【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者は鋭意検討した。その結果、高い固体酸量を有したまま、銅を含有するSAV構造のシリコアルミノリン酸塩を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
以下、本発明の銅を含有するSAV構造のシリコアルミノリン酸塩(以下、「銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩」とする。)について説明する。
【0009】
シリコアルミノリン酸塩とは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、リン(P)及び酸素(O)を、その骨格の主成分とするゼオライト類縁物質である。
【0010】
シリコアルミノリン酸塩の組成は、一般的に、以下の(1)式で表すことができる。
【0011】
(Si
xAl
yP
z)O
2 (1)
(但し、x+y+z=1)
【0012】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は、SAV構造のシリコアルミノリン酸塩(以下、「SAV型シリコアルミノリン酸塩」とする。)である。SAV構造は、IZAのStructure Commissionが定めているIUPAC構造コードで表記した場合に、SAV型となる構造である。
【0013】
SAV構造は、「ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES」(2007年、290頁、エルゼビア社)などで確認することができる。当該構造は、8員環三次元細孔を有しており、細孔直径の異なる二種類の細孔を有し、それぞれの細孔直径は0.38nm×0.38nm及び0.39nm×0.39nmである。
【0014】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は、SAV構造を有する結晶性シリコアルミノリン酸塩である。そのため、粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)測定において、以下の表1に示すXRDパターンをもって、その結晶構造を同定することができる。
【0015】
【表1】
【0016】
SAV型シリコアルミノリン酸塩としてはSTA−7が例示できる。
【0017】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は銅(Cu)を含有する。銅を含有することでこれを窒素酸化物還元触媒等として使用した場合に、高い窒素酸化物還元率を有する触媒となる。本発明において銅含有SAV型シリコアルミノ酸塩が含有する銅は、その金属のみならず、イオン、塩の形の銅を含むものである。
【0018】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は、銅の含有量が0.5重量%以上であることが好ましく、0.8重量%以上であることがより好ましく、1.2重量%以上であることが更に好ましい。銅の含有量が0.5重量%以上であることで、窒素酸化物還元率がより高くなりやすい。一方、銅の含有量が多くなりすぎると、銅とシリコアルミノリン酸塩と反応などの副反応が生じるおそれがある。そのため、銅の含有量は5重量%以下、更には2重量%以下、また更には1.8重量%以下であることを挙げることができる。
【0019】
ここで、本発明において、銅の含有量(重量%)は、銅含有シリコアルミノリン酸塩の乾燥重量に対する銅の重量である。また、乾燥重量とは、銅含有シリコアルミノリン酸塩に含まれるケイ素、リン、アルミニウム及び銅の酸化物重量の和である。乾燥重量は、例えば、空気雰囲気中、600℃で30分間焼成した後の銅含有シリコアルミノリン酸塩の重量を測定することで求めることができる。
【0020】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩が含有する銅は、SAV型シリコアルミノリン酸塩の構造や細孔において、均一に分散していることが好ましい。これにより、本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩がより高い窒素酸化物還元率を示しやすくなる。均一な銅の分散状態として、SAV型シリコアルミノリン酸塩の細孔内部、及びSAV型シリコアルミノリン酸塩の表面に銅が分布していることが例示できる。
【0021】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は、固体酸量が0.90mmol/g以上であり、0.95mmol/g以上であることが好ましく、1.00mmol/g以上であることが更に好ましい。固体酸量が0.90mmol/g未満では、固体酸の量が少なくなりすぎる。固体酸量が0.90mmol/g以上であることで、本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩が、高い窒素酸化物還元率を有する窒素酸化物還元触媒となる。
【0022】
固体酸量は高い方が好ましいが、その上限は1.60mmol/g以下、更には1.40mmol/g以下、また更には1.20mmol/g以下、また更には1.10mmol/g以下を挙げることができる。
【0023】
ここで、「固体酸」とは、シリコアルミノリン酸塩の触媒活性を評価する指標となるものである。
【0024】
固体酸は、アンモニアTPD法により確認及び定量することができる。
【0025】
アンモニアTPD法としては、以下の3つの工程を有する方法を例示することができる。
【0026】
1)シリコアルミノリン酸塩に吸着したガスや水分等を除去する前処理工程
2)アンモニアをシリコアルミノリン酸塩に吸着させるアンモニア吸着工程、及び
3)シリコアルミノリン酸塩に吸着されたアンモニアを、そこから脱離させるアンモニア脱離工程。
【0027】
上記1)から3)の工程で適用する条件、例えば、温度、ガス種、ガス流量など、により、アンモニアTPD法で定量される固体酸量は異なりやすい。本発明におけるアンモニアTPD法としては以下の方法を例示することができる。
【0028】
