特許第6066259号(P6066259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6066259
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】体内局所加温装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/40 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   A61N1/40
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-87831(P2012-87831)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-215354(P2013-215354A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】柴 建次
【審査官】 白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04679561(US,A)
【文献】 国際公開第2010/059097(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の体外に周回配置される送電コイルで構成され、該被検者の所定位置に磁界を発生させる磁界発生部と、
前記被検者の体内の加温対象部位の周辺部位または複数の該周辺部位の間に配置され、前記磁界発生部から発生された磁界の電磁誘導により生じる電力を受電するリング状の受電コイルであって、前記被検者の体内の加温対象部位の周辺部位または複数の該周辺部位の間に配置される際に、前記リング状の中空部分に該周辺部位が侵入可能であって、かつ必要な電力が確保できる程度の前記中空部分の面積となる範囲で変形可能な柔軟性を有する受電コイルと、
前記受電コイルの両端の各々に電気的に接続され、前記加温対象部位を挟むように配置される少なくとも一対の電極を含んで構成され、前記一対の電極の各々は柔軟性を有する袋に導電性溶液を入れた袋電極であり、前記受電コイルが受電した電力により電極間に電界を発生させて、前記加温対象部位を局所的に加温する加温部と、
を含む体内局所加温装置。
【請求項2】
前記電極の各々の前記加温対象部位に接する面周辺の絶縁抵抗より、前記加温対象部位に接しない面周辺の絶縁抵抗が高くなるように、前記電極の各々の周辺に絶縁材料を設けた請求項1記載の体内局所加温装置。
【請求項3】
前記受電コイルの外周を絶縁材料で被覆した請求項1または請求項2記載の体内局所加温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内局所加温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば深部癌の治療などのように、体内の加温対象部位を加温することが行われている。
【0003】
例えば、空洞共振器と、この空洞共振器に高周波電力を供給する高周波発振器,高周波アンプ,同調・整合回路と、高周波発振器,高周波アンプ,同調・整合回路を制御する制御回路とを備え、空洞共振器内の電磁界分布を利用して被治療体を加温する温熱治療器において、空洞共振器内に電界集束手段を備えた温熱治療器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の温熱治療器では、空洞共振器へ供給された高周波電力により形成される電界または電界分布は、電界集束手段である誘電体により制御され、誘電体の比誘電率、形状または配置に基づいた集束電界となって、被治療体の加温領域を加温する。
【0004】
また、表面に生体成分を結合させたリボゾーム内に強磁性体の超微粒子を埋め込んでなるマイクロカプセルを癌組織近傍へ送給する送給手段と、癌組織近傍から血液とともに前記超微粒子を導出する導出手段と、該導出手段により導出された超微粒子を捕集する捕集手段と、該捕集手段を通過した血液を体内へ還流させる還流手段と、前記癌組織近傍に送給された超微粒子に対して共振エネルギーを付与する共振エネルギー付与手段とを備えて構成された温熱治療器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の温熱治療器では、癌組織近傍に送給された超微粒子に対して共振エネルギーを付与して、超微粒子の共振によって癌組織を選択的に加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−254629号公報
