(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第一の態様]
本発明の第一の態様の加熱処理魚介類又は加熱処理畜肉類の製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある。)は、全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉末からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する浸漬水に、魚介類又は畜肉類を浸漬した後、前記魚介類又は畜肉類を加熱処理するものである。
【0014】
本発明の第一の態様における全脂大豆粉は、喫食可能なものであれば特に限定されるものではないが、乾燥大豆を脱皮処理後、乾燥し、粉砕処理することにより製造することができる。また、必要に応じて、脱皮処理後に加熱又は加熱脱臭してもよい。このようにして製造された全脂大豆粉は、大豆の種皮以外の画分、例えば、油脂、おから、糖成分、蛋白を含有する。
使用する全脂大豆粉の粒子径は、10〜50μmであることが好ましい。
ここで、原料に使用する大豆には、国産大豆、IOM等の米国産大豆、遺伝子組み換え大豆、遺伝子非組換え大豆等を使用することができる。また、リポキシゲナーゼ欠損大豆、アレルゲン欠損大豆(7S欠損大豆)等の品種の大豆も使用することができる。
【0015】
全脂大豆粉等の大豆由来原料の物性指標としては、水溶性窒素指数(NSI)が挙げられる。NSIは、試料中に含まれる全窒素に占める水溶性窒素の割合(%)を示す指標であって、試料に含まれる全窒素を100としたときの、試料の水抽出液に含まれる窒素量を相対量として表される。一般に、大豆粉の製造時に原料が加熱を強く受ければ受けるほど、NSIの値が低くなり、加熱を受けなければ、NSIの値は高くなる。NSIは、本明細書の実施例において後述する分析方法によって測定することができる。
本発明の第一の態様における全脂大豆粉のNSIは特に限定されるものではなく、例えば、NSIが70未満の全脂大豆粉であってもよく、NSIが70以上の全脂大豆粉であってもよい。また、NSIが93を超えるような高いNSI値を有する全脂大豆粉であってもよい。
なお、NSIが70未満の全脂大豆粉は、製造時に加熱又は加熱脱臭処理を行うことにより得ることができ、NSIが70以上の全脂大豆粉は、製造時に加熱若しくは加熱脱臭処理をしないか、又は製造時に緩い条件での加熱若しくは加熱脱臭処理をすることで得ることができる。
本発明では、いずれのNSI値を有する全脂大豆粉を用いた場合であっても、魚介類又は畜肉類の加熱による収縮を良好に抑制することができるが、風味の点で、NSIが70未満の全脂大豆粉の方がより好ましい。
【0016】
また、本発明の第一の態様における全脂大豆粉としては、市販品を使用することもできる。市販品としては例えば、日清オイリオグループ(株)製の全脂大豆粉(商品名「アルファプラスHS−600」、商品名「ソーヤフラワーNSA」)等が挙げられる。なお、アルファプラスHS−600は、NSIが比較的低い商品で、ソーヤフラワーNSAは、NSIが比較的高い商品である。
【0017】
本発明の第一の態様における脱脂大豆粉末は、喫食可能なものであれば特に限定されるものではないが、乾燥大豆を脱皮処理し、脱脂処理後、乾燥し、粉砕処理することにより製造することができる。このようにして製造された脱脂大豆粉末は、大豆の種皮及び油脂以外の画分、つまり、おから成分、糖成分、及び大豆蛋白成分を含有する。
【0018】
本発明の第一の態様における脱脂大豆粉末のNSIは特に限定されるものではなく、例えば、NSIが70未満の脱脂大豆粉末であってもよく、NSIが70以上の脱脂大豆粉末であってもよい。また、NSIが93を超えるような高いNSI値を有する脱脂大豆粉末であってもよい。
本発明では、いずれのNSI値を有する脱脂大豆粉末を用いた場合であっても、魚介類又は畜肉類の加熱による収縮を良好に抑制することができるが、風味の点で、NSIが70未満の脱脂大豆粉末の方がより好ましい。
【0019】
また、本発明の第一の態様における脱脂大豆粉末としては、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、日清オイリオグループ(株)製の脱脂大豆粉末(商品名「ソーヤフラワーA」)等が挙げられる。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲において「豆乳粉」とは、豆乳を粉末化したものをいい、全脂豆乳粉であっても、脱脂豆乳粉であってもよい。
本発明の第一の態様における豆乳粉は、喫食可能なものであれば特に限定されるものではないが、大豆又は脱脂大豆を粉砕したものを水に入れて抽出後、おからを分離して得られた溶液を乾燥処理することにより製造することができる。具体的は、大豆又は脱脂大豆に6倍量の水を加水し、40℃で攪拌1時間抽出を行う。続いて、横型連続遠心分離機(メイン4000rpm バック3000rpm)で固形分(おから)を除去し、得られた溶液を、噴霧乾燥(入り口180℃、出口90℃)することにより、全脂豆乳粉又は脱脂豆乳粉を製造することができる。また、全脂豆乳粉については、市販の全脂豆乳を噴霧乾燥により粉末化することにより製造することもできる。
【0021】
本発明の第一の態様における豆乳粉のNSIは特に限定されるものではなく、例えば、NSIが70未満の豆乳粉であってもよく、NSIが70以上の豆乳粉であってもよい。
また、NSIが93を超えるような高いNSI値を有する豆乳粉であってもよい。
なお、豆乳粉のNSIは、原料に使用する大豆又は脱脂大豆の粉砕品のNSIに影響を受ける。
本発明では、いずれのNSI値を有する豆乳粉を用いた場合であっても、魚介類又は畜肉類の加熱による収縮を良好に抑制することができるが、風味の点で、NSIが70未満の豆乳粉の方がより好ましい。
【0022】
本発明の第一の態様における大豆ホエー粉末は、大豆蛋白を製造する工程において副産される大豆ホエーを乾燥した粉末で、糖、大豆蛋白、及びその他の成分を含有するものである。
大豆ホエー粉末は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、脱脂大豆をpH7〜8の水溶液に入れて攪拌混合して蛋白質を抽出した後、おからを除去し、上澄み液を回収する。得られた上澄み液をpH4〜5にした後、沈殿物を除去し、上澄み液として大豆ホエーを得る。得られた大豆ホエーを中和した後、乾燥することにより、大豆ホエー粉末を製造することができる。ここで、おからの除去、沈殿物の除去は、例えば遠心分離機を用いて行うことができ、乾燥は、噴霧乾燥法(スプレードライ法)等の公知慣用の方法により行うことができる。
また、脱脂大豆を60〜85質量%エタノール溶液で洗浄する際に得られる洗浄液として大豆ホエーを得た後、得られた大豆ホエーを、減圧乾燥処理することによっても、大豆ホエー粉末を製造することができる。
なお、大豆ホエーの製造方法は、上記特許文献4(特開昭61−254153号公報)にも記載されている。
【0023】
