(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6069167
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】多結晶シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/035 20060101AFI20170123BHJP
【FI】
C01B33/035
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-220204(P2013-220204)
(22)【出願日】2013年10月23日
(65)【公開番号】特開2015-81215(P2015-81215A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】祢津 茂義
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 弘
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正幸
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−184831(JP,A)
【文献】
特開2009−062211(JP,A)
【文献】
特表2012−532083(JP,A)
【文献】
特開昭54−033896(JP,A)
【文献】
特開昭62−021706(JP,A)
【文献】
特開平10−316413(JP,A)
【文献】
特開昭60−036318(JP,A)
【文献】
特開平07−277720(JP,A)
【文献】
特開平02−208217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA〜E工程を備えた多結晶シリコンの製造方法。
A工程:トリクロロシラン(TCS)またはTCSとジクロロシラン(DCS)の混合物と、水素を反応させて多結晶シリコンを析出させる工程、
B工程:前記A工程の排ガスを回収し、凝縮性のクロロシランとその他ガスを分離する工程、
C工程:前記B工程で凝縮したクロロシランの液相を蒸留し、TCS及びそれより低沸点成分の混合留分である回収クロロシランと、それ以外の留分を分画する工程、
D工程:前記C工程で分画した回収クロロシランの全量、または、回収クロロシラン中の低沸点側留分を、不純物低減処理として吸着剤に接触させ、不純物低減処理クロロシランを得る工程、および、
E工程:前記D工程で得た不純物低減処理クロロシランを、前記A工程に供給する工程。
【請求項2】
下記のA〜F工程を備えた多結晶シリコンの製造方法。
A工程:トリクロロシラン(TCS)またはTCSとジクロロシラン(DCS)の混合物と、水素を反応させて多結晶シリコンを析出させる工程、
B工程:前記A工程の排ガスを回収し、凝縮性のクロロシランとその他ガスを分離する工程、
C工程:前記B工程で凝縮したクロロシランの液相を蒸留し、TCS及びそれより低沸点成分の混合留分である回収クロロシランと、それ以外の留分を分画する工程、
F工程:前記C工程で分画した回収クロロシランの全量、または、回収クロロシラン中の低沸点側留分を、再蒸留により、不純物化合物を濃縮した低沸点側留分である不純物濃縮回収クロロシラン留分と、TCS留分に分画し、前記不純物濃縮回収クロロシラン留分を前記D工程へと供給する一方、前記TCS留分を前記A工程に供給する工程、
D工程:前記F工程からの前記不純物濃縮回収クロロシラン留分を、不純物低減処理として吸着剤に接触させ、不純物低減処理クロロシランを得る工程、および、
E工程:前記D工程で得た不純物低減処理クロロシランを、前記A工程に供給する工程。
【請求項3】
前記D工程における再生処理は、吸着剤を交換することなく再生処理が可能な機構を有する吸着装置で行われ、前記A工程における多結晶シリコンの析出反応の開始から完了までの間に1度以上の再生処理を行う、請求項1または2に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記D工程における再生処理は、前記吸着剤を加熱しつつ、不活性ガスを前記吸着装置内に流通する再生方法により実行される、請求項3に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記再生処理に用いる前記不活性ガスとして、露点−20℃以下の窒素、水素、ヘリウム、アルゴンを用いる、請求項4に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