【特許文献2】特開平4−198548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、誘電体により電界を収束させて入るが、収束された電界を体表面から照射するため、体内の電界が通過する部分は加温されることとなり、加温対象部位が体内の深部であるような場合には、加温対象部位以外も加温してしまうことになる。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術でも、体表面から加温対象部位周辺を含む全体を共振させているため、マイクロカプセルが癌組織以外の正常部位近傍に存在する場合には、正常部位まで加温されてしまう可能性があった。
【0008】
このように、従来技術では、体表面から加温対象部位とその周辺部位とを誘電加熱することにより、正常部位(例えば、皮膚、筋、癌組織以外の臓器)までが加温されてしまい、副作用の発生など患者への負担が大きくなることを避けるため、加温時間を制限するなど、十分な加温が行えない場合がある、という問題があった。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、加温対象部位が体内深部の場合でも、加温対象部位を局所的に加温することができる体内局所加温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の体内局所加温装置は、被検者の体外に周回配置される送電コイルで構成され、該被検者の所定位置に磁界を発生させる磁界発生部と、前記被検者の体内の加温対象部位の周辺部位または複数の該周辺部位の間に配置され、前記磁界発生部から発生された磁界の電磁誘導により生じる電力を受電するリング状の受電コイルであって、前記被検者の体内の加温対象部位の周辺部位または複数の該周辺部位の間に配置される際に、前記リング状の中空部分に該周辺部位が侵入可能であって、かつ必要な電力が確保できる程度の前記中空部分の面積となる範囲で変形可能な柔軟性を有する受電コイルと、前記受電コイルの両端の各々に電気的に接続され、前記加温対象部位を挟むように配置される少なくとも一対の電極を含んで構成され、前記一対の電極の各々は柔軟性を有する袋に導電性溶液を入れた袋電極であり、前記受電コイルが受電した電力により電極間に電界を発生させて、前記加温対象部位を局所的に加温する加温部と、を含んで構成されている。
【0011】
本発明の体内局所加温装置によれば、被検者の体外に配置された磁界発生部が、被検者の所定位置に磁界を発生させると、柔軟性を有するリング状の受電コイルが、被検者の体内の加温対象部位の周辺部位または複数の周辺部位の間に配置された状態で、磁界発生部から発生された磁界の電磁誘導により生じる電力を受電する。そして、受電コイルの両端の各々に電気的に接続され、加温対象部位を挟むように配置される少なくとも一対の電極を含んで構成された加温部が、受電コイルが受電した電力により電極間に電界を発生させて、加温対象部位を局所的に加温する。
【0012】
このように、体外から体内への電力の伝送には磁界エネルギーを利用するため、加温を伴わず必要な電力の供給を行うことができる。また、対象部位の加温には対象部位を挟むように配置された少なくとも一対の電極によって作用される電界エネルギーを利用するため、電極間に挟まれた対象部位を加温することができる。これにより、加温対象部位が体内深部の場合でも、加温対象部位を局所的に加温することができる。
【0013】
また、前記電極の各々の前記加温対象部位に接する面周辺の絶縁抵抗より、前記加温対象部位に接しない面周辺の絶縁抵抗が高くなるように、前記電極の各々の周辺に絶縁材料を設けることができる。絶縁材料は、電極の各々の全体または一部を被覆するように設けてもよいし、電極側から加温対象部位に向けて広がるように設けてもよいし、電極周辺に独立して設けてもよい。
【0014】
これにより、加温する方向を制御し、電極間に挟まれた加温対象部位以外の部位が加温されることをより抑制することができる。
【0015】
