(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心軸を中心として回転する金属製の筒状体の外周面に内径30μm〜1000μmのガス放出孔が複数個配されたガス放出金属ロールの製造方法であって、該中心軸方向に延在する複数のガス導入路を前記筒状体の肉厚部の厚み方向の中央部に全周に亘ってその周方向に略等間隔に設ける工程と、前記複数のガス導入路の各々に対して前記筒状体の外周面側で開口する複数のガス放出孔をレーザ加工で貫通させる工程とからなり、前記レーザ加工の際に対象となるガス導入路に挿入しておいたフッ素樹脂ロッドのレーザ痕を調べることによって前記複数のガス放出孔の貫通を確認することを特徴とするガス放出金属ロールの製造方法。
前記中心軸方向から見た時、前記複数のガス放出孔の各々は、それが連通するガス導入路の中心と前記筒状体の中心とを結ぶ直線から最大60°傾いた方向に延在するように加工することを特徴とする、請求項2に記載のガス放出金属ロールの製造方法。
前記複数のガス導入路の各々に、その延在方向に沿って配された少なくとも2列のガス放出孔群を連通させることを特徴とする、請求項2又は3に記載のガス放出金属ロールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の電子機器には、耐熱性樹脂フィルム上に所定のパターンを有する配線が形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付樹脂フィルムに配線をパターニングすることで得られるが、近年は配線パターンがますます繊細化、高密度化する傾向にあり、これに伴って金属膜付樹脂フィルムにはシワ等のない平滑なものが求められている。
【0003】
この種の金属膜付樹脂フィルムの製造方法として、従来から、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独により又は真空成膜法と湿式めっき法との併用により金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法に用いる真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
例えばメタライジング法に関して、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロム層をスパッタリングした後、銅をスパッタリングして導体層を形成する方法が記載されている。また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングによる第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングによる第二の金属薄膜とがこの順でポリイミドフィルム上に成膜されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。なお、上記したポリイミドフィルムの様な耐熱性樹脂フィルムに真空成膜を行って金属膜付樹脂フィルムを作製する場合は、一般的にスパッタリングウェブコータと称される成膜装置が用いられている。
【0005】
ところで、上述した真空成膜法において、一般にスパッタリング法は密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。このシワの発生を防ぐため、上記したスパッタリングウェブコータでは、内部に冷媒循環路を備えたキャンロールとも称される金属ロールにロールツーロール方式で搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムを巻き付けた状態で成膜することによって、成膜により発生した長尺耐熱性樹脂フィルムの熱をその裏面側から冷却することが行われている。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には上記の金属ロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、更にクーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側に設けたサブロールによって長尺耐熱性樹脂フィルムをクーリングロールの外周面に密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、金属ロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、金属ロールの外周面とそこに巻き付けて搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムとの間には真空空間を介して離間する隙間(ギャップ部)が存在している。このため、成膜の際に生じる長尺耐熱性樹脂フィルムの熱は金属ロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルムのシワ発生の原因となることがあった。
【0008】
そこで、金属ロールの外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムとの間のギャップ部に金属ロールの外周面側からガスを導入する技術が提案されている。例えば特許文献4には、金属ロールの外周面にガス放出孔となる多数の微細な孔を設け、これら微細孔を介して金属ロール外周面側からギャップ部にガスを導入することでギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くする技術が開示されている。
【0009】
