【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第4回日本不安障害学会学術大会抄録集 2012.2.4発行 第153回日本獣医学会学術集会講演要旨集 2012.3.1発行
【文献】
分子精神医学, 2011.04, Vol.11, No. 2, p. 154-156
【文献】
J. Clinical Psychopharmacology, 2010, Vol.30, No.2, pp.217-219
【文献】
Psychosomatic Medicine,2007.04, Vol. 69, No. 3, p. 217-224
【文献】
The American Journalof Clinical Nutrition, 2003.07, Vol. 78, No. 1, p. 40-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
不安関連障害、特にPTSDなどの心的外傷に起因する障害の処置方法は鋭意研究されているものの現在までのところ十分な処置方法が確立しているとはいえず、新たな処置方法が求められている。更に、より安全で食品、飲料やサプリメントなどとして利用可能な不安関連障害の治療剤または予防剤が求められている。
【0011】
過剰な恐怖記憶の形成は、PTSDなどの不安関連障害につながることが知られている。また不安関連障害の患者が高い頻度で気分障害を併発することが知られており、恐怖記憶を軽減することが不安関連障害の予防・治療につながるばかりでなく、気分障害の予防・治療につながるものと考えられている。しかし、現在までのところ恐怖記憶の軽減または形成を予防するための十分な処置方法は確立されているとはいえず、新たな処置方法が求められている。更にこの処置方法は作用メカニズムが明らかにされていることが望ましい。
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ね、n−3系高度不飽和脂肪酸を主な成分とするオキアミ油あるいは魚油由来の脂質が恐怖記憶形成を軽減させることにより不安関連障害の治療または予防に良好な効果を有することを見いだし、本発明を完成させた。具体的には、オキアミ油や魚油由来の脂質などに由来するn−3系高度不飽和脂肪酸が、n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取が制限された条件下で、即ち、食事や飼料中のn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比がある一定以上の割合を摂取した時に恐怖記憶の形成を軽減する効果を有することを見いだし、本発明を完成させた。更に本発明のオキアミ油や魚油由来の脂質などに由来するn−3系高度不飽和脂肪酸が、カンナビノイドシグナル伝達経路に作用することにより本発明の効果を発揮することも見出した。
【0013】
本発明の1つの側面によれば、以下の(1)〜(8)の治療剤または予防剤が提供される。
(1)オキアミ油を有効成分として含有する、不安関連障害の治療剤または予防剤。
(2)オキアミ油がオキアミの熱凝固物を経て精製されたオキアミ油である、上記(1)に記載の治療剤または予防剤。
(3)リン脂質が30%重量以上であるオキアミ油を使用する、上記(1)または(2)に記載の治療剤または予防剤。
(4)オキアミ油の脂肪酸組成においてn−3系高度不飽和脂肪酸が15%以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(5)オキアミ油の脂肪酸組成においてエイコサペンタエン酸が10%以上である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(6)オキアミ油の脂肪酸組成においてドコサヘキサエン酸が5%以上である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(7)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(8)オキアミ油を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に投与するための、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
【0014】
本発明の別の側面によれば、以下の(9)〜(14)の治療剤または予防剤が提供される。
(9)n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むリン脂質を有効成分として含有する、不安関連障害の治療剤または予防剤。
(10)脂肪酸組成においてn−3系高度不飽和脂肪酸が15%以上であるリン脂質を使用する、上記(9)に記載の治療剤または予防剤。
(11)脂肪酸組成においてエイコサペンタエン酸が10%以上であるリン脂質を使用する、上記(9)または(10)に記載の治療剤または予防剤。
(12)脂肪酸組成においてドコサヘキサエン酸が5%以上であるリン脂質を使用する、上記(9)〜(11)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(13)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(9)〜(12)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(14)オキアミ油を使用する、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
【0015】
本発明の更に別の側面によれば、上記(1)〜(14)のいずれかに記載の治療剤または予防剤を含有する医薬組成物が提供される。
【0016】
本発明の更に別の側面によれば、上記(1)〜(14)のいずれかに記載の治療剤または予防剤を含有する飲食品が提供される。
【0017】
本発明の別の側面によれば、以下の(15)〜(22)の使用が提供される。
(15)不安関連障害の治療または予防のための医薬の製造におけるオキアミ油の使用。
(16)オキアミ油がオキアミの熱凝固物を経て精製されたオキアミ油である、上記(15)に記載の使用。
(17)リン脂質が30%重量以上であるオキアミ油を使用する、上記(15)または(16)に記載の使用。
(18)オキアミ油の脂肪酸組成においてn−3系高度不飽和脂肪酸が15%以上である、上記(15)〜(17)のいずれかに記載の使用。
(19)オキアミ油の脂肪酸組成においてエイコサペンタエン酸が10%以上である、上記(15)〜(18)のいずれかに記載の使用。
(20)オキアミ油の脂肪酸組成においてドコサヘキサエン酸が5%以上である、上記(15)〜(19)のいずれかに記載の使用。
(21)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(15)〜(20)のいずれかに記載の使用。
(22)前記医薬がオキアミ油を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に投与するための医薬である、上記(15)〜(21)のいずれかに記載の使用。
【0018】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(23)〜(30)の方法が提供される。
(23)対象にオキアミ油を投与することを含む、不安関連障害の治療または予防の方法。
(24)オキアミ油がオキアミの熱凝固物を経て精製されたオキアミ油である、上記(23)に記載の方法。
(25)リン脂質が30%重量以上であるオキアミ油を使用する、上記(23)または(24)に記載の方法。
(26)オキアミ油の脂肪酸組成においてn−3系高度不飽和脂肪酸が15%以上である、上記(23)〜(25)のいずれかに記載の方法。
(27)オキアミ油の脂肪酸組成においてエイコサペンタエン酸が10%以上である、上記(23)〜(26)のいずれかに記載の方法。
(28)オキアミ油の脂肪酸組成においてドコサヘキサエン酸が5%以上である、上記(23)〜(27)のいずれかに記載の方法。
(29)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(23)〜(28)のいずれかに記載の方法。
(30)オキアミ油を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に投与する、上記(23)〜(29)のいずれかに記載の方法。
【0019】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(31)〜(39)の飲食品が提供される。
(31)災害時の非常用食品、または軍用の食品として使用される、オキアミ油を含有する飲食品。
(32)長期保存用の容器または包装中に収納された、上記(31)に記載の飲食品。
(33)オキアミ油がオキアミの熱凝固物を経て精製されたオキアミ油である、上記(31)または(32)に記載の飲食品。
(34)リン脂質が30%重量以上であるオキアミ油を使用する、上記(31)〜(33)のいずれかに記載の飲食品。
(35)オキアミ油の脂肪酸組成においてn−3系高度不飽和脂肪酸が15%以上である、上記(31)〜(34)のいずれかに記載の飲食品。
(36)オキアミ油の脂肪酸組成においてエイコサペンタエン酸が10%以上である、上記(31)〜(35)のいずれかに記載の飲食品。
(37)オキアミ油の脂肪酸組成においてドコサヘキサエン酸が5%以上である、上記(31)〜(36)のいずれかに記載の飲食品。
(38)心的外傷後ストレス障害の予防または治療のために用いられる、上記(31)〜(37)のいずれかに記載の飲食品。
(39)オキアミ油を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に投与するための、上記(31)〜(38)のいずれかに記載の飲食品。
【0020】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(40)〜(47)の飲食品が提供される。
(40)不安関連障害を有する患者用の飲食品として使用される、オキアミ油を含有する飲食品。
(41)長期保存用の容器または包装中に収納された、上記(40)に記載の飲食品。
(42)オキアミ油がオキアミの熱凝固物を経て精製されたオキアミ油である、上記(40)または(41)に記載の飲食品。
(43)リン脂質が30%重量以上であるオキアミ油を使用する、上記(40)〜(42)のいずれかに記載の飲食品。
(44)オキアミ油の脂肪酸組成においてn−3系高度不飽和脂肪酸が15%以上である、上記(40)〜(43)のいずれかに記載の飲食品。
(45)オキアミ油の脂肪酸組成においてエイコサペンタエン酸が10%以上である、上記(40)〜(44)のいずれかに記載の飲食品。
(46)オキアミ油の脂肪酸組成においてドコサヘキサエン酸が5%以上である、上記(40)〜(45)のいずれかに記載の飲食品。
(47)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(40)〜(46)のいずれかに記載の飲食品。
(48)オキアミ油を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に投与するための、上記(40)〜(47)のいずれかに記載の飲食品。
【0021】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(49)〜(57)の恐怖記憶の軽減方法または形成予防方法が提供される。
(49)n−6系高度不飽和脂肪酸を摂取を制限しながらn−3系高度不飽和脂肪酸を対象に安全な範囲でより多く摂取させることを含む、恐怖記憶の軽減方法または形成予防方法。
(50)n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の摂取量の重量比が0.8以上である、上記(49)に記載の方法。
(51)n−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸が脂質の構成脂肪酸に由来する不飽和脂肪酸であるか、または炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する不飽和脂肪酸である、上記(49)〜(50)のいずれかに記載の方法。
(52)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(49)〜(51)のいずれかに記載の方法。
(53)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(49)〜(52)のいずれかに記載の方法。
(54)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(49)〜(53)のいずれかに記載の方法。
(55)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(49)〜(54)のいずれかに記載の方法。
(56)脂質がオキアミ油または魚油に由来する脂質である、上記(51)〜(55)のいずれかに記載の方法。
(57)心的外傷後ストレス障害の治療または予防に使用するための上記(49)〜(56)のいずれかに記載の方法。
【0022】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(58)〜(67)の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤が提供される。
(58)n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限しながら投与するための、n−3系高度不飽和脂肪酸を含む恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(59)n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の摂取量の重量比が0.8以上となるように投与するための、上記(58)に記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(60)n−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸が脂質の構成脂肪酸に由来する不飽和脂肪酸であるか、または炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する不飽和脂肪酸である、上記(58)〜(59)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(61)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(58)〜(60)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(62)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(58)〜(61)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(63)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(58)〜(62)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(64)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(58)〜(63)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(65)脂質がオキアミ油または魚油に由来する脂質である、上記(60)〜(64)のいずれか1項に記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(66)心的外傷後ストレス障害の治療または予防に使用するための上記(58)〜(65)のいずれか1項に記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
