(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4に記載の方法により植物を生産した際の窒素成分の施肥履歴に基づいて作成された窒素成分の施肥管理スケジュールに則って、前記植物と同一品種の植物を生産することを特徴とする植物生産方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
N
2Oは二酸化炭素(CO
2)の約300倍もの温暖化効果を示す温室効果ガスである。また、成層圏オゾンの破壊物質でもある。したがって、農業分野におけるN
2O排出量を低減することは、極めて重要な課題である。
【0005】
農業分野におけるN
2O排出量を低減するためには、微生物に利用される窒素成分量を減らすことが有効である。しかし、そのことだけを考慮して窒素成分の施肥量を減らせば、植物に窒素成分を十分に与えることができなくなる可能性がある。したがって、窒素成分の施肥量は、植物の窒素成分の吸収状況に応じて制御することが重要であると考えられる。ここで、植物の窒素成分の吸収状況は、生育状況や時間帯、天候などに応じて時々刻々変化し得るものであることから、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムで診断しながら、窒素成分の施肥量を制御することが理想的であると言える。しかしながら、このような方法は未だ確立されるに至っていない。
【0006】
そこで、本発明は、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムで診断することのできる方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、植物の窒素成分の吸収状況に応じて窒素成分を施肥することで、窒素成分の無駄な施肥を抑えてN
2O発生量を抑えることのできる施肥管理方法を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、植物の生育状況をリアルタイムで診断することのできる方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、植物の窒素成分の吸収状況に応じて窒素成分を施肥することで、窒素成分の無駄な施肥を抑えてN
2O発生量を抑えることのできる植物生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本願発明者が鋭意検討を行った結果、ある新規な知見を得るに至った。即ち、大気中のN
2O濃度を連続的にリアルタイムで測定可能な装置によって、窒素成分施肥後の栽培床からのN
2O発生量をモニタリングしたところ、施肥タイミングとN
2O発生量の消長とが極めて正確に同調しているという新規な知見を得るに至った。
【0011】
また、施肥タイミングを昼間から夜間に変更(施肥量は同量)とすると、N
2O発生量が夜間において増加することも知見した。この現象は、植物の光合成の有無や蒸散流の有無に関連しているものと考えられた。即ち、夜間においては、植物は光合成や蒸散を行わないことから、植物が窒素成分を殆ど吸収せず、その分が微生物に消費されることでN
2O発生量が増加するものと考えられた。そして、この結果から、植物の窒素成分の吸収量が多くなるほどN
2O発生量が少なくなり、逆に植物の窒素成分の吸収量が少なくなるほどN
2O発生量が多くなるという相対的な関係が成立することを知見するに至った。
【0012】
本願発明者は、これらの知見から、窒素成分の施肥後に植物の栽培床から発生するN
2O量を連続的にモニタリングすることで、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムで診断できることを知見するに至った。また、この診断結果に基づいて、植物の窒素成分の吸収状況に応じた施肥管理を行うことや、植物の生育状況を診断すること等が可能であることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて、本発明に至った。
【0013】
即ち、本発明の植物の肥料吸収状況診断方法は、窒素成分の施肥後に植物の栽培床から発生するN
2O量を連続的にモニタリングし、このモニタリング結果を指標として植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムで診断するようにしている。
【0014】
本発明の施肥管理方法は、本発明の植物の肥料吸収状況診断方法により得られた診断結果に基づいて窒素成分の施肥量を制御する工程を含むようにしている。
【0015】
本発明の植物の生育状況診断方法は、本発明の植物の肥料吸収状況診断方法により得られた診断結果に基づいて植物の生育状況をリアルタイムで診断するようにしている。
【0016】
