特許第6070230号(P6070230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070230AFX型シリコアルミノリン酸塩及びその製造方法、並びにこれを用いた窒素酸化物還元方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070230
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】AFX型シリコアルミノリン酸塩及びその製造方法、並びにこれを用いた窒素酸化物還元方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/54 20060101AFI20170123BHJP
   B01J 29/85 20060101ALI20170123BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20170123BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20170123BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170123BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C01B39/54ZAB
   B01J29/85 A
   B01J37/04 102
   B01J37/08
   B01D53/94 222
   F01N3/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-18076(P2013-18076)
(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公開番号】特開2014-148441(P2014-148441A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】楢木 祐介
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/084930(WO,A1)
【文献】 特開2012−106909(JP,A)
【文献】 特開2012−091997(JP,A)
【文献】 特表2012−523958(JP,A)
【文献】 特開2012−196663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 39/54
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AFX構造のシリコアルミノリン酸塩と、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールの群から選ばれる少なくとも1種の銅含有アルコールとを混合する混合工程、を有することを特徴とする固体酸量が0.90mmol/g以上であり、銅を含有するAFX構造のシリコアルミノリン酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、アルコールがエタノールであることを特徴とする請求項に記載のシリコアルミノリン酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程の後に、焼成工程を有することを特徴とする請求項又はに記載のシリコアルミノリン酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程において、焼成温度を500℃以上とすることを特徴とする請求項に記載のシリコアルミノリン酸塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法で得られたシリコアルミノリン酸塩を使用することを特徴とする窒素酸化物還元触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法で得られたシリコアルミノリン酸塩を使用することを特徴とする窒素酸化物の還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅を含有するAFX構造のシリコアルミノリン酸塩及びその製造方法に係る。より詳しくは、銅を含有し、かつ、高い固体酸量を有するAFX構造のシリコアルミノリン酸塩及びその製造方法、並びにこれを用いる窒素酸化物還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AFX構造は、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association:以下、「IZA」とする。)の構造コードに定められた構造である。この構造は8員環三次元細孔を有する構造であり、AFX構造に含まれる細孔の径は0.34nm×0.36nmである。AFX構造を有するシリコアルミノリン酸塩として、SAPO−56(非特許文献1、2)や、これにMn又はZrを含有させたものが報告されている(非特許文献1)。これらのSAPO−56は、メタノールからのオレフィン製造触媒や、アルカンの酸化触媒として使用できることが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Studies in Surface Science andCatalysis,2001年,135巻,248頁
