【0026】
別の態様では、第二のプライマーの5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加しており、その場合、下記(I’’)〜(IX’’)工程により前記特定塩基配列に相補的な配列を含むRNAを合成することで評価すればよい。
(I’’)第二のプライマーおよびRNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(II’’)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(III’’)第一のプライマーおよびDNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的配列を転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(IV’’)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(V’’)前記RNA転写産物が、第一のプライマーおよびRNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列のcDNAを合成する工程、
(VI’’)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(VII’’)第二のプライマーおよびDNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的な配列を転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(VIII’’)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(IX’’)前記(VIII’’)のRNA転写産物が、前記(V’’)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的に特定塩基配列に相補的な配列のRNA転写産物を生成する工程。
【実施例】
【0032】
以下、所望の性能を有したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素のスクリーニング法の実施例を用いて、本発明を詳細に説明するが、本実施例は本発明の実施の一形態を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0033】
実施例1 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素遺伝子の変異体ライブラリーの作製
特許文献4に記載の方法で大腸菌コドン型のAMV逆転写酵素遺伝子(配列番号5)を持つプラスミドベクターpTrcAMVBを作製した。プラスミドベクターpTrcAMVBの塩基配列情報を配列番号7に示す。作製したプラスミドベクターpTrcAMVBのAMV逆転写酵素遺伝子に以下の手順で変異を導入した。
(1)プラスミドベクターpTrcAMVBを鋳型プラスミドとして、表1に示した反応液組成に基づいてエラープローンPCR反応を行なった。PCR反応は、サーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用い、95℃で2分加熱後、95℃・30秒、55.7℃・30秒、72℃・3.5分の温度サイクルを40回繰り返した。
【表1】
(2)PCR産物を、1%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで精製した。
(3)精製したAMV逆転写酵素遺伝子を含むDNAを制限酵素EcoRIおよびHindIIIで消化後、同酵素で消化したpTrc99aプラスミドにT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させ、反応後のDNA溶液をAMV逆転写酵素遺伝子変異体ライブラリーとした。
(4)さらに作製したライブラリーを定法に従い大腸菌HB101株に形質転換し、37℃のLB/Crb寒天培地(10g/L ポリペプトン、5g/L 酵母エキス、10g/L NaCl、15g/L 精製寒天、0.1mg/mL カルベニシリン(pH7.4))で一晩培養し変異体候補株を得た。
【0034】
実施例2 変異体候補株の培養
96穴プレート(グライナー・ジャパン社製)に2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)200μL/well分注し、実施例1で作製した変異体候補株を1コロニーずつ植菌し、37℃・2000rpmで一晩振とう培養を行なうことで前培養を行なった。前培養液の一部はグリセロールストックとし−80℃で保存した。
96穴ディープウェルプレート(グライナー・ジャパン社製)に2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)500μL/well分注し、前培養液を50μLずつ植菌し、37℃・1500rpmで3時間振とう培養を行なった。さらに各ウェルに5mMになるようにIPTGを添加し、25℃・2000rpmで三晩振とう培養を行なうことでトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の発現を促した。
培養菌体を4℃・2500rpmで30分間遠心分離を行ない、上清を捨てることで菌体を回収し、−30℃で保存した。
【0035】
実施例3 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素抽出液の酵素活性評価
実施例2で回収した菌体に抽出液(BugBuster(商品名)(メルク社製)溶液、50mM Tris−HCl(pH7.2)、0.2mg/mL 卵白リゾチーム、25U/mL Benzonase(商品名)(メルク社製)、10mM DTT)を100μL/well加え、25℃・1500rpmで一時間振とうし、続いて4℃・2500rpmで20分間遠心分離を行ない、上清を回収し抽出液とした。
