【文献】
Chen Bangjie, Peng Shaoyi,The temperature dependence of retention indices in gas chromatography,Chromatographia,1988年 8月,Volume 25, Issue 8,pp 731-734
【文献】
K. Ciazynska-Halarewicz, T. Kowalska,A study of the dependence of the Kovats retention index on the temperature of analysis on stationary phases of different polarity ,Acta Chromatographica,2003年,No. 13,69-80
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ある登録物質における、固有の識別子が関連付けられた、複数の互いに異なる温度ごとのリテンションインデックスを示す既知RIデータを受け付け、複数の異なる温度における前記登録物質のリテンションインデックスから、所定温度条件における前記登録物質のリテンションインデックスへと変換するよう構成された既知RIデータ変換部を備え、
前記所定温度条件が、ガスクロマトグラフ分析が恒温分析で行われる際に適宜設定される恒温分析温度を含むものであり、
前記既知RIデータ変換部が、
前記第1温度と第2温度における前記標準物質の保持時間に基づいて、前記第1温度と前記第2温度における前記登録物質のリテンションインデックスから、前記第1温度と第2温度における前記登録物質の調整保持時間へと変換する既知温度RT変換部と、
前記第1温度と前記第2温度の逆数と、これらに対応する前記登録物質の調整保持時間の対数との間の線形関係に基づいて、前記恒温分析温度における前記登録物質の調整保持時間を算出する恒温分析温度RT算出部と、
前記恒温分析温度における前記登録物質の調整保持時間と、前記恒温分析温度における標準物質の調整保持時間に基づいて、前記恒温分析温度における前記登録物質のリテンションインデックスを算出するRI算出部と、を備えたことを特徴とするガスクロマトグラフ用データ処理装置。
前記既知RIデータ変換部が、前記既知RIデータ記憶部に記憶されている異なる複数の温度における前記登録物質のリテンションインデックスのうち、前記受付部が受け付けた前記未知試料のリテンションインデックスの値から所定範囲内の値を有するものを、所定温度条件における前記登録物質のリテンションインデックスへと変換するように構成された請求項3又は4いずれかに記載のガスクロマトグラフ用データ処理装置。
前記既知RIデータ変換部によって変換された少なくとも一部の登録物質のリテンションインデックスを、対応する固有の識別子を関連付けて記憶する変換後RIデータ記憶部と、
前記所定温度条件及び未知試料について前記各所定温度条件を用いたガスクロマトグラフ分析により実測されたリテンションインデックスに関連する値の組を複数受け付ける受付部と、
前記変換後RIデータ記憶部に記憶されている前記変換後RIデータの中から、前記受付部で受け付けた前記所定温度条件における前記未知試料のリテンションインデックスの値に対して所定の範囲内にあるリテンションインデックスを有する識別子を複数抽出して候補集合を作成し、前記所定温度条件及び前記リテンションインデックスの各組により作成された各候補集合において共通する識別子を出力する検索部と、を更に備えた請求項1乃至5いずれかに記載のガスクロマトグラフ用データ処理装置。
ある登録物質における、固有の識別子が関連付けられた、複数の互いに異なる温度ごとのリテンションインデックスを示す既知RIデータを受け付け、複数の異なる温度における前記登録物質のリテンションインデックスから、所定温度条件における前記登録物質のリテンションインデックスへと変換するよう構成された既知RIデータ変換部としての機能にコンピュータに備えさせることを特徴とするガスクロマトグラフ用データ処理プログラムであって、
前記所定温度条件が、ガスクロマトグラフ分析が恒温分析で行われる際に適宜設定される恒温分析温度を含むものであり、
前記既知RIデータ変換部が、
前記第1温度と第2温度における前記標準物質の保持時間に基づいて、前記第1温度と前記第2温度における前記登録物質のリテンションインデックスから、前記第1温度と第2温度における前記登録物質の調整保持時間へと変換する既知温度RT変換部と、
前記第1温度と前記第2温度の逆数と、これらに対応する前記登録物質の調整保持時間の対数との間の線形関係に基づいて、前記恒温分析温度における前記登録物質の調整保持時間を算出する恒温分析温度RT算出部と、
前記恒温分析温度における前記登録物質の調整保持時間と、前記恒温分析温度における標準物質の調整保持時間に基づいて、前記恒温分析温度における前記登録物質のリテンションインデックスを算出するRI算出部と、を備えたことを特徴とするガスクロマトグラフ用データ処理プログラム。
ある登録物質における、固有の識別子が関連付けられた、複数の互いに異なる温度ごとのリテンションインデックスを示す既知RIデータを受け付け、複数の異なる温度における前記登録物質のリテンションインデックスから、所定温度条件における前記登録物質のリテンションインデックスへと変換するよう構成された既知RIデータ変換部と、
複数の登録物質ごとの既知RIデータを記憶する既知RIデータ記憶部と、
前記既知RIデータ変換部によって変換された少なくとも一部の登録物質のリテンションインデックスを、対応する固有の識別子を関連付けて記憶する変換後RIデータ記憶部と、
前記所定温度条件と、未知試料について前記所定温度条件を用いたガスクロマトグラフ分析により実測されたリテンションインデックスに関連する値を受け付ける受付部と、
