特許第6070487号(P6070487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070487SOIウェーハの製造方法、SOIウェーハ、及び半導体デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070487
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】SOIウェーハの製造方法、SOIウェーハ、及び半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20170123BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20170123BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20170123BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
   H01L21/322 P
   H01L21/02 B
   H01L21/20
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-183226(P2013-183226)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-50429(P2015-50429A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】江原 幸治
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−513234(JP,A)
【文献】 特開平05−226463(JP,A)
【文献】 特開2000−183153(JP,A)
【文献】 特開平11−307471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/20
H01L 21/322
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースウェーハと、酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄層化するSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハに常圧CVDによって第一の多結晶層を形成した後、さらに減圧CVDによって第二の多結晶層を形成したうえで、二層の多結晶層を形成したベースウェーハと、前記酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせることを特徴とするSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記第一の多結晶層を形成する前に、前記ベースウェーハに減圧CVDによって種層となる多結晶層を形成することを特徴とする請求項1に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記常圧CVDを行う際の温度を1,000℃以上とし、形成する前記第一の多結晶層の厚さを1μm以上とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記減圧CVDを行う際の温度を前記常圧CVDを行う際の温度より低温とし、形成する前記第二の多結晶層の厚さを0.3μm以上とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記ベースウェーハとして、抵抗率が1,000Ω・cm以上のウェーハを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記ベースウェーハの二層の多結晶層を形成する面と逆側の面に、減圧CVDによって多結晶層を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項7】
ベースウェーハ上に酸化膜を介してSOI層が形成されたSOIウェーハであって、
前記ベースウェーハと前記酸化膜の間に、前記ベースウェーハ上に常圧CVD膜である第一の多結晶層と、該第一の多結晶層上に減圧CVD膜である第二の多結晶層からなる二層の多結晶層を有し、前記第一の多結晶層は前記第二の多結晶層よりグレインが大きいものであることを特徴とするSOIウェーハ。
【請求項8】
前記ベースウェーハと前記第一の多結晶層の間に、減圧CVD膜である多結晶層からなる種層を有するものであることを特徴とする請求項に記載のSOIウェーハ。
【請求項9】
