特許第6067113号(P6067113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6067113
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】シリカガラスルツボ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20170116BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C30B29/06 502B
   C03B20/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-524914(P2015-524914)
(86)(22)【出願日】2013年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2013067948
(87)【国際公開番号】WO2015001593
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠広
(72)【発明者】
【氏名】北原 賢
(72)【発明者】
【氏名】北原 江梨子
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−143769(JP,A)
【文献】 特開平05−024969(JP,A)
【文献】 特開2006−169084(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00− 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が開口し鉛直方向に延びる略円筒形の直胴部、湾曲した底部、および前記直胴部と前記底部とを連結し且つ前記底部よりも曲率が大きいコーナー部を有するルツボであって、
前記ルツボの内表面は、溝状の谷が尾根と尾根の聞に挟まれた凹凸構造を有し、前記尾根と尾根との平均間隔が、5〜100μmであり、
前記ルツボの内表面の中心線平均粗さRaが0.02μm以上であるシリ力ガラスルツボ。
【請求項2】
前記谷は、実質的に、前記直胴部の円周方向に延びる請求項1に記載のシリ力ガラスルツボ。
【請求項3】
前記ルツボの内表面の中心線平均粗さRaが0.02〜0.5μmである請求項1または2記載のシリ力ガラスルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルツボの内表面に凹凸構造を有するシリカガラスルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
チョコラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶引き上げにおいては、シリコンの融液に着液させた種結晶を引き上げることで、単結晶の引き上げが可能になる。具体的には、外側のカーボンヒーターを温度約1450〜1600℃まで加熱し、シリカガラスルツボの内部にシリコン多結晶原料を熔融したシリコン融液を貯留し、シリコン単結晶の種結晶を融点温度約1420℃のシリコン融液表面に接触させ、回転させながら徐々に引上げ、シリコン単結晶の種結晶を核として成長させて、引上げ速度および融液温度を制御しながら徐々にシリコン単結晶を製造する。シリコン融液を単結晶に接触させているシリコン融液面中心部分の固液界面をシリコンの融点である1420℃付近に保つためにシリカガラスルツボの温度は1450〜1600℃という高温となっている。2週間以上かかることがあるシリコン単結晶引き上げにおいてはシリカガラスルツボのリム部の沈み込み変形量は5cm以上となることもある。
【0003】
シリコン単結晶の引き上げでは、まず、所望の直径になるまで、この種結晶の中心に結晶を拡げる(肩部形成)。次に、胴体引き上げを行うことで円筒形のインゴット状の単結晶を引き上げる。最後に底部を絞り込むことで、単結晶を引き上げる。直径610〜1015mm(シリコンインゴット直径:200mm,300mm,450mm)のシリカガラスルツボでは、長さが2m以上のような大型の単結晶シリコンインゴットが製造される。このような大型インゴットから製造される単結晶シリコンウェハは、フラッシュメモリやDRAMの製造に好適に利用される。
