特許第6070488号(P6070488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6070488付加硬化性液状シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6070488
(24)【登録日】2017年1月13日
(45)【発行日】2017年2月1日
(54)【発明の名称】付加硬化性液状シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20170123BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20170123BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20170123BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20170123BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20170123BHJP
   B65D 85/60 20060101ALI20170123BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K3/36
   C08K9/06
   B65D1/34
   B65D85/60
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-183860(P2013-183860)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-52026(P2015-52026A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 野歩
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−508382(JP,A)
【文献】 特開2006−001953(JP,A)
【文献】 特開昭59−122558(JP,A)
【文献】 特開平09−324122(JP,A)
【文献】 特開2013−064090(JP,A)
【文献】 特開2013−124297(JP,A)
【文献】 特開昭54−146850(JP,A)
【文献】 特開2012−184350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00−83/16
C08K 3/0−13/08
B65D 1/00−90/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖両末端にケイ素原子と結合するアルケニル基を含有し、分子鎖途中にアルケニル基を有さない平均重合度が2,000以下である室温で液状のアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン: 100質量部
(B)ケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を一分子中に2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 0.01〜20質量部
(C)ケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を一分子中に3個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 0.2〜20質量部
(D)BET法による比表面積が130m2/g以上であるヒュームドシリカ: 30〜60質量部
(E)アルケニル基を含有するシラン及びシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種のシリカ表面処理剤: ヒュームドシリカ100質量部に対して0.01〜5質量部
(F)白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコ−ルとの反応物及び塩化白金酸とオレフィン類との錯体から選ばれる付加反応触媒: 触媒量
を含有してなり、(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル比(SiH基/アルケニル基)が0.01〜2.0であって、120〜230℃で3秒〜10分の加熱処理条件によって硬化し、デュロメーターA硬度計による硬度が75以上であり、かつ切断時伸びが300%以上であるシリコーンゴム硬化物を与える付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(D)成分の配合量が、(A)成分100質量部に対して35〜60質量部であり、(C)成分中のSiH基に対する(B)成分中のSiH基のモル比[(B)成分中のSiH基]/[(C)成分中のSiH基]が1/99〜60/40である請求項1記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(B)及び(C)成分中の合計SiH基量と、組成物全体のアルケニル基量とのモル比(SiH基/アルケニル基)が0.8〜5.0である請求項1又は2記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
(E)成分が1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンである請求項1〜3のいずれか1項記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
更に、(G)アルケニル基を含有しないシリカ表面処理剤を(D)成分100質量部に対し1〜40質量部含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
更に、(H)アルケニル基を含有するシロキサン単位が全シロキサン単位中の1〜100モル%であり、分子鎖途中にアルケニル基を含有する、25℃での粘度が200,000mPa・s以下であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを(A)成分100質量部に対して0.01〜20質量部含有する請求項1〜のいずれか1項記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
(H)成分が1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサンである請求項記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
25℃での粘度が50〜5,000Pa・sの範囲であり、液状射出成形用である請求項1〜のいずれか1項記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
食品トレイ又はお菓子の型用である請求項1〜8のいずれか1項記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項10】
引裂き強度が8kN/m以上であるシリコーンゴム硬化物を与えるものである請求項1〜のいずれか1項記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であって、デュロメーターA硬度計による硬度が75以上であり、かつ切断時伸びが300%以上であるシリコーンゴム硬化物。
【請求項12】
請求項11記載の硬化物からなる食品トレイ。