前記ベースウェーハの二層の多結晶層を有する面と逆側の面に、減圧CVD膜である多結晶層を有するものであることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のSOIウェーハ。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のSOIウェーハのSOI層に、RFデバイスが形成されたものであることを特徴とする半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOIウェーハの製造方法、SOIウェーハ、及びこれを用いた半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末やワイヤレス通信の急速な普及により、通信インターフェースを主目的としたRF(Radio Frequency;高周波)デバイスが注目されており、今後も発展すると考えられている。近年の携帯端末やPCでは低消費電力デバイスの採用が進んでおり、このような場合、SOI(Silicon on Insulator)ウェーハを使用すると、リーク電流の低減による消費電力の低下のメリットがある。さらに、System on a Chip(SoC)などによって、SOIウェーハにRFデバイスを組み込むことにより、デバイス間のクロストークを減少させるというRF特性上のメリットもある。
【0003】
ここで、クロストークとは、デバイス間の望まれざる電気信号の伝播のことであり、例えばデバイスの配線間のキャパシタや、あるいはウェーハを通して、電気信号がやりとりされることである。ウェーハの抵抗率が高くなればなるほどクロストークは少なくなるが、実際にはデバイス形成部のウェーハ抵抗率を極端に高くすることはできない。
【0004】
SOIウェーハを使用することでクロストークを低減することができるのは、SOI層とベースウェーハの間に埋め込み酸化膜層(BOX層)が存在するため、ウェーハを通して、電気信号がやりとりされることを抑制できるからである。また、BOX層の下地となるベースウェーハにはデバイスが作製されないために、デバイス作製上の制限を受けずに高抵抗率ウェーハを使用することが可能であり、これによって一層RF特性を向上させることが可能である。
【0005】
このように、RFデバイス向けにSOIウェーハを使用する際、高抵抗率ウェーハをベースウェーハに使用すると一層RF特性が向上する。しかし、高抵抗率のベースウェーハを用いた場合、SOI層に作製されたソース・ドレインやその他電子回路の配置によっては、BOX層に電界が印加され、BOX層とベースウェーハとの界面に反転層が生じるケースがあり、このような場合、高抵抗率ウェーハを使用した効果が減少し、RF特性にも悪影響を及ぼし、所望のRF特性が得られなくなるという問題があった。なお、一般的に高抵抗率ウェーハとしては、1,000Ω・cm以上のウェーハが用いられることが多い。
【0006】
その対策として、BOX層とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)を高くして、キャリアを界面準位にトラップさせて反転層によるRF特性劣化を防止する技術が開示されている。このような技術として、例えば、BOX層とベースウェーハの界面にポリシリコン層や窒化酸化物のような中間層を導入して、反転層が形成されないようにして、良好なRF特性のSOIウェーハを得ることができる技術が知られている(特許文献1及び2)。
【0007】
また、SOI層を形成するシリコンウェーハとは異なる面方位をもつシリコンウェーハをベースウェーハとして使用しRF特性劣化を防止する方法なども紹介されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−507093号公報
【特許文献2】特表2007−507100号公報
【特許文献3】特開2009−231376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような技術では、SOIウェーハの製造工程が複雑になるだけでなく、ボイドやブリスターなどの貼り合わせ面の欠陥が発生しやすくなるといったデメリットがあることが発見された。また、ポリシリコンを用いた技術は、シリコンを用いたSOIウェーハの製造工程との親和性は高いが、このSOIウェーハを用いた半導体デバイス作製中の熱処理において、ポリシリコンが再結晶化し、所定の性能を得ることができなくなるという問題があった。さらに、従来技術のように面方位の異なる基板を準備するには単結晶から準備が必要であり、SOIウェーハの製造工程が非常に複雑になるという問題があった。そのため、製造工程自体が簡便で、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制される上、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハの製造方法が望まれていた。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、製造工程自体が簡便で、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制される上、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
