特許第6070070号(P6070070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070070
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】一次元アルミナナノ構造体の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20170123BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C23C16/40
   C03C17/245 Z
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-239825(P2012-239825)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-88601(P2014-88601A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】東 誠二
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−274279(JP,A)
【文献】 特表2010−534187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
C03C 17/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD法により、基体上に外観形状が柱状またはチューブ状をした一次元アルミナナノ構造体を形成する方法であって、前記基体が、酸化物基準の質量%表記で2〜40%のナトリウムを含有するガラス基板であり、ロセスガスとして、塩化アルミニウム(AlCl3)、および、炭素数4以下のアルコール類を使用し、塩化アルミニウム(AlCl3)に対するアルコール類の濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が1以上、かつ、前記プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度が0.02〜4mol%となる条件で、前記プロセスガスをプレミックス方式の原料ガス供給手段を用いて予め混合して450℃以上800℃以下の温度に保持した該ガラス基板上に供給する、または、前記プロセスガスをポストミックス方式の原料ガス供給手段を用いて450℃以上800℃以下の温度に保持した該ガラス基板上で混合させることを特徴とする、一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【請求項2】
前記アルコール類が、メタノール、エタノール、および、イソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【請求項3】
前記アルコール類が、エタノールである、請求項1に記載の一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【請求項4】
塩化アルミニウム(AlCl3)に対するアルコール類の濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が1以上50以下となる条件で、前記プロセスガスをプレミックス方式の原料ガス供給手段を用いて予め混合して450℃以上800℃以下の温度に保持した該ガラス基板上に供給する、または、前記プロセスガスをポストミックス方式の原料ガス供給手段を用いて450℃以上800℃以下の温度に保持した該ガラス基板上で混合させる、請求項1〜3のいずれかに記載の一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【請求項5】
プロセスガス中の水分量が2mol%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【請求項6】
前記CVD法が常圧CVD法である、請求項1〜5のいずれかに記載の一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【請求項7】
前記CVD法を1000Pa以下の圧力下で実施する、請求項1〜5のいずれかに記載の一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【請求項8】
前記ガラス基板がソーダライムガラス基板である、請求項1〜7のいずれかに記載の一次元アルミナナノ構造体の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次元アルミナナノ構造体の形成方法に関する。具体的には、オンラインCVD法を用いて、ガラス基板上に、一次元アルミナナノ構造体を形成する方法に関する。
なお、本明細書における一次元アルミナナノ構造体とは、ガラス基板上に形成される、長さがμmオーダーで、幅がnmオーダーの、外観形状が柱状またはチューブ状の、アルミナからなる構造体を指す。ここで、柱状とは、構造体が中実であることを指し、チューブ状とは、構造体が中空であることを指す。
【背景技術】
【0002】
アルミナ(Al23)は触媒活性を持つ化合物であり、多数の一次元アルミナナノ構造体をガラス基板等の基体上に形成した場合、アルミナ(Al23)が有する触媒活性と、多数の一次元アルミナナノ構造体による高い比表面積により、高い触媒活性を持つ物質として注目されている。
【0003】
