(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レーザー装置は、前記金属合金蒸発源から、Ag合金の組成を維持した状態の、10nmの粒径の1次金属合金微粒子を蒸発させるスポット径のレーザー光を前記金属微粒子蒸発源に照射し、
前記1次金属合金微粒子が複数凝集して100nmの粒径の2次次金属合金微粒子となって前記ベース材に堆積していく、
請求項8または9に記載の連続成膜装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、ベース材の表面にAg合金層を被覆したクラッド複合材料において、Ag合金層の組織を構成するAgPd合金の微粒子の粒径を厚み方向に均一にすることが困難である。
また、所定の厚さのAg合金層、たとえば、AgPd合金層をベース材に、厚み方向に均一な粒径で均一な厚さに堆積(成膜)させ、かつ、連続的に安定して、ベース材に被覆することが望まれている。
【0010】
以上、代表して、Ag合金、たとえば、AgPd合金層について述べたが、AgZn合金、AgAl合金、AgNi合金、Ta酸化物を分散させたAg合金マトリックス、AgC焼結体を成膜する場合も、上記同様の課題に遭遇している。
さらに、上記例示に限らず、金属、たとえば、Au、Pt、Ir、Os、Ru、Pd、Agおよびそれらの合金、またはセラミックなどを成膜する場合も同様である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、ベース材の表面に被覆する、本発明の金属(本発明において、単体の金属または合金を総称して、以下、「金属」と称す)、代表的には、たとえば、AgPd合金を用いた場合を例示して述べる。
本発明者らは、鋭意研究の結果、(1)蒸気圧が異なるAgとPdを一定の組成を維持した状態で微粒子として蒸発させるため、AgPd合金にスポット径を絞った高エネルギーのレーザ光を照射してAgPd合金の微粒子を蒸発させ、(2)次いで、蒸発によって生成されたAgPd合金の微粒子を真空雰囲気にあるベース材に向けてジェット噴出させて、ベース材に物理蒸着させることを見出した。
【0012】
なお、物理蒸着させる方法としては、たとえば、特許文献5として前記した特許第4828108号(特開2006−111921号公報)の物理蒸着装置をAgPd合金の微粒子の物理蒸着に適用可能に改良した。
高エネルギーのレーザ光の光源としては、たとえば、YAGレーザ、CO2レーザ、エキシマレーザなどを用いることができるが、特に、これらのレーザ光のスポット径はAgPd合金の組成のままの微粒子として、nmオーダーの粒径として発生するように小さくすることを見いだした。その結果、ベース材の表面にAg合金層を被覆したクラッド複合材料において、AgPd合金の微粒子の粒径を厚み方向に均一にすることが可能となることを見いだした。
【0013】
本発明者らは、さらに、ベース材にAgPd合金層を物理蒸着させる上記技術と、長尺のベース材を搬送させる技術とを組み合わせることにより、連続的に成膜させることを見いだした。すなわち、AgPd合金層をベース材に物理蒸着させて所定の厚さのAgPd合金層を物理蒸着によりベース材に均一に堆積させながら成膜し、この成膜処理と連動して、長尺のベース材およびAgPd合金層が被覆されたベース材を連続的に搬送させることを見いだした。
また、上記搬送に際しては、上記物理蒸着による所定の厚さまで成膜するのに要する時間と、適切な搬送のタイミングを見いだした。さらに、たとえば、成膜したAgPd合金層に傷が付かないように、搬送手段として機能する成膜室内のローラ(ターゲットローラ)のローディング方法を工夫した。
【0014】
上記Ag合金は、例示したAgPd合金に限らず、他のAg合金、たとえば、AgZn合金、AgAl合金、AgNiなどでもよく、本発明は、単体の金属または合金(以下、金属と称する)に適用することができる。
また、ベース材は、目的(用途)に応じて種々の物を使用することができる。
【0015】
本発明によれば、
蒸気圧の異なる少なくとも2種の金属合金を有する金属合金微粒子蒸発源に局所的にレーザー光を照射して前記
2種の金属合金の組成を保ったまま1〜200nmの粒径の1次金属
微粒子を蒸発させるために用いるレーザー装置と、
成膜時は大気雰囲気または減圧雰囲気であり、前記金属合金微粒子蒸発源に前記レーザー装置から射出されたレーザー光を照射して、前記
2種の金属合金の組成を維持した前記1次金属合金微粒子を蒸発させる蒸発室と、
ベース材が配置され、真空雰囲気の成膜室と、
前記蒸発室において蒸発した前記1次金属合金微粒子を前記成膜室に搬送された前記ベース材に向けて噴出させて前記ベース材の表面に堆積させる微粒子噴射手段であって、
前記蒸発室において蒸発した前記1次金属合金微粒子を、前記蒸発室と前記成膜室の気圧差に基づく流速で移送する移送管と、
縮小−拡大管として構成され、前記移送管の先端に配設され、先端が前記成膜室内の前記ベース材の近傍に位置し、前記移送管内を移送された前記1次金属合金微粒子と前記雰囲気ガスを超音速フリージェット流として超高速に加速し、当該加速した前記1次金属合金微粒子を拡大して噴射し前記成膜室に搬送された前記ベース材に堆積させる、ノズルと
を有する、微粒子噴射手段と、
前記金属微粒子層が堆積される前の長尺のベース材が巻回されている送り出しドラムと前記金属合金微粒子層が堆積されたベース材を巻き取る巻取ドラムを含み、前記金属合金微粒子層が堆積される前のベース材を前記送り出しドラムから巻き戻して前記成膜室内に搬送し、前記成膜室内で前記金属合金微粒子層が堆積されたベース材を前記巻取ドラムで巻き取るローディング・巻取手段と、
を具備し、
前記1次金属合金微粒子が複数凝集した2次金属合金微粒子が前記ベース材の表面に物理蒸着され、
前記巻取ドラムを連続的に回転させ、前記ベース材に前記
複数凝集した2次金属合金微粒子の物理蒸着層を連続的に堆積させる、
連続成膜装置が提供される。
【0016】
好ましくは
、前記微粒子噴射手段は、前記蒸発室において発生した前記
1次金属