また、前記受電コイルの外周を絶縁材料で被覆することができる。これにより、受電コイルが配置された周辺部位へ及ぼす影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の体内局所加温装置によれば、体外から体内への電力の伝送には磁界エネルギーを利用し、対象部位の加温には電界エネルギーを利用するため、加温対象部位が体内深部の場合でも、加温対象部位を局所的に加温することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態に係る体内局所加温装置を示す概略図である。
図2】送電部を示す概略図である。
図3】送電部の他の例を示す概略図である。
図4】受電部を示す概略図である。
図5】受電コイルの概略断面図である。
図6】受電部の電極部分を示す概略図である。
図7】受電部を体内に配置した状態を示す概略図である。
図8】本実施の形態に係る体内局所加温装置の等価回路を示す図である。
図9】受電部の電極部分の他の例を示す概略図である。
図10】本実施例の解析モデルを示すイメージ図である。
図11】本実施例の解析結果を示す水平断面におけるSAR分布図である。
図12】本実施例の解析結果を示す横から見た断面におけるSAR分布図である。
図13】本実施例の解析結果を示す背中から見た断面におけるSAR分布図である。
図14】従来のハイパーサーミアの解析モデルを示すイメージ図である。
図15】従来のハイパーサーミアの解析モデルによる解析結果を示すSAR分布図である。
図16】電極を絶縁材料で被覆した解析モデルを示すイメージ図である。
図17】電極を絶縁材料で被覆した解析モデルによる解析結果を示すSAR分布図である。
図18】(a)他の実施例における絶縁材料を含む電極部分を示す概略図、及び(b)〜(d)絶縁材料追加モデルを示すイメージ図である。
図19】他の実施例における絶縁材料追加モデルを示すイメージ図である。
図20】(a)ノーマルモデル、及び(b)絶縁材料追加モデルによる解析結果を示すSAR分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る体内局所加温装置10は、体外に配置される送電部12と、体内に配置される受電部14及び加温部19とを含んで構成されている。
【0020】
送電部12は、体外に配置され、外部から電力が供給された際に磁界を発生する。送電部12は、例えば、図2に示すように、N回巻きの送電コイルとすることができ、人体に周回配置される。なお、送電部12の形態は、このように人体に周回配置される場合に限定されず、図3に示すように、人体の一面側に配置されるようにしてもよく、受電部14が配置された体内に向けて磁界が発生するように配置されればよい。
【0021】
受電部14は、図4に示すように、送電部12から発生された磁界の電磁誘導により生じる電力を受電する受電コイル16と、受電コイル16の外周を被覆する絶縁材料18とを含んで構成されている。
【0022】
受電コイル16は、柔軟性を有するリング状のN回巻きのコイルである。受電部14が体内に配置されることを考慮して、受電部14自体の太さが太くなることを防止するために、Nは2回程度とするのが望ましい。また、リング状に形成された受電コイル16の中空部分の面積が大きいほど、高い電力伝送効率を得ることができる。また、中空部分の面積が大きいほど、生体組織を通過する電力密度が低くなり、生体への電力吸収を小さくすることができる。この点を考慮して、形成されるリング状の中空部分の面積が適切な大きさとなるように受電コイル16のサイズを決定する。例えば、受電部14を腹部へ埋め込む場合には、受電コイル16が体内に配置された状態における受電コイル16の中空部分の面積が100〜140cm程度となるようなサイズとする。受電コイル16の材料としては、柔軟性を確保するため、ポリウレタン等を用いることができる。
【0023】
絶縁材料18は、厚さ2〜4mm程度の絶縁性物質を用いることができ、柔軟性を有する受電コイル16の変形に追従可能なように、柔軟性を有する材料とする。絶縁材料18は、受電コイル16のN回巻き部分が1つのリング状となるように受電コイル16を被覆する。N=2回の場合の図4におけるA−A'断面の概略図を図5に示す。なお、図5では、断面形状が楕円形の場合を示しているが、これに限定されず、八の字断面となるように受電コイル16を絶縁材料18により被覆してもよい。
【0024】
加温部19は、受電コイル16の両端の各々に電気的に接続された一対の電極20と、電極の一部を被覆する絶縁材料22とを含んで構成されている。
【0025】