【0004】
フラッシュメモリやDRAMは、低価格化と高性能化が急速に進んでいるので、その要求に答えるために、大型の単結晶シリコンインゴットを高品質・低コストで製造することが必要である。そのためには、大型のルツボを高品質・低コストで製造することが必要である。
【0005】
また、現在は、直径300mmのウェハを用いたプロセスが主流であるが、直径450mmの大口径ウェハを用いたプロセスが開発中である。そのため、直径450mmの大口径ウェハを安定的に製造するため、高品質の大型ルツボがますます要望されている。しかし、大型シリコンガラスルツボの製造には、以下のような問題がある。
【0006】
シリコン単結晶の引き上げの際には、シリコン融液の湯面が周期的に振動する現象がみられる。これを湯面振動という。湯面振動が発生すると、種結晶をフラットなシリコン融液表面に着液することが困難になり、シリコン単結晶を引き上げることができない。また、引き上げ中に湯面振動が発生すると、転位が起こり、シリコンが多結晶化してしまい、製品として全く使用できないという問題も生じる。特に、シリコン単結晶の引き上げ工程の初期段階である種付けと肩部形成の工程では、湯面振動の影響を受けやすく、この影響は、引き上げられたシリコン単結晶インゴットの品質を大きく左右する。
【0007】
湯面振動の発生原因は、次のように考えられている。一般にシリコン融液とシリカガラスの界面で、SiO(固体)→Si(液体)+2Oの反応が生じ、シリカガラスが溶解する。引き上げ温度の上昇や雰囲気圧の低下などによっては、Si(液体)+O→SiO(気体)の反応が生じ、このSiOガスが融液内から浮上することによって融液表面が振動すると考えられている。大型シリカガラスルツボは、外側のカーボンヒーターからシリコン融液の中心部までの距離が従来に比べ長く(従来は300mm程度だったのが500mmを超える)、引き上げ時のカーボンヒーターの温度上昇が避けられない。すなわち、シリコンインゴットの大口径化に伴って、引き上げ時のカーボンヒーター温度は高くなり、液面振動の問題が大きくなる。そのため、引き上げ時の温度上昇に伴いシリコン融液の湯面の振動が激しくなり、抑制する必要が生じている。したがって、シリコン単結晶の単結晶化率を向上させるためには、シリコンの融液に発生する湯面振動を抑制させる必要がある。
【0008】
湯面振動の問題を解決するために、例えば、特許文献1には、不透明層と透明層を有する石英ルツボの内表面上に、第1の成分のシリカ砂によるガラス表面を形成し、その後、第2の成分のシリカ砂によってガラスを点在して融着させ、かつコーナー部および底部の内表面に合成石英砂により形成されたガラスを形成させたルツボが記載されている。引き上げ開始湯面付近のルツボ内周面層の気泡含有率を一定範囲に調整する技術が開示されている。これは、沸騰石が突沸を防止するのと同様の原理により、微小凹凸部がシリコン融液の湯面振動を抑制するのを見出したことによるものである。
【0009】
特許文献2には、シリカガラスルツボ内に充填したシリコン融液の湯面振動を抑制するために、ルツボ内面層に微小凹部を設ける技術が開示されている。これは、沸騰石が突沸を防止するのと同様の原理により、微小凹部がシリコン融液の湯面振動を抑制するのを見出したことによるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−169084公報
【特許文献2】国際公開2011/074568
【特許文献3】特開2004−250304公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1においては、第2の成分のシリカ砂を均一に点在させたルツボを製造することが困難であり、製造されたシリカガラスルツボによって湯面振動が抑制できないなど、品質に問題がある。そして製造工程が複雑でコスト高であるという問題もある。さらに、特許文献1においては、24インチルツボで効果があったと記載があるが、より大口径のシリコン単結晶引上げにおいて湯面振動抑制の効果が得られないという問題がある。また、引き上げ開始湯面付近の湯面振動を抑制することは可能であるが、徐々にシリコン単結晶を引き上げていくと、ルツボ内周面層の気泡含有率を調整した領域外に、シリコン液面が存在することとなり、湯面振動抑制の効果が得られず、シリコン単結晶の歩留まりが著しく低下してしまう。