なお、非特許文献2によれば、導入ガスがアルゴンガスで導入ガス圧力が500Paの場合、金属ロール外周面と耐熱性樹脂フィルムとのギャップ部の距離が約40μm以下の分子流領域のとき、当該ギャップ部の熱コンダクタンスは250(W/m
2・K)であるとされる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る微細孔の貫通方法の実施形態について、該貫通方法を後述する真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)に搭載されるガス放出金属ロールの製造に適用する場合を例に挙げて説明する。かかるガス放出金属ロールは一般に
図1に示すように中心軸Oを中心にして回転する金属製の外筒部1を有しており、その肉厚部には中心軸O方向に延在する複数のガス導入路5と、これら複数のガス導入路5の各々に連通して外筒部1の外周面で開口する複数のガス放出孔6とが設けられている。
【0021】
図2をも参照しながら先ずこのガス放出金属ロールの構造について具体的に説明する。このガス放出金属ロールは、金属製の外筒部1の肉厚部に、中心軸O方向に延在する複数のガス導入路5が周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って設けられている。そして、これら複数のガス導入路5の各々には、外筒部1の外周面で開口する複数のガス放出孔6が連通している。各ガス導入路5に連通する複数のガス放出孔6は、当該ガス導入路5の延在方向に沿って略均等な間隔で配されている。
【0022】
外筒部1の内側には筒状の内筒部2が外筒部1に対して同心軸状に設けられている。また、外筒部1の両端にはそれぞれ円板状の第1蓋部3a及び第2蓋部3bが取り付けられている。そして、これら外筒部1、内筒部2、並びに第1蓋部3a及び第2蓋部3で画定される空間が冷却水などの冷媒が流通する冷媒循環路4になっている。このような外筒部1および内筒部2からなる2重管構造はジャケットロール構造と称される。
【0023】
なお、冷媒循環路4の構造はかかるジャケットロール構造に限定されるものではなく、外筒部1の内側にパイプを螺旋状に巻いた構造でもよい。冷媒循環路4内の冷媒は、真空成膜装置の外部に設けられた図示しない冷媒冷却装置との間で中心軸O部分に設けられたシャフト内の流路を介して循環できるようになっており、これによりガス放出金属ロールの外筒部1の温度調節が可能になっている。
【0024】
外筒部1の一端にはガスロータリージョイント7が設けられており、更にガスロータリージョイント7には真空成膜装置の外部の図示しないガス供給装置で生成したガスを供給するガス供給路8が接続している。これにより、ガスロータリージョイント7で分配されたガスが上記した複数のガス導入路5に供給される。複数のガス導入路5に供給されたガスは、各々連通する複数のガス放出孔6を経て外筒部1の外周面から放出される。この外筒部1の外周面には後述するように長尺耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられるので、この外筒部1の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムとの間のギャップ部にガスを導入することが出来る。
【0025】
外筒部1に設けられる複数のガス導入路5の本数や、各ガス導入路5に連通させるガス放出孔6の個数は、外筒部1の外周面において長尺耐熱性樹脂フィルムが巻き付けられる角度範囲(抱き角とも称する)、外筒部1に巻き付く時の長尺耐熱性樹脂フィルムの張力、ギャップ部に導入するガス放出量等に応じて適宜定めることができる。また、各ガス放出孔6の内径は、外筒部1の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムとの間のギャップ部に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定されないが、ガス放出孔6の内径が1000μmを超えるとその近傍の冷却効率が低下する原因となるため、一般的にはガス放出孔6の内径は30〜1000μm程度が好ましい。
【0026】
各ガス導入路5に連通させる複数のガス放出孔6については、小さな内径を有するガス放出孔6を狭ピッチにして多数配置することが外筒部1の全面に亘って熱伝導性を均一化できるという点において好ましい。これは、ガス放出孔6の直上はミクロ的に見て外筒部1の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムとが最も離間する場所であり、この場所では熱伝導率が低下するからである。しかしながら、小さな内径のガス放出孔6を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、現実的には内径100〜500μm程度のガス放出孔6を5〜10mmのピッチで配置することが好ましい。
【0027】
ガスロータリージョイント7には、複数のガス導入路5のうち、長尺耐熱性樹脂フィルムが巻き付いているいわゆる抱き角以外に位置しているガス導入路5にはガスの供給を遮断する機構を備えることが好ましい。これは、例えばガスロータリージョイント7内に形成されている分配された各流路に電気的又は電磁気的に作動する弁等のガス供給制限手段を設け、当該抱き角以外に位置しているガス導入路5に対応するガス供給制限手段を閉鎖位置に作動させることで実現することができる。
【0028】