【非特許文献2】Microporous and Mesoporous Materials,28(1999)125−137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1及び2に開示されたSAPO−56はオレフィン製造触媒等、非水系の雰囲気下で使用される触媒として使用されている。その一方で、AFX構造のシリコアルミノリン酸塩は、シリコアルミノリン酸塩の中でも耐水性が特に低く、水性溶媒中や含水分雰囲気下で使用すると容易にその結晶構造が崩壊する。非特許文献1に開示されたSAPO−56も同様に耐水性が低く、これを含水分環境下で使用する触媒等として適用することができなかった。
【0005】
本発明は、これらの課題を解決し、含水分環境下で使用可能な触媒、更には窒素酸化物還元触媒として高い触媒活性を示すAFX構造のシリコアルミノリン酸塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者は鋭意検討した。その結果、銅を含有するAFX構造のシリコアルミノリン酸塩が窒素酸化物還元触媒として使用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
以下、本発明の銅を含有するAFX構造のシリコアルミノリン酸塩(以下、「銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩」とする。)について説明する。
【0008】
シリコアルミノリン酸塩とは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、リン(P)及び酸素(O)を、その骨格の主成分とするゼオライト類縁物質である。
【0009】
シリコアルミノリン酸塩の組成は、一般的に、以下の(1)式で表すことができる。
【0010】
(SiAl)O (1)
(但し、x+y+z=1)
【0011】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、AFX構造のシリコアルミノリン酸塩(以下、「AFX型シリコアルミノリン酸塩」とする。)である。AFX構造は、IZAのStructure Commissionが定めているIUPAC構造コードで表記した場合に、AFX型となる構造である。
【0012】
AFX構造は、「ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES」(2007年、40頁、エルゼビア社)などで確認することができる。当該構造は、8員環三次元細孔を有しており、その細孔直径は0.34nm×0.36nmである。
【0013】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、AFX構造を有する結晶性シリコアルミノリン酸塩である。そのため、粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)測定において、以下の表1に示すXRDパターンをもって、その結晶構造を同定することができる。
【0014】
【表1】
【0015】
AFX型シリコアルミノリン酸塩としてはSAPO−56が例示できる。
【0016】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は銅(Cu)を含有する。銅を含有することでこれを窒素酸化物還元触媒等として使用した場合に、高い窒素酸化物還元率を有する触媒となる。本発明において銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩が含有する銅は、その金属のみならず、イオン、塩の形の銅を含むものである。
【0017】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、銅の含有量が0.5重量%以上であることが好ましく、0.8重量%以上であることがより好ましく、1.2重量%以上であることが更に好ましい。銅の含有量が0.5重量%以上であることで、窒素酸化物還元率がより高くなりやすい。一方、銅の含有量が多くなりすぎると、銅とシリコアルミノリン酸塩と反応などの副反応が生じるおそれがある。そのため、銅の含有量は5重量%以下、更には2重量%以下、また更には1.8重量%以下であることを挙げることができる。
【0018】
ここで、本発明において、銅の含有量(重量%)は、銅含有シリコアルミノリン酸塩の乾燥重量に対する銅の重量である。また、乾燥重量とは、銅含有シリコアルミノリン酸塩に含まれるケイ素、リン、アルミニウム及び銅の酸化物重量の和である。乾燥重量は、例えば、空気雰囲気中、600℃で30分間焼成した後の銅含有シリコアルミノリン酸塩の重量を測定することで求めることができる。
