特許第6070180号(P6070180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070180
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】酵素のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/48 20060101AFI20170123BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20170123BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170123BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C12Q1/48 ZZNA
   C12Q1/34
   C12Q1/68 A
   C12N15/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-285329(P2012-285329)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-124166(P2014-124166A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】野口 惇
(72)【発明者】
【氏名】中西 睦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】牧野 友理子
(72)【発明者】
【氏名】井出 輝彦
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−502467(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108672(WO,A2)
【文献】 特開2011−078389(JP,A)
【文献】 特開2012−065568(JP,A)
【文献】 特開2011−045315(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/020759(WO,A1)
【文献】 特開2003−334095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−15/90
C12N 9/00−9/99
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、及び(3)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性のうち全ての活性を有する酵素をコードするポリヌクレオチドに変異を導入する工程と、
(B)変異を導入した前記ポリヌクレオチドをベクターに挿入する工程と、
(C)前記ポリヌクレオチドを挿入したベクターで宿主を形質転換する工程と、
(D)得られた形質転換体を培養し、前記酵素を発現させる工程と、
(E)前記形質転換体の培養液から前記酵素を抽出する工程と、
(F)前記酵素の性能を評価する工程と、
を含む、前記酵素のスクリーニング方法において、前記(F)の工程における酵素の性能評価を、前記(1)から(3)のうち全ての活性を必要とする核酸合成を行なうことで評価する、前記スクリーニング方法。
【請求項2】
酵素がトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素である、請求項に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記(F)の工程における酵素の性能評価を、特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマー(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加している)を用いて、下記(I)から(V)の工程により前記特定塩基配列又はその配列に相補的な配列を含むRNAを合成することで評価する、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
(I)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列又はその配列に相補的な配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(II)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(III)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列又はその配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(IV)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、前記プロモーター配列から前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(V)前記RNA転写産物が、前記(I)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酵素のスクリーニング方法に関する。特に本発明は、遺伝子工学的手法により得られた、(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(3)リボヌクレアーゼH活性のうち、1以上の活性を有する酵素を発現可能な形質転換体から、所望の性能を有した酵素を効率的にスクリーニングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レトロウイルスの増殖に必須の因子として発見された逆転写酵素は、一本鎖RNAを鋳型としてDNAを合成(逆転写)する、RNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有しており、cDNA合成等に必須な遺伝子工学試薬あるいは遺伝子診断用酵素として利用されている。
【0003】
逆転写酵素の一つである、トリ骨髄芽球腫ウイルス(AMV)逆転写酵素は、分子量約63kDaのα鎖および分子量約95kDaのβ鎖からなるヘテロ複合体であり、ASLVファミリーとして知られている。このうちα鎖は、タンパク質分解性プロセシングによりβ鎖から形成されている(非特許文献1)。AMV逆転写酵素のα鎖とβ鎖のヘテロ複合体は、α鎖またはβ鎖のみの場合と比較して安定であり、有用であることが知られている(特許文献1)。