合金微粒子を前記成膜室に移送する移送管と、前記移送管の先端に配設され、先端が前記成膜室内の前記ベース材の近傍に位置し、前記移送管内を移送される前記
1次金属
合金微粒子を超音速フリージェット流と共に前記成膜室に搬送された前記ベース材に超音速噴出させて
前記1次金属合金微粒子が複数凝集して2次粒子となった2次金属合金微粒子を前記ベース材の表面に物理蒸着させるノズルとを有する。
【0017】
また好ましくは、前記ノズルから前記ベース材にジェット噴出される前記ガス流が、超音速、遷音速、あるいは亜音速のガス流である。
【0018】
また好ましくは、前記レーザー装置は、YAGレーザ、CO2レーザ、あるいはエキシマレーザの基本波のレーザ光、あるいは、基本波を波長変換した短波長のレーザ光を照射するレーザー光発生部と、前記レーザー光発生部から射出されたレーザー光を前記金属微粒子蒸発源に導き、前記スポット径に収束させる光学系とを有する。
【0019】
また好ましくは、前記成膜室にはターゲットローラが配設されており、前記金属
合金微粒子の層を成膜させる前のベース材が、前記ターゲットローラの下面から上面に向かって搬送されるように、前記ターゲットローラに接しており、前記微粒子噴射手段は、前記ターゲットローラの下に位置する前記金属
合金微粒子の層を成膜させる前のベース材に、前記蒸発した
前記1次金属
合金微粒子をガス流として噴射して
前記1次金属合金微粒子が複数凝集して2次粒子となった2次金属合金微粒子を前記ベース材の表面に堆積させる。
さらに好ましくは、
当該連続成膜装置は、前記ターゲットローラを冷却する冷却手段をさらに有する。
好ましくは、前記送り出しドラムと前記巻取ドラムとの間で、前記長尺のベース材に所1定の張力を印加する。
【0020】
好ましくは、前記成膜室に隣接して第1、第2の減圧室が配設されており、前記送り出しドラムからの前記ベース材が前記第1の減圧室を経由して前記成膜室に導かれ、前記金属微粒子層が被覆されたベース材が前記成膜室から前記第2の減圧室を介して前記巻取ドラムに導かれる。
好ましくは、前記ベース材は、銅または銅合金であり、前記蒸発源は、AgPd合金蒸発源である。
また好ましくは、前記金属合金蒸発源は、Ag合金蒸発源である。
好ましくは、前記レーザー装置は、前記金属合金蒸発源から、Ag合金の組成を維持し
た状態の、10nmの粒径の1次金属合金微粒子を蒸発させるスポット径のレーザー光
を前記金属微粒子蒸発源に照射し、前記1次金属合金微粒子が複数凝集して100nmの粒径の2次次金属合金微粒子となって前記ベース材に堆積していく。
【0021】
また本発明によれば、
蒸気圧の異なる少なくとも2種の金属合金を有する金属合金微粒子蒸発源に局所的にレーザー光を照射して前記
2種の金属合金の組成を保ったまま1〜200nmの粒径の1次金属
微粒子を蒸発させるために用いるレーザー装置と、
成膜時は大気雰囲気または減圧雰囲気であり、前記金属合金微粒子蒸発源に前記レーザー装置から射出されたレーザー光を照射して、前記
2種の金属合金の組成を維持した前記1次金属合金微粒子を蒸発させる蒸発室と、
ベース材が配置され、真空雰囲気の成膜室と、前記蒸発室において蒸発した前記1次金属合金微粒子
を前記成膜室に搬送された前記ベース材に向けて噴出させて前記ベース材の表面に堆積させる微粒子噴射手段であって、
前記蒸発室において蒸発した前記1次金属合金微粒子を、前記蒸発室と前記成膜室の気圧差に基づく流速で移送する移送管と、縮小−拡大管として構成され、前記移送管の先端に配設され、先端が前記成膜室内の前記ベース材の近傍に位置し、前記移送管内を移送された前記1次金属合金微粒子と前記雰囲気ガスを超音速フリージェット流として超高速に加速し、当該加速した前記1次金属合金微粒子を拡大して噴射し前記成膜室に搬送された前記ベース材に堆積させる、ノズルとを有する、微粒子噴射手段と、前記金属微粒子層が堆積される前の長尺のベース材が巻回されている送り出しドラムと前記金属合金微粒子層が堆積されたベース材を巻き取る巻取ドラムを含み、前記金属合金微粒子層が堆積される前のベース材を前記送り出しドラムから巻き戻して前記成膜室内に搬送し、前記成膜室内で前記金属合金微粒子層が堆積されたベース材を前記巻取ドラムで巻き取るローディング・巻取手段と、を具備し、
前記1次金属合金微粒子が複数凝集した2次金属合金微粒子が前記ベース材の表面に物理蒸着され、
前記巻取ドラムを連続的に回転させ、前記ベース材に前記
複数凝集した2次金属合金微粒子の物理蒸着層を連続的に堆積させる、
連続成膜装置における連続成膜方法であって、
前記蒸発室に配置された前記金属合金微粒子蒸発源に前記レーザー装置から射出されたレーザー光を照射して、金属合金の組成を維持した1次金属合金微粒子を蒸発させる蒸発ステップと、
上記蒸発した1次金属合金微粒子を、真空雰囲気の成膜室内に搬送されたベース材の表面にガス流として噴射して前記1次金属合金微粒子が複数凝集して2次粒子となった2次金属合金微粒子を前記ベース材の表面に噴射して堆積させる、微粒子噴射ステップと、
ローディング・巻取ステップであって、送り出しドラムと前記成膜室内に配設されたターゲットローラと巻取ドラムとで長尺のベース材および前記金属合金微粒子の層が被覆されるベース材をロードし、搬送するローディング・搬送経路が規定されており、前記金属合金微粒子層の成膜動作と連動して、前記送り出しドラムから前記
金属合金微粒子層が堆積される前のベース材を引き出し、前記成膜室内の前記ターゲットローラに前記ベース材を導き、前記ベース材の表面に前記蒸発した金属合金微粒子の層が堆積される状態に応じて、前記巻取ドラムで前記金属合金微粒子の層が堆積されたベース材を前記巻取ドラムで巻き取る、搬送・巻取ステップと
を有し、
前記巻取ドラムを連続的に回転させ、前記ベース材に前記2次金属合金微粒子層を連続的に堆積させ、前記巻取ドラムに前記2次金属合金微粒子層が堆積されたベース材を連続的に巻き取る、
連続成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、所定の厚さの金属(単体の金属または合金)微粒子の層を、ベース材に、厚み方向に均一な粒径で、均一な厚さに堆積させ、連続的に安定して金属微粒子の層で被覆されたベース材を量産することができた。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の連続成膜装置として、金属としてAgPd合金を用いた、AgPd合金連続被覆装置を例示して述べる。