また、貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制され、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハを提供することを目的とする。
さらに、このSOIウェーハを用いることで、優れたRF特性を有し、さらなる高性能化を達成できる半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、
ベースウェーハと、酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄層化するSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハに常圧CVDによって第一の多結晶層を形成した後、さらに減圧CVDによって第二の多結晶層を形成したうえで、二層の多結晶層を形成したベースウェーハと、前記酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせるSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0012】
このようなSOIウェーハの製造方法であれば、製造工程自体が簡便で、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制される上、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができる。
【0013】
またこのとき、前記第一の多結晶層を形成する前に、前記ベースウェーハに減圧CVDによって種層となる多結晶層を形成することが好ましい。
【0014】
このような種層を予め形成することで、その後の常圧CVDで第一の多結晶層を形成する際に、第一の多結晶層が単結晶化することを防止することができる。
【0015】
またこのとき、前記常圧CVDを行う際の温度を1,000℃以上とし、形成する前記第一の多結晶層の厚さを1μm以上とすることが好ましい。
【0016】
このような温度であれば、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生をさらに抑制できる。またこのような厚さであれば、より優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができる。
【0017】
またこのとき、前記減圧CVDを行う際の温度を前記常圧CVDを行う際の温度より低温とし、形成する前記第二の多結晶層の厚さを0.3μm以上とすることが好ましい。
【0018】
このような温度であれば、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生をさらに抑制できる。またこのような厚さであれば、より優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができる。
【0019】
またこのとき、前記ベースウェーハとして、抵抗率が1,000Ω・cm以上のウェーハを用いることが好ましい。
【0020】
これにより、より優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができる。
【0021】
また、本発明では、ベースウェーハ上に酸化膜を介してSOI層が形成されたSOIウェーハであって、
前記ベースウェーハと前記酸化膜の間に、前記ベースウェーハ上に常圧CVDによって形成された第一の多結晶層と、該第一の多結晶層上に減圧CVDによって形成された第二の多結晶層からなる二層の多結晶層を有するSOIウェーハを提供する。
【0022】
このようなSOIウェーハであれば、貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制され、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハとなる。また、このようなSOIウェーハは優れたRF特性を有することから、高周波用半導体デバイスに好適に用いることができる。
【0023】
またこのとき、前記ベースウェーハと前記第一の多結晶層の間に、減圧CVDによって形成された多結晶層からなる種層を有するものであることが好ましい。
【0024】
これにより、常圧CVDで形成される第一の多結晶層が単結晶化されていないSOIウェーハとなる。
【0025】
さらに、本発明では、上記のSOIウェーハのSOI層に、RFデバイスが形成された半導体デバイスを提供する。
【0026】
このような半導体デバイスであれば、優れたRF特性を有し、さらなる高性能化を達成できる半導体デバイスとなる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明であれば、製造工程自体が簡便で、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制される上、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハを低コストで製造することができる。