電極20は、銅、アルミニウム、ステンレス銅、チタン、白金、銀等の導電性物質を用いることができる。電極20のサイズは、電極間に挟む加温対象臓器の大きさにより適切なサイズとすることができるが、例えば、厚さ1cm前後×直径2cm程度の平面視円形とすることができる。なお、電極20の形状はこの形状に限定されるものではなく、長方形、正方形、楕円形等とすることができる。絶縁材料22は、厚さ2〜4mm程度の絶縁性物質を用いることができる。
【0026】
加温部19周辺を拡大した概略図を図6に示す。電極20は、受電コイル16の始点及び終点の各々に電気的に接続され、電極20間に加温対象臓器を挟んで配置される。電極20は、加温対象臓器に接する面が露出し、その他の面が絶縁材料22で被覆されている。
【0027】
受電部14及び加温部19は、開腹手術または内視鏡手術等の埋込手術により、図7に示すように、一対の電極20で加温対象臓器を挟むように体内に埋め込まれる。また、柔軟性を有する受電コイル16は、加温対象臓器の周辺に存在する周辺臓器または複数の周辺臓器の間に配置される。周辺臓器に配置される場合とは、例えば、胃、腸、肺等の内部に配置される場合である。また、複数の周辺臓器の間に配置される場合とは、周辺臓器と周辺臓器との間隙に配置される場合や、密着した周辺臓器間に配置される場合である。配置された状態において、リング状を形成する受電コイル16の中空部分には周辺臓器が入り込んでもよい。受電コイル16のリング形状は真円を保ったまま体内に配置する必要はなく、受電電力が中空部分の面積に比例することを考慮し、加温対象臓器の加温に必要な電力が確保できる程度の中空部分の面積となるような形状で受電コイル16部分が配置されればよい。
【0028】
なお、受電部14及び加温部19は、手術によらず、口等から挿入し、例えば、胃、腸、肺等に配置することも可能である。この場合、加温部19により、胃や腸の内壁などを局所的に加熱することができる。
【0029】
次に、本実施の形態に係る体内局所加温装置10の等価回路を示す図8も参照しつつ、本実施の形態に係る体内局所加温装置10の作用について説明する。
【0030】
まず、図7に示すように、一対の電極20で加温対象臓器を挟むように、また、受電コイル16が周辺臓器または複数の周辺臓器の間に配置されるように、受電部14及び加温部19が体内に埋め込まれる。そして、送電部12としての送電コイルを体に周回配置する。
【0031】
次に、送電部12としての送電コイルに外部から電力を供給して交流電流を流すことにより、変動磁場を発生させる。送電部12から発生された磁界がリング状の受電コイル16の中空内を通ることにより、受電コイル16に電流が流れる。これにより、体外の送電部12から体内の受電部14へワイヤレスで電力が伝送され、加温部19では、受電部14で受電した電力により電極20間に電界を発生させる。電極20間に発生した電界により、電極20間に挟まれた加温対象臓器が加温される。
【0032】
なお、体外から体内への磁束の通過によっては、生体組織は加温されず、電界が通過する箇所では生体組織は加温されるため、電極20で挟まれた加温対象臓器の部分が局所的に加温されることになる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態の体内局所加温装置10によれば、体外から体内への電力の伝送には磁界エネルギーを利用し、対象部位の加温には電界エネルギーを利用するため、加温対象部位が体内深部の場合でも、加温対象部位を局所的に加温することができる。
【0034】
また、受電コイル16の巻き数を少なくして太さが太くならないようにすることで、受電部14を周辺臓器と周辺臓器との小さな間にも配置することができるため、生体への悪影響を抑制することができる。また、送電部12と受電部14間で電力をワイヤレス伝送するため、受電部14へ電力を供給するための電線が皮膚を貫通することなく、長期間の使用が可能となる。かかる構成は、生体の内外を有線で結ぶことがなくなるため、生体に対する経時的な感染症の予防にも効果がある。
【0035】
従来技術のワイヤレス電力伝送の受電コイルは、生体に与える影響を抑制するためにできる限り小さいコイルを作り、円盤状のコイル(例えば、外径7cm程度、内径2cm程度、厚さ1−2mm程度)を臓器の隙間や皮膚と筋層との間に埋め込む方法が一般的であった(参考文献「柴建次 他、「人工心臓用空心型経皮エネルギー伝送システム―体外情報による出力電圧の安定化制御―」、生体医工学、Vol.43(2005)、No.4 pp.670-676」)。しかしながら、磁界のエネルギー伝送を用いて、電力を体内に配置された受電部に送る場合は、受電コイルの面積を大きくすればするほど、伝送効率が上がるが、受電コイルの面積を大きくすることは、生体に与える影響が大きくなるという点で相反していた。
