(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記クラッド金属板は、上記金属支持層の外面に接合された耐腐食性金属からなる外側表皮層をさらに有し、上記外側表皮層は上記金属支持層よりも厚みが小さい、請求項1または2に記載の重合反応器。
上記蓋体は、上記容器本体の内側に位置する内面と上記容器本体の外側に位置する外面とを有する追加の金属支持層と、当該追加の金属支持層の内面に接合され、上記追加の金属支持層よりも厚みの小さい耐腐食性金属からなる追加の内側表皮層と、を有する追加のクラッド金属板を用いて構成されている、請求項8に記載の重合反応器。
上記追加のクラッド金属板は、上記追加の金属支持層の外面に接合された耐腐食性金属からなる追加の外側表皮層をさらに有し、上記追加の外側表皮層は上記追加の金属支持層よりも厚みが小さい、請求項9に記載の重合反応器。
【背景技術】
【0002】
吸水性樹脂などの重合物の製造時に用いられる重合反応器としては、一般には
図4に示すように、反応液等を収容する容器本体91と、この容器本体91の外面を覆うように設けられた外套(ジャケット部92)とを備えたものが採用されている。ジャケット部92内には、必要に応じて冷熱媒体(冷媒あるいは熱媒)が通流させられ、容器本体91の壁面を通じた熱交換により、内容物(例えば反応液または反応混合物)に対する冷却ないし加熱が行われ、容器本体91の内容物が所定の温度となるように制御される。容器本体91については、内容物に対する耐荷重や重合反応時の耐圧性能の観点により、所定の強度が必要とされることから、強度に優れた材料(例えば炭素鋼鋼板)を用いて構成される。また、通常、容器本体91には攪拌翼93が設けられており、この攪拌翼93の作動によって、内容物の均質化と均温化が図られている。容器本体および外套を備えた重合反応器は、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【0003】
近年では、例えば吸水性樹脂などの重合物の需要が増大しており、この需要増大に対応するには、重合反応器の大型化により生産性向上を図ることが検討されている。
【0004】
重合反応器を用いて行う重合物の生成においては、内容物を所望温度にするために冷熱媒体との熱交換により伝達すべき熱量が比較的大きい。このため、重合物生成のための工程(以下、重合工程という)において、内容物を加熱ないし冷却するための時間(以下、伝熱時間という)の占める割合が比較的に大きい。したがって、伝熱時間を短縮することができれば、重合物の生産効率の改善が見込まれる。そして、伝熱時間を短縮するには、上記の熱交換による熱伝達を効率よく行うことが要求される。
【0005】
ジャケット部内に冷熱媒体を通流させる際、容器本体の壁を通じての冷熱媒体と内容物との間の熱伝達効率(熱伝達量Q)に影響を与える代表的な因子として、次の3つが挙げられる。第1の因子は、冷熱媒体と容器本体の壁との伝熱抵抗(例えばジャケット部内の冷熱
媒体の流量)であり、第2の因子は、容器本体の壁と内容物との伝熱抵抗(例えば攪拌翼による内容物の均質化・均温化の程度)であり、第3の因子は、容器本体の壁そのものによる金属抵抗である。これらの各因子に関して熱伝達率の改善を図る手法としては、第1の因子については、ジャケット部内における冷熱媒体の流量増加、第2の因子については攪拌翼による内容物の均質化ないし均温化の効率改善、第3の因子については、容器本体の壁の板厚の薄型化を挙げることができる。また、これら3つの因子のうち、全体の熱伝達率に最も大きな影響を与えるのは第3の因子(金属抵抗)である。したがって、伝熱時間を短縮するためには、容器本体の壁の厚みを薄くすることが最も効果的であると考えられる。
【0006】
その一方、上述のように、重合反応器の大型化により生産性向上を図るには、容器本体の板厚については、強度上の観点から厚くする必要がある。このことは、容器本体の壁を通じての熱伝達効率の低下を招き、伝熱時間が長くなって却って生産効率の改善の阻害要因となり得る。