【0019】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩が含有する銅は、AFX型シリコアルミノリン酸塩の構造や細孔において、均一に分散していることが好ましい。これにより、本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩がより高い窒素酸化物還元率を示しやすくなる。均一な銅の分散状態として、AFX型シリコアルミノリン酸塩の細孔内部、及びAFX型シリコアルミノリン酸塩の表面に銅が分布していることが例示できる。
【0020】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、固体酸量が0.90mmol/g以上であり、0.95mmol/g以上であることが好ましく、1.00mmol/g以上であることが更に好ましい。固体酸量が0.90mmol/g未満では、固体酸の量が少なくなりすぎる。固体酸量が0.90mmol/g以上であることで、本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩が、高い窒素酸化物還元率を有する窒素酸化物還元触媒となる。
【0021】
固体酸量は高い方が好ましいが、その上限は1.60mmol/g以下、更には1.40mmol/g以下、また更には1.35mmol/g以下、また更には1.30mmol/g以下、また更には1.20mmol/g以下、また更には1.10mmol/g以下を挙げることができる。
【0022】
ここで、「固体酸」とは、シリコアルミノリン酸塩の触媒活性を評価する指標となるものである。
【0023】
固体酸は、アンモニアTPD法により確認及び定量することができる。
【0024】
アンモニアTPD法としては、以下の3つの工程を有する方法を例示することができる。
【0025】
1)シリコアルミノリン酸塩に吸着したガスや水分等を除去する前処理工程
2)アンモニアをシリコアルミノリン酸塩に吸着させるアンモニア吸着工程、及び
3)シリコアルミノリン酸塩に吸着されたアンモニアを、そこから脱離させるアンモニア脱離工程。
【0026】
上記1)から3)の工程で適用する条件、例えば、温度、ガス種、ガス流量など、により、アンモニアTPD法で定量される固体酸量は異なりやすい。本発明におけるアンモニアTPD法としては以下の方法を例示することができる。
【0027】
前処理工程として、試料0.1gに対し、60mL/分、500℃、1時間でヘリウムガスを流通する。次いで、アンモニア吸着工程として、試料へのアンモニア吸着が飽和になるまで、60mL/分、室温で10体積%アンモニアを含むヘリウムガスを試料に流通する。ヘリウムガスを60mL/分、100℃、1時間反応管に流通して雰囲気中のアンモニアを系外に排出した後、アンモニア脱離工程として、10℃/分の昇温速度で700℃まで昇温を行う。
【0028】
当該アンモニア脱離工程で得られるアンモニア脱離曲線において、300℃以上に頂点を有するアンモニア脱離ピーク(以下、「H−ピーク」とする。)の面積からアンモニア脱離量を求める。求まったアンモニア脱離量を、試料重量で割って得られる値をシリコアルミノリン酸塩の固体酸量(mmol/g)とする。なお、H−ピークが複数ある場合、これらのH−ピークの合計面積からアンモニア脱離量を求める。この際の試料重量は、試料に物理的に吸着した水分を含まない重量、すなわち、シリコアルミノリン酸塩に含まれるケイ素、リン、及びアルミニウムの酸化物重量の和である。このような重量として、例えば、試料を空気雰囲気下600℃で30分間熱処理した後の重量を用いることができる。
【0029】
また、100℃以上300℃未満の範囲に頂点を有するアンモニア脱離ピーク(以下、「L−ピーク」とする。)とH−ピークとの間に極小値が存在する場合、その極小値に対応する温度以上でアンモニア脱離曲線が占める面積をH−ピークの面積とする。一方、LピークとH−ピークとの間に極小値が存在しない場合、300℃以上でアンモニア脱離曲線が占める面積をH−ピークの面積とする。複数のアンモニア脱離ピークが存在する場合、最も高いL−ピークと最も低いH−ピーク間の極値をもって、L−ピークとH−ピークとの間の極小値とする。
【0030】
次に、本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、AFX構造のシリコアルミノリン酸塩と、銅含有アルコールとを混合する混合工程、を有することを特徴とする製造方法により製造することができる。
【0032】
混合工程では、AFX型シリコアルミノリン酸塩と、銅含有アルコールとを混合する。これにより、高い固体酸量を有し、なおかつ、銅を含有するAFX構造のシリコアルミノリン酸塩(銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩)を得ることができる。
【0033】
混合工程においては、AFX型シリコアルミノリン酸塩であれば、任意のシリコアルミノリン酸塩を使用することができる。混合工程で使用するAFX型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量が多いほど、得られる銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量が多くなる。そのため、混合工程で使用するAFX型シリコアルミノリン酸塩は、その固体酸量が0.90mmol/g以上であることが好ましく、1.3mmol/g以上であることがより好ましく、1.5mmol/g以上であることが更に好ましい。
