(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成物(1)において、金属元素(M)が、Al、Nb、およびZrからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記粒子(I)における前記金属元素(M)のモル量が前記リチウム含有複合酸化物の前記遷移金属元素のモル量の0.001〜0.05倍の範囲になるように、前記リチウム含有複合酸化物と前記組成物(1)とを接触させる請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記被覆層(II)中に存在するフッ素元素の量が、正極活物質の全質量に対して0.05〜3質量%となるように、前記粒子(I)と前記化合物(2)を混合して加熱する請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<正極活物質の製造方法>
本発明の製造方法は、Li元素及び遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物と、下記組成物(1)とを接触させ、金属元素(M)を含む化合物が付着した粒子(I)を得た後に、該粒子(I)と下記化合物(2)を混合して加熱することにより、リチウム含有複合酸化物の表面に金属元素(M)とフッ素元素を含む被覆層(II)が形成されている粒子(III)を得る製造方法である。
組成物(1):Li元素を含まず、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Pb、Cu、Zn、Al、In、Sn、Sb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Dy、Er、およびYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素(M)を含む化合物が溶媒に溶解または分散してなる組成物。
化合物(2):加熱によりHFを発生する化合物。
本発明の製造方法において、まず、Li元素及び遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物と、組成物(1)とを接触させ、金属元素(M)を含む化合物が被覆した粒子(I)を得る。
【0011】
(リチウム含有複合酸化物)
本発明におけるリチウム含有複合酸化物は、Li元素と遷移金属元素とを含む。
遷移金属元素としては、例えば、Ni、Co、Mn、Fe、Cr、V、およびCuからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0012】
リチウム含有複合酸化物としては、例えば、下記式(A)で表される化合物(i)、下記式(B)で示される物質またはこれらの複合体であるオリビン型金属リチウム塩(ii)、下記式(C−1)で表される化合物(iii)、または下記式(D)で表わされる化合物(iv)が好ましい。これらの材料は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
リチウム含有複合酸化物としては、高容量であるという点で化合物(iii)が特に好ましく、下記式(C−1)または(C−2)で表わされる化合物が最も好ましい。
【0013】
(化合物(i))
Li
a(Ni
xMn
yCo
z)Me
bO
2 ・・・ (A)
ただし、0.95≦a≦1.1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦b≦0.3、0.90≦x+y+z+b≦1.05、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、およびAlからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
式(A)で表される化合物(i)としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
0.5Ni
0.5O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
0.85Co
0.10Al
0.05O
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2が挙げられる。
【0014】
(オリビン型金属リチウム塩(ii))
Li
LX
x’Y
y’O
z’F
g ・・・ (B)
ただし、XはFe(II)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)、V(II)、またはCu(II)を示し、YはPまたはSiを示し、0<L≦3、1≦x’≦2、1≦y’≦3、4≦z’≦12、0≦g≦1である。
オリビン型金属リチウム塩(ii)としては、LiFePO
4、Li
3Fe
2(PO
4)
3、LiFeP
2O
7、LiMnPO
4、LiNiPO
4、LiCoPO
4、Li
2FePO
4F、Li
2MnPO
4F、Li
2NiPO
4F、Li
2CoPO
4F、Li
2FeSiO
4、Li
2MnSiO
4、Li
2NiSiO
4、Li
2CoSiO
4が挙げられる。
【0015】
(化合物(iii))
化合物(iii)は、下式(C−1)で表される化合物である。下式(C−1)で表される化合物の表記は、充放電や活性化等の処理を行う前の組成式である。ここで、活性化とは、酸化リチウム(Li
2O)、または、リチウムおよび酸化リチウムを、リチウム含有複合酸化物から取り除くことをいう。通常の活性化方法としては、4.4Vもしくは4.6V(Li