【0007】
このような事情に鑑み、特許文献1においては、容器本体の内側に冷熱媒体の通路を形成する構成が開示されている。具体的には、同文献の
図1、
図2に表れているように、容器本体の内面に、帯板状の支持体を溶接によって所定間隔で直立状態に設け、隣接する支持体の配置間隔に等しい張り板を、支持体の先端に対して溶接によって設けている。これにより、容器本体の壁と支持体と張り板とで区画された密閉空間が冷熱媒体の通路となっている。このように容器本体の内側に冷熱媒体の通路を形成する構成によれば張り板(内容物と冷熱媒体との間の隔壁)の厚さを薄くすることが可能であり、伝熱時間の短縮による生産性向上が期待できる。
【0008】
しかしながら、重合反応器の使用時に容器本体の内部の状態を確認することは、実質的に困難である。したがって、容器本体の内側に設けた冷熱媒体の通路の隔壁を薄くし、また、この隔壁を溶接により設ける構成は、隔壁の経年劣化による破損等を考慮すると、長期間の使用における信頼性が乏しい。
【0009】
また、吸水性樹脂の製造においては、水溶性エチレン性不飽和単量体を重合する方法が主流であり、水溶性エチレン性不飽和単量体は、酸性物質であり、通常、水酸化ナトリウムで中和して用いられる。また、逆相懸濁重合法による吸水性樹脂の製造においては、反応溶媒として有機溶媒が用いられる。このように、吸水性樹脂の製造においては、重合反応に際して酸、アルカリや有機溶媒が使用されるため、重合反応器(容器本体)の材質としては、ステンレス鋼などの耐腐食性金属を用いることが検討される。しかしながら、ステンレス鋼は炭素鋼よりも伝熱性能が劣るので、
図4に示した構造において容器本体91をステンレス鋼によって構成すると、反応液(内容物)の加熱ないし冷却を容器本体の外側に設けたジャケット部92に冷熱媒体を流すことにより行う際に、容器本体の壁を通じての熱伝達効率の低下を招くこととなり、同じ厚みでも炭素鋼に比べて伝熱時間が長くなるという不都合があった。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであって、長期間の使用における信頼性を維持しつつ、重合工程における伝熱時間を短縮するのに適した重合反応器を提供することを課題としている。また、本発明は、そのような重合反応器を用いて吸水性樹脂の製造を効率よく行うのに適した方法を提供することを他の課題としている。
【0012】
本発明の第1の側面によって提供される重合反応器は、容器本体と、当該容器本体の外面を覆うように設けられ、上記容器本体の外面との間に冷熱媒体を通流させるための通路を形成するジャケット部と、を備え、上記容器本体は、上記容器本体の内側に位置する内面と上記容器本体の外側に位置する外面とを有する金属支持層と、当該金属支持層の内面に接合され、上記金属支持層よりも厚みの小さい耐腐食性金属からなる内側表皮層と、を有するクラッド金属板を用いて構成されている。
【0013】
好ましくは、上記内側表皮層の厚みは、上記金属支持層の厚みの1/10〜1/2である。
【0014】
好ましくは、上記クラッド金属板は、上記金属支持層の外面に接合された耐腐食性金属からなる外側表皮層をさらに有し、上記外側表皮層は上記金属支持層よりも厚みが小さい。
【0015】
好ましくは、上記金属支持層は炭素鋼からなり、上記外側表皮層および上記内側表皮層はステンレス鋼からなる。
【0016】
好ましくは、上記内側表皮層の厚みは、上記外側表皮層の厚みより大きい。
【0017】
好ましくは、上記金属支持層の厚みは5〜15mmである。
【0018】
好ましくは、不活性ガスを上記通路に供給するための不活性ガス供給手段をさらに備える。
【0019】
好ましくは、上記ジャケット部は螺旋状の仕切板により内部が仕切られており、上記通路は上記仕切板に沿って螺旋状に延びる。
【0020】
好ましくは、上記容器本体は、蓋体によって閉鎖された上端開口を有している。
【0021】