一次元アルミナナノ構造体を形成する方法として、vapor−liquid−solid(VLS)法による手法が非特許文献1に提案されている。この手法は、真空チャンバー内で鉄粉末とアルミ粉末の混合ペレットにアーク放電を照射して、アルミナナノロッドを作製している。しかし、本手法では真空プロセスを用いるため、工業的に用いるにはコスト面で課題がある。
また、ゾルゲル法などのウェットプロセスによる手法で一次元アルミナナノ構造体を作製できることが、非特許文献2で報告されている。しかし、本手法ではゲルの作製に150℃、72時間、乾燥および焼成にそれぞれ21時間および4時間という長時間の反応を要することから、工業的に用いるにはコスト面で課題がある。
また、ナノロッドを一定方向(一次元方向)に選択的に成長させることができれば、触媒用途として選択的な触媒性能の付与や、電気デバイス用途への展開など、様々な用途展開が可能となるが、上記方法ではナノロッドを一定方向に成長させることは難しい。
【0004】
一方、アルミナナノロッドを一定方向に成長させた例として、テンプレート上にALD法(原子層堆積法)を用いてアルミナを形成したことが、非特許文献3、4に報告されている。非特許文献3ではテンプレートとしてシリコン基板上に形成したカーボンナノチューブを、非特許文献4ではポリカーボネートメンブレンをテンプレートとして用いている。しかし、これらの方法は作製プロセスが数ステップにわたる複雑なものであり、またALD法は、高真空中でアルミニウム原料であるトリメチルアルミニウムと水蒸気を交互に吹き付け、1ステップで原子層を1層ずつ成長させる方法であるため成膜レートが遅く、さらに高真空プロセスも必要であるため、工業的にはコスト面で課題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】W. F. Li, X. L. Ma1, W. S. Zhang, W. Zhang, Y. Li, and Z. D. Zhang, phys. stat. sol. (a) 203, No. 2, 294-299 (2006)
【非特許文献2】Hyun Chul Lee, Hae Jin Kim, Soo Hyun Chung, Kyung Hee Lee, Hee Cheon Leeand Jae Sung Lee, J. AM. CHEM. SOC. 2003, 125, 2882-2883
【非特許文献3】J.S. Leea, B. Mina, K. Choa, S. Kima, J. Parkb, Y.T. Leeb, N.S. Kimb, M.S. Leec,S.O. Parkc, J.T. Moonc, Journal of Crystal Growth 254 (2003) 443-448
【非特許文献4】Jules J. VanDersarl, Alexander M. Xu, and Nicholas A. Melosh, Nano Lett., 2012, 12 (8), pp 3881-3886
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するため、低コストで、かつ、簡易な、一次元アルミナナノ構造体の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するため、本願発明者らは鋭意検討した結果、CVD法により、塩化アルミニウムと、所定の低級アルコール類と、を含有するプロセスガスを、ナトリウムを含有するガラス基板に吹き付けることで、低コストかつ簡易な方法で一次元アルミナナノ構造体を形成できることを見いだした。
【0008】
本発明は、上記した知見に基づいてなされたものであり、CVD法により、基体上に一次元アルミナナノ構造体を形成する方法であって、前記基体が、酸化物基準の質量%表記で2〜40%のナトリウムを含有するガラス基板であり、450℃以上800℃以下の温度に保持した該ガラス基板上に、プロセスガスとして、塩化アルミニウム(AlCl3)、および、炭素数4以下のアルコール類を、塩化アルミニウム(AlCl3)に対するアルコール類の濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が1以上となる条件で供給することを特徴とする、一次元アルミナナノ構造体の形成方法を提供する。
【0009】
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、前記プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度が0.02〜4mol%であることが好ましい。
【0010】
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、前記アルコール類が、メタノール、エタノール、および、イソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、前記アルコール類が、エタノールであることがより好ましい。
【0011】
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、塩化アルミニウム(AlCl3)に対するアルコール類の濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が1以上50以下となる条件でプロセスガスを供給することが好ましい。
【0012】
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、プロセスガス中の水分量が2mol%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、前記CVD法が常圧CVD法であることが好ましい。
