特許第6070455号(P6070455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070455皺伸ばしロールと皺伸ばし方法および表面処理装置と表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070455
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】皺伸ばしロールと皺伸ばし方法および表面処理装置と表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20170123BHJP
   H05K 3/00 20060101ALN20170123BHJP
【FI】
   C23C14/56 B
   !H05K3/00 R
【請求項の数】19
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-150159(P2013-150159)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-21163(P2015-21163A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
(72)【発明者】
【氏名】西村 英一郎
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−117130(JP,A)
【文献】 特開平06−297604(JP,A)
【文献】 特開2003−040503(JP,A)
【文献】 特開2005−247475(JP,A)
【文献】 特開2002−086207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール本体の外周面を被覆するゴム製被膜と、ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と上記ロール本体の回転方向が同一となるように上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体とで構成される幅広げ機構を備え、上記ゴム製被膜の外周面に接触しながら真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し上記幅広げ機構により上記長尺樹脂フィルムの幅方向へ向けて張力を付与する皺伸ばしロールにおいて、
上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の上記周期的溝体が、上記外周線を中央に有する中央領域と該中央領域の上記軸方向両側に位置する両側領域とに区画され、上記中央領域は上記外周線を中央にして左側に位置する左側領域と右側に位置する右側領域とで構成されると共に、上記中央領域の上記左側領域と上記右側領域に形成される上記周期的溝体が、上記中央領域内において上記周期的溝体の各溝が互いに交差することなく、上記左側領域から上記外周線を越えて上記右側領域まで延長され、かつ、上記右側領域から上記外周線を越えて上記左側領域まで延長されて、上記中央領域内に上記外周線を基端側とする上記V字形状先端が形成されないようにしたことを特徴とする皺伸ばしロール。
【請求項2】
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向後端左側角部と先端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成され、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向先端左側角部と後端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成されると共に、各矩形状単位領域における2つの上記三角形領域内に上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体と上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の皺伸ばしロール。
【請求項3】
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されると共に、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の皺伸ばしロール。
【請求項4】
上記中央領域の幅寸法が、上記周期的溝体における溝間のピッチ寸法以上、上記長尺樹脂フィルムにおける幅寸法の20%以下に設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の皺伸ばしロール。
【請求項5】
上記ロール本体の外周面を被覆する上記ゴム製被膜が、フッ素ゴムにより構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の皺伸ばしロール。
【請求項6】
ロール本体の外周面を被覆するゴム製被膜と、ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と上記ロール本体の回転方向が同一となるように上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体とで構成される幅広げ機構を備えた皺伸ばしロールを用い、真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに生じたフィルム皺を上記幅広げ機構により取り除く皺伸ばし方法において、
上記皺伸ばしロールにおける上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の上記周期的溝体が、上記外周線を中央に有する中央領域と該中央領域の上記軸方向両側に位置する両側領域とに区画され、上記中央領域は上記外周線を中央にして左側に位置する左側領域と右側に位置する右側領域とで構成されると共に、上記中央領域の上記左側領域と上記右側領域に形成される上記周期的溝体が、上記中央領域内において上記周期的溝体の各溝が互いに交差することなく、上記左側領域から上記外周線を越えて上記右側領域まで延長され、かつ、上記右側領域から上記外周線を越えて上記左側領域まで延長されて上記中央領域内に上記外周線を基端側とする上記V字形状先端が形成されないようにした上記皺伸ばしロールを用いることを特徴とする皺伸ばし方法。
【請求項7】
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向後端左側角部と先端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成され、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向先端左側角部と後端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成されると共に、各矩形状単位領域における2つの上記三角形領域内に上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体と上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体がそれぞれ形成されている上記皺伸ばしロールを用いることを特徴とする請求項6に記載の皺伸ばし方法。
【請求項8】
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されると共に、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されている上記皺伸ばしロールを用いることを特徴とする請求項6に記載の皺伸ばし方法。
【請求項9】
上記皺伸ばしロールにおける上記中央領域の幅寸法が、上記周期的溝体における溝間のピッチ寸法以上、上記長尺樹脂フィルムにおける幅寸法の20%以下に設定されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の皺伸ばし方法。
【請求項10】
上記皺伸ばしロール外周面に上記長尺樹脂フィルムが接している角度(抱き角)内に、上記皺伸ばしロールにおける一方の上記矩形状単位領域とこれに隣接する他方の上記矩形状単位領域を単位とする一組の上記矩形状単位領域が含まれるようにしたことを特徴とする請求項7または8に記載の皺伸ばし方法。
【請求項11】
上記ロール本体の外周面を被覆する上記ゴム製被膜が、フッ素ゴムにより構成されていることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の皺伸ばし方法。
【請求項12】
真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し、熱負荷が伴う表面処理を行なう表面処理手段を具備する表面処理装置において、
請求項1〜5のいずれかに記載された上記皺伸ばしロールを上記真空チャンバー内に有することを特徴とする表面処理装置。
【請求項13】
真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し、熱負荷が伴う表面処理を行なう表面処理手段を具備する表面処理装置において、
請求項2または3に記載された上記皺伸ばしロールを上記真空チャンバー内に有すると共に、上記皺伸ばしロールの外周面に上記長尺樹脂フィルムが接している角度(抱き角)内に、上記皺伸ばしロールにおける一方の上記矩形状単位領域とこれに隣接する他方の上記矩形状単位領域を単位とする一組の上記矩形状単位領域が含まれるようにしたことを特徴とする表面処理装置。
【請求項14】
上記表面処理手段により処理された上記長尺樹脂フィルムの搬送路下流側に上記皺伸ばしロールが設置されていることを特徴とする請求項12または13に記載の表面処理装置。
【請求項15】
熱負荷を伴う上記表面処理が、真空成膜法による処理であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の表面処理装置。
【請求項16】
上記真空成膜法がマグネトロンスパッタリングであることを特徴とする請求項15に記載の表面処理装置。
【請求項17】
真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し、熱負荷が伴う表面処理を行なう表面処理方法において、
上記表面処理によりフィルム皺が生じた上記長尺樹脂フィルムに対して請求項6〜11のいずれかに記載された上記皺伸ばし方法を施すことを特徴とする表面処理方法。
【請求項18】
熱負荷を伴う上記表面処理が真空成膜法による処理であることを特徴とする請求項17に記載の表面処理方法。
【請求項19】
上記真空成膜法がマグネトロンスパッタリングであることを特徴とする請求項18に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール・ツー・ロール方式により真空チャンバー内を搬送される長尺樹脂フィルムに生じたフィルム皺を取り除くための皺伸ばしロールと皺伸ばし方法に係り、特に、熱負荷を伴う乾燥処理、プラズマ処理やイオンビーム照射処理等の表面活性化処理、スパッタリング成膜処理等に起因して長尺樹脂フィルムに生じたフィルム皺を取り除くための皺伸ばしロールと皺伸ばし方法、および、上記皺伸ばしロールが組み込まれた表面処理装置と表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、樹脂フィルム上に金属膜を成膜して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられ、このフレキシブル配線基板には、長尺樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付長尺樹脂フィルムが用いられている。そして、配線パターンの繊細化、高密度化に伴い、金属膜付長尺樹脂フィルムにおいてはフィルム自体が平面であることが重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付長尺樹脂フィルムの製造方法として、接着剤により金属箔を長尺樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法と称される)、金属箔に樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法と称される)、乾式めっき法(真空成膜法)若しくは乾式めっき法(真空成膜法)と湿式めっき法との組み合わせにより長尺樹脂フィルムに金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法と称される)等が従来から知られている。また、メタライジング法における上記乾式めっき法(真空成膜法)には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
そして、上記メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングで形成した第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングで形成した第二の金属薄膜とが、この順でポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料(すなわち、銅張積層樹脂フィルム基板)が開示されている。尚、ポリイミドフィルムのような長尺樹脂フィルムに真空成膜を行って金属膜付長尺樹脂フィルムを製造する場合、以下に述べるスパッタリングウェブコーターを用いることが一般的である。