【0012】
特許文献2に記載の技術では、シリカガラスルツボの高さ方向に一定の間隔で区切られた円環状の内面部分ごとに少なくとも1個の微小凹部を設けるものであり、シリコン融液とシリカガラスルツボ内面の接触領域すべてに微小凹部の効果が発揮できるものではなく、シリコン融液の湯面振動を完全に抑制することが困難である。
【0013】
そこで、本発明らは、このような事情に鑑み、製造が容易で、且つシリコン単結晶の引き上げの初期段階である種付けから、シリコン単結晶育成中まで、湯面振動が抑制可能なシリカガラスルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ね、ルツボ内表面の構造と湯面振動との関係を詳細に分析することにより、シリコン融液の湯面振動を抑制することができるシリカガラスルツボを見出した。本発明者らは、ルツボ内表面の微細構造と湯面振動との関係を分析していた。直胴部の縁からコーナー部方向に、微細凹凸構造を有する波面が内表面上に形成されたシリカガラスルツボは、シリコン単結晶の引き上げ時にシリコン融液の湯面振動を抑制することを見出し、それを基本に本発明は完成した。かかるシリカガラスルツボは、従来技術(例えば、特許文献1)のような、複雑で再現性の乏しい方法で製造されたシリカガラスルツボとは異なり、安定して湯面振動を抑制することが可能である。また、特許文献3に記載されているシリカガラスルツボとは異なり、ルツボ内表面の微細凹凸構造をシリコン単結晶引上げ開始時のシリコン液面付近以外の部分にも設けても、シリコン引き上げ開始時の種結晶の着液を安定して行うことができるのはもちろん、シリコン単結晶育成時の転移も発生しにくい。さらに、特許文献2に記載されているシリカガラスルツボとは異なり、ルツボ内表面の微細凹凸構造は、直胴部分以外のSiOガス発生部位に対して設けることで、シリカガラスルツボとシリコン融液の接触部分のどの部分でSiOガスが発生しても、湯面振動を抑制することができる。即ち、本発明は、上端が開口し鉛直方向に延びる略円筒形の直胴部、湾曲した底部、および前記直胴部と前記底部とを連結し且つ前記底部よりも曲率が大きいコーナー部を有するルツボであって、前記ルツボの内表面は、溝状の谷が尾根と尾根の間に挟まれた凹凸構造を有し、前記尾根と尾根との平均間隔が、5〜100μmであるシリカガラスルツボである。また、本発明は、上端が開口し鉛直方向に延びる略円筒形の直胴部、湾曲した底部、および前記直胴部と前記底部とを連結し且つ前記底部よりも曲率が大きいコーナー部を有するルツボであって、前記ルツボの内表面は、溝状の谷が尾根と尾根の間に挟まれた凹凸構造を有し、前記凹凸構造の中心線平均粗さRaが0.02〜0.5μmであるシリカガラスルツボである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】シリカルツボの内表面11上を対物レンズ10が走査する様子を表した模式図である。
図2】シリカルツボ12の断面図であり、対物レンズの走査方向を例示した模式図である。
図3】凹凸構造が形成されていないシリカガラスルツボの内表面における、共焦点レーザー顕微鏡による表面写真である。
図4】溝状凹凸構造が形成されているシリカガラスルツボの内表面における、共焦点レーザー顕微鏡による表面写真である。
図5】溝状凹凸構造が形成されているシリカガラスルツボの内表面を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定し処理した3次元画像である。
図6図5の地点AからBまでのシリカガラスルツボの内表面の高さを測定した結果を示すグラフである。基準点(Z=0)は、内表面の高さがZ=0から2μm以内に収まるように設定した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔シリカガラスルツボ〕
本発明に係るシリカガラスルツボ12は、例えば、図2の断面図に示されるような、上端が開口し鉛直方向に延びる略円筒形の直胴部15、湾曲した底部16、および前記直胴部15と前記底部16とを連結し且つ前記底部16よりも曲率が大きいコーナー部17を備える。