+/Liの酸化還元電位との電位差として表わされる値である。)より、大きな電圧で充電する電気化学的活性化法が挙げられる。また、硫酸、塩酸もしくは硝酸等の酸を用いた化学反応を行うことにより、化学的に行う活性化方法が挙げられる。
【0016】
Li(Li
xMn
yMe´
z)O
pF
q ・・・ (C−1)
式(C−1)において、Me´は、Co、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、およびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。また、式(C−1)において、0.09<x<0.3、y>0、z>0、1.9<p<2.1、0≦q≦0.1であり、かつ、0.4≦y/(y+z)≦0.8、x+y+z=1、1.2<(1+x)/(y+z)である。すなわち、式(C−1)で表わされる化合物は、Liの割合が、MnとMe´の合計に対して1.2倍モルを超える。また、式(C−1)はMnを特定量含む化合物である点も特徴であり、MnとMe´の総量に対するMnの割合は、0.4〜0.8が好ましく、0.55〜0.75がより好ましい。Mnが前記の範囲であれば、放電容量が高容量となる。ここで、qはFの割合を示すが、Fが存在しない場合にはqは0である。また、pは、x、y、zおよびqに応じて決まる値であり、1.9〜2.1である。
リチウム含有複合酸化物が式(C−1)で表される化合物である場合、前記遷移金属元素の総モル量に対するLi元素の組成比は1.25≦(1+x)/(y+z)≦1.75が好ましく、1.35≦(1+x)/(y+z)≦1.65がより好ましく、1.40≦(1+x)/(y+z)≦1.55が特に好ましい。この組成比が前記の範囲であれば、4.6V以上の高い充電電圧を印加した場合に、単位質量あたりの放電容量が高い正極材料が得られる。
【0017】
化合物(iii)としては、下式(C−2)で表される化合物がより好ましい。
Li(Li
xMn
yNi
vCo
w)O
p・・・ (C−2)
式(C−2)において、0.09<x<0.3、0.36<y<0.73、0<v<0.32、0<w<0.32、1.9<p<2.1、x+y+v+w=1である。
式(C−2)において、Mn、Ni、およびCo元素の合計に対するLi元素の組成比は、1.2<(1+x)/(y+v+w)<1.8であり、1.35<(1+x)/(y+v+w)<1.65が好ましく、1.45<(1+x)/(y+v+w)<1.55がより好ましい。
化合物(iii)としては、Li(Li
0.16Ni
0.17Co
0.08Mn
0.59)O
2、Li(Li
0.17Ni
0.17Co
0.17Mn
0.49)O
2、Li(Li
0.17Ni
0.21Co
0.08Mn
0.54)O
2、Li(Li
0.17Ni
0.14Co
0.14Mn
0.55)O
2、Li(Li
0.18Ni
0.12Co
0.12Mn
0.58)O
2、Li(Li
0.18Ni
0.16Co
0.12Mn
0.54)O
2、Li(Li
0.20Ni
0.12Co
0.08Mn
0.60)O
2、Li(Li
0.20Ni
0.16Co
0.08Mn
0.56)O
2、またはLi(Li
0.20Ni
0.13Co
0.13Mn
0.54)O
2、が特に好ましい。
【0018】
上式(C−1)または(C−2)で表わされる化合物は、層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)であることが好ましい。また、遷移金属元素に対するLi元素の比率が高いため、XRD(X線回折:CuKα)測定では層状Li
2MnO
3と同様に2θ=20〜25°の範囲にピークが観察される。
【0019】
(化合物(iv))
Li(Mn
2−xMe´´
x)O
4 ・・・ (D)
式(D)において、0≦x<2、Me´´はCo、Ni、Fe、Ti、Cr,Mg、Ba、Nb、Ag、またはAlである。
式(D)で表される化合物(iv)としては、LiMn
2O
4、LiMn
1.5Ni
0.5O
4、LiMn
1.0Co
1.0O
4、LiMn
1.85Al
0.15O
4、LiMn
1.9Mg
0.1O
4が挙げられる。
【0020】
リチウム含有複合酸化物の形状は、粒子状であることが好ましい。リチウム含有複合酸化物の平均粒子径(D
50)は、0.03〜30μmが好ましく、0.04〜25μmがより好ましく、0.05〜20μmが特に好ましい。ここで、平均粒子径(D
50)とは、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積カーブにおいて、その累積カーブが50%となる点の粒子径である、体積基準累積50%径を意味する。粒度分布は、レーザー散乱粒度分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。粒子径の測定は、粉末を水媒体中に超音波処理などで充分に分散させて粒度分布を測定する(例えば、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA−950VII、などを用いる)ことで行なわれる。
【0021】
リチウム複合酸化物が化合物(i)、化合物(iii)、または化合物(iv)より選ばれる化合物である場合、平均粒子径(D
50)は3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。リチウム複合酸化物が化合物(ii)より選ばれる化合物である場合、平均粒子径(D50)は0.03〜5μmが好ましく、0.04〜1μmがより好ましく、0.05〜0.5μmが特に好ましい。
【0022】
リチウム含有複合酸化物の比表面積は、0.1〜30m
2/gであることが好ましく、0.15〜25m