本発明の第一の態様にかかる植物生産方法は、本発明の施肥管理方法により施肥管理を実施する工程を含むようにしている。
【0017】
本発明の第二の態様にかかる植物生産方法は、本発明の第一の態様にかかる植物生産方法により植物を生産した際の窒素成分の施肥履歴に基づいて作成された窒素成分の施肥管理スケジュールに則って、本発明の第一の態様にかかる植物生産方法により生産した植物と同一品種の植物を生産するようにしている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の植物の肥料吸収状況診断方法によれば、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムで診断することが可能となる。
【0019】
本発明の施肥管理方法によれば、植物の窒素成分の吸収状況に応じて窒素成分を施肥することで、窒素成分の無駄な施肥を抑えてN
2O発生量を抑えることが可能になる。また、窒素成分の無駄な施肥が抑えられることから、本発明の施肥管理方法を施設園芸栽培において適用する場合には、栽培溶液等の排水の硝酸態窒素濃度を抑えることも可能となる。また、本発明の施肥管理方法を農耕地土壌において適用する場合には、窒素成分の施肥に起因する地下水の硝酸態窒素濃度の上昇を抑えることも可能となる。
【0020】
本発明の植物の生育状況診断方法によれば、植物の生育状況をリアルタイムで診断することが可能になる。
【0021】
本発明の植物生産方法によれば、植物の窒素成分の吸収状況に応じて窒素成分を施肥することで、窒素成分の無駄な施肥を抑えてN
2O発生量を抑えることが可能になる。また、窒素成分の無駄な施肥が抑えられることから、本発明の植物生産方法を施設園芸栽培において適用する場合には、栽培溶液等の排水の硝酸態窒素濃度を抑えることも可能となる。また、本発明の植物生産方法を農耕地土壌において適用する場合には、窒素成分の施肥に起因する地下水の硝酸態窒素濃度の上昇を抑えることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明の植物の肥料吸収状況診断方法は、窒素成分の施肥後に植物の栽培床から発生するN
2O量を連続的にモニタリングし、このモニタリング結果を指標として植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムで診断するようにしている。
【0025】
窒素成分の施肥後に植物の栽培床から発生するN
2O量の連続的なモニタリングは、例えば、
図1に示す赤外吸収測定装置を用いて行うことができる。
図1に示すN
2O赤外吸収測定装置1は、真空引きした白色セル7中(光路長1.6m)に被測定ガスを導入し、N
2Oの赤外吸収を利用して当該被測定ガス中のN
2O濃度を高感度に測定する装置である。光源は、2つのレーザーダイオード(LD)2a及び2bと、イットリウムドープファイバー増幅器(YDFA)3と、波長分割多重ファイバーカプラー4と、疑似位相整合波長変換素子5により構成される。LD2aは、1.064μmのDFB(distributed feedback)−LDであり、ポンプ光を発生させるために用いられる。LD2bは、1.39μmのDFB−LDであり、信号光を発生させるために用いられる。また、
図1に示すN
2O赤外吸収測定装置1では、N
2Oの赤外吸収(4.6μm帯)を高感度に検出するために、波長変調分光法(WMS:wavelength modulation spectroscopy)が用いられている(J. Reid and D. Labrie, “Second-harmonic Detection with Tunable Diode Lasers-Comparison of Experiment and Theory,” Appl. Phys.B, Vol. B26, No. 3, pp. 203-210, 1981.)。具体的には、ファンクションジェネレータ6によって、0.7Hzの傾斜波にスーパーインポーズされた14kHzの正弦波を発生させ、LD2bに順電流として導入する。白色セル7には、疑似位相整合波長変換素子5から出力される4.6μm帯のアイドラ光がGeフィルター8を介して入射される。そして、白色セル7内を通過した光がInSb検出器9で受光される。InSb検出器9からの出力信号は、ロックインアンプ10で検出される。WMSスペクトルは、ロックインアンプ7から得られる、変調周波数の第二高調波(2f)成分から構成され、オシロスコープ(不図示)に出力される。これにより、N
2Oの赤外吸収スペクトルが高感度に測定される。次に、疑似位相整合波長変換素子5の構成を
図6示す。疑似位相整合波長変換素子5は、LT(LiTaO
3)基板上に、ZnをドープしたLN(LiNbO
3)ウエハーを貼り合わせた後、ZnをドープしたLNウエハーをラッピングとポリッシングにより〜10μmとし、ダイシングソーにより導波路を形成したものである。