(67)脂質を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に摂取させるための、上記(60)〜(66)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤。
【0023】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(68)の医薬組成物が提供される。
(68)上記(58)〜(67)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤を含有する医薬組成物。
【0024】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(69)〜(72)の飲食品が提供される。
(69)上記(58)〜(67)のいずれかに記載の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤を含有する飲食品。
(70)災害時の非常用食品、または軍用の食品として使用される、上記(69)に記載の飲食品。
(71)長期保存用の容器または包装中に収納された、上記(69)〜(70)のいずれかに記載の飲食品。
(72)恐怖記憶を有する患者用の食品として使用される、上記(69)〜(71)に記載の飲食品。
【0025】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(73)〜(81)のバイオマーカーが提供される。
(73)n−3系高度不飽和脂肪酸およびn−6系高度不飽和脂肪酸を含有する血液由来の脂肪酸を含み、n−3系高度不飽和脂肪酸のn−6系高度不飽和脂肪酸に対する重量比が0.8以上である、恐怖記憶関連障害の罹患リスクの判定用バイオマーカー。
(74)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(73)に記載のバイオマーカー。
(75)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(73)〜(74)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(76)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(73)〜(75)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(77)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(73)〜(76)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(78)脂肪酸が血液サンプルから得られた脂肪酸である、上記(73)〜(77)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(79)恐怖記憶関連障害が不安障害または気分障害である、上記(73)〜(78)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(80)不安障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(79)に記載のバイオマーカー。
(81)気分障害がうつ病である、上記(79)に記載のバイオマーカー。
【0026】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(82)〜(89)の恐怖記憶関連障害の診断方法が提供される。
(82)血液中のn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定すること、および測定値が基準値を上回る対象を罹患リスクが低い対象として判断することを含み、基準値は0.8以上の数値から選択される任意の数値である、恐怖記憶関連障害の罹患リスクの診断方法。
(83)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(82)に記載の診断方法。
(84)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(82)〜(83)のいずれかに記載の診断方法。
(85)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(82)〜(84)のいずれかに記載の診断方法。
(86)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(82)〜(85)のいずれかに記載の診断方法。
(87)恐怖記憶関連障害が不安障害または気分障害である、上記(82)〜(86)のいずれかに記載の診断方法。
(88)不安障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(87)に記載の診断方法。
(89)気分障害がうつ病である、上記(87)に記載の診断方法。
【0027】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(90)〜(97)の恐怖記憶関連障害の検査方法が提供される。
(90)血液中のn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定すること、および測定値が基準値を上回る対象を罹患リスクが低い対象として判断することを含み、基準値は0.8以上の数値から選択される任意の数値である、恐怖記憶関連障害の罹患リスクの検査方法。
(91)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(90)に記載の検査方法。
(92)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(90)〜(91)のいずれかに記載の検査方法。
(93)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(90)〜(92)のいずれかに記載の検査方法。
(94)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(90)〜(93)のいずれかに記載の検査方法。
(95)恐怖記憶関連障害が不安障害または気分障害である、上記(90)〜(94)のいずれかに記載の検査方法。
(96)不安障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(95)に記載の診断方法。
(97)気分障害がうつ病である、上記(95)に記載の検査方法。
【0028】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(98)のキットが提供される。
(98)上記(82)〜(89)のいずれかに記載の診断方法および/または上記(90)〜(97)のいずれかに記載の検査方法を行うための試薬を含むキット。
【0029】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(99)〜(110)の組成物が提供される。
(99)n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む脂質を含有する内因性カンナビノイドシグナル伝達経路を活性化するための組成物。
(100)脂質の脂肪酸組成においてn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比が0.8以上である、上記(99)に記載の組成物。
(101)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(99)〜(100)のいずれかに記載の組成物。
(102)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(99)〜(101)のいずれかに記載の組成物。
(103)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸であるから選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(99)〜(102)のいずれかに記載の組成物。
(104)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(99)〜(103)のいずれかに記載の組成物。
(105)脂質がオキアミ油または魚油に由来する脂質である、上記(99)〜(104)のいずれかに記載の組成物。
(106)恐怖記憶の軽減又は形成予防に使用される、上記(99)〜(105)のいずれかに記載の組成物。
(107)不安障害または気分障害の治療または予防に使用される、上記(99)〜(105)いずれかに記載の組成物。
(108)不安障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(107)に記載の組成物。
(109)気分障害がうつ病である、上記(107)に記載の組成物。
(110)組成物を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に投与するための、上記(99)〜(109)のいずれかに記載の組成物。
【0030】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(111)〜(118)の治療剤または予防剤が提供される。
(111)n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む脂質を含有し、脂肪酸組成においてn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比が0.8以上である、不安関連障害の治療剤または予防剤。
(112)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(111)に記載の治療剤または予防剤。
(113)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(111)〜(112)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(114)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(111)〜(113)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(115)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(111)〜(114)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(116)脂質がオキアミ油または魚油に由来する脂質である、上記(111)〜(115)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(117)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(111)〜(116)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
(118)脂質を50〜5000mg/50kg体重/日で対象に投与するための、上記(111)〜(117)のいずれかに記載の治療剤または予防剤。
【0031】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(119)の医薬組成物が提供される。
(119)上記(111)〜(118)のいずれかに記載の治療剤または予防剤を含有する医薬組成物。
【0032】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(120)〜(123)の飲食品が提供される。
(120)上記(111)〜(118)のいずれかに記載の治療剤または予防剤を含有する飲食品。
(121)災害時の非常用食品、または軍用の食品として使用される、上記(120)に記載の飲食品。
(122)長期保存用の容器または包装中に収納された、上記(120)〜(121)のいずれかに記載の飲食品。
(123)不安関連障害を有する患者用の食品として使用される、上記(120)〜(122)のいずれかに記載の飲食品。
【0033】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(124)〜(130)のバイオマーカーが提供される。
(124)n−3系高度不飽和脂肪酸およびn−6系高度不飽和脂肪酸を含有する血液由来の脂肪酸を含み、n−3系高度不飽和脂肪酸のn−6系高度不飽和脂肪酸に対する重量比が0.8以上である、恐怖記憶関連障害の罹患リスクの判定用バイオマーカー。
(125)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(124)に記載のバイオマーカー。
(126)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(124)〜(125)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(127)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(124)〜(126)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(128)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(124)〜(127)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(129)脂肪酸が血液サンプルから得られた脂肪酸である、上記(124)〜(128)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(130)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(124)〜(129)のいずれかに記載のバイオマーカー。
【0034】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(131)〜(136)の不安関連障害の診断方法が提供される。