前記D工程で用いる前記吸着装置は2基以上の吸着塔で構成され、該2基以上の吸着塔を切り替えて前記再生処理を行う、請求項3または4に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項7】
前記吸着剤は、活性炭、活性アルミナ、ハイシリカゼオライトから選択される、請求項1乃至5の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンの製造技術に関し、より詳細には、半導体グレードの高純度な多結晶シリコンを製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシラン(TCS)は、多結晶シリコンの製造原料として広く用いられる。このTCSの合成方法としては、冶金級シリコンと塩化水素を反応させて得る直接法(特許文献1:特開平2−208217号公報、特許文献2:特開平9−169514号公報等)や、テトラクロロシラン(STC)を冶金級シリコン存在下で水素と反応させて還元(STC還元)して得る方法(特許文献3:特開昭60−36318号公報等)等が知られている。
【0003】
しかし、このような合成により得られたTCS中には、出発原料である冶金級シリコンに由来するホウ素やリンなどの不純物(乃至その化合物)が多く含有されている。ホウ素やリンなどは、シリコン結晶中でドナーやアクセプタとして作用するため、半導体グレードの高純度の多結晶シリコンを得るためには、これらの不純物を除去する必要がある。
【0004】
TCS中の不純物(化合物)の濃度を低減するための方法としては、TCSに有機化合物を添加して不純物(化合物)との付加物を生成させ、これを高沸点成分として蒸留精製する方法(特許文献4:特開2005−67979号公報、特許文献5:特開2012−91960号公報)などが報告されている。
【0005】
また、TCS中の不純物(化合物)を、シリカゲルや活性炭等に吸着させて除去する方法(特許文献6:ドイツ国特許第1,289,834号明細書、特許文献7:特開2010−269994号公報)なども報告されている。
【0006】
このような方法で不純物を低減したTCS(精製TCS)を原料として高純度な多結晶シリコンを製造する方法としては、水素ガスと共に高温下で還元してシリコンロッド上に析出させるシーメンス法(例えば、特許文献8:特開2012−153547号公報)が広く用いられている。
【0007】
ところで、シーメンス法による反応では、多結晶シリコンとして析出するのは、供給したTCSの数%〜十数%に過ぎず、残りのTCSは反応器から排ガスとして排出される。排ガスの組成の主なものは原料ガスとして供給された水素とTCSであるが、その他に、多結晶シリコンの析出反応に伴って副生するジクロロシラン(DCS)、STC、ヘキサクロロジシラン(HCDS)等も含まれる。これらのガスは再利用が可能なため、反応器から排出された排ガスは回収される。
【0008】
回収された排ガス中に含まれる凝縮性シラン類は、水素や塩化水素等と分離された後、蒸留により、多結晶シリコンの析出反応に有用なTCS及びDCSの混合留分(回収クロロシラン)と、それ以外のSTCを主成分とする留分に分画される。
【0009】
回収クロロシランは多結晶シリコンの析出反応で再利用される。一方、STCを主成分とする留分はそのままでは多結晶シリコンの析出反応には適さないため、前述のSTC還元でTCSに転化して再利用されるか、または、シリカ等の製造用原料として利用される。
【0010】
上述したように、シーメンス法による多結晶シリコンの析出反応においては、原料TCSからの多結晶シリコンへの転換率は高くない。このため、反応排ガスに含まれるクロロシランを回収して、これを多結晶シリコン析出反応へと循環再供給して再利用するシステムのクローズド化が重要な技術となる。
【0011】
一方、半導体デバイスの高集積化等に伴い、半導体グレードの多結晶シリコンに対しては更なる高純度化が求められており、この要求に応えるためには、原料ガスの高純度化、すなわち、不純物の少ない高純度のクロロシラン類を反応系に供給することが必要不可欠である。
【0012】
しかし、クローズド化された循環システムの析出反応プロセスでは、精製TCSが持ち込む微量の不純物化合物や反応器を開放して多結晶シリコンを取り出す際に混入する不純物などが系内に蓄積し易いため、これらの不純物がシステム高純度化の障壁となる。
【0013】
このような理由から、析出反応の循環系に蓄積する不純物化合物の除去方法として、蒸留精製により系外排除する方法(特許文献9:特許第3878278号明細書)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−208217号公報
【特許文献2】特開平9−169514号公報
【特許文献3】特開昭60−36318号公報
