特許第6067910号(P6067910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6067910電解銅箔、その電解銅箔を用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6067910
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】電解銅箔、その電解銅箔を用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20170116BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20170116BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20170116BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C25D1/04 311
   H01M4/66 A
   C25D7/06 A
   C25D5/16
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-96699(P2016-96699)
(22)【出願日】2016年5月13日
【審査請求日】2016年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-217145(P2015-217145)
(32)【優先日】2015年11月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 淳
(72)【発明者】
【氏名】胡木 政登
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 季実子
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−185228(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018773(WO,A1)
【文献】 特開2001−342589(JP,A)
【文献】 特開昭63−310989(JP,A)
【文献】 特開昭63−310990(JP,A)
【文献】 特開平04−088185(JP,A)
【文献】 特開2000−182623(JP,A)
【文献】 特開2006−299320(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/132987(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00 − 7/12
H01M 4/64 − 4/84
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張速度50mm/minの条件における常態での引張強度(Ts(50))が450MPa以上であり、引張速度0.1mm/minの条件における常態での引張強度(Ts(0.1))が400MPa以上であり、かつ両者の比 Ts(0.1)/Ts(50)が0.70以上であることを特徴とする電解銅箔。
【請求項2】
180℃、1時間の条件にて加熱した後に室温で測定した引張速度0.1mm/minの条件における引張強度(Ts_HT(0.1))が350MPa以上であることを特徴とする、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
引張速度0.1mm/minの条件における常態での伸び(El(0.1))が4.0%以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電解銅箔。
【請求項4】
前記電解銅箔の厚さが4〜12μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電解銅箔。
【請求項5】
前記銅箔がリチウムイオン二次電池負極集電体用銅箔である、請求項1〜4のいずれかに記載の電解銅箔。
【請求項6】
請求項5に記載の電解銅箔を用いた、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いた、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム(Li)イオン二次電池負極集電体用の電解銅箔および該電解銅箔を用いたリチウムイオン二次電池に関するもので、より詳しくはリチウムイオン二次電池の製造時のハンドリング性および電池充放電時における膨張収縮の応力に対する耐久性を高めた、リチウムイオン二次電池に適用して好適な電解銅箔およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極集電体の表面に負極活物質層が形成された負極と、非水電解質とで構成されており、主に携帯電話やノートタイプパソコン等に使用されており、近年は自動車用途にも使用されることが多くなってきている。
