(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067050
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】ソーイングワイヤーによってワークピースからウェハをスライスするための方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20170116BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20170116BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
H01L21/304 611W
B24B27/06 Q
B28D5/04 C
【請求項の数】5
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-75900(P2015-75900)
(22)【出願日】2015年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-201641(P2015-201641A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2015年5月19日
(31)【優先権主張番号】10 2014 206 488.0
(32)【優先日】2014年4月4日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2015 200 198.9
(32)【優先日】2015年1月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599119503
【氏名又は名称】ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・ラインハルト
【審査官】
鈴木 和樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−309015(JP,A)
【文献】
特開2004−074792(JP,A)
【文献】
特開昭51−137991(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0288651(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 27/06
B28D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーイングワイヤー2aによってワークピース3からウェハをスライスするための方法であって、前記ソーイングワイヤー2aは平行に配される多数のワイヤーセクションを含むワイヤーウェブ2を形成し、前記ワイヤーウェブは少なくとも2つのガイドロール1によってクランプされ、前記ソーイングワイヤー2aは、前記少なくとも2つのワイヤーガイドロール1によって、2つの横方向面において互いの間に距離Aを有する溝4を通じてガイドされており、各前記溝4は幅Cを有し、ワイヤー2aがワイヤーソーイングの間に挿入されない少なくとも1つの溝4aが、ワイヤーをガイドする前記溝4のそばに存在し、前記溝4および4aのそれぞれの幅Cはワイヤーインレット側からワイヤーアウトレット側へと減少する、方法。
【請求項2】
2つの前記溝4同士の間の前記距離Aは、前記ワイヤーガイドロール1の全長に亘って一定である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2つの前記溝4同士の間の前記距離Aは、ワイヤーインレット側からワイヤーアウトレット側へと減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ワイヤーをガイドする溝4がひとたび摩耗すると、前記ソーイングワイヤー2aは、まだ前記ソーイングワイヤー2aをガイドしていない最も近い隣接した前記溝4aに巻回される、請求項1〜3にいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1の規定された回数のソーイングプロセスのために前記ワイヤーをガイドする溝4がひとたび使用されると、前記ソーイングワイヤー2aは、まだ前記ソーイングワイヤー2aをガイドしていない最も近い隣接した前記溝4aに周期的に巻回され、前記ソーイングワイヤー2aは、第2の規定された回数のソーイングプロセスの後、以前に用いられたワイヤーガイド溝4に巻回される、請求項1〜4にいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも2つのワイヤーガイドロールがワイヤーウェブをクランプする、ソーイングワイヤーを使用してワークピースからウェハをスライスするための方法に関する。各ワイヤーガイドロールはその横方向面に多数の溝を有し、ワイヤーソーイングの間にワイヤーが挿入されない少なくとも1つの溝がワイヤーガイド溝のそばに存在し、ワイヤーガイド溝の摩耗の後または規定された回数のソーイングプロセスの後に、ソーイングワイヤーはそれぞれ、まだ摩耗または使用されていない以前に占有されていなかった溝に巻回される。