本発明の第一の態様において、全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉、大豆ホエー粉末は、これらからなる群から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
浸漬水に使用する水としては、水道水、地下水、河川水、海水等を使用することができる。
浸漬水中の全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉末からなる群から選ばれる1種又は2種以上(収縮抑制大豆素材)の含有量としては、特に限定されるものではなく、魚介類又は畜肉類の収縮抑制効果とコストとを鑑み、適宜決定することができる。
具体的には、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましく、0.1〜2質量%であることが最も好ましい。
【0025】
また、浸漬水には食塩を含有させることができる。食塩を含有する浸漬水は、浸漬水に食塩を添加する、海水に食塩や水を加えて塩分調整を行う等の方法により製造することができる。また、海水をそのままの状態で、食塩を含有した浸漬水(食塩が配合された浸漬水)として使用することもできる。
浸漬水中の食塩の含有量は、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜4質量%であり、さらにより好ましくは0.1〜3質量%であり、最も好ましくは0.1〜2質量%である。かかる範囲であると、魚介類又は畜肉類の収縮抑制効果を、より向上させることができ、また、製造する魚介類又は畜肉類の味の点でも好ましい。
第一の態様では、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜5質量%で、食塩の含有量が0.05〜5質量%であることが好ましく、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜3質量%で、食塩の含有量が0.1〜4質量%であることがより好ましく、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜2質量%で、食塩の含有量が0.1〜3質量%であることがさらにより好ましく、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜2質量%で、食塩の含有量が0.1〜2質量%であることが最も好ましい。
【0026】
また、浸漬水には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記収縮抑制大豆素材、食塩以外に、pH調整剤、調味料、多糖類、香料、増粘剤、抗酸化剤、乳化剤等を配合することができる。
【0027】
本発明の第一の態様においては、上記特許文献2〜3のように複数種類の塩を使用し、pHを8.5〜13.0として用いることもできる。また、本発明の第一の態様の製造方法においては、収縮抑制大豆素材のみを浸漬水に用いた場合であっても魚介類又は畜肉類の収縮抑制効果が十分に発揮されるため、使用する塩の種類が少ない浸漬水や、塩の濃度が低い浸漬水、或いは塩を使用しない浸漬水とすることも可能である。
なかでも、作業者の手荒れ等を防ぐ観点から、本発明の第一の態様の製造方法においては、収縮抑制大豆素材のみを用いる、又は、収縮抑制大豆素材及び食塩のみを用い、浸漬水のpHを、肌に優しい中性〜弱アルカリ性付近(具体的にはpH6以上10未満)とすることが好ましい。
【0028】
本発明の第一の態様における魚介類としては特に限定されるものではなく、例えば、スケソウダラ、メルルーサ、イトヨリ、鮭等の白身魚、鮪、カツオ、イワシ等の赤身魚、エビ、カニ等の甲殻類、タコ、イカ等の頭足類、ホタテ貝、サザエ、赤貝、カキ、アサリ、シジミ、ハマグリ、ミル貝等の貝類等が挙げられ、これらからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。この中でも特に、甲殻類及び貝類から選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。
【0029】
本発明の第一の態様における畜肉類としては特に限定されるものではなく、例えば、鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉等が挙げられ、これらからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
また、第一の態様の製造方法を適用する魚介類又は畜肉類は、生の魚介類又は畜肉類であってもよく、冷蔵又は冷凍保存された魚介類又は畜肉類であってもよい。生、冷蔵又は冷凍保存の魚介類又は畜肉類は、調味料(例えば、塩等)を施したものも使用することができる。
本発明において、「生の魚介類」とは、加熱処理が施されていない魚介類であり、魚介類は、チョッパー細断等の加工が施されていてもよい。
また、本発明において、「生の畜肉類」とは、加熱処理が施されていない畜肉類であり、畜肉類は、チョッパー細断等の加工が施されていてもよい。
なかでも、冷凍保存された魚介類又は畜肉類を用いて加熱処理魚介類や加熱処理畜肉類を製造する際には、水分の流出及び魚介類又は畜肉類の収縮が顕著であるのに対して、冷凍保存された魚介類又は畜肉類を用いて本発明の製造方法により加熱処理魚介類又は加熱処理畜肉類を製造する場合、優れた収縮抑制効果を発揮することができるため、好ましい。
【0030】
本発明において用いられる、魚介類又は畜肉類の形態は、特に限定されないが、魚介類の場合、例えば、魚介類のそのままの形態やチョッパー細断により細断した形態が挙げられ、畜肉類の場合、例えば、チョッパー細断により細断した形態やスライス状や塊状の形態が挙げられる。
【0031】
第一の態様の製造方法において、浸漬水に、魚介類又は畜肉類を浸漬する方法は特に限定されるものではないが、例えば、適当な容器内において、魚介類又は畜肉類の全体が浸漬水に接触した状態で魚介類又は畜肉類を静置する方法が挙げられる。本発明においては、上記特許文献1に記載の発明のようにタンブリング等の操作を行うことなく、魚介類又は畜肉類に浸漬水を含浸させることができる。
【0032】
魚介類又は畜肉類を浸漬水に浸漬する際の浸漬水の量は、魚介類又は畜肉類全体が浸漬水に浸る程度であれば特に限定されるものではない。
魚介類又は畜肉類を浸漬水に浸漬する際の浸漬水の温度及び浸漬時間は特に限定されるものではなく、用いる魚介類又は畜肉類の種類や大きさを鑑みて適宜決定することができるが、0〜20℃の範囲の浸漬水に0.5〜24時間浸漬を行うことが好ましい。例えば、0〜15℃の浸漬水に1〜18時間浸漬することができ、より具体的には、3℃の浸漬水に16時間浸漬したり、6℃の浸漬水に3時間浸漬したり、15℃の浸漬水に2時間浸漬したりすることができる。
【0033】
第一の態様の製造方法における加熱処理としては、特に限定されるものではなく、茹でる、蒸す、焼く、煮る、炒める、揚げる、炊く、電子レンジ等を用いて電磁波により加熱する、等の処理が挙げられる。