リチウムイオン二次電池の負極集電体には一般的に銅箔が使用されている。銅箔には電解銅箔が用いられることが多い。これは電解銅箔が圧延銅箔に比べて、薄箔化が低コストで可能な点、導電率と強度の両立がしやすい点などの利点があるためである。
銅箔の表面に負極活物質層としてカーボン粒子等を塗布、乾燥し、さらにプレスして形成し電極が製造される。このとき、活物質層の塗布条件やプレスの条件によって銅箔にシワや亀裂などの破壊が起こり電池のサイクル特性が低下する場合がある。また銅箔の破断が起こり、電池の製造自体に問題が生ずる場合がある。そこで、銅箔の引張強度を所定値以上とする、あるいは銅箔の伸びを所定値以上として物理特性を向上させることが報告されている。
【0003】
また、リチウムイオン二次電池の充放電の際には活物質層が膨張収縮し、銅箔に代表される部材にその応力が負荷される。これにより銅箔からの活物質層の剥離や、銅箔にシワや破断などの破壊が起こり、電池のサイクル特性の低下やセパレータ等の他の部材を破壊することによる短絡、発火といった多くの問題を引き起こす場合がある。これに対しても、銅箔の引張強度を所定値以上とする、あるいは銅箔の伸びを所定値以上として物理特性を向上させることが報告されている(例えば特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−135856号
【特許文献2】特許第5588607号
【特許文献3】特許第5074611号
【特許文献4】特許第4465084号
【特許文献5】特開平04−088185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電池の製造時に銅箔に負荷される応力は早い速度で急速に負荷される一方、電池の充放電時に銅箔に負荷される応力は極めて遅い速度で徐々に負荷される。一般的な引張強度および伸びのような銅箔の特性と、電池の製造性および電池のサイクル特性との相関のみでは評価が不十分であり、これらを制御しても十分に電池の製造性および電池のサイクル特性を向上させることができない場合があった。
また、近年の電池の高容量化および軽量化に伴い、電池の製造時および電池の充放電時に銅箔に負荷される応力はより大きくなる一方で、銅箔はより薄い箔厚で機械的特性を満たすことが要求されている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電池の製造時のような急速に負荷された応力および電池の充放電時のような徐々に負荷された応力の両方に対して耐久性に優れる電解銅箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者は、電解銅箔製造時の電流密度分布を適正な範囲に設定して電解銅箔を製造したところ、従来銅箔に比べて、引張試験の引張速度が速いときに高強度であり、引張速度が遅いときにも比較的高い強度を保つ箔が得られた。こうした特性を示す銅箔を使用することで、電池の製造性およびサイクル特性が向上することを見出した。
【0007】
かかる知見を基礎として得られた本発明は、引張速度50mm/minの条件における常態での引張強度(Ts(50))が450MPa以上であり、引張速度0.1mm/minの条件における常態での引張強度(Ts(0.1))が400MPa以上であり、かつ両者の比 Ts(0.1)/Ts(50)が0.70以上であることを特徴とする電解銅箔である。
なお、本明細書における常態とは、銅箔が熱処理等の熱履歴を受けずに室温(=およそ25℃)に置かれた状態のことを意味する。
【0008】
本発明に係る電解銅箔は一実施態様において、180℃、1時間にて加熱した後に室温で測定した引張速度0.1mm/minの条件における引張強度(Ts_HT(0.1))が350MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る電解銅箔はさらに別の一実施態様において、引張速度0.1mm/minの条件における常態での伸び(El(0.1))が4.0%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電解銅箔はさらに別の一実施態様において、厚さが4〜12μmであることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る電解銅箔は一側面において、リチウムイオン二次電池負極集電体用銅箔である。