前処理工程として、試料0.1gに対し、60mL/分、500℃、1時間でヘリウムガスを流通する。次いで、アンモニア吸着工程として、試料へのアンモニア吸着が飽和になるまで、60mL/分、室温で10体積%アンモニアを含むヘリウムガスを試料に流通する。ヘリウムガスを60mL/分、100℃、1時間反応管に流通して雰囲気中のアンモニアを系外に排出した後、アンモニア脱離工程として、10℃/分の昇温速度で700℃まで昇温を行う。
【0029】
当該アンモニア脱離工程で得られるアンモニア脱離曲線において、300℃以上に頂点を有するアンモニア脱離ピーク(以下、「H−ピーク」とする。)の面積からアンモニア脱離量を求める。求まったアンモニア脱離量を、試料重量で割って得られる値をシリコアルミノリン酸塩の固体酸量(mmol/g)とする。なお、H−ピークが複数ある場合、これらのH−ピークの合計面積からアンモニア脱離量を求める。この際の試料重量は、試料に物理的に吸着した水分を含まない重量、すなわち、シリコアルミノリン酸塩に含まれるケイ素、リン、及びアルミニウムの酸化物重量の和である。このような重量として、例えば、試料を空気雰囲気下600℃で30分間熱処理した後の重量を用いることができる。
【0030】
また、100℃以上300℃未満の範囲に頂点を有するアンモニア脱離ピーク(以下、「L−ピーク」とする。)とH−ピークとの間に極小値が存在する場合、その極小値に対応する温度以上でアンモニア脱離曲線が占める面積をH−ピークの面積とする。一方、LピークとH−ピークとの間に極小値が存在しない場合、300℃以上でアンモニア脱離曲線が占める面積をH−ピークの面積とする。複数のアンモニア脱離ピークが存在する場合、最も高いL−ピークと最も低いH−ピーク間の極値をもって、L−ピークとH−ピークとの間の極小値とする。
【0031】
次に、本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩の製造方法について説明する。
【0032】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は、SAV構造のシリコアルミノリン酸塩と、銅含有アルコールとを混合する混合工程、を有することを特徴とする製造方法により製造することができる。
【0033】
混合工程では、SAV型シリコアルミノリン酸塩と、銅含有アルコールとを混合する。これにより、高い固体酸量を有し、なおかつ、銅を含有するSAV構造のシリコアルミノリン酸塩(銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩)を得ることができる。
【0034】
混合工程においては、SAV型シリコアルミノリン酸塩であれば、任意のシリコアルミノリン酸塩を使用することができる。混合工程で使用するSAV型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量が多いほど、得られる銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量が多くなる。そのため、混合工程で使用するSAV型シリコアルミノリン酸塩は、その固体酸量が0.90mmol/g以上であることが好ましく、1.3mmol/g以上であることがより好ましく、1.5mmol/g以上であることが更に好ましい。
【0035】
混合工程に用いるSAV型シリコアルミノリン酸塩は、例えば、以下のモル組成比を有する反応混合物を結晶化して製造することが挙げられる。
【0036】
P
2O
5/Al
2O
3 0.5以上、1.5以下
SiO
2/Al
2O
3 0.2以上、1.0以下
H
2O/Al
2O
3 5以上、100以下
有機構造指向剤/Al
2O
3 0.5以上、5以下
【0037】
有機構造指向剤として、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、1,4,7,10,13,16−ヘキサメチル−1,4,7,10,13,16−ヘキサアザシクロオクタデカン及びテトラメチル−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカンの群から選ばれる少なくとも1種、及び、これらと水酸化テトラエチルアンモニウムとの混合物を挙げることができる。
【0038】
結晶化の条件として、上記の反応混合物を、結晶化温度100℃以上、250℃以下、結晶化時間5時間以上、240時間以下として密閉耐圧容器中で保持することを挙げることができる。
【0039】
また、不純物や有機構造指向剤の除去のため、結晶化後のSAV型シリコアルミノリン酸塩は、適宜、洗浄、焼成してもよい。
【0040】
混合工程における銅含有アルコールは、銅塩が溶解したアルコールであることが好ましい。アルコールを用いてSAV型シリコアルミノリン酸塩に銅を含有させることで、得られる銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量が高くなりやすい。
【0041】
アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、メタノール又はエタノールのいずれか1種以上であることがより好ましく、エタノールであることが更に好ましく、実質的にエタノールのみであることが更により好ましい。
【0042】
アルコールは、その濃度が99%以上、更には99.5%以上であることが好ましい。アルコール濃度が低いと不純物、特に水分を含みやすい。水分を含むアルコールを使用すると、得られる銅含有SAV型ゼオライトの固体酸量が低下する傾向にある。
【0043】
銅含有アルコールの水分はできるだけ少ないことが好ましいが、銅塩が含有する水和物に由来する水分等、不可避的な水分を含む場合がある。したがって、銅含有アルコールの水分は5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。アルコール濃度99%以上のアルコールとして、ゼオライト等の脱水剤を用いて処理したアルコールや、無水アルコールを例示することができる。このうち、脱水剤で処理したアルコールは工業的に使用しやすい。
【0044】
銅塩は、アルコールに溶解する銅塩であれば任意のものを使用できる。銅塩は、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅又は酢酸銅などの銅の無機酸塩を例示することができる。
【0045】