前記変換後RIデータ記憶部に記憶されている前記変換後RIデータの中から、前記受付部で受け付けた前記所定温度条件における前記未知試料のリテンションインデックスの値と一致又は略等しいリテンションインデックスを含むものを抽出し、抽出されたリテンションインデックスに対応する識別子を出力する検索部と、を備えたガスクロマトグラフ用データ処理装置。
ある登録物質における、固有の識別子が関連付けられた、複数の互いに異なる温度ごとのリテンションインデックスを示す既知RIデータを受け付け、複数の異なる温度における前記登録物質のリテンションインデックスから、所定温度条件における前記登録物質のリテンションインデックスへと変換するよう構成された既知RIデータ変換部と、
前記既知RIデータ変換部によって変換された少なくとも一部の登録物質のリテンションインデックスを、対応する固有の識別子を関連付けて記憶する変換後RIデータ記憶部と、
前記所定温度条件及び未知試料について前記各所定温度条件を用いたガスクロマトグラフ分析により実測されたリテンションインデックスに関連する値の組を複数受け付ける受付部と、
前記変換後RIデータ記憶部に記憶されている前記変換後RIデータの中から、前記受付部で受け付けた前記所定温度条件における前記未知試料のリテンションインデックスの値に対して所定の範囲内にあるリテンションインデックスを有する識別子を複数抽出して候補集合を作成し、前記所定温度条件及び前記リテンションインデックスの各組により作成された各候補集合において共通する識別子を出力する検索部と、を備えたガスクロマトグラフ用データ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
第1実施形態のガスクロマトグラフ用データ処理装置100は、ガスクロマトグラフ分析により得られた未知試料Xのリテンションインデックスのみから、この未知試料Xが何の登録物質G
nであるかを同定するために用いられるものである。すなわち、
図1に示すように、このガスクロマトグラフ用データ処理装置100は、ガスクロマトグラフ101と組み合わせて分析システム200を構成してある。
【0029】
前記ガスクロマトグラフ101は、固定層が内部に塗布された管であるカラム13と、移動相として用いられるキャリアガスをカラム13内に導入するためのキャリアガス導入部11と、前記カラム13内に未知試料X等の定性したい試料を導入するための試料導入部12と、前記カラム13の温度を一定に保つ、又は一定の速度で昇温させるためのカラムオーブン14と、前記カラム13の出口側において通過する物質を検知して電気信号を出力する検知部15と、前記検知部15から出力された電気信号に基づいて、各試料が導入されてからのカラム13の出口に到達するまでの時間である保持時間を測定する保持時間測定部16と、を備えたものである。
【0030】
前記ガスクロマトグラフ用データ処理装置100は、本実施形態においては、前記保持時間測定部15から出力される未知試料Xの保持時間又は調整保持時間に基づいて、この未知試料Xがライブラリに既に登録されている登録物質G
nのうちどれに該当するかについて同定し、出力するようにしてある。
【0031】
前記ガスクロマトグラフ用データ処理装置100は、メモリ、CPU、A/Dコンバータ、入出力インターフェイス、モニタ等を備えたいわゆるコンピュータであり、前記メモリに格納されたガスクロマトグラフ分析用データ処理プログラムを前記CPUが実行することによって、各種機能を発揮して、入力された未知試料Xのリテンションインデックスから、未知試料Xが登録物質G
nのうちどれに該当するかを出力するように構成してある。すなわち、このガスクロマトグラフ用データ処理装置100は、
図2に示すように少なくとも、標準物質RTデータ記憶部21、標準物質RT算出部22、未知試料RI算出部73、受付部4、既知RIデータ記憶部6、既知RIデータ変換部7、変換後RIデータ記憶部8、検索部9としての機能を発揮するように構成してある。
【0032】
各部について順に説明する。なお、以下の説明では第1実施形態におけるガスクロマトグラフ分析は恒温分析により行われており、未知試料Xの調整保持時間が測定された際の温度である恒温分析温度T
Xを用いて説明を行うこととする。
【0033】
前記標準物質RTデータ記憶部21は、リテンションインデックスを実測する際に用いられる標準物質Pの調整保持時間(調整Retention Time)を温度から算出するための関数を記憶するものである。より具体的には、標準物質Pはアルカンであり、アルカンの調整保持時間の対数と、絶対温度の逆数との間には比例関係があり、式数2のような関係式を記憶している。
【0035】
ここで、t
T’(P
z):炭素数Zのアルカンの温度Tにおける調整保持時間、T:絶対温度、a(P
z)、b(P
z):アルカンの炭素数ごとに固有の定数である。なお、本実施形態については使用する全てのアルカンについて予め各定数を実験的に求めてある。あるアルカンについて定数が分からない場合には、炭素数の異なるアルカンから各定数を算出することもできる。
【0036】
また、調整保持時間とは、
図3に示すようにガスクロマトグラフ101により測定される保持時間から、前記カラム13に保持されないCH
4等の成分の保持時間を引いた値である。
【0037】
前記標準物質RT算出部22は、上述した式に基づいて必要な温度での標準物質Pの調整保持時間を算出するものである。本実施形態では、後述する登録物質G
nについてリテンションインデックスが実測された際の温度又は未知試料Xのリテンションインデックスが測定された際の温度が入力され、各部の演算に必要な値を出力するように構成してある。
【0038】
前記未知試料RI算出部73は、前記ガスクロマトグラフ101により測定された未知試料Xの調整保持時間と、その温度条件における前記標準物質Pの調整保持時間とに基づいて、実測された未知試料Xのリテンションインデックス(Retention Index)を算出するものである。より具体的には、前記未知試料RI算出部73は、前記未知試料Xの調整保持時間が測定された恒温分析温度T
