容易且つ迅速にケーブルシースの剥離を行うことが可能となる。
また、これにより、防災塗料の付着したケーブル外被を剥離する装置を、ケーブル撤去現場に運び込んで使用できる程度まで小型化することができ、撤去する電力ケーブルを剥離装置のある場所に運搬する作業も不要とすることが可能となる。
【0010】
また、上記発明において、前記カッターは切れ目を形成するための駆動源を要しない構成としても良い。
これにより、装置の可搬性をより向上させることが可能となる。
また、カッターを駆動させずに切れ目の形成を行うことにより、ケーブル外被に塗布された防災塗料の飛散を低減することが可能となる。
【0011】
また、上記発明において、前記カッターを円形としてその外周全体に刃先を形成すると共に、前記フレームが前記カッターを回転可能に支持する構成としても良い。
カッターを円形として回転可能とすることにより、フレームを移動させるとカッターが回転し、ケーブル外被に対してより容易に切れ目形成を行うことが可能となる。従って、作業性の向上が図られる。
【0012】
また、上記発明において、前記カッターによる切れ目の形成方向に沿って前記フレームを移動させるためのハンドルを備える構成としても良い。
これにより、フレームを移動させる作業が容易となり、さらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【0013】
また、上記発明において、前記拡径部材を半円錐状としても良い。
これにより、切れ目の間に挿入した拡径部材をケーブルシースの内側の導体に沿わせることができ、フレームの移動の際に拡径部材を適正な位置に維持することができ、さらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、防災塗料の付着したケーブル外皮の剥離装置を、ケーブル撤去現場に運び込んで使用できる程度まで小型化することが可能である。これにより、電力ケーブルを剥離設備に運搬する作業を不要とすることができる。また、手持ち操作によりケーブル外被の剥離作業を行うことができ、作業の容易化及び迅速化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】発明の実施形態である電力ケーブルの剥離装置の斜視図である。
【
図4】フレームにカッターのカバーを設けた剥離装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の実施形態の概要]
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の剥離装置10を用いてケーブル外被を剥離する電力ケーブル90は、コア側部分91の外周にケーブルシース92が被覆されたものである。
コア側部分91は、導体の周囲に絶縁層などが形成され、最外周が金属シースになっている部分である。ケーブルシース92は、ケーブル外被を構成するもので、樹脂製である。この例では、ケーブルシース92の外周に防災塗料が塗布されており、ケーブルシース92と防災塗料とによって、ケーブル外被が構成されている。
防災塗料は、水和アルミナ等の無機充填材とアクリル樹脂等の熱可塑性バインダ、溶媒等を主成分とし、難燃材、安定材等を添加したものからなる。
【0017】
上記剥離装置10は、ケーブルシース92からなるケーブル外被(以下、ケーブルシース92と記す)に温風を当てるための温風発生部20と、ケーブルシース92に切れ目を形成するカッター30と、ケーブルシース92の切れ目を押し広げる半円錐状の拡径部材40と、これらを支持するフレーム50とを備えている。
【0018】
[温風発生部]
温風発生部20は、
図1〜3に示すように、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、電熱線等のような電力により発熱する熱源21と、送風を行うファン22と、熱源21及びファン22を格納した風洞状のケース25と備え、当該ケース25は外気取入口23と送風口24とを備えている。そして、加熱された温風をケース25の送風口24から吹き出すことが可能となっている。
【0019】
[カッター]
カッター30は、
図1〜3に示すように、円形の平板状であってその外周全体に鋭利な刃先が形成された丸刃カッターである。このカッター30は、その中心でフレーム50により軸支されており、回転可能となっている。
なお、この剥離装置10は、カッター30を回転させるモーター等の駆動源は備えておらず、刃先をケーブルシース92に押しつけて刃面に沿った一方の方向に送ることで切れ目を形成することが可能となっている。
【0020】
[拡径部材]
拡径部材40は、
図1〜3に示すように、円錐台の外周面に沿った半割の筒状体であり、その中心線に垂直な断面の形状は全長に渡って半円弧状となっている。そして、拡径部材40の中心線方向における一端部の内径及び外径が他端部の内径及び外径よりも小さくなっている。以下、内径及び外径が小さい端部を小径端部41とし、内径及び外径が大きい端部を大径端部42する。
拡径部材40は、ケーブルシース92の剥離の際には、カッター30により形成された切れ目からその内側に介挿される。そして、小径端部41を前として中心線方向に移動することにより、大径端部42が切れ目を広げ、ケーブルシース92を半径方向外側に押し広げて剥離を促すことが可能となっている。
【0021】
[フレーム]
フレーム50は、長尺な平板であり、その長手方向の一端部で温風発生部20を支持し、他端部で拡径部材40を支持している。また、その中間部でカッター30を支持している。
フレーム50の一端部には、円筒状の支持枠51が設けられており、当該支持枠51に温風発生部20が固定保持されている。そして、この支持枠51により、温風発生部20は、送風口24がフレーム50の平板面に平行且つ長手方向に直交する方向に向かって温風を吹き出す向きに固定されている。
【0022】
また、剥離装置10は、ケーブルシース92を剥離する際には、温風発生部20側を先頭にしてフレーム50をその長手方向に沿って前進移動させるので(後述)、フレーム50の前側の端部となる支持枠51に作業者が把持するためのハンドル53が固定装備されている。このハンドル53は、支持枠51の外周面上であって、フレーム50の平板面に対して直交する方向に突設されている。