図6中、5aがZnをドープしたLN層(導波路)であり、5bがLT基板である。また、λ
pはポンプ光であり、λ
sは信号光であり、λ
iはアイドラ光である(N
2O赤外吸収測定装置についてはNTT Technical Review Vol.10 No.6 June 2012, Regular Article, 4.6μm-band Light Source for Greenhouse Gas Detectionを参照。また、疑似位相整合波長変換素子については特許第3753236号も参照)。但し、N
2O量の連続的なモニタリングは、
図1に示すN
2O赤外吸収測定装置を用いて行うことには限定されず、
図1に示すN
2O赤外吸収測定装置を適宜変形したもの、あるいは窒素成分の施肥直後に植物の栽培床から発生するN
2O量の連続的なモニタリングが可能な公知又は新規の装置を適宜用いて行うことができる。
【0026】
図1に示す赤外吸収測定装置を用いて、窒素成分の施肥後に植物の栽培床から発生するN
2O量を連続的にモニタリングすると、例えば
図2に示すようなモニタリング結果が得られる。
図2は、播種後18日後のトマト幼苗(Lycopeersicon esculentum L. cv. Momotaro 8)をロックウール(Grotop master, Gordan, Demmark)に移植し、移植後30日目にワグネルポット内に定植し、栽培床から発生するガスを採取して、栽培床からのN
2O発生量を連続的に(30分毎に)モニタリングした結果である。栽培床から発生するガスは、サンプリングボックスに3分間吸引して採取し、これを真空引きした白色セル7に導入した。赤外吸収測定は1分間実施した。肥料は、大塚ハウス肥料(大塚ハウス1号、2号、5号を30:30:0.5の比率で水道水に混合・溶解、EC=1.0に希釈調整)を施用した。施肥期間は、2013年3月2日〜2013年3月5日とした。施肥時間は、7時〜8時、10時〜11時、13時〜14時、16時〜17時の4回とした。施肥速度は、それぞれ60〜80mL/時間とした。温室の温度は25±3℃とした(本明細書では、この栽培試験を「栽培試験1」と呼ぶ)。
【0027】
図2中、矢印が施肥開始タイミングであり、■がN
2O発生量(N
2O濃度(ppb))である。
図2に示されるモニタリング結果から、N
2O量の消長が施肥開始タイミングと極めて正確に同調していることがわかる。つまり、窒素成分を施肥すると、少なくとも30分以内には栽培床からN
2Oが発生し始めるので、窒素成分の施肥後に栽培床からのN
2O発生量を連続的にモニタリングすれば、施肥された窒素成分に起因するN
2O発生量をリアルタイムで把握することができる。尚、本願発明者がさらに検討を行った結果、窒素成分を施肥すると、15分程度で栽培床からN
2Oが発生し、施肥をやめた後3〜4時間程度でN
2Oが消失するものと考えられた。
【0028】
また、窒素成分の施肥後に植物の栽培床から発生するN
2O量を夜間にモニタリングすると、例えば
図3に示すようなモニタリング結果が得られる。
図3は、栽培試験1を継続して実施し、2013年3月5日〜3月7日の夜間に窒素成分を施肥した結果である。施肥時間は、20時〜21時(3月5日)、23時〜0時(3月5日)、2時〜3時(3月6日)、5時〜6時(3月6日)、20時〜21時(3月6日)、23時〜0時(3月6日)、2時〜3時(3月7日)、5時〜6時(3月7日)とした。施肥速度は、それぞれ60〜80mL/時間とした。使用した肥料は、栽培試験1と同様とした(本明細書では、この栽培試験を「栽培試験2」と呼ぶ)。
【0029】
図3中、横軸の下に記載した■が施肥開始タイミングであり、●がN
2O発生量(N
2O濃度(ppb))であり、矢印がN
2O発生ピーク時間である。尚、昼間のN
2O発生量と比較するために、
図3では、2013年3月4日〜2013年3月7日までのモニタリング結果を掲載した。
図3に示されるモニタリング結果からも、N
2O量の消長が施肥開始タイミングと極めて正確に同調していることがわかる。また、夜間の施肥時には、昼間と比較して明らかにN
2O発生量が多いこともわかる。この現象は、植物の光合成の有無や蒸散流の有無に関連しているものと考えられる。即ち、夜間において、植物は光合成を行わない。また、夜間において、植物は蒸散を行わないことから、蒸散流も生じない。したがって、夜間においては、植物は窒素成分を殆ど吸収しない。よって、植物に吸収されなかった窒素成分が微生物に消費されることで、N
2O発生量が増加するものと考えられる。そして、
図3に示されるモニタリング結果において、昼間の施肥時には、夜間と比較して明らかにN
2O発生量が少ないことに鑑みれば、昼間のモニタリング結果には、植物の窒素成分の吸収状況が反映されていることになる。
【0030】