【請求項13】
請求項11記載の硬化物からなるお菓子の型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度(デュロメーターAによる硬度が75以上)の硬化物(シリコーンゴム)を与える付加硬化性シリコーンゴム組成物及び該組成物を加熱硬化してなるシリコーンゴム硬化物に関する。更に詳しくは、硬化後の硬度が高硬度であっても、高伸長(切断時伸びが300%以上)であるシリコーンゴムを形成でき、特に食品用途として使用する際に有用な付加硬化性シリコーンゴム組成物及び該組成物を加熱硬化してなるシリコーンゴム硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、安全性、外観の良さ(透明性)、肌触りの良さ、更には耐久性の良さから、医療、食品、工芸、電気・電子、自動車、事務機等の各分野で幅広く使用されている。特に、付加反応硬化タイプのシリコーンゴム組成物は、有機過酸化物硬化タイプのように有機過酸化物の分解による副生成物を生じないなどの安全面から、医療、食品用途に好んで使用されている。食品用途として使用されるシリコーンゴムは、硬さ(デュロメーター;タイプA)75以上、伸び300%以上、引裂き強さ8kN/m以上が必要となるケースが多い。一般的に、シリコーンゴムの高硬度化は無機質充填剤を高充填することにより達成しているが、この場合、伸びがでないため用途が限定されてしまう。
【0003】
また、特開平7−331079号公報(特許文献1)には、シリコーン生ゴムにシリコーンレジン及び補強性シリカを高充填した高伸長、高強度、高硬度ゴムが提案されている。しかしながら、最近では成形時間の短縮や成形品の構造の複雑化などの点から、射出成形用液状シリコーンゴムの使用が求められており、上記の方法を液状シリコーンゴムに応用すると粘度が高くなりすぎて成形が困難となる問題があった。
【0004】
特開2006−1953号公報(特許文献2)では、側鎖にビニル基を有するオルガノポリシロキサンをシリカと熱処理して得られる高硬度、比較的高伸長の液状シリコーンゴムが提案されている。また、特開2006−1954号公報(特許文献3)では、無官能のオルガノポリシロキサンを添加した高硬度、比較的高伸長のシリコーンゴムが提案されている。しかしながら、いずれも伸びが300%以上とはならず、また、これらの方法では引裂き強さが低いため脱型時に成形品が裂けてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−331079号公報
【特許文献2】特開2006−1953号公報
【特許文献3】特開2006−1954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を改善するためになされたもので、高硬度、高伸張性で、引張り強度及び引裂き強度が高い硬化物(シリコーンゴム)を与える液状付加硬化性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、分子鎖末端にのみアルケニル基を有する特定分子構造のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、一分子中に2個のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、一分子中に3個以上のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを併用すると共に、アルケニル基を含有するシラン及びシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種のシリカ表面処理剤で表面処理されたヒュームドシリカを組み合わせることにより、高硬度かつ高伸長性で、引張り強度及び引裂き強度が高いシリコーンゴムを与えるシリコーンゴム組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の付加硬化性シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム硬化物を提供するものである。
[1]
(A)分子鎖両末端にケイ素原子と結合するアルケニル基を含有し、分子鎖途中にアルケニル基を有さない平均重合度が2,000以下である室温で液状のアルケニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン: 100質量部
(B)ケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を一分子中に2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 0.01〜20質量部
(C)ケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を一分子中に3個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 0.2〜20質量部
(D)BET法による比表面積が130m2/g以上であるヒュームドシリカ: 30〜60質量部
(E)アルケニル基を含有するシラン及びシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種のシリカ表面処理剤: ヒュームドシリカ100質量部に対して0.01〜5質量部
(F)白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコ−ルとの反応物及び塩化白金酸とオレフィン類との錯体から選ばれる付加反応触媒: 触媒量
を含有してなり、(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル比(SiH基/アルケニル基)が0.01〜2.0であって、120〜230℃で3秒〜10分の加熱処理条件によって硬化し、デュロメーターA硬度計による硬度が75以上であり、かつ切断時伸びが300%以上であるシリコーンゴム硬化物を与える付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[2]
(D)成分の配合量が、(A)成分100質量部に対して35〜60質量部であり、(C)成分中のSiH基に対する(B)成分中のSiH基のモル比[(B)成分中のSiH基]/[(C)成分中のSiH基]が1/99〜60/40である[1]記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[3]
(B)及び(C)成分中の合計SiH基量と、組成物全体のアルケニル基量とのモル比(SiH基/アルケニル基)が0.8〜5.0である[1]又は[2]記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[4]
(E)成分が1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンである[1]〜[3]のいずれかに記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[5]
更に、(G)アルケニル基を含有しないシリカ表面処理剤を(D)成分100質量部に対し1〜40質量部含有する[1]〜[4]のいずれかに記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[6]