なお、本発明において、金属とは、単体の金属または合金を意味しており、以下、金属単体の金属または合金を総称して「金属」と称す。
また、本発明の実施の形態のAgPd合金層の適用例として、たとえば、回転機器に使用される摺動接点材の製造を例示して述べる。
【0025】
全体構成
図1は本発明の実施の形態のAgPd合金連続被覆装置の構成図である。
AgPd合金連続被覆装置100は、大別すると、ローディング・搬送系10と、成膜室(成膜チャンバ)20と、金属微粒子蒸発室としてのAgPd合金微粒子蒸発室30と、不活性ガス供給源40と、第1減圧室50と、第2減圧室60と、レーザー装置70と、制御装置90とを有する。
【0026】
図2(A)は、高速AgPd合金微粒子が物理蒸着される前のベース材の断面図を示し、
図2(B)、(C)は後述するAgPd合金微粒子がベース材に物理蒸着された後のAgPd合金層で被覆された被覆ベース材(AgPd合金層被覆ベース材)の断面を示す。
図2(B)は、ベース材1の幅一杯にAgPd合金微粒子2bが成膜された場合を示し、
図2(C)は、ベース材1の中央にのみAgPd合金微粒子2bが成膜された状態を示す。
図2(B)と
図2(C)の相違は、後述するノズルからのAgPd合金微粒子の噴射方法の相違であり、AgPd合金微粒子2bの成膜方法には基本的な相違はない。すなわち、
図2(B)の場合、幅の広いノズル201を用いるか、ノズル201を幅方向に往復させるかなどによる。
図2(C)の場合は、幅の狭いノズル201を用いるか、ノズル201を幅方向に往復させる距離を短くする。
【0027】
ベース材1は送り出し(搬送)ドラム101に巻回されており、AgPd合金層被覆ベース材3が巻取ドラム103で巻き取られる。
ベース材1は、たとえば、CuまたはCuSnあるいはCuSnNiなどの合金からなり、摺動接点材として用いるのに適したバネ性を有する。ベース材1の厚みは、たとえば、10〜300μmである。摺動接点材以外の用途においては、ベース材1の厚さは、たとえば、3mm程度の厚さとすることができる。
ベース材1は、たとえば、事前に、アセトン中で超音波洗浄してから用いてもよい。
【0028】
ローディング・搬送部
ローディング・搬送部10は、長尺のベース材1(
図2(A))およびAgPd合金層被覆ベース材3(
図2(B))を下記のローラ(ドラム)にローディングして搬送する。 ローディング・搬送部10は、成膜室20の外部に配設された、送り出し(搬送)ドラム101および巻取ドラム103、および、成膜室20内に配設された、ターゲットローラ(キャプスタンローラ)111、および、ターゲットローラ111の両側に配設された第1位置決めローラ109および第2位置決めローラ113を有する。
このローディングおよび搬送の基本動作は、巻取ドラム103の回転により、送り出しドラム101に巻回された長尺のベース材1(
図2(A))を引き出し、第1減圧室50を経由して、成膜室20に搬送し、成膜室20内で第1位置決めローラ109、ターゲットローラ111および第2位置決めローラ113を経由して、第2減圧室60を経由して、巻取ドラム103がAgPd合金層被覆ベース材3を巻き取る。
【0029】
この搬送過程において、成膜室20内において、ターゲットローラ111の下部を搬送されるベース材1に、ノズル201からジェット流として射出される金属の微粒子が物理蒸着によって成膜される。
上記搬送を円滑に行い、ベース材1の表面を平坦に安定させて物理蒸着を遂行するため、送り出しドラム101と巻取ドラム103との間で、ベース材1およびAgPd合金層被覆ベース材3に所定の張力が印加される。
【0030】
ターゲットローラ111は、物理蒸着のターゲットとしても機能し、さらに、ターゲットローラ111、第1、第2位置決めローラ109、113が協働して、成膜室20内のベース材1の高さ、または、ベース材1とノズル201との距離を調整する位置決め機能を発揮する。
物理蒸着の条件を変更(調整)するため、これらのローラの位置は調整可能である。
ターゲットローラ111の最下面とノズル201の先端の間隔は相対的に決定することができ、たとえば、ターゲットローラ111の最下面に対するノズル201の先端の位置、向きを調整可能にすることもできる。
特に、ベース材1が幅広い条帯で長尺の場合、ベース材1の横方向にAgPd合金微粒子2bを堆積させる必要があり、たとえば、ノズル201を横方向に移動させる、または、射出の向きを変化させる。
【0031】
高速なAgPd合金微粒子2bのベース材1の表面への物理蒸着によりベース材1が加熱される。そのため、ベース材1を冷却することが望ましい。
その1方法として、ターゲットローラ111を冷却される。具体的には、ターゲットローラ111の内部に空洞を設け、その空洞内に冷媒、たとえば、水、空気を導入して、ターゲットローラ111と接するベース材1を間接的に冷却する。このようにすれば、物理蒸着により加熱される部分でベース材1が冷却されるので、ベース材1が過度に加熱されることを防止することができ、好ましい。
なお、この冷却により、物理蒸着による成膜条件は変化しない。
【0032】
第1減圧室50および第2減圧室60は、後述するAgPd合金塊(AgPd合金蒸発源)2のジェット噴出を可能とするため、真空ポンプ305によって高い真空雰囲気の成膜室20の真空度を維持するために配設されている。
すなわち、成膜室20には、ベース材1が導入され、AgPd合金層被覆ベース材3が排出されるので、成膜室20は完全には密閉されていない。そこで、大気圧と成膜室20内の真空度との間に、圧力緩衝手段として、第1減圧室50および第2減圧室60を設けて、成膜室20が直接大気圧の影響を受けないようにしている。
第1減圧室50は真空ポンプ301により、第2減圧室60は真空ポンプ303により、真空状態に維持されているが、後述する成膜室20の真空度程の真空度ではない。