【0017】
シリカガラスは、内側に透明層20、及びその外側に気泡層14を備えることが好ましい。透明層20は、シリカガラスルツボの内側に形成されている層であり、実質的に気泡を含まない。「実質的に気泡を含まない」とは、気泡が原因で単結晶化率が低下しない程度の気泡含有率及び気泡径であることを意味する。ここで、気泡含有率とは、ルツボの単位体積に占める気泡の体積である。光学カメラを用いてルツボ内表面の画像を撮像し、ルツボ内表面を一定体積ごとに区分して基準体積W1とし、この基準体積W1に対する気泡の占有体積W2を求め、P(%)=(W2/W1)×100により算出される。気泡層14は、例えば、内部に含まれる気泡含有率が0.2%以上1%以下、且つ気泡の平均直径が20μm以上200μm以下である。
【0018】
シリカルツボの内表面は、溝状の谷が尾根と尾根の間に挟まれた溝状凹凸構造を有する。ルツボの内表面に微細な凹凸構造が設けられている場合、シリコン融液が突沸するのを防いで湯面振動を抑制するのみならず、シリコン融液とルツボ内表面との接触面積が大きくなり、両者間の摩擦抵抗が増し、湯面振動が抑制される。また、ルツボの内表面に微細な溝状凹凸構造が設けられている場合、SiOガスが発生しても、凹凸部分で微小な乱流を起こし、エネルギーを減衰させ、湯面振動が発生しにくくなる。
【0019】
また、ルツボ内表面とシリコン融液との反応によってルツボ内表面のシリカガラスが溶解する。これによって、シリコン融液中に酸素が供給され、この酸素がシリコン単結晶に混入してゲッタリングサイトの形成に利用される。本発明に係るシリカガラスルツボでは、シリコン融液とルツボ内表面の接触面積が大きくなるため、ルツボ内表面とシリコン融液との反応が生じやすくなり、シリコン融液中に効率的に酸素を供給することができ、酸素不足に起因する問題を防ぐことができる。
【0020】
凹凸構造は、湯面振動防止の観点からは、ルツボの直胴部の内表面全体に設けられていることが好ましい。また、酸素供給の観点からは、ルツボの全体、特にシリコン単結晶引き上げ時の初期液面よりも低い位置に設けられていることが好ましい。
【0021】
溝状の谷は、実質的に、ルツボの直胴部の円周方向に延びていることが好ましい。谷が円周方向に沿って形成されている場合、直胴部の上端または下端に向って谷が多少傾斜して形成されていてもよく、蛇行して形成されてもよい。谷が円周方向に延びている場合は、シリコン融液とルツボ内表面との間の接触抵抗が特に大きくなって、湯面振動が効果的に抑制される。
【0022】
尾根と尾根との平均間隔は、5〜100μmであり、好ましくは20〜60μmであり、さらに好ましくは15〜50μmである。尾根と尾根との間隔は、尾根の頂点から頂点までの距離である。平均間隔は、より具体的には、例えば、5,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。平均間隔が小さい場合、シリコン融液とルツボ内表面の間の接触面積が大きすぎ、両者間の摩擦抵抗が大きすぎて湯面振動が効果的に抑制されないことがある。一方、平均間隔が大きい場合、シリコン融液とルツボ内表面との間の接触面積が小さすぎ、両者間の摩擦抵抗が小さく湯面振動が効果的に抑制されないことがある。尾根と尾根との間隔は、略等間隔であることが好ましく、例えば、尾根と尾根との間隔は、15〜50μm、好ましくは20〜30μmである。
【0023】
凹凸構造は、シリカガラスルツボの内表面に光を照射する発光部と、シリカガラスルツボの内表面に照射した光の反射を受ける受光部と、を備える光学的検出装置を用いて非接触的に測定することが可能である。照射光としては、例えば、可視光、紫外線、赤外線、またはレーザー光などを利用することができ、ルツボの内表面の凹凸構造を検出できるものであればいずれを採用してもよい。
【0024】
発光部は、光学的検出装置内に内蔵されていてもよく、その場合は、シリカガラスルツボの内表面に沿って回動操作できるものを用いることが好ましい。受光部は、照射光の種類に応じて適宜選択でき、例えば、受光レンズおよび映像部を含む光学カメラを用いることができる。内表面の凹凸構造を検出するためには、集光点で生じる光のみを受光部で受光することが好ましい。集光点で生じる光のみを受光するためには、受光部、例えば光検出器の手前にピンホールを備えることが好ましい。