(131)血液中のn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定すること、および測定値が基準値を上回る対象を罹患リスクが低い対象として判断することを含み、基準値は0.8以上の数値から選択される任意の数値である、不安関連障害の罹患リスクの診断方法。
(132)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(131)に記載の診断方法。
(133)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(131)〜(132)のいずれかに記載の診断方法。
(134)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(131)〜(133)のいずれかに記載の診断方法。
(135)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(131)〜(134)のいずれかに記載の診断方法。
(136)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(131)〜(135)のいずれかに記載の診断方法。
【0035】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(137)〜(142)の不安関連障害の検査方法が提供される。
(137)血液中のn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定すること、および測定値が基準値を上回る対象を罹患リスクが低い対象として判断することを含み、基準値は0.8以上の数値から選択される任意の数値である、不安関連障害の罹患リスクの検査方法。
(138)n−3系高度不飽和脂肪酸がα―リノレン酸、エイコタペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸から選択される1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸である、上記(137)に記載の検査方法。
(139)n−3系高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である、上記(137)〜(138)のいずれかに記載の検査方法。
(140)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸、リノール酸、γ―リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサジエン酸およびアドレン酸から選択される1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸である、上記(137)〜(139)のいずれかに記載の検査方法。
(141)n−6系高度不飽和脂肪酸がリノール酸またはアラキドン酸である、上記(137)〜(140)のいずれかに記載の検査方法。
(142)不安関連障害が心的外傷後ストレス障害である、上記(137)〜(141)のいずれかに記載の検査方法。
【0036】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(143)のキットが提供される。
(143)上記(131)〜(136)のいずれかの記載の診断方法および/または上記(137)〜(142)のいずれかに記載の検査方法を行うための試薬を含むキット。
【0037】
本発明の更に別の側面によれば、以下の(144)〜(145)の治療剤または予防剤が提供される。
(144)オキアミ油を有効成分として含有する、恐怖記憶関連障害の治療剤または予防剤。
(145)オキアミ油を有効成分として含有する、気分関連障害の治療剤または予防剤。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、不安関連障害、特にPTSDなどの心的外傷に起因する障害の処置方法が提供される。特に本発明によって、安全が高く、
食品、飲料やサプリメントなどとして継続的な摂取に適した不安関連障害の治療剤または予防剤が提供される。また、本発明により、恐怖記憶を軽減するためまたは形成を予防するための処置方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明をより具体的に記載する。
【0041】
本発明で使用するオキアミ油はオキアミを原料として調製される油であれば特に限定されない。本明細書でいうオキアミとは、節足動物門甲殻綱軟甲亜綱に属する節足動物であればよく、節足動物門甲殻綱軟甲亜綱ホンエビ上目オキアミ目に属する節足動物、例えばナンキョクオキアミ(Euphausia superba)、節足動物門甲殻綱軟甲亜綱フクロエビ上目アミ目に属する節足動物、例えば日本近海などで漁獲されるアミ類を含む。ただし漁獲量の安定性、脂質成分の均一性の点から南極オキアミが特に好ましい。
【0042】
本発明で使用するオキアミ油は公知の製造方法により入手することができる。例えばWO2000/023546A1、WO2009/027692A1、WO2010/035749A1、またはWO2010/035750A1等に記載された公知の方法を参照して製造することができる。当該国際公開公報に記載された方法によって製造することのできる脂質は、本発明において好ましく用いることができる。
【0043】
オキアミ油は、例えば上記の国際公開公報に記載された方法に従って、オキアミ由来の原料としての固形分から適切な有機溶媒を用いて抽出することによって得ることができる。適切な有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、トルエン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の単独または2種以上の組み合わせが挙げられる。その際、溶媒の混合比、または原料と溶媒の比率は任意に設定することができる。
【0044】
上記オキアミ由来の原料としての固形分は、例えば乾燥物、ミール、生のオキアミ、冷凍のオキアミの他、オキアミ全体またはその部分を圧搾することにより圧搾液を得、この圧搾液を加熱して固形分と水溶性成分を分離させることによって得ることができる。当該圧搾においては、一般的に使用される機器を用いることができ、例えば油圧式圧搾機、スクリュープレス、採肉機、プレス脱水機、遠心分離機等、またはこれらの組み合わせを用いることができる。
【0045】
上記圧搾液は、大気圧条件下、加圧条件下、または減圧条件下において、50℃以上、好ましくは70〜150℃、特に好ましくは85〜110℃で加熱してもよい。この加熱によって固形分(熱凝固物)と水溶性成分を分離させ、ろ過または遠心分離等により熱凝固物を得る。当該熱凝固物は更に、適宜乾燥して用いることができる。乾燥は、熱風乾燥、蒸気を用いる乾燥、高周波・マイクロ波加熱による乾燥、真空・減圧乾燥、凍結融解による乾燥、および乾燥剤を用いる乾燥のいずれか1つ、またはこれらの組み合わせを用いて行うことができる。乾燥する際に高温になりすぎると酸化した脂質が悪臭を発するので、乾燥は90℃以下、好ましくは75℃以下、より好ましくは55℃以下で行うとよい。乾燥により揮発性の不純物が除去されるため、好ましい。当該熱凝固物またはその乾燥品は、アスタキサンチンを含有し、本発明において好ましく適用することができる。
【0046】
また、当該オキアミ圧搾液の熱凝固物またはその乾燥品は、水洗いにより水溶性成分の濃度を低下させることができ、不純物の残存量が少ないオキアミ油を得るために適している。水洗いは熱凝固物中またはその乾燥品の乾物重量に対して4倍量、好ましくは10倍量以上の真水または海水で行うことができる。好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上洗浄するとよい。水洗いは、容器に入れた熱凝固物またはその乾燥品に対して注水し、5分以上置いてから、水分を分離することで行うことができる。熱凝固物またはその乾燥品の形状によっては十分に攪拌することも有効である。また水洗いは、容器に入れた熱凝固物またはその乾燥品を流水で洗うことで行うこともできる。
【0047】
更に、上記熱凝固物若しくはその乾燥品またはこれらの洗浄物を例えば、次のように処理することによって、ホスファチジルコリン(PC)の含量が高められた画分を得ることができる。例えば、熱凝固物若しくはその乾燥品またはこれらの洗浄物をエタノール、ヘキサン、クロロホルム、アセトン等の溶媒で処理することによって抽出油を得る。次に、当該抽出油をシリカゲル等を用いるクロマトグラフィーに供することによって不純物とリン脂質画分を分離させ、リン脂質画分を濃縮する。当該画分はPCを豊富に含有している。
【0048】
ホスファチジルセリン(PS)は、動物の組織から抽出することによって得ることもできるが、別のリン脂質を出発材料とすることによってより効率的に得ることができる。例えば、PCとセリンを、ホリパーゼDの触媒作用を利用して酵素的に反応させることによってPSを得ることができる。当該反応におけるリン脂質の使用量に対するセリンの使用量は、0.5〜3重量比、好ましくは1〜2重量比とすることができる。ホスホリパーゼDは、リン脂質1g当たり、0.05〜0.2重量比、好ましくは0.1〜0.15重量比で使用することができる。ホスホリパーゼDは、微生物由来、キャベツ等の植物由来のものを使用することができる。
【0049】
上記の酵素反応は、当該技術分野において公知の方法を用いて行うことができ、例えば35〜45℃で20〜24時間、酢酸エチル等の溶媒中で行うことができる。
【0050】
本発明において対象が摂取するオキアミ油の量は、効果を得るための有効量以上であれば特には限定されない。ここでいう有効量とは、不安関連障害を治療または予防するために必要な量をいう。例えば動物の体重1kgあたり、1日あたり、100〜10000mg/kg、好ましくは200〜5000mg/kg、特に好ましくは500〜2000mg/kgである。特にヒト成人の場合は、1日あたり50〜5000mg/50kg体重、好ましくは100〜3000mg/50kg体重、更に好ましくは150〜2000mg/50kg体重、特に好ましくは200〜1000mg/50kg体重である。ヒト成人の場合は、より顕著な効果を得るためにはより多くの量を摂取するほうが好ましいが、多すぎると油っぽくなりすぎてしまい、吸収が遅れる、消化不良になる、胃腸がもたれる、摂食を好まなくなる、などの好ましくない性質が生じる。これらの摂取量は1回当たりの摂取量としてもよく、数回、例えば2回または3回当たりの摂取量としてもよい。
【0051】
本発明で使用されるオキアミ油はリン脂質を含有しており、リン脂質の含有量としては特に限定されないが、例えば10重量%以上、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上である。また、一定以上の比率でリン脂質を含有するオキアミ油を得るためには精製が必要であるけれども、濃縮する場合にリン脂質の純度が高くなるほど粘度が高くなり精製が困難となるため、オキアミ油に含まれるリン脂質の含有量としては、例えば99重量%以下、好ましくは95重量%以下であることが望ましい。
【0052】
ここでリン脂質とは、グリセロールの3つの水酸基のうち少なくとも1つが脂肪酸とエステル結合し、他の1つの水酸基がリン酸と共有結合しているものをいう。リン酸は通常、グリセロールの1位または3位の水酸基と共有結合する。リン脂質は、細胞膜を構成する主要成分として知られており、親水性のリン酸部および疎水性の脂肪酸部を有する。リン脂質は、グリセロール骨格の1位と2位に脂肪酸部を有するジアシルグリセロリン脂質、およびリゾアシルグリセロリン脂質に分けられる。リゾアシルグリセロリン脂質としては、グリセロール骨格の1位のみに脂肪酸部を有する1−アシルグリセロリゾリン脂質、およびグリセロール骨格の2位のみに脂肪酸部を有する2−アシルグリセロリゾリン脂質に分けられる。本明細書でいうリン脂質には、これらのいずれも包含されるが、ジアシルグリセロリン脂質が特に好ましい。ジアシルグリセロリン脂質としては、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、カルジオリピン(CL)、ホスファチジン酸(PA)、およびそれらの2種以上の混合物、好ましくはPC、PE、PS、PI、PA、およびそれらの2種以上の混合物、特に好ましくはPC、PS、およびそれらの混合物が挙げられる。リゾアシルグリセロリン脂質としては、例えば1−または2−リゾPC、1−または2−リゾPE、1−または2−リゾPS、1−または2−リゾPI、1−または2−リゾPG、1−または2−リゾCL、1−または2−リゾPA、およびそれらの2種以上の混合物、好ましくは1−または2−リゾPC、1−または2−リゾPE、1−または2−リゾPS、1−または2−リゾPI、1−または2−リゾPA、およびそれらの2種以上の混合物、特に好ましくは1−または2−リゾPC、1−または2−リゾPS、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0053】
本発明で使用されるオキアミ油は、リン脂質などの脂質の脂肪酸部として、または遊離の脂肪酸として、n−3系高度不飽和脂肪酸を含有する。本明細書でいうn−3系高度不飽和脂肪酸とは、二重結合を3つ以上有し、例えば炭素数が18以上、好ましくは20以上の脂肪酸であって、脂肪酸分子のカルボキシル側とは逆の末端炭素から数えて3番目と4番目の炭素が二重結合している脂肪酸を意味する。そのような脂肪酸として、α−リノレン酸(18:3)、エイコサペンタエン酸(20:5、EPA)、ドコサペンタエン酸(22:5、DPA)、ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)等が挙げられ、好ましくはEPA、およびDHAである。本発明に使用されるオキアミ油の脂肪酸組成に占めるn−3系高度不飽和脂肪酸の割合は、脂肪酸組成比として例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。n−3系高度不飽和脂肪酸は流動性が高いため、脂質中に多く含むほど低温でのより良い物性を与える上で有効である。しかしながら、n−3系高度不飽和脂肪酸は未精製の天然素材には多くても60%程度しか含まれず、濃度を高くしようとすると濃縮のためのコストがかかることになる。したがって、本発明のリン脂質の構成脂肪酸に占めるn−3系高度不飽和脂肪酸の割合は、脂肪酸組成比として例えば100%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下であってもよい。
【0054】
本発明で使用されるオキアミ油には、例えばアスタキサンチン、ステロールなどを成分が含まれていてよく、これらの成分は必要であれば添加してもよい。アスタキサンチンは、カニやエビなどの甲殻類に一般に見出されるカロテノイドに属する化合物である。アスタキサンチンは遊離の状態で存在していても、エステル結合を介して脂質の状態で存在していてもよい。オキアミ油は、アスタキサンチンを遊離状態で例えば100〜5000ppm、好ましくは150〜3000ppm、より好ましくは200〜1000ppmで含んでいてもよい。アスタキサンチンは内在性の抗酸化剤としてn−3系高度不飽和脂肪酸の安定化に寄与するため、より多く含まれることが好ましい。ただし、アスタキサンチンが多すぎると色や風味の点で問題が生じやすくなる。オキアミ油に含まれるアスタキサンチンの量は、例えば100ppm以上、好ましくは150ppm以上、より好ましくは200ppm以上であり、例えば5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。