【0014】
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、前記CVD法を1000Pa以下の圧力下で実施してもよい。
【0015】
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法において、前記ガラス基板がソーダライムガラス基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストかつ簡易な方法で、ガラス基板上に一次元アルミナナノ構造体を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)〜(f)は、本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法を説明するための概念図である。
図2図2(a)〜(c)は、例1〜3におけるCVD法実施後の基板表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3図3(a)〜(c)は、例4〜6におけるCVD法実施後の基板表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4図4(a)〜(b)は、例7〜8におけるCVD法実施後の基板表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法について説明する。
本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法は、CVD法により、基体上に一次元アルミナナノ構造体を形成する方法であって、基体が、酸化物基準の質量%表記で2〜40%のナトリウム(Na)を含有するガラス基板であり、450℃以上800℃以下の温度に保持した該ガラス基板上に、プロセスガスとして、塩化アルミニウム(AlCl3)、および、炭素数4以下のアルコール類を、塩化アルミニウム(AlCl3)に対するアルコール類の濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が1以上となる条件で供給することを特徴とする。
【0019】
本発明の方法において、基体上に一次元アルミナナノ構造体が形成される原理を、図面を参照して説明する。
図1(a)〜(f)は、本発明の一次元アルミナナノ構造体の形成方法を説明するための概念図である。
図1(a)は、常温での基体10を示した概念図である。図1(a)に示す基体10は、ナトリウム(Na)20を含有するガラス基板である。
CVD法を実施するため、該基体10を所定の温度(450〜800℃)まで加熱する過程で、該基体10の温度450℃以上になると、基体10中のNaの一部が、Naイオン(Na+)として該基体10の表面に析出する(図1(b)参照)。
【0020】
この状態で、プロセスガスとして、塩化アルミニウム(AlCl3)、および、炭素数4以下のアルコール類(図では、エタノール(C25OH、EtOH))を、基体10上に供給すると、下記式で示す反応によって生じたHClからのClイオン(Cl-)30と、基体表面に析出したNaイオン(Na+)20からNaCl40が生じ(図1(c)参照)、該NaCl40が基体10上に析出する(図1(d)参照)。
AlCl3 + EtOH → Al(OEt)3 + 3HCl
【0021】
次に、図1(e)に示すように、基体10上のNaCl40と、プロセスガス中のAlCl3と、が、NaCl−AlCl3混合溶融塩50を形成する。
この混合溶融塩50上にプロセスガス中のAlCl3が堆積し、溶融する。溶融したAlCl3と、気相反応で生じたAl(OEt)3が下記式にしたがって反応してアルミナ(Al23)60が生じる。
AlCl3 + Al(OEt)3 → Al23 + 3EtCl
このアルミナ(Al23)60は、混合溶融塩50を起点としているため、基体10表面から鉛直方向に成長して、外観形状が柱状またはチューブ状をした一次元アルミナナノ構造体を形成する(図1(f)参照)。
【0022】
上述したように、本発明の方法において、一次元アルミナナノ構造体を形成する基体は、ナトリウム(Na)を含有するガラス基板である。より具体的には、酸化物基準の質量%表記で2〜40%のNaを含有するガラス基板である。
ガラス基板のNa含有量が2%よりも低いと、加熱時にガラス基板の表面に析出するNaイオンが少なくなり、ガラス基板上に一次元アルミナナノ構造体を形成することができなくなる。
一方、ガラス基板のNa含有量が40%よりも高いと、生成するNaClの密度が高くなり過ぎるため、溶融塩が連続的に基板上に生成してしまい、アルミナは膜状に形成され、一次元状に成長できない問題がある。
ガラス基板のNa含有量は、2〜20%であることがより好ましく、10〜15%であることがさらに好ましい。
Naを含有するガラス基板としては、ソーダライムシリケートガラス基板、アルカリホウ酸塩ガラス、アルカリリン酸塩ガラスなどを用いることができる。
【0023】
本発明では、CVD法実施時、ガラス基板を450℃以上800℃以下の温度に保持する。ガラス基板の保持温度が450℃より低いと、一次元アルミナナノ構造体を形成することができない。一方、ガラス基板の保持温度を800℃以下とするのは、ガラス基板の軟化点を超えない温度域で、常圧CVD法を実施するためである。