更に、(H)アルケニル基を含有するシロキサン単位が全シロキサン単位中の1〜100モル%であり、分子鎖途中にアルケニル基を含有する、25℃での粘度が200,000mPa・s以下であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを(A)成分100質量部に対して0.01〜20質量部含有する[1]〜[]のいずれかに記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[7]
(H)成分が1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサンである[]記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[8]
25℃での粘度が50〜5,000Pa・sの範囲であり、液状射出成形用である[1]〜[]のいずれかに記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[9]
食品トレイ又はお菓子の型用である[1]〜[8]のいずれかに記載のシリコーンゴム組成物。
[10]
引裂き強度が8kN/m以上であるシリコーンゴム硬化物を与えるものである[1]〜[]のいずれかに記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物。
[11]
[1]〜[10]のいずれかに記載の付加硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であって、デュロメーターA硬度計による硬度が75以上であり、かつ切断時伸びが300%以上であるシリコーンゴム硬化物。
[12]
[11]記載の硬化物からなる食品トレイ。
[13]
[11]記載の硬化物からなるお菓子の型。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記(A)〜(F)成分の特定量の組み合わせ、更に場合により(A)〜(F)成分に加えて(G)、(H)成分の特定量の組み合わせにより、高硬度で高伸長、かつ引張り強度及び引裂き強度の高いシリコーンゴムを与えるシリコーンゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
[(A)成分]
まず、(A)成分の、分子鎖両末端に、特には分子鎖両末端にそれぞれ1個の(即ち、1分子中に2個の)ケイ素原子と結合するアルケニル基を含有し、分子鎖途中にアルケニル基を有さない平均重合度が2,000以下である室温(25℃)で液状の直鎖状アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、本組成物の主剤(ベースポリマー)であり、この(A)成分としては、下記一般式(I)で示されるものの1種又は2種以上を用いることができる。
【化1】

(式中、R1は互いに同一又は異種の炭素数2〜10、好ましくは2〜8の非置換又は置換アルケニル基であり、R2はアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含有しない、互いに同一又は異種の炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は置換1価炭化水素基である。nは2,000以下、通常100〜1,500、好ましくは150〜1,000、より好ましくは400〜800である。)
【0011】
ここで、上記R1で示される炭素数2〜10、好ましくは2〜8の非置換又は置換のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの等が挙げられる。好ましくはビニル基、アリル基、プロペニル基、より好ましくはビニル基が挙げられる。
【0012】
また、上記R2で示されるケイ素原子に結合した炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は置換の1価炭化水素基としては、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含有しないものであり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基等や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全R2の90モル%以上、特には全てのR2基がメチル基であることが好ましい。
【0013】
このオルガノポリシロキサンの構造は、分子鎖両末端がアルケニルジオルガノシロキシ基(例えば、ビニルジメチルシロキシ基、ビニルメチルフェニルシロキシ基、アリルジメチルシロキシ基等)で封鎖され、主鎖がジオルガノシロキサン単位(例えば、ジメチルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位、ジフェニルシロキサン単位、メチルトリフロロプロピルシロキサン単位等)のランダムな繰り返しからなる直鎖状構造のジオルガノポリシロキサンであり、分子鎖途中に分岐構造がある場合、(B)成分と付加反応する際に鎖長延長だけでなく架橋反応も併発し、硬化したシリコーンゴムの伸び性が低下してしまう。
【0014】
(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、高硬度(デュロメーターAによる硬度が75以上)で、かつ高伸長性(切断時伸びが300%以上)のシリコーンゴム硬化物を与えるという観点から、分子量については、平均重合度(重量平均重合度、以下同様)が2,000以下、好ましくは100〜1,500、より好ましくは150〜1,000、更に好ましくは400〜800である。100未満では、十分なゴム感が得られないおそれがあり、2,000より高いと粘度が高くなり、成形が困難になってしまう。なお、本発明において、重合度(又は分子量)は、通常、トルエン等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算での重量平均重合度(又は重量平均分子量)として求めることができる。
【0015】
なお、このオルガノポリシロキサンは、上記平均重合度が2,000以下、特に1,500以下であれば、室温(25℃)で自己流動性のある液状物である。このオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、100〜200,000mPa・s、特に500〜150,000mPa・sであることが好ましい。本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)により測定することができる(以下、同じ)。
【0016】
なお、(A)成分としては、分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状のオルガノポリシロキサンであれば、分子構造(例えば、分子鎖末端のアルケニルジオルガノシロキシ基や主鎖中のジオルガノシロキサン単位中の置換基の種類や比率)や重合度の異なる1種又は2種以上のものを併用することができる。
【0017】
このように、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、具体的には、分子鎖両末端ジオルガノアルケニルシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサンである。なお、上記シロキサン中の「オルガノ基」とは、式(I)中のR2で示されるアルケニル基を除く非置換又は置換の1価炭化水素基と同様のものを意味するものである。
【0018】