2/gが特に好ましい。該比表面積が、0.1〜30m
2/gであると容量が高く、緻密な正極電極層が形成できる。
【0023】
リチウム複合酸化物が化合物(i)または化合物(iv)より選ばれる化合物である場合、比表面積は0.1〜1m
2/gが好ましく、0.15〜0.6m
2/gがより好ましい。リチウム複合酸化物が化合物(iii)より選ばれる化合物である場合、比表面積は0.3〜10m
2/gが好ましく、0.5〜5m
2/gがより好ましく、1〜4m
2/gが特に好ましい。リチウム複合酸化物が化合物(ii)より選ばれる化合物である場合、比表面積は1〜30m
2/gが好ましく、10〜25m
2/gがより好ましい。
【0024】
リチウム含有複合酸化物の製造方法としては、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前駆体とリチウム化合物を混合して焼成する方法、水熱合成法、ゾルゲル法、乾式混合法(固相法)、イオン交換法、またはガラス結晶化法を適宜用いることができる。なお、リチウム含有複合酸化物中に遷移金属元素が均一に含有されると放電容量が向上するため、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前駆体(共沈組成物)とリチウム化合物とを混合して焼成する方法を用いることが好ましい。
【0025】
(組成物(1))
組成物(1)は、Li元素を含まず、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Pb、Cu、Zn、Al、In、Sn、Sb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Dy、Er、およびYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素(M)を含む化合物が溶媒に溶解または分散した水溶液である。
金属元素(M)としては、Al、Zr、またはNbが好ましく、Alが特に好ましい。
【0026】
金属元素(M)を含む化合物としては、金属元素(M)の硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩、酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、乳酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩等の有機塩または有機錯体、金属元素(M)のオキソ酸塩、金属元素(M)のアンミン錯体、金属元素(M)のアルコキシド、金属元素(M)の炭酸塩、金属元素(M)の酸化物、金属元素(M)の水酸化物等が挙げられる。熱により分解しやすく、溶媒への溶解性が高いことから、硝酸塩、有機塩、有機錯体、オキソ酸アンモニウム塩、またはアンミン錯体が特に好ましい。
【0027】
金属元素(M)を含む化合物としては、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ハロゲン化ジルコニウムアンモニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性乳酸アルミニウム、マレイン酸アルミニウム、硝酸ニオブ、酢酸ニオブ、クエン酸ニオブ、マレイン酸ニオブ、ギ酸ニオブ、乳酸ニオブ、シュウ酸ニオブ、またはシュウ酸ニオブアンモニウムが好ましい。
【0028】
組成物(1)の溶媒としては、金属元素(M)を含む化合物の安定性や反応性の点で水を含む溶媒が好ましく、水と水溶性アルコールおよび/またはポリオールとの混合溶媒がより好ましく、水のみが特に好ましい。水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが挙げられる。ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリンが挙げられる。溶媒中に含まれる水溶性アルコールとポリオールの合計の含有量としては、溶媒全量に対して0〜20質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。溶媒が水だけの場合は、安全面、環境面、取扱い性、コストの点で優れているため特に好ましい。
【0029】
さらに組成物(1)には、金属元素(M)を含む化合物の溶解度を調整するために、pH調整剤が含まれていてもよい。pH調整剤としては、加熱時に揮発または分解するものが好ましい。具体的には、酢酸、クエン酸、乳酸、ギ酸、マレイン酸、シュウ酸などの有機酸またはアンモニアが好ましい。揮発または分解するpH調整剤を用いると不純物が残留しにくいため、良好な電池特性が得られやすい。
組成物(1)のpHとしては、2〜12が好ましく、3〜11がより好ましく、4〜10が特に好ましい。pHが上記の範囲にあれば、リチウム含有複合酸化物と組成物(1)とを接触させたときにリチウム含有複合酸化物からのLi元素や遷移金属の溶出が少なく、また、pH調整剤等の不純物が少ないため良好な電池特性が得られやすい。
【0030】
本発明の製造方法において、リチウム含有複合酸化物と組成物(1)との接触方法としては、スプレーコート法によりリチウム含有複合酸化物に噴霧する方法が特に好ましい。スプレーコート法はプロセスが簡便であり、かつリチウム含有複合酸化物の表面に金属元素(M)を含む化合物を均一に被覆させることができる。
【0031】
組成物(1)中に含まれる金属元素(M)を含む化合物の濃度は、後の工程で加熱により溶媒を除去する必要がある点から高濃度の方が好ましい。しかし、該濃度が高すぎると粘度が高くなり、リチウム含有複合酸化物と組成物(1)との均一混合性が低下するため、組成物(1)中に含まれる金属元素(M)を含む化合物の濃度は、金属元素(M)換算で0.5〜30質量%が好ましく、2〜20質量%が特に好ましい。