【特許文献4】特開2005−67979号公報
【特許文献5】特開2012−91960号公報
【特許文献6】ドイツ国特許第1,289,834号明細書
【特許文献7】特開2010−269994号公報
【特許文献8】特開2012−153547号公報
【特許文献9】特許第3878278号明細書
【特許文献10】国際公開公報2013/094855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献4や特許文献5に開示されている方法は、析出反応の廃ガスから回収されたクロロシランの不純物を除くために化学的処理が行われる。このような化学的処理は、有機化合物を添加して、不純物化合物との付加物を生成させ、高沸成分として蒸留分離するというものであるため、蒸留設備を必要とし、定常的なエネルギー損失を伴う。
【0016】
また、高沸化した付加物を系外排除する際に多くの有用なTCSも同時に廃棄する必要があるため、原料ロスの増加を招く。さらに、BOD源となる有機物含有クロロシラン廃液の処理は、一般的に、水と反応させて安定な状態にした後に生物処理を行う必要があるが、この処理は、固形分生成による設備の閉塞や残留塩素による設備腐食などの問題を引き起こし易く、有機化合物の臭気問題もあるため、有機物含有クロロシラン廃液処理は厄介なものとなる。つまり、クロロシランの不純物を除くための化学的処理は、原料ロスの増加を招くのみならず、厄介な有機物含有クロロシラン廃棄物の処理も必要となる。
【0017】
特許文献6や特許文献7に開示されている方法では、冶金級シリコンやテトラクロロシランといった粗原料から合成されたトリクロロシランの不純物除去は、シリカゲルや活性炭に吸着させることで行われる。しかし、これらの方法では、反応排ガスの含まれるクロロシランを回収してこれを多結晶シリコン析出反応へと循環再供給して再利用するシステム(連続サイクル)内で上記の不純物吸着処理を用いることは想定されていない。
【0018】
工業的生産の現場では、多結晶シリコンの析出システムは、かなりの長時間にわたり連続運転がなされる。そのため、このシステム内で上記の不純物吸着処理を行うと、連続運転の途中で吸着剤が破過に至り、吸着剤の入れ替え処理が必要となる。このような場合、システムを一旦開放して吸着剤の入れ替え処理が行われるが、その際に不純物が持ち込まれてシステム内を汚染させるという問題がある。
【0019】
特許文献9に開示されている方法では、クロロシランに含まれる不純物化合物が循環系内に蓄積することを抑制するため、回収クロロシランを再度蒸留精製して不純物化合物を濃縮して系外に排出する。しかし、この方法では、不純物化合物は析出反応で副生する低沸点のDCSに同伴するため、不純物化合物を系外排出する際に再利用可能なDCSも同時に系外に排出されることになる。一般的に、回収クロロシラン中のDCS濃度は数%〜十数%に及ぶことから、これらDCSを系外排出してしまうことによる損失は大きい。
【0020】
なお、DCSは、TCSに比べ低温で析出反応が進むため、多結晶シリコンの生産性の向上や電力原単位の低減につながることに加え、大口径の多結晶シリコン製造プロセスにおいては、DCSの存在が有効であるとの提案もある(特許文献10:国際公開公報2013/094855号)。
【0021】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、反応排ガスに含まれるクロロシランを回収して、これを多結晶シリコン析出反応へと循環再供給して再利用する際に、回収クロロシランを系外排除することなく、クローズド化された系内で、半導体グレードの高純度多結晶シリコンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述の課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコンの製造方法は、下記のA〜E工程を備えている。
A工程:トリクロロシラン(TCS)またはTCSとジクロロシラン(DCS)の混合物と、水素を反応させて多結晶シリコンを析出させる工程、
B工程:前記A工程の排ガスを回収し、凝縮性のクロロシランとその他ガスを分離する工程、
C工程:前記B工程で凝縮したクロロシランを蒸留し、TCS及びそれより低沸点成分の混合留分である回収クロロシランと、それ以外の留分を分画する工程、
D工程:前記C工程で分画した回収クロロシランの全量、または、回収クロロシラン中の低沸点側留分を、不純物低減処理として吸着剤に接触させ、不純物低減処理クロロシランを得る工程、および、
E工程:前記D工程で得た不純物低減処理クロロシランを、前記A工程に供給する工程。
【0023】