[(B)成分]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に2個のケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(即ち、2官能性のオルガノハイドロジェンポリシロキサン)であり、分子中のSiH基が前記(A)成分中の分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル付加反応し、(A)成分の鎖長を延長する効果を有するものである。
【0019】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、好適には、直鎖状又は環状構造のものであればよい。分子中に2個だけ含有されるSiH基(ケイ素原子結合水素原子)は、分子鎖末端のケイ素原子に結合したものであっても、分子鎖途中(分子鎖非末端)のケイ素原子に結合したものであってもよく、これらの両方にそれぞれ1個ずつ結合したものであってもよい。
【0020】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、
分子鎖両末端ジオルガノハイドロジェンシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン、
分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖され主鎖中にオルガノハイドロジェンシロキサン単位を2個含有するオルガノハイドロジェンシロキサン・ジオルガノシロキサン共重合体、
分子鎖片末端がジオルガノハイドロジェンシロキシ基で封鎖され他方の末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、主鎖中にオルガノハイドロジェンシロキサン単位を1個含有するオルガノハイドロジェンシロキサン・ジオルガノシロキサン共重合体、
オルガノハイドロジェンシロキサン単位を2個含有するオルガノハイドロジェンシロキサン・ジオルガノシロキサン環状共重合体
等が挙げられる。
【0021】
具体的には、上記ハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記一般式(IIa)〜(IIc)
【化2】

(式中、R3は炭素数1〜10の非置換又は置換の1価炭化水素基、mは1〜300の整数、好ましくは1〜100の整数、より好ましくは2〜25の整数であり、kは0〜300の整数、好ましくは1〜100の整数、より好ましくは2〜25の整数であり、pは2〜10の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは2〜5の整数を示す。)
で示される構造を有するものが例示できる。
【0022】
ここで、上記R3で示される炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は置換の1価炭化水素基としては、アルケニル基等の脂肪族不飽和結合を含有しないものであることが好ましく、前記した(A)成分の一般式(I)におけるR2として例示したものと同様の基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が例示され、また、エポキシ環(例えば、グリシジル基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、2,3−エポキシシクロヘキシル基等)やアルコキシシリル基(例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等)、シラノール基(ヒドロキシシリル基)等の官能基を有する炭化水素基等が挙げられるが、全R3の90モル%以上、特には、全てのR3がメチル基であることが好ましい。
【0023】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は、通常2〜303個、好ましくは2〜100個であり、室温(25℃)で液状のものが好適に用いられる。
【0024】
また、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)の含有量としては、0.00009〜0.015モル/gであることが好ましく、より好ましくは0.00027〜0.010モル/gである。
【0025】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜20質量部であり、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.2〜10質量部、更に好ましくは0.2〜8質量部である。(B)成分の配合量が少なすぎると、十分な鎖長延長効果が得られず、低伸長性のゴムとなってしまい、20質量部より多いと、ゴム物性が低下してしまい、かつ不経済である。
【0026】
また、本発明においては、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基に対する、(B)成分中に含まれるSiH基の合計のモル比(SiH基/アルケニル基)が0.01〜2.0、特には0.05〜1.8程度となるように、(B)成分を配合する。(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基に対する、(B)成分中に含まれるSiH基の合計のモル比が0.01より低いと十分な(A)成分の鎖長延長効果が得られずゴムが低伸長になり、また、2.0より高い場合でも鎖長延長効果が減り、ゴム物性が著しく低下する。
【0027】
[(C)成分]
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に3個以上のケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(即ち、3官能以上の多官能性のオルガノハイドロジェンポリシロキサン)であり、本発明の組成物において硬化剤(架橋剤)として作用するものである。(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に3個以上のケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を含有する多官能性のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである点において、前記(B)成分とは明確に差別化されるものである。
【0028】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、より具体的には、分子中にSiH基以外の反応性基(例えば、アルケニル基等の脂肪族不飽和基等)を含有しないものであることが好ましく、一分子中にケイ素原子と結合する水素原子(即ち、SiH基)を3個以上有し、更に好ましくは分子中にフェニル基等の芳香族基を有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0029】
この(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記平均組成式(III)で示され、一分子中に少なくとも3個(通常、3〜200個)、好ましくは4個以上(通常、4〜200個)、より好ましくは5〜100個、更に好ましくは8〜50個程度のケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を有するものが好適に用いられる。
【0030】
4qrSiO(4-q-r)/2 (III)