Xを前記標準物質RT算出部22へと入力し、その温度での標準物質Pの調整保持時間を取得するようにしてある。そして、式数3のリテンションインデックスの定義に基づいて、実測された未知試料Xのリテンションインデックスを算出するものであり、その値を前記受付部4と入力するようにしてある。
【0040】
ここで、I
TX(X):未知試料Xの恒温分析温度T
Xにおけるリテンションインデックス、t’
TX(X):未知試料Xの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間、t’
TX(P
z):炭素数Zのアルカンの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間、t’
TX(P
z+1):炭素数Z+1のアルカンの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間、Z:炭素数である。
【0041】
前記受付部4は、前記未知試料Xについてリテンションインデックスが実測された際の所定温度条件と、未知試料Xについて前記所定温度条件を用いたガスクロマトグラフ分析により実測されたリテンションインデックスに関連する値を受け付けるものである。本実施形態では、所定温度条件とはガスクロマトグラフ101で未知試料Xを恒温分析した際の恒温分析温度T
Xであり、未知試料Xのリテンションインデックスについては前記未知試料RI算出部73で算出された値を受け付けるようにしてある。前記リテンションインデックスについては、例えば関連する値である調整保持時間等を受けつけるようにしても構わない。また、
図2では明示していないが、未知試料がガスクロマトグラフ分析された際に使用された固定相の種類についても前記受付部4は受け付けており、後述する検索部9は同じ固定相を用いて測定された登録物質G
nのデータを用いて未知試料Xの定性を行うようにしてある。
【0042】
前記既知RIデータ記憶部6は、例えばNIST等で収集された化学物質ごとのリテンションインデックスを多数収録したライブラリであって、登録物質G
nごとに固有の識別子と、前記識別子の示す登録物質G
nについて複数の異なる温度においてガスクロマトグラフ分析により実測されたリテンションインデックスと、が対になった既知RIデータを複数記憶するものである。言い換えると、前記既知RIデータ記憶部6は、
図4の表に示すような前記識別子として登録物質G
nの化学式や名称とともに、測定された温度とともにリテンションインデックスを1組にして記憶している。なお、この既知RIデータ記憶部6に1つの登録物質G
nに対して、1つの測定温度でのリテンションインデックスしか記憶されていない場合もあるが、そのような登録物質G
nについては、リテンションインデックスの変換には用いられない。
【0043】
前記既知RIデータ変換部7は、前記既知RIデータ記憶部6に記憶されている既知RIデータのうちリテンションインデックスを前記受付部4が受け付けた恒温分析温度T
Xでのリテンションインデックスへと変換するように構成してある。より詳細には、前記既知RIデータ変換部7は、前記既知RIデータ記憶部6に記憶されている登録物質G
nのリテンションインデックスからその測定された既知温度での調整保持時間を算出する既知温度RT変換部71と、前記既知温度RT変換部71で算出された既知温度での調整保持時間から恒温分析時の調整保持時間を算出する恒温分析温度RT算出部72と、前記恒温分析時の調整保持時間から、恒温分析温度T
Xでのリテンションインデックスを算出するRI算出部73とから構成してある。
【0044】
前記既知温度RT変換部71は、前記既知RIデータ記憶部6から、1つの識別子の示す登録物質G
nに対して、2つの異なる温度である第1温度T
1と第2温度T
2でのリテンションインデックスを取得するとともに、前記標準物質RT算出部22から、2つの標準物質Pの前記第1温度T
1での調整保持時間と、2つの標準物質Pの前記第2温度T
2での調整保持時間を取得するように構成してある。そして、前記既知温度RT変換部71は、取得した値に基づいて式数4により、前記登録物質G
nの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間を算出するように構成してある。なお、前記第1温度T
1、第2温度T
2は、登録物質G
nごとに異なる値であってもよい。
【0046】
ここで、I
T1(G
n)、I
T2(G
n):登録物質G
nの既知温度T
1、T
2におけるリテンションインデックス、t’
T1(G
n)、t’
T2(G
n):登録物質G
nの既知温度T1、T2における調整保持時間、t’
T1(P
z)、t’
T2(P
z):炭素数Zのアルカンの既知温度T
1、T
2における調整保持時間、t’
T1(P
z+1)、t’
T2(P
z+1):炭素数Z+1のアルカンの既知温度T1、T2における調整保持時間、Z:炭素数である。なお、炭素数Zはガウス記号[ ]を用いて表すと、数4の上式ではZ=[I
T1(G
n)]、下式ではZ=[I
T2(G
n)]で選択される整数。
【0047】
この式数4から、登録物質G
nの既知温度での調整保持時間が算出されることになる。ここで、登録物質G
nの既知温度T1、T2における調整保持時間、t’
T1(G
n)、t’
T2(G
n)については、温度以外の線速度等の実験条件は、アルカンの既知温度T
1、T
2における調整保持時間を測定したときの線速度で測定した値に対応するものとなっている。
【0048】
前記恒温分析温度RT算出部72は、前記第1温度T
1と前記第2温度T
2の逆数と、これらに対応する前記登録物質G
nの調整保持時間の対数との間の線形関係に基づいて、前記恒温分析温度T
Xにおける前記登録物質G
nの調整保持時間を算出するように構成してある。すなわち、前記恒温分析温度RT算出部72は、式数5により登録物質G