【0033】
物理蒸着系
本発明の分離蒸着系は、成膜室20、AgPd合金微粒子蒸発室30、不活性ガス供給源40、レーザー装置70を有する。
不活性ガス供給源40は、Arガス,Heガス,窒素ガス等の不活性ガスをAgPd合金微粒子蒸発室30に供給可能であるが、後述するように、不活性ガス供給源40は必須ではない。
【0034】
成膜室20は、真空ポンプ301によって高い真空雰囲気に維持されている。
ローディング・搬送部10の動作により、成膜室20にはベース材1が導入され、第1位置決めローラ109、ターゲットローラ111、第2位置決めローラ113を経由して成膜室20から排出される。
【0035】
微粒子蒸発室30には、AgPd合金蒸発源(AgPd合金塊)2が配置されており、AgPd合金蒸発源2にレーザー装置70からのレーザー光が照射されて、AgPd合金微粒子2aが蒸発する。
AgPd合金微粒子2aの発生にレーザー光を使用する理由は、スポットを小さく絞ったレーザー光をAgPd合金蒸発源2に照射することにより、微小な領域のAgPd合金蒸発源2を加熱してAgPd合金の組成を維持したままの微粒子を発生させることができるからである。
レーザー光に代えて、たとえば、アークを用いた場合、スポットの小さなレーザー光を用いた場合とは異なり、蒸気圧の違いにより被覆膜の組成のずれが大きくなる。
したがって、Agとパラジウム(Pd)の組成を維持した状態でAgPd合金微粒子2aを蒸発させるため、高いエネルギーを持つレーザー装置を用い、かつ、nmオーダー、たとえば、5〜100nmのAgPd合金微粒子2aを発生可能なスポットのレーザー光を照射させる。
蒸発室30は、真空ポンプ307によって真空雰囲気にされ、不活性ガス供給源40からArガス,Heガス,窒素ガス等のいずかの不活性ガスが提供されている。
【0036】
物理蒸着のメカニズム
図4に図解したように、微粒子蒸発室30において発生したAgPd合金微粒子2aは、微粒子移送管202で移送されて、成膜室20内に位置するノズル201から、蒸発室30と成膜室20との気圧差に起因する超高速のガス流のAgPd合金微粒子2bとなってターゲットローラ111の下に位置するベース材1の表面に噴射されて堆積される。
AgPd合金微粒子2bの膜厚は、たとえば、0.05〜〜5μm、好ましくは、0.6〜22μmである。
【0037】
ベース材1およびAgPd合金層被覆ベース材3は、成膜室20内で、連続的に搬送されが、その搬送は上記物理蒸着による成膜の状態と連携して行う。
たとえば、ベース材1の幅が広い場合、AgPd合金微粒子2bが上記所望の均一な厚さになるように、ノズル201をベース材1の幅方向に往復移動させながら物理蒸着を行い、かつ、ベース材1の搬送を行う。あるいは、複数のノズル201を横方向に併置して、複数の超高速のガス流のAgPd合金微粒子2bをベース材1に噴射させてもよい。
制御装置90は上記物理蒸着と搬送の制御を行う。
【0038】
図2(B)はベース材1の幅一杯にAgPd合金微粒子2bが成膜された場合を示し、
図2(C)はベース材1の中央にのみAgPd合金微粒子2bが成膜された状態を示す。
図2(B)と
図2(C)の相違は、ノズル201からのAgPd合金微粒子2bの噴射方法の相違であり、AgPd合金微粒子2bの成膜方法には基本的な相違はない。すなわち、
図2(B)の場合、幅の広いノズル201を用いるか、ノズル201を幅方向に往復させるかなどによる。
図2(C)の場合は、幅の狭いノズル201を用いるか、ノズル201を幅方向に往復させる距離を短くする。
【0039】
以下、
図1に図解した物理蒸着系について
図3を参照して、さらに、本発明の好ましい実施の形態として、超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PVD)を適用した例について述べる。
図3は、
図1に図解した、微粒子蒸発室30、レーザー装置70、成膜室20の構成の具体例を図示している。なお、ローディング・搬送部10は図解を省略している。
【0040】
微粒子蒸発室30には真空ポンプ307(VP1)に接続した排気管311が設けられており、真空ポンプ307(VP1)の作動により蒸発室30内が排気され、10
−6Torr程度以下の真空雰囲気にされ、好ましくはガス置換を行う。蒸発室30にマスフローコントロール312を介して不活性ガス供給源40から、HeあるいはN2などの不活性の雰囲気ガス所定の流量で供給される。
なお、成膜時は、蒸発室30内を大気雰囲気または減圧雰囲気とする。
蒸発室30内には、蒸発室30の外部に配置された回転モータ314aに接続されて回転駆動可能に構成されたテーブル314が設けられ、このテーブル314の上にAgPd合金蒸発源2が配置されている。
【0041】
レーザー装置70は、レーザー光発生部70Aと光学系70Bとを有する。
レーザー光発生部70Aは、レーザ光源、および、必要に応じて、波長変換手段を有する。
光学系70Bは、レーザー光発生部70Aから射出されたレーザー光を、スポット径を絞ったレーザー光として、AgPd合金蒸発源2に導く光学要素で構成されている。すなわち、光学系70Bは、アパーチャ716b、ミラー716c、レンズ716d及びミラー716eなどから構成される。光学系としては、上記以外のミラーやレンズなどを適宜さらに用いた構成としてもよい。
レーザー光発生部70Aから射出されたレーザ光は、ミラーなどの偏向手段で向きを代えられ、レンズで集光されながら、蒸発室30に載置された石英などからなる光照射窓30aから蒸発室30の内部に導かれ、AgPd合金蒸発源2にスポット光として微小な領域に照射され、AgPd合金蒸発源2を加熱する。
回転モーター314aの駆動と、レーザー光発生部70Aの駆動は、たとえば、制御装置90により制御する。
【0042】
レーザー光発生部70Aは、AgPd合金蒸発源2を加熱して、AgPd合金の組成を維持した状態のまま、AgPd合金微粒子2aを蒸発させるに十分なエネルギーの高いレーザー、たとえば、Q−スイッチを用いたNd:YAGレーザ、CO2レーザ、エキシマレーザなどを適宜用いることができる。