前記D工程における再生処理は、吸着剤を交換することなく再生処理が可能な機構を有する吸着装置で行われ、前記A工程における多結晶シリコンの析出反応の開始から完了までの間に1度以上の再生処理を行う態様としてもよい。
【0024】
また、ある態様においては、前記D工程における再生処理は、前記吸着剤を加熱しつつ、不活性ガスを前記吸着装置内に流通する再生方法により実行される。
【0025】
好ましくは、前記再生処理に用いる前記不活性ガスとして、露点−20℃以下の窒素、水素、ヘリウム、アルゴンを用いる。
【0026】
前記D工程で用いる前記吸着装置は2基以上の吸着塔で構成され、該2基以上の吸着塔を切り替えて前記再生処理を行う態様としてもよい。
【0027】
また、好ましくは、前記吸着剤は、活性炭、活性アルミナ、ハイシリカゼオライトから選択される。
【発明の効果】
【0028】
本発明においては、C工程で分画した回収クロロシランから純物低減処理クロロシランを得るD工程、および、該D工程で得られた不純物低減処理クロロシランを多結晶シリコンの析出工程であるA工程に供給する構成を採用した。
【0029】
この採用により、半導体グレードの高純度多結晶シリコンを製造するプロセスにおいて、析出反応系で循環する回収クロロシランに蓄積する不純物化合物が除去されて安定した品質の多結晶シリコンを得ることができる。
【0030】
また、本発明では、有用なDCSが系外排除されず、クローズド化された系内でそのまま再利用が可能となるため、原料ロスやエネルギー原単位の低下を抑えることができる。更に、本発明では、吸着剤再生を行うこともできるため、吸着剤の交換時に循環系を開放する必要がなく、系内に持ち込まれる不純物による汚染が回避できることに加え、脱着された不純物化合物を湿式の排ガス処理設備などの簡易的な設備で処理可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の方法を実施するためのフロー図の第1例である。
【
図2】本発明の方法を実施するためのフロー図の第2例である。
【
図3】本発明の方法を実施するためのフロー図の第3例である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明に係る、半導体グレードの高純度多結晶シリコンを製造する方法を説明するためのフロー図の第1例である。
【0034】
この図に示した例では、A工程(S101)で、精製TCSと、後述するE工程(S105)で得られたクロロシランと、水素を原料として、多結晶シリコンを析出させて半導体グレードの高純度多結晶シリコンを製造する。
【0035】
尚、近年、高品位な半導体グレードの高純度多結晶シリコンとして、不純物がリン0.070ppba以下、ホウ素0.010ppba以下のクロロシラン原料を使って、シーメンス法により製造した場合に得られるレベルの純度の多結晶シリコンが求められている。
【0036】
A工程(S101)の析出反応で生じる排ガス中には、未反応の水素、TCSの他、副生するDCSやSTC等が含まれている。通常、この排ガスは冷却され、凝縮性のクロロシランと、水素や塩化水素といったその他のガスに分離される。
図1に示した例では、B工程(S102)において、排ガス回数設備内においてこの分離が行われる。
【0037】
この分離で得られた凝縮性のクロロシランはC工程(S103)へと送られ、クロロシラン分離塔で蒸留分離され、析出反応に有用なTCSおよびDCSの混合物(回収クロロシラン)と、STCを主成分とするそれ以外の留分に分画される。
【0038】
なお、B工程(S102)において分離された水素や塩化水素といったその他のガスに含まれる水素は、精製した後に回収して、再び、上述のA工程(S101)に供給しても良い。また、塩化水素は、冶金級シリコンからのTCS合成に使用するようにしてもよい。
【0039】
C工程(S103)で蒸留分離された、STCを主成分とするそれ以外の留分は、水素及び冶金級シリコンの存在下で還元(STC還元)、あるいは、高温下で直接水素により還元し、得られた粗シランを蒸留、精製し、再び析出反応に有用な精製TCSとして利用しても良い。
【0040】
一方、C工程(S103)で蒸留分離された回収クロロシラン中には不純物化合物が含まれているため、D工程(S104)に送られ、吸着剤と接触させることで不純物含有量を低減させる(吸着精製)。
【0041】
ここで、D工程(S104)の吸着条件としては、温度は100℃以下が好ましく、より好ましくは−20〜40℃である。また、流速はSV=0.2以上が好ましく、より好ましくはSV=0.5〜2である。
【0042】
この吸着精製に用いる吸着装置が固定床のものである場合、充填高さLと塔径Dの比が大きいものの方が、吸着剤の破過時間や偏流リスクを排除する上で好ましい。実用的には、L/D=2〜200が好ましく、より好ましくはL/D=5〜50である。