さらに、このようなSOIウェーハは優れたRF特性を有することから、高周波用半導体デバイスに好適に用いることができる。また、このようなSOIウェーハを用いて作製した半導体デバイスであれば、優れたRF特性を有し、さらなる高性能化を達成できる半導体デバイスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のSOIウェーハの製造方法の一例を示す説明図である。
図2】本発明のSOIウェーハの一例を示す断面概略図である。
図3】本発明のSOIウェーハの別の一例を示す断面概略図である。
図4】本発明の実施例1、比較例2での漏れ電流の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
上述のように、製造工程自体が簡便で、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制される上、酸化膜(BOX層)とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハの製造方法の開発が求められていた。
【0030】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、キャリアトラップ層となる多結晶層を二層とすることで、製造工程自体が複雑ではなく、貼り合わせ不良を低減しつつ、安定したトラップ機能を保持したSOIウェーハを製造することが可能となり、このSOIウェーハであれば、特に高周波用半導体デバイスの作製に好適に用いることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0031】
すなわち、本発明は、ベースウェーハと、酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせた後、前記ボンドウェーハを薄層化するSOIウェーハの製造方法であって、
前記ベースウェーハに常圧CVDによって第一の多結晶層を形成した後、さらに減圧CVDによって第二の多結晶層を形成したうえで、二層の多結晶層を形成したベースウェーハと、前記酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせるSOIウェーハの製造方法である。
【0032】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<SOIウェーハの製造方法>
図1は本発明のSOIウェーハの製造方法の一例を示す説明図である。
本発明のSOIウェーハの製造方法では、まずベースウェーハ1を用意し(図1(a))、このベースウェーハ1上に第一の多結晶層2を形成し(図1(b))、さらにその上に第二の多結晶層3を形成する(図1(c))。次に、ボンドウェーハ5を用意し(図1(d))、このボンドウェーハ5に酸化膜6を形成する(図1(e))。次に、二層の多結晶層を形成したベースウェーハ4と、酸化膜を形成したボンドウェーハ7を多結晶層及び酸化膜を介して貼り合わせ(図1(f))、貼り合わせたボンドウェーハ5を薄層化してSOI層8を形成し、SOIウェーハ10とする(図1(g))。
以下、各工程についてさらに詳しく説明する。
【0034】
[ベースウェーハ]
本発明のSOIウェーハの製造方法では、まずベースウェーハ1を用意する(図1(a))。
本発明のSOIウェーハの製造方法に用いられるベースウェーハとしては、特に制限されないが、シリコンウェーハ、特にシリコン単結晶ウェーハであることが好ましい。ベースウェーハがシリコンウェーハ、特にシリコン単結晶ウェーハであれば、クロストークを抑制してRF特性を一層向上させることができ、結晶性が一層良好となり、また、構造自体も複雑なものではなく、低コストで歩留り良く製造することができる。さらに、ベースウェーハがシリコンウェーハ、特にシリコン単結晶ウェーハであれば、後述の多結晶層としてポリシリコンをより容易に形成できるため好ましい。
【0035】
また、本発明のSOIウェーハの製造方法に用いられるベースウェーハとしては、抵抗率が1,000Ω・cm以上のものが好ましい。このような高抵抗率のベースウェーハを用いることで、より優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができ、SOI層に形成されるRFデバイスのクロストークをさらに抑制することができる。
【0036】
またここで、後述の第一の多結晶層を形成する前に、ベースウェーハに予め減圧CVDによって種層となる多結晶層を形成することが好ましい。このとき、減圧CVDを行う際の温度としては、例えば、500℃以上650℃以下とすることが好ましく、形成する種層の厚さとしては、0.1μm以上0.5μm以下とすることが好ましい。
このような種層を予め形成することで、その後の常圧CVDで第一の多結晶層を形成する際に、第一の多結晶層が単結晶化することを防止することができる。
【0037】
[多結晶層]
次に、上述のベースウェーハ1上に第一の多結晶層2を形成し(図1(b))、さらにその上に第二の多結晶層3を形成する(図1(c))。