【背景技術】
【0002】
電子技術、超小形電子技術、および超小形電気機械技術では、グローバル平坦性およびローカル平坦性、片面基準のローカル平坦性(ナノトポロジー)、粗さならびに清浄さからなる非常に厳しい要求がある半導体ウェハが出発物質(基板)として必要とされる。半導体ウェハは、半導体材料から構成されるウェハであり、より特定的には、砒化ガリウムのような化合物半導体、主として、シリコンおよび場合によってはゲルマニウムのような元素半導体から構成される。
【0003】
先行技術に従うと、半導体ウェハは、多数の連続的なプロセスステップで製造される。例として、第1のステップでは、半導体材料から構成される単結晶(ロッド)が、チョクラルスキー法(Czochralski method)によって引き出されるか、または、半導体材料から構成される多結晶ブロックが鋳造される。さらに別のステップにおいて、半導体材料から構成される得られた円形円筒状またはブロック形状のワークピース(「インゴット」)がワイヤーソーによって個々の半導体ウェハへと分離される。
【0004】
この場合、シングルカットワイヤーソーと、以下MWソー(MW=複数のワイヤー(multiple wire))として指定される複数のワイヤーソーとの間に違いが存在する。MWソーは特に、たとえば半導体材料から構成されるロッドであるワークピースが1つのワークステップで多数のウェハに切断されるように意図される場合に用いられる。
【0005】
US−5 771 876は、半導体ウェハを製造するのに好適なワイヤーソーの機能的な原理について記載する。これらのワイヤーソーの本質的な構成要素は、マシンフレームと、フィードデバイスと、平行なワイヤーセクションから構成されるウェブ(「ワイヤーウェブ」)からなるソーイングツールとを含む。
【0006】
たとえば、MWソーはEP 990 498 A1に開示される。この場合、結合砥粒粒子でコーティングされた長いソーイングワイヤーが、ワイヤースプール上を螺旋状に延在し、1つ以上のワイヤーウェブを形成する。
【0007】
一般に、ワイヤーウェブは、少なくとも2つのワイヤーガイドロールの間にクランプされる多数の平行なワイヤーセクションから形成されており、ワイヤーガイドロールが回転可能な態様で搭載され、それらの少なくとも1つが駆動される。ワイヤーガイドロールには通常、たとえばポリウレタンのようなコーティングが施されている。DE 10 2007 019 566 B4およびDE 10 2010 005 718 A1に従うと、ソーイングワイヤーをガイドするための多数の溝がワイヤーガイドロールのコーティングに切り込まれ、すべての溝は、湾曲した溝基部と、特有の開口角度を有する溝側面とを有する。
【0008】
ワイヤーガイドロールの長手方向軸は、ワイヤーウェブにおいてソーイングワイヤーに概して垂直に方向付けされる。
【0009】
半導体材料から構成されるウェハの製造には、スライスプロセスの正確性について特に厳格な要件が存在する。この目的のために、ソーイングワイヤーがガイドされるワイヤーガイドロール上の多数の溝が正確に平行に延在し、溝およびソーイングワイヤーが1つの線上に存在する(整列する)ことが重要である。
【0010】
DE 102 37 247 A1に従うと、ワイヤーガイドロール上の2つの溝の間の距離は同一であり得、または、ワイヤーインレット側からワイヤーアウトレット側へと減少し得る。溝同士の間の距離の低減は、ワイヤーの直径がソーイングプロセスの間に減少することを状況を考慮しており、そのため、ソーイングワイヤーがより薄くなるにもかかわらず、溝同士の間の距離が低減する結果、均一厚さのウェハがワークピースからスライスされる。
【0011】
ソーイングワイヤーとの連続的な接触の結果、ワイヤーガイドロールのコーティングと、コーティングに切り込まれた溝とは、摩耗にさらされ、いわゆる位置合わせエラーを回避するために定期的に再生される必要がある。たとえば、ワイヤーガイドロールの溝と上記溝に存在するワイヤーとがもはや直線上に存在しない場合には、位置合わせエラーは、たとえばスライスされた半導体ウェハの表面上のソーマークまたはソーグルーブといった損傷に繋がり得る。