【0043】
D工程で用いる吸着剤は、例えば活性炭、活性アルミナ、ゼオライトを使用することができ、充填設備には固定床のものを用いることができる。
【0044】
吸着剤としての活性炭としては、例えば、A−BAC−LPやSP((株)クレハ)、球状白鷺X7000(日本エンバイロケミカルズ(株))などを挙げることができる。
【0045】
また、活性アルミナの例としては、KHD−12(住友化学(株))などを挙げることができる。
【0046】
吸着剤としてゼオライトを用いる場合には、ハイシリカゼオライトが好ましく、例えばY型のハイシリカゼオライトであるHSZ−320(東ソー(株))を例示することができる。
【0047】
D工程で用いる吸着装置は、吸着剤を交換することなく再生処理が可能な機構のものであることが好ましい。この場合、A工程における多結晶シリコンの析出反応の開始から完了までの間に1度以上の再生処理が行われる。
【0048】
また、D工程で用いる吸着装置は、2基以上の吸着塔で構成されることが好ましい。吸着塔を2基以上備えていれば、例えば、1基の吸着塔で不純物吸着による吸着剤の処理能力の低下が生じる前に他の吸着塔への切り替えを行い、前者の吸着塔の再生処理を行う間は、後者の吸着塔で吸着処理を行うこととすることで、吸着処理の効率を高くすることが可能である。
【0049】
なお、D工程の吸着処理液の品質管理は、吸着塔の中段付近から定期にサンプリングし、不純物量を分析することで、破過前に使用を停止して他の塔に切り替えるか、或いは、処理量が一定値に達した時点で使用を停止し他の吸着塔に切り替えるなどの運転管理方法がある。
【0050】
D工程における吸着剤の再生は、吸着剤充填容器内の液を抜いた後に不活性ガスを通気しながら外部加熱して不純物化合物を脱着させる。このときの不活性ガスとしては、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン等を例示することができる。
【0051】
また、クロロシランは水分と反応してシリカを生成する為、乾燥したガスを使用することが好ましい。不活性ガスの露点は−20℃以下であることが好ましく、より好ましくは−80℃以下とする。さらに、リン、ヒ素、ホウ素など半導体のドーパントとなる物質の合計が500ppm以下のガスを用いることが好ましい。
【0052】
吸着剤の再生時の加熱温度は100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上とする。併せて、前述の不活性ガスを予熱して供給しても良い。
【0053】
吸着剤の再生時の圧力は100KPaG〜0.1KPaAの範囲で行うことが好ましい。例えば、脱着の初期段階は常圧で行い、後半は減圧にしても良い。
【0054】
これらの操作により、例えば活性炭を吸着剤として用いた場合、新品の飽和吸着量の30〜60%程度まで再生することができる。
【0055】
D工程で脱着した不純物化合物は、不活性ガスと共に系外へ排出し、排ガス処理設備で処理する。この排ガス処理は、例えば、湿式のスプレー塔で加水分解するか、燃焼炉で焼却処理しても良い。
【0056】
なお、新品の吸着剤を用いる場合、もし吸着剤が水分を吸着していれば、上述の再生と同じ方法で脱水してから使用するのが好ましい。水分はクロロシランと反応し、シリカが生成して表面付着するなど性能劣化を招く場合があるからである。
【0057】
新品または再生後の吸着剤にクロロシラン液を接触させると激しく発熱し、液が急激に蒸発して圧力上昇する場合がある。その場合は予め、前述の不活性ガスと精製したクロロシラン(例えば、テトラクロロシランやトリクロロシラン)ガスを0.2〜40vol%濃度で混合し、吸着剤に接触させて前処理しても良い。
【0058】
新品の吸着剤は不純物の溶出や残留水分によるシロキサン生成などの影響があるため、精製TCSで洗浄するのが好ましい。洗浄は液でも、ガスでも良い。液の場合は吸着剤容積の10〜1000倍、好ましくは30〜100倍程度を通液させても良い。
【0059】
D工程で不純物化合物量を低減した回収クロロシランは、TCSおよびDCSを含むものである。そこで、E工程(S105)で、このクロロシランをA工程へと送り、クロロシランとして原料供給する。
【0060】
図1には、シリコン原料として、精製TCSと、E工程で得られたクロロシランを供給するフローを示したが、例えば析出反応の2バッチ目以降はE工程で得られたクロロシランのみをシリコン原料として供給する態様としてもよい。
【0061】
図2は、本発明の方法を実施するためのフロー図の第2例で、
図1のフロー図とは、低沸分離塔を用いるF工程(S106)を設け、回収クロロシランに含まれる不純物化合物の除去をより効率的に行うこととしている点において異なる。
