【実施例】
【0027】
本発明の効果を確認するために以下に示す実験を行った。
【0028】
試料導入装置1により試料をプラズマトーチ2に導入する導入条件(キャリアガス及び添加ガスの流量)とプラズマを生成・維持するためのプラズマ設定条件(高周波の出力、補助ガス及びプラズマガスの流量)を変化させ、質量スペクトル及びイオン強度を調べた。
【0029】
具体的には、検出対象の元素をAl、Fe、Cuとし、1ppbのAlの標準溶液、1ppbのFeの標準溶液及び1ppbのCuの標準溶液を用意し、これらの標準溶液を含む5%硝酸溶液を調製した。調製した溶液を高分解能のICP−MS装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製(ELEMENT2)により、質量分解能4000として測定した。
【0030】
(従来例)
従来例として、高周波の出力を1200W、プラズマガスの流量を16.0L/min、補助ガスの流量を0.9L/min、キャリアガスの流量を0.80L/min及び添加ガスの流量を0.20L/minとして、
27Al(Mass27)、
56Fe(Mass56)、
63Cu(Mass63)の質量スペクトルを測定した。
【0031】
図2〜4の左側の図(従来例)に示すように測定した質量スペクトルは、各図の左側に目的とする質量スペクトル(
27Al、
56Fe、
63Cu)が検出され、そのスペクトルに隣接するように、その右側に妨害分子イオンのピークが現れる。
図2の
27Alの測定に関しては、図示左側から
27Al、
12C
15N、
11B
16Oの順に検出される。
図3の
56Feの測定に関しては、図示左側から
56Feと
40Ar
16Oが検出される。
図4の
63Cuの測定に関しては、図示左側から
63Cuと
28Si
16O
19Fが検出される。この中で特に
図3の
56Feの質量スペクトルは
40Ar
16Oの巨大なピークが
56Feイオンのピークと干渉するのが分かる。また、
図5は同じ条件で測定したときのDL値(検出下限値:ブランク試料を繰り返し測定した際のばらつき(標準偏差)の3倍に相当する濃度値)及びBEC値(バックグラウンド等価濃度値)である。
【0032】
(実施例)
本発明の効果を確認するために、先ず、プラズマトーチ2に印加する高周波の出力と測定されるイオンの強度の関係を調べた。従来例の条件から高周波の出力のみを変えて検出対象の元素のイオン(
27Al、
56Fe、
63Cu)の強度(cps)と妨害イオン(
40Ar
2、
11B
16O、
28Si
2、
40Ar
16O、
28Si
16O
19F)の強度(cps)を測定した。最初に各種ガスの流量及び高周波の出力を従来例と同じ条件1200Wに設定してイオンの強度を測定した。次に1000Wから50W毎に高周波の出力を下げ、1000〜700Wの範囲で50W毎にイオンの強度を取得した。
図6(高周波の出力が1200Wのときのイオンの強度を1としている)に示すように高周波の出力が850W辺りから妨害イオンの強度が減少し始める。特に、800〜750Wで妨害イオンの強度が大幅に減少する。よって、800〜750Wで検出対象の元素のイオンの強度が多少減少していても妨害イオンの干渉(質量干渉)の影響を効果的に低減できる。
【0033】
次に誘導結合プラズマを生成・維持するプラズマガスの流量と測定されるイオンの強度の関係を調べた。プラズマガスの流量を可変させ、高周波の出力を800Wに固定した以外は、従来例と同様(補助ガスの流量:0.9L/min、キャリアガスの流量:0.80L/min、添加ガスの流量:0.20L/min)にしてイオンの強度を測定した。最初にプラズマガスの流量を従来例と同じ16.0L/minに設定してイオンの強度を測定した。次に16.0L/minを起点に前後0.5L/min毎にプラズマガスの流量を増加又は減少させて、14.0〜18.0L/minの範囲でイオンの強度を取得した。