以上の結果から、植物の窒素成分の吸収量が多くなるほどN
2O発生量が少なくなり、逆に植物の窒素成分の吸収量が少なくなるほどN
2O発生量が多くなるという相対的な関係が成立すると考えられる。
【0031】
モニタリング結果を指標とした植物の窒素成分吸収状況のリアルタイム診断は、この相対的な関係を利用して行われる。
【0032】
例えば、夜間における窒素成分の施肥量と施肥後の栽培床からのN
2O発生量の関係を把握し、施肥した窒素成分が殆ど植物に吸収されることなく微生物に消費されてN
2Oが発生する場合のデータを基準データとして取得する。そして、この基準データとモニタリング結果を比較する。具体的には、モニタリング結果から、窒素成分の施肥量に対するN
2O発生量を求める。この値(以下、モニタリング値と呼ぶ)を基準データと比較し、モニタリング値が基準データとほぼ等しい場合には植物が窒素成分を吸収していないと診断され、モニタリング値が基準データよりも小さい場合には植物が窒素成分を吸収していると診断される。
【0033】
さらに、モニタリング値が基準データよりも小さい場合には、基準データとの差が大きいほど植物の窒素成分吸収量が多いと診断され、基準データとの差が小さいほど植物の窒素成分吸収量が少ないと診断される。
【0034】
このような診断を、モニタリング結果を指標として逐次実施することによって(即ち、窒素成分を施肥する毎に直ちに栽培床からのN
2O発生量を連続的にモニタリングすることによって)、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムに診断することができる。
【0035】
さらに、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムに診断した結果に基づいて、施肥管理を行うことができる。また、生育状況の診断を行うこともできる。
【0036】
具体的には、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムに診断した結果、植物が窒素成分を吸収していないと診断された場合には、窒素成分の施肥を停止する。この場合、生育状況としては、夜間の休眠状態、生育不良状態または生育完了状態(つまり、十分に成長しきっており、窒素成分を必要としない状態)にあると診断される。
【0037】
夜間の休眠状態にあるか否かは、モニタリングのタイミングが夜間であるか否か、及び昼間と夜間のN
2O発生量の比較から容易に判断できる。この場合には、植物が再び活動を開始すると考えられる明け方に窒素成分の施肥を再開する。
【0038】
モニタリングのタイミングが昼間である場合、生育不良状態または生育鈍化状態にあると診断される。生育不良状態及び生育鈍化状態のいずれであるかは、植物の外観も含めて判断される。例えば、生育不良状態であれば、植物が明らかに生育途中の状態であることが多いと考えられるので、植物の外観が生育途中の状態であれば生育不良状態、植物の外観が成長しきっている状態であれば生育鈍化状態と診断することができる。生育不良状態と診断された場合には、その状態を改善するために、栽培環境及び栽培条件を見直す。生育鈍化状態と診断された場合には、窒素成分の施肥を停止して、収穫・植え替えなどの栽培調整を行う。
【0039】
尚、本発明の生育状況診断方法によれば、植物の外観には現れない潜在的な生育不良状態を把握することができるという利点もある。
【0040】
植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムに診断した結果、植物が窒素源肥料を吸収していると診断された場合には、微生物のよる窒素成分の消費を抑えながらも植物に必要な窒素成分が施肥されるように、窒素成分の施肥量を制御する。
【0041】
図4に、窒素成分の施肥量を栽培試験1及び2の半分に低下させた際のモニタリング結果を示す。
図4は、栽培試験2の後に給水を行い、2013年3月8日〜3月11日の夜間に窒素成分を施肥した結果である。肥料は、大塚ハウス肥料をEC0.5に調整して施用した。施肥時間は、8時〜9時、11時〜12時、14時〜15時、17時〜18時とした。施肥速度は、それぞれ60〜80mL/時間とした(本明細書では、この栽培試験を「栽培試験3」と呼ぶ)。
【0042】
図4中、横軸の下に記載した■が施肥開始タイミングである。また、■のプロットは栽培床からのN
2O発生量(N
2O濃度(ppb))であり、●は温室内大気のN
2O濃度(バックグラウンド(BG))である。1日4回の施肥のうち、一番最初の施肥(8時〜9時)ではN
2O発生ピークが消失した。その後3回の施肥については、栽培試験1及び2では5〜10ppmのN
2O発生が認められたのに対し、最大で900ppb程度(BG差し引き前)となり、施肥量の減少量以上にN
2O発生量が低下することが明らかとなった。このことから、施肥量を低下させた場合、単に施肥量の低下分に応じてN