ガラス基板の保持温度は、450℃以上650℃以下であることがより好ましく、500℃以上600℃以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明において、炭素数4以下のアルコール類を使用するのは、ガラス基板上に、プロセスガスとして、アルコール類を供給するためである。炭素数4以下のアルコール類としては、メタノール、エタノール、および、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール類を単体または混合物として用いるのができる。このうちエタノールは、アルミナ微粉の発生が特に少なく、生態への危険性も少なく、かつ、安価であることから特に好ましい。
【0025】
CVD法の実施時において、炭素数が4以下のアルコール類は、塩化アルミニウム(AlCl3)に対する濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が1以上となる条件で供給する。
塩化アルミニウム(AlCl3)に対する濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が1よりも小さくなる条件でアルコール類を供給した場合、一次元アルミナナノ構造体の形成速度が極端に遅くなるため、実用的ではない。
一方、塩化アルミニウム(AlCl3)に対する濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が50よりも大きくなる条件でアルコール類を供給しても、一次元アルミナナノ構造体の形成にはもはや寄与せず、不要なアルコール類の供給によるコスト増が問題となる。また、常圧CVD法を実施する雰囲気中に存在するアルコール類の増加により、形成される一次元アルミナナノ構造体にカーボンなどの不純物が多くなることから好ましくない。
炭素数が4以下のアルコール類は、塩化アルミニウム(AlCl3)に対する濃度比(アルコール類(mol%)/AlCl3(mol%))が、4〜50となる条件で供給することがより好ましく、8〜30となる条件で供給することがさらに好ましい。
【0026】
CVD法の実施時において、プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度が0.02〜4mol%であることが好ましい。
プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度が0.02mol%より低いと一次元アルミナナノ構造体の形成速度が低下する。
一方、プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度が4mol%より高いと、気相中でアルミナ微粉が発生して、一次元アルミナナノ構造体にアルミナ微粉が混入する等の問題がある。
プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度は、0.05〜3mol%であることがより好ましく、0.1〜2mol%であることがさらに好ましい。
【0027】
CVD法の実施時において、プロセスガス中の水分量が高くなると、気相中でアルミナ微粉が発生して、一次元アルミナナノ構造体にアルミナ微粉が混入する、また一次元アルミナ構造体の形成速度が遅くなる等の問題がある。
このため、プロセスガス中の水分量は、2mol%以下であることが好ましく、1mol%以下であることがより好ましく、実質的にゼロであることが最も好ましい。
【0028】
なお、プロセスガスとしての、塩化アルミニウム(AlCl3)、および、炭素数4以下のアルコール類は、気化器またはバブリングなどの気化手法により気化できる。塩化アルミニウム(AlCl3)については、加熱した金属アルミニウムに、塩素または塩化水素ガスを吹き付けることにより直接形成することも可能である。気化したガスは、窒素などの希ガスで希釈して供給される。
プロセスガスとしての、塩化アルミニウム、および、炭素数4以下のアルコール類は、プレミックス方式の原料ガス供給手段を使用して、予め混合した状態でガラス基板上に供給してもよいし、両者を別々の配管で移送し、ポストミックス方式の原料ガス供給手段を使用して、ガラス基板上で混合させてもよい。
【0029】
本発明において、CVD法実施時の雰囲気圧力は特に限定されない。したがって、常圧雰囲気下でCVD法を実施してもよいし、圧力1000Pa以下の減圧雰囲気下でCVD法を実施してもよい。減圧雰囲気下でCVD法を実施した場合、気相中でのアルミナ微粉の発生が防止されるという利点がある。但し、常圧雰囲気下でCVD法を実施すること、すなわち、常圧CVD法であること、がコスト面から好ましい。
【0030】
本発明により形成される一次元アルミナナノ構造体は、外観形状が柱状またはチューブ状であり、長さがμmオーダーで、幅がnmオーダーである。柱状またはチューブ状をなす外観は、その平面形状が円形や楕円形状のように角を持たないものであってもよく、三角形、四角形、および、その他の多角形のように角を有するものであってもよい。
一次元アルミナナノ構造体の幅は50〜300nmであることが好ましい。幅が50nmより小さいと、一次元アルミナナノ構造体が安定に成長できないためであり、300nmを超えると一次元アルミナナノ構造体の特徴である比表面積を増やす効果が十分でないためである。幅については100nm程度であることが特に好ましい。一次元アルミナナノ構造体の長さは1μm以上であることが好ましい。
一次元アルミナナノ構造体の幅や長さは、CVD法の実施条件、具体的には、CVD法の実施時間、プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度、基板温度等により調節することができる。たとえば、CVD法の実施時間を長くする、プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)濃度を高くする、基板温度を高くする等の条件の調節により、一次元アルミナナノ構造体の長さが増加する。