【0012】
ワイヤーガイドロールの溝は、摩耗すると、再生される必要がある。この目的のために、一般にワイヤーガイドロールはワイヤーソーからを取り外されなければならず、ワイヤーガイドロールのコーティングの表面へ新しいコーティングおよび/または新しい溝を導入することが必要である(ワイヤーガイドロールへの溝の付与)。定期的に行なわれる必要があるこの作業はワイヤーソーの停止につながるので、当該方法の経済的妥当性が制限される。
【0013】
したがって、摩耗した溝の再生、すなわち、ワイヤーガイドロールへの溝の付与の間の時間的な間隔を長くすることが望ましい。これはたとえば、好適な材料でワイヤーガイドロールをコーティングすることにより行うことができる。
【0014】
ポリウレタン(PU)から構成されるコーティングを有するワイヤーガイドロールが通常使用される。ポリウレタンは、遊離した固体(研磨材)を含む液体の研磨媒体(スラリー)または接合した粒子を有するソーイングワイヤーによる摩滅に高い抵抗性がある。
【0015】
しかしながら、ワイヤーガイドロールのコーティングは、柔らかすぎてはならず、また固すぎてもならない。柔らかすぎる材料の場合には、コーティングは、溝の塑性変形に対して十分に抵抗性がなく、これにより溝形状の望ましくない変更につながる。固すぎる材料の場合には、ワイヤーとワイヤーガイドロールとの間の摩擦係合がもはや保証され得ず、その結果、ワイヤーウェブはもはや最適に動かされ得なくなる。
【0016】
ワイヤーガイドロールのコーティングの摩耗を低減するために、JP 2006102917 A2は、単にウレタンからなるコーティングよりもコーティングが有意に固くなるように、5〜30重量%の炭化珪素粒子を含むウレタンの形態にあるコーティングを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US−5 771 876
【特許文献2】EP 990 498 A1
【特許文献3】DE 10 2007 019 566 B4
【特許文献4】DE 10 2010 005 718 A1
【特許文献5】DE 102 37 247 A1
【特許文献6】JP 2006102917 A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
より固いコーティングによって、摩耗した溝の再生の時間的な間隔が長くなるが、これには上記の欠点が存在する。
【0019】
したがって、本発明の目的は、コーティングには固すぎる材料の欠点を有することなく、ワイヤーガイドロールの摩耗した溝の再生の間の時間的な間隔が長くなり、これによりワイヤーソーの停止時間が低減される、ワイヤーソーによってワークピースから多数のウェハをスライスするための方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
ソーイングワイヤー2aによってワークピース3からウェハをスライスするための方法によって上記の目的が達成される。上記方法は、上記ソーイングワイヤー2aが平行に配される多数のワイヤーセクションを含むワイヤーウェブ2を形成し、上記ワイヤーウェブは少なくとも2つのガイドロール1によってクランプされ、上記ソーイングワイヤー2aは、上記少なくとも2つのワイヤーガイドロール1によって、2つの横方向面において互いの間に距離Aを有する溝4を通じてガイドされており、ワイヤー2aがワイヤーソーイングの間に挿入されない少なくとも1つの溝4aが、ワイヤーをガイドする溝4のそばに存在することを特徴とする。
【0021】
本発明および好ましい実施形態を以下に詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】平行に延在するワイヤーセクションから形成されたワイヤーウェブ2がその間を延在する2つのワイヤーガイドロール1を含む、先行技術に従ったワイヤーソーを示す図であって、上記ワイヤーウェブは、ワークピース受け部(図示せず)に固定されるワークピース3へと切り込まれる図である。明瞭さの理由により、ワイヤーソーは、たとえば偏向ロールのない非常に簡易な態様で示される。
【
図2】距離Aを有し幅C(カーフロス)および深さTを有する溝4を有するワイヤーガイドロール1の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
先行技術に従うと、ワイヤー2aは各溝4(