【0004】
逆転写酵素はRNA依存型DNAポリメラーゼ活性だけでなく、DNA依存型DNAポリメラーゼ活性やリボヌクレアーゼH(RNaseH)活性を併せ持つ酵素が知られており、前述のトリ骨髄芽球腫ウイルス(AMV)逆転写酵素が一例としてあげられる。このような複数の活性を持つ酵素は、1つの酵素で複数の反応を行なうことが出来るため、例えばTRC法、NASBA法などの遺伝子増幅法で用いる酵素として利用されている(特許文献2および3)。逆転写酵素を用いた反応ではその増幅の効率と正確性の向上のため、より高い温度で逆転写反応が可能な酵素が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−334095号公報
【特許文献2】特開2006−14632号公報
【特許文献3】特表平4−507197号公報
【特許文献4】特開2012−120506号公報
【特許文献5】特開2012−075418号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Le Grice S.F.J.,Reverse Transcriptase,Cold Spring Harbor,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,163(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(3)リボヌクレアーゼH活性のうち、1以上の活性を有する、性能が向上した酵素を得るためのスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(3)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性のうち、1以上の活性を有する酵素をコードするポリヌクレオチドに変異を導入し、当該変異を導入したポリヌクレオチドを含むベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体から得られた酵素のスクリーニングにおいて、当該酵素を用いた核酸合成を行ない評価することで、所望の性能を有した当該酵素を得ることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の第一の態様は、
(A)(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(3)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性のうち、1以上、好ましくは2以上の活性を有する酵素をコードするポリヌクレオチドに変異を導入する工程と、
(B)変異を導入した前記ポリヌクレオチドをベクターに挿入する工程と、
(C)前記ポリヌクレオチドを挿入したベクターで宿主を形質転換する工程と、
(D)得られた形質転換体を培養し、前記酵素を発現させる工程と、
(E)前記形質転換体の培養液から前記酵素を抽出する工程と、
(F)前記酵素の性能を評価する工程と、
を含む、前記酵素のスクリーニング方法において、前記(F)の工程における酵素の性能評価を、前記(1)から(3)のうち1以上、好ましくは2以上の活性を必要とする核酸合成を行なうことで評価する、前記スクリーニング方法である。
【0010】
また本発明の第二の態様は、酵素が前記(1)から(3)の活性を全て有する酵素である、前記第一の態様に記載のスクリーニング方法である。
【0011】
また本発明の第三の態様は、酵素がトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素である、前記第二の態様に記載のスクリーニング方法である。
【0012】
また本発明の第四の態様は、前記(F)の工程における酵素の性能評価を、特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマー(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加している)を用いて、下記(I)から(V)の工程により前記特定塩基配列又はその配列に相補的な配列を含むRNAを合成することで評価する、前記第一から第三の態様のいずれかに記載のスクリーニング方法である。
(I)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列又はその配列に相補的な配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(II)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(III)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列又はその配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(IV)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、前記プロモーター配列から前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(V)前記RNA転写産物が、前記(I)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程。
さらに本発明の第五の態様は、前記第一から第四の態様のいずれかに記載のスクリーニング方法で得られた酵素である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、リボヌクレアーゼH活性のうち、1以上の活性を有する酵素をコードするポリヌクレオチドに変異を導入する工程と、変異を導入した前記ポリヌクレオチドを発現ベクターに挿入する工程と、前記ポリヌクレオチドを挿入した発現ベクターで宿主を形質転換する工程と、得られた形質転換体を培養し前記酵素を発現させる工程と、
前記形質転換体の培養液から前記酵素を抽出する工程と、前記酵素の性能を評価する工程とを含む前記酵素のスクリーニング方法において、前記酵素の性能評価を、前記三つの活性のうち1以上の活性を必要とする核酸合成を行なうことで評価することを特徴としている。本発明により、前記核酸合成に必要な所望の性能を有した酵素の取得を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】野生型のAMV逆転写酵素β鎖のアミノ酸配列(配列番号1、上段)と、本発明で例示される変異部位を示す図である。