【0005】
ところで、スパッタリング法は、一般に、成膜された金属薄膜等の密着力に優れる利点を有する反面、真空蒸着法に比べて長尺樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に長尺樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、長尺樹脂フィルムにフィルム皺が発生し易くなることも知られている。
【0006】
そこで、フィルム皺の発生を防ぐため、以下に述べるスパッタリングウェブコーターにおいては、ロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムについて、冷却機能を有する冷却キャンロールに密着させながら巻き付けることで、成膜中の長尺樹脂フィルムを裏面側から冷却する方法が採用されている。
【0007】
しかし、上記スパッタリングウェブコーターを用いて金属膜付長尺樹脂フィルムを製造する場合、熱負荷を伴う処理に関してはスパッタリング等の成膜処理以外に、例えば、金属膜が成膜される前の長尺樹脂フィルム中に含まれる水分等を除去するヒーター乾燥処理、長尺樹脂フィルムと金属膜との密着力を向上させるために成膜処理前に行うプラズマ処理やイオンビーム照射処理等の表面活性化処理が存在し、上述した長尺樹脂フィルムを冷却キャンロールに巻き付けて冷却する方法だけでは、長尺樹脂フィルムのフィルム皺を十分に取り除くことは困難であった。
【0008】
以下、スパッタリングウェブコーターを用いて金属膜付長尺樹脂フィルムを製造する場合における熱負荷を伴う処理について、図面を用いて具体的に説明する。
【0009】
図1に示されたスパッタリングウェブコーターは、巻き出し室110、イオンビーム室134、成膜室111、および、巻き取り室112とで構成されている。
【0010】
まず、金属膜が成膜される長尺樹脂フィルム113は、巻き出し室110の巻き出しロール114から巻き出され、張力センサーロール115を通過し、乾燥用ヒーター117、118の入ったヒーターボックス116を通過してフリーロール119に至る。
【0011】
次に、フリーロール119を通過した長尺樹脂フィルム113はイオンビーム室134に搬入され、フリーロール135を通過した後、長尺樹脂フィルム113の裏面側を冷却ロール136で冷却しながらイオンビーム発生装置138からイオンビームが照射されてフリーロール137に至る。成膜する金属膜と長尺樹脂フィルム113との密着力を向上させるためには、上述したイオンビームを長尺樹脂フィルム113に照射して表面活性化処理を施すことが効果的である。但し、冷却することなくイオンビームを長尺樹脂フィルム113に照射した場合、熱負荷によりフィルム皺が発生する原因となるため、長尺樹脂フィルム113の裏面側を上記冷却ロール136で冷却しながらイオンビームの照射が行なわれている。
【0012】
次に、フリーロール137を通過した長尺樹脂フィルム113は成膜室111に搬入され、フリーロール120、張力センサーロール121を通過し、かつ、前フィードロール122、冷却キャンロール123、後フィードロール124を経由し、張力センサーロール125、フリーロール126を通過して巻き取り室112へ搬出される。尚、前フィードロール122を介し冷却キャンロール123の外周面に巻き付けられた長尺樹脂フィルム113は、上記冷却キャンロール123により裏面側から冷却されながら、長尺樹脂フィルム113の表面にマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133により金属膜が成膜される。
【0013】
次に、巻き取り室112に搬入された長尺樹脂フィルム113は、フリーロール127、張力センサーロール128を経由し、巻き取りロール129に巻き取られる。
【0014】
尚、上記スパッタリングウェブコーターにおいては、各張力センサーロール115、121、125、128の張力値により、巻き出しロール114、前フィードロール122、冷却キャンロール123、後フィードロール124等を回動させるモーターの回転数、モータートルク等が制御されて、長尺樹脂フィルム113に対する所定の張力範囲を維持して搬送するようになっている。また、図1においては、長尺樹脂フィルム113の搬送方向を変えるためのフリーロールの一部と真空排気設備の図示を省略している。
【0015】
ところで、長尺樹脂フィルム113中に含まれる水分等を除去する巻き出し室110でのヒーター乾燥処理、成膜する金属膜と長尺樹脂フィルム113との密着力を向上させるために成膜前に行うイオンビーム室134でのイオンビーム照射処理、および、長尺樹脂フィルム113に金属膜を成膜する成膜室111でのスパッタリング処理は、長尺樹脂フィルム113に大きな熱負荷を与えるため、上述したフィルム皺を発生させ易い。
【0016】
図1に示すスパッタリングウェブコーターを用いて具体的に説明すると、熱負荷を伴う各処理が行なわれる工程の下流側、すなわち、巻き出し室110内における乾燥工程出口のフリーロール119付近、イオンビーム室134内におけるイオンビーム照射工程出口のフリーロール137付近、および、成膜室111内におけるスパッタリング成膜工程出口の後フィードロール124付近でフィルム皺が発生し易い。熱負荷を伴う各処理が行なわれることにより長尺樹脂フィルムは熱膨張しようとするが、真空チャンバー内においては各ロールと長尺樹脂フィルム間に空気が介在しないことから、長尺樹脂フィルムはロールに密着し拘束されている。このため、伸びることができずフィルム皺が発生する。例えば、ポリイミドフィルム(長尺樹脂フィルム)の代表的な線熱膨張係数は12ppm/Kであり、1000mm幅当たり10℃の上昇で0.12mm伸びる計算となる。
【0017】
このような技術的背景の下、熱負荷を伴う処理により生じたフィルム皺を低減させるため、搬送ロールに工夫を施した方法が非特許文献1に多数紹介されている。例えば、ロールの中央部を細く設定したConcave Spreader Roller、ロールが弓なりに曲がるようにしたBowed Roller、回転中にロールの接触面が広がるExpander Spreader Roller、フィルム両端を引っ張るNipped Roller、および、ゴム製ロールに深さ方向斜めに向かう斜め溝を形成したCompliant Cover Spreader等が紹介されている。
【0018】
更に、フィルム皺を低減させるため、冷却キャンロールに工夫を施した方法が特許文献3に紹介されている。すなわち、この冷却キャンロールは、キャンロール表面における軸方向の略中央に位置する中心点を結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行な複数の周期的な溝構造であって、この溝のV字形状先端が向かう方向とキャンロールの回転方向が同一に設定されているものである。このような周期的溝構造をキャンロールに設けた場合、自動車タイヤのトレッドパターンが雨天走行時に雨水を中心から両端に排出するように、キャンロール表面に接触する長尺樹脂フィルムに対して、ロール中央から軸方向両端側へ向け長尺樹脂フィルムを拡げるための張力を付与することができる。
【0019】
そこで、特許文献3に紹介された冷却キャンロールの構造を応用した皺伸ばしロールが開発されている。
【0020】
すなわち、この皺伸ばしロール12は、図8に示すように、ロール本体の外周面を被覆するゴム製被膜と、ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線12Pを基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるようにゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体13とで構成される幅広げ機構を具備することを特徴とし、上記ゴム製被膜の外周面に接触しながら真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対して、上記幅広げ機構により長尺樹脂フィルムの幅方向へ向けて張力を付与して長尺樹脂フィルムに生じたフィルム皺を取り除くものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開2011−94221号公報(段落0032、図3参照)
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】”The Mechanics of Web Handling”, David R. Roisum, Ph.D, TAPPI PRESS, (1998) p.141-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ところで、図2(A)〜(B)に示すように長尺樹脂フィルム11に発生したフィルム皺14の形成位置と、上記皺伸ばしロール12におけるゴム製被膜の外周線12Pを基端側とした周期的溝体13のV字形状先端位置とが一致していない場合には、自動車タイヤのトレッドパターンが雨天走行時に雨水を中心から両端に向け均一に排出するように長尺樹脂フィルム11の幅方向へ向けて張力を略均等に付与することになるため、図2(B)に示すように皺伸ばしロール12を通過した後の長尺樹脂フィルム11から上記フィルム皺14は均等に取り除かれている。
【0024】
しかしながら、図3(A)〜(B)に示すように長尺樹脂フィルム21の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺24の位置と、皺伸ばしロール22における上記外周線22Pの位置(すなわち周期的溝体23のV字形状先端位置)とが偶然にも一致してしまった場合、上記皺伸ばしロール22の外周線22P上に周期的溝体23が存在しないことから、長尺樹脂フィルム21の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対して上記周期的溝体23の幅広げ機構を作用させることができないため、図3(B)に示すように長尺樹脂フィルム21の幅方向略中央部に生じたフィルム皺が除かれずに残ってしまうことがあった。特に、真空チャンバー内においては、上述したようにロールと長尺樹脂フィルム間に空気が介在しないことから長尺樹脂フィルムは皺伸ばしロールに密着し拘束された状態にあるため、長尺樹脂フィルムの幅方向略中央部に発生したフィルム皺を皺伸ばしロール22によりフィルム両端側へ向けて引っ張っても皺は伸び難いと考えられる。
【0025】
また、図4(A)〜(B)に示すようにゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線が、図2(B)に示した線状ではなく若干幅を有している皺伸ばしロールの変形例(変形例においては外周線を「外周線部」と名称す)も開発されている。すなわち、変形例に係る皺伸ばしロールは、ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成された若干幅を有する外周線部32Pを基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるようにゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体33とで構成される幅広げ機構を具備するものである。
【0026】
そして、変形例に係る皺伸ばしロールにおいても、図4(A)〜(B)に示すように長尺樹脂フィルム31に発生したフィルム皺34の形成位置と、皺伸ばしロール32における若干幅を有する上記外周線部32Pの位置とが一致していない場合には、フィルム皺34が生じている長尺樹脂フィルム31の幅方向へ向けて張力を略均等に付与することになるため、図4(B)に示すように皺伸ばしロール32を通過した後の長尺樹脂フィルム31から上記フィルム皺34は均等に取り除かれている。
【0027】
しかし、図5(A)〜(B)に示すように長尺樹脂フィルム41の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺44の位置と、皺伸ばしロール42における若干幅を有する上記外周線部42Pの位置とが偶然にも一致してしまった場合、上記皺伸ばしロール42の外周線部42Pに周期的溝体43が存在しないことから、長尺樹脂フィルム41の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対し周期的溝体43の幅広げ機構を作用させることはできないため、図5(B)に示すように長尺樹脂フィルム41の幅方向略中央部に生じたフィルム皺が除かれずに残ってしまうことがあった。
【0028】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、長尺樹脂フィルムの幅方向略中央部に形成されたフィルム皺の位置と、皺伸ばしロールにおける外周線の位置若しくは若干幅を有する外周線部の位置が偶然に一致した場合においても、フィルム皺を均等かつ確実に取り除くことが可能な皺伸ばしロールと皺伸ばし方法を提供し、合わせて上記皺伸ばしロールが組み込まれた表面処理装置と表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
そこで、上記課題を解決するため、ゴム製被膜における従来の外周線若しくは若干幅を有する外周線部の形状について、本発明者等が後述する構造に変更して実験を行なったところ、長尺樹脂フィルムの幅方向略中央部に形成されたフィルム皺の位置と、皺伸ばしロールにおける外周線の位置若しくは若干幅を有する外周線部の位置とが偶然一致した場合でも、上記フィルム皺を確実に取り除くことができることを見出すに至った。