銅含有アルコールの銅濃度は、目的とする銅含有SAV型シリコアルミノリン酸の銅含有量に合わせ、適宜、設定することができる。銅含有アルコールの銅濃度として、例えば、混合に使用する銅含有アルコールが含有する銅の総量が、目的とする銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩の銅含有量となるような銅濃度を挙げることができる。
【0046】
混合工程において、混合に用いる銅含有アルコールの量は任意である。銅含有アルコールの量として、混合に用いるSAV型シリコアルミノリン酸塩の重量に対して10重量%以上、100%重量以下、更には20重量%以上、50重量%を例示することができる。なお、混合に用いるSAV型シリコアルミノリン酸塩の重量は、これに含まれるケイ素、リン及びアルミニウムの酸化物重量の和であり、水分の重量は含まない。
【0047】
本発明の製造方法では、このように混合工程において銅含有アルコールを用いてSAV型シリコアルミノリン酸塩に銅を含有させる。この方法により、高い固体酸量を有したまま銅が含有される理由のひとつとして、以下のことが考えられる。
【0048】
すなわち、一般的な銅の含有は、水溶液を用いて行われる。水溶液を用いる含有方法では、水とシリコアルミノリン酸塩との間で何らかの副反応が生じ、これによりシリコアルミノリン酸塩の結晶性が低下する。そのため、混合工程においてシリコアルミノ酸塩の固体酸量が低下する。これに対し、アルコールはこのような副反応が生じないため、混合工程においても固体酸量の低下がないと考えられる。
【0049】
本発明の製造方法では、焼成工程を有することが好ましい。SAV型シリコアルミノリン酸塩は8員環構造であり、10員環構造よりもその細孔径が小さい。混合工程の後に、銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩を焼成することにより、SAV型シリコアルミノリン酸塩の細孔内への銅の移動と拡散がより促進され、なおかつ、銅がより安定した状態でSAV型シリコアルミノリン酸塩に含有される。これに加え、銅塩の不要成分等が除去され、銅をより安定化することができる。
【0050】
焼成工程における焼成温度は500℃以上、好ましくは550℃以上、更に好ましくは600℃以上、更により好ましくは700℃以上を挙げることができる。500℃以上で焼成することで、銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩において銅がより一層拡散し、安定化する。一方、焼成温度が高すぎると、銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩の結晶性が低下する傾向がある。そのため、焼成温度は900℃未満であることが好ましい。
【0051】
焼成時間は30分以上、10時間以下を挙げることができる。これにより銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩中において、銅が拡散しやすくなり、なおかつ、安定になりやすい。銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩の結晶性を低下させず、なおかつ、銅を均一に拡散させるため、焼成時間は1時間以上、5時間以下であることが好ましく、1時間以上、3時間以下であることがより好ましい。
【0052】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物を含有する気体と接触させることで、これを窒素酸化物還元触媒とすることができ、また、これを用いた窒素酸化物の還元方法とすることができる。
【0053】
さらに、本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物を含有する気体、及び還元剤と接触させることによって、これを窒素酸化物を選択的に還元する選択的窒素酸化物還元触媒、いわゆるSCR触媒として使用することができ、また、これを用いた窒素酸化物の選択的還元方法とすることができる。
【0054】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩をこれらの触媒として使用するときは、これをそのままの状態、バインダー等を用いて成形した状態、又はハニカム等の担体にコーティングされた状態で使用することができる。
【0055】
窒素酸化物として、例えば、一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、及び一酸化二窒素の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、更には一酸化窒素、二酸化窒素及び一酸化二窒素の群から選ばれる少なくとも1種、また更には一酸化窒素又は二酸化窒素のいずれか1種以上を挙げることができる。
【0056】
これらの窒素酸化物を含有する気体(以下、「窒素酸化物含有ガス」とする。)としては、例えば、ディーゼル自動車、ガソリン自動車、ボイラー又はガスタービン等の排気ガスを挙げることができる。なお、窒素酸化物含有ガスには窒素酸化物以外の成分が含まれていてもよい。窒素酸化物以外に含まれる成分として、例えば、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、酸素、硫黄酸化物及び水の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0057】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩を使用した窒素酸化物還元方法において、本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩と窒素酸化物含有ガスとは、任意の空間速度で接触させればよい。接触の空間速度として、体積基準で500〜50万hr
−1、更には2,000〜30万hr
−1を例示することができる。
【0058】
本発明の銅含有SAV型シリコアルミノリン酸塩をSCR触媒として使用する場合、その還元剤としては、アンモニア、尿素、及び有機アミン類の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0059】
窒素酸化物の還元の際に還元剤を混合する方法は任意であるが、例えば、還元剤を気体として混合する方法、水溶液を気化させ混合する方法や、還元剤を噴霧熱分解させ混合させる方法などを挙げることができる。