【0025】
より具体的な測定方法としては、まず、図1に示すように、対物レンズ10をルツボ12の内表面11に非接触的に配置する。次に、走査方向13に向かって走査することで、凹凸構造を測定することができる。他の走査方式としては、例えば、サンプル走査方式とレーザー走査方式とが挙げられる。サンプル走査方式は、サンプルを載せたステージをXY方向に駆動させて二次元像を取得する方式である。レーザー走査方式は、レーザーをXY方向に当てることで、サンプル上を二次元走査する方式である。いずれの走査方式を採用してもよい。走査する方向としては、例えば、直胴部15の鉛直方向18や水平方向19が挙げられる。また、ルツボの内表面の一部だけを走査してしてもよい。例えば、種結晶が着液する湯面位置周辺を重点的に走査してもよい。
【0026】
上記のような走査により、集光点を走査してルツボの内表面の二次元像を取得する。また、ルツボの肉厚方向にも走査することで立体的な微細な凹凸構造の画像を取得することができる(図5参照)。取得された画像からは、溝状の谷の方向を確認することができる。また、集光点を二次元的に走査して、反射の輝度から尾根と尾根とを測定し、そのピッチ(平均間隔)を数値化することも可能である。さらに、サンプルに対して、集光点をXY方向に走査しながら、焦点が合った時のZ位置情報を記録し、数値化することで、サンプルの高さ情報を取り込むことができる(図6参照)。これらの方法は、走査時間を短縮することができる点で好ましい。
【0027】
尾根と尾根との平均間隔は、尾根と尾根との間隔の値の合計を、尾根と尾根との間隔数で割った値である。上記のような測定方法で取得した微小凹凸構造の画像を、例えばソフトウェアで処理して、平均間隔を求めることができる。
【0028】
シリカルツボの内表面は、溝状凹凸構造を有し、且つ中心線平均粗さRaが0.02〜0.5μmであることが好ましく、0.05〜0.4μmであることがより好ましく、0.2〜0.4μmであることが更に好ましい。中心線平均粗さRaは、具体的には、例えば、0.02,0.05,0.1,0.15,0.2,0.25,0.3,0.35,0.4,0.45,0.5μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
中心線平均粗さRaは、測定された粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値から算出できる。粗さ曲線などは、溝状凹凸構造と同様に測定し、ソフトウェア処理することによって演算することができる。
【0030】
本発明に係るシリカルツボは、溝状凹凸構造を有し、上記のように、中心線平均粗さRaが所定の範囲内の微細凹凸構造を有しても、湯面振動を効果的に抑制することができる。
【0031】
〔シリカガラスルツボの製造方法〕
次に、本発明に係るシリカガラスルツボの製造方法の一実施形態について説明する。
【0032】
シリカガラスルツボの製造に使用されるシリカ粉には、結晶質である天然シリカ粉や化学合成によって製造される非晶質である合成シリカ粉がある。天然シリカ粉は、α−石英を主成分とする天然鉱物を粉砕して粉状にすることによって製造されるシリカ粉である。合成シリカ粉は、四塩化珪素(SiCl4)の気相酸化(乾燥合成法)や、シリコンアルコキシド(Si(OR4))の加水分解(ゾル・ゲル法)などの化学合成による手法によって製造することができる。
【0033】
まず、シリカガラスルツボ用モールドに天然シリカ粉を供給する。天然シリカ粉は、α−石英を主成分とする天然鉱物を粉砕して粉状にすることによって製造することができる。次に、合成シリカ粉を天然シリカ粉上に供給し、アーク放電のジュール熱によりシリカ粉を熔融した後、冷却することにより、合成シリカ粉からガラス化される内面層(合成層)と天然シリカ粉からガラス化される外面層(天然層)からなるシリカガラスルツボが製造される。アーク熔融工程の初期にはシリカ粉層を強く減圧することによって気泡を除去して透明シリカガラス層(透明層)を形成し、その後、減圧を弱くすることによって気泡が残留した気泡含有シリカガラス層(気泡層)が形成される。ここで、合成シリカ粉から形成される内面層と透明層は、必ずしも一致するものではない。また、天然シリカ粉から形成される外面層と気泡層は、必ずしも一致するものではない。