【0030】
すなわち、請求項1に係る発明は、
ロール本体の外周面を被覆するゴム製被膜と、ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と上記ロール本体の回転方向が同一となるように上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体とで構成される幅広げ機構を備え、上記ゴム製被膜の外周面に接触しながら真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し上記幅広げ機構により上記長尺樹脂フィルムの幅方向へ向けて張力を付与する皺伸ばしロールにおいて、
上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の上記周期的溝体が、上記外周線を中央に有する中央領域と該中央領域の上記軸方向両側に位置する両側領域とに区画され、上記中央領域は上記外周線を中央にして左側に位置する左側領域と右側に位置する右側領域とで構成されると共に、上記中央領域の上記左側領域と上記右側領域に形成される上記周期的溝体が、上記中央領域内において上記周期的溝体の各溝が互いに交差することなく、上記左側領域から上記外周線を越えて上記右側領域まで延長され、かつ、上記右側領域から上記外周線を越えて上記左側領域まで延長されて、上記中央領域内に上記外周線を基端側とする上記V字形状先端が形成されないようにしたことを特徴とする。
【0031】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の皺伸ばしロールにおいて、
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向後端左側角部と先端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成され、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向先端左側角部と後端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成されると共に、各矩形状単位領域における2つの上記三角形領域内に上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体と上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体がそれぞれ形成されていることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1に記載の皺伸ばしロールにおいて、
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されると共に、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されていることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の皺伸ばしロールにおいて、
上記中央領域の幅寸法が、上記周期的溝体における溝間のピッチ寸法以上、上記長尺樹脂フィルムにおける幅寸法の20%以下に設定されていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の皺伸ばしロールにおいて、
上記ロール本体の外周面を被覆する上記ゴム製被膜が、フッ素ゴムにより構成されていることを特徴とするものである。
【0032】
次に、請求項6に係る発明は、
ロール本体の外周面を被覆するゴム製被膜と、ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向と上記ロール本体の回転方向が同一となるように上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体とで構成される幅広げ機構を備えた皺伸ばしロールを用い、真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに生じたフィルム皺を上記幅広げ機構により取り除く皺伸ばし方法において、
上記皺伸ばしロールにおける上記ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の上記周期的溝体が、上記外周線を中央に有する中央領域と該中央領域の上記軸方向両側に位置する両側領域とに区画され、上記中央領域は上記外周線を中央にして左側に位置する左側領域と右側に位置する右側領域とで構成されると共に、上記中央領域の上記左側領域と上記右側領域に形成される上記周期的溝体が、上記中央領域内において上記周期的溝体の各溝が互いに交差することなく、上記左側領域から上記外周線を越えて上記右側領域まで延長され、かつ、上記右側領域から上記外周線を越えて上記左側領域まで延長されて上記中央領域内に上記外周線を基端側とする上記V字形状先端が形成されないようにした上記皺伸ばしロールを用いることを特徴とする。
【0033】
また、請求項7に係る発明は、
請求項6に記載の皺伸ばし方法において、
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向後端左側角部と先端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成され、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記ロール本体の回転方向先端左側角部と後端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成されると共に、各矩形状単位領域における2つの上記三角形領域内に上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体と上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体がそれぞれ形成されている上記皺伸ばしロールを用いることを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項6に記載の皺伸ばし方法において、
上記ロール本体の外周方向に亘り上記中央領域を均等に区画して複数の矩形状単位領域が形成され、かつ、一方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記左側領域から上記右側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されると共に、上記矩形状単位領域に隣接する他方の上記矩形状単位領域には上記中央領域の上記右側領域から上記左側領域まで延長される上記周期的溝体が形成されている上記皺伸ばしロールを用いることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項6〜8のいずれかに記載の皺伸ばし方法において、
上記皺伸ばしロールにおける上記中央領域の幅寸法が、上記周期的溝体における溝間のピッチ寸法以上、上記長尺樹脂フィルムにおける幅寸法の20%以下に設定されていることを特徴とし、
請求項10に係る発明は、
請求項7または8に記載の皺伸ばし方法において、
上記皺伸ばしロールの外周面に上記長尺樹脂フィルムが接している角度(抱き角)内に、上記皺伸ばしロールにおける一方の上記矩形状単位領域とこれに隣接する他方の上記矩形状単位領域を単位とする一組の上記矩形状単位領域が含まれるようにしたことを特徴とし、
請求項11に係る発明は、
請求項6〜10のいずれかに記載の皺伸ばし方法において、
上記ロール本体の外周面を被覆する上記ゴム製被膜が、フッ素ゴムにより構成されていることを特徴とするものである。
【0034】
更に、請求項12に係る発明は、
真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し、熱負荷が伴う表面処理を行なう表面処理手段を具備する表面処理装置において、
請求項1〜5のいずれかに記載された上記皺伸ばしロールを上記真空チャンバー内に有することを特徴とし、
請求項13に係る発明は、
真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し、熱負荷が伴う表面処理を行なう表面処理手段を具備する表面処理装置において、
請求項2または3に記載された上記皺伸ばしロールを上記真空チャンバー内に有すると共に、上記皺伸ばしロールの外周面に上記長尺樹脂フィルムが接している角度(抱き角)内に、上記皺伸ばしロールにおける一方の上記矩形状単位領域とこれに隣接する他方の上記矩形状単位領域を単位とする一組の上記矩形状単位領域が含まれるようにしたことを特徴とし、
請求項14に係る発明は、
請求項12または13に記載の表面処理装置において、
上記表面処理手段により処理された上記長尺樹脂フィルムの搬送路下流側に上記皺伸ばしロールが設置されていることを特徴とし、
請求項15に係る発明は、
請求項12〜14のいずれかに記載の表面処理装置において、
熱負荷を伴う上記表面処理が、真空成膜法による処理であることを特徴とし、
請求項16に係る発明は、
請求項15に記載の表面処理装置において、
上記真空成膜法がマグネトロンスパッタリングであることを特徴とする。
【0035】
次に、請求項17に係る発明は、
真空チャンバー内をロール・ツー・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムに対し、熱負荷が伴う表面処理を行なう表面処理方法において、
上記表面処理によりフィルム皺が生じた上記長尺樹脂フィルムに対して請求項6〜11のいずれかに記載された上記皺伸ばし方法を施すことを特徴とし、
請求項18に係る発明は、
請求項17に記載の表面処理方法において、
熱負荷を伴う上記表面処理が真空成膜法による処理であることを特徴とし、
また、請求項19に係る発明は、
請求項18に記載の表面処理方法において、
上記真空成膜法がマグネトロンスパッタリングであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る皺伸ばしロールとこのロールを用いた皺伸ばし方法によれば、
ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体が、外周線を中央に有する中央領域と該中央領域の上記軸方向両側に位置する両側領域とに区画され、中央領域は上記外周線を中央にして左側に位置する左側領域と右側に位置する右側領域とで構成されると共に、中央領域の左側領域と右側領域に形成される周期的溝体が、中央領域内において周期的溝体の各溝が互いに交差することなく、左側領域から上記外周線を越えて右側領域まで延長され、かつ、右側領域から上記外周線を越えて左側領域まで延長されて中央領域内に上記外周線を基端側とするV字形状先端が形成されないようになっている。
【0037】
そして、長尺樹脂フィルムの幅方向略中央部に形成されたフィルム皺の位置と、皺伸ばしロールにおけるゴム製被膜外周面に設けられた周期的溝体の上記中央領域の位置とが偶然に一致するような場合においても、上記中央領域の左側領域と右側領域に形成される周期的溝体が、中央領域内において周期的溝体の各溝が互いに交差することなく左側領域から上記外周線を越えて右側領域まで延長され、かつ、右側領域から上記外周線を越えて左側領域まで延長されて、中央領域内に上記外周線を基端側とするV字形状先端が形成されないようになっていることから、長尺樹脂フィルムの幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対して、中央領域の左側領域から外周線を越えて右側領域まで延長された周期的溝体並びに中央領域の右側領域から外周線を越えて左側領域まで延長された周期的溝体のそれぞれが作用するため、長尺樹脂フィルムに形成されたフィルム皺を均等かつ確実に取り除くことが可能となる。
【0038】
また、本発明に係る表面処理装置によれば、
真空チャンバー内に上記皺伸ばしロールを有しているため、熱負荷を伴う処理に起因して長尺樹脂フィルムに生じたフィルム皺を均等かつ確実に取り除くことが可能となり、
更に、本発明に係る表面処理方法によれば、
熱負荷を伴う処理に起因してフィルム皺が生じた長尺樹脂フィルムに対し、上記皺伸ばし方法を施しているため、長尺樹脂フィルムに形成されたフィルム皺を均等かつ確実に取り除くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】スパッタリングウェブコーターの概略構成説明図。
図2図2(A)はスパッタリングウェブコーターに組み込まれた従来例に係る皺伸ばしロールの側面図、図2(B)は従来例に係る皺伸ばしロールの作用説明図。
図3図3(A)はスパッタリングウェブコーターに組み込まれた従来例に係る皺伸ばしロールの側面図、図3(B)は従来例に係る皺伸ばしロールを適用した場合に生ずる弊害原因を示す説明図。
図4図4(A)はスパッタリングウェブコーターに組み込まれた従来の変形例に係る皺伸ばしロールの側面図、図4(B)は従来の変形例に係る皺伸ばしロールの作用説明図。
図5図5(A)はスパッタリングウェブコーターに組み込まれた従来の変形例に係る皺伸ばしロールの側面図、図5(B)は従来の変形例に係る皺伸ばしロールを適用した場合に生ずる弊害原因を示す説明図。