図2】プラスミドベクターpTrcAMVBの構造を示す図である。
図3】蛍光強度の増加時間から逆転写酵素のユニット数を見積もる検量線を示す図である。
図4】野生型と本発明の改変または変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の耐熱性評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、RNA依存型DNAポリメラーゼ活性とは、1本鎖のRNA鎖を鋳型として、それに相補的な塩基配列持つDNA鎖を合成する活性であり、酵素番号E.C.2.7.7.7に分類される酵素が持つ酵素活性である。本発明において、DNA依存型DNAポリメラーゼ活性とは、1本鎖のDNA鎖を鋳型として、それに相補的な塩基配列持つDNA鎖を合成する活性であり、酵素番号E.C.2.7.7.49に分類される酵素が持つ酵素活性である。本発明において、リボヌクレアーゼH(RNase H)活性とは、DNAとRNAのハイブリッド二本鎖を形成しているRNA鎖を切断し、一本鎖DNAを生じるリボヌクレアーゼであり、酵素番号E.C.3.1.26.4に分類される酵素が持つ酵素活性である。
【0016】
本発明における、(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、(3)RNaseH活性の1以上の酵素活性を有する酵素は、(1)から(3)の任意の活性を有する酵素又は(1)から(3)の任意の活性の組合せを有する酵素であり、連鎖的に核酸合成する酵素をスクリーニングする観点から、(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性と(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性の組合せが好ましく、またRT−PCR法に有用な酵素を取得する観点では、(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性と(3)RNaseH活性の組合せを有する酵素が好ましく、さらにはTRC法やNASBA法に用いる酵素として有用な酵素をスクリーニングする観点から、(1)から(3)の活性を全て有する酵素、例えばマウス白血病ウィルス(MMLV)逆転写酵素やトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素が好ましく、特にAMV逆転写酵素が好ましい。
【0017】
AMVが本来有する、AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの全長は2574塩基であり、そのヌクレオチド配列を配列番号3に示す。なお配列番号3に記載の塩基配列からなるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドは、AMV逆転写酵素遺伝子逆転写酵素β鎖をコードする遺伝子であるが、AMV逆転写酵素遺伝子逆転写酵素にはβ鎖よりも低分子のα鎖も存在し、そのヌクレオチド配列は、配列番号3に記載の塩基配列のうち5’末端側1716塩基からなる(配列番号4)。宿主が大腸菌の場合における、より好ましいAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの一例として、特許文献4に記載された方法を用いて大腸菌コドンを用いて変換したβ鎖の遺伝子(配列番号5)の配列およびα鎖の遺伝子(配列番号6)が例示できる。
【0018】
本発明のスクリーニング方法では、前記(1)から(3)のうち1以上の活性を有する酵素をスクリーニングする方法は、以下の工程(A)〜(F):
(A)前記(1)から(3)の活性のうち、1以上の活性を有する酵素をコードするポリヌクレオチドに変異を導入する工程と、
(B)変異を導入した前記ポリヌクレオチドをベクターに挿入する工程と、
(C)前記ポリヌクレオチドを挿入したベクターで宿主を形質転換する工程と、
(D)得られた形質転換体を培養し、前記酵素を発現させる工程と、
(E)前記形質転換体の培養液から前記酵素を抽出する工程と、
(F)前記酵素の性能を評価する工程と
を含んでおり、工程(F)における条件を適宜選択することにより、所望の性能、例えば向上した(1)から(3)のいずれか1以上の活性、向上した耐熱性、界面活性剤や有機溶剤の影響を受けない性能など、を有する酵素をスクリーニングすることができる。
【0019】
工程(A)は、野生型の酵素等をコードするポリヌクレオチドの任意の位置に変異を導入する工程である。野生型の酵素をコードするポリヌクレオチドの入手は、当業者のなし得る方法であればいかなる方法でもよく、例えば前記酵素のゲノム情報より作製した適切なプライマーを用いたPCRにより取得することができる。野生型の酵素等をコードするポリヌクレオチドとしては、野生型酵素をコードするポリヌクレオチドの他に、前記(1)から(3)のうち少なくともいずれか1つの活性を有する酵素をコードしていれば任意の欠失、置換、及び/又は付加を有するポリヌクレオチドを使用することができ、例えば特許文献4に記載される様に大腸菌コドン型を有するように改変されたポリヌクレオチドも用いることができる。変異を導入した前記ポリヌクレオチドは、部位特異的変異誘発法、縮重オリゴヌクレオチドを用いたPCR、エラープローンPCR、核酸を含む細胞の変異誘発剤、放射線への露出といった公知の技術を適宜使用することにより得られるが、ハイスループットで変異を導入したポリヌクレオチドを取得する観点から、エラープローンPCRが好ましい。エラープローンPCRは、公知の方法により行うことができるが、一般に、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性(校正活性)を持たないポリメラーゼを、所望の程度の突然変異が生じるようにMn2+濃度、dNTP濃度、温度を選択して野生型の酵素等をコードするポリヌクレオチドに対してPCRを行なうことにより、変異を導入することができる。
【0020】