【0034】
シリカ粉の熔融は、回転モールドの内表面での最高到達温度が2000〜2600℃になるように行うことが好ましい。最高到達温度が2000℃よりも低いとシリカガラスの構造中またはシリカガラス中に気泡として残存するガスが抜け切れず、シリコン単結晶中の引き上げ中に、ルツボが激しく膨張することがある。また、最高到達温度が2600℃よりも高いとシリカガラスの粘度が低下して形状崩れが発生することがある。
【0035】
アーク熔融は、例えば、交流3相(R相、S相、T相)のアーク放電によって実施される。従って、交流3相の場合は、3本の炭素電極を使用してアーク放電を発生させることでシリカ粉層が熔融する。アーク熔融は、炭素電極の先端がモールド開口部よりも上方に位置する地点でアーク放電を開始する。これにより、モールド開口部近傍におけるシリカ粉層が優先して熔融される。その後、炭素電極を降下させモールド直胴部、コーナー部および底部のシリカ粉層を熔融させる。
【0036】
炭素電極を降下させる際に、段階的に降下させることでルツボの内表面に溝状の谷が尾根と尾根の間に挟まれた溝状凹凸構造を形成させることができる。炭素電極の降下速度は、10〜35mm/minとすることができ、具体的には、例えば、毎分10,13,15,17,18,20,23,25,28,30又は35mm/minであり、ここで示したいずれか2つの数値の範囲であってものよい。降下速度は、平均値であってもよい。段階的に降下させるとは、降下と停止を繰り返しながら降下させることであり、例えば、アーク電極の降下および停止を繰り返すパルス駆動であってもよい。この場合、パルス幅は、例えば、5,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100msであり、ここで示したいずれか2つの数値の範囲であってものよい。例えば、降下速度が10から30(mm/分)の場合は、パルス幅は、50から250msの間であってもよい。デューティーサイクル(duty cycle)は、例えば、30〜70%とすることができ、具体的には、30,40,45,50,55,60,70%であり、ここで示したいずれか2つの数値の範囲であってものよい。デューティーサイクルは、尾根と尾根との間隔を一定にする目的で、好ましくは45から55%の間、より好ましくは50%である。
【0037】
また、炭素電極を振動させながら降下させることで、中心線平均粗さRaが0.02〜0.5μmの微細凹凸構造を形成させることもできる。
【0038】
〔使用例〕
本発明に係るシリカガラスルツボは、例えば、次のように用いることができる。
【0039】
シリカガラスルツボ内でポリシリコンを熔融させてシリコン融液を生成し、シリコン種結晶の端部を上記シリコン融液中に浸けた状態で上記種結晶を回転させながら引き上げることによって、シリコン単結晶を製造することができる。シリコン単結晶の形状は、上側から円柱状のシリコン種結晶、その下に円錐状のシリコン単結晶、上部円錐底面と同じ径を持つ円柱状のシリコン単結晶、頂点が下向きである円錐状のシリコン単結晶である。
【0040】
シリコン単結晶の引き上げは、通常、約1420℃程度で行われる。引き上げ初期は、特に湯面振動が発生し易い。本発明に係るシリカガラスルツボは、内表面に特定の凹凸構造が形成されているため、湯面振動の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
回転モールド法に基づいて、実施例1に係るシリカガラスルツボを製造した。カーボンモールド口径は、32インチ(813mm)、モールド内表面に堆積したシリカ粉層の平均厚さは15mmで、3相交流電流3本電極によりアーク放電を行った。アーク熔融工程の通電時間は90分、出力2500kVA、通電開始から10分間はシリカ粉層を大気圧から90kPa減圧した。アーク熔融中は、炭素電極を段階的に降下させた。平均降下速度は、20mm/分、パルス幅は、100ms、デューティーサイクルを50%とした。
【0042】
(比較例1)