このように、多結晶層を酸化膜とベースウェーハとの間の界面に存在させることで、酸化膜とベースウェーハの界面準位密度を高いものとすることができる。この界面準位にキャリアをトラップさせることによって、ベースウェーハを用いた場合に反転層が生じて見かけ上の抵抗率が減少してしまうことを抑制することができるため、RF特性の良好なSOIウェーハとすることができる。また、このようなSOIウェーハを用いて半導体デバイスを作製することで、低消費電力かつクロストークを低減させた半導体デバイスとすることができる。
【0038】
また、本発明ではこの多結晶層を二層形成する。ベースウェーハ側の第一の多結晶層によって、半導体デバイス作製中の熱処理において多結晶層の再結晶化が起こっても、酸化膜界面のトラップ層を保持することができる。このトラップ層がキャリアライフタイムキラーとして作用することでRF特性(スイッチング特性)が向上するため、高周波用半導体デバイスとしての性能を維持できる。しかし、第一の多結晶層では、グレインが大きいため貼り合わせ時にボイドが発生する恐れがある。そこで、酸化膜側(貼り合わせ面側)の第二の多結晶層によって、ポリグレインによる貼り合わせ不良のような製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生を抑制する。
以下、二層の多結晶層の形成についてさらに詳しく説明する。
【0039】
(第一の多結晶層)
多結晶層の形成では、まず、ベースウェーハ1上に常圧CVDによって第一の多結晶層2を形成する(図1(b))。なおこのとき、上述のようにベースウェーハに予め種層を形成したものに第一の多結晶層を形成することが好ましい。
【0040】
このとき、常圧CVDを行う際の温度としては、1,000℃以上1,200℃以下とすることが好ましい。温度を1,000℃以上とすることで、常圧CVDを行う際に小さいグレインの発生を抑制し、ベースウェーハの反りを抑えることができるため、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生をさらに抑制できる。また、温度を1,200℃以下とすることで、スリップ転位の発生等によるベースウェーハのダメージを低減することができる。
【0041】
また、形成する第一の多結晶層の厚さとしては、1μm以上10μmとすることが好ましい。厚さが1μm以上であれば、半導体デバイス作製中の熱処理の際に、第一の多結晶層が完全に再結晶化することがないため、より優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができる。また、厚さは10μmもあれば十分であり、特に厚さが10μm以下であれば、ベースウェーハの反りを抑えることができるため、貼り合わせ不良やボイド発生のような製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生をさらに抑制できる。
【0042】
(第二の多結晶層)
多結晶層の形成では、次に上記のようにしてベースウェーハ1上に形成した第一の多結晶層2上に減圧CVDによって第二の多結晶層3を形成する(図1(c))。
【0043】
このとき、減圧CVDを行う際の温度としては、上記の常圧CVDを行う際の温度よりも低温とすることが好ましく、例えば、500℃以上650℃以下とすることが好ましい。このような温度とすることで、減圧CVDを行う際に大きなグレインの発生を抑制できるため、ポリグレインによる貼り合わせ不良のような製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生を抑制できる。また、常圧CVDより低温で行うことで、既に形成された第一の多結晶層の再結晶化も抑制することができる。
【0044】
また、形成する第二の多結晶層の厚さとしては、0.3μm以上1μm以下とすることが好ましい。このような厚さであれば、酸化膜とベースウェーハとの界面に反転層が形成された際に、第二の多結晶層がキャリアトラップ層として十分に機能するため、より優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができる。
またこのとき、第二の多結晶層表面を微量研磨(タッチポリッシュ)して貼り合わせることにより貼り合わせ不良を低減することができる。
【0045】
(ベースウェーハ裏面の多結晶層)
また、ベースウェーハの二層の多結晶層を形成する面(ボンドウェーハとの貼り合わせ面)と逆側の面に、反りを低減するために減圧CVDによって多結晶層を形成してもよい。
【0046】
上述の裏面多結晶層はポリシリコン(多結晶シリコン)によって形成されたものであることが好ましい。
【0047】
[ボンドウェーハ]
本発明のSOIウェーハの製造方法では、次にボンドウェーハ5を用意する(図1(d))。
本発明のSOIウェーハの製造方法に用いられるボンドウェーハとしては、上述のベースウェーハと同様のものを用いることができ、特に制限されないが、シリコンウェーハ、特にシリコン単結晶ウェーハであることが好ましい。
【0048】
[酸化膜(BOX層)]
本発明のSOIウェーハの製造方法では、ボンドウェーハ5の貼り合わせ面に酸化膜6を形成する(図1(e))。