好ましくは、上記蓋体は、上記容器本体の内側に位置する内面と上記容器本体の外側に位置する外面とを有する追加の金属支持層と、当該追加の金属支持層の内面に接合され、上記追加の金属支持層よりも厚みの小さい耐腐食性金属からなる追加の内側表皮層と、を有する追加のクラッド金属板を用いて構成されている。
【0022】
好ましくは、上記追加のクラッド金属板は、上記追加の金属支持層の外面に接合された耐腐食性金属からなる追加の外側表皮層をさらに有し、上記追加の外側表皮層は上記追加の金属支持層よりも厚みが小さい。
【0023】
本発明の第2の側面によって提供される吸水性樹脂の製造方法は、石油系炭化水素分散媒中で水溶性エチレン性不飽和単量体を逆相懸濁重合する吸水性樹脂の製造方法であって、本発明の第1の側面に係る重合反応器における上記容器本体内にて重合反応を行う。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1および
図2は、本発明に係る重合反応器の一例を示す。
図1に表れているように、本実施形態の重合反応器Xは、容器本体1と、ジャケット部2と、蓋体3とを備えている。
【0028】
図1に示すように、容器本体1は、円筒状の側壁部11と、この側壁部11の下端に一体的に溶接接合された底壁部12とを有する。
【0029】
本実施形態において、側壁部11は、3層クラッド鋼板で構成されている。より具体的には、
図2に表れているように、側壁部11を構成する3層クラッド鋼板は、例えば、炭素鋼鋼板からなる支持層11aの両面それぞれにステンレス鋼製の表皮層11b,11cを熱間圧延により圧着したものである。当該3層クラッド鋼板を円筒形に曲げ成形するとともに、突き合わせた両端縁どうしを円筒の軸方向に沿って溶接接合することにより、円筒状の側壁部11が形成されている。側壁部11の上端部は開口しており、当該上端部の外周には、円環状のフランジ111が一体形成されている。
【0030】
側壁部11の寸法の一例を挙げると、直径が200〜400cm程度、高さ(軸方向の長さ)が200〜600cm程度である。また、側壁部11における支持層11aの厚みは、例えば5〜15mm程度、内側の表皮層11bの厚みは例えば1〜4mm程度、外側の表皮層11cの厚みは例えば1〜3mm程度とされる。内側の表皮層11bの厚みは、外側の表皮層11cの厚みよりも大きい。また、内側の表皮層11bの厚みは、好ましくは支持層11aの厚みの1/10〜1/2の範囲、より好ましくは支持層11aの厚みの1/5〜1/2の範囲である。
【0031】
底壁部12は、側壁部11を構成する3層クラッド鋼板と同一の3層クラッド鋼板を用いて構成されており、下向き凸面状(例えば半球面状)に形成されている。底壁部12は、側壁部11の下端に対して、当該側壁部11の円周方向に沿って溶接接合されている。詳細な図示は省略するが、底壁部12は、支持層と、この支持層の両面それぞれに接合された表皮層とを有する。底壁部12における内側の表皮層の厚みは、外側の表皮層の厚みよりも大きい。このような構成の容器本体1の側壁部11および底壁部12において、内側の表皮層11bは、耐腐食性金属層であり、外側の表皮層11cは、追加の耐腐食性金属層である。
【0032】
容器本体1の底壁部12には、当該容器本体1の内部を攪拌するための攪拌翼13が設けられている。攪拌翼13は、底壁部12の中央を貫通している。また、底壁部12には、容器本体1の内容物を外部に排出するための排出口121が設けられている。上記構成の容器本体1の内容量は、例えば10〜60m
3程度である。
【0033】