【0034】
混合工程に用いるAFX型シリコアルミノリン酸塩は、例えば、以下のモル組成比を有する反応混合物を結晶化して製造することが挙げられる。
【0035】
/Al 0.5以上、1.5以下
SiO/Al 0.2以上、1.0以下
O/Al 5以上、100以下
有機構造指向剤/Al 0.5以上、5以下
【0036】
有機構造指向剤として、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン(以下、「TMHD」とする。)を挙げることができる。
【0037】
結晶化の条件として、上記の反応混合物を、結晶化温度100℃以上、250℃以下、結晶化時間5時間以上、240時間以下として密閉耐圧容器中で保持することを挙げることができる。
【0038】
また、不純物や有機構造指向剤の除去のため、結晶化後のAFX型シリコアルミノリン酸塩は、適宜、洗浄、焼成してもよい。
【0039】
混合工程における銅含有アルコールは、銅塩が溶解したアルコールであることが好ましい。アルコールを用いてAFX型シリコアルミノリン酸塩に銅を含有させることで、得られる銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量が高くなりやすい。
【0040】
アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、メタノール又はエタノールのいずれか1種以上であることがより好ましく、エタノールであることが更に好ましく、実質的にエタノールのみであることが更により好ましい。
【0041】
アルコールは、その濃度が99%以上、更には99.5%以上であることが好ましい。アルコール濃度が低いと不純物、特に水分を含みやすい。水分を含むアルコールを使用すると、得られる銅含有AFX型ゼオライトの固体酸量が低下する傾向にある。
【0042】
銅含有アルコールの水分はできるだけ少ないことが好ましいが、銅塩が含有する水和物に由来する水分等、不可避的な水分を含む場合がある。したがって、銅含有アルコールの水分は5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。アルコール濃度99%以上のアルコールとして、ゼオライト等の脱水剤を用いて処理したアルコールや、無水アルコールを例示することができる。このうち、脱水剤で処理したアルコールは工業的に使用しやすい。
【0043】
銅塩は、アルコールに溶解する銅塩であれば任意のものを使用できる。銅塩は、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅又は酢酸銅などの銅の無機酸塩を例示することができる。
【0044】
銅含有アルコールの銅濃度は、目的とする銅含有AFX型シリコアルミノリン酸の銅含有量に合わせ、適宜、設定することができる。銅含有アルコールの銅濃度として、例えば、混合に使用する銅含有アルコールが含有する銅の総量が、目的とする銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩の銅含有量となるような銅濃度を挙げることができる。
【0045】
混合工程において、混合に用いる銅含有アルコールの量は任意である。銅含有アルコールの量として、混合に用いるAFX型シリコアルミノリン酸塩の重量に対して10重量%以上、100%重量以下、更には20重量%以上、50重量%を例示することができる。なお、混合に用いるAFX型シリコアルミノリン酸塩の重量は、これに含まれるケイ素、リン及びアルミニウムの酸化物重量の和であり、水分の重量は含まない。
【0046】
本発明の製造方法では、このように混合工程において銅含有アルコールを用いてAFX型シリコアルミノリン酸塩に銅を含有させる。この方法により、高い固体酸量を有したまま銅が含有される理由のひとつとして、以下のことが考えられる。
【0047】
すなわち、一般的な銅の含有は、水溶液を用いて行われる。水溶液を用いる含有方法では、水とシリコアルミノリン酸塩との間で何らかの副反応が生じ、これによりシリコアルミノリン酸塩の結晶性が低下する。そのため、混合工程においてシリコアルミノリン酸塩の固体酸量が低下する。これに対し、アルコールはこのような副反応が生じないため、混合工程においても固体酸量の低下がないと考えられる。
【0048】
本発明の製造方法では、焼成工程を有することが好ましい。AFX型シリコアルミノリン酸塩は8員環構造であり、10員環構造よりもその細孔径が小さい。混合工程の後に、銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩を焼成することにより、AFX型シリコアルミノリン酸塩の細孔内への銅の移動と拡散がより促進され、なおかつ、銅がより安定した状態でAFX型シリコアルミノリン酸塩に含有される。これに加え、銅塩の不要成分等が除去され、銅をより安定化することができる。
【0049】