図2a)に挿入される。本発明に従ったワイヤーガイドロールの場合には、ワイヤーガイドロールの第1のライフサイクルにおいて、n番目ごとの溝(n≧2)のみがワイヤー2a(
図2b)によって占有される。たとえばワイヤー2aによって占有された溝4が摩耗された場合(第1のライフサイクルの終了;
図2cにおいて深くなった凹部として示される)、ワイヤー2aが隣接しまだ未使用である溝4aに挿入される(
図2c)。
図2において、例として、溝4および4aのそれぞれが一定の距離Aを有しており、Aは、2つの溝4同士の間の内側の距離Bと溝4の幅(カーブロス)Cとの合計すなわちA=B+C(式(1))であり、Dは第1の溝4とn+2の溝4との間の内側の距離であり、nは第1の溝4の数である。
図2aにおいて、Dは、第1の溝4と第3の溝4との間の内側の距離であり、D=2xB+C(式(2))として規定される。
【0024】
本発明に従った、ワイヤーガイドロールを使用してワイヤーソーによってワークピース3から多数のウェハをスライスするための方法は、溝が設けられたガイドロール1を介してソーイングワイヤー2aがガイドされる任意のワイヤーソーにおいて実現され得る。
【0025】
ワイヤーガイドロール1は、ロールコアの周りを軸方向に回転可能に搭載される概して円形円筒状のロールであり、ワイヤーガイドのための溝4が切り込まれている外側横方向面と、2つの側面とを有するケーシングを有する。ワイヤーガイド長さは好ましくは、先行技術に従ったワイヤーガイドロールの長さに対応する。
【0026】
ソーイングワイヤー2aは、少なくとも2つのワイヤーガイドロール1によってクランプされたワイヤーウェブ2を介して、供給スプール(ディスペンサーロール)からレシーバースプール(巻取ロール)上に巻回される。当該ワイヤーウェブは、互いに平行に配される多数のワイヤーセクションを含む。ソーイングプロセスの間、ソーイングワイヤー2aは、一方向にのみ巻回され得るか、または、方向を周期的に変更して巻回され得る(ピルグリムステップ法(pilgrim step method))。
【0027】
第1の実施形態において、ワイヤーガイドロール1は単一の材料のみからなる、すなわち、ワイヤーガイドロール1の横方向面はワイヤーガイドロール1のロールコアと同じ材料からなる。
【0028】
第1の実施形態において、ワイヤーガイドロール1は、たとえばDE 10 2007 019 566 B4に開示されるように、好ましくはポリエステルベースまたはポリエーテルベースのポリウレタンからなる。この実施形態において、ワイヤーガイドロール1のケーシングは、長手方向軸の方向に延在するワイヤーガイドロール1の表面である横方向面とロールコアとの間の境界を定めない層厚さによって形成される。
【0029】
第2の実施形態において、ワイヤーガイドロール1のロールコアは第1の材料からなり、好ましくは鋼、アルミニウム、またはたとえばガラス繊維強化プラスチックもしくは炭素繊維強化プラスチックといった複合材料からなり、また、ワイヤーガイドロール1のケーシングは第1の材料と同一または異なり得る第2の材料からなる。第2の材料は、第1の材料を厚さMにて少なくとも長手方向に囲む。ケーシングの厚さMは、好ましくは0.5mmと50mmとの間であり、特に好ましくは3mmと25mmとの間である。
【0030】
第2の実施形態において、ロールコアは第2の材料でカバーまたはコーティングされる。当該カバーまたはコーティングは、たとえば接着結合によって固定的にロールコアに接続され得るか、または、たとえば横方向のクランピングリングを介してロールコアに接続される除去可能なカバーの形で実施され得る。
【0031】
第2の実施形態において、ワイヤーガイドロール1のケーシング(カバー,コーティング)は好ましくは、たとえばDE 10 2007 019 566 B4において開示されるようなポリエステルベースのポリウレタンまたはポリエーテルベースのポリウレタンと、コポリマーとからなり、適切な場合、混合剤と混合される。
【0032】
以下、「ケーシング」という用語は、ロールコアが、第2の材料からなりロールコアに対して境界を定めることが可能である外側コーティングを有するかどうかと無関係に使用される。
【0033】
各々の場合において、距離Aを有する、ケーシングに切り込まれた溝4はソーイングワイヤーをガイドするために機能する。すなわち、ソーイングワイヤーは溝4に存在する。ワイヤーガイドロール1の溝4は好ましくは、同一の深さTのものである。溝4の深さTは好ましくは50〜1500μmの範囲内である。
【0034】