【0012】
本発明は一側面において、本発明に係る電解銅箔を用いたリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池の製造時に急速に負荷された応力および電池の充放電時に徐々に負荷された応力の両方に対して耐久性に優れる電解銅箔を提供できる。また、この電解銅箔を用いることにより、充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極を提供できる。さらに、この負極を用いることにより、充放電サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例にかかる電解銅箔のTs(0.1)/Ts(50)と比較例にかかる電解銅箔のTs(0.1)/Ts(50)をプロットしたグラフである。
図2図2は、本実施形態にかかる電解銅箔を製造するための装置の模式図を示している。
図3図3は、従来の電解銅箔の電流密度分布を示している。
図4図4は、2種類の電流密度分布(A及びB)を示すグラフである。
図5図5は、実施例1−1および比較例1−1の、引張速度50mm/minまたは0.1mm/minのときの応力―歪み曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0016】
本実施形態の銅箔は2つの異なる引張速度における引張強度の値とそれらの比に大きな特徴がある。
一般的に銅箔の引張試験を行う際には、引張速度は10〜50mm/min程度で行われる。IPC−TM−650においても、室温下での銅箔の引張試験速度は2inch/min(50.8mm/min)と定められている。こうした比較的速い速度で応力が負荷されて、強度が測定される。電池の製造時に負荷される応力は速い速度で負荷されるため、50mm/minの速い引張速度で引張試験をすることで、電池の製造時における耐久性を評価できることを見出した。Ts(50)が450MPaより低いと、電池製造時の応力に耐えられずシワや破断が起こる。
一方、リチウムイオン二次電池内での充放電に伴う応力が銅箔に負荷されることを考えると、その速度は比較的遅い速度である。このとき、0.1mm/minの遅い引張速度で引張試験をすることで、電池の充放電時における耐久性を評価できることを見出した。Ts(0.1)が400MPaより低いと、電池の充放電時に伴う応力により銅箔のシワや活物質層の剥離が起こる。
更に、Ts(0.1)/Ts(50)で表される、2つの異なる引張速度における引張強度の比が電池のサイクル特性とよく相関を示すことを見出した。すなわち、Ts(0.1)/Ts(50)が小さい銅箔は、速い速度で応力を負荷したときには強度が高いが、遅い速度で応力を負荷したときに低い強度で破断に至る銅箔であり、電池の充放電時に伴う応力により銅箔のシワや破断が発生し、サイクル特性が悪化する。
【0017】
一般的に純銅および銅合金はTs(0.1)/Ts(50)が1より小さい。しかしその中でも従来の電解銅箔はこのTs(0.1)/Ts(50)が比較的小さい値であり、図1の比較例に示すように具体的には0.50〜0.67程度を示す。そのため、遅い速度で応力を負荷したときに非常に低強度で破断に至る。
【0018】
これに対し、本発明の実施の形態に係る電解銅箔によれば、従来の電解銅箔とは異なり、図1の実施例に示すようにTs(0.1)/Ts(50)が0.70以上を示す。これは電池の充放電時における応力に対して高い耐久性を発揮するものであり、更にTs(50)が450MPa以上、Ts(0.1)が400MPa以上を示すことで、電池の製造時の応力と、電池の充放電時の応力の両方に高い耐久性を示し、電池の製造性とサイクル特性を大きく向上させるものである。
なお、本明細書の実施例における引張試験のチャック間距離は70mmであるため、引張速度50mm/minを歪み速度に算出しなおすと、71.43%/minになる。同様に、引張速度0.1mm/minは、歪み速度0.1429%/minになる。従って、引張速度50mm/minは、歪み速度71.43%/min(チャック間距離:70mm)に置換可能であり、引張速度0.1mm/minは、歪み速度0.1429%/min(チャック間距離:70mm)に置換可能である。
【0019】
本発明の実施の形態に係る電解銅箔は、180℃、1時間にて加熱した後に室温で測定した引張速度0.1mm/minの条件における引張強度(Ts_HT(0.1))は350MPa以上である。180℃、1時間は電池実装時の代表的な加熱条件である。これにより、電池製造時の加熱における銅箔の強度低下が低減し、電池特性が向上する。
【0020】