茹でる方法として、例えば、浸漬処理をした魚介類又は畜肉類を、沸騰水で2〜5分間茹でる方法が挙げられる。また、蒸す方法としては、浸漬処理をした魚介類又は畜肉類を、蒸し器で10〜20分間蒸す方法が挙げられる。また、焼く方法として、浸漬処理をした魚介類又は畜肉類を、トレーや金網に載せ、オーブン、ガスバーナー又は炭火で焼く方法が挙げられる。また、炒める方法として、浸漬処理をした魚介類又は畜肉類を、フライパンに載せ、ガスコンロで加熱しながら炒める方法が挙げられる。また、揚げる方法としては、浸漬処理をした魚介類又は畜肉類に、打ち粉、バッター及びパン粉を付け、170℃〜185℃の油で1分〜3分間揚げる方法が挙げられる。また、電子レンジ等を用いて電磁波により加熱する方法としては、浸漬処理をした魚介類又は畜肉類を、電子レンジに入れ、500〜1000ワットで1分〜5分間電磁波で加熱する方法がある。
なお、加熱処理に供される魚介類又は畜肉類は、上記浸漬水に浸漬した状態の魚介類又は畜肉類そのものであってもよく、上記浸漬水に浸漬した後、水洗、細断、乾燥等の処理を施した魚介類又は畜肉類や、他の具材との混合等の調理を施した魚介類又は畜肉類であってもよい。
また、加熱処理に供された魚介類又は畜肉類は、冷凍をし、電子レンジ等で再加熱処理をしても、再加熱による収縮も抑制するため、良好な外観及び食感・風味を有する。
【0034】
本発明の第一の態様の製造方法により得られる加熱処理済の魚介類又は加熱処理済の畜肉類は、加熱による収縮が抑制されるため良好な外観及び食感を有し、且つ、収縮抑制処理による風味の劣化がないため好ましいものである。
【0035】
[第二の態様]
本発明の第二の態様の製造方法は、全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉末からなる群から選ばれる1種又は2種以上と、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上とを含有する浸漬水に、魚介類又は畜肉類を浸漬した後、前記魚介類又は畜肉類を加熱処理するものである。
本発明の第二の態様の製造方法によれば、収縮抑制大豆素材に加えて特定の塩を用いることにより、収縮抑制効果をより向上させることができる。
【0036】
第二の態様において、全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉は上記第一の態様と同様である。したがって、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量も、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましく、0.1〜2質量%であることが最も好ましい。
【0037】
本発明の第二の態様における炭酸塩、クエン酸塩、リン酸塩としては特に限定されるものではないが、通常食品添加物として用いられる炭酸塩、クエン酸塩、リン酸塩であることが好ましい。
炭酸塩として具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、収縮抑制効果増強能が高いことから炭酸水素ナトリウムであることが特に好ましい。
クエン酸塩として具体的には、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム等が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、収縮抑制効果増強能が高いことからクエン酸三ナトリウムであることが特に好ましい。
リン酸塩として具体的には、リン酸二ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、収縮抑制効果増強能が高いことからリン酸二ナトリウム及びポリリン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、リン酸二ナトリウム及びポリリン酸ナトリウムを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0038】
炭酸塩、クエン酸塩、リン酸塩は、これらからなる群から選ばれる1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、炭酸水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムの組み合わせ、又は炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムとの組み合わせが好ましい。
浸漬水中の炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の含有量は、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜4質量%であり、さらにより好ましくは0.1〜3質量%であり、最も好ましくは0.1〜2.5質量%である。かかる範囲であると、魚介類又は畜肉類の収縮抑制効果をより向上させることができ、且つ、製造する魚介類又は畜肉類の風味の点でもかかる範囲内とすることが好ましい。
炭酸水素ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムを浸漬水の成分として使用する場合、浸漬水中の炭酸水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムの質量比率は、90:10〜97:3であることが好ましく、93:7〜97:3であることがより好ましい。
また、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムを浸漬水の成分として使用する場合、浸漬水中の炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの質量比率は、25:75〜45:55であることが好ましく、30:70〜40:60であることがより好ましい。
また、上述したように、作業者の手荒れ等を防ぐためには、浸漬水のpHを肌に優しいpH6〜8程度とすることが好ましいことから、上記のような塩を配合した場合であってもpHが8を超えないように、塩の種類や量を調整する、又は、公知のpH調整剤等を用いてpHの調製をすることも好ましい。
【0039】
本発明の第二の態様における浸漬水は、炭酸塩、クエン酸塩、リン酸塩の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、食塩、pH調整剤、調味料、多糖類、香料、増粘剤、抗酸化剤、乳化剤等を配合することができる。なかでも、第一の態様において上述したように収縮抑制効果がさらに良好となるため、食塩を用いることが好ましい。浸漬水中の食塩の含有量は、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜4質量%であり、さらにより好ましくは0.1〜3質量%であり、最も好ましくは0.1〜2質量%である。かかる範囲であると、魚介類又は畜肉類の収縮抑制効果を、より向上させることができ、また、製造する魚介類又は畜肉類の味の点でも好ましい。