【0032】
本発明において、リチウム含有複合酸化物100g当たりに接触させる組成物(1)の量A(ml/100g)は、リチウム含有複合酸化物の吸油量B(ml/100g)に対して0.1<A/B<5であることが好ましい。吸油量BはJIS−K−5101−13−1:2004で示される方法に従って求める。0.1<A/B<5であれば被覆層(I)を均一に形成することができ、後の工程においてろ過が不要になり、さらに加熱時に蒸発させる溶媒が少ないため生産性が高い。また、特に0.1<A/B<0.7であるとスプレーコートする際にリチウム含有複合酸化物が凝集して塊にならず撹拌しやすいため特に好ましい。
A/Bが0.7以上である場合は、リチウム含有複合酸化物が凝集して塊にならないように乾燥させながら組成物(1)をリチウム含有複合酸化物に接触させることが好ましい。スプレーコートと乾燥は交互に行っても良く、スプレーコートを行いながら加熱をして同時に乾燥を行ってもよい。乾燥温度は40〜200℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
スプレーコート法によって噴霧される組成物(1)の粒径は、0.1〜250μmであることが好ましく、1〜150μmであることがより好ましい。組成物(1)の粒径が250μm以下である場合、リチウム含有複合酸化物の粉末に組成物(1)をより一層均一に被覆できる。また、噴霧される組成物(1)の粒径が0.1μm以上である場合、噴霧後の粒径を容易に制御できる。スプレーコート法における組成物(1)の放出量は、リチウム含有複合酸化物1gに対して、0.005〜0.1g/分が好ましい。
【0033】
また、本発明の製造方法においては、撹拌下のリチウム含有複合酸化物に組成物(1)を添加してリチウム含有複合酸化物と混合することにより、組成物(1)をリチウム含有複合酸化物に接触させることもできる。撹拌装置としては、ドラムミキサーまたはソリッドエアーの低剪断力の撹拌機を用いることができる。撹拌混合しながらリチウム含有複合酸化物を接触させることで、より均一にリチウム含有複合酸化物の表面に金属元素(M)を含む化合物が付着した粒子(I)を得ることができる。(粒子(I))
本発明における粒子(I)は、リチウム含有複合酸化物の表面に金属元素(M)を含む化合物が付着した粒子である。ここで、付着とは、金属元素(M)を含む化合物がリチウム含有複合酸化物の表面の一部または全部に、化学吸着、または物理吸着している状態をいう。
粒子(I)において、金属元素(M)の割合(モル比)は、リチウム含有複合酸化物の遷移金属元素に対して0.001〜0.05倍が好ましく、0.003〜0.04倍がより好ましく、0.005〜0.03倍が特に好ましい。
粒子(I)に存在する金属元素(M)の割合は、正極活物質を酸に溶解してICP(高周波誘導結合プラズマ)測定を行うことによって測定できる。なお、ICP測定によって被覆層(I)の割合を求めることができない場合には、リチウム含有複合酸化物と金属元素(M)を含む化合物の仕込み量に基づいて算出してもよい。
【0034】
次に、本発明の製造方法においては、前記粒子(I)と下記化合物(2)を混合して加熱することにより、リチウム含有複合酸化物の表面に金属元素(M)とフッ素元素を含む被覆層(II)が形成されている粒子(III)を得る。
【0035】
(化合物(2))
化合物(2)は加熱によりHFを発生する化合物である。化合物(2)としては、NH
4F(フッ化アンモニウム)、NH
4F・HF(酸性フッ化アンモニウム)、NaF・HF(酸性フッ化ナトリウム)、KaF・HF(酸性フッ化カリウム)等の無機塩、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ポリマー、トリフルオロ酢酸、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル等の含フッ素有機化合物が挙げられる。250℃以下の低温で分解してHFを発生するという点でNH
4F、NH
4F・HF、NaF・HF、KaF・HF等の無機塩が好ましく、さらに加熱後にアルカリ成分が残らないという点でNH
4FまたはNH
4F・HFが特に好ましい。加熱によりHFを発生する化合物は一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
化合物(2)の量は、リチウム含有複合酸化物(100質量部)に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましい。
【0036】
化合物(2)の混合方法は、組成物(1)を接触させたリチウム含有複合酸化物を撹拌させながら、化合物(2)を添加してリチウム含有複合酸化物と混合することが好ましい。撹拌装置としては、ドラムミキサーまたはソリッドエアーの低剪断力の撹拌機を用いることができる。
【0037】
混合後の加熱は、窒素雰囲気下で行っても酸素含有雰囲気下で行ってもよい。加熱はリチウム含有複合酸化物と化合物(2)の混合物を、HFの耐腐食性に優れた密閉容器、例えば蓋のあるセラミックス製容器に入れて行うことが好ましい。蓋のあるセラミックス製容器を用いることで発生したHFが揮散せず、リチウム含有複合酸化物の表面の金属元素(M)と効率良く反応させることができる。また、加熱する際は、リチウム含有複合酸化物の表面の金属元素(M)とHFとの反応を促進するために、化合物(2)がHFを発生する温度付近で温度を保持することや、昇温速度を遅くすることも有効であると考えられる。
【0038】