酵素活性の測定は、特許文献2に記載の核酸増幅法をもとに行なった。表2に記載した組成の反応液(ミックス試薬とする)15μLをPCR用96穴プレート(ABI社製)に分注し、前記抽出液を10mM DTT水溶液で10倍に希釈しものを5μL加えた。
【表2】
続いて各ウェルに開始溶液(18mM MgCl
2、100mM KCl、3.8%(w/v) グリセロール、10.4%(v/v) DMSO)を10μL混合し、ABI7300RealTime−PCR装置(商品名)(Applied Biosystems社製)を用いて、46℃・15秒、47℃・30秒、46℃・15秒の温度サイクルを30回繰り返し、サイクルごとに蛍光強度を測定した。
野生型のAMV逆転写酵素と比較し蛍光強度の増加が早いサイクルで観察される変異体を耐熱性変異株として取得した。
【0036】
実施例4 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の調製
実施例3で選択した耐熱性変異株について耐熱性の評価を行なうために、耐熱性変異株の培養と精製を行なった。
(1)試験管に2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)2mL分注し、実施例2で作製したグリセロールストックを20μL植菌し、37℃・160rpmで一晩振とう培養を行なうことで前培養を行なった。
【0037】
(2)100mLフラスコに2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)20mL分注し、前培養液を200μL植菌し、37℃・160rpmで3時間振とう培養を行なった。さらに培養液に5mMになるようにIPTGを添加し、25℃・160rpmで三晩振とう培養を行なうことでAMV逆転写酵素の発現を促した。その後、培養液を4℃・8000rpmで30分間遠心分離することで菌体を回収し、−30℃で凍結保存した。
【0038】
(3)凍結菌体を5mL/湿菌体質量のバッファーA(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT)に懸濁し、ソニケーター(Insonator 201M、久保田製作所社製)を使用して150W・4℃の条件で超音波破砕を行なった後、4℃・8000rpmで30分間遠心分離することで未破砕の菌体を取り除き抽出液を得た。
【0039】
(4)(3)の抽出液に0.83%(w/v)になるようにストレプトマイシン塩酸塩(和光純薬社製)を溶解し、4℃で30分間撹拌した。その後、4℃・8000rpmで30分間遠心分離することでAMV逆転写酵素を沈澱として回収し、取り除いた上清と等量のバッファーAへ再度懸濁した。この再懸濁液をさらに4℃・8000rpmで30分間遠心分離した上清を回収した。この上清500μLとバッファーB(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT、170g/L 硫酸アンモニウム)500μLを混和した後、バッファーC(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT、85g/L 硫酸アンモニウム)で平衡化したトヨパールPPG−600M(東ソー社製)の50%スラリー500μLと混和し、4℃で10分間転倒撹拌することで吸着を行なった。4℃・5000rpmで1分間遠心分離した後、未吸着分を取り除いた。続いて、吸着させたゲルへ1.7mLのバッファーD(バッファーAとバッファーCを2:8で混和したバッファー)を加え、数回転倒撹拌した後4℃・5000rpmで1分間遠心分離を行ない、上清を取り除くことでゲルを洗浄した。さらにこの洗浄をさらにもう一度繰り返し、洗浄したゲルにバッファーAを250μL加え、4℃で10分間転倒撹拌しゲルから溶出させた後、4℃・5000rpmで1分間遠心分離を行ない、ゲルを取り除いた上清を各耐熱性変異株のAMV逆転写酵素液として回収し4℃で保存した。
【0040】
実施例5 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素液の耐熱性評価
実施例4で調製した各耐熱性変異株由来のAMV逆転写酵素液の耐熱性評価を行なった。
(1)AMV逆転写酵素液3.2μLに対し40.3μLの滅菌水を加え、さらに5.2μLのDMSO(終濃度10.4%(v/v))を加え混和し酵素反応液とし4℃に保持した。この酵素反応液を非加熱酵素反応液とし、この非加熱酵素反応液の一部をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、46℃で10分加熱後、4℃で3分冷却し加熱酵素反応液とした。
(2)実施例3に記載した組成でミックス試薬を調製し15μLを0.5mL容PCR用チューブ(GeneAmp Thin−Walled Reaction Tubes、パーキンエルマー社製)に分注し、前記非加熱酵素反応液もしくは前記加熱酵素反応液を5μL加え、46℃で2分保温した。続いて各PCRチューブに開始溶液(18mM MgCl
2、100mM KCl、3.8%(w/v) グリセロール、10.4%(v/v) DMSO)を10μL混合し、TRCRapid−160(東ソー社製)を用いて蛍光強度の変化を測定した。
【0041】
(3)適宜バッファーA(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT)で希釈したAMV逆転写酵素(Life Technology社製)を用いて同様の方法で蛍光強度の変化を測定し、蛍光強度が初期蛍光の1.2倍になる時間から逆転写酵素のユニット数を見積もる検量線を作成した(
図3)。この検量線を用いて非加熱酵素反応液と加熱酵素反応液それぞれのトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の活性を見積もり、加熱酵素反応液の活性を非加熱酵素反応液の活性で除することで残存活性を算出した。この残存活性を野生型由来と各耐熱性変異株由来のAMV逆転写酵素反応液と比較した結果、各耐熱性変異株由来の酵素は野生型由来と比較して耐熱性が向上していることが判った(
図4)。