2O発生量が低下するわけではなく、植物に利用される窒素成分の割合が向上して、施肥量の低下分以上にN
2O発生量が低下するものと考えられる。
【0043】
したがって、窒素成分の施肥量の制御(減少)は、施肥量の低下によって植物に利用される窒素成分の割合が向上することを考慮して行う。
【0044】
そして、上記の通り、モニタリング値が基準データよりも小さい場合には、基準データとの差が大きいほど植物の窒素成分吸収量が多いと診断され、基準データとの差が小さいほど植物の窒素成分吸収量が少ないと診断されることから、施肥量の低下によって植物に利用される窒素成分の割合が向上することを考慮しつつ、植物の窒素成分吸収量が多いと診断される場合には、施肥量の低下量を少なくし(あるいは、施肥量が足りない場合には施肥量を増やし)、植物の窒素成分吸収量が少ないと診断される場合には、施肥量の低下量を多くするといった施肥量の制御を行うことができる。
【0045】
尚、植物の窒素成分吸収量が多いということは、植物が多くの窒素成分を必要とする生育状態(例えば生育ステージ中期〜後期、あるいは結実期における顕在化しにくく見過ごされてきた養分不足状態)にあると診断することができる。逆に、植物の窒素成分吸収量が少ないということは、植物が必要とする窒素成分量が少ない生育状態(例えば生育ステージ初期における顕在化しにくく見過ごされてきた養分過多状態)にあると診断することができる。したがって、本発明の施肥管理方法は、換言すれば、植物の生育状態に合わせた詳細な窒素成分の施肥を行うことを可能とする方法であると言える。
【0046】
以上のように、植物の窒素成分の吸収状況をリアルタイムに診断した結果に応じて、施肥量を制御することで、植物の栽培床からのN
2Oの発生を抑えることができると共に、窒素成分を含む肥料の無駄な施用を抑えることができる。さらには、窒素成分を含む肥料の過剰施肥による地下水や施設園芸栽培からの排水の硝酸態窒素濃度の上昇も抑えることもできる。
【0047】
ここで、本発明の施肥管理方法を利用して植物生産を行う場合には、栽培環境中の一部の栽培床からのN
2O発生量をモニタリングし、このモニタリング結果を、栽培環境中の全ての栽培床に反映させて施肥管理を行うようにしてもよい。特に、施設園芸栽培における植物の栽培環境や栽培条件はほぼ同一に維持されているので、施設内の1つの栽培床からのN
2O発生量のモニタリング結果を、施設内の全ての栽培床に反映させて施肥管理を行うようにしても、施設内の全ての植物に適した施肥管理を行うことが可能である。
【0048】
また、本発明の施肥管理方法により植物を生産した際の施肥履歴に基づいて施肥管理スケジュールを作成し、次回の植物生産を、この施肥管理スケジュールに則って行うようにしてもよい。この場合、栽培床からのN
2O発生量をモニタリングすることなく、適切な施肥を行うことが可能となる。
【0049】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0050】
例えば、上述の実施形態では、窒素成分の施肥量を減らすことで、植物の栽培床からのN
2Oの発生を抑えるようにしていたが、栽培床中の微生物の活性を抑えることで、N
2Oの発生を抑えるようにしてもよい。
【0051】
例えば、栽培床の水分を抑えることで、微生物の活性を抑えることでも、N
2Oの発生を抑えることができると考えられる。
図5に示すモニタリング結果は、栽培試験2と栽培試験3の間(2013年3月7日)に、栽培床に施肥を行うことなく給水のみを行った結果である。給水時間は、8時〜9時、11時〜12時、14時〜15時、17時〜18時とした。給水速度は、それぞれ60〜80mL/時間とした(本明細書では、この栽培試験を「栽培試験2’」と呼ぶ)。
【0052】
図5中、横軸の下に記載した■が施肥開始タイミング又は給水開始タイミングである。また、●は栽培床からのN
2O発生量(N
2O濃度(ppb))である。肥料成分を含まない給水を行うと、初回の給水時には栽培床に残存する肥料成分に起因するN
2O発生が認められたが、それ以降は給水だけではN
2O発生が認められなかった。このことから、肥料が栽培床に残存している場合には、水分の供給もN
2O発生にとって重要な因子となり得ると考えられた。そして、水分の供給によるN
2O発生は、水分の供給によって、栽培床中の微生物の活性が向上し、脱窒プロセス等が進行したためと考えられる。
【0053】
したがって、水分の供給を抑えること、根圏温度を低下させること、抗菌剤を用いること、酸素の供給量を増減させること、さらにはこれらの組み合わせ等何らかの方法により根圏微生物の活性を低下させることにより、栽培床中の微生物の活性を低下させることで、N
2Oの発生を抑えるようにしてもよい。この場合、施肥した窒素成分が微生物に消費される割合が減るので、さらに施肥量を低減し得る。