たとえば、Nd:YAGレーザの基本波(1064nm)、CO2レーザの基本波(約10μm)、あるいはエキシマレーザの基本波(XeClエキシマレーザの場合で308nm)のレーザ光、さらに、短波長が必要な場合、たとえば、非線形結晶を用いて、これらレーザ光の基本波を変換した2倍波や3倍波などの基本波を波長変換した短波長のレーザ光が用いることができる。
たとえば、Nd:YAGレーザの場合、非線形結晶を用いて基本波1064nmの光を、短波長、たとえば、2倍波の532nm、4倍波の266nmの光に波長変換して用いることができる。なお、たとえば、パルスエネルギーは0.2〜4J、パルスの周波数は10〜20Hzである。
【0043】
AgPd合金が組成を維持してそのまま微粒子として蒸発されるような微小なスポット径のレーザ光によりAgPd合金蒸発源2の微小領域のみが加熱されて微小領域が蒸発する。これにより、AgPd合金蒸発源2から蒸発した原子としてナノメートル(nm)オーダーの直径のAgPd合金の微粒子(以下、AgPd合金ナノ粒子とも称する)が蒸発する。
【0044】
蒸発した径がナノオーダーのAgPd合金微粒子(AgPd合金微粒子2a)は、蒸発室30内の雰囲気ガスとともに微粒子移送管202を通して成膜室20内のノズル201に移送される。
【0045】
成膜室20には真空ポンプ305(VP3)に接続した排気管231が設けられており、真空ポンプVP3の作動により成膜室20内が高い真空雰囲気に排気され、たとえば、10
-6Torr程度以下の非常に高い真空雰囲気にされている。
成膜室20に配設されたターゲットローラ111を介してベース材1およびAgPd合金層被覆ベース材3が搬送される。
蒸発室30から成膜室20に向かって延びる微粒子移送管202の先端に、蒸発室30で得られたナノ粒子(AgPd合金微粒子2a)を雰囲気ガスとともに成膜室20内に噴出するノズル201が設けられている。
微粒子移送管202の外周には、不図示のコイルヒーターが設けられて加熱可能となっていてもよい。
【0046】
蒸発室30と成膜室20の間において、これらの室間の圧力差により高速なガスの流れが生じる。蒸発したAgPd合金微粒子2a(AgPd合金ナノ粒子)は蒸発室30の雰囲気ガスとともに移送管202を通して成膜室20へ移送され、ノズル201からガス流Jとして、すなわち、超音速フリージェット流(SFJ)として、ターゲットローラ111の下部のベース材1の表面に向けて噴出されて物理蒸着する。
この原理を、超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PVD)という。
【0047】
ノズル201は、1次元もしくは2次元の圧縮性流体力学理論を基にガスの種類と組成及び成膜室20の排気能力に応じて設計されており、合金微粒子移送管202の先端に接続され、あるいは、微粒子移送管202の先端部分と一体に形成されている。
具体的には、ノズル201は、ノズルの内部径が変化している縮小−拡大管であり、蒸発室30と成膜室20間の差圧により生起するガス流を、たとえば、マッハ数1.2以上の超音速まで高めることができる。
【0048】
図4は超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PVD)による物理蒸着のメカニズムを図解した図である。
ノズル201によって、AgPd合金ナノ粒子NP(蒸発したAgPd合金微粒子2a)と雰囲気ガスを含むガス流を、たとえば、超音速にまで加速し、加速したAgPd合金ナノ粒子NP(高速AgPd合金微粒子2b)をガス流Jに乗せて成膜室20中においてベース材1の表面に向けて噴出し、ガス流Jの噴出範囲Rにおいて、ベース材1の上に物理蒸着させ、AgPd合金層を形成する。
【0049】
なお、蒸発室30、成膜室20あるいは移送管202に、適宜、AgPd合金ナノ粒子と反応させるガスを添加することができる。
たとえば、窒素を添加することで、窒化物のナノ粒子を得ることができ、窒化物の物理蒸着膜が成膜可能である。また、酸素を添加することで酸化物のナノ粒子を得ることができ、酸化物の物理蒸着膜を成膜可能である。また、蒸発室30、成膜室20あるいは移送管202などに、水素を適宜添加してもよく、その結果、成膜しやすくなるという利点がある。
【0050】
本実施形態では、AgPd合金蒸発源2をレーザー光によって微小な領域を局所的に加熱して局所的に加熱された微小な部分がそのままの組成でAgPd合金ナノ粒子化するので、成膜中に組成が変動するという不具合を回避できる。換言すれば、AgPd合金の組成を維持したままのAgPd合金ナノ粒子を生成することができる。
なお、AgPd合金からなる蒸発源2の組成を変更することで、ベース材1上に形成されるAgPd合金層の組成を容易に変更することができる。
AgPd合金蒸発源2の組成を変更することで、ベース材1に堆積されるAgPd合金層の組成を、たとえば、Pdが0〜100重量%の範囲で適宜調節であり、形成可能なAgPd合金の組成の自由度が大きい。
【0051】
本実施形態において形成するAgPd合金層の膜厚は、用途に応じて、上記例示した厚さにすることができる。
本実施形態によれば、AgPd合金層の膜厚を上記例示した厚さまで成膜しても内部ひずみが小さく、成膜時の割れを抑制することができた。したがって、膜厚の自由度が大きいという利点がある。
【0052】
本実施形態においては、たとえば、1〜200nm好ましくは、1〜100nmの粒径を有するAgPd合金の微粒子をAgPd合金層の厚み方向に均一な粒径で堆積してAgPd合金層を形成することができる。
あるいは、たとえば、上記した粒径を有するAgPd合金の1次粒子が複数個凝集して2次粒子となったAgPd合金の微粒子をAgPd合金層の厚み方向に均一な粒径で堆積してAgPd合金層を形成することができる。
【0053】
本実施形態において形成されるAgPd合金層は、ベース材との密着性が高く、たとえば、回転機器に用いて摺動する部分に適用しても、AgPd合金層の剥離を抑制することができる。
本実施形態によれば、ベース材の表面にAgPd合金層を被覆したクラッド複合材料である摺動接点材において、AgPd合金層の組織を構成するAgPd合金の微粒子の粒径が厚み方向に均一になるように形成できる。