本発明の実施の形態に係る電解銅箔は、引張速度0.1mm/minの条件における常態での伸び(El(0.1))は4.0%以上であることが好ましい。これにより、電池の充放電時における応力に対する耐久性が更に向上する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る電解銅箔は、箔厚が4〜12μmであることが好ましい。これにより、銅箔にピンホールの発生を防ぎ、かつ銅箔の重量当たりの表面積が大きいために電池特性が向上する。
【0022】
本発明の実施の形態に係る電解銅箔を製造する場合は、例えば、図2にしめすような、硫酸−硫酸銅水溶液を電解液とし、白金族元素又はその酸化物元素で被覆したチタンからなる不溶性アノードと該アノードに対向させて設けられたチタン製カソードドラムとの間に該電解液を供給し、カソードドラムを一定速度で回転させながら、両極間に直流電流を通電することによりカソードドラム表面上に銅を析出させ、析出した銅をカソードドラム表面から引き剥がし、連続的に巻き取る方法により製造される。なお、この装置の例は一例である。
【0023】
このとき、従来の電解銅箔では、カソードドラムの回転方向において様々な要因により電流密度の分布が生じている。例えば電解液の供給部はカソードドラムに対向するアノードに隙間があるためにその付近では電流密度が低下している。電解液の液面に近くなるほど、電解で発生した気泡が多くなるために液抵抗は増加し、また液の撹拌状態も異なるために電流密度が変化する。特に液面近傍では、電解液の流出口が有るためにカソードドラムに対向するアノードがなく、電流密度が低下する。幅方向での箔厚調整のために絶縁板を液面側から極間に差し込み電流遮蔽することで、意図的に低電流密度部を作ることも有る。アノード表面を被覆している酸化物の状態および厚みにムラが生じていることで局所的な表面抵抗が異なり、電流密度が変化することもある。なお、特別に明記しない限り本明細書中では、電流密度分布の表現はカソードドラムの幅方向ではなく回転方向の電流密度分布を指す。
【0024】
こうして発生する電流密度分布は例えば以下のようにして調査できる。まず通電しない状態でアノードとカソードドラムの間に電解液を供給する。次にカソードドラムを回転させずに静止した状態で一定時間通電を行う。こうすることにより、図2のA-B間の点線で示した箇所に、その位置での電流密度に応じた厚みで銅が電着される。その後、通電を止め、速やかにカソードドラムを回転し、電着された静止電着銅箔をはぎ取る。こうして得られた静止電着銅箔のドラム回転方向の箔厚分布を測定することにより、間接的に電流密度分布を調査できる。箔厚は軟X線厚さ計により1mmピッチで測定を行う。箔厚から電流密度を算出する際には電流効率は100%とし、Cu2+ + 2e- → Cuの反応のみを考慮して算出する。具体的には以下の式(1)を用いる。(以下、本方法を静止電着法と表記する)。
【数1】
i:電流密度(A/dm2)、d:箔厚(dm)、ρ:銅の密度(g/dm3)、F:ファラデー定数(C/mol)、m:銅の原子量(g/mol)、t:静止電着時間(s)
図3に従来の電解銅箔の電流密度分布を示す。平均電流密度(iave)に対して、最大電流密度(imax)および最小電流密度(imin)に着目すると、imax/iaveが1.10、imin/iaveが0.80であることから、銅箔の厚さ方向によって電流密度が0.80〜1.10倍で分布していることが分かる。また電流密度の相対標準偏差は3.84%程度で分布していることが分かる。
本例の設備によって製造される電解銅箔は、ドラムの回転に伴い厚さが増してきて製造されるものであるため、カソードドラムの回転方向の電流密度分布はすなわち銅箔の厚さ方向の電流密度分布である。つまり、銅箔の厚さ方向で電流密度が異なる条件で電解されたことになる。電流密度は銅箔の析出挙動に大きな影響を与えることが知られている。具体的には、引張強度、伸びなどの銅箔の特性や、結晶配向性、残留応力の大小などの銅箔の結晶組織に大きな影響を与える。そのため、厳密な意味で銅箔の厚さ方向で引張強度や伸びなどの特性や、結晶組織が異なる層が存在するといえる。しかし、その引張強度や伸び、結晶組織の異なる層のみの特性を測定することは、その層が非常に薄い場合が多いことや、段階的ではなく連続的に変化していることに起因して非常に困難である。
【0025】
このような従来の電解銅箔の引張試験を行うと、通常行われる50mm/minの速い引張試験速度では、銅箔の厚さ方向に対して平均的な機械的特性が測定される。つまり、局所的な電流密度の大小による銅箔の厚さ方向の特性や組織の違いの影響は受けにくい。