工程(B)は、変異を導入した前記ポリヌクレオチドをベクターに挿入する工程であり、これにより遺伝子ライブラリーを構築することができる。ポリヌクレオチドのベクターへの挿入は、本技術分野に公知の方法により、リガーゼを用いて行なうことができ、例えば予め制限酵素切断部位を付与したプライマーを制限酵素で切断し、リガーゼを用いてベクターの所望のクローニング部位に挿入することができる。挿入するベクターの種類は特に限定はなく、自律複製型ベクターでもよいし、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれるベクターであってもよい。本発明に用いるベクターは、ベクターに組み込まれたポリヌクレオチドがコードする酵素を発現させる観点から、好ましくは発現ベクターであり、当該発現ベクターにおいて前記変異を導入したポリヌクレオチドは、プロモーターといった転写に必要な要素や、転写後のmRNAにおいて翻訳に必要なシャインダルガノ配列やコザック配列などの要素に機能的に連結されている。これらの要素は、宿主の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、大腸菌を宿主とした場合、使用できるプロモーターにはlac、trpもしくはtacプロモーターなどがあげられる。発現ベクターとしては、大腸菌を宿主とした場合、pTrc99A(GenBank Accession No. U13872)、pCDF−1b(タカラバイオ製)といった発現用プラスミドが例示できるが、当業者が入手し得る一般的な大腸菌用ベクターの中から適宜選択して使用してもよい。さらに、前記変異を導入したポリヌクレオチドの5’末端又は3’末端、又はその両方に酵素の精製のために有用な配列を付加できるベクターが選択されてもよい。このようなベクターを選択することで、例えばシグナルペプチドを付加して細胞外分泌型酵素としたり、ヒスチジンタグ、FLAGタグ、又はMycタグなどのタグ配列を付加して酵素の精製を容易にすることができる。このような配列を付加できるベクターに、ポリヌクレオチドを挿入する場合、ポリヌクレオチドがこれらの要素に機能的に連結することが必要である。もっとも、シグナルペプチドやタグの種類や、これらのペプチドと本酵素の結合方法は上記方法に限定されることはなく、当業者が利用可能な任意のペプチドを利用することができる。
【0021】
工程(C)は、工程(B)に記載の方法で構築した遺伝子ライブラリー(変異を導入した前記ポリヌクレオチドを挿入したベクターの集合)で宿主を形質転換する工程である。工程(C)で用いる宿主としては、目的の酵素が発現する宿主であればいかなる宿主でも適宜使用できる。原核細胞においては大腸菌(Escherichia coli)、バチルス(Bacillus)属に属する菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する菌、スタフィロコッカス(Staphyrococcus)属に属する菌、真核細胞としては酵母のサッカロマイセス(Saccharomyces)に属する菌、キャンジダ(Candida)属に属する菌、ポンベ(Pombe)属に属する菌、糸状菌のアスペルギルス(Aspergillus)属する菌などを例示することができ、さらには、昆虫細胞や動物細胞を例示することができる。好ましい宿主細胞の一例として培養や取り扱いが容易な大腸菌があげられる。大腸菌株としては、遺伝子工学の分野において用いられる任意の株が使用されてもよいが、高い遺伝子転換能力を有するという観点から好ましくは大腸菌MV1184株、大腸菌GM31株、大腸菌HB101株、大腸菌JM101株、大腸菌W3110株であり、より好ましくは大腸菌W3110株が使用される。なお前述した大腸菌に対し、ニトロソグアニジンやメタンスルホン酸エチル等の化学物質、紫外線、放射線等の従来公知の手段により変異処理した大腸菌変異株を使用してもよい。プラスミドベクターを用いて大腸菌を形質転換する方法は、遺伝子工学の分野において使用される任意の方法を用いることができ、例えば、Method in Enzymology,216,p.469−631,1992,Academic PressやMethod in Enzymology,204,p.305−636,1991,Academic Pressに記載された方法により行なうことができる。
【0022】
工程(D)は、工程(C)から得られた形質転換体を培養し、酵素を発現させる工程である。形質転換体の培養条件は、ベクターに挿入した酵素をコードするポリヌクレオチドの発現を可能にする条件であれば任意の公知条件であってもよく、形質転換体を前培養した後に、発現ベクターに応じた誘導剤を添加することで酵素を発現させてもよい。例えば大腸菌を用いてトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を発現させる方法として、2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物)、37℃・160rpmで3時間振とう培養を行ない、さらに培養液に誘導剤を添加し、25℃・160rpmで三晩振とう培養を行なう方法が例示できる。使用する誘導剤は、ベクターに用いられるプロモーターの種類により適宜選択することができ、例えばlacプロモーターを含むベクターであれば、IPTGを使用することができる。
【0023】
工程(E)は、前記形質転換体の培養液から前記酵素を抽出する工程であり、各宿主に適した公知の方法で発現した酵素を抽出すればよい。例えば大腸菌において適切な条件下で超音波破砕を行ない、未破砕の菌体を遠心分離により分離する方法や、シグナル配列を付けることで酵素が分泌される場合には、大腸菌を破砕することなく、遠心分離により菌体を分離する方法があげられる。なお界面活性剤を用いた抽出方法は、並列処理が容易な点で好ましい例としてあげられる。また前記酵素を抽出する工程において、抽出した前記酵素をさらに精製してもよい。酵素の精製は、後工程の核酸合成において阻害物質となる物質を酵素と分離できればいかなる精製方法でも良く、阻害物質が許容できる濃度であれば精製方法は希釈でも良い。ポリメラーゼをその他のタンパク質から分離するにはストレプトマイシン塩酸塩やポリミンPを添加することで核酸と共沈させることにより効率的に沈澱回収する方法が好ましい例としてあげられる。さらに、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーといったクロマトグラフィーを単独または組み合わせて適用することにより、より高純度に精製することができる。さらに、酵素にタグ配列が付加されている場合には、タグ配列に応じた精製法、例えばプルダウン法やアフィニティークロマトグラフィー法を用いて精製することができる。クロマトグラフィーは並列処理に適したバッチ法がより好ましい例としてあげられる。
【0024】