【0036】
これに対して、本実施の形態に係る体内局所加温装置10では、受電コイル16を、柔軟性を有するリング状としたことで、生体組織や臓器へ与える影響を抑制して体内に埋込むことができる。さらに、受電コイル16が形成するリング状の中空部分の面積も大きくすることができ、生体に与える影響を軽減しつつ、高い伝送効率を得ることができる。
【0037】
なお、電極20は、図9に示すような袋電極としてもよい。図9の袋電極は、絶縁材料222からなる袋に導電性溶液220を入れて電極を構成したものである。絶縁材料222は、柔軟性を有する材料を用い、加温対象臓器と接触しない面は絶縁抵抗を高くし、加温対象臓器と接触する面は絶縁抵抗を極端に小さくする。絶縁抵抗の高低は、絶縁材料222の厚さを変えたり、材料を変えたりすることにより調整可能である。このような袋電極を用いることにより、袋電極自体が柔軟性を有するため、加温対象臓器と接触する面が臓器の形状に合わせた形に変形でき、加温対象臓器に袋電極の表面を密着させることができる。電極と加温対象臓器との接触点が1点の場合に比べ、電流集中を防止することができ、必要以上の加温を防止することができる。また、袋電極を用いることにより、受電部14全てが柔軟性を有する材料で構成されることとなるため、受電部14を体内に埋め込む際に、体に開けた小さな穴から入れることができ、開腹手術が不要で内視鏡的に埋込手術を行うことができる。
【0038】
<実施例>
【0039】
以下に、実施例について示す。本実施例では、図1、2、及び4に示す構成で、加温対象部位として膵臓の一部を加温する構成について、電磁界解析によって検証を行う。検証にあたり、電気特性や形状が人体と等しい人体モデルとして、NICTの提供する日本人男性の平均人体モデル(TARO)の腹部を形状データとして用い、この形状データに、IFACが提唱する臓器の導電率及び比誘電率(表1)を入力したものを、人体モデルとした。なお、導電率及び比誘電率は、電磁界エネルギーの周波数2MHzにおける値とした。
【0040】
【表1】
【0041】
表1において、導電率(Conductivity σ)は単位長さ(1m)当たりのジーメンスであり、誘電率(Relative permittivity)は真空の誘電率に対する各臓器(Organ)の誘電率比である。
【0042】
送電部12の仕様を表2に、受電部14の仕様を表3に、電磁界解析方法を表4に示す。また、解析モデルを図10に示す。同図(a)は人体モデル周辺に配置した送電部12部分、同図(b)は送電部12が配置される体内部分、同図(c)は送電部12、膵臓(加温対象臓器)、及び周辺臓器を抜き出した部分、同図(d)は送電部12及び膵臓を抜き出した部分、同図(e)は電極20及び膵臓を抜き出した部分を示している。ここでは、膵臓を金属電極で挟んだモデルとしている。なお、加温の評価指標としては、SAR(生体組織の単位質量当たりの吸収電力[W/kg])を用いた。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
SARの解析結果を図11、12、13に示す。図11(a)及び(b)は膵臓部分を含む解析モデルの水平断面、同図(c)〜(f)は同断面における解析結果である。同図(c)では0〜30W/kg、(d)では0〜10W/kg、(e)では0〜2W/kg、(f)では0〜0.35W/kgのレンジでSARを示している。同図(c)〜(f)に示すように、電極20間の生体組織(ポイントX、(d)〜(f)では点線で示している)のSARが大きくなっていることが分かる。ポイントXは30W/kgに近い値であるが、一方、その他の部分はSARが大きい部分(ポイントY)でも0.35W/kgであることが分かる。また、ICNIRPにより、生体に影響を及ぼさない局所SARは10W/kg以下であることが定められているが、同図(d)及び(e)から、ポイントX以外の箇所では、SARが10W/kg以下となっており、安全であることが分かる。また、図12(a)は膵臓部分を含む解析モデルを横から見た断面、及び同図(b)は同断面における解析結果であり、図13(a)は膵臓部分を含む解析モデルの背面から見た断面、及び同図(b)は同断面における解析結果である。図12及び13からも、電極20間の生体組織のみSARが大きくなっていることが分かる。