第二の態様では、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜5質量%で、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の含有量が0.05〜5質量%で、
食塩の含有量が0.05〜5質量%であることが好ましく、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜3質量%で、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の含有量が0.1〜4質量%で、食塩の含有量が0.1〜4質量%であることがより好ましく、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜2質量%で、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の含有量が0.1〜3質量%で、食塩の含有量が0.1〜3質量%であることがさらにより好ましく、浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が0.1〜2質量%で、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の含有量が0.1〜2.5質量%で、食塩の含有量が0.1〜2質量%であることが最も好ましい。
【0040】
本発明の第二の態様の製造方法において、魚介類又は畜肉類、浸漬水、浸漬方法、浸漬水の温度及び浸漬時間、並びに加熱処理としては、第一の態様において上述したものと同様である。
【0041】
本発明の第二の態様の製造方法により得られる加熱処理済の魚介類又は加熱処理済の畜肉類は、加熱による収縮が抑制されるため良好な外観及び食感を有し、且つ、収縮抑制処理による風味の劣化がないため好ましいものである。
【0042】
[第三の態様]
本発明の第三の態様の魚介類又は畜肉類収縮抑制剤(以下、単に「収縮抑制剤」ということがある。)は、全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉末からなる群から選ばれる1種又は2種以上(収縮抑制大豆素材)を含有するものである。
第三の態様の収縮抑制剤における全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉、並びに、収縮抑制剤を使用する魚介類又は畜肉類は、上記第一の態様と同様である。
第三の態様の魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の収縮抑制大豆素材の含有量は、20〜80質量%であることが好ましい。
第三の態様の畜肉類収縮抑制剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、食塩、pH調整剤、調味料、多糖類、香料、増粘剤、抗酸化剤、乳化剤等を含有していてもよく、なかでも食塩を含有することが好ましい。食塩の含有量は、収縮抑制大豆素材100質量部に対して1〜150質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがさらに好ましい。
第三の態様では、魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の収縮抑制大豆素材の含有量が20〜80質量%で、食塩の含有量が、収縮抑制大豆素材100質量部に対して1〜150質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0043】
第三の態様の収縮抑制剤は、例えば、該収縮抑制剤を含有させた浸漬水に、加熱処理前の魚介類又は畜肉類を浸漬することにより、風味を損なうことなく、簡便且つ安全に、加熱処理による魚介類又は畜肉類の収縮を抑制することができる。また、第三の態様の収縮抑制剤を用いることにより、pH10以上のアルカリ性の浸漬水のみならず、中性〜弱アルカリ性付近のpHの浸漬水を用いても収縮抑制を行うことができる。
したがって、第三の態様の収縮抑制剤は、第一又は第二の態様の製造方法に好適に用いることができる。すわなち、第三の態様の収縮抑制剤と水とを混合することにより、第一又は第二の態様の製造方法に使用する浸漬水を調製することができる。この場合、第三の態様の収縮抑制剤の水への添加量は、得られる浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が、第一の態様で説明した含有量となる量であることが好ましい。
なお、第二の態様の製造方法に用いる場合は、第三の態様の収縮抑制剤とは別に、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩からなる群から選ばれる1種または2種以上を浸漬水に含有させることにより、第二の態様の製造方法を行うことができる。この場合、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の浸漬水への添加量は、得られる浸漬水中のこれらの塩の合計含有量が、第二の態様で説明した含有量となる量であることが好ましい。
【0044】
[第四の態様]
本発明の第四の態様の収縮抑制剤は、全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉末からなる群から選ばれる1種又は2種以上(収縮抑制大豆素材)と、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上とを含有するものである。
第四の態様の収縮抑制剤における全脂大豆粉、脱脂大豆粉末、豆乳粉及び大豆ホエー粉、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩、並びに、収縮抑制剤を使用する魚介類又は畜肉類は、上記第一又は第二の態様と同様である。
第四の態様の魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の収縮抑制大豆・BR>F材の含有量は、5〜60質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましく、5〜20質量であることが最も好ましい。
炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の配合量は、収縮抑制大豆素材100質量部に対して30〜800質量部であることが好ましく、200〜800質量部であることがさらに好ましく、300〜800質量部であることが最も好ましい。
炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上として、特に、炭酸水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムの組み合わせ、又は炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムとの組み合わせが好ましい。