ジャケット部2は、容器本体1の外面を覆う。ジャケット部2は、容器本体1の外面との間に冷熱媒体を通流させる通路を形成するべく、側壁部11の上部から底壁部12に至る範囲を覆っている。ジャケット部2は、たとえばステンレス鋼製であり、溶接により容器本体1に接合されている。ジャケット部2の下部には、冷熱媒体を当該ジャケット部2内に導入する導入口21が設けられ、ジャケット部2の上部には、ジャケット部2内の冷熱媒体を外部に導出する導出口22が設けられている。また、ジャケット部2の内側には、容器本体1の外周において冷熱媒体を螺旋状に流すための仕切板23が設けられている。仕切板23は螺旋帯の形態であり、例えば、ジャケット部2の内面に対して、起立状態にて溶接されている。容器本体1の外面とジャケット部2の内面と、螺旋状の仕切板23とで囲まれた空間によって、螺旋状の通路が形成されている。導入口21は、図外の冷熱媒体タンクに連結されており、所望の温度に調節された冷熱媒体が導入口21を介してジャケット部2内に導入される。導出口22は、図外の温度調節装置に連結されている。ジャケット部2内を通過した冷熱媒体は、導出口22を介して図外の温度調節装置に導入され、所望の温度に調節されたうえで冷熱媒体タンクに供給される。以上から理解されるように、冷熱媒体タンクから供給される冷熱媒体は、ジャケット部2および温度調節装置の順に通過し、循環利用される。
【0034】
ジャケット部2内に通流させる冷熱媒体は、例えば、水やエチレングリコール(不凍液)などの液体である。なお、本実施形態では、
図1に表れているように、導出口22の端部には分岐管24が接続されている。この分岐管24の分岐部から不活性ガスの1種である窒素(N
2)を加圧供給することにより、ジャケット部2内側の上記螺旋状通路に窒素が供給可能である。また、分岐管24の下流側には開閉弁(図示略)が設けられており、ジャケット部2内への冷熱媒体の供給を停止するときには、上記開閉弁を閉じる。ジャケット部2内の冷熱媒体の液面が下がると、分岐管24および導出管22を通じてジャケット部2内側の通路に窒素が供給され、上記通路への空気の侵入が防止される。
【0035】
蓋体3は、容器本体1の上端開口部を覆うものであり、例えば側壁部11と同様の3層クラッド鋼板によって構成されている。蓋体3は、上向き凸面状(例えば半球面状)に形成されている。蓋体3の頂部には、反応液等を供給するための供給口31が設けられている。蓋体3の下端部の外周には、円環状のフランジ32が一体形成されており、容器本体1と蓋体3とは、それぞれのフランジ111,32に形成されたボルト孔(図示略)に挿入されるボルト(図示略)によって相互に密封状態にて固定されている。図示してはいないが、容器本体1のフランジ111と蓋体3のフランジ32との間には適宜のシール材が介装されており、容器本体1内の密封状態が保たれる。
【0036】
次に、上記の重合反応器Xの使用方法について説明する。
【0037】
重合反応器Xは、種々の重合反応を行うための容器として使用することが可能であるが、本実施形態では、重合反応器Xを逆相懸濁重合法による吸水性樹脂の製造に使用する場合について説明する。
【0038】
本実施形態における吸水性樹脂の製造においては、水溶性エチレン性不飽和単量体を、石油系炭化水素分散媒(有機溶媒)中で、分散剤の存在下にラジカル重合開始剤を用いて、逆相懸濁重合を行う。以下においては、多段の重合反応を行う場合について説明する。逆相懸濁重合法による多段の重合反応は、得られる吸水性樹脂の粒径が大きく、水に対する濡れ性が良好で生産性が向上でき、分散剤の使用量を低減するうえで好ましい。
【0039】
逆相懸濁重合法による吸水性樹脂の製造においては、まず、容器本体1内に、石油系炭化水素分散媒と、分散剤とを投入する。そして、攪拌翼13により容器本体1内を攪拌しながらジャケット部2内に熱媒を通流させて容器本体1内を所定の温度(例えば90℃程度)になるまで加熱することにより(第1加熱工程)、石油系炭化水素分散媒に分散剤を溶解させる。次いで、ジャケット部2内に冷媒を通流させて、容器本体1内を所定の温度(例えば50℃程度)になるまで冷却する(第1冷却工程)。
【0040】
次に、容器本体1内に1段目の単量体溶液を添加し、1段目の逆相懸濁重合を行う。単量体溶液は、好ましくは、水溶性エチレン性不飽和単量体の水溶液に、ラジカル重合開始剤を添加することにより調製される。なお、水溶性エチレン性不飽和単量体が例えばアクリル酸などのように酸基を有する場合、当該酸基をアルカリ性中和剤によって中和してもよい。また、必要に応じて、単量体溶液に架橋剤を添加して重合を行ってもよい。