個々の溝4の幅Cは好ましくは同一である。ワイヤーインレット側からワイヤーアウトレット側までの溝4の幅Cの連続的な低減も、ワークピース3へのワイヤーウェブ2のワイヤーセクションの貫入の間に摩耗の結果直径が減少するソーイングワイヤー2aの最適なガイドを保証するために、同様に好ましい。
【0035】
溝4は好ましくは、後で溝4にガイドされるソーイングワイヤーがワイヤーガイドロール1のそれぞれの回転軸に対して直交して延在するように、水平面において互いに反対に位置する2つのワイヤーガイドロール1上に同一に位置決めされる。したがって、ソーイングされるワークピース3の長手方向軸に関して垂直なワークピース3中へのワイヤーウェブ2の切り込みも保証される。
【0036】
その後のワイヤーガイドのための溝4は、好ましくは機械的にワイヤーガイドロール1のケーシングへ導入され、特に好ましくはレーザーによって光学的に導入される。
【0037】
先行技術に従ったワイヤーガイドロール1の場合には、ケーシングにおける溝4は各々ソーイングワイヤーによって占有されており、溝4は互いから距離A(ピッチ)にあり、距離Aは溝の中心同士の間を測定したものである。本発明に従ったワイヤーガイドロール1の場合には、各n番目の溝4(n≧2)のみがワイヤーによって占有されており、ワイヤー2aによって占有されていない少なくとも1つの溝4aが、ワイヤー2aに占有され互いに距離Aにある2つの溝4の間に存在する。
【0038】
ワイヤーによって占有された2つの溝4同士の間の距離Aは、ワークピース3からスライスされるウェハの目標厚さと、使用されるソーイングスラリーと、ワイヤー2aの直径(厚さ)とによって実質的に決定される。ワイヤー2aによって占有される2つの溝4の間の距離Aは、ワイヤーの摩耗を補償する目的で、すなわち、ワイヤーソーイングの間のワイヤーウェブ2のワイヤーインレット側からワイヤーアウトレット側へのワイヤー厚さの減少を補償する目的で、可変または一定(固定ピッチ)であり得る。
【0039】
本発明に従ったワイヤーガイドロール1の長さが先行技術に従ったワイヤーガイドロール1と比較して変化しないように、各場合において、本発明に従ったワイヤーガイドロール1においてワイヤー2aによって占有される2つの溝4の間に、ワイヤー2aによって当初は占有されない少なくとも1つの新しい溝4aがケーシング(
図2aおよび
図2b)に導入される。
【0040】
たとえば、先行技術に従ったワイヤーガイドロール1においてワイヤー2aによって占有された2つの溝4の間の距離Aが1500μmであり、本発明に従ったガイドロール1において使用可能な溝の数が2倍になるように意図される(2倍の溝の付与)場合、各場合において新しい溝4aが2つの溝4の間に切り込まれ、溝4と溝4aとの間の距離A′は1500/2=750μmに減少する(
図2b)。
【0041】
ワイヤー2aによって占有される溝4と、ワイヤー2aによって占有されない溝4aとの間の最小の内側の距離Bは、ワイヤーソーイングプロセスの間にソーイングワイヤー2aを安定してガイドすることができるために溝4が十分な横方向の安定を有さなければならないので、未使用のソーイングワイヤー2aの直径とケーシングが構成される材料とによって決定される。
【0042】
ワイヤー2aによって占有される2つの溝4の間の距離A(それぞれ内側の距離B)は、好ましくはケーシングの全長に亘って同一である。同様に、2つの溝4の間の距離A(それぞれ内側の距離B)は、好ましくはワイヤーインレット側からワイヤーアウトレット側へと減少する。
【0043】
ワークピース3へのワイヤーウェブ2の垂直な切り込みを保証するために、本発明に従ったワイヤーガイドロール1が、ワークピース3からウェハをスライスするための、すなわち、ソーイングプロセスのためのワイヤーソーにおいて使用される場合、ワイヤーウェブをクランプするワイヤーガイドロール1の溝4は同一に占有されることになる。
【0044】
たとえばワイヤーガイドロール1の場合において第1、第3、第5などの溝4がワイヤー2aによって占有されるならば、少なくとも第2のワイヤーガイドロール1の対応する第1、第3、第5などの溝4もワイヤー2aによって占有されることになる。
【0045】
ワイヤーソーイングプロセスが、このワイヤーによる溝4の占有で始められる場合、ワイヤー2aによって占有された溝4はソーイングプロセスの間に摩耗する。ワイヤー2aによって占有される溝4が摩耗されると、当該溝4のライフサイクルが終了する。
【0046】
その後、ソーイングワイヤー2aは、当該摩耗した溝4から以前にソーイングワイヤー2aによって占有されていない隣接した溝4aへスプーリングされ、同じワイヤーガイドロール1上の未使用の溝4aでワイヤーソーイングプロセスが継続され得る。未使用の溝4a同士の間の距離Aは好ましくは、以前のソーイングプロセスにおいて摩耗された溝4同士の間の距離Aに対応する。