焼成工程における焼成温度は500℃以上、好ましくは550℃以上、更に好ましくは600℃以上、更により好ましくは700℃以上を挙げることができる。500℃以上で焼成することで、銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩において銅がより一層拡散し、安定化する。一方、焼成温度が高すぎると、銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩の結晶性が低下する傾向がある。そのため、焼成温度は900℃未満であることが好ましい。
【0050】
焼成時間は30分以上、10時間以下を挙げることができる。これにより銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩中において、銅が拡散しやすくなり、なおかつ、安定になりやすい。銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩の結晶性を低下させず、なおかつ、銅を均一に拡散させるため、焼成時間は1時間以上、5時間以下であることが好ましく、1時間以上、3時間以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物を含有する気体と接触させることで、これを窒素酸化物還元触媒とすることができ、また、これを用いた窒素酸化物の還元方法とすることができる。
【0052】
さらに、本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物を含有する気体、及び還元剤と接触させることによって、これを窒素酸化物を選択的に還元する選択的窒素酸化物還元触媒、いわゆるSCR触媒として使用することができ、また、これを用いた窒素酸化物の選択的還元方法とすることができる。
【0053】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩をこれらの触媒として使用するときは、これをそのままの状態、バインダー等を用いて成形した状態、又はハニカム等の担体にコーティングされた状態で使用することができる。
【0054】
窒素酸化物として、例えば、一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、及び一酸化二窒素の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、更には一酸化窒素、二酸化窒素及び一酸化二窒素の群から選ばれる少なくとも1種、また更には一酸化窒素又は二酸化窒素のいずれか1種以上を挙げることができる。
【0055】
これらの窒素酸化物を含有する気体(以下、「窒素酸化物含有ガス」とする。)としては、例えば、ディーゼル自動車、ガソリン自動車、ボイラー又はガスタービン等の排気ガスを挙げることができる。なお、窒素酸化物含有ガスには窒素酸化物以外の成分が含まれていてもよい。窒素酸化物以外に含まれる成分として、例えば、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、酸素、硫黄酸化物及び水の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0056】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩を使用した窒素酸化物還元方法において、本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩と窒素酸化物含有ガスとは、任意の空間速度で接触させればよい。接触の空間速度として、体積基準で500〜50万hr−1、更には2,000〜30万hr−1を例示することができる。
【0057】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩をSCR触媒として使用する場合、その還元剤としては、アンモニア、尿素、及び有機アミン類の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0058】
窒素酸化物の還元の際に還元剤を混合する方法は任意であるが、例えば、還元剤を気体として混合する方法、水溶液を気化させ混合する方法や、還元剤を噴霧熱分解させ混合させる方法などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0059】
本発明は、含水分環境下で使用される触媒、更には窒素酸化物還元触媒として高い触媒活性を示すAFX構造のシリコアルミノリン酸塩を提供することができる。さらには、本発明は、窒素酸化物還元触媒に適した、銅を含有し、かつ高い固体酸量を有するAFX構造のシリコアルミノリン酸塩を提供するができる。
【0060】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩により、150℃の低温から、500℃の高温にわたる広い温度域において、高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒を提供することができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではない。
【0062】
(粉末X線回折測定)