【0062】
回収クロロシランに含まれる不純物化合物は、TCSよりも低沸点の成分が多い。そこで、F工程(S106)の再蒸留により、不純物化合物を濃縮した低沸点側留分(不純物濃縮回収クロロシラン)と、TCS留分に分画し、得られた不純物濃縮回収クロロシランをD工程(S104)へと供給する。ここで、不純物濃縮回収クロロシランの留分の主な成分は、DCS、または、DCSとTCSである。
【0063】
D工程(S104)で吸着剤と接触させ不純物化合物量を低減した不純物低減化処理クロロシランと、F工程(S106)の高沸点側留分であるTCS留分を、E工程(S105)でA工程(S101)の原料として供給する。一般的に、吸着物質濃度が高ければ吸着剤単位量当たりの吸着量が増すため、この態様では、不純物化合物の濃縮により、吸着塔再生頻度の低減又は吸着塔の小型化を図ることができる。
【0064】
図3は、本発明の方法を実施するためのフロー図の第3例で、
図2のフロー図とは、C工程(S103)で分離したSTCの一部を、D工程(S104)で精製したクロロシランと共に不均化反応させてTCSに転化するG工程(S107)を設けた点において異なる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は係る実施例によって限定されるものではない。
【0066】
実施例1:吸着による回収クロロシランの不純物低減効果
析出反応排ガスの凝縮液を蒸留分離して得られた回収クロロシラン液を450g/hで、塔内径21.7mm×高さ1,500mmのSUS管に活性炭を充填した固定床の吸着塔の下部から注入し、1パスで得た液3kgを密閉ボンベに採取した。
【0067】
その後、ボンベを所定の温度に維持し、所定量の水素を供給してバブリングにより器内のシランを一定量気化させ、水素との混合ガスを小型のシーメンス法による析出実験装置に供給して多結晶シリコンを製造した。
【0068】
得られた多結晶シリコンはFZ法(Floating Zone法)で単結晶化し、その後フォトルミネッセンス分析によりホウ素とリン濃度を定量した。その結果を表1に示す。
【0069】
比較例1:無処理の回収クロロシラン不純物量確認
実施例1と同じ仕様の充填塔に、なにも充填せず空塔の状態で同様のトリクロロシランによる洗浄を実施し、その後実施例1と同じロットの回収クロロシランを注入して得られた液3kgをボンベに採取し、同じ実験装置で多結晶シリコンを製造した。得られた多結晶シリコンの不純物定量分析結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示した結果から、活性炭吸着による高純度多結晶シリコンに含まれる不純物低減効果が確認できる。
【0072】
実施例2:シラン中の不純物化合物を吸着した活性炭の再生
内径10.7mm×高さ400mmのSUS管に活性炭を20.3g充填した。また、5.8Lのボンベにホウ素として5,400ppbwを含有する不純物化合物含有TCS(6.0kg)を充填した。ボンベ液をポンプにより1.2L/hrで塔底へ供給し、塔頂から排出された液を再びボンベに戻す密閉循環を15℃で2日間継続して活性炭を吸着飽和させた。
【0073】
吸着飽和後のボンベ液のホウ素濃度は1,080ppbwに低下した。なお、新品のホウ素吸着量は1.28mg/g−活性炭であった。これらのホウ素の定量は、ICP発光分光分析(ICP−OES)による。
【0074】
その後、活性炭充填塔に窒素ガス1L/minを通気しながら電気ヒータで塔外側を150℃で12hr加熱した後、窒素ガスと加熱はそのままに、真空ポンプで5KPaAまで塔内を減圧して150℃で12hr加熱処理した。
【0075】
処理後の活性炭充填塔に、再びホウ素を5,400ppbw含有する不純物化合物含有TCS(3.0kg)を充填したボンベを接続し、密閉下15℃で2日間ポンプ循環し吸着飽和させた。
【0076】
吸着飽和後のボンベ液のホウ素濃度は860ppbwに低下し、処理後のホウ素吸着量は0.68mg/g−活性炭となり、新品に対して53%の吸着量を得た。
【0077】
再度、上記の処理を繰り返した結果、2回目も新品に対して50%の吸着量を得た。
【0078】
以上の結果より、クロロシラン中の不純物化合物を吸着した活性炭の再生効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明により、反応排ガスに含まれるクロロシランを回収して、これを多結晶シリコン析出反応へと循環再供給して再利用する際に、回収クロロシランを系外排除することなく、クローズド化された系内で、半導体グレードの高純度多結晶シリコンを製造する方法が提供される。