【0055】
オキアミ油に含まれるステロールは脂質の流動性に寄与し、有効成分の吸収に寄与する。ステロールとしては、例えば、コレステロール、シトステロール、スチグマステロールなどが挙げられる。リン脂質に含まれるステロールの合計量は、例えば10ppm以上、好ましくは50ppm以上、より好ましくは200ppm以上であり、例えば1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは350ppm以下である。
【0056】
本発明の1つの態様において、オキアミ油の脂肪酸組成におけるエイコサペンタエン酸は、例えば5%以上であり、好ましくは7%以上であり、より好ましくは10%以上である。本発明の別の態様において、オキアミ油の脂肪酸組成におけるドコサヘキサエン酸は、例えば1%以上であり、好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上である。
【0057】
本発明で使用されるオキアミ油は、好ましくは脂肪酸部にn−3系高度不飽和脂肪酸、好ましくはEPA、またはDHAを有するリン脂質を含有する。本発明に使用されるリン脂質の構成脂肪酸に占めるn−3系高度不飽和脂肪酸の割合は、脂肪酸組成比として例えば30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上であり、例えば100%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。
【0058】
本発明の1つの態様において、n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むリン脂質を有効成分として含有する、不安関連障害の治療剤または予防剤が提供される。ここでn−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むリン脂質は、グリセロール骨格の1位と2位に脂肪酸部を有するジアシルグリセロリン脂質、またはリゾアシルグリセロリン脂質であってもよく、リゾアシルグリセロリン脂質は、グリセロール骨格の1位のみに脂肪酸部を有する1−アシルグリセロリゾリン脂質、またはグリセロール骨格の2位のみに脂肪酸部を有する2−アシルグリセロリゾリン脂質であってもよい。本発明で使用するリン脂質としては、ジアシルグリセロリン脂質が特に好ましい。ジアシルグリセロリン脂質、およびリゾアシルグリセロリン脂質としては、本明細書で既に述べたとおりである。
【0059】
リン脂質は、脂肪酸部に含まれるn−3系高度不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸(18:3)、エイコサペンタエン酸(20:5、EPA)、ドコサペンタエン酸(22:5、DPA)、ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)などが挙げられ、好ましくはEPA、およびDHAが挙げられる。本発明に使用されるリン脂質の構成脂肪酸に占めるn−3系高度不飽和脂肪酸の割合は、脂肪酸組成比として例えば30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上であり、脂肪酸組成比として例えば100%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下であってもよい。
【0060】
本発明の1つの態様において、n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限しながらn−3系高度不飽和脂肪酸を対象に摂取させることを含む、恐怖記憶の軽減方法または形成予防方法が提供される。ここでいうn−3系高度不飽和脂肪酸とは、本明細書で既に述べたとおりである。また本明細書でいうn−6系高度不飽和脂肪酸とは、二重結合を2つ以上有し、例えば炭素数が18以上、好ましくは20以上の脂肪酸であって、脂肪酸分子のカルボキシル基側とは逆の末端炭素から数えて6番目と7番目の炭素が二重結合している脂肪酸を意味する。そのような脂肪酸として、リノール酸(18:2、LA)、γ―リノレン酸(18:3)、エイコサジエン酸(20:2)、ジホモ−γ−リノレン酸(20:3)、アラキドン酸(20:4、AA)、ドコサジエン酸(22:2)、アドレン酸(22:4)が挙げられる。なお、本発明の技術分野において、n−3系高度不飽和脂肪酸のことをω3系高度不飽和脂肪酸、およびn−6系高度不飽和脂肪酸のことをω6系高度不飽和脂肪酸と称することがあり、本明細書においてもn−3系高度不飽和脂肪酸のことをω3系高度不飽和脂肪酸、およびn−6系高度不飽和脂肪酸のことをω6系高度不飽和脂肪酸と称することがある。
【0061】
本発明で対象に摂取されるn−3系高度不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸(18:3)、エイコサペンタエン酸(20:5、EPA)、ドコサペンタエン酸(22:5、DPA)、ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)などが挙げられ、好ましくはEPAまたはDHAが挙げられる。また摂取が制限されるn−6系高度不飽和脂肪酸としては、リノール酸(18:2、LA)、γ―リノレン酸(18:3)、エイコサジエン酸(20:2)、ジホモ−γ−リノレン酸(20:3)、アラキドン酸(20:4、AA)、ドコサジエン酸(22:2)、アドレン酸(22:4)などが挙げられ、好ましくはLAまたはAAが挙げられる。
【0062】
本発明におけるn−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限する方法は、対象が摂取する物質中のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量比を調整することにより行われる。具体的には、対象が摂取する物質中のn−6系高度不飽和脂肪酸の含有量を低減することにより、n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限する。厚生労働省が発表した日本人の食事摂取基準(2010年版)(非特許文献18)によれば、総エネルギー摂取量に占める割合をエネルギー比率(%E)とすると、n−6系高度不飽和脂肪酸の1日摂取量の目安量は、約5%E,上限値は、10%Eとしている。なお、n−6系高度不飽和脂肪酸は、必須脂肪酸であり、これが不足すると欠乏症となるため、少なくとも2%Eは摂取する必要がある。例えば、n−6系高度不飽和脂肪酸は、最小限度量として4.8〜7.2g/日の量が想定されうる。一方、n−3系高度不飽和脂肪酸の1日摂取量の目安量は、約1%Eとしている。なお、エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸をあわせて1日1g以上摂取することを推奨している。日本においても食の欧米化が進み、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の摂取割合(ω3/ω6比)は、約0.1−0.2とかなり低く、n−6系高度不飽和脂肪酸摂取の割合が非常に高くなっている。日本の伝統的な和食の場合、ω3/ω6比は、約0.4-0.5とn−3系高度不飽和脂肪酸の摂取割合が現在と比較して高かった(非特許文献19)。
対象に摂取させる物質は、食品、飲料、サプリメントな
どの形態で対象に提供されることが好ましい。本発明で対象に不飽和脂肪酸を摂取させる場合、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の摂取量の重量比は、重量比として0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上であり、n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取量を必要最小限に抑え、n−3系高度不飽和脂肪酸を安全の範囲でより多く摂取させることが特に好ましい。不飽和脂肪酸の重量比は、通常の使用されている方法を用いて決定することができ、例えばLiparge G.とRoy C.Cの方法(J. Lipid Res., 27, 114-120, 1986)が挙げられる。不飽和脂肪酸の重量比を測定する方法は、特に限定されるものではなく、通常使用されている測定装置を使用することにより測定することができる。例えばガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)など、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)により不飽和脂肪酸の重量比を測定することができる。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
【0063】
本発明で使用されるn−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸は、脂質の構成脂肪酸に由来する不飽和脂肪酸であるか、またはn−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸の炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する不飽和脂肪酸であることが好ましい。ここで、不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として有する脂質とは、グリセロールの3つの水酸基のうち少なくとも1つがn−3系高度不飽和脂肪酸またはn−6系高度不飽和脂肪酸とエステル結合しているものをいう。また不飽和脂肪酸を構成脂肪酸と有する脂質は、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドのいずれの形態であってもよい。更に不飽和脂肪酸を構成脂肪酸と有する脂質としては、オキアミ油、魚油、アマニ油、大豆油、シソ油、植物油(大豆由来リン脂質、ナタネ由来リン脂質)、動物性抽出物(卵黄由来リン脂質)、海洋性抽出物(イカ抽出物由来リン脂質、魚抽出物由来リン脂質、オキアミ抽出物リン脂質)などに由来する脂質を用いることができ、オキアミ油または魚油に由来する脂質が好ましい。
【0064】
そしてn−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸の炭素数1〜6のアルキルエステルとは、炭素数1〜6のアルコールの水酸基のうち少なくとも1つがn−3系高度不飽和脂肪酸またはn−6系高度不飽和脂肪酸とエステル結合しているものをいう。ここで、上記アルキルエステルをとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、およびヘキシルエステルまたはこれらの構造異性体が挙げられ、好ましくはメチルエステルまたはエチルエステル、より好ましくはエチルエステルが挙げられる。上記アルキルエステルを構成する炭素数1〜6のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノールまたはこれらの構造異性体などが挙げられ、好ましくはメタノールまたはエタノール、より好ましくはエタノールが挙げられる。
【0065】
本発明によれば、対象が摂取するn−3系高度不飽和脂肪酸とn−6系高度不飽和脂肪酸の重量比を調整することによって、効率的にカンナビノイドシグナル伝達系を亢進することができ、恐怖記憶の軽減または形成を予防することができる。更に本発明の恐怖記憶の軽減方法または形成予防方法は、心的外傷後ストレス障害の治療または予防にも使用することができる。
【0066】
本発明の1つの態様において、n−3系高度不飽和脂肪酸を含み、n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限しながらn−3系高度不飽和脂肪酸を対象に摂取させるための恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤が提供される。
【0067】
本発明で用いられるn−3系高度不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸(18:3)、エイコサペンタエン酸(20:5、EPA)、ドコサペンタエン酸(22:5、DPA)、ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)などが挙げられ、好ましくはEPAまたはDHAが挙げられる。また摂取が制限されるn−6系高度不飽和脂肪酸としては、リノール酸(18:2、LA)、γ―リノレン酸(18:3)、エイコサジエン酸(20:2)、ジホモ−γ−リノレン酸(20:3)、アラキドン酸(20:4、AA)、ドコサジエン酸(22:2)、アドレン酸(22:4)などが挙げられ、好ましくはLAまたはAAが挙げられる。
【0068】
本発明におけるn−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限する方法は、特に制限されないが、例えば、食事などにより摂取する脂質中のn−6系高度不飽和脂肪酸の量を制限すること、または恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤中のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量比を調整することなどにより行われる。具体的には、恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤中のn−6系高度不飽和脂肪酸の含有量を低減することにより、n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限する。
恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤は、食品、飲料、サプリメントな
どの形態で対象に提供されることが好ましい。本発明でn−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限しながらn−3系高度不飽和脂肪酸を対象に摂取させる場合、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の摂取量の重量比は、重量比として0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上となるように対象に不飽和脂肪酸を摂取させる。n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取量を必要最小限に抑え、n−3系高度不飽和脂肪酸を安全の範囲でより多く摂取させることが特に好ましい。不飽和脂肪酸の重量比を決定する方法および不飽和脂肪酸の重量比を測定する方法は、本明細書で既に述べた通りである。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
【0069】