nの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間を算出するものである。
【0050】
ここで、T
x:恒温分析温度、t’
Tx(G
n):登録物質G
nの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間である。前述したようにt’
T1(G
n)、t’
T2(G
n)の線速度等の実験条件は、アルカンの調整保持時間を測定したときのものに対応しており、このt’
Tx(G
n)も同様にアルカンの調整保持時間を測定したときのものに変換されていることになる。従って、未知試料について測定された調整保持時間とは、線速度等の実験条件が異なっている可能性があるため、この値をそのまま比較に使うことはできない。
【0051】
前記RI算出部73は、前記恒温分析温度RT算出部72で算出される登録物質G
nの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間と、前記標準物質RT算出部22で算出される標準物質Pの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間と、に基づいて登録物質G
nの恒温分析温度T
Xにおけるリテンションインデックスを式数6により算出し、その値と前記識別子を対にして前記変換後RIデータ記憶部8に出力するものである。
【0053】
ここで、I
TX(G
n):登録物質G
nの恒温分析温度T
Xにおけるリテンションインデックス、Z:炭素数は、t’
TX(P
z)<t’
TX(G
n)<t’
TX(P
z+1)の関係を満たす炭素数が選択される。
【0054】
前記変換後RIデータ記憶部8は、
図5に示すように前記既知RIデータ変換部7により変換された所定温度条件における前記登録物質G
nのリテンションインデックスと、対応する前記識別子とが対になった変換後RIデータを記憶する。この変換後RIデータ記憶部8は、前記既知RIデータ記憶部6とは異なり、1つの登録物質G
nに対して恒温分析温度T
Xにおけるリテンションインデックスを1つだけ記憶していることになる。
【0055】
前記検索部9は、前記変換後RIデータ記憶部8に記憶されている前記変換後RIデータの中から、前記受付部4で受け付けた前記所定温度条件における前記未知試料Xのリテンションインデックスの値と一致又は略等しいリテンションインデックスを含むものを抽出し、抽出されたリテンションインデックスに対応する識別子を出力するものである。
【0056】
このように構成されたガスクロマトグラフ用データ処理装置100の動作について
図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0057】
まずガスクロマトグラフ101により測定された恒温分析温度T
Xで未知試料Xの調整保持時間の測定を行う(ステップS1)。前記未知試料RI算出部73が、測定された未知試料Xの調整保持時間と、前記標準物質RT算出部22から算出された標準物質Pの調整保持時間とから未知試料Xのリテンションインデックスを算出する(ステップS2)。
【0058】
その後、前記受付部4において、測定に用いられた恒温分析温度T
Xと、算出された未知試料Xのリテンションインデックスが受け付けられ(ステップS3)、このことにより前記既知RIデータ変換部7が登録物質G
nの既知のリテンションインデックスから恒温分析温度T
Xでのリテンションインデックスへと変換を開始する(ステップS4)。
【0059】
まず、前記既知RIデータ記憶部6に記憶されている識別子がG1の登録物質G
nについて、前記既知温度RT変換部71により、標準物質Pの調整保持時間と第1温度T
1と第2温度T
2で過去に測定されたリテンションインデックスから、登録物質G
nの第1温度T
1、第2温度T
2での調整保持時間へと変換される(ステップS5)。
【0060】
次に、前記恒温分析温度RT算出部72において、登録物質G
nの第1温度T
1、第2温度T
2での調整保持時間について、線形性を利用した演算により登録物質G
nの恒温分析温度T
Xにおける調整保持時間が算出される(ステップS6)。
【0061】
最後に、前記RI算出部73において、恒温分析温度T
Xにおける登録物質G
nの調整保持時間と、標準物質Pの調整保持時間とから、恒温分析温度T
Xにおける登録物質G
nのリテンションインデックスを算出し(ステップS7)、変換されたリテンションインデックスを前記識別子G1とともに、前記変換後RIデータ記憶部8に記憶させる(ステップS8)。このリテンションインデックスの変換動作ステップS5〜S8をnが最大値になるまで行い、前記既知RIデータ記憶部6に記憶されている全ての登録物質について恒温分析温度T
Xでのリテンションインデックスへと変換し、新たな検索集合が作成される(ステップS9)。
【0062】
その後、前記検索部9により前記変換後RIデータ記憶部8内を未知試料Xのリテンションインデックスで検索を行い(ステップS10)、変換後のリテンションインデックスで近い値又は一致する値とともに記憶されていた識別子Gnを出力する(ステップS11)。
【0063】
このようにして、ガスクロマトグラフ101だけで、未知試料Xが何であるかを同定することかができる。つまり、本実施形態は、本願発明者らが見出した複数の異なる温度におけるリテンションインデックスがあれば、それらのリテンションインデックスが実測された温度条件以外の条件である所定温度条件でのリテンションインデックスへと変換できることを利用してガスクロマトグラフ分析のみで未知試料Xの同定を可能としている。
【0064】
次に第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態でも第1実施形態と共通の部材には同じ符号を付すこととする。
【0065】