【0041】
1段目の重合を行うに際し、所定温度(例えば10℃程度)に調整した上記単量体溶液を添加して容器本体1の内容物を所定の温度(例えば30℃程度)とし、安定な懸濁状態とする。次いで、攪拌翼13により容器本体1内を攪拌しながらジャケット部2内に熱媒を通流させて容器本体1内を所定の温度(例えば55℃程度)になるまで加熱することにより(第2加熱工程)、1段目の重合を開始させる。この際、重合熱により内容物が昇温するが、これとともに、ジャケット部2内に冷媒(例えば先の重合開始の際に通流させた熱媒と同じ)を通流させて、内容物を所定の高温状態(例えば80℃程度)に維持し、重合を所定時間行う。次に、ジャケット部2内に冷媒を通流させて、容器本体1の内容物を所定の温度(例えば5〜30℃程度)になるまで冷却し(第2冷却工程)、1段目の反応混合物を得る。
【0042】
次に、容器本体1内に2段目の単量体溶液を添加し、2段目の逆相懸濁重合を行う。2段目の単量体溶液は、好ましくは、水溶性エチレン性不飽和単量体の水溶液に、ラジカル重合開始剤を添加することにより調製される。なお、水溶性エチレン性不飽和単量体が例えばアクリル酸などのように酸基を有する場合、当該酸基をアルカリ性中和剤によって中和してもよい。また、必要に応じて、単量体溶液に架橋剤を添加して重合を行ってもよい。
【0043】
2段目の重合を行うに際し、容器本体1内の反応混合物と同程度の温度に調整した上記2段目の単量体溶液を添加する。次いで、攪拌翼13により容器本体1内を攪拌しながらジャケット部2内に熱媒を通流させて容器本体1内を所定の温度(例えば55℃程度)になるまで加熱することにより(第3加熱工程)、2段目の重合を開始させる。ここで、重合熱により内容物が昇温するが、これとともに、ジャケット部2内に冷媒(先の重合開始の際に通流させた熱媒と同じ)を通流させて、内容物を所定の高温状態(例えば80℃程度)に維持し、重合を所定時間行う。次に、ジャケット部2内に冷媒を通流させて、容器本体1の内容物を所定の温度(例えば5〜30℃程度)になるまで冷却し(第3冷却工程)、2段目の反応混合物を得る。
【0044】
次に、容器本体1内に3段目の単量体溶液を添加し、3段目の逆相懸濁重合を行う。3段目の単量体溶液は、好ましくは、水溶性エチレン性不飽和単量体の水溶液に、ラジカル重合開始剤を添加することにより調製される。なお、水溶性エチレン性不飽和単量体が例えばアクリル酸などのように酸基を有する場合、当該酸基をアルカリ性中和剤によって中和してもよい。また、必要に応じて、単量体溶液に架橋剤を添加して重合を行ってもよい。
【0045】
3段目の重合を行うに際し、容器本体1内の反応混合物と同程度の温度に調整した上記3段目の単量体溶液を添加する。次いで、攪拌翼13により容器本体1内を攪拌しながらジャケット部2内に熱媒を通流させて容器本体1内を所定の温度(例えば55℃程度)になるまで加熱することにより(第4加熱工程)、3段目の重合を開始させる。ここで、重合熱により内容物が昇温するが、これとともに、ジャケット部2内に冷媒(先の重合開始の際に通流させた熱媒と同じ)を通流させて、内容物を所定の高温状態(例えば80℃程度)に維持し、重合を所定時間行う。これにより、3段目の反応混合物を得る。そして、当該3段目の反応混合物から溶媒と水を分離し、乾燥させることにより、吸水性樹脂を得る。
【0046】