炭酸水素ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムを配合させる場合、魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の炭酸水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムの質量比率は、90:10〜97:3であることが好ましく、93:7〜97:3であることがより好ましい。
また、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムを配合させる場合、魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの質量比率は、25:75〜45:55であることが好ましく、30:70〜40:60であることがより好ましい。
【0045】
第四の態様の収縮抑制剤は、炭酸塩、クエン酸塩、リン酸塩の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、食塩、pH調整剤、調味料、多糖類、香料、増粘剤、抗酸化剤、乳化剤等を含んでいてもよく、なかでも食塩を含有することが好ましい。食塩の含有量は、収縮抑制大豆素材100質量部に対して20〜200質量部であることが好ましく、30〜150質量部であることがさらに好ましく、50〜100質量部であることが最も好ましい。
第五の態様では、魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の収縮抑制大豆素材の含有量が5〜60質量%で、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の配合量が、収縮抑制大豆素材100質量部に対して30〜800質量部で、食塩の含有量が、収縮抑制大豆素材100質量部に対して20〜200質量部であることが好ましく、魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の収縮抑制大豆素材の含有量が5〜40質量%で、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の配合量が、収縮抑制大豆素材100質量部に対して200〜800質量部で、食塩の含有量が、収縮抑制大豆素材100質量部に対して30〜150質量部であることがより好ましく、魚介類又は畜肉類収縮抑制剤中の収縮抑制大豆素材の含有量が5〜20質量%で、炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計の配合量が、収縮抑制大豆素材100質量部に対して300〜800質量部で、食塩の含有量が、収縮抑制大豆素材100質量部に対して50〜100質量部であることが最も好ましい。
【0046】
第四の態様の収縮抑制剤は、第三の態様の収縮抑制剤と同様に、例えば、該収縮抑制剤を含有させた浸漬水に、加熱処理前の魚介類又は畜肉類を浸漬することにより、風味を損なうことなく、簡便且つ安全に、加熱処理による魚介類又は畜肉類の収縮を抑制することができる。
したがって、第四の態様の収縮抑制剤は、第二の態様の製造方法に好適に用いることができる。すわなち、第四の態様の収縮抑制剤と水とを混合することにより、第二の態様の製造方法に使用する浸漬水を調製することができる。この場合、第四の態様の収縮抑制剤の水への添加量は、得られる浸漬水中の収縮抑制大豆素材の含有量が、第一の態様で説明した含有量となる量であり、かつ、得られる浸漬水中の炭酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩の合計含有量が、第二の態様で説明した含有量となる量であることが好ましい。
【0047】
[第五の態様]
本発明の第五の態様の加熱処理による魚介類又は畜肉類の収縮を抑制する方法は、前記第三又は第四の態様の魚介類又は畜肉類収縮抑制剤を含有する浸漬水に、加熱処理前の魚介類又は畜肉類を浸漬させるものである。
【0048】
第五の態様の収縮を抑制する方法において、浸漬水、浸漬方法、浸漬水の温度及び浸漬時間、並びに加熱処理としては、第一又は第二の態様において上述したものと同様である。
第五の態様の収縮を抑制する方法により処理された魚介類又は畜肉類を加熱処理した場合、該魚介類及び畜肉類の収縮を抑制することができる。
【実施例】
【0049】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下、特に記載がない場合には、「%」、「部」は、それぞれ、「質量%」、「質量部」を意味する。
また、本明細書中における「歩留率」は、「歩留率(質量%)=加熱処理後の魚介類又は畜肉類の質量(g)/加熱処理前の魚介類又は畜肉類の質量(g)×100」の式により算出した。
【0050】
本実施例において用いた全脂大豆粉は以下の通りである。
全脂大豆粉(1):〔商品名〕アルファプラスHS−600(日清オイリオグループ(株)製、NSI=54)。
全脂大豆粉(2):大豆100gを90℃で5分間の加熱処理後、粉砕することにより得られた全脂大豆粉(NSI=70)。
全脂大豆粉(3):大豆100gを100℃で15分間の加熱処理後、粉砕することにより得られた全脂大豆粉(NSI=60)。
全脂大豆粉(4):大豆100gを100℃で25分間の加熱処理後、粉砕することにより得られた全脂大豆粉(NSI=50)。
全脂大豆粉(5):上記全脂大豆粉(4)50gを、さらに120℃で10分間加熱することにより得られた全脂大豆粉(NSI=5)。
分離大豆蛋白(1):〔商品名〕ソルピー4000(日清オイリオグループ(株)製、NSI=95)。
【0051】
本実施例で用いた全脂大豆粉の水溶性窒素指数(NSI)は、以下のようにして算出した。
調査試料2.5gを水100mLとともに40℃で1.5時間振とうした後、当該混合物をろ過してろ過液を得る。得られたろ過液を遠心分離(3000g、5分間)して、分離された上清20mLを分解蒸留管に移し、ケルダール法により該上清中の全窒素の含有量を測定する。具体的には、該分解蒸留管に、分解促進剤3.5g、濃硫酸10mL、過酸化水素水8mLを加え、420℃で1時間加熱分解を行い、放冷後、蒸留を行い、常法により測定を行った。また、同様にして、試料に含まれる全窒素を測定し、NSIを算出した。
【0052】
[製造例1]
本実施例において用いた大豆ホエー粉末は、以下のようにして製造した。
まず、脱脂大豆10部に対して60部の水を添加し、水酸化ナトリウムでpH7.2に調整した後、3時間プロペラ攪拌をして混合した。得られた混合液から連続遠心分離(回転数:6000rpm)によりおからを除き、上澄み液を回収した。得られた上澄み液に、塩酸を添加してpHを4.5に調整した後、さらに、横型遠心分離機(回転数:内3500rpm、外4500rpm)により分離を行い、上澄み液を回収した。得られた上澄み液に、水酸化ナトリウムを添加してpH7に調整し、大豆ホエーの溶液を得た。得られた大豆ホエーの溶液を、噴霧乾燥(入口温度:180℃、出口温度:85℃)し、大豆ホエー粉末を得た。