【0031】
本発明により形成される一次元アルミナナノ構造体は、図1(f)に示したように、基体10であるガラス基板の表面に対し鉛直方向に成長するため、表面積が大きくなり、触媒用途などには特に好ましい。
また、本発明により形成された一次元アルミナナノ構造体は、へらなどで剥離することにより、基体10であるガラス基板から分離して使用することも可能である。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。ここで例1、2、4〜8が実施例であり、例3は比較例である。
【0033】
(例1)
搬送型常圧CVD装置を用いて、ソーダライムガラス基板上に一次元アルミナナノ構造体を形成した。使用したソーダライムガラス基板のNa含有量は、酸化物基準の質量%表記で13%である。
塩化アルミニウム(AlCl3)を入れたステンレス容器を150℃に加熱し、昇華によって気化した塩化アルミニウムガスを乾燥窒素ガスで希釈して搬送した。同様に、炭素数4以下のアルコール類として、エタノールを入れたステンレス容器を25℃で窒素によりバブリングすることによりエタノールガスを搬送した。搬送した塩化アルミニウム、エタノールは、プロセスガスとして、搬送型常圧CVD装置内に設置された原料ガス供給手段により、基板温度を600℃に保持したガラス基板上に供給して、一次元アルミナナノ構造体を形成した。プロセスガス中のAlCl3濃度、アルコール類濃度、および、AlCl3に対するアルコール類の濃度比(アルコール類/AlCl3)は下記表に示した通り。
このとき、ガラス基板は0.5m/minの速度で搬送することにより、ガラス面内に均一に一次元アルミナナノ構造体を形成した。なお、プロセスガス中の水分量は実質的にゼロであった。
CVD法実施後のガラス基板表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図2(a)は基板表面のSEM写真であり、基板表面に一次元ナノ構造体を形成されていることが示されている。また、SEMに付属するエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により組成分析を行いナノ構造体の組成がアルミナ(Al23)であることを確認した。
【0034】
(例2,3)
プロセスガス中のAlCl3濃度、アルコール類濃度、AlCl3に対するアルコール類の濃度比(アルコール類/AlCl3)、および、基板温度を下記表に示した条件として、一次元アルミナナノ構造体の形成を試みた。なお、例2では、炭素数4以下のアルコール類として、エタノールの代わりに、IPAをそれぞれ使用した。また、例3では、炭素数4以下のアルコール類の代わりに水蒸気(H2O)を供給した。例3については、下記表中のアルコール濃度、アルコール/AlCl3の欄の記載は、水蒸気(H2O)濃度、および、AlCl3に対する水蒸気(H2O)の濃度比である。例2,3において、プロセスガス中の水分量は実質的にゼロであった。
【表1】
図2(b),(c)は、例2,3の基板表面のSEM写真である。図2(b)では、基板表面に一次元アルミナナノ構造体を形成されていることが示されている。一方、炭素数4以下のアルコール類の代わりに水蒸気(H2O)を供給した例3では、図2(c)に示すように、一次元アルミナナノ構造体を形成できなかった。なお、図2(c)に示されている塊状の物質は、プロセスガス中の塩化アルミニウム(AlCl3)が、気相中で水蒸気(H2O)と反応(下記式)することで生じたHClからのClイオン(Cl-)と、ガラス基板表面に析出したNaイオン(Na+)と、から生じたNaClである。
AlCl3 + 1.5H2O → 0.5Al23 + 3HCl
なお、上記の反応は気相中で起こるため、アルミナ微粉の発生となり、一次元アルミナナノ構造体を形成できない。
【0035】
(例4〜6)
例4〜6では、炭素数4以下のアルコール類としてIPAを使用し、基板温度を変えて、一次元アルミナナノ構造体を形成した。プロセスガス中のAlCl3濃度、アルコール類濃度、AlCl3に対するアルコール類の濃度比(アルコール類/AlCl3)、および、基板温度は下記表に示した条件とした。例4〜6において、プロセスガス中の水分量は実質的にゼロであった。
【表2】
図3(a)〜(c)は、例4〜6の基板表面のSEM写真である。図3(a)〜(c)では、基板表面に一次元アルミナナノ構造体を形成されており、基板温度が高いほどナノ構造体の成長が促進されている。
【0036】
(例7,8)
例7,8では、炭素数4以下のアルコール類としてエタノールを使用し、プロセスガスへの水分(H2O)の添加による、一次元アルミナナノ構造体の形成への影響を評価した。例7はプロセスガスにH2Oを添加しなかった例であり、例8はプロセスガスにH2Oを添加した例である。プロセスガス中のAlCl3濃度、アルコール類濃度、AlCl3に対するアルコール類の濃度比(アルコール類/AlCl3)、プロセスガス中の水分量、および、基板温度は下記表に示した条件とした。
【表3】
図4(a),(b)は、例7,8の基板表面のSEM写真である。図4(a),(b)では、基板表面に一次元アルミナナノ構造体を形成されており、プロセスガスへの水分(H2O)の添加により、ナノ構造体の密度を上げることが可能であり、より表面積を増やす用途においては微量の水分添加を行うことが有効であることが示されている。
【符号の説明】
【0037】
10:ガラス基板
20:Na
30:Cl
40:NaCl
50:混合溶融塩(NaCl+AlCl3
60:アルミナ(Al23
図1
図2
図3
図4