本発明で使用されるn−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸は、脂質の構成脂肪酸に由来する不飽和脂肪酸であるか、またはn−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸の炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する不飽和脂肪酸であることが好ましい。ここで、不飽和脂肪酸を構成脂肪酸と有する脂質ならびに不飽和脂肪酸を有するn−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸の炭素数1〜6のアルキルエステルとは、本明細書で既に述べた通りである。
【0070】
本発明において対象が摂取するn−3系高度不飽和脂肪酸の量は、効果を得るための有効量以上であれば特には限定されない。例えば動物の体重1kgあたり、1日あたり、15〜1500mg/kg、好ましくは30〜750mg/kg、特に好ましくは75〜300mg/kgである。特にヒト成人の場合は、1日あたり7.5〜750mg/50kg体重、好ましくは15〜450mg/50kg体重、更に好ましくは23〜300mg/50kg体重、特に好ましくは30〜150mg/50kg体重である。n−3系高度不飽和脂肪酸は本発明の組成物や薬剤で摂取され
るほかに、食事などからも摂取されうる。
【0071】
本発明において摂取が制限されるn−6系高度不飽和脂肪酸の摂取量は、例えば動物の体重1kgあたり、1日あたり、15〜1900mg/kg、好ましくは30〜940mg/kg、特に好ましくは75〜400mg/kgである。特にヒト成人の場合は、1日あたり7.5〜940mg/50kg体重、好ましくは15〜570mg/50kg体重、更に好ましくは23〜380mg/50kg体重、特に好ましくは30〜190mg/50kg体重である。n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取の制限は、例えば食事からの摂取の制限などにより行うことができる。 本発明によれば、対象が摂取するn−3系高度不飽和脂肪酸とn−6系高度不飽和脂肪酸の重量比を調整することによって、効率的にカンナビノイドシグナル伝達系を亢進することができ、恐怖記憶の軽減または形成を予防することができる。更に本発明の恐怖記憶の軽減剤または形成予防剤は、心的外傷後ストレス障害の治療または予防にも使用することができる。
【0072】
本発明の1つの態様において、n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む脂質を含有するカンナビノイドシグナル伝達経路を活性化するための組成物が提供される。
【0073】
本発明のカンナビノイドシグナル伝達経路を活性化するための組成物は、n−3系高度不飽和脂肪酸を含有する。また組成物中にn−6系高度不飽和脂肪酸が含まれない場合が特に好ましいが、組成物中にn−6系高度不飽和脂肪酸が含有される場合、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、例えば0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上である。ここで、本発明の組成物に用いられるn−3系高度不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸(18:3)、エイコサペンタエン酸(20:5、EPA)、ドコサペンタエン酸(22:5、DPA)、ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)などが挙げられ、好ましくはEPAまたはDHAが挙げられる。n−6系高度不飽和脂肪酸としては、リノール酸(18:2、LA)、γ―リノレン酸(18:3)、エイコサジエン酸(20:2)、ジホモ−γ−リノレン酸(20:3)、アラキドン酸(20:4、AA)、ドコサジエン酸(22:2)、アドレン酸(22:4)などが挙げられ、好ましくはLAまたはAAが挙げられる。
【0074】
更にn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定する方法は、特に限定されるものではなく、通常の使用されている測定装置を使用することにより測定することができる。例えばガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)など、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)により脂質中の構成脂肪酸を測定することができる。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
【0075】
本発明によれば、組成物中のn−3系高度不飽和脂肪酸とn−6系高度不飽和脂肪酸の重量比を調整することによって、効率的に内因性カンナビノイドを亢進することができ、恐怖記憶を軽減または形成を予防することができる。更に本発明の組成物は、心的外傷後ストレス障害などの不安障害またはうつ病などの気分障害の治療または予防に使用することができる。
【0076】
本発明の1つの態様において、n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む脂質を含有し、脂質の脂肪酸組成においてn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比が0.8以上である、不安関連障害の治療剤または予防剤が提供される。
【0077】
本発明に使用される脂質は、オキアミ油または魚油などに由来する脂質であり、脂質の構成脂肪酸として、n−3系高度不飽和脂肪酸を含有する。また本発明に使用される脂質は、n−6系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有してもよく、含有しなくてもよい。本発明で使用される脂質がn−3系高度不飽和脂肪酸とn−6系高度不飽和脂肪酸で構成される場合、脂質の構成脂肪酸に占めるn−3系高度不飽和脂肪酸とn−6系高度不飽和脂肪酸の重量比は、脂肪酸組成比(重量比)として例えば0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上、脂質の構成脂肪酸にn−6系高度不飽和脂肪酸が含まれない場合が特に好ましい。本発明は、n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取を制限しながらn−3系高度不飽和脂肪酸を対象に摂取させるために使用することができる。その場合、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の摂取量の重量比は、重量比として0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上となるように対象に不飽和脂肪酸を摂取させる。n−6系高度不飽和脂肪酸の摂取量を必要最小限に抑え、n−3系高度不飽和脂肪酸を安全の範囲でより多く摂取させることが特に好ましい。脂質の構成脂肪酸に占める脂肪酸組成比は、通常の使用されている方法を用いて決定することができ、例えばLiparge G.とRoy C.Cの方法(J. Lipid Res., 27, 114-120, 1986)が挙げられる。脂質中の構成脂肪酸を測定する方法は、特に限定されるものではなく、通常の使用されている測定装置を使用することにより測定することができる。例えばガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)など、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)により脂質中の構成脂肪酸の重量比を測定することができる。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
である。
【0078】
脂質の構成脂肪酸部に含まれるn−3系高度不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸(18:3)、エイコサペンタエン酸(20:5、EPA)、ドコサペンタエン酸(22:5、DPA)、ドコサヘキサエン酸(22:6、DHA)などが挙げられ、好ましくはEPAまたはDHAが挙げられる。また脂質の構成脂肪酸部に含まれるn−6系高度不飽和脂肪酸としては、リノール酸(18:2、LA)、γ―リノレン酸(18:3)、エイコサジエン酸(20:2)、ジホモ−γ−リノレン酸(20:3)、アラキドン酸(20:4、AA)、ドコサジエン酸(22:2)、アドレン酸(22:4)などが挙げられ、好ましくはLAまたAAが挙げられる。
【0079】
更にn−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む脂質を含有する組成物は、効率的に内因性カンナビノイドを亢進することができ、心的外傷後ストレス障害などの不安関連障害の治療または予防に使用することができる。
【0080】
上記のようなn−3系高度不飽和脂肪酸および/またはn−6系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むリン脂質を含有する素材は、いずれも本発明のリン脂質として使用することができる。すなわち、当該リン脂質は、例えば天然由来の他の成分を含有するリン脂質であってもよく、リン脂質の純度として例えば10重量%以上、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上のリン脂質を使用してもよい。本発明のリン脂質として使用できる素材としては、例えば、魚介類抽出物、動物抽出物、卵黄抽出物、植物抽出物、菌類抽出物等、具体的にはオキアミ油、魚油、魚抽出物、イカ抽出物、カツオ卵巣抽出物、n−3系高度不飽和脂肪酸を配合した飼料を与えた動物の抽出物またはその動物の卵黄抽出物、アマニ油、遺伝子組み換えをした植物の抽出物等、ラビリンチュラ類の抽出物等が挙げられる。特にリン脂質を多く含む素材として、オキアミ油、イカ抽出物、カツオ卵巣抽出物が挙げられる。当該技術分野において一般的に知られている濃縮、抽出、および/または精製、配合等の技術を用いることによって、これらの素材中の脂質濃度や純度を任意に調節することができる。例えば、n−3系高度不飽和脂肪酸を含むオキアミ油、魚油、アマニ油、大豆油、シソ油と、脂質を含むオキアミ油、植物油(大豆由来リン脂質、ナタネ由来リン脂質)、動物性抽出物(卵黄由来リン脂質)、海洋性抽出物(イカ抽出物由来リン脂質、魚抽出物由来リン脂質、オキアミ抽出物リン脂質)等を適宜配合することによってn−3系高度不飽和脂肪酸を高い濃度で含むリン脂質を製造することができる。本発明は、n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むリン脂質を有効成分として含有していてもよい。リン脂質として、例えば、オキアミ由来の成分(オキアミの粉砕物、オキアミミール、オキアミの剥き身など)を使用することができる。
【0081】
経口摂取されたリン脂質は、遊離脂肪酸とリゾアシルグリセロリン脂質、ホスファチジン酸またはリゾホスファチジン酸に加水分解される。これら加水分解物は、胆汁酸とともに胆汁酸ミセルを形成することによって溶解する。小腸上皮細胞は、この胆汁酸ミセルから加水分解物を取り込み、取り込まれた前記加水分解物からトリアシルグリセロールやジアシルグリセロリン脂質が再合成される。従って、遊離の高度不飽和脂肪酸が生体に摂取されると、胆汁酸とのミセル形成を経て小腸上皮細胞に取り込まれ、生体内にあるグリセロールおよび/またはリン酸と結合することによって、再度トリアシルグリセロールおよび/またはジアシルグリセロリン脂質の構成脂肪酸として取り込まれる。このため、n−3系高度不飽和脂肪酸と共にリン脂質またはトリアシルグリセロールを摂取することにより、生体内で再合成されるリン脂質またはトリアシルグリセロールに占めるn−3系高度不飽和脂肪酸を含有するリン脂質の割合を高めることができ、より高い効果を得ることができる。
【0082】
例えば、n−3系高度不飽和脂肪酸と共にリン脂質を摂取させる場合には、それぞれを含有する油脂を適宜配合した脂質を用いてもよいし、n−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むリン脂質を用いてもよいが、吸収のしやすさ、物質としての安定性、品質管理のしやすさからn−3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含むリン脂質が特に好ましい。
【0083】
本発明において対象が摂取するリン脂質の量は、効果を得るための有効量以上であれば特には限定されない。ここでいう有効量とは、不安関連障害を治療または予防するために必要な量をいう。例えば動物の体重1kgあたり、1日あたり、100〜10000mg/kg、好ましくは200〜5000mg/kg、特に好ましくは500〜2500mg/kgである。特にヒト成人の場合は、1日あたり50〜5000mg/50kg体重、好ましくは100〜3000mg/50kg体重、更に好ましくは150〜2000mg/50kg体重、特に好ましくは200〜1000mg/50kg体重である。ヒト成人の場合は、より顕著な効果を得るためにはより多くの量を摂取するほうが好ましいが、多すぎると油っぽくなりすぎてしまい、吸収が遅れる、消化不良になる、胃腸がもたれる、摂食を好まなくなる、などの好ましくない性質が生じる。これらの摂取量は1回当たりの摂取量としてもよく、数回、例えば2回または3回当たりの摂取量としてもよい。
【0084】
本発明で使用されるリン脂質には、オキアミ油に含まれる他の成分、例えばアスタキサンチン、ステロールなどを適宜添加してもよい。本発明の治療剤または予防剤に使用されるリン脂質は、アスタキサンチンを遊離状態で例えば100〜5000ppm、好ましくは150〜3000ppm、より好ましくは200〜1000ppmで含んでいてもよい。リン脂質に含まれるアスタキサンチンの量は、例えば100ppm以上、好ましくは150ppm以上、より好ましくは200ppm以上であり、例えば5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。ステロールとしては、例えば、コレステロール、シトステロール、スチグマステロールなどが挙げられる。リン脂質に含まれるステロールの合計量は、例えば10ppm以上、好ましくは50ppm以上、より好ましくは200ppm以上であり、例えば1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは350ppm以下である。
【0085】
本発明は恐怖記憶関連障害、特に不安関連障害の心的外傷に起因する障害に適用することができる。不安関連障害の例としては、各種恐怖症(例えば、広場恐怖症、閉所恐怖症、暗所恐怖症、高所恐怖症、低所恐怖症、失敗恐怖症、飛行機恐怖症、身体醜形障害、嘔吐恐怖症、対人恐怖症、男性恐怖症、女性恐怖症、動物恐怖症、植物恐怖症、クモ恐怖症、先端恐怖症など)、パニック障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害(ASD)などが挙げられる。心的外傷に起因する障害として、例えば心的外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害(ASD)などが挙げられる。特に本発明は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に適用することができる。