一般的なX線回折装置(商品名:MXP−3、マックサイエンス社製)を使用し、試料の粉末X線回折測定をした。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして4°から44°の範囲で測定した。
【0063】
得られたXRDパターンと、表1の粉末X線回折パターンとを比較することで、試料を同定した。
【0064】
(組成の分析、銅含有量の測定)
組成分析は誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)により行った。すなわち、試料をフッ酸と硝酸の混合溶液に溶解させ、測定溶液を調製した。一般的な誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA3000DV、PERKIN ELMER製)を用いて、得られた測定溶液を測定することで、試料の組成を分析し、また銅含有量を測定した。
【0065】
(アンモニアTPD法による固体酸量の測定)
試料0.1gを固定床常圧流通式反応管に充填した。充填した試料に対し60mL/分のヘリウム流通下で500℃、1時間の前処理を行った。その後、10体積%アンモニアを含有するヘリウムガスを、室温、60mL/分で流通することで、試料にアンモニアを飽和吸着させた。飽和吸着後、100℃、1時間、60mL/分でヘリウムを試料に流通させることで、アンモニア脱気を行った。アンモニア脱気後、10℃/分の昇温速度で700℃まで昇温を行い、試料から脱離されたアンモニアを熱伝導度検出器により検出した。アンモニアの脱離曲線における、300℃以上に頂点を有する脱離ピークに相当するアンモニア脱離量を、空気雰囲気下600℃で30分間熱処理した後の試料の重量で除した値(単位:mmol/g)を固体酸量とした。
【0066】
(窒素酸化物の還元試験)
試料をプレス成形後、破砕して12メッシュ〜20メッシュに整粒した。整粒した試料粉末1.5mLを常圧固定床流通式反応管に充填し、これを触媒層とした。当該触媒層に以下の成分を含む窒素ガスを1500mL/分で流通させながら、150℃、200℃、300℃、400℃及び500℃のいずれかの温度における定常的な窒素酸化物の還元試験を行った。
【0067】
NO :200ppm
NH :200ppm
:10体積%
O : 3体積%
:残部
【0068】
得られた試験結果を用いて、以下の式から試料の窒素酸化物還元率を求めた。
【0069】
NOx={([NOx]in−[NOx]out)/[NOx]in}×100
【0070】
ここで、XNOxは窒素酸化物の還元率(%)、[NOx]inは入りガスの窒素酸化物濃度、[NOx]outは触媒層通過後の出ガスの窒素酸化物濃度を示す。
【0071】
合成例1
水101.5g、85%リン酸水溶液(試薬特級、キシダ化学製)46.5g、30%コロイダルシリカ(日産化学製)8.4g、TMHD(東京化成工業)74.4g、77%擬ベーマイト(Pural SB、サソール製)19.1gを混合し、次のモル組成の反応混合物を得た。
【0072】
/Al=1.4
SiO/Al=0.3
O/Al=50
TMHD/Al=3.0
【0073】
この反応混合物を200mLのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、回転下、200℃で69時間保持して結晶化させた。
【0074】
結晶化後の生成物をろ過、水洗後、110℃で一晩乾燥して生成物を乾燥した。乾燥後の生成物は、結晶構造がAFX構造であり、以下の組成を有していた。
【0075】
(Si0.09Al0.500.41)O
【0076】
これにより、生成物はAFX型シリコアルミノリン酸塩であることが確認できた。
【0077】
得られたAFX型シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成し合成例1のAFX型シリコアルミノリン酸塩とした。当該AFX型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量は1.08mmol/gであった。
【0078】
合成例2
水112.6g、85%リン酸水溶液34.4g、30%コロイダルシリカ5.8g、TMHD77.2g、及び77%擬ベーマイト19.9gを混合し、以下のモル組成の反応混合物を調製した。
【0079】
/Al=1.0
SiO/Al=0.2
O/Al=50
TMHD/Al=3.0
【0080】
この反応混合物を200mLのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、回転下、200℃で71時間保持して結晶化させた。
【0081】
結晶化後の生成物をろ過、水洗後、110℃で一晩乾燥して生成物を乾燥した。乾燥後の生成物は、結晶構造がAFX構造であり、以下の組成を有していた。
【0082】
(Si0.11Al0.500.39)O
【0083】
これにより、生成物はAFX型シリコアルミノリン酸塩であることが確認できた。
【0084】
得られたAFX型シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成し合成例4のAFX型シリコアルミノリン酸塩とした。当該AFX型シリコアルミノリン酸塩の固体酸量は1.30mmol/gであった。
【0085】
実施例1