図6図6(A)はスパッタリングウェブコーターに組み込まれた本発明に係る皺伸ばしロールの側面図、図6(B)は本発明に係る皺伸ばしロールの作用説明図、および、図6(C)は図6(B)の部分拡大図。
図7図7(A)はスパッタリングウェブコーターに組み込まれた本発明の変形例に係る皺伸ばしロールの側面図、図7(B)は本発明の変形例に係る皺伸ばしロールの作用説明図、および、図7(C)は図7(B)の部分拡大図。
図8】特許文献3に紹介された冷却キャンロールの構造を応用した従来例に係る皺伸ばしロールの概略構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0041】
(1)皺伸ばしロール
まず、本発明に係る皺伸ばしロールは、
ロール本体の外周面を被覆するゴム製被膜と、
ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線を基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるようにゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体とで構成される幅広げ機構を備え、
ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体が、上記外周線を中央に有する中央領域と該中央領域の上記軸方向両側に位置する両側領域とに区画され、
中央領域は上記外周線を中央にして左側に位置する左側領域と右側に位置する右側領域とで構成されると共に、
中央領域の左側領域と右側領域に形成される周期的溝体が、中央領域内において周期的溝体の各溝が互いに交差することなく、左側領域から上記外周線を越えて右側領域まで延長され、かつ、右側領域から上記外周線を越えて左側領域まで延長されて、
中央領域内に上記外周線を基端側とするV字形状先端が形成されないようにしたことを特徴とするものである。
【0042】
そして、本発明に係る皺伸ばしロールによれば、
上記ゴム製被膜外周面に設けられた周期的溝体の中央領域の位置と、長尺樹脂フィルムの幅方向略中央部に形成されたフィルム皺の位置とが偶然に一致するような場合においても、長尺樹脂フィルムの幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対し、上記中央領域の左側領域から外周線を越えて右側領域まで延長された周期的溝体並びに中央領域の右側領域から外周線を越えて左側領域まで延長された周期的溝体のそれぞれが作用するため、長尺樹脂フィルムに形成されたフィルム皺を均等かつ確実に取り除くことができる。
【0043】
このため、本発明に係る皺伸ばしロールをスパッタリングウェブコーターに組み込むことによりフィルム皺のない金属膜付長尺樹脂フィルムを製造することが可能となる。
【0044】
以下、本発明の第一実施の形態に係る皺伸ばしロールと、第二実施の形態に係る皺伸ばしロールついて図面を用いて具体的に説明する。
【0045】
(1−1)第一実施の形態に係る皺伸ばしロール
図6(A)〜(C)に示すように、ロール本体外周面を被覆するゴム製被膜とこの外周面に設けられた複数の周期的溝体53とで構成された幅広げ機構を備える第一実施の形態に係る皺伸ばしロール52は、上記複数の周期的溝体53が、外周線52Pを中央に有する中央領域52aと該中央領域52aの軸方向両側に位置する両側領域52b、52cとに区画され、かつ、上記中央領域52aは、外周線52Pを中央にしてその左側に位置する左側領域52a1と右側に位置する右側領域52a2とで構成されている。
【0046】
また、中央領域52aの左側領域52a1と右側領域52a2に形成される周期的溝体53が、図6(C)に示すように、中央領域52a内において周期的溝体53の各溝が互いに交差することなく、左側領域52a1から上記外周線52Pを越えて右側領域52a2まで延長され、かつ、右側領域52a2から上記外周線52Pを越えて左側領域52a1まで延長されて中央領域52a内に外周線52Pを基端側とするV字形状先端が形成されないようになっている。
【0047】
尚、中央領域52aの軸方向両側に位置する上記両側領域52b、52cに形成される周期的溝体53は、上記外周線52Pを基端側としかつ基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行でV字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるパターン(但し、このパターンは両側領域52b、52c内に限られ、中央領域52a内の周期的溝体53は上述したようにV字形状先端が形成されないパターンになっている)に形成されている。
【0048】
更に、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールにおいては、図6(C)に示すようにロール本体の外周方向に亘り中央領域52aを均等に区画して複数の矩形状単位領域521、522が形成され、かつ、一方の矩形状単位領域521にはロール本体の回転方向後端左側角部と先端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成され、上記矩形状単位領域に隣接する他方の矩形状単位領域522にはロール本体の回転方向先端左側角部と後端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成されると共に、各矩形状単位領域521、522における2つの三角形領域内に中央領域52aの左側領域52a1から右側領域52a2まで延長される周期的溝体53と右側領域52a2から左側領域52a1まで延長される周期的溝体53がそれぞれ形成されている。
【0049】
そして、この第一実施の形態に係る皺伸ばしロールを適用することにより、例えば、ゴム製被膜外周面に設けられた周期的溝体53の中央領域52aの位置と、長尺樹脂フィルム51の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺54の位置とが偶然に一致した場合においても、長尺樹脂フィルム51の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺54に対し、上記中央領域52aの左側領域52a1から外周線52Pを越えて右側領域52a2まで延長された周期的溝体53並びに中央領域52aの右側領域52a2から外周線52Pを越えて左側領域52a1まで延長された周期的溝体53のそれぞれが作用するため、長尺樹脂フィルム51に形成されたフィルム皺54を均等かつ確実に取り除くことができる。
【0050】
ここで、第一実施の形態に係る皺伸ばしロール52における図6(C)に示す中央領域52aの幅寸法については、周期的溝体53における溝間のピッチ寸法以上、長尺樹脂フィルム51における幅寸法の20%以下に設定するとよい。中央領域52aの幅寸法については、周期的溝体53における溝間のピッチ寸法と同一にすることが望ましいが、周期的溝体53における溝間ピッチが非常に微細なときには中央領域52aの加工が困難になるため、長尺樹脂フィルム51における幅寸法の20%以下であれば十分である。但し、長尺樹脂フィルム51における幅寸法の20%を越えた場合、中央領域52a内の周期的溝体53により長尺樹脂フィルム51が左右に引っ張られてフィルム皺を発生させる原因となることがある。従って、上記中央領域52aの幅寸法については、周期的溝体53における溝間のピッチ寸法以上、長尺樹脂フィルム51における幅寸法の20%以下に設定するとよい。
【0051】
また、上記中央領域52aを均等に区画してロール本体の外周方向に亘り複数の矩形状単位領域521、522が形成された第一実施の形態に係る皺伸ばしロール52においては、皺伸ばしロール52外周面に長尺樹脂フィルム51が接している角度(抱き角)内に、上記一方の矩形状単位領域521とこれに隣接する他方の矩形状単位領域522を単位とする一組の矩形状単位領域が含まれるようにするとよい。一組の矩形状単位領域が含まれずに一組未満の場合、図6(C)に示すように長尺樹脂フィルム51の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺54に対して矩形状単位領域521若しくは矩形状単位領域522の周期的溝体53が作用しなくなって長尺樹脂フィルム51を左右均等に引き伸ばすことができなくなり、長尺樹脂フィルム51が蛇行してしまうことがあるからである。
【0052】
尚、皺伸ばしロール52におけるゴム製被膜を構成する材料としては成膜処理工程の際に長尺樹脂フィルムに影響を与えることがないフッ素ゴムが好ましく、市販されているデュポン社製の「バイトン」(登録商標)が例示される。
【0053】
(1−2)第二実施の形態に係る皺伸ばしロール
図7(A)〜(C)に示すように、ロール本体外周面を被覆するゴム製被膜とこの外周面に設けられた複数の周期的溝体63とで構成された幅広げ機構を備える第二実施の形態に係る皺伸ばしロール62は、上記複数の周期的溝体63が、外周線62Pを中央に有する中央領域62aと該中央領域62aの軸方向両側に位置する両側領域62b、62cとに区画され、かつ、上記中央領域62aは、外周線62Pを中央にしてその左側に位置する左側領域62a1と右側に位置する右側領域62a2とで構成されている。
【0054】
また、中央領域62aの左側領域62a1と右側領域62a2に形成される周期的溝体63が、図7(C)に示すように、中央領域62a内において周期的溝体63の各溝が互いに交差することなく、右側領域62a2から上記外周線62Pを越えて左側領域62a1まで延長され、かつ、左側領域62a1から上記外周線62Pを越えて右側領域62a2まで延長されて中央領域62a内に外周線62Pを基端側とするV字形状先端が形成されないようになっている。
【0055】
尚、中央領域62aの軸方向両側に位置する上記両側領域62b、62cに形成される周期的溝体63は、上記外周線62Pを基端側としかつ基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行でV字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるパターン(但し、このパターンは両側領域62b、62c内に限られ、中央領域62a内の周期的溝体63は上述したようにV字形状先端が形成されないパターンになっている)に形成されている。
【0056】
更に、第二実施の形態に係る皺伸ばしロールにおいては、図7(C)に示すようにロール本体の外周方向に亘り中央領域62aを均等に区画して複数の矩形状単位領域621、622が形成され、かつ、一方の矩形状単位領域621には中央領域62aの右側領域62a2から左側領域62a1まで延長される周期的溝体63が形成されると共に、上記矩形状単位領域621に隣接する他方の矩形状単位領域622には中央領域62aの左側領域62a1から右側領域62a2まで延長される周期的溝体63がそれぞれ形成されている。
【0057】
そして、この第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを適用することにより、例えば、ゴム製被膜外周面に設けられた周期的溝体63の中央領域62aの位置と、長尺樹脂フィルム61の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺64の位置とが偶然に一致した場合においても、長尺樹脂フィルム61の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺64に対し、上記中央領域62aの左側領域62a1から外周線62Pを越えて右側領域62a2まで延長された周期的溝体63並びに中央領域62aの右側領域62a2から外周線62Pを越えて左側領域62a1まで延長された周期的溝体63のそれぞれが作用するため、長尺樹脂フィルム61に形成されたフィルム皺64を均等かつ確実に取り除くことができる。
【0058】
ここで、第二実施の形態に係る皺伸ばしロール62における図7(C)に示す中央領域62aの幅寸法についても、周期的溝体63における溝間のピッチ寸法以上、長尺樹脂フィルム61における幅寸法の20%以下に設定するとよい。中央領域62aの幅寸法については、周期的溝体63における溝間のピッチ寸法と同一にすることが望ましいが、周期的溝体63における溝間ピッチが非常に微細なときには中央領域62aの加工が困難になるため、長尺樹脂フィルム61における幅寸法の20%以下であれば十分である。但し、長尺樹脂フィルム61における幅寸法の20%を越えた場合、中央領域62a内の周期的溝体63により長尺樹脂フィルム61が左右に引っ張られてフィルム皺を発生させる原因となることがある。従って、上記中央領域62aの幅寸法については、周期的溝体63における溝間のピッチ寸法以上、長尺樹脂フィルム61における幅寸法の20%以下に設定するとよい。
【0059】
また、上記中央領域62aを均等に区画してロール本体の外周方向に亘り複数の矩形状単位領域621、622が形成された第二実施の形態に係る皺伸ばしロール62においては、皺伸ばしロール62外周面に長尺樹脂フィルム61が接している角度(抱き角)内に、上記一方の矩形状単位領域621とこれに隣接する他方の矩形状単位領域622を単位とする一組の矩形状単位領域が含まれるようにするとよい。一組の矩形状単位領域が含まれずに一組未満の場合、図7(C)に示すように長尺樹脂フィルム61の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺64に対して矩形状単位領域621若しくは矩形状単位領域622の周期的溝体63が作用しなくなって長尺樹脂フィルム61を左右均等に引き伸ばすことができなくなり、長尺樹脂フィルム61が蛇行してしまうことがあるからである。