【0086】
本発明の治療剤または予防剤は、必要に応じ、従来公知の着色剤、保存剤、香料、風味剤、コーティング剤、抗酸化剤、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、およびミネラル分(鉄、亜鉛、マグネシム、ヨードなど)などの成分を含有していてもよい。
【0087】
ここで、抗酸化剤の例としては、トコフェロール、乾燥酵母、グルタチオン、リポ酸、ケルセチン、カテキン、コエンザイムQ10、エンゾジノール、プロアントシアニジン類、アントシアニジン、アントシアニン、カロチン類、リコピン、フラボノイド、リザベラトロール、イソフラボン類、亜鉛、メラトニン、イチョウ葉、月桃葉、ハイビスカス、ビタミンC群又はそれらの抽出物が挙げられる。
【0088】
具体的態様として、トコフェロールは、1日の摂取量が0.50〜650mg/kg体重、好ましくは5〜500mg/kg体重、より好ましくは50〜300mg/kg体重となるように配合される。
【0089】
別の具体的態様として、カテキンは、1日の摂取量が1〜5000mg/kg体重、好ましくは10〜3000mg/kg体重、より好ましくは100〜1000mg/kg体重となるように配合される。
【0090】
別の具体的態様として、ビタミンC群は、1日の摂取量が1〜1000mg/kg体重、好ましくは10〜800mg/kg体重、より好ましくは100〜500mg/kg体重となるように配合される。
【0091】
ビタミンの例としては、ビタミンA群(例えば、レチナール、レチノール、レチノイン酸、カロチン、デヒドロレチナール、リコピン、およびそれらの塩)、ビタミンB群(例えば、チアミン、チアミンジスルフィド、ジセチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン、ピリドキサール、ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミン、メチルコバラミン、デオキシアデノコバラミン、葉酸、テトラヒドロ葉酸、ジヒドロ葉酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチニックアルコール、パントテン酸、パンテノール、ビオチン、コリン、イノシトール、パンガミン酸およびそれらの塩、ビタミンC群(アスコルビン酸およびその誘導体、エリソルビン酸およびその誘導体、および薬理学的に許容されるそれらの塩)、ビタミンD群(例えば、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、ヒドロキシコレカルシフェロール、ジヒドロキシコレカルシフェロール、ジヒドロタキステロール、および薬理学的に許容されるそれらの塩)、ビタミンE群(例えば、トコフェロールおよびその誘導体、ユビキノン誘導体およびそれらの薬理学的に許容される塩)、その他のビタミン(例えば、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、オロチン酸、ルチン(ビタミンP)、エリオシトリン、ヘスペリジン、および薬理学的に許容されるそれらの塩が挙げられる。
【0092】
アミノ酸の例としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、トレオニン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、チロシン、システイン、ヒスチジン、オルニチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、グリシルグリシン、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、シスチン、又は薬理学的に許容されるそれらの塩が挙げられる。
【0093】
本発明の治療剤または予防剤は、医薬組成
物に適した形態、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、または内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製してもよい。また、本発明の治療剤または予防剤は、そのまま、医薬組成物
、機能性食品、健康食品、サプリメントなどとして使用することもできる。
【0094】
製剤化のための添加物としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、粘稠剤、pH調整剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤が挙げられる。また、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にしたり、ペースト状の膠剤とすることもできる。更に、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0095】
更に、本発明の治療剤または予防剤は、例えば、飲料、菓子類、パン類、スープ類などの各種飲食品またはその添加成分として使用することができる。これらの飲食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0096】
更に、本発明の治療剤または予防剤は、例えば、飲料、菓子類、パン類、スープ類などの各種飲食品またはその添加成分として使用することができる。これらの飲食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0097】
本発明が飲食品の形態を取る場合、当該飲食品は特に限定されず、例えば、一般的なレトルト食品、冷凍食品、インスタント食品(ヌードルなど)、缶詰、ソーセージなどの他に、例えば、クッキー、ビスケット、シリアルバー、クラッカー、スナック(ポテトチップなど)、ペストリー、ケーキ、パイ、キャンデー、チューインガム(ペレットおよびスティックを含む)、ゼリー、スープ、アイス、ドレッシング、ヨーグルトなど、および錠剤、カプセル剤、エマルションなどの形態のサプリメント、清涼飲料などが含まれる。
【0098】
特に、災害時の非常用食品、または軍用の食品として対象による摂取の便宜を図るために、本発明の飲食品は長期保存用の容器または包装中に収納されるのが好ましい。そのような飲食品の例としては、ガラス容器、樹脂容器、金属容器中に密封された飲食品、または樹脂素材または金属素材などの機密性の高い素材により包装された飲食品などが挙げられる。
【0099】
本発明の治療効果または予防効果を、包装容器、製品の説明書、パンフレットに表示して本発明の係る製品を販売することは本発明の範囲に含まれる。またテレビ、インターネットのウェブサイト、パンフレット、新聞、雑誌などに本発明の効果を表示して、本発明に係る製品を宣伝・販売することも本発明の範囲に含まれる。
【0100】
本発明の更なる側面によれば、恐怖記憶に関連する障害、特に心的外傷後ストレス障害などの不安障害またはうつ病などの気分障害の罹患リスクを判定する際に用いられるn−3系高度不飽和脂肪酸を含む恐怖記憶関連障害の罹患リスクの判定用バイオマーカーが提供される。本発明のバイオマーカーはn−3系高度不飽和脂肪酸のn−6系高度不飽和脂肪酸に対する重量比を測定し、基準値と比較してバイオマーカーの重量比が基準値を上回る場合には、恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクが低いものと判定される。ここで本発明で用いられる基準値は、恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクを判定する際に用いられるものであり、例えば0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上から選択される任意の数値である。例えば基準値を0.8とした場合、重量比が0.8を上回る場合には、対象が恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクが低いものと判定される。一方、前記基準値を下回る対象は恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクが相対的に高い対象と判定される。本発明における対象は、哺乳動物、例えばヒト、ウシ、ウマ、ネコ、マウス、ラットなど、好ましくはヒトである。
【0101】
本発明のバイオマーカーに含まれるn−3系高度不飽和脂肪酸およびn−6系高度不飽和脂肪酸は、本明細書で既に述べたとおりである。そしてバイオマーカーを構成する脂肪酸は血液サンプルから得られた脂質や遊離脂肪酸などに由来する脂肪酸であることが好ましい。更にn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定する方法は、特に限定されるものではなく、通常の使用されている測定装置を使用することにより測定することができる。例えばガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)など、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)により脂肪酸の重量比を測定することができる。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
【0102】
本発明の更なる側面によれば、恐怖記憶に関連する障害、特に心的外傷後ストレス障害などの不安障害またはうつ病などの気分障害に罹患するリスクを診断する方法および検査する方法が提供される。本発明の診断方法および検査方法は、血液中のn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比、好ましくはアラキドン酸(AA)に対するエイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA)の重量比を測定することを含み、得られた測定値が基準値を上回る対象は恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクが低い対象として判断される。ここで本発明で用いられる基準値は、恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクを判定する際に用いられるものであり、例えば0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上から選択される任意の数値である。例えば基準値を0.8とした場合、重量比が0.8を上回る場合には、対象が恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクが低いものとして判断される。一方、前記基準値を下回る対象は恐怖記憶に関連する障害に罹患するリスクが相対的に高い対象として判断される。本発明における対象は、哺乳動物、例えばヒト、ウシ、ウマ、ネコ、マウス、ラットなど、好ましくはヒトである。
【0103】
本発明の診断方法および検査方法において測定の対象となるn−3系高度不飽和脂肪酸およびn−6系高度不飽和脂肪酸は、本明細書で既に述べたとおりである。またn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、通常の使用されている方法を用いて決定することができ、例えばLiparge G.とRoy C.Cの方法(J. Lipid Res., 27, 114-120, 1986)が挙げられる。n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定する方法は、特に限定されるものではなく、通常の使用されている測定装置を使用することにより測定することができる。例えばガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)など、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)により脂肪酸の重量比を測定することができる。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
【0104】
本発明の更なる側面によれば、本発明の診断方法および/または検査方法を行うための試薬を含むキットが提供される。キットには、血液中の脂質を脂肪酸に分解することができる試薬、例えば酸、アルカリまたは加水分解酵素など、ならびに診断および/または検査を行う際に使用するその他の試薬、例えば溶媒、緩衝液などを含めてもよい。更にキットには、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定する際に用いられる器具ないし装置、例えば容器、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)などを含めてもよい。なお、本発明のキットには取り扱い説明書が添付されていてもよい。
【0105】
本発明の更なる側面によれば、不安関連障害、特に心的外傷に起因する障害の罹患リスクを判定する際に用いられるn−3系高度不飽和脂肪酸を含む恐怖記憶関連障害の罹患リスクの判定用バイオマーカーが提供される。本発明のバイオマーカーはn−3系高度不飽和脂肪酸のn−6系高度不飽和脂肪酸に対する重量比を測定し、基準値と比較してバイオマーカーの重量比が基準値を上回る場合には、不安関連障害に罹患するリスクが低いものと判定される。ここで本発明で用いられる基準値は、不安関連障害に罹患するリスクを判定する際に用いられるものであり、例えば0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上から選択される任意の数値である。例えば基準値を0.8とした場合、重量比が0.8を上回る場合には、対象が不安関連障害に罹患するリスクが低いものと判定される。一方、前記基準値を下回る対象は不安障害に罹患するリスクが相対的に高い対象と判定される。本発明における対象は、哺乳動物、例えばヒト、ウシ、ウマ、ネコ、マウス、ラットなど、好ましくはヒトである。
【0106】
本発明のバイオマーカーに含まれるn−3系高度不飽和脂肪酸およびn−6系高度不飽和脂肪酸は、本明細書で既に述べたとおりである。そしてバイオマーカーを構成する脂肪酸は血液サンプルから得られた脂質や遊離脂肪酸などに由来する脂肪酸であることが好ましい。更にn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定する方法は、特に限定されるものではなく、通常の使用されている測定装置を使用することにより測定することができる。例えばガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)など、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)により脂肪酸の重量比を測定することができる。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
【0107】