エタノール(試薬一級、日本アルコール産業株式会社製)を3Aゼオライト成形体(ゼオラムA−3、東ソー株式会社製)と一晩接触させ、これを脱水処理した。脱水処理後のエタノール3.6gに硝酸銅3水和物(試薬特級、キシダ化学製)0.65gを溶解させ、硝酸銅含有脱水エタノールを得た。
【0086】
合成例1のAFX型シリコアルミノリン酸塩10gと、硝酸銅含有脱水エタノールとを乳鉢で5分間混合して混合物を得、これを110℃で30分乾燥させた。乾燥後の混合物を空気雰囲気中、800℃で1時間焼成することで本実施例の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩を得た。
【0087】
当該銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、結晶構造がAFX構造、銅含有量が1.6重量%、固体酸量は0.98mmol/gであった。
【0088】
実施例2
実施例1と同様な方法で、エタノールを脱水処理した。脱水処理後のエタノール3.6gに硝酸銅3水和物0.62gを溶解させ、硝酸銅含有脱水エタノールを得た。
【0089】
合成例2のAFX型シリコアルミノリン酸塩10gと、当該硝酸銅含有脱水エタノールとを実施例1と同様な方法で混合、乾燥、及び焼成することで、本実施例の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩を得た。
【0090】
当該銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、結晶構造がAFX構造、及び銅含有量が1.4重量%、及び固体酸量が1.17mmol/gであった。
【0091】
比較例1
硝酸銅含有脱水エタノールの代わりに、純水3.6gに、硝酸銅3水和物0.65gを溶解させた硝酸銅水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、本比較例の銅含有シリコアルミノリン酸塩を得た。
【0092】
当該銅含有シリコアルミノリン酸塩は、結晶性が著しく低下して非晶質となっており、AFX構造を有していなかった。また、当該銅含有シリコアルミノリン酸塩は、銅含有量が1.6重量%、固体酸量が0.07mmol/gであった。
【0093】
比較例2
硝酸銅含有脱水エタノールの代わりに、純水3.6gに、硝酸銅3水和物0.65gを溶解させた硝酸銅水溶液を使用したこと以外は実施例2と同様な方法で、本比較例の銅含有シリコアルミノリン酸塩を得た。
【0094】
当該銅含有シリコアルミノリン酸塩は、結晶性が著しく低下して非晶質となっており、AFX構造を有していなかった。また、当該銅含有シリコアルミノリン酸塩は、銅含有量が1.6重量%、固体酸量が0.07mmol/gであった。
【0095】
測定例(窒素酸化物の還元試験)
実施例1、2及び比較例1で得られた銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩について窒素酸化物の還元試験を行った。
【0096】
なお、試験は、合成後の試料、すなわち銅含有後に空気雰囲気中、800℃で1時間焼成した状態(以下、「耐久処理前」とする。)の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩、及び、以下の条件による耐久処理を施した状態(以下、「耐久処理後」とする。)の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩について行った。
【0097】
耐久処理前後の試料の窒素酸化物還元率を表2に示す。
【0098】
(耐久処理)
耐久処理前の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩をプレス成形後、12メッシュ〜20メッシュに整粒した。整粒後の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩3mLを常圧固定床流通式反応管に充填し、これに10体積%のHOを含む空気を300mL/分で流通させて耐久処理とした。空気の流通は900℃で1時間行った。
【0099】
【表2】
【0100】
表2から、実施例で得られた試料は、耐久処理前後のいずれの状態においても、150℃から500℃の温度にかけて高い窒素酸化物還元率を示した。特に150℃から500℃の全ての領域で、耐久処理後の窒素酸化物還元率が耐久処理前の窒素酸化物還元率を上回っていた。これより、耐久処理によりAFX型シリコアルミノリン酸塩における金属の分散安定化が一層促進されたことが示唆された。また、150℃では40%以上、200℃では60%以上と、比較的低温の領域においても高い窒素酸化物還元率を示すことが分かった。
【0101】
一方、比較例1で得られた試料は耐久処理前後のいずれにおいても実施例で得られた試料よりも低い窒素酸化物還元率であった。特に、200℃以下の低温では、耐久処理前においても窒素酸化物還元率が6%以下であり、ほとんど窒素酸化物の還元ができないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の銅含有AFX型シリコアルミノリン酸塩は、触媒、特に窒素酸化物還元触媒や、SCR触媒として使用することができる。