本実施形態の重合反応器Xにおいて、容器本体1(側壁部11および底壁部12)は、炭素鋼製の支持層11aと、この支持層11aの両面に接合され、支持層11aよりも薄肉なステンレス鋼製の表皮層11b,11cとを有する3層クラッド鋼板を用いて構成されている。支持層11aを構成する炭素鋼は、表皮層11b,11cを構成するステンレス鋼よりも、強度が優れており、また伝熱性能についても優れているため、上記のように相対的に厚肉な支持層11aを炭素鋼製とすることにより、所定の強度を確保しつつ、容器本体1の壁(3層クラッド鋼板)の全体の厚みを比較的に薄くすることが可能となる。したがって、吸水性樹脂などの重合物生成のための全体工程(重合工程)において、内容物の加熱ないし冷却を容器本体1の外側に設けたジャケット部2内に冷熱媒体(冷媒あるいは熱媒)を通流させて行う際に、容器本体1の壁(側壁部11および底壁部12)を通じての熱伝達効率の低下を抑制することができ、例えば当該壁をステンレス鋼のみにより構成する場合に比べて、伝熱時間を短縮することが可能となる。
【0047】
一方、容器本体1の内側の表皮層11bは、ステンレス鋼からなるため、吸水性樹脂の重合反応に際して酸、アルカリ及び有機溶媒に接触しても腐食を受け難い。また、表皮層11bは、支持層11aに圧着されており、支持層11aと表皮層11bとは、全面が一様に圧着されたクラッド鋼板として構成される。これにより、表皮層11bが支持層11aから剥離するといった事態を防止して、容器本体1の内面の耐腐食性を確実に維持することができる。
【0048】
また、表皮層11bの厚みは、支持層11aの厚みの1/10〜1/2とされており、適度な厚みが確保されている。このことは、容器本体1の強度低下を回避しつつ耐腐食性を適切に維持する観点から好ましい。
【0049】
ジャケット部2は、容器本体1の外面を覆うように設けられており、容器本体1とジャケット部2との間に冷熱媒体が通流させられる。したがって、本実施形態の重合反応器Xは、例えば容器本体の内側に冷熱媒体用の通路を設ける場合に比べて、ジャケット部2の状況確認を容易に行うことが可能であり、長期間の使用における信頼性に優れる。
【0050】
本実施形態においては、容器本体1(側壁部11および底壁部12)は、外側にステンレス鋼製の表皮層11c(12c)を有する。これにより、ジャケット部2内側の通路を流れる冷熱媒体によって容器本体1が腐食するのを防止することができる。
【0051】
また、本実施形態では、ジャケット部2内側の通路に窒素(不活性ガス)が供給されており、ジャケット部2内への空気の侵入が防止されている。このため、例えば、冷熱媒体として腐食性を有しない液体(例えば純水)を用いる場合には、容器本体1の外面において実質的に腐食の問題が生じることはなく、外側の表皮層11cを設ける必要がない。この場合、容器本体1は、支持層11aと内側の表皮層11bとを有する2層クラッド鋼板により構成することができる。
【0052】
上記の逆相懸濁重合法による吸水性樹脂の製造においては、冷却および加熱の操作が繰り返し行われ、重合に係る全ての時間(重合工程時間)に占める伝熱時間の割合が比較的大きい。したがって、伝熱時間の短縮による重合工程時間の短縮の割合も比較的大きくなり、このことは、生産効率の改善に資する。
【0053】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。上記実施形態においては、容器本体について、炭素鋼製の支持層11a(金属支持層)の両面にステンレス鋼製の表皮層11b,11c,(耐腐食性金属層)を圧着した3層クラッド鋼板により構成する場合を例に挙げたが、容器本体1の構成材料として他のクラッド材を用いてもよい。金属支持層としては、強度や熱伝導率に優れた材料であれば好ましく、アルミニウム合金などの他の材料を用いてもよい。また、耐腐食性金属層としては、金属支持層よりも耐腐食性に優れた材料であればよく、チタンやクロムあるいはこれらの合金などの他の材料を用いてもよい。また、金属支持層や耐腐食性金属層の厚みについても、これらを構成する材料あるいは容器本体の内容量などに応じて種々変更可能である。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の有用性を実施例および比較例により説明する。
【0055】
〔実施例〕
図1、