工程(F)は、酵素の性能を評価する工程であり、工程(E)で抽出された酵素を用いて、前記(1)から(3)のうちの1以上の活性を必要とする核酸合成を行なうことで、かかる酵素を評価する。核酸合成法は、(1)から(3)のうちいずれか1以上の活性を必要とする方法であれば特に限定はなく、例えばRT−PCR法などが挙げられる。好ましくは前記(1)から(3)のうちの2以上の活性の組合せを必要とする方法であり、さらに好ましくは(1)から(3)のうちの全てを必要とするTRC法やNASBA法である。これらの方法を用いて酵素の性能評価を行なうには、特定塩基配列を含む標的RNAと、特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマー(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加している)、並びに酵素群を用意し、下記(I)から(V)の工程により前記特定塩基配列又はその配列に相補的な配列を含むRNAを合成することで評価すればよい。
(I)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列又はその配列に相補的な配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(II)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(III)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列又はその配列に相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(IV)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、前記プロモーター配列から、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(V)前記RNA転写産物が、前記(I)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程。
【0025】
1の態様では、第一のプライマーの5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加しており、その場合、下記(I’)〜(V’)の工程により前記特定塩基配列を含むRNAを合成することで評価すればよい。
(I’)第二のプライマーおよびRNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(II’)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(III’)第一のプライマーおよびDNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列を転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(IV’)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(V’)前記RNA転写産物が、前記(I)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程。
【0026】
別の態様では、第二のプライマーの5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加しており、その場合、下記(I’’)〜(IX’’)工程により前記特定塩基配列に相補的な配列を含むRNAを合成することで評価すればよい。
(I’’)第二のプライマーおよびRNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成する工程、
(II’’)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(III’’)第一のプライマーおよびDNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的配列を転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(IV’’)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(V’’)前記RNA転写産物が、第一のプライマーおよびRNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による特定塩基配列のcDNAを合成する工程、
(VI’’)RNase H活性を有する酵素による、RNA−DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(VII’’)第二のプライマーおよびDNA依存型DNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記1本鎖DNAを鋳型とした特定塩基配列に相補的な配列を転写可能なプロモーター配列を有する2本鎖DNAを生成する工程、
(VIII’’)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素による、前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生成する工程、
(IX’’)前記(VIII’’)のRNA転写産物が、前記(V’’)の工程におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的に特定塩基配列に相補的な配列のRNA転写産物を生成する工程。
【0027】
上記の酵素群は、当該核酸合成反応に必要な活性、すなわち(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性と(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性、及び(3)リボヌクレアーゼH活性を有する1以上の酵素と、(4)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素との組合せである。(1)から(3)のうちの1以上の活性について性能を評価する場合、評価対象の活性以外の活性を有する酵素を添加することが必要となる。例えば、(1)RNA依存型DNAポリメラーゼ活性と(2)DNA依存型DNAポリメラーゼ活性を評価するスクリーニング方法の場合、(4)DNA依存型RNAポリメラーゼ活性を有する酵素の他に、(3)リボヌクレアーゼH活性を有する酵素を添加する必要がある。