【0060】
尚、皺伸ばしロール62におけるゴム製被膜を構成する材料については、第一実施の形態の場合と同様、成膜処理工程の際に長尺樹脂フィルムに影響を与えることがないフッ素ゴムが好ましく、デュポン社製の「バイトン」(登録商標)が例示される。
【0061】
(2)スパッタリングウェブコーター
以下、図1に示すスパッタリングウェブコーターを使用し、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)に金属膜を成膜して金属膜付長尺樹脂フィルムを製造するときに発生するフィルム皺と、本発明に係る皺伸ばしロールを適用した場合の効果について説明する。
【0062】
尚、金属膜をスパッタリング成膜する際、図1に示すように板状のターゲット(マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133参照)を使用することができるが、板状のターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。この現象が問題になる場合、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0063】
また、図1に示すスパッタリングウェブコーターは、スパッタリング処理を前提とした装置であることからマグネトロンスパッタリングカソードが図示されているが、熱負荷を伴う成膜処理が蒸着等の他の成膜法である場合、上記ターゲットに代えて他の成膜手段が設けられる。他の成膜手段として、CVD(化学蒸着)、真空蒸着等が例示される。
【0064】
まず、スパッタリング処理を前提とした図1に示すスパッタリングウェブコーターは、長尺樹脂フィルム113に対しヒーター乾燥処理を施す巻き出し室110、イオンビーム照射処理を施すイオンビーム室134、スパッタリング処理を行なう成膜室111、および、巻き取り室112とで構成されている。
【0065】
そして、上記ヒーター乾燥処理、イオンビーム照射処理、および、スパッタリング処理は、長尺樹脂フィルムに大きな熱負荷を与えるためフィルム皺を発生させ易い。
【0066】
特に、熱負荷を伴う処理が行なわれる工程の下流側、すなわち、巻き出し室110内における乾燥工程出口のフリーロール119付近、イオンビーム室134内におけるイオンビーム照射工程出口のフリーロール137付近、および、成膜室111内におけるスパッタリング成膜工程出口の後フィードロール124付近でフィルム皺が発生し易い。
【0067】
以下、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)に発生するフィルム皺と、本発明に係る皺伸ばしロールを適用した場合の効果について具体的に説明する。
【0068】
(2−1)スパッタリング処理
ます、長尺樹脂フィルム113が成膜中に全てのマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133を通過したときのフィルム温度について、長尺樹脂フィルム113に熱電対を貼り付けて測定した。
【0069】
測定の結果、冷却キャンロール123の温度が20℃、マグネトロンスパッタへの投入総電力が65kW、フィルム速度が8m/分のとき、フィルム温度は110℃に達しており、長尺樹脂フィルム113には数本のフィルム皺が発生していた。上記長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113は110℃まで温度上昇したため、フィルムの幅方向に約1080ppm[ポリイミドフィルムの代表的な線熱膨張係数は上述したように12ppm/Kであることから12ppm/K×(Δ90℃)]引き伸ばされた状態となる。しかし、図1に示すスパッタリングウェブコーターに組み込まれた「後フィードロール124」は皺伸ばし機能を具備しないため、フィルム皺が発生し易い。
【0070】
そこで、「後フィードロール(モーター駆動ロール)124」を図8に示した従来の皺伸ばしロールに交換したところ皺伸ばし効果は確認されたが、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対してはその効果が殆ど確認されなかった。
【0071】
一方、図8に示した従来の皺伸ばしロールに代えて、図6(A)〜(C)に示す第一実施の形態に係る皺伸ばしロールに交換して同様の実験を行なったところ、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対しても皺伸ばし効果が確認された。
【0072】
尚、図7(A)〜(C)に示す第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを適用した場合も同様の効果が確認された。
【0073】
(2−2)ヒーター乾燥処理
次に、長尺樹脂フィルム113が巻き出し室110の乾燥用ヒーター117、118を通過したときのフィルム温度について、長尺樹脂フィルム113に熱電対を貼り付けて測定した。
【0074】
測定の結果、ヒーター制御温度が200℃、フィルム速度が8m/分のとき、フィルム温度は110℃に達しており、長尺樹脂フィルム113には数本のフィルム皺が発生していた。上記長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113は、110℃まで温度上昇したため、フィルムの幅方向に約1080ppm[12ppm/K×(Δ90℃)]引き伸ばされた状態となる。しかし、図1に示すスパッタリングウェブコーターに組み込まれた「フリーロール119」は皺伸ばし機能を具備しないため、フィルム皺が発生し易い。
【0075】
そこで、「フリーロール119(モーター駆動ロールに変更してもよい)」を図8に示した従来の皺伸ばしロールに交換したところ皺伸ばし効果は確認されたが、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対しては、その効果が殆ど確認されなかった。
【0076】
一方、図8に示した従来の皺伸ばしロールに代えて、図6(A)〜(C)に示す第一実施の形態に係る皺伸ばしロールに交換して同様の実験を行なったところ、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対しても皺伸ばし効果が確認された。
【0077】
尚、図7(A)〜(C)に示す第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを適用した場合も同様の効果が確認された。
【0078】
(2−3)イオンビーム照射処理
更に、長尺樹脂フィルム113がイオンビーム室134のイオンビーム発生装置138を通過したときのフィルム温度について、長尺樹脂フィルム113に熱電対を貼り付けて測定した。
【0079】
測定の結果、冷却ロール136の温度が20℃、イオンビームの投入電力が2kW、フィルム速度が8m/分のとき、フィルム温度は110℃に達しており、長尺樹脂フィルム113には数本のフィルム皺が発生していた。上記長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113は、110℃まで温度上昇したため、フィルムの幅方向に約1080ppm[12ppm/K×(Δ90℃)]引き伸ばされた状態となる。しかし、図1に示すスパッタリングウェブコーターに組み込まれた「フリーロール137」は皺伸ばし機能を具備しないため、フィルム皺が発生し易い。
【0080】
そこで、「フリーロール137(モーター駆動ロールに変更してもよい)」を図8に示した従来の皺伸ばしロールに交換したところ皺伸ばし効果は確認されたが、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対しては、その効果が殆ど確認されなかった。
【0081】
一方、図8に示した従来の皺伸ばしロールに代えて、図6(A)〜(C)に示す第一実施の形態に係る皺伸ばしロールに交換して同様の実験を行なったところ、長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央部に形成されたフィルム皺に対しても皺伸ばし効果が確認された。
【0082】
尚、図7(A)〜(C)に示す第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを適用した場合も同様の効果が確認された。
【0083】
(3)長尺樹脂フィルムと銅張積層樹脂フィルム基板
(3−1)長尺樹脂フィルム
本発明で適用される長尺樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような長尺樹脂フィルムや、ポリイミドフィルムのような長尺耐熱性樹脂フィルム等が例示される。
【0084】
(3−2)銅張積層樹脂フィルム(金属膜付長尺樹脂フィルム)基板
本発明に係る皺伸ばしロールが組み込まれたスパッタリングウェブコーターを用いて、銅張積層樹脂フィルム(金属膜付長尺樹脂フィルム)基板を製造することができる。
【0085】
上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付長尺樹脂フィルム)基板としては、長尺樹脂フィルム表面にNi、Ni系合金、クロム等からなる下地金属層と、下地金属層の表面に積層された銅薄膜層とで構成された構造体が例示される。このような構造を有する銅張積層樹脂フィルム基板は、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記銅薄膜層)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0086】
上記Ni合金等からなる層はシード層(下地金属層)と呼ばれ、銅張積層樹脂フィルム基板の電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性によりその組成が選択される。そして、シード層には、Ni−Cr合金またはインコネル、コンズタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができる。また、銅張積層樹脂フィルム(金属膜付長尺樹脂フィルム)基板の金属膜(銅薄膜層)を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を形成することがある。尚、電気めっき処理(すなわち、電解めっき処理)のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合もある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0087】
また、上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付長尺樹脂フィルム)基板に用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる樹脂フィルムが挙げられ、銅張積層樹脂フィルムとしての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0088】
尚、上記銅張積層樹脂フィルム(金属膜付長尺樹脂フィルム)基板として、耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜以外に、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を用いることも可能である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。
【0090】
尚、図1に示すスパッタリングウェブコーター内に組み込まれた「皺伸ばしロール」は以下のものである。
【0091】
(1)実施例で用いた皺伸ばしロール
実施例で使用した皺伸ばしロールは、図6(A)〜(C)に示した第一実施の形態に係る皺伸ばしロールと、図7(A)〜(C)に示した第二実施の形態に係る皺伸ばしロールの2種類を用いた。
【0092】
(1−1)第一実施の形態に係る皺伸ばしロール
まず、図6(A)〜(C)に示した第一実施の形態に係る皺伸ばしロールは、ロール本体外周面を被覆するフッ素ゴム(デュポン社製 登録商標「バイトン」)製被膜とゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体53とで構成された幅広げ機構を備え、複数の周期的溝体53が、外周線52Pを中央に有する中央領域52aと、該中央領域52aの軸方向両側に位置する両側領域52b、52cとに区画され、かつ、上記中央領域52aは、外周線52Pを中央にしてその左側に位置する左側領域52a1と右側に位置する右側領域52a2とで構成されている。
【0093】
また、上記中央領域52aの左側領域52a1と右側領域52a2に形成される周期的溝体53は、図6(C)に示すように、中央領域52a内において周期的溝体53の各溝が互いに交差することなく、左側領域52a1から上記外周線52Pを越えて右側領域52a2まで延長され、かつ、右側領域52a2から上記外周線52Pを越えて左側領域52a1まで延長されて中央領域52a内に外周線52Pを基端側とするV字形状先端が形成されないようになっている。
【0094】