したがって、粗大粒子が摺動接点材の磨耗時に剥離することが防止され、接触部における接触不良及び回転機器としての寿命のばらつきを抑制することができる。
【0054】
上述した説明は、ノズル201によりAgPd合金ナノ粒子を含むガス流を超音速まで加速することについて述べたが、ノズル201は、ノズル内部径が変化している縮小管あるいは、たとえば、ノズル出口マッハ数0.75以下の亜音速、同マッハ数0.75〜1.0の遷音速あるいは1.0〜1.25程度の縮小−拡大管であり、蒸発室30と成膜室20間の差圧により生起するガス流を、たとえば、マッハ数0.75以下の亜音速あるいはマッハ数0.75〜1.25の遷音速まで高めることができる構成でもよい。
上記の構成のノズルによって、ナノ粒子と雰囲気ガスを含むガス流を亜音速あるいは遷音速にまで加速し、ナノ粒子をガス流Jに乗せて成膜室20内においてベース材1の表面に向けて噴出し、ベース材1の表面に物理蒸着させ、AgPd合金層を形成する。
【0055】
上述したナノ粒子と雰囲気ガスを含むガス流を亜音速あるいは遷音速にまで加速する構成の場合には、たとえば、蒸発室30は、5kPa(39Torr)〜90kPa(700Torr)とされ、成膜室20は、たとえば、0.01kPa(0.08Torr)〜5kPa(39Torr)とされる。
【0056】
上記のノズルとしては、たとえば、耐熱ガラス製の縮小管のノズルを使用可能である。この場合、移送管と一体に形成することが可能である。これにより、高周波(RF)加熱が可能となる。また、ノズル内でのプラズマ化も必要に応じて可能である。
【0057】
上記のAgPd合金ナノ粒子と雰囲気ガスを含むガス流を亜音速あるいは遷音速にまで加速する構成の場合には、ガス流の速度が亜音速または遷音速であるので、使用されるノズルの設計の自由度が高くなり、設計自体及び製作が容易となり、物理蒸着装置としてのコストを削減できる。
さらに、ガス流の加速は亜音速または遷音速とする場合、超音速領域のガス流に発生する衝撃波の影響がない、あるいは非常に小さくすることができる。
【0058】
また、ガス流の速度を亜音速または遷音速とする場合、さらに下記の(1)〜(5)の効果を享受することができる。
(1)ナノ粒子が成膜対象のベース材に衝突する際にも、超音速に加速されたガス流はベース材に衝突する際に衝撃波が発生し、ナノ粒子は衝撃波の影響で質の高い膜が得られにくい可能性がある。本実施形態では、衝撃波の影響がない、あるいは非常に小さいので、成膜条件によっては超音速のガス流を用いた場合より質の高い膜を形成できる可能性がある。
(2)蒸発室30と成膜室20の圧力差を小さくできるので、成膜室20に用いる第3真空ポンプ305のポンプ性能を低くすることが可能となり、これにより物理蒸着装置の価格を低減することが可能である。
(3)蒸発室30と成膜室20の圧力差を小さくできるので、蒸発室30の圧力を低くでき、不活性ガス供給源40から供給する不活性ガス、たとえば、ヘリウムの流量を少なくすることができ、これにより価格を低減することが可能である。
(4)蒸発室30と成膜室20の圧力差を小さくできるので、成膜室20の圧力を低くでき、蒸気圧の低い材料を蒸発源の材料として選択することが可能となる。たとえば、Alなどの蒸気圧の低い材料を蒸発源の材料として用いる場合、Alナノ粒子を得るために蒸発チャンバー真空度が高いほど得やすくなる。
本実施形態では、蒸発室30と成膜室20の圧力差が小さくても可能であるため、蒸発室30内の圧力を下げることが可能であり、これにより蒸発源として蒸気圧の小さい材料を用いることが可能となり、材料として可能な選択肢を増やすことができる。
(5)ガス流の速度が亜音速または遷音速でよいことから成膜室20内に設けられるノズルと成膜対象であるベース材間の距離の自由度が増加する。
たとえば、超音速フリージェットを用いる場合には、衝撃波をなくすように設計されているものの、現実にはシュリーレン法によれば衝撃波が交錯する領域があるとされており、ノズルのベース材間の距離にはある程度の制約がある。
【0059】
本実施形態では、ガス流の速度が亜音速または遷音速でよいことから衝撃波の影響がない、あるいは非常に小さいので、ノズルとベース材間の距離を自由に設定することが可能となる。
【0060】
なお、
図2(B)図解したAgPd合金層被覆ベース材3を成膜するか、
図2(C)に図解したAgPd合金層被覆ベース材3を成膜するかは、
図2(B)の場合、幅の広いノズル201を用いるか、ノズル201を幅方向に往復させるか、または、
図2(C)の場合は、幅の狭いノズル201を用いるか、ノズル201を幅方向に往復させる距離を短くする。
【0061】
<実施例>
第1実施形態に基づいて、摺動接点材を製造した。
摺動接点材は、CuSn合金からなるベース材1上にAgPd(Pd50重量%)合金層2bを2μmの膜厚で形成した。
【0062】
図5(a)〜(d)及び
図6(a)〜(d)は、本実施例に係るAgPd合金層の表面を撮影した電子顕微鏡写真(SEM)である。それぞれ、倍率は160倍、500倍、3000倍、10000倍、20000倍、50000倍、100000倍、100000倍(
図6(c)と(d)は同倍率)である。
図5(a)と
図5(b)から、ほぼ平坦な表面を有するAgPd合金層が形成されており、
図5(d)から、約100nm程度の粒径のAgPd微粒子が堆積(成膜)していることが確認された。
【0063】
図6(c)と
図6(d)から、約10nm程度の粒径のAgPd微粒子の1次粒子が堆積していることが確認された。
上記の結果から、約10nmの粒径を有するAgPd合金の1次粒子が複数個凝集して、約100nm程度の粒径の2次粒子となったAgPd合金の微粒子が堆積していることが確認された。
【0064】
図7(a)及び(b)は、本実施例に係るAgPd合金層の断面を撮影した電子顕微鏡写真(SEM)である。それぞれ、倍率は50000倍である。
ベース材1の表面にAgPd合金層2bが形成されている様子を示している。