加熱温度は、250〜700℃が好ましく、350〜600℃がより好ましい。加熱温度が250℃以上であれば、金属元素(M)とフッ素元素を含む被覆層(I)を形成させやすく、さらに残留水分等の揮発性の不純物が少なくなるためサイクル特性の低下が抑制できる。加熱温度が700℃以下であればリチウム含有複合酸化物の内部に金属元素(M)が拡散して充放電容量の低下を防ぐことができる。
【0039】
リチウム含有複合酸化物の表面に非晶質である被覆層(II)を被覆させる場合、加熱温度は、250℃〜550℃が好ましく、350〜500℃がより好ましい。加熱温度が550℃未満であれば被覆層(II)が結晶化しにくい。
【0040】
加熱時間は、0.5〜24時間が好ましく、0.5〜18時間がより好ましく、1〜10時間が特に好ましい。
(被覆層(II))
被覆層(II)は、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Pb,Cu、Zn、Al、In、Sn、Sb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Dy、Er、およびYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素(M)とフッ素元素を含む。金属元素(M)はすべてがFと結合しフッ化物を形成していても良く、金属元素(M)の一部が酸化物または水酸化物を形成してもよい。
【0041】
被覆層(II)としては、MgF
2、CaF
2、SrF
2、BaF
2、YF
3、TiF
4、ZrF
4、HfF
4、VF
3、VF
4、NbF
3、NbF
5、TaF
5、CrF
3、MoF
3、WF
4、MnF
3、FeF
3、CoF
3、NiF
2、PbF
2、PbF
4、CuF
2、ZnF
2、AlF
3、InF
3、SnF
2、SbF
3、BiF
3、LaF
3、CeF
3、PrF
3、NdF
3、GdF
3、DyF
3、ErF
3、YbF
3等が挙げられる。被覆層(I)としては、AlF
3、ZrF
4、NbF
3、またはNbF
5が好ましく、AlF
3が特に好ましい。
被覆層(II)が酸化物を含む場合はAl
2O
3、ZrO
2、Nb
2O
3、Nb
2O
5が好ましく、Al
2O
3が特に好ましい。被覆層(II)が水酸化物を含む場合はAl(OH)
3、Zr(OH)
4、Nb(OH)
3、またはNb(OH)
5、が好ましく、Al(OH)
3が特に好ましい。
【0042】
本発明における正極活物質は、前記被覆層(II)でリチウム含有複合酸化物を被覆することでリチウム含有複合酸化物と電解液との接触を減らすことができるため、リチウム含有複合酸化物表面から電解液へのMn等の遷移金属元素の溶出が抑制でき、サイクル特性が向上すると考えられる。また、リチウム含有複合酸化物表面に電解液の分解生成物が付着することを抑制することができる。
【0043】
被覆層(II)は、結晶性であっても良く、非晶質であってもよく、非晶質であることが好ましい。ここで、非晶質とはX線回折測定(以下、XRDとも言う。)において被覆層(II)に帰属されるピークが観察されないことをいう。理由は明確ではないが、被覆層(II)が非晶質である場合、被覆層(II)が電解液へ溶出しやすく、被覆層(II)が犠牲層として働いていると考えられる。これによって、リチウム含有複合酸化物表面のMn等の遷移金属元素が電解液へ溶出することを抑制でき、サイクル特性が向上するものと考えられる。
【0044】
リチウム含有複合酸化物の表面に形成する被覆層の形状は、粒子状、膜状、繊維状、塊状等であってもよい。被覆層が粒子状である場合、被覆層の平均粒子径D
50は、0.1〜100nmが好ましく、0.1〜50nmがより好ましく、0.1〜30nmが特に好ましい。被覆層の形状および平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)等の電子顕微鏡より評価できる。平均粒子径は、リチウム含有複合酸化物の表面を被覆している粒子の粒子径の平均として表される。
【0045】
(粒子(III))
本発明における粒子(III)は、リチウム含有複合酸化物の表面に被覆層(II)が形成されている粒子である。ここで、「前記形成されている」とは、被覆層(II)がリチウム含有複合酸化物の表面の一部または全部に、化学吸着、または物理吸着している状態をいう。
【0046】
粒子(III)の形状は、粒子状、膜状、繊維状、塊状等であってもよい。粒子(III)が粒子状である場合、粒子(III)の平均粒子径は、3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。
粒子(III)において、被覆層(II)はリチウム含有複合酸化物の表面に少なくとも一部に形成されていればよい。なかでも、粒子(III)が、被覆層(II)の非晶質層が、粒子(III)表面の一部または全部に形成されている粒子であることが好ましい。
【0047】
粒子(III)における被覆層(II)として、被覆層(II)中の金属元素(M)の割合(モル比)は、リチウム含有複合酸化物の遷移金属元素に対して0.001〜0.05倍が好ましく、0.003〜0.04倍がより好ましく、0.005〜0.03倍が特に好ましい。前記範囲であれば、放電容量が大きく、サイクル特性に優れる。
金属元素(M)量の調整は、粒子(I)における金属元素(M)のモル量がリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素のモル量の0.001〜0.05倍の範囲になるように、リチウム含有複合酸化物と組成物(1)とを接触させればよい。
【0048】
粒子(III)における被覆層(II)中に存在するフッ素元素の量は、正極活物質の全質量に対して0.05〜3.0質量%が好ましく、0.1〜2.0質量%がより好ましく、0.1〜1.0質量%が特に好ましい。フッ素元素量が上記範囲である場合、より一層初期容量とサイクル特性に優れた電池が得られる正極活物質となる。