更に、中央領域52aの軸方向両側に位置する上記両側領域52b、52cに形成される周期的溝体53は、上記外周線52Pを基端側としかつ基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行でV字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるパターン(但し、この周期的溝体のパターンは両側領域52b、52c内に限られ、中央領域52a内の周期的溝体53は上述したようにV字形状先端が形成されないパターンになっている)に形成されている。
【0095】
尚、上記周期的溝体53における溝の深さ0.2mm、溝の幅0.2mm、ピッチ1mmで、かつ、V字形状先端の開き角度(リード角度)は80°に設定されている。
【0096】
また、上記皺伸ばしロールにおいては、図6(C)に示すようにロール本体の外周方向に亘り中央領域52aを均等に区画して複数の矩形状単位領域521、522が形成され、かつ、一方の矩形状単位領域521にはロール本体の回転方向後端左側角部と先端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成され、上記矩形状単位領域に隣接する他方の矩形状単位領域522にはロール本体の回転方向先端左側角部と後端右側角部を結ぶ直線で区画された2つの三角形領域が形成されると共に、各矩形状単位領域521、522における2つの三角形領域内に中央領域52aの左側領域52a1から右側領域52a2まで延長される周期的溝体53と右側領域52a2から左側領域52a1まで延長される周期的溝体53がそれぞれ形成されている。
【0097】
尚、上記中央領域52aの幅寸法は20mmに設定され、また、ロール本体の外周方向に亘り中央領域52aを均等に区画して形成される矩形状単位領域521、522の各円弧長に対応する中心角は約20°に設定されており、ロール本体の外周方向に亘り18個(すなわち、360°÷20°=18)の矩形状単位領域が形成されている。
【0098】
(1−2)第二実施の形態に係る皺伸ばしロール
次に、図7(A)〜(C)に示した第二実施の形態に係る皺伸ばしロールは、ロール本体外周面を被覆するフッ素ゴム(デュポン社製 登録商標「バイトン」)製被膜とゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体63とで構成された幅広げ機構を備え、複数の周期的溝体63が、外周線62Pを中央に有する中央領域62aと、該中央領域62aの軸方向両側に位置する両側領域62b、62cとに区画され、かつ、上記中央領域62aは、外周線62Pを中央にしてその左側に位置する左側領域62a1と右側に位置する右側領域62a2とで構成されている。
【0099】
また、上記中央領域62aの左側領域62a1と右側領域62a2に形成される周期的溝体63が、図7(C)に示すように、中央領域62a内において周期的溝体63の各溝が互いに交差することなく、右側領域62a2から上記外周線62Pを越えて左側領域62a1まで延長され、かつ、左側領域62a1から上記外周線62Pを越えて右側領域62a2まで延長されて中央領域62a内に外周線62Pを基端側とするV字形状先端が形成されないようになっている。
【0100】
更に、中央領域62aの軸方向両側に位置する上記両側領域62b、62cに形成される周期的溝体63は、上記外周線62Pを基端側としかつ基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行でV字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるパターン(但し、この周期的溝体のパターンは両側領域62b、62c内に限られ、中央領域62a内の周期的溝体63は上述したようにV字形状先端が形成されないパターンになっている)に形成されている。
【0101】
尚、上記周期的溝体63における溝の深さ0.2mm、溝の幅0.2mm、ピッチ1mmで、かつ、V字形状先端の開き角度(リード角度)は80°に設定されている。
【0102】
また、上記皺伸ばしロールにおいては、図7(C)に示すようにロール本体の外周方向に亘り中央領域62aを均等に区画して複数の矩形状単位領域621、622が形成され、かつ、一方の矩形状単位領域621には中央領域62aの右側領域62a2から左側領域62a1まで延長される周期的溝体63が形成されると共に、上記矩形状単位領域621に隣接する他方の矩形状単位領域622には中央領域62aの左側領域62a1から右側領域62a2まで延長される周期的溝体63がそれぞれ形成されている。
【0103】
尚、上記中央領域62aの幅寸法は20mmに設定され、また、ロール本体の外周方向に亘り中央領域62aを均等に区画して形成される矩形状単位領域621、622の各円弧長に対応する中心角は約20°に設定されており、ロール本体の外周方向に亘り18個(すなわち、360°÷20°=18)の矩形状単位領域が形成されている。
【0104】
(2)比較例で用いた皺伸ばしロール
比較例で用いた皺伸ばしロールは、図8に示す従来の皺伸ばしロールにおける外周線(ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線)12Pが、図8図2(B)、図3(B)に示す線状でなく若干幅を有する変形例に係る従来の皺伸ばしロールである。
【0105】
すなわち、この変形例に係る従来の皺伸ばしロールは、図4(A)〜(B)に示すようにロール本体外周面を被覆するフッ素ゴム(デュポン社製 登録商標「バイトン」)製被膜と、フッ素ゴム製被膜面上の軸方向略中央に位置する中心点をそれぞれ結んで形成される外周線部32Pを基端側としかつこの基端側から軸方向両端側へ向けてV字形状となるように対称的に伸びる互いに平行若しくは略平行で上記V字形状先端が向かう方向とロール本体の回転方向が同一となるようにフッ素ゴム製被膜の外周面に設けられた複数の周期的溝体33とで構成される幅広げ機構を具備するものである。
【0106】
尚、上記周期的溝体33における溝の深さ0.2mm、溝の幅0.2mm、ピッチ1mmで、かつ、V字形状先端の開き角度(リード角度)は80°に設定されている。
【0107】
(3)スパッタリングウェブコーターの成膜条件
図1に示すスパッタリングウェブコーターを用い、長尺樹脂フィルム113には幅500mm、長さ1000m、厚さ25μmの東レ・デュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用している。
【0108】
尚、スパッタリングウェブコーターにおける成膜室111内の冷却キャンロール123は、直径800mm、幅800mmで、キャンロール本体表面にハードクロムめっきを施した冷却ロールが用いられている。
【0109】
長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113に成膜される金属膜は、シード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、かつ、マグネトロンスパッタターゲット130にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット131、132、133にはCuターゲットを用い、更に、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は電力制御で成膜を行っている。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130を構成する1枚のNi−Crターゲットを用いて成膜されるNi−Cr層の膜厚は10nmであり、また、上記マグネトロンスパッタリングカソード131、132、133を構成する3枚のCuターゲットを用いて成膜されるCu膜の膜厚は100nmである。
【0110】
上記巻き出しロール114と巻き取りロール129の張力は100Nとしている。巻き出しロール114に上記長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113をセットし、かつ、冷却キャンロール123を経由して上記長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の先端部を巻き取りロール129に取り付けて成膜を行っている。
【0111】
尚、成膜処理を行う前において、成膜室を複数台のドライポンプにより5Paまで排気し、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10-3Paまで排気している。
【0112】
また、フィルムの搬送速度は、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113に作用する熱負荷が相対的に小さい「4m/分」と、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113に作用する熱負荷が相対的に大きい「8m/分」の2種類を設定している。上記フィルムの搬送速度が「4m/分」のときと比較して、フィルムの搬送速度が「8m/分」の場合、目的の膜厚を得るためには各スパッタリングカソードに2倍の電力を印加する必要(すなわち、フィルムに作用する熱負荷は2倍となる)がある。同様に、乾燥の効果、イオンビームの照射効果を保つためには2倍の電力を印加する必要がある。上記フィルムの搬送速度が「8m/分」のとき、スパッタリングカソードへの印加総電力は「65kW」である。
【0113】
そして、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の搬送速度を「4m/分」または「8m/分」に設定した後、各マグネトロンスパッタカソード130、131、132、133にアルゴンガスを導入して電力を印加し、シード層を構成するNi−Cr膜とこのNi−Cr膜上に形成するCu膜の成膜を開始している。
【0114】
[実施例1]
実施例1では、上記スパッタリングウェブコーターにおける巻き出し室110内のフリーロール119、イオンビーム室134内のフリーロール137、および、成膜室111内の後フィードロール124に、図6(A)〜(C)に示した第一実施の形態に係る皺伸ばしロールがそれぞれ用いられている。
【0115】
すなわち、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119が、直径150mm、幅800mmの第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0116】
また、上記イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137も、直径150mm、幅800mmの第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0117】
更に、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124も、直径150mm、幅800mmの第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0118】
そして、上記皺伸ばしロールが、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124にそれぞれ用いられた実施例1に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、フリーロール119、フリーロール137、後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0119】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、上記皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の各上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0120】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の上流側では常に数本のフィルム皺が発生していたが、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールの効果により、例え、偶然にも長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央にフィルム皺が発生したとしても、このフィルム皺は伸ばされて上記フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の下流側においてフィルム皺が確認されることはなかった。
【0121】
すなわち、フィルムの搬送速度が「8m/分」に設定されて長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113に作用する熱負荷が高い場合でも、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の皺伸ばし効果により、フィルム皺は取り除かれることが確認された。
【0122】
尚、図6(A)〜(C)に示した第一実施の形態に係る皺伸ばしロールに代えて、図7(A)〜(C)に示した第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いて巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124をそれぞれ構成した場合も、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いたときと同様の皺伸ばし効果が確認されている。
【0123】