図7(a)及び(b)ともに、ベース材とAgPd合金層の界面に隙間はなく、ベース材1とAgPd合金層2b間の密着性が良好であることを示している。AgPd合金層2b内に間隙は存在しておらず、緻密な膜として形成されている。
また、
図7(a)中にはベース材1の表面に凹部1Aが存在していたが、AgPd合金層2bは凹部1Aの内部にまで入り込んで形成されていたことが確認された。
【0065】
本実施例によれば、ベース材の形状が平坦ではないもの、あるいは傷などの凹部が存在するものであっても問題なく、AgPd合金層を形成することができることが確認された。
また、ベース材1上にAgPd(Pd50重量%)合金層2bを形成した試料を切断してもAgPd合金層は剥離せず、また、90°に折り曲げた後に元に戻す曲げ戻し試験を行ってもAgPd合金層は剥離しなかった。
このように、本実施例によれば、ベース材1とAgPd合金層2bとの間の密着性が良好であり、剥離しにくい膜であることが確認された。
【0066】
図8(a)〜(c)は本実施例に係るAgPd合金層の断面を撮影した電子顕微鏡写真(SEM)である。それぞれ、倍率は18000倍、20000倍、50000倍である。
図8(a)はベース材1上にAgPd合金層2bが形成されている様子を示しており、
図8(b)及び(c)AgPd合金層の領域をさらに拡大したものである。
図8(a)〜(c)から、約100nm程度の粒径のAgPd微粒子が堆積していることが確認された。また、AgPd合金層の組織中に粗大粒子は存在せず、組織を構成するAgPd合金の微粒子の粒径が厚み方向に均一になっていることが確認された。
【0067】
ローディング・搬送部10におけるローディングの各種の態様を述べる。
ローディング・搬送部の各種態様(1)
図9(A)〜(F)は、
図1における、ローディング・搬送部10の各種態様を図解した図である。
図9(A)〜(F)において、ベース材1/AgPd合金層被覆ベース材3が搬送される経路における、主要なローラ、すなわち、送り出しドラム101、巻取ドラム103、成膜室20内のターゲットローラ111の設置方法の例を示した。
図9において、記号SSFJは、超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PVD)部分、すなわち、蒸発室30、微粒子移送管202、ノズル201を概略的に図解したものである。
特に、
図9(A)〜(F)は、送り出しドラム101および巻取ドラム103を、成膜室20の外部に配設した例を示している。成膜室20は高い真空雰囲気に維持されるから、成膜室20の寸法は極力小さいことが望ましい。
【0068】
図9(A)は、成膜室20には、
図1に例示したターゲットローラ111を配設せず、成膜室20内に2対のピンチローラPを配設して、ベース材1にAgPd合金微粒子を超音速フリージェットを適用して物理蒸着させて搬送させる場合を図解している。
図9(B)は、成膜室20に、2個のターゲットローラ111を配設して、この間でベース材1にAgPd合金微粒子を超音速フリージェットを適用して物理蒸着させて搬送させる場合を図解している。
図9(C)は、
図1に例示した構成に類似しており、成膜室20に、1個のターゲットローラ111、その前後に、第1、第2の位置決めローラ109、113を配設して、ターゲットローラ111においてベース材1にAgPd合金微粒子を超音速フリージェットを適用して物理蒸着させて搬送させる場合を図解している。
図9(D)は、
図9(C)に例示した構成に類似しており、成膜室20に、1個のターゲットローラ111、その前後に、第1、第2の位置決めローラ109、113を配設して、ターゲットローラ111においてベース材1にAgPd合金微粒子を超音速フリージェットを適用して物理蒸着させて搬送させる場合を図解している。
図9(E)は、成膜室20に1個のターゲットローラ111のみを配設して、ターゲットローラ111においてベース材1にAgPd合金微粒子を超音速フリージェットを適用して物理蒸着させて搬送させる場合を図解している。
図9(F)は、成膜室20に、1個のターゲットローラ111、その前後に、第1、第2の位置決めローラ109、113を配設して、ターゲットローラ111においてベース材1にAgPd合金微粒子を超音速フリージェットを適用して物理蒸着させて搬送させる場合を図解している。
【0069】
本実施の形態において、上記例示したローディング法を適宜採用することができる。
なお、これらローラの配置は、安定して搬送が可能なこと、安定して、超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PVD)によるAgPd合金微粒子の層が形成されることを考慮して決定することができる。
さらに好ましくは、ベース材1に堆積されたAgPd合金微粒子の層が、極力、第1、第2位置決めローラ109、113の面に触れないことが、AgPd合金微粒子の層の傷が付くことを防止するなどの観点から望ましい。その観点からは、
図1および
図9(C)に図解したローディング法が好ましい。
【0070】
ローディング・搬送部の各種態様(2)
図10(A)〜(F)は、
図1における、ローディング・搬送部10の各種態様を図解した図である。
図10(A)〜(F)において、ベース材1/AgPd合金層被覆ベース材3が搬送される経路における、主要なローラ、すなわち、送り出しドラム101、巻取ドラム103、成膜室20内のターゲットローラ111の設置方法の例を示した。
図10において、SSFJは、超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PVD)部分、すなわち、蒸発室30、微粒子移送管202、ノズル201を概略的に図解したものである。
特に、
図10(A)〜(F)は、送り出しドラム101および巻取ドラム103をも、成膜室20の内部に配設して全てのローラを成膜室20内に配置した例を示している。
【0071】
図10(A)は、ローラのローディング方法および配置は、
図9(A)と同様であるが、成膜室20内に2対の送り出しドラム101、2対のピンチローラP、巻取ドラム103を配設してベース材1にAgPd合金微粒子を超音速フリージェットを適用して物理蒸着させて搬送させる場合を図解している。