一方、0.1mm/minの遅い引張試験速度では、銅箔の厚さ方向に対して強度または伸びの低い層から微小な亀裂が入る。また、銅箔の厚さ方向に対して結晶配向性や残留応力が異なるために、その差によって引張試験をした際の微小な亀裂が入りやすくなる。
そして一度亀裂が入るとその亀裂が進展し銅箔の破断に至るため、測定される強度や伸びが大きく低下する。すなわち、Ts(0.1)/Ts(50)の値が小さく、0.50〜0.67程度になる。
特許文献2、3に記載の電解銅箔、および特許文献4、5に記載の方法で製造した電解銅箔はこのような特性を示し、電池充放電に伴う応力に対する耐久性が低く、本明細書における比較例1−1に相当する銅箔であるといえる。
【0026】
一方、本発明の銅箔は、0.1mm/minの遅い引張試験速度で引張試験を行ったとき、測定される強度が低下しにくい。すなわち、Ts(0.1)/Ts(50)の値が0.70以上と従来の電解銅箔に比較して大きい。この特長は、銅箔の厚さ方向で均一な特性を示すことに起因する。
【0027】
本発明では、銅箔の厚さ方向に均一な電流密度分布で製箔を行うことに大きな特徴がある。その具体的な方法としては例えば以下のことが考えられる。液供給部近傍の電流密度低下を防ぐため、アノードの隙間を小さくする。また、メッシュ状のアノードを液供給部に配置する。気泡の影響を防ぐために液面近傍に近くなるほど極間の距離を狭める。幅方向での箔厚調整のため極間に差し込む絶縁板をメッシュ構造にし、急激な電流密度の低下を防ぐ。アノード表面の酸化物の状態および厚みを均一に保つ。
また、この例以外の設備においては、例えば図2の設備とは異なり、1枚の連続したアノードが使用されているためにカソードドラム直下には液供給部が無く、ある一方の液面から電解液をポンプで供給し、もう一方の液面から液が流出するような構造の設備が考えられる。だがこうした設備においても気泡の影響やアノード表面の状態の影響などにより電流密度の分布が生じており、この場合も極間距離の変更やアノード表面状態の管理、液供給部や液流出口の構造変更などにより、電流密度分布を均一にする。
本発明においては、いずれの方法を用いても良いが、銅箔の厚さ方向に対する電流密度分布を均一にする。具体的には、ドラムの回転方向に1mmピッチで計測した電流密度分布において、imax/iaveが1.05未満でかつimin/iaveが0.90より大きくなるようにする。加えて、電流密度の相対標準偏差が2.0%未満になるようにする。こうした均一な電流密度分布で製造することが、本発明の特性を有する電解銅箔を得るために好適である。
【0028】
電解液には銅濃度:50〜100g/L、硫酸濃度:40〜120g/Lの硫酸―硫酸銅水溶液を電解液として、塩化物イオンを1〜30mg/L添加する。
【0029】
銅箔の高強度化のため、電解液には有機または無機添加剤を少なくとも1種添加する。有機添加剤としては例えばチオ尿素(CHS)または水溶性チオ尿素誘導体や、ニカワ、ゼラチン、ポリエチレングリコール、デンプン、セルロース系水溶性高分子(カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等の高分子多糖類、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子化合物が用いられる。無機添加剤としては塩化物イオンの供給源としてNaClやHCl、その他にもごく微量の金属元素などが用いられる。
【0030】
電解液の液温は40〜60℃、カソード電極面での平均電流密度は45〜60A/dm2に調節して銅箔の製造を行う。
【0031】
本実施形態の電解銅箔の少なくとも一方の面においては表面処理を行うことが望ましい。
銅箔の表面処理として、例えば、クロメート処理、あるいはNi又はNi合金めっき、Co又はCo合金めっき、Zn又はZn合金めっき、Sn又はSn合金めっき、上記各種めっき層上にさらにクロメート処理を施したもの等の無機防錆処理、あるいは、ベンゾトリアゾール等の有機防錆処理を施してもよい。さらに、シランカップリング剤処理等が施されてもよい。これらの表面処理は、防錆に加えて活物質との密着強度を高め、電池の充放電サイクル効率の低下を防ぐ役割を果たす。
【0032】
上記の表面処理を銅箔に施す前に、必要に応じて銅箔表面に粗化処理を行うことも可能である。粗化処理としては、例えば、めっき法、エッチング法等が好適に採用できる。
【0033】
めっき法による粗化としては、電解めっき法及び無電解めっき法を採用することができる。Cu、CoおよびNiの内、1種のめっきまたは2種類以上の合金めっきにより粗化粒子を形成する。
【0034】