(式中、R4は炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又はハロゲン置換の脂肪族不飽和結合を除く1価炭化水素基である。また、qは0.7〜2.1、rは0.001〜1.0で、かつq+rは0.8〜3.0を満足する正数である。)
【0031】
上記式中、R4の炭素数1〜10の非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基としては、前記(A)成分において一般式(I)のR2として例示したものと同じものを挙げることができるが、好ましくはフェニル基等のアリール基やアラルキル基などの芳香族炭化水素基を含まないものであり、具体的にはアルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
また、qは0.7〜2.1、好ましくは0.8〜2.0であり、rは0.001〜1.0、好ましくは0.01〜1.0であり、q+rは0.8〜3.0、好ましくは1.0〜2.5を満足する正数である。
【0032】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網目状のいずれの構造であってもよい。この場合、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は、通常3〜300個、好ましくは4〜200個、より好ましくは10〜200個、更に好ましくは15〜100個であり、室温(25℃)で液状のものが好適に用いられる。
なお、ケイ素原子に結合する水素原子は、分子鎖末端、分子鎖の途中(分子鎖非末端)のいずれに位置していてもよく、両方に位置するものであってもよい。
【0033】
上記(C)成分の一分子中に3個以上のケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CH3)SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CH32SiO2/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0034】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)の含有量としては、0.003〜0.017モル/gであることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.017モル/gである。0.003モル/gより少ないと架橋が不十分になってしまう場合があり、0.017モル/gより多いと不安定な物質になってしまう場合がある。
【0035】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分100質量部に対して0.2〜20質量部、望ましくは0.3〜18質量部、特に0.5〜15質量部であることが好ましい。0.2質量部より少ないと架橋が不十分になり、べたついたゴムになってしまい、20質量部より多いとゴム物性が低下してしまい、かつ不経済である。
【0036】
また、(B)成分と(C)成分との割合は、(C)成分中のSiH基のモル数に対する(B)成分中のSiH基のモル数の比:[(B)成分中のSiH基]/[(C)成分中のSiH基](モル比)が、好ましくは1/99〜70/30、より好ましくは3/97〜60/40、更に好ましくは5/50〜50/50の範囲となるような割合で用いるのが望ましい。この比が1/99より小さいと低伸長性のゴムとなる場合があり、また、70/30より大きいとゴム物性が低下する場合がある。
【0037】
なお、本発明においては、(B)成分と(C)成分の合計SiH官能基量と、組成物全体のアルケニル基量(特には、(A)成分及び後述する(E),(H)成分中のアルケニル基量)とのモル比(SiH基/アルケニル基)が、好ましくは0.8〜5.0、より好ましくは1.0〜4.0、更に好ましくは1.2〜3.0の範囲であるように用いる。0.8より小さいと架橋が不十分となり、べたついたゴムとなる場合があり、5.0を超えるとゴム物性が低下してしまう場合がある。
【0038】
[(D)成分]
(D)成分のヒュームドシリカ(煙霧質シリカ)は、硬化後のシリコーンゴムに十分な強度を与えるための補強性シリカ系充填剤として必須なものである。ヒュームドシリカのBET法による比表面積は、130m2/g以上、通常、130〜400m2/g、好ましくは150〜350m2/gである。130m2/gより小さいと十分な強度が得られないばかりか、成形物の透明性も低下してしまい、400m2/gより大きいと配合が困難になったり、変色したりしてしまうおそれがある。
【0039】
ヒュームドシリカの配合量は、(A)成分100質量部に対し、30〜60質量部であり、35〜50質量部であることが好ましい。配合量が30質量部より少ないと十分なゴム強度が得られず、また60質量部より多いと粘度が高くなり成形できなくなってしまう。
【0040】
上記(D)成分のヒュームドシリカは、後述する(E)アルケニル基を含有するシラン及びシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種のシリカ表面処理剤単独で、あるいは、この(E)成分と後述する(G)アルケニル基を含有しないシリカ表面処理剤とを併用して表面処理することにより用いられる。この場合、上記(D)成分のヒュームドシリカは、組成物を調製する際に、シリコーンオイル(即ち、(A)成分のオルガノポリシロキサンの一部又は全部)と(D)成分とを混練してベースコンパウンドを調製するときに、これら(E)成分の表面処理剤を同時に添加して、必要により少量の水の存在下に加熱混合処理(例えば、120〜180℃、特には130〜170℃で30分〜6時間、特には1時間〜4時間程度の条件で)することによって、組成物の調製中に表面処理(in−situe処理)して使用することが好ましい。
【0041】
[(E)成分]
(E)成分のアルケニル基を含有するシラン及びシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種のシリカ表面処理剤としては、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラビニル−1,3−ジメチルジシラザン、1−ビニル−1,1,3,3,3−ペンタメチルジシラザン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチル−3−ビニルトリシラザン等のビニル基含有のジシラザン、トリシラザン等のオルガノシラザン、N,N−ジメチルアミノジメチルビニルシラン等のビニル基含有のアミノシラン、また、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、メチルジメトキシビニルシラン、メトキシジメチルビニルシラン等のビニル基含有のアルコキシシランなどが挙げられ、特には1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンやトリメトキシビニルシランが好ましい。
【0042】
(E)成分のアルケニル基を含有するシラン及びシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種のシリカ表面処理剤の配合量は、上記ヒュームドシリカ100質量部に対し、0.01〜5質量部、特に0.1〜3質量部であることが好ましい。配合量が0.01質量部より少ないと十分な強度が得られず、5質量部より多いとゴム弾性が失われてしまう。
【0043】
[(F)成分]