【0053】
[製造例2]
本実施例において用いた収縮抑制剤(1)〜(15)はそれぞれ、表1〜3に示す配合比の原料を混合して製造した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
[実施例1]
バナメイエビにおいて、大豆粉、又は大豆粉と食塩とを含有する収縮抑制剤を用いた場合の収縮抑制効果について検討をした。
まず、冷凍のバナメイエビ(約10〜13g/個)を解凍し、表4に示す量の材料を添加した浸漬水100mLに、100gのバナメイエビを6℃の温度条件下で16時間浸漬した。その後、バナメイエビを1回軽く水洗した後、沸騰水で3分間ボイルし、加熱処理バナメイエビを得た。
得られた加熱処理バナメイエビの歩留率の結果を表4に示す。また、バナメイエビを浸漬する前の浸漬水のpHを「浸漬水pH」として併せて表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
上記の結果から、大豆粉を含有する浸漬水を用いた場合、魚介類の収縮抑制効果が得られることが確認できた。また、大豆粉及び食塩を含有する浸漬水を用いた場合、魚介類の収縮抑制効果がさらに向上することが確認できた。一方で、食塩のみを含有する浸漬水では、収縮抑制効果が得られないことが確認できた。
また、本発明における浸漬水はpHが6〜8の範囲と作業者の手荒れ防止に効果を有するものであった。加えて、本発明の製造方法によって製造された加熱処理バナメイエビは、風味が良好であった。
【0060】
[実施例2]
バナメイエビにおいて、各種の大豆由来素材を用いた場合の収縮抑制効果について検討した。
表5に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして、加熱処理バナメイエビを得た。
得られた加熱処理バナメイエビの歩留率の結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
上記の結果から、全脂大豆粉又は大豆ホエー、及び食塩を含有する浸漬水を用いた場合、魚介類の収縮抑制効果が得られることが確認できた。一方で、大豆蛋白のみの抽出物である分離大豆蛋白、又は食塩のみを用いた場合には、収縮抑制効果が得られないことも確認できた。
また、本発明の製造方法によって製造された加熱処理バナメイエビは、風味が良好であった。
【0063】
[実施例3]
バナメイエビにおいて、各種大豆由来素材、炭酸塩、及び食塩を用いた場合の収縮抑制効果について検討した。
表6に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして、加熱処理バナメイエビを得た。
得られた加熱処理バナメイエビの歩留率の結果を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
上記の結果から、全脂大豆粉又は大豆ホエー、炭酸水素ナトリウム、及び食塩を含有する浸漬水を用いた場合、上記実施例2の炭酸水素ナトリウムを含有しない浸漬水を用いた場合に比べて、魚介類の収縮抑制効果がさらに向上することが確認できた。
一方で、分離大豆蛋白、炭酸水素ナトリウム、及び食塩を含有する浸漬水を用いた場合には、収縮抑制効果が得られないことも確認できた。
【0066】
[実施例4]
バナメイエビにおいて、各種大豆由来素材、炭酸塩及び/又はクエン酸塩、並びに食塩を用いた場合の収縮抑制効果について検討した。
表7に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして、加熱処理バナメイエビを得た。
得られた加熱処理バナメイエビの歩留率の結果を表7に示す。
【0067】
【表7】
【0068】
上記の結果から、全脂大豆粉、炭酸塩又はクエン酸塩、及び食塩を含有する収縮抑制剤を用いた場合、魚介類の収縮抑制効果が良好に得られることが確認できた。また、炭酸塩とクエン塩とを併用することにより、収縮抑制効果がより向上することが確認できた。
一方で、全脂大豆粉を用いず、炭酸塩又はクエン酸塩を用いた場合には、収縮抑制効果が弱いことも確認できた。
【0069】
[実施例5]
バナメイエビにおいて、各種大豆由来素材、リン酸塩、及び食塩を用いた場合の収縮抑制効果について検討した。
表8に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして、加熱処理バナメイエビを得た。
得られた加熱処理バナメイエビの歩留率の結果を表8に示す。
【0070】
【表8】
【0071】
上記の結果から、全脂大豆粉、リン酸塩、及び食塩を含有する収縮抑制剤を用いた場合、魚介類の収縮抑制効果が良好に得られることが確認できた。また、リン酸塩と炭酸塩とを併用することにより、収縮抑制効果がより向上することが確認できた。
一方で、全脂大豆粉を用いず、リン酸塩及び食塩を用いた場合には、収縮抑制効果が弱いことも確認できた。
【0072】
[実施例6]
バナメイエビにおいて、各種の全脂大豆粉を用いた場合の収縮抑制効果について検討した。
表9に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして、加熱処理バナメイエビを得た。
得られた加熱処理バナメイエビの歩留率の結果を表9に示す。また、バナメイエビを浸漬する前の浸漬水のpHを「浸漬水pH」として併せて表9に示す。
【0073】
【表9】
【0074】
上記の結果から、全脂大豆粉のNSI値と歩留率との間に相関は認められず、いずれの全脂大豆粉を用いた場合にも同等の収縮抑制効果が認められた。また、本発明における浸漬水はpHが6〜8の範囲と作業者の手荒れ防止に効果を有するものであった。
【0075】
[実施例7]
各種魚介類に対する本発明の収縮抑制効果について検討した。
まず、魚介類として冷凍のアカイカ、水タコ、ホタテ、メルルーサを解凍した。アカイカは2.5cm角に細断し、水タコは足を2cm(質量約10g)ずつ細断し、メルルーサは切り身を100gずつ切り分けた。次いで、表11に示す量の材料を添加した浸漬水100mLに、100gの各魚介類を6℃の温度条件下で16時間浸漬した。なお、表11中の「品質改良剤」は、pHが12.21で歩留まり向上効果のあるとされている、特許文献2(特開2003−235520号公報)の実施例3の配合の品質改良剤を使用した。該品質改良剤の組成を表10に示す。
その後、各魚介類を1回軽く水洗した後、アカイカ、水タコ、ホタテは沸騰水で3分間ボイルし、メルルーサは15分間蒸すことにより、加熱処理魚介類を得た。
得られた加熱処理魚介類の歩留率の結果を表11に示す。
【0076】
【表10】
【0077】
【表11】
【0078】
上記の結果からわかるように、品質改良剤、又は本発明の収縮抑制剤を用いた場合、いずれの魚介類においても収縮抑制効果が認められた。そして、本発明の収縮抑制剤は、従来の品質改良剤よりも、さらに収縮抑制効果を有するものであった。
【0079】
[実施例8]
本発明により製造される加熱処理魚介類の物性について検討した。