エッチング法による粗化としては、例えば、物理エッチングや化学エッチングによる方法が好ましい。例えば、物理エッチングにはサンドブラスト等でエッチングする方法がある。また例えば、化学エッチングには処理液等でエッチングする方法がある。処理液として、無機または有機酸と酸化剤と添加剤を含有する液が多数提案されている。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を示すが、以下の実施例に本発明が限定されることを意図するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態をとることができる。
【0036】
図2に示すように、白金族元素又はその酸化物元素で被覆したチタンからなる不溶性アノードと該アノードに対向させて設けられたチタン製カソードドラムとの間に電解液を供給し、カソードドラムを一定速度で回転させながら、両極間に直流電流を通電することによりカソードドラム表面上に銅を析出させることで、各実施例および各比較例の銅箔を厚さ10μmで製造した。
実施例については、銅箔を製造する前に電流密度分布が均一になるよう調整した。液供給部近傍の電流密度低下を防ぐため、液供給を妨げない範囲でアノードの隙間をなるべく小さくした。気泡の影響を防ぐため、アノード/カソード間の距離を液供給部近傍では13mm、液面部近傍では10mmになるよう連続的に変化させた。液面部近傍の電流密度低下を防ぐため、電解液の流出口にメッシュ状のアノードを配置した。このときの電流密度分布を、静止電着法により調査した結果が図4の電流密度分布Aである。imax/iaveが1.04、imin/iaveが0.90であり、電流密度の相対標準偏差が1.97%と均一な電流密度分布となっていることを確かめた。この電流密度分布において銅箔の製造を行った。
比較例1−1および1−2については、特に電流密度分布に注目せず、従来の設備状態で製造を行った。このときの電流密度分布を、静止電着法により調査した結果が図4の電流密度分布Bである。imax/iaveが1.10、imin/iaveが0.80であり、電流密度の相対標準偏差が3.84%を示す電流密度分布において銅箔の製造を行った。
比較例2−1については、電流密度分布Aにおいて銅箔の製造を行った。
【0037】
実施例および比較例について、電解液は銅濃度を80g/L、硫酸濃度を80g/L、塩化物イオン濃度を10mg/Lに調製した硫酸-硫酸銅系電解液を用いた。電解液の温度は50℃、平均電流密度は40A/dm2、液流速は1.0m/sの条件で製造を行った。電解液に添加した添加剤の種類と添加濃度は表1および表2に示す。
【表1】
【表2】
【0038】
各実施例、各比較例の銅箔はいずれも製箔直後にクロメート処理を行った。45℃の7g/L無水クロム酸水溶液に銅箔を5秒浸漬した後に液切り、空気乾燥を行った。
【0039】
各実施例、各比較例の銅箔を以下の項目において評価した。
【0040】
(1)引張試験
インストロン社製、引張試験機1122型を使用した。サンプルは0.5inch×6inchのサイズに切断し、チャック間距離は70mmで測定を行った。引張速度50mm/min、または0.1mm/minの2条件でそれぞれ常態における引張強度および伸び率を測定した。その他の条件については、IPC−TM−650に基づいて測定を行った。なお、伸び率は引張試験において試験片が破断した際の伸び率を示す。加えて0.1mm/minの条件においては、銅箔を180℃、1時間加熱処理した後の引張強度および伸び率を測定した。測定はいずれも室温で行った。結果を表1および表2に記載した。
【0041】
(4)電池特性の評価
(4−1)正極の製造
LiCoO粉末90mass%、黒鉛粉末7mass%、ポリフッ化ビニリデン粉末3mass%を混合してN-メチルピロリドンとエタノールを溶剤として添加し、混練し、正極剤ペーストを調整した。この正極剤ペーストを厚み15μmのアルミニウム箔に均一に塗着した。塗着後のアルミニウム箔を窒素雰囲気中で乾燥して上記溶剤を揮散させ、次いでロール圧延を行って、全体の厚みが150μmであるシートを作製した。このシートを巾43mm、長さ290mmに切断した後、その一端にアルミ箔のリード端子を超音波溶接で取り付け、正極とした。
【0042】
(4−2)負極の製造および製造性の評価
負極に用いる銅箔は、常態における実施例及び比較例の銅箔を用いた。
天然黒鉛粉末(平均粒径10μm)90mass%、ポリフッ化ビニリデン粉末10mass%を混合し、N-メチルピロリドンとエタノールを溶剤として添加し、混練し、負極剤ペーストを作成した。ついで、この負極剤ペーストを銅箔の両面に塗着した。塗着後の銅箔を窒素雰囲気中で乾燥して上記溶剤を揮散させ、次いで、ロール圧延して全体の厚みが150μmであるシートに成型した。このシートを巾43mm、長さ285mmに切断した後、その一端にニッケル箔のリード端子を超音波溶接で取り付け、負極とした。