被覆層(II)中に存在するフッ素元素の量は、正極活物質をイオン交換水に分散させ、フッ素イオン電極を用いて溶出したフッ素イオンの濃度を測定し、得られた溶出したフッ素イオンの濃度と正極活物質の全体量とから算出できる。
被覆層(II)中に存在するフッ素元素量の調整は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の全質量に対して0.05〜3質量%となるように、前記粒子(I)と前記化合物(2)を混合して加熱すればよい。
【0049】
<正極>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、本発明の正極活物質と導電材とバインダーとを含む正極活物質層が、正極集電体上に形成されてなる。リチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、本発明の正極活物質、導電材およびバインダーを正極集電板上に担持させる方法が挙げられる。導電材およびバインダーは溶媒および/または分散媒中に分散することによってスラリーを調製し、または溶媒および/または分散媒と混練した混錬物を調製し、つぎに塗布法等の方法により正極集電板に担持させうる。
【0050】
導電材としては、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック等が挙げられる。
【0051】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等の不飽和結合を有する重合体およびその共重合体、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等のアクリル酸系重合体およびその共重合体等が挙げられる。
【0052】
正極集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金が挙げられる。
【0053】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記のリチウムイオン二次電池用正極、負極、および非水電解質を含む。
【0054】
負極は、負極集電体上に、負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなる。例えば、負極活物質を有機溶媒と混錬することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって、製造できる。
【0055】
負極集電板としては、例えばニッケル箔、銅箔等の金属箔を用いることができる。
負極活物質としては、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、炭素材料、周期表14、15族の金属を主体とする酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタンおよび炭化ホウ素化合物等を用いることができる。
【0056】
負極活物質の炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、フェノール樹脂やフラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化した有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類等を用いることができる。
周期表14族の金属としては、ケイ素あるいはスズであり、ケイ素が好ましい。
その他に負極活物質として用いることができる材料としては酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物やLi
2.6Co
0.4N等の窒化物が挙げられる。
【0057】
非水電解液としては、有機溶媒と電解質とを適宜組み合わせて調製されたものを用いることができる。有機溶媒としては、電解液用の有機溶媒として公知のものが使用でき、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジグライム、トリグライム、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いることができる。特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
非水電解質としては、電解質塩を含有させた固体電解質、高分子電解質、高分子化合物などに電解質を混合または溶解させた固体状もしくはゲル状電解質等を用いることができる。
【0059】
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよく、無機固体電解質および高分子固体電解質を用いることができる。
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等を用いることができる。
高分子固体電解質としては、電解質塩と該電解質塩を溶解する高分子化合物等を用いることができる。電解質塩と該電解質塩を溶解する高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、およびポリヘキサフルオロプロピレン、もしくはこれらの誘導体、混合物、および複合体を用いることができる。
【0060】