図7(プラズマガスの流量が16.0L/minのときのイオンの強度を1としている)に示すようにプラズマガスの流量を変化させても検出対象の元素のイオンと妨害イオンの強度が分離する最適値が見出せなかった。
【0034】
次に誘導結合プラズマの点灯を補助する補助ガスの流量と測定されるイオンの強度の関係を調べた。補助ガスの流量を可変させ、高周波の出力を800W及びプラズマガスの流量を16.0L/minに固定した以外は、従来例と同様(キャリアガスの流量:0.80L/min、添加ガスの流量:0.20L/min)に設定してイオンの強度を測定した。最初に補助ガスの流量を従来例と同じ0.9L/minに設定してイオンの強度を測定した。次に0.9L/minを起点に前後0.1L/min毎に補助ガスの流量を増加又は減少させて0.8〜1.5L/minの範囲でイオンの強度を取得した。
図8(補助ガスの流量が0.9L/minのときのイオンの強度を1としている)に示すように補助ガスの流量が増加すると妨害イオンの強度が減少する傾向が見られる。特に、補助ガスの流量が1.2〜1.5L/minの範囲で検出対象の元素のイオンのイオン強度を維持したまま妨害イオンの強度が減少する。よって、妨害イオンの干渉(質量干渉)の影響を効果的に低減できる。
【0035】
次に試料をプラズマトーチ2に搬送するキャリアガスの流量と測定されるイオンの強度の関係を調べた。キャリアガスの流量を可変させ、高周波の出力を800W、プラズマガスの流量を16.0L/min、補助ガスの流量を1.3L/minに固定する以外は従来例と同様(添加ガスの流量:0.20L/min)にしてイオンの強度を測定した。最初にキャリアガスの流量を従来例と同じ0.80L/minに設定してイオンの強度を測定した。次に0.80L/minを起点に前後0.05L/min毎にキャリアガスの流量を増加又は減少させて0.65〜1.00L/minの範囲でイオンの強度を取得した。
図9(キャリアガスの流量が0.80L/minのときのイオンの強度を1としている)に示すようにキャリアガスの流量を変化させても検出対象の元素のイオン強度が大きくなり、妨害イオンのイオン強度が小さくなるように分離する最適値が見出せなかった。
【0036】
次にキャリアガスに添加される添加ガスの流量と測定されるイオンの強度の関係を調べた。添加ガスの流量を可変させ、高周波の出力を800W、プラズマガスの流量を16.0L/min、補助ガスの流量を1.3L/min、キャリアガスの流量を0.80L/minに固定してイオンの強度を測定した。最初に添加ガスの流量を従来例と同じ0.20L/minに設定してイオンの強度を測定した。次に0.20L/minを起点に前後0.05L/min毎に増加又は減少させて0.15〜0.50L/minの範囲でイオン強度を取得した。
図10(添加ガスの流量が0.20L/minのときのイオンの強度を1としている)に示すように添加ガスの流量が0.30〜0.45L/minの範囲で妨害イオンの強度が減少した。この範囲において、検出対象の元素のイオン強度が多少減少するが、それ以上に妨害イオンの強度が減少することで、妨害イオンの干渉(質量干渉)の影響を低減できる。
【0037】
以上のように
図6に示す高周波の出力及び
図8に示す補助ガスの流量、さらに
図10に示すキャリアガスに添加される添加ガスの流量が妨害イオンの干渉(質量干渉)の影響を低減する大きな要因となることが裏付けられる。
【0038】
図2〜4の右側の図(実施例)は、高周波の出力が800W、プラズマガスの流量が16.0L/min、補助ガスの流量が1.3L/min、キャリアガスの流量が0.8L/min、及び添加ガスの流量が0.35L/minにし、従来例と同じ5%硝酸溶液をICP−MS装置(質量分解能4000)で測定した質量スペクトルである。バックグラウンドが改善され、妨害イオンが抑制されることがみてとれる。また、
図11は同じ条件で測定したDL値及びBEC値を示し、
図5に示す従来例よりも改善される。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。