(F)成分の付加反応触媒としては、白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコ−ルとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などのヒドロシリル化付加反応触媒として公知の白金族金属触媒が挙げられる。なお、この付加反応触媒の配合量は触媒量とすることができ、通常、白金族金属の質量換算として、(A),(B)成分の合計量に対し、0.5〜1,000ppm、特に1〜500ppm程度である。
【0044】
[(G)成分]
本発明の組成物には、必要に応じて添加する任意成分として、アルケニル基を含有しないシリカ表面処理剤((G)成分)を(E)成分と併用することができる。(G)成分のアルケニル基を含有しないシリカ表面処理剤としては、アルケニル基を有さないアルキルアルコキシシラン、アルキルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のアルキルシラザン、シランカップリング剤、チタネート系処理剤、脂肪酸エステルなど公知のいかなるものを1種で用いてもよく、また2種以上を同時に又は異なるタイミングで用いても構わない。
【0045】
これらアルケニル基を含有しないシリカ表面処理剤((G)成分)を併用する際の配合量は、上記ヒュームドシリカ100質量部に対し、0〜50質量部が好ましく、より好ましくは1〜40質量部、特に2〜30質量部であることが好ましい。配合量が50質量部より多いと付加反応を阻害したり、ゴムの補強効果が低下してしまう場合がある。
【0046】
[(H)成分]
本発明の組成物には、必要に応じて添加する任意成分として、分子鎖途中にアルケニル基を含有する、25℃での粘度が200,000mPa・s以下であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン((H)成分)をゴムの補強材として更に添加することができる。この(H)成分は、全シロキサン単位中の1〜100モル%がアルケニル基を含有するシロキサン単位(例えば、トリアルケニルシロキシ単位、ジアルケニルオルガノシロキシ単位、アルケニルジオルガノシロキシ単位等の1官能性シロキシ単位、アルケニルオルガノシロキサン単位等の2官能性シロキサン単位、アルケニルシルセスキオキサン単位等の3官能性シロキサン単位など)であり、25℃での粘度が20,000mPa・s以下のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであるが、(H)成分は、分子鎖途中(分子鎖非末端)のケイ素原子に結合するアルケニル基(即ち、2官能性であるジオルガノシロキサン単位中のケイ素原子に結合するアルケニル基)を必須に含有する点で、前記(A)成分とは明確に差別化されるものである。
【0047】
この(H)成分としては、例えば、下記平均組成式(IV)で示されるものの1種又は2種以上を用いることができる。
5sSiO(4-s)/2 (IV)
(式中、R5は互いに同一又は異種の炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は置換1価炭化水素基であり、sは1.5〜2.8、好ましくは1.8〜2.5、より好ましくは1.95〜2.05の範囲の正数である。)
【0048】
ここで、上記R5で示される炭素数1〜10の非置換又は置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全R5の50モル%以上、特にはアルケニル基を除く全てのR5がメチル基であることが好ましい。
【0049】
また、R5のうち少なくとも3個はアルケニル基(炭素数2〜8のものが好ましく、更に好ましくは2〜6であり、特に好ましくはビニル基である。)であることが好ましい。
なお、アルケニル基の含有量は、組成物中に含有される(H)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン全体の平均として、該オルガノポリシロキサン中1.0×10-4〜1.5×10-2モル/g、特に2.0×10-4〜1.3×10-2モル/gとすることが好ましい。アルケニル基の量が1.0×10-4モル/gより少ないとゴムの補強効果がない場合があり、また1.5×10-2モル/gより多いとヒドロシリル化反応を阻害してしまうおそれがある。
また、(H)成分において、アルケニル基を含有するシロキサン単位は、ゴム硬度を増大させたり、強度を向上させる点から、全シロキサン単位中の1〜100モル%、好ましくは3〜100モル%である。
【0050】
(H)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、分子鎖途中(分子鎖非末端)のケイ素原子に結合するアルケニル基(即ち、2官能性であるジオルガノシロキサン単位中のケイ素原子に結合するアルケニル基)を少なくとも1個分子中に含有するものであることが必要であるが、分子鎖末端のケイ素原子に結合するアルケニル基は含有していても、含有していなくても任意である。
【0051】
このオルガノポリシロキサンの構造は、環状構造や分岐状の構造、あるいは直鎖状構造を有していてもよい。
分子量については、環状体の場合、通常、重合度(又は分子中のケイ素原子数)が3〜10であり、このようなオルガノポリシロキサンとしては、特に、製造の容易さから1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルメチルシクロポリシロキサンや(ビニルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン)環状共重合体などが好ましい。また、分岐状構造や直鎖状構造の場合、平均重合度(重量平均重合度)が2,000以下、通常10〜1,500、好ましくは30〜1,000であることが好ましい。10未満では、十分なゴム感が得られないおそれがあり、2,000より高いと粘度が高くなり、成形が困難になってしまうおそれがある。直鎖状構造のオルガノポリシロキサンとしては、具体的には、分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・アルケニルオルガノシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジオルガノアルケニルシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・アルケニルオルガノシロキサン共重合体、分子鎖両末端オルガノジアルケニルシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・アルケニルオルガノシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリアルケニルシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・アルケニルオルガノシロキサン共重合体(但し、ここでオルガノ基にはアルケニル基等の脂肪族不飽和基は含まない)等の、主鎖中の側鎖置換基としてアルケニル基を含有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
【0052】
このアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの25℃における粘度は、200,000mPa・s以下であればよく、粘度の下限に特に制限はないが、通常、0.1mPa・s以上であればよい。
【0053】
(H)成分を配合する際の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部である。少なすぎると(H)成分を配合した効果がゴム物性に現れない場合があり、多すぎると硬化速度やゴム物性が低下する場合がある。