【0023】
フレーム50は、カッター30をその平板面に沿った状態で支軸31により軸支している。また、
図3に示すように、フレーム50はその側縁部52から温風の吹き出し方向に向かってカッター30の刃先の一部が突出するように支持している。また、フレーム50の側縁部52に対するカッター30の刃先は、フレーム50の側縁部52に対する温風発生部20の送風口24よりも幾分突出している。
この配置により、カッター30は、ケーブルシース92における温風発生部20により加熱された部分に切れ目を形成することができる。
【0024】
フレーム50は、他端部において、拡径部材40の断面半円弧形状の開口側を温風の吹き出し方向に向け、その中心線がフレーム50の長手方向に沿った状態で支持している。また、
図3に示すように、フレーム50は、拡径部材40が温風の吹き出し方向に向かってカッター30よりも大きく突出し、小径端部41がカッター30側を向いた状態で支持している。
この配置により、拡径部材40を、カッター30が形成したケーブルシース92の切れ目の内側に差し込むことができる。
【0025】
[ケーブルシースの剥離作業]
剥離作業の際には、フレーム50の長手方向を電力ケーブル90に沿わせ、温風発生部20の送風口24を電力ケーブル90のケーブルシース92に向けた状態で、剥離装置10を電力ケーブル90に近接させる。これにより、温風発生部20の送風口24から発せられる温風がケーブルシース92を加熱し、その表面に塗布された防災塗料を軟化させる。
そして、ハンドル53を持ってフレーム50をその長手方向に沿って温風発生部20側に向かって前進移動させる。これにより、ケーブルシース92の加熱による軟化した部分にカッター30の刃先が押し込まれて切れ目を形成することができる。
さらに、カッター30により形成された切れ目から、その内側に拡径部材40を押し込み、フレーム50をさらに前進移動させる。これにより、ケーブルシース92の切れ目は広げられ、ケーブルシース92は剥離が促される。
従って、フレーム50を電力ケーブル90の一端部から他端部まで移動させることにより、防災塗料が塗布されたケーブルシース92を容易且つ迅速に剥離することができる。
【0026】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記剥離装置10は、フレーム50に温風発生部20とカッター30と拡径部材40とを一体的に設けている。このため、剥離装置10は、各構成の一体化により可搬性に優れ、電力ケーブル90の撤去作業の現場に容易に運び込むことができ、当該現場で電力ケーブル90におけるケーブルシース92の剥離作業を行うことが可能となる。従って、従来のように、ケーブル撤去作業現場から電力ケーブル90を剥離装置が設置された離れた場所に運搬する等の作業を不要とし、作業負担と作業時間の低減を図ることが可能となる。
【0027】
さらに、剥離装置10は、カッター30による切れ目の形成方向における一方に温風発生部20を配置し、他方に拡径部材40を配置している。そして、フレーム50に対して温風発生部20の送風口24からの温風吹き出し側にカッター30の刃先が突出すると共に拡径部材40の開口が向けられている。
各構成の上記配置により、剥離装置10の温風吹き出し側を電力ケーブル90に向けて一定の方向に移動させることにより、ケーブルシース92の加熱、切れ目形成、剥離を順番に行うことができ、ケーブルシース92の剥離作業を容易且つ迅速に行うことが可能となる。
【0028】
また、剥離装置10は、カッター30を回転させる駆動源を持たず、フレーム50をカッター30の刃面に沿った方向に移動させることでケーブルシース92に切れ目を形成するので、ケーブルシース92や塗布された防災塗料の粉塵の発生を抑制することが可能となる。
また、カッター30を回転可能な円形としたので、フレーム50刃面に沿った方向に移動させることにより回転を生じ、ケーブルシース92の切れ目の形成を容易且つ円滑に行うことが可能となる。
また、フレーム50の温風発生部20側の支持枠51にハンドル53を設けたので、フレーム50を温風発生部20側に向かって移動させる操作を円滑に行うことができ、作業性を向上することが可能となる。
【0029】
[その他]
前述したカッター30は、フレーム50に対して、温風発生部20による温風の吹き出し側に突出した部分のみでケーブルシース92の切れ目形成を行うので、
図4に示すように、カッター30の温風の吹き出し側に突出した部分以外の部分を覆うカバー54をフレーム50に設けても良い。
【0030】
また、カッター30は、円形のものに限らない。例えば、
図5に示すように、温風発生部20による温風の吹き出し方向に向かってフレーム50から延出された先鋭なメス状のカッター30Aを使用することも可能である。この場合、カッター30Aはケーブルシース92に向けられた状態で固定支持され、その刃先がケーブルシース92に突き立てられ、フレーム50を移動させることによりケーブルシース92に切れ目を形成することができる。
【0031】
また、拡径部材40は、上記円錐台の外周面の形状に限らず、ケーブルシース92に形成された切れ目を広げることができる他の形状でも良い。例えば、
図6に示す拡径部材40Bのように、三角形状の二つの傾斜面43B、44Bを備え、頂点となる部分45Bを前側(温風発生部20側)に向けた状態でフレーム50に固定装備しても良い。この場合、二つの傾斜面43B、44Bがケーブルシース92の切れ目を押し広げてケーブルシース92の剥離を促すことができる。
【0032】
また、フレーム50は、上記の配置で温風発生部20とカッター30と拡径部材40とを支持することができれば、その形状等は任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 剥離装置
20 温風発生部
30 カッター
40 拡径部材
50 フレーム
53 ハンドル
90 電力ケーブル
91 導体(内側層)
92 ケーブルシース(ケーブル外被)