【0028】
工程(F)は、特定塩基配列を含む標的RNAと、特定塩基配列の一部と相同的な配列を有する第一のプライマーと、特定塩基配列の一部と相補的な配列を有する第二のプライマー(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加している)、並びに酵素群、さらには核酸合成反応に必要なその他の成分、例えばdNTPs、NTPs、並びに酵素活性に必要な緩衝液及び塩を含む1の反応容器内で連続的に行なわれる。この反応における温度は、公知のTRC法やNASBA法で用いられる温度を用いることができるが、所望の性能を有する酵素をスクリーニングする観点から、反応条件は適宜選択することができる。
【0029】
また工程(F)の後に更に工程(F)が繰り返し行なわれてもよい。2回目以降の工程(F)が行われる場合、工程(D)及び(E)を伴ってもよいし、工程(F)のみが繰り返されてもよい。工程(D)及び(E)を伴う場合には、さらに酵素の精製度を高める抽出若しくは精製工程が行なわれてもよい。最初の工程(F)と二回目以降の工程(F)は同じ性能評価工程であってもよいし、異なる性能評価工程であってもよい。例えば、最初の工程(F)は、いわゆる一次スクリーニングであり、(1)から(3)のうちの1以上の活性を有する酵素をスクリーニングし、2回目以降の工程(F)で、所望の性能を有した酵素をスクリーニングすることもできる。さらに別の態様では、スクリーニングで所望の性能を有する酵素を取得した後に、当該酵素のポリヌクレオチドに対してさらに工程(A)から(F)を行なうことにより、より優れた性能の酵素をスクリーニングすることもできる。
【0030】
核酸合成を行なった後は、合成した核酸量を測定することで、酵素活性を測定し、酵素の性能を評価すればよい。合成した核酸量の測定には、アガロース電気泳動とエチジウムブロミドによる核酸の分離と可視化、合成過程で生じる産物、例えばピロリン酸の定量などが例示できる。より好ましい例として蛍光プローブを用いたリアルタイム検出があげられ、目的の核酸合成により増幅した核酸を蛍光の増幅や減少で定量する方法が公知である。
【0031】
本発明のスクリーニング方法で得られる、所望の性能を有した変異体とは、前記の測定方法において差異として認められる機能であればいかなる機能でも適応可能であるが、発現量が向上した変異体、耐熱性が向上した変異体、界面活性剤の影響を受けない変異体、有機溶媒の影響を受けない変異体などが例示できる。例えば耐熱性が向上した変異体を取得したい場合には、前述の核酸合成の温度を通常よりも高くしたり、または核酸合成前の酵素を所定の時間、恒温の状態で放置したりすればよい。例えば、37℃より高い温度、好ましくは45℃より高い温度、より好ましくは50℃より高い温度、より好ましくは55℃より高い温度において酵素が働くために充分に長い時間、例えば、1分よりも長い時間、好ましくは5分より長い時間、より好ましくは10分より長い時間、より好ましくは20分より長い時間、より好ましくは30分より長い時間保持される。
【実施例】
【0032】
以下、所望の性能を有したトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素のスクリーニング法の実施例を用いて、本発明を詳細に説明するが、本実施例は本発明の実施の一形態を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0033】
実施例1 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素遺伝子の変異体ライブラリーの作製
特許文献4に記載の方法で大腸菌コドン型のAMV逆転写酵素遺伝子(配列番号5)を持つプラスミドベクターpTrcAMVBを作製した。プラスミドベクターpTrcAMVBの塩基配列情報を配列番号7に示す。作製したプラスミドベクターpTrcAMVBのAMV逆転写酵素遺伝子に以下の手順で変異を導入した。
(1)プラスミドベクターpTrcAMVBを鋳型プラスミドとして、表1に示した反応液組成に基づいてエラープローンPCR反応を行なった。PCR反応は、サーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用い、95℃で2分加熱後、95℃・30秒、55.7℃・30秒、72℃・3.5分の温度サイクルを40回繰り返した。
【表1】
(2)PCR産物を、1%アガロース電気泳動で泳動後、エチジウムブロマイド染色を行ない、染色後のゲルから目的産物のバンドを切り出すことで精製した。
(3)精製したAMV逆転写酵素遺伝子を含むDNAを制限酵素EcoRIおよびHindIIIで消化後、同酵素で消化したpTrc99aプラスミドにT4リガーゼを用いて4℃で30分反応させ、反応後のDNA溶液をAMV逆転写酵素遺伝子変異体ライブラリーとした。
(4)さらに作製したライブラリーを定法に従い大腸菌HB101株に形質転換し、37℃のLB/Crb寒天培地(10g/L ポリペプトン、5g/L 酵母エキス、10g/L NaCl、15g/L 精製寒天、0.1mg/mL カルベニシリン(pH7.4))で一晩培養し変異体候補株を得た。
【0034】
実施例2 変異体候補株の培養
96穴プレート(グライナー・ジャパン社製)に2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)200μL/well分注し、実施例1で作製した変異体候補株を1コロニーずつ植菌し、37℃・2000rpmで一晩振とう培養を行なうことで前培養を行なった。前培養液の一部はグリセロールストックとし−80℃で保存した。
96穴ディープウェルプレート(グライナー・ジャパン社製)に2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)500μL/well分注し、前培養液を50μLずつ植菌し、37℃・1500rpmで3時間振とう培養を行なった。さらに各ウェルに5mMになるようにIPTGを添加し、25℃・2000rpmで三晩振とう培養を行なうことでトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の発現を促した。
培養菌体を4℃・2500rpmで30分間遠心分離を行ない、上清を捨てることで菌体を回収し、−30℃で保存した。
【0035】