この時点で、銅箔または活物質層にシワ、破断などの異常が見られるかどうかを目視で確認し、電池の製造性として評価した。シワまたは破断が発生しない場合を「良」、シワまたは破断が発生した場合を「不可」として評価した。評価が「良」の銅箔は本用途に適している銅箔であることを示し、評価が「不可」の銅箔は適さない銅箔であることを示す。
【0043】
(4−3)電池の作製
(4−1)正極の製造および(4−2)負極の製造のようにして製造した正極と負極の間に、厚み25μmのポリプロピレン製のセパレータを挟んで全体を巻き、これを軟鋼表面にニッケルめっきした電池缶に収容して、負極のリード端子を缶底にスポット溶接した。ついで、絶縁材の上蓋を置き、ガスケットを挿入後正極のリード端子とアルミ製安全弁とを超音波溶接して接続し、炭酸プロピレンと炭酸ジエチルと炭酸エチレンからなる非水電解液を電池缶の中に注入した後、前記安全弁に蓋を取り付け、外形14mm、高さ50mmの密閉構造型リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0044】
(4−4)電池特性の測定
(4−3)の電池を、充電電流100mAで4.3Vになるまで充電し、充電電流100mAで2.5Vになるまで放電するサイクルを1サイクルとする充放電サイクル試験を行った。そのときの電池の放電容量が800mAhを割り込んだときのサイクル数をサイクル寿命として、電池特性の優劣を評価する項目とした。結果を表1および表2に示す。
サイクル寿命は、500回以上を「優」、400回以上500回未満を「良」、400回未満を「不可」として評価した。評価が「不可」の銅箔は、本用途に適さない銅箔であることを示す。「良」は適している銅箔であることを示し、中でも「優」はより電池特性が良好である銅箔であることを示す。
【0045】
実施例1−1と比較例1−1は、電解液組成は同じであり電流密度分布のみ異なる条件で銅箔を製造した。添加剤には高分子化合物であるニカワを使用した。Ts(50)は両者で同程度であるが、Ts(0.1)/Ts(50)は実施例1−1が0.82と大きく、比較例1−1が0.62と小さい。これは、実施例1−1の電流密度分布Aは比較的均一であり、厚さ方向に均一な特性を示している一方で、比較例1−1の電流密度分布Bが比較的不均一であるために銅箔の厚さ方向で引張特性の異なる層が存在することに起因する。またこれにより、実施例1−1の銅箔を使った電池はサイクル特性が良好であり、比較例1−1の銅箔を使った電池はサイクル特性が悪い。実施例1−1および比較例1−1の、引張速度50mm/minまたは0.1mm/minのときの応力―歪み曲線を図5に示す。実施例1−1は引張速度を遅くしたときの強度低下分が小さいが、比較例1−1は強度低下分が大きいことが分かる。
【0046】
実施例1−2と比較例1−2は、同じく電解液組成は同じであり電流密度分布のみ異なる条件で銅箔を製造した。添加剤には単分子化合物であるチオ尿素を使用した。こちらもTs(50)は両者で同程度であるが、Ts(0.1)/Ts(50)は実施例1−2が0.87と大きく、比較例1−2が0.63と小さい。またこれにより、実施例1−2の銅箔を使った電池はサイクル特性が良好であり、比較例1−2の銅箔を使った電池はサイクル特性が悪い。このように、添加剤の種類を大きく変更しても電流密度分布が不均一であるとTs(0.1)/Ts(50)は小さくなり、その銅箔を使った電池はサイクル特性が悪いという傾向は変わらない。
【0047】
実施例2−1〜2−4は、Ts(50)を変更するために添加剤の添加濃度を変更して銅箔を製造した。いずれも電流密度分布がAで均一なために、Ts(0.1)/Ts(50)は比較的大きく、サイクル特性は良好である。
比較例2−1は、電流密度分布はAで均一であり、Ts(0.1)/Ts(50)が比較的大きいが、高強度化が不十分でありTs(50)が380MPaおよびTs(0.1)が311MPaと小さい。このため、電池の製造時にシワが一部発生し、サイクル特性が悪い。
【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池のように充放電に伴う応力に対する耐久性が高く、良好な電池特性が要求されるリチウムイオン二次電池用銅箔に適した電解銅箔を提供することを目的とする。
【解決手段】引張速度50mm/minの条件における常態での引張強度(Ts(50))が450MPa以上であり、引張速度0.1mm/minの条件における常態での引張強度(Ts(0.1))が400MPa以上であり、かつ両者の比 Ts(0.1)/Ts(50)が0.70以上であることを特徴とする電解銅箔が提供される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5