図10(B)は、成膜室20に、送り出しドラム101、2個のターゲットローラ111、巻取ドラム103を配設した例を図解している。
図10(C)は、成膜室20に、送り出しドラム101、1個のターゲットローラ111、その前後に、第1、第2の位置決めローラ109、113、巻取ドラム103を配設した例を図解している。
図10(D)は、成膜室20に、送り出しドラム101、1個のターゲットローラ111、その前後に、第1、第2の位置決めローラ109、113、巻取ドラム103を配設した例を図解している。
図10(E)は、成膜室20に、送り出しドラム101、1個のターゲットローラ111、巻取ドラム103を配設した例を図解している。
図10(F)は、成膜室20に、送り出しドラム101、1個のターゲットローラ111、その前後に、第1、第2の位置決めローラ109、113、巻取ドラム103を配設した例を図解している。
【0072】
本実施の形態において、上記例示したローディング法を適宜採用することができる。
なお、これらローラの配置は、安定して搬送が可能なこと、安定して超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PV)によるAgPd合金微粒子の層が形成されることを考慮して決定することができる。
さらに好ましくは、ベース材1に堆積されたAgPd合金微粒子の層が、極力、第1、第2位置決めローラ109、113の面に触れないことが、AgPd合金微粒子の層の傷が付くことを防止するなどの観点から望ましい。
【0073】
本実施形態に基づく、たとえば、摺動接点材のAgPd合金層は、ベース材との密着性が高く、回転機器に用いて摺動させても、AgPd合金層の剥離を抑制することができる。
本実施形態による摺動接点材は、ベース材の表面にAgPd合金層をコーティングしたクラッド複合材料である摺動接点材において、AgPd合金層の組織を構成するAgPd合金の微粒子の粒径が厚み方向に均一になっている。したがって、粗大粒子が摺動接点材の磨耗時に剥離することが防止され、摺動接触部における接触不良及び回転機器としての寿命のばらつきを抑制することができる。
【0074】
AgPd合金層が形成されているベース材は、たとえば、ブラシ形状に加工され、直流小型モーターあるいはポジションセンサなどの回転機器の機械的な摺動部に用いられる摺動接点材であるブラシに適用することができる。
特に、AgPd合金層の組織を構成するAgPd合金の微粒子の粒径が厚み方向に均一になっていることから、摺動時にAgPd合金の微粒子の剥離が生じても、剥離後の表面に新たな微粒子面が形成され、接触不良の問題を抑制することができるので摺動接点材に適している。特に、電流容量の小さな直流小型モーターあるいはポジションセンサなどの回転機器の機械的摺動部に用いられる摺動接点材に適している。
また、本実施形態による摺動接点材料、小電流、小接触の摺動接触部に適しており、特に直流小型モーターのブラシに好ましく用いることができる。
【0075】
本発明の実施の形態のAgPd合金連続成膜(被覆)装置によれば、上述したAgPd合金層被覆ベース材3を連続的に製造することができる。
【0076】
図1に図解したAgPd合金連続被覆装置100は、成膜室20、蒸発室30、レーザー装置70などの、好適には、超音速フリージェット物理蒸着(SFJ−PVD)により物理蒸着を行い部分と、ローディング・搬送部とから構成されており、装置構成も特に複雑ではない。
【0077】
本発明の実施に際しては、上記の実施の形態に限定されない。
たとえば、AgPd合金の微粒子を含むガスをノズルから噴出して得られるガス流は、超音速に限定されず、遷音速あるいは亜音速でもよい。
ベース材としては、たとえば、摺動接点材として、CuまたはCuSn合金を用いることについて説明しているが、これに限定されるものではなく、他の材料からなるベース材にも適用できる。
Ag合金は、例示したAgPd合金に限らず、他のAg合金、たとえば、AgZn合金、AgAl合金、AgNiなどでもよい。
【0078】
たとえば、本発明は、広く、金属及び/又はセラミックについても適用することができる。
この場合、微粒子蒸発室30に、該当する金属及び/又はセラミック微粒子層蒸発源を配置し、レーザー装置70により、この蒸発源から組成を維持した状態の径の微粒子を蒸発させる。
【0079】
成膜方法は上述例に限らない。
図11(A)は、ベース材1の表面に、2か所、AgPd合金微粒子2bを成膜した例を示す。この例示は、たとえば、ベース材1の横方向に、2個のノズル201を配置すればよい。
【0080】
図11(B)は、ベース材1の表面に、1か所にAgPd合金微粒子2bを成膜し、他の1か所に、銀(Ag)の微粒子層槽を同時に成膜した例を示す。
この場合は、たとえば、AgPd合金微粒子蒸発室30と銀微粒子蒸発室とを併設し、2個のノズルに接続され2個のた移送管を配設する。一方のノズル201からはAgPd合金微粒子が噴射され、他方のノズルからは銀微粒子が噴射されて、これらがベース材1に同時に成膜される。
【0081】
図11(C)は、ベース材1の表面に、1層目にAgPd合金微粒子2bを成膜し、その上の2層目に、たとえば、銀微粒子を成膜した例を示す。
この場合は、AgPd合金微粒子蒸発室30と銀微粒子蒸発室とを設け、成膜室20内に、たとえば、ターゲットローラ111の真下に、AgPd合金微粒子を噴射するノズル201を配置して先にベース材1の表面にAgPd合金微粒子2bを成膜し、さらに、ターゲットローラ111と第2位置決めローラ113との間に第2のノズルを配置してそのノズルから銀の微粒子を噴射させて、AgPd合金微粒子2bが成膜された上に銀の微粒子を重ねて成膜させることができる。
【0082】
なお、
図11(C)に図解した例示においては、上記した例とは逆に、1層目に銀微粒子層を成膜し、2層目にAgPd合金微粒子2bを成膜することもできる。
【0083】
もちろん、成膜方法は上記例示に限らず、その他、種々の成膜方法をとることができる。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。