これにより、長尺耐熱性樹脂フィルムが巻き付いている抱き角内に位置するガス放出孔6だけからガスが放出され、長尺耐熱性樹脂フィルムが巻き付いていない抱き角以外のガス放出孔6からはガスが放出されることはない。従って、ガス供給路8を介して供給されるガスのほとんどを外筒部1の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムとの間に形成されるギャップ部に導入できるため、当該ギャップ部の間隔をほぼ一定に維持するようにガス流量を制御するのが容易になり、外筒部1の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムとの間の熱コンダクタンスをより均一にすることが可能となる。
【0029】
なお、外筒部1と長尺耐熱性樹脂フィルムとが離間する距離は、該樹脂フィルムの種類や厚さ、該樹脂フィルムの搬送時の張力、ガス導入量等により異なる。外筒部1の外周面と長尺耐熱性樹脂フィルムとの離間距離が40μm程度であれば、外筒部1のガス放出孔6から当該ギャップ部に導入されるガスを真空成膜装置が備える真空ポンプで排気することができる。従って、ギャップ部に導入するガスをスパッタリング雰囲気のガスと同じにすれば、スパッタリング雰囲気を汚染することもない。このようがガスとしては、例えば熱伝導性も比較的良好なアルゴンが望ましい。
【0030】
上記したガス放出金属ロールは、真空成膜装置以外にプラズマ処理やイオンビーム処理にも好適に使用することができる。これらプラズマ処理やイオンビーム処理は、長尺樹脂フィルムの表面改質を目的として真空チャンバー内の減圧雰囲気下で行われるが、長尺樹脂フィルムに熱負荷が掛かる処理であるためシワ発生の原因となる。そのため、上記したようなガス放出金属ロールを使用すれば、ガス放出金属ロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの離間間隔をほぼ一定に維持することができ、熱コンダクタンスを容易に均一にすることができるので、シワの発生を抑えることが可能となる。
【0031】
尚、プラズマ処理とは、公知のプラズマ処理方法により例えばアルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスからなる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺樹脂フィルムを処理する方法である。一方、イオンビーム処理とは、公知のイオンビーム源を用い、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させ、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして照射することにより長尺樹脂フィルムを処理する方法である。
【0032】
次に、上記したガス放出金属ロールの製造方法について説明する。先ず、
図3(a)に示すように、外筒部1の基材として突き合わせ溶接もしくは摩擦攪拌接合により接合したパイプ、シームレスパイプ、または鋳造パイプ等の筒状部材100を用意する。筒状部材100の材質は、熱伝導率および加工性に優れる、アルミ、銅、ステンレスが適している。この筒状部材100の内側にあらかじめ内筒部および両側の円板状の蓋部を取り付けた後、その肉厚部にガンドリルを用いて
図3(b)に示すように筒状部材100の中心軸方向に延在する複数のガス導入路5を筒状部材100の周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って設ける。
【0033】
筒状部材100に設けるガス導入路5の本数は、例えば周方向のガス導入路5のピッチを従来のガス放出金属ロールと同等の1°毎にして360本設けてもよいし、従来の2倍のピッチである2°毎にして180本設けてもよい。各ガス導入路5の長さは、筒状部材100の幅の50%以上にするのが好ましい。この長さが50%未満であればこれに連通させるガス放出孔6の数が不足し、長尺耐熱性樹脂フィルムと金属ロールの外周面との間に充分な量のガスを導入できなくなるからである。
【0034】
なお、ガンドリルは直径の約100倍の深さ(穴開け加工長さ)が実用的な限度とされており、細穴を長く(深く)開けることは難しい。例えば、金属膜付樹脂フィルムの生産性を考慮すると使用される金属ロールの幅は700mmを超える。仮に形成するガス導入路5の長さ(深さ)を700mmとすればガンドリルの穴径は7mm程度以上となる。なお、ガンドリルの穴径を太くしすぎると隣接するガス導入路5の間に存在する肉厚部の幅が狭くなって外筒部1の熱伝導率が低下するので好ましくない。
【0035】
また、ガンドリルは穿孔していくに従って肉厚の薄い方向に曲がって進みやすい傾向があるため、筒状部材100の外周面近くにガス導入路5を設ける場合は当該外周面側に寄っていかないように注意が必要である。なお、上記の点が問題になる場合は、筒状部材100の両端から加工してもよい。あるいは、ガンドリル加工に代えて外筒部1を二重パイプで構成し、内側のパイプの外周面にその中心軸に平行に延在するガス導入路5となる溝を彫り込み、外側にパイプを焼き嵌めてもよい。
【0036】
次に、
図3(c)に示すように、各ガス導入路5に連通する複数のガス放出孔6をレーザにより加工する。なお、前述したようにガンドリル加工では肉厚が薄いと直進性に問題が生じることがあるので、筒状部材100の肉厚部の厚み方向の中央部にガス導入路5を設けた後、ガス放出孔6を穿孔する前に筒状部材100の外周面側を円筒研削するのが好ましい。これにより、外周面からガス導入路5までの深さが浅くなるのでガス放出孔6の加工時間を短くすることができる上、より内径の小さなガス放出孔6を形成することができる。
【0037】
上記したガス放出孔6をレーザにより加工する際、
図4に示すように、ガス放出金属ロールの外筒部1に設けたガス導入路5内にフッ素樹脂ロッド30を挿入する。そして、