ゲル状電解質等としては、前記の非水電解液を吸収してゲル化する種々の高分子化合物を用いることができる。ゲル状電解質に用いられる高分子化合物としては、ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)などのフッ素系高分子等を用いることができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子化合物としては、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリルの共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドの共重合体、同架橋体などのエーテル系高分子を用いることができる。前記共重合体に用いるモノマーとしては、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等を挙げることができる。
ゲル状電解質のマトリックスとしては、酸化還元反応に対する安定性の観点から、特にフッ素系高分子が好ましい。
【0061】
前記の電解質中で用いられる電解質塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、CF
3SO
3Li、LiCl、LiBr等を用いることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等の形状を、用途に応じて適宜選択できる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(リチウム含有複合酸化物の合成例)
硫酸ニッケル(II)六水和物(140.6g)、硫酸コバルト(II)七水和物(131.4g)、および硫酸マンガン(II)五水和物(482.2g)に蒸留水(1245.9g)を加えて均一に溶解させて原料溶液とした。硫酸アンモニウム(79.2g)に蒸留水(320.8g)を加えて均一に溶解させてアンモニア源溶液とした。硫酸アンモニウム(79.2g)に蒸留水(1920.8g)を加えて均一に溶解させて母液とした。水酸化ナトリウム(400g)に蒸留水(600g)を加えて均一に溶解させてpH調整液とした。
【0063】
2Lのバッフル付きガラス製反応槽に母液を入れてマントルヒーターで50℃に加熱し、pHが11.0となるようにpH調整液を加えた。反応槽内の溶液をアンカー型の撹拌翼で撹拌しながら原料溶液を5.0g/分、アンモニア源溶液を1.0g/分の速度で添加し、ニッケル、コバルト、およびマンガンの複合水酸化物を析出させた。原料溶液を添加している間、反応槽内のpHを11.0に保つようにpH調整溶液を添加した。また、析出した水酸化物が酸化しないように反応槽内に窒素ガスを流量0.5L/分で流した。また、反応槽内の液量が2Lを超えないように連続的に液の抜き出しを行った。
【0064】
得られたニッケル、コバルト、マンガンの複合水酸化物から不純物イオンを取り除くため、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰返して洗浄した。ろ液の電気伝導度が25μS/cmとなった時点で洗浄を終了し、120℃で15時間乾燥させて前駆体とした。
ICPで前駆体のニッケル、コバルト、およびマンガンの含有量を測定したところ、それぞれ11.6質量%、10.5質量%、および42.3質量%であった(モル比でニッケル:コバルト:マンガン=0.172:0.156:0.672)。
【0065】
前駆体(20g)とリチウム含有量が26.9mol/kgの炭酸リチウム(12.6g)を混合して酸素含有雰囲気下900℃で12時間焼成し、合成例のリチウム含有複合酸化物を得た。得られた合成例のリチウム含有複合酸化物の組成はLi(Li
0.2Ni
0.137Co
0.125Mn
0.538)O
2となる。実施例のリチウム含有複合酸化物の平均粒子径D50は5.9μmであり、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法を用いて測定した比表面積は2.6m
2/gであった。JIS−K−5101−13−1:2004に従って精製あまに油を用いて吸油量を測定したところ44(g/100g)であった。
【0066】
(実施例1)
7.0gの乳酸アルミニウム水溶液(Al含量4.5質量%、pH4.6)に3.0gの蒸留水を加えてAl水溶液(組成物(1))を調製した。
次に、撹拌下の前記合成例のリチウム含有複合酸化物10gに対して、調製したAl水溶液2gを噴霧して添加し、前記合成例のリチウム含有複合酸化物とAl水溶液とを混合させながら接触させた。{(リチウム含有複合酸化物100g当たりに接触させる組成物(1)と化合物(2)の合計量A)/(リチウム含有複合酸化物の吸油量B)}=20/44=0.45である。リチウム含有複合酸化物は塊にならず、撹拌等の取り扱いが容易であった。
【0067】
次に、得られた混合物を90℃で2時間乾燥した後に粒状のNH
4F(化合物(2))0.10gを加えて混合し、セラミックス製のるつぼに入れて蓋をして酸素含有雰囲気下400℃で8時間加熱し、リチウム含有複合酸化物の表面に金属元素Alとフッ素を含む被覆層(II)が被覆された粒子(III)からなる実施例1の正極活物質を得た。NH
4Fに含まれるすべてのFがリチウム含有複合酸化物と反応したと仮定した場合に正極活物質の表面におけるフッ素含量の計算値(以下フッ素仕込み量とも言う。)は正極活物質の全質量に対して0.51質量%となる。
正極活物質において、前記Al水溶液によって被覆したアルミニウムは、前記合成例のリチウム含有複合酸化物の遷移金属元素であるニッケル、コバルト、マンガンの合計に対して、モル比(被覆量)で{(被覆したAlのモル数)/(付加する前のリチウム含有複合酸化物のNi、Co、Mnの合計モル数)}=0.025である。
【0068】