第2実施形態のガスクロマトグラフ用データ処理装置100では、前記既知RIデータ変換部7の構成及び動作が異なっている。
【0066】
より具体的には、
図7に示すように前記既知RIデータ変換部7が、3つの異なる温度である第1温度T
1と第2温度T
2と第3温度における前記登録物質G
nのリテンションインデックスに基づいて、式数7に示す温度の関数である変換式の3つの定数を同定するRI温度関数同定部74と、前記RI温度関数同定部74により同定された前記変換式に前記恒温分析温度T
Xを代入して当該恒温分析温度T
Xにおける前記登録物質G
nのリテンションインデックスを算出する温度代入演算部75と、を備えていることを特徴とする。
【0068】
ここで、I:リテンションインデックス、T:温度、A、B、C:登録物質G
nごとのリテンションインデックスの実測値から同定される定数である。
【0069】
前記RI温度関数同定部74は、より具体的に説明すると前記既知RIデータ記憶部6から、3つの温度と、その温度でのリテンションインデックスとから例えば最小二乗法等により前記定数A、B、Cを同定し、登録物質G
nごとに変換式を作成するようにしてある。
【0070】
前記温度代入演算部75は、前記RI温度関数同定部74aで同定された変換式と、前記受付部4で受け付けられた恒温分析温度T
Xとを取得し、代入により恒温分析温度T
Xでのリテンションインデックスを算出するとともに、前記変換後RIデータ記憶部8へと全ての登録物質G
nのリテンションインデックスと識別子を対にして記憶させるように構成してある。
【0071】
このような前記既知RI変換部であっても、登録物質G
nごとに3つの異なる温度のリテンションインデックスがあれば、様々な温度のリテンションインデックスに変換する事が可能となる。つまり、第1実施形態と同様に未知試料Xのリテンションインデックスのみで、その未知試料Xが登録物質G
nのうちどれに該当するかを同定することができる。
【0072】
この第2実施形態の変形実施形態について説明する。前記RI温度関数同定部74aは、未知試料Xのリテンションインデックスが前記受付部4に受け付けるごとに変換式を作成していたが、
図8に示すように例えば予めライブラリに登録されている登録物質G
nのリテンションインデックスと測定温度に基づいて、変換式を作成しておき、その変換式を登録物質G
n毎に記憶しておいてもよい。すなわち、前記RI温度関数同定部74aをRI温度関数記憶部74bとして構成しても構わない。
【0073】
次に第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態でも第1実施形態と共通の部材には同じ符号を付すこととする。
【0074】
前記第1及び第2実施形態ではガスクロマトグラフ分析は恒温分析で行った際の調整保持時間に基づいて未知試料Xを同定していたが、第3実施形態では昇温分析により得られた調整保持時間に基づいて未知試料Xの同定を行うものである。
【0075】
より具体的には、前記所定温度条件が、ガスクロマトグラフ分析が昇温分析で行われる際に適宜設定される昇温速度と、初期設定温度とからなる昇温条件T
Uを含むものであり、前記既知RIデータ変換部7が、
図9に示すような2つの異なる温度である第1温度T
1と第2温度T
2における前記登録物質G
nのリテンションインデックスに基づいて、前記登録物質G
nの分配係数を温度の関数として同定する分配係数関数同定部76と、前記分配係数とガスクロマトグラフ101のカラム13長さに基づいて、前記昇温条件T
U下における前記登録物質G
nの調整保持時間を算出する昇温時RT算出部77と、前記昇温条件T
U下における前記登録物質G
nの調整保持時間と、前記昇温条件T
U下における標準物質Pの調整保持時間とに基づいて、前記昇温条件T
U下における前記登録物質G
nのリテンションインデックスを算出する昇温時RI算出部78と、を備えたものである。また、昇温分析時には前記標準物質RT算出部22もその動作が異なるように構成してある。
【0076】
前記標準物質RT算出部22は、前記受付部4に入力された昇温条件T
Uの昇温速度と、初期設定温度から昇温時の標準物質Pの調整保持時間を算出するように構成してある。より具体的には、調整保持時間と温度との間には式数8に示すような関係があることを利用して求められる。
【0078】
ここで、t
TU(P
z):恒温条件における炭素数Zのアルカンの保持時間、K(P
z):炭素数Zのアルカンの分配係数、a(P
z)、b(P
z):分配係数の特性を決める定数、T:絶対温度である。
【0079】
上記2式から、炭素数Zの保持時間t
TU(P
z)は温度の関数として式数9のように記述することができる。
【0080】
【数9】
ここで、c(P
z)、d(P
z)は、a(P
z)、b(P
z)に基づいた定数。
【0081】
さらに、カラム13長さをLとするとL/t
T(P
z)はある温度におけるアルカンがカラム13内を進む速さであり、昇温条件T
Uにおけるガスクロマトグラフ101における溶出開始からカラム13出口に到達するまでにかかる時間である保持時間t
TU(P
z)で積分するとカラム13長さLと等しくなることから以下の式数10が成り立つ。
【0083】
さらに、昇温条件T
Uにおける昇温速度をr、初期温度をTiとするとT=r*t+Tiと変数変換できることから式数11のようになる。
【0085】
この式数11に基づいて保持時間t
TU(P
z)を算出し、CH
4等の昇温条件T
Uにおける保持時間を引いて、前記標準物質RT算出部22は、昇温条件T
Uにおける調整保持時間を出力するようにしてある。このアルカンの昇温条件T
Uにおける調整保持時間は前記未知試料RI算出部73、前記昇温時RI算出部78において用いられる。
【0086】
前記分配係数関数同定部76は、前記既知RIデータ記憶部6に記憶されている登録物質G