図5に示すように、ガス導入路5内にフッ素樹脂ロッド30を挿入した状態でレーザ31を照射してガス放出孔6の穿孔を行う。外筒部1の外周面側から照射したレーザがガス導入路5に貫通すると、そこに挿入されていたフッ素樹脂ロッド30にレーザダメージ(レーザ痕)32が残る。従って、レーザ加工の終了後、フッ素樹脂ロッド30をガス導入路5から引き出して、このレーザダメージ32を調べることで貫通を確認することができる。
【0038】
このようにガス導入路5に挿入するロッドの材質にフッ素樹脂を選定する理由は、波長1064nmのレーザの透過率が高く、発熱し難く且つ溶解し難いからである。また、仮にガス導入路5内で溶解したとしても、ガス導入路5の内壁に密着することがなく容易に引きはがすことが可能だからである。なお、レーザ加工の際にガス導入路5内にフッ素樹脂ロッドを挿入しておくことにより、ガス導入路5の内壁面にレーザが直接照射してダメージを与えることを防ぐことも可能になる。
【0039】
更に、貫通した際にレーザで溶けた金属片を、フッ素樹脂ロッドに付着させることができるため、この溶けた金属片が貫通孔の反対側に位置するガス導入路5の内壁面に溶射されたように付着することがなくなる。このフッ素樹脂ロッドに付着した金属片は、フッ素樹脂ロッドをガス導入路5から取り出す時に剥がれて粉状になり、簡単な洗浄でガス導入路5から容易に取り出すことができる。
【0040】
レーザによるガス放出孔6の加工後は、外筒部1の外周面にレーザ加工時に発生した溶けた金属が付着していたり、外周面が若干平坦になっていなかったりすることがあるので、円筒切削あるいは円筒研磨を行うのが好ましい。更に外筒部1の外周面に傷付き防止のため、必要に応じてニッケルめっき、ダイヤモンドライクカーボンコーティング、タングステンカーバイトコーティング、窒化チタンコーティング等の処理を行うことが望ましい。このようにして作製した外筒部1にガスロータリージョイント7を取り付けることによりガス放出金属ロールが完成する。
【0041】
なお、
図6に示すように、筒状部材200に設けた各ガス導入路15にその延在方向に沿って2列のガス放出孔群16a、16bを連通させてもよい。これにより、ガス放出孔6の周方向のピッチを従来のまま確保しながら隣接するガス導入路15同士のピッチを従来よりも広くすることができ、外筒部1の伝熱効率を高めることができる。また、ガス導入路15の本数を減らすことができるので、手間と時間のかかるガンドリル加工を減らすことができる。このように複数列のガス放出孔群を設ける場合は、筒状部材200の外周面からガス導入路15に向かう法線に対して傾斜した角度でレーザ照射することになる。
【0042】
このように法線に対して傾斜した角度で外周面に孔を開けるのは、マイクロドリルでは刃先が入りにくく非常に難しい。これに対してレーザ加工であれば容易に開けることができる。但し、この傾斜角度が法線方向から60°を超えて傾くと、ガス放出孔の外周面での開口部の形状が極端な楕円に成るばかりか、当該開口部での鋭角な部分がレーザで溶けてしまい、孔径が大きくなるので好ましくない。なお、複数のガス導入路の各々に、その延在方向に沿って2列のガス放出孔群を連通させる場合は、これらガス放出孔群を千鳥状に配してもよい。
【0043】
上記のようにして作製されたガス放出金属ロールは、例えば
図7に示すような成膜装置にキャンロールとして使用される。この成膜装置は、ロールツーロール方式で搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムに連続的にスパッタリングで成膜を行う時に使用するものであり、長尺耐熱性樹脂フィルムをキャンロールに巻き付けて冷却しながら成膜することで成膜時の熱的ダメージを抑えることができる。以下、かかるキャンロールを備えた成膜装置について説明する。
【0044】
この
図7に示すスパッタリングウェブコータとも称される成膜装置50は略直方体形状の真空チャンバー51内に設けられており、巻出ロール52から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルムFに連続的に所定の成膜処理を施した後、巻取ロール64で巻き取るようになっている。この成膜処理は巻出ロール52から巻取ロール64までの搬送経路の途中に配置されたキャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付けた状態で行われる。
【0045】
キャンロール56はその中心軸部に回転駆動用のモータが取り付けられており、また内部には温調された冷媒が循環している。これにより、外周面に巻き付いている長尺耐熱性樹脂フィルムFを裏面から冷却できるようになっている。なお、キャンロール56の外周面において長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられる角度範囲のことを抱き角Aと称することもある。
【0046】
この成膜装置50では、スパッタリング成膜に際して、真空チャンバー51内を到達圧力10
−4Pa程度まで減圧した後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。この真空チャンバー51の形状や材質については、上記減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。上記した真空チャンバー51内の減圧状態を維持するため、成膜装置50には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0047】
巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール53と、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54とがこの順に配置されている。また、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺耐熱性樹脂フィルムFは、キャンロール56の直前に設けられたモータ駆動のフィードロール55によってキャンロール56の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルムFを密着させて搬送することができる。
【0048】
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記と同様にキャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力測定を行う張力センサロール62、及び長尺耐熱性樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0049】
上記巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、長尺耐熱性樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転と、これに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻出ロール52から長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き出されて巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
【0050】
キャンロール56の外周面に対向する位置には、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられるキャンロール56の外周面上の搬送経路に沿って成膜手段としての4つのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60がこの順に設けられている。なお、金属膜のスパッタリング成膜の場合には、
図7に示すように板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用してもよい。
【0051】
これにより例えば耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等からなる膜とCu膜が積層された長尺の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製することができる。このNi合金等からなる膜はシード層と呼ばれ、Ni−Cr合金又はインコネル、コンスタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができるが、その組成は金属膜付耐熱性樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて選択される。
【0052】
また、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの金属膜を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて厚い金属膜を形成してもよい。この場合は、電気めっき処理のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理を行う場合がある。これら湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用することができる。
【0053】
金属膜付樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が挙げられる。これらの耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0054】
上記した金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0055】
なお、
図7の成膜装置50は熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が図示されているが、熱負荷の掛かる処理が蒸着処理などの他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。この他の熱負荷の掛かる真空成膜処理としては、CVD(化学蒸着)や真空蒸着などを挙げることができる。また、上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムとして、長尺の耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜以外に目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を用いることも可能である。
【0056】
以上、本発明の微細孔の貫通方法の実施形態をガス放出金属ロールの製造方法に適用した場合について説明したが、本発明は上記ガス放出金属ロールの製造方法の適用に限定されるものではなく、例えば金属製パイプに外周面側からレーザ加工で穿孔する場合にも好適に適用することができる。
【実施例】
【0057】
図7に示すような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を用いて、長尺耐熱性樹脂フィルムFにシード層であるNi−Cr膜を成膜し、その上にCu膜を成膜した。なお、長尺耐熱性樹脂フィルムFには、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。成膜装置50に搭載するキャンロール56には、
図1に示すような直径800mm×幅750mmのガス放出金属ロールを用いた。