【0047】
また、従来のハイパーサーミアの解析モデル(参考文献:日本ハイパーサーミア学会監修、「全訂 ハイパーサーミア マニュアル」、1999年9月3日第1版発行、245頁)を図14に、SAR分布の電磁界解析結果を図15に示す。図15に示す結果は、図14に示す解析モデルの中央部分の断面図のSAR分布であり、各位置でのSAR値を最大値で割った割合(%)を示している。ここから、加温対象部位が筋の中央部(ポイントX)にある場合を考えると、ポイントXは10%よりも低い値であるが、電極ボーラスに接している部位の生体組織のSAR(ポイントY)は、40〜50%であることが分かる。ポイントXとポイントYとにおけるSARの比は、約1:5であり、加温対象部位よりも、他の正常な組織の方を5倍も加温してしまうことが分かる。一方、本実施例では、ポイントXとポイントYとにおけるSARの比は、85:1であり、加温対象部位を正常な組織よりも85倍加温することができ、目標部位のみを局所的に加温できる方法であることが分かる。
【0048】
なお、上記実施例における解析モデルでは、電極20として銅(Cu)を用いたが、電極20として導電率が銅よりも1桁小さいチタンを用いた解析モデルにおいても同様なSARの解析結果が得られた。電極20としてチタンを用いた場合には、生体へ及ぼす影響をより抑制することができる。
【0049】
また、上記実施例における解析モデルでは、絶縁材料22で被覆していない電極20を用いて加温対象臓器(膵臓)を挟んでいる。この電極20を絶縁材料22で被覆することで、周辺の加温対象としていない臓器に電流が流れることも防止することができる。厚さ3mmの絶縁シートで覆った場合の電磁界解析により計算した電磁界解析用モデルを図16に、SAR分布を図17示す。なお、図16では、膵臓の周りに周辺臓器は省略しているが、実際に電磁界解析を行う際には、周辺臓器もつけた状態で解析を行っている。なお、絶縁材料22及び電極20の電気定数を表5に示す。絶縁材料22はシリコーンとし、電極20はチタンとしている。
【0050】
【表5】
【0051】
図17は、電極20間における等SAR面を示しており、電磁波の周波数が60MHzを超えると、電流は絶縁材料22を通過し、電極20の外側の臓器もSARが高くなっているが、60MHz以下では、電極の外のSARは小さいことが分かる。
【0052】
次に、他の実施例について説明する。この実施例では、電流が加温対象部位以外の周辺組織の臓器に流れないようにするため、電極周辺に設ける絶縁材料の構成を変更したものである。例えば、図18(a)〜(d)では、電極20を覆っている絶縁材料22aに、さらに、別の絶縁材料22b(2枚)を羽にようにつけた例である。また、膵臓と脾臓との間に独立した絶縁材料22cも挿入してある。
【0053】
絶縁材料の追加による、加温対象臓器及び周辺臓器への加温状態を調べるために、絶縁材料22を電極の周辺(羽なし)のみにした場合(ノーマルモデル)と、図18に示すように絶縁材料22a〜22cを設けた場合(絶縁材料追加モデル)において、同じ電力を送った場合のSAR分布を電磁界解析により比較した。
【0054】
図19に示した解析モデルにおけるB−B'断面のSAR分布を、ノーマルモデルについて図20(a)に、絶縁材料追加モデルについて同図(b)に示す。なお、加温対象臓器である膵臓にいては、SAR分布を表示しておらず、表示できている部分は、全て膵臓以外の臓器であるため、図20中の白色の部分は周辺臓器の加温部に相当する。
【0055】
図20(a)より、脾臓の部分において、SAR分布が白色となっており、SARが大きくなっていることがわかる。一方、同図(b)においては、SAR分布の白色部分が少なくなっており、SARが小さいことがわかる。膵臓に吸収される総電力は、電源から送電された全電力のうち、ノーマルモデル:絶縁材料追加モデルの比が90.5%:92.4%、周辺臓器の代表として脾臓では、ノーマルモデル:絶縁材料追加モデルの比が1.98%:0.6%(膵臓に吸収される電力の比はノーマルモデル:絶縁材料追加モデル=0.03W:0.009W)となっており、絶縁材料の追加により、周辺臓器の加温を防ぐ効果があることがわかった。
【符号の説明】
【0056】
10 体内局所加温装置
12 送電部
14 受電部
16 受電コイル
18 絶縁材料
20 電極
22 絶縁材料
図2
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図20