【0054】
[その他の成分]
その他の成分として、必要に応じて、沈降シリカ、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウムのような充填剤や、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、エチニルシクロヘキサノール等のアセチレン系化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を配合することは任意とされる。
【0055】
本発明のシリコーンゴム組成物は、上記成分を混合することにより製造することができるが、室温(25℃)で液状のもの、特に粘度が50〜5,000Pa・s、特に100〜3,000Pa・sであるものが好ましい。
【0056】
このシリコーンゴム組成物の成形、硬化方法としては、常法を採用し得るが、成形法として液状射出成形法が好適に採用される。また、硬化条件としては、120〜230℃で3秒〜10分、好ましくは150〜210℃で5秒〜3分程度の加熱処理条件を採用し得る。
【0057】
本発明においては、上記シリコーンゴム組成物を硬化して得られた硬化物(シリコーンゴム)のデュロメーターA硬度計による硬度が75以上である。硬度が75未満では、食器容器等に用いた場合、内容物の荷重のためにシリコーンゴムが変形してしまう。上記硬度は(C)〜(F)成分及び場合により(H)成分の配合比率を適宜調整することにより達成することができる。
【0058】
このシリコーンゴムの切断時伸びは300%以上、特に350%以上であることが好ましく、また、引裂き強度[クレセントタイプ]が8kN/m以上、特に10kN/m以上であることが好ましい。引張り強度は3MPa以上、特に5MPa以上であることが好ましい。切断時伸びが300%未満の場合では脱型時にゴムが裂けてしまう。また、引裂き強度が8kN/m未満、引張り強度が3MPa未満の場合も脱型時にゴムが裂けてしまう場合がある。上記特性は(A)〜(F)成分を適切な配合比率で配合することにより達成することができる。なお、本発明において、硬度、切断時伸び、引裂強度、引張り強度はJIS−K6249に従って測定した値である。
【0059】
本発明のシリコーンゴムは、食品用途、特に食品トレイやお菓子の型等に好適に用いられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例と比較例によりこの発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記例で部は質量部を示す。また、平均重合度は、トルエンを展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算での重量平均重合度を示す。粘度は回転粘度計による25℃での測定値を示す。
【0061】
[実施例1]
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が750、粘度が30,000mPa・sであるジメチルポリシロキサン(A1)55部、比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)40部、ヘキサメチルジシラザン6.5部、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン1.5部、水2.0部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース100部に、上記ジメチルポリシロキサン(A1)25部、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン1.0部、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖され、ケイ素原子に直接結合する酸素原子、水素原子以外の、ケイ素原子に結合する1価炭化水素基の全てがメチル基である2官能性のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)(重合度20の、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、SiH基量0.0014モル/g)1.0部[(B1)中のSiH基/(A1)中のアルケニル基=0.5(モル/モル)]、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、ケイ素原子に直接結合する酸素原子、水素原子以外の、ケイ素原子に結合する1価炭化水素基の全てがメチル基である多官能性のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C1)(重合度68の、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、SiH基量0.011モル/g)4.15部、[(B1)成分と(C1)成分中の合計SiH基/組成物中の全アルケニル基=1.5(モル/モル)]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.04部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物[25℃でのBS型粘度計、ローター7番、2rpmでの測定結果が1,800Pa・s]を得た。
【0062】
このシリコーンゴム組成物中に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、150℃/5分のプレスキュア後、オーブン内で150℃で1時間のポストキュアを行なった硬化物について、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント型)を測定した結果を表1に示した。
【0063】
[実施例2]
実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)55部、比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)40部、ヘキサメチルジシラザン6.5部、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン1.5部、水2.0部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース100部に、実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)25部、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン1.0部、下記式(V)
【化3】

で示される一分子中に2個のSiH基を有する環状の2官能性オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)(SiH基量0.0062モル/g)0.8部[(B2)中のSiH基/(A1)中のアルケニル基=1.7(モル/モル)]、実施例1の分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素基を有する多官能性のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C1)を4.5部[(B2)成分と(C1)成分中の合計SiH基/組成物中の全アルケニル基=1.7(モル/モル)]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物[25℃でのBS型粘度計、ローター7番、2rpmでの測定結果が1,600Pa・s]を得た。