実施例3 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素抽出液の酵素活性評価
実施例2で回収した菌体に抽出液(BugBuster(商品名)(メルク社製)溶液、50mM Tris−HCl(pH7.2)、0.2mg/mL 卵白リゾチーム、25U/mL Benzonase(商品名)(メルク社製)、10mM DTT)を100μL/well加え、25℃・1500rpmで一時間振とうし、続いて4℃・2500rpmで20分間遠心分離を行ない、上清を回収し抽出液とした。
酵素活性の測定は、特許文献2に記載の核酸増幅法をもとに行なった。表2に記載した組成の反応液(ミックス試薬とする)15μLをPCR用96穴プレート(ABI社製)に分注し、前記抽出液を10mM DTT水溶液で10倍に希釈しものを5μL加えた。
【表2】
続いて各ウェルに開始溶液(18mM MgCl2、100mM KCl、3.8%(w/v) グリセロール、10.4%(v/v) DMSO)を10μL混合し、ABI7300RealTime−PCR装置(商品名)(Applied Biosystems社製)を用いて、46℃・15秒、47℃・30秒、46℃・15秒の温度サイクルを30回繰り返し、サイクルごとに蛍光強度を測定した。
野生型のAMV逆転写酵素と比較し蛍光強度の増加が早いサイクルで観察される変異体を耐熱性変異株として取得した。
【0036】
実施例4 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の調製
実施例3で選択した耐熱性変異株について耐熱性の評価を行なうために、耐熱性変異株の培養と精製を行なった。
(1)試験管に2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)2mL分注し、実施例2で作製したグリセロールストックを20μL植菌し、37℃・160rpmで一晩振とう培養を行なうことで前培養を行なった。
【0037】
(2)100mLフラスコに2×YT−Pna培地(pH6.0)(16g/L トリプトン、10g/L 酵母エキス、5g/L 塩化ナトリウム、14.5g/L 第一リン酸ナトリウム・二水和物、2.5g/L 第二リン酸ナトリウム・十二水和物、0.1mg/mL カルベニシリンナトリウム)20mL分注し、前培養液を200μL植菌し、37℃・160rpmで3時間振とう培養を行なった。さらに培養液に5mMになるようにIPTGを添加し、25℃・160rpmで三晩振とう培養を行なうことでAMV逆転写酵素の発現を促した。その後、培養液を4℃・8000rpmで30分間遠心分離することで菌体を回収し、−30℃で凍結保存した。
【0038】
(3)凍結菌体を5mL/湿菌体質量のバッファーA(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT)に懸濁し、ソニケーター(Insonator 201M、久保田製作所社製)を使用して150W・4℃の条件で超音波破砕を行なった後、4℃・8000rpmで30分間遠心分離することで未破砕の菌体を取り除き抽出液を得た。
【0039】
(4)(3)の抽出液に0.83%(w/v)になるようにストレプトマイシン塩酸塩(和光純薬社製)を溶解し、4℃で30分間撹拌した。その後、4℃・8000rpmで30分間遠心分離することでAMV逆転写酵素を沈澱として回収し、取り除いた上清と等量のバッファーAへ再度懸濁した。この再懸濁液をさらに4℃・8000rpmで30分間遠心分離した上清を回収した。この上清500μLとバッファーB(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT、170g/L 硫酸アンモニウム)500μLを混和した後、バッファーC(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT、85g/L 硫酸アンモニウム)で平衡化したトヨパールPPG−600M(東ソー社製)の50%スラリー500μLと混和し、4℃で10分間転倒撹拌することで吸着を行なった。4℃・5000rpmで1分間遠心分離した後、未吸着分を取り除いた。続いて、吸着させたゲルへ1.7mLのバッファーD(バッファーAとバッファーCを2:8で混和したバッファー)を加え、数回転倒撹拌した後4℃・5000rpmで1分間遠心分離を行ない、上清を取り除くことでゲルを洗浄した。さらにこの洗浄をさらにもう一度繰り返し、洗浄したゲルにバッファーAを250μL加え、4℃で10分間転倒撹拌しゲルから溶出させた後、4℃・5000rpmで1分間遠心分離を行ない、ゲルを取り除いた上清を各耐熱性変異株のAMV逆転写酵素液として回収し4℃で保存した。
【0040】
実施例5 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素液の耐熱性評価
実施例4で調製した各耐熱性変異株由来のAMV逆転写酵素液の耐熱性評価を行なった。
(1)AMV逆転写酵素液3.2μLに対し40.3μLの滅菌水を加え、さらに5.2μLのDMSO(終濃度10.4%(v/v))を加え混和し酵素反応液とし4℃に保持した。この酵素反応液を非加熱酵素反応液とし、この非加熱酵素反応液の一部をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、46℃で10分加熱後、4℃で3分冷却し加熱酵素反応液とした。
(2)実施例3に記載した組成でミックス試薬を調製し15μLを0.5mL容PCR用チューブ(GeneAmp Thin−Walled Reaction Tubes、パーキンエルマー社製)に分注し、前記非加熱酵素反応液もしくは前記加熱酵素反応液を5μL加え、46℃で2分保温した。続いて各PCRチューブに開始溶液(18mM MgCl2、100mM KCl、3.8%(w/v) グリセロール、10.4%(v/v) DMSO)を10μL混合し、TRCRapid−160(東ソー社製)を用いて蛍光強度の変化を測定した。
【0041】
(3)適宜バッファーA(20mM Tris−HCl(pH7.2)、10%(w/v)グリセロール、4mM DTT)で希釈したAMV逆転写酵素(Life Technology社製)を用いて同様の方法で蛍光強度の変化を測定し、蛍光強度が初期蛍光の1.2倍になる時間から逆転写酵素のユニット数を見積もる検量線を作成した(図3)。この検量線を用いて非加熱酵素反応液と加熱酵素反応液それぞれのトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の活性を見積もり、加熱酵素反応液の活性を非加熱酵素反応液の活性で除することで残存活性を算出した。この残存活性を野生型由来と各耐熱性変異株由来のAMV逆転写酵素反応液と比較した結果、各耐熱性変異株由来の酵素は野生型由来と比較して耐熱性が向上していることが判った(図4)。