加熱処理バナメイエビ、及び実施例7で得られた加熱処理魚介類(アカイカ、水タコ、ホタテ)について、Texture Analyser TA.Xtplus(Stable Micro Systems社製)を用いて破断変形(cm)及び破断応力(g)を測定した。
加熱処理バナメイエビは、表12に示す材料を用いた以外は上記実施例1と同様にして製造した。バナメイエビ、アカイカ、水タコ、及びホタテに使用した浸漬水への添加物の配合を表12に示す。なお、表12中の「品質改良剤」は、表10の配合の品質改良剤である。
図1Aにバナメイエビの結果を、
図1Bにアカイカの結果を、
図1Cに水タコの結果を、
図1Dにホタテの結果を示す。
【0080】
【表12】
【0081】
図1A〜
図1C及び表12に示すように、浸漬水に食塩のみを添加したバナメイエビ、アカイカ及び水タコの場合、破断変形が小さく、且つ、破断強度が大きいため、食感としては、歯で噛み切る際のしなやかさや弾力性に乏しく、硬い傾向になると考えられる。
また、浸漬水に従来の品質改良剤を添加した魚介類では、破断強度及び破断変形が小さいため、食感としては、弾力性に乏しい傾向になると考えられる。
一方、浸漬水に本発明の収縮抑制剤を添加した魚介類では、程よい破断強度及び破断変形を有するため、食感としては、程よい硬さと程よい弾力とを有すると考えられる。
【0082】
[実施例9]
本発明の収縮抑制剤を用いて製造したバナメイエビの食感及び風味を調べた。
表13に示す材料を用いた以外は上記実施例1と同様にして、加熱処理魚介類を得た。
なお、表13中の「品質改良剤」は、表10の配合の品質改良剤である。
得られた加熱処理魚介類の歩留り率、並びに、食感及び風味についての官能試験結果を表13に示す。
【0083】
【表13】
【0084】
上記の結果からわかるように、品質改良剤、又は本発明の収縮抑制剤を用いた場合、バナメイエビにおいて、収縮抑制効果が認められた。そして、本発明の収縮抑制剤は、従来の品質改良剤よりも、さらに収縮抑制効果を有するものであった。
また、本発明の収縮抑制剤を用いた魚介類は、魚介類本来の味、旨み及び甘さを有していた。
【0085】
[実施例10]
各種畜肉類に対する本発明の収縮抑制効果について検討した。
まず、1.5cm角の立方体に細断した鶏ムネ肉又は豚肉を準備し、表14に示す量の材料を添加した浸漬水100mLに、100gの該畜肉類を6℃の温度条件下で10時間浸漬した。なお、表14中の「品質改良剤」は、表10の配合の品質改良剤である。
その後、各畜肉類を1回軽く水洗した後、沸騰水で5分間ボイルし、加熱処理畜肉類を得た。
得られた加熱処理畜肉類の歩留率の結果を表14に示す。また、畜肉類を浸漬する前の浸漬水のpHを「浸漬水pH」として併せて表14に示す。
【0086】
【表14】
【0087】
上記の結果からわかるように、品質改良剤、又は本発明の収縮抑制剤を用いた場合、いずれの畜肉類においても収縮抑制効果が認められた。そして、本発明の収縮抑制剤は、従来の品質改良剤よりも、さらに収縮抑制効果を有するものであった。
【0088】
[製造例3]
本実施例において用いた収縮抑制剤(16)〜(18)、(19)〜(21)は、ぞれぞれ、表15及び表16に示す配合比の原料を混合して製造した。
【0089】
【表15】
【0090】
【表16】
【0091】
次に、本発明の収縮抑制剤(16)〜(18)を浸漬水に用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果を調べた。なお、大豆ホエー粉末は、製造例1と同じものを使用した。また、収縮抑制剤を3g添加した浸漬水(0.6質量%食塩水)中の食塩の含量は0.9質量%である。
【0092】
[実施例11]
本発明の収縮抑制剤(16)〜(18)を浸漬水に用いた場合のバナメイエビの物性について検討した。
0.6質量%食塩水100mLに、表15に示す収縮抑制剤(16)(17)、又は(18)を3g添加し、3種類の浸漬水を調製した。次に、冷凍のバナメイエビ(約10〜13g/個)を解凍し、解凍したバナメイエビ100gを、3℃の温度条件下で16時間、各浸漬水に浸漬した。浸漬処理したバナメイエビを1回軽く水洗した後、沸騰水で3分間ボイルし、加熱処理バナメイエビを得た。得られた加熱処理バナメイエビについて、Texture Analyser TA.Xtplus(Stable Micro Systems社製)を用いて破断変形(cm)及び破断応力(g)を測定し、物性を調べた。
浸漬水に収縮抑制剤(16)〜(18)を用いた場合の結果を、それぞれ
図2A〜
図2Cに示す。
【0093】
図2A〜
図2C及び表15に示すように、食塩のみを添加した浸漬水で浸漬処理して得られた加熱処理バナメイエビは、破断変形が小さいことから、弾力性が低いことがわかる。一方、本発明に係る収縮抑制剤(16)〜(18)を添加した浸漬水で浸漬処理して得られた加熱処理バナメイエビは、比較例よりも破断変形が大きいことから、比較例のバナメイエビよりも弾力性が高いことがわかる。
【0094】
[実施例12]
また、浸漬処理したバナメイエビを油で揚げて(加熱処理)エビフライを作り、得られたエビフライの歩留率を測定し、食感及び風味も評価した。
浸漬処理したエビに付着した浸漬水を紙で軽くふき取り、重量を測定した。次に、エビに、打ち粉、バッター及びパン粉を付けた。パン粉を付けたエビを、175℃の大豆白絞油で1分30秒間揚げ、エビフライ(加熱処理バナメイエビ)を得た。
エビフライの歩留率は、「歩留率(質量%)=加熱処理後のエビの質量(g)/加熱処理前のエビの質量(g)×100」の式により算出したが、加熱処理後のエビは、衣をすべて取った状態で重量を測定した。
歩留率測定結果及び官能評価結果を表17に示す。また、バナメイエビを浸漬する前の浸漬水のpHを「浸漬水pH」として併せて表17に示す。
【0095】
【表17】
【0096】
上記の結果からもわかるように、本発明の収縮抑制剤を用いた浸漬水を使用して浸漬処理したバナメイエビは、歩留率が高く、エビフライの食感及び風味が良好であった。一方、食塩のみを含有する浸漬水を使用して浸漬処理したバナメイエビは、歩留率が低く、食感及び風味も悪かった。したがって、本発明の収縮抑制剤は、加熱処理魚介類に対する収縮抑制効果が高く、さらに、本発明の収縮抑制剤を使用すると、食感及び風味の良好な加熱処理魚介類が得られることがわかった。
【0097】
次に、本発明の収縮抑制剤(19)〜(21)を浸漬水に用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果を調べた。なお、全脂大豆粉は、日清オイリオグループ(株)製の商品:アルファープラスHS−600(NSI=54)を使用した。また、収縮抑制剤を3g添加した浸漬水(0.6質量%食塩水)中の食塩の含量は0.9質量%である。
【0098】
[実施例13]
本発明の収縮抑制剤(19)〜(21)を浸漬水に用いた場合のバナメイエビの物性について検討した。