[実施例2]
実施例2では、スパッタリングウェブコーターにおける巻き出し室110内のフリーロール119にのみ、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールが用いられている。
【0124】
すなわち、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119が、直径150mm、幅800mmの第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0125】
一方、イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137は、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0126】
同様に、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124も、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0127】
そして、上記皺伸ばしロールが、巻き出し室110内のフリーロール119に用いられた実施例2に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0128】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、上記皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール137並びに後フィードロール124の上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0129】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール137並びに後フィードロール124の上流側で常に数本のフィルム皺が発生していたが、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールの効果により、フリーロール119の上流側において、例え、偶然にも長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央にフィルム皺が発生したとしても、このフィルム皺は伸ばされて下流側へ伝わることがなく、上記フリーロール119の下流側で多量のフィルム皺が確認されることはなかった。
【0130】
但し、上記フリーロール119の下流側に位置するフリーロール137と後フィードロール124は皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されているため、フリーロール137と後フィードロール124の下流側でフィルム皺が確認されたが、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の熱負荷に起因するフィルム皺はフリーロール119により除去されていることから、後フィードロール124の下流側で確認されるフィルム皺は僅かであった。
【0131】
尚、図6(A)〜(C)に示した第一実施の形態に係る皺伸ばしロールに代えて、図7(A)〜(C)に示した第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いて巻き出し室110内のフリーロール119を構成した場合も、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いたときと同様の皺伸ばし効果が確認されている。
【0132】
[実施例3]
実施例3では、スパッタリングウェブコーターにおけるイオンビーム室134内のフリーロール137にのみ、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールが用いられている。
【0133】
すなわち、上記イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137が、直径150mm、幅800mmの第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0134】
一方、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119は、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0135】
同様に、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124も、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0136】
そして、上記皺伸ばしロールが、イオンビーム室134内のフリーロール137に用いられた実施例3に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0137】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119、上記皺伸ばしロールで構成されたフリーロール137、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成された後フィードロール124の上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0138】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119、上記皺伸ばしロールで構成されたフリーロール137、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成された後フィードロール124の上流側で常に数本のフィルム皺が発生していたが、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールの効果により、フリーロール119並びにフリーロール137の上流側において、例え、偶然にも長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央にフィルム皺が発生したとしても、このフィルム皺は、上記皺伸ばしロールで構成されたフリーロール137により伸ばされて下流側へ伝わることがなく、上記フリーロール137の下流側で多量のフィルム皺が確認されることはなかった。
【0139】
但し、上記フリーロール137の下流側に位置する後フィードロール124は皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されているため、後フィードロール124の下流側でフィルム皺が確認されたが、フリーロール119並びにフリーロール137の上流側で生じたフィルム皺はフリーロール137により除去されていることから、後フィードロール124の下流側で確認されるフィルム皺は実施例2の場合より少なかった。
【0140】
尚、図6(A)〜(C)に示した第一実施の形態に係る皺伸ばしロールに代えて、図7(A)〜(C)に示した第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いてイオンビーム室134内のフリーロール137を構成した場合も、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いたときと同様の皺伸ばし効果が確認されている。
【0141】
[実施例4]
実施例4では、スパッタリングウェブコーターにおける成膜室111内の後フィードロール(モーター駆動ロール)124にのみ、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールが用いられている。
【0142】
すなわち、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124が、直径150mm、幅800mmの第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0143】
一方、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119は、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0144】
同様に、上記イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137も、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0145】
そして、上記皺伸ばしロールが、成膜室111内の後フィードロール(モーター駆動ロール)124に用いられた実施例4に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0146】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119並びにフリーロール137、上記皺伸ばしロールで構成された後フィードロール124の上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0147】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、上記皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119並びにフリーロール137、皺伸ばしロールで構成された後フィードロール124の上流側で常に数本のフィルム皺が発生していたが、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールの効果により、フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の上流側において、例え、偶然にも長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央にフィルム皺が発生したとしても、このフィルム皺は、上記皺伸ばしロールで構成された後フィードロール124により伸ばされて下流側へ伝わることがなく、上記後フィードロール124の下流側でフィルム皺が確認されることはなかった。
【0148】
但し、上記後フィードロール124より上流側に位置するフリーロール119とフリーロール137は皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されているため、フィルム皺を取り除く効果に関し、フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の全てが第一実施の形態に係る皺伸ばしロールで構成されている実施例1と較べて若干劣っていたが、後フィードロール124が皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されている実施例2と実施例3と較べて優れていた。
【0149】
尚、図6(A)〜(C)に示した第一実施の形態に係る皺伸ばしロールに代えて、図7(A)〜(C)に示した第二実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いて成膜室111内の後フィードロール(モーター駆動ロール)124を構成した場合も、第一実施の形態に係る皺伸ばしロールを用いたときと同様の皺伸ばし効果が確認されている。
【0150】
[比較例1]
比較例1では、上記スパッタリングウェブコーターにおける巻き出し室110内のフリーロール119、イオンビーム室134内のフリーロール137、および、成膜室111内の後フィードロール124に、図4(A)〜(B)に示す変形例に係る従来の皺伸ばしロールがそれぞれ用いられている。
【0151】
すなわち、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119が、直径150mm、幅800mmの図4(A)〜(B)に示す変形例に係る従来の皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0152】
また、上記イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137も、直径150mm、幅800mmの上記従来の皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0153】
更に、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124も、直径150mm、幅800mmの従来の皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0154】
そして、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールが、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124にそれぞれ用いられた比較例1に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、フリーロール119、フリーロール137、後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0155】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の各上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0156】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の上流側では常に数本のフィルム皺が発生していたが、従来の皺伸ばしロールの効果により幅方向略中央に発生していたフィルム皺を除き大半のフィルム皺は取り除かれていた。