【0058】
このガス放出金属ロールの外筒部1の作製のため、先ず外径806mm、厚さ15mmのステンレスのシームレスパイプを用意し、その内側に冷媒循環路4を形成するため、内筒部2、第1蓋部3a、および第2蓋部3bを組み込み、2重筒構造のジャケットロールとした。そして、上記シームレスパイプの肉厚部の厚み方向中央部に、ガンドリルを用いて両端側から内径5mmのガス導入路5を周方向のピッチが角度2°毎になるようにして180本形成した。
【0059】
次に上記ガス導入路5が形成されたシームレスパイプの外周面を厚み方向に3mm円筒切削して、外径800mmに仕上げた。ガンドリルは肉厚が薄い方向に向かって曲がっていく特性があるため、シームレスパイプの外周面近傍に沿って初めからガンドリルでガス導入路5を開けるのは難しく、このため、上記したように厚み方向中央部にガンドリルでガス導入路5を形成した後に外周面を円筒切削した。これにより、外周面からガス導入路5までの深さを浅くすることができ、下記のレーザによるガス放出孔6の加工を容易にすることができた。
【0060】
次に、ガス導入路5に直径4mm×長さ800mmのデュポン社製のフッ素樹脂ロッドを挿入し、この状態でガス導入路5に向けて各ガス放出孔6の内径が200μmに成るような位置にレーザヘッドがセットされた波長1064nm、出力100WのパルスYAGレーザを用いて複数のガス放出孔6を穿孔した。その際、
図6に示すように、各ガス導入路5にその延在方向に沿って7mmピッチで並ぶガス放出孔群の列を2列形成した。また、これら2列のガス放出孔群は、シームレスパイプの中心軸方向から見てガス導入路5の中心と該シームレスパイプの中心とを結ぶ直線に関して両側に各々31°傾斜するようにした。これにより周方向のガス放出孔6のピッチも7mmになった。
【0061】
1列目のガス放出孔群のレーザ加工が終了した後、ガス導入路に挿入しておいたフッ素樹脂ロッドを取り出し、レーザダメージを観察したところ、シームレスパイプの幅方向の中央部付近に相当する4個の位置だけフッ素樹脂ロッドにレーザダメージが確認できなかった。念のため、直径0.12mmのステンレス針をこれら4個の位置に該当するガス放出孔にさしてみると、未貫通であることが確認できた。そこで、再度フッ素樹脂ロッドを挿入し、未貫通であったガス放出孔の近傍に新たにレーザ加工を行った。このようにシームレスパイプの幅方向中央部に未貫通穴が集中したのは、ガンドリルが進行するほど曲がりやすいためと推定している。
【0062】
なお、ガス放出孔6は、シームレスパイプの両端からそれぞれ樹脂フィルムの搬送面の端部の内側20mmまでの領域には形成しなかった。そして、シームレスパイプの外周面に鏡面研磨を施してからハードクロムめっき処理を行い、ガスロータリージョイント7を取り付けてガス放出金属ロールを完成させた。このガス放出金属ロールを
図7に示すような成膜装置50にキャンロール56として使用した。
【0063】
キャンロール56において、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付けられない角度(抱き角A以外の角度)は約30°となり、この角度範囲内に存在するガス導入路は15本となった。従って、各ガス導入路5がこの約30°の角度範囲内に来た時には当該ガス導入路5にガスが供給されないように、ガスロータリージョイント7の内部の各流路に上記角度範囲を検知して電磁的に開閉する弁を取り付けた。
【0064】
上記した耐熱性ポリイミドフィルムにシード層であるNi−Cr膜とCu膜とを積層するため、マグネトロンスパッタリングカソード57のターゲットにはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタリングカソード58〜60のターゲットにはCuターゲットを使用した。また、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は5kWとした。更に、巻出ロールと巻取ロールの張力は80Nとし、ガス放出金属ロールは冷媒に水を用い20℃に温度制御した。
【0065】
そして、巻出ロールに上記耐熱性ポリイミドフィルムをセットし、キャンロールを経由して耐熱性ポリイミドフィルムの先端部を巻取ロールに取り付けた。また、真空チャンバーを複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
−3Paまで排気した。次に、耐熱性ポリイミドフィルムの搬送速度を4m/分にした後、各マグネトロンスパッタカソードにアルゴンガスを導入して電力を印加し、ガス放出金属ロールにはアルゴンガスを1000sccm導入して、Ni−Cr膜及びその上にCu膜の成膜を開始した。
【0066】
この成膜の際に、マグネトロンスパッタカソードの間に設置したレーザ変位計により、耐熱性ポリイミドフィルムの表面形状を測定したところ、耐熱性ポリイミドフィルムは約40μmガス放出金属ロールから離れていることが確認された。また、成膜中にキャンロール56の外周面に巻き付いているポリイミドフィルム表面の状態を観察することが可能な観察窓から観察したところ、スパッタリングの熱負荷によるシワが発生していないことが確認できた。
【0067】
このように、本発明の微細孔の貫通方法を用いてガス放出金属ロールを作製することにより、ガス放出孔の貫通を短時間で容易に確認できるため、製作時間が全体的に短くなり、また、製作コストを抑えることもできた。さらに、作製したガス放出金属ロールを用いて長尺樹脂フィルムの成膜処理を行ったところ、スパッタリングの熱負荷によるシワが発生しにくくなって最大スパッタリング電力を高くすることが可能となり、同じ膜厚を得るためのフィルム搬送速度を速くすることができ、生産性を向上させることができた。