図2に示す概略構成を有する重合反応器Xを使用して、上述した逆相懸濁重合法による吸水性樹脂の製造を行う場合の各工程の時間を測定した。本実施例における吸水性樹脂の製造においては、水溶性エチレン性不飽和単量体を、石油系炭化水素分散媒中で、分散剤の存在下にラジカル重合開始剤を用いて、逆相懸濁重合法により3段の重合反応を行った。
【0056】
本実施例において使用した重合反応器Xは、容器本体1の内容量が60m
3とされ、攪拌翼13についてはパドル翼を用いた。容器本体1の側壁部11および底壁部12は、厚みが18mmの3層クラッド鋼板を用いて構成した。支持層11aは、厚みが13mmの中・常温圧力容器用炭素鋼鋼板(JIS:SGV480;JIS:Japanese Industrial Standard)とし、内側の表皮層11bは、厚みが3mmのステンレス鋼(JIS:SUS304)とし、外側の表皮層11cは、厚みが2mmのステンレス鋼(JIS:SUS304)とした。
【0057】
1段目の重合に際し、容器本体1内に、石油系炭化水素分散媒として25℃のn−ヘプタンを13500kg、分散剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:サンソフトQ−185S、太陽化学(株)製)の10質量%n−ヘプタン溶液351kgを仕込んだ。
【0058】
次いで、攪拌翼13により容器本体1内を撹拌しながら、ジャケット部2内に熱媒(温度95℃、流量1.5m
3/min、以下同じ)を通流させて、容器本体1内の内容物を90℃になるまで加熱し(第1加熱工程)、分散剤を溶解した。ジャケット部2に熱媒を通じてから、容器本体1内の内容物を90℃まで昇温するのに88分を要した。ジャケット部2内に冷媒(温度1℃、流量1.5m
3/min、以下同じ)を通流させて、容器本体1内の内容物を50℃になるまで冷却した(第1冷却工程)。ジャケット部2に
冷媒を通じてから、容器本体1内の内容物を50℃まで降温するのに22分を要した。
【0059】
一方、別の容器に、水溶性エチレン性不飽和単量体として80質量%アクリル酸水溶液3505kgを加え、冷却しながら、アルカリ性中和剤として30質量%水酸化ナトリウム水溶液を3890kg滴下して、75mol%の中和を行った。次いで、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを3.5kg、架橋剤としてN、N’−メチレンビスアクリルアミドを0.7kg、水を1908kg加えて溶解し、1段目の単量体を水溶液として調製した。
【0060】
10℃に調整した上記1段目の単量体水溶液の全量を容器本体1に加え、容器本体1の内容物を30℃とし、系内を窒素で十分に置換した。
【0061】
次いで、攪拌翼13により容器本体1内を撹拌しながら、ジャケット部2内に熱媒を通流させて、容器本体1内の内容物を55℃になるまで加熱し(第2加熱工程)、重合を開始させた。ジャケット部2に熱媒を通じてから、容器本体1内の内容物を55℃まで昇温するのに26分を要した。重合開始後、重合熱により容器本体1の内容物が昇温し、内容物が80℃に到達した時点から80℃で30分間重合を行った後、ジャケット部2内に冷媒を通流させて容器本体1の内容物を13℃になるまで冷却し(第2冷却工程)、1段目の反応混合物を得た。ジャケット部2に冷媒を通じてから、容器本体1の内容物を13℃まで降温するのに107分を要した。
【0062】
一方、別の容器に、水溶性エチレン性不飽和単量体として80質量%アクリル酸水溶液3505kgを加え、冷却しながら、アルカリ性中和剤として30質量%水酸化ナトリウム水溶液を3890kg滴下して、75mol%の中和を行った。次いで、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを3.5kg、架橋剤としてN、N’−メチレンビスアクリルアミドを0.7kg、水を1908kg加えて溶解し、2段目の単量体を水溶液として調製した。上記1段目の反応混合物に、13℃に調整した上記2段目の単量体水溶液を加え、系内を窒素で十分に置換した。
【0063】