nの恒温条件におけるリテンションインデックスから分配係数を同定するものである。すなわち、上式数8に示した式を各登録物質G
nについて適用して式数12とするとともに、登録されている恒温条件でのリテンションインデックスに合わせて式変形を行った式数13から分配係数を同定するようにしてある。具体的には、式数12及び式数13は以下のようになる。
【0088】
ここで、t’
T(G
n):恒温条件での温度Tにおける登録物質G
nの調整保持時間であり、第1実施形態においても説明したように恒温条件の温度Tにおけるリテンションインデックスから算出可能な値であることから、式数12から式数13の温度T
1、T
2における2式よりa(G
n)、b(G
n)が同定される。
【0090】
前記昇温時RT算出部77は、前記標準物質RT算出部22と同様にカラム13長さLと、恒温条件における登録物質G
nの保持時間の時間関数に基づいて、昇温条件T
Uでの登録物質G
nの保持時間を式数14により算出するようにしてある。また、この算出された保持時間から調整保持時間を前記昇温時RI算出部78へと出力するようにしてある。
【0091】
【数14】
ここで、c(G
n)、d(G
n):a(G
n)、b(G
n)に基づいた定数、t
TU(G
n):は昇温条件T
Uにおける登録物質G
nの保持時間。
【0092】
前記昇温時RI算出部78は、前記標準物質RT算出部22から出力される昇温条件T
Uにおける標準物質Pの調整保持時間と、前記昇温時RT算出部77から出力される昇温条件T
Uにおける登録物質G
nの調整保持時間とに基づいて、式数15により昇温条件T
Uでの登録物質G
nのリテンションインデックスを算出する。
【0094】
そして、前記変換後RIデータ記憶部8には、昇温条件T
Uにおける登録物質G
nのリテンションインデックスが識別子とともに保存される。前記検索部9は、昇温条件T
Uにおける未知試料Xのリテンションインデックスと、前記変換後RI記憶部に記憶されている同一の昇温条件T
Uにおける登録物質G
nのリテンションインデックスとを比較して、未知試料Xがどの登録物質G
nに該当するかを出力する。このようにして、ガスクロマトグラフ101における分析が昇温条件T
Uであったとしてもガスクロマトグラフ101による分析のみで未知試料Xの同定を行うことができる。
【0095】
次に第4実施形態について説明する。なお、第4実施形態でも第1実施形態と共通の部材には同じ符号を付すこととする。
【0096】
前記各実施形態では、前記検索部9は、前記変換後RIデータ記憶部8に記憶されている変換後RIデータの中から、前記受付部4で受け付けた前記所定温度条件における未知試料Xのリテンションインデックスと一致又は略等しいリテンションインデックスを含むものを抽出し、該当する登録物質G
nを出力するように構成されていた。一方、第4実施形態では、前記受付部4において、分析温度や測定に用いた固定相の種類が異なる測定条件で測定された未知試料Xのリテンションインデックスを複数受け付けるように構成してある点が各実施形態とは異なっている。
【0097】
さらに、第4実施形態では前記検索部9は、受け付けられた未知試料Xの各測定条件でのリテンションインデックスに基づいて、変換後RIデータ記憶部8から未知試料Xに該当する可能性のある複数の登録物質G
nの候補からなる候補集合をそれぞれ抽出するように構成してある。そして、前記検索部9は、測定条件と、その測定条件において測定された未知試料Xのリテンションインデックスとの各組に基づいて抽出された各候補集合において重複する登録物質G
nの識別子を最終的に出力するように構成してある。
【0098】
以下では、ある未知試料Xについて同じ固定相を用いて異なる恒温分析温度T
X1、T
X2で測定された2つの測定結果が前記受付部9に受け付けられ、前記検索部9が各温度T
X1、T
X2でのリテンションインデックスI
TX1(X)、I
TX2(X)から該当する登録物質G
nの候補集合G
TX1、G
TX2を2つ作成し、その2つの候補集合G
TX1、G
TX2から最終候補の化合物を出力する具体例により第4実施形態の動作について説明する。なお、第4実施形態のガスクロマトグラフ用データ処理装置100は、前記第1乃至3実施形態に示したような方法により、登録物質G
nの既知のリテンションインデックスを変換して各恒温分析温度T
X1、T
X2のリテンションインデックスI
TX1(X)、I
TX2(X)にし、データベースとしたものを前記変換後RIデータ記憶部8に予め記憶させてある。そして、前記検索部9は、
図10に示すように入力された未知試料Xのガスクロマトグラフ分析時の分析温度T
X1、T
X2において、未知試料XのリテンションインデックスI
TX1(X)、I
TX2(X)の値に対して所定値a以内のリテンションインデックスI
TX1(G
n)、I
TX2(G
n)を有する登録物質G
nを前記変換後RIデータ記憶部8のデータベースから検索し、それぞれ候補集合G
TX1、G
TX2として取得するように構成してある。
【0099】
まず、第1恒温分析温度T
X1において未知物質Xの調整保持時間t’
TX1(X)が測定されたとすると、前記未知試料RI算出部3は第1恒温分析温度T
X1におけるアルカンの調整保持時間t’
TX1(P
Z)、t’
TX1(P
Z+1)から、未知試料Xの第1リテンションインデックスI
TX1(X)を算出する。ここで、第1リテンションインデックスI
TX1(X)の値が例えば860.4であったとする。
【0100】
前記受付部4が、第1恒温分析温度T
X1と、未知試料Xの第1リテンションインデックスI
TX1(X)を受け付けると、前記検索部9は前記変換後RIデータ記憶部8を検索して、第1恒温分析温度T
X1において、第1リテンションインデックスIT
X1(X)に対して差の絶対値が所定値a以内のリテンションインデックスI
TX1(G
n)を有する登録物質G
nを抽出し、複数の該当候補からなる第1候補集合G
TX1を取得する。ここで、第1候補集合G