【0157】
しかし、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央に発生していたフィルム皺に対しては、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールで取り除くことはできず、フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の下流側においてフィルム皺が確認された。すなわち、フィルム皺を取り除く効果に関し、実施例1〜4と較べて比較例1は著しく劣っていた。
【0158】
[比較例2]
比較例2では、スパッタリングウェブコーターにおける巻き出し室110内のフリーロール119にのみ、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールが用いられている。
【0159】
すなわち、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119が、直径150mm、幅800mmの従来の皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0160】
一方、イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137は、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0161】
同様に、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124も、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0162】
そして、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールが、巻き出し室110内のフリーロール119に用いられた比較例2に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0163】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール137並びに後フィードロール124の上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0164】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール137並びに後フィードロール124の上流側で常に数本のフィルム皺が発生していたが、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール119の効果により、フリーロール119の上流側で発生した一部のフィルム皺については取り除かれていた。
【0165】
しかし、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央に発生していたフィルム皺に対しては、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールで取り除くことはできず、フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の下流側においてフィルム皺が確認された。すなわち、フィルム皺を取り除く効果に関し、実施例1〜4と較べて比較例2は著しく劣っていた。
【0166】
[比較例3]
比較例3では、スパッタリングウェブコーターにおけるイオンビーム室134内のフリーロール137にのみ、図4(A)〜(B)に示した従来の皺伸ばしロールが用いられている。
【0167】
すなわち、上記イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137が、直径150mm、幅800mmの従来の皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0168】
一方、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119は、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0169】
同様に、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124も、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0170】
そして、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールが、イオンビーム室134内のフリーロール137に用いられた比較例3に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0171】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール137、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成された後フィードロール124の上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0172】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール137、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成された後フィードロール124の上流側で常に数本のフィルム皺が発生していたが、従来の皺伸ばしロールで構成されたフリーロール124の効果により、フリーロール119並びにフリーロール137の上流側で発生した一部のフィルム皺については取り除かれていた。
【0173】
しかし、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央に発生していたフィルム皺に対しては、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールで取り除くことはできず、フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の下流側においてフィルム皺が確認された。すなわち、フィルム皺を取り除く効果に関し、実施例1〜4と較べて比較例3は著しく劣っていた。
【0174】
[比較例4]
比較例4では、スパッタリングウェブコーターにおける成膜室111内の後フィードロール(モーター駆動ロール)124にのみ、図4(A)〜(B)に示した従来の皺伸ばしロールが用いられている。
【0175】
すなわち、上記成膜室111におけるマグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程出口側に位置する後フィードロール(モーター駆動ロール)124が、直径150mm、幅800mmの従来の皺伸ばしロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113が後フィードロール124に接触している角度(抱き角)は約120°である。尚、上記マグネトロンスパッタリングカソード130、131、132、133の工程入口側に位置する前フィードロール122の周速度は、基準となる冷却キャンロール123の周速度より0.1%遅い速度で回転させている。
【0176】
一方、上記巻き出し室110における乾燥用ヒーター117、118の工程出口側に位置するフリーロール119は、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール119に接触している角度(抱き角)は約70°である。
【0177】
同様に、上記イオンビーム室134におけるイオンビーム発生装置138の工程出口側に位置するフリーロール137も、直径150mm、幅800mmの皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されており、長尺樹脂フィルム113がフリーロール137に接触している角度(抱き角)は約100°である。
【0178】
そして、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールが、成膜室111内の後フィードロール(モーター駆動ロール)124に用いられた比較例4に係るスパッタリングウェブコーターにおける皺伸ばしロールの効果については、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113が、巻き出し室110内のフリーロール119と、イオンビーム室134内のフリーロール137と、成膜室111内の後フィードロール124のそれぞれを通過する上流側と下流側におけるフィルム皺の低減具合を観察窓から目視により観察した。
【0179】
[フィルム皺発生の有無と皺伸ばしロールの効果]
(1)フィルムの搬送速度が「4m/分」のとき、皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119並びにフリーロール137、従来の皺伸ばしロールで構成された後フィードロール124の上流側でフィルム皺が発生することはなかった。
【0180】
(2)フィルムの搬送速度を「4m/分」から2倍の「8m/分」にしたとき(スパッタリングカソードへの総電力、ヒーター総電力、イオンビーム電力がそれぞれ2倍)、上記皺伸ばし機能を有しないゴム製ロールで構成されたフリーロール119並びにフリーロール137、従来の皺伸ばしロールで構成された後フィードロール124の上流側で常に数本のフィルム皺が発生していたが、従来の皺伸ばしロールで構成された後フィードロール124の効果により、フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の上流側で発生した一部のフィルム皺については取り除かれていた。
【0181】
しかし、長尺樹脂フィルム(耐熱性ポリイミドフィルム)113の幅方向略中央に発生していたフィルム皺に対しては、図4(A)〜(B)に示す従来の皺伸ばしロールで取り除くことはできず、フリーロール119、フリーロール137および後フィードロール124の下流側においてフィルム皺が確認された。すなわち、フィルム皺を取り除く効果に関し、実施例1〜4と較べて比較例4は著しく劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明に係る皺伸ばしロールと皺伸ばし方法並びに皺伸ばしロールが組込まれた表面処理装置と表面処理方法によれば、熱負荷を伴う処理により長尺樹脂フィルムに発生したフィルム皺を均等かつ確実に取り除くことができるため、液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等に使用される銅張積層樹脂フィルム(金属膜付長尺樹脂フィルム)基板の製造法として適用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0183】
110 巻き出し室
113 長尺樹脂フィルム
114 巻き出しロール
115 張力センサーロール
116 ヒーターボックス
117 乾燥用ヒーター
118 乾燥用ヒーター
119 フリーロール
134 イオンビーム室
135 フリーロール
136 冷却ロール
137 フリーロール
138 イオンビーム発生装置
111 成膜室
120 フリーロール
121 張力センサーロール
122 前フィードロール
123 冷却キャンロール
124 後フィードロール
125 張力センサーロール
126 フリーロール
130 マグネトロンスパッタリングカソード
131 マグネトロンスパッタリングカソード
132 マグネトロンスパッタリングカソード
133 マグネトロンスパッタリングカソード
112 巻き取り室
127 フリーロール
128 張力センサーロール
129 巻き取りロール
11 長尺樹脂フィルム
12 皺伸ばしロール
12P 外周線
13 周期的溝体
14 フィルム皺
21 長尺樹脂フィルム
22 皺伸ばしロール
22P 外周線
23 周期的溝体
24 フィルム皺
31 長尺樹脂フィルム
32 皺伸ばしロール
32P 外周線部
33 周期的溝体
34 フィルム皺
41 長尺樹脂フィルム
42 皺伸ばしロール
42P 外周線部
43 周期的溝体
44 フィルム皺
51 長尺樹脂フィルム
52 皺伸ばしロール
52P 外周線
52a 中央領域
52a1 左側領域
52a2 右側領域
52b 両側領域
52c 両側領域
521 矩形状単位領域
522 矩形状単位領域
53 周期的溝体
54 フィルム皺
61 長尺樹脂フィルム
62 皺伸ばしロール
62P 外周線
62a 中央領域
62a1 左側領域
62a2 右側領域
62b 両側領域
62c 両側領域
621 矩形状単位領域
622 矩形状単位領域
63 周期的溝体
64 フィルム皺
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8