この酸化膜6は絶縁膜として機能するものであり、ベースウェーハ1とボンドウェーハ5の間に酸化膜6を形成することで、クロストークを低減することができ、RF特性を向上させることができる。また、特に制限されないが、この酸化膜6はシリコン酸化膜であることが好ましい。酸化膜6がシリコン酸化膜であれば、優れた絶縁性を有し、その膜厚の制御も容易であるため、半導体デバイスの作製に好適なSOIウェーハとなる。
【0049】
また、このときの酸化条件、酸化方法はSOIウェーハとしたときに必要な酸化膜の条件によって適宜変化する。通常酸化膜は厚く形成されるため、ボンドウェーハ5がシリコンウェーハ、特にシリコン単結晶ウェーハであるときは、例えば、Pyro雰囲気で1,150℃、6時間等の条件で酸化を行うことが好ましい。
【0050】
[貼り合わせ]
本発明のSOIウェーハの製造方法では、次に上述の二層の多結晶層を形成したベースウェーハ4と、酸化膜を形成したボンドウェーハ7をそれぞれ多結晶層及び酸化膜を介して貼り合わせる(図1(f))。またこのとき、貼り合わせ後に結合強度を上げるために結合熱処理を行うこともできる。この貼り合わせ工程の条件は特に限定されず、通常のSOIウェーハ製造における貼り合わせ条件のいずれをも適用することができる。
【0051】
[薄層化]
本発明のSOIウェーハの製造方法では、次に上記のようにして貼り合わせたボンドウェーハ5を薄層化してSOI層8を形成し、SOIウェーハ10とする(図1(g))。この場合の薄層化方法としては、研磨による方法も可能であるし、貼り合わせ前にボンドウェーハ5に水素イオンを注入してイオン注入層を形成し、その後熱処理してイオン注入層で剥離し、薄層化する方法でもよい。
【0052】
また薄層化後に、SOI層8の表面改質のため、熱処理や仕上げの研磨、さらにはエピタキシャル成長を行うことも可能である。これらの表面改質等の処理としては、センサーデバイスで求められる表面品質に合わせた処理を適宜選択することができる。
【0053】
このようにして、SOIウェーハ10を製造することができる。
上述のような、本発明のSOIウェーハの製造方法であれば、製造工程自体が簡便で、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制される上、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造することができる。
【0054】
<SOIウェーハ>
また、本発明では、ベースウェーハ上に酸化膜を介してSOI層が形成されたSOIウェーハであって、
前記ベースウェーハと前記酸化膜の間に、前記ベースウェーハ上に常圧CVDによって形成された第一の多結晶層と、該第一の多結晶層上に減圧CVDによって形成された第二の多結晶層からなる二層の多結晶層を有するSOIウェーハを提供する。
このようなSOIウェーハは、上記本発明のSOIウェーハの製造方法によって製造することができる。
【0055】
図2は本発明のSOIウェーハの一例を示す断面概略図である。
本発明のSOIウェーハ10は、ベースウェーハ1上に酸化膜6を介してSOI層8が形成され、ベースウェーハ1と酸化膜6の間に、第一の多結晶層2と第二の多結晶層3からなる二層の多結晶層を有する。
【0056】
また、上述のように、本発明のSOIウェーハの製造では、ベースウェーハの二層の多結晶層を形成する面(ボンドウェーハとの貼り合わせ面)と逆側の面に、反りを低減するために減圧CVDによって多結晶層を形成してもよい。このようにして得られたSOIウェーハの断面概略図を図3に示す。
反り低減用多結晶層を有するSOIウェーハ10’は、ベースウェーハ1上に酸化膜6を介してSOI層8が形成され、ベースウェーハ1と酸化膜6の間に、第一の多結晶層2と第二の多結晶層3からなる二層の多結晶層を有する。さらに、ベースウェーハ1の二層の多結晶層を形成する面と逆側の面に、反り低減用多結晶層9を有する。
【0057】
またこのとき、ベースウェーハと第一の多結晶層の間に、減圧CVDによって形成された多結晶層からなる種層を有するものであることが好ましい。このような種層を有することで、常圧CVDで第一の多結晶層を形成する際に第一の多結晶層が単結晶化することを防止することができるため、常圧CVDで形成される第一の多結晶層が単結晶化されていないSOIウェーハとなる。
【0058】
このようなSOIウェーハであれば、貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制され、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハとなる。また、このようなSOIウェーハは優れたRF特性を有することから、高周波用半導体デバイスに好適に用いることができる。
【0059】
<半導体デバイス>
さらに、本発明では、上記のSOIウェーハのSOI層に、RFデバイスが形成された半導体デバイスを提供する。