本発明の更なる側面によれば、対象が不安関連障害、特に心的外傷に起因する障害に罹患するリスクを診断する方法および検査する方法が提供される。本発明の診断方法および検査方法は、血液中のn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比、好ましくはアラキドン酸(AA)に対するエイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA)の重量比を測定することを含み、得られた測定値が基準値を上回る対象は不安関連障害に罹患するリスクが低い対象として判断される。ここで本発明で用いられる基準値は、不安関連障害に罹患するリスクを判定する際に用いられるものであり、例えば0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上から選択される任意の数値である。例えば基準値を0.8とした場合、重量比が0.8を上回る場合には、対象が不安関連障害に罹患するリスクが低いものとして判断される。一方、前記基準値を下回る対象は不安関連障害に罹患するリスクが相対的に高い対象として判断される。本発明における対象は、哺乳動物、例えばヒト、ウシ、ウマ、ネコ、マウス、ラットなど、好ましくはヒトである。
【0108】
本発明の診断方法および検査方法において測定の対象となるn−3系高度不飽和脂肪酸およびn−6系高度不飽和脂肪酸は、本明細書で既に述べたとおりである。またn−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、通常の使用されている方法を用いて決定することができ、例えばLiparge G.とRoy C.Cの方法(J. Lipid Res., 27, 114-120, 1986)が挙げられる。n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定する方法は、特に限定されるものではなく、通常の使用されている測定装置を使用することにより測定することができる。例えばガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)など、好ましくはガスクロマトグラフィー(GC)により脂肪酸の重量比を測定することができる。ここで、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比は、測定されたn−6系高度不飽和脂肪酸の総重量に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の総脂肪酸の総重量の比、またはいずれか1以上のn−6系高度不飽和脂肪酸の重量に対するいずれか1以上のn−3系高度不飽和脂肪酸の重量の比である。
【0109】
本発明の更なる側面によれば、本発明の診断方法および/または検査方法を行うための試薬を含むキットが提供される。キットには、血液中の脂質を脂肪酸に分解することができる試薬、例えば酸、アルカリまたは加水分解酵素など、ならびに診断および/または検査を行う際に使用するその他の試薬、例えば溶媒、緩衝液などを含めてもよい。更にキットには、n−6系高度不飽和脂肪酸に対するn−3系高度不飽和脂肪酸の重量比を測定する際に用いられる器具ないし装置、例えば容器、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析計(MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)などを含めてもよい。なお、本発明のキットには取り扱い説明書が添付されていてもよい。
【実施例】
【0110】
以下に示す実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0111】
[オキアミ油の製造]
使用したオキアミ油は、国際公報2010/035750に記載されている方法により、ナンキョクオキアミから抽出して調製した。使用したオキアミ油の成分および脂肪酸組成を表1および表2に示す。脂肪酸組成の分析は、日本食品分析センターに依頼して行った。一般成分の分析は、水分(AOAC 984.20)、酸価(AOAC 969.17)、過酸化物価(AOAC 965.33)、アスタキサンチン(フリー型、HPLC)、総リン脂質(カラム分離法)で各々行った。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
[試験例1]恐怖条件付け試験(1)
マウスは、人間同様に恐怖・嫌悪記憶を蓄積することが報告されている(Nature 406 722-726, 2000)。本発明者らは、マウスにおける恐怖記憶の評価系として広汎に用いられている「恐怖条件付け実験」(J Neurosci
27 158-166, 2007)によって、恐怖記憶に対する食品成分の作用を評価した。
【0115】
本例では、マウスに対する標準飼料のひとつであるAIN−93G固形飼料の脂肪成分である大豆油(飼料総重量の7%含有)の一部を、上記のオキアミ油で置き換えた固形飼料を作成した。該置換により、飼料総重量中オキアミ油を2.5%含有する飼料(大豆油4.5%含有)、5%含有する飼料(大豆油2%含有)を作成した(それぞれ2.5%オキアミ飼料、5%オキアミ飼料と称する)。それぞれの飼料中の脂肪酸組成を表3に示した。脂肪酸組成の分析は、日本食品分析センターに依頼して行った。
【0116】
【表3】
【0117】
本例では、生後6週目から6週間実験マウスを標準飼料、2.5%オキアミ飼料、5%オキアミ飼料で飼育した。なお、これら飼料での給餌開始までの期間、該マウスは日本クレア社製CE2固形飼料で飼育された。
【0118】
底面に伝導性金属グリッドが張り巡らされている底面20cm×20cm×高さ33cmのアクリル樹脂性立方体実験箱を条件付けのための新規環境とし、マウスを実験箱に導入後、底面グリッドより電気ショック(0.8mA、2s)を与えて条件付けを行った。マウスは電気ショックにより強烈な痛みを感じ、該新規環境に置かれると電気ショックによる痛みを被ることを記憶する。条件付け後、マウスはそれが飼われていた飼育ケージに戻された。
【0119】
翌日(行動実験2日目)、昨日電気ショックを負荷された実験箱に導入されたマウスは、もはや電気ショックを与えなくても恐怖し、恐怖に起因する特徴的な運動停止行動であるすくみ行動をおこす。恐怖記憶の程度はすくみ行動の程度、すなわち3分間の実験箱への暴露中の運動停止時間として評価した。
【0120】
以上の恐怖条件付け試験を標準飼料、2.5%オキアミ飼料、5%オキアミ飼料で6週間飼育されたマウスに対して行った結果の一例を
図1に示す。2.5%オキアミ飼料(12匹/群)、5%オキアミ飼料摂餌マウス群(12匹/群)はいずれも標準飼料摂餌マウス群(12匹/群)に比べて低い運動停止時間を示した(
図1)。ANOVAによる分散分析はこの3群のデータに関して有意な分散を示し、標準飼料群と5%オキアミ飼料摂餌群間ではTukey法によるpost-hoc分析でp<0.001という高い水準の有意差が認められた。一方、標準飼料と2.5%オキアミ飼料摂餌群間では同分析で有意な差は検出されなかった。
【0121】
以上の結果は、5%オキアミ飼料の6週間摂取が、恐怖条件付けによる恐怖記憶の形成を有意に減弱せしめることを示す。
【0122】
[試験例2]恐怖条件付け試験(2)
本試験では、標準飼料中にもともと含有する脂肪成分の違いが、オキアミ油の作用に与える影響を検討するため、脂肪成分をコーン油(飼料総重量の5%含有)で作成したAIN−93G固形飼料を標準飼料(標準飼料Cと称する)とし、このコーン油成分を全てオキアミ油で置き換えた固形飼料(5%オキアミ飼料Cと称する)摂取の影響を検討した。脂肪酸組成の分析は、日本食品分析センターに依頼した。これらの飼料中の脂肪酸組成は、表4に示した標準粉末飼料C、オキアミ粉末飼料Cの脂肪酸組成に準ずるものである。試験例1と同様に、生後6週目から6週間実験マウスを標準飼料C、5%オキアミ飼料Cで飼育した。
【0123】
【表4】
【0124】
これらマウスについて実施例2と同様に恐怖条件付け試験を行った結果を
図2に示す。5%オキアミ飼料C摂餌マウス群(9匹/群)は標準飼料C摂餌マウス群(8匹/群)に比べて低い運動停止時間を示した(
図2)。Two-tailed Student’s t-testによる検定で、この2群のデータ間にはp=0.013で有意差が認められた。以上の結果は、標準飼料中の脂肪成分(コーン油または大豆油)に関わらず、これをオキアミ油に置き換えることで恐怖記憶形成が軽減されることを示唆する。
【0125】
[試験例3]恐怖条件付け試験(3)
本試験では、餌の形状がオキアミ油の作用に与える影響を検討するため、試験例2の飼料を粉末として作成し(標準粉末飼料C、5%オキアミ粉末飼料Cと称する)、これをマウスに給餌する実験を行った。この実験においては、生後6週目から4週間、実験マウスを標準粉末飼料C、5%オキアミ粉末飼料Cで飼育した。
【0126】
これらマウスについて試験例2と同様に恐怖条件付け試験を行った結果を
図3に示す。5%オキアミ粉末飼料C摂餌マウス群(10匹/群)は標準粉末飼料C摂餌マウス群(10匹/群)に比べて低い運動停止時間を示した(
図3)。Two-tailed Student’s t-testによる検定で、この2群のデータ間にはp<0.01で有意差が認められた。
【0127】
以上の結果は、オキアミ油の恐怖記憶形成軽減作用は、餌の形状(固形または粉末)によらず発揮されることを示す。また、固形飼料製造時には、乾燥工程で80℃、30〜40分の加温工程があるが、今回の結果は、飼料に対する80℃の加温による影響もないものと考えられる。
【0128】
[試験例4]魚油を用いた恐怖条件付け試験
本試験では、魚油にも恐怖記憶の軽減作用があるかどうか検討した。この目的のために、標準粉末飼料Cのコーン油成分の4割をイワシから抽出した油で置換した魚油粉末飼料Cを調製した(イワシ油飼料総重量の2%+コーン油飼料総重量の3%)。この置換により、飼料中のDHAやEPA(エイコサペンタエン酸)が5%オキアミ含有粉末飼料Cと同程度の含有量となる。生後6週目から4週間、実験マウスを標準粉末飼料C、魚油粉末飼料Cで飼育した。これら飼料中の脂肪酸組成を表4に示した。
【0129】
これらマウスについて試験例3と同様に恐怖条件付け試験を行った結果を
図4に示す。標準粉末飼料摂餌マウス群(10匹/群)と魚油粉末飼料摂餌マウス群(10匹/群)では運動停止時間に殆ど差がなかった。以上の結果は、同程度のEPAやDHAを含む魚油配合飼料はオキアミ油配合飼料のような恐怖記憶軽減作用を有しないことを示す。
【0130】
[試験例5]オープンフィールド試験および明暗箱試験
本発明では、5%オキアミ飼料が恐怖記憶に根ざした行動以外の行動にも影響を与えるかを、マウスの運動性と不安情動を調べることにより検討した。
【0131】
マウスの運動性はオープンフィールド試験(J Neurosci
27 158-166, 2007)におけるマウスの5分間自発運動量(
図5)、不安情動は明暗箱試験(Mol Psychiatry
7 113-117, 2002)におけるマウスの明箱滞在時間(
図6)を用いて評価した。不安状態が低い場合、マウスは明箱滞在時間が長くなると考えられている。
【0132】
標準飼料摂取群と5%オキアミ飼料6週間摂取群で、これら評価事項において有意な差はなかった。
【0133】
[試験例6]痛み感受性試験
本発明では、オキアミ飼料がマウスの痛み感受性に影響を与えるかについても検討した。恐怖条件付け実験では、マウスに電気ショックという痛みを与えることにより条件付けを行う。従って、オキアミ飼料摂取によりマウスの痛み感受性が著しく低下した場合、恐怖記憶の形成が低下する可能性がある。
【0134】
図7は、恐怖条件付けに用いた床グリッドからの通電により、マウスが痛み反応を起こす電流の閾値を測定した結果である(Pharmacol Biochem Behav 96 363-369, 2010)。電流付加に際してマウスが後肢を引き上げる行動を痛み反応とした。
図7に示されるように、痛み応答を起こす電流閾値は標準飼料、オキアミ飼料摂餌群間で顕著な差は無かった。
【0135】
[試験例7]Y迷路試験
次に、自発運動量と空間作業記憶を評価する系であるY迷路試験を用いて、オキアミ飼料による学習行動に及ぼす影響について調べた。
迷路試験はSarterらの方法(Psychopharmacology, 1988, 94, 491-495)にしたがって行った。灰色の塩化ビニル製の3本のアーム(各アームは長さ40 cm、幅5 cm、高さ12 cm)からなるY字型の迷路を用いた。マウスをいずれかのアームの端におき、その後8分間迷路内を自由に探索させた。それぞれのアームに進入した回数を記録した。このとき、4本すべての足がアーム内に入った際にアームへ進入したと判断した。試験後、各マウスについて交替反応率を以下の式により算出した。
交替反応率 = (交替反応数/最大交替反応数)×100
最大交替反応数 = (アームへの総進入回数) - 1
【0136】
また、自発運動量はアームへの総進入回数で表される。空間作業記憶は、同じアームに繰り返し進入しないために、それまでに進入したアームの順番を憶えておくという、短期的な記憶である。
【0137】
結果
図8に示すように、アームへの総進入回数、交替反応率ともに対照餌群、クリル餌群で有意な変化は認められなかった。このことから6週間のクリル餌摂取は、マウスの自発運動量や空間作業記憶には影響しないことが示唆され、オキアミ飼料による健忘症などの学習行動への悪い影響はないものと考えられた。
【0138】
[試験例8]血清、大脳中および海馬の脂肪酸組成
5%オキアミ飼料を6週間摂取したマウスの血清中、大脳皮質および海馬の脂肪酸量を定量した。血清、大脳皮質および海馬の脂肪酸組成は、Liparge G.とRoy C.Cの方法(J. Lipid Res., 27, 114-120, 1986)に沿って行った。即ち、4:1のメタノール・ヘキサン(2mL)に血清(50μL)を加えて攪拌し、内標としてトリコサン酸(C23:0、東京化成、40μg)を加えた。塩化アセチル(200μL)をゆっくり加えて80℃で1時間インキュベートし、反応終了後氷中に置き、6%炭酸カリウム(5mL)を加えて1分間攪拌後、4000rpm、10分間、4℃にて遠心し、上層のヘキサンをガスクロバイアルに回収し、アルゴンガスで濃縮置換後、ガスクロマトグラフィー(Agilent Technologies 6890N)を用いて下記の条件で測定した。
【0139】
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies)
30m x 0.25mm ID, 0.25μm film thickness
キャリアガス:He, 1.0 mL/min
注入口:250 ℃, 1mL, Split(1:30)
検出器:250℃, FID
【0140】
大脳皮質の場合には、約70〜90mgの組織にメタノール・ヘキサン(4mL)を加えてホモジナイズし、内部標準物質としてのcis−13,16,19−ドコサトリエン酸メチルエステル(C22:3 n−3, Sigma−Aldrich、640μg)を加えた。上記のホモジネートより2mLをガラスチューブにとり、塩化アセチル(200μL)をゆっくり加え、後の処理は血清と同様に行った。
【0141】
海馬の場合には、約10〜20mgの組織にメタノール・ヘキサン(2.2mL)を加えてホモジナイズし、内標のcis−13,16,19−ドコサトリエン酸メチルエステル(C22:3 n−3, Sigma−Aldrich、115μg)を加えた。上記のホモジネートより2mLをガラスチューブにとり、塩化アセチル(200μL)をゆっくり加え、後の処理は血清と同様に行った。