【0047】
たとえば、第1、第3、第5などの溝4がワイヤー2aによって占有され、少なくとも第2のワイヤーガイドロール1の対応する第1、第3、第5などの溝4も当該ワイヤー2aによって占有される本発明に従ったワイヤーガイドロール1のワイヤー占有で開始することも好ましい。たとえば20回といった第1の規定された回数のソーイングプロセス後に、ソーイングワイヤー2aは、現在使用されている溝4から以前にソーイングワイヤー2aによって占有されていない隣接した溝4a(たとえば第2、第4、第6などの溝4)にスプーリングされる。そのため、ワイヤーソーイングプロセスは、同じワイヤーガイドロール1上の未使用の溝4aで継続され得る。
【0048】
たとえば20回といった第2の規定された回数のソーイングプロセスの後に、ソーイングワイヤー2aは、用いられた第2、第4、第6などの溝4から以前に用いられた第1、第3、第5などの溝4に戻るようにスプーリングされる。また、ある数のソーイングプロセスの後、ソーイングワイヤー2aは第2、第4、第6などの溝4にスプーリングされる。ある回数のソーイングプロセスの後にソーイングワイヤー2aによって占有される溝4の周期的な変更によって、すべての溝4が連続的に摩耗する。
【0049】
好ましくは、ソーイングプロセスの第1および第2の規定された回数は、同じであり、10回〜50回のソーイングプロセスの範囲内である。また、1つのセットの溝4が使用されるソーイングプロセスの第1および第2の規定された回数は同じでなく、たとえば、ソーイングプロセスの第1の規定された回数は10回であり、ソーイングプロセスの第2の規定された回数は20回であるのも好ましい。
【0050】
ワイヤーウェブ2を最も近い溝の組合せへスプーリングすること、すなわち、摩耗した溝4にそれぞれ隣接しまだ未使用である溝4aへスプーリングすることは、好ましくは、先行技術に従ってワイヤーウェブ2の搭載に類似して手作業で行われる。ソーイングワイヤー2aを自動的にスプーリングすることも同様に好ましい。
【0051】
たとえば、2番目ごとに溝4および4aのそれぞれがソーイングワイヤー2aによって占有される場合(n=2)、上記ワイヤーガイドロールを交換または再度溝を設けなければならなくなるのはソーイングワイヤーによって新たに占有された溝4aの摩耗の後だけになるので、ワイヤーガイドロール1の使用可能期間は2倍になる。
【0052】
本発明に従ったワイヤーガイドロールの使用の開始の際に、3番目ごとに溝4がソーイングワイヤー2aによって占有される場合(n=3)、溝4の摩耗の後に、2つの新しく未使用の溝4aがその後のソーイングプロセスにまだ利用可能であるので、ワイヤーガイドロール1の使用期間は3倍になる。
【0053】
本発明に従ったワイヤーガイドロール1はさらに、ワイヤーガイドロールがワイヤーソーから取り外されることを必要とすることなく、ワークピース3から異なる厚さを有する多数のウェハをスライスするのに好適である。
【0054】
たとえば、厚さが750μmであるウェハ、すなわち2つの溝4同士の間の内側の距離Bも750μmであるウェハが第1のワークピース3から切り出され得るようにワイヤーガイドロール1のケーシングにおける2つの隣接した溝4同士の間の内側の距離Dが選ばれる場合、ソーイングワイヤーが2番目ごとの溝4にスプールされたことによって、たとえば1750μmの厚さを有するウェハが第2のワークピース3から切り出され得る。すなわち、ソーイングワイヤーによって占有されるすべての溝4同士の間に空の溝4が存在する。例として記載される1750μmの厚さは、750μmの2つの隣接した溝4同士間の内側の距離Bと、250μmのカーフロスC(溝4の幅)とに基づいており、式(2)により計算される。すなわち、D=2xB+C=2x750μm+250μm=1750μmである。
【0055】
本発明に従ったワイヤーガイドロール1のすべての溝4および4aのそれぞれの形状(深さおよび幅)は好ましくは同一である。
【0056】
特に好ましくは、それぞれワイヤー2aが占有する溝4および4aのそれぞれの形状は、ソーイングワイヤー2aの摩耗に適合される。この点に関して、例として、ソーイングワイヤー2aによってまだ占有されていない溝4aの幅は、ソーイングワイヤー2aの直径がワイヤーソーイングの間の摩耗の結果減少するので、ワイヤーガイドロールの第1のライフサイクルにおいて、ワイヤー2aによって占有された溝4の幅よりも若干少なくなり得る。