【0042】
実施例6 トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素遺伝子の塩基配列決定
実施例4で培養した菌体の一部から、定法によりプラスミドを抽出し、抽出したプラスミドに含まれるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素遺伝子の塩基配列決定を以下の方法で行なった。
(1)Big Dye Terminator v3.1 cycle Sequencing Kit(商品名)(Applied Biosystems社製)を用いて、添付のバッファー2.0μL、プレミックス4.0μL、合成DNAプライマー3.2pmol、鋳型プラスミド500ngを滅菌水にて20μLに調製し、サーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用い、96℃で1分加熱後、96℃・10秒、50℃・5秒、60℃・4分の温度サイクルを25回繰り返した。
(2)(1)で調製した塩基配列決定用サンプルをCentri−Sepスピンカラム(商品名)(Applied Biosystems社製)を用いて、以下に示す方法で精製した。
(2−1)Centri−Sepスピンカラムに滅菌水を800μL加え、ボルテックスにより乾燥したゲルを十分に水和させた。
(2−2)カラムに気泡がないことを確認後、室温にて2時間以上放置した。
(2−3)上のキャップ、下のストッパーを順に外しカラム内の滅菌水をゲル表面まで自然落下させた後、730×gで2分間遠心分離を行なった。
(2−4)(2−1)から(2−3)により作製したスピンカラムの中央に塩基配列決定用サンプルをアプライし、730×gで2分間遠心分離によりサンプルをチューブに回収した。
(2−5)回収したサンプルについて減圧乾燥を行なった後、ホルムアミドに溶解した。
(3)(2)で調製した塩基配列決定用サンプルを95℃で2分間処理し、氷上で急冷後、ABI PRISM310−DNA Analyzer(商品名)(Applied Biosystems社製)で解析することで、塩基配列を決定した。塩基配列決定に使用した合成DNAプライマーは、配列番号15から22に記載のものを必要に応じて選択し使用した。
(4)決定した塩基配列はGENETYX ver.11.0.1(商品名)(ゼネティクス製)を使用して解析を行なった。
【0043】
解析の結果、耐熱性変異株から以下に示す7株の変異体がそれぞれ同定された。
(A)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の658番目のセリンがグリシンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をS658G変異体とし、その遺伝子配列を配列番号23に、アミノ酸配列を配列番号24にそれぞれ示す。
(B)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の813番目のバリンがアラニンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をV813A変異体とし、その遺伝子配列を配列番号25に、アミノ酸配列を配列番号26にそれぞれ示す。
(C)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の192番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換された変異と、715番目のトレオニンがメチオニンに置換された変異を持つ変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を(D192E,T715M)変異体とし、その遺伝子配列を配列番号27に、アミノ酸配列を配列番号28にそれぞれ示す。また、192番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換された変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をD192E変異体とし、その遺伝子配列を配列番号29に、アミノ酸配列を配列番号30にそれぞれ示し、715番目のトレオニンがメチオニンに置換された変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をT715M変異体とし、その遺伝子配列を配列番号31に、アミノ酸配列を配列番号32にそれぞれ示す。
(D)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の583番目のアラニンがトレオニンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をA583T変異体とし、その遺伝子配列を配列番号33に、アミノ酸配列を配列番号34にそれぞれ示す。
(E)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の65番目のセリンがグリシンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をS65G変異体とし、その遺伝子配列を配列番号35に、アミノ酸配列を配列番号36にそれぞれ示す。
(F)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の113番目のフェニルアラニンがセリンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をF113S変異体とし、その遺伝子配列を配列番号37に、アミノ酸配列を配列番号38にそれぞれ示す。
(G)配列番号1記載の当該逆転写酵素アミノ酸配列の689番目のアラニンがバリンに置換されている変異体。この変異を有するトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をA689V変異体とし、その遺伝子配列を配列番号39に、アミノ酸配列を配列番号40にそれぞれ示す。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]