このような半導体デバイスであれば、優れたRF特性を有し、特に高周波用のものとして用いた際に、さらなる高性能化を達成できる半導体デバイスとなる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
抵抗率120Ω・cm、ボロンドープ、直径200mmのシリコンウェーハをベースウェーハ及びボンドウェーハとして用意した。
まず、モノシランを原料として570℃の減圧CVDで多結晶層を厚さ0.5μmとなるように成長させた(成長時間90min、種層)。次に、ベースウェーハにトリクロロシランを原料ガスとして1,150℃の常圧CVDで多結晶層を厚さ3μmとなるように成長させた(成長時間3min、第一の多結晶層)。この後、モノシランを原料として570℃の減圧CVDで多結晶層を厚さ0.5μmとなるように成長させた(成長時間90min、第二の多結晶層)。
次に、ボンドウェーハに1,150℃/Pyro雰囲気で6時間処理を行い、厚さ1,000nmの酸化膜を形成した。
上記の二層の多結晶層を形成したベースウェーハと、酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせた後、ボンドウェーハを研磨により薄層化して、SOI層の厚さが200nmのSOIウェーハとした。
【0062】
スペースを100μm空けた対向Al電極を形成し、この電極間の漏れ電流の周波数依存を測定した結果を図4に示す。
【0063】
[比較例1]
抵抗率120Ω・cm、ボロンドープ、直径200mmのシリコンウェーハをベースウェーハ及びボンドウェーハとして用意した。
まず、モノシランを原料として570℃の減圧CVDで多結晶層を厚さ0.5μmとなるように成長させた(成長時間90min、種層)。次に、ベースウェーハにトリクロロシランを原料ガスとして1,150℃の常圧CVDで多結晶層を厚さ3μmとなるように成長させた(成長時間3min、第一の多結晶層)。その後の第二の多結晶層の形成は行わなかった。
次に、ボンドウェーハに1,150℃/Pyro雰囲気で6時間処理を行い、厚さ1,000nmの酸化膜を形成した。
上記の一層の多結晶層を形成したベースウェーハと、酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせたが、多結晶層の表面荒れが大きく貼り合わせることができず、SOIウェーハを製造することができなかった。
【0064】
[比較例2]
抵抗率120Ω・cm、ボロンドープ、直径200mmのシリコンウェーハをベースウェーハ及びボンドウェーハとして用意した。
まず、モノシランを原料として570℃の減圧CVDで多結晶層を厚さ0.5μmとなるように成長させた(成長時間90min、種層)。次に、ベースウェーハに第一の多結晶層の形成を行わず、モノシランを原料として570℃の減圧CVDで多結晶層を厚さ0.5μmとなるように成長させた(成長時間90min、第二の多結晶層)。
次に、ボンドウェーハに1,150℃/Pyro雰囲気で6時間処理を行い、厚さ1,000nmの酸化膜を形成した。
上記の一層の多結晶層を形成したベースウェーハと、酸化膜を形成したボンドウェーハを貼り合わせた後、ボンドウェーハを研磨により薄層化して、SOI層の厚さが200nmのSOIウェーハとした。
【0065】
スペースを100μm空けた対向Al電極を形成し、この電極間の漏れ電流の周波数依存を測定した結果を図4に併せて示す。
【0066】
上述のように、ベースウェーハと酸化膜の間に二層の多結晶層を形成した実施例1は、製造工程自体が簡便で、製造工程において貼り合わせ面の欠陥が発生しなかった。また、図4に示されるように実施例1では、高周波側から低周波側に掛けてきれいな直線特性を得ることができた。
一方、ベースウェーハと酸化膜の間に第一の多結晶層のみを形成した比較例1では、製造工程において貼り合わせ面の欠陥が発生し、SOIウェーハを製造できなかった。また、ベースウェーハと酸化膜の間に第二の多結晶層のみを形成した比較例2では、SOIウェーハを製造できたものの、高周波側から低周波側シフトすると直線性が崩れ、漏れ電流が大きくなった。
また酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)は、実施例1では5×1013/cm/eV、比較例2では1×1010/cm/eVとなり、実施例1の界面準位密度(Dit)が高い結果となった。
【0067】
以上のように、本発明のSOIウェーハの製造方法であれば、製造工程自体が簡便で、製造工程における貼り合わせ面の欠陥の発生が抑制される上、酸化膜とベースウェーハとの間の界面準位密度(Dit)が高く、優れたRF特性を有するSOIウェーハを製造できることが明らかとなった。
【0068】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0069】
1…ベースウェーハ、 2…第一の多結晶層、 3…第二の多結晶層、
4…二層の多結晶層を形成したベースウェーハ、 5…ボンドウェーハ、
6…酸化膜、 7…酸化膜を形成したボンドウェーハ、 8…SOI層、
9…反り低減用多結晶層、 10…SOIウェーハ、
10’…反り低減用多結晶層を有するSOIウェーハ。
図1
図2
図3
図4