0.6質量%食塩水100mLに、表16に示す収縮抑制剤(19)(20)、又は(21)を3g添加し、3種類の浸漬水を調製した。次に、冷凍のバナメイエビ(約10〜13g/個)を解凍し、解凍したバナメイエビ100gを、3℃の温度条件下で16時間、各浸漬水に浸漬した。浸漬処理したバナメイエビを1回軽く水洗した後、沸騰水で3分間ボイルし、加熱処理バナメイエビを得た。得られた加熱処理バナメイエビについて、Texture Analyser TA.Xtplus(Stable Micro Systems社製)を用いて破断変形(cm)及び破断応力(g)を測定し、物性を調べた。
浸漬水に収縮抑制剤(19)〜(21)を用いた場合の結果を、それぞれ
図2D〜
図2Fに示す。
【0099】
図2D〜
図2F及び表16に示すように、食塩のみを添加した浸漬水で浸漬処理して得られた加熱処理バナメイエビは、破断変形が小さいことから、弾力性が低いことがわかる。一方、本発明の収縮抑制剤を添加した浸漬水で浸漬処理して得られた加熱処理バナメイエビは、比較例よりも破断変形が大きいことから、比較例のバナメイエビよりも弾力性が高いことがわかる。
【0100】
[実施例14]
また、浸漬処理したバナメイエビを揚げて(加熱処理)エビフライを作り、得られたエビフライの歩留率を測定し、食感及び風味も評価した。
浸漬処理したエビに付着した浸漬水を紙で軽くふき取り、重量を測定した。次に、エビに、打ち粉、バッター及びパン粉を付けた。パン粉を付けたエビを、175℃の大豆白絞油で1分30秒間揚げ、エビフライ(加熱処理バナメイエビ)を得た。
エビフライの歩留率は、「歩留率(質量%)=加熱処理後のエビの質量(g)/加熱処理前のエビの質量(g)×100」の式により算出したが、加熱処理後のエビは、衣をすべて取った状態で重量を測定した。
歩留率測定結果及び官能評価結果を表18に示す。また、バナメイエビを浸漬する前の浸漬水のpHを「浸漬水pH」として併せて表18に示す。
【0101】
【表18】
【0102】
上記の結果からもわかるように、本発明の収縮抑制剤を用いた浸漬水を使用して浸漬処理したバナメイエビは、フライ(加熱処理)後、冷凍し、電子レンジで再加熱をすると、冷凍前のエビフライよりも若干歩留率が下がったものの、比較例に比べ歩留率は高く、良好な食感及び風味を維持していた。一方、食塩のみを含有する浸漬水を使用して浸漬処理したバナメイエビは、フライ(加熱処理)後、冷凍し、電子レンジで再加熱をすると、歩留率は低く、食感及び風味も悪かった。
【0103】
[比較例1、2、3及び実施例15、16、17]
比較例1
前記特許文献3における実施例1の浸漬水を調製できる収縮抑制剤(a)、及びこの収縮抑制剤を用いて調製した浸漬水を用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果について調べた。
実施例15
上記比較例1の収縮抑制剤中の塩化マグネシウムを全脂大豆粉に代えた収縮抑制剤(22)を用いて調製した浸漬水を用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果について調べた。なお、全脂大豆粉は、日清オイリオグループ(株)製の商品:アルファープラスHS−600(NSI=54)を使用した。
比較例2
前記特許文献3における実施例1の浸漬水を調製できる収縮抑制剤(b)で、炭酸カリウムとクエン酸三ナトリウムを炭酸水素ナトリウムに代えた収縮抑制剤を用いて調製した浸漬水を用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果について調べた。
実施例16
上記比較例2の塩化マグネシウムを全脂大豆粉に代えた収縮抑制剤(23)を用いて調製した浸漬水を用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果について調べた。なお、全脂大豆粉は、日清オイリオグループ(株)製の商品:アルファープラスHS−600(NSI=54)を使用した。
比較例3
前記特許文献3における実施例1の浸漬水を調製できる収縮抑制剤(c)で、炭酸カリウムと炭酸ナトリウムを炭酸水素ナトリウムに代えた収縮抑制剤を用いて調製した浸漬水を用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果について調べた。
実施例17
上記比較例3の塩化マグネシウムを全脂大豆粉に代えた収縮抑制剤(24)を用いて調製した浸漬水を用いた場合のバナメイエビに対する収縮抑制効果について調べた。なお、全脂大豆粉は、日清オイリオグループ(株)製の商品:アルファープラスHS−600(NSI=54)を使用した。
【0104】
比較例1〜3において用いた収縮抑制剤(a)〜(c)及び実施例15〜17において用いた収縮抑制剤(22)〜(24)は、それぞれ、表19〜21に示す配合比の原料を混合して製造した。なお、比較例1〜3の配合は、食塩が比較的多いため、実施例15〜17では、その一部を効果に影響のないデキストリンに置換した。
【0105】
【表19】
【0106】
【表20】
【0107】
【表21】
【0108】
本発明の収縮抑制剤(22)〜(24)、特許文献3の実施例1に基づく収縮抑制剤(a)〜(c)、及びそれらを用いた浸漬水の製造、及び収縮抑制効果は、以下のようにして行った。
まず、93.65gの水に、各種収縮抑制剤(22)〜(24)及び(a)〜(c)6.35gを溶解し、浸漬水を調製した。次に、冷凍のバナメイエビ(約10〜13g/個)を解凍し、解凍したバナメイエビ100gを、3℃の温度条件下で16時間、各浸漬水に浸漬した。浸漬処理したバナメイエビを油で揚げて(加熱処理)エビフライを作り、歩留率を測定した。また、得られたエビフライの食感及び風味の評価を行った。具体的には、浸漬処理したエビに付着した浸漬水を紙で軽くふき取り、重量を測定した。次に、エビに、打ち粉、バッター及びパン粉を付けた。パン粉を付けたエビを、175℃の大豆白絞油で1分30秒間揚げ、エビフライ(加熱処理バナメイエビ)を得た。
エビフライの歩留率は、「歩留率(質量%)=加熱処理後のエビの質量(g)/加熱処理前のエビの質量(g)×100」の式により算出したが、加熱処理後のエビは、衣をすべて取った状態で重量を測定した。 得られた加熱処理バナメイエビの歩留率の結果及び官能評価結果を表22に示す。また、バナメイエビを浸漬する前の浸漬水のpHを「浸漬水pH」として併せて表22に示す。
【0109】
【表22】
【0110】
上記の結果からもわかるように、本発明の収縮抑制剤を用いてpH10未満の浸漬水を使用して浸漬処理したバナメイエビは、歩留率が高く、食感及び風味が良好であった。また、本発明の収縮抑制剤を用いてpH10以上の浸漬水を使用して浸漬処理したバナメイエビは、歩留率は比較的高く、食感は良かったが、風味は若干劣るものであった。一方、全脂大豆粉を含有しない比較例1〜3の浸漬水を使用して浸漬処理したバナメイエビは、歩留率が低く、食感及び風味も悪かった。
したがって、本発明の収縮抑制剤は、浸漬水のpHが10未満であっても、pH10以上であっても、加熱処理魚介類に対する収縮抑制効果を有し、食感の良好な加熱処理魚介類を製造することができることがわかった。特に、本発明の収縮抑制剤を、pH10未満の浸漬水で使用すると、食感のみならず、風味も良好な加熱処理魚介類が得られることがわかった。