TX1は
図11(a)に示すように例えば第1リテンションインデックスI
TX1(X)の値である860.4に対して±10以内のものが候補として抽出されたとする。
【0101】
次に、第1恒温分析温度T
X1とは異なる温度である第2恒温分析温度T
X2において未知試料Xの調整保持時間t’
TX2(X)が測定されたとすると、前記未知試料RI算出部3は、第2恒温分析温度TX2におけるアルカンの調整保持時間t’
TX2(P
Z)、t’
TX2(P
Z+1)から未知試料Xの第2リテンションインデックスI
TX2(X)を算出する。なお、第2リテンションインデックスI
TX2(X)の値によっては、算出に用いられるアルカンの種類は第1リテンションインデックスI
TX1(X)を算出した時とは異なる場合もある。また、ここで第2リテンションインデックスI
TX2(X)の値は例えば852.8であったとする。
【0102】
そして、前記受付部4及び前記検索部9は上述したのと同様の動作により第2恒温分析温度T
X2における第2候補集合G
TX2が前記検索部9で取得される。その結果として
図11(b)に示すような第2候補集合G
TX2が抽出されたとする。
【0103】
最後に、前記検索部9は、第1候補集合G
TX1と第2候補集合G
TX2との間で共通する登録物質G
nを抽出し、それを未知試料Xの同定結果G
Xとして出力する。すなわち、
図11(a)、(b)において、共通する要素は斜線で示している登録物質G
4のみであるので、未知試料Xは登録物質G
4であると定性され、前記検索部9から出力されることになる。
【0104】
このように第4実施形態のクロマトグラフ用データ処理装置100によれば、複数の異なる測定条件での未知試料Xのリテンションインデックスに基づいて、複数の該当候補の登録物質G
nから絞り込んで、定性を行うことができる。従って、クロマトグラフにおける測定誤差等があり、リテンションインデックス同士が一致しない場合であっても該当物質を特定することができ、その定性精度も高めることができる。
【0105】
第4実施形態の変形例についても説明する。
第4実施形態では、測定条件が異なる例として恒温分析温度が違う場合を示したが、実測されたリテンションインデックスが第3実施形態で示したような昇温分析による測定結果であっても第4実施形態の定性方法を適用することができる。すなわち、それぞれ昇温分析条件が異なる複数のリテンションインデックスを用いて未知試料の定性を行っても構わない。また、温度に関する測定条件が異なる2つの実測されたリテンションインデックスに基づいて未知試料の定性を行っても構わない。例えば、未知試料についてある恒温分析温度において実測されたリテンションインデックスと、ある昇温分析温度において実測されたリテンションインデックスの2つを用い、それぞれについて候補集合を作成し、各候補集合について共通するものを検索部が出力するようにしてもよい。
【0106】
さらに、固定相が異なる場合にも測定されるリテンションインデックスが異なる値になることを利用して、未知試料の定性を行ってもよい。つまり、
図10に示すように前記受付部及び前記検索部が、固定相の種類を受け付けて、それぞれの未知試料の測定に使用された固定相と同一の固定相を用いて測定された登録物質のリテンションインデックスから定性を行うように構成されており、異なる固定相で測定された未知試料の複数のリテンションインデックスを用いて前記検索部がそれぞれについて候補集合を作成し、各候補集合に共通する登録物質が出力されるように構成してもよい。
【0107】
具体的には、温度条件が同一で、未知試料について固定相が異なる場合に測定された複数のリテンションインデックスから定性を行ってもよいし、温度条件及び固定相がともに異なった状態で測定された未知試料のリテンションインデックスから定性を行ってもよい。
【0108】
要するに、実測される未知試料のリテンションインデックスが異なる値になるように測定条件が設定されており、各測定条件で測定された複数のリテンションインデックスから候補集合を作成し、絞り込みを行えるようにすればよい。
【0110】
前記各実施形態では、標準物質の一例としてアルカンを挙げていわゆるkovatsのリテンションインデックスを用いているがその他の物質を標準物質として用いても構わない。例えば、アルカンの1つの水素原子をヒドロキシ基に置き換えた直鎖型の炭素数の異なるアルコールを標準物質として用いてもよい。前記実施形態では、分析ごとに前記既知RIデータ変換部により、既知のリテンションインデックスの変換を逐次行っていたが、例えば、ガスクロマトグラフ装置の分析時に使用される可能性のある温度でのリテンションインデックスを予め変換して、前記変換後RIデータ記憶部に記憶させておいてもよい。このようにすれば、リテンションインデックスの変換にかかる時間を待つことなく、すぐに検索部によりリテンションインデックスの検索が可能となり、未知試料の同定にかかる時間を短縮することができる。また、前記実施形態では、全ての登録物質についてリテンションインデックスの変換を行っていたが、未知試料のリテンションインデックスから所定範囲内の値のリテンションインデックスを有する登録物質だけ変換を行うようにしても構わない。すなわち、条件設定により登録物質のうち、未知試料に該当する可能性のあるものだけについてリテンションインデックスを変換するようにしても構わない。
【0111】
また、前記既知RIデータ記憶部に記憶されている登録物質のリテンションインデックスを変換する範囲を決める方法としては、未知試料についてガスクロマトグラフ分析を行った際におけるアルカン等の標準物質の調整保持時間から変換する範囲を決める方法が挙げられる。より具体的には、未知試料の調整保持時間を測定する際にそのクロマトグラフにおいて標準物質の調整保持時間も測定しておき、ある炭素数Zのアルカンで得られた第1調整保持時間と、別の炭素数Z+1のアルカンで得られた第2調整保持時間の間に前記未知試料の調整保持時間が表れた場合、その未知試料のリテンションインデックスの値は、式数6の定義式よりZ×100から(Z+1)×100の間であると推定される。従って、既知RIデータ記憶部に記憶されているリテンションインデックスのうちZ×100から(z+1)×100の間にある値であるもの、又は、その近傍の値であるものについてのみ所定温度条件のリテンションインデックスへと変換するようにしてもよい。