アーク熔融中に炭素電極を連続的に降下(降下速度:20mm/分)させた以外は、実施例1と同様にして比較例1に係るシリカガラスルツボを製造した。
【0043】
(比較例2)
アーク熔融中に炭素電極を、平均降下速度35mm/分、パルス幅100ms、デューティーサイクル50%として段階的に降下させた以外は実施例1と同様にして比較例2に係るシリカガラスルツボを製造した。
【0044】
(比較例3)
アーク熔融中に炭素電極を、平均降下速度10mm/分、パルス幅100ms、デューティーサイクル50%として段階的に降下させた以外は実施例1と同様にして比較例2に係るシリカガラスルツボを製造した。
【0045】
実施例1および比較例1〜3の製造条件の一部を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(1)表面構造
実施例1および比較例1〜3に係るシリカガラスルツボにおいて、直胴部における透明層の表面を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。走査方向は、シリカガラスルツボの縁から鉛直方向に走査した。走査面は、3cm×3cmの使用前シリカガラスルツボである。結果を図3および4に示す。
【0048】
図3は、比較例1に係るシリカガラスルツボの内表面における共焦点レーザー顕微鏡による表面写真である。図3に示される通り、従来のシリカガラスルツボの内表面には、凹凸構造は観察されず不均一な歪み構造が観察された。
【0049】
図4は、実施例1に係るシリカガラスルツボの内表面における共焦点レーザー顕微鏡による表面写真である。図4に示される通り、実施例1に係るシリカガラスルツボの内表面には、溝状の谷が尾根と尾根の間に挟まれた凹凸構造が形成されていた。
【0050】
比較例2に係るシリカガラスルツボの内表面には、凹凸構造が形成されたが、尾根と尾根との間隔が広かった(図示せず)。
【0051】
更に詳細な解析を行うために、実施例1に係るシリカガラスルツボの内表面の3次元画像を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて取得した。図5は、取得した3次元画像である。図5に示される通り、地点AとBに直交する様に凹凸構造が形成されていた。なお、地点Aがルツボ開口部側であり、地点Bはルツボ底部側である。
【0052】
図6は、地点AからBまでのシリカガラスルツボの内表面の高さグラフ化したものである。基準点(Z=0)は、内表面の高さがZ=0から2μm以内に収まるように設定した。その結果、複数の溝状の谷が尾根と尾根の間に挟まれた凹凸構造が検出された。得られた平均間隔の全ての結果を表2に示す。
【0053】
(3)中心線平均粗さRa
実施例1に係るシリカガラスルツボの内表面を、集光点をXY方向に走査しながら、焦点が合った時のZ位置情報を記録し、数値化して、サンプルの高さを測定した。数値処理ソフトウェアを用いて中心線平均粗さRaを演算したところ、0.37μmであった。
【0054】
比較例1、2、および3も実施例1と同様にして、中心線平均粗さRaを求めた。その結果、それぞれ、0.65μm、0.78μm、および0.01μmであった。得られた中心線平均粗さRaの全ての結果を表2に示す。
【0055】
(4)湯面振動
実施例1、および比較例1〜3に係るシリカガラスルツボに、それぞれ約500kgのポリシリコンを加えて、カーボンヒーターを用いて温度約1450〜1600℃まで加熱し、シリコン単結晶引き上げを行いつつ、湯面振動の有無を観測カメラにより確認した。比較例1、2、および3に係るシリカガラスルツボにおいては、湯面振動の発生が確認された。一方、実施例1に係るシリカガラスルツボにおいては、湯面振動の抑制が確認された。
【0056】
【表2】
【0057】
以上の結果から、本発明に係るシリカガラスルツボは、従来技術(例えば、特許文献1)のような、複雑で再現性の乏しい方法で製造されたシリカガラスルツボとは異なり、安定して湯面振動を抑制することが可能である。また、シリコン単結晶の引き上げ工程の初期段階である種付け時はもちろん、シリコン単結晶育成途中においても、湯面振動を安定して抑制することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6