【0064】
このシリコーンゴム組成物中に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、150℃/5分のプレスキュア後、オーブン内で150℃で1時間のポストキュアを行なった硬化物について、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント型)を測定した結果を表1に示した。
【0065】
[比較例1]
実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)55部、比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)40部、ヘキサメチルジシラザン6.5部、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン1.5部、水2.0部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース100部に、実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)25部、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン1.0部、実施例1の分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素原子を有する多官能性オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C1)を4.3部[(C1)成分中の合計SiH基/組成物中の全アルケニル基=1.5(モル/モル)]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.04部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物[25℃でのBS型粘度計、ローター7番、2rpmでの測定結果が1,900Pa・s]を得た。
【0066】
このシリコーンゴム組成物中に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、150℃/5分のプレスキュア後、オーブン内で150℃で1時間のポストキュアを行なった硬化物について、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント型)を測定した結果を表1に示した。
【0067】
[比較例2]
実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)55部、比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)40部、ヘキサメチルジシラザン8.0部、水2.0部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース100部に、実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)25部、実施例1の分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖され、側鎖置換基が全てがメチル基である2官能性オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)1.0部[(B1)中のSiH基/(A1)中のアルケニル基=0.5(モル/モル)]、実施例1の分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素基を有する多官能性オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C1)を2.25部[(B1)成分と(C1)成分中の合計SiH基/組成物中の全アルケニル基=1.8(モル/モル)]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物[25℃でのBS型粘度計、ローター7番、2rpmでの測定結果が2,000Pa・s]を得た。
【0068】
このシリコーンゴム組成物中に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、150℃/5分のプレスキュア後、オーブン内で150℃で1時間のポストキュアを行なった硬化物について、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント型)を測定した結果を表1に示した。
【0069】
[比較例3]
実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)55部、比表面積が300m2/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル300)40部、ヘキサメチルジシラザン6.5部、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン1.5部、水2.0部を室温で30分混合後、150℃に昇温し、3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。このシリコーンゴムベース100部に、実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)25部、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン1.0部、分子鎖両末端がジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖され、ケイ素原子に直接結合する酸素原子、水素原子以外の、ケイ素原子に結合する1価炭化水素基の全てがメチル基である多官能性オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C2)(重合度20の、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、SiH基量0.0053モル/g)1.0部[(C2)中のSiH基/(A1)中のアルケニル基=1.8(モル/モル)]、実施例1の分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にケイ素原子結合水素基を有する多官能性オルガノハイドロジェンポリシロキサン(C1)を4.4部[(C2)成分と(C1)成分中の合計SiH基/組成物中の全アルケニル基=1.7(モル/モル)]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部を添加し、15分撹拌を続けて、シリコーンゴム組成物[25℃でのBS型粘度計、ローター7番、2rpmでの測定結果が1,900Pa・s]を得た。
【0070】
このシリコーンゴム組成物中に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、150℃/5分のプレスキュア後、オーブン内で150℃で1時間のポストキュアを行なった硬化物について、JIS−K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸び、引裂き強度(クレセント型)を測定した結果を表1に示した。
【0071】
【表1】