次いで、攪拌翼13により容器本体1内を撹拌しながら、ジャケット部2内に熱媒を通流させて、容器本体1内の内容物を55℃になるまで加熱し(第3加熱工程)、重合を開始させた。ジャケット部2に熱媒を通じてから、容器本体1内の内容物を55℃まで昇温するのに48分を要した。重合開始後、重合熱により容器本体1の内容物が昇温し、内容物が80℃に到達した時点から80℃で30分間重合を行った後、ジャケット部2内に冷媒を通流させて容器本体1の内容物を13℃になるまで冷却し(第3冷却工程)、2段目の反応混合物を得た。ジャケット部2に冷媒を通じてから、容器本体1の内容物を13℃まで降温するのに132分を要した。
【0064】
また、一方、別の容器に、水溶性エチレン性不飽和単量体として80質量%アクリル酸水溶液3505kgを加え、冷却しながら、アルカリ性中和剤として30質量%水酸化ナトリウム水溶液を3890kg滴下して、75mol%の中和を行った。次いで、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを3.5kg、架橋剤としてN、N’−メチレンビスアクリルアミドを0.7kg、水を1908kg加えて溶解し、3段目の単量体を水溶液として調製した。上記2段目の反応混合物に、13℃に調整した上記3段目の単量体水溶液を加え、系内を窒素で十分に置換した。
【0065】
次いで、攪拌翼13により容器本体1内を撹拌しながら、ジャケット部2内に
熱媒を通流させて、容器本体1内の内容物を55℃になるまで加熱し(第4加熱工程)、重合を開始させた。ジャケット部2に
熱媒を通じてから、容器本体1内の内容物を55℃まで昇温するのに54分を要した。重合開始後、重合熱により容器本体1の内容物が昇温し、内容物が80℃に到達した時点から80℃で30分間重合を行い、3段目の反応混合物を得た。当該3段目の反応混合物から、n−ヘプタンと水との共沸蒸留によりn−ヘプタンと水を分離し、n−ヘプタンは容器本体1内へ戻し、16641kgの水を系外へ抜き出した後、n−ヘプタンを蒸発させて乾燥することにより、吸水性樹脂11315kgを得た。本実施例における各工程の所要時間を
図3に示す。
【0066】
〔比較例〕
上記実施例とは異なる重合反応器を使用して、上述した逆相懸濁重合法による吸水性樹脂の製造を行う場合の重合工程時間を測定した。
【0067】
本比較例では、容器本体の材質をステンレス鋼製とした以外は、全て上記実施例と同一条件にて吸水性樹脂を製造した。
【0068】
本比較例において使用した重合反応器は、容器本体の内容量が上記実施例と同一の60m
3とされ、また、攪拌翼についても上記実施例と同一のパドル翼を用いた。本比較例の容器本体は、厚みが18mmのステンレス鋼(JIS:SUS304)を用いて構成し、上記実施例の容器本体1と強度が同程度になるように設定した。冷媒および熱媒の供給態様も上記実施例と同一とした。
【0069】
第1加熱工程において、容器本体内の内容物を90℃まで昇温するのに113分を要した。第1冷却工程において、容器本体内の内容物を50℃まで降温するのに28分を要した。第2加熱工程において、容器本体内の内容物を55℃まで昇温するのに33分を要した。第2冷却工程において、容器本体内の内容物を13℃まで降温するのに135分を要した。第3加熱工程において、容器本体内の内容物を55℃まで昇温するのに61分を要した。第3冷却工程において、容基本体内の内容物を13℃まで降温するのに165分を要した。第4加熱工程において、容器本体内の内容物を55℃まで昇温するのに69分を要した。本比較例における各工程の所要時間を
図3に示す。
【0070】
図3から理解されるように、容器本体1を3層クラッド鋼板を用いて構成した実施例の場合、容器本体をステンレス鋼を用いて構成した比較例に比べて、伝熱時間について21%の短縮効果があった。また、重合工程時間についても、実施例は比較例に比べて18%の短縮効果があり、上記吸水性樹脂の製造をバッチ処理で行うに際して、生産効率の改善が見込まれる。