【0112】
加えて、前記既知RIデータ記憶部に記憶されているリテンションインデックスのうち、誤った値であるものや測定が信頼できない値のものをリテンションインデックスの変換には用いないようにしてもよい。具体的には、前記既知温度RT変換部が、登録物質のリテンションインデックスから算出した調整保持時間の対数と、リテンションインデックスを測定した際の温度との間には比例関係があることを利用して不正確な値を排除すればよい。つまり、ある登録物質について2つの異なる温度でのリテンションインデックスから変換された2つの異なる温度での調整保持時間の対数と、2つの異なる温度により比例式を作成し、更に別の温度での調整保持時間を前記比例式に温度を代入しても調整保持時間とならないものは測定が間違っている、あるいは信頼できない値であると判断し、以降はリテンションインデックスの変換には用いられないようにすればよい。
【0113】
前記受付部が、さらにカラムの種類や使用されている固定相の種類、その極性等その他の測定条件に関わる情報を受け付けるようにしても構わない。例えば、リテンションインデックスの比較を行う場合には、カラムの種類や固定の種類が一致しているのが望ましい。一致していない場合でも、リテンションインデックスを測定する際に用いられた前記固定層の極性が似通っているもの同士を比較してもよい。
【0114】
このため、前記既知RIデータ記憶部に記憶されているリテンションインデックスのうち、登録されている固定相の種類と、前記受付部で受け付けられた固定相の種類とが似通っているデータのある登録物質についてだけ前記RIデータ変換部がリテンションインデックスを変換するようにしてあればよい。より具体的には、前記既知RIデータ記憶部が、登録物質のリテンションインデックスが測定された際に使用された固定相の極性の種類又は度合いについて、無極性、低極性、中極性、高極性といった4段階の分類で記憶しており、前記受付部で未知試料の測定を行った際の固定相の極性が4段階のうちどの極性を有するのかについて受け付け、測定時に使用した固定相の極性の分類が一致したリテンションインデックスが存在する登録物質についてだけ、前記RIデータ変換部が変換を行うようにすればよい。このようにすれば未知試料と一致する可能性の高い登録物質のみ変換を行うことができ、演算の負荷を減らしつつ、精度の高い同定を行うことができる。
【0115】
前記既知RIデータ記憶部は、様々な条件でガスクロマトグラフ分析により実測されたリテンションインデックスのみを記憶するものに限られず、例えば、各実施形態において説明したような実際には測定を行わずに既知のリテンションインデックスから変換されたリテンションインデックスを記憶しているものであっても構わない。つまり、未知試料の同定を行うために変換されたリテンションインデックスを前記既知RIデータ記憶部に追記していってもよい。
【0116】
各実施形態で示した変換方法により、多数の登録物質ごとに多数の温度条件におけるリテンションインデックスを前記既知RIデータから予め算出しておき、それらを識別子とともに対応させて変換後RIデータ記憶部に記憶させたものをデータベースとしても構わない。
【0117】
また、前記ガスクロマトグラフ用データ処理装置は、必ずしもガスクロマトグラフとともに設けられる必要はない。例えば、ガスクロマトグラフ用データ処理装置を単体で用いて、ある温度条件のガスクロマトグラフ分析により得られたリテンションインデックスを入力して、別の温度条件のリテンションインデックスへと変換するために用いてもよい。
【0118】
前記既知RIデータ記憶部は、コンピュータ内の記憶領域に記憶してあるものであってもよいし、例えばインターネット等を介して学術機関等で開放されているライブラリであってもよい。
【0119】
加えて、前記ガスクロマトグラフ用データ処理装置は、登録物質ごとに固有の識別子と、前記識別子の示す登録物質について複数の異なる温度においてガスクロマトグラフ分析により実測されたリテンションインデックスと、が対になった既知RIデータを複数記憶する既知RIデータ記憶部と、各既知RIデータについて、複数の異なる温度における前記登録物質のリテンションインデックスから、所定温度条件における前記登録物質のリテンションインデックスへと変換するよう構成された既知RIデータ変換部と、のみから構成されたものであってもよい。このようなものであれば、例えば既存の温度条件が統一されていないリテンションインデックスのライブラリについて温度条件を規格化したものにすることができる。このような温度条件が規格化されたライブラリがあれば、ガスクロマトグラフ分析を行う場合には規格化された温度で実験するようにすればよい。また、前記各実施形態で説明したリテンションインデックスの変換方法を用いて、未知試料のリテンションインデックスを変換するために用いてもよい。
【0120】
さらに、前記既知RIデータ変換部は、前記第1、第2、第3実施形態に示した各構成を組み合わせてもよい。すなわち、複数の変換方法により適宜変換方法が選択されてリテンションインデックスを変換できるようにしても構わない。また、前記各実施形態または一部の機能を実現するプログラムについては、当該プログラムを収録した記録媒体により既存のガスクロマトグラフ用データ処理装置やコンピュータにインストールするようにしても構わない。
【0121】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な実施形態の組み合わせや変形を行っても構わない。