【0042】
実施例6 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素遺伝子の塩基配列決定
実施例4で培養した菌体の一部から、定法によりプラスミドを抽出し、抽出したプラスミドに含まれるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素遺伝子の塩基配列決定を以下の方法で行なった。
(1)Big Dye Terminator v3.1 cycle Sequencing Kit(商品名)(Applied Biosystems社製)を用いて、添付のバッファー2.0μL、プレミックス4.0μL、合成DNAプライマー3.2pmol、鋳型プラスミド500ngを滅菌水にて20μLに調製し、サーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用い、96℃で1分加熱後、96℃・10秒、50℃・5秒、60℃・4分の温度サイクルを25回繰り返した。
(2)(1)で調製した塩基配列決定用サンプルをCentri−Sepスピンカラム(商品名)(Applied Biosystems社製)を用いて、以下に示す方法で精製した。
(2−1)Centri−Sepスピンカラムに滅菌水を800μL加え、ボルテックスにより乾燥したゲルを十分に水和させた。
(2−2)カラムに気泡がないことを確認後、室温にて2時間以上放置した。
(2−3)上のキャップ、下のストッパーを順に外しカラム内の滅菌水をゲル表面まで自然落下させた後、730×gで2分間遠心分離を行なった。
(2−4)(2−1)から(2−3)により作製したスピンカラムの中央に塩基配列決定用サンプルをアプライし、730×gで2分間遠心分離によりサンプルをチューブに回収した。
(2−5)回収したサンプルについて減圧乾燥を行なった後、ホルムアミドに溶解した。
(3)(2)で調製した塩基配列決定用サンプルを95℃で2分間処理し、氷上で急冷後、ABI PRISM310−DNA Analyzer(商品名)(Applied Biosystems社製)で解析することで、塩基配列を決定した。塩基配列決定に使用した合成DNAプライマーは、配列番号15から22に記載のものを必要に応じて選択し使用した。
(4)決定した塩基配列はGENETYX ver.11.0.1(商品名)(ゼネティクス製)を使用して解析を行なった。
【0043】
解析の結果、耐熱性変異株から以下に示す7株の変異体がそれぞれ同定された。
(A)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の658番目のセリンがグリシンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をS658G変異体とし、その遺伝子配列を配列番号23に、アミノ酸配列を配列番号24にそれぞれ示す。
(B)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の813番目のバリンがアラニンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をV813A変異体とし、その遺伝子配列を配列番号25に、アミノ酸配列を配列番号26にそれぞれ示す。
(C)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の192番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換された変異と、715番目のトレオニンがメチオニンに置換された変異を持つ変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を(D192E,T715M)変異体とし、その遺伝子配列を配列番号27に、アミノ酸配列を配列番号28にそれぞれ示す。また、192番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換された変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をD192E変異体とし、その遺伝子配列を配列番号29に、アミノ酸配列を配列番号30にそれぞれ示し、715番目のトレオニンがメチオニンに置換された変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をT715M変異体とし、その遺伝子配列を配列番号31に、アミノ酸配列を配列番号32にそれぞれ示す。
(D)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の583番目のアラニンがトレオニンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をA583T変異体とし、その遺伝子配列を配列番号33に、アミノ酸配列を配列番号34にそれぞれ示す。
(E)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の65番目のセリンがグリシンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をS65G変異体とし、その遺伝子配列を配列番号35に、アミノ酸配列を配列番号36にそれぞれ示す。
(F)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の113番目のフェニルアラニンがセリンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をF113S変異体とし、その遺伝子配列を配列番号37に、アミノ酸配列を配列番号38にそれぞれ示す。
(G)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の689番目のアラニンがバリンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をA689V変異体とし、その遺伝子配列を配列番号39に、アミノ酸配列を配列番号40にそれぞれ示す。