【0142】
結果を表5〜7に示す。
【0143】
【表5】
【0144】
【表6】
【0145】
【表7】
【0146】
また、上記の条件で測定したガスクロマトグラフィーにおけるマウス血清、大脳皮質および海馬の総脂肪酸のクロマト上の面積値を100%とした時の相対値(Area%)と脂肪酸定量値(μg/ml)を併記した結果を表8〜表10に示す。なお、表5のC16:0とC18:0の値が表8の値と異なるのは、表5では、C16:0とC18:0のクロマト上のピークに容器由来のノイズが入っている可能性があったので、サンプルがない容器のみを空サンプルとして、試験例8に記載した前処理を行ってGCサンプルとし、そのクロマト上の値を差し引いたためであったが、このノイズ量が不確定要素であることから、表8ではこの補正を行なっていないためである。
【0147】
【表8】
【0148】
【表9】
【0149】
【表10】
【0150】
表8は、標準飼料およびオキアミ飼料を6週間摂取したマウス血清中の脂肪酸定量値(μg/ml)と総脂肪酸のクロマト上の面積値を100%とした時の相対値(Area%)の両方を示す。血清中の脂肪酸組成においては、飼料中の脂肪酸組成を反映し、EPA、DHA、C16:1n−7(パルミトレイン酸)の顕著な増加とアラキドン酸(AA)の大幅な減少が認められた。表9および10は、標準飼料およびオキアミ飼料を6週間摂取したマウス大脳皮質および海馬での脂肪酸定量値(μg/ml)と総脂肪酸のGC上の面積値を100%とした時の相対値(Area%)の両方を示す。大脳皮質および海馬においては、DHAが有意に増加し、AAが有意に減少した。特に大脳皮質中のDHA/AA比およびω3/ω6比(ω6系高度不飽和脂肪酸の合計に対するω6系高度不飽和脂肪酸の合計の比)は、対照群、2.5%オキアミ油群、5%オキアミ油群で各々1.77、2.14、2.56(DHA/AA比)、1.26、1.63、2.03(ω3/ω6比)となったことから、飼料中のω3/ω6比が血液中および脳内のω3/ω6比またはDHA/AA比に多大な影響を与えることにより本研究で認められている恐怖記憶軽減作用を発揮しているという仮説を立て、これを裏付けるための以下の実験を実施した。
【0151】
[試験例9]リノール酸(LA)添加したオキアミ油飼料の恐怖条件付け試験
大豆油を7%含有した標準飼料のω3/ω6比が0.12、5%オキアミ油飼料のω3/ω6比は1であったことから、標準飼料とほぼ同等となるように、リノール酸(LA)をオキアミ油飼料に添加し、オキアミ油飼料中のω3/ω6比を0.32と小さく調整、即ち、ω6が多くなるように調整した。この際、標準飼料には、飽和脂肪酸のラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸を加えて、飼料中の脂質量を9.5%にあわせた。恐怖条件付け試験の方法は、試験例1と同様である。恐怖条件付け試験の結果を
図9に示した。脂肪酸組成の分析は、日本食品分析センターに依頼して行った。飼料中のω3/ω6比は、対照群が0.12、オキアミ油+LA群が0.32となった。それぞれの飼料中の脂肪酸組成を表11に示した。また、血清、大脳皮質、海馬中の脂肪酸組成を試験例8と同様に測定した。
【0152】
【表11】
【0153】
結果
リノール酸(LA)を添加し、飼料中のω3/ω6比を0.32と小さくしたオキアミ油飼料を摂取した群は、対照群と比較して運動停止時間に差はなくなった(
図9)。このことから、飼料中のω3/ω6比が作用の発現に極めて重要であることが示唆された。血清、大脳皮質、海馬中の脂肪酸組成を表12〜14に示す。
【0154】
【表12】
【0155】
【表13】
【0156】
【表14】
【0157】
[試験例10]飼料中のω3/ω6比を改変した魚油飼料を用いた恐怖条件付け試験
はじめに、対照群をコーン油ベースから大豆油ベースの飼料とした場合の魚油飼料の恐怖記憶に対する影響について恐怖条件付け試験を行なった。恐怖条件付け試験の方法は、試験例1と同様である。恐怖条件付け試験の結果を
図10に示した。対照群は、AIN−93Gベースの大豆油7%添加飼料で、魚油飼料は、イワシ油2.5%+大豆油4.5%を添加したものを用いた。陽性対照としてオキアミ油飼料群(オキアミ油5%+大豆油2%)を加えた。それぞれの飼料中の脂肪酸組成を表15に示した。脂肪酸組成の分析は、日本食品分析センターに依頼して行った。飼料中のω3/ω6比は、対照群が0.12、オキアミ油群が0.94、魚油群が0.57となった。また、血清、大脳皮質、海馬中の脂肪酸組成を試験例8と同様に測定した。
【0158】
【表15】
【0159】
続いて、魚油飼料中にオリーブ油を添加し、飼料中のω3/ω6比を改変した飼料(魚油2.5%+オリーブ油2.5%+大豆油2%)と魚油添加量を倍の5%とした飼料(魚油5%+大豆油2%)を作成し、恐怖条件付け試験を行なった。恐怖条件付け試験の方法は、試験例1と同様である。恐怖条件付け試験の結果を
図11に示した。飼料中のω3/ω6比は、対照群が0.12、5%魚油群が2.02、2.5%魚油+2.5%オリーブ油群が0.98となった。それぞれの飼料中の脂肪酸組成を表16に示した。
【0160】
【表16】
【0161】
結果
試験例4と同様に、2.5%魚油群は対照群と比較して運動停止時間に有意な差は認められなかったが、オキアミ油群は優位に運動停止時間を減少させた(
図10)。一方、5%魚油群ならびに2.5%魚油+2.5%オリーブ油群は、いずれも対照群と比較して有意に運動停止時間を減少させた(
図11)。血清、大脳皮質、海馬で各々脂肪酸組成を測定し、ω3/ω6比を調べてみると、2.5%魚油+2.5%オリーブ油群のω3/ω6比は、2.5%魚油群のω3/ω6比よりも高くなった(表17〜22)。これらの結果から、飼料中のω3/ω6比を改変し、ω6に対するω3の割合を高めることで恐怖応答を軽減できることが示唆された。血清、大脳皮質、海馬中の脂肪酸組成を表17〜22に示す。
【0162】
【表17】
【0163】
【表18】
【0164】
【表19】
【0165】
【表20】
【0166】
【表21】
【0167】
【表22】
【0168】
[試験例11]オキアミ油の恐怖記憶軽減作用に対するカンナビノイド受容体インバースアゴニストの影響
これまでの結果から脳内脂肪酸組成のω3/ω6比が恐怖記憶軽減作用に重要であることが示唆されたことから、ω6系の必須脂肪酸であるアラキドン酸(AA)をもとに代謝される脳内カンナビノイドに注目した。カンナビノイドは、脳内のシナプス間のシグナル伝達系において、逆行性のシグナル伝達物質として働くことが明らかとなっており、恐怖記憶との関連も多数報告されている物質である。このカンナビノイドシグナルがオキアミ油や魚油の作用に関与しているのかどうかを検討するために、カンナビノイド受容体インバースアゴニストであるリモナバント(rimonabant)を用いて恐怖条件付け試験を行なった。対照群と5%オキアミ油飼料を6週間摂取させた群において恐怖条件付けの30分前にリモナバントまたは溶媒を投与した。
【0169】
結果
リモナバントを投与したオキアミ油群は、溶媒を投与した対照群と比較して有意な差は認められなかった。対照群またはオキアミ油群に溶媒を投与した場合には、オキアミ油群で運動停止時間が有意に減少した(
図12)。以上のことから、カンナビノイドシグナルを介してオキアミ油の作用が発揮されていることが示唆された。
【0170】
[試験例12]オキアミ油の恐怖記憶軽減作用に対するμ―オピオイド受容体アンタゴニストの影響
上記のリモナバントには、カンナビノイド受容体遮断作用だけでなくμオピオイド受容体拮抗作用も報告されている。そこで、カンナビノイドシグナルを介してオキアミ油の作用が発揮されていることを確認するため、μ―オピオイド受容体アンタゴニストのナロキソン(Naloxone)を用いて恐怖条件付け試験を行なった。対照群と5%オキアミ油飼料を6週間摂取させた群において恐怖条件付けの30分前にナロキソンまたは溶媒を投与した。
【0171】
結果
ナロキソンを投与したオキアミ油群は、溶媒を投与したオキアミ群と比較して運動停止時間に差はなかった(
図13)。対照群またはオキアミ油群に溶媒を投与した場合には、オキアミ油群で運動停止時間が有意に減少した。以上のことから、試験例11で示したリモナバントの作用は、カンナビノイドシグナルを遮断することによってオキアミ油の作用を無効にしたものと考えられる。
【0172】
[試験例13]
これまでの動物試験で飼料、血清、大脳皮質、海馬の脂肪酸組成から計算したω3/ω6比、DHA/AA比、EPA/AA比と恐怖条件付け試験における運動停止時間の相対値(対照群の運動停止時間を1とした時の相対値)をプロットして相関図を作成した。なお、ω3/ω6比は各々試験例の相対値(Area%)から計算したものであるが、脂肪酸定量値(μg/ml)から計算してもほぼ同様な値となる。
【0173】
結果
いずれも高い相関(図中に相関係数Rの2乗の値を記す)が認められ(
図14−1〜
図14−8)、血清中のω3/ω6比は、恐怖記憶関連障害に罹患しやすいかどうかのリスク判定マーカーとして有効であると考えられた。また、飼料中のω3/ω6比との相関関係から、不安障害治療のための食事療法のひとつとして有望であると考えられた
【0174】
[試験例14]パッチクランプ法を用いた脳スライスにおける電気生理学的検討1
試験例11において5%オキアミ飼料の恐怖記憶軽減作用がカンナビノイド受容体インバースアゴニストであるリモナバントによって抑制されたことから、5%オキアミ飼料を摂取することにより脳内でカンナビノイド依存的なシナプス伝達の修飾が変化している可能性が考えられた。ここで、内因性カンナビノイドは脱分極を引き金としてシナプス後部で産生されシナプス間隙に放出され、これが逆行性シグナルとして前シナプスに存在するカンナビノイド受容体に働き、興奮性シナプス伝達を抑圧することが知られている(Depolarization-induced supression of excitation (DSE))(非特許文献20)。そこで本試験では、恐怖記憶の処理に重要な役割を果たす扁桃体内の神経細胞にホールセルパッチクランプ法を適用することで、この可能性について検討を行った。
【0175】
扁桃体錐体細胞からのパッチクランプ記録は非特許文献21および22の方法に従って行った。標準飼料および5%オキアミ飼料をマウスに6週間摂取させ、その後標準飼料摂取マウスおよび5%オキアミ飼料摂取マウスから脳を取り出し、95% O
2/5% CO
2で飽和させた冷却人工脳脊髄液(124mM NaCl, 3mM KCl, 2mM CaCl2, 1.2mM KH2PO4, 1.3mM MgSO4, 26mM NaHCO3, 10mM glucose, pH 7.35, 295 mosM)中で切片作成装置(VIBRATOME 3000, Vibratome, St Louis, MO)によって扁桃体を含む脳スライス標本を作成した(非特許文献19,20)。パッチ電極(抵抗値4~7 MΩ)は以下の組成の電極内液で充填されていた(132 mM K-gluconate, 3 mM KCl, 10 mM HEPES, 0.5 mM EGTA, 1 mM MgCl2, 12 mM sodium phosphocreatine, 3 mM ATP magnesium salt, 0.5 mM GTP, pH 7.4, with KOH, 285-290 mOsm/l)。電気生理信号はパッチクランプアンプ(Multiclamp 700B (Axon Instruments, Union City, CA, USA))で増幅、5kHzのフィルターをかけられた後、50 kHzでA/D変換されClampex software (ver. 9.2, Axon Instruments)によってコンピューターに取り込まれた。アクセス抵抗値は7〜18 MΩであった。アクセス抵抗値は記録中頻繁に確認され、記録中にその値が大きく変化(±20%)した細胞は解析から除外された。
【0176】
扁桃体基底外側核の錐体細胞からホールセルパッチ記録を行った。記録細胞近傍に人工脳脊髄液を充填した双極ガラス電極を留置し、スライスに電気刺激を与えた。まず扁桃体内神経細胞から電気刺激誘発性の興奮性シナプス後電流(evoked excitatory postsynaptic current (eEPSC))を記録した。次に、記録細胞を10秒間脱分極させ、その直後から再びeEPSCを記録した。脱分極前のEPSC振幅(I
pre)に対する脱分極後のeEPSC振幅(I
post)の比(I
post/I
pre)を算出し、これによってDSEの程度を評価した。またDSEがカンナビノイド受容体依存的に生じることを確認するため、脳スライスをリモナバンを含む(5 mM)人工脳脊髄液中に浸け込んだ状態で記録を行った。DSEはカプサイシン受容体を介する機構により減弱されることが示唆されている。そこでカプサイシンを含む(10 mM)人工脳脊髄液中に浸け込んだ脳スライスにおいてDSEを記録し、その変化についても検討を行った。
【0177】
結果
5%オキアミ飼料摂取マウスの扁桃体では、標準飼料摂取マウスと比べてDSEの程度が有意に増強していた(
図15)。またリモナバントは両マウスにおいてDSEをほぼ完全に抑制した。さらにカプサイシンもまた両マウスにおいてDSEを抑制することが明らかとなった(
図15)。
【0178】
[試験例15]パッチクランプ法を用いた脳スライスにおける電気生理学的検討2
試験例14の結果から、5%オキアミ飼料摂取マウスの扁桃体ではDSEが増強していることによって、扁桃体内神経回路の興奮性が低下している可能性が考えられた。
【0179】
扁桃体における興奮性神経回路の活性は恐怖条件付けによって増強されることが知られている(非特許文献23)。そこで本試験では、試験例14と同様に各飼料で6週間飼育した標準飼料摂取マウスと5%オキアミ飼料摂取マウスそれぞれについて、恐怖条件付けの有無によるeEPSCの入力−出力関係の変化について検討を行った。ホールセルパッチ記録の方法は試験例Xに準ずる。eEPSCを誘発する電気刺激の強度を1Vから10Vまで増加させ、それぞれの刺激強度で誘発されるeEPSC振幅のピーク値を記録した。
【0180】
結果
図16は入力刺激強度に対するeEPSC振幅の大きさ(入力−出力関係)をプロットしたものである。条件付けした標準飼料摂取マウスでは、eEPSCの入力−出力関係曲線の傾きが条件付けしていないマウスに比べて顕著に増大していた。これに対し、5%オキアミ飼料摂取マウスでは、eEPSCの入力−出力関係曲線の傾きは条件付けの有無によって統計学的に有意な変化を示さなかった。すなわち、5%オキアミ飼料摂取マウスの扁桃体では興奮性神経回路の活性が低下している可能性が示唆された。
【0181】
以上の結果から、5%オキアミ飼料摂取マウスでみられる恐怖記憶の減弱は、扁桃体におけるカンナビノイド受容体依存的なDSEが増強されることによって扁桃体の興奮性が低下することによる可能性が考えられた。
【0182】
これまでの試験結果を考察すると、脳内のDHA/AA比またはω3/ω6比がω3側にシフトすることで、脳内のカンナビノイドシグナル系が亢進することで、恐怖記憶の軽減または不安障害の軽減作用が発揮されているものと推察できた。このことから、食事中のω3/ω6比を適切な値にすることにより、脳内のDHA/AA比またはω3/ω6比をコントロールすることが出来、これらの比を高めることにより不安障害の予防・治療につながることが考えられる。