次に正極活物質の表面におけるフッ素含量を次の方法により定量した。まず、正極活物質(0.5g)を精秤して20℃のイオン交換水を50mL添加し、超音波処理(アズワン社製超音波洗浄機、周波数28kHz)を60分実施して、正極活物質をイオン交換水に分散させた。その後16時間静置した後に、上澄みを採取して全イオン強度調整緩衝液TISABを加え、フッ素イオン電極(東興化学研究所社製社製)を用いて、正極活物質の分散液に溶出したフッ素イオンの濃度を測定した。フッ素イオン濃度から正極活物質の被覆層(II)中に存在するフッ素含量を計算したところ、正極活物質の全質量に対して0.42質量%であった。
【0069】
(実施例2)
化合物(2)としてNH
4Fを0.33gとした以外は実施例1と同様に行った。フッ素仕込み量は正極活物質の全質量に対して1.69質量%となる。
得られた正極活物質の被覆層(II)中に存在するフッ素含量を定量したところ、正極活物質の全質量に対して1.42質量%であった。
【0070】
(比較例1)
特許文献1で示されている方法を参考にして、湿式法によるAlF
3コート処理を行った。すなわち、2.64gのAl(NO
3)
3・9H
2Oを150mlの蒸溜水に溶解させ、前記合成例のリチウム含有複合酸化物を30g加えた後、撹拌した。次に反応器の温度を80℃に維持しながら、0.78gのNH
4Fを蒸溜水150mlに溶解させた溶液を1ml/分の流量で連続的に添加した後、80℃で24時間撹拌した。その後110℃の温風恒温槽で12時間乾燥させた後、不活性雰囲気下で400℃に熱処理した。得られた正極活物質は凝集して塊状になっていたため、乳鉢で粉砕した。
フッ素仕込み量は正極活物質の全質量に対して1.33質量%となる。
得られた正極活物質の被覆層中に存在するフッ素含量を定量したところ、正極活物質の全質量に対して0.26質量%であった。
【0071】
(比較例2)
先に合成したリチウム含有複合酸化物をそのまま正極活物質とした。
【0072】
(正極の製造例)
正極活物質として、それぞれ実施例1〜2、比較例1〜2の正極活物質とアセチレンブラック(導電材)とポリフッ化ビニリデン(バインダー)を12.1質量%含むポリフッ化ビニリデン溶液(溶媒N−メチルピロリドン)とを混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加してスラリーを作製した。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンは質量比で82/10/8とした。スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)にドクターブレードを用いて片面塗工した。120℃で乾燥し、ロールプレス圧延を2回行うことにより正極体シートを作製した。実施例1〜2の正極活物質から得た正極体シートを、それぞれ正極体シート1〜2と、比較例1〜2の正極活物質から得た正極体シートを、正極体シート3〜4とする。
【0073】
(電池の製造例)
前記で製造した正極体シート1〜4を正極に用い、ステンレス鋼製簡易密閉セル型のリチウムイオン二次電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体に厚さ1mmのステンレス板を使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、さらに電解液には、濃度1(mol/dm
3)のLiPF
6/EC(エチレンカーボネート)+DEC(ジエチルカーボネート)(1:1)溶液(LiPF
6を溶質とするECとDECとの体積比(EC:DEC=1:1)の混合溶液を意味する。)を用いた。
正極体シート1〜4を用いたリチウムイオン二次電池をリチウム電池1〜4とする。
【0074】
(電池特性評価例1〜4)初期容量、およびサイクル特性の評価例
前記で製造したリチウム電池1〜4を用いて下記評価を行う。すなわち、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.7Vまで充電し、正極活物質1gにつき50mAの負荷電流にて2.5Vまで放電した。続いて正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、正極活物質1gにつき100mAの負荷電流にて2.5Vまで放電する。
このような充放電を行ったリチウム電池1〜4について引き続き充放電正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき100mAの負荷電流にて2.5Vまで放電する。4.6〜2.5Vにおける正極活物質の放電容量を4.6V初期容量とする。
【0075】
次いで充放電正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき100mAの負荷電流にて2.5Vまで放電する充放電サイクルを50回繰返す。4.6V充放電サイクル50回目の放電容量を4.6V初期容量で割った値をサイクル維持率とする。
リチウム電池1〜3のサイクル維持率を表1にまとめる。フッ素含量/フッ素仕込み量をフッ素化効率とした。サイクル維持率はリチウム電池4と比較して向上している場合を○とする。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、リチウム電池1〜3は、未処理の正極活物質(比較例2)を用いた場合と比較していずれも電池特性が向上している。実施例1と実施例2の正極活物質のフッ素化効率は80%以上で、NH
4Fに由来するフッ素とリチウム含有複合酸化物の表面の金属元素(M)であるアルミニウムが効率良く反応していることが確認できた。一方で比較例1の正極活物質はフッ素化効率が20%以下であり、大部分のNH
4Fがろ過と洗浄の過程で流出していると考えられる。